左上大静脈遺残が示唆された冠静脈洞所見2018/07/05  ·...

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Jpn J Med Ultrasonics 左上大静脈遺残persistant left superior vena cava : PLSVCとは左総主静脈が正常発達せず左内頸静脈と左鎖骨下静脈が合流後冠静脈洞 coronary sinus : CSを介して右房に開口する静脈 であるPLSVC は全人口の 0. 2に発症し両大 血管右室起始症など先天性心疾患の約 6に合併す るといわれている 1一般的にPLSVC の走行形 態から中心静脈カテーテルやスワンガンツカテーテ デバイス治療のリード線を挿入留置する際に注 意を要する程度で日常生活に大きな問題とはなら ないしかしPLSVC が左房に開口する場合や肺 静脈との交通例では右 左短絡を呈し外科的治 療を要する場合があるためPLSVC が疑われた際 には正確に病態を把握する必要があるPLSVC の特徴的な心エコー図所見は心膜嚢内 CS 拡張所見といわれているが 2CS 拡張所見は肺静脈の CS への還流異常および冠静脈型心房中隔 欠損症長期間に及ぶ右房圧上昇例でも認められる ため注意を要する本症例は心尖部アプローチ 3 像上心膜嚢内でかつ左側房室間溝に拡大した管 腔が描出されたその管腔は心収縮に関係なく呼吸 性に変動しており静脈系構造物である CS が拡張 したものと考えられたFig. 1なお本症例は心 エコー図所見上先天性心疾患が示唆される有意な 異常所見は認めなかった左鎖骨下静脈造影では CS を介して右房に開口するPLSVC を確認しFig. 2DOI: 10.3179/jjmu. JJMU.A.116 ULTRASOUND IMAGE OF THE MONTH ◇   Cardiac echo findings suggesting persistent left superior vena cava Keywords: persistant left superior vena cava, coronary sinus, right atrium, ultrasonography 1 協立病院循環器科2 同検査科 Toshiya OKAJIMA 1 , Kayoko FUJIWARA 2 , Yuka TAKENAKA 2 , Katsuhiro KOBAYASHI 1 1 Department of cardiology, 2 Department of clinical laboratory, Kyoritsu hospital, 165 Chuocho, Kawanishi, Hyogo 6660016, Japan Received on May 21, 2018; Revision accepted on June 6, 2018 J-STAGE. Advanced published. date: July 5, 2018 左上大静脈遺残が示唆された冠静脈洞所見 岡島 年也 1 藤原加代子 2 竹中 由香 2 小林 克弘 1 Fig. 1 心エコー図所見心膜嚢内の左側房室間溝に存在する管腔 を認める(矢印) この管腔には拍動はなく心収縮に関係なく呼 吸性変動を認めたため拡張した CS と判断した Fig. 2 左鎖骨下静脈造影検査(正面像) 造影所見上左内頸静脈および左鎖骨下静 脈が合流した後CS (赤点線部分)を介し て右房に開口する PLSVC (黄点線部分)が 造影された

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Page 1: 左上大静脈遺残が示唆された冠静脈洞所見2018/07/05  · したものと考えられた(Fig. 1).なお,本症例は心 エコー図所見上,先天性心疾患が示唆される有意な

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 左上大静脈遺残(persistant left superior vena cava : PLSVC)とは,左総主静脈が正常発達せず,左内頸静脈と左鎖骨下静脈が合流後,冠静脈洞(coronary sinus : CS)を介して右房に開口する静脈である.PLSVCは全人口の 0. 2%に発症し,両大血管右室起始症など先天性心疾患の約 6%に合併するといわれている1).一般的に,PLSVCの走行形態から中心静脈カテーテルやスワンガンツカテーテル,デバイス治療のリード線を挿入留置する際に注意を要する程度で,日常生活に大きな問題とはならない.しかし,PLSVCが左房に開口する場合や肺静脈との交通例では右-左短絡を呈し,外科的治療を要する場合があるため,PLSVCが疑われた際

には正確に病態を把握する必要がある. PLSVCの特徴的な心エコー図所見は,心膜嚢内の CS拡張所見といわれているが2),CS拡張所見は,肺静脈の CSへの還流異常および冠静脈型心房中隔欠損症,長期間に及ぶ右房圧上昇例でも認められるため注意を要する.本症例は心尖部アプローチ 3腔像上,心膜嚢内で,かつ左側房室間溝に拡大した管腔が描出された.その管腔は心収縮に関係なく呼吸性に変動しており,静脈系構造物である CSが拡張したものと考えられた(Fig. 1).なお,本症例は心エコー図所見上,先天性心疾患が示唆される有意な異常所見は認めなかった.左鎖骨下静脈造影ではCSを介して右房に開口するPLSVCを確認し(Fig. 2),

DOI: 10.3179/jjmu. JJMU.A.116

     ◇ULTRASOUND IMAGE OF THE MONTH◇  

Cardiac echo findings suggesting persistent left superior vena cavaKeywords: persistant left superior vena cava, coronary sinus, right atrium, ultrasonography1協立病院循環器科,2同検査科Toshiya OKAJIMA1, Kayoko FUJIWARA2, Yuka TAKENAKA2, Katsuhiro KOBAYASHI1

1Department of cardiology, 2Department of clinical laboratory, Kyoritsu hospital, 16︲5 Chuocho, Kawanishi, Hyogo 666︲0016, JapanReceived on May 21, 2018; Revision accepted on June 6, 2018 J-STAGE. Advanced published. date: July 5, 2018

左上大静脈遺残が示唆された冠静脈洞所見

岡島 年也1 藤原加代子2 竹中 由香2 小林 克弘1

Fig. 1 心エコー図所見.心膜嚢内の左側房室間溝に存在する管腔を認める(矢印).この管腔には拍動はなく,心収縮に関係なく呼吸性変動を認めたため,拡張した CSと判断した

Fig. 2 左鎖骨下静脈造影検査(正面像).造影所見上,左内頸静脈および左鎖骨下静脈が合流した後,CS(赤点線部分)を介して右房に開口する PLSVC(黄点線部分)が造影された