英語を使って自分の思いを生き生きと 伝えようとす …外 -2...

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英語を使って自分の思いを生き生きと 伝えようとする児童の育成 -ゆるやかなバックワードデザインを取り入れた 授業づくりを通して- 福岡市教育センター 外国語活動,外国語科研究室 平成 30 年度 研究報告書 (第 1058 号) G9-01 新学習指導要領において小学校外国語は,コミュニケーションを図る基 礎となる資質・能力の育成を目指すことを目標にしている。外国語活動に おいて,英語によるやり取りやネイティブ・スピーカーとの関わりを楽し みにしている児童は多く,コミュニケーションへの意欲,新しい学習への 期待感は高い。しかし一方で,英語を使って自分の思いを伝えることに自 信がもてないため,進んで関わることができずにいる児童も数名いる。 そこで,本研究では,英語を使って自分の思いを生き生きと伝えようと する児童を育むために,児童の振り返りを生かしたゆるやかなバックワー ドデザインをもとに,活動設定・再設計を行うこととした。到達状況を確 認する「I can カード」と時間毎の振り返りカードの活用,既習表現定着 のための Small Talk の設定,自分の思いを表現する自己決定の場の設定 の3つの手だてをもとに授業づくりを行った。 その結果,しっかりと自分の思いをもち,自分の思いを生き生きと伝え ようとする姿が見られた。

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英語を使って自分の思いを生き生きと

伝えようとする児童の育成

-ゆるやかなバックワードデザインを取り入れた

授業づくりを通して-

福岡市教育センター

外国語活動,外国語科研究室

平成 30 年度

研究報告書

(第 1058 号)

G9-01

新学習指導要領において小学校外国語は,コミュニケーションを図る基

礎となる資質・能力の育成を目指すことを目標にしている。外国語活動に

おいて,英語によるやり取りやネイティブ・スピーカーとの関わりを楽し

みにしている児童は多く,コミュニケーションへの意欲,新しい学習への

期待感は高い。しかし一方で,英語を使って自分の思いを伝えることに自

信がもてないため,進んで関わることができずにいる児童も数名いる。

そこで,本研究では,英語を使って自分の思いを生き生きと伝えようと

する児童を育むために,児童の振り返りを生かしたゆるやかなバックワー

ドデザインをもとに,活動設定・再設計を行うこととした。到達状況を確

認する「I can カード」と時間毎の振り返りカードの活用,既習表現定着

のための Small Talk の設定,自分の思いを表現する自己決定の場の設定

の3つの手だてをもとに授業づくりを行った。

その結果,しっかりと自分の思いをもち,自分の思いを生き生きと伝え

ようとする姿が見られた。

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外 -1

1 主題について

(1) 主題設定の理由

① 外国語教育の動向から

グローバル化の進展により,多文化・多言語・多民族の人たちとの交流や外国語を用いたコミ

ュニケーションを行う機会は,今後,ますます増えることが考えられ,外国語教育のより一層の

充実が求められている。

文部科学省は2017年3月,新学習指導要領を公示し,その実現のために,全ての教科等の目標

及び内容を「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力・人間性等」

の3つの柱で整理した。高学年の「外国語科」導入にあたっては,これまでの課題を踏まえつつ

も,発達段階に応じた指導内容を充実させていくことで,中学校への接続が系統的に行えること

が期待されている。外国語科では,「聞くこと」「話すこと〔やり取り〕」「話すこと〔発表〕」

「読むこと」「書くこと」の五つの領域の言語活動を通して,コミュニケーションを図る基礎と

なる資質・能力を育成することとをねらいとしている。つまり,児童が普段の外国語教育の中で

他者との関わりに着目して物事を捉え,コミュニケーションを行う目的や場面,状況等に応じて

自分の考えを形成し,相手に伝えることが求められている。

② 福岡市の外国語教育から

国の外国語教育の動向を受けて,福岡市では,2020 年度の新学習指導要領全面実施に備えて,

2018 年度から全小学校で外国人英語指導講師(NS)の配置を行い,2019 年度からは,全小学校で内

容・時数の先行実施を決めている。また,小中高連携推進モデル地区において,2015 年度から 2017

年度にわたって小中高連携を図る「国際教育礎プラン」の研究を行ったり,教員対象の研修を継

続的に行ったりしている。

さらに福岡市はアジアのリーダー都市を目指しており,未来の福岡を担う児童にとって,アジ

ア諸国で共通して通用する言語である英語を用いてのコミュニケーションは,これからの社会を

つくっていく上で必要不可欠である。このように,本市の外国語教育のより一層の充実は喫緊の

課題である。

③ 児童の実態から

研修員が勤務する小学校において,高学年を対象に行った外国

語についてのアンケート調査では(7月実施),「外国語の時間

は楽しいか」という問いに,91%以上の児童が肯定的な回答をし

た(図-1)。「とても楽しい,楽しい」とした理由を見てみる

と,5年生が「ミニゲーム」や「チャンツ」などを挙げている。

6年生では,英語を使っての「やりとり」を挙げている児童が一

番多かった。学習後の感想にも,「これまで習った言葉や知って

いる言葉を使って会話ができた。」「友だちの新たな一面を知る

ことができた。」と書いていることから,学習を積み重ねていく

ことで,使える語彙や表現が増え,会話が続いたことや,お互い

のことを知る楽しさを感じられるようになったからではないかと

推測できる。楽しさの中身がゲーム的なものから,英語で自分の

ことを伝えることができたり,友だちとやりとりができたりした

ときの喜びに変わっているのではないかと考えられる。

楽しさを味わうことができている一方で,「英語で自分のこと

を伝えることができるか」の問いに 26%の児童が「あまりできな

い,できない」と回答している(図-2)。学習中,声が小さく

なってしまったり,自分から進んで関わろうとしなかったりする

様子からも,自分の思いを伝えることに自信をもつことができて

いない実態が伺える。また,自分の思いに合う表現が見つからな

い場合,提示された文例を真似るのみになってしまうことで,自

分の思いを英語で伝えられていないと感じている児童がいるので

はないかと考える。しかし,「英語がもっと使えるようになりた

いか」の問いには「とてもなりたい,なりたい」と 95%以上の児

図-1 外国語に対する

アンケート①

図-2 外国語に対する

アンケート②

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外 -2

童が回答しており,英語学習への強い動機が伺え,自分の思いを

英語で伝えたいと願っている児童が多いことがわかる(図‐3)。

このような児童の実態から,コミュニケーション活動の中に自

分の思いを伝える場面を意図的に仕組んでいく必要があると考え

た。そのためには,児童が自信をもってコミュニケーションでき

るような単元構成の工夫が必要である。さらに,児童の実態に合

わせ,思いに合った語彙や表現を取り上げたり,全員が自信をも

って活動に臨むために幅をもたせた計画をしたりするゆるやかさ

が大切だと考え,本主題を設定した。

(2) 主題及び副主題の意味

① 主題の意味

「生き生きと伝えようとする」とは

既習表現や新出表現などの言語コミュニケーション,ジェスチャーなどの非言語コミュニケー

ションを交えながら自分のことをどうにか相手に分かってもらおうと強い気持ちが表出している

様相である。

新学習指導要領によると,「母語を用いたコミュニケーションを図る際には意識されていなか

った,相手の発する外国語を注意深く聞いて何とか相手の思いを理解しようとしたり,もってい

る知識などを総動員して他者に外国語で自分の思いを何とか伝えようとしたりする体験を通して,

日本語を含む言語でコミュニケーションを図る難しさや大切さを改めて感じることが,言語によ

るコミュニケーション能力を身に付ける上で重要であり,言語への興味・関心を高めることにつ

ながると考えられる」(文部科学省,2017)とある。また,今後,人工知能の発達とともに人間の

生活には大きな変化が起こるのではないかとされており,新しい時代を生き抜くためには,たくさ

んの人々の知恵を集め,よりよいものを生み出すことが必要となる。そのような場面でコミュニ

ケーション能力は不可欠で,自分で考えたことを表現し,他者と協働していく力が必要となる。大

城賢(2018)は,「新学習指導要領でも記述があるように,小学校の外国語活動では,子供たち

は友達とかかわり合い,やり取りを通じて友達や自分の良さを再認識し,他者理解や自尊感情を

育む。外国語科では,相手の話を注意深く聞いて,相手の思いを理解しようとしたり,自分がも

っている知識を活用して自分の思いを伝えようとしたりする体験を通じて,コミュニケーション

の難しさや大切さを感じることが重要。」と述べている。これらのことをふまえ,本研究では単

に「英語を覚えて使う」のではなく, 自分の言語材料を最大限利用して「相手に配慮しながら」

言語活動を行おうとする様を「生き生きと伝えようとする」と捉えた。

「思い」とは

“好き”や“嬉しい”“知ってほしい”“知りたい”などの素直でまっすぐな気持ちのことで

ある。唯一の正解を導き出したり,必ずしもきれいにまとめたりすることではなく,「気持ち」や

「考え」を伝え合い生活を豊かにする根幹となるものと考える。

② 副主題の意味

「ゆるやかなバックワードデザイン」とは

単元のゴールに向かうために,児童の学習状況に合わせて柔軟に単元構成を見直し,再設計し

ていくことをいう。

「バックワードデザイン」とは,中嶋洋一(2011)によると,「児童と教師との願いを基にゴ

ールが設計され,児童自身が設定されたコミュニケーションの目的・場面・状況等を理解する。

次に,目的に応じて情報や意見などを発信するまでの方向性を決定し,コミュニケーションの見

通しをたて,対話的な学びとなる目標達成のための具体的なコミュニケーションを行う。そして,

言語面・内容面で自らの学習のまとめとふりかえりを行うものとなる。」である。

ゆるやかなバックワードデザインという考え方の背景には,通常のバックワードデザインの場

合は,学習者が学んだことを踏まえて次のステップに進むことを前提としているが,文法を系統

立てて学習するわけではない小学校の場合は,一つの知識の上に応用的な知識を乗せることによ

って次に進むのは困難である。このような学習者を教師が単元の目標まで導くためには,児童の

学びをしっかりと見取って,必要に応じて既習事項に意味を持たせ繰り返し学習させたり,新出

事項と既出事項を重ねながら進めたりすることが大切である。ゴールに向かって「できた」「で

図‐3 外国語に対する

アンケート③

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きるようになった」という自信を重ねていくことで,児童のわくわく感と集中力は持続すると思わ

れる。ここで留意しなければならないのは,「できなかった」がゴールへの到達を邪魔するもの

でない点である。「できなかった=できるようになりたい」を共有し,単元を再設計することで,

次に頑張ることができるという思いをもたせることができる。今日できなくても,間違えても,

自分から関わり続けようとする児童の主体的な取り組みを促すことが期待できる。

2 研究の目標

ゆるやかなバックワードデザインを取り入れた授業づくりを通して,英語を使って自分の思いを生

き生きと伝えようとする児童を育成する。

3 研究の仮説

児童の振り返りを生かしたゆるやかなバックワードデザインをもとに授業づくりを行えば,英語を

使って自分の思いを生き生きと伝えようとする児童を育成することができるだろう。

4 研究の構想

(1) 内容

本研究では,自分の思いを相手に伝えたいという意欲を高め,英語を使って自分の思いを生き生

きと伝えようとする児童の育成を目指す。

そのためにまず,単元の到達目標とその目標を達成するためのコミュニケーションの目的・場面・

相手などを設定し,単元のゴールの姿を児童と共有する。

次に,児童の伝えたいという思いをより高めるために,自分の「伝えたい内容」と「使う英語表

現」を自己決定する場を設定する。また,既習表現を想起し,繰り返し使用できる Small Talk を

毎時間位置付け,児童が対話を続けるための基本的な表現の定着を図る。

さらに,従来の振り返りカードに加え,「I can カード」と呼ぶ自己評価システムを取り入れた評

価方法を用いる。この「I can カード」は,児童が使える表現と使えない表現を自分自身で確かめ

るためのものである。また,教師が振り返りカードの文面を分析し,児童の「I can カード」で到

達状況を把握することで,バックワードデザインを見直し,児童の実態に合ったものに再設計して

いくようにする。その際,Small Talk の内容を見直したり自己決定した内容をふまえた付加修正を

行ったりする。

ゴールに向かう活動を通して,できることを積み重ね,その自信を単元のゴールである NS や友

達とのコミュニケーション活動に生かしていく。

(2) 手だて

① 「I can カード」と振り返りカードの活用

単元を通した学びを見返し,自分の成長や課題が分かるような自己評価活動を毎時間行う。「I

can カード」は,児童自身が,自分が使える表現とまだ使えない表現を確かめるためのものであ

る。また教師にとっては,児童の到達状況を把握し,単元構成を見直すためのものである。振り

返りカードは,児童が 1 単位時間の自分の成長や課題を振り返り,次時以降への見通しをもつた

めのものである。教師は,児童の文面を分析することで実態や思いを把握し,児童にアドバイス

をしたり,単元構成を見直して再設計したりするために活用する。

② Small Talk

毎時間 Small Talk を設定し,単元の中で学習した言語材料や表現の定着を図る。さらに,単

元のゴールで活用できそうな既習表現を繰り返し扱うようにする。既習表現を場面に応じて使用

していくことで,思いを伝えるための表現の幅を広げる。また,新しく聞く表現の意味を推測さ

せたり,使ってみたいという気持ちをもたせたりする。既習表現や新出表現を使い児童が対話を

していく中で,英語表現を使えたという成功体験を重ね,自分の思いを伝えようとする意欲や自

信につなげていく。Small Talk の実施にあたっては,児童の習得状況に応じて,内容や時間の調

節を柔軟に行う。

③ 自己決定の場の設定

自分の「伝えたい内容」と「使う英語表現」を自己決定できる場を設定する。「伝えたい内容」

と「使う英語表現」の選択肢を与え自己決定させることで,児童の伝えたいという思いを高めて

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いく。また,自己決定した英語表現を使ってやりとりをする中で,自分の思いがより伝わるよう

な表現の見直しを行ったり,新しい表現を取り入れたりしていくようにする。

(3) 単元の学習過程

本研究では,単元の到達目標であるゴールの姿を決め,そのゴールの達成に向けてゴールから逆

向きに組み立てた単元構成をもとに授業を行う。

まず,「出あう」段階では,単元の最終目標であるゴールの姿を共有し,児童自身がコミュニケー

ションの目的・場面・状況を理解する。次に「広げる」段階では,「内容」と「表現」を自己決定し,

既習表現を想起したり新出表現を学んだりする。さらに「深める」段階では,ゴールに向かうより

具体的なコミュニケーション活動を行う。到達状況を踏まえ,「広げる」「深める」段階を柔軟に行

きつ戻りつしながら児童が「できる」ことを積み重ねていけるようにする。そして,自信をもって

最終ゴールであるNSや友達とのコミュニケーション活動に取り組む。最後の「振り返る」段階に

おいては,単元を通しての自らの成長や課題をまとめ,整理する。

5 研究構想図

出あう

単元のゴールを共有

自分の思いを生き生きと伝える児童

手だて

深める

ゴールに向かうより具体的な

コミュニケーション活動

広げる

既習表現の想起

新出表現の慣れ親しみ・定着

伝えたい内容と表現の自己決定

単元のゴール

児童の実態

単元の学習過程

振り返る

単元を通した自分の成長と

課題の振り返り

ゆるやかなバックワードデザイン

「I can カード」

振り返りカード

カード

自己決定

の場の設定

Small

Talk

単元の到達目標を

知り,学習の見通し

をもつ

自己決定によって

伝えたい思いをよ

り高める

「I can カード」と

振り返りカードを

使って到達状況を

把握する

Small Talkで既習表

現を想起し,表現の

幅を広げる

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6 研究の実際と考察

(1) 「I can カード」と振り返りカードを活用し,ゆるやかなバックワードデザインを行った小学校

5年生の指導の実際

「She can run fast. He can jump high. ~できる?先生クイズをしよう!~」(We can!1 Unit5)

① 研究の実際

ア 「I can カード」と振り返りカードの活用

単元の「出あう」段階では,担任ができることの

スリーヒントクイズを出すことで,クイズ大会をす

るという単元のゴールを共有した。また,ゴールに

向けて,学ぶ必要がある表現などを児童と確認し,

学習の見通しを持たせた。学習後,児童と一緒に確

かめた身に付けたい語句や表現を書いた「I can カ

ード」を作成し,毎時間の最後に振り返りで使うよ

うにした(資料-1)。「I can カード」の項目の

いくつかは空白にしておき,そこに児童が「言える

ようになりたい」言葉を書き加えられるようにした。

この単元では,「I can カード」はシールを貼って

十段階で自己評価できるようにした。そうすること

で,自分の到達度を確認できるようにし,次時につ

なげていくようにした(資料-2)。

振り返りカードは,単元を通してのカードではな

く,一単位時間ごとに振り返ることができる形式に

した。また,振り返りの視点を活動のねらいごとに

絞り,四段階で自己評価することで、児童がより具

体的なイメージをもって振り返ることができるよう

にした。さらに,その時間に学習でできたことの他

に,難しかったことや練習したいことを記入する欄

を設けた(資料-3)。「今できないことがあって

もいいんだ」と児童が思えるようにすることで,単

元のゴールへの意欲を継続させるようにした。そう

することで,めあてに沿って振り返りができるだけ

でなく,少しずつ自分が困っていることを書き,今

の自分がどの程度聞いたり話したりできているか考

える姿が見られるようになった。「I can カード」

のシールの数や児童の振り返りカードをもとに,単

元の再設計を行っていった。その際,次のような活

動の見直しや工夫を行った(資料―4)。

○ 楽器の前に the がつくことをもう一度確認して

から,play 以外の動作の表現を紹介した。

○ 児童が難しいと感じている動作の表現を,次の

時間フラッシュカードを使って繰り返し練習する

時間をとった。

○ 聞き取りに難しさを感じている児童のために,

担任も Small Talk で聞き返しをするようにした。

○ 児童が質問の仕方について練習がもっと必要だ

と感じていたため,インタビューの前にもう一度

ペアで練習するようにした。

イ Small Talk

本単元では,既習表現の定着をねらいとして毎時

間 Small Talk を行った。担任と NS が話している

資料-2 「I can カード」を使った

振り返り

資料-3 難しかったことや練習したい

ことを書いた振り返り

資料-4 再設計した単元指導計画

資料-1 「I can カード」

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内容で聞き取ったことを確認したり,話を聞いた後,

NS からの質問に答えたりして,表現に慣れ親しん

でいった。また、既習表現である「Do you like~?」

「I like~.」の表現に加えて,「Can you~?」「I

can~.」の表現も取り入れることで、この単元で使

用する表現に触れる機会を設けた。

最初は NS からの質問に,戸惑っている様子が見

られたが,繰り返していくことで,自分の好きなス

ポーツやできることなどを答えるようになっていっ

た。また,全部を聞き取ることができなくても聞こ

えた単語から,意味を考えて,答える姿も見られる

ようになった(資料-5)。

ウ 自己決定の場の設定

慣れ親しみをめあてに行った「インタビュービン

ゴゲーム」では,友だちに聞きたいことを友だちに

合わせて質問する内容を変えたり,尋ねる動作を選

んだりすることで,進んでかかわろうとする姿が見

られた(資料-6)。

また,先生にインタビューする場面では前に,「We

can!1」で扱っている内容以外に,先生に聞きたい

表現があるか確認する時間を設定した。数ある動作

の中から,自分がインタビューしたいことを決めて

インタビューに臨んだ。そうすることで,先生につ

いて本当に聞きたいことをインタビューすることが

でき,活動への意欲につなげることができた。

② 考察

アでは,振り返りカードを毎時間ごとにめあてに沿

った視点にすることで,児童の実態を詳しく把握する

ことができた。また,「難しかったことや練習したい

こと」の欄をつくることで,児童自身のふり返りだけ

でなく,困っていることをもとに担任が,次時の授業

や単元の再設計をする上で役立てることができた。ま

た,学習後には,全児童が活動の楽しさや新出表現の

定着について前向きに振り返る姿が見られた(資料-

7)。

「I can カード」は,単元構成の見直しに活用する

だけでなく,児童の意欲を高める効果もあった。

イの Small Talk は、毎時間行うことで,既習表現

に繰り返し慣れ親しませることができた。「わからな

い」と感じている児童もいたため,担任がジェスチャ

ーを示したり,「One more please.」と言ったりして,

学習者としてのモデルとなり,児童の実態に合わせな

がら進めることができた。しかし,それでも「難しい」

と感じている児童もいたため,個別の手だてを検討し

ていく必要がある。

ウで自分のクイズを出したい思いを高め,イで既習

表現を想起し表現の幅を広げ,アを使って児童の到達

状況を判断して授業づくりを行ったことは,本研究の

主題に迫るうえで有効であったと言える。

資料-5 Small Talk

資料-6 自己決定を取り入れた

活動の様子

資料-7 学習後の振り返り

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(2) 「I can カード」と振り返りカードを活用し,ゆるやかなバックワードデザインを行った小学校

第6学年の指導の実際

「What do you want to watch?~東京 2020のボランティア体験をしよう~」(We can 2 Unit 6)

① 研究の実際

ア 「I can カード」と振り返りカードの活用

単元の「出あう」段階では,単元のゴール「東京 2020

のボランティア体験をしよう」の場面を見せ,そのた

めに必要な学びを児童とともに確認した。その内容を

「I can カード」に項目立てして丸の中に記し,その

回りの小さな丸を自己評価の 10%分として,児童自身

が毎時間の終わりにシールを貼って到達度の確認を

行っていった。必要な言語表現のうち,どの表現につ

いて児童が自信を持つことができていないのかを教

師が把握するとともに,「I can カード」と振り返り

カードの内容がリンクしていたため,児童自身が自分

の課題を毎時間確認するためのツールとしていた。丸

のいくつかの空欄に,「覚えたい」「上手に言えるよ

うになりたい」言葉を書きだしている様子が 21 名全

児童に見られた(資料-8)。

振り返りカードは,1単位時間毎に1枚用意した。

振り返りの視点は2点までとし,4段階評価の欄に具

体的な数値を入れ,個によって発生する自己評価のぶ

れが小さくなるようにした。自由記述の欄を2つ設け,

1 つ目は,楽しかった事やできた事など,この 45 分間

で獲得できた学びについて書く欄とした。2つ目は,

難しかった事やもっと練習したい言葉など,獲得でき

なかった,まだ自信が持てない学びについて書く欄と

した(資料-9)。

この「I can カード」のシールの数や,振り返りカ

ードの自由記述欄に書かれていることをもとに,単元

構成を再設計した。(資料-10,11)活動を変更したり,

扱う言語材料を精選したり,「できなかった」に何度

でも楽しみながら挑戦できるようにした。また,「難

しかった」と振り返りで書いた事への価値づけをする

言葉がけを行い,「今できなくてもいい」「できない

ことを言ってもいい」という雰囲気をつくり,「でき

なかった」がゴールへの到達を邪魔しないことを,児

童とともに共有していった。

本単元では,次のような活動の工夫や見直しを行った。

○ チャンツの歌詞をオリジナルの歌詞に変更する。オリジナルの歌詞では,児童が難しいと

感じている語句や表現を扱った。リズムよく繰り返すことで,楽しんで発話することができた。

○ 会話の中で使用する表現を精選し,重点的に繰り返した。be good at~は扱わない。

イ Small Talk

毎時間 Small Talk の時間を設定した。第1時では,児童が使える表現として「What sports

do you like?」を取り上げた。NS と担任との会話の中では,車いすテニスの選手の写真を見

せ,普段なかなか意識していないパラリンピック競技に関心をもたせた。

第2時,第3時では,「What TV program do you like?」という表現を使い,ペアでお互

いの好きな番組を尋ね合いながら,「What 〇〇do you like?」や「Do you like 〇〇?」と

資料-8 空欄に「覚えたい」「言えるよう

になりたい」言葉を書いている「I can

カード」

資料-9 自らの課題を書きだしている振り

返りカード

資料-10 単元指導計画

資料-11 見直したバックワードデザイン

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いう既習表現の定着を図った。

第4時では,当日のテレビ番組表の拡大を見ながら

本単元で出会った「What 〇 do you want to watch?」

を使ってペアでやり取りをした(資料-12)。「What TV

program do you want to watch?」「I want to watch ○

○」「Do you like ○○?」と,実際に観たい番組につ

いての会話を続けようとする姿が見られた(資料-13)。

ウ 自己決定の場の設定

学習の中で扱う競技は,We can2 での取り扱いがある

競技と,実際に児童が「見たい」と思う競技から選択し

た。観戦チケットを入手するために,30 競技の中から自

分が「見たい」競技を伝えたり,その場で悩みながらも

ボランティアとの会話を糸口に競技を決めたりする様子

が見られた。

また,たくさんの訪日客に対応するボランティア体験

に,より必然性をもたせるために,児童自身にどこの国

からの訪日客なのかを決定させ,名札にその国の国旗を

付けさせた。児童からは「どこから来ましたかと尋ねた

い。」という声があがり,チャレンジ表現として「Where

are you from?」「I'm from~」をおさえた。周りの友

だちが選んだ国を見て,どんな有名な物や食べ物がある

のかを事前に調べ,「この食べ物は英語でどう言います

か。」と NS に尋ねる児童もいた。実際のやり取りの中

では,ベトナムからの訪日客に「Do you like pakuchi?」

と尋ね,相手によって内容を考え,相手の気持ちに寄り

添いながら,より会話を続けようとする姿が見られた

(資料-14)。

② 考察

ア 「I can カード」と振り返りカードの活用

授業後のアンケートによると,「I can カード」と振り返りカードを活用して課題を確認した

り,到達度を可視化したりすることが「できるようになりたい」という気持ちの持続につなが

ったという児童が 100%いたことから,これらは児童の意欲を高める点で有効であったと考え

られる。実態を把握し活動内容を再構築した結果,できなかったことを書く欄に「Nothing」

と嬉しそうに書く児童が増えたことからも,行きつ戻りつする単元構成が児童の満足度を高め

ることにつながったと思われる。

イ Small Talk

Small talk を毎時間設定し本単元で使用する言語表現に慣れ親しんだことで,やり取りの場

面での会話が平均7往復続いたという結果が得られた。状況や場面に応じた会話に必要な語彙

が増えただけでなく,会話をする機会を多く経験していることから,reaction をする姿が自然

に見られるようになった。

ウ 自己決定の場の設定

自分の見たい競技を伝えたいという意欲だけでなく,出身の国を設定することで,伝えたい内

容やたずねたい内容が増え,その表現を使う必然性が高まった。自分の思いがある会話の中に

は,笑顔や clear voice などのコミュニケーションポイントが意識されている姿が自然に表出し

ていた。

ウで自分の伝えたい思いや必然性を高め,イで表現の幅を広げ,アの児童の振り返りを使っ

て児童の到達状況を判断して単元構成を再構築し,授業づくりを行ったことは,本研究の主題

に迫るうえで有効であったと言える。

資料-12 Small Talk

資料-13 新出と既習を交えて会話を

続けている様子

資料-14 相手意識を持って会話を続

けようとする様子

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外 -9

(3) 「I can カード」と振り返りカードを活用し,ゆるやかなバックワードデザインを行った小学校

第6学年の指導の実際

「I like my town. ~NS にわたしたちの町を紹介しよう~」(We can!2 Unit4)

① 研究の実際

ア 「I can カード」と振り返りカードの活用

単元の「出あう」段階では,専科教員が町の紹介

をすることで,「塩原の町を紹介しよう」というゴ

ールを共有し,どのような表現を学ぶとゴールを達

成することができるかを児童とともに考えて学習ボ

ードを作成した(資料-15)。その後,単元目標と

照らし合わせながら,定着させたい表現などを記入

した「I can カード」(資料-15)をつくり,第2

時で児童に提示した。毎時間の振り返りの時間に自

己評価をさせることで,使えるようになった表現や

次時で使えるようになりたい表現を確かめるように

した。また,できるようになったことにシールを貼

り可視化することで,最後のゴールの活動に向けて

の意欲が持続するようにした。

振り返りカードは,1単位時間に1枚準備し,本

時のねらいに沿った視点を設けて4段階で自己評価

をさせた。また,分からなかったことや困ったこと

を記述する欄を設けたことで,できなかったことを

書いたり,知りたい表現を尋ねたり,アドバイスを

求めたりする児童も増えた(資料-16)。

さらに,「I can カード」から分かる児童の到達

状況や振り返りカードに記述した内容をもとに次の

時間の活動内容を見直したり,単元構成を再設計し

たりした。「分からなかった・困った」という児童

の思いを拾い,「できなかったこと=できるように

なりたいこと」という視点で児童と共有するように

した。

本単元では,「I can カード」や児童の振り返り

カードの分析をもとに, 次のような活動の工夫や見

直しを行った(資料-17,18)。

〇 児童が振り返りカードに難しいと書いていた語

句や表現を次の時間にフラッシュカードで重点的

に繰り返した。

〇 チャンツの歌詞をオリジナルの歌詞に変更した。

町の紹介の際に取り入れる表現「This is my

town.」「I like my town.」「We have ~.」「I like

Shiobaru very much.” をチャンツの歌詞に取り

入れることで,児童が表現に慣れ,テンポよく言

えるようにした。

〇 「塩原のことを伝えたい」という思いをより高

めるために塩原の地図を使い,校区にある施設を

見つけて「We have~.」「We don’t have~.」で

表現していく活動を取り入れた。

〇 紹介の際に使うポスターには,「Shiobaru is

~」 の後に続く単語と「I like Shiobaru.」 のみ

を書かせた(資料-19)。

資料-15単元の学習ボードと「I can カード」

資料-16 児童の振り返り

資料-17 I like my town の単元計画

資料-18 見直したバックワードデザイン

資料-19 紹介に使ったポスター

Page 11: 英語を使って自分の思いを生き生きと 伝えようとす …外 -2 童が回答しており,英語学習への強い動機が伺え,自分の思いを 英語で伝えたいと願っている児童が多いことがわかる(図‐3)。

外 -10

〇 発表することが苦手で紹介することに自信がも

てない児童がいたため,ゴールの姿を単元の最初

の時間だけではなく,第1時から第4時まで毎回

見せることで,イメージをもたせた。

イ Small Talk

毎時間 Small Talk を設定し,町の紹介で使う新

出表現や紹介をする際に活用できる既習表現 「I

like ~.」「Do you like~?」「What ~do you like?」

を NS と専科教員の会話の中で意図的に取り入れる

ことで,児童同士の Small Talk の話題につなげる

ようにした。また,本物のやり取りになるように場

面設定を工夫し,相手が話したことについて必ず

reaction をすることを意識させて,毎回 Small Talk

を行った。塩原の町を紹介するゴールの活動では,

既習表現を活用して対話を続ける姿や相手意識をも

って NS や友だちに伝える姿,友だちの話を分かろ

うとしながら聞こうとする姿など,相手との会話を

楽しむ姿が見られた(資料-20)。

ウ 自己決定の場の設定

第3時では,自分のおすすめの場所,第5時では

おすすめの理由,塩原のよさを表す語句を自己決定

させた。その際,自分の伝えたいことを選ぶために

リストを活用したり,自分が表現したいことを NS

に尋ねたりするようにした(資料-21)。相手意識

や目的意識を明確にしたことで,児童が本当に伝え

たい内容を自己決定し,自分の思いをのせて紹介す

ることができたと考える。

② 考察

ア 「I can カード」と振り返りカードの活用

第8時の「塩原の町を紹介することができたか」

の振り返り項目で,全員が「できた」と肯定的な回

答をした。「I can カード」を活用することで,単

元のゴールまで児童の意欲を持続することができた。

さらに,振り返りカードを活用し,児童の実態に合

うように活動内容や単元構成を再設計したことで全

員がゴールに到達することができたと考える(資料

-22,23)。

イ Small Talk

Small Talk を毎時間設定したことで,ゴールの活

動の中でも新出表現とともに既習表現を使って対話

を続ける児童の姿が見られた。また,ゴールの活動

で「相手に分かりやすく伝える工夫ができた」とい

う児童が全体の 94%であったことからも,毎回の Small Talk で相手意識をもたせたことは有

効であったと考えられる。(資料-24)。

ウ 自己決定の場の設定

自己決定することで児童の伝えたいという思いが強くなり,発話への意欲を高めることがで

きた。

ウで自分の思いをのせ,イで使える表現を増やしたり相手を意識して対話をさせたりしなが

ら,アで児童の振り返りを生かしたゆるやかなバックワードデザインをもとに授業づくりを行

ったことは,本研究の主題に迫るうえで有効であったと言える。

資料-20 Small Talk

資料-21 自己決定のリスト

資料-22 友だちに塩原の町を紹介する姿

資料-23 NS に塩原の町を紹介する姿

資料-24 単元のゴール達成後の振り返り

Page 12: 英語を使って自分の思いを生き生きと 伝えようとす …外 -2 童が回答しており,英語学習への強い動機が伺え,自分の思いを 英語で伝えたいと願っている児童が多いことがわかる(図‐3)。

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7 研究のまとめ

(1) 研究の成果

本研究では,英語を使って自分の思いを生き生きと伝え合おうとする児童を育成することをめ

ざし,「I can カード」と時間毎の振り返りカードの活用,既習表現定着のための Small Talk の

設定,自分の思いを表現する自己決定の場の設定の3つの手だてをもとにゆるやかなバックワー

ドデザインを取り入れた授業づくりを行った。

① 「I can カード」と振り返りカードの活用

検証授業前後のアンケート結果の比較をすると,「英語を使って友だちや先生に自分のことを

伝えることはできますか。」という問いに「できる」「少しできる」と回答した児童は,74%か

ら 91%に増加した。また,自分の課題を書いたり,シールを貼って到達度を可視化したりしたこ

とで「できた・できるようになりたい」という気持ちを持続させることができたという児童が

100%だったことから,意欲を高める点で有効であったと考えられる。「I can カード」で児童の

到達度と課題を単元を通して可視化したり,毎時間の振り返りカードで,児童の苦手なことを細

かく拾ってゆるやかなバックワードデザインに活かしたりしたことから,児童が英語で伝えるこ

とに自信をもつことができるようになったと捉える。児童の実態の把握ということから,振り返

りカードにできないことや分からないことを書かせ,ゆるやかなバックワードデザインに活かす

ことは,これから新学習指導要領に基づいた授業を設計するうえで,語句や表現のより確かな定

着につながると考えられる。

② Small Talk

コミュニケーション活動後の振り返りに「これまで習った表現を使って対話を続けることがで

きた。」という記述が多く見られた。Small Talk を毎時間設定し,本単元で学習する新出表現の

みならず,これまでの単元で学習した既習表現を使って対話を続ける担任と NS の様子を見たり,

真似して発話を繰り返したりしてきた。実際のコミュニケーション活動の場面で,既習の言語材

料を想起し自分の伝えたい内容に合わせて選択して使う姿が見られたことから,思いを伝える表

現の幅を児童が広げていくことができたと思われる。

③ 自己決定の場の設定

自己決定の場を設定することにより,振り返りカードで次の活動への意欲となるような記述が

見られた。また,伝える内容や使う英語表現を自己決定することで子どもの伝えたいという思い

が強くなり,発話への意欲を高めることにつながったと考える。

(2) 研究の課題

① 「I can カード」と振り返りカードの活用

「I can カード」と振り返りカードの活用に際して,活動時間の中に,振り返りの時間の確保

する必要があった。2つのカードの記入に8分を設定していたが,内容によっては,十分時間を

確保することができない場合もあった。また,「I can カード」は,初めはできたことに色を塗

る形式にしていたが,三段階でシールを貼る形式,十段階でシールを貼る形式へと改良を加えて

いった。できることが増えて児童の意欲は高まったが,今後,評価基準等を児童と確認する場も

必要になってくると考えられる。また,カード以外の見取りの方法を考えていくことも重要であ

ると考える。

個に応じて全体の単元計画の見直しを行ったが,多様なニーズや思いにすべて応えることは困

難だったため,指導形態の工夫も合わせて検討していくことが必要である。

② Small Talk

新出表現と既習表現を組み合わせ,単元の内容と関連付けて話題を設定することが難しかった。

しかし,表現の幅を広げていくためには重要であるため,今後も工夫が必要である。

③ 自己決定の場

自己決定の場を設定する際,学習した内容の中から選択する方法が考えられるが,児童の伝え

たいという思いに寄り添うと,語句や表現が多岐に広がってしまうことがある。個別に支援して

いくことが肝要だが,これには活動時間の十分な確保が求められる。さらに,児童の思いを英語

で表現させるには,NS の存在が必須であった。

Page 13: 英語を使って自分の思いを生き生きと 伝えようとす …外 -2 童が回答しており,英語学習への強い動機が伺え,自分の思いを 英語で伝えたいと願っている児童が多いことがわかる(図‐3)。

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引用文献

1 大城 賢 小学校新学習指導要領ポイント総整理 東洋館 (平成 29 年)

2 吉田 研作 小学校新学習指導要領の展開 外国語編 明治図書 (平成 29 年)

3 文部科学省 小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック (平成 29 年)

4 文部科学省 小学校学習指導要領解説 外国語活動編 (平成 29 年)

5 文部科学省 小学校学習指導要領解説 外国語編 (平成 29 年)

6 文部科学省 中学校学習指導要領解説 外国語編 (平成 29 年)

7 文部科学省 Hi,friends!1,2 (平成 24 年)

8 文部科学省 Let’s Try!1,2 (平成 29 年)

9 文部科学省 We can!1,2 (平成 29年)

参考文献・参考資料

1 中嶋 洋一 バックワード・デザインによる「指導案改善」の研修のすすめ (平成 23 年)

研究指導員

中島 亨 (福岡教育大学 教授)

非常勤研修員

福田 光伸 (曰佐小学校 教諭) 竹杉 由紀子 (弥永小学校 教諭)

山中 望美 (塩原小学校 教諭)

担当主事

香川 尚代 (研修・研究課 指導主事)