昆虫行動制御剤ピリフルキナゾン (コルト 顆粒水...
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植 物 防 疫 第 65巻 第 3号 (2011年)192
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く貢献した。1999年,生物効果試験および初期安全性
試験等の結果から,最終的にピリフルキナゾンが開発剤
として選抜された。
2002年より開発コード番号「NNI ― 0101顆粒水和剤」
として(社)日本植物防疫協会を通じて新農薬実用化試験
が開始された。その結果,野菜・茶・果樹等の主要なカ
メムシ目害虫・チャノキイロアザミウマに優れた効果を
示し,それら害虫に対する防除剤としての実用性が確認
された。また,難防除害虫であるアブラムシ類に有効で
あることから,農林水産省による新農薬等開発促進事業
の新規開発剤に認定された。一方,人畜毒性試験などの
各種安全性評価,作物残留および土壌残留試験等が実施
され,その安全性が確認された。
II 有効成分と物理化学的性質
一般名:ピリフルキナゾン(pyrifluquinazon)
商品名:コルト獏顆粒水和剤
有効成分量およびその性状:20%,褐色水和性細粒
試験番号:NNI ― 0101
化学名:1 ―アセチル― 1,2,3,4 ―テトラヒドロ― 3 ―[(3 ―
ピリジルメチル)アミノ]― 6 ―[1,2,2,2 ―テト
ラフルオロ― 1 ―(トリフルオロメチル)エチ
ル]キナゾリン― 2 ―オン
構造式:
分子量:464.34
融点:138~ 139℃
蒸気圧:5.1× 10-2Pa(20℃)
水溶解度:12.1 ppm(20℃)
III 安 全 性
1 人畜毒性
急性毒性(原体):普通物
経口/ラット LD50:♂♀ 300~ 2,000 mg/kg
CF3F
F3C
H
0
N NN
N
H3C
0
は じ め に
ピリフルキナゾン(コルト獏顆粒水和剤)は,日本農
薬(株)で発明され,日本国内ではクミアイ化学工業(株)
と共同で開発された新規昆虫行動制御剤である。本剤
は,アミノキナゾリノンという新規の化学構造を持ち,
重要防除害虫であるカメムシ目害虫,特にアブラムシ
類,コナジラミ類,カイガラムシ類,ヨコバイ類やチャ
ノキイロアザミウマに対して優れた効果を示す。
これまでの研究の結果,既存の殺虫剤に感受性が低下
した害虫にも高い効果を示すことが確認されているた
め,殺虫剤抵抗性管理( IRM: Insect Resistance
Management)に有用であり,多くの天敵類に対して影
響が小さく,総合的病害虫管理(IPM:Integrated Pest
Management)にも適合した資材と考えている。
本剤は,2010年 10月 20日に,野菜,茶および果樹
等 18作物で延べ 20種の害虫に対して日本国内で農薬登
録となった。
以下に本剤の開発の経緯,作用特性,効果的な使い方
を紹介し,今後の作物保護に貢献する一剤としてお役立
ていただければ幸いである。
I 開 発 の 経 緯
メトキシアクリレート系殺菌剤の中間体を利用して合
成されたアミノキナゾリノン骨格を持つ化合物がアブラ
ムシ類に対して活性を示したことから,ピリフルキナゾ
ンの探索研究は開始された。その探索過程で,日本農薬
(株)で開発中のフルベンジアミド(フェニックス獏顆粒
水和剤)に係る置換アニリン類を本骨格に導入したとこ
ろ,本化合物群にアブラムシ類,コナジラミ類に対する
非常に高い活性と,カイガラムシ類やチャノキイロアザ
ミウマに対する活性スペクトルの拡大が認められた。本
化合物群のカイガラムシ類の評価に関しては,ブプロフ
ェジン(アプロード獏)の生物効果検討で培ったカイガ
ラムシ類に対する生育ステージ別の生物評価技術が大き
Characteristics of Pyrifluquinazon, a New Insect BehaviorRegulator. By Akiyuki SUWA and Kazuyuki SAKATA
(キーワード:ピリフルキナゾン,コルト,昆虫行動制御剤,殺虫剤,IBR,IPM)
昆虫行動制御剤ピリフルキナゾン(コルト獏顆粒水和剤)の特徴と使い方
諏す
訪わ
明あき
之ゆき
・坂さか
田た
和かず
之ゆき
日本農薬株式会社
昆虫行動制御剤ピリフルキナゾン(コルト獏顆粒水和剤)の特徴と使い方 193
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て,チャノキイロアザミウマにも高い活性を示す(表―
1)。
2 昆虫行動制御作用
ピリフルキナゾンを処理された害虫は,速やかに吸汁
行動を停止し,歩行・飛翔行動が影響を受けて作物から
離脱する。また,カメムシ目害虫には生活史の一部で定
着生活を送る種がいるが,そのような害虫は定着行動が
阻害される。結果として吸汁行動が阻害され,作物が保
護されるとともに害虫は餓死するように死亡に至る。こ
のような作用症状から,本剤は昆虫の行動を制御して作
物を保護する昆虫行動制御剤(IBR:Insect Behavior
Regulator)であると考える(図― 1)。
3 作用速度
本剤を処理した時の死亡虫の発現速度は,害虫を絶食
させた場合の死亡速度と類似し(図― 2),死亡虫の有無
経皮/ラット LD50:♂♀> 2,000 mg/kg
吸入/ラット LC50:♂♀ 1.2~ 2.4 mg/l
ウサギ眼刺激性(製剤):軽度刺激性(洗眼効果あり)
ウサギ皮膚刺激性(製剤):刺激性なし
モルモット皮膚感作性(製剤):感作性なし
2 魚毒性(製剤):B類コイ LC50(96 hr):33.9 mg/l
オオミジンコ EC50(48 hr):0.0058 mg/l
3 環境生物への影響(原体):
ウズラ急性経口 LD50:♂♀ 1,360 mg/kg
IV 作 用 特 性
1 活性スペクトラム
ピリフルキナゾンは,アブラムシ類,コナジラミ類,
カイガラムシ類,ヨコバイ類等のカメムシ目害虫に加え
ピリフルキナゾン処理 吸汁停止
落下
逃亡 死亡 運動緩慢
(餓死症状) (外観は正常)
定着阻害
作物保護効果
図-1 ピリフルキナゾンのアブラムシ類に対する作用様式
表-1 ピリフルキナゾンの主要防除対象害虫に対する活性
科 和名処理ステージ
供試作物 処理方法EC50値 a)
(ppm)
アブラムシ科 モモアカアブラムシワタアブラムシジャガイモヒゲナガアブラムシ
1齢1齢成虫
ナスキュウリダイズ
虫体+葉面散布虫体+葉面散布虫体+作物散布
0.0140.0450.250
コナジラミ科 オンシツコナジラミタバココナジラミ(バイオタイプ B)
卵卵
インゲンインゲン
虫体+葉面散布虫体+葉面散布
0.0700.025
a)処理ステージに対する半数影響濃度.ただし,卵期処理については孵化後の歩行幼虫に対する定着阻害活性で評価.
コナカイガラムシ科 クワコナカイガラムシフジコナカイガラムシ
1齢1齢
インゲンインゲン
虫体+葉面散布虫体+葉面散布
0.0210.960
マルカイガラムシ科 クワシロカイガラムシヤノネカイガラムシ
1~ 2齢1齢
バレイショカンキツ
虫体+作物散布虫体+葉面散布
0.7400.740
ヨコバイ科 チャノミドリヒメヨコバイ 若齢 チャ 作物散布 1.600
アザミウマ科 チャノキイロアザミウマ 中老齢 チャ 作物散布 0.460
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ガラムシ類に対しては,歩行幼虫に定着阻害活性を示
し,一部の種では定着後の幼虫にも活性を示す。ただ
し,マルカイガラムシ類については既存の薬剤と同様に
有効となるステージが限られていることから,防除効果
を高めるための処理時期の設定が重要である。
6 作物葉への浸達性
本剤は,野菜類の葉裏に寄生するアブラムシ類に対し
て葉表にのみ処理しても高い防除効果を示し,浸達性が
あることが確認されている。ただし,効果発現がやや遅
くなることから,防除を確実に行うためには薬液が葉裏
にも十分にかかるようなていねいな散布が推奨される。
7 既存剤低感受性害虫に対する効果
本剤は,有機リン剤,カーバメート剤,合成ピレスロ
イド剤に感受性を低下させたモモアカアブラムシ,そし
てネオニコチノイド剤,ベンゾイルフェニルウレア剤な
ど既存の数多くの薬剤に感受性を低下させたタバココナ
ジラミ・バイオタイプ Qにも高い効果を示す(表― 3)。
本剤の作用機構は検討中であるが,IBRという既存剤と
異なるユニークな作用性は薬剤抵抗性管理上のローテー
ション防除の 1剤として有望と考える。
8 ウイルス媒介抑制効果
トマト栽培に深刻な被害をもたらすトマト黄化葉巻病
(TYLCV)はタバココナジラミ成虫により媒介されるが,
ピリフルキナゾンを処理したトマト苗に本ウイルスを保
で評価すると遅効的である。しかし,昆虫の行動への影
響は速やかに認められる。それは,後述するウイルス媒
介抑制効果を有する点からも吸汁行動の阻害が速効的で
あることが支持される。本剤は昆虫の活動が活発になる
高温条件で速効的に作用し,逆に低温条件ではやや遅効
的となるが,活性レベルは一定である(表― 2)。
4 作用経路
本剤は,経口,経皮のいずれの作用経路でも速効的に
昆虫の行動に影響を及ぼし,効果を発揮する。
5 ステージ別効果
本剤は,卵および蛹には効果を示さず,移動可能な成
虫・幼虫に対して行動制御作用を示す。加害ステージで
ある成虫・幼虫ともに移動することが可能なアブラムシ
類,コナカイガラムシ類,ヨコバイ類,アザミウマ類に
対してはどのステージにも高い効果を示す。
生活史の一部で定着生活を送るコナジラミ類に対し
て,移動可能な成虫には効果を示すが,既に定着して植
物体から離脱できない定着幼虫には活性をほとんど示さ
ず,それらは成虫まで成長する。ただし,定着幼虫期に
本剤が処理されると,羽化後,正常な移動・分散が行え
ずに死亡することが確認されている。また,卵期に本剤
を処理した場合は孵化後の歩行幼虫に対して定着阻害活
性を示す。
コナジラミ類と同様に定着ステージを有するマルカイ
作用発現虫率・死亡虫率(%)
100
80
60
40
20
0
ピリフルキナゾン顆粒水和剤4,000倍吸汁停止個体率 ピリフルキナゾン顆粒水和剤4,000倍死亡虫率 絶食区の死亡虫率
0 20 40 60 80 100処理後時間(h)
図-2 ピリフルキナゾンのモモアカアブラムシに対する作用発現速度
表-2 ピリフルキナゾンのモモアカアブラムシ a)1齢に対する温度別の効果
薬剤
EC50値(ppm)b)
25℃ 20℃ 15℃
2日後 c) 6日後 2日後 6日後 2日後
a)日本農薬(株)累代飼育・感受性系統.b)半数影響濃度.c)処理後日数.
6日後
ピルフルキナゾン顆粒水和剤 0.073 0.049 0.16 0.032 0.48 0.037
昆虫行動制御剤ピリフルキナゾン(コルト獏顆粒水和剤)の特徴と使い方 195
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チャノキイロアザミウマであり,使用濃度はアブラムシ
類対象に 3,000~ 4,000倍液,コナジラミ類対象に 4,000
倍液,カイガラムシ類対象に 2,000~ 4,000倍液,チャ
ノキイロアザミウマ,チャノミドリヒメヨコバイ対象に
は 3,000倍液である。
主要作物のカメムシ目害虫・チャノキイロアザミウマ
への高い効果と薬害の心配が少ないことから,今後もよ
り使いやすい適用内容にするべく,各作物分野で適用作
物の拡大,害虫種の追加を行っていく予定である。
VI ピリフルキナゾンの各種害虫に対する効果的な使い方
本剤は昆虫行動制御作用という特徴的な作用性を有す
る薬剤であり,害虫の発生パターンや有効となる害虫の
齢期,使用時期を把握することが防除を高めるポイント
となる。
1 アブラムシ類
本剤は,作物栽培上問題となる多くのアブラムシ類に
対し,いずれのステージにも有効であることから,予防
的にも,発生確認後に緊急防除的にも使用することがで
きる。既存剤の感受性低下が顕著なワタアブラムシなど
に対しても高い効果を示す。また,本剤は天敵類への影
響が少ないことから,果樹アブラムシ類の防除に使用し
てもハダニ類などのリサージェンスを引き起こすことは
なく安心して使用できる。
2 コナジラミ類
近年,有効薬剤が少なく問題となっているタバココナ
ジラミ・バイオタイプ Qを含めたコナジラミ類に対し
てピリフルキナゾンは高い効果を示す。ウイルス病を媒
介するコナジラミ類は成虫の防除が重要となるが,本剤
は成虫に対しても高い効果を示す数少ない薬剤の一つで
毒した成虫を放飼しても感染しないことが確認されてい
る(表― 4)。また,大豆に寄生するジャガイモヒゲナガア
ブラムシに対してもダイズわい化病(SbDV)の媒介抑
制効果が確認されており,本剤の速やかな吸汁阻害作用
がウイルス媒介抑制効果につながっていると考えられる。
9 作物に対する薬害
これまで実施された(社)日本植物防疫協会による新農
薬実用化試験,および社内圃場試験において薬害の認め
られた事例はほとんどなく,作物に対する高い安全性が
確認されている。
V 登 録 内 容
コルト獏顆粒水和剤(ピリフルキナゾン:20%)は初
回の登録でかんきつ,りんご,なし等の果樹類,茶や,
トマト,なす,きゅうり等の果菜類,キャベツ,レタス
等の葉菜類等 18作物で登録を取得している(表― 5)。
対象害虫は各作物における主要なカメムシ目害虫および
表-3 タバココナジラミ・バイオタイプ Q a)に対する各種薬剤の効果(EC50値 b)(ppm))
薬剤処理ステージ
成虫 c) 卵 d)
ピリフルキナゾン顆粒水和剤 0.38 0.16
a)神奈川県農業技術センター飼育系統.b)半数影響濃度.c)インゲンマメのリーフディスクに薬液を散布後,成虫を放飼し,7日
後調査.d)インゲンマメのリーフディスクに産下させた 1日齢卵に薬液を散布し,幼虫定着期の 10日後に調査.ピリフルキナゾンは,孵化後の歩行幼虫に対する定着阻害活性により評価.
ネオニコチノイド系 A剤 14 99
B剤 19 44
C剤 57 27
D剤 > 80.00 > 80.00
E剤 > 50.00 > 50.00
ピレスロイド系 F剤 > 20.00 > 20.00
G剤 > 200.00 > 200.00
ベンゾイルフェニルウレア系 H剤 > 50.00 > 50.00
マクロライド系 I剤 0.48 0.98
J剤 > 10.00 0.98
その他の系統 K剤 4.0 2.0
L剤 > 150.00 81
M剤 > 100.00 54
N剤 > 50.00 > 50.00
表-4 タバココナジラミ・バイオタイプ Q a)によるトマト黄化葉巻病感染抑制効果
薬剤保毒虫 b)
接種頭数感染抑制率(%)c)
ピルフルキナゾン顆粒水和剤4,000倍
1030
10075
B剤1,000倍
1030
10025
a)神奈川県農業技術センター飼育系統.b)トマト(品種:世界一)苗に薬剤処理し,風乾後にトマト黄化葉巻病感染株上で 48時間飼育した個体を放飼した.c)処理(成虫接種)30日後に LAMP法にて感染の有無を診断.1区 1株 4反復.
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が望ましく,ローテーション薬剤の一つとして IBRで
ある本剤を奨めたい。
3 カイガラムシ類
果樹寄生のマルカイガラムシ類に対しては,本剤の作
用特性上,歩行幼虫の発生が始まる時期の処理でより高
い防除効果を示す。そのため,既存のカイガラムシ防除
剤と比べてやや早い時期の使用が適期といえる。マルカ
イガラムシ類の幼虫発生期間は長期にわたるため,発生
初期に本剤を位置付け,発生中期以降にマルカイガラム
ある(表― 3)。昆虫行動制御作用の特性から,成虫が完
全に死亡するまでには一定の時間を要するが,吸汁行動
を速やかに停止させることで,ウイルス病媒介が抑制さ
れる(IV章― 8)。卵に対しては孵化後の歩行幼虫に,定
着幼虫に対しては羽化後の成虫に作用が発現する。施設
内では 3週間程度の効果持続性が期待できることから,
コナジラミ類の密度を長期に抑制することができる。
コナジラミ類は薬剤抵抗性が発達しやすい害虫であ
り,抵抗性管理上,同一系統の薬剤の連用は避けること
表-5 ピリフルキナゾン(コルト獏顆粒水和剤)の適用病害虫の範囲および使用方法 a)
作物名 適用病害虫名 希釈倍数 使用液量 使用時期本剤の使用回数
かんきつ
アブラムシ類 4,000倍
200~ 700 l/10 a 収穫前日まで 3回以内
チャノキイロアザミウマコナカイガラムシ類
3,000倍
a)2010年 10月 20日現在.
使用方法
ピリフルキナゾンを含む農薬の総使用回数
散布
3回以内
ヤノネカイガラムシ 2,000~ 3,000倍
アカマルカイガラムシ 2,000倍
りんごアブラムシ類
3,000~ 4,000倍
なし4,000倍
クワコナカイガラムシ 3,000~ 4,000倍
ももネクタリン
アブラムシ類 4,000倍
かき フジコナカイガラムシ 2,000~ 3,000倍
ぶどうコナカイガラムシ類チャノキイロアザミウマ
3,000倍
茶
クワシロカイガラムシ
2,000~ 3,000倍
1,000 l/10 a
摘採 7日前まで 2回以内 2回以内チャノミドリヒメヨコバイチャノキイロアザミウマ
200~ 400 l/10 a
ばれいしょアブラムシ類
4,000倍
100~ 300 l/10 a
収穫前日まで
3回以内 3回以内いちご
3,000~ 4,000倍
コナジラミ類
4,000倍
トマトミニトマトなす
アブラムシ類コナジラミ類
ピーマン コナジラミ類 2回以内 2回以内
きゅうり
アブラムシ類 3回以内 3回以内キャベツ
3,000~ 4,000倍レタス非結球レタス
収穫 7日前まで
昆虫行動制御剤ピリフルキナゾン(コルト獏顆粒水和剤)の特徴と使い方 197
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かんきつを加害するチャノキイロアザミウマに対して
も高い被害果防止効果が認められている。カンキツにお
ける本種の加害は長期にわたり,多数回の防除が行われ
ているが,抵抗性管理上の異なる作用性の薬剤として本
剤が位置付けられる。また,天敵類への影響が少ないた
め,ミカンハダニなどのリサージェンスを懸念すること
なく使用することができる。
お わ り に
ピリフルキナゾンは IBRという新規な作用性を持つ
害虫防除剤であることから,害虫の薬剤抵抗性を管理す
るうえで非常に有用な剤であり,既存殺虫剤との上手な
体系での使用が望まれる。また,天敵に影響が小さいと
いう選択性を活かし,IPM防除体系における有効利用
も期待される。今後の普及に際しては,本剤の特徴をよ
く把握し,各地域の害虫防除に組み込める上手な使い方
を提案していきたい。そのためにも,今後とも各地域の
指導機関のご指導,ご助言をお願いしたい。
シ類に活性を有する薬剤(アプロード獏など)を体系で
処理することでより高い効果が得られる。茶寄生のクワ
シロカイガラムシに対しては定着した 1齢に対しても効
果を示すことから,従来の処理適期である孵化最盛日こ
ろの使用で高い効果を示す。
一方,コナカイガラムシ類に対しては,幼虫から成虫
まで効果を示すが,活発に移動・分散する若齢が主体の
発生時期に使用することで,本剤の定着阻害活性が発揮
され高い効果が期待できる。
4 チャノミドリヒメヨコバイ,チャノキイロアザミ
ウマ
近年,茶の主要産地ではこれら 2種の既存薬剤に対す
る感受性低下が顕在化し,有効剤が少なくなっている。
そのため両害虫に対して効果を示す薬剤として本剤が期
待されている。IV章― 3で述べたとおり,本剤の効果は
害虫の死亡に一定時間を要することから,飛来虫の多い
条件では効果が判然としない場合もあるが,萌芽期から
新葉展開期の処理で,被害芽防止効果は高いことが確認
されている。