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19 【ASIA】www.nna.jp/ 【EU】www.nna.eu/ Copyright(C) NNA All rights reserved. 記事の無断転載・複製・転送を禁じます 目次 特集 アジアの休日、こう過ごす アジアの消費者LCC サービス時代 ASEAN における LCC 市場の拡大は著しく、2009 年 に座席数ベースのシェアが 30%を突破。フルサービス キャリアのシェアを大きく奪いながら勢力を増してい る(表1)。東アジア、ASEAN、インドを拠点とする LCC 企業は 33 社に上り、今なお新規設立が相次ぐ(表 2)。アジアのLCCの成長の勢いは、どこまで続くのか。 「全体的な流れとして、LCC の拡大が続くのは間違い ない」と指摘するのは、世界各国の LCC の実態を調査 してきた東京工業大学大学院の花岡伸也准教授だ。 「ASEAN では短距離路線の開設が LCC により一段落 し、各社の勢力は整理されつつある。今後はエアアジ アとジェットスターの大手 2 社を核に競争が進む。ま た、フィリピンやシンガポール、インドネシアなどで はローカル LCC を新設する動きも加速している。これ らの新興 LCC は安さ一辺倒ではなく、サービスの品質 をウリにしているのが特徴」(花岡氏)だという。 これら「第 2 世代」の代表例が、昨年 11 月にインド ネシアの LCC ライオンエアがマレーシアに設立したマ リンドエアだ。エアアジアの本拠地に殴り込みをかけ る同社のコンセプトは「not just low cost」(安さだけ ではない)。安さで先行するエアアジアに対しサービ スを打ち出して棲み分けを狙う。今後はこうしたサー ビス面での競争が進むと見られている。 アジアの消費者は、普及が一段落したLCCをどの ように利用しているのか。多いのは国内の帰省での利 用だ。バスや鉄道で遠出していた人が LCC を利用する ようになってきている。 また、LCC の業界動向に詳しい航空アナリストの鳥 海高太朗氏も「アジアの消費者の LCC に対する認知度 や経験値は、日本より圧倒的に高い」と評価する。日 本人が飛行機に高級なイメージを持つのに対し、アジ アの消費者は、より日常的に利用しているという。 「LCCが安いフライトを発売すると、あっという間に サーバーがパンクするほどの人気。大々的なプロモー ションを行わなくても消費者が日常的にチェックして いて、口コミで評判が広がる」(鳥海氏)そうだ。 レジャーや観光における利用動向はどうか。鳥海氏 は、旅行者は飛行機での移動も旅の一部として楽しみ たいと考え、LCC にも一定の品質を求める。窮屈さや 素っ気なさは不満につながりやすいと指摘する。「利 用者が経済的に豊かになれば、LCC といえどもクオリ ティーを吟味される。2 社も 3 社も同じ路線を飛ぶ中、 旅行者がどこを選ぶか。接客やサービスの重要性は一 層増している」(鳥海氏)という。 0 10 20 30 40 50 2001 03 EU 41.9 北米 29.9 北東アジア 9.8 東南アジア 51.2 05 07 09 11 12(年) 1 地域別LCCシェア座席数ベース出典CAPALCC Market Shareより花岡伸也氏作成12 1 9 のデータ 2 アジアの主要LCC 企業 日本 エアアジア ジャパンジェットスタージャパンピーチアビエーション 中国 春秋航空 韓国 イースタージェットエアプサンジンエアチェジュエアティー ウェイエアライン マレーシア エアアジアエアアジアXファイアフライマリンドエア シンガポール ジェットスターアジアスクートタイガーエアウェイズ タイ タイエアアジアノックエア インドネシア インドネシア エアアジアシティリンクマンダラエアラインズライオンエア フィリピン エアアジア フィリピンゼストエアウェイズセブパシフィックパルエクスプレス ベトナム エアメコンジェットスターパシフィックベトジェットエア インド インディゴゴーエアジェットライトスパイスジェット 2013 6 24 日時点 ※13 2 月末運航停止 低価格を武器に世界中で躍進する格安航空会社(LCC)。「空 飛ぶバス」とも呼ばれ、低コストで無駄を省いたスタイル が支持されている。アジアの消費者はLCCをどう利用し ているのか。LCC はアジアの旅行シーンをどう変えるか。 普及の先にある変化を探った。

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アジアの消費者が望むLCC好サービス時代

ASEANにおけるLCC市場の拡大は著しく、2009年に座席数ベースのシェアが30%を突破。フルサービスキャリアのシェアを大きく奪いながら勢力を増している(表1)。東アジア、ASEAN、インドを拠点とするLCC企業は33社に上り、今なお新規設立が相次ぐ(表2)。アジアのLCCの成長の勢いは、どこまで続くのか。「全体的な流れとして、LCCの拡大が続くのは間違いない」と指摘するのは、世界各国のLCCの実態を調査してきた東京工業大学大学院の花岡伸也准教授だ。「ASEANでは短距離路線の開設がLCCにより一段落し、各社の勢力は整理されつつある。今後はエアアジアとジェットスターの大手2社を核に競争が進む。また、フィリピンやシンガポール、インドネシアなどではローカルLCCを新設する動きも加速している。これらの新興LCCは安さ一辺倒ではなく、サービスの品質をウリにしているのが特徴」(花岡氏)だという。これら「第2世代」の代表例が、昨年11月にインドネシアのLCCライオンエアがマレーシアに設立したマリンドエアだ。エアアジアの本拠地に殴り込みをかける同社のコンセプトは「not just low cost」(安さだけではない)。安さで先行するエアアジアに対しサービスを打ち出して棲み分けを狙う。今後はこうしたサー

ビス面での競争が進むと見られている。アジアの消費者は、普及が一段落したLCCをどの

ように利用しているのか。多いのは国内の帰省での利用だ。バスや鉄道で遠出していた人がLCCを利用するようになってきている。また、LCCの業界動向に詳しい航空アナリストの鳥

海高太朗氏も「アジアの消費者のLCCに対する認知度や経験値は、日本より圧倒的に高い」と評価する。日本人が飛行機に高級なイメージを持つのに対し、アジアの消費者は、より日常的に利用しているという。「LCCが安いフライトを発売すると、あっという間にサーバーがパンクするほどの人気。大々的なプロモーションを行わなくても消費者が日常的にチェックしていて、口コミで評判が広がる」(鳥海氏)そうだ。レジャーや観光における利用動向はどうか。鳥海氏

は、旅行者は飛行機での移動も旅の一部として楽しみたいと考え、LCCにも一定の品質を求める。窮屈さや素っ気なさは不満につながりやすいと指摘する。「利用者が経済的に豊かになれば、LCCといえどもクオリティーを吟味される。2社も3社も同じ路線を飛ぶ中、旅行者がどこを選ぶか。接客やサービスの重要性は一層増している」(鳥海氏)という。

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2001 03

EU41.9

北米29.9

北東アジア9.8

東南アジア51.2

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表1 地域別LCCシェア率(座席数ベース)

出典:CAPA“LCC Market Share”より花岡伸也氏作成。12年は1~ 9月のデータ

表2 アジアの主要LCC国 企業

日本 エアアジア・ジャパン、ジェットスター・ジャパン、ピーチアビエーション中国 春秋航空

韓国 イースタージェット、エアプサン、ジンエア、チェジュエア、ティーウェイエアライン

マレーシア エアアジア、エアアジアX、ファイアフライ、マリンドエアシンガポール ジェットスター・アジア、スクート、タイガーエアウェイズタイ タイ・エアアジア、ノックエア

インドネシア インドネシア・エアアジア、シティリンク、マンダラエアラインズ、ライオンエア

フィリピン エアアジア・フィリピン、ゼストエアウェイズ、セブパシフィック、パルエクスプレス

ベトナム エアメコン※、ジェットスター・パシフィック、ベトジェットエアインド インディゴ、ゴーエア、ジェットライト、スパイスジェット2013年6月24日時点 ※13年2月末運航停止

低価格を武器に世界中で躍進する格安航空会社(LCC)。「空飛ぶバス」とも呼ばれ、低コストで無駄を省いたスタイルが支持されている。アジアの消費者はLCCをどう利用しているのか。LCCはアジアの旅行シーンをどう変えるか。普及の先にある変化を探った。

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キャンセル時は他の会社に変更

表3~ 5は、花岡氏が今年1月にベトナム・ハノイのノイバイ空港とホーチミンのタンソンニャット空港で実施したエアライン利用客へのアンケート調査の結果(一部)である。フルサービスキャリアのベトナム航空と、LCCのエアメコン、ジェットスター・パシフィック、ベトジェットの3社について乗客の属性や選択理由などを約2,500人にヒアリングしたものだ。表3で利用客の世帯月収を見ると、ベトナム航空の利用者は1,501米ドル以上が23.7%と最も多いのに対し、LCCは400 ~ 600米ドルが多い。なお、帰省が多い旧正月などの繁忙期には200 ~ 400米ドルの世帯も積極的に利用するという。表4、航空会社の選択理由では「低運賃」がLCCの選択理由としては圧倒的に多かった。「適切な出発時刻」「予約の利便性」も上位に入った。一方、ベトナム航空は「安全性」や「遅延の少なさ」「知名度」でLCCを大きく上回る。「どの国の利用者も『LCCは事

故が多い』という印象を抱くようだが、実際にそのような統計はない」と花岡氏は説明する。表5は、航空会社により出発がキャンセルされた場

合に利用する代替交通手段。ベトナム航空の利用客が「同じ会社を利用する」と答えているのに対し、LCCでは「他の航空会社」という人が圧倒的に多い。またLCCでは「バス・鉄道」など陸上交通機関に切り替えるとした人の割合もベトナム航空より多かった。「LCCの人はキャンセルされるとベトナム航空に切り替える。運航に関する信頼度はまだ低いようだ」(花岡氏)。

定時運航の安心感が重要

今後、LCCの競争において最も重要となるポイントは何か。花岡氏は「遅延しないこと」と指摘する。「結局、LCCも航空サービスなので時間通りかどうかが重要。LCCに接続便はなく待ってくれないため、1つ遅れると連鎖的に遅れる。この要望は万国共通」(花岡氏)。鳥海氏も同様に「LCCが安かろう悪かろうで許される時代は終わった。定時運航率は重要で、遅れた時の対応も1つのクオリティとして見られる」と語る。両氏が高く評価するLCCがある。インドのインディ

ゴだ。その企業理念は「just on time」。遅延がお国柄とも言えるインドにあって定時運航を謳い、支持を伸ばしている。「安く、安全」は当たり前、「早く、親切」に乗せて欲しい。LCC各社は消費者の声にどこまで応えられるのか。新たな競争は始まっている。

0 20 40 60 80 100(%)

ベトナム航空

エアメコン

ジェットスター

ベトジェット

23.7 17.0

18.9

15.3

15.5

14.3

23.0

17.2

18.6

15.0

13.1

22.4

21.2

12.5

13.9

17.7

16.1

4.5

6.6

5.7

5.5

12.9

9.8

11.4

9.7

14.8

10.3

13.4

■月収 1,501 以上 ■1,000~1,500 ■800~1,000 ■600~800■400~600 ■200~400 ■200 未満

0 20 40 60 80 100(%)

ベトナム航空

エアメコン

ジェットスター

ベトジェット

44.0 50.5

58.9

64.3

68.5

2.8

7.0

5.7

6.6

1.1

0.83.9

29.5

26.9

21.3

■同じ航空会社 ■他の航空会社 ■鉄道 ■バス ■自動車 ■その他

2.3

3.0

0.4

0.6

0.3

1.10.5

0

1

2

3

4

5(点)

その他

座席の快適さ

知名度

安全性

遅延の少なさ

予約の利便性

便数の多さ

適切な出発時刻

低運賃

■ベトナム航空■エアメコン■ジェットスター■ベトジェット

キャンセルの

少なさ

表3 航空会社と利用者の家計月収(米ドル) 表5 フライトキャンセル時の代替手段

表4 航空会社の選択理由

注 :小数点第2位を四捨五入。出典:花岡伸也氏

注 :小数点第2位を四捨五入。出典:花岡伸也氏

注 :利用者が航空会社を選んだ理由のうち重要度が高い5項目について上位から各5~1点を配点し、加重平均を算出。

出典:花岡伸也氏

花岡 伸也東京工業大学大学院・理工学研究科国際開発工学専攻准教授。専門は航空政策、空港計画。ASEAN各国でLCC関連の現地調査を多数実施。

鳥海 高太朗航空・旅行アナリスト。航空会社のマーケティング戦略、LCC、ネット旅行予約などを研究。各種メディアにて最新の旅行情報を発信している。

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