単身高齢者の増加と社会的孤立の回避...女性:4.3%)、現在の40~50歳代は未婚率が高いため、国立社会保障・人口問題研究所...

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生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 44 単身高齢者の増加と社会的孤立の回避 ポート 内匠 功 生活設計研究部 主任研究員 【 要 旨 】 はじめに これまでの単身高齢者の多くは配偶者に先立たれた妻や夫であったが、今後は未婚の 単身高齢者の増加が見込まれる。未婚者には子どもがおらず、配偶者と死別した単身高齢 者よりも社会的に孤立しやすい状況にある。近年は地方においても近所づきあいが希薄 化しており、このような面からも単身高齢者の社会的孤立の問題は深刻化しつつある。 本稿では、まず第1章で「単身高齢者の増加と家族関係の変化」を概観する。そして、 内閣府が実施した高齢者の意識調査を中心に、第2章で「単身高齢者の社会的孤立」の状 単身高齢者は 1990 年には 162 万人だったが、2015 年には 593 万人に増加。国立社会保障・ 人口問題研究所の推計では、2040 年には 896 万人にまで増加する見通し。 2015 年の高齢者の独居率は男性が 13.3%、女性が 21.1%であるが、2040 年には男性が 20.8%、女性が 24.5%に上昇する見通し。 これまでの単身高齢者の多くは配偶者に先立たれた妻または夫であったが、今後は未婚の高 齢者(特に男性)が増加。未婚の単身高齢者には子どもがいないため、配偶者と死別した単 身高齢者よりも社会的に孤立する懸念。 単身高齢者は一日のうち約 11 時間(睡眠時間を除く)を一人で過ごしており、テレビを見 ている時間が長い。夫婦二人世帯や三世代世帯と比較すると、単身高齢者は近所づきあいや 親しい友人・仲間が少なく、生活満足度も低い。 地方よりも大都市のほうが単身高齢者の生活満足度が高い。大都市は商業施設や飲食店、娯 楽施設等が充実し、鉄道やバスなどの公共交通機関も発達しているため、単身高齢者が趣味 や食事などを通じて、親しい友人や親族(子ども・孫・兄弟姉妹等)と交流を図りやすい。 単身高齢者の半数近く(44.5%)が孤独死を身近に感じている。大都市だけではなく、近年 は地方でも近所づきあいが希薄化しており、単身高齢者の社会的孤立は全国的な課題と認識 すべき。民間企業の協力を得ながら、見守りネットワークを再構築することが必要。 単身高齢者の社会的孤立を回避するためには、地域社会に居場所を作ることが重要であり、 「通いの場」(サロン)にその役割が期待される。多くの高齢者が参加したくなるように、民 間企業と連携し、「通いの場」のコンテンツ(趣味活動等)を充実させることに注力すべき。

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生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 44

単身高齢者の増加と社会的孤立の回避

レポート

内匠 功 生活設計研究部 主任研究員

【 要 旨 】

はじめに

これまでの単身高齢者の多くは配偶者に先立たれた妻や夫であったが、今後は未婚の

単身高齢者の増加が見込まれる。未婚者には子どもがおらず、配偶者と死別した単身高齢

者よりも社会的に孤立しやすい状況にある。近年は地方においても近所づきあいが希薄

化しており、このような面からも単身高齢者の社会的孤立の問題は深刻化しつつある。

本稿では、まず第1章で「単身高齢者の増加と家族関係の変化」を概観する。そして、

内閣府が実施した高齢者の意識調査を中心に、第2章で「単身高齢者の社会的孤立」の状

単身高齢者は 1990 年には 162 万人だったが、2015 年には 593 万人に増加。国立社会保障・

人口問題研究所の推計では、2040 年には 896 万人にまで増加する見通し。

2015 年の高齢者の独居率は男性が 13.3%、女性が 21.1%であるが、2040 年には男性が

20.8%、女性が 24.5%に上昇する見通し。

これまでの単身高齢者の多くは配偶者に先立たれた妻または夫であったが、今後は未婚の高

齢者(特に男性)が増加。未婚の単身高齢者には子どもがいないため、配偶者と死別した単

身高齢者よりも社会的に孤立する懸念。

単身高齢者は一日のうち約 11 時間(睡眠時間を除く)を一人で過ごしており、テレビを見

ている時間が長い。夫婦二人世帯や三世代世帯と比較すると、単身高齢者は近所づきあいや

親しい友人・仲間が少なく、生活満足度も低い。

地方よりも大都市のほうが単身高齢者の生活満足度が高い。大都市は商業施設や飲食店、娯

楽施設等が充実し、鉄道やバスなどの公共交通機関も発達しているため、単身高齢者が趣味

や食事などを通じて、親しい友人や親族(子ども・孫・兄弟姉妹等)と交流を図りやすい。

単身高齢者の半数近く(44.5%)が孤独死を身近に感じている。大都市だけではなく、近年

は地方でも近所づきあいが希薄化しており、単身高齢者の社会的孤立は全国的な課題と認識

すべき。民間企業の協力を得ながら、見守りネットワークを再構築することが必要。

単身高齢者の社会的孤立を回避するためには、地域社会に居場所を作ることが重要であり、

「通いの場」(サロン)にその役割が期待される。多くの高齢者が参加したくなるように、民

間企業と連携し、「通いの場」のコンテンツ(趣味活動等)を充実させることに注力すべき。

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生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 45

況を把握し、第3章で「大都市と地方の比較」を行なう。最後に第4章で単身高齢者の「社

会的孤立の回避」のために、行政・地域社会が果たすべき役割について私見を述べたい。

Ⅰ 単身高齢者の増加と家族関係の変化

1.単身高齢者の増加

(1)単身高齢者数の推移と今後の推計値

1990 年には単身高齢者(65 歳以上)は 162 万人(男性:31 万人、女性:131 万人)に

過ぎなかったが、その後急増し、2015 年には 593 万人(男性:192 万人、女性:400 万人)

となった。国立社会保障・人口問題研究所によると、単身高齢者は今後も増加し、2040 年

には 896 万人(男性:356 万人、女性:540 万人)に達すると推計されている(図表1)。

図表1 単身高齢者数(65 歳以上)の推移と今後の推計値

出所:総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推

計)(2018 年推計)」より作成。図表2~3も同じ。

(2)独居率の推移と今後の推計値

1990 年には高齢者(65 歳以上)の独居率は男性が 5.2%、女性が 14.7%であったが、

その後は男女ともに上昇し、2015 年には男性が 13.3%、女性が 21.1%となった。国立社

会保障・人口問題研究所によると、高齢者の独居率は今後も上昇し、2040 年には男性が

20.8%、女性が 24.5%に達すると推計されている(図表2)。

これまでの単身高齢者の多くは配偶者に先立たれた妻または夫であった。女性は男性

よりも平均寿命が長いことに加え、妻が夫よりも年下の夫婦が多いことも女性の独居率

が男性よりも高い要因となっている。今後は女性高齢者の独居率も上昇するが、男性高齢

者の独居率の上昇幅のほうが大きくなると見込まれている(要因は後述)。

31 46 74 105 139192

244 268 293 323 356

131174

229

281

341

400

459483

502519

540

162

220

303

386

479

593

703751

796842

896

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

(万人)

(年)

単身高齢者数(男性) 単身高齢者数(女性)

実績値

推計値

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生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 46

図表2 高齢者(65 歳以上)の独居率の推移と今後の推計値

2.高齢者の家族関係の変化

(1)高齢者の配偶関係の変化

現在の高齢者(65 歳以上)は男女ともに未婚率が低いものの(2015 年時点で男性:5.3%、

女性:4.3%)、現在の 40~50 歳代は未婚率が高いため、国立社会保障・人口問題研究所

によると、2015 年から 2040 年にかけて高齢者の未婚率が大幅に上昇(男性:5.3%→14.9%、

女性:4.3%→9.9%)すると推計されている。特に男性の上昇幅が大きい(図表3)。

図表3 高齢者(65 歳以上)の配偶関係の推移と今後の推計値

5.26.1

8.09.7

11.1

13.3

15.516.8

18.219.7

20.814.7

16.217.9

19.020.3 21.1

22.4 23.2 23.9 24.3 24.5

0

5

10

15

20

25

30

1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

(%)

(年)

独居率(男性) 独居率(女性)

実績値

推計値

1.1

1.4

1.8

2.4

3.7

5.3

7.6

9.0

10.8

13.0

14.9

83.6

84.4

84.4

83.4

81.8

80.1

76.9

75.6

74.1

72.5

71.6

13.8

12.5

11.6

11.2

10.8

10.1

1.5

1.7

2.2

2.9

3.7

4.4

15.5

15.4

15.1

14.5

13.5

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1990

1995

2000

2005

2010

2015

2020

2025

2030

2035

2040

(年)

未婚 有配偶 死別 離別 死離別

男性

2.3

3.0

3.3

3.5

4.0

4.3

4.7

5.2

6.3

7.9

9.9

40.5

43.3

46.2

47.9

49.6

51.4

50.1

48.5

46.3

44.2

43.1

54.2

50.4

46.9

44.6

41.7

38.7

3.0

3.2

3.6

4.0

4.7

5.6

45.2

46.3

47.4

47.8

47.1

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1990

1995

2000

2005

2010

2015

2020

2025

2030

2035

2040

(年)

未婚 有配偶 死別 離別 死離別

女性

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生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 47

高齢単身世帯

高齢者夫婦世帯

高齢単身世帯

高齢者夫婦世帯

男性

女性

男性

女性

4時間36分

11時間25分

4時間54分

11時間01分

未婚の高齢者の中には親や兄弟姉妹等と同居している人もいるが、多くは単身者と推

測される。今後は男性で未婚者の増加が見込まれるため、男性高齢者の独居率の上昇幅が

女性の上昇幅を上回る主因となっている。

配偶者と死別した単身高齢者の多くには子どもがいるが、日本の場合、未婚の父・未婚

の母はごくわずかに過ぎず、ほとんどの未婚者に子どもはいない。そのため、未婚の単身

高齢者は配偶者と死別した単身高齢者よりも社会的に孤立しやすい状況と言える。

なお、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、死別と離別の内訳が公表されて

いないが、平均寿命の延伸とともに、男女とも死別の割合は今後も低下傾向で推移する可

能性が高い。一方、現在の 40~50 歳代には離別者が多いことから、これら世代が高齢期に

突入するにつれ、男女ともに離別の割合は今後も上昇すると予想される。

(2)子どもの有無と子どもの居住地

総務省「住宅・土地統計調査(2013 年)」によると、単身高齢者のうち子どもがいる人

は 72.8%であり、そのうち片道 15 分未満に子どもが居住している人の割合が 35.3%、片

道 15 分以上1時間未満が 32.4%、片道1時間以上が 32.2%となっている。

現在は単身高齢者の約半数は子どもが片道1時間以内に居住しているが、今後は未婚

の高齢者が増加するため、単身高齢者のうち子どもがいない人の割合が上昇し、その結

果、子どもが近居している人の割合は現在よりも低下すると予想される。

Ⅱ 単身高齢者の社会的孤立

1.高齢者が一人で過ごす時間

総務省「社会生活基本調査(2016 年)」によると、一日のうち一人で過ごした時間(睡

眠時間を除く、週平均)は、高齢単身世帯の男性が 11 時間 01 分、女性が 11 時間 25 分

であり、高齢者夫婦世帯の男性が4時間 36 分、女性が4時間 54 分であるのと比較する

と、大幅に長くなっている(図表4)。

図表4 男女別・世帯構造別 一日のうち一人で過ごした時間(睡眠時間を除く、週平均)

(注)高齢単身世帯は男女とも 65 歳以上の単身世帯、高齢者夫婦世帯は夫 65 歳以上・妻 60 歳以上の夫婦のみ世帯

出所:総務省「社会生活基本調査(2016 年)」より作成。図表5も同様。

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生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 48

26.0

31.0

46.1

64.2

64.5

49.0

5.0

3.1

1.7

2.3

0.8

1.2

2.5

0.6

2.0

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

単身世帯

夫婦二人世帯

三世代世帯

(子・孫と同居)

親しく

つきあっている

あいさつを

する程度

ほとんど

つきあいがない

つきあいが

ない

わからない

・無回答

7.3

9.4

11.3

37.7

48.3

51.2

36.7

31.3

26.1

12.2

8.5

7.9

3.4

1.6

1.2

2.8

0.9

2.2

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

単身世帯

夫婦二人世帯

三世代世帯

(子・孫と同居)

たくさんいる 普通にいる 少しいる ほとんどいない いない わからない・無回答

45.0

57.7

62.5

53分

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

男性

女性

テレビ・ラジオ・新聞・雑誌 食事 家事 身の回りの用事 休養・くつろぎ その他

3時間46分

3時間17分

1時間21分

1時間30分 1時間51分 1時間30分

1時間09分 1時間12分

1時間22分

2時間40分

1時間55分

単身高齢者が一人で過ごした時間(睡眠時間を除く)の内訳を見ると、「テレビ・ラジ

オ・新聞・雑誌」(男性:3時間 46 分、女性:3時間 17 分)が男女とも最も長く、次い

で男性は食事(1時間 21 分)、女性は「家事」(1時間 51 分)となっている。単身高齢者

の日常生活は「一人でテレビを見ている」時間が長いことがうかがわれる(図表5)。

図表5 単身高齢者が一人で過ごした時間(睡眠時間を除く、週平均)の内訳

2.高齢者の人づきあい

(1)近所づきあい

内閣府「高齢者の日常生活に関する意識調査(2014 年)」によると、近所づきあいの程

度について「親しくつきあっている」と回答した人の割合は、三世代世帯では 46.1%、夫

婦二人世帯では 31.0%であるが、単身世帯では 26.0%に過ぎない。単身高齢者は親しく

近所づきあいをしている人が相対的に少ないことがわかる(図表6)。

図表6 同居形態別 高齢者(60 歳以上)の近所づきあいの程度

出所:内閣府「高齢者の日常生活に関する意識調査(2014 年)」より作成。図表7~8も同じ。

(2)親しい仲間・友人

親しい仲間・友人が「たくさんいる」・「普通にいる」との回答を合わせると、三世代世

帯は 62.5%、夫婦二人世帯は 57.7%であるが、単身世帯は 45.0%に過ぎない。単身高齢

者は親しい仲間・友人も相対的に少ないと言える(図表7)。

図表7 同居形態別 高齢者(60 歳以上)の親しい仲間・友人の有無

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生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 49

9.2

13.2

13.8

49.3

58.8

59.6

26.4

19.8

16.7

11.3

6.1

5.7

3.8

2.1

4.2

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

単身世帯

夫婦二人世帯

三世代世帯

(子・孫と同居)

満足 まあ満足 やや不満 不満 わからない・無回答

58.5

72.0

73.4

69.9

83.0

30.1

17.0

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

男性

女性

満足 不満

3.同居形態別の生活満足度

日常生活の満足度も「満足」・「まあ満足」との回答を合わせると、三世代世帯は 73.4%、

夫婦二人世帯は 72.0%であるが、単身世帯は 58.5%に過ぎない。単身高齢者の日常生活

満足度は「まあ満足」まで含めると5割を超えているものの、相対的には満足度が低いこ

とがうかがえる(図表8)。

生活満足度は経済状況や健康状態によっても大きく変わるが、単身高齢者の生活満足

度が相対的に低いことは社会的に孤立しやすいことも一因と考えられる。

図表8 同居形態別 高齢者(60 歳以上)の日常生活満足度

4.単身高齢者の生活満足度

(1)性別による生活満足度の相違

内閣府「一人暮らし高齢者に関する意識調査(2014 年)」によると、男性の単身高齢者

は生活に「満足」と回答した人の割合は 69.9%であるのに対し、女性は 83.0%が「満足」

と回答している(図表9)。

図表9 男女別 単身高齢者(65 歳以上)の生活満足度

出所:内閣府「一人暮らし高齢者に関する意識調査(2014 年)」より作成。図表 10~12 も同じ。

単身高齢者の「現在の楽しみ」を男女別に見ると、女性は「仲間と集まりおしゃべりを

する」、「食事、飲食」、「旅行」、「買物、ウィンドウショピング」、「室内で行なう趣味活動」

等の回答が男性よりも大幅に多い(図表 10)。

仲間とのおしゃべりはもちろんのこと、食事、飲食、旅行、趣味等も親しい友人や親族

(子ども・孫・兄弟姉妹等)との交流の場となっていることが多いと推測される。女性は

一人暮らしをしていても、このように人との交流を楽しみにしている様子がうかがえ、こ

れが生活満足度の向上につながっているのであろう。一方、男性の単身高齢者は自分の殻

に閉じこもる傾向があり、女性よりも社会的に孤立する人が多いと考えられる。

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生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 50

80.2

41.7

48.5

35.6

31.1

27.0

19.2

23.1

8.6

20.2

78.1

58.7

41.8

45.4

32.0

32.2

33.0

25.1

28.8

20.5

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

テレビ、ラジオ

仲間と集まりおしゃべりをする

新聞、雑誌

食事、飲食

散歩、ウォーキング、ジョギング

旅行

買物、ウィンドウショッピング

読書

室内で行なう趣味活動

スポーツ観戦、観劇、音楽会、映画

(%)

男性

女性

82.6

79.2

77.2

75.8

17.4

20.8

22.8

24.2

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

子どもがいる

(片道15分未満)

子どもがいる

(15分以上1時間未満)

子どもがいる

( 1時間以上)

子どもがいない

満足 不満

図表 10 男女別 単身高齢者(65 歳以上)の「現在の楽しみ」(複数回答)

(2)子どもの有無・居住地と生活満足度

子どもがいない人よりも子どもがいる人のほうが生活に「満足」と回答した割合が高

く、子どもがいる人の中では子どもが近くに居住している人ほど「満足」と回答した割合

が高い(図表 11)。

一人暮らしであっても子どもがいれば何かの時には頼りになること、また子どもが近

くに居住していれば子どもや孫との交流機会を増やしやすいことなどが生活満足度の向

上につながっていると考えられる。ただし、子どもの有無や子どもの居住地の遠近によっ

て、生活満足度にそれほど大きな差がある訳ではない。

図表 11 子どもの居住地別 単身高齢者(65 歳以上)の生活満足度

(3)会話の頻度と生活満足度

単身高齢者は一人で過ごす時間が長くなりやすいが、会話の頻度が高い人ほど生活に

「満足」と回答している人の割合が高い。子どもの有無や子どもの居住地の遠近よりも会

話の頻度のほうが生活満足度との関係が大きい様子が見て取れる(図表 12)。

子どもがいなくても(あるいは子どもが遠くに居住していても)親しい友人などとの交

流機会が多く、会話や趣味・レジャー等を楽しむことができる単身高齢者の生活は充実し

ていると言えよう。

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生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 51

83.3

79.2

73.0

64.4

58.3

63.7

16.7

20.8

27.0

35.6

41.7

36.3

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

毎日

2~3日に1回

1週間に1回

2週間に1回

1ヶ月に1回

ほとんど話をしない

満足 不満

22.8

30.7

39.9

38.4

68.1

63.9

55.9

53.1

5.4

3

1.8

4.6

2.1

1.5

1.1

1.4

1.5

0.9

1.3

2.4

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

大都市(東京都区部・政令指定都市)

中都市(人口10万人以上の市)

小都市(人口10万人未満の市)

郡部(町村)

親しく

つきあっている

あいさつを

する程度

ほとんど

つきあいがない

つきあいが

ない

わからない

・無回答

図表 12 会話の頻度別 単身高齢者(65 歳以上)の生活満足度

Ⅲ 大都市と地方の比較

1.孤独死に関する認識

(1)近所づきあいの程度

内閣府「高齢者の日常生活に関する意識調査(2014 年)」によると、都市の規模が小さ

いほど、親しく近所づきあいをしている人の割合が高くなる傾向が見られる(図表 13)。

ただし、前回調査(2009 年)と比較すると、親しく近所づきあいしている人の割合は、

大都市(36.8%→22.8%)、中都市(45.8%→30.7%)、小都市(55.2%→39.9%)、郡部(57.2%

→38.4%)のいずれも大幅に低下しており、大都市だけではなく、地方でも近所づきあい

が希薄化している様子がうかがえる。

図表 13 都市の規模別 高齢者(60 歳以上)の近所づきあいの程度

出所:内閣府「高齢者の日常生活に関する意識調査(2014 年)」より作成

(2)孤独死に関する認識

内閣府「一人暮らし高齢者に関する意識調査(2014 年)」によると、都市の規模が大き

いほど単身高齢者が孤独死を身近なものと感じる傾向があり、大都市では「とても感じ

る」と「まあ感じる」を合わせると 46.7%に達する。これは大都市ほど近所づきあいが少

ないことに起因している可能性が高い。ただし、郡部でも孤独死を身近に感じている人が

37.0%も存在し、全国平均では 44.5%の人が孤独死を身近に感じている(図表 14)。

Page 9: 単身高齢者の増加と社会的孤立の回避...女性:4.3%)、現在の40~50歳代は未婚率が高いため、国立社会保障・人口問題研究所 によると、2015年から2040年にかけて高齢者の未婚率が大幅に上昇(男性:5.3%→14.9%、

生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 52

18.1

13.1

13.9

8.9

28.6

31.9

29.7

28.1

30.8

29.8

29.1

40.7

20.7

21.2

22.8

18.5

1.7

4.0

4.4

3.7

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

大都市(東京都区部・政令指定都市)

中都市(人口10万人以上の市)

小都市(人口10万人未満の市)

郡部(町村)

とても感じる まあ感じる あまり感じない まったく感じない わからない

46.7

45.0

43.6

37.0

79.5

52.4

45.0

46.5

35.6

36.2

29.9

26.0

22.1

20.7

75.0

52.0

44.8

40.5

31.7

30.3

29.8

25.7

23.5

23.6

83.9

59.2

43.4

41.5

29.7

27.2

26.9

23.4

20.3

17.1

80.7

45.9

38.5

36.3

23.0

19.3

21.5

16.3

20.7

13.3

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

テレビ、ラジオ

仲間と集まったりおしゃべりをする

新聞、雑誌

食事、飲食

散歩、ウォーキング、ジョギング

旅行

買物、ウィンドウショッピング

読書

室内で行う趣味活動

スポーツ観戦、観劇、音楽会、映画

(%)

大都市

(東京都区部・政令指定都市)

中都市

(人口10万人以上の市)

小都市

(人口10万人未満の市)

郡部(町村)

図表 14 都市の規模別 単身高齢者(65 歳以上)が孤独死を身近に感じるかどうかの認識

出所:内閣府「一人暮らし高齢者に関する意識調査(2014 年)」より作成。図表 15~18 も同じ。

2.単身高齢者の生活満足度

(1)現在の楽しみと外出頻度

都市の規模が大きいほど、「食事、飲食」、「散歩、ウォーキング、ジョギング」、「旅行」、

「買物、ウィンドウショッピング」、「スポーツ観戦、観劇、音楽会、映画」等を楽しみに

している単身高齢者の割合が高まる傾向が見られる(図表 15)。

図表 15 都市の規模別 単身高齢者(65 歳以上)の「現在の楽しみ」(複数回答)

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生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 53

51.1

41.0

40.5

37.8

16.8

18.6

18.4

14.1

19.2

26.1

27.5

25.2

9.2

7.4

7.9

8.9

2.4

4.6

4.1

10.4

1.3

2.1

1.6

3.0

0.0

0.4

0.0

0.7

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

大都市(東京都区部・政令指定都市)

中都市(人口10万人以上の市)

小都市(人口10万人未満の市)

郡部(町村)

ほとんど毎日 週に4、5回 週に2、3回 週に1回 月に1、2回 外出しない わからない

83.6

75.8

79.7

71.9

16.4

24.2

20.3

28.1

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

大都市(東京都区部・政令指定都市)

中都市(人口10万人以上の市)

小都市(人口10万人未満の市)

郡部(町村)

満足 不満

一般に大都市ほど商業施設や飲食店、スタジアム、劇場、コンサートホール、映画館等

の施設が充実しており、鉄道やバス等の公共交通機関も発達しているため、「食事、飲食」、

「買物、ウィンドウショッピング」、「スポーツ観戦、観劇、音楽会、映画」、「旅行」等を

楽しみやすい環境にある。また、車社会の地方では「散歩、ウォーキング、ジョギング」

を楽しみにくい面があるようだ。

上記のようなことを楽しむ環境が充実している大都市ほど、単身高齢者の外出頻度も

高い傾向がある。大都市では「ほとんど毎日」外出している人が 51.1%と5割を超えてい

る(週に4、5回まで含めると 67.9%)が、郡部では 37.8%(週に4、5回まで含めても

51.9%)にとどまっている(図表 16)。

図表 16 都市の規模別 単身高齢者(65 歳以上)の外出頻度

(2)都市の規模と生活満足度

都市の規模が大きくなるほど、単身高齢者の生活満足度も高くなるという傾向が見ら

れる(大都市:83.6%、郡部:71.9%)。現在でも大都市より地方のほうが近所づきあいは

相対的に活発であるが、大都市の単身高齢者は親しい友人や親族(子ども・孫・兄弟姉妹

等)と食事・趣味などを楽しむ傾向が強く、その結果、生活満足度も地方よりも高くなっ

ていると考えられる(図表 17)。

地方よりも大都市のほうが単身高齢者の社会的孤立が深刻とのイメージがあるが、近

年は地方でも近所づきあいが希薄化しつつあり、単身高齢者の社会的孤立は全国的な課

題と認識すべきだろう。

図表 17 都市の規模別 単身高齢者(65 歳以上)の生活満足度

Page 11: 単身高齢者の増加と社会的孤立の回避...女性:4.3%)、現在の40~50歳代は未婚率が高いため、国立社会保障・人口問題研究所 によると、2015年から2040年にかけて高齢者の未婚率が大幅に上昇(男性:5.3%→14.9%、

生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 54

Ⅳ 社会的孤立の回避

1.単身高齢者の同居の意向

内閣府「一人暮らし高齢者に関する意識調査(2014 年)」によると、単身高齢者のうち

男性の 75.7%、女性の 76.6%が「今のまま一人暮らしでよい」と回答している。次いで

「子」との同居を望む人が男性の 9.0%、女性の 15.5%を占めている。男性は(結婚して)

「配偶者」(3.7%)と同居、(結婚せずに)「異性の友人」(6.5%)と同居したいとの意向

を持つ人が合わせて 10.2%いるが、女性でそのような意向を持つ人は 1.0%に過ぎず、男

女で大きな差が見られる(図表 18)。

図表 18 男女別 単身高齢者(65 歳以上)の今後の同居の意向

2.行政・地域社会が果たすべき役割

(1)見守りネットワークの再構築

単身高齢者の多くが「今のまま一人暮らしでよい」と回答しており、単身高齢者の社会

的孤立を回避するために、行政・地域社会が果たすべき役割は大きい。

前述したとおり、大都市だけではなく地方においても「近所づきあい」が希薄化してお

り、かつてのような近隣住民による自発的な「声かけ」や「見守り」などは全国的に弱体

化していると考えられる。「孤独死」を身近に感じる単身高齢者が全国で半数近く(44.5%)

にも達しており、地域の実情に合った見守りネットワークを再構築していくことが喫緊

の課題と言えよう。

すでに多くの自治体において、高齢者宅で何らかの異変(何日も同じ洗濯物が干したま

ま、昼間でも灯りがついたまま、新聞や郵便物がたまっている、等)が発見された場合、

速やかに行政(役所・役場、地域包括支援センター等)や警察署・消防署等に連絡・通報

する見守り活動が実施されている。今後は民間企業(宅配業者、郵便局、新聞配達店、保

険会社、電気・ガス会社、生協、コンビニ、等)にさらなる協力を求め、見守りネットワ

ークの充実・強化を図っていくことが必要である。

また、屋外で様子のおかしい高齢者を見かけた場合には、認知症による徘徊の可能性も

あるため、地域住民や協力企業の従業員等がそのような高齢者に対して適切に対応(状況

に応じて行政や警察署に連絡・通報)できるように、認知症サポーター(2018 年末現在

75.7

76.6

3.7

0.7

9.0

15.5

6.5

0.3

1.0

3.3

4.1

3.5

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

男性

女性

今のまま一人暮らしでよい 配偶者 子 異性の友人 その他 わからない

Page 12: 単身高齢者の増加と社会的孤立の回避...女性:4.3%)、現在の40~50歳代は未婚率が高いため、国立社会保障・人口問題研究所 によると、2015年から2040年にかけて高齢者の未婚率が大幅に上昇(男性:5.3%→14.9%、

生活福祉研究 通巻 97 号 February 2019 55

で 1,110 万人)をさらに養成していくことが求められる。最近では、GPS 等を活用して行

方不明となった認知症高齢者の早期発見に努める自治体も見られる。

さらに、自治体の中には、緊急通報装置や緊急ペンダント(首から下げる小型の緊急通

報装置)を単身高齢者等に貸与し、急病やけがなどの緊急時にはボタンを押すだけで、消

防署や警備会社、近隣の協力者等に通報できるサービスを低廉な利用料で提供している

ところもある。単身高齢者が安心して生活できるようにするためには、このようなシステ

ムをさらに充実させていくことが必要と思われる。

(2)単身高齢者の居場所づくり

単身高齢者には同居家族がおらず、仕事をリタイヤした後は職場で形成された人的ネ

ットワークも次第に希薄となることが多いため、地域社会にその受け皿としての役割が

求められる。現在、高齢者の介護予防のために住民が運営主体(市町村等が支援)の「通

いの場」(サロン)が全国で設置されつつある。この「通いの場」が単身高齢者の「居場

所」の一つになりうると考えられ、単身高齢者の社会的孤立を回避する方策として期待さ

れる。

JAGES(日本老年学的評価研究)の調査研究結果によると、「通いの場に行き、談笑し

たり、みんなで体操などをしたりすることで、1年後に外出する機会が増えた人は 47%、

会話する機会が増えた人は 62%いた」、「通いの場に頻繁に参加している人は、そうでな

い人と比べ、5年間のうちに要介護認定を受ける可能性が5割低く、7年間のうちに認知

症になる可能性が3割低い」ことなどが判明している(JAGES 発行の冊子「健康な心と体

をつくるヒント」より抜粋)。「通いの場」に参加することは、単身高齢者の社会的孤立の

回避に寄与するだけではなく、認知症などの介護予防にも効果があることがわかる。

「通いの場」の形態はさまざまであるが、一般には公民館や自治会館、団地・マンショ

ンの集会室等を利用して、健康体操やお茶会、カラオケ、各種ゲーム等が週1回程度の頻

度で開催されていることが多い。一部の地域では多くの高齢者が「通いの場」に参加し、

一定の成果を収めている事例が見られるものの、これまでのところ、そのような事例はま

だ少ないようである。その要因の一つとして、「通いの場」で用意されているコンテンツ

(健康体操・趣味活動等)が「昔ながらのもの」が中心で、現在の高齢者(特に前期高齢

者)のニーズを十分に満たしていないことが考えられる。多くの高齢者が参加したいと思

えるような「通いの場」を構築していくためには、コンテンツを充実させることが不可欠

であり、そのためには民間企業と提携し、民間企業が提供するサービス・ノウハウを積極

的に取り入れていくことが必要と考える。

単身高齢者の中には、友人・親族と食事・趣味・買物などを楽しみ、社会的孤立とは無

縁な人もいるが、自分の殻に閉じこもりがちな人には「通いの場」が人との交流の場とな

りうる。高齢者の介護予防だけではなく、新たな仲間づくりの拠点としても「通いの場」

を有効活用する仕組みづくりが重要だろう。