高難度な施工条件下でのシールド工事における技術...

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39 1.はじめに 今回報告する 2 件のシールド工事は、いずれも横浜市環 境創造局から発注された雨水浸水対策を目的とした工事で ある(図1)。 都筑処理区西八朔小山雨水幹線下水道工事(以下、西八朔 シールド工事)は、西八朔地区約 46haの区域を計画降雨(お おむね 50 ㎜/hr)に対応させるための雨水整備事業の一環 で、西八朔地区から恩田川へ向けた雨水排水管路を泥土圧 式シールド工法で築造するものである。 また、西部処理区相沢第二雨水幹線下水道築造工事(以 下、相沢川シールド工事)は、既設の相沢雨水幹線の排水 能力不足により瀬谷区相沢地区と瀬谷地区において、浸水 被害が発生していることから、被害の軽減を図るためのバ イパス管として、相沢川の直下に雨水貯留管を泥土圧式シ ールド工法で増築するものである。 2.西八朔シールド工事 2.1 工事概要 西八朔シールド工事の縦断線形は、恩田川への自然流下 の排水勾配を確保するために土被りが非常に小さくなって おり、最小土被りはシールド掘削外径φ2.69m を下回る 2.4m となった。 また、交通量の多い片側 1 車線の県道部において、R=20m と R=15m の 2 箇所の急曲線が計画されていた。表 1 に工事 概要を、図 2 に路線平面図をそれぞれ示す。 2.2 シールド掘進における技術的課題 シールド掘進の対象土質は、発進直後から最初の R=20m 高難度な施工条件下でのシールド工事における技術的対応事例 Technical Correspondence Case in Shield Tunneling under the High-Difficulty Construction Condition 要旨 横浜市内でほぼ同時期に取り組んだ 2 件のシールドトンネルは、それぞれ特徴のある施工条件に対して、様々な課題 を克服しながら工事を行った。西八朔シールド工事では、土かぶりが 1D 未満と小さく、掘削断面の上半は軟弱粘性土 で下半が泥岩の Mixed Face 地盤(切羽に硬質地山と軟質地山が混在する地盤)において、地表面沈下防止と硬質地盤 乗上げ防止に取り組んだ。一方の相沢川シールド工事では、蛇行する河川直下を併走しながら最小曲線半径 20m の S 字 曲線を含む 44 箇所の曲線を有する多曲線線形において、線形精度の確保と日進量確保を目的として、曲線掘進管理や シールド設備の工夫に取り組んだ。これら 2 件の施工事例について報告する。 キーワード:Mixed Face 地盤、小土被り、急曲線施工、多曲線施工 安井 了一 *1 植島 生八 *1 越智 創 *1 Ryoichi Yasui Ikuya Ueshima Hajime Ochi 金岡 赳志 *1 樋口 昌典 *2 桶川 宏司 *2 Takeshi Kanaoka Masanori Higuchi Koji Okegawa *1 東京本店 土木部 *2 技術本部 土木技術部 図1 工事位置図 表1 西八朔シールド工事概要 都筑処理区西八朔小山雨水幹線下水道整備工事 西部処理区相沢第二雨水幹線下水道整備工事 仮称:西八朔シールド工事 仮称:相沢川シールド工事 名 都筑処理区西八朔小山雨水幹線下水道整備工事 者 横浜市環境創造局下水道管路部管路整備課 者 鴻池組・長野工務店 建設共同企業体 期 2016年9月20日 2018年7月13日 工 事 場 所 横浜市緑区小山町642番~西八朔町16番 工事内容 ・泥土圧式シールド工(仕上り内径φ2,200mm) 掘削外径:φ2,690mm、施工延長:489.8m ・発進立坑工 鋼矢板土留め工: 9.2m×10.8m× H 6.5m ・到達立坑工 深礎工法(円形ライナープレート)φ3.5m× H 12.9m ・既設水路撤去迂回復旧:一式 ・付帯工(舗装撤去復旧):一式

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1.はじめに

今回報告する 2 件のシールド工事は、いずれも横浜市環

境創造局から発注された雨水浸水対策を目的とした工事で

ある(図 1)。

都筑処理区西八朔小山雨水幹線下水道工事(以下、西八朔

シールド工事)は、西八朔地区約 46ha の区域を計画降雨(お

おむね 50 ㎜/hr)に対応させるための雨水整備事業の一環

で、西八朔地区から恩田川へ向けた雨水排水管路を泥土圧

式シールド工法で築造するものである。

また、西部処理区相沢第二雨水幹線下水道築造工事(以

下、相沢川シールド工事)は、既設の相沢雨水幹線の排水

能力不足により瀬谷区相沢地区と瀬谷地区において、浸水

被害が発生していることから、被害の軽減を図るためのバ

イパス管として、相沢川の直下に雨水貯留管を泥土圧式シ

ールド工法で増築するものである。

2.西八朔シールド工事

2.1 工事概要

西八朔シールド工事の縦断線形は、恩田川への自然流下

の排水勾配を確保するために土被りが非常に小さくなって

おり、最小土被りはシールド掘削外径φ2.69m を下回る

2.4m となった。

また、交通量の多い片側 1 車線の県道部において、R=20m

と R=15m の 2 箇所の急曲線が計画されていた。表 1 に工事

概要を、図 2 に路線平面図をそれぞれ示す。

2.2 シールド掘進における技術的課題

シールド掘進の対象土質は、発進直後から最初の R=20m

高難度な施工条件下でのシールド工事における技術的対応事例

Technical Correspondence Case in Shield Tunneling under the High-Difficulty Construction Condition

要旨

横浜市内でほぼ同時期に取り組んだ 2 件のシールドトンネルは、それぞれ特徴のある施工条件に対して、様々な課題

を克服しながら工事を行った。西八朔シールド工事では、土かぶりが 1D 未満と小さく、掘削断面の上半は軟弱粘性土

で下半が泥岩の Mixed Face 地盤(切羽に硬質地山と軟質地山が混在する地盤)において、地表面沈下防止と硬質地盤

乗上げ防止に取り組んだ。一方の相沢川シールド工事では、蛇行する河川直下を併走しながら最小曲線半径 20m の S 字

曲線を含む 44 箇所の曲線を有する多曲線線形において、線形精度の確保と日進量確保を目的として、曲線掘進管理や

シールド設備の工夫に取り組んだ。これら 2 件の施工事例について報告する。

キーワード:Mixed Face 地盤、小土被り、急曲線施工、多曲線施工

安井 了一*1 植島 生八*1 越智 創*1

Ryoichi Yasui Ikuya Ueshima Hajime Ochi 金岡 赳志*1 樋口 昌典*2 桶川 宏司*2

Takeshi Kanaoka Masanori Higuchi Koji Okegawa

*1 東京本店 土木部 *2 技術本部 土木技術部

図1 工事位置図

表1 西八朔シールド工事概要

都筑処理区西八朔小山雨水幹線下水道整備工事

西部処理区相沢第二雨水幹線下水道整備工事

仮称:西八朔シールド工事

仮称:相沢川シールド工事

工 事 名 都筑処理区西八朔小山雨水幹線下水道整備工事

発 注 者 横浜市環境創造局下水道管路部管路整備課

施 工 者 鴻池組・長野工務店 建設共同企業体

工 期 2016年9月20日 ~ 2018年7月13日

工事 場所 横浜市緑区小山町642番~西八朔町16番

工事 内容

・泥土圧式シールド工(仕上り内径φ2,200mm)

 掘削外径:φ2,690mm、施工延長:489.8m

・発進立坑工

 鋼矢板土留め工:□9.2m×10.8m×H6.5m

・到達立坑工

 深礎工法(円形ライナープレート)φ3.5m×H12.9m

・既設水路撤去迂回復旧:一式

・付帯工(舗装撤去復旧):一式

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鴻池組技術研究報告 2019

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急曲線付近までは、下半が N 値 50 以上の上総層群鶴川層の

泥岩(土丹)、上半は N 値 3 程度の軟弱な砂混じり粘土であ

り、硬質地山と軟弱地山が混在する典型的な Mixed Face

地盤である(図 3)。

このような地盤構成では、シールド掘進管理や姿勢制御

が難しく、地表面の沈下やシールド機の硬質地盤(泥岩層)

への乗上げ対策が課

題となった。また、

土被りが 2.4m と小

さいため、地表面に

影響を与えない切羽

安定対策も求められ

た。

セグメントは、一

般部では二次覆工省

略型の RC セグメン

トが、急曲線部およ

び流入部には鋼製セ

グメントが採用され

ていた。鋼製セグメ

ント部の二次覆工を

RC セグメントの内

面に合わせるために

は、覆工厚さが 47

㎜と薄くなり、現場

打ちコンクリート打

設による充填方法が

課題となった。

2.3 Mixed Face 地盤での小土被り部の掘進

シールド工法において、一般的に上半が軟弱土で下半が

硬質土の場合、硬質土の掘削に時間を要し、上半の軟弱土

の取込み過多が発生しやすいため、地表面沈下が発生する

場合が多い。

また、密閉型シールド機で切羽地山に硬軟差が大きい地

層の境界がある場合、切削抵抗の小さい軟弱地盤の方へシ

ールド機が偏る傾向がある。さらに、土被りが小さい場合、

シールド機に作用する上方からの土圧も小さいことから、

シールド機の姿勢制御に不利となる場合が多い。本工事で

は、これらの課題を克服するため、以下のような対応策を

実施した。

2.3.1 カッタービットの工夫による硬質地盤切削

通常のティースビットは切削幅が広く、硬質な泥岩では

切り込み深さが浅くなるため掘進速度が低下して掘進に時

間がかかり、上半軟弱土の取込み過多が発生する。そこで、

掘進速度を確保するため、ビットの切削幅が狭く、切り込

み深さが充分に確保できる薄型先行ビットをスポーク中央

部に追加配置した。薄型先行ビットによって泥岩に切り込

み溝やひび割れを発生させ、ティースビットで掻き取る二

段階の切削を目的としたビット配置とした。一方、泥岩層

への乗上げ対策として、最外周のシェルビット(外周先行

ビット)をスポーク部の薄型先行ビットより高く設置し、

シールド機の最外周ビット部が最初に掘削断面下半の泥岩

層に切込みを入れることにより、シールド機先端の浮き上

がり防止を図った(図 4、写真 1)。

2.3.2 前方伸縮コピーカッターによる最外周切削

急曲線部では外周先行ビットの高さを上げすぎると曲線

外側も先行して掘削することになり、シールド機中折れ状

態時の曲線掘進性能が低下することが懸念された。そこで

主に直線部での最外周の先行切削能力を強化するために、

前方伸縮コピーカッターを搭載した。最外周のシェルビッ

トによる泥岩切り込み量が不足した場合にもコピーカッタ

図 3 西八朔シールド土質縦断図

L=489.8m

発進立坑

9200x10800

農業用水路□1000x1000

恩田川

緑区

西八朔町

緑区

小山町

図 2 西八朔シールド路線平面図

ティースビット

先行ビット

先行ビット

(前方伸縮コピーカッター)

外周先行ビット

フィッシュテール

カッタリング

ゲージビット

薄型先行ビット

図 4 カッタービット配置図

写真 1 薄型先行ビット

既設水路

発進

立坑

到達

立坑

泥岩砂岩

泥岩

軟弱粘性土層

市道市道

シールド掘進方向

県道市道

ティースビット

薄型先行ビット

フィッシュテール

ゲージビット

先行ビット

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高難度な施工条件下でのシールド工事における技術的対応事例

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写真 2 外周先行ビットと

前方伸縮コピーカッター

ーを伸長して切り込み量を確保

できる機構とした(写真 2)。

従来のコピーカッターは、ス

ポーク軸と平行に内蔵した油圧

シリンダーをカッター半径方向

に伸縮させ、曲線施工に必要な

余掘りを行うものである。今回

の前方伸縮コピーカッターは、

カッターヘッドを支持する外周

アーム内にある油圧シリンダー

を水平方向に内装し、掘進方向

に伸縮させるものとした。

この前方伸縮コピーカッタ

ーは、シリンダーの位置と

可動ビット部分の位置関係を補正するために、やや外側斜

めに搭載しているが(図 5)、可動ビットの先端は、掘削外

径よりオーバーカットしないような範囲で動作させるよう

にしている。また前方伸縮コピーカッターは通常のコピー

カッターと併用稼動できる仕様とした。

以上の機能で、泥岩の切削能力を高めることで Mixed

Face 地盤での乗上げ防止対策を図り、その結果、地表面へ

の影響を最小限とすることができた。

2.4 曲線施工時の線形精度確保

急曲線部の線形精度確保のため、機械的な面では施工精

度対策として、シールド機の必要中折れ角度 11.9 度に対し

装備角度を 12.6 度とし、必要余掘り量 100 ㎜に対し 150

㎜まで余掘り可能なコピーカッターを装備した。また、コ

ピーカッターで切削した余掘り部の掘削土砂を鋼殻外側に

残すと、シールド機が曲線部の外側に膨らむ原因となるた

め、カッター外周リングのコピー周辺に切り欠きを設け、

切削された余掘り土砂をスムーズにチャンバー内に取り込

める構造とした。

施工管理の面では、測量の頻度を片番で 2 回に増やした

ほか、曲線掘進時の推進力により引照点が動く可能性が考

えられるため、毎回後方の固定点から確認を行い、線形精

度を確保した。さらに、トータルステーションによる坑内

トラバース測量に加え、ジャイロトランシットを用いた真

北測量を実施し、坑内基準線のチェックを実施した。

RC セグメントの場合、急曲線の前後で偏荷重によりクラ

ックが入りやすい。そこで、原設計では曲線部分のみ鋼製

セグメントとしていたが、曲線の前後 1 後胴分に幅 300 ㎜

の鋼製セグメントを追加し、RC セグメントにかかる偏荷重

を低減させることにした。さらに、急曲線掘進時の片押し

時に内側のリング間継手間に目開きが発生し漏水すること

があるため、カーブ内側のリング間ボルト数を、通常の 2

倍の数量とした。

2.5 小土被り部の切羽安定対策と排土方法の変更

シールド機からズリ鋼車までの排土搬送は、2 箇所の急

曲線部の対応とスクリューゲート付近での噴発などによる

土砂の取込み防止のため、通常採用されるベルトコンベア

方式からノンタックホースによる圧送方式に変更した。

スクリューコンベア(以下、SC)内径はφ300 ㎜であっ

たが、ノンタックホースは後方設備の制約からφ200 ㎜と

なり、SC 排土口に接続レジューサーを設けてノンタックホ

ースと接続した(写真 3)。このように排土口径を縮小した

ため、接続レジューサー部分では粘性土が圧縮され、その

圧力が切羽の地盤に伝達されて地表面が隆起傾向になった。

特に、発進直後は度重なるレジューサー内閉塞が発生し、

地表面が最大 32 ㎜隆起した。閉塞を防止する対策として加

泥材の変更を行った。掘削地盤が粘性土であることから分

散剤系の加泥材を使用していたが、掘削土の流動性の向上

とレジューサー部での摩擦抵抗を低減させるため、増粘剤

中折れジャッキカッターモータ エレクタ旋回モータ スクリュー・モータ

ゲートジャッキ

エレクタ

シールドジャッキ

チャンバー土圧計

コピーカッター

前方伸縮コピーカッター

スクリューコンベア

カッタ- 面盤

図 5 西八朔シールド機(前方伸縮コピーカッター)

加泥材追加注入配管

エアー吐出配管

接続レジューサー

写真 3 ノンタックホース接続状況

写真 4 接続レジューサー閉塞防止対策

前方伸縮コピー

外周先行ビット

外周先行ビット

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鴻池組技術研究報告 2019

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系の加泥材に変更した。さらに、接続レジューサーに直接

加泥材を添加できるルートを増設するとともに、エアー配

管も追加した(写真 4)。

初期掘進時の地表面の変状と切羽土圧を検討した結果、

シールド掘進管理において、切羽土圧を「静止土圧+予備

圧 0.01MPa」に設定し、裏込め注入量は発生ボイド量に対

して 130%で掘進することで地表面の隆起・沈下の発生を

最も小さくすることができた。表 2 に、当初計画の掘進管

理値ならびに初期掘進中のトライアル施工に基づいて修正

した掘進管理値を示す。

小土被りのため切羽圧力が非常に小さく、SC による排土

とジャッキスピードの制御により切羽圧力を保持すること

が困難であった。そのため、慎重な掘進管理を余儀なくさ

れ、排土流量の不足が生じ、ノンタックホースの閉塞が頻

発した。対策として、搬送抵抗を少なくするためにノンタ

ックホースを短くし、ズリ鋼車台数を 4 台から 2 台に削減

して 1 リング 2 往復で排土運搬作業を行うこととした。

本工事では、チャンバー内に固定翼を装備しなかった。

これは、固定翼を取り付けることにより大割れした泥岩層

の岩塊が、カッタースポークの背面に取り付けた攪拌翼と

干渉し、カッターが回らなくなる現象を回避するためであ

った。しかし、ホース圧送方式を採用するのであれば、チ

ャンバー内で切削土砂の攪拌効率を向上させるため固定翼

は必要であったと考える。また、掘削土の流動性について

はテーブル試験等により十分な検討を行う必要があった。

2.6 鋼製セグメントの二次覆工

一般部では二次覆工省略型の RC セグメントが(t=175mm)

が採用されていたため、急曲線部の鋼製セグメント(t=128

㎜)の二次覆工が最小 47 ㎜と薄くなっていた(写真 5)。

この薄い巻き厚では、通常のコンクリートでは充填不具合

が発生する可能性があった。また、粗骨材のないモルタル

充填では、コンクリートに比べて耐久性に劣るため、長期

間の品質確保が問題となった。そのため、二次覆工を管更

生技術のひとつであるパルテム・フローリング工法(図 6)

を採用した。

パルテム・フローリング工法は、鋼製リングに高密度ポ

リエチレン製の嵌合部材・表面部材を組み付け、背面を特

殊高流動モルタルで充填する技術である。本工事の場合は、

外力は鋼製セグメントで受け持つため、二次覆工の強度負

担の必要が無く、最小 47 ㎜の巻き厚で施工が可能となった

(写真 6)。なお、高密度ポリエチレンの表面部材は、耐摩

耗性・耐薬品性についても塩ビ管やコンクリートより優れ

ている。

二次覆工にパルテム・フローリング工法を採用したのは、

残置したシールド機鋼殻内への適用事例に続く 2 例目であ

った。急曲線部の鋼製セグメントの二次覆工方法としては

初めての採用であり、類似工法としてコンクリートを吹き

付ける TDR ショットライニングシステムがあるが、将来的

なクラックや漏水の発生の可能性を考慮すると、耐久性や

施工性に優れたパルテム・フローリング工法の今後の採用

増加が期待される。

写真 5 RC セグメントと鋼製セグメントの接続部

図 6 パルテム・フローリング二次覆工模式図

写真 6 二次覆工施工前(左)とパルテム二次覆工施工後(右)

表 2 掘進管理値

47 ㎜

掘進管理項目 当初計画 修正計画

切羽管理土圧土被り荷重+予備圧0.01MPa

(最小土被り部;70kPa)静止土圧+予備圧0.01MPa

(最小土被り部;40kPa)

加泥材サラリ(分散剤系)

 3kg/m3

クリーンSP-AⅡ(増粘剤系)

 5kg/m3

加泥材添加量 掘削土量の20% 掘削土量の20%

裏込め注入圧 100kPa 100kPa

裏込め注入量 100% 130%

ゲルタイム 20秒以内 20秒以内

圧縮強度 σ28=2N/㎜2以上 σ28 =2N/㎜2以上

排土量 掘削土量+加泥材添加量 掘削土量+加泥材添加量

PE 嵌合部材

PE 表面部材

鋼製リング 特殊充填材 鋼製セグメント

47 ㎜

鋼製セグメント

特殊充填材

鋼製リング

PE嵌合部材

PE表面部材

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高難度な施工条件下でのシールド工事における技術的対応事例

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3.相沢川シールド工事

3.1 工事概要

相沢雨水幹線は、写真 7 に示すように、現況の水路断面

が小さく、排水能力が不足していることから、瀬谷区相沢

地区・瀬谷地区では溢水や浸水被害が頻繁に発生していた。

さらに、水路の両側には住居が密集しており、水路床掘

削や水路拡幅工事の施工が困難な状況である。そのため、

排水能力を超過する雨水を取水し、下流の準用河川相沢川

まで流下させるバイパス管路が、相沢雨水幹線の直下にシ

ールド工法により計画された。表 3 に工事概要を示す。

3.2 長距離掘進と多曲線掘進の対策

本工事のシールドは、N 値 50 以上の玉石混じり砂礫層を

1.7 ㎞掘進する(図 7)。全線にわたって相沢雨水幹線の直

下を掘進するため、地上からのビット交換作業が困難な状

況であった。そのため、ビットに埋め込む超硬チップの長

さを 30 ㎜から 50 ㎜にし、シールド機のカッタービットの

耐久性向上を図った(図 8)。また、油圧式の摩耗検知ビッ

トを 2 箇所設置し、シールド掘進中のビット摩耗状況を確

認できるようにした(写真 8)。

一方、多曲線掘進はシールド機のテールブラシへの負担

が大きく、テールブラシの摩耗によりシールドテールから

地下水が噴出するトラブルが発生した。そのため、地下水

の坑内湧出を防止するため、テールシーラーを充填しなが

ら掘進を行った。

また、砂礫層では想定外の最大直径 40cm の玉石に遭遇し、

カッターヘッド外周面が 10cm 程度、異常摩耗した。

これらのトラブルは、中間立坑通過時に 1 段目のテール

ブラシ長を 20 ㎜延長し全数交換するとともに、カッター外

周面の欠損部を鋼材で溶接補修することで、残りの掘進

(530m)を完了した。

3.3 連続する急曲線部のセグメントの工夫

シールド工事の平面線形は、相沢雨水幹線の線形に沿っ

て計画され、図 9 に示すように曲線施工区間(最小曲線半

表 3 相沢川シールド工事概要

写真 8 カッター面盤

○は摩耗検知ビット

図 8 カッタービットの配置

図 7 相沢川シールド路線縦断図

写真 7 相沢雨水幹線現況

幅2.5~3.2m

深さ1.3~2.0m

50㎜50㎜

50㎜

カッタースポーク

先行ビット超硬チップ(E5)高さを30㎜から50㎜に変更

カッタービット・E3を抗折力に優れるE5に変更・高さを30㎜から50㎜に変更

カッター回転方向

カッター側面を肉盛り

溶接(HF)により補強

工 事 名 西部処理区相沢第二雨水幹線下水道整備工事

発 注 者 横浜市環境創造局下水道管路部管路整備課

施 工 者 鴻池組・森組・壺山建設 建設共同企業体

工 期 2016年5月16日 ~ 2018年6月29日(1期工事)

工事 場所 横浜市瀬谷区相沢四丁目~南台二丁目

工事 内容

・泥土圧式シールド工(セグメント内径φ2,500mm) 掘削外径:φ3,390mm、施工延長:1,732m・発進立坑工

 地下連続壁工(TRD):□9.4m×6.5m×H23.4m・中間立坑工

 深礎工法(円形ライナープレート)φ4.5m×H23.4m・地盤改良工:一式・付帯工:一式

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鴻池組技術研究報告 2019

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径 20m から最大曲線半径 200m)が 44 箇所あり、全延長の

30%が曲線掘進である。シールド機には曲線半径 15m まで

対応可能な中折れ・余掘り装置を装備し、シールド機の曲

線施工能力を向上させた。

一般的に、急曲線部のセグメントは、組み立てたセグメ

ントのカーブ内側に大きな引張り力が作用する。さらに、

シールド機のテールとセグメントとの干渉や曲線掘進に伴

い発生する地盤反力が、セグメントの側面に作用する。そ

のため、図 10 に示す手順で曲線部セグメントの構造検討を

行った。

本工事で実施した具体的なセグメント補強対策を以下に

示す。

(1) 曲線部は、セグメント内側のリング継手のボルト本数

を 2 倍に増やし(写真 9)、普通ボルト(強度区分 4.6)

を高力ボルト(強度区分 8.8)に変更し締結力を増大

した(表 4)。

(2) 曲線半径 20m と 30m に採用した幅 300 ㎜のセグメント

は、シールド機後端部でのシールドテールとセグメン

トの競りを防止するため、セグメント外径を 50 ㎜縮径

した(表 4)。

(3) 急曲線部のセグメントは、主桁の厚さを 14 ㎜から 16

㎜に増やし、一般部セグメントの約 2.4 倍の高剛性化

を図った(表 4)。

(4) 曲線区間に挟まれた直線区間では、シールド機の中折

れ状態の後胴を直線に戻し、次の曲線に合わせて前胴

の中折れを開始させることになる。そのため、シール

ド機のテールでの干渉や曲線掘進による偏圧の作用で

セグメントの変形や損傷が懸念された。そのため、曲

線区間に挟まれた直線区間の延長がシールド機長に相

当する 6m 以下の場合、設計セグメント幅 1,200 ㎜を

300 ㎜に変更するとともに、縮径セグメントを採用す

ることとした(図 11)。

(5) 曲線部の入口部や出口部についても、シールド機を

徐々に中折れさせたり直線に戻したりするため、曲線

区間と同様の偏圧がかかる事が予想された。このため、

セグメントが変形や破損しないように曲線区間のセグ

メントを適用し、幅 1,200mm の一般部セグメント 1 リ

写真 9 急曲線部のボルト締結状況

図 11 直線区間への縮幅・縮径セグメントの適用

表 4 急曲線部セグメント補強対策一覧

図 10 曲線部セグメント検討フロー

図 9 相沢川シールド路線平面図

IP.34IA=53°29′55″

R =20.000TL=10.081CL=18.675SL= 2.397

IP.35IA=28°39′24″

R =20.000TL= 5.109CL=10.003SL= 0.642

IP.36IA=23°14′33″

R =20.000TL= 4.113CL= 8.113SL= 0.419

IP.37IA=10°15′21″

R =20.000TL= 1.795CL= 3.580SL= 0.080

6.8

地中

到達

65.6

5.69.1

6.6

18.2

9.7

14.1

5.3

15.2

19.218.2

6.2

13.4

7.027.511.4

18.018.08.69.511.76.630.011.315.5

13.7

26.922.410.7

11.612.3

7.7

17.825.8

22.0

15.2

6.2

13.5

9.8

24.4

18.8

28.5

19.3

11.1

IP.10IA=51°23′ 6″

R =30.000TL=14.433CL=26.905SL= 3.291

IP.8IA=17°35′47″

R =40.000TL= 6.191CL=12.285SL= 0.476

IP.7IA=51° 3′33″

R =20.000TL= 9.552CL=17.823SL= 2.164

IP.6IA=21° 1′54″

R =60.000TL=11.138CL=22.024SL= 1.025

IP.4IA=5°37′23″

R =100.000TL= 4.911CL= 9.814SL= 0.121

IP.3IA=17°57′34″

R =60.000TL= 9.481CL=18.807SL= 0.745

IP.2IA=27°38′ 4″

R =40.000TL= 7.378CL=19.293SL= 1.192

IP.11IA=13° 6′46″

R =60.000TL= 6.896CL=13.732SL= 0.395

IP.14IA=3°14′49″

R =200.000TL= 5.669CL= 11.334SL= 0.080

IP.15IA=6°18′25″

R =60.000TL= 3.306CL= 6.605SL= 0.091

IP.16IA=9° 4′49″

R =60.000TL= 4.764CL= 9.509SL= 0.189

IP.17IA=17°14′ 4″

R =60.000TL= 9.093CL=18.048SL= 0.685

IP.18IA=21°46′29″

R =30.000TL= 5.770CL=11.401SL= 0.550

IP.19IA=13°25′20″

R =30.000TL= 3.530CL= 7.028SL= 0.207

IP.20IA=11°46′31″

R =30.000TL= 3.094CL= 6.166SL= 0.159

IP.21IA=36°43′ 8″

R =30.000TL= 9.956CL=19.226SL= 1.609

IP.22IA=6° 7′17″

R =50.000TL= 2.674CL= 5.342SL= 0.071

IP.23IA=11° 3′58″

R =50.000TL= 4.844CL= 9.657SL= 0.234

IP.24IA=12°33′28″

R =30.000TL= 3.301CL= 6.575SL= 0.181

IP.25IA=10°37′37″

R =30.000TL= 2.790CL= 5.564SL= 0.130

IP.5IA=17°48′11″

R =20.000TL= 3.133CL= 6.215SL= 0.244

IP.1IA=32°38′57″

R =20.000TL= 5.858CL=11.397SL= 0.840

11.4

IP.9IA=30°33′34″

R =20.000TL= 5.464CL=10.667SL= 0.733

16.2

16.3

IP.12IA=46°42′57″

R =20.000TL= 8.637CL=16.307SL= 1.785

IP.13IA=10°14′25″

R =40.000TL= 3.584CL= 7.149SL= 0.160

1 .5

№2 中

間立

4.4

7.1

7.3

38.4

9.8 29.3

34.613.0

58.6

8.2

3.8

55.9

121.0

29.0

41.4

3.6

34.68.110.0 6.7

6.318.7

9.3

22.2

22.217.0

32.5

5.8

25.6

10.5

38.1

10.693.18.4

10.1

65.6

IP.28IA=16° 2′53″

R =30.000TL= 4.229CL= 8.403SL= 0.297

IP.30IA=6° 1′19″

R =100.000TL= 5.260CL= 10.510SL= 0.138

IP.31IA=11° 2′ 1″

R =30.000TL= 2.898CL= 5.777SL= 0.140

IP.32IA=19°27′40″

R =50.000TL= 8.574CL=16.983SL= 0.730 IP.33

IA=42°24′23″R =30.000TL=11.638CL=22.204SL= 2.178

IP.38IA=7°10′33″

R =30.000TL= 1.881CL= 3.757SL= 0.059

IP.39IA= 9°41′10″

R =30.000TL= 2.542CL= 5.072SL= 0.107

IP.40IA=6°29′14″

R =30.000TL= 1.700CL= 3.397SL= 0.048

IP.41IA=14°51′39″

R =50.000TL= 6.521CL=12.969SL= 0.423

IP.42IA=11°15′13″

R =50.000TL= 4.926CL= 9.821SL= 0.242

IP.43IA=16°46′46″

R =100.000TL= 14.748CL= 29.286SL= 1.082

IP.44IA=10°59′49″

R =200.000TL= 19.252CL= 38.386SL= 0.924

108.9

№1 発

進立

7.0

7.73.

4

5.1 3.4

103.71

:R=20m:R=30m:R=40m:R=50m:R=60m:R=100~200m

掘進方向

掘進方向

IP.26IA=9°51′ 7″

R =20.000TL= 1.724CL= 3.439SL= 0.074

IP.27IA=19°59′30″

R =20.000TL= 3.525CL= 6.978SL= 0.308

IP.29IA=30°16′24″

R =20.000TL= 5.410CL=10.567SL= 0.719

適用区間

適用区間適用区間

駐車場IP33

IP35

IP36

BC33

EC33

BC34

EC34

BC35

EC35

BC3

6

EC36

IP.33IA= 42-24-19R= 30.000

TL= 11.638CL= 22.203SL= 2.178

IP.34IA = 53-29-45

R= 20.000TL=10.080CL=18.674SL= 2.397

IP.35IA =28-39-09

R= 20.000TL= 5.108CL= 10.002SL= 0.642

IP.36IA= 23-14-21R= 20.000TL= 4.113CL= 8.112SL= 0.418

IP34

当初設計 変更仕様 当初設計 変更仕様セグメント外径(mm) 3,250 3,200 3,250 3,250セグメント幅(mm) 300 300 500 500

主桁高さ(mm) 125 100 125 125主桁厚さ(mm) 14 16 14 16

M20(4.6) M20(8 .8) M20(4.6) M20(8 .8)

n=26本 n=39本 n=26本 n=39本※赤字は、変更箇所

曲線半径(m)R=20,30 R=40,45,50,60

リング継手ボルト

Page 7: 高難度な施工条件下でのシールド工事における技術 …...高難度な施工条件下でのシールド工事における技術的対応事例 ― 41 ― 写真2

高難度な施工条件下でのシールド工事における技術的対応事例

― 45 ―

ング分を幅 300mm の縮径セグメント 4 リングに変更し

た(図 12)。

3.4 セグメントの止水性向上

鋼製セグメントでは、シール溝を設けずに継手面の片側

にセグメントシールを貼るのが一般的であるが、シールド

の土被りが 16~27m で、透水性の良い砂礫層と豊富な地下

水が存在していたため、セグメントの止水性確保が課題と

なった。そのため、シームレスタイプの水膨張性シール材

の全周貼りを適用した(図 13、写真 10)。さらに、鋼製セ

グメントの主桁および継手板にシール溝を設けた(図 14)。

シール材がシール溝に封入され、自封作用による接面圧力

の向上を図ることにより止水性を確保した(表 5)。

3.5 曲線部の掘進管理

連続する急曲線の線形管理として、全線にわたってセグ

メントを 1 リング毎にシールド機の姿勢管理値(内側・外

側の余掘り量、前胴方位度、後胴方位角、中折れ角度、ジ

ャイロ方位等)を設定した。

セグメントを線形通りに構築するためには、セグメント

を組み立てるシールド機後胴部の位置を精度良くトンネル

線形に合わせる必要がある。一方、シールド機の切羽先端

とセグメント組立位置は約 5m 離れている。そのため曲線施

工区間では、セグメント組立て位置にシールド機後胴部を

通過させることができるようにセグメント 1 リング毎にシ

ミュレーションを行い、シールド機の中折れ角度や必要余

掘り量、前胴後胴の方位角を設定した。

さらに、机上でのシミュレーション結果と掘進後の出来

形とを比較し、シールド機の中折れ角度と余掘り量の修正

を行い、次の曲線に反映させて曲線掘進精度を向上させた。

発進直後の半径 200m 通過後、100m、50m、30m、20m と徐々

に曲線半径が小さくなったことで、姿勢管理値と実際の掘

図 12 曲線始終端の縮径セグメントの適用

図 14 セグメントシールとシール溝

583

掘進

方向

IA =R =

TL =CL =SL =

IA =R =

TL =CL =SL =

曲線

区間

SW

縮径セグメント適用部

(曲線入口部)

縮径セグメント適用部

(曲線出口)

曲線区間

曲線区間

IP1913-25-16303.5307.0270.207

IP.2011-46-33303.0946.1660.159

IP21IA =36-43-10R = 30

TL = 9.956CL =19.226SL = 1.609

相沢ヶ原橋

シール材

断面積:43.75㎜2

シール溝

断面積:44.0㎜2

目開

き2㎜

目違い3mm

図 13 セグメントシール貼付方法

写真 10 セグメントシール全周貼り(一般部用と急曲線部)

表 5 セグメントシール止水性能検討結果

図 15 曲線部におけるシールド機の方向制御

目開き量設計水圧

PW必要接面圧

r×Pwシール材推定圧縮力

(目違い量3㎜における目開き2㎜時)止水性の照査

(㎜) (MPa) (MPa) (MPa)施工時 2.0 0.3 0.5×0.3=0.15 0.7 OK共用時 2.0 0.2 0.5×0.2=0.10 0.7 OK

r:ガスケット係数(r=0.5)

4955

9.8°

後胴

3030

前胴

2850BC

BC 後胴

3030前胴

2850

シールド機面盤がBC点に到達①

セグメント組立て位置がBC点に到達

内側、外側ともにコピーカッターによる余掘り開始。

①⇒②の掘進中に中折れジャッキにより前胴を徐々に曲線半径に

合わせる。

内側の余掘りは継続(外側の余掘りは停止)

シールド機の中折れ状態を保持したまま、曲線掘進を行う。

9.8°

後胴

3030

前胴

2850

シールド機面盤ががEC点に到達外側のコピーカッターによる余掘りを再開。(内側の余掘りは継続)

セグメント組立て位置がEC点に到達内側、外側の余掘りを終了

EC

EC

③⇒④の掘進中に中折れジャッキにより前胴を徐々に直線に戻す。

シールド機が直線掘進状態を確認し、曲線掘進完了。

外側余掘り(90㎜)

内側余掘り(90㎜)

内側余掘り(90㎜)

外側余掘り(90㎜)

内側余掘り(90㎜)

EC

EC

BC

BC

Page 8: 高難度な施工条件下でのシールド工事における技術 …...高難度な施工条件下でのシールド工事における技術的対応事例 ― 41 ― 写真2

鴻池組技術研究報告 2019

― 46 ―

進線形(出来形)の比較結果を次の曲線の姿勢管理値に反

映しやすく、高精度な曲線掘進の管理手法を確立できた。

図 15 にシールド機の曲線部の掘進管理の概要を示す。

3.6 連続する曲線部の施工性向上対策

一般的に、泥土圧式シールド工法の急曲線施工箇所では、

シールドベルコンを曲線に合わせて屈曲させることが困難

であるため、後続台車を曲線部の手前に仮置きし、1 台の

短い単ベルコンと 1 台のズリ鋼車で数回の往復を繰り返し

ながら排土している。段取り替えが不要となるノンタック

ホースの適用も検討したが、礫地盤では摩擦抵抗が大きく

なり、リボンスクリューの圧力では長いノンタックホース

内で土砂が詰まって排土ができない可能性が考えられた。

そのため、曲線施工区間毎の段取り替えを無くし、日進

量の向上を目的として SC 後方に 12B(φ300 ㎜)の耐圧ホ

ース(3.5m)を取り付け、ホースの先端をスライドできる

ようにして曲線ベルコンと接続させた(図 16)。また、曲

線ベルコンには土砂横溢れ防止用のゴム壁を取り付けた

(写真 11)。

これらの対策により、曲線半径 30m 以下の急曲線区間(25

箇所)での段取り替えが無くなり、工程を 125 日短縮でき

た。さらに、急曲線部では 4.8m/日の日進量となり、標準

日進量 3.1m/日に対して 1.5 倍以上の進捗が確保できた。

また、通常の単ベルコン使用では SC 下のテール部空間が

狭く、シールド機のテール内測量に使用するシールドスタ

ッフも短くなり測量精度が低下する。そこで、耐圧ホース

を SC に直付けにし、スクリュー下部の空間を広く確保した。

そのため、直進部と同じ長いシールドスタッフが使用可能

となり、測量精度の低下を防止できた(図 17)。なお、急

曲線部の測量は 1 リング(30cm)掘進するごとに実施し、

シールド機の姿勢や方向制御に反映させた。また、ジャイ

ロトランシットによる真北測量を 4 回実施し、シールド基

準線の確認を行った。

4.まとめ

西八朔シールドでは、カッタービットの工夫などにより

トンネル線形を基準値内に収めることができ、Mixed Face

地盤を掘進する課題を克服できた。

相沢川シールドは、直上の河川境界が官民境界となって

おり、線形精度の確保が最重要課題であったが、1,200m 掘

進した中間立坑への到達精度は、上下 0 ㎜、右に 30 ㎜と高

精度であった。

2 件のシールド工事は、当社のシールド工事実績の中で

も特異な施工条件を克服した施工事例であり、今後の同様

な工事の参考になれば幸いである。

セグメント台車 3m ズリ鋼車x5台 4tバッテリーロコ3

掘削土の積込み曲線ベルコン

従来のベルコンを使用した排土方法(緩曲線または直線部)

耐圧ホース

3m ズリ鋼車×1台 4tバッテリーロコ3

急曲線部における単ベルコンを使用した排土方法

今回採用した耐圧ホースによる排土圧送方法

単ベルコン

曲線に合わせた屈曲が困難

曲線ベルコン(φ300、3.5m)

シールドベルコン・曲線ベルコンは、

掘削土の積込み

シールドベルコン

セグメント台車 3m ズリ鋼車x5台 4tバッテリーロコ

残土搬出後、セグメントを搬入

① ②

直線部に置き去りにする。

耐圧ホース

(φ300、3.5m)

土砂横溢れ防止用の

ゴム壁

図 16 曲線部における排土方法

写真 11 耐圧ホースによる排土

図 17 坑内測量方法

写真 12 曲線半径 20m の S 字曲線

作業空間が狭いため、測量に時間

を要し、測量範囲も限定され誤差

が蓄積しやすい。

作業空間が広く、作業効率の向上と

機内測量精度が向上。

ベルコンを使用した場合 耐圧ホースを使用した場合

シールドベルコン 耐圧ホース

シールドスタッフ

機内測量スペース

シールドスタッフ

機内測量スペース