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様式第5 号(第 9 条関係) 論文内容の要旨 論文内容の要旨 報告番号 氏名 貴志洋平 P h e n o t y p i c c h a r a c t e r i z a t i o n o f a d e n o m y o s i s o c u r i n g a t t h e i n e r a n d o u t e r m y o m e t r i u m . (和訳) 子宮筋層の内外層に発生する子宮腺筋症における、それぞれの組織学的特徴 子宮腺筋症は、組織学的には子宮筋層内に異所性子宮内膜組織が発生する疾患で、その臨床症状 は疹痛と不妊症に代表される。その発生原因は解明されていない。本研究では、局在部位の異なる子宮腺 筋症(筋層内側と外側)は共通して強い線維化が見られることに着目し、それぞれの線維化過程の違いを 見出すことを目的とした。 研究対象はE 常子宮 1 0 症例、子宮腺筋症症例 1 8 症例とし、手術によって摘出した子宮筋層組織を 用いた。これら子宮平滑筋に対し、免疫組織染色学的手法を用いて、細胞骨格タンパク、タイプ1 3 コラー ゲン、 TGF-s とその作用タンパクを分析した。 主な結果として、腺筋症病巣の平滑筋組織には、タイプ1 コラーゲ、ン主体の有意な線維化が認められた。 正常子宮の平滑筋骨格タンパクの分析では、外側筋層の平滑筋細胞には高度に分化した平滑筋細胞で あることを示すミオシン重鎖タンパクやデスミンの強い発現が認められた。一方内側筋層に平滑筋細胞では これらの高分化型骨格タンパクの発現は、欠損もしくは大きく減弱していた。また、外側筋層に限局する腺 筋症病巣の平滑筋細胞では、非筋ミオシン I I B の発現と、 TGF-s とその受容体タンパクの発現が認、めら れた。正常子宮や、内側筋層に限局する腺筋症ではこれら非筋ミオシン I I B TGF-s とその受容体タン パクの明らかな発現は認められなかった。 TGF-s シグナリング経路の情報伝達タンパクで、は、 Smad3/Srnad2 比は外側筋層の腺筋症で有意に上昇していることが認められた。 結論として、まず正常子宮の平滑筋は内外で、異なる分化度を示すことが分かった。内側筋層は分化 度の低い筋線維芽細胞に近い性質を持つ平滑筋細胞で構成されていた。対して外側筋層は高度に分化 した平滑筋細胞で、構成されていることが分かった。子宮内外に局在する腺筋症で、異なる線維化過程を示 すタンパク染色が認、められた。本研究から、分化度の異なる子宮平滑筋細胞をそれぞれの発生母地として、 子宮腺筋症はその局在部位により異なる線維化過程をとる可能性が考えられた。

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  • 様式第5号(第 9条関係)

    論文内容の要旨

    論 文内容の要旨

    報告番号 氏名 貴 志 洋 平

    Phenotypic characterization of adenomyosis occurring at the inner and outer

    myometrium.

    (和訳)子宮筋層の内外層に発生する子宮腺筋症における、それぞれの組織学的特徴

    子宮腺筋症は、組織学的には子宮筋層内に異所性子宮内膜組織が発生する疾患で、その臨床症状

    は疹痛と不妊症に代表される。その発生原因は解明されていない。本研究では、局在部位の異なる子宮腺

    筋症(筋層内側と外側)は共通して強い線維化が見られることに着目し、それぞれの線維化過程の違いを

    見出すことを目的とした。

    研究対象はE 常子宮 10 症例、子宮腺筋症症例 18 症例とし、手術によって摘出した子宮筋層組織を用いた。これら子宮平滑筋に対し、免疫組織染色学的手法を用いて、細胞骨格タンパク、タイプ1、3コラー

    ゲン、 TGF-s とその作用タンパクを分析した。主な結果として、腺筋症病巣の平滑筋組織には、タイプ1コラーゲ、ン主体の有意な線維化が認められた。

    正常子宮の平滑筋骨格タンパクの分析では、外側筋層の平滑筋細胞には高度に分化した平滑筋細胞で

    あることを示すミオシン重鎖タンパクやデスミンの強い発現が認められた。一方内側筋層に平滑筋細胞では

    これらの高分化型骨格タンパクの発現は、欠損もしくは大きく減弱していた。また、外側筋層に限局する腺

    筋症病巣の平滑筋細胞では、非筋ミオシン IIB の発現と、 TGF-s とその受容体タンパクの発現が認、められた。正常子宮や、内側筋層に限局する腺筋症ではこれら非筋ミオシン IIB や TGF-s とその受容体タンパクの明らかな発現は認められなかった。 TGF-s シグナリング経路の情報伝達タンパクで、は、Smad3/Srnad2 比は外側筋層の腺筋症で有意に上昇していることが認められた。

    結論として、まず正常子宮の平滑筋は内外で、異なる分化度を示すことが分かった。内側筋層は分化

    度の低い筋線維芽細胞に近い性質を持つ平滑筋細胞で構成されていた。対して外側筋層は高度に分化

    した平滑筋細胞で、構成されていることが分かった。子宮内外に局在する腺筋症で、異なる線維化過程を示

    すタンパク染色が認、められた。本研究から、分化度の異なる子宮平滑筋細胞をそれぞれの発生母地として、

    子宮腺筋症はその局在部位により異なる線維化過程をとる可能性が考えられた。