高校野球選手におけるオフシーズンのトレーニング …...26...

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天理大学学報 197:25-35,2001 高校野球選手におけるオフシーズンの トレーニングが 筋パワーと骨強度に与える影響 1) 2) 3) 一4) E ffectsof O伴-seasonTra iningonM二usclePowera ndUltrasound BoneStrengthinHigh SchoolBaseba llPlayers. MasakazuNadamo t o l,ToshiakiNakatani 2 ,YasuhitoNit t a 3 ,andRan-ichiMimura 4 Abstra(!t Thepurposeoft.hisst.udywastoexaminetheefect.sofof-seasontrainlngOn musclepowera ndUltrasoundbonestrengthinjuniorbaseballplayers.Thesub- jectsf♭rthisstudywere16highschoolplayers.Maximumanaerobicpower,leg extensionpower,armextensionpowerandultrasoundbonestrengthweremeas- uredbeforea ndaf terof-seasont.raining.Legext.ensionpowerandar m ext.en- sionpowerweremeasuredat20,80,120c m/seevelocities.A氏ertheof・season traini ng,legextension powersignif ica n tlyincreasedasaresultofof-season trainingat80cm/see(16.2±3.0wattJkgvs17.6±1.9wattA i g,P<0.05)andat120 c m/see(20.8±2.5wattDigVS21.8±1.7wattJkg,P<0.05). A m extensionpower signif icantlyincreasedat80cm/see(429.7±72.7wattvs463.9±56 . 4watt,P< 0.01,6.2±0.7wat廿kgvs6.8±0.6wattJkg,P<0.0 01 ).Maximumanaerobicpower (816.3±114.8wattvs881.8±129.6watt,P<0.01, l l . 7±0-9wattJkgvs12.8 +_ 1.1 wattJkg,P<0.01)a ndultrasoundbonemeasurements(SOS:1600.8±19.6m/see vs1619.6±20 . 4m/see,P<0.001,OSI:3.21±0.32vs3.33±0.33,P<0.001)signi丘I ca ntlyincreasedaf terthe o f-seasontrainlng.Theseresultssuggestthattheof- seasontra ininginhig hschoolbaseba llplayerswereefectiveforimprovlngmu8- clepowerandbonestrength. .はじめに に分かれる。オフシーズンの練習は筋力 トレ ーニングなどの体力づ くりを中心に,野球の 高校野球は,試合が行われる 3 月下旬から 基礎的な技術習得のために反復的 トレーニン 11月中旬 までのオン (レギュラー) シーズ ン グが行われている。一方,オンシーズ ンで 11月下旬から3 月 中旬 まで の オ フシーズ ン は,試合 に備 えた実践 的 な練 習 を中心 に, オ 1)天理大学進路部進路課 2 )天理大学体育学部体力学研究室 3 )奈良産業大学保健スポーツ科 目研究室 4 )大阪教育大学教養学科スポーツ講座 1.CareerPlarm ingandPla聡mentSec G on,Tem iUniversity 2. Huma nPerformancea ndExercisePrescr iptionLabo- rato r y,TenriUniversity 3. LaboratoryofHea lt ha ndS por tsScienc e s,NaraSa ngyo University 4. DepartmentofSpor t s,OaskaKyoikuUniveZ・Sity

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天理大学学報 197:25-35,2001

高校野球選手におけるオフシーズンの トレーニングが

筋パワーと骨強度に与える影響

灘 本 雅 一1) 中 谷 敏 昭2) 新 田 泰 士3) 三 村 寛 一 4)

EffectsofO伴-seasonTrainingonM二usclePoweran dUltrasound

BoneStrengthinHighSchoolBaseballPlayers.

MasakazuNadamotol,ToshiakiNakatani2,YasuhitoNitta3,andRan-ichiMimura4

Abstra(!t

Thepurposeoft.hisst.udywastoexaminetheeffect.sofoff-seasontrainlngOn

musclepowerandUltrasoundbonestrengthinjuniorbaseballplayers.Thesub-

jectsf♭rthisstudywere16highschoolplayers.Maximumanaerobicpower,leg

extensionpower,armextensionpowerandultrasoundbonestrengthweremeas-

uredbeforeandafteroff-seasont.raining.Legext.ensionpowerandarm ext.en-

sionpowerweremeasuredat20,80,120cm/seevelocities.A氏ertheoff・season

training,legextensionpowersignificantlyincreasedasaresultofoff-season

trainingat80cm/see(16.2±3.0wattJkgvs17.6±1.9wattAig,P<0.05)andat120

cm/see(20.8±2.5wattDigVS21.8±1.7wattJkg,P<0.05).Am extensionpower

significantlyincreasedat80cm/see(429.7±72.7wattvs463.9±56.4watt,P<

0.01,6.2±0.7wat廿kgvs6.8±0.6wattJkg,P<0.001).Maximumanaerobicpower

(816.3±114.8wattvs881.8±129.6watt,P<0.01,ll.7±0-9wattJkgvs12.8+_1.1

wattJkg,P<0.01)andultrasoundbonemeasurements(SOS:1600.8±19.6m/see

vs1619.6±20.4m/see,P<0.001,OSI:3.21±0.32vs3.33±0.33,P<0.001)signi丘I

cantlyincreasedaftertheoff-seasontrainlng.Theseresultssuggestthattheoff-

seasontraininginhigh schoolbaseballplayerswereeffectiveforimprovlngmu8-

clepowerandbonestrength.

Ⅰ.は じ め にに分かれる。オフシーズンの練習は筋力 トレ

ーニングなどの体力づ くりを中心に,野球の

高校野球は,試合が行われる3月下旬から 基礎的な技術習得のために反復的 トレーニン

11月中旬までのオン (レギュラー)シーズン グが行われている。一方,オンシーズ ンで

と11月下旬から3月中旬までのオフシーズン は,試合に備えた実践的な練習を中心に,オ

1)天理大学進路部進路課

2)天理大学体育学部体力学研究室

3)奈良産業大学保健スポーツ科目研究室

4)大阪教育大学教養学科スポーツ講座

1.CareerPlarmingandPla聡mentSecGon,TemiUniversity2.HumanPerformanceandExercisePrescriptionLabo-

ratory,TenriUniversity3.LaboratoryofHealthandSportsSciences,NaraSangyo

University4.DepartmentofSports,OaskaKyoikuUniveZ・Sity

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26 高校野球選手におけるオフシーズンの トレーニングが

筋パワーと骨強度に与える影響

フシーズンで向上させた茄パワーの維持をね

らいとした トレーニングが行われる。野球競

技における走,投,打の動作は,筋の速い収

縮とともに大きなパワーを必要とすることか

ら,すべての動作で動的筋出力や無酸素パワ

ーに優れていることが望まれる3)0

発育に伴う筋量の増加は,筋力と筋パワー

を著 しく発達させる傾向にあるが,筋の量的

な変化だけでなく, トレーニングにより,初

経機能の向上も筋出力を高める要因であるこ

とが報告されている111.これまで,オフシー

ズンにおけるトレーニングがサッカー選手や

ボー ト選手の無酸素性パワーに及ぼす影響に

ついて報告7.16)がなされているが,高棟野球

選手を対象とした報告はみあたらない。

筋パワーは,「力型」,「スピー ド型」及び

その 「中間型」の発揮様式に分類 されてお

り,井上 ら4・5)や 山本 ら14.15・18)は,40cm/see

と80cm/secの速度における脚及び腕伸展パ

ワーを大学の競技選手を対象に種目別の評価

をおこなっている。それらの測定では短距離

やハー ドル選手は,体重あたりのパワー値が

他の競技者と比較して大きいものの,野球遵

手の値は,他の競技者と比較としてどちらも

平均的な値であった。本研究では,それらと

比べてより 「力型」である20cm/secの負荷

と,より 「スピー ド型」である120cm/see,

「中間型」である80cm/secの3速度による

脚及び腕伸展パワーの評価をおこなった。ま

た,発育期の トレーニングによる骨への刺激

が骨董の増大をもたらす可能性が考えられる

が,競技によっては,増大しない可能性も考

えられる6)O野球競技は,瞭発的な動きやス

ライディングのように骨にも多大な刺激を与

える種目であることから,骨強度に練習の量

や質が関係 してくるものと思われる。これま

でのところ,高校野球選手を対象にオフシー

ズンの トレーニングが骨強度に与える影響に

ついての報告はみあたらない。そこで,本研

究では高校野球選手のオフシーズンの トレー

ニングが筋パワーと骨強度に及ぼす影響につ

いて検討 した。

Ⅰ.方 法

Ⅱ- 1.被検者

被検者は,高校硬式野球部に所属する3年

生部員19名のうち,オフシーズンの トレーニ

ングが始 まる (12月上旬)とシーズン始め

(4月上旬)に測定可能であった16名 とし

たO被検者には,口更別こて研究の主旨,内容

及び手順について十分に説明 して同意を得

た。被検者の身体的特性を表 1に示した。

表1 被検者の身体的特性

項 目 (n-16)身長

体重

体脂肪率

除脂肪体重

胸囲

上腕囲利き側

非利き側

前腕囲利き側

非利き側

大腿囲利き側

非利 き側

下腿囲利 き側

非利き側

(cm) 174.0±25.7

(kg) 70.1土9.9(%) 19.4±3.7

(kg) 56.3±5.9(cm) 95.4±5.9

(cm) 29・2±2・0(cm) 29.1±2.1

(cm) 27.0±1.4

(cm) 26.8±1.4(cm) 56.3j=4.i

(cm) 56.1±4.1

(cm) 37.8±2.5

(cm) 37.8±2.3

Valuesrepresentmeansj=SD.

Ⅰ-2.トレーニング内容

本研究の高校野球選手の トレーニング内容

については,選手と指導者への聞き取 りによ

り調査した。練習メニューのひとつとして取

り入れられているウェイトトレーニングにつ

いては,個別の トレーニング記録をもとに種

目,回数,セット数を調査 した。

Ⅰ-3.音響的骨強度

被検者の骨強度については,超音波骨評価

装置 (AOSIOO:アロカ社)を用いて超音波

伝播速度 (SOS:speedofsound)と透過指標

(TI:transmissionindex)を測定し,SOSと

TIとの関係から音響的骨評価値 (OSI:osteo

sono-assessmentindex) を求めた。測定は

被検者を椅子に座らせ,膝関節を90度に屈曲

させた姿勢で右鍾骨の骨評価を2回実施 し,

Page 3: 高校野球選手におけるオフシーズンのトレーニング …...26 高校野球選手におけるオフシーズンのトレーニングが 筋パワーと骨強度に与える影響

灘本ほか

その平均値を用いた。SOSは珪骨を通過す

る超音波の音速から珪骨の密度を示 し,TI

は超音波の透過度合いが骨量によって異なる

ことを利用 して珪骨の骨量を反映 し,OSI

(TIXSOS2) は音速と透過指標の両方の要

素の総合的な指標とされている。本装置によ

る音響的骨評価値は,DXA 法などによるⅩ

練を利用した鍾骨や他の部位との測定値と高

い相関関係を示 し,日動変動や日差変動 も

1%未満という結果が報告されている2・13)。

Ⅱ- 4.笛パワーの測定

a.脚伸展パワー

脚の単発的な筋活動による脚伸展パワー

は,キックフォース (TKK3103C:竹井機器

社)を用いて測定した。測定は脚伸展開始時

の膝関節角度が90度になるように,パネルス

イッチでスタート位置を確認し,その位置か

ら全力で脚伸展動作を行わせ,発揮された機

械的パワーを計測した。踏み込み板の移動速

度は,20cm/sec(低速),80cI〟sec(中速),

120cm/see (高速)の3種類で行なわせたO

被検者は,80cm/secの速度で3-5回の最

大下運動後に,80cm/sec,20cm/sec,120

cmノsecの順に各速度6回試行 し,各測定値

の最大値を用いた。

b.腕伸展パワー

腕の単発的な筋活動による腕伸展パワー

は,チェス トフォース (TKK3101C:竹井機

器社)を用いて測定したDスター ト時のグ7)

ツプ位置は,両グリップを結ぶ線が乳頭の位

置になるようパネルスイッチでスター ト位置

を確認し,その姿勢から全力で腕伸展動作を

行わせ,発揮 された機械的パワーを計測 し

た。バーの移動速度は,20cm/see,80cm/

sec,120cm/secの3種類で行わせた。測定

は,80cm/secの速度で3-5回の最大下運

動後に,80cm/see,20cm/see,120cm/see

の順に各速度6回試行 し,各測定値の最大値

を用いた。

C.最大無酸素パワー

脚の反復的な筋活動による最大無酸素パワ

27

-は,自転車エルゴメーター (パワーマック

スⅤ:コンビ社)を用いて評価 した。測定

は2分間の休息をはさんで,異なる3種類の

負荷について各々10秒間全力ペダリングを行

わせ,各試行の最大ペダリング数と負荷を一

次回帰 し,宮下ら81の方法 によって評価 し

た。

Ⅰ- 5.統計的検定

測定値はすべて平均値±標準偏差で示 し

た。オフシーズンの トレーニング前後の測定

値の比較は,対応のあるt検定を用いた。

有意水準は5%未満とした。

Ⅱ.結 果

Ⅱ-1.野球の トレーニング及びウェイト

トレーニングの内容

オフシーズン期の一週間の主な野球 トレー

ニングの内容を表2にまとめた。練習は,午

後4時にウオーミングアップから始まり,ク

ールダウンが終了する午後 7時までおよそ3

時間行っていた。内容は,少しずつ変化させ

た守備練習とティー打撃やマシンを用いた打

撃練習を日替わりで行ったのち,内野手 (投

手と捕手を含む)と外野手の2グループに別

れ,ウェイトトレーニングとランニングを隔

日ごとに繰 り返した。また,主なウェイトト

レーニングのメニューは表3に示した。各選

手はどの種目も10-12回反復可能な負荷を用

い,1種目4セット程度実施していた。 トレ

ーニングの対象部位は,肩,上腕,前腕,

胸,上背,腰,大腿部の大筋群が中心であっ

た。

表2 一週間の主な練習例 (月〟金)

1 ウオー ミングアップ 20分2 キャッチボール 20分

3 トスハ ツティグ 10分

守備練習 (月,水,金)

4 打撃練習 (火,木) 60分

投球練習 (週2回)

5 ウェイ トトレーニング 60分

ランニング

6 クールダウン 10分

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28 高校野球選手におけるオフシーズンの トレーニングが

筋パワーと骨強度に与える影響

表3 主なウェイトトレーニングメニューの例

部 位 種 目 回数及びセット数

肩 部 サイドレイズ

肩 部 バックプレス

胸 部 ベンチプレス

胸 部 プルオーバー

上腕部 アームカール

前腕部 リストカール

上背部 ローイング

上背部 シットアップ

腰背部 サイドベント

大腿部 サイドランジ

大腿部 スクワット

10-12回 4セット

10-12回 4セット

10-12回 4セット

10-12回 4セット

10-12回 4セット

10-12回 4セット

10-12回 4セット

30回 2セット

20回 4セット

20回 4セット

15回 4セット

Ⅱ-2.体重及び除脂肪体重の変化

体重は,オフシーズンの トレーニング前が

70,1±9.9kg, トレーニ ング後は68.9±9.4

kgと有意な減少が認められた。除脂肪体重

は, トレーニ ング前の56.3±5.9kgか ら ト

レーニング後 に56.4±5.8kgと変化はなか

った。

Ⅱ-3.筋パワーの変化

オフシーズンの トレーニング前後の脚伸展

パワーの変化を20cm/see,80cm/see,120

cm/secの各速度で比較 した結果 を図 1-A

(絶対値)に示 した020cm/secでの脚伸展

(17e

)-ト.V嘩空重

パ ワーは, トレーニ ング前 の458.0±68.7

wattか ら トレーニ ング後 の461.2±67.1

wattへ と有意な変化はなかった。80cm/see

での脚伸展 パ ワーは, トレーニ ング前 の

1122.7±194.7wattか ら トレーニ ング後の

1199.7±118.3watt- とわずかに増大する

傾向を示 したが,有意な変化はなかった。120

cm/secでの脚伸展パワーは, トレーニング

前の1448.1±187.7wattか ら トレーニ ング

後の1493.8±146.4watt- とわずかに増大

する傾向を示 したが,有意な変化はなかっ

た。 トレーニング前後の体重あたりの脚伸展

パワーの変化を20cm/see,80cm/see,120

cm/secの各速度で比較 した結果 を図 1-a

(相対値)に示 した。20cm/secでの脚伸展

パワーは, トレーニング前の6.6±1.2wattノ

kgか ら トレーニング後の6.7±0.9wattJkg

- と有意な変化はなかった。80cm/secでの

脚伸展パ ワーは, トレーニ ング前の16.2±

3.Owat〟kgか ら トレーニ ング後 の17.6±

1.9wattJkgへ と有 意 に 増 大 し た (P<

0.05)0120cm/secでの脚伸展パワーは, ト

レーニング前の20.8±2.5wattJkgからトレ

□トレーニング前

1 トレーニング後

(∩-16)

20cm/sec 80cm/sec 120cm/sec

図 1-A オフシーズントレーニング前後における脚伸展パワー (絶対値)の変化

Page 5: 高校野球選手におけるオフシーズンのトレーニング …...26 高校野球選手におけるオフシーズンのトレーニングが 筋パワーと骨強度に与える影響

灘本ほか

(61JtttZJu)-Lて畔萱曇

(tttZ≧)IL>[嘩章堪

8

5

2

トー

トー

Ll

ロ トレーニング前■トレーニング後

(n=16)

20cm/sec 80cm/sec 120cm/sec

図 1-B オフシーズントレーニング前後における脚伸展パワー (相対値)の変化

0

0

0

0

5

4 ロ トレーニング前■トレーニング後

(∩-16)

20cm/sec 80cm/sec 120cm/sec

図2-A オフシーズントレーニング前後における腕伸展パワー (絶対値)の変化

29

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30 高校野球選手におけるオフシーズンの トレーニングが

筋パワーと骨強度に与える影響

(61\}tt2^

)-ト.V嘩Ebl堪

[コ トレーニング前■トレーニング後

(∩三16)

20cm/sec 80cm/sec 120cm/sec

図2-B オフシーズントレーニング前後における腕伸展パワー (相対値)の変化

一二ング後の21.8±1.7wat〟kgへと有意に

増大した (P<0.05)。

オフシーズンの トレーニング前後での腕伸

展パワーの変化を20cI〟sec,80cI〟sec,120

cI〟secの各速度ごとに比較した結果を図2

-A (絶対値)に示 した。20cm/secでの腕

伸展パ ワーは, トレーニング前の156.5±

46.9wattか ら トレーニ ング後 の150.0±

20.3wattとわずかに低下する傾向を示した

が有意な変化はなかった。80cm/secでの腕

伸展パ ワーは, トレーニ ング前の429.7±

72.7wattか ら トレーニ ング後 の463.9±

56.4wattへと有意に増大 した(p<0.01)。

120cm/secでの腕伸展パワーは, トレーニ

ング前の469.9±49.3wattからトレーニン

グ後の486.8±78.5wattへ とわずかに増大

する傾向を示 したが,有意な変化はなかっ

た。 トレーニング前後での体重あたりの腕伸

展パワーの変化を20cm/see,80cm/see,120

cI〟secの各速度ごとに図2-B (相対値)

に示した。20cI〟secでの腕伸展パワーは,

トレーニング前の2.2±0.4wattJkgから ト

レーニング後の2.1±0.2wattJkgへ とわず

かに低下する傾向を示したが有意な変化はな

かった。80cm/secでの腕伸展パワーは, ト

レーニング前の6.2±0.7wattJkgから トレ

ーニング後の6.8±0.6wattJkgへ と有意に

増大した (P<0.001)0 120cm/secでの腕伸

展パ ワーは, トレーニ ング前の7.0±0.8

wattJkgか ら トレーニ ング後 の7.1±0.8

wat仙gへと有意な変化はなかった。

オフシ-ズンの トレーニング前後の最大無

酸素パワーの絶対値の変化を図3-Aに示

した。最大無酸素パワーは, トレーニング前

の816.3±114.8wattからトレーニング後の

881.8±129.6wattへと有意に増大を示した

(p<0.01)。また,体重あた りの最大無酸

素パワーの トレーニング前後の変化を図3-

Bに示 した。体重あた りの相対値は, トレ

ーニング前の11.7±0.9wat仙gからトレー

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灘本ほか

0011

(ite

m

)-i.V横溢巌

Y哨

000⊂l

0

0

0

0

9

8

(∩-16)

トレーニング前 トレーニング後

図3-A オフシーズントレーニング前後における最大無酸素パワー (絶対値)の変化

P<0.001

「 「

(6

1[11eJVL

)-Lir催潜巌Y哨

(n=16)

トレーニング前 トレーニング後

図3-8 オフシーズントレーニング前後における最大無酸素パワー (相対値)の変化

31

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32 高校野球選手におけるオフシーズンの トレーニングが

筋パワーと骨強度に与える影響

ニング後の12.8±1.1wattJkgへと有意に増

大した (P<0.001)。

Ⅱ-4.音響的骨強度の変化

オフシーズンの トレーニング前後における

超音波骨強度の変化を表4にまとめた。SOS

は, トレーニ ング前の1600.8±19.6m/see

か ら トレーニ ング後の1619.6±20.4m/see

へ と有意に増大 した (P<0.001)。TIは,

トレーニング前の1.25±0.1からトレーニン

グ後の1.27±0.1へ と変化はなかった。OSI

(×106) は、 トレーニ ング前の3.21±0.32

からトレーニング後の3.33±0.33へと有意に

増大した (P<0.001)。

表4 超音波骨強度の結果

項 目 トレーニング前 トレーニング後

超音波伝播速度 1600.8±19.6 1619.6±20.4,.*(SOS,Ⅰ〟S∝)透過指標(TI) 1.25±0.1 1.27±0.1

音響的骨評価値 3,21±0.32 3.33±0.33*'*(OSI,×106)Valuesrepresentmeans±SD.Statistical significance,***P<0.(氾1

Ⅳ.考 察

一般的に多くのスポーツ種目では,オフシ

ーズンでの基礎的 トレーニングが試合期での

競技成績を左右することが明らかになってい

る。オンシーズンでは技術的な練習に焦点が

置かれることから,オフシーズンでは筋力 ト

レーニングや体力 トレーニングに多くの時間

が費やされる。発育期の筋力 トレーニングに

おける効果については,これまで筋肥大によ

る筋量の変化や神経系の改善が報告されてい

る11)。これまで,オフシーズンの トレーニン

グ効果については,サッカー選手やボー ト選

手を対象に無酸素パワーの変化についての報

告はみられるものの7・16),高校野球選手を対

象とした筋パワーや骨強度に及ぼす影響につ

いては報告されていない。

本研究における20cm/see,80cm/see,120

cm/secの3速度での脚伸展パワーは,絶対

値において トレーニング前後で有意な変化は

認められなかったoLかし,80cm/see,120

cm/secにおける体重あたりでの脚伸展パワ

ーは, トレーニング後に有意に増大した。こ

のことは, トレーニング後の除脂肪体重に変

化が認められなかったものの,体重に有意な

減少が認められたことから,筋量を維持 しつ

つ無駄な脂肪を減少させた結果と考えられ

る。野球競技は,瞬間的に無酸素的な運動を

多く要求されることから守備や走塁といった

体重移動に対 しては大きな筋パワーを発揮で

きることが望 ましい3)。高松 ら12)は,筋パワ

ーを 「力型」と 「スピ- ド型」に分類し,戟

技種目によってその発達に差異があることを

報告している。一般に走動作のように,素早

い筋収縮を連続的に行う身体移動は,運動初

期の体重移動に 「力型」のパワー発揮能力が

必要とされ,続 く加速局面では,「中間型」

や 「スピード型」のパワー発揮能力が要求さ

れる0本研究のオフシーズンのトレーニング

では,20cm/secのパワーに改善がなされな

かった。これは,野球の守備練習や走塁が静

止状態からのスター トではなく,構えの状態

から散歩助走 (加速)をつける形でスター ト

することが多いことから,「力型」のパワー

発揮には大きな影響は与えていなかったもの

と思われる。特に,守備や走塁の練習では,

小刻みな移動のあとに大きな動作を行うこと

から,「中間型」や 「スピー ド型」のパワー

発揮が改善されたものと思われ,80cm/see

や120cm/secでの脚伸展パワー値が有意に

増大したものと考えられる。

本研究における腕伸展パワーは,80cm/see

の速度においてのみ トレーニングによる改善

が認められた。腕伸展パワーは,投球動作や

バットスイング時に発揮され,ボールや打具

であるバットの速度に影響を与えるものであ

る。灘本ら10)は,実打撃時の打球速度と20cm

/see,80cm/see,120cI〟secの3速度 の腕

伸展パワーとの間に,有意な正の相関がある

ことを報告している。オフシーズンの野球 ト

レーニングでは,打撃時に800-900gのバ

ットを用いた練習,守備時においては141.7

Page 9: 高校野球選手におけるオフシーズンのトレーニング …...26 高校野球選手におけるオフシーズンのトレーニングが 筋パワーと骨強度に与える影響

灘本ほか

~148.8gのボールを素早く投げるパワーを

改善するトレーニングを繰 り返 し行うことか

ら,「力型」及び 「スピー ド型」のパワー-

の影響は少なく「中間型」である,80cm/see

での腕伸展パワーが改善されたものと思われ

る。また,ウェイトトレーニングで用いたト

レーニング内容は,筋力やスピー ドの養成で

はなくバッティングや投球時のパワーを改善

することも目的であったことから 「中間型」

のパワー発揮の改善に影響を与えたことも考

えられる。この点については,野球のどの ト

レーニングが 「中間型」での腕伸展パワーに

影響 していたのかを詳 しく調べる必要があろ

う。

最大無酸素パワーは,オフシーズンの トレ

ーニング後に絶対値,相対値とも有意に改善

した。最大無酸素パワーの増大は,短時間の

爆発的,瞬発的な運動時に供給されるエネル

ギー量の増大を意味 し,筋パワーの発揮を高

速で反復する走能力との関係が報告17)されて

いることから,オフシーズンのダッシュや加

速走などの走 トレーニングの量的増大が関係

したものと思われる。また,最大無酸素パワ

ーの測定は,3段階の負荷を用いて計測され

るこ とか ら,120cm/secと80cm/secの脚

伸展パワーの増大からも 「スピー ド型」と

「中間型」の筋収縮の改善がなされ回転速度

の向上をもたらし,最大無酸素パワーの増大

に貢献したのかもしれない。本研究の自転車

エルゴメーターによる最大無酸素パワーの測

定時間は10秒であり,野球競技の走塁に換算

すると2塁打から3塁打に相当する。しか

し,本研究では,塁間走などの専門的な走能

力について検討していないことから,今後こ

れらとの関係を詳しく調べる必要があろう。

鐘骨の骨強度を示す超音波骨評価値は,オ

フシーズンの トレーニング後に有意に改善し

た。これは,骨量を示す透過指標に差が認め

られず,超音波伝播速度に増大が認められた

ことから,骨密度に野球 トレーニングの影響

が貢献 したものと思われる。オフシーズンで

33

は,野球の技術的な練習よりも筋力 トレーニ

ングやランニング量を増加させ,基礎体力の

向上をはかることから,これらの トレーニン

グが骨へ刺激を与え,骨密度を改善したと考

えられる。発育期における中程度の運動負荷

は,成長期の骨肥大を促進する報告はあるも

のの,長距離選手のようにランニング量が過

大であると骨董や骨密度の低下を及ぼすとい

う報告もあるg'。本研究のオフシーズンの ト

レーニングそのものの強度や量については検

討していないが, トレーニング後に体重の減

少が認められたことから,運動エネルギーの

消耗は大きかったものと推察される。また,

本研究の被検者が成長期後期にある者も含ん

でいるため,骨強度の増大が野球 トレーニン

グそのものなのか,成長によるものなのか,

それらの複合要因によるものなのかについて

は本研究の結果からは不明であった。これら

については,今後成長の因子を除いて詳細に

検討することが必要であると思われる。

V.ま と め

本研究は,高校野球選手を対象にして,オ

フシーズンの トレーニング前後の筋パワー及

び音響的骨強度への影響を明らかにした。結

果は,以下のとおりである。

1)体重は, トレーニング前後で有意な減少

が認められたが,除脂肪体重には有意な

変化はなかった。

2)20cm/see,80cm/see,120cm/secの

脚伸展パワーの絶対値は, トレーニング

前後で有意な変化は認められなかった。

80cm/see,120cm/secの脚伸展パワー

の相対値は, トレーニング後に有意な増

大を示した。

3)80cm/secの腕伸展パワーの絶対値及び

相対値は, トレーニング前後で有意な増

大を示した。しかし,20cm/secと120

cmノsecの腕伸展パワーの絶対値及び相

対値は, トレーニング後に有意な変化を

示さなかった。

Page 10: 高校野球選手におけるオフシーズンのトレーニング …...26 高校野球選手におけるオフシーズンのトレーニングが 筋パワーと骨強度に与える影響

34 高校野球選手におけるオフシーズンの トレーニングが

筋パワーと骨強度に与える影響

4)最大無酸素パワーの絶対値及び相対値

は, トレーニング後に有意な増大を示 し

た。

5)超音波法による鍾骨の骨強度は, トレー

ニング後に有意に増大 した。

以上の結果より,高校野球選手選手の筋パ

ワー及び音響的骨強度は,オフシーズンの ト

レーニングによって改善することが明らかに

なった。

謝 辞

稿を終えるにあたり,研究にご協力いただ

きました天理高校野球部鈴木喜一監督はじめ

スタッフ,部員及び天理大学体育学部体力学

研究室の皆様に感謝いたします。

文 献

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