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6 2.2. 調査結果 2.2.1. 国・地域別マーケティング調査結果 2.2.1.1. 中国市場の概要 (1)中国の概要 中国の概要 ①国名:中華人民共和国 ・People’s Republic of China ②面積:960 万平方 km ・日本の約 26 倍 ・世界 4 位(日本 60 位) ・世界の約 7.1% ③人口:13 億 4,735 万人(2011 年末) ・世界1位(日本 10 位) ・世界の約 20% ④名目 GDP:5 兆 8,784 億ドル(2010 年推定) ⑤首都:北京(2,019 万人、2011 年末) ⑥公用語:北京語を基本とする標準語(「普通話」) ⑦宗教:儒教、道教、仏教、イスラム教、キリスト教など ⑧政体:人民民主共和制 ⑨国家主席:胡錦濤 Hu Jintao(1942 年 12 月生まれ) ⑩議会:全国人民代表大会(最高の国家権力機関) ・省、直轄市、自治区、軍隊が選出する代表によって構成(任期 5 年) (注)特にことわりの無い限り、2012 年 2 月時点。 (資料)中国国家統計局、中国統計摘要、JETRO 資料などを基に日本総合研究所作成

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2.2. 調査結果

2.2.1. 国・地域別マーケティング調査結果

2.2.1.1. 中国市場の概要

(1)中国の概要

中国の概要

①国名:中華人民共和国

・People’s Republic of China

②面積:960万平方 km

・日本の約 26倍

・世界 4位(日本 60位)

・世界の約 7.1%

③人口:13億 4,735 万人(2011年末)

・世界1位(日本 10位)

・世界の約 20%

④名目 GDP:5兆 8,784億ドル(2010年推定)

⑤首都:北京(2,019 万人、2011年末)

⑥公用語:北京語を基本とする標準語(「普通話」)

⑦宗教:儒教、道教、仏教、イスラム教、キリスト教など

⑧政体:人民民主共和制

⑨国家主席:胡錦濤 Hu Jintao(1942年 12月生まれ)

⑩議会:全国人民代表大会(最高の国家権力機関)

・省、直轄市、自治区、軍隊が選出する代表によって構成(任期 5年)

(注)特にことわりの無い限り、2012年 2月時点。

(資料)中国国家統計局、中国統計摘要、JETRO資料などを基に日本総合研究所作成

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(2)中国の地図

中国の地図

(3)中国の経済動向

①経済成長率

中国の実質 GDP成長率は、2003年から 2007年まで連続して 10%を超える高い伸びを記

録した。さらに、2008年は金融危機の影響もあったが、9.6%の高い成長を記録した。2009

年は、積極的な景気刺激策が奏功し、通年では 9.2%と政府目標の 8%を上回った。

2010年に入ってからも高成長が持続した。好調な内・外需を背景に、1~3月期が 11.9%、

4~6月期が 10.3%、7~9月期が 9.6%、10~12月期が 9.8%と高い伸びを示した。通年で

は 10.4%と 3年ぶりの 2桁となる高成長を記録した。

2011年に入り、前年同期比で 1~3月期が 9.7%、4~6月期が 9.5%、7~9月期が 9.1%、

10~12月期が 8.9%と経済成長率の伸びは徐々に低下した。2011年通年では、9.2%となっ

た。

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中国の経済成長率の推移

アジアの中で、中国は最も高い成長を続けている。2008~2009 年については、リーマン

ショック後の世界的な経済停滞の影響からスローダウンしたものの、他の国・地域に比べ

て落ち込みは小さい。また、2010 年については、シンガポール、台湾の成長率が中国を上

回ったが、これら 2国・地域は、前年のマイナス成長の反動で高い成長率となったに過ぎな

い。

中国の経済成長率の他国との比較

年 中国 韓国 台湾 香港 シンガポール インドネシア タイ マレーシア

2004 10.1 4.6 6.2 8.5 9.3 5.0 6.3 6.8

2005 10.4 4.0 4.7 7.1 7.3 5.7 4.6 5.3

2006 11.6 5.2 5.4 7.0 8.4 5.5 5.2 5.8

2007 13.0 5.1 6.0 6.4 7.8 6.3 4.9 6.3

2008 9.6 2.3 0.7 2.3 1.5 6.1 2.5 4.7

2009 9.2 0.3 ▲1.8 ▲2.7 ▲0.8 4.5 ▲2.3 ▲1.7

2010 10.4 6.2 10.7 6.8 14.5 6.1 7.8 7.2

(資料)中国統計年鑑、ADB.『Key Indicators(各年版)』、IMF.『IFS』

②経済規模

2010年の中国の名目 GDPは、5兆 8,784億ドルに達した。

9.28.3

9.110.0

10.111.3

12.7

14.2

9.6 10.4

9.2

0

2

4

6

8

10

12

14

2001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11

(%)

(資料)中国統計年鑑、国家統計局、他

(年)

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中国の名目 GDPの推移

22,359

33,823

49,092

58,784

45,194

26,579

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

(資料)中国統計年鑑、国家統計局

③1人当たり GDP

2010年の中国の 1人当たり GDPは、4,382ドルに達した。

2005年には 1,710ドルであった 1人当たり GDPは、5年間で 2.56倍に拡大した。

中国の 1人当たり GDPの推移

2,483

4,382

3,678

1,7102,022

3,403

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

(ドル)

(資料)中国統計年鑑、国家統計局

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(3)主要消費関連指標

主要な消費関連指標についてみると、1人当たり消費額は 2010年の全国平均額は年間

9,963元であった。一方、都市部住民については、2009年の段階で 15,025元に達している。

中国の 1 人当たり消費額の推移(都市部住民・全国住民)

12,211

9,963

13,845

10,6829,644

15,025

9,0988,340

7,255

6,2635,573

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

都市住民 全国住民(元)

(注)都市部住民の 2010年は未発表。

(資料)中国統計年鑑、国家統計局

次に、消費額のうち消費性支出についてみると、2010年には、都市部住民が年間 13,471

元、農村部住民が同 4,382 元であった。都市部と農村部では、消費額に大きな開きがある。

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中国の 1 人当たり消費性支出の推移(都市部住民・農村部住民)

9,997

13,47112,265

7,943 8,697

11,243

4,382

2,555 2,8293,224 3,661

3,993

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

都市住民 農村住民(元)

(資料)中国統計年鑑、国家統計局

また、1人当たりの収入額の推移についてみると、以下の通りとなっている。

中国の 1人当たり収入額の推移(都市部住民・農村部住民)

13,786

19,109

17,175

10,49311,759

15,781

5,919

3,2553,587 4,140 4,761

5,153

0

5,000

10,000

15,000

20,000

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

都市家庭(1人当たり可処分所得) 農村家庭(1人当たり純収入)(元)

(資料)中国統計年鑑、国家統計局

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2010年には、都市部住民が年間 19,109元、農村部住民が同 5,919元であった。収入につ

いても、都市部と農村部では大きな開きがある。

(4)中国の地域関連指標

日本産農林水産物等の有力な消費地である北京市、上海市と、今後、消費の拡大が期待

される広州市、広東省の主要な経済指標を取りまとめると以下の通りである。

北京市・上海市・広州市・広東省の主要経済指標(2010年)

北京市 上海市 広州市 広東省 全国(平均)

年末総人口(万人) 1,961 2,302 1,270 10,430 133,977

GDP(億元) 13,778 16,872 10,604 45,473 397,983

1人当たり GDP(元) 74,154 79,907 83,495 45,319 29,762

1人当たり GDP(ドル) 10,954 11,804 12,334 6,695 4,396

社会消費財小売総額(億元) 6,229 6,037 4,476 17,458 -

都市住民可処分所得(元/年) 29,073 31,838 30,658 23,898 19,109

都市部消費性支出(元/年) 19,935 23,200 25,012 18,490 13,472

都市部エンゲル係数(%) 32.1 33.5 33.3 36.5 35.7

(資料)中国統計年鑑、国家統計局

上海市、北京市は、様々な面で中国で 1、2 を争う都市である。日本産の農林水産物等の

消費においても既に実績がある。

一方、広州市は、上海市、北京市に次ぐ人口を有する中国第 3 の都市である。経済規模

では、上海市、北京市に劣るものも、1 人当たり GDP ではこれら 2 都市を上回っている。

また、消費支出でも広州市が大きい。

以下に、中国の三大都市である上海、北京、広州について、その市場の特性を簡単に取

りまとめる。

①上海

上海は、華東地域(上海市、江蘇省、浙江省)または長江デルタ地域の中心都市である。

周辺の江蘇省、浙江省の2省と一体を成す消費圏を有しており、これら地域では、第2次

産業のみならず、小売業をはじめとする第3次産業の発展も著しい地域となっている。

社会消費財小売総額の華東地域の合計額は、2010 年で 2 兆 9,923 億元に達しており、中

国最大の消費市場となっている。省市別の順位でみても、江蘇省が第 3 位、浙江省が第 4

位、上海が第 7 位となっており、いずれも上位を占めている。

次に、1人当たりの GDP をみると、上海は 2005 年に5万元を突破した後、2010 年に

は 79,901 元(11,803 ドル)となり、既に1万ドルを突破して、先進国レベルに達している。

省市レベルで第1位であり、第2位の北京市の 74,155 元を上回っている。また、華東地域

としては、第 3 位の天津市に次いで、江蘇省が 52,472 元で第 4 位、浙江省が 51,260 元で

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第 5 位となっっている。このように、華東地域は中国で最も豊かな地域の1つとなってい

る。

華東地域の消費市場の発展状況は、耐久消費財の保有率からも見て取ることができる。

上海の都市住民世帯のカラーテレビ、パソコン、エアコンなどの保有率は、日本と変わ

らないレベルまで上がってきている。上海の耐久消費財の保有状況の推移をみると、カラ

ーテレビは、1994 年の段階で 1 世帯 1 台の目安となる 100 世帯当たり 100 台を超えた。ま

た、エアコンについても 2001 年の段階で、パソコンについては 2007 年の段階で 100 世帯

当たり 100 台を越えた。ちなみに、2010 年のエアコンの保有台数は、同 199.9 台となって

いる。

華東地域の総人口は、2010 年末で 1 億 5,611 万人に達した。地域内には、上海のほかに

蘇州(2010 年末の人口 1,047 万人)、杭州(同 870 万人)、南京(同 801 万人)、寧波(同

761 万人)、南通(同 728 万人)、無錫(同 637 万人)、台州(同 597 万人)など、人口

が 500 万人を超える都市が多数ある。

その中でも、直轄市である上海市は、人口、小売総額、都市住民 1 人当たりの可処分所

得などすべての面で抜きん出た存在となっている。また、上海市は、外資系企業が数多く

立地しており、そこで働く外国人駐在員や中国人幹部社員が多いことから、購買力が高い。

さらに、中国国内における流行の発信基地となっており、外国産品が最初にターゲットと

する地域として位置づけられている。一方で、様々な国内、海外の産品があふれているこ

とから、競争が激しく、上海で生き残っていくのは難しい面もあるといわれている。この

ため、上海のみならず、市場規模が大きく、消費力のある上海以外の華東地域の大都市も

視野に入れたマーケティング戦略を進めることも必要といわれている。

②北京

北京は、中国の首都であり、上海とはまた別の発展を目指す都市であるといえる。北京

の最大の特徴は、統計にはなかなか出てこない部分であるが、首都として様々な「官需」

があることである。政府関係者による消費やギフト市場などの拡大により、北京は消費市

場としても注目が高まっている。

北京の社会消費財小売総額は、2010 年で 6,229 億元となっており、上海の 6,037 億元を

上回り、直轄市の中では中国最大の消費市場となっている。

次に、1人当たりの GDP をみると、2010 年には 74,155 元(10,954 ドル)となり、上

海に次ぐレベルであった。2009 年には1万ドルを突破しており、上海と同様に既に先進国

レベルに達している。

耐久消費財の保有率についてみると、北京の都市住民世帯のカラーテレビ、パソコン、

エアコンなどの保有率は、上海と同様、日本と変わらないレベルまで上がってきている。

ちなみに、2010 年のエアコンの保有台数は、100 台当たり 169.2 台となっている。

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北京の総人口は、2010 年末で 1,961 万人に達した。2020 年には、人口は 2,500 万人に達

すると予想されている。JETRO が 2011 年 3 月に発行した『北京スタイル』によれば、「人

口・所得ともに急拡大する北京の世帯数は、市戸籍を持つものだけで約 489 万世帯ある。外

来人口の世帯数も合わせると、おそらく 700 万世帯は超えているものと思われる。北京市

のボリュームゾーンは世帯月収 3,000~4,999 元、5,000~7,999 元の層であり、この世帯の

攻略が市場開拓のカギを握っている。また、現在の新卒者の初任給は月収で約 2,000~3,000

元といわれている。30 代前後ともなると 6,000 元を超える。こうした 20~30 代の若い層

は小康(やや豊かな社会)で生まれ育っており、消費意欲が高く、大きな購買力を持って

いる」となっている。

③広州

広州市は、広東省人民政府が置かれる省都であり、副省級市である。広東省のみならず、

華南地域全体の経済、文化、教育、交通などの中心であり、北京市、上海市とともに中国

三大都市と呼ばれる。また、国務院により、国家中心都市の一つに指定されている。

2010 年の常住人口は 1,270 万人、市内総生産は 1 兆 604 億元であり、いずれも上海市、

北京市に次ぐ第 3 位となっている。古くから羊城と愛称され、また花城、穂城の名もあり、

穂と略称される。

市内、近郊、中国の主要都市と結ばれる高速道路網が発達している。

2010 年には、米国の外交専門誌フォーリンポリシーにより、世界第 57 位の世界都市に

選定された。中国では、北京市、上海市に次ぐ第 3 番目に位置づけられている。

広州市場の特徴は以下の通りである。

広州は、華南地域(広東省)または珠江デルタ地域の中心都市である。

2010 年の広州の社会消費財小売総額は、4,476 億元となっている。また、広東省の社会

消費財小売総額は、1 兆 7,458 億元に達しており、華南地域は上海を中心とする華東地域

に次ぐ巨大な消費市場となっている。

次に、1人当たりの GDP をみると、広州は 2010 年に 83,500 元(12,335 ドル)に達し

ており、既に1万ドルを突破して、先進国レベルに達するとともに、上海、北京を上回っ

ている。また、広東省全体では、1人当たり GDP は 45,319 元(6,695 ドル)にとどまる

ものの、深セン(91,822 元、13,564 ドル)、仏山(78,559 元、11,605 元)、珠江(77,088

元、11,388 ドル)では、いずれも 1 万ドルを超える水準に達している。

華南地域の消費市場の発展状況は、耐久消費財の保有率からも見て取ることができる。

広東省の都市住民世帯のエアコンの保有率は、100 世帯当たり 100 台 206.9 台となって

おり、上海、北京の保有率を上回っている。

さらに、広東省の総人口は、2010 年末で 1 億 430 万人で中国一であり、経済規模も 4

兆 5,473 億元第 1 位となっている。

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これまで、日本の農林水産物等の輸出は、上海を中心とする華東市場が中心であった。

この理由として、可処分所得の高い層が多いこと、在留邦人数の多さなどの市場としての

魅力、以前から貿易取引が多く、日本側も中国側もお互いとの取引にいろいろな面で慣れ

ていること、飛行機で約2時間半で移動が可能であるなどの距離的な近さなど、様々な要

因があった。しかし、上海市場は依然拡大しているとはいえ、今後は競合の激化や一部で

飽和の懸念も見え始めている。また、北京は高所得者が多い反面、中央政府のある「首都」

であるゆえの特殊性も有しており、ある意味で攻略が難しい市場であるとの見方もある。

そのなかで、今後の中国への輸出を、販売を検討していくうえで、広州市を中心とする華

南市場は有望な市場の一つとして位置づけられる。特に、地域の所得水準が高いことに加

えて、日本からの農水産物等の輸出が多い近接する香港とのリンケージが強いことは、大

きな魅力となっている。

広州は、香港から陸路で1~2時間程度の距離にあり、また、地理的、距離的に東南ア

ジアに近く、多くの華僑が海外に出ていることなどを背景に、他国の文化を受け入れる素

地を有しているといわれている。実際、市内には外国料理店が多く、様々な食文化が受け

入れられている。さらに、香港との結びつきについてみると、香港への自由旅行が解禁さ

れており、香港のテレビ番組を視聴することが可能であることの要因から、香港で流行し

たことがすぐに広州に伝播し、同じように流行するといわれている。日本の飲食店などの

場合も、香港で成功したうえで、上海ではなく、広州に進出して成功するケースがみられ

るなど、日本産農水産物等の輸出にも参考となりうるケースが数多くみられる。

(5)中国の富裕層について

世帯年収が 25万元から 30万元あると、家族(3人から 4人)で毎年ないし 2年に 1回海

外旅行に行くことができる。これが「一般的な富裕層世帯」ということができる。(日本

旅行は一人当たり 6,000~7,000元でいくことができる。)

中国では共働きが通常の形態であり、夫婦のそれぞれが月収1万元、年収で 12万~15万

元あると、一般的な富裕層世帯ということがいえるようである。

具体的な数値でみると、中国国家統計局は1世帯あたりの収入を 5ランクに区分し、全

世帯の平均収入の水準と各階層の平均収入を発表している。2007年時点の数字であるが、

高収入世帯(全世帯のうち、最上位の 20%)とされるのは北京市では 22万元以上、上海で

は 25万元以上である。したがって、上述の「一般的な富裕層」は経済的な先進都市の上位

20%世帯がこれに相当するということができよう。

ただし、日本食品に金を使うのは、20歳代後半から 40歳代くらいまでであり、それを過

ぎると、年収は高くとも、新しいものに対して消費することはないという見方をするエコ

ノミストもいる。したがって、富裕層=消費リーダーというわけでは必ずしもない点には

注意が必要である。

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一方、ユーロモニター社(英国本社の市場調査会社)では、2010年のデータをもとに、

中国の所得階層別人口比率を出している。それによると、「富裕層」として年収 3.5千ド

ル(1ドル 6.15元として約 21万元)の人口比率を 2.8%、「上位中間層」(年収 1.5千~

3.5千ドル≒9元強~21万元)を 8.8%となっている。ここで日本からの輸出する食品の潜

在的な購買層として「一般的な富裕層世帯」の年収を固めにみて 30万元、一人当たり年収

を 15万元と設定する。ユーロモニター社のデータを用いると、年収 15万元以上の人口比

率は、「富裕層 2.8%」+「上位中間層」8.8%×0.5=約 7%程度となろう。収入階層や地域

によって世帯の人数は異なっているが、富裕世帯の比率も概ね 7%ということができよう。

(「上位中間層」の年収は 9万元から 21万元であり、中間値が 15万元である。そこで、

「上位中間層」のうち年収 15万元以上の割合を 50%と仮定した。)

なお、これは中国全体を対象とした数値であり、都市部に限るともっと富裕層の割合は

もっと高いと考えられるが、ここでは無視する。

平均世帯人数は、北京市は 530万世帯、上海市は 620万世帯であるから、高収入世帯は

両市合わせて約 80万世帯ということになる((530+620)世帯×0.07)。また両市の人口

は合わせて約 3,000万人であり、高収入世帯に属する人口は 210万人となる。なお、内陸

部は世帯収入が大幅に低い。したがって、中国の沿海部の都市に富裕層は固まっていると

いうことができる。

地区別・収入階層別1世帯あたりの収入(2007年)

(元)

地区 都市部人口

(万人)

平均可処分

所得

低収入

世帯

中低収

入世帯

中収入

世帯

中高収

入世帯

高収入

世帯

北京 1,333 102,061 39,804 66,340 88,793 121,453 218,411

上海 1,610 117,793 45,939 76,566 102,480 140,174 252,077

重慶 1,311 33,463 13,051 21,751 29,113 39,821 71,611

四川 3,802 26,000 10,140 16,900 22,620 30,940 55,640

(注) 各収入階層の割合は 20%ずつである。なお、都市と農村では収入階層の取り方が異

なるため調整してある。

(資料)国家統計局統計より作成

平均世帯人数(2009年)

(人)

地区 平均世帯人数

北京 2.53

上海 2.59

重慶 2.75

四川 3.01

(資料)中国国家統計局[2011].『中国統計年鑑』2011年版をもとに日本総研作成

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17

中国の所得階層別人口比率と人口の推移

(千人、%)

2001年 2005年 2010年 2015年 2020年

富裕層 (35,000ドル以上)

0.3% 0.9% 2.8%

31,557 6.6%

90,683 13.0%

181,761 上位中間層

(15,000~35,000ドル未満) 0.6% 1.9%

8.8% 118,037

18.1% 248,692

27.9% 390,088

下位中間層 (5,000~15,000ドル未満)

4.5% 16.4% 39.0%

523,121 42.7%

586,694 38.0%

531,303 低所得層

(5,000ドル未満) 94.6% 80.8%

49.4% 662,620

32.6% 447,921

21.1% 295,013

(注)ユーロモニター(Euromonitor International)社は、世界各国を対象とした

消費財を中心としたマーケティングデータを提供している調査会社であり、そ

のデータは経済白書などにも利用されている。

(資料)Euromonitor International

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18

2.2.1.2. 日本産の農林水産物等の中国向け輸出の動向

2010年の日本産の農林水産物等の中国向け輸出額は554億7,700万ドルで、前年比19.2%

の大幅増となった。中国向け輸出額の総輸出額に占めるシェアは 11.3%であった。中国は、

香港、米国、台湾に次いで輸出先の第 4位であった。

しかし、2011 年の中国向け輸出額は、震災の影響から前年比 35.4%減の 358 億 6,000 万

円(速報値)と大きく減少した。中国のシェアも、7.9%と大きく低下した。

日本産の農林水産物等の中国向け輸出額の推移

(100万円、%)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 (速報値)

中国 59,539 57,020 45,008 46,526 55,477 35,860

(参考)世界 448,961 515,971 507,805 445,447 492,023 451,300

中国のシェア 13.2 11.1 8.9 10.4 11.3 7.9

(資料)農林水産省.『農林水産物輸出入概況 2010 年(平成 22年)確定値』平成 23年 4月 19日

農林水産省.『農林水産物・食品の輸出に関する統計情報 農林水産物・食品の輸出実績』

中国政府は、2011 年 4 月 9 日以降、日本から輸入する農水産物、食品等に対して一部の

都県からの輸入を停止し、それ以外の道府県からの輸入については日本の産地証明書や放

射性物質検査証明書の提出を求めていた。しかし、証明書の発行条件や手続きが両国間で

整備されていなかったことなどにより、ほぼすべての食品が中国で輸入できない状況が続

いていた。その後、11 月 24 日に、産地証明書の様式について政府間での合意が得られたこ

とに伴い、中国の国家質量監督検査検疫総局は日本産農水産物、食品等の輸入を一部再開

することを在中国日本国大使館に伝えた。この間、4 月 9 日からは、事実上日本産農水産物、

食品等の輸入は規制された。

これまでの中国向け輸出の経緯をみると、2006年に595億円で過去最高となった後、2007

年、2008 年と 2 年連続で前年比マイナスとなったが、2009 年には前年比 3.3%増と増加に

転じ、2010 年は前年比で大きく増加した。

2010 年の中国向け輸出を品目別にみると、まず大きな分類では、水産物が 292 億円、農

産物が 234 億円となっており、合わせて輸出額の 94.8%を占める。水産物については、調

製品以外の水産物が 280 億円(総輸出額に占める割合 50.4%)と大部分を占めている。一

方、農産物については加工食品が 128 億円(同 23.0%)と過半を占め、その他農産物 63

億円(同 11.3%)、畜産品(同 4.8%)、野菜・果実等(同 2.1%)などとなっている。

これに対して、2011 年については、水産物が 170 億円(前年比 41.9%減)、農産物(同

31.6%減)と、いずれも大きく落ち込んだ。

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19

なお、2012 年 3 月 12 日時点において、中国は日本産の農林水産物等に対して、以下の

ような輸入規制を行なっている。

中国の日本産農水産物等に対する規制措置(2012年 3月 12日現在)

対象県 品目 規制内容

福島、群馬、栃木、茨城、

宮城、新潟、長野、埼玉、

東京、千葉(10都県)

全ての食品、飼料 輸入停止

10 都県以外 野菜およびその製品、乳および乳

製品、茶葉およびその製品、果物

およびその製品、薬用植物産品

政府作成の放射性物質の検

査証明書及び産地証明書(産

出県)を要求

水産物 上記に加え、中国輸入業者に

産地・輸送経路を記した検疫

許可申請を要求

その他の食品・飼料 政府作成の産地証明書(産出

県)を要求

(資料)農林水産省ホームページ.『諸外国・地域の規制措置(3月 12日現在)』

http://www.maff.go.jp/j/export/e_info/pdf/kensa_0312.pdf

次に、中国への輸出の多い品目についてみるが、2011 年は中国の輸入規制により日本か

らの輸出が大きく影響を受けたため、ここでは 2010 年の実績でみることにする。中国向け

輸出額の多い上位 10 品目についてみると、水産物が多く含まれているのが大きな特徴とな

っている。2010 年では、輸出額の第 1 位がさけ・ますで 158 億円、第 2 位がすけとうだら

で 26 億円となっている。さけ・ますは、前年比の伸び率も大きく、2010 年が前年比 39.6%

増、2009 年が同 29.7%増となっている。また、さけ・ますの中国向け輸出額が総輸出額に

占める割合(対世界シェア)は 87.9%となっており、さけ・ますの輸出のおよそ 9 割近く

が中国向けに輸出されている。

一方、すけとうだらの場合も、世界シェアは 33.3%と相対的に高い。韓国向け(2010 年

の世界シェア 62.1%)と中国向けを合わせると 95.4%となり、輸出のほとんどがこの両国

向けとなっている。ただし、すけとうだらの中国向け輸出額は、2010 年は前年比 22.3%減

のマイナスとなった。

この他、水産物では、ホタテ貝が第 6 位で 20 億円、いかが第 7 位で 19 億円、さばが第

8 位で 13 億円となっている。

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日本産の農林水産物等の中国向け輸出額の推移(品目別)

(100万円、%)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

対前 年比

対世界 シェア

さけ・ます 16,030 11,190 8,727 11,321 15,804 39.6 87.9

すけとうだら 4,828 4,961 1,657 3,314 2,575 22.3 33.3

播種用の種等 1,641 1,467 1,750 1,478 2,221 50.3 20.7

ソース混合調味料 3,731 3,521 2,260 2,303 2,083 9.6 9.8

清涼飲料水 216 606 1,284 1,242 2,061 66.0 17.3

ホタテ貝 1,284 825 626 699 2,036 191.1 19.8

いか 448 558 1,262 1,160 1,942 67.5 40.0

さば 3,689 3,199 2,150 1,313 1,327 1.0 13.2

アルコール飲料 723 943 997 974 1,270 30.3 7.1

粉乳 162 1,001 952 1,898 994 47.7 7.0

(資料)農林水産省.『農林水産物輸出入概況 2010 年(平成 22年)確定値』平成 23年 4月 19日

農林水産省.『農林水産物輸出入概況 2006 年』、『農林水産物輸出入概況 2007年』

水産物以外では、播種用の種等を除くと、ソース混合調味料、清涼飲料水、アルコール

飲料などの加工食品と、粉乳の輸出が多くなっている。

次に、主要品目ごとに、2010 年の中国向けの輸出金額の実績を取りまとめると、以下の

通りである。

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日本産の主要農林水産物の中国向け輸出額の推移(2010年、月次)

(千円)

りんご なし 米

1月 48,465 0 0

2月 2,133 0 0

3月 0 0 355,500

4月 2,369 0 0

5月 0 0 0

6月 1,356 0 0

7月 1,367 0 18,696

8月 1,785 0 0

9月 0 1,891 0

10月 10,223 0 0

11月 39,373 465 20,911

12月 111,411 2,526 0

1~12月累計

218,482 4,882 395,107

(千円)

清涼飲料水 アルコール飲料 うち清酒

1月 104,953 79,320 26,790

2月 138,387 68,552 17,395

3月 198,738 83,527 39,694

4月 97,998 109,197 32,967

5月 209,568 75,243 33,071

6月 181,174 133,392 27,687

7月 106,775 143,224 16,362

8月 244,188 103,467 26,635

9月 134,816 72,924 33,358

10月 246,939 94,730 37,756

11月 200,287 124,312 37,064

12月 197,574 181,767 34,999

1~12月累計

2,061,397 1,269,655 363,778

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日本産の主要農林水産物の中国向け輸出額の推移(2010年、月次)(続き)

(千円)

さけ・ます いか さば ホタテ貝

1 月 724,895 314,825 186,228 169,682

2 月 479,274 95,947 126,466 104,179

3 月 816,025 273,104 184,048 144,690

4 月 1,035,133 155,168 110,983 279,773

5 月 646,406 231,363 91,338 355,553

6 月 364,157 144,892 47,108 107,831

7 月 293,172 163,577 77,111 194,426

8 月 95,823 202,872 31,289 141,836

9 月 468,433 42,314 10,033 268,968

10 月 5,541,614 35,861 121,508 76,930

11 月 3,047,617 132,404 100,295 73,695

12 月 2,291,291 150,111 240,222 118,431

1~12月累計

15,803,840 1,942,438 1,326,629 2,035,994

(資料)農林水産省.『農林水産物輸出入統計 財務省貿易統計(輸出)』

(http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/index.html)

次に、主要品目ごとに、2010 年の中国向けの輸出量の実績を取りまとめると、以下の通

りである。

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日本産の主要農林水産物の中国向け輸出量の推移(2010年、月次)

りんご(KG) なし(KG) 米(トン)

1月 99,750 0 0

2月 4,380 0 0

3月 0 0 4

4月 6,620 0 0

5月 0 0 0

6月 3,000 0 0

7月 2,920 0 38

8月 3,000 0 0

9月 0 5,000 0

10月 15,612 0 0

11月 56,375 2,500 54

12月 200,055 4,380 0

1~12月累計

391,712 11,880 96

清涼飲料水(L) アルコール飲料(L) うち清酒(L)

1月 142,224 372,363 54,418

2月 136,529 281,502 37,581

3月 239,230 296,901 79,595

4月 137,233 309,857 60,592

5月 203,798 225,750 67,822

6月 226,302 433,519 59,691

7月 185,431 401,299 25,658

8月 261,472 313,919 32,701

9月 153,800 160,679 44,877

10月 224,274 150,648 64,933

11月 202,747 226,092 54,583

12月 219,637 298,335 42,221

1~12月累計

2,332,677 3,470,864 624,672

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日本産の主要農林水産物の中国向け輸出量の推移(2010年、月次)(続き)

さけ・ます(KG) いか(KG) さば(KG) ホタテ貝(KG)

1 月 3,795,610 2,609,006 2,233,332 195,245

2 月 2,167,283 780,208 1,552,811 355,500

3 月 3,773,560 2,159,519 2,191,798 752,993

4 月 4,403,745 939,302 1,336,670 1,251,355

5 月 2,500,445 1,541,936 816,604 1,625,565

6 月 1,375,756 848,217 430,900 466,911

7 月 1,083,486 973,081 552,878 311,700

8 月 366,380 1,109,065 309,425 338,780

9 月 1,634,555 242,102 80,398 353,425

10 月 17,715,753 208,335 1,105,070 118,845

11 月 9,735,702 833,100 963,000 139,027

12 月 7,850,029 809,018 2,335,293 87,441

1~12月累計

56,402,304 13,052,889 13,908,179 5,996,787

(資料)農林水産省.『農林水産物輸出入統計 財務省貿易統計(輸出)』

(http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/index.html)

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2.2.1.3. 果実

【果実 要約】

①市場の状況

中国は 2010 年で 3,326 万トンのりんごを生産し、世界一となっているが、輸

入量は 7 万トン弱に過ぎない。輸入は、チリ、米国からが多く、日本からは 392

トン、輸入額の 2.8%を占めるにとどまる。

なしも 2010 年に 1,506 万トンを生産し、世界一である。輸入量は 13 トンに過

ぎないが、そのほとんどを日本から輸入している。

②潜在需要

りんごの需要は、贈答用と自分で買って食べる需要とにはっきり別れている。

贈答用の場合は、味が良く、見栄えが良く、玉が大きいもので、価格も高いも

のが好まれる。自分で買って食べる場合には、味に対する評価が極めて高い。

りんごの商品力をみる場合には、明確に分かれている 2 つの購買層のそれぞれ

について検討する必要がある。価格については、贈答用であれば、現在の高い

水準でも競争力があるが、自分で買って食べる需要層に対しては、より幅広い

価格の設定が必要となっている。

自分でりんごを購入している人の割合が高い所得水準をみると、上位中間層か

ら下位中間層の最上位までが多くなっている。

一方、ヒアリング調査によれば、贈答用と自分で食べるためにお金を払って購

入する人の販売比率は概ね 6:4 程度の割合であるとみられる。。

贈答用の潜在需要はぜいたく品の市場に含まれるため捉えにくいが、今後も 2

桁の伸びが期待される。一方、自分で買って食べる層をターゲットとする場合、

最も価格と品質の近い米国産りんごの高級品の市場規模である 7,000 トン強が

ターゲットとなる。

③購買層

贈答用の場合は、購買層は企業か、企業経営者などの文字通りの富裕層である。

これに対して、自分で食べるためにお金を出して購入する消費者の場合、アン

ケート調査の結果、所得水準の高さに必ずしも比例せず、かなりばらつきみら

れ、幅広い所得層が購入していることが認められた。

④商流

輸出の商流は、国内では「生産者」⇒「移出商または農協系統」⇒「輸出業者」

と段階を踏む。仕向け地の中国側では、通常は輸入業者が輸入して仲卸に販売

するが、仲卸が輸入業者を兼ねる場合もある。また、輸入業者が自社で小売店

やスーパー内の販売コーナーなどを運営しているケースもある。

中国では、中国特有の商慣行があり、日本からの輸入に際しては注意すべき点

が多い。特に、売掛債権の回収問題は、中国では故意に支払を遅らせるケース

がほとんどであるため、大きなリスクとなっている。

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(1) 対象国・地域の市場実体

A. りんご

(i) 生産量の動向

中国は世界一のりんご生産国であり、2010 年には世界全体の 47.8%を生産した。年平均

の生産増加率も世界全体の増加率を上回っており、世界生産に占める中国の割合は、一貫

して上昇傾向にある。

中国のりんごの生産量の推移

(万トン、%)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 年平均 増加率

中国 2,606 2,787 2,985 3,168 3,326 6.3

(参考)世界 6,436 6,610 6,982 7,174 6,957 2.6

中国のシェア 40.5 42.2 42.8 43.5 47.8 -

(資料)中国国家統計局[2011].『中国統計年鑑』2011年版

FAO.『FAOSTAT』(http://faostat.fao.org/)

中国のりんごの生産量は、過去 5 年間で年平均 6.3%増加している。今後、伸び率が鈍化

するにせよ、当面の間は増加傾向が持続するものとみられる。

なお、2011 年の生産量は、速報ベースで、前年比 5.2%増の 3,500 万トン前後に拡大す

ることが見込まれている。

中国における国内生産を品種別にみると、紅富士(ふじ)の生産量が全体の 69.9%を占

めるとともに、そのシェアは年々上昇傾向にある。

中国の品種別りんごの生産量の推移

(万トン、%)

2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 年平均 増加率

紅富士 1,691 1,832 1,991 2,180 n.a. 8.8

国光 140 153 170 166 n.a. 4.0

その他 775 801 824 822 n.a. 3.9

合計 2,606 2,787 2,985 3,168 3,326 7.2

(資料)中国農業出版社[2010].『中国農業年鑑』2010年版

中国国家統計局[2011].『中国統計年鑑』2011年版

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27

(ii)輸出入量の動向

りんごの輸入量は、2010 年には 6 万 6,882 トンに達した。輸入量は、国内市場規模に比

較して極めて限られた量(2010年の場合、国内需要の 0.2%)となっている。

2010年のりんごの輸入量を国別にみると、チリが総輸入量の 75.8%、米国が 23.4%を占

めており、この 2カ国で 99.2%を占める。

これに対して、輸入量に占める日本のシェアは、わずか 0.6%にとどまる。

中国の国別りんごの輸入量の推移

(トン、%)

輸入国 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

シェア

チリ 14,526 17,338 20,933 31,285 50,678 75.8

米国 11,557 14,250 15,939 22,262 15,680 23.4

日本 135 292 441 287 375 0.6

フランス 22 n.a. 317 276 147 0.2

世界全体 31,074 36,396 42,395 54,111 66,882 100.0

(注)日本の輸出統計と中国の輸入統計で、数字が異なる。

(資料)中国海関税署編[2006-2010].『中国海関統計年鑑』2006-2010 年版

しかし、輸入額でみると、日本産は単価が高いため、2010年の日本産の輸入額に占める

シェアは 2.8%となる。

中国の国別りんごの輸入額の推移

(千ドル、%)

輸入国 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

シェア

チリ 11,818 16,120 20,603 29,203 53,845 70.9

米国 9,223 13,784 17,668 22,899 19,819 26.1

日本 227 862 1,919 1,183 2,091 2.8

フランス 19 n.a. 381 295 177 0.2

世界全体 25,277 34,674 45,188 53,580 75,932 100.0

(資料)中国海関税署編[2006-2010].『中国海関統計年鑑』2006-2010 年版

一方、日本のりんごの輸出量に占める中国向け輸出量の割合は、2010 年で 1.9%にとど

まる。

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28

日本のりんごの輸出動向

(トン)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

台湾 17,869 24,360 23,355 19,139 18,692

香港 313 505 719 1,009 1,312

中国 157 326 390 188 392

世界全体 18,761 25,728 25,163 20,929 21,075

(注)日本の輸出統計と中国の輸入統計で、数字が異なる。

(資料)ジェトロ.『日本貿易統計データベース』

(http://www.jetro.go.jp/cgi-bin/nats/cgi-bin/top.cgi?PGID=000&REP_CNT=0)

(iii)販売量の動向

2010 年についてみると、中国のりんごの国内生産量 3,326 万トンに対し、輸入は 7 万ト

ン、輸出は 106 万トンで、国内需要量は 3,227 万トンであった。

輸出入ともに、国内市場に比較して極めて限られた量(2010年、輸出が国内生産の 3.2%、

輸入が国内需要の 0.2%)となっている。

この結果、中国のりんごの自給率は 103.1%となっている。

中国におけるりんごの需給動向

(万トン)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

国内生産 2,606 2,787 2,985 3,168 3,326

輸入 3 4 4 5 7

輸出 80 102 115 120 106

国内需要 2,529 2,689 2,874 3,053 3,227

(資料)FAO.『FAOSTAT』(http://faostat.fao.org/)

中国海関税署編[2006-2010].『中国海関統計年鑑』2006-2010年版

中国国家統計局[2006-2011].『中国統計年鑑』2006-2011年版

B. なし

(i) 生産量の動向

中国は世界一のなし生産国であり、2010 年には世界全体の 67.2%を生産した。年平均の

生産増加率も世界全体の増加率を上回っており、中国のシェアは年々拡大する傾向にある。

なお、2011 年の生産量は、速報ベースで、前年比 3.6%増の 1,560 万トン前後に拡大す

ることが見込まれている。

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中国のなしの生産量の推移

(万トン、%)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 年平均 増加率

中国 1,199 1,290 1,354 1,426 1,506 5.9

(参考)世界 1,963 2,060 2,100 2,191 2,264 3.2

中国のシェア 61.7 63.3 65.1 65.7 67.2 -

(資料)FAO.『FAOSTAT』(http://faostat.fao.org/)

中国国家統計局[2011].『中国統計年鑑』2011年版

なしの生産量は、りんごの年平均 6.3%には及ばないものの、過去 5 年間で年平均 5.9%

増加している。なしの場合も、今後、伸び率が鈍化するにせよ、当面の間は増加傾向が持

続するものとみられる。

中国のなしの国内生産を品種別にみると、雪花梨、鴨梨といった伝統的な品種のシェア

は、2009 年でそれぞれ 16.2%、16.6%と相対的に低い割合となっている。これに対して、

伝統品種以外のその他の品種の割合は、合計で生産量の 7 割近くを占めており、多くの品

種の生産が行われているとともに、そのなかで新しい品種の生産比率が高まっているもの

とみられる。

中国の品種別なしの生産量の推移

(万トン、%)

2006年 2007年 2008年 2009年 年平均 増加率

雪花梨 178 200 194 231 7.7

鴨梨 222 240 251 237 2.0

その他 799 849 908 958 6.6

合計 1,199 1,290 1,354 1,522 5.9

(資料)中国農業出版社[2010].『中国農業年鑑』2010年版

(ii)輸出入量の動向

中国のなしの輸入は、2006 年の 15.7 トンをピークに 2008 年まで減少したが、2009 年

以降、再び増加傾向にある。2010 年の輸入量は 13.4 トンであった。

2010 年までの輸入については、輸入相手国としては日本からが輸入の大部分を占めてい

る。2010 年についても、日本からの輸入が 98.6%とほとんどを占めており、これ以外では

一部台湾産が入っている。

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30

なお、2011 年については、中国がベルギーからのなしの輸入を解禁した結果、ベルギー

からの輸入が急増したという話を市場関係者から聞いたが、市場でベルギー産を見ること

はなく、詳細は不明である。

中国の国別なしの輸入量の推移

(kg、%)

輸入国 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

シェア

日本 15,594 13,799 9,225 12,475 13,215 98.6

世界全体 15,666 13,799 9,225 12,715 13,407 100.0

(注)日本の輸出統計と中国の輸入統計で、数字が異なる。

(資料)中国海関税署編[2006-2010].『中国海関統計年鑑』2006-2010 年版

また、輸入額でみると、日本産は単価が高いため、日本産の総輸入額に占めるシェアは

99.5%に達する。

中国の国別なしの輸入額の推移

(ドル、%)

輸入国 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

シェア

日本 22,980 16,065 27,082 22,615 74,805 99.5

世界全体 23,132 16,065 27,082 22,784 75,157 100.0

(資料)中国海関税署編[2006-2010].『中国海関統計年鑑』2006-2010 年版

一方、日本側からみると、日本の中国向け輸出量は 2010年で 12トンとなっている。日

本のなしの総輸出量に占める中国向け輸出量の割合は、2010年で 1.7%にとどまる。

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日本のなしの輸出動向

(トン、%)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

シェア

台湾 627 929 682 950 354 50.4

香港 401 824 564 566 255 36.3

中国 13 14 8 12 12 1.7

世界全体 1,356 2,092 1,521 1,683 702 100.0

(注)日本の輸出統計と中国の輸入統計で、数字が異なる。

(資料)ジェトロ.『日本貿易統計データベース』

(http://www.jetro.go.jp/cgi-bin/nats/cgi-bin/top.cgi?PGID=000&REP_CNT=0)

(iii)販売量の動向

2010年についてみると、なしの国内生産量 1,506万トンに対し、輸入はほぼゼロ、輸出

も 42万トンで、国内需要量は 1,464万トンとなっている。なしの輸入量は極めて少ないが、

輸出量についても年間 38~47万トン程度にとどまり、生産量に占める輸出量の割合は 3%

程度に過ぎない。

2010年のなしの自給率は、102.9%となっている。

中国におけるなしの需給動向

(万トン)

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

国内生産 1,199 1,290 1,354 1,426 1,506

輸入 0 0 0 0 0

輸出 38 41 43 47 42

国内需要 1,161 1,249 1,311 1,379 1,464

(注)輸入量が極めて少なく単位以下にとどまるため、0となっている。

(資料)FAO.『FAOSTAT』(http://faostat.fao.org/)

中国海関税署編[2006-2010].『中国海関統計年鑑』2006-2010年版

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(2)日本産の主要農林水産物等への需要及び潜在需要の明確化

A. りんご

(i) 需要状況(震災前・後)

中国では、果実のなかでりんごの人気がみかんと並んで高い。また、りんごの場合、み

かんよりも保存期間が長く、販売期間が長くなることに加え、チリ産など南半球の国から

の輸入もあり、1年を通じて店頭に並んでいる。この結果、果実のなかで一番りんごが売れ

ている販売店が多い。

りんごは、果実のなかで、なしとともに日本からの輸入が可能な 2種類の果実の一つと

なっている。

りんごは、日本産農産物のなかでは、比較的前から、中国市場への輸出が行われてきて

いる。

中国は、生産量で世界の半数近くを占めているが、中国産のりんごは価格の安いものが

大部分を占めている。このため、高級品を中心とする日本産とは棲み分けが可能である。

実際、店頭での青森県産りんごの評判は良く、ギフト用などで購入する客が多い。

現時点においては、日本産りんごの中国向け輸出は、贈答用が主力となっているが、自

分で食べるために日本産のりんごを買う層も徐々に増えてきている。贈答用では、日本産

りんごの価格は突出しており、高価格の贈答用というニッチマーケットがターゲットとな

っている。贈答用のは高級品種では、日本産と他国産や中国産は価格の面で競合してはい

ない。

贈答用の高級品の具体的なスペックは、中国で模倣品を栽培することが困難な「味が良

く、見栄えが良く、玉が大きい」りんごである。これに加え、安全面を強調した販売が行

なわれている。大きさの面では、「世界一」や「むつ」に加え、「大紅栄」も注目されつ

つある。中国は、ふじを大規模に栽培しているが、「世界一」や「むつ」の栽培量はいま

のところそれほど多くはない。さらに、台湾と違い、中国向け輸出はロットが小さいため、

大玉サイズを比較的揃えやすいこともある。

贈答用の場合、時期の問題がある。中国は「中秋節」と「春節」に贈答の習慣があるた

め、その直前が良い時期となっている。

これまでは、「世界一」が贈答用に売られ、好評を博している。しかし、価格が中国産

の数倍もすることや、日本の産地側の問題として「世界一」の生産量が全生産量の数パー

セントしかないことからくる数量の確保や持続的な供給が課題となっている。

アンケート調査(注)によれば、回答者のうち日本産りんごの購入経験者は 36.6%とな

っている。

(注)アンケート調査の概要については、「添付資料:アンケート調査などの概要」参照。

アンケート調査によれば、震災前の日本産りんごの選択の状況(注)は以下の通りとな

っている。毎回購入している回答者の割合は、りんごの場合、11.2%であった。

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33

日本産りんごの選択の状況

11.2

6.9

6.9

14.9

16.5

20.7

19.1

3.7

0 5 10 15 20 25

100%

80%

60%

50%

40%

20%

20%未満

産地は気にしていない

(%)

りんごの選択状況

(注)ここでいう選択の状況とは、各調査対象品目を購入する場合に、毎回日本産を選

ぶ場合を 100%、10回に 8回くらい購入する場合を 80%、2回に 1回くらい購入す

る場合を 50%などとみなし、回答してもらったものである。

(資料)アンケート調査

アンケート調査に基づき、りんごに関して好きな点についてみると、味が 72.1%となっ

ており、味に対する評価が極めて高い。また、味以外の品質の良さも 49.7%と評価が高い。

以下、高級感(35.8%)、色(35.2%)、色以外のみためのよさ(31.3%)などとなって

いる。また、安全性の評価も 31.3%と高い。価格は、高いという回答と妥当であるという

回答がほぼ同じであった。

n=188

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34

日本産農林水産物等の好きな点(りんご)

72.1

49.7

35.2

31.3

35.8

28.5

20.7

31.3

18.4

17.9

3.9

2.2

0% 20% 40% 60% 80% 100%

味以外の品質の良さ

色以外のみためのよさ

高級感

大きさ、量の多さ

珍しさ、手に入りにくいこと

安全性

価格が高いこと

価格が妥当であること

価格が安いこと

その他

(資料)アンケート調査

(ii) 輸出競合国との競争及び棲み分け状況

世界一を頂点とする日本産のりんごは、大きさや色回り、数量面の制約(希少性)、最

終小売価格が国産品や他国産の輸入りんごに比べて格段に高いといった特性から、贈答用

のニーズが中心となっており、需要層や用途が限られ、結果的に春節や中秋節といった限

られた時期をターゲットに市場に導入することが中心となっている。

以上のことから、購買目的や用途といったニーズ面、価格面において、結果的に差別化

が図られる状況となっており、国産品や他の輸入りんごとの競合はみられず、この意味で

は棲み分けが行なわれているとみることができる。

以下は、中国において店頭で販売されている中国産および輸入品のりんごについて、そ

の販売価格を取りまとめたものである。2011年 11~12月に実施した現地調査の段階では、

n=179

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35

日本からの輸入がストップしていたため、ここでは、2010年 9月、11月、2011年 1月に行

なわれたジェトロの調査結果を取り上げた。

北京におけるりんごの店頭価格

(元)

調査時期・価格 種類、銘柄など

原産地 ・産地

単位 販売店 2010年 9 月

2010年 11 月

2011年 1 月

39.80 - - 金星 日本 1 個 BHG

- 108.00 198.00 世界一 日本 1 個 IY

- 138.00 118.00 世界一 日本 1 個 太平洋

- - 98.00 世界一 日本 1 個 太平洋

- - 128.00 陸奥 日本 1 個 BHG

- - 119.00 陸奥(赤) 日本 1 個 BHG

- - 66.00 陸奥(青) 日本 1 個 BHG

- - 119.00 大紅栄 日本 1 個 BHG

- - 46.00 ふじ 日本 1 個 BHG

- - 48.00 ジョナゴールド 日本 1 個 BHG

- - 66.00 王林 日本 1 個 BHG

20.00 25.00 18.80 レッドデリシャス 米国 500g IY

19.80 16.00 19.80 レッドデリシャス 米国 500g BHG

29.80 19.80 44.80 レッドデリシャス 米国 500g 太平洋

21.80 29.90 29.90 ローズアップル 米国 500g BHG

22.80 - 21.80 青りんご 米国 500g IY

35.80 26.80 26.80 青りんご 米国 500g 太平洋

- 15.80 17.80 輸入姫りんご 米国 500g BHG

- 16.80 18.80 姫りんご 米国 500g IY

23.80 26.80 26.80 姫りんご 米国 500g 太平洋

- 17.80 - 青りんご チリ 500g IY

22.80 22.80 - 青りんご チリ 500g BHG

17.80 - - 姫りんご チリ 500g BHG

41.80 - - ふじ ニュージーランド 500g 太平洋

- - 49.80 ローズアップル ニュージーランド 500g 太平洋

14.80 14.80 - 一級紅ふじりんご 中国・山東 500g BHG

5.90 - - ガラりんご 中国・山東 500g IY

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36

29.60 29.60 - ガラりんご 中国 1kg 太平洋

18.80 - - ふじ 中国 500g 太平洋

11.80 - - ふじ 中国・陝西 500g IY

- - 26.80 有機ふじりんご 中国 500g 太平洋

- - 14.00 小ふじりんご 中国・陝西 500g IY

- 7.90 8.90 紅ふじりんご 中国・山東 500g IY

- - 21.80 紅ふじりんご 中国・山東 500g 太平洋

14.00 - - 華聖紅ふじりんご 中国・陝西 500g BHG

14.80 14.80 15.80 黄バナナりんご 中国 500g 太平洋

7.90 - 7.90 黄バナナりんご 中国・甘粛 500g IY

12.80 12.80 10.80 黄元帥 中国・甘粛 500g BHG

- 26.80 - 洛川りんご 中国・陝西 500g 太平洋

- 16.80 16.80 栖霞一級紅ふじ 中国・山東煙台 500g BHG

- 88.00 世界一りんご 中国・山東 1 個 IY

- 15.80 11.80 事農紅ふじ 中国・陝西 500g BHG

- 6.90 5.58 糖心りんご 中国・新疆 500g IY

- - 33.80 糖心りんご 中国・山東 500g 太平洋

- 25.80 - 王林りんご 中国・河北 500g 太平洋

- 11.80 - 沃林有機糖心脆りんご

中国・山東青島 500g BHG

12.80 15.80 15.80 有機りんご 中国・北京 500g BHG

- 16.80 - 有機糖心りんご 中国・新疆 500g BHG

(注)販売店は、「太平洋」:太平洋百貨店北京盈科店、BHG:台湾三越地下食品売場

(華聯超市)、「IY」:イトーヨーカドー アジア村店

(資料)ジェトロ.『北京の農林水産物・食品小売価格』2011年 1月

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37

(iii) 商品力

ここでは、調査結果と補足的な情報収集に基づき、日本産りんごの商品力について、取

りまとめを行った。

【価格競争力】

これまでみてきたように、日本産りんごの中国市場における価格は非常に高く、同レベ

ルの価格で販売されているりんごは、他国からの輸入品でも中国産品でも存在しない。価

格競争力があるかどうかという問題は、品質と価格との関係や、実際に購入する消費者の

価格の受容度によって異なってくるため簡単には結論を出せないが、価格が突出して高い

ことと、自身で食べるために購入する層が全体の 4割程度に限られることを勘案すると、

その価格帯において購買可能な所得層は、価格の安いりんごに比べると限定されるという

ことはいえる。

一方で、高価格の日本産りんごは、贈答用の比率が 6割と高いという極めて特殊な性格

を持っている。贈答用の場合、その用途も高級な贈答品や企業の従業員向けのプレゼント

などに使われるケースが多く、限度はあるものの、極言すれば、「利用者が納得できる範

囲であれば、価格は高ければ高いほどいい」といえる。

このように、りんごの価格競争力をみる場合には、現状において明確に分かれている 2

つの購買層のそれぞれについて検討する必要がある。

自身で食べるために購入する層に対しては、価格競争力という観点からは極めて競争力

は低いということがいえる。たしかに、現状の価格帯でも購入する消費者はいるものの、

いくら高所得層ではあっても、現状の価格帯であるならば何個も購入する可能性は低いと

みられる。一方で、味や見た目などの品質に大きな差がなくて、より低い価格帯で提供す

ることができれば、より多くの消費者が自身で食べるために日本産のりんごを購入する可

能性は高いとみられる。

これに対して、ギフト需要の場合には、ある程度価格が高いことが、競走上は有利に働

くといっても過言ではない。この点に関して言えば、現時点では価格水準において日本産

のりんごと競合する相手は無く、日本産りんごは、高価格であるがゆえに競争力を持って

いるといえる。

なお、中国への輸入に関して課税される関税の税率は以下の通りとなっている。日本に

対しては他の品目も含めて、すべて最恵国向け税率が適用されているため、この税率のみ

表示した。

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38

中国のりんごの輸入関税率(2012年)

種類 HSコード 関税率

最恵国向け 備考

りんご 0808.1000 10% 国内取引にかかる増値税は 13%

(資料)中華人民共和国海関進出口税則編委会.『中華人民共和国海関進出口税則』

【産地供給力】

2010年のりんごについてみると、生産量 79万 8,200トン、輸出量 2万 1,075トン、輸入

量 134トンで、国内需要は 77万 7,259トンとなっており、自給率が 102.7%となっている。

日本産のりんごは、2010年の総輸出量が 21,075トン、うち 18,692トンを台湾に輸出して

いるのに対して、中国への輸出量は 392トンに過ぎない。りんごの輸出量は、国内需要と

の関係や、産地価格の動向などにより、輸出に振り向けることが可能な量が決まる傾向に

あるが、現時点における中国向けの輸出量が少ないため、これがある程度増加しても、基

本的には産地側での対応は可能であるとみられる。

ただし、仮に中国向けの輸出量が急激に増えるような事態となれば、他の国・地域向け

の輸出との調整が必要となるような事態も想定される。また、贈答用として、色回りのよ

い大玉に限定して輸出する場合、特定の品目のグレードやサイズにおいて、供給力に制約

が生じる可能性もある。

【輸出適性】

りんごの場合、日本国内においては、温度管理が徹底され、取り扱いもしっかりしてい

るために問題はない。しかし、中国国内では、流通経路における輸送や倉庫保管、あるい

は店舗での管理など、各流通段階における適切な管理が不十分な場合もある。その場合、

中国において重視される硬さや食味の点で問題を生じることになり、結果的に日本産りん

ごの評価を落とすことにつながりかねない。とりわけ、日本産りんごは、他の輸入りんご

や中国産りんごと比べて、味、大きさ、色回りなどの面で品質が高いことを売り物として

おり、適切な管理でその品質特性を維持し、消費者の満足度を充足することが極めて重要

となる。

以上のことを考えると、りんごの輸出適性上の課題に対応していくためには、信頼でき

る流通形態や物流システムを持つ事業者の選定と指導を的確に行うことが必要である。

【品質優位性】

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39

品質の優位性についても、りんごの場合は 2つの需要層ごとに異なることに留意する必

要がある。

ギフト需要の場合については、既に述べたとおり、日本産りんごの品質面での優位性は、

味、大きさ、色回りなどである。これらが融合して、日本産りんごの高級感を形作ってお

り、高価格でも受け入れられている理由となっている。

特に、味以外の大きさや色回りについては、他のりんごには少ない大きさ、他のりんご

には見られない赤さ、鮮やかさなどの点において「希少性」を生み出している。「希少」

で手に入りにくいものであるからこそ、贈答用として高価格で購入されるわけで、今後も

いかにこのような希少性を維持していくかが、贈答用としての品質の優位性の生命線であ

る。逆に、簡単に手に入るようになってしまえば、希少性が失われることになり、贈答用

として生き残ることが難しくなるとみられる。

これに対して、自分で食べるためにりんごを購入する消費者に対する品質優位性は、ギ

フト需要の場合とは明確に異なることを留意する必要がある。

自分で食べるためにりんごを購入する消費者にとっては、中国の一般的な消費者がそう

であるように、味が一番であるが、色回りなど見た目もよいことが品質の優位性につなが

る。日本産りんごにとって、米国産、中国産との比較で、味の面において価格差を納得さ

せられることが重要となる。このためには、特に味のよい品種を選び、なおかつ味のよさ

そうな個体を選ぶなど、価格に見合った品質、価値を提供するための努力が必要である。

この場合には、希少性はあまり重要な要素とはならず、これまでよりも幅の広い価格帯で

安定的に供給されることが重要であるといえる。

但し、広州における輸入・中卸業者に対する取材では、「世界一」について、「味が自

分の味覚に合わない」と考えている中国人も少なからずいるとのことであった。このよう

に、「味」という品質面において日本産のりんごが優位にあるとは必ずしもいえないこと

に留意する必要があろう。

(iv) 今後の需要の伸びの検討

①2010 年における日本産りんごの購買層

アンケート調査結果によれば、りんごの購入者の所得水準の分布状況は以下の通りとな

っている。

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40

りんご購入者の所得水準の分布状況

所得水準(元) 所得水準(ドル換算) 所得階層 回答率(%)

400,000~ 59,082~ 富裕層 4.3

300,000~399,999

29,541~44,311 3.5

上位中間層 3.4

200,000~299,999

22,156~29,541 14.9

150,000~199,999

22,156~29,541 14.9

125,000~149,999

18,463~22,155 11.2

100,000~124,999

14,770~18,463 11.7

80,000~99,999 11,816~14,770 下位中間層 14.4

60,000~79,999 8,862~11,816 6.9

40,000~59,999 5,908~8,862 8.0

20,000~39,999 2,954~5,908 低所得層 5.3

~19,999 ~2,954 1.6

100.0

(注1)アンケートでは、所得水準を上記の分類に基づき人民元で訊いている。

(注2)所得水準(ドル換算)は、2010年の為替レート(1ドル=6.7703元)で所得

水準(元)をドル換算したもの。

(注3)所得階層は、Euromonitor International、『World Consumer Lifestyles

Databook』の定義に基づく。

(資料)アンケート調査

自分でりんごを購入している人の割合が高い所得水準をみると、上位中間層から下位

中間層の最上位までが多くなっている。

一方、ヒアリング調査によれば、日本産りんごは贈答用としての利用が多く、自分で

食べるためにお金を払って購入する人は相対的に少ないとみられている。それぞれがど

の程度の量になるかについて正確なデータはないものの、市場関係者や流通業者などの

声を総合すると、これらの販売比率は概ね 6:4 程度の割合であるとみられる。

この割合を当てはめると、2010 年の日本から中国へのりんごの輸出量 392 トンのうち、

贈答用が 235.2 トン、自分で食べる量が 156.8 トンとなる。また、自分で食べる量 156.8

トンを、アンケート調査結果の所得水準別の購入率(回答率)で按分すると以下のとお

りとなる。

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りんごを自分で食べる購入者の所得水準の分布状況(2010年)

所得水準(元) 所得階層 回答率(%) 購買数量(KG)

400,000~ 富裕層 4.3 6,742 12,230

300,000~399,999 3.5 5,488

上位中間層 3.4 5,331

87,965

200,000~299,999 14.9 23,363

150,000~199,999 14.9 23,363

125,000~149,999 11.2 17,562

100,000~124,999 11.7 18,346

80,000~99,999 下位中間層 14.4 22,579

45,942 60,000~79,999 6.9 10,819

40,000~59,999 8.0 12,544

20,000~39,999 低所得層 5.3 8,310 10,819

~19,999 1.6 2,509

100.0 156,800

(資料)アンケート調査、ヒアリング調査結果をもとに日本総研が試算

②2010 年および今後の日本産りんごの潜在需要

中国における日本産りんごの潜在需要について検討する場合に留意すべきことは、日本

産りんごの需要が、大きく性格を異にする 2 つの市場から成り立っている点である。1つ

は、日本産りんごを贈答用として購入している需要層であり、残りが自分で食べるために

日本産りんごを購入している需要層である。既に推定したとおり、2010 年における贈答用

需要は 235.2 トン、自分で食べるための需要が 156.8 トンとなっている。

もう1つの贈答用需要は、春節などのフェスティバル時期の需要に加え、日常的なお礼

やてみやげなど、幅広い用途で利用されている。りんごが贈答用として選択される要因と

しては、価格が高いことや、見た目のよさ(色や光沢など)、サイズの大きいこと、味の

よいことなどが挙げられる。このような要因を一言で表すとすれば「希少性」ということ

になり、簡単には手に入らないことや、普段目にすることが少ないこと、自分で購入する

ことがないことなどが選択の決め手となる。

現在、世界一が贈答用として最も利用されているが、いろいろな意味での希少性が選定

の際の重要な決め手の一つとなっているとみられる。世界一に限定する必要はなく、この

ような希少性をもっている品種であれば、代替も可能であると考えられる。

このような贈答用需要の特徴は、競合品が必ずしもりんごではなく、贈答用に使われる

他の様々な商品であることである。贈答用品の選択には様々な要因が絡んでいることから、

2010 年時点におけるりんごの贈答用の潜在需要がどの程度になるのかを推測することは難

しい。

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一方で、贈答品市場全体の今後の市場の伸びを基に、りんごの贈答用市場が今後どの程

度伸びる可能性があるかを類推することは可能である。

米国のコンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーの『2009年中国ぜいたく品市

場研究』によれば、2009年の中国のぜいたく品市場の総消費額は 96億ドル(約 8,947億円)

に達したとしている。また、米国のマッキンゼー・アンド・カンパニーの調査では、2009

年の中国のぜいたく品消費の半分は贈答のためとしている。さらに、米国のボストン・コ

ンサルティング・グループの『ポスト地盤争奪時代の中国ブランド品市場』によれば、中

国は 5~7年後には世界最大のぜいたく品市場になると予想しており、2015年の中国におけ

るぜいたく品市場の消費総額が 2,480億元(約 3兆 3,850億円)に達すると予測している。

りんごがぜいたく品に含まれるかどうかは不明であるが、ぜいたく品市場の約半分を占

める贈答品市場は、ぜいたく品市場全体と同様、極めて高い伸びを率で増加するとみられ

る。上記の 2つの調査における市場規模でみると、2009年から 2015年までぜいたく品市場

は年平均で約 25%の高い伸びが予想されている。

年平均 25%は高すぎるものの、仮に年平均 10%の伸びが潜在的に可能であると仮定する

と、日本産りんごの贈答用市場の 2015年の潜在需要規模は、2010年の 1.61 倍の 378.8ト

ンに達すると見込まれる。

自分で食べるために日本産りんごを購入している需要層について検討すると、果実は米

などの穀物と違い、食糧安全保障という観点から必要な量の確保が必要になるというより

も、消費者側のニーズ、すなわち嗜好に合ったものや、安全・安心を充足することなどが

重要な意味を持っている。安全・安心の面では、日本の農水産物などに対する中国の消費

者の信頼感は、もともときわめて強いといえる。このような無形の財産をベースに、嗜好

の面でも中国の消費者に受け入れられる商品を投入することが必要になる。

日本産のりんごは、アンケート調査の結果によれば、富裕層のみならず、その下の購買

層でも広く購入されている。

潜在需要を顕在化させ、今後さらに販売を拡大していくためには、このような幅広い層

の各層において、中長期的に購買者数を拡大していくことが不可欠である。このためにも、

贈答用などの特殊用途だけでなく、自分でお金を払って購入し、その買ったものを自分で

食べる購買者を増やしていくことが必要になる。ただし、日本産りんごの価格水準を考慮

すると、富裕層のように可処分所得の高い階層のほうが、より購入の可能性が高いことは

間違いない。

商品を取扱う小売店側も、日本産のりんごに対する購入者のニーズには高いものがある

ことをよく認識している。問題は、現時点においては十分な量の商品がなく、需要が逃げ

てしまうことに対して有効な手段を講じることができないことである。

需要の裾野を広げるためには、従来とは違う差別化をどのように図っていくのかが今後

の焦点となる。また、より広範囲での普及を図るためには、商品のバリエーションの提供

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と量的な安定供給、長期間の商品の提供も必要になる。さらに、より広範囲かつ長期間の

販売促進活動も重要となってくる。

今後輸出を伸ばしていくためには、需要の裾野を拡げていく必要がある。贈答用という

特殊用途から脱却し、富裕層の中でも相対的に所得水準の低い層を開拓し、定番商品とし

て購入頻度などを高めてもらうことが必要となってくる。このためには、日本産のりんご

であっても、より低価格でサイズもやや小さいりんごを導入していくことや、市場に投入

する品種の数を増やし、消費者側が購買に際して比較、選択を行なうことが可能にするこ

とが必要となる。その際に競合するのは、米国産やチリ産のなかで最も高価格で売られて

いる輸入りんごや、中国産のなかでブランド品として高い価格で売られているブランドり

んごとなる。さらに、大玉のりんごに日本産の世界一を装ってシールをつけて販売してい

るような例もみられ、このような正規品でないものによるブランドの毀損に注意していく

ことも必要となる。

自分で食べるために日本産りんごを購入している需要層に対しては、日本産りんごのタ

ーゲット販売量については以下のように考えられる。

中国はりんごの国内生産も多く、また、国内消費量も極めて大きい。それにもかかわら

ず、市場は依然拡大を続けており、2009年、2010年と、直近の 2年間はいずれも前年比 5.7%

の増加となっている。2010年における中国のりんご市場は、市場全体が拡大しつつ、消費

者の所得水準の上昇などの需要側の要因と、国産りんごの品質の向上、輸入りんごの価格

の上昇など供給側の要因から、消費者のりんごの購入支出も増加しているとみられる。こ

のような市場全体の状況の中で、日本産りんごに対する潜在需要は、高品質のりんごを購

入する、あるいは求める需要層で、かつ高価格のりんごを購入することが可能な購買層の

中に存在しているものとみられる。高品質のりんごを求める需要層の場合、これまで購入

していない層が急に購入することになる場合というのはほとんどなく、これまで他の高品

質のりんごを購入していた層がより品質の高いりんごを求めてシフトするというケースが

想定される。日本産の以外の高品質のりんごとなると、米国産の一部のりんごや中国国産

のりんごのごく一部が当てはまるものとみられる。

米国産のりんごについてみると、中国への輸入量(2009年、22,262トン)は同年の日本

産の輸入量の約 78倍ある。しかし、品質や価格面で日本産りんごと直接競合する部分は、

このうち価格の高い 3分の 1程度、すなわち、数量的には約 7,500トン程度であるとみら

れる。これに日本産りんごの輸入量を加えると、2010年時点の日本産りんごのターゲット

となりうる販売量は、約 8,000トン前後と推定される。

B. なし

(i) 需要状況(震災前・後)

中国では、なしは、生産量で、りんご、かんきつ類に次ぐ第 3位となっている。

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また、なしは、果実のなかで、りんごとともに日本からの輸入が可能な 2種類の果実の

一つとなっている。

なしは、日本産農産物のなかでは、比較的以前から、中国市場への輸出が行われてきて

いるものの、輸出量は伸び悩んでいる。なしの場合、鳥取の二十世紀が 2004年に上海に輸

出されたのが始まりで、2005年には北京でも販売された。また、その後、輸出品目の種類

が二十世紀以外にも拡大したものの、輸出量自体は伸び悩んでいる。

中国は、生産量で世界の約 3分の 2を占めているが、中国産のなしは価格の安いものが

大部分を占めている。このため、価格面においては、高級品を中心とする日本産と中国産

とははっきりとした棲み分けが可能であるといえる。なしの中国向け輸出の場合も、りん

ごと同様に、大衆消費者ではなく、ギフト用と高所得者向けというニッチマーケットを狙

おうとしている。しかし、問題は、なしの場合、一部の大玉のものを除いてはりんごと比

べて中国での評価があまり高くない点である。このため、りんごのようにギフト用などで

購入する客も少ない。ただし、中秋節の折には、りんごが時期的に入手しにくいこともあ

り、りんごに替わって大玉のなしがギフト用に利用される。

このように、日本産のなしの場合、現時点においては、一部の大玉がギフト用に利用さ

れるにとどまっており、価格が高いために、自分で食べるために日本産のなしを買う層も

極めて限られている状況である。

アンケート調査によれば、回答者のうち日本産なしの購入経験者は 20.4%であった。な

しの購入者比率は、調査したりんご、なし、米、菓子、清涼飲料水、醤油などの日本産の

加工食品、日本酒、牛乳・粉ミルク、水産物のなかで最も低く、日本産農水産物等の購入

経験者であっても、なしを買ったことがある比率が極めて低いことが特徴となっている(各

品目の購入比率は、菓子、清涼飲料水、醤油などの日本産の加工食品 68.5%、日本酒 55.1%、

牛乳・粉ミルク 45.9%、水産物 43.0%、米 39.1%、りんご 36.6%)。

また、同じくアンケート調査によれば、震災前の日本産なしの選択の状況で、毎回購入

している回答者の割合は、なしの場合、8.6%であった。

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日本産なしの選択の状況

8.6

7.6

7.6

17.1

13.3

21.9

22.9

1.0

0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0

100%

80%

60%

50%

40%

20%

20%未満

産地は気にしていない

なしの選択状況

(%)n=105

(資料)アンケート調査

また、アンケート調査に基づき、なしに関して好きな点についてみると、「味以外の品

質の良さ」が 55.1%と最も高くなっており、また、「味」も 52.0%と評価が高い。

これ以外では、「色」(36.7%)、「色以外のみためのよさ」(33.7%)、「大きさ」、

「量の多さ」(32.7%)などの回答率が高くなっている。

また、「安全性の評価」も 29.6%と相対的に高い。

価格については、「妥当であること」が 20.4%と、「高いこと」の 13.3%を上回った。

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日本産農林水産物等の好きな点(なし)

52.0

55.1

36.7

33.7

26.5

32.7

25.5

29.6

13.3

20.4

7.1

4.1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

味以外の品質の良さ

色以外のみためのよさ

高級感

大きさ、量の多さ

珍しさ、手に入りにくいこと

安全性

価格が高いこと

価格が妥当であること

価格が安いこと

その他

(資料)アンケート調査

(ii) 輸出競合国との競争及び棲み分け状況

日本産のなしは、りんごと同様に、大きさ、数量面の制約(希少性)、最終小売価格が

国産品や他国産の輸入りんごに比べて格段に高いといった特性をもっているものの、贈答

用においてはりんごほどの確固たる地位を中国市場において築けていない。需要層や用途

は、りんご以上に限られており、結果的に中秋節といった限られた時期をターゲットに市

場に導入することが中心となっている。

価格帯が、国産品と異なることは事実であり、この面から棲み分けがなされていると捉

えることも可能であるが、現実には、日本産のなしに対する需要は大きくない。また、他

国産のなしはほとんど輸入されておらず、棲み分けに至っていない状況である。

以下は、中国において店頭で販売されている中国産および輸入品のなしについて、その

販売価格を取りまとめたものである。2011年 11~12月に実施した現地調査の段階では、日

本からの輸入がストップしていたため、ここでは、2010年 9月、11月、2011年 1月に行な

われたジェトロの調査結果を取り上げた。

n=179

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北京におけるなしの店頭価格

(元)

調査時期・価格 種類、銘柄など

原産地 ・産地

単位 販売店 2010年 9 月

2010年 11 月

2011年 1 月

- 39.80 - 鳥取なし 日本 500g 太平洋

- 24.80 19.80 悠然なし 韓国 500g 太平洋

- 46.80 - 赤洋なし 米国 500g 太平洋

70.00 70.00 70.00 赤洋なし 米国 1kg BHG

- 39.80 - 青洋なし 米国 500g 太平洋

50.00 50.00 50.00 青洋なし 米国 1kg BHG

- 28.00 28.00 輸入赤・青洋なし 米国 500g IY

5.90 - - 愛甘水なし・北京 中国 500g IY

- 8.00 8.80 菜陽なし・煙台 中国 500g BHG

- 10.80 - 菜陽なし・山東 中国 500g 太平洋

- - 5.90 碭山なし・碭山 中国 500g IY

- 12.80 12.80 貢なし・河北 中国 500g 太平洋

3.90 - - 皇冠なし・河北 中国 500g IY

- 5.90 - 黄金なし・大興 中国 500g IY

- - 7.50 黄金なし・山東 中国 500g IY

- - 8.80 黄金なし・山東 中国 500g BHG

- 9.90 9.90 庫爾勤(クルレ)香なし・新疆 中国 500g BHG

12.80 10.80 - 豊水なし・山東 中国 500g BHG

- - 10.80 豊水なし・四川 中国 500g BHG

12.80 12.80 12.80 豊水なし・山東 中国 500g 太平洋

- 29.80 - 南果なし・遼寧 中国 500g 太平洋

36.00 - - 南果なし・遼寧 中国 500g BHG

- 12.80 12.80 平谷紅綃なし 中国 500g BHG

- 19.60 - 平谷蜜なし 中国 1kg BHG

6.80 - - 普通鴨なし 中国 500g 太平洋

9.80 9.80 - 世紀なし・河北 中国 500g BHG

23.80 - - 輸出華山なし・山東 中国 500g 太平洋

23.80 - - 輸出豊水なし・山東 中国 500g 太平洋

11.80 11.80 11.80 水晶なし 中国 500g 太平洋

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12.80 - - 西域香妃香なし・新疆 中国 500g BHG

- - 12.90 西域香妃香なし・新疆 中国 500g IY

21.80 26.80 26.80 香なし 中国 500g 太平洋

12.80 - - 有機アジアなし・山東 中国 500g BHG

15.80 - - 有機蜜なし・北京 中国 500g BHG

- 5.90 5.90 円黄なし・大興 中国 500g IY

(注)販売店は、「太平洋」:太平洋百貨店北京盈科店、BHG:台湾三越地下食品売場

(華聯超市)、「IY」:イトーヨーカドー アジア村店

(資料)ジェトロ.『北京の農林水産物・食品小売価格』2011年 1月

(iii) 商品力

ここでは、調査結果と補足的な情報収集に基づき、日本産なしの商品力について、取り

まとめを行った。

【価格競争力】

これまでみてきたように、日本産なしの中国市場における価格は非常に高く、同レベル

の価格で販売されているなしは、他国からの輸入品でも中国産品でも存在しない。価格競

争力があるかどうかという問題は、品質と価格との関係や、実際に購入する消費者の価格

の受容度によって異なってくるため簡単には結論を出せないが、価格が突出して高いこと

と、自身で食べるために購入する層が、日本産農産物等の購入経験者の中でも全体の 2割

程度に限られることを勘案すると、その価格帯において購買可能な所得層は、価格の安い

なしに比べてかなり限定されている。

特に、自身で食べるために購入する層に対しては、価格競争力という観点からは極めて

競争力は低いと言わざるを得ない。たしかに、現状の価格帯でも購入する消費者は少数な

がらいるものの、いくら高所得層ではあっても、現状の価格帯であるならば何個も購入す

る可能性は低いとみられる。

これに対して、ギフト需要の場合には、ある程度価格が高いことが、競走上は有利に働

くと言える。この点に関して言えば、現時点では価格水準において日本産のなしと競合す

る相手は無く、なしのギフト市場における位置づけということでみれば、日本産なしは、

高価格であるがゆえに一定の競争力を持っているといえる。ただし、なしがギフトとして

他の品目よりも多く利用されるというわけではなく、ギフト市場における競争力があるか

というと疑問である。

なお、中国への輸入に関して課税される関税の税率は以下の通りとなっている。日本に

対しては他の品目も含めて、すべて最恵国向け税率が適用されているため、この税率のみ

表示した。

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中国のなしの輸入関税率(2012年)

種類 HSコード 関税率

最恵国向け 備考

鴨梨及び雪梨 0808.3010 12% 国内取引にかかる増値税は 13%

香梨 0808.3020 12% 国内取引にかかる増値税は 13%

その他 0808.3090 10% 国内取引にかかる増値税は 13%

(資料)中華人民共和国海関進出口税則編委会.『中華人民共和国海関進出口税則』

【産地供給力】

日本産のりんごは、2010年の総輸出量が 702トン、うち 354トンを台湾に、255トンを

韓国に輸出しているのに対して、中国への輸出量は 12トンにとどまる。なしの輸出量は、

国内需要との関係や、産地価格の動向などにより、輸出に振り向けることが可能な量が決

まる傾向にあるが、現時点における中国向けの輸出量が少ないため、これがある程度増加

しても、基本的には産地側での対応は可能であるとみられる。

ただし、仮に中国向けの輸出量が急激に増えるような事態となれば、他の国・地域向け

の輸出との調整が必要となるような事態も想定される。また、贈答用として大玉に限定し

て輸出する場合、特定の品目のグレードやサイズにおいて、供給力に制約が生じる可能性

もある。

【輸出適性】

なしの場合のりんごと同様、日本国内においては温度管理が徹底し、取り扱いもしっか

りしているために問題はない。しかし、中国国内では、流通経路における輸送や倉庫保管、

あるいは店舗での管理など、各流通段階において適切な管理ができない場合がある。適切

な管理ができないと、日本産なしの評価を落とすことにつながりかねない。

このため、現時点においては必ずしも重要視されているとはいえないものの、しっかり

とした流通管理力を持った輸入業者を選定することや、業者への指導などが必要である。

とりわけ、日本産なしは、中国産りんごと比べて、価格が相当高いことから、適切な管理

でその価格に見合う品質を維持し、消費者の満足度を充足することが極めて重要となる。

(3)日本産の主要農林水産物等の購買層の明確化

A.りんご

(i) 調査品目の購買目的、頻度と購買基準

中国における贈答用果実の重要な販売時期は、春節と中秋節の年 2回ある。ただし、り

んごについては、出荷時期の関係で中秋節は難しく、春節が重要なターゲットとなってい

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る。特に春節の際には、企業の従業員向けのギフトといった大口需要があり、極めて重要

な商機であるといえる。

日本産のりんごのうち、特に高価格のものは、主として贈答品として利用されてきた。

上述の企業の従業員向けギフトに加え、個人による贈答や企業(例えば不動産業者)など

が業務上の贈答品として購入することなどもある。

贈答用ニーズ以外では、従来は富裕層が購入の中心であったとみられるが、富裕層の中

でも相対的に所得水準の低い層や、富裕層より下の所得層にあっても、日本産のりんごを

購入する層がみられ始めている。

このように、自家食用として購入する顧客層も増加しつつある。また、そうした購入者

には若い人もいる。ただし、富裕層であっても、1個 200元前後やそれに近い価格帯のりん

ごを継続的に購入するというのは現実的ではなく、もう少し価格水準の低いものを継続的

に購入してもらうことも必要である。

中国在住の日本人は、価格が高いこともあり、日本から輸入されているりんごを購入す

ることは少ない。

(ii) 購買層

日本産りんごの購買層は、これまでは、企業か、企業経営者などの文字通りの富裕層(富

裕層の中でも相対的に所得水準の高い層)が多かったとみられる。しかし、その多くが贈

答用や企業内のギフトなどの用途での利用である。これに対して、自分で食べるためにお

金を出して購入する消費者も増加しつつある。ヒアリング調査によれば、上海や沿海部の

大都市などでは、そのように自分で食べるために購入する層が増えている。特に、上海で

は、そのように自分で購入する消費者が多い。

以上を踏まえると、今後は、それよりも下の一般的な富裕層(富裕層のなかでも相対的

に所得水準の低い層)においても購買者を増やしていくことが重要となる。

ただし、日本産品にお金を使うのは、20歳代後半から 40歳代くらいまでが多いとされる。

それを過ぎると、年収は高くとも、新しいものに対して購入してみようという姿勢は少な

くなる。

アンケート調査によれば、日本産りんごの購入者の購入割合は、所得水準の高さに必ず

しも比例せず、かなりばらつきみられ、幅広い所得層が購入していることが認められた。

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日本産りんご購入者の所得水準

0% 20% 40% 60% 80% 100%

100%

80%

60%

50%

40%

20%

20%未満

産地は気にしていない

19,999元以下 20,000-39,999元 40,000-59,999元 60,000-79,999元

80,000-99,999元 100,000-124,999元 125,000-149,999元 150,000-199,999元

200,000-299,999元 300,000-399,999元 400,000元以上 わからない

<日本産の購入割合>     低い   ←           所得水準             →    高い

りんご

(資料)アンケート調査

アンケート調査によれば、購入割合の最も高い回答者、すなわち、毎回日本産りんごを

購入する回答者の中では、男性 20代、男性 30 代、女性 40代の割合が相対的に高かった。

日本産りんご購入者の年齢と性別

0% 20% 40% 60% 80% 100%

100%

80%

60%

50%

40%

20%

20%未満

産地は気にしていない

男性 18歳以下 男性 18-19歳 男性 20~29歳 男性 30~39歳 男性 40~49歳

男性 50~59歳 男性 60歳以上 女性 18歳以下 女性 18-19歳 女性 20~29歳

女性 30~39歳 女性 40~49歳 女性 50~59歳 女性 60歳以上

<日本産の購入割合>

りんご

(資料)アンケート調査

n=188

n=188

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B.なし

(i) 調査品目の購買目的、頻度と購買基準

贈答用の重要な販売時期は、春節と中秋節の年 2回であるが、なしの場合にはこのどち

らにも出荷が可能である。特に春節の際には、企業の従業員向けのギフトといった大口需

要があり、極めて重要な商機であるといえるが、なしの場合はりんごほどギフトに利用さ

れていない。

また、贈答用ニーズ以外に、富裕層による購入がある。しかし、りんごに比べると、な

しの場合は、自家食用として購入する顧客層は多くない。

(ii) 購買層

日本産なしの購買層は、これまでは、企業か、企業経営者などの文字通りの富裕層(富

裕層の中でも相対的に所得水準の高い層)が多かったとみられる。しかし、その多くが贈

答用や企業内のギフトなどの用途での利用である。これに対して、自分で食べるためにお

金を出して購入する消費者は、りんごに比べると少ない。

アンケート調査によれば、日本産なしの購入者の購入割合は、所得水準の高さに必ずし

も比例せず、かなりばらつきみられ、日本産の農水産物を購入する消費者の間では、幅広

い所得層が購入していることが認められた。

日本産なし購入者の所得水準

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

100%

80%

60%

50%

40%

20%

20%未満

産地は気にしていない

19,999元以下 20,000-39,999元 40,000-59,999元 60,000-79,999元

80,000-99,999元 100,000-124,999元 125,000-149,999元 150,000-199,999元

200,000-299,999元 300,000-399,999元 400,000元以上 わからない

<日本産の購入割合>         低い   ←           所得水準             →    高い

なし

(資料)アンケート調査

アンケート調査によれば、購入割合の最も高い回答者、すなわち、毎回日本産なしを購

入する回答者の中では、女性 40代、男性 20代の割合が相対的に高かった。

n=105

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日本産なし購入者の年齢と性別

0% 20% 40% 60% 80% 100%

100%

80%

60%

50%

40%

20%

20%未満

産地は気にしていない

男性 18歳以下 男性 18-19歳 男性 20~29歳 男性 30~39歳 男性 40~49歳

男性 50~59歳 男性 60歳以上 女性 18歳以下 女性 18-19歳 女性 20~29歳

女性 30~39歳 女性 40~49歳 女性 50~59歳 女性 60歳以上

<日本産の購入割合>

なし

(資料)アンケート調査

(4) 日本産の主要農林水産物等の商流

青森県の場合、商系、農協系の大きく 2つのルートがあるが、輸出に関しては商系のル

ートが大部分を占めている。いずれも、日本側の輸入業者、中国側の輸入業者を通じて輸

出されるケースが多い。

一方、台湾の業者(ブローカー)が間に入って中国向けの輸出をアレンジしているケー

スもある。

日本からの輸出は上海向けが中心で、北京(天津)も比較的多い。広州、大連、青島向

けなどもあるが量は少ない。

上海は、以前から日本産を輸入している特定の輸入業者の取り扱いが多い。その他の地

域については、果実市場を通じての輸入が多い。果実市場を通じての輸入の場合、市場の

仲卸業者が必要な量を決め、それを市場の荷受会社の系列の輸入会社が輸入しているケー

スもある。

n=105

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日本産りんごの流通ルート

(資料)現地ヒアリング調査をもとに日本総研が作成

りんごの場合には、輸入業者がそのまま一次卸として小売店や飲食店に直接卸す場合が

ある。果実市場の荷受会社が持っている輸入会社の場合は、市場内の仲卸の要望に応じて

輸入業務を行なっており、実質的な輸入の主体は仲卸である。仲卸は小売店や飲食店に直

接卸す場合と二次卸が入る場合がある。二次卸は、一次卸が拠点とする地域以外に商品を

販売する場合に、間に入る場合が多い。二次卸から地方の各小売店舗に卸すことが通常で

あるが、地域によっては三次卸がさらに間に入る場合もある。

こうしたルートのほか、贈答専門の業者が仲卸などから仕入れ、店頭に出ないまま売ら

れていくケースも少なくない。このようなケースでは、贈答専門業者から贈答品として購

入する企業などに直接販売される。

以上の流通経路のほか、香港、台湾を経由して、再輸出される場合がある。これらのル

ートについては、中国国内の流通経路も異なる場合がある。ただし、大半は、広州市場を

通って中国全土に配送されているといわれる。

現地でのヒアリングによれば、各流通段階でのマージン率は、輸入会社(5~20%)、仲

卸・卸(5~15%)、小売(20~40%)程度となっている。

移出商 系統

農協 系統

ギフト

専門業者

スーパー

マーケット

百貨店

その他

業者直営

店・直営

コーナー

法人ギフト

ユースなど

現地 消費者

香港へ の輸出

一部を

中国に

再輸出

産地市場

(仲卸が兼ねるケースあり)

(台湾系・本土系商社を含む)

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中国における一般的な果実の流通についてみると、消費者が最終的に商品を購入するの

は、スーパーや一般青果店、農産品市場などの小売店舗となる。

従来は、露天小売商などで購入するケースが多かったものの、当局の規制やスーパーな

どの近代的な小売店の普及により、特に大都市においては、消費者が露天商から購入する

割合は低下傾向にある。

一方、自由市場(農貿市場)は、中国の一般消費者が農産品を購入する場所として、依

然主流を成している。これに対して、スーパーの存在も、中~高所得層を中心に大きくな

ってきている。特に生鮮品のうち冷蔵設備を必要とするものなどは、スーパーにおける販

売比率が高まってきている。

ただし、百貨店の冷蔵保管設備は、りんごやなしを 3~4カ月間保存することが可能であ

るが、地場を中心とするスーパーマーケットの多くでは、設備面の不足から長期間の保存

が困難であり、日本産品など温度管理の必要な品目についてきちんとした管理を行なうこ

とが難しいとされる。

このため、日本産りんごの主な販売先は、日系・外資系・中国系百貨店の食品売り場、

日系・外資系スーパー、中国系高級スーパーなどに限られている。

中国におけるスーパー及び百貨店の食品売場での販売方式には、大きく分けて買取販売

と委託販売の 2種類がある。

買取方式は、スーパーや百貨店が購入する商品、数量、価格を輸入業者と決定し、買取

るものである。これに対して、委託販売方式は、スーパーや百貨店が小売業者に店舗の一

角での小売販売を委託し、その販売金額の定率(18%程度が多い)を受け取るものである。

手数料を支払った残りは、小売業者の取り分となる。このような委託方式の場合、輸入業

者や仲卸業者が直営でコーナーを設けているケースが多い。また、輸入業者や仲卸業者の

なかには、直営店を運営しているケースもある。

商品の所有権の移転について考えると、買取方式の場合には、店舗にある商品の所有権

は店舗が有することになるのに対して、委託販売方式の場合には、店舗に商品があっても

所有権は小売業者に帰属したままとなる。したがって、商品の売れ残りリスクは、買取の

場合は店舗が、委託販売の場合は小売業者が負うことになる。

店舗が商品の販売に自信がある場合には、買取方式が採用されることが多いのに対して、

商品知識が乏しく販売の仕方がわからない時は、委託販売を利用することが多くなる。小

売業者としては、店舗での売れ残りのリスクを負う必要がない買取を望む業者もいれば、

自己で「マネキン」を雇って販売促進を行ないながら、自由に小売価格を設定できる委託

販売を望む業者もいる。なお、中国への日本産りんごの輸入の約 3分の 2を取り扱う業者

は、店舗での販売を委託され、自ら販売を行っている。買取での販売も過去にあったもの

の、その場合には、代金回収が思うようにいかず、結果的に供給を取りやめたこともあっ

た。

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日本産りんごの主な販売先のうち、日系を除く百貨店やスーパーの場合、自社でリスク

をとらず、青果実専門の業者に売り場をレンタルし、手数料商売をしているところが多い。

テナントとの契約期間は、1年が多いが、製品によっては 2年、逆に 3~6カ月契約の場合

もある。店頭での売り上げが低迷した場合、買取でも代金が支払われないケースがある。

テナントの場合、売り場を借りて、売れた分の数%がバックマージンとして支払われる。

また、最初にレンタル料をイニシャル払いする。

なお、一般大衆スーパーのカルフールやウォールマートは、売り場のレンタルのような

ことは行なっていない。

果実の販売は、通常百貨店やスーパーの店員が行うが、高級品を販売する場合、サプラ

イヤーが拡販のためにマネキンをつけるケースもある。

以下では、商慣行についての状況をとりまとめた。この内容は、果実のみならず食品販

売全般に共通するものである。

一般的には、中国の現地業者と新規の取引契約をかわし、商品を納入すると、以下のよ

うな順番で納品していくパターンが多い。

まず、初回には最上級の商品を納品し、納入先から良い評判をとる。2回目から少しずつ

低価格・低品質の物を納品し、総合的に「損益」を調整する。このような商習慣があるた

め、外見から判断しにくい商品では必ず検品(商品検査)することが重要な業務の一つに

なっている。さらに、上海など大都市では、以前と比べれば大分良くなったものの、取引

先の信用や信頼を重視し、長期間にわたって取引を行うという考えはまだ多いとはいえな

い。つまり、新規取引先との関係を継続的に保つという考えは重視されていない。

中国では、口約束は法的な効力がないと認識しておくことが必要である。当事者間の署

名のある契約書を書面をもって作成し、契約の正本を交換し、行政機関の認可を受け、登

記手続を済ませて初めて合法的な契約となり、法律上の効力のあるものとして認められる。

しかし、その場合であっても、実際の担当者に権限がなく、その担当者の権限を超えて

いるにもかかわらず契約をする、あるいは自社のトップにしっかりと確認せずに契約する

ということがある。

また、担当者の突然の離職などにより、これまで進めてきた話が急に変わったりすると

いった、日本国内では考えにくい事態が起こることもある。

不測の事態が生じたときに、契約があれば問題ない、「きちんと対応してくれるはず」、

「代金回収は大丈夫」と信じ込み、結局期待通りにはならないケースが多い。そのため、

「中国の企業は信用できない」、「日系企業としか取引ができない」と、取引の範囲を狭

める措置をとらざるを得ない会社もある。一方、中国で裁判に持ち込むケースも多いが、

現実問題として円満に解決ができるケースはまれである。しかも、地方にいけばいくほど、

保護主義や地元第一の考え方が増え、地元企業に有利な判決が出る傾向が強い。また、仮

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に訴訟に勝っても、相手側に差押物件がなく、結局は回収ができないというケースも少な

くない。

日本では中国ビジネスに関して、売掛債権回収問題がよく話題になっている。中国では

現金回収が一般的であり、手形はあまり使われていないことから、手形の不渡りによる未

回収問題は少ない。ただ、それでも様々なアンケート調査や統計では、企業が直面する中

国国内販売で、「売掛金の回収」問題がトップとなっている。とはいえ実際、代金の未回

収で取引先が倒産したケースは少なく、取引先が故意に支払いを遅らせるケースがほとん

どである。一部の企業では、「支払いを遅らせることのできる経理担当者ほど評価される」

という内部の慣習があるともいわれる。取引先から入金が遅れることで、資金繰りに困り、

問題の解決に忙殺される日本企業が増えている。

企業・業種にかかわらず、売掛金がなかなか回収できないとの話は多いが、生鮮食品の

場合は、新規開拓の顧客以外、多くはなじみの業者との取引となるため、回収ができない

までのトラブルはあまり聞かない。

ただし、今回の日本産農産物の調査から分かったのは、ほとんどの場合、取引の双方が

日系企業や外資系企業で、しかもお互いに長期の取引を望んで取引を継続しているから、

契約関係のトラブルはほとんどないといって良い。また、生鮮食品は、味や品質、包装な

どに問題があれば、その都度確認ができ、割合と早い段階で状況が分かり、契約に沿って

の対応もしやすい。

このような回収遅延の問題は、日本企業や他の外資企業だけが直面している問題ではな

く、中国企業同士の取引においても同様の事態が生じている。一般に中国企業は取引先か

らの入金を返済原資と考えているため、販売先からの代金回収が滞ると、仕入先への支払

を遅らせてしまう傾向がある。

売掛金の回収問題に対する対策として、ポイントを取りまとめると以下の通りである。

第 1は、与信管理のための情報収集の強化である。その取引先がどういった会社なのか、

現在どういった経営状態にあるのかを取引の度にまたは定期的に情報収集することは、自

分達の取引債権を未払いのリスクから回避させるための重要な手段といえる。具体的には、

企業の信用調査レポートを取り寄せ、そこに記載されている情報を分析することが挙げら

れる。

第 2は、契約に当たって取引相手の基本的な信用レベルを十分にチェックすることであ

る。通常、相手方当事者の信用レベルの判断にあたっては、営業許可証、法定代表者の身

分証明、専門機構の発行した信用調査報告書等、必要な資料を事前に収集しなければなら

ない。

第 3は、契約に盛り込むべき内容を吟味することである。契約条項上の不備は、将来、

紛争の原因となるため、当事者の名称、住所、契約の目的、数量、品質、単価や代金、履

行期限、履行場所、履行方法、担保、違約責任、適用法、紛争解決方法、署名・捺印など

について、必ず明確に規定・記載すべきである。特に、担保の規定については、十分慎重

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に検討する必要がある。例えば、取引金額が大きい場合はその債務不履行に備えて担保を

取っておくことが望ましい。

第 4は、手付金(中国語で「定金」という)あるいは前払金(中国語で「訂金」という)

の意味をよく理解し、これらの手段を有効に活用することである。

第 5は、実際に債権回収を行なう場合、まず相手方に自主的な債務の履行を促す意味で

も、債務者に対する督促を行うことである。督促については、債権者自らが督促をする場

合もあれば、債務者の対応等に応じて第三者に督促を依頼する場合もある。督促の方法に

は、電話等を通じての口頭での督促のほか、督促状等の書面による督促も考えられる。そ

れぞれの方法のメリット、デメリットを比較しつつ、最も効果的な手段を選択することが

重要である。