新投資法から読むミャンマーの最新投資環境 ·...

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ミャンマー新投資法の施行からみるミャンマーのいま 2013年のミャンマーブームから4年が経過した。民主化へ向けた政権交代、米国の経済制裁の全面解除 などを経て、ミャンマー投資で最大のボトルネックが取り除かれ、投資促進への障害が少しずつ取り払われ ている。電気、水、鉄道、道路、金融など各種インフラは日本の円借款で整備が進められ、先を進むASEAN各 国に一足飛びに追いつくことは難しいが、確実に環境改善への取り組みは進んでいる。 もうひとつ重要なミャンマーの課題は、法整備であった。100年以上前の会社法が現状の投資環境下で 適用されている状況など、過去に実施した日本企業への当行アンケートでは、ミャンマーのリスク要因とし て法律の未整備がトップにあがっていた。安心して投資が行える環境整備に向け、ミャンマー政府は新投資 法制定と会社法改正に取り組んできた。会社法は引き続き改正に向けて議論中であるが(2017年6月現 在)、従来の外国投資法と国民投資法を統合させた新投資法(以下、投資法)は同年4月から運用が開始さ れた。本稿では新投資法について解説したい。 銀行の投資促進の立場からみた新投資法のポイント 投資法は2016年10月に成立した法律で、投資申請の手続きなどを記載した「規則(Rules)」が2017年 3月に制定されたほか、外資規制や投資促進業種などを規定した4つの告示(Notification)が順次発表さ れ、投資法としての枠組みが整備された。 今回の投資法の特徴は、①外資の規制業種の明確化(MIC認可、制限業種、連邦議会承認)、②税務上の 恩典を受けられる業種の特定(投資促進業種)、③地域ごとに税務上の恩典内容に変化をつけたゾーン制、 ④一部手続きの州や管区への権限の移譲、を定めたものだった。 また従来、外資に投資認可を与えるミャンマー投資委員会(MIC)から承認を受けたプロジェクトは、基本50年 (延長あり)の不動産長期リースの権利や税務上の恩典が認められるなどしていたが、今回の新運用により、一 定の手続きを踏めば、MIC認可とは別の手続きとして申請し、内容に不備がなければ、どの企業も長期リースが 認められるようになったほか、奨励業種の内容および投資場所次第で税務恩典内容も変わる形へと変更した。 特に長期リースについては、従来はMIC認可企業でない場合は毎年の更新手続きを求められていた。こ れは常に大家からの立ち退きリスクとの隣り合わせや毎年の料金交渉の発生を意味することにもなり外資 企業には大変不評で、今回のこの点を含む改善により、ミャンマー政府の外資誘致に向けた強い期待を示 すものともいえる。 それでもあいまいな規制 改正点が多かった反面、課題が残ったのは規制業種であった。ミャンマー人あるいはミャンマー法人との合 弁で参入を認める22業種が定められているほか、管轄省の承認が必要な業種も明示された。約200業種とか なりの数にのぼる印象ではあるが、従来では外資による投資が一切認められていなかった業種が、交渉次第 では門戸が開かれるケースも出てくるのではないかと期待している。だが、それぞれの業種のミャンマーでの 規制有無等についてはネガティブリストである程度の判断まではできるが、管轄省の承認要となる業種が残る など「申請してみないとわからない」という当局サイドに判断余地を残した状況も引き続き残っている。 また、新制度下でのMIC許可は、①国家にとって戦略的に重要な事業、②多額の資本集約的な事業(投資 新投資法から読むミャンマーの最新投資環境 みずほ銀行 国際戦略情報部 調査役 小原 綾子 27/29 mizuho global news | 2017 JUL&AUG vol.92

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ミャンマー新投資法の施行からみるミャンマーのいま 2013年のミャンマーブームから4年が経過した。民主化へ向けた政権交代、米国の経済制裁の全面解除などを経て、ミャンマー投資で最大のボトルネックが取り除かれ、投資促進への障害が少しずつ取り払われている。電気、水、鉄道、道路、金融など各種インフラは日本の円借款で整備が進められ、先を進むASEAN各国に一足飛びに追いつくことは難しいが、確実に環境改善への取り組みは進んでいる。 もうひとつ重要なミャンマーの課題は、法整備であった。100年以上前の会社法が現状の投資環境下で適用されている状況など、過去に実施した日本企業への当行アンケートでは、ミャンマーのリスク要因として法律の未整備がトップにあがっていた。安心して投資が行える環境整備に向け、ミャンマー政府は新投資法制定と会社法改正に取り組んできた。会社法は引き続き改正に向けて議論中であるが(2017年6月現在)、従来の外国投資法と国民投資法を統合させた新投資法(以下、投資法)は同年4月から運用が開始された。本稿では新投資法について解説したい。

銀行の投資促進の立場からみた新投資法のポイント 投資法は2016年10月に成立した法律で、投資申請の手続きなどを記載した「規則(Rules)」が2017年3月に制定されたほか、外資規制や投資促進業種などを規定した4つの告示(Notification)が順次発表され、投資法としての枠組みが整備された。 今回の投資法の特徴は、①外資の規制業種の明確化(MIC認可、制限業種、連邦議会承認)、②税務上の恩典を受けられる業種の特定(投資促進業種)、③地域ごとに税務上の恩典内容に変化をつけたゾーン制、④一部手続きの州や管区への権限の移譲、を定めたものだった。 また従来、外資に投資認可を与えるミャンマー投資委員会(MIC)から承認を受けたプロジェクトは、基本50年

(延長あり)の不動産長期リースの権利や税務上の恩典が認められるなどしていたが、今回の新運用により、一定の手続きを踏めば、MIC認可とは別の手続きとして申請し、内容に不備がなければ、どの企業も長期リースが認められるようになったほか、奨励業種の内容および投資場所次第で税務恩典内容も変わる形へと変更した。 特に長期リースについては、従来はMIC認可企業でない場合は毎年の更新手続きを求められていた。これは常に大家からの立ち退きリスクとの隣り合わせや毎年の料金交渉の発生を意味することにもなり外資企業には大変不評で、今回のこの点を含む改善により、ミャンマー政府の外資誘致に向けた強い期待を示すものともいえる。

それでもあいまいな規制 改正点が多かった反面、課題が残ったのは規制業種であった。ミャンマー人あるいはミャンマー法人との合弁で参入を認める22業種が定められているほか、管轄省の承認が必要な業種も明示された。約200業種とかなりの数にのぼる印象ではあるが、従来では外資による投資が一切認められていなかった業種が、交渉次第では門戸が開かれるケースも出てくるのではないかと期待している。だが、それぞれの業種のミャンマーでの規制有無等についてはネガティブリストである程度の判断まではできるが、管轄省の承認要となる業種が残るなど「申請してみないとわからない」という当局サイドに判断余地を残した状況も引き続き残っている。 また、新制度下でのMIC許可は、①国家にとって戦略的に重要な事業、②多額の資本集約的な事業(投資

新投資法から読むミャンマーの最新投資環境みずほ銀行 国際戦略情報部 調査役 小原 綾子

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額1億米ドル以上)、③環境・社会に深刻な影響を与える事業などが対象となる。MICへの申請対象事業となれば通常の投資手続きよりも認可まで十分な申請時間を想定しておく必要がある。また、国家にとって重大な影響を与える事業は連邦議会承認となり、議会に回された場合は事業認可も含め実現のハードルが高くなるほか、MIC以上に手続きで相当な時間がかかってくることが予想される。

今後ミャンマーでも相談が出てくると思われるスキームの実現性 ミャンマーでは小売りと卸売りが一部例外を除き、外資企業にはこれまで認められていなかった。終盤までミャンマー当局内の議論では外資に開放される方向感も示されていたが、最終的には商業省の許可を要する業種に落ち着いた。後退感は否めないが、一切認められていなかった状況から商業省との交渉余地が残った形への着地ともとらえることができ、ミャンマーにとって必要な事業であれば投資の可能性は想定されるのではないかとみている。ただ外資参入に対しては、国内企業の反対も根強い業種でもあり慎重に対応する必要はあろう。 また不動産開発事業はショッピングモール、ホテル、オフィスについては外資100%での実施が可能ともみられている。

改正会社法との関連 会社法では現在、1株でも外国資本があれば外国企業とみなされている。現在議論されている改正会社法は、外国企業の出資が一定割合以下(35%が想定される)であれば内資企業扱いとなる方向で議論が進んでいる。仮に外資企業の参入が認められていなくとも、35%以下での出資であれば外資規制に阻まれている業種であっても参入の余地は残るだろう。 だが本スキームを適用するに際して、事前に管轄省との事前調整を進めたうえで慎重に進めていく必要があろう。現在は、新投資法と現状の会社法での運用であるが、近い将来、「新投資法と改正会社法」の組み合わせへの移行が想定され、当面は投資時期をふまえどちらが自社に適用される法律かを検討しつつ、最適な投資形態を探していく必要がある。

今後、ミャンマー投資をどのようにみるか ミャンマーは現在、投資に関する法律の変遷期であり、わかりにくい状況が続いているが、政府の取り組みをみてきた投資促進の立場としては、確実にミャンマーの投資環境は前進してきており、日本企業にとってもマーケット参入のハードルは下がってきているのは間違いないだろう。 ASEANのなかでも人口が5,100万人で将来も6,000万人台への拡大が予想されているなかで、外資企業の参入は他国と比較し限定的で伸びしろが十分あるマーケットである。ヤクルトやエースコック、キリンビール、一風堂など内需ビジネスをターゲットに参入する動きも最近は徐々に増えてきている。経済制裁解除前のミャンマーブームの際に、一度は検討したものの時期尚早と判断し見送ったケースも含め、最新のミャンマーの現状をふまえて、ビジネスチャンスの有無を検証してみることには意味があると思われる。

最近のミャンマー内需関連の投資の一例

WDI香港子会社を通じて2016年2月にJVを設立すると発表。ヤンゴン市内にレストラン「ハードロックカフェ」をオープンした

ヤクルト本社2016年7月にティラワSEZに工場を建設し、乳酸菌飲料「ヤクルト」を生産すると発表。投資額は約49億円で2018年の生産開始を予定

力の源ホールディングス

2016年7月にシンガポール企業とライセンス契約を締結し、ヤンゴンにてラーメン店「一風堂」を出店

東洋製罐グループ ホールディングス

2016年7月に子会社の東洋製罐がティラワSEZに合弁で飲料向け空缶の製造販売会社を設立

味の素 ティラワSEZに粉末飲料工場を設立(投資額約25億円)し、2018年にも生産販売を開始予定

キリンホールディングス

シンガポールの持ち株会社を通じてミャンマービール大手「マンダレー・ブルワリー」を2017年2月に過半数出資。2015年には最大手のミャンマー・ブルワリーを傘下に収めており、ミャンマー国内シェア約9割を取り込んだ

日本ペイントホールディングス

シンガポール子会社が2017年4月、ヤンゴンに販売会社を設立したと発表。成長が期待されるミャンマーの建設塗料での販売拡大を目指す

第一生命ホールディングス

ミャンマーにおける外資企業への生保市場開放を見据え、駐在員事務所を2017年4月に設立

出所:各社ホームページ等

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作成・みずほ銀行 国際戦略情報部

(2017年7月1日現在)

メキシコみずほ銀行

 iHola!(スペイン語で「こんにちは」)メキシコみずほ銀行よりご挨拶申しあげます。 メキシコは中南米で第2位のGDPを誇り、北米へ隣接する立地の優位性、豊富な自由貿易協定網、安価な人件費を背景として自動車産業を中心に日系企業の進出が続いています。また石油・天然ガス等の資源も豊富で、エネルギー関連分野における民間プロジェクトも注目を集めています。人口は1億2千万を超え増え続けており、今後は内需関連産業への投資も期待されています。 このようなメキシコへの日系企業の新規進出、および進出済み日系企業のメキシコでの事業運営をサポートすべく、2017年3月、〈みずほ〉はメキシコの首都メキシコシティにて、現地法人「Mizuho Bank Me' xico, S.A.」を開業しました。ビジネス街の中心にオフィスを構え、預金・貸出・決済などのフルバンキング業務を実施していきます。 メキシコみずほ銀行は日系企業へ日本的サービスをご提供すべく日本人を多数配置、また営業担当者をエリアごとに配置することでお客さまのより近くできめ細かなサービスをご提供しています。 また、スペイン最大の金融機関サンタンデール銀行メキシコ現地法人や、メキシコ各州政府、コンサルティング会社、当地大学等との業務提携を活用し、さまざまな方面からお客さまへ有益な情報を提供していきます。 メキシコみずほ銀行はお客さまとともに、数多くの問題に対する幅広い解決策を考え、克服し、お客さまがそれぞれの大切なビジネスに集中できる環境づくりの支援をする総合コンサルティング銀行を目指していきます。メキシコ関連のご照会等がございましたら、ぜひお声がけください。今後ともよろしくお願い申しあげます。

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