都住研ニュース 2017年9月発行 第58号 - tjk-net.com ·...

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2007年の新京都市景観政策以降、新築分譲マンシ ョンの供給は減少しているとはいえ、いまだ少なく はない数で供給が行われています。折しも宿泊施設 建設が続く中、都心部では地価の高騰が続き、分譲 マンションが分譲されても庶民にとって「高嶺の花」 であり、とりわけセカンドハウス等としての居住者 はまちづくりの担い手にもなりにくいと考えられま す。一方、京都市内における空き家は約14%と言わ れており、高経年物件を中心に分譲マンションの空 き住戸も少なからず存在しています。 新景観政策により建物高さがオーバーするマンシ ョンは、既存不適格建築物となりましたが、現実問 題として建て替えを前提とすることは難しく、維持 管理を適正にしながら、当面は長く使い続けること が必要でしょう。今後は、「分譲マンションをたた む」ということも必要になりますし、そのための仕 組みも必要となってくるでしょう。 では、例えば新たにマンションを供給しない京都の まちづくりは、どのようになっていくのでしょうか。 第63回定例会(7月28日)では、「京都に新築分 譲マンションはもう要らない?~京都の住宅・不動 産市場を展望して~」というテーマで開催し、分譲 マンションを取り巻く背景について、髙田教授のお 話とパネルディスカッションの議論を整理しました。 住宅需要の減少 投機需要の増加 空き家・ストック 活用が必要 区分所有の限界 まず管理 支援が必要 その1 その2 その3 その4 その5 既に人口減少社会。市内の世帯数及び 世帯人員は減少していき、家族像も変 わってきている。居住目的の住宅需要 は減少していく。 価格の高騰が続くが、バブル期と同様 非居住のマンションが増加。居住者不 在と地価の高騰、フィルタリングダウ ンが課題。 既に住宅は余っており、今後は管理不 全によるスラム化が問題になる恐れも。 ストックを活用することが先決。 現状では売り抜けの連鎖で「ババ抜き」 状態。安心して長期間暮らせ、建替え や組合の解散をより円滑にする仕組み も必要。 先行きが不安な中、管理組合は途方に 暮れている。まずは地域連携の仕組み、 管理支援メニューの充実が必要。 都住研ニュース 2017年9月発行 第58号

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2007年の新京都市景観政策以降、新築分譲マンシ

ョンの供給は減少しているとはいえ、いまだ少なく

はない数で供給が行われています。折しも宿泊施設

建設が続く中、都心部では地価の高騰が続き、分譲

マンションが分譲されても庶民にとって「高嶺の花」

であり、とりわけセカンドハウス等としての居住者

はまちづくりの担い手にもなりにくいと考えられま

す。一方、京都市内における空き家は約14%と言わ

れており、高経年物件を中心に分譲マンションの空

き住戸も少なからず存在しています。

新景観政策により建物高さがオーバーするマンシ

ョンは、既存不適格建築物となりましたが、現実問

題として建て替えを前提とすることは難しく、維持

管理を適正にしながら、当面は長く使い続けること

が必要でしょう。今後は、「分譲マンションをたた

む」ということも必要になりますし、そのための仕

組みも必要となってくるでしょう。

では、例えば新たにマンションを供給しない京都の

まちづくりは、どのようになっていくのでしょうか。

第63回定例会(7月28日)では、「京都に新築分

譲マンションはもう要らない?~京都の住宅・不動

産市場を展望して~」というテーマで開催し、分譲

マンションを取り巻く背景について、髙田教授のお

話とパネルディスカッションの議論を整理しました。

住宅需要の減少

投機需要の増加

空き家・ストック

活用が必要

区分所有の限界

まず管理

支援が必要

その1

その2

その3

その4

その5

既に人口減少社会。市内の世帯数及び

世帯人員は減少していき、家族像も変

わってきている。居住目的の住宅需要

は減少していく。

価格の高騰が続くが、バブル期と同様

非居住のマンションが増加。居住者不

在と地価の高騰、フィルタリングダウ

ンが課題。

既に住宅は余っており、今後は管理不

全によるスラム化が問題になる恐れも。

ストックを活用することが先決。

現状では売り抜けの連鎖で「ババ抜き」

状態。安心して長期間暮らせ、建替え

や組合の解散をより円滑にする仕組み

も必要。

先行きが不安な中、管理組合は途方に

暮れている。まずは地域連携の仕組み、

管理支援メニューの充実が必要。

都住研ニュース 2017年9月発行 第58号

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第63回定例会■日 時:2017年7月28日(金)18:00~■場 所:ひと・まち交流館 京都■参加者:28名

基調講演

髙田 光雄 氏(京都美術工芸大学 教授/京都大学名誉教授)

「京都に新築分譲マンションがもう必要ない理由」

1.居住を目的とした住宅需要の減少

皆さん既にご承知の通り、日本では人口減少が進行してお

り、これ以上新設住宅の供給を促進する必要はない、という議

論がある。分譲マンションの新規供給がゼロになっても、住宅

は余っていく。「要らない」と言っても、もはや数字上では大問

題にはならない。世帯数についても増加率は鈍化しており、今

後は減少していく。さらに「世帯」の概念が崩壊し、世帯数のみ

で住宅政策を考える時代は終わっている。

2.投機的需要の増加と地価の高騰

京都市の地価公示を見ると、都心部はバブル期以来の異常

な高騰を示している。居住するという観点から地価を考える必

要がある。京都では、都心部の分譲マンションは独自の市場を

作っており、マンションの平均価格は年々上昇してきたが、近

年は上げ止まりになっている。これは㎡単価が下がっているの

ではなく、都心部での供給が減って郊外に広がっているため

である。バブル期は値段が急上昇したが供給戸数は都心部で

はさほど多くなく高額の取引が多かった。当時の問題は、非居

住の住戸が増加したことと、賃貸化に伴う問題やコミュニティ問

題が顕在化した。現在の問題は、建物も居住者も高齢化し、価

格が値下がりしているにもかかわらず管理費や修繕積立金を

変えられないことであり、住まい手が所得の低い人に変わって

いくフィルタリング・ダウンの問題も生じている。

3.空き家・ストック活用の必要

そもそも、新築マンションはストック破壊であることを認識する

必要がある。歴史的景観の調和を喪失させ、生活文化の継承

やコミュニティ活動にも影響を与える。一般には不動産所有者

の地域との関わりや責任が継承されなくなる可能性も高い。こ

れまでに町家型共同住宅の試み、祇園祭鉾町での試みなど、

コミュニティに貢献する人に住んでもらおうというマンションもあ

るが、中古マンションの流通の問題もある。新築をコントロール

すれば、中古市場の活性化に繋がるのだろうか。市場のメカニ

ズムをもっと研究する必要がある。

空き家の住宅利用については、高地価の中においても居住

機能を重視していく必要がある。多様化する住宅ニーズに対し

て多様な居住の器が必要である。歴史都市としての特性を活

かして、暮らしの文化の継承と発展につながる活用に重点を置

く必要があろう。

4.区分所有の限界

現在日本には 623 万戸の住宅ストックがある。区分所有法は何度も改正され、所有権の概念が薄くなってきてはいるが、

法整備による対応もそろそろ限界が見られる。

既存住宅の流通促進のためには、維持管理や改修をやりや

り易くし、管理重視の方向へ日本全体を切り替えていくことが

求められる。現状でも、高経年マンションのスラム化の可能性、

管理組合役員の高齢化と担い手不足、管理組合が行う維持管

理と専門知識・技能の乖離、第三者管理の議論もある中での

専門家とのマッチングの難しさなど、課題は多い。分譲マンショ

ンは、デベロッパーも売り抜け、新規購入者も売り抜けて行き、

そしてどこかの段階でトラブルが出てくる、いわばババ抜き状

態であり、供給方式自体に問題がある。

5.既存不適格マンション管理支援の必要

既存マンションの管理支援メニューとして、居住安定性確保

のための条件整備や、状況に合わせて選べる管理体制整備、

資産価値の正当な評価、そして管理評価の仕組みの確立など

があるが、これらが十分実行されないままに新築マンションが

供給されている点が問題である。

今後はもっと徹底したストック重視施策や事業にシフトしてい

くべきである。既存マンションの維持管理、リノベーション、流通

(建替)促進が必要。地域まちづくりへの参加促進も必要であ

る。京都においては、住宅形式に関わらず、京都らしい住まい

方を実践できるようにすることも重要。住宅だけではなく「まち」

に住むということが大事。必ずしも新規供給を前提しない、スト

ック・まちづくり重視の住まいが必要だと言い切ってよい。

都住研ニュース 2017年9月発行 第58号

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都住研ニュース 2017年9月発行 第58号

【パネルディスカッション】パネリスト

髙田 光雄 氏(京都美術工芸大学 教授/京都大学名誉教授)

井上 誠二 氏(建都住宅販売㈱ 代表取締役)

辻本 尚子 氏(みやこ不動産鑑定所 不動産鑑定士・税理士)

魚谷 繁礼 氏(魚谷繁礼建築研究所 建築士)コーディネーター

髙木 伸人 氏(都住研事務局長)

辻本

私はマンションのチラシの収集を趣

味としているが、近年のチラシをもって

きたのでご覧いただきたい。何とも皮肉

なのが、マンションは町家を潰して建て

られることが多いのに「町家に住む」と

いうキャッチで広告を打っている。これ

らのマンションは売れているのか。広告

を見る限りでは必ずしもそうとはいえな

い。「完成お披露目」と、既に完成して

いるのに広告を出している。また「実物

住居」をうたっているものも同様。

井上

2015年から2016年にかけて、マンシ

ョン価格は坪280万円から300万円、トッ

プは500万円の値を付けている。これは

土地の単価が上がっていることもある

し、建築工事原価でも坪100万円ほど

かかるなど、この数年はとても高い。さら

に最近はホテル業界の参入も進み、採

算がとれるからマンションの2倍もの値を

付けて買う。近年は中古マンションのリ

ノベーションを手がけて、資産価値を上

げることを目指している。ただし様々な

障壁がある。管理規約、役員の理解、

埋設配管は思わぬ費用がかかること

も。事業サイクルも新築より短いこともあ

って、仲介だけよりかは儲かる。概ね60

㎡のリノベで600万円から800万円の費

用をかける。リノベーションの内容は段

差の解消、水廻りの更新、和室をなくし

てLDKタイプにする。4ヶ月で回転させ

るのでスピーディ。購入層はシングルの

方か高齢者。現金払いのお客さまが多

いので融資で困ることはなかった。

修学院にある物件で、35%の空き家

率のところがあった。そこの1住戸をリノ

ベしたのだが、大好評で「うちもして欲

しい」という声が上がった。戸建てだけ

でなく連棟の空き家も増えてきている

し、二戸まとめると利用価値も上がる。

集約していくことも必要だろうし、それに

対するインセンティブも有効。

魚谷

状態や空間として良くないストックも

少なくない。天井が低く、建築や景観と

してストックとして好ましくないものもあ

る。そのようなストックをリノベーションす

るくらいなら、新しく作った方が良いもの

もあるのではないか。

まちなかを歩いていると、ホテルなの

にマンションっぽいものが増えている。

それはインバウンドが落ち込んだ後に

は水道メーターなどを付けてマンション

として使用できるものにしている。数的

にはマンション建設は減っているという

が、裏では増えているかもしれない。

髙田

管理組合が合理的な判断ができて、

建替え決議に至る場合は、まちづくりの

文脈に合致した建替えを支援すべきで

ある。あるいは管理組合を解散する選

択もある。ただし、そのためには大変な

プロセスを経なければいけないし、新規

分譲時に購入者はそのことを十分理解

しなければいけない。

辻本

高齢化が進んで、途方に暮れている

管理組合もある。これまで管理組合活

動を頑張ってきた団塊の世代も高齢化

している。高さ規制の導入により、これ

までのように容積を売って建て替える手

法もとれない。100年保つといわれても

いつかは建て替えなければいけない。

それに向けての準備をしておく必要が

ある。例えば、一人暮らしの人について

は亡くなった後に管理組合などに寄附

していただくような働きかけも必要だろう

し、売却を希望される際には管理組合

でそれを買い取るような積立金も必要

だろう。外部コンサルに対して報酬を出

してでも準備をしていく必要がある。

髙木

全国に623万戸のストックがあるが、

それぞれについて所有者としての責任

を果たせるのか。新築することで社会を

維持するのはもうダメだというのは東京

でも話されるようになっている。そろそろ

そんな宣言を出しても良いのではない

か。地元からはリノベーションで利益が

出せるビジネスモデルも出てきているの

で、管理組合もその辺りを見据える必

要があるし、また全てを残す必要がある

わけでもない。

髙田

京都の既存マンションにも、改修保

全に値するものはある。スケルトンがき

ちんとしていれば、リノベーションで状

態が良くなるものもある。技術的には多

様な方法が用意されている。基本的な

こととして情報非対称性を解消する対

策を講じた上で、市場メカニズムを重視

すべきである。消費者がものを考えて

行動すれば、京都の新築分譲マンショ

ンは自ずと売れなくなってくる。投機的

なものは居住目的では無いので、住宅

としての価値とはまた別の話。「京都に

住みたい」「地域と関わって暮らしたい」

というニーズを満たすものは、果たして

新築分譲マンションなのかどうか。これ

をきちんと考えれば、自ずと答えは見え

てくる。

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都住研ニュース 2017年9月発行 第58号

都住研では、第24期(2017年9月1日~2018年8月31日)の会員を募集しております。

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●お問合せ/都市居住推進研究会 事務局(担当:大島)〒604-8124 京都市中京区高倉通四条上ル帯屋町574 高倉ビル3FTEL:075-211-8150 FAX:075-211-8153 URL: http://www.tjk-net.com/

北京のストック活用~四合院と胡同の利活用~北京の旧城壁内には、今でも沢山の四合院(中庭を囲う住宅様式)と胡同(路

地)が現存しています。四合院とは、中国北方の伝統的な民居であり、現存するも

のは17世紀から第二次世界大戦前にかけて作られました。戦後は政治体制の激動

の余波を受けて、所有者や居住者は変わり、オリンピック時には開発により多数が

解体されてきました。もちろん、現在でも暮らしの場として現役ではあるのです

が、ここを宿泊施設や商業、交流施設として活用するリノベーションが活発に行わ

れています。観光と居住のせめぎ合いや、高齢者や子どもの居住場所の減少問題

は京都の何十倍もの激しさを感じましたが、まちの居住機能や交流機能を維持・発

展させる取組も見られました。今回は、北京で活躍する日本人建築家が手がけた

ものを中心に、リノベーション事例を拝見してきました。いずれも、新旧の融合に配

慮し、コミュニティとの共存に配慮されていた点が印象的です。

四合院はかつては1家族(一族)が暮らすことが多かったそうですが、現在では

増築が重ねられたり、小規模に区画化され、複数の世帯が暮らす雑院と呼ばれる

ものも少なくなくありません。限られたスペースをうまく活用していて、京都市内

の路地奥の長屋の改修と多くの共通点を感じました。また、増築や改修を重ねて

いても、中庭の豊かな緑(北京市は古木を登録している)を継承する工夫があち

こちで見られ、建物で囲まれた中庭でも閉塞感はありませんでした。小鳥を飼った

り、大空に飼っている鳩を飛ばしたり(鳩レースがさかん)、21世紀になっても昔な

がらの庶民の暮らしの楽しみがあちこちに残っていました。

北京都心部では、文化大革命当時の姿を大規模な資本投下により再現した町

並みや、「デザインエリア」として民間の積極的なリノベーションを誘導するなどの

展開もあり、政府上げて都市のアイデンティティを構築しているようにも感じられ

ました。

今回は番外編。都住研の研修で先日訪れた、北京の歴史的建築物を活か

した展開を紹介します。

北京の