基質小胞性石灰化について細胞 生理学的最近の知見 - UMINSecure Site

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<C onnectiveTissue Vo l .15 No.1 1-12 (1 983) Summary 14 日本結合組織学会総会 特別講演 基質小胞性石灰化について細胞 生理学的最近の知見 小津英浩 新潟大学歯学部口腔解剖学第 l CurrentConceptsoftheMorphophysiology ofMatrixVesicleCalcification HidehiroOzawa DepartmentofAnatomy NiigataUniversitySchoolofDentistry Thisisasummaryandcritiqueaimed at proposing a more consistent inter- pretationof the role of matrix vesicles incalcificationincludingsomeofthecurrent viewsoftheprocessofoverallbiologicalcalcification. Inthis review 1 outlined the fine structural characteristics and localization of matrix vesiclesinvarious .calcifyingtissues and then introduced the pertinent data related tothe cytochemistry and biochemistry of matrix vesicles especially data relatedtothephosphatases }l hospholipids protein-polysaccharidesandminerals. Specialattentionwas paid to a recent paper by Landis and Glimcher(1982) inwhichtheystressedthefailure todetectamineralphaseinmatrixvesiclesand the identification of heterodispersed particlesastheinitialsolid phase of calcium phosphate deposited in the extra- cellular matrix. 1 synthesized a schemedescribinghowcalcificationberegulated bythecellsduringcalcifiedtissueformationmediatedbymatrixvesicles based on Wuthier'srecenthypothesis. Finally 1discussedonthesubsequentialcalcification thatisgrowthhydroxyapatitecrystalsbeingacontinuationbydirect extentionand secondary nucleation from a previously formed seam ofcalcifiedtissueandnot frommatrixvasicles. 骨や歯などいわゆる石灰化硬組織や,病的に 生ずる種々の異所性石灰化など生体におけるミ ネラルの結晶化を生物学的石灰化 biological mineraliza tionと総称するが,その機構につい ては不明な点が多い。 石灰化機構に関する説は,歴史的に 1920 年代 Robisonによるアルカリ↑生ホスブァターゼ 説(押し上げ説), 1950 年代の Neuman らのエ ピタキシー説(表面触媒説)を経て, 1970 年に

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<Connective Tissue Vol. 15, No. 1, 1-12 (1983)

Summary

第14回 日本結合組織学会総会

特 別 講演

基質小胞性石灰化について細胞

生理学的最近の知見

小津英 浩

新潟大学歯学部口腔解剖学第 l

Current Concepts of the Morphophysiology

of Matrix Vesicle Calcification

Hidehiro Ozawa

Department of Anatomy, Niigata University School of Dentistry

This is a summary and critique aimed at proposing a more consistent inter-

pretation of the role of matrix vesicles in calcification including some of the current

views of the process of overall biological calcification. In this review, 1 outlined

the fine structural characteristics and localization of matrix vesicles in various

.calcifying tissues, and then introduced the pertinent data related to the cytochemistry and biochemistry of matrix vesicles, especially data related to the phosphatases, }lhospholipids, protein-polysaccharides and minerals. Special attention was paid to

a recent paper by Landis and Glimcher (1982), in which they stressed the failure

to detect a mineral phase in matrix vesicles and the identification of heterodispersed

particles as the initial solid phase of calcium phosphate deposited in the extra-

cellular matrix. 1 synthesized a scheme describing how calcification be regulated

by the cells during calcified tissue formation mediated by matrix vesicles based on

Wuthier's recent hypothesis. Finally, 1 discussed on the subsequential calcification, that is growth hydroxyapatite crystals being a continuation by direct extention and

secondary nucleation from a previously formed seam of calcified tissue and not

from matrix vasicles.

骨や歯などいわゆる石灰化硬組織や,病的に

生ずる種々の異所性石灰化など生体におけるミ

ネラルの結晶化を生物学的石灰化 biological

mineraliza tionと総称するが,その機構につい

ては不明な点が多い。

石灰化機構に関する説は,歴史的に1920年代

の Robisonによるアルカリ↑生ホスブァターゼ

説(押し上げ説), 1950年代の Neumanらのエ

ピタキシー説(表面触媒説)を経て, 1970年に

- 2ー 結合組織

至り Bonucci,Andersonらの基質小胞説へと

発展し今日に及んでいる。しか しながら生体の

石灰化現象は極めて複雑な要因を含み,現在な

お,石灰化機構を説明し得る一貫した説は確立

されていない。

生物学的石灰化過程は一般に細胞による有機

性基質の形成と石灰化 (結晶化)開始部位の設

定, Ca, P等ミネラルの細胞による調節,石灰

化開始部位でのミネラルの集積,結晶化. と石

灰化量や速度の調節という極めて細胞学的因子

の強い部分と,一旦結品が形成されるとその後

の結晶成長や結晶成熟化にみられるような物理

化学的,鉱物学的要因の世l~ 、部分とが混然一休

となっている点が特徴的である。それ放,生体

石灰化機構は,便宜的に細胞学的要因の強い初

期石灰化機桝と,引き続いて起こる物理化学的

要因の強い二次的(添加的)石灰化機構に分けら

れる。ここでは特に初期石灰化機構に注目 し,

基質小胞ならびに 細胞の役割について論じた

し、。

基質小胞の発見と形態学的特徴

基質小胞 (matrixvesicles)とは最初に'骨端

軟骨縦隔基質中に見出された (Bonucci,196T) ;

Anderson, 1967引), 細胞外の膜性小器官であ

る。生体膜で固まれたこれらの小胞構造は直径

約 30-300nmで,骨端軟骨では平均約 70nm

の直径を有するものが最も多い (Fig. 1)。 内

部構造は 明るい均質性のものから電子密度の

高い,不均質のものまで多様であり,石灰化開

始部位では特徴的に結品様椛造物がその内部

や,膜の内業に沿って出現する (Fig.2)。結晶

様構造物は次第に基質小胞内を満たすようにな

り,遂には小胞膜外へと突出する傾向を示す。

さらに石灰化が進行した背11位でーは,小胞Il莫はl新

裂し,結晶様梢造で・覆われた小JJ包は不明瞭とな

るが,脱灰するとそこに膜の断片を見出すこと

ができる。軟骨内石灰化はこのようにして基質

小胞構造を中心に開始され,進行し (Fig.3),

軟骨性骨梁形成を行うが,このような石灰化開

始像は膜性化骨部位にも,象牙質の石灰化開始

f刊行立に も認められ,間葉性の硬組織石灰化開始

機構にはこの基質小胞が重要な役割を果してい

ることが明らかにされつつある。

一方,上皮1生石灰化組織であるエナメル質のー

Fig. 1. Matrix vesicles (MV) in the longitudinal septum at the hypertrophic cell zone of a rat epiphyseal plate. x 4000

特別講演 - 3 -

Fig. 2. A higher magnified matrix vesicles

seen in the similar region to that of Fig. 1. Vesicles filled with electron dense materials contain needle.like structures (arrows). x 100000

① Fig. 3. Fairly advanced calcification in epト

physeal cartilage with many clusters of

crystal spherules. Note, no matrix vesicles can b巴 seen within crystal spherules.

x 50000

石灰化開始部位には基質小胞は見出されておら

ず,基質小胞以外の石灰化誘導機構も考えられ

ているが, Bernardら (1981)3) は,エナメル

質の石灰化はすでに石灰化した象牙質が存在し

てはじめて生じ得るために,エナメル質の石灰

化も また基質小胞性石灰化としてみなすべきで

あると主張している。 さらに, 動脈硬化症にお

ける石灰化や,その他の異所性石灰化部位にも

基質小胞が見出され (Kim,1976) 4にまた,歯

石形成に関与するある種の細菌 (B.matru

clwttii)では,菌体内 での 石灰化がみられ

(Ennever, et al., 1973) 5に これも基質小胞性

石灰化と同じ機構的特徴を有するものとされて

いる。最近 Boyde ら (1981) 6) は, myelo-

blastosis-associated virus MA V-2 (0)によっ

て感染した幾匪の骨には骨芽細胞からの virus

の発芽が顕著で, 生じた virusは基質小胞様

に内部に結晶様構造が出現するものが多く,

virus 生石灰化を基質小胞性石灰化と関連付け

て論じている。このように,生体のあらゆる石

灰化が直接,間接的に基質小胞{生石灰化に関係

している可能性を示唆する情況証拠は,比較発

生学的知見も含め, ますます増えつつある。

基質小胞の酵素細胞化学的,生化学的特徴

基質小胞が発見され,石灰化との関連性が形

態学的に指摘されはじめると間もなく,基質小

胞は生化学者によって分離され,生化学的特徴

が次々と明らかにされた。最初に骨端軟骨から

基質小胞を分離した Aliら (1970)7) は, ま

ず,これらの小胞が強いアルカリ性ホスファタ

ーゼ (ALPase),A TPase, ピロホスファター

ゼ (PPase)活性を有することを示し細胞化

学的に石灰化開始部位の基質小胞膜に ALPase

活性の局在を見出した Matsuzawa と An-

derson (1971) 8) の所見を生化学的に裏付けた。

このような基質小胞の強い ALPase活性と石

灰化機構との関係は, Robisonのホスファター

ゼ説の更生えりとして注目を集めた。 ALPase活

性の石灰化に対する機能的意義は,最初 Aliら

(1973) 9) による HCaの基質小胞への取り込み

実験でリン酸の押し上げ機構と関連して実証さ

れたかにみえた。すなわち,in vitroで分離し

た基質小胞への "'Caの取り込みが ALPase活

- 4ー 結合組織

性の熱失活性とパラレルで、あることを見出した

Aliらは,そこに ALPaseによるリン酸の押

し上げがあり, しかも ATPを基質とした場合

にも 45Caの取り込みが上昇することを確かめ,

45Caの能動的取り込みの可能性も示唆した。

ところが,この実験では 45Caが基質小胞中へ

取り込まれ, CaPiを形成したとL、う直接的な

実証とはならず,単に用いた mi!iporefilter上

への 45CaPiの沈殿である可能性が指摘された。

すなわち, Fe!ix と Fleisch(1976) 10)は小腸

上皮細胞由来の ALPaseを熱失活した基質小

胞に加えても 45Caの取り込みと同様の結果が

生じ得ることを実証し Aliらの実験結果は

CaPiの小胞外での沈殿をみているに過ぎない

と主張した。

さらに基質小胞の Ca-ATPaseは Caイオン

によってその活性はむしろ抑制されることも知

られており,また後述するように基質小胞の形

成が細胞からの発芽によるとするならば Ca-

ATPaseによる Caの取り込みは生物学的に矛

盾する (Ca-ポンプの方向が逆)ことにもなり,

基質小胞への Caの能動的取り込み機構は細胞

外基質に充分な ATP等の有機リン酸エステル

が存在しないことなどとともに否定的な意見が

多い。 しかし Fe!ixと Fleischの批判に対し

Aliら (1981)山は最近基質小胞を血液凝固の

際生じる fibrinの網工中に集める方法を考案

しそれを用いて 45Caの取り込みと, ATPase

活性, 熱失活性などの一連の実験を試み, 低

Caイオン濃度では明らかに ATPaseの作用

により ATPの存在下で、基質小胞中に 45Caが

取り込まれることを実証したが,生理的条件下

では Caの取り込みは拡散的,または結合的で、

あることも明らかに示している。そして基質小

胞へのこのような Caの取り込みは石灰化の第

一段階であり,引き続いての石灰化が ALPase

活性の作用によりリン酸の押し上げとピロリン

酸等の阻害を除去して進行することを示唆し

ている。 Vaananen(1981) 12) はまた percoll

mediumによる濃度勾配法を用いて基質小胞を

分離しそれらが lysosomalenzymeをまっ

たく含まず, A TPase, inorganic pyrophos-

phatase, ALPase活性を有する単一の酵素を含

んでいることを示した。同様な事実は Majeska

と Wuthier(1975) 13)によっても報告されてお

り,基質小胞に見出されるこれら 3種の酵素は

同一酵素に由来するものと考えられる。 Fe!ix

と Fleisch(1976) 10)は基質小胞の pyrophos-

phatase活性の至適 pHは生理的基質濃度では

ほぼ中性領域にあることを明らかにし基質小

胞の phosphataseは主として pyrophosphatase

として作用する可能性を指摘している。

このように基質小胞の phosphatasesは主と

してピロリン酸の加水分解による石灰化阻害の

除去と,同時に遊離のリン酸イオンの押し上げ

をしている可能性が強く示唆されているが,前

述のごとくこれらの phosphatasesは中性領域

で広い基質特異性を示し, ATPやその他の各

種リン酸エステルを加水分解する可能性は否

定できない。 Hsuら (1981)w は基質小胞の

ATPaseは pH7.2で Ca2+によって活性化さ

れ,この中性領域の ATPaseは少量の ATP

(0.25 mM) で maximumの活性を示すことを

見出し中性領域で ATPaseの石灰化に果す

役割を示唆している O

基質小胞と脂質

基質小胞と脂質との関係は,発見の当初から

オスミウム好性の特徴などにより形態学的にも

指摘されていた。しかしその後,分離された基

質小胞の分析結果は,この小胞がリン脂質,特

に phosphatidylserine(PS)を高濃度に含むこ

とを明らカミにし (Reresら, 197415); Wuthier,

1975) 1ペこれらのリン脂質と石灰化との関係

が論議されはじめた。石灰化開始部位に脂質が

存在することは lrvingによる組織化学的研究

からも明らかにされていた事実で、ある。さらに

Wuthier (1971) 17)は骨端軟骨各層の脂質を生

化学的に分析し脂質,特に phosphatidyl-

serine, phosphatidylinositolなどの酸性リン脂

質が石灰化開始部位,すなわち肥大細胞層から

石灰化層にかけて増加し,軟骨性骨梁が完成す

ると減少することを見出した。分離した基質小

胞に高濃度の PSが含まれている所見は, さら

に脂質の局在部位を限定し,従来の酸性リン脂

質の石灰化に果す役割について invitroの実

験を一歩進めるきっかけを作った。酸性リン脂

特別講演 -5-

賀が Caと強い親和性をもち,in vitroで石灰

化を導き得ることはよく知られた事実で、あり,

特に PSは Caとの親和性が著しく, Caと結

合してリン酸カルシウム・リン脂質複合体 (Ca-

Pi-PS) を形成するといわれている (Boskey,

1978'8))。このように PSは Caと結合し,不定

形のリン酸カルシウム複合体を形成すると同時

に安定化しそれらのアパタイトへの転換を抑

制していると考えられている。従ってアパタイ

トへの転換の為には PSを加水分解的に除去す

る必要があるとされ,事実,骨端軟骨の石灰化開

始部位ではその分解酵素である phospholipase

A2の活性が高い (Wuthier,1973) 19)。

基質小胞とタンパク・多糖体

タンパク多糖体もまた Caとの結合性に富

み,石灰化開始部位に多く,それらは石灰化の

進行とともに減少することが組織化学的にも生

化学的にも指摘されている。それらは細胞外基

質中で Caをトラップし,石灰化を抑制してお

り,石灰化開始時には分解され, Caを遊離し,

石灰化の進行を促す可能性が示唆されて来た。

基質小胞と多糖体との関係は細胞化学的に

Bonucci (1970) 20), Silbermann と Frommer

(1974) 21)により中性ないしは酸性ムコ多糖体

との関係が,また Scherftら (1981)22)によっ

て Thoriumdioxide可染性の多糖体が小胞膜

から放射状に配列して存在しそれらの染色性

は結晶化の進行に伴い消失して行くことが示さ

れた。一方 Howellら(1968)23)は微小穿刺法を

用いて骨端軟骨各層を検索した結果,増殖層は

タンパク多糖体に富むが,肥大細胞層から石灰

化層にかけてそれらが消失することを示し石

灰化抑制作用をもっこれらのタンパク多糖体が

石灰化部位で酵素的に分解される可能性を指摘

した。坂田ら (1981)24)はまた, ブタ鼻中隔軟

骨から分離した基質小胞中にプロテオグリカン

(PG)を加水分解する proteaseの存在する可

能性を基質小胞による PGの加水分解性により

明らかにし藤原 (1982)25)はさらに,それら

の基質小胞から分子量約 48,000,至適 pH6.5の

proteaseを抽出 L,それらが石灰化の抑制因子

であるタンパグ多糖体を加水分解して除去し

結晶化を促進させる可能性を示唆した。基質小

胞に PGを加水分解する酵素の存在する可能性

は細胞化学的に ThybergとFriberg(1972) 26)

によって酸性ホスファターゼ (ACPase)活性の

局在性と関連して指摘されていたが,その後の

細胞化学的研究では基質小胞に ACPase活性

の局在する割合は極めて少ないとされている O

さらに前述のごとく percollmediumで分離L

た基質小胞には lysosomalenzymeが含まれな

いという Vaananen'2)や,初期の Ali')らの

生化学的検索結果とも藤原らの結果はやや異な

り,今後の検討がまたれる。

これらの他に基質小胞には非コラーゲン性タ

ンパクが存在しそれらが Caや Piをトラッ

プする可能性も示唆されているのuentherら,

1975)2ヘWarnerとWuthier(1981) 28)は non-

digestive methodで分離した基質小胞の Ca,

Piの取り込み実験を伺い, trypsin処理で Ca

の取り込みが強く抑制されることから,基質小

胞には trypsinsensitiveな Ca-porterprotein

が存在することを暗示しており, Ca親和性の

強い Glaタンパグや osteonectin との関係も

今後の問題として残されている。

以上のごとく,基質小胞にはリン脂質,多糖

体,タンパクなど Ca親和性の強い構造物が含

まれ, 石灰化の initiation に関係するととも

に,アパタイトへの転換を抑制している可能性

なども示唆されており,事実,それらを裏付け

る形態学的ないくつかの知見もみられる。例え

ば,未脱灰切片を酸または EDTAで脱灰する

と結晶様構造の多くは消失するが,その切片に

Ur, Pb, PTA等でで、染色を施すと結晶様構造

と同様の形態を示す構造物が再び出現する。

Bonucci (19貯71日)2却削9叫}はそれらを“

と称しており,タンパグ,多糖体の可能性を示

唆している O また,未脱灰標本に pH6.0の酢

酸ウランでブロック染色を施すと,不安定な溶

出し易いミネラルが流出し,同じ部位に直径約

3nmの平行に走る構造物が残る。基質小胞中

にみられるこれらの構造物の多くは生体膜の内

葉に沿っており,同様の構造物は初期の石灰化

球を構成する結品様構造の部位にも認められ

る。 これらも恐らく crystalghostsの一種で

あり, その形態類似性, Urによる固定効果等

- 6 ー 結合組織

を考えるとリン脂質の可能性も考えられる。こ

れらはさらに石灰化の進んだ部位で、はもはや認

められないので,石灰化進行過程で消失(加水

分解) してしまうものと思われる。 この事実

は,基質小胞内の結晶様構造物や初期石灰化球

の電子回折像が的確なアパタイトのパターンを

示さないという所見とも一致しそれらの多く

が不定形リン酸カルシウム (ACP)の形態を呈

している可能性を示唆している。

基質小胞とミネラル

基質小胞における Caや Pなどミネラルの

局在とそれらの性状に関してはなお論議の絶え

ないところであり, 特に形態学的には方法論

上,多くの問題点が残されている。

言うまでもなく,基質小胞性石灰化論の基礎

となっている所見は,基質小胞中の結晶様構造

とそれらの脱灰による消失,ならびに電子回折

によるアパタイトパターンなどである。 しか

し電解質や溶出性の Caや Pの局在につい

ては通常の方法では把えることができないの

で, まずいくつかの細胞化学的方法が試みら

れ, Caや Pの局在性について新しい知見がも

たらされた。例えば今日カルシウムの電顕的検

出法としてひろく用いられているピロアンチモ

ン酸 (PPA)法もその 1つである。この方法を

用いて骨端軟骨を観察し, Caの局在を明らか

に Ltこ Brightonと Hunt(1974) 30) は, Sbと

反応し不溶性沈殿物として検出された Ca-Sb

が,増殖層から肥大細胞層下部に至る軟骨細胞

の細胞膜, ミトコンドリアと肥大細胞層上部か

ら石灰化層に亘り存在する基質小胞に顕著に認

められるところから,石灰化に先立ち,細胞内

への Caの取り込み,そのミトコンドリアへの

貯蔵と放出,そしてそれらの基質小胞への受け

渡しと石灰化開始という一連の可能な機能につ

いて論じている。 このように基質小胞が, Ca

や Pを高濃度に含んで、いる可能性は他の硬組

織でも,種々の細胞化学的方法により明らかに

された。しかし細胞化学的方法は反応の非特

異性,反応時のミネラルの移動,流失等の問題

を内在しており,得られた結果に対する信頼性

にやや欠ける点があったため, より生理的状態

に近い形態学的観察法が切望された。そこで,

不活性脱水法,凍結置換法,凍結超薄切片法など

の化学反応を用いない固定方法がこの研究分野

にも導入された。その結果, ミトコンドリアや

基質小胞中にCa/Pモル比が0.8-1.0位のミネラ

ルが不定形の状態で、含まれている可能性が元素

分析法と電子回折法で示され,基質小胞への不

定形リン酸カルシウムの集積とそのアパタイト

への転換が形態学的にも考えられるようになっ

た。特に,無固定の凍結超薄切片法は今日考え

られる電解質等ミネラルの微細局在検出法とし

ては最も idealな方法であり,その結果は元素

分析法や電子回折法を併用することにより,局

在のみならず,局在する物質の性状を把えるこ

とができるという点で高い信頼性と評価を得て

いる。 Aliら (1978)3[) は,この方法で骨端軟骨

を観察し特に基質小胞についての元素分析を

行った結果,石灰化層に近づくにつれ,基質小胞

中の Ca/Pの massratioが増加し,石灰化開始

部位ではその値が 2.15を示すことから, それ

らがアパタイトである可能性を示唆し基質小

胞による石灰化開始機構の妥当性を強調した。

Aliらの結果は細胞化学的な Ca検出法の結果

ともよく一致し, 基質小胞性石灰化機構の解

釈をより確実なものとする所見の 1っとして

評価された。 ところが, Landisと Glimcher

(1982) 32) は,骨端軟骨での同様な観察の結果p

基質小胞中には so1idphaseの Ca,Pは存在

せず,主として Pが元素分析により見出され

ることと, むしろ基質小胞外の基質中に直径

20-80nmの穎粒 (heterodispersed electron

dense granules, HEDG)が出現しそれらが

Ca, Pを含み,そのそル比が増殖層から石灰イヒ

層にかけて漸増し,遂には電子回折によってア

パタイトを形成する構造物になることを示し

た。この所見は A1iらの結果とは相反し, 従

来の基質小胞性石灰化機構に疑義を投じ, しか

も基質ィ、胞の石灰化に果す直接作用を否定して

いる O すなわち,基質小胞はそこでアパタイト

を形成するというよりはむしろ HEDGの形成

に関与し形成された HEDGは基質の meta-

stabilityを上げることにより, Ca, Pの solid

phaseへの転換を nucleation機構のもとに物

理化学的に行うものであろうと論じている。従

特別講演 一 7-

って基質小胞は nucleationを調整する役目を

果し,基質小胞の Caーポンプやホスファターゼ、

活性は Caの小胞外への放出と, P産生の律速

化に関係する可能性を示唆している。同様の穎

粒構造はすでに骨端軟骨の凍結切片で,特に石

灰化球に近接して多く存在することが報告され

ており,それらの頼粒の多くが約 2nmの微細

な針状構造を含み, EDXによる分析結果や電

子回折所見からは非結晶性(不定形)のリン酸

カルシウムであろうとみなされ, しかも,これ

らの穎粒の多くはその形態類似性や分布状態か

ら恐らく基質小胞であろうと論じられている

(小沢, 1978) 33)が, それを直接証明した所見

は示されていない。 Landisらの指摘により新た

な局面を迎えようとしている基質小胞性石灰化

の研究に対し,果して HEDGが基質小胞とは

無関係な構造物であるか否か,あるいはまた,

HEDGが切片作成時に生じた人工産物である

か否か等の問題を含め,今後凍結切片技法の改

良等を行い,より厳密な検討を要するものと思

われる。

石灰化における細胞の役割と基質小胞の形成

骨芽細胞,象牙芽細胞,軟骨細胞など石灰化

組織における形成系の細胞の主な役割は有機基

質の形成にあるが,石灰化に対しても共通して

直接的な作用を営んでいる可能性も多くの情況

証拠が示している。例えば, 強い ALPase,

PPiase, A TPase活性は, リン酸イオンの押し

上げや石灰化阻害物質の除去作用 Ca輸送と

関連して論じられ, またミトコンドリアへの

Caや Pの集積と消失の現象は,石灰化に対す

る細胞の直接作用のー表現型として理解される

場合が多い。石灰化と関連した細胞の構造と機

能の変化については,骨端軟骨で特に system-

aticな観察がなされている。前述の Brighton

と Hunt(1974) 30)の PPA法による細胞化学

的研究では,骨端軟骨細胞は増殖層から肥大細

胞層へと分化する聞に, ミトコンドリア中へ

Ca, Pを貯蔵し肥大細胞層から石灰化層に至

る聞に,それらを放出し,基質小胞へ受け渡し

て石灰化を導くことを強く示唆している。軟骨

細胞のミトコンドリア中における Ca,Pの増

減は,軟骨各層の有効酸素分圧の変動とグリコ

ゲンの消長に関係するとされており,グリコケ、

ンの消耗に伴い, Caが放出されるものと推測

されている。 しかし果して石灰化を initiate

するのに充分な Caをミトコンドリアが調節し

ているか否かの定量的な結果は示されていな

L 、O

これらミトコンドリア頼粒 (Ca,P)がもし

直接石灰化に関与し石灰化を調節していると

するならば, ミトコンドリアからの Caの放

出,引き続いての細胞外への Caの放出が必要

となる。細胞がある限られた環境中に Ca,Pを

放出すると,その細胞外基質は Caと Pのよ

り準安定な状態となり,そこに solidphaseの

Ca, Pによる heterogenousな nucleationの

場が形成される可能性を Glimcher(1976) 34)

は指摘したが, Landisと Glimcher(1982) 32)

の HEDGは形態学的にその可能性の一端を実

証したものと考えられる。 Heterogenousなnu-

cleation sites の考えとは別に, Lehninger

(1970)はミトコンドリア頼粒が直接細胞外に

分泌され, コラゲン線維等特定の nucleation

sitesに沈着して石灰化を惹起すると考えてい

るが, この考えを支持する形態学的知見はな

L 、。

ミトコンドリア頼粒については, 石灰化以

外に,細胞の分化,転型に関与するという説p

(Rasmussen & Bordier, 1974)35),細胞機能の

調節,細胞を介しての輸送に関するなどの諸説

があるが,何れも推測の域を出ない。しかし

最近,基質小胞の形成にミトコンドリアから放

出された Ca2+が関与していることを示唆した

興味深い所見が提出され (Wuthier, 1981) 3ベ基質小胞性石灰化を理解する上で重要と考えら

れるのでここに紹介する O すなわち, Wuthier

(1973) 19) は,骨端軟骨肥大細胞で Ca2十により

活性化される phospholipaseA2 の存在を明ら

かにしその結果, 分解産物である lysophos-

pholipids (LPL)が,主として細胞膜に蓄積す

ることを見出した。この LPLは細胞膜中に増

加すると細胞膜の変性による電解質の透過性が

高まるとともに細胞骨格が破壊され,細胞に突

起形成などの形態変化をもたらすことは赤血球

でよく知られているが, Wuthierらは同様の

- 8ー 結合組織

変化が,肥大細胞層以降の軟骨細胞に生じ得る

ことを示したわけで、ある。そして, ミトコンド

リアから放出された Caは細胞質中で直ちに

Ca. Piとなり, それらは細胞膜内葉に多い

phosphatidyl serine (PS) と特異的に結合し

て, Ca-Pi-PS複合体を作る可能性を示唆した。

しかもこの複合体は膜癒合を引き起こすため,

そこで発芽状に Ca-Pi-PSを多量に含んだ基質

小胞が形成され,分泌されるのであろうと推論

したのである。発芽的に分泌される基質小胞が

その膜に Ca複合体を結合しているであろうこ

とは,細胞化学的方法で Caを検出した結果か

らも明らかにされている。

基質小胞がこのように細胞膜の発芽形式で分

泌されるであろうことは,発芽状態を直接示し

た透過電顕所見,凍結割断所見,細胞化学所見

(ALPase活性の局在類似性, Ca局在の共通性

など), 免疫細胞化学的所見等の形態学的所見

をはじめ,分離した細胞膜と基質小胞膜の性状

の生化学的類似性などからもひろく支持されて

いる。しかし基質小胞の形成に関しては未だ

意見の一致はみられておらず,いわゆる開口分

泌や全分泌(細胞死に起因する膜の断裂と小胞

化)の所見を示す例も多い。特に後者の所見

は,骨端軟骨や線維軟骨に多く認められ, ま

た,病的石灰化部位における基質小胞の由来も

細胞死に求める報告が多い。

基質小胞様構造物が細胞の変性,死に由来す

ることは,基質小胞の形態の多様性も説明し得

る。すなわち,骨端軟骨の場合には,基質小胞

はすでに静止細胞層で出現しそれらはなんら

石灰化との関連性を示す細胞化学的特徴を持た

ない。増殖層,肥大細胞層へと細胞は分化し

その分化に伴って新たに形成された基質小胞が

添加されて行くが, この過程で多くの軟骨細胞

が変性,死滅しその残遺が細胞間基質中に取

り残され,次第に小胞化して,すでに形成され

た比較的均質な様相を呈する基質小胞中に混入

する。その結果,多様な形態を示す基質小胞が

出現することになるのであろう。従って,それ

らの小胞群のうち, ALPase陽性で Caを含ん

でし、る小胞が,石灰化に直接関与する基質小胞

として機能していると考えられる。また,細胞

化学的にも生化学的にも基質小胞中に少数では

あるが酸性ホスファターゼ活性陽性の基質小胞

の存在が認められているが,それらも恐らく,

細胞の死に起因する基質小胞の 1つであろう。

このように,骨端軟骨の場合には,石灰化と無

関係の多くの基質小胞が混在するものと思わ

れ,それらは石灰化の進行に伴い,石灰化軟骨

組織中に埋め込まれ,そのまま第一次骨梁のー

構成分となるのであろう。従って,軟骨性石灰

化部位は軟骨細胞の分化,成熟過程で変性し,

死滅した細胞を片づ、ける“graveyard"の役割

も果していると考えられ,生体における石灰化

現象に共通した現象の 1っともみなされる。結

局,このようにして埋め込まれた細胞片は,骨

梁の改造現象に伴い何れは破骨細胞によって消

化,吸収され,消失する運命を辿るのである。

初期石灰化機構と基質小胞

以上,基質小胞と石灰化開始機構について現

在までどのような研究が行われ,何が解明され

ているかについてその概略に触れたが,基質小

胞性石灰化理論は,その発見から十余年たった

現在なお確立していない。しかも前述のごとく

最近に至り,基質小胞に関する研究は新たな局

面を迎えようとしている。ここでは,基質小胞

の石灰化に果す役割を従来の所見をもとに簡単

にまとめ,基質小胞による石灰化機構が現在ど

のように考えられているかを,第2回,および

第 3回国際基質小胞会議での総括をもとに触れ

てみたい。

基質小胞は細胞により形成され,細胞外基質

の一定の部位に局在するようになるが,この過

程はコラゲンや各糖体等高分子物質の形成,分

泌とほぼ同時に起こるものと考えられ,基質小

胞はこれらの線維や多糖体の網目にとじ込めら

れるようにして,その局在部位が決定されるの

であろう (Fig.4)c 分泌された基質小胞は自

動的な運動は行えないため,その位置は体液の

流動,細胞の分裂,肥大等による影響,そして

基質での高分子物質の重合等によって決められ

るが,基質小胞自身に actinfilamentsが存在

することから,膜流動や多少の収縮を起こす可

能性のあることが示唆されている。このように

して,特定の時期に基質小胞が形成され,特定

特別講演 - 9

① OSTEOBLAST

COLLAGEN

CALCIFICATION

MATRIX VESICLE

CALCIFICATION

Fig. 4. Scheme of the presumed process of matrix vesicle formation, matrix vesicle calcification and subsequent collag巴ncalcification.

日IC" 11 区匹十IAPATlTEI

O-ーイ叩ヰ百 (Mg")

c.2,ごと竺竺主上 、/ ¥ _ea2.... p~ d 、、

(1・wCQ)

H~

① CALCIUM REGULATION MATRIX VESICLE CALCIFICATION

Fig. 5. Scheme for calcification mechanism in matrix vesicles, See text for details,

の部位に局在するようになることは, とりもな

おさず,石灰化開始時期とその部位の決定を意

味しこのことが基質小胞の最も重要な役割の

1っと考えられる O すて'1こ述べたように,基質

小胞の機能としては,そこに能動的な Caや P

の押し上げを求める考え方と,触媒的な役割を

求める考え方が相対立しており,なお論争が続

いている O しかし第 2回国際基質小胞会議で

の Anderson(1978) 37) の総括によると, 1)

基質小胞に含まれる高濃度のリン脂質と石灰化

との関係(¥へTuthier,1968)は, Irvingの脂質説

(1963) に相当し, 基質小胞の局在部位は,

Irvingによって染め出された脂質の部位に一

致すること, 2)基質小胞に強い活性を示す

ALPaseは, Robisonのホスファターゼ、説

(1923) を復活さぜ, 事実,in vitroでクル病

- 10 結合組織

ラットの軟骨組織で ALPaseの阻害剤を作用

させると,基質小胞の石灰化は阻害されること,

3)基質小胞は Lehningerの micropacketsに

構造的な類似性をもち, ミトコンドリアからの

Ca,Pを取り入れ, この取り入れた Ca,Pを石

灰化開始部位まで運ぶ役目を果している可能性

を有し, Brightonらもその可能性を細胞化学

的に示している。しかし Caや Pの取り入れ

は基質小胞が細胞を離れてからも行われるであ

ろうこと, 4)基質小胞が pyrophosphataseや

ATPase活性を有していることは, Fleishと

Neuman (1961)によって提唱された阻害物除

去説を裏付けており,共に不定形リン酸カルシ

ウムを安定化さぜ,アパタイトへの転換を阻害

しているピロリン酸や ATPを除去することが

できること, 5) 基質小胞の膜の存在は, 局所

的に Caや Pの濃度を能動的に押し上げるこ

とができると考えた Neumanらの仮説を裏付

けたものであり,局所における CaXP濃度積

の押し上げを酵素的に行っている可能性のある

こと,そして最後に, 6) 基質小胞は細胞から

分泌された膜性の小器官で、あるが放に,細胞外

の局所において,石灰化に対して果す細胞の役

割を代行していること, などを挙げている O

1981年イタリアで開催された第 3回国際基質小

胞会議では,以上の可能性を裏付ける多くの所

見が報告されたが, Wuthier36l はここで,骨端

軟骨における基質小胞性石灰化の過程を基質小

胞形成過程と基質小胞による石灰化開始機構の

2つの過程に要約して次のように説明してい

る。最初の基質小胞形成過程は,すでに述べた

ように軟骨細胞による Ca,Piの取り込みと,

ミトコンドリア中への貯蔵と放出現象に関連し

て生ずる膜の癒合と発芽現象であるとみなして

いる。次いで基質小胞は細胞外基質中でさらに

Ca, Piを取り込むが, これはすでに基質小胞

中に存在する不溶性, 非結品性の CaPiによ

り, facilitated diffusion による取り込みと考

えられている。この取り込みが能動輸送による

ものであろうとする説はなお根強く残っている

が,最近報告されつつある多くの情況証拠は,

能動輸送機構を否定している。その主な根拠

は, ATPその他の nucleotidetriphosphates

が細胞外に欠如しており,細胞化学的所見やそ

の形成由来からも Caーポンプは逆方向を向いて

いることなどが挙げられている。基質小胞に強

く認められる ALPaseについても, phospha-

taseとして作用するのではなく, Piの拡散を

facilitateする役割を果しているとも Piの

carrier proteinとして作用する可能性も示唆さ

れている。 Phospholipaseや pyrophosphatase

の存在は非結晶性,不定形リン酸カルシウムを

安定化しているリン脂質やピロリン酸を除去し

て,アパタイトへの転換に作用していると考え

られ, ATPaseについても同様に,アバタイト

への転換を阻害している ATPの除去に関与し

ているとも考えられている O 基質小胞中にはさ

らに多量の Mgが検出されているがゆzawa,

et al., 1983) 38に これも ACPの安定化に一役

買っているといわれ (Boskey,1974) 39), phos-

pholipaseの活性化で,基質小胞膜に lysophos-

pholipaseが蓄積した結果, 膜が leakyにな

り, Mg2+が小胞外に放出され, ACPのアパ

タイトへの転換を容易にしているとし、う。以上

の Wuthierの仮説を中心に, 基質小胞性石灰

化を図示したのがFig.3であるが, Landisらは,

ミトコンドリア中の Ca,Piについても,基質

小胞の場合と同様,直接石灰化と関係するもの

でないことを示しており,以上の仮説について

も,今後より厳密な検討が必要とされよう。

二次的・添加的石灰化

以上の基質小胞性石灰化に引き続いて起こる

石灰化がし、かなる機構によるかについてはなお

不明の点が多い。しかし形態学的所見は,コ

ラゲン線維上の石灰化が石灰化基質小胞に直

接, または近接した音Il位から生ずることを示し

ており (Katchburian,1973)山,鉛をトレーサ

ーとして投与した場合にも,鉛は最初基質小胞

中に,次いで基質小胞の石灰化が進行し結晶

が膜の外へ伸び出すとコラゲン線維に沈着する

ようになり,添加的石灰化の開始には基質小胞

とコラゲン線維の位置的関係が重要で、あること

を示唆している (Ozawa,et al., 1981) 41l。 こ

のように基質小胞性石灰化から近接するコラゲ

ン線維への石灰化の移行は epitacticな機構に

よると考えられているが, さらに基質小胞に

特別講演 -11-

いる。proteaseが含まれている所見や, 基質小胞の

ATPase活性が基質小胞膜の変性, 断裂に伴

い,これらの酵素を小胞外へ分泌し,基質小胞

をとりまく微小環境を石灰化し易い状態、に変え

る可能性を強く示唆している。また,非コラゲ

ン性タンパクである Glaタンパクや osteonec-

tinとの係り合いも今後の問題として残されて

さらに基質小胞が消失した後の添加的石灰化

の進行は細胞による基質形成機構とも関連して

論じられており (Slavkin,et al., 1978)山,添

加的石灰化における細胞の直接的,間接的制禦

機構も今後の大きな研究課題である。

文 献

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別刷請求先:(〒951)新潟市学校町通二番町5274

新潟大学歯学部口腔解剖j学第1講座,小津英治Reprint request to: Dr. Hidehiro Ozawa

Department of Anatomy, Niigata University School of Dentistry, Niigata 951, japan.