肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 ·...

10
31 沖縄県立総合教育センター 前期長期研修員 第 52 集 研究集録 2012 年9月 <肢体不自由・病弱教育> 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 ―自立活動における視知覚機能の向上を目指した取り組みを通して― 沖縄県立鏡が丘特別支援学校教諭 永 山 悦 子 Ⅰ テーマ設定の理由 平成 19 年に学校教育法が一部改正され,特別支援教育が本格的にスタートした。我が国の障害 児教育は,障害の特性に対応した教育を行う「特殊教育」から,教育的ニーズに応じた支援と指導 を行う「特別支援教育」へと転換が図られ,特別支援教育を行うための取り組みが行われてきた。 肢体不自由・病弱特別支援学校である県立鏡が丘特別支援学校(以下,「本校」とする)には, 小・中・高等部が設置され 145 名の児童・生徒が在籍している。教育課程の編成にあたっては障害 の状態や発達段階により,当該学年に準ずる教育,知的特別支援学校の各教科の代替及び領域・教 科を合わせた指導の教育,障害のため通学して学習することが困難な児童を対象とする教育と編成 し学習効果の向上に努めている。その内,今年度「当該学年に準ずる」の教育課程で学習している 小学部の児童は8名在籍している。 研究対象の児童Aは本校小学部4年に在籍し,国語・算数の教科を下学年代替の教育課程で学習 を行っている。個別の教育支援計画によると,本人・保護者の思いに「自分でできることを増やし, 一人で活動する範囲を広げたい」「基礎・基本の学力の定着」があり,将来は普通高等学校への進 学や就職を希望している。保護者は入学時より,居住地校交流や毎日の家庭学習への支援,理学療 法士との連携した訓練の実施等,児童の教育に熱心に取り組んでいる。 児童の実態は,脳性まひにより手足に麻痺があり身辺処理において介助を要するが,性格は明る く,日常的な会話でコミュニケーションをとることができる。学習面においては,パソコンや音楽 活動に意欲的に取り組む姿が見られる。しかし,学習内容の習得に時間がかかり,教科の内容の一 部に落ち込みが見られる。その原因として,障害からくる手指の巧緻性の課題以外に,「見えにく さ」があると考えられる。今回取り上げる「見る力」においては,文章を読むときに行とばしがあ ったり,文中の指定された部分を探すのに時間がかかるなど,数多く書かれている文字や図形の中 から一つの文字や図形に注目することが難しい。また,複雑な表やグラフが読みにくい,マス目に 補助線が入ったノートでの書字に時間がかかるなど,文字や図形を構成する線や角度の構成を理解 することが難しく,文字や図形を正しくとらえることが困難な面がある。この「見る力」を高める ことが,学習効果の向上や日常生活動作を改善することにつながる。これまで本児は,手指の巧緻 性を高める学習や書字指導を受けてきているが,「見る力」においてはあまり変化が見られていな い。このことから,手指訓練や書字学習以外に,視覚から得た情報を脳で処理するような視知覚機 能を高める指導の必要性があると考えた。 そこで,本研究では児童Aが抱えている視知覚機能の課題を,視知覚機能の向上を図る教材の工 夫・改善をしながら指導したいと考える。また,課題改善のための指導方法の工夫として,4校時 (25 分間の4日間で 100 分,2時間扱い)のくり返し学習を設定する。指導内容としては,特別支 援学校学習指導要領の自立活動の内容の「4環境の把握(2)感覚や認知の特性への対応に関する こと」として取り扱う。学習時間を帯状に取りくり返し学習を行うこと,学習の見通しを持たせ, 教材・教具の提示の工夫で,視知覚機能の課題を改善し,よく見る態度を身につけることで学習に 集中して取り組む力を伸ばすことができるのではないかと考え,本テーマを設定した。 <研究仮説> 自立活動におけるくり返し学習において,教材・教具を工夫し,よく見る態度を身につける学習を 定着することにより,見る力を高めることができるであろう。

Transcript of 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 ·...

Page 1: 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 · た,見る力が正常に発達するためには,視覚的な情報を目から取り込むだけの受動的な視覚体験

3-1

沖縄県立総合教育センター 前期長期研修員 第 52 集 研究集録 2012 年9月

<肢体不自由・病弱教育>

肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 ―自立活動における視知覚機能の向上を目指した取り組みを通して―

沖縄県立鏡が丘特別支援学校教諭 永 山 悦 子

Ⅰ テーマ設定の理由

平成 19 年に学校教育法が一部改正され,特別支援教育が本格的にスタートした。我が国の障害

児教育は,障害の特性に対応した教育を行う「特殊教育」から,教育的ニーズに応じた支援と指導

を行う「特別支援教育」へと転換が図られ,特別支援教育を行うための取り組みが行われてきた。

肢体不自由・病弱特別支援学校である県立鏡が丘特別支援学校(以下,「本校」とする)には,

小・中・高等部が設置され 145 名の児童・生徒が在籍している。教育課程の編成にあたっては障害

の状態や発達段階により,当該学年に準ずる教育,知的特別支援学校の各教科の代替及び領域・教

科を合わせた指導の教育,障害のため通学して学習することが困難な児童を対象とする教育と編成

し学習効果の向上に努めている。その内,今年度「当該学年に準ずる」の教育課程で学習している

小学部の児童は8名在籍している。

研究対象の児童Aは本校小学部4年に在籍し,国語・算数の教科を下学年代替の教育課程で学習

を行っている。個別の教育支援計画によると,本人・保護者の思いに「自分でできることを増やし,

一人で活動する範囲を広げたい」「基礎・基本の学力の定着」があり,将来は普通高等学校への進

学や就職を希望している。保護者は入学時より,居住地校交流や毎日の家庭学習への支援,理学療

法士との連携した訓練の実施等,児童の教育に熱心に取り組んでいる。

児童の実態は,脳性まひにより手足に麻痺があり身辺処理において介助を要するが,性格は明る

く,日常的な会話でコミュニケーションをとることができる。学習面においては,パソコンや音楽

活動に意欲的に取り組む姿が見られる。しかし,学習内容の習得に時間がかかり,教科の内容の一

部に落ち込みが見られる。その原因として,障害からくる手指の巧緻性の課題以外に,「見えにく

さ」があると考えられる。今回取り上げる「見る力」においては,文章を読むときに行とばしがあ

ったり,文中の指定された部分を探すのに時間がかかるなど,数多く書かれている文字や図形の中

から一つの文字や図形に注目することが難しい。また,複雑な表やグラフが読みにくい,マス目に

補助線が入ったノートでの書字に時間がかかるなど,文字や図形を構成する線や角度の構成を理解

することが難しく,文字や図形を正しくとらえることが困難な面がある。この「見る力」を高める

ことが,学習効果の向上や日常生活動作を改善することにつながる。これまで本児は,手指の巧緻

性を高める学習や書字指導を受けてきているが,「見る力」においてはあまり変化が見られていな

い。このことから,手指訓練や書字学習以外に,視覚から得た情報を脳で処理するような視知覚機

能を高める指導の必要性があると考えた。

そこで,本研究では児童Aが抱えている視知覚機能の課題を,視知覚機能の向上を図る教材の工

夫・改善をしながら指導したいと考える。また,課題改善のための指導方法の工夫として,4校時

(25 分間の4日間で 100 分,2時間扱い)のくり返し学習を設定する。指導内容としては,特別支

援学校学習指導要領の自立活動の内容の「4環境の把握(2)感覚や認知の特性への対応に関する

こと」として取り扱う。学習時間を帯状に取りくり返し学習を行うこと,学習の見通しを持たせ,

教材・教具の提示の工夫で,視知覚機能の課題を改善し,よく見る態度を身につけることで学習に

集中して取り組む力を伸ばすことができるのではないかと考え,本テーマを設定した。

<研究仮説>

自立活動におけるくり返し学習において,教材・教具を工夫し,よく見る態度を身につける学習を

定着することにより,見る力を高めることができるであろう。

Page 2: 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 · た,見る力が正常に発達するためには,視覚的な情報を目から取り込むだけの受動的な視覚体験

3-2

Ⅱ 研究内容

1 脳性まひについて

(1) 脳性まひとは

脳性まひは特別支援学校(肢体不自由)に通学する児童生徒の主な疾病障害の 45%を占めて

おり,厚生労働省の狭義の定義では「受胎から新生児期までに生じた脳の非進行性病変の基づ

く永続的なしかし変化しうる運動及び姿勢の異常である。」となっている。またその種類は,

痙直型,アテトーゼ型、失調型,混合型があり,姿勢の異常から進行して関節の変形・拘縮を

生じやすい。まひの部位によって,片麻痺,両麻痺,三肢麻痺,四肢麻痺に分けられる。

(2) 脳性まひの児童生徒に見られる障害特性

脳性まひはその定義から脳障害による運動障害が必ず存在しているが,てんかん,精神発達

遅滞,感覚障害(視覚,聴覚など),認知障害,摂食障害,言語障害などを合併していること

が多く,それらが相互に日常生活に影響を及ぼしている。肢体不自由があるために動作を直接

的に行うことが難しく,経験や体験が少ないことも学習の難しさにつながっている。これらの

困難さに加え,視覚的に情報をとらえることが苦手という,周囲から気づかれにくい障害特性

もある。視覚情報の処理の難しさの要因の一つとして,斜視や眼振,視神経萎縮などの視機能

の問題から生じている場合がある。また,図形などを把握するための位置関係や空間の把握,

それらを紙面などへ再構成するといった,視知覚の問題から生じている場合もある。

2 「見える」とは

見え方に問題があると,近視や乱視などの視力低下が思い浮かぶ。しっかり見るためには,視

力と目の健康が不可欠であるが,それだけでは十分ではない。目で物を見るためには,視力・視

野だけでなく,見る物にピント合わせをする調節,右目と左目で連動して動かす眼球運動・両眼

視などの「視機能」が働いている。また,脳が網膜で受け取った視覚情報から,色,形,動き,

位置などを脳の様々な部位で分担し連携しながら,正確に高速に処理する「視知覚」が必要であ

る。視機能と視知覚が交互作用し,視覚情報を処理することによって,見ることができるのであ

る。

3 「見る力」の発達

見る力は,生まれながら備わっているものではない。構造的には見るために必要な機能は備わ

っているが,見る活動を繰り返すことにより「見る」ことが可能になる。視覚体験の重要性を証

明する実験に Blakemore と Cooper(1970)による「たて縞しか見えないようにする実験装置」が

ある。生まれたばかりの子猫に,たて縞しか見えないように飼育すると,たて縞には反応するよ

うになるが,見せなかった横縞には反応しなくなる。縦縞ばかり見て育った猫は横縞がわからな

いのである。これは人間においても同じで,偏りのない視覚体験が重要であることが分かる。ま

た,見る力が正常に発達するためには,視覚的な情報を目から取り込むだけの受動的な視覚体験

では不十分である。Held と Hein(1963)の「ゴンドラネコと自由移動ネコの実験装置」では,

歩けるようになったばかりの子猫2匹を,一方は回転する天秤にぶら下げたゴンドラに閉じ込め,

もう一方を自由に動ける状態で反対側につなげた。どちらの子猫も同じ視覚体験をしているが,

自由だった子猫は正常な発達を見せたのに対して,ゴンドラの子猫はゴンドラから下ろすとき着

地できず,近づいてきた物に対しても反射ができなかった。これらのことから,見る力が発達す

るためには,触覚,固有感覚,平行感覚や運動機能を視覚と連動させる「能動的な視覚体験」が

必要であることがわかる。生まれながらに視力に障害を持つ人や肢体に障害を持つ人が,見るこ

とに困難さがある理由の一つにこの「能動的な視覚体験」の不足があり,日常生活全体の中で視

覚体験を意識的に取り入れる必要がある。

また,生まれながらにして目の見えない人や乳幼児期に目が見えなくなった人が,手術で見え

るようになったときの見え方の変化を観察した研究では,能動的な視覚体験によって徐々に見え

るようになってくることが報告されている。最初のうちは,明暗の違いが分かる程度で図と地の

弁別(物体とその背景の区別)はできないが,様々な見る活動を通して徐々に区別ができるよう

になっていくという。

Page 3: 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 · た,見る力が正常に発達するためには,視覚的な情報を目から取り込むだけの受動的な視覚体験

3-3

4 よく見る態度について

筑波大学付属桐が丘特別支援学校研究紀要(2009)によると,「児童生徒の実態を捉え,単に手

立てや配慮を行うだけでは,指導目標を達成したとしても,児童生徒自身が手立てや配慮が自分

に必要な学習方法だと認識できなければ自らの学びとはなっていかない。児童生徒自らが,得意

不得意を理解し,より良い学習方法として身につけていくようになる指導が必要」としている。

この指導における姿勢は,自立活動だけでなくすべての学習においても踏まえるべきである。

教師が学習場面において行っている手立てや配慮の理由が,児童生徒自身に理解できるように努

めなければならない。本研究では,「よく見る態度」を,児童自身が自ら環境を整え,必要に応

じて周囲の人に支援を求めることができる態度と考える。

5 自立活動について

自立活動とは,特別支援学校の教育課程において,特別に設けられた指導領域である。特別支

援学校の学習指導要領で示す自立活動の内容は人間としての基本的な行動を遂行するために必

要な要素と,障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するために必要な要素である 26

項目を「健康の保持」「心理的な安定」「人間関係の形成」「環境の把握」「身体の動き」「コミュ

ニケーション」の6区分に分類している。

特別支援学校の学習指導要領総則において「自立活動の指導を学校の教育活動全体を通じて適

切に行うものとし,特に自立活動の時間における指導は,各教科等と密接な関連を保ち,個々の

幼児児童生徒の障害の状態や発達段階等を的確に把握して,適切な指導計画の下に行うよう配慮

しなければならない」ことが定められている。そこで,本研究では自立活動の指導内容「環境の

把握」に重点を置きながら,「心理的な安定」「人間関係の形成」と関連づけ指導したいと考える。

Ⅲ 研究の実際

1 対象児童の実態把握(女児,小学部4年)

(1) 行動観察・学習の様子より

① 斜視があり,見る物に左目を近づけて見る。

② 対象物を目で追うことや見える範囲に課題があり,形の認識が苦手。

③ 読字や書字に時間がかかる。書字学習では,自分の筆跡がはっきり認識できるよう4B鉛

筆を使用している。

④ マス目に補助線が入ったノートでの書字が難しく,外枠だけのマス目のワークシートを作

成して学習している。

⑤ 同時処理が苦手で,二つ以上の課題を同時にこなすことが難しい。

(2) WISC-Ⅲの検査結果(7歳6ヶ月時)(表1)

言語性 IQ 動作性 IQ 全検査 IQ 言語理解 知覚統合 注意記憶 処理速度

82 60 68 83 58 97 82

検査の結果から,聴覚からの情報を示す言語性 IQ が視覚からの情報を示す動作性 IQ より高

く,聴覚からの情報が優位である。図や表,資料などから情報を読み取ることが苦手であるの

で,学習場面では聴覚からの情報を手がかりに,見やすい表示方法を工夫して学習を進めたほ

うがよいと考える。また,群指数の「知覚統合」「処理速度」が「言語理解」「注意記憶」より

も低い。このことから,事柄の順序や要点を整理して話したり聞いたりすること,部分と全体

のつながりを把握することが苦手

であることがわかる。この結果か

ら,提示や説明をする際には,一

つずつ丁寧に手順や方法を示さな

ければならないことが分かった。

(3) フロスティッグ視知覚発達検査

の結果(9歳4ヶ月時):発達年齢

を示す(図1)。

特に,発達年齢の落ち込みが見ら

れる「図形と素地」の結果からは,

5歳3ヶ月

5歳1ヶ月

5歳8ヶ月

4歳5ヶ月

6歳6ヶ月

0 12 24 36 48 60 72 84

空間知覚

空間における位置

形の恒常性

図形と素地

視覚と運動の協応

月齢

図1 フロスティッグ視覚発達検査の結果

Page 4: 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 · た,見る力が正常に発達するためには,視覚的な情報を目から取り込むだけの受動的な視覚体験

3-4

物体とその背景の区別に課題があることがわかる。また,「空間における位置」の結果からは図

形の反転や回転に,「空間関係」の結果からは形や模様の分析に課題があることがわかる。検査

の結果から,学習の困難さの原因が手指の巧緻性だけでなく見え方にもあることが考えられる。

(4) 見る力に関するチェックリスト(図2)より

玉井監修(2010)の「学習につまずく子どもの見る力」より,アセスメント実施のためのチ

ェック表を参考に,本児の見る力の弱さの原因とその支援について考えてみた。

アセスメントの結果は,図2の

通りである。チェック個数が 17 個

中6以上で要注意,12 個以上で各

項目の異常が疑われる。

A,B,C,Dともに6点以上

で要注意ラインに該当した。手足

に麻痺があるため,目と手の協応

などの運動に課題があることは周

知のことである。しかし,特に「

指さしたり提示したりした物をす

ばやく見つけられない」「読んで

いるとき,行や列を読み飛ばした

り繰り返し読んだりする」など 14 項目にチェックが付いたB視覚探索―周辺視野・眼球運動,

同じく「数字,かな文字,漢字の習得に時間がかかる」など 12 項目にチェックが付いたC視

知覚―形態知覚・空間知覚の分野で課題があることがわかった。この結果を踏まえ,見る力を

高めるための指導は,特に落ち込みのある眼球運動などの視覚探索と目と手の協応などの運動

の項目から開始し,これらの課題を改善してから形態知覚・空間知覚の課題に取り組ませたい

と考えた。

(5) 専門家より(視機能訓練士の見立て)

てるや眼科クリニックにて,視機能訓練士に視機能に関する

本児の状態を見て頂いた(図3)。遠見視力,近見視力は 0.9

から 1.0 あり,視力としては日常生活に支障はないと思われる。

しかし,斜視があり左目で見ようとするため,物体への距離感

や大きさがつかみにくい,二重に見えるなどいろいろな面で困

難さがあることがわかった。また,目の運動(注視・眼球運動・

調整力・処理力)等の課題が確認できた。

学習の様子や諸検査,専門家の意見を考慮し,学習や生活面で

目から受け取った情報を正確に処理し,効率よく学習等に生かすためには,目の運動機能や視

覚情報処理機能を高める学習を進めることにした。

2 授業の計画と実施

(1) 学習計画を立てる際の基本姿勢

見る力チェックリストの結果を踏まえ,視機能訓練士や沖縄盲学校の助言を得て,視覚障害

教育における教材作成及び指導法の工夫を参考にした。

① 自ら操作することを通してフィードバックされる体幹及び手の運動感覚と視覚との関係の

中にすべての学習と生活世界の広がりがある。そこで,活動を単に視覚のみでなく,他の感

覚,特に運動感覚との関連を図るように計画を立てた。

② 視覚認知の領域の独立性と関連付けという2つの視点から意味づけをし,意識的に活動内

容を選択した。

③ 能動的気づきを育てるために,興味を引き出す教材を活動内容にした。

④ 子どもが「見える・わかる・できる」ことをスタートに,より小さいものやより多くのも

のを,より広い範囲の中から,効率的に短時間で見たりわかったりできるようにステップア

ップを図る工夫をした。

14

12

14

9

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011121314151617

D:運動

(目と手の協応・協調運動)

C:視知覚

(形態知覚・空間知覚)

B:視覚探索

(周辺視野・眼球運動)

A:視覚情報入力

(視力・調節・両眼視)

図2 見る力に関するチェックリスト

図3 検査の様子

Page 5: 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 · た,見る力が正常に発達するためには,視覚的な情報を目から取り込むだけの受動的な視覚体験

3-5

⑤ 子ども自身の能動的

な気づきと活動への興

味・意欲を支えるために,

見えにくさに応じた環

境的配慮をする。姿勢へ

の配慮では,机やいすの

高さの調整,書見台の活

用など,また視対象の大

きさやコントラストな

ど見え方に応じて配慮

する。これらのことを踏

まえて,表2の本児の年

間指導計画と表3の各

課題の学習内容を立て

た。それぞれの学習内容

は実態に合わせスモー

ルステップで課題を設

定した。

(2) 指導方法および教材

時間割の週4回の4時間目の 25 分間を学習時間と設定する。時数は 25 分×4=100 分(自

立活動2時間)とする。この時間は,各自個別学習に取り組む時間である。

① 机上の学習では,自作教材を使って左右,上下などを意識させ,周辺視野・眼球運動を高

める学習を行った(図4)。

自作教材フックでは,左右のゴム紐の先に付いた鍵状のフックを両手で掛けることで,手

の運動感覚と視覚との関連を図った。始めは左右のフックを引っ張ることが難しく,また掛

けることができても左右が互い違いになっていたが,左右や手元を見て取り組むよう声かけ

学習活動 学習目標 5 月

・視知覚機能を高める学習 (視覚情報入力) (目の体操・ビジョントレーニング等) ・手指の巧緻性を高める学習(運動)

・身体の正中線を意識し姿勢に気をつけ学習に取り組むことができる。 ・目で物体や線を注視する力,追視する力を高める。 ・手指の巧緻性を高める。

6月

・視知覚機能を高める学習 (視覚探索) (目の体操・ビジョントレーニング等) ・手指の巧緻性を高める学習(運動)

・身体の正中線を意識し姿勢に気をつけ学習に取り組むことができる。 ・目で物体や線を注視する力,追視する力を高める。 ・図形などの空間認知力をつける。 ・手指の巧緻性を高める。

7月

・視知覚機能を高める学習 (視覚探索) (視知覚) ・読む力を高める学習

・身体の正中線を意識し姿勢に気をつけ学習に取り組むことができる。 ・目で物体や線を注視する力,追視する力を高める。 ・図形などの空間認知力をつける。 ・スライドを見て,音読することができる。

9月

・視知覚機能を高める学習 (視覚探索) (視知覚) ・読む力を高める学習

・身体の正中を意識し姿勢に気をつけて学習に取り組むことができる。 ・目で物体や線を注視する力,追視する力を高める。 ・図形などの空間認知力をつける。 ・スライドを見て,音読することができる。

A 視覚情報入力 B 視覚探索 C 視知覚 D 運動 パソ コンの学習

・ビジョントレーニング(横読み・縦読み・斜め・ランダム) ・しっかり見よう ・こども脳機能バランサー ・目の運動(web 教材)

机上の学習

・とびとびよみ ・マスコピー ・ぐるぐる迷路 ・とびとび迷路 ・サッケード ・フック(自作教材) ・ジオボード(自作教材) ・シューズ・ひも通し (自作教材)

・点つなぎ ・形態知覚カード (自作教材)

・とびとびよみ ・マスコピー ・ぐるぐる迷路 ・とびとび迷路 ・サッケード ・フック(自作教材) ・ジオボード(自作教材) ・シューズ・ひも通し (自作教材)

遊びを通した学習

・目の体操 ・モグラたたきゲーム ・魚釣りゲーム ・的当て ・ストラック・アウト ・テーブル卓球(自作教材) ・エアホッケー

・まねっこ遊び (ボディイメージ)

表2 年間指導計画(一部抜粋)

表3 各課題における学習内容

自作教材フック:左右を意識させ眼球運動と目と手の協応を高める。

サッケード:書かれている文字をできるだけ正確に読み取る。たて・横・斜めに眼球を動かす学習。

図4 周辺視野・眼球運動を高める学習

Page 6: 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 · た,見る力が正常に発達するためには,視覚的な情報を目から取り込むだけの受動的な視覚体験

3-6

支援し,次第に掛けることができるようになってきた。サッケードは,始めは指でたどって

文字を読んでいたが,2週間ほどで指でたどらなくても文字が読めるようになってきた。線

の先端の文字が見えやすいように文字の大きさや台紙の色に注意した。対象児は,ゴシック

体の 28 ポイントが一番見えやすいようであった。

② 図形の読み取りの力をつけるため,マス目内の点や線の位置(上下,左右,斜め)を見本

に合わせる学習を行った。A4版の台紙の上に,棒磁石や丸磁石を置かせるが,位置や方向

を言葉で伝えた。また,形態知覚の力をつけるため,カードを作成し,いろいろな形態の視

写学習を行った(図5)。市販のジオボードは,輪ゴムを掛ける棒が小さく目立たなかった

ので,児童Aに合わせて大きく,見やすく作成し,滑らないように滑り止めを付けた。本児

の手指の巧緻性の課題に加え,斜めの線がとらえにくく時間がかかったが,言葉による支援

をし,次第にとらえられるようになってきた。

③ 視知覚認知力,目と手の協応動作の向上を図るため,毎日 10 分程度,視機能トレーニン

グとしてパソコン教材を活用した(図6)。手指に麻痺がありマウスの使用に難があること,

手の運動感覚と視覚との関連を図るため,タッチパネルを使用した。「ビジョントレーニン

グ」では,画面上に点滅した文字をクリックすることにより眼球運動を高める。1分間に読

み取れる横読み・たて読みの文字数を計った。

④ 見る力を高める学習を発展させるため,対象児Aが関心を持っているパソコンを活用して

横読みのスライドを作成した。

3 指導の実際(検証授業)

児童Aを対象に,5月に個別の自立活動,7月に同学級の児童Bとの複数での自立活動での授

業を行った。

(1) 実施日:平成 24 年5月 23 日(水)授業形態:個別の自立活動

① 題材名 自立活動「よく見よう」

② 題材の目標

ア 注視,眼球運動(視線を移動する)の能力を高める。

イ 形態知覚,空間知覚の能力を高める。

ウ 目と手の協応の能力を高める。

③ 本時の展開

見る力チェックリストの結果に基づき,視覚情報入力,視覚探索,運動の分野から取り組ま

せた。児童の学習への興味・関心を引き出すことができたか,個別の目標が達成できたか,支

援,環境設定,教材・教具は適切であったかを探るための検証を行った。

自作教材 自作ジオボード 形態知覚を高める学習

図5 形態知覚を高める学習

ビジョントレーニング

(北出監修)

点滅した文字にタッ

チすることにより,

眼 球 運動 を高 め

る。1分間に読み取

れる文字数を計る。

しっかり見よう(竹

田・北出監修)

「ほしをおいかけよ

う」「せんをたどろ

う」「やじるしをたど

ろう」の各課題に取

り組む。

図6 視知覚認知力・目と手の協応動作を高める学習

Page 7: 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 · た,見る力が正常に発達するためには,視覚的な情報を目から取り込むだけの受動的な視覚体験

3-7

時間 学習活動 教師の支援 児童の課題 準備物

25 分

1始めのあいさつ 2「とびとびよみ」「ぐるぐる迷路」に挑戦しよう

3 ジオボードに挑戦しよう

4 パソコンソフトに挑戦しよう

5終わりのあいさつ

・始めのあいさつをし、本時の内容について説明する。 ・課題の提示をして取り組ませる。 ・行を飛ばさないように目印のシールを貼る。 ・ジオボードの課題について説明し取り組ませる。 ・パソコンソフト「ビジョントレーニング」に取り組ませる。 ・本時の学習内容のまとめをし、終わりのあいさつをする。

・本時の内容について説明を聞く。 ・課題の取り組み方について理解する。 ・行を飛ばさないように注意して読むことができる。 ・手本を見ながら課題に最後まで取り組むことができる。 ・「ビジョントレーニング」に最後まで取り組むことができる。 ・本時のまとめ、反省をし、終わりのあいさつをする。

・矯正用の眼鏡 ・課題のプリント ・ジオボード ・パソコンソフト「ビジョントレーニング」

④ 検証授業の結果

ア 本児自身が,自分の苦手なことに気づき積極的に取り組む様子が見られた。

イ 課題に取り組む際,視線移動ガイドを使用させたり,身体の正中線を意識し姿勢に気を

つける等,見えにくさを軽減する方法を本児に意識づけることが十分でなく,学習に集中

して取り組むことが難しい場面があった。

⑤ 考察

ア 見えにくさを軽減するような環境設定,課題の選定や提示方法の工夫・改善が必要であ

る。

イ 児童自身に主体性を持たせ,能動的気づきを育てる指導方法の工夫が必要である。

(2) 実施日:平成 24 年7月3日(火)授業形態:複数での自立活動

① 題材名 自立活動「よく見て読もう」

② 本時の目標

ア 注視,眼球運動(視線を移動する)の能力を高める。

イ 姿勢に気をつけ,よく見る態度を身につけることができる。

ウ 楽しんで課題に取り組むことができる。

③ 本時の展開

教材の工夫を図り,パソコンで作成した横読みのスライドを使用した。同じ学級の主障害が

脳性まひで,学習進度が同レベルである小学部3学年男子児童Bとの学習を設定し,複数での

練り合いを通して児童Aの能動的気づきを育てることができたかの,検証を行った。

時間 学習活動 教師の支援 児童の課題 準備物

25 分

1始めのあいさつ 2パソコンソフトに挑戦しよう

・しっかり見よう ・ビジョントレーニング 3パソコンの自作教材「俳句に親しむ」を音読する ・全員でゆっくり音読する。

・交代で音読する。 ・音読した俳句について気付いたことを発表する。

4終わりのあいさつ

・始めのあいさつをし、本時の内容について説明する。 ・パソコンソフトに取り組ませる。 ・最初に見る基点を指さし提示する。 ・身体の正中線を意識させ,姿勢に気をつけさせる。 ・それぞれの結果発表に対し,頑張ったことを評価する。 ・「俳句に親しむ」のスライドを表示し,クリックで操作できることを確認する。 ・音読する俳句について確認する。 ・蝉の鳴き声をCDで聞かせる。 ・本時の学習内容のまとめをし、終わりのあいさつをする。

・本時の内容について説明を聞く。 ・パソコンソフトの課題に最後まで取り組むことができる。 ・最初に見る基点を確認する。 ・身体の正中線を意識し,姿勢に気をつける。 ・行頭に視線を合わせることを意識する。 ・蝉について知っていることを発表する。 ・俳句について気付いたことを発表する。 ・互いの読みのよかった点を発表する。 ・本時のまとめ、反省をし、終わりのあいさつをする。

・ボード ・板書カード ・書見台 ・パソコンソフト ・パソコン2台 ・「俳句に親しむ」のスライド ・蝉の声のCD ・蝉

④ 検証授業の結果

ア 対象児童Aは,パソコンの自作教材画面での横読みのスライドとして提示することによ

り,興味関心を持って音読することができた(図7)。

イ スライドを表示する際に,文の行頭が点滅するように作成し,児童A・Bに行頭に注目

することを声かけすることにより,注意や視線を集中させることができた。

表3 指導案

表4 指導案

Page 8: 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 · た,見る力が正常に発達するためには,視覚的な情報を目から取り込むだけの受動的な視覚体験

3-8

ウ 児童Bとの学習を通して,漢字の読みや音読する

所を教え合う等,互いに学び合う場面が見られた。

⑤ 考察

ア 対象児童に身体の正中線を意識し姿勢に気をつける

ように声かけし,児童自身が自ら環境を整え,必要

に応じて周囲の人に支援を求めることができる態度

を育てるように指導していく必要がある。

イ これまでの見る力を高める学習を発展させ,学習

効果を発揮できた。

4 研究仮説の検証

(1) 見る力を高める学習の定着

① ビジョントレーニング結果(図8)

パソコンソフト『ビジョントレ

ーニング』で,1分間に読み取れ

る文字数を計った。取り組み始め

た頃は,縦読み,横読み共に 30 点

前後だった得点が,2ヶ月後には

70 点前後獲得することができるよ

うになった。横読みの方が縦読み

より見えやすいと対象児童は話し

ていたが,得点で見る限り差はな

いように思われる。パソコンソフト

『しっかり見よう』の課題では,「ほしをおいかけよう」「せんをたどろう」「やじるしをたど

ろう」の各課題に意欲的に取り組む様子が見られた。「ほしをおいかけよう」では,点滅する

星を目で追うことが可能になり,目で追う速度も速くなった。「せんをたどろう」「やじるし

をたどろう」は,線や矢印の大きさが大きい課題では確実に目標にたどり着くことができた。

線や矢印が小さくなると課題達成が難しくなるが,意欲的に取り組んでいる。今後は,上下

左右などの空間知覚を高める学習を取り組ませる必要がある。

② 形態知覚を高める学習

描くときにマス目内の図形の形態を言葉で説明し,児童Aに図形の形態を意識させた。

当初は,上下左右の位置の認識が十分でなかったので,台紙に棒磁石や丸磁石で位置の学習

をした。次に自作のジオボードで斜めの線の認識ができるように,課題に取り組ませた。位

置の見間違いが多かったが,言葉による支援で上下左右を規準に斜めの線を意識させた。次

第に斜めの線が意識できるようになり,形がとれるようになってきた。視写する時,自分の

書いている字を見ながら書くことができるようになってきた。手元にある手本を示すと,示

されている箇所を見つけることが早くなった。6月末から国語で取り組んだ作文は,マス目

に補助線が入ったノートに字を書くことができた(図9)。

図7 授業で使用したスライド

0

10

20

30

40

50

60

70

80

獲得した点数(点)

横読み

たて読み

図8 ビジョントレーニング結

指導初期 指導後期

図9 形態知覚を高める学習課題と対象児童が書いた作文

Page 9: 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 · た,見る力が正常に発達するためには,視覚的な情報を目から取り込むだけの受動的な視覚体験

3-9

③ 眼球運動検査 NSUCO の結果(Northeastern State University College of Optometry)

5月と7月に眼球運動検査 NSUCO を実施した。NSUCO はアメリカのオプトメトリ

ストが開発した直接観察法による眼球運動検査である。衝動性眼球運動は,2点を交互

に目で追う様子を,滑動性眼球運動は動くものを目で追う様子をビデオカメラで撮影し

観察した。各項目の結果は 1 から5の数値で評価され,数値が低いほどその項目で課題があ

ることを示す。「能力」は指示理解と目の動きを,「正確さ」「頭の動き」は目の動きを,「体

の動き」は姿勢を示す。評価規準に従って,数値で評価する。5月当初,児童Aが検索や追

視をする際に,頭の動きが伴うことは学校生活の中でも観察されている。ポインティングす

る指の動きに合わせるように頭や体が動いていた。しかし,7月になると目と手の動きが目

立たなくなってきた。衝動性眼球運動(図 10),滑動性眼球運動(図 11)ともに「正確さ」「頭

の動き」「体の動き」が改善されてきていると考えられる。

④ フロスティッグ視知覚発達検査の結果

5月と7月に実施したフロスティッグ視知覚発達検査の結果では,斜めの線が意識できる

ようになってきた(図 12)。また,図形の重なりを見つける課題も改善されてきた(図 13)。

以上①から④の結果から,対象児童の見る力を高めることができたと考えられる。

(2) くり返し学習について

4校時の時間帯に週に4回指導を展開することで,振り返りや見通しを持ちやすくなり学習

に集中して取り組むことができた。研究の後半からは,児童A自身が4校時に何をするべきか

自分で意識できるようになってきた。本児が,休み時間に「今日はパソコンで学習をしたい」

と話したり,「昨日の横読みの勉強では〇〇点取れたよ」と報告するなど意欲的に取り組む様

子が見られた。本児にとって,自立活動のくり返し学習は有効であったと考えられる。

図 12 点と点を結ぶ課題

斜めの

線が意

識できる

ようにな

った。

重なりを

意識でき

る図形の

数が増え

た。

図 13 重なった図形を見つける課題

図 11 滑動性眼球運動検査の結果

012345

能力

正確さ

頭の動き

体の動き

得点 7月

5月 0

1

2

3

4

5

能力

正確さ

頭の動き

体の動き

得点 7月

5月

図 10 衝動性眼球運動検査の結果

Page 10: 肢体不自由児の「見る力」を高める指導の工夫 · た,見る力が正常に発達するためには,視覚的な情報を目から取り込むだけの受動的な視覚体験

3-10

(3) 教材・教具の工夫について

視機能訓練士や沖縄盲学校に協力を得て,視覚障害教育における教材作成および指導法の工

夫を参考にした。見えにくさのある児童Aの実態に合わせ,眼球運動等の視機能,形・位置・

動き等の視知覚を高めるための教材の工夫を図ることで,対象児童が意欲的に取り組むことが

でき,学習も深めることができた。さらに,見る力を高めるための指導を発展させ,対象児童

が関心を持っているパソコンを活用したスライドを使用することにより,これまで対象児童が

苦手としていた音読にも意欲的に取り組むことができた。

(4) 児童Aの変容

目で物を見るとき,焦点を合わせることが早くなり,必要以上に顔を近づけたり,顔を傾け

たりすることが少なくなった。文字を指でたどりながら読むことが少なくなり,集中して学習

できるようになってきた。研究の後半から取り組んだスライドの音読では,文の終わりを省略

して読んだり,読みかえたりすることがなくなった。また,書く文字の形も整い,授業で使用

するマス目に補助線が入ったノートへ文字が書けるようになった。

Ⅳ 成果と課題

1 成果

(1) 対象児自身が自分の見えにくさに気づき,改善のための学習課題に意欲的に取り組む姿が見

られた。また,身体の正中線がとれるようになり,見えにくさが軽減された。

(2) 見えにくさのある肢体不自由児の授業を,視覚障害教育における教材・教具の作成および指

導法の工夫を参考に計画し実施することができた。

(3) 自立活動における時間割の工夫と学習内容の焦点化を図ることができた。

2 課題

(1) 対象児童の実態に合わせた教材・教具の作成や指導の方法について,今後も指導の振り返り

と学習内容・学習目標・手立ての見直しが必要である。

(2) 見える環境づくりについて,さらに検討していく必要がある。

(3) 自立活動における見る力を高める指導を継続しながら教科へ広げていくことを検討する。

<主な参考文献>

奥村智人・若宮英司 2010 『学習につまずく子どもの見る力』 明治図書

筑波大学付属桐ヶ丘特別支援学校 2008 『肢体不自由の理念と実践』 ジアース教育新社

大川原潔ほか 1999 『視力の弱い子どもの理解と支援』 教育出版