跡見花蹊日記 明治１９年

―1―

明治十九年

一月

一月一日

暁五時起、一家恙なく椒酒雑煮を祝ひ、賀客之

礼を受く。女弟子を拉して三崎稲荷に参拝して、

駿ヶ台辺高きに登るを例とせり。

＊駿ヶ台（駿河台）

（一月）

一月一日

酉

金曜

晴。

暁五時、一家団欒、捧飲椒酒、以賀新年。京橋

辺失火。携諸子、詣三崎祠。往姉小路邸、訪家

厳、致賀而帰。従朝至晩、賀客不堪。

＊堪（絶）

（一月） 二日

戌

土曜

晴。

朝六時夢醒。作読書始、時又畳表冥諸職人来、

作職工始。

＊畳表冥（畳表具）

（一月）

三日

亥

日曜

晴、風。

朝六時夢破。午下、同湘雲、詣小松宮邸、又詣

三条邸、謁相公、贈祝酒、少而帰。

（一月）

四日

子

月曜

曇。

朝六時夢破。諸職人来。掃除。

（一月）五日

新年発会式執行ス。生徒試筆ありて、来会者二

百余人、盛也。

（一月）

五日

丑

火曜

晴。

朝四時夢破。遍集諸弟子、開新年試筆会。会者

二百余人。作読書、試筆、又設絃歌、田楽、諸

技、添興。五時全畢。夜、招飲家厳、松野、宕

陽、某々等。客尽酔而去。

跡見花蹊日記 明治１９年

―2―

（一月）

六日

寅

水曜

晴。

朝六時夢醒。塵事頗多。

（一月）七日

人日。七種の糜を祝ふ。午下、三条相公邸にて

雅楽はしめを行はせられる。梨堂公夫人資君、

東久世伯、正親町伯、壬生伯、余、諸公方等。

伶人、東儀、斯波、林、阿部、豊氏也。奏楽、

万歳楽、五常楽、慶徳、越天楽、破濤、五曲

也。其清音実に妙を得たり。畢而祝宴を開かせ

られ、十一時帰。

＊破濤（抜頭）

（一月）

七日

卯

木曜

晴。

朝六時夢破。喫人日菜糜。午下、謁三条邸。此

日、見行雅楽始。梨堂公夫人資君、東久世、正

親町、壬生、諸公、及余、又与雅楽師東儀、斯

波、林、阿部、豊氏也。奏楽、万歳楽、五常

楽、慶徳、越天楽、破濤、五曲也。其清音能調

和、得其妙。後、見開祝宴、及十一時而帰。

＊破濤（抜頭）

（一月）

八日 金曜

晴。

朝六時夢破。始学課、二時畢。褧亭先生至。晩、

散歩。十一時就枕。

（一月）

九日

土曜

晴。

朝六時夢破。聴生徒輪読。贈蒸飯、以祝誕児。

（一月）

十日

日曜

晴。

朝六時夢破。為誕児、詣三崎神祠。帰途、過岩

崎、及姉小路邸、観世、裏松氏、而帰。午下、

過豊氏。開雅楽筵、会者、久我、慈光寺有仲、

嘉仲、政子、北小路随光、安倍季節、季員、奥

氏、宮島春松、渡辺鼎、同常子、山井、佐々木

基、及余也。演、平調伊勢海、万歳楽、五常

楽、春陽柳、嘉辰、越殿楽、慶徳、七曲。余亦

合奏。晡時帰家。夜、招家厳、宕陽、雲外、笑

堂、上柴、張祝筵。

跡見花蹊日記 明治１９年

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＊越殿楽（越天楽）

（一月）

十一日

月曜

晴、午下風。

朝六時夢破。泰、栄二児、帰石神井村。配贈蒸

飯。和津宋来。横浜田辺朝子入塾。晩、永井尚

服未亡人至。夜、揮毫。十一時就枕。

（一月）

十二日

火曜

晴。

暁五時夢破。読書、散歩。課業如例。松平武脩

北堂至。午下揮毫。夜十一時就枕。

（一月） 十三日

水曜

晴、夜半雨、雪。

朝六時夢破。読書、散歩。課業如例。三条花

隄、前田花

（空白）、蒲生春桂、及豊氏至。

吹笙。夜、生徒為蔵鬮戯。十一時就枕。此日、

幸来告別。蓋以病帰郷也。

（一月）

十四日

木曜

晴。

朝六時夢破。読書、散歩。課業如例。和津宋至。

晩、浴鹹湯。夜、揮毫。十一時就枕。

（一月）

十五日

金曜

雨。

朝六時夢破。聴講。雨、霽。散歩。課業如例。

根岸石川愛子入校。夜十一時就枕。

（一月）

十六日

土曜

晴。

暁五時夢破。聴講、散歩。課業半日而畢。午下、

至一条邸。辰子君不在、面家令某。又詣青山御

所、訪浜荻典侍、及楊梅典侍、若松内侍、見賜

跡見花蹊日記 明治１９年

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酒饌。三時、告別而出。詣東宮、面唔杜若内侍、

亦賜酒饌。帰途、至赤阪御所、訪新樹典侍及藤

袴内侍、談笑移時、晡時帰家。夜、若林演奇

談。十時就枕。

（一月）

十七日

日曜

晴。

朝七時夢破。午時、詣北白川宮、謁親王、見贈

点茶及酒饌。帰途、詣山階宮。親王不在、面湘

雲、閑談良久、晡時帰家。夜十二時就枕。

（一月）

十八日

月曜

晴。

朝五時夢破。聴講、散歩。課業如例。横浜宮崎

岩子入塾。和津宋至。此日、当節庵宮原先生百

日忌辰。乃招家厳、宕陽、笑堂、雲外、春帆、

以祀之。家厳誦経、衆焚香礼拝。畢、供茶飯、

団欒、話旧而別。

一月十九日

家厳の茶事に御招きに預り、姉千よ滝をはしめ

予等五客を招して、濃茶より会席、みな父の数

奇をこらして風味頗るよく、一家相会し和楽し

て、且娯む。真に天倫の楽事也。

（一月）

十九日

火曜

晴。

朝五時夢破。聴講、散歩。課業如例。家厳、設

茶筵、見招。乃偕花海、到姉小路邸。茶式既畢、

饗清饌、風味頗好。一家相会、和楽且娯、真天

倫之楽事也。夜八時帰家。揮毫、十一時就枕。

（一月）

二十日

水曜

晴。

朝五時夢破。掃除。聴講如例。備後橋本吉兵衛、

及浪華辻八千子書至。和津宋至。夜十一時揮毫、

就枕。

（一月）

廿一日

木曜

晴。

跡見花蹊日記 明治１９年

―5―

朝五時夢破。掃除、聴講。課業如例。午下四時、

豊氏至。夜、作文。十一時就枕。此夜、砲兵工

廠火。

（一月）

廿二日

金曜

晴。

朝五時夢破。掃除、聴講。課業如例。午下、褧

亭先生至。終日揮毫、至夜不已。十一時就枕。

（一月）

廿三日

土曜

晴。

朝五時夢破。掃除、聴講。課業如例。午下揮毫。

夜、与花海、茗橋、過姉小路邸。寄

書

在独

逸藤坪公、及福島県長沢、土州小野氏。

一月廿四日

有栖川宮一品親王薨去なる。

（一月）

廿四日 日曜

晴。

朝八時夢破。終日揮毫。夜、亦然。陸前浜谷市

子書至。十一時就枕。此日、聞有栖川一品親王

薨。

（一月）

廿五日

月曜

晴。

朝五時夢破。掃除、聴講。課業如例。小島泰堂

至。福田巴女訃音至。夜、揮毫。十一時就枕。

（一月二十六日～三十一日、日記ナシ）

同廿九日

同一品親王御葬儀を拝す。

＊同（一月）

（二月）

（二月）

跡見花蹊日記 明治１９年

―6―

（二月一日～二十八日、日記ナシ）

二月十六日

午下、神田学習院火あり。五時より七時に至る。

全棟悉焼失ス。

（二月）廿八日

姪栄子初雛祭ニ付、小紫宸殿摸製をかざり附ル。

（三月）

（三月）

（三月一日～十九日、日記ナシ）

三月三日

雛の道具、人形類もとゝのひて立派にかさりて、

生徒等を客として大ゐに宴を張る。

三月八日

姉小路故寿邦院殿御一周忌法事、伝通院にて行

ふ。藤袴内侍、石山夫人、沢藤子、裏松千代子、

万里小路通房、小西有勲、同歌子、風早公紀、

三条、中院、松浦御使来り会ス。式畢、御墓に

参拝ス。午下四時、客各去。

＊寿邦院（寿部院）

三月二十日

卯

土曜

晴、風。

暁五時夢破。聴講文章規範。課業如例。午下揮

毫。此日、試験弾琴。晡時全畢。夜、宕、春、

雲、笑等来談十時皆去。十一時就眠。

同廿一日

三月廿一日

辰

日曜

曇。

跡見花蹊日記 明治１９年

―7―

田村氏田畑梅荘に招かれ、三条智恵君様、富君

様はしめ女弟（子）十四人を拉して行。梅花盛

開、十分の香を吐く。羅浮境に遊ふか如し。快

言へからす。主人の悦ひ極まりなし。会、増上

寺行誡師及英国婦人三名もありて、終日楽む、

甚し。行誡師歌曰、

立並部田畑迺梅迺花与里茂

花見留人迺麗志幾哉

と。午下五時、皆帰。

＊同（三月）

＊田畑（田端）

朝六時眠醒。此日、応田村氏約、拉茗橋及女弟

子花隄君等十余人、到田畑村梅荘。主人出迎余

等、即入其室。時園中梅花盛開、已吐十分之

香、恍然如游羅浮、快不可言。来会者、増上寺

行★（彳＋誡－言）和尚、及僧某、英国婦人某

等也。游戯終日楽甚矣。既而、松野氏、家厳、

及笑堂等亦至。已五時、乃告別而帰。夜、宕、

春、雲来、閑話、及十一時而去。余、吹笙。一

時就眠。

和尚口占、

立並ふ田畑の梅の花よりも

花見る人のうるハしきかな

＊田畑村（田端村）

＊行★（彳＋誡－言）和

尚（行誡和尚）

（三月）廿二日

午下二時より三条相公邸に御招に預り参集ス。

雅楽会を催さる。御客ハ伏見宮貞愛親王、織君

様、小松宮嘉彰親王、同妃、華頂宮、同妃、鍋

島直大、正親町、南部。雅楽師東儀、林、安部、

豊氏等七人也。先奏盤渉調、白柱、青海波、越

天楽、千秋楽数曲、御晩餐後、又奏、大食調、

合歓、塩抜頭、長慶子諸曲。余亦吹笙。十時全

畢。実に極楽世界に遊ふ心地す。直ニ罷帰。帰

途月明にして所々の梅花馥郁として亦快なり。

夜二時迄読書、睡につく。

＊大食調（太食調）

（三月）廿二日

巳

月曜 曇。

朝六時夢醒。散歩、聴講、及課業如例。午下二

時、詣于三条相公。見開雅楽筵。来客、小松親

王、及同妃、華頂親王、（及同）妃、外鍋島直

大、正親町氏、南部氏。雅楽師、東儀、林、安

部氏、豊氏等七人也。演

盤渉調、白柱、青海

波、越天楽、千秋楽数曲。入夜、又演

大食

調、合歓、塩抜頭、長慶子諸曲。余亦吹笙。奏

楽之盛、可以見矣。十時罷退席。帰路月明皎

々、処々庭園中梅花送香、脈々襲衣袖亦快。見

書。一時就眠。

＊大食調（太食調）

＊｛一（ママ）｝時

（三月）廿三日

午

火曜

晴。

跡見花蹊日記 明治１９年

―8―

朝六時夢破。散歩。聴講。課業如例。午下二時、

過立花氏、教授書画及句読、畢去。七時帰家。

豊氏至、吹笙。十一時就眠。

（三月）廿四日

未

水曜

晴、風。

朝六時睡起。聴講。課業如例。富田氏来、観和

津宋教授英学。蓋梨公旨也。晩、詣小松宮。来

会者、北白川宮親王王妃、及伊藤大臣、其夫

人、同幾子、三条花隄、岩倉具定夫人久子、鍋

島、其外宮内書記、及侍従某々等也。有舞踏

興、十一時退席。見書。一時就枕。

＊幾子（生子）

（三月）廿五日

申 木曜

雨。

朝六時夢醒。聴講。課業如例。揮毫。夜、見書。

十一時就枕。

（三月）廿六日

酉

金曜

晴、風。

朝五時夢破。散歩、聴講。課業如例。褧亭先生

至。夜、輪講史略。十一時就眠。

（三月）廿七日

戌

土曜

晴、風。

朝五時夢醒。聴講。課業如例。半日畢、午下揮

毫。夜十時就眠。此夕、赤阪辺火。

（三月）廿八日

亥

日曜

天晴朗。

朝五時夢破。霜色如雪、寒甚。揮毫。此日、泰

及栄子来。両児壮健、女児

能笑。終日揮毫。

夜十時就眠。此夜、原如童至。

跡見花蹊日記 明治１９年

―9―

（三月）廿九日

子

月曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。午下、応池田氏招、拉

花洲、観劇于千歳座。池田氏、及中世母子、外

某々等先在焉。盲目長屋梅ノ加賀鳶、劇演侠客

伝、義気頗得妙技。十時畢、帰家。十一時就眠。

（三月）三十日

丑

火曜

晴。

朝六時夢醒。聴講。課業如例。此日、宮原湘

雲、村瀬氏、豊氏至。夜十一時就眠。

（三月）三十一日

寅

水曜

晴。

朝六時眠起。聴講。課業如例。此日、村瀬鶴子

帰到。和津宋至。夜、揮毫。十一時就眠。

（四月）

（四月）

四月一日

卯

木曜

雨、又晴。

朝五時夢破。散歩、逢雨。課業如例。此日、浦

春暉次女早苗入門。夜、万里為女至。終日配附

菱餅。夜十一時就眠。

（四月）二日

辰

金曜

晴。

朝五時睡起。庭中桜花始開。課業。家室掃除。

此日、京師大倉主祝来、話往事。年七十一、頗

健康、善喫酒飯。晡時、告別而去。夜十一時就

眠。

＊大倉主祝（大倉主税）

跡見花蹊日記 明治１９年

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（四月）三日

巳

土曜

神武天皇祭日。晴。

暁五時夢醒。此日、以当余誕辰及栄女之祝事、

遍招弟子。来会者凡二百人、門前車馬如織、実

可云盛矣。諸女子皆設茶亭講堂、或煮桜湯、又

売桜花笄。客皆以桜花挿髪満堂、桜花爛漫羅綺

錦繍、洵如神仙宮女春遊。入夜、点紅灯、又更

佳矣。十時全畢。十二時就眠。

（四月）四日

午

日曜

晴。

朝六時夢醒。此日、泰児及栄子帰于石神井村。

此夜、宕陽、春帆、雲外至。各賦詩見贈。蓋祝

余誕辰也。十一時就眠。

（四月）五日

未 月曜

雨。

朝五時睡起。聴講。課業如例。和津宋至。夜、

揮毫。及十二時就枕。

（四月）六日

申

火曜

晴。

朝五時睡起。開窓、則満庭桜花、方綻如雪如

雲、快甚。乃同花海、茗橋、花園、及朝子、到

靖国祠、観桜花。猶未全開、然桜樹爛漫、映旭

日、実如此勝景何。余口占、

楽志佐者何仁比辺無方茂奈志

花迺中行曙能空

少息茶店而帰。聴講。課業如例。豊氏来、吹

笙。夜、輪講史略。十二時就眠。

四月七日

暁四時夢やふれて、予、姉千よ子、弟愛四郎、

（四月）七日

酉

水曜

晴。

黎明四時睡起。庭花満開、即命挽車、同

花

跡見花蹊日記 明治１９年

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竹子と、東台の花を見る。花も今日を以て満開

とす。予口すさみ

さくら花雲か雪かとさき出てゝ

忍ふか岡ハ名のみなりけり

実に此好景名状すへからす。予、筆をとりて写

生す。時、旭日の山に映して燦然、錦の如し。

暫時茶亭に息ひて花を賞しつゝ家に帰。時、七

時也。

海、茗橋、竹子、到于東台。暁寒襲衣。東台桜

花、以此日為十分満開。余又口占、

サク花ハ雲カ雪カト露ハレテ

忍ブガ岡ハ名ノミ也ケリ

実山上山下香雲暖雪、佳絶不可名状。余欲採筆

写此景者数矣。時、旭日山離、返照如錦。息于

茶店、乃帰家。時、七時也。課業如例。畢、和

津宋至。夜十一時就眠。

＊露ハレテ（あらはれて）

（四月）八日

戌

木曜

雨。

朝五時睡起。聴講。課業如例。揮毫。絵画会幹

事大久保某至言、明日両皇后宮行啓于上野、因

見命席上揮毫。晡時、於于天賜玉筆楼、設観花

宴、招家厳、観世、宕陽、春帆、雲外、笑堂

等、皆至。対花閑話。九時皆去。余揮毫。十二

時就枕。

四月八日

両皇后陛下、上野博物館ニ行啓。予、女弟子松

平鞆子、田村増子の二人を連て参る。拝謁仰付

らる。御前にて席上揮毫ス。画絹竪物二葉を揮

毫ス。殊におほめに預りたり。予また、

のとかにも行幸車にちりかゝる

雲の上野の花の白雲

午下三時、御還啓あらせられる。予等も家に帰。

此日、島津公夫人棲子様より御使にて、公爵様

御手製の大名牟知、少名彦名二神の銀像下され

る。

（四月）九日

亥

金曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。余、拉花寿、午前十一

時、命車到上野、拝謁両皇后宮於博物館、楼上

供覧以婦人席上揮毫。中林清淑、及小蘋、芳

谷、耕靄、玉舟、及某々等、各揮毫絹本二葉。

三時還啓。余亦帰家。上野口占、

ノトカニモ御幸車ニチリカヽル

雲ノ上野ノ花ノ白雪

晡時、訪田村氏、喫晩食而帰。夜十時就眠。此

日、島津夫人花翠、寄

書、及繍細工物、并島

津家製作之銀ノ大名牟知、少名彦名二神体至。

跡見花蹊日記 明治１９年

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＊八日（九日）

＊大名牟知（大穴牟遅）

＊

少｛名（衍）｝

皆花翠君之所贈也。

＊大名牟知（大穴牟遅）

＊少｛名（衍）｝

（四月）十日

子

土曜

晴、風吹。

朝五時夢醒。課業半日畢。此朝、同花海、茗

橋、花洲、到于石神井村。六時帰家。夜十時就

眠。終夜、大風。

（四月）十一日

丑

日曜

晴、風吹。

朝五時睡起。此日午下一時、拉女弟子十三人、

家族四人、詣于三条公邸、観庭中桜花。依風飛

々紛々如雪。快甚。誘花隄君、到于松野氏。

氏、以祝花濤女史病治、見招余等。設宴花下、

盃中落花飛来、快極。入夜、見校書踏舞。若林

亦来、演奇事。尽楽帰家。時、十時也。乃就眠。

此日、佐藤悠入門。

（四月）十二日

寅

月曜

雨。

朝五時睡起。聴講。課業如例。此日、松尾千代

子入門。余微恙臥枕。夜、宕陽、春帆、雲外、

笑堂至。十時皆去。

（四月）十三日

卯

火曜

雨、又晴。

朝六時睡起。聴講。課業如例。午下、試譣弾琴。

晡時畢。夜、輪講史略。十一時就眠。

（四月）十四日

辰

水曜

晴、又雨。

暁五時夢覚。行薬、聴講。課業如例。畢、揮

毫。和津宋至。夜、又揮毫。十二時就枕。

跡見花蹊日記 明治１９年

―13―

（四月）十五日

巳

木曜

晴。

暁五時夢醒。揮毫。課業如例。畢、揮毫。夜、

見書。

（四月）十六日

午

金曜

細雨、又晴。

朝六時夢醒。聴講。課業如例。午下、試験弾琴。

晡時畢。此日、木暮金太夫妻至、乞入学。夜、

輪講史略、十時畢。揮毫。十二時就眠。

（四月）十七日

未

土曜

雨。

朝六時夢醒。聴講。揮毫数帖。夜十時就眠。

（四月）十八日

申 日曜

雨。

朝六時夢醒。拉女弟子三十三人、泛船于茗渓、

到於両州井生村楼。此日、山登松齢、設糸竹管

弦之会。蓋応其招也。終日聴声音微妙、楽甚。

晡時、復上船帰家。時、八時也。十二時就眠。

（四月）十九日

酉

月曜

雨、又晴。

朝六時夢醒。聴講。課業如例。和津宋至。夜、

見書。十一時就眠。

（四月）廿日

戌

火曜

雨乍晴。

朝五時眠醒。行薬、聴講。課業如例。畢、湘雲

女史及木暮金太夫娘入学。晡時、豊氏至、吹笙。

夜、雨甚。十一時就寝。

（四月）廿一日

亥

水曜

曇。

跡見花蹊日記 明治１９年

―14―

黎明五時夢醒。行薬、聴講。課業如例。畢、揮

毫絖絹数張。夜、見書。十二時就寝。

（四月）廿二日

子

木曜

曇。

朝六時夢破。聴講。課業如例。此日、始試験生

徒。揮毫。夜十一時就眠。

（四月）廿三日

丑

金曜

天始晴。

朝六時夢醒。聴講。此日、為試験。畢、詣於三

条邸、謁夫人資君。逢慶亭。移時、告別而帰。

途路、詣于北白川宮邸。親王、昨夜脩行軍之

役、見帰、拝謁、暫時閑談、帰家。時、晡也。

夜十一時就眠。

（四月）廿四日

寅

土曜 暁雨、已晴、風

吹。

朝六時夢醒。聴講。脩試験、全畢。午下、見書。

夜、揮毫。十二時就眠。

（四月）廿五日

卯

日曜

晴、而風。

朝六時起。九時、同家厳、花海、竹子、花洲、

過東台、観絵画共進会。已而、観牡丹入谷村、

買得紅白紫三種、及春草遊蝶花、金銭花二十

盆。竟至根岸、過森島氏。主人、及老母、細君

等、喜甚。園中奇石珍木芳草流水、北田野、望

三河島辺、皆在几席間、真絶景也。置酒款待、

又点茶。畢、告別去。

＊金銭花（金盞花）

跡見花蹊日記 明治１９年

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（四月）廿六日

辰

月曜

曇。

朝六時睡起。聴講。課業如例。和津宋至。夜、

揮毫。十一時就寝。

四月廿七日

横浜原善三郎氏招に応して、予、女弟子十一人

を拉して原氏老松町別業に至る。此日、氏の誕

生日にて八幡宮のまつりを設く。家屋巍々半摸

洋風、庭中奇石佳樹其位置を得たり。又有一古

石、高さ丈余傑然として特立す。八幡神社神楽

堂にて舞台、女子の踊種々あり。此日開門、諸

人の縦覧をゆるす。来見る者頗る多し。夜、数

千紅灯を点し、殊ニ勝景を添る。晩餐後帰。

（四月）廿七日

巳

火曜

曇、而晴。

朝六時夢醒。課業如例。応横浜原善三郎氏招、

拉女弟子及茗橋等十一人、午下一時三十分、上

汽車至横浜、赴同氏伊勢山別業。蓋此日、原氏

誕辰也。廈屋高館、皆極美尽佳、庭中奇石佳

樹、皆其位置得宜。又有一古石高丈余物、傑然

特起焉。又八幡神社傍設神楽台、而奏神楽、或

掲踊舞台、女子演踊舞。開門以許諸人縦覧、来

観者頗多矣。入夜、点数千紅灯、頗添勝景。喫

晩饗、皆尽快楽。告別而、復乗八時三十分発汽

車、帰校。十二時入寝。

（四月）廿八日

午

水曜

終日雨。

朝六時睡起。聴講。課業如例。和津宋至。夜、

揮毫。十一時就枕。

（四月）廿九日

未

木曜

曇。

朝六時睡起。聴講。課業如例。此日、泰児、従

石神井村至。陳列五月人形。夜十時就眠。

（四月）三十日

申

金曜

曇、晡時雨。

朝六時睡起。聴講。課業如例。静岡宮原門人小

菅某及褧亭先生至。夜、宕、春、雲至、笑談而

去。見書。一時入寝。

跡見花蹊日記 明治１９年

―16―

（五月）

（五月）

五月一日

酉

土曜

大雨、又晴。

朝六時睡起。課業半日而畢。此日、横港西村氏

使人来、迎余。午下一時三十分、携花穠女史、

乗汽車、過西村氏。蓋主人欣然、延余於茶室、

政子点茶、喫餐後、晩、挙家導余、到于万竹

亭、見戯曲。及十一時而帰、遂宿于西村氏。

此日、上杉千鶴子及正木庫子入門。栄児至。

（五月）二日

戌

日曜

天晴朗。

朝七時夢醒。同西村夫婦、花穠等、九時三十

分、投汽車、到于竹田屋、喫午餐、直命車、到

亀戸、観藤花、未十分。暫時休息花下、又乗

車、欲見濹堤新緑。途次、会怱然将雨、而止、

既而天晴。乃散歩浅草公園、分袂、共花穠、帰

家。時、五時也。若林至、演逸事。夜十二時就

枕。

＊会怱（会忽）

（五月）三日

亥

月曜

雨。

朝六時睡起。課業如例。和津宋至。

（五月）四日

子

火曜

雨。

朝六時夢破。課業如例。好川金子入門。豊氏

至、吹笙。

（五月）五日

丑

水曜

端午

曇、又細雨。

朝六時夢醒。課業如例。石神井村野夫十五人至、

跡見花蹊日記 明治１９年

―17―

作神楽、晡時畢。夜、開祝宴。此日、横浜茂木

栄子入門。

西国予言者云、今年、東洋、従五月一日至五日

之間、有大震、地落三百メイトルト。而至此日

無事而已。世人徒信洋人虚誕妄言。亦可笑之至。

（五月）六日

寅

木曜

雨。

朝六時夢醒。課業如例。揮毫。夜十時就眠。終

夜、大雨。

（五月）七日

卯

金曜

晴。

朝六時夢醒。課業如例。佐々木東溟至。夜十二

時就眠。

（五月）八日

辰

土曜 晴。

朝六時夢醒。課業半日畢。午下、泰児、栄児、

皆帰于石神井村。揮毫。夜、宕、雲至。十時地

震。

五月九日

晴。

余嚮有下総地方一游之意、塵事多忙、未暇也。

頃偶、得数日之閑、是可以果宿志矣。乃以此日

発京。同行者、家姉、及秋元沢、高梨朝、田中

孝諸女子也。過箱崎街秋元氏別業、直到花水橋

畔某所、秋元氏家僕、迎余等先在焉。午下三時、

投小輪船。舟人数繋船、以引客。頗可厭也。少

焉過小菜木川、則両岸開闊、市塵之眼為之一洗

泝流里許、過鴻台下、遥見楼閣塁壁於蒼樹翠竹

間。蓋教導団営所也。時、夕陽射映、好景不可

（五月）九日

巳

日曜

晴。

朝七時夢醒。備後人天野嘉四郎及内海得二郎至。

面談少時而去。同

茗橋、花簷、沢子、朝子、

欲游于下総流山。午下二時、相共出家、到于箱

崎町秋元氏、而投輪船。蠣殻町三時解纜、少焉

繋船扇橋、又引客、四時発船。船、行小名木

川、又過中川及新川。時、両岸新緑青々、処々

茅屋隠見于楊柳陰裡。有

垂釣者、濯衣者、村

児群戯、或有摘紫雲花者。田園幽致、亦可以

観。既而従刀水至于行徳、輪船往来如織。経市

跡見花蹊日記 明治１９年

―18―

言。夜九時、達流山。秋元氏使家僕数人出迎。

乃投其家。挙家欣然、款接置酒、及夜闌、就

眠。

＊小菜木川（小名木川）

川渡、過高台。台上教導団陣営也。緑樹森々、

翠色如滴、夕陽照山、奇景如画。余不覚呼絶景。

入夜、過松戸、達流山。時、九時、去東京六里

也。秋元氏、先遣人出迎、即到于秋元三左衛門

家。此地名産、

以醸酒名于天下、而秋元氏

名于此地。家屋美麗宏大、都下所不多見会。主

人不在、家人等待接叮嚀、饗以美酒鮮肴。喫晩

餐、而就眠。

＊紫雲花（紫雲英）

（五月）十日

晴。

秋元氏、以味啉酒名於海内。余曾喫之、歯牙芬

馥、殆如甘露。観其製作場、規模宏壮、雖都下

豪戸、恐不如也。午下、諸子導余等於一小邱。

旧幕府営址也。今為秋元氏之地。四顧則遠見白

帆、近望村落、風光清幽、心目豁然。夜、応諸

子請吹笛。蓋亦旅中之一適也。

＊味啉酒（味醂酒）

（五月）十日

午

月曜

天極晴朗。

朝七時睡起。上高邱鎮村社。赤城明神是也。聞、

昔時此地為洪水所流失、故言流山。午餐後、挙

家至于加村山。故県庁趾、而今為秋元氏之地。

田園樹木村舎茅屋一望如画。帰途、観醸造場、

宏大驚目。揮毫数葉、蓋応主人之嘱。夜、合奏

糸竹管弦。十一時就枕。

（五月）十一日

晴。

欲訪高梨兵左衛門、沿利根川而往、到処村園菜

花如雲。堤上時見白帆出没于黄雲中、

為奇

観。高梨氏、亦使家僕迎延余等。堂上規模宏

壮、園中樹石布置得宜。後庭有一小亭。蓋為余

等新築者也。登、則遥望布帆於村落樹木間、下

臨田園、恍如置身画中。一家親睦、優待極厚。

観其醸醤場、壮観可驚。聞醸醤輸出極夥、就中

販東京者、日不下三千樽云。其盛可知也。過高

梨又左衛門。蓋朝子叔父也。楼上眺望極好、小

（五月）十一日

未

火曜

天快晴。

朝七時睡起。告別而乗車、発流山、過根郷村、

到花輪堤。堤左帯刀根川、右傍村園。黄雲于

頃、菜花与白帆出没于堤上。佳観可愛。往三里、

十二時、到于高梨兵左衛門家。家人出迎于村外、

挙家皆喜。家屋宏大、庭中大杉高十余丈物森々。

蓋四隣園中設小亭、尤宜眺望。蓋為余所建也。

午餐之後、観醤造場、亦巨大驚目、非秋元氏之

比也。過高梨幸右衛門家。楼上眺望亦妙。再帰

于宗家高梨家。主人乞書画。乃揮毫絹本数張。

跡見花蹊日記 明治１９年

―19―

憩、帰于高梨氏而宿。

戸辺逸子、問余起居来。晩餐後、月光透簾、即

上小亭、閑話。及十一時、就眠。

（五月）十二日

晴。

赴赤沼村、訪田中某、途次過戸部某。渡金杉

渡、而行二里許、過古川渡。田中氏亦使家僕出

迎。主人歓待。夜、観豊年踊。頗奇観。

（五月）十二日

申

水曜

晴。

朝七時眠醒。又至新台、観田園茂林、風煙可愛。

喫餐于亭中。午下、即命車、発野田到赤沼。行

二里、過戸辺氏而渡、金杉川。田野皆桃花盛開。

又渡古川、赤沼村外、田中氏僕来迎、到田中恒

固氏。主人喜甚、又請席上書画、揮毫数葉、散

歩田野。夜、集村童、演満作舞、以慰旅愁。頗

有興。十二時就枕。

（五月）十三日

晴。

主人導余等、観藤花于牛島村。幹大三抱余、蓋

数百年之物。余之来也、爛縵如紫雲。恍欲染衣。

少憩于花下茶亭而帰。十二時、辞田中氏、復宿

高梨氏。夜来風雨頗劇。余、酔余乗興吹笛。

（五月）十三日 酉

木曜

晴、風。

朝七時夢破。入湯。喫朝飯。同主人到牛島。行

一里許、道皆田園桃林、田野中有藤樹。花盛

開、幹大三抱、枝々繁茂。殆蓋三百坪、可驚。

藤花下置茶亭。暫時賞花。又乗車、直帰田中氏

家。喫午餐、又到高梨家、午下二時。又乞書画、

揮毫十余絹本。夜十時就眠。蛙声喧耳。夜半、

雨。

（五月）十四日

宿雨未霽、十二時漸晴。乃告別、乗高梨氏之舟。

僕婢等、送余等、舟中周旋可喜。時風頻至、因

繋舟流山、小憩于秋元氏。更買車而帰京。時、

午下七時也。挙家出迎、皆祝無恙、亦可喜。

（五月）十四日

戌

金曜

雨、又晴。

朝七時睡起。入湯。此日欲帰京。主人頻請滞

留、余固辞、促帰装而告別。家人皆送別乗船場。

投船、即高梨氏之船也。已而解纜。両岸緑陰、

処々菜花粲目。行一里、而有風船行遅。到于流

山、捨舟上岸、又寄于秋元氏、二時也。四時、

又命車、発陸、従川西、丹後村、田野村々、過

戸ヶ崎橋、行到千住、晡時帰家。家人及生徒等

跡見花蹊日記 明治１９年

―20―

悦甚。家厳、笑堂、宕陽、春帆、雲外亦至。夜

十二時就眠。

（五月）十五日

亥

土曜

晴。

朝六時睡起。課業半日而畢。晩、裏松氏招飲。

仙台塩釜村佐藤初、同利尾入門。

（五月）十六日

子

日曜

晴。

朝七時睡起。家厳、見招余、及裏松千代子、高

梨朝、家姉、竹子。乃共到焉。蓋点茶之筵也。

九時帰家。報岩浪長蔵死来。

（五月）十七日 丑

月曜。

朝六時夢破。課業如例。此日、茂木栄子入門。

余、拉山子、訪米倉氏、晡時帰。夜、若林来、

演奇談。夜十二時、入枕席。

（五月）十八日

寅

火曜。

朝六時睡起。課業如例。此日、古屋花竹去。蓋

余東游中、以托教授来也。米倉綾子入門。此日、

板倉氏使至。島津氏寄電報云、棲子君従十五日

微恙、俄然十七日逝去。余驚愕茫然、只流涕而

已。即到于板倉氏、会主君、同夫人、及信子、

弔之。復只惨歎涙下而已。夜、蕭然回顧往事、

不堪嘆。仏前点灯、炷香、迎霊魂。此日、秋元

家内来。

（五月）十九日

卯

水曜

雨。

朝六時夢破。聴講。課業如例。午下、到于三条

跡見花蹊日記 明治１９年

―21―

家。相公、従京師帰到。謁夫人資君、漏移数刻、

喫晩餐、帰。揮毫。二時就眠。

（五月）廿日

辰

木曜

晴。

朝六時夢醒。聴講。課業如例。此日、米倉花馨

及花僊入門。過立花氏、教授。晡時帰家。

（五月）廿一日

巳

金曜

晴。

朝六時睡起。課業如例。午下、泰児至。褧亭先

生至。夜十一時就枕。

（五月）廿二日

午

土曜

晴、風。

朝五時夢醒。課業如例。茂木栄子至。揮毫。午

下、過板倉氏、及三条西邸、弔貞枝物故。又詣

于小松宮邸、及山田氏而去。若林来、演奇談。

夜十二時就眠。

（五月）廿三日

未

日曜

雨。

朝六時夢醒。与家厳、往于美術会。可観者多、

及午而帰。揮毫。此日、泰児誕辰也。

（五月）廿四日

申

月曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。揮毫。泰児、帰于石神

井村。大橋信吉来。

（五月）廿五日

酉

火曜

晴。

朝五時睡起。課業如例。豊氏至、吹笛。

（五月）廿六日

戌

水曜

晴。

跡見花蹊日記 明治１９年

―22―

朝五時夢破。課業如例。揮毫。夜十二時就眠。

（五月）廿七日

亥

木曜

雨。

朝五時夢醒。試譣諸女子技芸。福島長沢万寿

至。夜、揮毫。十一時就枕。

（五月）廿八日

子

金曜

雨、又晴。

朝五時眠醒。課業如常。揮毫。午下六時、携竹

子、赴于小松宮邸。蓋其踏舞会、紳士皆相知

也。十二時退出。一時就枕。

（五月）廿九日

丑

土曜

晴。

朝六時夢睲。課業半日畢。揮毫。斎藤花瑞寄

書。夜一時就眠。

＊夢睲（夢醒）

（五月）三十日

寅

日曜

晴。

朝六時夢醒。終日揮毫。寄書井上玉枝。夜十一

時就枕。

（五月）三十一日

卯

月曜

雨。

朝五時夢醒。課業如常。揮毫。夜十一時就眠。

此日、松平父子至。

（六月）

（六月）

六月一日

辰

火曜

雨。

朝五時睡起。課業如常。茂木栄子及山片菊至。

午下、詣于小松宮邸、少時而去。夜、揮毫。十

跡見花蹊日記 明治１９年

―23―

二時就枕。

（六月）二日

巳

水曜

朝五時夢破。課業如例。

（六月）三日

午

木曜

晴。

朝五時夢醒。課業如例。午下、拉女弟子花隄

君、及茂木、西村綾子、花馨、花僊、山子、及

茗橋、到于小石川大学植物園。徘徊緑樹陰中、

珍花異卉、可愛者亦多。上高台観賞、頗快。帰

途、過安閑寺、談笑移刻而帰。夜十二時就眠。

（六月）四日 未

金曜

雨。

朝五時夢醒。課業如例。午下揮毫。夜、宕、雲

至。輪講史略而去。雨亦甚。十二時就眠。

（六月）五日

申

土曜

晴。

朝五時睡覚。課業半日畢。午下揮毫。原如童

至。此日、家姉、茗橋、及花外、花雪、花庭等、

皆游于石神井村。

（六月）六日

酉

日曜

晴、小雨、又晴。

朝七時夢破。福島長沢増至。午下、山内旭花

来。旭花、曾游余塾、別後両三歳、今又至又請

就学。岩村花苑、及山田時章、大橋信吉至。夜

八時、家姉等皆帰宅。此日、始着単衣。

（六月）七日

戌

月曜

晴。

朝五時睡起。課業如例。午下揮毫。

跡見花蹊日記 明治１９年

―24―

（六月）八日

亥

火曜

晴。

朝四時夢破。課業如例。松尾平次、宮内、赤城

至、乞書。午下、詣于三条公邸、謁相公、閑談

移時而帰。豊氏至、吹笙。夜、同千久子、到于

洽集館。

（六月）九日

子

水曜

晴。

朝五時睡覚。課業如例。午下揮毫。夜、与諸

子、輪講蒙求。若林至。

従来以木曜為外来稽古日、今替水曜。

（六月）十日 丑

木曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。多久康至。

（六月）十一日

寅

金曜 入梅

雨。

朝五時睡起。課業如例。午下揮毫。夜、若林至、

演奇談。夜十一時就枕。

（六月）十二日

卯

土曜

霽。

朝五時睡覚。聴諸子輪読。午下揮毫。

（六月）十三日

辰

日曜

晴、風。

朝七時夢醒。同茗橋、千久、過芝山能楽堂、観

猿楽。帰途、与中村、田村諸氏、到于松野氏、

小飲。

（六月）十四日

巳

月曜

陰晴不定。

朝五時睡起。課業如例。湘雲至。揮毫。夜、与

跡見花蹊日記 明治１９年

―25―

諸子、輪講史略、及学文。十時畢。

（六月）十五日

午

火曜

天晴朗。

朝五時夢破。課業如例。午下、過立花氏、五時

帰。松野妻、携花濤至。夜、聴講三体詩、偶賦

田園雑詠一絶。十一時就眠。

（六月）十六日

未

水曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。三条篤子君入塾。丸茂

文興至。夜、堀田花香亦至、及十時而去。

（六月）十七日

申

木曜

雨。

朝五時眠醒。課業如例。揮毫。夜課、十時畢。

此日、豊氏至。余、吹笙。

（六月）十八日

酉

金曜 曇、又晴。

朝五時夢醒。課業如例。上杉茂憲至。午下、訪

岩崎氏、暫時閑談而去。褧亭先生至。夜課、十

時畢。

（六月）十九日

戌

土曜

晴。

朝四時夢醒。課業如例。午下、過姉小路邸、撿

点蔵物。夜、招若林、以聴奇談。

（六月）二十日

亥

日曜

晴。

朝四時夢醒。八時、過立花氏、十一時帰去。小

松菅子至、乞画。午下、応三条西公允之招。蓋

貞枝之祀日也。

跡見花蹊日記 明治１９年

―26―

（六月）廿一日

子

月曜

晴。

朝五時夢醒。課業如例。午下揮毫。夜課、作詩、

十時畢。

（六月）廿二日

丑

火曜

晴。

朝五時夢醒。課業如例。午下揮毫。豊氏来、相

共吹笙。夜課如例。

（六月）廿三日

寅

水曜

曇、又晴。

暁四時睡起。散歩。試譣諸弟子技芸。田中木綿

子入塾。晩、拉秀子、篤君、散歩。夜課如例。

（六月）廿四日 卯

木曜

陰、又晴。

暁四時夢覚。試験弟子、全畢。午下揮毫。夜

課、輪講史略。

（六月）廿五日

辰

金曜

晴。

暁五時夢醒。課業如例。午下揮毫。高知育児会

頭某至。晡、褧亭先生至。聴講書経。夜課如

例。

（六月）廿六日

巳

土曜

晴、風。

暁五時夢醒。課業半日而畢。午下揮毫。

（六月）廿七日

午

日曜

晴、風。

朝六時睡起。終日揮毫。晡時、同家姉及笑堂、

過安部氏邸、相地形。眺望絶佳。

（六月）廿八日

未

月曜

晴、風。

跡見花蹊日記 明治１９年

―27―

朝五時夢醒。散歩。課業如例。午下揮毫。夜課

如例。十一時就枕。炎熱不可寐、已而油然雨

至、一洗快甚。

（六月）廿九日

申

火曜

雨、又霽。

朝七時夢醒。課業如例。聞北白川延久王薨。午

下、往弔焉。夜課如例。十一時就眠。

（六月）三十日

酉

水曜

陰。

朝四時夢破。課業如例。午下、藤堂夫人花雲

至。石神井村市蔵至、告泰児病痾。茗橋、乃往

于石神井村、及晩而帰言、病全快。挙家喜甚。

夜課如例。

（七月）

（七月）

七月一日

戌

木

陰。

暁五時夢破。課業如例。従此日、廃午下之課、

以得半日間。午下揮毫。夜課如例。涼甚。十一

時就眠。

（七月）二日

亥

金曜

晴。

暁四時夢破。散歩。課業如例。午下揮毫。夜課

如常。

（七月）三日

子

土曜

晴。

暁四時睡起。課業如例。午下揮毫。夜、聴若林

演奇談。

跡見花蹊日記 明治１９年

―28―

（七月）四日

丑

日曜

晴。

朝六時夢破。拉花穠、過写真舗鈴木氏。晡、跡

見暉一至。

（七月）五日

寅

月曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。余微恙。夜、散歩。

（七月）六日

卯

火曜

晴。

暁四時夢破。散歩。課業如例。午下、為病就枕。

卓午、神田及下谷有火。延焼二百七十余戸。岩

村道敏妻至。山崎勇子入塾。

（七月）七日 辰

水曜

晴。

朝五時睡起。課業如例。午下揮毫。和津宋至。

以此日、休英学之課。蓋暑暇也。

（七月）八日

巳

木曜

晴。

朝四時夢醒。散歩。課業如例。午下揮毫。豊氏

至。又米倉妻及綾子至。夜、歩月。井上春子入

門。

（七月）九日

午

金曜

晴。炎熱。寒温計上

九十一度。

暁四時夢醒。散歩。課業如常。此日、当今井孫

太良氏三回忌日、営仏事於芝金地院。晡時、泰

児来。

（七月）十日

未

土曜

寒煖計九十二度。

暁四時夢破。散歩。時、霧深不弁咫尺。課業如

跡見花蹊日記 明治１９年

―29―

例。三条公使富田氏来。午下、平山、荻野、及

三条西花暁等至。内山貞子、神山花雪、皆以暑

暇帰省矣。夜、招若林、聴演奇談。

此日午下四時、驟雨雷鳴一洗極快。

（七月）十一日

申

日曜

晴。炎熱如昨。

朝五時夢破。散歩。丸茂氏書至、乃復書。又寄

書宗全子。晡時、過片岡氏、暫時閑談而去。栄

児至。

（七月）十二日

酉

月曜

晴。熱如昨日。

朝五時睡起。散歩。課業如例。丸茂文興至。

夜、熱殊甚、散歩逐涼。時、月色亦明。

（七月）十三日

戌

火曜 晴。寒煖計如昨。

暁四時夢破。冒霧散歩。課業如例。従此日至十

九日、以中元休業、而令塾生皆帰家。

七月十四日

寒暖計九十八度。

従二位山内豊範公訃音至。

（七月）十五日

家厳、姉千世子、愛四郎、竹子、女弟子等十五

人与泛船、遊墨江。自茗渓、行断岸千尺。清流

潺湲而暑熱頓消。此日属望前一日、因追想坡老

赤辟之游。如坡老之賦、以博千載之名。然身居

謫地、不免有憂悶之情。余則異之、父子兄弟交

膝於一葺之中、陶然相楽。豈非聖世之余沢哉。

廻棹帰家時、正半夜。

（七月）十四日

亥

水曜

晴。熱至九十八

度。

暁五時睡起。散歩。炎暑覚甚、故廃中元候伺之

礼、寄書、以謝諸氏。従二位山内豊範公訃音

至。晡時、令

泰児、栄児

帰於田舎。此夜、

同家厳、家姉、茗橋、千久、春、及女弟子花洲、

花外、花庭、花亭、花穠、増子、長沢、高梨、

原安子等十五人、泛船、遊于墨川、而避暑納

涼。会七月望前一日也。因追想坡仙翁赤壁之

遊。則茗渓断崖千刃、清流潺湲、而須臾熱散、

爽気襲衣。既而達於墨江。月出東方、金波起四

跡見花蹊日記 明治１９年

―30―

＊十五日（十四日）

＊赤辟（赤壁）

辺。臨流賦詩、倚舷読画。飄々任舟所之、乃恍

然有羽化登仙之趣矣。於是余語諸子曰、、客無

嗜酒者、只飲麦湯、喫弁当、各乗興、咏国詩、

吟声笑声、嗟今夕之楽、豈譲坡仙之遊乎。然則

我輩之游、亦可謂当年女仙之游矣。因相共一笑、

洗杯又酌。時、正半夜也。

＊千刃（千仞）

（七月）十五日

子

木曜

晴。熱同昨。

朝五時睡起。片岡忠教至。午下、岩村道敏妻、

及花苑、花陰、月子来云、将之北海道、因託

余、花苑、月子二女子、告別而去。晡時、過弔

山内氏、少時而去。夜月光清涼、熱甚。十一時

就枕。

（七月）十六日

丑

金曜 晴、又細雨。

朝五時夢破。余、同花庭、過田村及山田、而詣

小松邸、聞、刻前、親王及妃、避于暑日光発。

已而去。午下、詣三条邸及北白川邸、謁親王及

妃於高楼。辱賜酒飯、既而退去。時、細雨乍晴、

朦朧月出。夜十一時就枕。熱甚不眠。此日、丸

茂至。花苑入塾。

（七月）十七日

寅

土曜

陰晴不定。寒煖計

八十一度、頓涼。

朝五時夢破。行薬。寄書丸茂氏。同茗橋、千

久、及花洲、花庭、鶴子、游于浅草公園、而竟

到入谷村、買得牽牛花二十盆、又過不忍池畔。

荷花已開、香風襲衣袂。午餐無極菴、及午下帰

跡見花蹊日記 明治１９年

―31―

家。

（七月）十八日

卯

日曜

陰晴不定。熱八十

度。

朝六時夢醒。揮毫。午下、塾生稍至。涼甚。浪

花唯専寺信枝書至。

（七月）十九日

辰

月曜

雨、又晴、如昨。

寒煖計八十一度。

朝六時夢破。課業如例。午下揮毫。

（七月）二十日

巳

火曜

晴。入暑。

朝六時眠起。課業如例。午下揮毫。家厳、移居

于飯田町。寄書跡見信枝。

（七月）二十一日

午

水曜 雨、及雷鳴。

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。

（七月）廿二日

未

木曜

晴。

暁四時夢破。揮毫。課業如例。杉山氏妻及加藤

氏妻来。夜、宕、雲至。十時就眠。

（七月）廿三日

申

金曜

晴。

暁四時睡起。同千久子、問家厳于飯田町、而

帰。課業如例。午下揮毫。原如童至。夜十時就

枕。

（七月）廿四日

酉

土曜

晴、又細雨。

暁四時睡起。同千久子、問家厳。揮毫。課業如

跡見花蹊日記 明治１９年

―32―

例。午下、偶賦詩一律。蓋次宕陽原韻也。夜十

一時就眠。

（七月）廿五日

戌

日曜

晴、又細雨。

朝五時夢破。揮毫。上尾在人内村小芳及恭子至、

遂宿焉。晡、拉篤、秀二少女、訪家厳、談笑少

時而帰。夜十一時就眠。

（七月）廿六日

朝四時起、散歩して練兵場をすぐ。牽牛花の中

にねむれる蝴蝶をみる。また口すさみて、

朝またき露踏分てゆくまゝに

こてふの夢やおとろかしけむ

課業例の如し。

（七月）廿六日

亥

月曜

晴。

暁四時夢破。拉鶴子、浅子、訪家厳。帰途、過

練兵場、折牽牛花、適見蝶眠。即口占曰、

朝万陀喜露踏分天行久摩々仁

蝴蝶能夢也驚嘉之計無

帰来就業。午下揮毫。玉枝、従西京至。十時就

眠。此日、恭子退塾、帰国。菅谷、鳥羽至、将

往広島、告別而去。

（七月）廿七日

子

火曜

晴。

暁四時眠起。同花洲、過家厳、遂与家厳及花

海、往観蓮花。牛門外壕出。時、残月微風、水

煙渺然、荷花盛開、香風穿鼻、佇立不堪去。帰

来、課業如例。午下揮毫。河鰭花鏡至、候暑中

起居、遂宿焉。晡、雷鳴驟雨。招若林、聴奇

談。十一時就眠。

（七月）廿八日

丑

水曜

晴。

暁五時夢破。課業如例。午下揮毫。晡、問家厳

而帰。十時就枕。夜、雨。

跡見花蹊日記 明治１９年

―33―

（七月）廿九日

寅

木曜

陰、又晴。

朝五時夢破。同玉枝、問家厳、帰来。課業如

例。松野和邦至、問暑中起居、已而帰。午下揮

毫。晡、又散歩。

（七月）三十日

三条相公芝離宮に大谷法主を饗せられる。予、

亦陪席す。御苑中、珍樹奇石綜錯として海水を

引て池となし、紅白蓮花奇芬郁馥。また品湾煙

波接天、風光之美、結構之巧、実今日之万歳山

也。夜に入て点灯、明なる事白昼の如し。洋餐

中、宝生九郎之仕舞をみる。十時退出。

（七月）三十日

卯

金曜

晴。

暁四時睡起。茗橋、携千久、花庭、欲避暑函

嶺。五時発家。浪華願泉寺和尚訃音至云、以廿

六日物故。可驚也。相公、見饗大谷法主芝離

宮、余亦得倍其席。禁苑也、多集珍木奇石、引

海水作池。池中蓮花紅白盛開、清香襲衣。遥望

西方品湾、一碧接天、煙波千里、渺然無涯。入

夜、光如昼、清風流通不知夏。洋食喫了転座、

又陪諸公、観散楽。及十時、全畢退席。十一時

入寝室。浪華願泉寺英竜去廿六日物故、書至、

皆愕然。

＊倍其席（陪其席）

（七月）三十一日

辰

土曜

晴。

暁四時夢破。散歩。課業如例。花竹、花舟至、

候暑中起居。花竹逐宿。夜十時就眠。

＊逐（遂）

（八月）

八月一日

此頃、虎疫益猩獗、休業す。

（八月）

八月一日

巳

日曜

晴。

暁四時睡起。修祖母五十年忌辰於浅草法融寺。

家厳、携花海、玉枝而往。余散歩。休通学生徒

之暇。蓋以有悪病也。訪万里小路、已而帰。

跡見花蹊日記 明治１９年

―34―

晡、花竹去。

（八月）二日

午

月曜

晴。寒暖計九十五

度。

朝五時睡覚。散歩、課業、皆如例。余微恙、招

医三浦氏、乞診。吉井桂吉、従河内来。

（八月）三日

未

火曜

晴。熱如昨。

終日病臥。茗橋書至。夜、又電報至云、勧余游

箱根。

（八月）四日

申

水曜

晴。炎熱如前。

病臥。浪花浄照坊寄書云、願泉寺主玄竜翁死、

其后子孫皆罹虎病事、詳朝日新聞。乃購講新

紙、果然、不独玄竜翁物故、其子俊竜、其孫英

竜、其妻富貴、前後皆罹虎病而死、豊竜亦罹腸

胃加答児。時読到此、使人心腸倶寒。驚愕之

余、只向西涕泣焉耳。嗟呼、玄竜翁一家之惨状

如此、雖天命之所使然、豈不亦不幸之極乎。寄

覆報箱根。松平愛花子至、候暑中起居。石山碁

正亦至。

＊石山碁正（石山基正）

（八月）五日

酉

木曜

晴。炎熱如前日。

暁四時。花海、往石神井村。余散歩。

（八月）六日

戌

金曜

晴。炎熱如前日。

暁五時夢破。散歩。午下、雷鳴微雨、炎熱如燬。

夜九時、茗橋、千久、花庭、従函嶺帰。皆無

跡見花蹊日記 明治１９年

―35―

恙。

（八月）七日

亥

土曜

晴。炎熱如前日。

暁四時夢破。散歩。揮毫。

（八月）八日

子

日曜

晴。炎熱如前日。

暁四時。茗橋、往石神井村。赤松年子至。揮

毫。

（八月）九日

丑

月曜

晴。炎熱九十二度。

四時夢覚。散歩。候家厳而帰、就課業。午下揮

毫。夜、月色清光。十時就眠。

（八月）十日

寅 火曜

晴。寒暖計如前日。

暁四時睡覚。散歩。課業如例。午下揮毫。岩村

苑叔母来。夜、月光如昼。

（八月）十一日

卯

水曜

晴。炎如昨。

暁四時夢破。散歩。課業如例。午下揮毫。竹内

菊子至。夜、迎月吹笙。

（八月）十二日

辰

木曜

晴。炎熱如前。

暁四時眠覚。散歩。課業如例。午下揮毫。夜、

月明殊奇。

（八月）十三日

巳

金曜

晴。

暁四時夢醒。散歩。課業如例。午下揮毫。熊本

県山本金書至。夜、浄照坊斅春訃音至。願泉寺

玄竜妻富貴、亦十日夜物故。令人惨歎不止。

跡見花蹊日記 明治１９年

―36―

（八月）十四日

午

土曜

曇、霧、又晴。

暁四時夢破。散歩。課業如常。

（八月）十五日

未

日曜

晴。

暁五時夢破。散歩。午下、万里小路氏見招。設

茶讌、饗午餐。其調理極佳。又点茶、移座楼上。

此楼也、風景真快濶、遂入夜、観月。涼風月明、

亦是以銷夏日之炎。時、花洲、千久、玉枝等亦

来。乃、伴梅洲君帰。又観月于三宜楼、閑談移

刻、就枕十二時也。余微恙、不能寝。乃招医、

及花海、笑堂、皆至。二時也。暁四時、病少快。

（八月）十六日

申 月曜

晴。熱計九十二

度。

終日臥蓐。夜、月極佳。

（八月）十七日

酉

火曜

晴。熱如前日。

終日臥蓐。夜、川村伝衛書至、其母千曾、以十

五日死云。月色

佳。

（八月）十八日

戌

水曜

晴。熱計始下、八

十九度。

朝六時睡起。課業如例。寄書浄照坊及辻八千

子。夜、大雨、得十分之涼。喜甚。

（八月）十九日

亥

木曜

晴、又雨。

朝五時睡起。課業如例。午下揮毫。夜、若林至。

跡見花蹊日記 明治１９年

―37―

（八月）廿日

子

金曜

晴、又雨。涼甚。

朝六時夢破。課業如例。午下、横浜平山栄、拉

娘楽子来、乞入塾。

（八月）廿一日

丑

土曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。

（八月）廿二日

寅

日曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。奥州河村厳城来、乞画。

（八月）廿三日

卯

月曜

晴。

朝五時睡覚。課業如例。午下、虎病伝染及隣家。

余、拉花庭、避疫于田畑村田村氏。熱甚。

＊田畑村（田端村）

（八月）廿四日

辰

火曜 晴。

朝五時睡起。行圃、快甚。同田村氏、及長子、

増子、花庭、往王子、観名主瀑。県泉流三所、

宜濯身。少焉納涼。又往鹿島紡績所。主人万

平、導余等、観器械運転。頗盛矣。又詣稲荷及

権現而帰。時、正午也。炎熱殊甚。黄昏、家厳、

花洲来、一宿。

＊県（懸）

［図］（寒山拾得図下書、［花蹊日記

第十二

号］八月廿四日の条、半丁分に描く）

跡見花蹊日記 明治１９年

―38―

（八月）廿五日

巳

水曜

晴。寒暖計九十五

度。

朝五時夢破。行圃。家厳及某々等、往大竜律寺、

観書画幅而帰。晡時、皆帰家。近辺虎病益盛、

可懼。

（八月）廿六日

午

木曜

晴。

朝五時夢破。終日休業。夜十一時就眠。一睡忽

雨。

（八月）廿七日

戊未

金曜

大雨。

朝五時夢醒。聴雨声、涼気生枕、快不可言。終

日休業。

＊戊未（己未）

（八月）廿八日

己申

土曜 晴。

朝五時夢醒。休業。

＊己申（庚申）

（八月）廿九日

庚酉

日曜

晴。

朝五時夢破。休業。

＊庚酉（辛酉）

（八月）三十日

辛戌

月曜

晴。寒暖計九十

一度。

朝五時睡起。夜、演史若林来、演舌。

＊辛戌（壬戌）

八月三十一日

火曜

晴。

跡見花蹊日記 明治１９年

―39―

朝五時夢破。休業。

（九月）

九月一日

蒲生褧亭先生書至。書中に詩アリ。

纔過立秋秋色加

暁霧空濛吹袂斜

閑人亦自有忙事

破卯馳車見碧花

（九月）

九月一日

水曜

二百十日。晴。

朝五時夢破。執行姉小路心浄院殿廿五回忌仏事

於伝通院。家厳、花海、為其主幹。此日、寄書

函館花雪、及福島長沢氏。褧亭先生書至、書中

有詩云、

纔過立秋秋色加

暁霧空濛吹袂斜

閑人亦自有忙事

破卯馳車見碧花

（九月）二日 木曜

雨。

朝五時夢破。散歩。休業。

（九月）三日

府下、虎患疫者一日に三百四十七人ありと云。

可驚可懼。

＊虎患疫者（虎疫患者）

（九月）三日

金曜

晴、又暴風雨。

朝四時夢破。五時、花海、茗橋、千久等、赴石

神井村。家厳、笑堂、及宕陽至。府下患虎疫

者、一日至三百四十七人、可驚可懼。午下揮毫。

夜、花海、千久、冒雨而帰。

（九月）四日

土曜

雨、又晴、時々有驟雨。

朝五時夢破。宕陽至、告往横浜。午下揮毫。佐

々木豊子至。夜、雨。

（九月）五日

日曜

晴、又微雨。

朝六時夢破。宮原湘雲来。三崎稲荷祠神輿来

臨。

跡見花蹊日記 明治１９年

―40―

（九月）六日

月曜

晴。

朝六時夢破。柘植花章来。夜、有近藤氏報云、

主人英治罹虎疫歿。此日、詣小松宮邸。

（九月）七日

火曜

晴。

朝五時夢破、散歩。揮毫。

（九月）八日

水曜

晴。

朝五時夢破。散歩、揮毫。夜、問家厳起居。

（九月）九日

木曜

晴。寒暖計九十度。

朝四時夢破。散歩。訪家厳。夜、雨甚。

（九月）十日

金曜

陰晴不定。

朝五時夢破。過高縄三宮八重野子、閑談少時而

去。又訪上野景範病。此日、島津公、見贈其夫

人遺物。

＊高縄（高輪）

（九月）十一日

土曜

晴。

朝五時夢破。宕陽書至。家厳、雲外来宿焉。

（九月）十二日

日曜

晴。熱甚。

朝四時夢破。暴雨少焉而晴。五時命車、同家

厳、花海、茗橋、雲外、赴練間村勝五郎宅、訪

栄児。既而又過石神井村豊田氏。途上、暁風颯

々、四面秋色、処々田園帯黄、草花盛開。九時、

達于豊田氏。一家喜悦。午下、詣長命寺。有大

跡見花蹊日記 明治１９年

―41―

施饑鬼法会。村人蝟集。少憩茶亭而帰。此夜仲

秋、月色殊清朗。設几床于田園中、各賦詩咏歌。

泰児等作田楽戯、又妙。夜深、各就枕。

＊練間村（練馬村）

＊饑鬼（餓鬼）

（九月）十三日

丙子

月曜

晴。熱甚。

朝五時夢破。細雨如煙。已而晴。十時、同家厳、

花海、茗橋、雲外、泰児、市蔵等、赴白子駅。

駅、距石神井村一里余、川越街道也。十一時、

達一旅亭、曰亀屋。其園池、多畜鮭及鱒。有瀑

布一条、水極清冷、如氷。喫午飯、又乗車、東

北行十五町、到吹上観音堂。眺望絶佳。墨蛇白

帆悉在目下。又廻車、帰豊田氏。此地、檜樹鬱

蒼成林、殆不洩天日、皆専念外物、空気亦極清

爽、夏日暑中避暑尤佳。余、欲新設別墅、乃命

匠建築之。夜八時帰家。

（九月）十四日

丁丑

火曜

朝細雨、少

晴。

朝五時夢破。平山氏書至。小暮幸子入門。塾生、

過半帰校、

（九月）十五日

水曜

晴。

朝五時夢破。課業、以此日始、半日而畢。午下

揮毫。夜、到裏松氏、九時帰家。

（九月）十六日

木曜

雨、又晴。

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。

跡見花蹊日記 明治１９年

―42―

（九月）十七日

金曜

陰晴不定、風。

朝四時夢破。散歩。課業如例。晡時、同茗橋、

花洲、雲外、観洋人茶利音氏曲馬戯、於秋葉原。

其指揮駿馬、及獅子、象、虎、実如人意。技手

男女、軽捷如猿、又一奇観也。九時帰家。

＊茶利音（チヤリネ）

（九月）十八日

土曜

陰、風。

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。寄書慶亭氏。

（九月）十九日

日曜

晴、又雨。

朝五時夢破。散歩。訪家厳而帰。午下、同玉

枝、到井生村楼、観監画会、聴洋人辺能魯舎氏

演説。晡時帰家。途上、遇雨。

＊辺能魯舎（フエノロサ）

（九月）二十日

月曜

彼岸節。晴。

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。米倉花馨

至、候余起居。

（九月）二十一日

火曜

晴。寒暖計七十三

度。

朝五時夢破。課業如例。西京宮崎玉緒寄書。午

下揮毫。

（九月）廿二日

水曜

雨。

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。夜、招若

林、聴譚。

跡見花蹊日記 明治１９年

―43―

（九月）廿三日

木曜

秋季皇霊祭。雨。

朝六時夢破。九時十五分、拉花洲、乗汽車、到

横浜茂木氏。筝師、常盤津師、及校書等侍席、

待遇太厚。晩七時十五分、乗汽車而帰。茂木家

人某、送余等来。西京吉田氏書至。

（九月）廿四日

金曜

雨。

朝五時夢破。課業如例。

（九月）廿五日

土曜

雨。

朝五時夢破。課業如例。

（九月）廿六日

午下四時より、紅葉館に小松親王欧州に赴せら

るゝニ付、此館に御別宴を開かせらる。来会

者、皇族、華族、凡五十余人。予も被召。

（九月）廿六日 日曜

雨。

朝六時夢破。午下四時、赴紅葉館。小松親王、

将之欧州、故設別宴於此館也。来会者、皇族、

華族、凡五十余人。十時退去。

（九月）廿七日

月曜

雨。

朝五時夢破。課業如例。

（九月）廿八日

火曜

雨、又晴。

朝五時夢破。課業如例。午下、訪三条信受院病、

又詣三条邸。此夜、相国、餞三宮氏

之欧州、

見設別宴。余亦興焉。十時帰家。

（九月）廿九日

水曜

雨。

朝五時夢破。課業如例。

（九月）三十日

木曜

雨。

跡見花蹊日記 明治１９年

―44―

朝五時夢破。課業如例。山内豊範侯夫人秀子訃

音至。

（十月）

（十月）

十月一日

金曜

晴。

朝五時夢破。此日、課業、至午下二時、以為恒

例。始聘英国婦人礼蓮氏、教授英語学。夜、輪

講。清水兼子入塾。

＊礼蓮（レレン）

十月二日

英国婦人レレン氏英語学教授を頼む。

（十月）二日

土曜

晴。

朝五時夢破。到新橋停車場、送別小松親王及夫

人之欧州、而帰。課業如例。又送別万里小路伯

赴宮城。午下、訪松平直方君、閑談移刻、晡時

帰家。

（十月）三日

日曜

晴。

朝五時夢破。同湘雲、玉枝、千久、到浅草法融

寺。執行、宮原節菴先生、及跡見勝造、遠藤松

女一周忌薦事。十二時帰家。泰児至。

（十月）四日

月曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。午下、又揮毫。

夜、賦詩。

（十月）五日

火曜

雨。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。井田少将夫人及

豊氏来。

跡見花蹊日記 明治１９年

―45―

（十月）六日

水曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。午下揮毫。夜、

輪講。福島県長沢増子来。

（十月）七日

木曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。午下揮毫。野口

小蘋来。夜、賦詩。

（十月）八日

金曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。長沢増子及井田

少将二女子入門。大谷瀬平及聚亭先生至。夜、

輪講。此日、泰児帰村。

（十月）九日

夜八時、火飛て空を渡る。予、忽これを見る。

其大さ月の如し。南より東に向ふ。天白昼の如

し。

（十月）九日

土曜

晴。

朝五時夢破。課業、半日而畢。午下揮毫。夜八

時、火飛渡空。余忽観之。其大如月。従南向東。

天如白昼。可謂奇矣。

（十月）十日

日曜

晴。

朝七時夢破。秋田県人豊田騰堂書至。寄書吉田

秀穀、及兵庫県人堀井順子、浪華浄照坊。伊集

院幸子入塾。家厳、設茗讌、見招余。同花海、

茗橋、雲外往、喫晩餐、及淡濃茶、及去。此

夜、丁旧暦十三夕、月色殊清朗。散歩而帰。

（十月）十一日

月曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。山口菊至。午下揮毫。

夜、賦詩。

跡見花蹊日記 明治１９年

―46―

（十月）十二日

火曜

晴。

朝五時夢破。散歩。揮毫。課業如例。午下、又

揮毫。夜、輪講。

（十月）十三日

水曜

晴。

朝五時夢破。散歩。揮毫。課業如例。丹羽花子

入塾。夜、賦詩。上柴至。

（十月）十四日

木曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。午下、又揮毫。

夜、亦揮毫。

（十月）十五日

金曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。晡時、拉女弟子、

過洽集館。夜、賦詩。

（十月）十六日

土曜

晴。

朝五時夢破。午十二時十五分、拉高梨朝子、乗

汽車、赴横浜。遥自車中、望右村落、左海湾、

田野稍帯秋色、処々蕎花一白如雪、使人覚寒。

已而達横浜、西村氏、花穠等出迎、喜甚。入茶

室、喫点茶。少焉、同西村主人、及政子、花

穠、観皆宜園盆栽会、又観太田水渠工事。時、

阪田富栄、携其女児、訪余。遂倶散歩。過茂木

氏別墅、又帰西村氏、見饗洋餐。晩、挙家到万

竹亭。十一時帰、遂宿焉。

（十月）十七日

日曜

晴。

跡見花蹊日記 明治１９年

―47―

午下、同

政子、花穠、訪茂木氏。家屋美麗、

園庭亦極有風致。饗以美酒珍羞。已而告別、四

時五十分、乗汽車而帰。夜、雲外、春帆来。

（十月）十八日

月曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。又揮毫。夜、輪

講。

（十月）十九日

火曜

雨。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。午下、又揮毫。

原如童至。豊氏亦来、吹笙。

（十月）二十日 水曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。夜、賦詩。

（十月）廿一日

木曜

雨。

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。夜、輪講。

（十月）廿二日

金曜

雨。

朝五時夢破。課業如例。斎藤花瑞及阪田富子書

至。晡時、褧亭先生至。夜、賦詩。

（十月）廿三日

土曜

晴。

朝五時夢破。課業、半日而畢。午下、同茗橋、

千久、花庭、到銀座街、晡時帰家。

（十月）廿四日

日曜

晴。

朝七時夢破。揮毫。午下、拉篤君、秀子、問信

受院病。閑談少時而帰。又詣三条邸、須臾而帰。

跡見花蹊日記 明治１９年

―48―

（十月）廿五日

月曜

雨。

朝六時夢破。課業如例。午下揮毫。夜、輪講。

（十月）廿六日

火曜

雨。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。豊氏至、吹笙。

（十月）廿七日

浅草別院にて貴夫人会を開かる。渥美、小栗栖

法話をきく。

（十月）廿七日

水曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。午下、同花海、

赴浅草本願寺貴夫人会、聴渥美及小栗栖二氏法

話、而帰。此日、泰及栄児至。

（十月）廿八日 木曜

晴。

朝五時夢破。以土神祭日、休業。只点神灯而已。

田中栄、及滝、徳、三女入塾。

（十月）廿九日

金曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。晡時、到三条

邸、観舞踏会。夜十一時、帰家。風雨甚。

（十月）三十日

土曜

雨。

朝五時夢破。課業半日畢。午下揮毫。

（十月）三十一日

日曜

陰。

朝五時夢破。揮毫。泰及栄児、帰村。

（十一月）

（十一月）

十一月一日

月曜

晴。

跡見花蹊日記 明治１９年

―49―

朝五時夢破。揮毫。課業如例。高松栄子入門。

藤谷金入塾。同

茗橋、千久、到三井呉服商

店、饗以酒食。夜、賦詩。

（十一月）二日

火曜

朝五時夢破。課業如例。豊氏来、吹笙。

（十一月）三日

水曜

天長節

晴。

晨起。同茗橋、花洲、花庭、欲詣埼玉県高取天

神、朝六時、乗上野汽車而行。此日、天気清

爽、山野村落、悉帯秋色、好景可愛。経王子、

赤羽、浦輪、大宮、取途於支道、又過、蓮田、

久喜、達栗橋駅。下車、息于旗井阪法事堂一茶

亭。亭畔、有静女碑。面有記俳句者云、

舞蝶能果屋夢見留塚乃蔭

宜乗挽車、過阪東太郎刀根川、所架鉄橋、頗宏

大。長隄数里、弥望無涯。右筑波、左芙峰、而

処々野菊盛開、秋香入衣、亦快。過佐波村渡、

詣高取天神祠、礼拝良久。時、已十一時、又北

一里許、詣板倉雷電社。憩于社前一茶亭、喫午

餐、就帰路。過大越渡、達栗橋、休憩良久、喫

晩餐。六時四十分、乗汽車而帰。時、已過十時。

＊浦輪（浦和）

（十一月）四日

木曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。夜、輪講。太田鶴子入

門。

（十一月）五日

金曜

晴。

跡見花蹊日記 明治１９年

―50―

朝五時夢破。課業如例。家厳、設茶讌、見招。

会者、花海、茗橋、千久、玉枝、及余也。又饗

晩餐、皆尽歓而帰。

（十一月）六日

土曜

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。

（十一月）七日

日曜

朝五時夢破。終日揮毫。

（十一月）八日

月曜

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。夜、賦詩。

（十一月）九日

火曜

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。晩、応万里

小路伯招、同花海、花洲等、往。家厳先在、見

饗晩餐及点茶。。十一時帰家。

（十一月）十日

水曜

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。夜、輪講。

（十一月）十一日

木曜

風雨。

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。

（十一月）十二日

金曜

大風雨、微雪。寒

甚。

朝五時夢破。課業如例。午下揮毫。夜、賦詩。

（十一月）十三日

土曜

晴。

跡見花蹊日記 明治１９年

―51―

朝五時夢破。課業如例。卓午、乗車、同

家

厳、花海、茗橋、花洲、花庭、赴石神井村豊田

氏。余、所新築別墅落成、開其祝宴、宿于新

居。

（十一月）十四日

日曜

曇天、又晴。

晨起。赴三宝寺弁財天。池辺楓林如烘、及執筆

写之而帰。喫朝餐畢、拉泰児帰家。時、午十二

時也。晩、宕陽至、直去。

（十一月）十五日

月曜

晴。

晨起。設祝泰児三歳宴。午下、詣土神及神田明

神。夜、又開宴。此日、浅井伊佐子入塾。

（十一月）十六日

火曜 晴。

朝六時夢破。課業如例。午下揮毫。夜、賦詩。

浜谷市至。

（十一月）十七日

水曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。茗橋、花庭、泰児、赴

横浜、拝覧皇后宮行啓博愛社。夜十一時、茗橋

等帰。

（十一月）十八日

木曜

雨、夜大風雨。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。河州人長沢某来。

夜、輪講、揮毫。

（十一月）十九日

金曜

晴。

朝六時夢破。揮毫。課業如例。褧亭先生至。夜、

跡見花蹊日記 明治１９年

―52―

賦詩、又揮毫。十二時就枕。

（十一月）二十日

土曜

晴。

朝五時夢破。上毛人茂木玉蕉来、乞画。課業如

例。夜、揮毫。

（十一月）廿一日

日曜

晴。

朝五時夢破。揮毫。越後人久保宗吉来、乞画。

為女弟子九名、各撰花字命号。行糸竹管絃会。

山登松齢、原如童、及山勢至。此日、泰児帰

村。

（十一月）廿二日

月曜

陰。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。十一時就枕。

（十一月）廿三日

火曜

新嘗祭

晴。

朝五時夢破。揮毫。河州長沢某来、告帰国。

夜、拉安子、栄子、千久子、散歩到洽集館、而

帰。又揮毫。十一時就枕。

（十一月）廿四日

水曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。揮毫。森島花源来。

（十一月）廿五日

木曜

晴、霜隕如雪。

朝五時夢破。揮毫。執行生徒試業。清水清子入

塾。小松管子来。又跡見暉一及山田時章、亦

至。

＊小松管子（小松菅子）

跡見花蹊日記 明治１９年

―53―

（十一月）廿六日

金曜

晴、又雷雨。

朝五時夢破。課業如例。山口増太郎至。夜、揮

毫。

（十一月）廿七日

土曜

晴。

朝五時夢破。課業如例。是日、応中村元嘉招、

同松野氏、田村氏、及家厳、女弟子花濤、花

寵、花邦等十五人、観後楽園。園第一門、有匾

額題後楽園、明人朱舜水筆也。入園、則樹林蓊

鬱、僅通一逕、渡澗而行、有一大池、霜葉呈

紅、斑燗如蜀錦。暫憩于某館、又上清水観音堂。

夕陽一帯、紅翠映発、真如没色図画。林中有一

堂、曰得仁堂。安置伯夷叔斉像。古雅可愛。已

而下路、聴潺湲之声、到則有懸泉焉。如山高月

小之趣、余不覚心酔、採筆摸写、又逍遥山水之

間。観兵器製造所畢、到中村氏、待遇太厚、見

饗盛饌。観世清孝及清廉亦至。夜十時、衆皆尽

歓而去。

十一月廿八日

午下、三条相公設観楓宴於後楽園。余亦陪観。

相公為先導。後楽園第一門、有遍額。明末人朱

舜水書也。入園、則樹林翁鬱、僅通一径、渡澗

而行有一大池、霜葉呈紅斑爛如蜀錦、憩于某

館、又上清水観音堂、夕陽一帯紅翠映発、真如

没色図画、林中有一堂、曰得仁堂、安置伯夷叔

斉像、古雅可愛、已而下路聴潺湲之声、到則有

懸泉焉、山高月小之趣、余不覚心酔採筆摸写、

又逍遥於山水之間。已而張宴新館、供具富膽、

（十一月）廿八日

日曜

晴。

朝八時夢破。午下、三条相公、設観楓宴於後楽

園。余亦陪観。相公為先導。穿樹林中而行。右

転左廻、林往水来、有紅欄橋架焉。処々霜楓、

色如渥丹、而貴人淑女徘徊其間。霜楓嬋妍、美

人艶態、殆是如神仙之境也。余恋々不能去、又

模写数幅。已而張宴新館、供具富瞻、酣飲移刻。

晡時、各帰家。夜、同花海、花洲、到両国吉松

氏。赤松年子先在。主人、饗以酒饌。古童来、

吹洞簫、以侑興。九時帰家。

跡見花蹊日記 明治１９年

―54―

酣飲移刻。晡時、各帰家。

＊遍額（扁額）

＊翁鬱（蓊鬱）

＊富膽（富

贍）

＊富瞻（富贍）

（十一月）廿九日

月曜

雨。

朝七時夢破。課業如例。是日、俗事繁忙、不能

操筆。

（十一月）三十日

火曜

晴。

朝七時夢破。課業如例。村上美佐雄入塾。豊氏

至。夜、揮毫。

（十二月）

十二月（以下、日記ナシ）

（十二月）

十二月一日

水曜 晴。水始氷。

朝五時夢破。散歩。課業如例。藤田春子及浜谷

市子入塾。入沢群子入門。是日、為英船諾曼頓

号溺死者、揮毫義捐画数葉。夜、輪講、又揮毫。

十二時就枕。

＊諾曼頓（ノルマントン）

（十二月）二日

木曜

晴。

朝五時夢破。散歩。赤阪火。課業如例。午下揮

毫。夜、又揮毫。十二時就眠。

（十二月）三日

金曜

晴、有風。

朝五時夢破。揮毫。課業如例。午下、又揮毫。

褧亭先生至。夜、輪講、又揮毫。十二時就枕。

（十二月）四日

土曜

晴。

跡見花蹊日記 明治１９年

―55―

朝六時夢破。揮毫。課業、半日而畢。午下揮

毫。

（十二月）五日

日曜

晴。

朝六時夢破。同茗橋、千久、花州、花庭、観劇

於千歳座。技頗可観。摸茶利音曲馬之戯、尤迫

其真。午下五時三十分、技畢、帰家。家厳及雲

外至。夜十一時就枕。

＊茶利音（チヤリネ）

（十二月）六日

月曜

晴。

朝六時夢破。散歩。隕霜如雪、寒甚。課業如例。

夜、賦詩。時、雨交霰。

（十二月）七日

火曜 晴。

朝六時夢破。散歩。課業如例。午下揮毫。

（十二月）八日

水曜

晴。

朝六時夢破。揮毫。課業如例。午下揮毫。夜、

輪講。雲外、春帆至。玉枝、自茨木県帰。十二

時就枕。

＊茨木県（茨城県）

（十二月）九日

木曜

晴。

朝六時夢破。散歩。課業如例。是日、栄児至。

夜、揮毫。宕陽、雲外、春帆至。十二時就枕。

（十二月）十日

金曜

晴。

朝六時夢破。散歩。課業如例。午下、同松野令

跡見花蹊日記 明治１９年

―56―

閨、及花海、千久子、赴浅草貴夫人会。五時帰

家。又到洽集館、購蔵鬮品而帰。

（十二月）十一日

土曜

晴。

朝六時夢破。散歩。課業如例。是日、当栄児誕

辰及十二年前創校之日。夜、聚生徒、為蔵鬮

戯。家厳、笑堂、雲外、春帆至。三条西花暁、

河鰭花鏡亦至、遂宿焉。

（十二月）十二日

日曜

晴。

朝七時夢破。応石山氏嘱、揮毫水墨梅花十葉。

五時全成。

（十二月）十三日 月曜

晴。

朝五時夢破。散歩。残月皎然、隕霜如雪。既

帰。揮毫。課業如例。午下、又揮毫。夜、輪

講。十一時就枕。

（十二月）十四日

火曜

晴、又雨、夜大風

雨、雷鳴。

朝五時夢破。散歩。課業如例。午下、揮毫。晡

時、豊氏来、合奏琴笙。又揮毫。十一時就枕。

（十二月）十五日

水曜

晴、風。

朝六時夢破。揮毫。課業如例。午下、又揮毫。

松野氏来、乞画。夜、輪講。十二時就枕。

（十二月）十六日

木曜

晴。

朝六時夢破。散歩、揮毫。課業如例。午下、又

跡見花蹊日記 明治１９年

―57―

揮毫。夜、輪講。十一時就枕。

（十二月）十七日

金曜

晴。

朝六時夢破。散歩。課業如例。午下揮毫。裏松

夫人★（卿＋向）所誕児光友児始至。褧亭先生

亦至。夜、輪講。十一時就枕。是日、伊丹千枝

子及笠野寿子、各有祝事、見贈祝品。

（十二月）十八日

土曜

晴。

朝六時夢破。散歩。課業如例。午下揮毫。呈書

浜荻、若松両典侍、及糸桜掌侍、并贈餞品。古

屋花竹、河鰭花鏡来、宿焉。

（十二月）十九日 日曜

晴。

朝七時夢破。呈書紅梅典侍、并贈餞品。花海、

往観梅若能楽。玉枝、移居隣家。山田時章及裏

松千代子至。

（十二月）二十日

月曜

晴。

朝五時夢破。散歩。課業如例。午下揮毫。

（十二月）二十一日

火曜

晴。

朝五時夢破。散歩。課業如例。茂木令閨及栄子

至。西村花穠退校。晡時、豊氏、多氏、安部氏

来、合奏雅楽。

（十二月）廿二日

水曜

陰、雨、霰。

朝五時夢破。散歩。課業如例。家厳、雲外、春

帆至。

跡見花蹊日記 明治１９年

―58―

（十二月）廿三日

木曜

晴。

朝六時夢破。散歩。生徒試業。是日、雲外帰郷。

（十二月）廿四日

金曜

晴。

朝六時夢破。又生徒試業。塾生、各以冬季休暇、

帰家。井田氏夫人至。

（十二月）廿五日

土曜

晴。

朝六時夢破。散歩。献歳末祝品赤阪、青山両御

所、及北白川宮。掃除画室。此日、駿台神学校

火。

（十二月）廿六日 日曜

晴。

朝六時夢破。掃除家室。晡時始畢。泰、栄両児

至。夜、拉女弟子、到洽集館。

（十二月）廿七日

月曜

晴。

朝六時夢破。同

花海、花洲、花庭、花苑、到

新橋停車場、送原貞子之仏蘭西、帰路。詣三条

邸、須臾而帰。松平愛花、及花妍、岩浪、木暮

両氏令閨、及森竹氏至。

（十二月）廿八日

火曜

晴。

朝六時夢破。散歩。寄書遠藤氏、姉小路聡子

君、願泉寺、唯専寺、辻氏、及井上瑞枝。午

下、花隄、花外、花濤、花鏡、花亭、花耕来、

宿焉。花苑及森竹時★（氵＋得－彳）至。

＊★（氵＋得－彳）（得）

跡見花蹊日記 明治１９年

―59―

（十二月）廿九日

水曜

晴。

朝六時夢破。散歩。山田花崖至。是日、花隄以

下皆去。

（十二月）三十日

木曜

晴。

朝七時夢破。散歩。揮毫。午下、同

花海、

泰、栄、訪家厳、述歳暮祝辞。晩、到洽集館。

宕陽、春帆至。雲外書至。

（十二月）三十一日

金曜

晴。

朝七時夢破。揮毫。