出血性胃潰瘍について - Japanese Red Cross Society...本日の内容...

20
出血性胃潰瘍について 松山赤十字病院 胃腸センター レジデント 岩﨑 一秀

Transcript of 出血性胃潰瘍について - Japanese Red Cross Society...本日の内容...

出血性胃潰瘍について

松山赤十字病院 胃腸センター

レジデント 岩﨑 一秀

今回の症例は…

高齢女性が気分不良。救急車で搬送。バイタルは問題なし。

手足も冷たく、顔面も蒼白。まずは見た目の評価を。

(顔色悪いな~ もしかして貧血かな~ )

①血液検査 CBC、生化学、血液型。

②Hb低下を認め、まずは輸血。

③止血するため、緊急内視鏡検査。

貧血を認めたら…

まずは直腸診で黒色便を認めたら、消化器内科コール。 コール… の前に 大事なのは問診。 現在の状態の把握。内視鏡を準備するまでは、 原因究明のため、知りたいのは、HP陽性か、NSAIDs内服はないか?

整形外科受診歴、偏頭痛もち、扁桃腺がはれやすいなどなど。。。

あるある

術後の患者さん。気分不良で、バイタル安定も、血液検査でHb:5台。

→疼痛コントロール目的でロキソプロフェン頓服していた。

整形外科疾患で保存的加療中、心血管系疾患で手術歴あり。

もはや、医原性の病態!

出血性胃潰瘍

• NSAIDsによる上部消化管粘膜障害

• H.pylori 感染

• 他、Zollnger-Ellison症候群、Crohn病など

本日の内容 NSAIDs潰瘍について

①胃十二指腸潰瘍の主要な原因はH.pylori 感染から、NSAIDsへと推移しつつある。

②NSAIDs潰瘍の治療はNSAIDs中止と、PPI投与が原則である。

③NSAIDsを処方する際は、NSAIDs潰瘍の危険

因子を評価する必要がある。高リスク群には予防のためにPPIの併用を考慮する。

非ステロイド性抗炎症薬 Nonsteroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs)

非アスピリンNSAID:解熱鎮痛を目的

(ロキソニン, ボルタレンなど)

低用量アスピリン(LDA):抗血小板療法を目的

(バイアスピリン, バファリン81など)

なぜNSAIDsで 胃に潰瘍ができるのか?

NSAIDs潰瘍の発生機序

NSAIDs潰瘍発症の原因として主にあげられるのがシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害の関与。

COXにはCOX-1とCOX-2があり、このうちCOX-1は細胞に常に存在している「構成型」で、胃粘膜や血管内皮などの生体に存在し、それらの機能を調節している。COX-2はサイトカインなどの炎症の刺激により産生される「誘導型」でマクロファージ、好中球、滑膜細胞といった炎症細胞によく発現する。

NSAIDs潰瘍の発生機序

COX-2の発現上昇

胃酸分泌

COX-1による調節

Normal

粘膜治癒

粘膜欠損

Modulatory action

NSAIDs潰瘍の発生機序

NSAIDsはCOX-2を阻害することで、炎症に関与するプロスタグランジン(PG)の産生を抑制し、

消炎・鎮痛効果を発揮する。しかし、従来の一般的なNSAIDsでは、COX全体を阻害してしまうため、COX-2のみならず、胃粘膜保護などの役割を持つ、COX-1も阻害してしまう。そのため、

胃粘膜の障害を生じる原因となる。更にトロンボキサン(TXA)産生も抑制することで、出血傾

向を亢進させ、出血性潰瘍の合併症を引き起こす可能性もある。

NSAIDs潰瘍の発生機序

COX-2の発現上昇

胃酸分泌

COX-1による調節

Normal

粘膜治癒

粘膜欠損

Modulatory action NSAIDs action

直接障害

COX-1阻害

COX-2阻害

粘膜障害

①胃十二指腸潰瘍の主要な原因は H.pylori 感染からNSAIDsへと推移しつつある。

胃十二指腸潰瘍1822例 (松山赤十字病院胃腸センター:2005年~2012年)

1822例

② H.pylori (+) /NSAIDs(+)

330例 (18.1%)

③ H.pylori (-) /NSAIDs(+)

318例 (17.5%)

④ H.pylori (-) /NSAIDs(-)

252例 (13.8%) ① H.pylori (+) /NSAIDs(-)

922例 (50.6%)

NSAIDs(+):35.6% HP(+):69.7%

胃十二指腸潰瘍1822例の 前期4年間(2005~2008年)と後期4年間(2009~2012年)の比較

0

200

400

600

800

1000

前期4年間 後期4年間

① HP(+) NSAIDs(-)

HP(+)NSAIDs(+)

HP(-)NSAIDs(+)

HP(-)NSAIDs(-)

①583例(57.9%)

①339例(41.6%)

②171例(17.0%)

③146例(14.6%)

④107例(10.6%)

②159例(19.5%)

③172例(21.1%)

④145例(17.8%)

②NSAIDs潰瘍の治療は NSAIDs中止とPPI投与が原則である。

②NSAIDs潰瘍治療はNSAIDs中止とPPI投与が原則。

• 消化性潰瘍治療ガイドラインにおいて、NSAIDs潰瘍の治療は「NSAIDsは中止し、抗潰瘍薬を投与する。NSAIDsの中止が不可能ならば、PPI投与」と記載されている。

• 出血を合併したNSAIDs潰瘍に対しては、内視鏡的止血術とPPIによる治療が有効である。

③NSAIDsを処方する際は、 NSAIDs潰瘍の危険因子を評価する必要がある。高リスク群には予防のため、PPI併用を考慮。

非アスピリンNSAIDsによる胃十二指腸潰瘍の危険因子

• 潰瘍の既往歴

• 高齢

• 抗血小板剤の併用

• 複数あるいは高容量のNSAIDs服用

• ステロイドの併用

• 重篤な全身疾患

確実な危険因子

可能性のある危険因子

H.pylori 感染、飲酒、喫煙

本日のまとめ

• 出血性胃潰瘍の原因はH.pylori 感染からNSAIDsへ移り変わっている。

• NSAIDs潰瘍の治療はNSAIDs中止と、PPI投与が原則である。

• NSAIDsを処方する際は、NSAIDs潰瘍の危険

因子を評価する必要がある。高リスク群には予防のためにPPIの併用を考慮する。