〈英語〉...

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沖縄県立総合教育センター 後期長期研修員 第57集 研究集録 2015年3月 〈英語〉 語彙の定着を図る指導の工夫 タスクを活用した言語活動の指導を通して沖縄県立宜野座高等学校教諭 天 久 大 輔 Ⅰ テーマ設定の理由 平成 25 年 12 月、文部科学省において「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」が発表された。 その中で新たな英語教育の在り方として「授業を英語で行うとともに、言語活動の高度化」と記されてお り、英語で発表するだけでなく、討論や交渉の場を想定した言語活動を行わなければならない。沖縄県に おいても、沖縄県教育振興基本計画において「国際化社会に対応した教育の推進」とあり、グローバルな 視点を持った人材育成が求められている。そのためには、さまざまな場面において対応できる英語のコミ ュニケーション能力を育成することが必要である。 外国語科の高等学校学習指導要領(以下、学習指導要領とする)の、「コミュニケーション英語Ⅱ」にお いて、「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成するとともに,情報や考えなどを的確に理 解したり適切に伝えたりする能力を伸ばす」と示されている。また、外国語科の高等学校学習指導要領の 改善の基本方針では、「コミュニケーションを内容的に充実したものとすることができるよう,指導すべき 語数を充実する」とあり、語彙数が 1300 語から 1800 語へと増加した。語彙習得はコミュニケーション活 動において不可欠であり、語彙数の増加に伴い、コミュニケーション活動をさらに充実させていくことが 求められる。 本校の生徒は、「コミュニケーション英語Ⅱにおいて、生徒同士がコミュニケーション活動に積極的に 参加しようとする態度が見られる。しかし、習った語彙の発音を適切に発し、意味を理解することはでき るが、言葉を発する前に語彙の使い方を教師に確認しようとする場面が多い。これは、指導された語の機 能を理解しているが、正しさに注意が行くため、コミュニケーション活動においての語彙の活用面で課題 が残る要因であると感じた。実際にこれまでの授業を振り返ると、新出語彙の発音、そして意味の確認を 行い、その後どのようにそれぞれの語彙が機能しているかということを優先に指導することが多かったと 感じている。そのようなことから、本来行われるべき英語でのコミュニケーション活動である、適切に理 解したり伝え合うことが難しくなっている原因の一つではないかと考える。 そこで、新出語彙を学習する際に、ペアやグループ活動において「話す活動」から展開することはでき ないかと考えた。まず文脈を利用したインプットによって、新出語彙の発音及び意味を理解する。その後、 アウトプット活動において、生徒が主体となったタスク活動を通し、それぞれの語彙を試行錯誤しながら 使用することで、相手に伝え理解しようという気持ちが培われると考える。その中で、生徒の語彙の学習 へ対する関心意欲を育むことにつながるのではないかと考える。また従来とは逆に、コミュニケーション 活動後に、エクササイズ活動として語彙の機能について説明を加えていく。そうすることで、コミュニケ ーション活動に集中して参加し、後の確認で語彙に関する知識を深め、語彙の定着につながるのではない かと考え、本テーマを設定した。 〈研究仮説〉 「コミュニケーション英語Ⅱ」において、ペアやグループで、タスクを活用した「話す活動」を行い、 新出語彙を活用する中で、相手に伝え理解しようとする気持ちが培われ、生徒の関心意欲を引き出し、語 彙の定着が図られるであろう。 Ⅱ 研究内容 1 語彙の定着とは 語彙を習得する方法は、個々によって様々である。白井恭弘(2008)は、単語を文脈で理解するこ とが効果的な学習方法として取り上げている。大学入試に限らず、英検や TOEFL などの検定試験にお いても、単語のみを書き取ったり、話したりする問題はなく、語彙は常に文脈の中で存在し、他の語 彙と関わりを持ちながら意味を成した形で出題されている。また文脈において語彙を学習する重要性 はコミュニケーション活動においても同様であると考える。学習指導要領においては、外国語科の目 標として「コミュニケーション能力を養う」という内容に重点が置かれており、文法指導においても 言語活動を通したコミュニケーション能力を育む活動の中で行っていかなければならない。これは語 彙の指導においても同様で、言語の使用場面や働きを考えながら、実際に情報や考えを伝達し合う効

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沖縄県立総合教育センター 後期長期研修員 第57集 研究集録 2015年3月

〈英語〉

語彙の定着を図る指導の工夫

―タスクを活用した言語活動の指導を通して―

沖縄県立宜野座高等学校教諭 天 久 大 輔

Ⅰ テーマ設定の理由 平成 25年 12月、文部科学省において「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」が発表された。

その中で新たな英語教育の在り方として「授業を英語で行うとともに、言語活動の高度化」と記されてお

り、英語で発表するだけでなく、討論や交渉の場を想定した言語活動を行わなければならない。沖縄県に

おいても、沖縄県教育振興基本計画において「国際化社会に対応した教育の推進」とあり、グローバルな

視点を持った人材育成が求められている。そのためには、さまざまな場面において対応できる英語のコミ

ュニケーション能力を育成することが必要である。

外国語科の高等学校学習指導要領(以下、学習指導要領とする)の、「コミュニケーション英語Ⅱ」にお

いて、「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成するとともに,情報や考えなどを的確に理

解したり適切に伝えたりする能力を伸ばす」と示されている。また、外国語科の高等学校学習指導要領の

改善の基本方針では、「コミュニケーションを内容的に充実したものとすることができるよう,指導すべき

語数を充実する」とあり、語彙数が 1300語から 1800語へと増加した。語彙習得はコミュニケーション活

動において不可欠であり、語彙数の増加に伴い、コミュニケーション活動をさらに充実させていくことが

求められる。

本校の生徒は、「コミュニケーション英語Ⅱ」において、生徒同士がコミュニケーション活動に積極的に

参加しようとする態度が見られる。しかし、習った語彙の発音を適切に発し、意味を理解することはでき

るが、言葉を発する前に語彙の使い方を教師に確認しようとする場面が多い。これは、指導された語の機

能を理解しているが、正しさに注意が行くため、コミュニケーション活動においての語彙の活用面で課題

が残る要因であると感じた。実際にこれまでの授業を振り返ると、新出語彙の発音、そして意味の確認を

行い、その後どのようにそれぞれの語彙が機能しているかということを優先に指導することが多かったと

感じている。そのようなことから、本来行われるべき英語でのコミュニケーション活動である、適切に理

解したり伝え合うことが難しくなっている原因の一つではないかと考える。

そこで、新出語彙を学習する際に、ペアやグループ活動において「話す活動」から展開することはでき

ないかと考えた。まず文脈を利用したインプットによって、新出語彙の発音及び意味を理解する。その後、

アウトプット活動において、生徒が主体となったタスク活動を通し、それぞれの語彙を試行錯誤しながら

使用することで、相手に伝え理解しようという気持ちが培われると考える。その中で、生徒の語彙の学習

へ対する関心意欲を育むことにつながるのではないかと考える。また従来とは逆に、コミュニケーション

活動後に、エクササイズ活動として語彙の機能について説明を加えていく。そうすることで、コミュニケ

ーション活動に集中して参加し、後の確認で語彙に関する知識を深め、語彙の定着につながるのではない

かと考え、本テーマを設定した。

〈研究仮説〉

「コミュニケーション英語Ⅱ」において、ペアやグループで、タスクを活用した「話す活動」を行い、

新出語彙を活用する中で、相手に伝え理解しようとする気持ちが培われ、生徒の関心意欲を引き出し、語

彙の定着が図られるであろう。

Ⅱ 研究内容 1 語彙の定着とは

語彙を習得する方法は、個々によって様々である。白井恭弘(2008)は、単語を文脈で理解するこ

とが効果的な学習方法として取り上げている。大学入試に限らず、英検や TOEFLなどの検定試験にお

いても、単語のみを書き取ったり、話したりする問題はなく、語彙は常に文脈の中で存在し、他の語

彙と関わりを持ちながら意味を成した形で出題されている。また文脈において語彙を学習する重要性

はコミュニケーション活動においても同様であると考える。学習指導要領においては、外国語科の目

標として「コミュニケーション能力を養う」という内容に重点が置かれており、文法指導においても

言語活動を通したコミュニケーション能力を育む活動の中で行っていかなければならない。これは語

彙の指導においても同様で、言語の使用場面や働きを考えながら、実際に情報や考えを伝達し合う効

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果的なコミュニケーション活動を展開する中で語彙を定着させる必要がある。生徒はそのような活動

を通し、単語は文脈の中で成り立っていることの大切さを理解し、これまでに学習した文法能力や他

の語彙力を使用し相手に伝えようと努めることが予測される。そして受ける側も既存知識であるスキ

ーマや文と文の前後の内容から伝えられた内容を試行錯誤しながら推測し、互いに意思疎通を図るこ

とが考えられる。このようなことから、生徒の能力に応じて語彙を文脈のなかで理解し定着させる言

語活動を展開していく必要がある。Nation(2001)は、語彙知識を「形」、「意味」、「使用」の3つに

分け、これらの3つの諸側面を獲得することが語彙の定着へとつながると捉えている。語彙の知識と

は、1つの語彙においても発音、意味、語形の変化、そして他の語とどうつながっているかなど語彙

の深さと大きく関わってくる。つまり、単語の意味をたくさん知っている、発音が正確に言えるとい

うことができるだけでは語彙の知識としては不十分であり、統合的に語彙を定着させていかなければ

ならない。さらに先行研究において Qian(1999)は、語彙の深さと読解力の関係を調べ、語彙の深さ

とTOEFLのリーディングセクションとの間に相関があるという結論を出した。これは、語彙の知

識が深いほど、リーディングの成績が高くなるという結果であり、話す活動においても同様であると

いえる。語彙の知識にはそれぞれ受容と発表の側面があり、インプット活動において語彙の諸側面の

理解を高め、生徒の実態に合わせたアウトプット活動へと発展する語彙定着のための活動が必要であ

る。

2 語彙の記憶

単語を学習する際、声に出したり書いたりするなど個々のニーズに合わせた学習方法がある。語を

覚える際に、どのようにすれば効果的に語彙が記憶できるかを知ることは生徒にとって重要である。

また、教師が指導する際にも、生徒がどのように語彙を記憶するかを理解し、コミュニケーションの

中で使用できるよう指導していく必要がある。さらに、第二言語として記憶された語彙を定着させる

ためには、どのような指導を行っていくべきかを考えた上で、授業を展開していくことが大切である。

門田・池村(2006)は、「外国語の文理解の過程では同時並列的に1つ以上の処理が行われていると考

えられる」と述べている。これは、母国語においては、音韻、意味、統語など統合的に処理されて意

味を理解しているのに対して、外国語の習得になると、音韻、意味、統語は効率良く同時に処理され

ることが難しく、それぞれが個別に処理されている。どのように外国語としての語彙が記憶の中で処

理されるかについては、Baddeley(1986)のモデルを

もとに、苧阪(2002)のワーキングメモリによって詳

しく説明されている(図1)。

外国語としての単語を記憶する際、図にあるように

3つのカテゴリーである視空間スケッチパッド、エピ

ソードバッファ、音韻ループに分けられている。まず、

認知システムとして機能する中央実行系を通し、その

文字がどのように書かれているかという視覚的な意味

として視空間スケッチパッドに取り入れられる。実際

に単語を見ることによって、それぞれの単語のスペル

や文の中でどのように機能するかという情報をこの場

所で保持されることができるのである。同時に、音韻

ループにおいては聞いたり読んだりすることにおいて

その単語の意味や音の情報を保持できる。このことか

ら語彙を学習する際に、インプット活動の重要性が理

解できる。インプットを行わないで語彙の定着へとつ

なげることはできないのである。また、ここで音韻ル

ープに取り入れられた語彙を一次的に記憶するのでは

なく、エピソードバッファを通して、長期記憶に保持

するために、インプットされた語を繰り返し行うアウ

トプット活動によって活性化する必要性がある。つま

り、インプットからアウトプット活動への流れをスム

ーズに行い、充実した言語活動を展開していくことが

重要である。

処理水準のイメージにおいては、語彙を記憶する際

にどのような形で記憶すると効果的に保持に繋がるか

ということが示されている(図2)。これは、形態が似

中央実行系

視空間

スケッチパッド

エピソード

バッファ 音韻ループ

視覚的意味 エピソード 言語

長期記憶

形態的

音韻的

意味的

浅い水準

深い水準

弱い精緻化(認知負荷小)

強い精緻化(認知負荷大)

図1 Baddeleyのワーキングメモリのモデル

(苧阪 2002にもとづく)

図2 処理水準のイメージ (門田・池村 2006)

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ている、音が似ている語といった浅い水準で語彙を理解することに比べ、文脈の中で語を理解する深

い水準において認知負荷が大きくなり、効率的に語彙を記憶できるのである。

このことから、外国語として語彙を記憶し、その語彙を長期記憶へと導いていくことが語彙の定着

に繋がると考える。また、記憶として認知させるために、生徒の実態に応じたインプットの質の重要

性がある。Krashen(2002)は、インプットの質として理解可能なインプットを生徒に導入するべきであ

ると伝えている。これは、新出語彙の理解が曖昧な場合でも、その語彙がこれまでの文法や語彙知識、

あるいは前後の文脈から推測可能であることを意味している。また、和泉伸一(2009)は「バリエー

ションのあるインプットに触れさせて,そこで拾い集めた表現が次のタスクで役立つように,活動の

流れを仕組むのである」と述べている。つまり、語彙の定着には生徒の興味・関心を引きつける視聴

覚教材の中で、文脈を利用したインプット活動をもとに、話すことを中心としたアウトプット活動を

行っていかなければならない。また、アウトプット活動では、認知負荷が大きいと語彙がスムーズに

記憶されるので、認知負荷を高めるためのインプットの質に合わせたタスク活動を展開していくこと

が重要である。

3 話す活動とは

2010 年のTOEFLスコアのアジア国別の順位(ETS 2010)で、日本は 30 カ国中 27 位で、ス

ピーキングのスコアだけを見ると最下位である。また、TOEFLスコアの世界の母語別の順位では

113 カ国中 103 位で、スピーキングの能力においては全体の中で最下位である。この結果からも、急

速な社会のグローバル化に対応するためには、これから英語で話す能力を身につけていくことはとて

も重要である。学習指導要領においては、「情報や考えなどについて,話し合ったり意見の交換をした

りする」と話す活動の内容に示されているように、教室内でいかに生徒が英語を話す能力を引き伸ば

していくかがこれからの課題である。また、菅原(2011)は英語でメッセージを伝える、つまり話す

ことについて、相手が伝えたいことを理解した上で、自分自身で考えたことや判断したことを話す重

要性として伝えている。このことから、授業においてもペアやグループにおいて相手の発言を注意深

く聞き、理解することが前提となる。そして、自ら考えて何を伝えなければいけないのかを考えさせ

た上で発言させるような取り組みを行わなければならない。

4 タスクとは

(1) タスク活動とは

タスクとは、日本語で「課題」を意味しており、

松村(2012)は、授業の中でのタスクとして捉える

条件として4つ挙げている(表1)。これは、生徒が

主体となり、その成果を言語形式や正確さで図るの

ではなく、意味内容に焦点を当てて試行錯誤しなが

ら言語活動を行うことを示している。また白井恭弘

(2012)は、授業において正しい知識を身につけさ

せた後に練習すると学習者は正しさばかりに注意が

払われてしまい、コミュニケーションの意欲が低下

するのではないかと述べている。これは、言語形式

に焦点を向けてしまうと、どうしてもその形式や正

確さを身につけることが目標となってしまうからで

ある。お互いに英語を使って意思疎通 しようという

態度を養うためには、意味内容が中心となったタス

ク活動が必要になる。

(2) タスクの類型

松村はタスクの類型を4つの形に分けている(表

2)。ジグゾー型タスクとは、四コマ漫画の絵などを

グループで持ち寄り、それぞれは異なる絵を持ち絵

を見せ合わずに会話において全体のマンガを完成さ

せるタスクである。情報交換型タスクは、間違い探

しなどの、それぞれが持っている情報の不一致を埋

めるためのやり取りが必要なタスクである。また、

ナレーション型タスクは写真などの内容についてス

トーリーを作り上げてく活動であり、問題解決/議論

型タスクは、ディベートなどのような高度なタスク

・活動成果の重視

・意味へのフォーカス

・自然な認知プロセス

・学習者の主体的関与

・ジグソー型タスク

・情報交換型タスク

・ナレーション型タスク

・問題解決/議論型タスク

プレタスク

タスクサイクル

(タスク活動 発表準備 発表)

言語的側面の指導

(分析活動 定着活動)

表1 タスクの条件 松村(2012)

表2 タスクの「型」 松村(2012)

図3 Jウィリスによるタスク中心の授業構成

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である。

(3) タスク中心の授業構成

Willis(1996)はタスク中心の授業構成として、授業をプレタスク、タスクサイクル、言語的側

面の指導の大きく3つに分けて捉えている(図3)。タスク活動を充実させるためにはその準備段階

としてのプレタスクが必要である。タスク活動を円滑に進めるためには、インプット活動などによ

って新出語彙を導入し、生徒が知っておくべき情報を与えたりすることがこのプレタスクでの活動

である。タスクサイクルにおいては、タスク活動後に、活動した内容をクラス全体で共有する発表

の時間を設け、それぞれの内容に対してフィードバックする時間を設定することでタスク活動に対

して積極的に参加することが予測される。中森(2013)は、「円滑な外国語の運用は偶発的習得で獲

得された語彙知識によって遂行されていく」と述べている。これは、語彙はそのイメージや文脈に

おいて習得されるということである。教室内の限られた環境において生徒の興味・関心に合わせた

タスクを使用し語彙指導を心がけていく必要があるのではないかと考える。そして、このタスク中

心の授業構成で最後に行う言語的側面の指導では、タスクサイクルで使用する語彙の使い方を文法

指導としてドリル形式で深めていくことになる。言語的側面の指導を最後に行う目的として、文法

事項を後に指導することで、タスク活動に集中して参加することができるからである。また、タス

ク活動で間違って使用した表現や文法事項などをそのままにしておくと、単に外国語の言葉を使っ

た言語活動に満足してしまい、使用した言語の間違いに気づかないままになってしまう。明示的に

説明することは、生徒が間違いに気づき、今後の言語活動に発展的に活用していくことができると

いえる。

本研究では、プレタスクと

して、単元で使用する題材を

もとに、ALTとのティーム

ティーチングにおいて会話

形式で新出語彙を導入する。

会話形式の中で各パートの

新出単語を導入することで、

生徒は発音確認のために初

めて音を聞き、話される単語

を会話の中から理解しよう

と努めることが予測される。

会話を聞くと同時に、スクリ

ーンに英単語のスペルと単

語の意味に関連する絵を示すことで聴覚及び視覚の両方から語彙の定着を促すインプット活動を行

う。また繰り返し行うインプットによって生徒の記憶を活性化し、その後のタスク活動にスムーズ

に移っていきたい。タスク活動においては、ペア及びグループにおいて、ワークシートに示された

人物や場面について新出語彙を使用しながら生徒が説明していくアウトプット活動を行っていく。

それぞれの生徒は同じ絵のワークシートを持っているが、示されている語彙は異なっている。その

ように情報にギャップが存在する中、生徒同士で情報を交換し、ストーリーを作り上げていく活動

を展開する。このタスク活動では新出語彙を長期記憶へとつなげるため、インプット活動と同様に、

繰り返しアウトプット活動を行い、記憶の活性化に努める。さらに、活動後の確認としての文法指

導は文脈を使用した穴埋め問題を行う。新出語彙を文脈の中で確認することで生徒の語彙の定着に

努めていく(図4)。このように授業を、話す活動を中心にプレタスク活動、タスク活動、エクササ

イズ活動の流れで展開していく。単元は海外で英語を身に付けたジョン万次郎の人生についてであ

る。本研究を通し、生徒は試行錯誤しながらも興味・関心を持って語彙の定着に向かう。同時に、

万次郎が苦労して英語を習得したことを理解することは、自己のこれからの英語学習へ対しても有

益であると考える。

Ⅲ 指導の実際 1 単元名 Lesson 7 A Young Man in the Sea Who Made a Change

2 単元目標

(1) 新出語彙をペアやグループで話す活動を通し理解及び定着させる。

(2) 本文を理解し、ジョン万次郎の波瀾万丈な人生を理解する。

(3) 海外生活を経験し日本で活躍した人物について調べ、情報を共有する。

タスク中心の語彙

指導

プレタスク

(会話形式の

インプットに

よる語彙の導

入)

タスク活動

(情報交換型及び

ナレーション型タスク

活動によるアウトプッ

ト活動)

文法指導

(ワークシー

トを利用した

穴埋め問題)

語彙の定着

図4 語彙定着の為のタスク活動の流れ

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3 単元の評価規準 コミュニケーションへの

関心・意欲・態度

表現の能力

(スピーキング・ライティング)

理解の能力

(リーディング・リスニング)

言語や文化についての

知識・理解

① 言語活動で新出語彙を積

極的に使う。

② ALT及びJTEとの会話を楽

しむ。

③ 読む・書く・話す・聞く

活動に積極的に取り組

む。

① 新出単語を利用し情報や考

えを英語で伝えることがで

きる。

② 調べた日本人について英語

で書くことができる。

③ 自分の考えや気持ちを話

し、書くことができる。

① 新出単語を利用し情報や考

えを英語で理解する。

② 調べた日本人について書か

れた情報を理解する。

③ 相手の考えや気持ちを聞き

理解することができる。

① 新出単語がどのように機

能するかを理解する。

② 万次郎の人生を通して英

語を身につける意義やそ

の背景にある文化を理解

する。

4 指導計画と評価計画(全9時間) 時間 学習目標 学習内容 生徒の活動 指導の手立て 評価

観点

評価方法

1

・Part1~4の内容

をブレインスト

ーミングしなが

ら把握する。

・ワークシートを利用し、

新出単語をキーワード

とし、ストーリーの概要

を捉える。

・T/F問題にて内容把握

・Part1~4の内容を CDで聞

く。

・本文のキーワードを基に、

本文の流れをつかむ。

・T/F 問題で本文の内容を捉

える。

・写真やキーワ

ードを基に

ストーリー

聞き、ワーク

シートを利

用して全体

の内容を捉

える。

知・理

関・意・

・ワークシート

(本文概要)

(T/F 問題)

2~8

2,4,6,8時間目

Part1~4

・新出単語を理解

する。

(新出語彙の数)

Part1:15個

Part2:14個

Part3:12個

Part4: 5個

・本文内容を理解

する。

3,5,7時間目

Part1~4

・内容理解

・文法理解

1時や理由の副詞

節 3時間目

2分詞構文(過去

分詞)5時間目

3関係代名詞…前

置詞 7時間目

4前置詞+関係代

名詞 7時間目

・ポスター作り

(プレゼンテー

ション用)

(タスク活動の流れ)

①リスニングにおいて新

出単語を理解する。

インプット

②タスク活動において新

出語彙を使用し理解す

る。

アウトプット

③ドリルにて新出語彙の

使い方を知る。

エクササイズ

・本文内容の確認する。

(T/F問題)

・ T/F 及び Q&A 問題にお

いて Part1~4 を理解す

る。

・本文内容を理解する。

・それぞれの文法項目につ

いて理解する。

・海外生活を経験し、日本

で活躍した/している人

物について調べ、ポスタ

ー作成、発表内容の準備

をする。

(各セクション2時間程度)

①会話やスト―リーを通し

て新出単語を聞き、発声す

る。

②ペアになり新出単語を使

用し、お互いの情報を交換

し、ストーリーを作成しス

トーリーの発表を行う。

③会話形式の穴埋め問題を

行う。

・本文の確認をする。

・Part1~4についての内容理

解の為に問題を解く。

・それぞれの文法問題に取り

組む。

・グループにおいて日本で活

躍/している人物について

調べ、話し合う。

・ALTとの会話

を通し、パワ

ーポイント

を使用しな

がら新出語

彙を導入す

る。また、ワ

ークシート

を使用し、

タスク活動

を行った後、

穴埋め問題

を行わせる。

最後にワー

クシートを

利用し本文

内容を理解

させる。

・復習として内

容を確認し

た後、それぞ

れのパート

の文法事項

をワークシ

ートを用い

て理解させ

る。

・グループにお

いてポスタ

ーを作成さ

せるように

する。

関・意・

表現

理解

知・理

関・意・

理解

知・理

・ワークシート

(タスク用紙)

(ドリル用紙)

(本文理解 用

紙)

・ワークシート

(内容把握用

紙)

(文法用紙)

・ポスターへの

取り組み。

9

・海外生活を経験

し日本で活躍し

た人物について

調べ、情報を共

有する。

・グループで作成したポス

タをー報告する

・それぞれのポスターの評

価を行う。

・グループで作成したポスタ

ーを見て、評価表を使用し

評価する。

・ グループで

作成したポ

スターの内

容をしっか

りと読むよ

うに伝え、人

物について

深く知るよ

うにさせる。

関・意・

表現

理解

・ポスター

・評価表

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5 本時2(8/9時間目)の指導

(1) 本時の目標

本文(Part4)の新出単語を話す活動において理解し、Part4の内容の理解につなげる。

(2) 授業仮説

ワークシートを活用し、インプット、アウトプット、エクササイズ活動の流れにおいて新出単語

を理解し使用することで、語彙の定着へ繋げ、本文の内容理解を深めていけるであろう。

(3)本時の評価

学習活動 学習活動における具体の評価規準 A(十分満足できる) B(概ね満足できる) C(努力を要する)

新出単語をイン

プット活動から

話す活動へと展

開し、文脈の中で

の語彙の定着を

図る活動を行う。

新出語彙をしっかりと聞き、タスク活

動においてワークシートを適切に活用

し、積極的に活動に参加し、お互いに

協力し合う姿勢を持ってタスクを完遂

しようと授業に取り組む。

新出語彙を聞き、タスク活動にお

いてワークシートを活用し、活動

に参加し、タスクを完遂しようと

授業に取り組む。

新出語彙を聞き、タスク活動におい

てワークシートへの取り組みやグル

ープ活動が不十分。(手立て:活動中

に個別に声かけを行い、活動がスム

ーズに進むように支援する)

(4)本時の展開

過程

学習活動

指導上の留意点

評価方法 教師の動き 生徒の活動

導入 (7 分)

あいさつ

Small talk

万次郎がカタカナで表現した英単語を

考えさせる

あいさつ

何を話しているか聞く

質問に答える

理解しやすい英語の使用

を心がけ、生徒との会話を

行うようにする

態度

展開 (40 分)

インプット活動

(プレタスク活動)

ALTとの会話の中で新出単語を導入す

る。

ALT が2~3問、会話に関する質問を

する。

ALT と再度同じ会話をし、新出語彙を

確認する。

アウトプット活動

(タスク活動)

生徒をペアで着席させ、互いに同じ絵

で、違う情報(単語の種類)のワーク

シートで、話す活動において情報を交

換させる。

話す活動の後、話した内容をワークシ

ートに書かせる。

情報を交換した内容を全体の場で発表

させる。

エクササイズ活動

(ポストタスク活動)

会話形式の穴埋め問題で新出語彙の理

解を深めさせる。

ALT が Part4 の本文を読み、T/F 問題

を行う。

会話を聞きながら、スクリーンに

映されている英単語と絵を見る。

生徒は質問に答える。

同じ会話を聞くことで、語彙の理

解を深める。

ワークシートを使用し、お互いに

英語で情報交換しようと努める。

話した内容を思い出し、ワークシ

ートに書き込む。

自主的に発表できるようにする。

本時での活動を思い出しながら、

語彙の理解を深められるようにす

る。

教科書を読みながら、本文を聞き、

答えを探し出す。

生徒が話される会話の中

で新出語彙を理解してい

るか確認する。

全体が質問を聞きとれて

いるか確認する。

しっかり聞いているか確

認する。

英語での表現に困った生

徒がいたら、話す活動が円

滑に進むよう英語でのヒ

ントを与える。

発表しやすい雰囲気を作

るよう心がける。

教科書を開いているのを

確認し、T/F 問題を理解し

ているか様子を見る。

必要であれば個々の生徒

へ質問を行い、理解へとつ

なげる。

ワークシート

→授業後に提出

し、後日記載事

項を評価する。

発表

まとめ

(3分)

次の授業ポスターセッションと単語テ

ストついて説明する。

説明をしっかりと聞く。

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lecture

6 仮説の検証

研究仮説に基づき、タスク活動を中心に総合的に分析・考察し、検証を行う。

(1)語彙の定着に必要なインプット活動について

① 語彙を記憶させるインプット活動の工夫

今回、授業の実践にあたり、語彙定着に必要な最初の段階として新出語彙を会話文の中に盛り

込み、リスニング活動として導入した。導入の方法

として、ALTとJTEで実際に会話し、新出単語

が会話で使用されるごとにプレゼンテーションソフ

トにおいてその語と意味に関連する絵を見せた。文

脈の中で新出単語を聞くことで、認知負荷を高め、

語彙の理解に繋げようと活動を展開した。生徒はア

ンケートの中で、文脈の中で、他の語から新出単語

を推測しようとすることができ、実際の意味理解に

つながった。」とあり、他の語から推測しようとする

ことが可能であった。また、文脈の内容を会話形式

にし、生徒が聞きやすい雰囲気の中でスムーズにA

LTとの会話を行った。会話の内容に関しては本文

の内容に関連させながら、比較的理解しやすい単語

を意識して使用することで生徒の語彙理解及び本文

の内容理解につながる活動を心がけた。また、文脈において語彙を理解しようとする中で、視覚

的に新出語の綴りと意味に関連する絵を会話の流れに合わせながらスクリーンで見せた(図5)。

生徒は「見る、聞く、考えることができたから語彙を理解することができた。」とあり、統合的に

インプット活動を通して新出語彙を導入しながら活動を行った。さらに、一度会話を聞いた後、

生徒は会話の内容に関する質問をALTから聞き、答えることで、内容理解を深めた後に再度会

話に集中して聞く機会を設けた。インプットの量を増やし語彙を効果的に記憶させた。

② 新出語彙へ対するインプット活動への生徒の取

り組み

生徒は集中し会話を聞き、スクリーンを見るこ

とで新出語彙が何であり、意味は何であるのかを

推測しようと努めていた。インプット活動後に生

徒からは、「会話を理解することで新出語彙の意味

を推測できた」とあり、スムーズに聞き取れた生

徒もいた。しかし、「スクリーンに集中して会話を

聞き逃してしまった」などの言葉もあった。最終

的に、全然できなかった4%、少しは理解出来た

48%、理解できた 48%と、インプット活動を通し

て語彙理解につながったと考察する。理解

できた生徒は「新出単語の会話の中での使

い方が分かり、同時に絵も見ながらだと理

解しやすかった」とあり、新しい語彙の理

解へ対し関心意欲が育まれた。しかし、理

解できなかった生徒は、「 会話のスピード

が速く聞き取れない」とあり、聞き取りの

力に差がある生徒へ対しプレタスクとして

のインプットの回数を増やし、スピードを

段階的に上げるなどのインプットの工夫が

必要だといえる。

(2)タスクを活用したアウトプット活動の取り

組みについて

① 生徒が英語を話すことで語彙の記憶を

活性化させる工夫

話す活動を行う際、ワークシートに本文

の内容に関連した共通の絵と、それぞれが

図5 授業時の教材の一部

図7 授業時のワークシート(一部抜粋)

48%

48%

4%

インプット活動を通し新出語彙を理解する

ことができましたか?

出来た

少し出来た

出来なかった

N=22

図6 インプット活動についての質問

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写真1 生徒の発表の様子

14%

60%

26%

Part2

25%

63%

12%

出来た

少し出来た

出来なかった

N=22 Part 4

異なる新しい語彙を示し、互いに情報交

換をしやすいように工夫した(図7)。生

徒は絵に関して与えられた語彙を使用し、

互いに英語でコミュニケーションするこ

とで、本文の内容に関する人物などにつ

いて英語で話を伝えていった。この活動

において新出単語を相手に伝え理解する

ことができた。また新出語彙の音や意味

の情報のみならず、文脈の中で新出単語

を使用することで、コミュニケーション

活動の中で語彙を理解することが可能で

あった。また、インプットされた語彙を

繰り返し行うアウトプット活動において

記憶が活性化され、長期記憶へと定着し

ていく必要がある。そのため、アウトプ

ット活動を行った後、生徒自身が話した

文をワークシートに記入し、再度書いた

内容を生徒同士で話す活動を行った。イ

ンプットの活性化と繰り返し行うアウト

プットによる内容の伝達を行わせること

で、充実した言語活動から記憶への語彙

の定着を図れるよう努めた。生徒は活動

にスムーズに取り組んだ。新出単語を使

用し、文を作り、相手に伝えることができていたことから、この活動が語彙の定着に有効であっ

たといえる(図8)。活動の最後には全体へ発表する場を作り、それぞれのペアが会話を全体へ

伝え、情報を共有することができた(写真1)。

② ワークシートを活用した話す活動の取り組み

インプット活動後に、

ペアやグループにおい

てワークシートをもと

に新出単語を使用した

アウトプット活動を行

った。生徒は英単語の

日本語の意味を事前に

確認せず、与えられた

共通の絵を通し新出語

彙を試行錯誤しながら

使用し、ストーリーを

互いに伝え合った。初めてこ

のアウトプット活動を導入した際には、「単語の意味が分からないから、単語の意味を教えて欲し

い」という声が多かった。また、活動がスムーズに進まず黙り込んでしまう様子もみられた。そ

の際に、日本語の意味を直接伝えず、教師が口頭で英語の例文を与え、知りたい単語のイメージ

を英文の中で推測させるよう努めた。そうすることで、生徒はアウトプット活動を再開し、互い

に意思を伝達しようと取り組んだ。また、3人グループでアウトプット活動を行った際、1人が

黙り、活動に参加できない様子が見られた。これは二人が話しているとき、どうしても1人は聞

き手にまわらないといけないからだと考える。このように活動が円滑に行われなかったので、ア

ウトプット活動を行った全4回の授業の中、3回はペアでの活動を生徒は行った。ペアで活動を

行うことで、活動がスムーズに進む様子が見られた。中には活動終了時間を過ぎても、楽しく会

話を続けている場面があり、充実した活動状況だったといえる。生徒からは、「単語の意味がもっ

と分かりたかった。」とあり、やはり日本語で単語がどのような意味であるかを知っておきたいと

いう意見もあり、ワークシートの工夫が必要であったといえる。試行錯誤しながら会話を通して

伝えようと取り組む姿勢が全体的に感じられ、コミュニケーション活動へ前向きな姿勢が感じら

れた。全体的に見ると Part2と Part4でのアウトプット活動において比較すると、「絵を見て会

図8 生徒のワークシート(一部抜粋)

新出語

話す活動が出来ましたか?

図9 タスク活動についての質問

比較すると 11 ポ

イントの増加

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話することができましたか」と言う質問に対し、Part2における活動と比較すると、「会話が出来

た」と答えた生徒は少しではあるが Part4において多くなった。「あまり出来なかった」という

生徒も減少し、少しずつではあるが活動に積極的に取り組む姿勢が感じられた。この話す活動を

通し、生徒が相手に伝え理解しようという気持ちが培われたといえる。活動を行うごとに生徒の

関心意欲が強くなり、クラスルームで英語が飛び交った(図9)。

(3)語彙理解を深めるエクササイズ活動

タスク活動後のエクササイズ活動として、会

話の中で穴埋め問題を作成し、語群の新出単語か

ら正しい語をダイアログに入れていく問題を行っ

た。この活動で、新出単語がどのように機能して

いるかを会話の中で確認することができた。生徒

にとっては事後学習として有益であったといえる。

さらに、生徒がタスク活動で使用していた新出語

彙が間違った使い方をしていたのかなど意識して

確認することで語彙の理解を深めることができた

(図 10)。

(4)話す活動を通した語彙の定着について

① 単語テストについて

今回レッスンの中で語彙の定着のためにコミュ

ニケーション活動を中心にタスク活動を展開した。

これまでの全4時間の授業で行ったタスク活動の

成果として、新出語彙の単語テストと新出語彙を

使用したスピーキングテストを個別に行った。単

語テストは3回実施し、1回目のテストは Lesson

6の授業直後に行った。2回目は Lesson7の直後

に行い、3回目は2回目のテストから約2週間後

に遅延テストとして行った。2回目及び3回目の

テストは同じ問題を使用した。テストの形式とし

てスピーキングの力を測ることにより近い会話形

式の穴埋め問題を使用し、生徒の語彙の定着を測

る目的の一つとして実施した(図 11)。Lesson6

の語彙のテストでは、平均点が 30点と低く、新出

語彙の活用を理解しながらも、新出語彙を活用し

たコミュニケーション活動が必要だったといえる。

また、Lesson7の授業の直後に行った単語テスト

では平均点 58点であった。生徒が2回目に行った

問題用紙をすべて回収し、冬休みを挟んだ2週間

後に遅延テストとして同じ問題を実施した。全体

の平均点が 63点で、2回目の直後テストに比較す

ると平均点数が5点上がった。つまり、語彙の定

着につながったといえる。この単語テストのデー

タから、コミュニケーション中心のタスク活動が

生徒の語彙の定着に有効であると証明できた。

② 個別スピーキングテストについて

スピーキングテストは、個別に実施した。生徒

にカードを渡して、カードにある人物について語

群に示された 10個の単語を利用し、ストーリーを

伝えるテストを行った(図 12)。写真にある人物

は単元の主要な人物で、内容を振り返るいい機会でもあると感じたからだ。テストを実施した際

に、生徒はどうしても絵の人物について述べるため、生徒のコミュニケーション能力を測る上で、

制限している部分があると感じた。生徒の自由な発想で新出単語を利用した英語コミュニケーシ

ョン能力を測るにはさらなる工夫が必要であるといえる。そのような中、多くの生徒はストーリ

ーを英語で伝達する時に、主語を「He…」から始めようとし、タスク活動を行った際にあった課

図 10 エクササイズワークシート(一部抜粋)

30

58 63

0

10

20

30

40

50

60

70

単語テスト(100点満点)

Lesson6単語

テスト〈直

後)

Lesson7単語

テスト(直

後)

Lesson7単語

テスト(遅

延)

N=22

図 11 単語テスト 平均点

図 12 スピーキングテスト カード

図 10 エクササイズワークシート(一部抜粋)

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題と同様に、話す英語の幅が単調になってい

る傾向があった。また、英語を話す際に過去

の時制を意識するときは適切な過去の時制を

使用するが、無意識のうちに現在形を使用す

る場面が多くみられた(図 13)。相手に英語

で内容を伝達する際に、過去形と現在形が混

在した形で話すことで、理解は可能であるが、

より質の高い英語での話す力を身につけるた

めには更なる活動の工夫が必要であるといえ

る。スピーキング活動を通して、全体的に相

手に伝えようとする態度が見られた。アンケ

ートにおいても、授業で英単語を学習するこ

とは英語が話せるようになる1つの手段と考

えている生徒が、授業を行う以前から多かっ

たこともあるため、生徒の英語へ関する関心

は高かったように思える。授業後には「英語

を話すために語彙力は必要である」と答えた

生徒は多くなった(図 14)。授業後に生徒は、

「単語1つ1つが一緒になり意味を示すから

語彙習得は大事である」や「英単語を会話の

中で覚えたい」と述べており、話す活動を中

心にプレタスク活動、タスク活動、エクササ

イズ活動の流れで展開した授業が生徒の語彙

の定着に効果的であったといえる。

(5)ポスターセッションについて

今回の単元ではジョン万次郎の人生をテー

マに扱ったことから、海外で知識や技術を身

につけ、日本で活躍する人物を題材とし、グ

ループにおいてポスターを作成させた。ポス

ターに盛り込む内容は、その人物が何を学び、

どのような形で現在活躍しているかについ

て、それぞれのグループがオリジナリティー

に富んだ形で表現していた。ポスター作成に

おいては、生徒は既存知識として持っている

バリエーションのある語彙を使用し表現す

ることで、ポスターに書かれた様々な人物に

ついて情報を共有することができた。

本研究において、話す活動を中心に新出語

彙を活用し、英語で伝え理解しようとする気

持ちが育まれるとともに、関心意欲が引き出され、語彙の定着へとつながった。

Ⅳ 成果と課題 1 成果

(1)インプット活動として、文脈の中で新出単語を聞くことで、認知負荷を高め、語彙の理解に繋げ

ようと活動を展開した。その結果、スムーズにタスク活動へと生徒は取り組むことができた。

(2)ペアによるタスク活動で、生徒はコミュニケーション活動に積極的に取り組むことができた。

(3)話す活動を中心とした活動の流れにおいて、新出語彙を学習し、語彙の定着に有効であった。

2 課題

(1)さまざまな生徒の能力に応じたバリエーションのあるインプット活動の充実させることで、プレ

タスク活動として生徒のインプットの量と質を高めていく必要性。

(2)タスク活動におけるワークシートを工夫し、話す活動で効果的なフィードバックを与える方法。

(3)生徒の英語での自由な発想を引き出すためのスピーキングテストの工夫。

下線は発話された新出語

55

32

36

59

9

9

検証後

検証前

英単語を学習することは英語が話せるよう

になる手段の一つですか?(%)

思う 少し思う あまり思わない

N=22

図 14 授業前・後のアンケート

図 15 生徒が作成したポスター

図 13 スピーキングテストでの生徒の発話

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〈参考文献〉

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白井恭弘 2112 『英語教師のための第二言語習得論入門』大修館書店

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文部科学省 2010 『高等学校学習指導要領解説 外国語・英語編』 開隆堂

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白井恭弘 2008 『外国語学習の科学―第二言語習得理論とは何か』岩波新書

門田修平・池村大一郎 2006 『英語語彙指導ハンドブック』大修館書店

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Stephen D. Krashen 2002 『Explorations in Language Acquisition and Use』Heinemann Portsmouth,NH

Nation,I.S.P. 2001 『Learning vocabulary in another language』Cambridge University Press

Qian,D.D. 1999 『Assessing the role of depth and breadth of vocabulary knowledge in reading comprehension』

Canadian Modern Language review 56

Willis,J. 1996 『A framework for task-based learning』Harlow:Longman

Baddeley,A.D. 1986 『Working memory』Oxford University Press

〈参考URL〉

Educational Testing Service 2014 『Test and Score Data Summary for TOEFL Internet-based and Paper-based Test』

(http://www.ets.org/Media/Research/pdf/TOEFL-SUM-2010.pdf)