表界面ナノレイヤーを活用した 高安定性銀薄膜 - JST · 2015-02-02 ·...

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表界面ナノレイヤーを活用した 高安定性銀薄膜 北見工業大学 マテリアル工学科 教授 川村みどり 1

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表界面ナノレイヤーを活用した高安定性銀薄膜

北見工業大学

マテリアル工学科

教授 川村みどり

1

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研究背景

金、銀、銅、アルミニウム等の低抵抗金属には、電極等の用途が知られているが、凝集エネルギーが低い(下表参照)という特徴がある。そのため、それらの薄膜は加熱により凝集(イメージ図参照)しやすいという欠点がある。その抑制のために、様々な工夫が重ねられている。

2

Ag Cu Au Al

284 336 368 327

元素の凝集エネルギー(kJ/mol)

(キッテル固体物理学入門より抜粋)

基板基板

加熱

薄膜の凝集のイメージ図

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銀薄膜の特徴と課題

中でも銀には、低電気抵抗率及び高反射率等の優れた特徴がある。

しかし、ガラス等、酸化物基板上に堆積させた銀薄膜は、基板との密着性も低く、加熱により容易に凝集する。また、膜厚が低減するほど、安定性は低下し、より低温で凝集が生じる。そのため、薄い薄膜ほど安定化の工夫を施す必要がある。

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10μm

400℃で熱処理後のAg薄膜の表面形態(膜厚 左:95nm、右:60nm)

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従来技術とその問題点

この現象は、異種金属を微量添加することにより、抑制できるが、添加金属量の精密な制御が不可欠である。また不純物原子による散乱のため、電気抵抗率が増大し、銀本来の性質を損ねる問題もある。

Al添加銀薄膜を加熱すると、表面と界面に極薄Al酸化物層が形成された実験結果から、表界面ナノレイヤーの活用の着想に至った。

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Ag

SiO2/Si

AlAg

SiO2/Si

Al酸化物加熱

Al添加銀薄膜の加熱前後におけるAlの状態の模式図

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表界面ナノレイヤーの活用

厚さ約100nmの銀薄膜に数nmの金属表界面ナノレイヤーを組み合わせ、熱的安定性を評価

• 合金化との比較• 表界面ナノレイヤーの役割、適切な物質の検討• 表界面ナノレイヤーの役割、適切な物質の検討

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厚さ10nmの銀薄膜に有機単分子膜の表界面ナノレイヤーを組み合わせ、環境安定性を評価

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合金膜との比較

10mm

600℃で熱処理後の各膜の表面形態(左:スパッタAg膜, 中:Ag(Al)合金膜 右:Al表界面層付Ag膜)

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6熱処理前後での各構造の抵抗率

Ag bulk0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

0 100 200 300 400 500 600 700

Al/Ag/Al filmAg(Al) alloy filmsputtered Ag film

Annealing temperature(oC)

Res

istiv

ity(mW

cm)

• 銀膜は、加熱すると凝集するため抵抗率が増大する

• 合金膜は、凝集を抑制できるが、不純物添加により抵抗率が高い

• 表界面層を用いると、高安定且つ低抵抗な特性を保持できる

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60nm 600

Ag Pd Ni Ti Nb W

10 m

表界面ナノレイヤーに適した物質の探索

表面層 キャッピングの役割(銀原子の拡散防止)それ自体が凝集しにくいことが重要

元素 Ag Al Pd Ni Ti Nb W酸化物生成自由

エネルギー (kJ/mol)-11.2

(Ag2O)-791

(AlO1.5)-85.4(PdO)

-105.9(NiO1.5)

-939.7(TiO2)

-883(NbO2.5)

-842.9(WO3)

凝集エネルギー (kJ/mol) 248 327 376 428 468 730 859

厚さ60nmの膜の600℃熱処理後の表面形態

凝集エネルギーが高い、または、酸化物生成自由エネルギーが大きい物質が有望

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Ti表面層の厚さは、1nmでは不十分だが、厚過ぎると、抵抗率が増大

2.5

3.0

cm)

3.5

Ag

Ti

SiO2/Si

ナノレイヤー厚さの最適化

ナノレイヤー膜厚は、必要最低限に抑える必要がある

Ag bulk1.5

2.0

Res

istiv

ity (

0 200 400 600

Annealing temperature ( C)100 300 500 700

1.0

Ti(3 nm)/Ag

AgTi(1 nm)/Ag

Ti(5 nm)/AgTi(10 nm)/Ag

ρTi = 42.0 μΩ cmρAg = 1.59 μΩ cm

熱処理前後におけるTi (1~10 nm)/Ag膜の抵抗率

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4.0

Res

istiv

ity (

cm)

5.0

6.0

Ag/Ni(5 nm)

AgAg/Pd(5 nm)

Ag/Ti(5 nm)Ag/Nb(5 nm)

銀に固溶する物質は抵抗率の増大を招く

Pdのように銀に全率固溶する物質を用いると、熱処理によりナノレイヤーが消失し、銀薄膜

Ag bulk

2.0

3.0

Res

istiv

ity (

0 200 400 600

Annealing temperature ( C)100 300 500 700

1.0

熱処理前後における各試料の抵抗率

中へ固溶するため、不適。

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Ti界面層の挿入によりAg薄膜と基板との密着性が向上

load

(mN

)

400

500

Ag

TiSiO2/Si

界面ナノレイヤーの役割

酸化物基板との密着性向上

熱処理前のAg (100 nm)とAg/Ti (1~10 nm)膜の臨界剥離荷重値(マイクロスクラッチ試験)

約4倍に増大

0

Crit

ical d

elam

inat

ion

load

(

2 6 10

Thickness of Ti interface layer (nm)0 4 8

100

300

200

酸化物基板との密着性向上には、容易に酸化物形成する物質(ΔGoxideの値で判断)が適当。

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界面層による、Ag(111) の配向性向上

Inte

nsity

(a

. u.)

2.31º

2.25º

2.56º

Ag/Ti(1 nm) (×5)

Ag/Ti(3 nm)

Ag/Ti(5 nm)

Ag/Ti(10 nm)

FWHM

fcc構造では、(111)の表面エネルギーが最低

10 2015 25

Diffraction angle θ (deg.)

Ag (×5)

Ti(0001)

0.2954 nm

Ag(111)

Ag/Ti膜のXRDロッキングカーブ

軸長ミスマッチ: 1.9%0.2884 nm

Ag(111)の配向性が向上すると、Ag薄膜の表面エネルギーが低下してより安定になる

結晶格子サイズのマッチングに起因する

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表面層:凝集エネルギーが大きい、あるいは酸化物生成自由

エネルギーが大きく、またAgと固溶しにくい金属が表面層に適している。 例:W, Nb, Ti, Al等

Ag

2/Si

界面層:上記の特徴を有する金属は界面層にも適している。特

に、格子マッチングによりAg(111)配向性を向上できる金属(Ti)が優れている。

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Ag

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有機単分子膜の活用

特徴:液相法で簡便に膜厚を制御して成膜できる。

厚さ10nmの銀薄膜に有機単分子膜の表界面ナノレイヤーを組み合わせ、環境安定性を評価

有機ナノレイヤーは、

界面では、密着性を向上させる役割

銀薄膜をより平坦に成長させる役割

表面では、保護層として環境耐性を向上させる役割

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有機系界面ナノレイヤーによる密着性向上

Ag/glass

Ag/MPTMS/glassS S

Ag Ag

Agとの強い相互

分子の例:3-mercaptopropyltrimethoxysilane (MPTMS)

MPTMS分子の界面層を挿入すると、基板と銀薄膜の密着性が3倍向上

S S

Si Si

Si SiOO O

OO

Agとの強い相互作用が期待される

界面層挿入による熱安定性の向上も確認

厚さ60nmの銀薄膜のスクラッチ試験後

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Ag/SiO2Ag/MPTMS/SiO2

Ag

MPTMSSiO2

Ag

SiO2

有機系界面ナノレイヤーによる表面粗さの低減

界面層の有無による各膜厚での表面粗さ

MPTMS界面層の導入により、銀薄膜の表面粗さが低減

有機界面層により、極薄銀膜は、より平坦に成長

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有機系表界面ナノレイヤーによる耐環境性向上

Ag単層の抵抗は、3日以降は測定不可

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環境試験前後の銀薄膜の電気抵抗(シート抵抗)の変化率

試験条件:温度40℃、湿度RH90%

表界面層を活用すると、7日後も変化なし

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新技術の特徴・従来技術との比較

金属ナノレイヤーの活用について

• 銀薄膜の問題点であった、酸化物基板上での熱的安定性を向上させ、熱処理を経ても低い電気抵抗率を維持できる。ナノレイヤーは、銀原子の表面拡散を抑制し、また、基板との密着性向上、膜の配向性向上にも寄与する。ナノレイヤーに適した金属を明らかにした。寄与する。ナノレイヤーに適した金属を明らかにした。

• 従来技術である合金化(異種金属添加)は銀薄膜の電気抵抗率の増大を引き起こしたが、本技術の適用により、本来の低い抵抗率を保持したまま高い安定性を得ることができた。

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新技術の特徴・従来技術との比較

有機単分子膜ナノレイヤーの活用について

• 有機モノレイヤーには、チオール基を有する分子を用いることで、ガラス基板及び銀原子を強固に結合させ密着性が向上し、熱安定性向上、銀薄膜のより平坦な成長をもたらす。また高湿度環境下で銀薄膜の保護層としての役割を果たす。としての役割を果たす。

• 有機単分子膜を活用すると成膜方法が簡便、且つ膜厚制御が容易になる。

• 金属ナノレイヤーの積層と異なり、可視光透過率を低下させず、光学的な応用に有利。

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想定される用途

• 省・脱インジウムを目指した金属層挿入型透明電極(太陽電池等のデバイスに適用可)

• 省エネガラス(Low-E膜付きガラス)にて、耐環境性に優れた銀層として利用可能

• 有機EL素子用半透明金属電極• 有機EL素子用半透明金属電極• 銀以外でも同様に凝集しやすい性質を有する金属群の薄膜安定化への応用が可能

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基板

ITO

ITOAg

有機EL素子の発光の様子金属層挿入型透明電極膜の一例

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企業への期待

デバイスとしての特性を検討するため、省エネガラスの製造(特に大面積化)、及び評価技術をもつ企業との共同研究同研究

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産学連携の経歴

• 2007年度 地域イノベーション創出総合支援事業重点地域研究開発推進プログラム「シーズ発掘試験」

• 2008年度 地域イノベーション創出総合支援事業重点

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• 2008年度 地域イノベーション創出総合支援事業重点地域研究開発推進プログラム「シーズ発掘試験」

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お問い合わせ先

北見工業大学

産官学連携コーディネーター 内島 典子

TEL 0157-26 - 4168

FAX 0157-26 - 4171

e-mail uchijima@crc.kitami-it.ac.jpe-mail uchijima@crc.kitami-it.ac.jp

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