航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け...

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航路・泊地埋没対策ガイドライン 平成26年3月 水産庁漁港漁場整備部

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航路・泊地埋没対策ガイドライン

平成26年3月

水産庁漁港漁場整備部

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はじめに

海の水位変動、流れ、波の作用によって漂砂現象の発生する沿岸域の漁港では、漂

砂により航路・泊地が埋没し、頻繁に浚渫を実施している事例が見られる。航路・泊

地の埋没への対応は、漁港管理者の経済的な負担が大きいばかりでなく、施設の維持

管理や円滑な利用の面からも問題が生じており、効果的な対策を立案する必要に迫ら

れている。 近年、漂砂に特化した数値シミュレーション手法が開発され、その精度は大きく向

上しており、港内埋没の要因分析、防砂堤などの対策工法、ライフサイクルコストを

勘案した維持管理についての研究も進んでいる。しかしながら、個別の対策について

は、長期的な調査や多くの経費が必要になり、対応が進んでいない状況にある。 本ガイドラインは、漂砂対策を必要とする漁港管理者がこれを有効に活用すること

により、地域の特性に応じた航路・泊地埋没対策が効果的かつ経済的に実施され、安

全かつ円滑な漁港利用が実現することを図るものである。

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― 目 次 ―

第 I 章 ガイドラインについて ............................................................................................... 1

1.1 目的 ................................................................................................................................. 1

1.2 ガイドラインの構成 ........................................................................................................ 1

1.3 ガイドラインの記載の仕方 .............................................................................................. 1

1.4 ガイドラインの位置付け ................................................................................................. 2

1.5 用語解説 .......................................................................................................................... 3

第 II 章 漁港における航路・泊地埋没の現状と課題 ................................................................ 4

2.1 全国の漁港における航路・泊地埋没の現状 ..................................................................... 4

2.2 漁港における航路・泊地埋没対策の現状 ......................................................................... 6

2.3 漁港における航路・泊地埋没対策の課題 ......................................................................... 8

第 III 章 航路・泊地埋没対策の考え方 ................................................................................. 11

3.1 検討の基本 .................................................................................................................... 11

3.2 埋没メカニズムの把握 ................................................................................................... 16

3.3 対策案の検討 ................................................................................................................. 18

3.4 最適な対策の考え方 ...................................................................................................... 22

3.5 モニタリング ................................................................................................................. 26

3.6 順応的管理(PDCA サイクル) .................................................................................... 27

第 IV 章 対策の検討事例 ........................................................................................................ 29

4.1 LCC を考慮した対策の検討事例 .................................................................................... 29

4.2 対策工法の検討事例 ...................................................................................................... 40

<対策の実施に向けた参考資料> ............................................................................................. 49

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‐1‐

第I章 ガイドラインについて

1.1 目的

本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じた漁港で、漁業活動等に支障があるような場

合に、漂砂対策を実施するために、漂砂のメカニズムの考え方や最適な対策工法の考え方をとりまとめ

たものである。

1.2 ガイドラインの構成

本ガイドラインは、漁港の特性を踏まえた航路・泊地埋没対策に関する対策工の考え方を以下の構成

で示すものである。見出しは、章、節、項、目、目細とし、「Ⅰ、1.1、(1)、①、ⅰ」とする。

表 I-1 ガイドラインの構成

章 頁 内 容

第Ⅰ章 1-3 ガイドラインの概要(構成・対象者・用語の説明など)

第Ⅱ章 4-10 漁港における航路・泊地埋没の現状と課題

第Ⅲ章 11-28 航路・泊地埋没メカニズム・漂砂対策の考え方、選定方法

第Ⅳ章 29-48 対策の検討事例

参考資料 49 対策の実施に向けての留意点(調査・事業メニューなど)

1.3 ガイドラインの記載の仕方

本ガイドラインは、基本的考え方、解説、参考情報を以下の記述方法で記載する。

各章の冒頭に基本的考え方を整理

【解 説】

基本的考え方を文章、図表、写真等で解説

・解説欄で特に強調したい事項はこの枠囲みで記述

・事例、参考データ等を掲載する場合はこの枠囲み

【基本的考え方】

【参考情報】

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1.4 ガイドラインの位置付け

本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

る漁港において、漂砂対策を実施するために、漂砂のメカニズムの考え方や維持管

理を念頭に置いた最適な対策工の選定方法をとりまとめたものです。

【解 説】

(1) 位置付け

漂砂現象の発生する沿岸域に位置する漁港では、漂砂により航路・泊地が埋没し、頻繁に浚渫を実施

している事例が数多く見られる。埋没が顕著な漁港では、漁港管理者の経済的な負担が大きいばかりで

なく、施設の維持管理や円滑な利用の面からも大きな問題が生じている。

近年、漂砂に特化したシミュレーションが開発され、その評価精度は大きく向上している。港内埋没

の要因分析、対策工、維持管理についての研究も進んでいるが、個別の対策については、長期的な調査

や多くの経費が必要になり、対応が進んでいない状況にある。

このような背景のもと、本ガイドラインは、漂砂のシミュレーション解析事例や対策事例などから、

漁港の現状を把握し、航路・泊地埋没メカニズム(要因)の考え方やそのメカニズムを踏まえた対策(漂

砂対策)の考え方・選定方法をとりまとめ、実施に向けての留意点などを整理したものである。

(2)ガイドラインの対象

①対象

・「漁港」およびその周辺海域を対象とする。

ただし、河口域のように河川からの土砂供給が航路・泊地埋没の主要因となる領域およびシルトや

粘土等の浮泥が主要因となるシルテーションについては対象外とする。これは、本ガイドラインが漂

砂(砂)を対象としているためである。

②対象とする者

・対象者は漁港管理者とする。

【基本的考え方】

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1.5 用語解説

本ガイドラインの記載内容に関して、基本的な用語を以下に解説する。

漂砂 :海域や湖沼・河川等で波や流れによって移動する土砂

掃流砂 :流れが水底に作用する力(掃流力)によって海底付近を輸送される砂

浮遊砂 :波や流れが強いときに水面近くまで巻き上げられた砂

サンドポケット :航路等に堆積しないように人工的に砂を貯めるようにした箇所

ポケットビーチ :岬や突堤など2つの沿岸障害物に挟まれて砂浜が安定した海岸

防砂堤 :航路や港口が埋没するのを防ぐため、漂砂を遮断する突堤状の構造物

サンドバイパス :構造物によって砂移動が断たれた場合に、上手側に堆積した土砂を、下手

側に輸送する工法

サンドリサイクル :流れの下手に堆積した土砂を、上手側の侵食された海岸に繰り返し投入し、

砂浜を復元する工法

ライフサイクルコスト(以下、LCC) :構造物などの築造・維持管理・撤去の各段階における費用を合計したもの

(生涯費用ともよばれる)

PDCA サイクル :Plan(計画)、 Do(実行)、 Check(評価)、 Act(改善)の 4 段階を繰

り返すことによって業務を継続的に改善する考え方

港内静穏度 :港内の波浪の静穏性を示す指標(航路、泊地、係留、荷役等の港内の用途

に応じて評価)

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第II章 漁

2.1 全国

アンケ

じ、対策

【解 説】

(1)アン

全国 47

良)及び被

するアンケ

【基本的

漁港にお

国の漁港に

ケート結果に

策が必要とさ

ンケート結果

都道府県の

被災 3 県(岩

ケート調査(

的考え方】

おける航路

における航

によると全

されていま

果の概要

うち、海に面

岩手、宮城、

2,304 漁港)

路・泊地埋

路・泊地埋

全国の漁港の

ます。

面していない

福島)を除

を実施した

図 II-1

-4-

埋没の現状

埋没の現状

の約 30%

い 8 県(栃木

く 36 都道府

た。以下にア

アンケー

状と課題

%において、

木、埼玉、山

府県の漁港管

アンケートの

ト回答例

航路・泊

山梨、群馬、

管理者を対象

の回答例を示

泊地の埋没が

長野、岐阜

象に航路・泊

示す。

が生

阜、滋賀、奈

地埋没に関

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(2)全国の漁港における航路・泊地の埋没状況

アンケート調査では 34 の都道府県の漁港管理者から回答を得た。アンケート結果から、アンケート

を回収した全国 2,304 漁港のうち、航路・泊地埋没の対策が必要である漁港が 762 港、必要が無い漁港

が 1,542 港であり、全体の 33%で対策が必要であることが判明した。

図 II-2 航路泊地埋没の対策の要否:アンケート調査結果

このうち、航路・泊地においては地域に関係なく、641 漁港で維持浚渫を実施している。

図 II-3 浚渫実施状況:アンケート調査結果

必要あり

33%

必要なし

67%

0

50

100

150

200

250

300

350

航路

泊地

ポケット浚渫

なし

回答なし

漁港

その他

内海・内湾型

外洋型

(日本海、東シナ

海、オホーツク海)

外洋型(太平洋)

※ポケット浚渫は用語解説のサ

ンドポケットに類するもの

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2.2 漁港における航路・泊地埋没対策の現状

アンケート結果によると、航路・泊地埋没対策に必要な深浅測量等の漂砂調査は

ほとんど実施されていません。有効な対策のためには、基礎的な調査を実施する必

要があります。

対策工としては防砂堤などが多く実施されていますが、漂砂量のきわめて多い漁

港では十分な効果を発揮できていない施設も有り、さらなる対策が必要とされてい

ます。

【解 説】

(1)調査に関するアンケート結果の概要

①漂砂対策の現状

漁港の港内静穏度確保のために外郭施設の整備を行うことで、新たに航路・泊地埋没を引き起こ

すことがある。漁港を含む周辺海域における漂砂の実態を把握した上で、漁港の整備計画を策定する

必要があるが、漂砂対策を検討していない漁港では、漂砂の状況を解明するための深浅測量等の調査

はほとんど行われていない。

図 II-4 漂砂対策調査の実施状況

アンケートで漂砂対策工の整備を実施したとの回答が得られた漁港(61 漁港)のうち、対策効果

があった漁港は全体の 25%(15 漁港)であり、引き続き対策が必要と考えられる漁港は全体の 75%

(46 漁港)であった。ここで、対策の効果があった漁港とは、外郭施設(防波堤、防砂堤)を整備

した後に浚渫頻度・浚渫量の少なくなった漁港であり、引き続き対策が必要と考えられる漁港とは、

施設を整備したものの漂砂量が多く、浚渫の量・頻度が徐々に多くなってきた漁港を指す。

A , 258件, 

34%

B , 480件, 

63%

X , 26件, 3%

深浅測量調査

A あり

B なし

X 回答なし

A , 446件, 

58%

B , 301件, 

40%

X , 17件, 2%

航空写真撮影

A あり

B なし

X 回答なし

A , 55件, 34%

B , 48件, 29%C , 12件, 7%

D , 9件, 6%

E , 19件, 11%

F , 17件, 10%

X , 31件, 2%

各種調査実績

A 波浪観測

B 流況観測

C 捕砂観測

D 蛍光砂調査

E その他

F なし

X 回答なし

A , 28件, 20%

B , 20件, 14%

C , 42件, 30%D , 10件, 7%

E , 15件, 11%

F , 17件, 12%

X , 5件, 19%

漂砂解析実績A 汀線変化解析

B 等深線変化解析

C 3次元海浜変形

解析

D その他

E 不明

F なし

X 回答なし

【基本的考え方】

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この

を行い、

ーチ化し

と考えら

能性が考

一方、

漂砂量が

かった。

はじめ、

のシミュ

ナ海、

いるか

航路

ンドポ

【各

うち、数例に

対策効果の

したことで安

られたケース

考えられる。

、引き続き対

がきわめて多

また、漂砂対

対策案を策

ュレーション

ンケート結果

、オホーツク

かを整理した

・泊地浚渫も

ポケットを実

漁港

地の漂砂対策

について漁港

の実態を把握

安定したケー

スが見受けら

対策が必要と

多く許容量以

対策に結びつ

定した後に周

ンのモデルが

果から、各地

ク海)」、「内

た。漂砂対策

も多くの実績

実施している

漂砂対

0102030405060708090

100

防波堤

防砂堤(波除堤)

策】

港管理者に対

握した。対策の

ース、間口を狭

られた。ただ

と考えられる

以上の漂砂が

つく現地調査

周辺海岸に他

が適切ではな

図 II-

地の漁港を

内海・内湾型

策施設として

績がある。な

る箇所が見受

対策施設の実施

離岸堤

航路

泊地

-7-

対策工の実施

の効果があっ

狭めることや

し、漂砂の堆

る漁港では、

があったため

査の実績が乏

他の構造物が

なかった事例

5 対策効果

「外洋型(太

」の 3 区分

ては、各区域共

なお、外洋型

受けられる。

施状況:ア

サンドポケット

サンドリサイクル

サンドバイパス

施時期、効果

った漁港では

や沿岸漂砂対

堆積量が多く

対策直後に

、結果として

乏しく十分な

が築造された

例が挙げられ

果の割合

太平洋)」、「

分し、どのよ

共に防砂堤が

型では、一部

ンケート調査

なし

回答なし

(日

※“なし”の

で問題の無い

果の継続性な

は、対策工に

対策により漂

くなると、再

には効果があ

て対策が機能

な対策検討が

たケースや対

る。

外洋型(日

ような対策が

が多く整備さ

部でサンドバ

査結果

の他

海・内湾型

洋型

日本海、東シナ

、オホーツク海)

洋型(太平洋)

の回答には現状

い漁港も含む

などについて

により海浜が

漂砂の流入が

再び浚渫が必

あったものの

能しなくなる

ができなかっ

対策効果を評

本海、東シ

が講じられて

されており、

バイパスやサ

ヒアリング

がポケットビ

が制御された

必要となる可

、相対的に

るケースが多

ったケースを

評価するため

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2.3 漁港における航路・泊地埋没対策の課題

漁港の計画では、航路・泊地の静穏度確保を図ることに加え、航路・泊地埋没につ

いても留意する必要があります。

航路・泊地埋没の対策工の効果を発揮させるためには、漁港周辺の自然条件や漁港

建設の履歴などの基礎的な資料が必要になりますので、必要最小限の調査を実施する

必要があります。

最適な工法を選定するためには、対策の初期に要する費用に維持管理費用を含めた

LCC を考慮する必要があります。

また、漁港のみではなく、近隣海岸への影響など、広域な視点で対策を考える必要

があります。

【解 説】

(1)現状把握の調査

航路・泊地が漂砂により埋没している漁港においては、漂砂の動向を把握したうえで対策を考える必

要がある。漁港を含む周辺海域における漂砂の実態を把握した上で、漁港の整備計画を策定する必要が

あるが、アンケートの結果では、漂砂対策を検討していない漁港では漂砂の状況を解明するために必要

な深浅測量等の調査はほとんど行われていない。漂砂の状況を把握するために、必要な調査の一覧を以

下に示す。

■漁港の航路・泊地埋没の現状把握に必要な資料

1 自然条件

・ 波浪(波高・周期・波向出現頻度、観測資料、設計波諸元等)

・ 潮位(計画高潮位、朔望平均高潮位、平均潮位、朔望平均低潮位等)

・ 潮流、流況等

・ 風(風向・風速出現頻度、観測資料等)

・ 底質(粒径、粒度組成等)

2 地形条件の把握

・ 海底地形(海図、深浅測量結果、航空写真等)

・ 海浜地形(海浜(汀線)測量結果、航空写真等)

・ 河川の流入(流出土砂量、河川流量等)

3 漂砂現象の把握

・ 漂砂の卓越方向、漂砂量(沿岸・岸沖)、砂移動パターン等

4 沿岸構造物の建設履歴の把握

・ 漁港計画、漁港施設の整備履歴、浚渫履歴、被災履歴など

・ 漁港海岸施設、海岸保全施設、港湾施設、河口施設等、同一漂砂系の中にある施設

5 その他

・ 調査関係報告書(漂砂解析報告書、静穏度解析報告書、潮流潮汐に関する解析報告書、

ナウファス波浪観測、漁港施設の配置計画の検討報告書等)など

【基本的考え方】

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また、航路・泊地埋没の検討に際し必要となる資料のリストを以下に示す。これらの資料・情報は既

存資料で得られないことも多いと想定されるが、研究論文等の文献や近隣の関連資料を活用するなどの

工夫が必要となる。また、波浪や海底地形等の重要な情報については、現地で観測・測量を実施して取

得することも検討する。

表 II-1 航路・泊地埋没の検討に必要な資料

資料の分類 資料の内容 備考 波浪関連資料 潮位 潮位実況 計画高潮位 朔望平均高潮位 平均潮位 朔望平均低潮位 波浪 波高 異常時、通常時 周期 波向の出現頻度 設計波高 漁港波浪データベース ナウファス波浪観測 漂砂解析報告書 静穏度解析報告書 潮流 潮流に関する解析報告書 観測位置、期間等 地形関係資料 地形 深浅・汀線測量結果 航空写真(漁港周辺及び漂砂域全域) 等深線が入った計画平面図 海浜地形(海浜勾配、砂浜幅等) 漂砂解析報告書 地形変化解析報告書 流入河川の有無 河川流量 漂砂供給源の河川 土砂流出量 砂防・多目的ダム等の建設履歴 漂砂関係資料 現地調査 波、流れ、漂砂報告書 底質調査(粒径、粒度組成)報告書 風況調査報告書 漂砂 漂砂解析報告書 漂砂の卓越方向 沿岸漂砂量 岸沖漂砂量 砂移動パターン 計画関係資料 漁港計画 漁港施設の配置計画の検討報告書 漂砂 漂砂対策の検討書 工事関連資料 漁港 漁港施設の施工履歴(建設経緯) 浚渫 航路・港内の浚渫履歴(範囲、量等) 浚渫土砂の処分方法、処分場所 被災 被災に関する報告書 被災要因、内容等

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(2)対策工の考え方

埋没対策の効果を十分に発揮させるためには、漁港周辺の自然条件や漂砂の実態などを把握する必要

がある。さらに、費用対効果や広域的な環境影響を考慮し、最適な漂砂対策を選定する必要がある。

航路・泊地における対策としては、構造物の設置などにより漂砂の流入を防ぐ方法と堆積した砂を浚

渫(排出)する方法、また、これらの工法を組み合わせる方法がある。

対策工法は漁港利用や環境などの観点を踏まえつつ、各種の対策を比較し、効率的かつ経済的な工法

とすることが望ましい。

■漂砂対策の考え方は以下のとおり。

・構造物により、漂砂を航路・泊地に堆積させない(防砂堤、突堤など)

・継続的な維持浚渫により、航路・泊地を維持する

・構造物と維持浚渫を組み合わせる

(3)広域における漂砂対策事例

漂砂は河川を含めた広域の沿岸域で連続的に生じる現象である。このため、総合的土砂管理の観点に

よる広域的な対策が求められる。漁港の航路・泊地埋没も漁港周辺に限った現象ではないので、近隣の

海浜などへの影響を配慮しつつ対策を選定することが望ましい。以下のような総合的土砂管理の事例が

参考になる。

「鳥取砂丘海岸における土砂動態把握およびサンドリサイクルの効果の検討」

澁谷容子、松原雄平、黒岩正光、井出正志

土木学会論文集 B2(海岸工学)Vol.68、 No.2、 2012、 I_676-I_660

【要旨】

鳥取砂丘海岸は、一級河川千代川を土砂供給源とする東西約 7kmの砂浜海岸である。東端には

岩戸漁港・塩見川、西側には千代川・鳥取港が位置している。昭和 40 年代よりの社会基盤整備の

結果、周辺海域において著しい地形変化が生じた。鳥取海岸では海岸侵食が深刻化しているが、鳥

取港や千代川河口付近では堆砂問題があり、土砂移動のバランスが取れていない。こうした状況か

ら鳥取県では、平成 17 年度から総合的土砂管理として、サンドリサイクルを実施している。この

論文では、鳥取砂丘海岸や鳥取港の深浅測量結果を基に、一帯の土砂動態の把握を試みた。

鳥取砂丘海岸のサンドリサイクルの概況

【総合的土砂管理】

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第III章 航路・泊地埋没対策の考え方

3.1 検討の基本

航路・泊地埋没対策を立案するためには、航路・泊地埋没現象を引き起こす漁港

周辺の現状を把握する必要があります。

そのためには、波浪などに代表される自然条件、地形、漂砂の状況などの諸条件

を把握し、整理・分析することが必要です。

【解 説】

漁港における航路・泊地埋没対策を立案するにあたっては、はじめに既往資料等の調査結果を踏まえ、

漂砂メカニズムを把握する。把握された漂砂メカニズムから対策案を立案し、数値シミュレーションに

より対策効果を検討する。そのうえで、工法毎の LCC や現地の適用性、施工性などを考慮して、総合

的に優れた対策を選定する。

対策工を実施した場合には、当初想定したような埋没対策の効果が得られているのかを経過観察し、

必要に応じ、対策の見直しなどを実施する順応的な管理を行うことが望ましい。

対策の検討の流れを図Ⅲ-1に、各検討項目の概要を以下に示す。

① 漁港の現状把握

既存調査資料・報告書等の収集整理や現地の漁業者等にヒアリングを行い、港形、地形変化状況、航

路・泊地埋没の実態、漁港利用の状況、周辺の自然特性を把握する。

② 埋没メカニズムの把握・確認

現状把握の結果に基づき、対象となる漁港における漂砂特性と堆積・侵食の傾向や季節変動等による

漁港の埋没メカニズムを把握する。また、順応的管理の中で埋没メカニズムを確認する。

③ 対策案の検討

漂砂メカニズムを踏まえ、適切と考えられる対策案として数案を選定する。選定された対策案につい

て数値シミュレーションなどの種々の評価予測手法を行い、各案の効果を定量的に評価する。

④ LCC の観点での比較検討

数値シミュレーションの結果に基づき、選定された対策案の LCC を比較検討する。

⑤ 最適な対策案の抽出

LCC の観点を踏まえ、各対策案のなかで最適と考えられる案を選定する。ここでは、LCC のほか、

漁港利用、維持管理、工法の信頼性、港内の静穏度、自然環境への影響など考慮し、総合的に対策案

を評価する。

⑥モニタリング

当初想定した対策効果が得られているのかを経過観察するため、対策工事の進捗に応じて、定期的な

モニタリングを実施する。

⑦順応的管理(PDCA サイクル)

モニタリング結果を基に、想定外の要因等により対策の効果が十分に得られていないと考えられる場

合には、より効果的な対策に向けて、必要に応じ調査を行い、修正案について検討する。

【基本的考え方】

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図 I

II-1 航路

-12-

・泊地埋没対対策の検討フフロー

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-13-

(1)自然条件の把握

沿岸漂砂を引き起こす物理的な要因を把握する。

① 波浪(波高・周期・波向出現頻度、観測資料、設計波諸元等)

対象漁港周辺の波浪観測データを整理する。できるだけ長期間(数年~10 年)の波浪観測資料があ

ることが望ましいが、短期的な観測である場合には少なくとも 1 年間のデータが必要である。対象漁

港における波浪観測資料が得られないときは、ナウファス波浪観測※1や漁港波浪データベース※2など

の公開データの中から至近の観測結果を利用する。

図 III-2 波浪観測結果の整理事例

※1ナウファス波浪観測(全国港湾海洋波浪情報網:NOWPHAS:Nationwide Ocean Wave

information network for Ports and HArbourS)は、国土交通省港湾局、各地方整備局、北海道

開発局、沖縄総合事務所、国土技術政策総合研究所および独立行政法人港湾空港技術研究所の相

互協力の下に構築された国内各地の沿岸波浪情報網。

※2 漁港波浪データベースは、独立行政法人水産総合研究センター水産工学研究所が各観測機関か

ら提供された波浪データを収集し統計解析を行った結果を公開したもの。

②潮位(計画高潮位、設計潮位、朔望平均高潮位、平均潮位、朔望平均低潮位等)

漁港の設計時の調査結果や自治体の海岸保全計画等で設定された潮位に関する情報を収集する。計

画高潮位、設計潮位、朔望平均高潮位、平均潮位、朔望平均低潮位等を整理する。

③流況

漁港を含む周辺海域の既存の流況観測データがある場合は、流況の実態を整理する。沿岸域は波浪

によって引き起こされる短周期の海浜流が卓越するので、こうした流れが観測で捉えられていること

が望ましいが、より長周期の潮汐流や恒流成分等の整理も含め、周辺の流況を整理する。

有義波高

Page 18: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

-14-

④風(風向・風速出現頻度、観測資料等)

波の駆動要因となる風の状況は気象庁のアメダス等の観測データを利用できる。対象漁港至近の観

測点における過去数か年の風向・風速データを入手し、強風の出現状況等を把握する。

⑤底質(粒径、粒度組成等)

漁港及び周辺の底質砂の中央粒径、粒度組成、密度(比重)等を把握する。既存の分析成果がある

場合はそのデータを利用するが、無い場合には現地調査を行う。漁港内外の数か所で底質を採取し、

粒度組成や密度(比重)等を分析する。

(2)地形条件の把握

①海浜地形・航空写真

漁港の計画平面図、施設台帳、地図、航空写真等を整理して、海岸地形の変遷を把握する。特に、

航空写真は、撮影された年度や月日に着目して整理することで、砂浜や海(波、流れ)の状態に加え

て、一連の区間の汀線の変化を把握するための重要な資料となる。

② 海底地形(深浅測量)

漁港及び周辺海域の深浅測量成果は、航路・泊地埋没の実態を把握し、漂砂のメカニズムを推測す

るための重要な基礎データである。数回の測量成果があれば、海底地形の変化状況が把握でき、堆砂・

侵食の平面的な分布を理解することができる。

なお、航路・泊地の浚渫など人為的に海底地形の改変を行った場合は、その範囲と浚渫土量等を整

理する。

図 III-3 深浅測量による堆積・侵食状況の把握

③ 河川の流入の有無など

漁港内外に流入する河川がある場合は、流量等を整理する。河川から供給される土砂量の推定デー

タがあると、埋没メカニズムの推測に利用できるが、こうしたデータは少ないのが実情である。河川

からの流出土砂が直接的に航路・泊地に堆積する場合については、当該漁港の実態に即した多面的な

検討が必要であることため、 本ガイドラインでは、当面、河川からの土砂供給等による埋没は、検討

の対象外とする。

深浅測量:海底断面の変化

200X 年 200Y 年

Page 19: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

-15-

(3)漂砂関係資料

漂砂の卓越方向や漂砂量などについて、既存の解析や観測資料がある場合は収集整理する。なお、漂

砂の実態や堆砂・侵食の状況については、漁港を利用する漁業者が把握していることが多い。こうした

現地の関係者にヒアリングすることで漂砂の概況を理解することができる。

(4)漁港関係資料

漁港計画、漁港施設の整備履歴、浚渫履歴、被災履歴などの漁港の関連資料を収集整理する。

(5)その他

海底地形・汀線変化などの現地調査報告書のほか、波浪解析や沿岸漂砂の解析結果報告書等の既存資

料がある場合は、こうした資料を収集し、漂砂の状況を把握する。

Page 20: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

3.2 埋没

航路・

移動し、

このよ

なり、有

【解 説】

(1)埋没

現状把握

埋没メカニ

浜流の状況

図Ⅲ-4 に

沿岸の流れ

内に運搬さ

る場合には

【基本的

没メカニズ

泊地埋没が

航路・泊地

ような漂砂に

有効な対策の

没メカニズム

握の結果に基

ニズムを推定

況から、漂砂

に漂砂による

れにより砂が

れて埋没現

は、重要な事

的考え方】

ズムの把握

が発生する

地に堆積す

による埋没

の立案が可

ムの考え方

基づき、当該

定する。具体的

砂の移動方向

る航路・泊地

移動して沖

現象が発生す

事象が典型的

るのは、波

するというメ

没メカニズム

可能になりま

漁港におけ

的には、高波

と砂の堆積

地埋没のメカ

防波堤背後の

ることを説明

となる季節毎

III-4 漁港

-16-

・流れの作

メカニズム

ムを把握で

ます。

る漂砂特性

波浪の向きや

・侵食の状況

カニズムの模

の静穏域に堆

明している。

毎に複数の模

港の漂砂メカ

作用や漁港の

ムによるもの

できれば、漁

と堆積・侵食

や出現頻度を

況を推定する

模式図を示す

堆積し、さら

なお、季節

模式図を整理

ニズムの模

の港形など

のです。

漁港の埋没

食の傾向や季

をはじめ、漁

るものである

。同図は、高

らに、防波堤

節によって波

理する。

式図

どに応じて砂

没要因が明確

季節変動等に

漁港周辺で形

る。

高波浪によ

堤による循環

波浪や漂砂の

砂が

確に

による漁港の

形成される海

り発生した

環流により港

の特性が異な

Page 21: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

-17-

港内静穏度を優先して

島防波堤を整備

広い港口部 パターンA

パターンC

パターンE

パターンD(1)

パターンD(2)

堆積した砂が

港内に侵入

パターンB

(2)埋没パターン

アンケートによる堆砂箇所と浚渫箇所の分析に基づくと、漁港の埋没パターンは、港形により、5つ

に大別される。

パターン A:港口幅が広いために、沿岸漂砂と岸沖漂砂による砂が港内に流入して堆積するケー

パターン B:主防波堤(沿岸漂砂の上手側の防波堤)のかぶりが大きすぎるために、主防波堤と

受堤(下手側の防波堤)の領域で循環流が発生して主防波堤の先端や港口付近に砂

が堆積するケース

パターン C:港内静穏度の改善を目的として当初の港口の沖合に沖防波堤(島堤)を整備したた

めに、島堤の背後の静穏域や港内に砂が堆積するケース

パターン D:漁港が河道内または河口に隣接するため、砂が港内に堆積するケース

パターン E:水深が浅いなどの理由で掘削した航路へ砂が堆砂するケース

図 III-5 想定される埋没パターン

Page 22: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

3.3 対策

航路・

ズムから

値シミュ

検討結

やすさ、

定します

【解 説】

(1)対策

分析され

ただし、前

となり、本調

要因別の対

タイプⅠ:

タイプⅡ:

タイプⅢ:

タイプⅣ:

タイプⅠ

ように制御

タイ

タイ

【基本的

策案の検討

泊地埋没に

ら漂砂移動を

ュレーション

結果を踏まえ

近隣への影

す。

策案の考え方

れた埋没要因

前述のパター

調査で対象に

対策工(構造

(間口縮小タ

(循環流対策

(島堤接続タ

(防波堤延伸

Ⅰ~Ⅳの対策

御する対策工

イプⅠ

プⅢ

的考え方】

に対する効

を起こす流

ンにより検

え、LCC

影響等)を

因を発生させ

ンD(河川か

にしている対

造物)は以下

タイプ) :埋

策タイプ):漂

タイプ) :

伸タイプ):流

策工は、波に

工法であり、流

効果的な対策

流れを制御す

検討します。

やその他の

を総合的に評

せないような

からの流入)

対策では対応

のようになる

埋没の原因

漂砂の流入を

島堤と陸側の

流砂の流入を

III-6 対策

より発生す

流れを制御す

-18-

策の検討に

するような

の項目(漁

評価し、対

な対策を行う

)に関しては

応できない。

る。

となる漂砂の

をもたらす循

の防波堤を接

を防ぐために

策工(構造物

る循環流な

する対策が効

タイ

タイ

に際しては、

な対策工法を

漁港利用のし

対象となる漁

ことで、堆砂

は、河川から

そのため、本

の流入を防ぐ

循環流を遮断

接続し、島堤背

に沖側に防波

物)の基本タ

どの流れを制

効果的と考え

イプⅡ

イプⅣ

、推定され

を選定し、

しやすさ、

漁港に最適

砂量を少なく

らの排出土量

本ガイドライ

ぐために、流

断する対策

背後の静穏域

波堤を延伸す

イプ

制御して、港

えられる場合

れた埋没メカ

その効果を

維持管理の

適な対策案を

くできると考

量を削減する

インでは対象

流入口を狭く

域への漂砂の流

する対策

港内に漂砂が

合に適用可能

カニ

を数

のし

を選

考えられる。

ることが必要

象としない。

くする対策

流入を防ぐ対

が流入しない

能である。流

対策

Page 23: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

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れを制御できる工法としては、このほかに潜堤がある。沖合に潜堤を設置することにより、水位を上昇

させ、岸向きの流れを発生させることで、漂砂を制御することが期待できる。

タイプⅤ:(潜堤タイプ):沖合に潜堤を設置するこ

とにより、水位を上昇させ、岸向きの

流れを発生させることで、漂砂を制御

する

図 III-7 新たな対策工法の提案:潜堤設置

また、流況を変化させる工法としては、港内の水位を高くし、港外に排出する工法も考えられる。具

体的には、潜堤などにより背後の水位を上昇させ、防波堤に通水口などを設置することにより、港内か

ら港外の流れを発生させる方法などがある。その際、港口を絞るなどの港形を工夫するとさらに効果的

である。ただし、港内に水を取り込む際に、漂砂も同時に港内に輸送されることが考えられ、この対策

が必要になる。

実際に、海水交流のための施設では、砂が流入・堆積し、問題になっている漁港も見受けられるので、

工法の採用には、この点を留意する必要がある。

タイプⅥ:(海水交換型):港外に潜堤等を設置する

とともに海水交換のための通水口を設

け、港内外の水位差によって港内流動

を制御する

図 III-8 新たな対策工の提案:海水交換型

なお、アンケートの結果を見ると、漂砂量の多い漁港では、外郭施設を変更する対策だけでは十分な

効果が得られない事例も多い。このような漁港では、防波堤等の構造物の設置に加え、部分的な浚渫を

行うような対策の組合せによる工法の実効性が高いと考えられる。こうした構造物と浚渫の組み合わせ

案の効果と経済性を評価するためには、LCC などの観点での検討が求められる。

表 III-1 対策案比較例イメージ

対策案 対策前(堆積量) 対策後(堆積量) 備 考 防砂堤 ○○m3/年 ○m3/年 100m 延伸 潜堤 △m3/年 延長 30m 浚渫 □m3/年 浚渫 Xm3/年

防砂堤+浚渫 ▽m3/年 50m 延伸+浚渫 Ym3/年

タイプⅤ

タイプⅥ

循環流を抑制

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(2)対策効果の算定法(数値シミュレーション手法)

浮遊砂を考慮した数値シミュレーション手法を用いて、対策の有無による効果の検証を行う。数値シ

ミュレーションモデルには様々な手法があるが、 浮遊砂と掃流砂を考慮した海浜変形予測モデルを用

いることが望ましい。この数値モデルは、従来予測が困難であった浮遊砂輸送による航路・泊地におけ

る砂の堆積を高精度に計算することが可能である。この他、海浜流による掃流砂を評価するモデル等も

あるので、漂砂のメカニズム、堆積の再現性を検証した評価モデルを選定する。

はじめに、現況港形における航路・泊地の埋没状況の再現計算を行い、各モデル地区における漂砂メ

カニズムを明らかにする。次に推定した埋没メカニズムに対する対策を立案し、漂砂対策の効果を確認

する予測計算を実施する。

表 III-2 漂砂の数値シミュレーション手法の概要

海岸変化モデル 3 次元海浜変形モデル

汀線変化モデル 等深線変化モデル 長期予測モデル 短期予測モデル

目的 長期的・広範囲な汀線変化予測

長期的・広範囲な平面地形変化予測

中・長期的な構造物近傍海浜の平面地形変化予測

短期的な構造物近傍海浜の平面地形変化予測

適用範囲 ~数十年、~数十 km ~10 年、~10km 1~5年、~数 km 一時化~1年、 ~数 km

対象砂移動 沿岸漂砂考慮 岸沖漂砂考慮せず

沿岸漂砂考慮 (岸沖分布考慮) 岸沖漂砂考慮せず

沿岸漂砂考慮 岸沖漂砂考慮せず

沿岸漂砂考慮 岸沖漂砂考慮

波浪場の計算 エネルギー平衡方程式等

エネルギー平衡方程式等

エネルギー平衡方程式等

ブシネクス方程式等

海兵流の計算 計算なし 計算なし(簡便法で評価する場合もある)

平面 2次元モデル

平面 2次元モデル

漂砂量の計算 全沿岸漂砂量式 全沿岸漂砂量 ・海兵流による漂砂のみ考慮(掃流砂)

※浮遊砂の評価には別のモデルを組み合わせる

・時々刻々の流れと海浜流による漂砂

・準3次元非平衡モデルで浮遊砂と掃流砂を評価

特徴 ・計算時間が短い ・広範囲かつ長期間

の予測が可能

・計算時間が比較的短い

・10 年間程度の長期予測が可能

・計算時間が比較的長い

・構造物近傍の比較的短期間の地形変化予測に適用

・計算時間が膨大 ・高波浪時の地形変化も計算可能

問題点 ・岸沖方向の砂移動を考慮できない

・岸沖方向の砂移動を考慮できない

・縦断地形変化を参考できない

・境界条件の設定やパラメータの同定がやや難しい

・計算時間が長く実用上の制約がある

・前浜の地形変化の計算精度に課題がある

出典:「海岸施設設計便覧(2000 年版)」より要約・加筆

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(3)構造物による対策、浚渫、構造物と浚渫の併用

埋没対策として以下の方策が考えられる。各漁港の実態に即して、漂砂メカニズムの実態、漁港の利

便性、LCC の観点等から経済的かつ効果的な方法を選定する。

① 構造物による対策

漂砂による砂の侵入を防ぐため、防砂堤や突堤等の構造物を設置する対策である。構造物の位置や

形状等は数値シミュレーションによってあらかじめ予測し、最適な港形を検討する。工費は割高にな

るが、長期的な効果が期待できる。

② 浚渫による対策

高波浪等によって埋没した航路や泊地を、状況に応じて浚渫する。砂浜域に位置する漁港では、毎

年のように浚渫することが多く、永続的に浚渫し続ける必要がある。

③ 構造物と浚渫の併用

防砂堤や突堤等の構造物を設置して漂砂量を軽減するとともに、一部分に溜った堆砂の浚渫を継続

する対策である。対策工だけでは不十分な場合や、構造物の工費が莫大になると想定される場合に、

浚渫と併用することで、効果的かつ経済的な対策となる。

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3.4 最適な対策の考え方

航路・泊地埋没に関する対策を立案する際には、経済性、施工性などのほか、漁港の利用(静穏度な

ど)、維持管理の容易さ、近隣への影響、地域特性などの項目を考慮する必要がある。

(1)LCC の検討

数値シミュレーションの結果に基づき、選定された対策案の LCC(ライフサイクルコスト)を比較

検討する。LCC とは、構造物の計画・設計・施工から、その構造物の維持管理、最終的な解体・廃棄ま

でに要する費用の総額である。ライフサイクルコストは、イニシャルコスト(建設費)とランニングコ

ストに大きく分けられ、後者は、保全費、改修・更新費などの維持管理に要する費用が大部分を占める。

表 III-3 対策案 LCC 比較例イメージ

対策案 建設費 維持費(50 年) その他費用 LCC 防砂堤 ○○千円 ○○千円 ○○千円 A 千円 潜堤 △△千円 △△千円 △△千円 B 千円 浚渫 - □□千円 □□千円 C 千円

防砂堤+浚渫 ▽▽千円 ▽▽千円 ▽▽千円 D 千円

注)維持費には浚渫費用、維持管理費用(建設費×4%/年)を含む

(2)LCC の算定法

数値シミュレーション結果から、複数の効果的な埋没対策候補案が想定されるとき、最適と考えられ

る案を特定する選定基準が求められる。最適案を選定するには、LCC(ライフサイクルコスト)の考え

方に基づき、建設コスト(イニシャルコスト)及び維持コスト(ランニングコスト)を考慮し、経済性

の高い工法を選定する。

ここでは一例として、構造物(防波堤や潜堤の築堤)と浚渫(航路やサンドポケット浚渫)の組み合

わせの場合の LCC イメージを示す。

① 建設コスト(イニシャルコスト)の考え方

防波堤、防砂堤、潜堤などの構造物の初期建設コストをイニシャルコストとする。経年的に順次築堤

する計画の場合には、建設予定年に逐次コストを加算する。

② 維持コスト(ランニングコスト)の考え方

埋没対策の構造物の維持コストには老朽化対策等の費用を定期的に見込む。堤体のほかに消波工等の

機能維持のための費用も求められる。航路、泊地、サンドポケットなどの定期的な浚渫はランニング

コストの一環として、実施年にコストを加算する。

③ LCC の評価手法

防波堤を築堤した対策実施時費用(イニシャルコスト)に、堤体の維持管理や浚渫の継続実施費用(ラ

ンニングコスト)を逐次加算し、50 年程度の長期的な視点で最終的な費用を積算する。この長期的な

総費用を基に、費用に対する対策効果が最も期待できる手法を選定する。

Page 27: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

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表 III-4 各対策工法の LCC 算定結果イメージ

時期 対策内容 対策コスト(百万円)

評価 合計

初回 防砂堤①築堤+初期浚渫 150 150

10 年後 防砂堤管理+航路浚渫 75 225

20 年後 防砂堤管理+航路浚渫 75 300

30 年後 防砂堤管理+航路浚渫 75 375

40 年後 防砂堤管理+航路浚渫 75 450

50 年後 防砂堤管理+航路浚渫 - (450)

初回 防砂堤②築堤+サンドポケット浚渫 250 250

10 年後 防砂堤管理+航路・サンドポケット浚渫 37.5 287.5

20 年後 防砂堤管理+航路・サンドポケット浚渫 37.5 325

30 年後 防砂堤管理+航路・サンドポケット浚渫 37.5 362.5

40 年後 防砂堤管理+航路・サンドポケット浚渫 37.5 400

50 年後 防砂堤管理+航路・サンドポケット浚渫 - (400)

初回 防砂堤①及び潜堤築堤+初期浚渫 300 300

×

10 年後 防砂堤管理+航路浚渫 50 350

20 年後 防砂堤管理+航路浚渫 50 400

30 年後 防砂堤管理+航路浚渫 50 450

40 年後 防砂堤管理+航路浚渫 50 500

50 年後 防砂堤管理+航路浚渫 - -

図 III-9 LCC の算定イメージ

500

400

300

200

100

00 10 20 30 40 50 60

経過年数(年)

コス

ト(百

万円

シナリオ1

シナリオ2

シナリオ3

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(3)対策案の選定

LCC の観点を踏まえ、各対策案のなかで最適と考えられる案を選定する。最適案の選定では、漁港

の堆砂を効果的に制御できる対策法のうち、建設コスト及び維持コストを抑制することに留意するとと

もに、漁港利用のしやすさ、維持管理のしやすさ、工法の信頼性、港内の静穏度、自然環境への影響な

ど考慮し総合的に評価する。

表 III-5 対策案総合評価イメージ

評価項目 シナリオ1 シナリオ2 シナリオ3

概要

対策案 防砂堤①築堤+初期浚渫 防砂堤②築堤+サンドポケット 防砂堤①+潜堤+初期浚渫

対策後堆積量 6,000m3/年 1,500m3/年 4,000m3/年

LCC(50 年後) 450 百万円 400 百万円 500 百万円

漁港利用 △ ○ △

維持管理 ○ △ △

工法の信頼性 ○ ○ ○

港内静穏度 ○ ○ △

近隣海岸への影響 △ △ ○

自然環境への配慮 環境影響なし 環境影響なし 環境影響なし

総合評価 2 1 3

○漁港利用

漁港を利用する漁業者等の関係者の利便性を考慮する。関係者へのヒアリング等により意見・

要望等を整理した上で、各対策案を想定した漁港の利用しやすさを検討する。

○維持管理

対策工の維持管理・改修や浚渫を継続した場合の維持管理策を検討し、長期的な視点で効果を

維持できるかを検討する。LCC を指標として経済性をチェックするとともに、維持管理の体制

や要員等の計画案を検討し、維持管理の主体者が検討すべき内容(留意点、モニタリング項目等)

について予め調整する。

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○工法の信頼性

対策工法として検討する案の工法の信頼性を検討する。防砂堤等の基本的な構造の安定性検討

の他、新たな工法を採用する際には、有識者へのヒアリングや先進事例の状況等を調査し、工法

の信頼性を検討する。

○港内静穏度

港内静穏度の検討は漁港利用に関する評価項目の一つであるが、漁港の機能を十分に発揮するため

に重要な項目である。30 年確率波や出漁限界波等の条件において港内で所要の静穏度が確保できる

かを検討する。

○近隣海岸への影響

防砂堤等を設置する案では、海岸の漂砂メカニズムに変化を及ぼし、漁港周辺の汀線変化等を引き

起こすことも想定される。沿岸域の総合的土砂管理の視点で、対象漁港を含む海岸全域の漂砂・環境

への影響を検討する。

○自然環境への配慮

漁港周辺の漂砂機構を改変することで、周辺の砂浜を生息域とする動植物の生息・生育環境が影響

を受ける可能性が想定される。ウミガメの産卵場であったり、貴重な植物の群落がみられるような海

岸では、漂砂の変化がこうした生物に及ぼす影響を評価した上で、対策案を選定することが求められ

る。

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-26-

3.5 モニタリング

航路・泊地埋没の対策の実施段階では、想定した対策の効果や近隣への影響など

について、工事の進捗に合わせて計画的なモニタリングを行う必要があります。

モニタリング結果は対策工法の効果の確認や見直しの基礎資料となるため、状況

に応じて必要な調査を追加することが求められます。

【解 説】

(1)モニタリングの必要性

当初想定したような埋没対策の効果が得られているのかを経過観察するため、対策工事の進捗に応じ

て、定期的なモニタリングを実施することが必要である。

(2)モニタリング方法

対策工事期間中は段階ごとに周辺の深浅測量を行い、堆砂・侵食の変化傾向を把握し、必要に応じ、

流況などの調査を実施する。さらに、工事完了後数年は年 1 回程度の深浅測量を行い、その後の安定期

には、定期的な簡易測深(魚探による測深、レッド測深等)を年 1 回程度実施することが望ましい。特

に、高波浪等のイベント直後は漂砂の移動が著しいので、簡易測深などで埋没状況を把握すると良い。

【基本的考え方】

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-27-

3.6 順応的管理(PDCA サイクル)

航路・泊地埋没対策では、あらかじめ想定した条件が変化したり、機能が維持さ

れない状況や当初想定しない環境変化などが生じる可能性があります。

自然条件には不確実性があるため、当初の予測外の状況への対処をあらかじめ管

理システムに組み込んでおくことが重要になり、順応的な管理をすることが必要に

なります。

【解 説】

(1)順応的管理の必要性

航路・泊地埋没対策では、自然環境の変動等によって、あらかじめ想定した条件や機能が維持されな

い状況や、当初想定しない環境応答が生じる。堆砂・侵食による海底地形形状についても同様であり、

科学的に解明されていない仕組みや反応、関連性がある。そのため、事業による環境の変化に伴って、

当初の想定に無かった変化・変動が生じる可能性もある。

こうした自然環境下での応答を考慮した管理手法の考え方に基づき、埋没対策は完成形として定める

のではなく、基本形状として位置付ける。同時に、侵食や堆積の状況や機能の発現状況をモニタリング

しながら、適切な維持管理を施す「順応的管理」の実行が重要となる。

【順応的管理とは】

順応的管理とは、状態の変化を観測して、その変化に迅速に対応することで、不確実性に順

応的に対処しようとする管理の考え方である(水産総合研究センター,2006 年)。

出典:『我が国における総合的な水産資源・漁業の管理のあり方(最終報告)』(2009 年 3 月) 独立行政法人水産総合研究センター

本検討においても、地域の実態に即した段階的な施工とし、自然環境の変動をモニタリングによっ

て検証しながら柔軟に対応する順応的管理による施工が必要である。管理手法としては、インパク

ト・レスポンスフローを作成し、物理的変化や環境条件の変化に応じて管理手法を改善していく手法

である。

【基本的考え方】

Page 32: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

出典

(2)管理

モニタリ

合には、よ

を検証しつ

【順応的

典:「第 1 回海洋

理手法

リングの結果

り効果的な

つつ、より良

的管理】

順応

洋・沿岸域にお

果から、想定外

対策に向けて

い対策につ

応的管理の実

ける水産環境整

外の要因等に

て、必要に応

なげるPDC

図 III-

Action

修正

-28-

実施手順例(

整備のあり方検

により対策の

応じ調査を行

CAサイクル

-10 PDCA サ

Plan

計画

Check

評価

(漁場造成の

検討会資料(瀬

の効果が十分

行い、修正案

ルのもとに運

サイクル

Do

実行

事例)

戸委員提出資料

分に得られて

案について検

運用する。

料)」(平成 21

ていないと考

検討する。こ

年 6 月)

考えられる場

こうして効果

Page 33: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

-29-

第IV章 対策の検討事例

4.1 LCC を考慮した対策の検討事例

航路・泊地埋没問題では、対象漁港の特徴を踏まえて、第Ⅲ章に示した手順と視

点に従って対策の検討を進めます。ここでは、漁港管理者が今後の対策を考える上

での参考として、具体的な検討事例を示します。

【解 説】

(1)漁港概要

静内漁港は、北海道静内郡に位置する第一種漁港である(図 IV-1 参照)。

図 IV-1 静内漁港の外郭施設の整備履歴(概略)

(2)波浪特性

様似の波浪観測点(水深 31m)で取得された、2002 年 8 月~2012 年 8 月までの観測結果を基に、波高

波向別頻度及び波向別エネルギー頻度を算出したものを図 IV-2 に示す。

図 IV-2 波高別波向頻度図とエネルギー頻度図

(様似での観測:2002 年 8 月~2012 年 8 月)

【基本的考え方】

N

静内漁港

Page 34: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

-30-

(3)沿岸特性

静内漁港周辺における汀線位置の推移を図 IV-3 に示す。

・ 静内漁港右岸側では、1988 年から 2008 年にかけて汀線が前進していた。漁港により形成された波

の遮蔽域に砂が堆積したと考えられる。

・ 一方左岸側では、1947 年から 1999 年にかけて汀線が一時増加したが、その後 1999 年から 2008 年

にかけて再び後退した。1999 年以降は南防波堤の延伸が完了したことなどから、静内漁港右岸側か

ら左岸側への土砂供給量が減少したためと推察される。

・ 図 IV-3 静内漁港周辺の航空写真と汀線変化の把握

(4)埋没特性の把握

① 漁港における浚渫の実施状況

静内漁港における浚渫の実施状況について、浚渫量の経年変化を図 IV-4 に示す。

・ 静内漁港では、基本港形の完成までの期間と、南防波堤延伸の期間の浚渫量が多くなっていた。

・ 浚渫は航路・泊地の全域で実施されてきているが、特に浚渫頻度が大きいのは港口周辺であった。

・ 南防波堤の延伸完了後、航路・泊地の浚渫量は微増傾向にあった。航路・泊地における堆積量が浚

渫量を上回っていることから、必要水深の保持が困難となっていると考えられる。

図 IV-4 浚渫量・浚渫費の経年変化

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

S54

S55S56

S57

S58

S59S60

S61

S62S63 H1 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H1

0H11H12

H13

H14

H15H16

H17

H18H19

H20

H21

H22H23

H24

浚渫量

(m^3)

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

160,000

浚渫費

(千円)

浚渫量(m3)

浚渫費(千円)

南防波堤延伸基本港形完成

Page 35: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

-31-

② 漁港周辺の堆砂状況に関するヒアリング調査

ヒアリング調査で得られた漁港周辺の地形変化の概要を以下に示す。

・夏季には漁港左側から、冬季には漁港右側から波浪が来襲する。

・浚渫後、1週間もたたないうちに埋め戻されている。

・通年で、時化があると埋没する。

・南外防波堤沖合にも浅瀬が形成されているが、原因は把握できていない。

・港口の埋没箇所が特に顕著であり、港内まで砂が入り込んでいる。

・平成 12 年に南防波堤が完成し、その後平成 15 年あたりから浚渫頻度は 3回/年必要と

なっている。以前は毎年 7~8月頃に浚渫すれば問題なかった。

・河川からの土砂流入はあると考えられる。近年砂州が発達し、河口に土砂が堆積して

いる。

③ 地形変化特性

深浅測量等の現地調査結果から得られた静内漁港周辺における地形の経年変化を以下

に示す。

・ 1993 年から 1995 年にかけて、漁港周辺の水域で全体的に水深が浅くなったが、1995

年から 1996 年にかけて、水深が再び全体的に深くなった。1995 年の測量は、静内川

の出水の影響で河口部周辺の水深が浅くなった時期のものであった可能性が考えら

れる。

・ 1996 年から 2002 年にかけて、航路水深が 2m 程度浅くなっていたことが確認された。

南防波堤の延伸完了(1999 年)に伴って静穏域が拡大し、航路全域に砂が堆積するよう

になったと推察される。

・ 2002 年から 2012 年にかけて、航路水深は大きく変化しなかった。浚渫により、必要

最低限の水深が保たれてきたためと考えられる。一方で、北防波堤前面における水深

は、2m 程度浅くなっており、静内漁港右岸側は 2002 年以降も堆積傾向にあったと推

察される。

・ 2012 年から 2013 年にかけて、南防波堤延伸部背後や泊地(港口付近)で水深が浅くな

っていたが、航路の港口周辺部では水深が深くなっていた。2012 年は航路全体及び泊

地の港口周辺で浚渫が実施されており、航路の港口周辺部では2重に浚渫が行われた。

Page 36: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

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図 IV-5 静内漁港周辺の地形データの比較(1993 年 8 月~1995 年 8 月)

1993 年 8 月~1995 年 8 月

N

…浚渫実施個所

堆積

侵食

1993 年 8 月 1995 年 8 月

Page 37: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

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④ 埋没機構の推察

静内漁港における埋没機構は以下の通りと推察される。従って、これらを現況再現計算の再

現目標として設定する。

・ 漁港右岸側の静穏域で循環流が発生し、汀線際の砂を航路付近まで運搬する。

・ 航路は波高が小さく、水深が深いために循環流により運搬された砂が堆積する。

図 IV-6 静内漁港における航路・泊地埋没機構

N

静穏域

海浜流の向き

漂砂の移動方向

砂の堆積

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-34-

(5)数値解析

① 計算条件

ⅰ 波浪条件

本検討では、冬季激浪の卓越方向である波向 WSW と、年間を通して波浪が卓越する波向 S

の 2波向を検討対象波浪として選定した。

・ 波高 3.36m、周期 9.4s、波向 S : 様似波浪観測点で 2003~2011 年までの間に観測さ

れた、波向 Sの波浪を対象として算出した年数回波

・ 波高 3.29m、周期 7.6s、波向 WSW : 様似波浪観測点で 2003~2011 年までの間に観測

された、波向 WSW の波浪を対象として算出した年数回波

表 IV-1 沖波諸元の算出

ⅱ 地形条件

計算に用いた地形データは、H25 年度の深浅測量調査結果を基に作成した。

ⅲ 砂層厚分布

航空写真より露岩の位置を判読し、露岩域では砂層厚がないものとして設定した。

図 IV-7 岩礁位置図

波高 周期 波速汀線との角度

波向16方位 波高 周期

汀線との角度

波向16方位 波速

浅水係数

屈折係数

Kr×Ks

3.73 9.40 14.60 33.0 S 3.36 9.40 30.0 S 13.39 0.92 0.98 0.903.46 7.60 11.85 38.6 WSW 3.29 7.60 37.5 WSW 11.57 0.96 0.99 0.95

様似波浪観測点(水深31m,D.L.基準)沖波諸元

2006 年撮影

岩礁

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-35-

② 現況再現計算結果

再現計算結果を図 IV-8 に示す。波向 S、波向 WSW のいずれのケースについても、漁港右岸側

の静穏域における循環流の発生と、それに伴う航路及び泊地での砂の堆積が計算で再現された。

波向 WSW の場合のほうが、より沖側に堆積する傾向にあった。

図 IV-8 計算結果(波向 WSW、上:地形変化、下:波高分布)

堆積

侵食

Page 40: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

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(6)対策工の効果検証

① 対策工の設定

現況再現結果より、航路・泊地の埋没を軽減するためには、主防波堤の遮蔽域で生じる循環

流を抑制することや、漁港右岸側の海浜での浚渫により循環流に伴って港口に運搬される漂砂

量を減少させることが有効と考えられた。ここでは対策工として、以下の 4ケースを検討した。

対策案 1:既設防砂堤の延伸(L=205m)

対策案 2:既設防砂堤の延伸(L=205m)+漁港右岸側の浚渫(2.2 万 m3)

対策案 3:防砂堤の新設(L=175m)

対策案 4:防砂堤の新設(L=175m) +漁港右岸側の浚渫(2.2 万 m3)

図 IV-9 対策港形案

② 対策案の評価

各対策案における航路・泊地埋没特性の概要を以下に示す。

対策案 1:漁港右岸側の防砂突堤を延伸した対策案 1 の場合、外部からの漂砂の侵入を防ぐ

ことができたが、防砂突堤と主防波堤の内部水域で循環流が発生し、汀線際の土

砂が航路・港口に運搬されていた。

対策案 2:漁港右岸側の防砂突堤を延伸し、漁港右岸側の汀線部周辺を浚渫した対策案 2 の

場合、外部からの漂砂の侵入と、汀線から航路・港口までの土砂の運搬を防ぐこ

とができた。漁港右岸側の浚渫域に主な堆積域が見られた。

対策案3:漁港右岸側の既設防砂堤の手前(漁港側)に潜堤付防砂堤を新設する対策案3の場合、

潜堤の効果により流れが既設防砂堤と新設防砂堤の間に向かうことで、防砂堤間

で堆砂が生じた。外部から航路・港口への土砂の運搬が緩和された。

対策案 1 対策案 2

対策案 3対策案 4

Page 41: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

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対策案 4:漁港右岸側の既設防砂堤の手前(漁港側)に潜堤付防砂堤を新設し、汀線部周辺を浚

渫した対策案 4の場合、外部から航路・港口への土砂の運搬や、汀線部から航路・

港口への土砂の運搬が緩和された。

最も効果があると期待できる対策案 2の解析結果を図 IV-10 に示す。

図 IV-10 対策案 2の地形変化量および主要堆積位置

③ 対策効果に関する考察

予測計算結果より、年間土砂堆積量を概算することで、対策効果を評価した。年間土砂堆積

量は、以下の式により算出した。ここで「一時化における土砂堆積量」は、各水域内で土砂が

堆積した箇所における堆積量の総和であり、各水域での侵食量を含まない値であり、以下の式

で算出した。最も効果が大きかったのは対策案 2の場合であり、土砂堆積量は現況の 1/20 程度

まで減少した。

年間土砂堆積量

= 5.0×( 一時化における土砂堆積量(波向 S) +一時化における土砂堆積量(波向 WSW))

図 IV-11 年間土砂堆積量の比較(航路内水域での概算値)

0

5000

10000

15000

20000

25000

現況 対策1 対策2 対策3 対策4

年間

土砂

堆積

量(m

^3)

水域3

水域2

水域1

23250

6162

1513

10541

3616

堆積

侵食

…主要堆積位置

波向 WSW対策案 2

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④ ポケットの維持浚渫に関する検討

サンドポケットの実施を想定する対策案 2については、継続した効果を発揮するための維持

浚渫が必要である。地形変化予測結果(図 IV-10)より、サンドポケットの維持浚渫は、主要

堆積箇所を中心に実施するのが効率的であると考えられる。

⑤ 維持浚渫量の評価

維持浚渫量を見積もるため、現況、対策 2、対策 4の場合の航路及びサンドポケットの主要堆

積範囲内における年間土砂堆積量(概算値)を算出した(図 IV-12)。

○ 対策 2 の場合、サンドポケットの主要堆積範囲内での堆積量は 2 万 m3程であった。堆積量

は、現況港形の場合に航路に堆積する量の 5/6 程度であることから、維持浚渫量についても、

現在の航路の維持浚渫量の 5/6 程度を要すると推測される。

○ 対策 4 の場合、サンドポケットの主要堆積範囲内での堆積量は 1 万 m3程であり、現況港形

の場合の航路における堆積量の半分程度であった。従って維持浚渫量としては、現在の航

路の維持浚渫量の 1/2 程度を要すると推測される。

図 IV-12 年間土砂堆積量の比較(航路水域及びポケット浚渫位置での概算値)

⑥ LCC の評価

各案の LCC は図 IV-13 のとおりとなり、対策案2が最も経済的である。

図 IV-13 LCC 比較(積算費用の推移)

0

5000

10000

15000

20000

25000

現況 対策2 対策4

年間

土砂

堆積

量(m

^3)

航路全体

ポケット浚渫位置

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-39-

⑦ 総合評価に基づく最適な対策案の選定

漁港利用のしやすさ、維持管理のしやすさ、工法の信頼性、港内の静穏度、近隣海岸への

影響などを総合的に評価し、対策案2(防砂堤+ポケット浚渫)を選定する。

表 IV-2 総合評価

評価項目 対策案1 対策案2 対策案3 対策案4

概要

対策後堆積量 6,162m3/年 1,513m3/年 10,541m3/年 3,616m3/年

LCC(50 年後)

積算費用 4,040 百万円 3,635 百万円 5,149 百万円 3,715 百万円

漁港利用

砂の堆積量が比較的

多く、港内利用が制

限される。

砂の堆積量が比較的

少なく、港内全域を利

用し易い。

砂の堆積量が比較的

多く、港内利用が制限

される。

砂の堆積量が比較的

少なく、港内全域を利

用し易い。

維持管理 防砂堤の維持のみで

あり管理し易い。

防砂堤に加え、浚渫が

必要。

防砂堤に加え、潜堤

の管理が必要。

防砂堤に加え、潜堤の

管理と浚渫が必要。

工法の信頼性 一般に防砂堤の工法

は信頼性が高い。

防砂堤・浚渫の工法は

信頼性が高い。

防砂堤・潜堤の工法

は信頼性が高い。

防砂堤・潜堤・浚渫の

工法は信頼性が高

い。

港内静穏度 防砂堤によって静穏

度が確保される。

防砂堤によって静穏度

が確保される。

防砂堤が短いので港

内の一部で静穏度が

低い。

防砂堤が短いので港

内の一部で静穏度が

低い。

近隣海岸への

影響

防砂堤によって周辺

の流動・波浪の変化

が想定される。

防砂堤によって周辺の

流動・波浪の変化が想

定される。

港内の一部改変であ

るので周辺への影響

は限定的である。

港内の一部改変であ

るので周辺への影響

は限定的である。

自然環境への

配慮 環境影響なし。 環境影響なし。 環境影響なし。 環境影響なし。

総合評価 3 1 4 2

Page 44: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

-40-

4.2 対策工法の検討事例

今後の航路・泊地埋没対策としては、防波堤延伸等の構造物による対策の他、定

期的な維持浚渫、構造物と浚渫の組合せといった工法が想定されます。

対策工法の選定の参考になるように、漁港の埋没メカニズムを踏まえ、利用者の

利便性や LCC の観点から見た経済性を考慮し、これら3タイプの対策工法が適し

ていると考えられる事例をそれぞれ整理しました。

今後の航路・泊地埋没対策を検討する上で、防波堤延伸等の構造物による対策の他、定期的な

維持浚渫、構造物による対策と浚渫の組合せといった対策が想定される。これまでの埋没調査結

果を基に、以下に示す3種の対策タイプ(図 III-1 参照)の対策案が適していると考えられるモ

デルケースを選定した。

タイプ1:構造物の建設による対策が望ましい漁港(防波堤等の設置費用が経年的な浚渫費用より安価)

→百目木漁港(青森県)※陸奥湾

タイプ2:浚渫の継続が望ましい漁港(対策工の建設費用より維持浚渫費用が安価)

→四方漁港(富山県)※日本海

タイプ3:構造物の建設と浚渫の組合わせによる対策が望ましい漁港(建設費と浚渫費が経年で

変化:10 年では維持浚渫費が安価、50 年では建設費が安価)

→荻伏漁港(北海道)※太平洋

表 IV-3 漁港の対策タイプの検討事例

※赤字は、浚渫費用と対策工費用のうち、より安価なもの。ただし、浚渫費用と対策費用がほぼ

同額の場合は、対策案が優位と考えた。

※本検討では対策工の有無のみを比較評価しているが、今後の検討では、構造物+浚渫の組合せ

案の検討が必要となる。

10年後 50年後 10年後 50年後 10年後 50年後 10年後 50年後

2000 250

タイプ2に該当 タイプ3に該当 タイプ2に該当 タイプ1に該当

- 100% 120,000 600,000 525,000 625,000G漁港 4,000 12,000 - - - - - -

500,000 1,890,000 2,250,000 6000 300- - - - 100% 100,000F漁港 2,060 10,000 - - -

1,000,000 945,000 1,125,000 6000 150- - - - 100% 200,000E漁港 6,000 20,000 - - -

425,000 2,520,000 3,000,000 6000 400- - - - 100% 85,000D漁港 1,650 8,500 - - -

2,100,000 3,801,000 4,605,000 6000 6001,288,200 1,641,000 6000 200 95% 420,000C漁港 9,000 42,000 80% 420,000 2,100,000

4,000,000 840,000 1,000,000 8000 100- - - - 100% 800,000B漁港 37,000 80,000 - - -

2,000,000 8000 200- - 100% 80,000 400,000 1,680,000A漁港 1,827 8,000 - - - - -

浚渫量低減率

対策を実施しない場合の費用=浚渫費用のみ(千円)

対策を実施する場合の費用=工事費+浚渫費用(千円)

外郭施設単価

(千円)

対策工延長(m)

浚渫量低減率

対策を実施しない場合の費用=浚渫費用のみ(千円)

漁港名平均

浚渫量

(m3/年)

平均浚渫費

(千円/年)

対策パターン1(浚渫の継続を想定した対策) 対策パターン2(埋没を完全に抑制する目的の対策)

対策を実施する場合の費用=工事費+浚渫費用(千円)

外郭施設単価

(千円)

対策工

延長(m)

【基本的考え方】

Page 45: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

① 構

(1)漁

百目木

整備が開

問題とな

の時化に

冬季の

沖漂砂が

と比較的

顕著であ

造物による

漁港の概要

木漁港は、青

開始された比

なっており、

に伴う急激な

の激浪方向(

が卓越してお

的浅く、砕波

あり、港口付

る対策の検

青森県上北郡

比較的新しい

平成 21 年度

な堆砂等の問

(波向 W~W

おり、時化時

波帯内に位置

付近は砂が堆

討事例:百

郡横浜町字百

い漁港である

度~23 年度

問題は解決さ

WNW)が汀線

時には沖向き

置しているた

堆積しやすい

図 IV-14

-41-

百目木漁港

百目木に位置

る。本漁港で

には港口及び

れていない

線に対してほ

きに漂砂が運

ために、港口

い環境にある

4 百目木漁

港(青森県)

置する第 1種

は、港口及び

び港内泊地で

ぼ垂直であ

運搬されやすい

周辺におけ

と考えられ

漁港の位置

百目木

種漁港であり

び港内泊地に

で毎年浚渫が

ることから、

い。加えて港

る砂移動が時

る。

木漁港

、平成 10 年

において砂の

が行われたが

、沿岸漂砂よ

港口の水深は

時化時には沖

年度より

の堆積が

が、冬季

よりも岸

は 2~3m

沖向きに

Page 46: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

-42-

(2)漂砂メカニズムの推定

パターン1:波向 W の場合に、西防波堤の遮蔽域で循環流が発生し、汀線付近の土砂が沖方

向に運搬され、港口周辺で堆積する。

パターン2:波向 WNW の場合に、北から南へ向かう流れに伴い土砂が運搬され、港を回り

込むような流れによって港口付近まで土砂が運搬される際、港口付近での水深

が比較的大きいために流速が小さくなり堆積する。

図 IV-15 百目木漁港の漂砂メカニズム

パターン1:波向 W

パターン2:波向 WNW

-3.0m航路

-3.0m泊地

-2.0m泊地

-2.0m泊地

-1

-2-2

-3

-2

-3.0m航路

-3.0m泊地

-2.0m泊地

-2.0m泊地

-1

-2-2

-3

-2

防波堤

遮蔽域

流れの発生

*等深線は H5 年 9 月のもの

*等深線は H5 年 9 月のもの

NN

波向 W

波向 WNW

循環流

汀線付近の土砂移動

港口付近の静穏域にお

ける土砂の振り落とし

Page 47: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

-43-

(3)数値シミュレーションによる対策案の検討

現況の漂砂状況を解析し、港口における堆砂の状況を把握した。流況パターンは漂砂メカニズ

ムで整理したパターンをほぼ再現しており、いずれも港口前面に向う循環流が発達し、港口付近

の水深が大きい水域に砂が堆積する結果が再現されている。

図 IV-16 現況の堆砂状況再現結果

港口での堆砂を防ぐため、漂砂を防ぐ防砂堤を設置した案を検討した。現況港形と比較して港

口付近の循環流の規模が小さくなり、港口へ運搬される漂砂量が抑えられることで、港口での堆

砂量がほぼ解消することが予測された。

図 IV-17 対策工による漂砂抑制効果の予測結果

Erod (m) (meter)

Above 0.90.7 - 0.90.5 - 0.70.4 - 0.50.3 - 0.40.2 - 0.30.1 - 0.2

-0.1 - 0.1-0.2 - -0.1-0.3 - -0.2-0.4 - -0.3-0.5 - -0.4-0.7 - -0.5-0.9 - -0.7

Below -0.9

Erod (m) (meter)

Above 0.90.7 - 0.90.5 - 0.70.4 - 0.50.3 - 0.40.2 - 0.30.1 - 0.2

-0.1 - 0.1-0.2 - -0.1-0.3 - -0.2-0.4 - -0.3-0.5 - -0.4-0.7 - -0.5-0.9 - -0.7

Below -0.9

堆積

侵食

堆積

侵食

Page 48: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

② 浚

(1)漁

四方漁

積が生じ

渫は主に

主要な漂

(2)漂

四方漁

漂砂の捕

渫による対

漁港の概要

漁港は富山湾

じているため

に砂の堆積が

漂砂源の一つ

漂砂メカニズ

漁港周辺にお

捕捉と推察さ

対策の検討

湾内に位置す

めこの箇所で

が顕著な夏季

つであると推

ズムの推定

おける漂砂メ

される。

事例:四方

する第一種漁

で H20 以降毎

季に実施され

推察される。

図 IV-1

メカニズムは

図 IV-19 四

-44-

方漁港(富

漁港である。

毎年 1000m3~

れている。漁

18 四方漁港

は、沖防波堤

四方漁港の漂

四方漁港

富山県)

H18 年に完

~3000m3程度

港は神通川

港の位置

堤を整備した

漂砂メカニズ

成した沖防波

の浚渫が必要

の西に位置し

ことによる背

波堤の背後で

要となってお

しており、神

背後静穏域で

で砂の堆

おり、浚

神通川が

での沿岸

Page 49: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

(3)数

現況の

防波

突堤

れる

このよ

点で考え

用は 389

数値シミュ

の地形変化シ

波堤背後での

と沖防波堤を

と予測された

ように防波堤

えると、対策

9百万円と想

レーション

シミュレーシ

の砂の堆積を

を最短距離で

た。

図 IV-2

堤の延伸が埋

策工費が約 2

想定される。

による対策

ションの結果

図 IV-20 現

を防ぐため、

で繋いだ場合

21 構造物に

埋没対策とし

,047 百万円

LCC の観点か

港口一部閉鎖

-45-

策案の検討

果より、防波

現況の堆砂状

突堤の延伸

合の港形で予

による漂砂抑

して効果的で

円と想定され

から、浚渫の

波堤背後での

状況再現結果

伸と防波堤の

予測シミュレ

抑制効果の予

あると予測

るのに対し、

の継続が経済

の堆砂傾向が

の延伸を対策

レーションの

予測結果

されたが、5

、50 年間に

済的であると

が確認された

策工として提

の結果、堆砂が

50 年間の長期

わたる浚渫

と考えられる

提案した。

が解消さ

期的な視

の継続費

る。

堆積

侵食

堆積

侵食

Page 50: 航路・泊地埋没対策ガイドライン-2-1.4 ガイドラインの位置付け 本ガイドラインは、漂砂により航路・泊地に堆砂が生じ、漁業活動等に支障があ

③ 構

(1)漁

荻伏漁

られてき

失や航路

されてい

接触する

造物と浚渫

漁港の概要

漁港は、北海

きたが、これ

路・泊地の埋

いるものの、

る事故が多発

渫の組合せ

海道浦河郡に

れに伴って沖

埋没等の問題

暫定的な浚

発している現

による対策

に位置する第

沖防波堤の背

題が生じてい

浚渫の繰返し

現状がある。

図 IV-2

-46-

策の検討事

第一種漁港で

背後や漁港の

いる。航路・

しであるため

22 荻伏漁港

事例:荻伏漁

である。平成

右岸側に砂

泊地では毎年

に十分な水深

港の位置

荻伏漁港

漁港(北海

成元年より沖

の堆積が生じ

年 5000m3~8

深が確保され

海道)

防波堤の整備

じ、コンブ漁

8000m3の浚渫

れず、漁船が

備が進め

漁場の消

渫が実施

が地盤と

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(2)漂

冬季

夏季

漂砂メカニズ

:航路及び泊

冬季の W

堤背後に

の深い漁

:漁場の埋没

冬季の S

堤背後ま

ズムの推定

泊地の埋没

W 系波浪来襲

に生じた静穏

漁港の泊地や

系波浪来襲

で運搬され

襲に伴い東向

域で漂砂が堆

航路に押し

襲に伴い西向

、そこに堆積

図 IV-23 荻

-47-

向きの沿岸流

堆積する。汀

こまれること

きの沿岸流

積する。

荻伏漁港の漂

流が発生した

汀線付近の砂

とで、航路

が発生した際

漂砂メカニズ

た際に、外東

砂が東向きの

・泊地の埋没

際に、汀線付

防波堤及び外

の海浜流によ

没が生じる。

付近の砂が外

外南防波

より水深

外東防波

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(3)数値シミュレーションによる対策案の検討

現況の地形変化シミュレーション行い、堆砂の現状を解析した。S 系波浪において西向きの沿

岸流が発生し、これによって外東防波堤背後で砂が堆積する状況が確認された。

図 IV-24 現況の堆砂状況再現結果

沖の防波堤に繋げるように防砂堤を伸ばす対策案の効果を検討した。これにより、港口での

堆砂を抑えることができるものの、航路の沖端での堆砂が想定される結果であった。

図 IV-25 構造物による漂砂抑制効果の予測結果

荻伏漁港では、構造物による埋没抑制の効果が期待できるものの、航路の一部に堆砂が予測

された。そこで、更に防波堤設置案を検討するとともに、構造物と浚渫を組み合わせた対策案

を検討した。この結果、防波堤を延伸して漂砂を抑制するとともに一部を浚渫する案が経済的

であり、堆砂の抑制効果も維持できると評価された。

堆積

侵食

堆積

侵食

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<対策の実施に向けた参考資料>

航路・泊地埋没対策の実施にあたっては、漁港の現状ならびに漂砂メカニズムを

把握します。また、順応的な管理を行うことを考慮しておくことも必要です。

事業にあっては、実際の事業メニューなども踏まえ、事前に構想を立てることが

必要になります。

① 現状把握のための調査の実施

委託調査等により、漁港の現状を把握するためのデータの取得を行う必要がある。

② 埋没対策実施にむけた検討項目

航路・泊地の埋没対策の実施にあたっては、以下の項目に留意する必要がある。

・漁港の現状

・航路・泊地埋没メカニズム

・対策案の効果、経済性

・近隣への影響

・漁業への影響

・漁港の利用

・漁港の静穏度・順応的管理の手法

・その他

③ 事業メニュー

対策工の実施にあたっては、以下の事業の活用が可能である。なお、それぞれの事業毎に要件

があることから、実施要領等を十分に確認する必要がある。

・直轄特定漁港漁場整備事業

・水産流通基盤整備事業

・水産物供給基盤機能保全事業

・漁港施設機能強化事業

・水産生産基盤整備事業

・農山漁村地域整備交付金

・強い水産業づくり交付金 など