黄金の国バングラデシュ15 i-News August / September 2011黄金の国バングラデシュ...

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15 i-News August / September 2011 黄金の国バングラデシュ アッサラームアライクム! (ベンガル語でこんにちは、イスラム教徒向けの挨拶) 私は2010年3月末に、青年海外協力隊員として南アジア のバングラデシュに派遣されました。小学校教諭として、首都 ダッカからバスで約7時間のボリシャル市、初等教育訓練機関 (以下PTI)で活動しています。 配属先のPTIとは、教員養成校のようなもので、現役の教師 や新規採用者が1年間研修するところです。敷地内には附属 実験校もあり、元気な小学生たちがたくさんいます。 ここで、バングラデシュの教育事情についてお話します。バング ラデシュでは、1990年に「万人のための教育」宣言に署名を し、以来ドナーの支援を得ながら基礎教育の拡充を図ってきま した。初等教育の純就学率は、2002年に86.7%、2008年に は93.9%まで高めることに成功しました。しかし、就学率は高い 水準を示していますが中途退学率は約50%とも言われていま す。ほとんどの子どもたちが学校に通えるようになったものの、 卒業できる子どもたちはほぼ半数なのです。それはなぜでしょ うか?さまざまな背景がありますが、理由の一つに、「学校の授 業がおもしろくない」ということが挙げられます。バングラデシュ の小学校の授業は、ほとんどが暗記や繰り返し中心で、子ども たちが自分で考えて問題解決をするといったプロセスが皆無に 等しいのです。さらに、個別指導がされることもほとんどなく、授 業はできる子のみで進んでいき、その結果、一度つまずいてし まうとどんどん理解が遅れてしまい学校に行くのが面白くなくな ってしまいます。 PTIでも同じような状況が見られます。難しい方程式を解い て終わり、教科書を読んで暗記して終わり、などで、実践的な 授業をあまり見たことがありません。 私たちJOCVは、このようなバングラデシュでの授業の質を 改善することを目的に、小学校の先生たちに、より現場で使え る実践的な指導法、わかりやすく楽しい授業について伝え、共 に考えるために活動しています。PTIの算数・理科のインストラ クターと共に、操作性のある教具を使った授業を訓練生に紹 介したり、子どもたちがより考えることができるような発問の仕方 を考えたり、教育実習時にアドバイスをしたりしています。附属 実験校の子どもたちにも、隊員が作成した算数ドリルを使って授 業をしています。大変なことも多いですが、ベンガル人たちに助 けられながら活動しています。 世話好きなバングラデシュ人に囲まれての生活は、とても楽 しいです。実は、バングラデシュは、北海道の約2倍の広さに日 本の人口以上の人々が暮らしている、人口密度世界一の国で す。また、人口の約90%がイスラム教徒で、その教えを守って います。1日5回のお祈りや、食事、服装、困っている人がいれ ば助ける等。私が一番印象的だったものは、「良いことがあれば 周りにおすそわけする」ということです。試験に受かったから、子 どもが生まれたから、昇進したから、など、どんな小さなことでも 嬉しいことがあると、ご馳走をみんなに振る舞い共に分かち合い ます。オープンで気さくな人が多いので、初対面で外国人の私 にも、「家に寄っていきなさい。」「お茶飲んで行きなさい。」「ご 飯食べて行きなさい。」と、猛烈な招待の嵐がやってきます。ひ どい時には一日に何軒ものハシゴをしたり…。断る勇気も必要 なのです。 都市部は人ばかりでなくリキシャやCNGと呼ばれる乗り物な ど、何もかもがあふれ返っていますが、私の大好きな農村部の 景色は本当に美しいです。田畑、川、緑の木々に囲まれて本 当にジブリの世界!トトロが出てきそうです。稲刈りの季節になる と、辺り一面夕陽に照らされた稲穂が黄金色に輝き、「黄金の ベンガル」という言葉にも納得です。農村部ではインフラ整備が 行き届いておらず生活面は不便なところも多いですが、みな生 き生きと、自然に寄り添って生活しています。 都市部の喧騒、農村部の自然、あふれる人や物、実に色鮮 やかなバングラデシュ。ここでの私のボランティア生活も、残り約 8カ月です。バングラデシュの子どもたちが、「学校が大好き!」 と言えるような楽しい学校・授業づくりのお手伝いを今後も頑張 っていきます。 檜垣香織隊員 派遣国:バングラデシュ、職種:小学校教諭 派遣期間:2010年3月~2012年3月 檜垣香織

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Page 1: 黄金の国バングラデシュ15 i-News August / September 2011黄金の国バングラデシュ アッサラームアライクム! (ベンガル語でこんにちは、イスラム教徒向けの挨拶)

15 i-News August / September 2011

黄金の国バングラデシュ

 アッサラームアライクム!

(ベンガル語でこんにちは、イスラム教徒向けの挨拶)

私は2010年3月末に、青年海外協力隊員として南アジア

のバングラデシュに派遣されました。小学校教諭として、首都

ダッカからバスで約7時間のボリシャル市、初等教育訓練機関

(以下PTI)で活動しています。

配属先のPTIとは、教員養成校のようなもので、現役の教師

や新規採用者が1年間研修するところです。敷地内には附属

実験校もあり、元気な小学生たちがたくさんいます。

ここで、バングラデシュの教育事情についてお話します。バング

ラデシュでは、1990年に「万人のための教育」宣言に署名を

し、以来ドナーの支援を得ながら基礎教育の拡充を図ってきま

した。初等教育の純就学率は、2002年に86.7%、2008年に

は93.9%まで高めることに成功しました。しかし、就学率は高い

水準を示していますが中途退学率は約50%とも言われていま

す。ほとんどの子どもたちが学校に通えるようになったものの、

卒業できる子どもたちはほぼ半数なのです。それはなぜでしょ

うか?さまざまな背景がありますが、理由の一つに、「学校の授

業がおもしろくない」ということが挙げられます。バングラデシュ

の小学校の授業は、ほとんどが暗記や繰り返し中心で、子ども

たちが自分で考えて問題解決をするといったプロセスが皆無に

等しいのです。さらに、個別指導がされることもほとんどなく、授

業はできる子のみで進んでいき、その結果、一度つまずいてし

まうとどんどん理解が遅れてしまい学校に行くのが面白くなくな

ってしまいます。

PTIでも同じような状況が見られます。難しい方程式を解い

て終わり、教科書を読んで暗記して終わり、などで、実践的な

授業をあまり見たことがありません。

私たちJOCVは、このようなバングラデシュでの授業の質を

改善することを目的に、小学校の先生たちに、より現場で使え

る実践的な指導法、わかりやすく楽しい授業について伝え、共

に考えるために活動しています。PTIの算数・理科のインストラ

クターと共に、操作性のある教具を使った授業を訓練生に紹

介したり、子どもたちがより考えることができるような発問の仕方

を考えたり、教育実習時にアドバイスをしたりしています。附属

実験校の子どもたちにも、隊員が作成した算数ドリルを使って授

業をしています。大変なことも多いですが、ベンガル人たちに助

けられながら活動しています。

世話好きなバングラデシュ人に囲まれての生活は、とても楽

しいです。実は、バングラデシュは、北海道の約2倍の広さに日

本の人口以上の人々が暮らしている、人口密度世界一の国で

す。また、人口の約90%がイスラム教徒で、その教えを守って

います。1日5回のお祈りや、食事、服装、困っている人がいれ

ば助ける等。私が一番印象的だったものは、「良いことがあれば

周りにおすそわけする」ということです。試験に受かったから、子

どもが生まれたから、昇進したから、など、どんな小さなことでも

嬉しいことがあると、ご馳走をみんなに振る舞い共に分かち合い

ます。オープンで気さくな人が多いので、初対面で外国人の私

にも、「家に寄っていきなさい。」「お茶飲んで行きなさい。」「ご

飯食べて行きなさい。」と、猛烈な招待の嵐がやってきます。ひ

どい時には一日に何軒ものハシゴをしたり…。断る勇気も必要

なのです。

都市部は人ばかりでなくリキシャやCNGと呼ばれる乗り物な

ど、何もかもがあふれ返っていますが、私の大好きな農村部の

景色は本当に美しいです。田畑、川、緑の木々に囲まれて本

当にジブリの世界!トトロが出てきそうです。稲刈りの季節になる

と、辺り一面夕陽に照らされた稲穂が黄金色に輝き、「黄金の

ベンガル」という言葉にも納得です。農村部ではインフラ整備が

行き届いておらず生活面は不便なところも多いですが、みな生

き生きと、自然に寄り添って生活しています。

都市部の喧騒、農村部の自然、あふれる人や物、実に色鮮

やかなバングラデシュ。ここでの私のボランティア生活も、残り約

8カ月です。バングラデシュの子どもたちが、「学校が大好き!」

と言えるような楽しい学校・授業づくりのお手伝いを今後も頑張

っていきます。

 アッサラームアライクム!

檜垣香織隊員派遣国:バングラデシュ、職種:小学校教諭派遣期間:2010年3月~2012年3月

檜垣香織