関西におけるインバウンド消費の経済効果インバウンド消費の増加...

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本稿は、大阪支店営業課調査グループ上田一希、堂本卓が執筆しました。ホームページ(http://www3.boj.or.jp/osaka/) からもご覧いただけます。本稿で示された意見は執筆者に属し、必ずしも日本銀行の見解を示すものではありません。本稿 の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行大阪支店までご相談下さい。転載・複製を行う場合は、 出所を明記してください。 【照会先】 日本銀行大阪支店営業課調査グループ TEL:06-6206-7751 関西におけるインバウンド消費の経済効果 2017年7月 日本銀行大阪支店

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本稿は、大阪支店営業課調査グループ上田一希、堂本卓が執筆しました。ホームページ(http://www3.boj.or.jp/osaka/)

からもご覧いただけます。本稿で示された意見は執筆者に属し、必ずしも日本銀行の見解を示すものではありません。本稿

の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行大阪支店までご相談下さい。転載・複製を行う場合は、

出所を明記してください。

【照会先】

日本銀行大阪支店営業課調査グループ TEL:06-6206-7751

関西におけるインバウンド消費の経済効果

2 0 1 7 年 7 月 日本銀行大阪支店

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訪日外国人の増加

関西国際空港の国籍別入国者数 訪日外国人増加の背景

(注)X-12-ARIMAによる季節調整値。 (出所)法務省

近年、関西を訪れる外国人数は大きく増加し、足もとは年間661万人 ペースとなっている。

―― 増加の中心はアジア。欧米を含む「その他」からの旅行客の増加は まだ相対的に小幅。

202

269

409

610

661

0

100

200

300

400

500

600

700

1 3 年 1 4 1 5 1 6 17

(季節調整済年率換算、万人)

←その他

←ASEAN4

←韓国

←香港

←台湾

←中国

1.新興国経済の成長

2.2013年以降の円安傾向

3.ビザ関連の規制緩和

4.LCC(格安航空会社)の就航増加

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訪日外国人増加の背景(1)

東アジアの一人当たりGDP 為替動向

(注)2020年の一人当たりGDPはIMFの見通し。 (出所)IMF、Bloomberg

背景①:新興国経済の成長(東アジアの一人当たりGDPは堅調に増加。 中間所得層の拡大が旅行者の増加に繋がっている)

背景②:2013年以降の円安傾向

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

中国 台湾 香港 韓国

2005年 2010 2015 2020

(米ドル)

60

80

100

120

140

160

180

05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17

米ドル ユーロ

中国元 韓国ウォン

台湾ドル

(2010年=100)

円安

円高

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訪日外国人増加の背景(2)

最近のビザ発給緩和・免除措置 ビザ発給件数の推移

(注)1.数次ビザとは、有効期間内に複数回利用できるビザのこと。 2.ビザ発給件数は、数次ビザやビザ免除等もあることから、法務省の外国人入国者数とは異なる。 (出所)外務省

背景③:ビザ関連の規制緩和 (ビザ発給要件の緩和、短期滞在ビザの廃止) ―― 2015年の緩和以降、中国国籍者に対するビザ発給件数は大きく増加。

●中国商用目的、文化人・知識人数次ビザの緩和

相当の高所得者向け数次ビザの導入など

16/10月~ 商用目的、文化人・知識人数次ビザの緩和など

訪問地要件のない新しい数次ビザの導入

相当の高所得者向け数次ビザの発給要件緩和

中国国外居住者に対する数次ビザの導入など

●タイ13/7月~ 短期滞在目的のビザ免除

●マレーシア13/7月~ 短期滞在目的のビザ免除

●フィリピン13/7月~ 短期滞在数次ビザの発給開始

14/9月~ 数次ビザ発給要件の大幅緩和

14/11月~ 指定旅行会社のツアー参加者の手続き簡素化

●インドネシア

13/7月~ 短期滞在数次ビザの滞在期間延長

14/9月~ 数次ビザ発給要件の大幅緩和

14/11月~ 指定旅行会社ツアー参加者の手続き申請簡素化

14/12月~ IC旅券事前登録制によるビザ免除

●ベトナム13/7月~ 短期滞在数次ビザの発給開始

14/9月~ 数次ビザ発給要件の大幅緩和

14/11月~ 指定旅行会社ツアー参加者の手続き簡素化

16/2月~ 短期滞在数次ビザ発給要件の緩和

15/1月~

17/5月~

0

100

200

300

400

500

600

11年 12 13 14 15 16

その他

中国国籍者

(万件)

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訪日外国人増加の背景(3)

関西国際空港の国際線発着便数(夏季) アジア国籍の入国者数

背景④:関西国際空港におけるLCC(格安航空会社)の発着便数の増加

―― アジアからの入国者数は、大幅増加により国内空港トップに。

(注)1.FSCとは、 Full Service Carrier(既存航空会社)のこと。 2.入国者数は、X-12-ARIMAによる季節調整値。 (出所)関西エアポート、法務省

0

100

200

300

400

500

600

700

1 3 年 1 4 1 5 1 6 17

関西国際空港

成田空港

羽田空港

(季節調整済年率換算、万人)

1,034

1,109

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

08年 09 10 11 12 13 14 15 16 17

FSC便数

LCC便数

LCC割合(右目盛)

(便/週) (%)

計画

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インバウンド消費の増加

関西におけるインバウンド消費額 関西の百貨店免税売上

関西におけるインバウンド消費額は年間8,700億円。

―― 内訳をみると、「買い物代」のウエイトが高く、「モノ消費」が牽引役。

2016年度は、中国の関税引き上げの影響もあって幾分減少したが、2017年入り後は百貨店免税売上が既往ピークを更新するなど、再び増勢に転じていくことが期待される。

(注)1.関西におけるインバウンド消費額は、関西国際空港入国者の消費額。 2.百貨店免税売上は、X-12-ARIMAによる季節調整値。 (出所)観光庁、法務省、日本銀行大阪支店

5

3,391億円

5,604億円

9,125億円8,697億円

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

10,000

13年度 14 15 16

買い物代

娯楽サービス費

交通費

飲食費

宿泊料金

(億円)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

1 3 年 1 4 1 5 1 6 1 7

百貨店免税売上

(季節調整済、億円)

既往最高72億円

爆買いの減退

再び増勢

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インバウンド消費の経済効果の特徴(1)

特徴①:波及の広がり方が大きいこと (製造業や金融・不動産など幅広い業種に及ぶ) 特徴②:域内の成長への寄与が大きいこと (他の産業で同額の最終需要が発生した場合より付加価値は大)

生産額ベース(16年度) 付加価値(GDP)ベース(16年度)

6 (注)1.関西におけるインバウンド消費額と平成17年地域間産業連関表を用いて関西域内・域外波及効果(1次間接効果)を算出。 2.付加価値ベースには、域外波及効果を含まない。 (出所)観光庁、法務省、経済産業省

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

インバウンド 電機・電デバ 自動車

その他

資本減耗引当

営業余剰

雇用者所得

(億円)

インバウンド消費と

同額の最終需要が

発生した場合

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000(億円)

関西域外波及効果

1,984億円

対個人

サービス

4,715億円

運輸

755億円

商業

3,227億円

直接効果

8,697億円

(前掲の

消費額)

内訳

波及効果

5,346億円

関西域内波及効果

3,362億円

製造業

617 建設

119

商業

276

金融・

不動産

657 運輸

208

情報通信

286

対事業所

サービス

615

対個人

サービス

52 その他

532

(億円)

関西域内波及効果

3,362億円の内訳

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インバウンド消費の経済効果の特徴(2)

特徴③:関西の宿泊需要を大幅に高めていること

―― 年間宿泊数1,800万泊は1日当たり4.8万泊。関西の客室数(15.6万室) との対比でも相応に大きいインパクト。 ホテル等の宿泊施設の建設を促 している。

7

外国人延べ宿泊数 外国人延べ宿泊数(1日当たり)

客室数

(注)1.17年の計数は1~4月の前年比を用いた年率換算値。 2.関西の入国者数は、関西国際空港、大阪港、神戸港の合計。 3.延べ宿泊数は、複数の宿泊者が同グループの場合でも泊数を別々に数えている。 4.客室数は、旅館、リゾートホテル、シティホテル、ビジネスホテルの合計。 (出所)観光庁、法務省、総務省

(参考)関西の人口

0

1

2

3

4

5

6

7

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

2,000

07年 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17

関西の外国人延べ宿泊数

関西の入国者数(右目盛)

(万泊) (百万人)(万泊)

2012年 2013 2014 2015 20162012→16年の増加数

1.7 2.2 3.0 4.4 4.8 3.1関西

(万室)

2012年 2013 2014 2015 20162012→16年の増加数

15.5 16.1 16.0 15.8 15.6 0.1

大阪 6.0 5.6 6.2 6.1 6.3 0.3

関西

(万人)

2012年 2013 2014 2015 20162012→16年の増加数

2,085 2,080 2,075 2,073 2,068 -17

大阪 886 885 884 884 883 -3

関西

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インバウンド消費の経済効果の大きさ

関西域内総生産とインバウンド消費の経済効果(付加価値ベース)

2013年度から2016年度にかけての関西の年平均成長率(1.2%)のうち、0.2%ポイントがインバウンド消費の直接・波及効果によるもの。

2017年度入り後、インバウンド消費は再び増勢に転じており、今後も成長 に寄与していくと考えられる。

(注)1.15、16年度の名目域内総生産は、APIRの予測に基づき算出。 2.経済効果(付加価値ベース)には、域外波及効果を含まない。 (出所)観光庁、法務省、経済産業省、内閣府、アジア太平洋研究所(APIR)

8

2013年度

2014 2015 2016

2013年度→

2016年度(平均)

79.1 80.7 81.9 81.9 ―

前年比(%) 1.0 2.1 1.4 0.0 1.2

0.3 0.5 0.8 0.7 ―

名目域内総生産に占める割合(%)

0.4 0.6 0.9 0.9 ―

名目域内総生産前年比への寄与度(%)

― 0.2 0.4 ▲ 0.0 0.2

名目域内総生産(兆円)

インバウンド消費の経済効果

(兆円)

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

76

77

78

79

80

81

82

83

84

85

13年度 14 15 16

名目域内総生産

経済効果(右目盛)

(兆円) (対域内総生産比率、%)

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まとめ(1)

近年、関西を訪れる外国人は増加している。増加の背景には、以下の要因が複合的に影響していると考えられる。

①新興国経済の成長、②為替円安、③ビザ緩和、④LCCの就航増加

訪日外国人の増加に伴って、関西におけるインバウンド消費は増加傾向にある。インバウンド消費は、①その経済効果が幅広い産業に及ぶ、②関西地域の成長への貢献度が高い、といった特徴がある。とくに人口減少の圧力を受ける内需型の産業に広く恩恵が及ぶ点は、地域経済のサステナビリティを高める上でも重要と考えられる。

―― インバウンド消費は、関西の経済成長を2013~2016年度で年平均 +0.2%ポイント押し上げた。

こうした点を踏まえると、関西を訪れる外国人観光客の増加やインバウンド消費の喚起を図っていくことは、地域を挙げて取り組んでいく価値があると考えられる。

9

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まとめ(2)

10

観光客を安定的、持続的に増やしていくには、①地域の魅力、観光客の快適性や利便性を高めていくこと、②そのことを通じてリピーターを増やし、また、滞在日数を増やしていくこと、③欧米を含め誘客の国籍の幅を広げていくことが重要となる。

そのための具体的な課題としては、

①受け入れ体制の強化(次頁)

②交通インフラの整備

③「コト消費」の取り込み強化

④関西広域での連繋

(観光のほか、医療、健康・スポーツなど地域の特徴・強みの形成)

等が挙げられる。また、2019~2021年にかけての各種スポーツイベント、

あるいは2025年開催に向けて立候補している万博などを活用していくこ

とも関西の魅力発信に有益と考えられる。

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まとめ(3)

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受け入れ体制の強化に関しては、訪日客から、旅行中困ったこととして、コミュニケーションに関する点などが挙げられている。当地の企業や公共団体では対応を進めており、今後改善していくことが期待される。

訪日客が旅行中に困ったこと(16年度) 関西における企業等の取り組み

(出所)観光庁、各種公表資料

0 10 20 30 40

クレジット/デビット

カードの利用

両替

公共交通の利用

多言語表示の少なさ

わかりにくさ

無料公衆無線LAN環境

施設等のスタッフとの

コミュニケーション

(%、複数回答)業種 取り組み

 運輸、地方公共団体

観光案内をはじめ旅行相談への対応や、外貨両替、チケット販売、手荷物関連サービス等を一体的に提供する窓口を設置。

 金融、電気機械

先端技術を利用して、様々な言語での情報提供や接客応対を支援するプロジェクトを実施。

地方公共団体大阪府内の観光施設等に無料Wi-Fiを導入することにより利便性を高め、外国人旅行者の更なる誘客及び府内での周遊を促進。

 小売、飲食サービス

訪日外国人向けに、様々なモバイル決済の手段に対応。