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- 101 - 健康長寿県プロジェクト編 青森美人いきいきプロジェクト 弘前大学人文学部 ローカル・イノベーション班 代表 安達 安有美 石川 直征 蝦名 優花 加藤 あかり 川上 弘介 工藤 麻美 栗木 みのり 齋藤 洋太 鈴木 ひなの 鈴木 真衣 立崎 総一郎 戸嶋 郁実 野呂 拓未 村田 八島 愛美 伊藤 久康 岩渕 隼矢 岩渕 ひなの 工藤 叶太 小松 裕理香 佐々木 咲也菜 澤村 美紅 鈴木 一央 田村 松田 昌樹 松野 莉果 本宮 あかり 安田 美結 渡邊 駿太 PROJECT 8

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健康長寿県プロジェクト編

青森美人いきいきプロジェクト

弘前大学人文学部 ローカル・イノベーション班

代表 安達 安有美 石川 直征 蝦名 優花

加藤 あかり 川上 弘介 工藤 麻美

栗木 みのり 齋藤 洋太 鈴木 ひなの

鈴木 真衣 立崎 総一郎 戸嶋 郁実

野呂 拓未 村田 望 八島 愛美

伊藤 久康 岩渕 隼矢 岩渕 ひなの

工藤 叶太 小松 裕理香 佐々木 咲也菜

澤村 美紅 鈴木 一央 田村 槙

松田 昌樹 松野 莉果 本宮 あかり

安田 美結 渡邊 駿太

PROJECT 8

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青森県のこれからを支え発展させていくのは「心身」ともに、また「社会的」にも健康

な働く世代である。現在、全国的にも、少子高齢化に伴い労働力人口が減少傾向にある。

日 本 政 策 金 融 公 庫 は 総 合 研 究 『 中 小 企 業 の 健 康 経 営 』 (日 本 公 庫 総 研 レ ポ ー ト

No.2015-6,2015)において、減少する労働力人口、増加する生活習慣病、深刻化するメン

タルヘルス問題、中小企業における健康管理の問題を指摘している。職場の労働環境を整

えることは、健康に働ける人口の創出につながる。現在の中小企業における従業員の健康

管理を見ると、実態として改善の余地が少なからず存在しており、健康経営を進める意義

や効果は高いと述べている。

青森県の基本計画『未来を変える挑戦』は持続可能な地域経済を維持する重要性を指摘

している。今後は労働者一人ひとりの負担が増えていくことが予想されるなか、私たちは、

持続可能な地域経済を維持するために、青森県の働く世代の健康寿命を延ばすことが重要

だと考える。

(1) 青森県の人口問題

青森県は、全国の中でも平均寿命が男女ともに最も短い(厚生労働省、平成 22 年都道

府県別にみた平均寿命)。この理由として、40 歳~50 歳の男性の死亡率が高いことが挙

げられる(中路 2011)。図 1 は青森県の壮年期における死亡率と全国平均との比較を表

している。青森県は働き盛りである 40 代後半から死亡率が増加しており、全国と比較し

ても高い数値となっている。働き盛りの世代において死亡率が高いという問題は、今後

青森県の発展を考えるうえで非常に重要である。

図 1 青森県の壮年期における死亡率

出典:青森県健康福祉部

1 はじめに

2 青森県の人口問題

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(2) WHO の定義

WHO 憲章では、健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体

的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることであると

定義している。私たちは、この WHO の定義する 3 つの健康に注目して調査を進めた。

① 肉体的健康

肉体的健康の視点からは、病気を患っているなどの身体の健康面に注目した。作業

する上での肉体的負担がどのように取り除かれているかの仕組みや、工夫にも焦点を

当てた。

② 精神的健康

精神的健康の視点からは、精神的ストレスや活力となるモチベーションに注目した。

ストレスがどのように緩和されているかも調査した。

③ 社会的健康

社会的健康の視点からは、家族や地域社会、職場での人間関係など、社会的ネット

ワークに注目した。その他、顧客との対応など社会・人間関係が健康に及ぼす影響を

調査した。

(1) 研究目的

健康でいきいきと働く人を「青森美人」と定義する。本取組の目的は、青森県の中小

企業において現在の働き方の問題点と優れた点を分析し、現場で働く人々や、将来働く

私たちが、「心身」そして「社会的」に健康になり、「青森美人」を増やすことである。

(2) 調査方法

本調査では、青森県における中小企業の働き方をテーマに取り上げた。調査の中で注

目したのは、地方部に拠点を置きながらも、全国的に通用するモノづくりを進めている

製造業、あるいは、過疎化の課題に直面しながらも店舗を増やしている小売業である。

こうした企業では、現場の働き方のレベルでいかなる仕組みが働いているのかを明らか

にすることが狙いであった。エスノグラフィー調査を実施し、データの分析、ゲームの

作成を進めた。

(3) 調査の流れ

調査活動は 2016(平成 28)年 4 月から同年 12 月まで行なった。

2016 年 4 月から 5 月までは、システム・ダイナミックスの習得のため、講義と演習を

重ねた。ゲーム作成のもととなる理論は、システム・ダイナミックスである。システム・

ダイナミクスはシステムの複雑な動きをモデル化し、問題解決のポイントがどこにある

のかを探す手法として経営学を中心に発達してきた。観察の練習も行ない、システム・

ダイナミックスならではの観察ポイントを掴んだ。練習の内容は、大学生の健康行動に

関する自己観察である。自己認識と行動がどのような関係にあるのかを観察し、分析し

た。

テーマ(事例)として、中小企業を支える健康的な働き方を取り上げた。WHO の定

3 調査研究

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義に即すれば健康とは、肉体的健康、精神的健康、社会的健康の 3 つの要素からなる。

それぞれの健康上の課題が表出しやすいと予想される、製造業、情報サービス業、小売

業を調査対象に選定した。

まずはエスノグラフィー調査を実施した。6 月から 9 月にかけ、計 6 日間、8 企業(の

べ 10 箇所)を対象に行なった。①製造業、②情報関連産業、③小売・卸売業を対象に、

基礎調査としてフィールドワークを行った。表 1 は、調査地の詳細をまとめたものであ

る。①製造業は力仕事が多いことから肉体的健康に関係があると考え、弘前市の株式会

社ラグノオささき相馬工場、五戸町の株式会社サンライズエンジニアリング、東北三吉

工業株式会社、八戸市のエムエス工業株式会社、むつ家電特機を対象に調査を行った。

②情報関連産業はデスクワークが多いことから精神的健康に関係があると考え、弘前市

のマルマンコンピューター株式会社を対象に調査を行った。③小売・卸売業は顧客との

やり取りや接客など、人と関わる作業が多いことから、社会的健康に関係があると考え、

弘前市の弘果弘前中央青果株式会社、むつ市の株式会社マエダ(マエダ本店、株式会社

マエダストア苫生店)を対象に調査を行った。また、このような企業での調査に加えて、

むつ市と弘前市で、市民や自治体職員を交えたワークショップを実施し、健康ゲームの

作成に関する示唆を得た。

表 1 調査地一覧表

No. 調査日 調査地 場所 業種1 2016/6/28 株式会社ラグノオささき相馬工場 弘前市 製造業2 株式会社サンライズエンジニアリング 五戸町 製造業3 東北三吉工業株式会社 五戸町 製造業4 エムエス工業株式会社 八戸市 製造業5 2016/6/30 マルマンコンピューターサービス株式会社 弘前市 情報関連産業6 2016/8/4 弘果弘前中央青果株式会社 弘前市 卸売業7 株式会社マエダ むつ市 小売業8 むつ市役所 むつ市 ワークショップ開催9 むつ家電特機 むつ市 小売業10 マエダ本店 むつ市 小売業11 株式会社マエダストア苫生店 むつ市 小売業

2016/6/29

2016/9/12

2016/9/13

10 月以降は、エスノグラフィー調査で得られた知見を手掛かりに、青森県の中小企業

における働き方の現状をまとめたのち、中小企業の働き方をテーマとしたゲームの作成

に取り掛かった。ゲームの作成は、現地調査で得られた聞き取り・観察内容から課題を

発見し、よりよい働き方を探るきっかけを作り、それを外に伝えていくための作業とし

て位置付けられる。なるべく多くのゲーム構想を探索的に提出したのち、5 つのサブテ

ーマを設定し、そのテーマに応じたゲームプロトタイプの作成と補足調査を進めた。

基礎調査では実際に企業を訪れ、担当者の方に健康管理や安全維持にかかわる話を聞き

取った。また、上述の三側面(肉体的健康、精神的健康、社会的健康)に留意し作業場を

観察した。表 2 は、調査を行った各企業において見えた 3 つの健康の側面に関するエピソ

ードを表にまとめたものである。肉体的健康の面では、従業員が作業中に危険だと感じた

4 基礎調査

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ことをヒヤリ・ハット報告として記録し提出する活動や、安全を呼びかける掲示物が貼ら

れているなど、けがを未然に防ぐ対策が行われている様子が多くみられた。精神的健康の

面では、スキルマップを導入し、従業員のスキルを可視化することで、モチベーションの

向上を図ったり、従業員のストレスチェックを行い、精神的負担を少なくするための取り

組みなどが見られた。社会的健康の面では、社内での決まり事を話し合う安全衛生委員会

が設置されていたり、朝礼で話された内容や議事録の内容などを社内全体で正確に共有す

るようにしているなど、スムーズに働けるようにするための取り組みが行われていた。

表 2 各企業に見える 3 つの健康

フィールド実証として基礎調査で得た情報を基に、青森県の中小企業で「健康に働く」

ための教育型ゲームを5つ作成した。ゲームにすることの意義は、①プレイヤーは仮想空

間に身を置くことで、実体験できるということ。②プレイヤーはプレイしたうえで新たな

気づきを得やすいということ。③作成者は要素を絞って作成するので、メッセージがプレ

イヤーに伝わりやすい・理解してもらいやすいという点である。

ゲーム作成時は現場の様子を取り入れることになる。基礎調査後、気になった部分は再

度文献などを読み返したり、基礎調査で得た情報が記録されたフィールドノーツを読み返

したりした。また、制作ノートをつけ、ゲームの改良した点や気づきなどを記録し、作成

過程の足跡を残すことで、作成者自身が健康について深く考えることができた。

作成したゲームの具体的テーマとタイトルは以下のとおりである。

「健康諸課題の積み上げ」(疲 low 過 low ご苦 low ゲーム)

「健康管理における ISO の役割」(H-management)

「安全と効率のバランス」(セレクトアンドバランス)

「スキルマップの活用」(スキルマップ)

「経営管理と社会的環境」(ビタースウィート!)

5 ゲームの作成

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以下、「疲 low 過 low ご苦 low ゲーム」を中心に、各ゲームの概要を報告する。

(1) 職場をより良くするヒントを見つけるゲームの作成

最初に紹介するのは、『疲 low 過 low ご苦 low ゲーム』である。このゲームでの狙いは、

日常で発生するあらゆる問題を放置すると、高く積み上がってしまい崩れてしまうこと

を体感してもらうことである。このゲームの効果は、身体的・精神的・社会的健康の3

つの側面から自身の職場を振り返ってもらうことである。

図2は、実際にゲームで使用するカードである。カードは全部で40枚ほどある。このス

トレスチェックのカードには、「ストレスチェックのように、労働者の心の状態を定期的

に調査する取組みを行っているか」と書かれている。この問いに対して、「行っていない」

や「知らなかった」と答えたプレイヤーは、図3のように、ブロックを自分の手元に積

み上げることになる。どこに改善点があるか、自社ではこれは出来ている、これは足り

ない、など、振り返りを大事にしながら、何周か繰り返していくゲームである。

参考にした基礎調査の事例を2つ紹介する。ある製造業では、メンタルヘルス問題の解

決に向け、今年からストレスチェックを取り入れており、管理者がセミナーに参加する

など、積極的に活動していた。一方で、ある小売業では、ストレスチェックを実施して

いたが、専門の産業医が不足しているという課題があった。このように、現場の状況か

ら、「ストレスチェックを取り入れること」が会社に及ぼす効果は同じではないことが分

かった。

ゲームを作るにあたり、基礎調査の中で得た企業の取り組みをカードの要素として取

り出したが、実際はストレスチェックの事例のように、個々の企業の視点・環境によっ

て取り組みの効果は異なる。ゲームを作っていく過程で、個別の取り組みが重要なので

図 2 カードの例

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はなく、「取り組みと企業のシステムを適合させるプロセス」が重要であるという気づき

を得ることができた。

図3 疲 low 過 low ご苦 low ゲーム

表 3 カードの内容最終版

肉体的

(良)

ヒヤリハット報告 ヒヤリハット報告を社内で行っているか

ISO 取得 ISO を取得し上手く機能しているか

張り紙 安全を呼びかける張り紙はあるか

機械化 手作業で行っていた手間のかかる仕事を、機械を使用し楽に行

うようになったか

手作り弁当 お昼は手作り弁当の人が多いか

仮眠室 会社内に仮眠室が存在するか

無煙手当 無煙手当のような禁煙を促す取り組みはあるか

体力テスト 体力テストのような自分の体力を見直すことのできる取り組

みはあるか

ラジオ体操 会社でラジオ体操を行っているか

健康診断 義務付けられた健康診断をきちんと受けているか

肉体的

(悪)

事故 慣れや不注意が原因の事故が起こるか

人手不足 社員の高齢化に加え、新卒では厳しい作業もあるなどの理由か

ら人手不足に陥っているか

服装の乱れ ヘルメットの着用が義務化されているのに守らない人がいるか

ルール 喫煙所以外で喫煙をしている人がいるか

残業 頻繁に残業があるか

肉体的疲労 重労働による身体への負担があるか

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肉体的

(悪)

同じ体勢 立ちっぱなしなど同じ体勢が続く作業はあるか

飲み会(営業) 取引先との飲み会が頻繁にあるか

栄養 コンビニ弁当をよく食べるか

パソコン作業 パソコンを使った長時間の作業があるか

喫煙 喫煙をしているか

精神的

(良)

目標 個人の目標などの張り紙があるか

交流イベント 職場内でお花見などの年中行事があるか

やりがい やりがいを感じられるような瞬間や出来事はあるか

スキルマップ スキルマップのような個人の作業における能力を可視化でき

るものはあるか

ストレスチェック ストレスチェックのように労働者の心の状態を定期的に調査

する取り組みを行っているか

実力主義 年功序列ではなく、若い人にも活躍できるチャンスのある実力

主義をとっているか

相談窓口 仕事以外の個人的相談ができる窓口はあるか

精神的

(悪)

クレーム処理 クレームへの対応が精神的負担となっていないか

納期 納期や締め切りに頻繁に追われることがあるか

ミス ミスを繰り返さないような工夫があるか

売れ行き 最近売り上げが伸び悩んでいるか

社会的

(良)

補完性 他の工場からの応援などがあるというような十分な補完性は

あるか

人間関係 誰とでも気兼ねなく話せるか

評価 自己評価と客観的評価とを

見比べるような機会はあるか

設備の向上 作業台の高さの調整や LED ライトの取り付けなど社員が働き

やすくなるような環境を整えているか

設備 喫煙室、食堂などの設備が整っているか

交流イベント 全工場の人たちとの交流を深めるイベントがあるか

親睦会 スポーツ大会のような職場の人と 親睦を深めるイベントがあ

るか

休みの取りやすさ 子供の運動会などの行事で休みたいときに休みがとれるか

交流 若い人同士での交流があるか

育成 上司の新人へのフォローが行き届いているか

社会的

(悪)

イベント 会社のイベントに出席しているか

女性の活躍 女性が活躍しやすい環境であるか

一人の作業 一人で行う作業がよくあるか

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(2) 健康管理ゲームから見る ISO のあり方

2つ目のゲームは『H-management』である。このゲームは、プレイヤーが管理者となり、

会社を経営しながら社員の健康を管理する。ISO のメリットとデメリットについて理解

を深めてもらうというメッセージが込められている。

ISO(国際標準化機構)とは、基本的な安全対策や作業のプロセスに関する基準が整って

いることを示し、最低限規約を揃えていることで取得することができる。ゲーム作成過

程で、ISO 取得は、業務改善につながる戦略と、資格を重視する戦略の2つに分類できる

ことに気がついた。前者は ISO 取得によりルールを確立し、会社全体の改善につながる。

一方で後者は複雑な業務が面倒になり、効率の悪化を招くこともある。ISO の位置づけ

を明確化し、自社のシステムを見直し、整理することが重要と考えられる。

図 3 H-MANEGEMENT

(3) 安全と効率の均衡の重要性を理解するゲームの作成

3つ目は『セレクト&バランスゲーム』である。このゲームのプレイヤーは、安全管理

の担当者の立場から運営方針を選択する。ゲームを通じて、仕事をする上での安全と効

率のバランスを保つことの重要さを感じてほしいというメッセージが込められている。

ゲームの作成により、生産性には、短期的コストと長期的利潤という2つの側面がある

ことが分かった。ただし、こうした長期的利潤は実際の現場では可視化されてはいない。

また、安全と効率には様々な均衡があり、従来のバランスのとり方から別のバランスの

とり方へと移行する契機があることにも気が付いた。

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図4 セレクト&バランスゲーム

(4) スキルマップを追体験するためのシリアスゲームの作成

4つ目は、『スキルマップゲーム』である。プレイヤーは菓子製造販売工場の従業員と

なり、自分のスキルをバランスよく上げていく。スキルマップというものを知ってもら

い、スキルの上げ方を意識してもらうといったメッセージが込められている。

スキルマップとは、業務で必要なスキルを洗い出し、従業員一人一人がもっているス

キルを一覧にした表のことである。これにより自分の能力を理解し、バランスよくスキ

ルアップすることができる。

ゲーム改良のプロセスで、プレイヤーは他者のスキルマップを見えるようにしたとこ

ろ、プレイヤーはバランスよくスキルを上げるようになった。このような可視化の効用

が、現場の中でスキルマップが活用される理由なのではないだろうか。

(5) 売上の裏に隠された健康を考えるゲームの作成

5つ目は『ビタースウィート』である。このゲームのプレイヤーはお菓子屋さんの経営

者となって、運と自らの判断力を頼りに売り上げの向上を目指す。売り上げを追求しす

ぎると見落とされがちな、健康について考えてもらうというものである。健康を目的と

した環境作りを意識してもらい、強い企業を作ることで、社内の健康に関する気づきを

得るといったメッセージが込められている。

環境の整備は、健康と売り上げ追及のカギとなっている。整理整頓をして職場環境を

整えることで、身体的な怪我や転倒を防ぐことができる。また、多様な従業員に対する

環境を整えることで、労働の偏りや精神的健康を整えることができる。

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2017年1月11日(水)に弘前中央公民館、2階第3会議室にて、作成したゲームを一般の方

にプレイしてもらった。実際にプレイしたゲームは「疲 low 過 low ご苦 low ゲーム」「スキ

ルマップゲーム」「H-management」の三つのゲームで、9名の一般参加者が分かれてプレイ

した。

ここでは、「疲 low 過 low ご苦 low ゲーム」の様子について注目する。「疲 low 過 low ご

苦 low」ゲームには一般の男性3名に参加してもらい、参加者として班員2名とゲーム進行

役をたててプレイした。

参加者は学生と共に楽しんでプレイしており、プレイ中に活発な意見交換も行われた。

「疲 low 過 low ご苦 low ゲーム」は、プレイ中に自社での振り返りと、他社や他のプレイ

ヤーの様々な立場の意見を聞くことが重要なゲームである。実際に一般の方と一緒にプレ

イして感じたことは、ゲームを始める際は、自己紹介や挨拶をし、意見交換をしやすい雰

囲気づくりが重要であるということだ。また、ゲームを進行したり、カードの内容をかみ

砕いて説明したりする進行役が必要であるということも分かった。今回は進行役もおり、

プレイヤー側に班員もいたため、スムーズで活発な話し合いを進めることができた。プレ

イ中には、自身のエピソードを話してもらう際、「あなたのところではどうですか?」「私

のところでは〇〇について悩んでいるが、こういう時はどうしていますか?」などの声の

掛け合いがプレイヤー同士で見られた。他のプレイヤーのエピソードを聞いて自社と比較

し、改善点を見つけようとしていた。これは、私たちがゲーム作りで期待した効果である。

この結果から、このゲームをプレイすることで、取り組みと企業のシステムを適合させる

プロセスの重要性や改善の糸口を見つけることが期待できると言える。

プレイ後の反省点としては、プレイヤーが必ずしも企業に勤めているとは限らないため、

自営業の方や農家の方にプレイしてもらう際には、臨機応変に対応することが望ましいと

いうことだ。カードの内容から大きくずれない範囲で読み替えたり、振り返りの内容を修

正したりする必要がある。例えば、工場の調査をもとに作った「ISO」のカードを引いたと

きに、ISO を取り入れていない企業に勤めるプレイヤーからの意見の引き出し方に困った。

また、全体に問いかけているのか個人で答えるものなのかはっきりしないカードがあり、

それらについて修正を加える必要がある。

ゲーム終了後、3つのゲームをプレイしていただいた参加者から感想を述べてもらった。

参加者からは、「自分自身の働き方について再確認をした」、「ゲームに盛り込んだフィール

ドでの知見について関心を持った」などの感想を得ることができた。そして、参加者それ

ぞれでゲームの楽しみ方や感じ方の傾向が違い、作成側も新たな発見をすることができた。

様々な職種の方とプレイすることで、自分たちの調査では知り得なかった仕事上の問題点

や工夫を聞くことができた。参加者からは「ゲームのここをこうした方が良い」など改善

すべき点を指摘してもらうこともあった。今後は指摘された点を改良することで、楽しみ

ながらもより良い働き方作りに役立つゲームにしていきたい。

「健康」というと、私たちは身体的・精神的健康に注目しがちである。しかし、社会的

健康が身体的・精神的健康を支えているという側面がある。社会的健康の向上は、企業の

6 提案の実施

7 まとめと考察

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効率や生産性を高めることにもつながる。

私たちは様々な企業に赴いてフィールド調査をし、企業の仕組みや取り組み、働いてい

る様子を観察してきた。そして、それぞれの企業によって導入している取り組みが同じで

も、企業の環境や業務内容、経営方針が違うと、その取り組みが会社にもたらす効果は違

うことが分かった。個別の取り組みが重要なのではなく、「取り組みと企業のシステムを適

合させるプロセス」が重要である。

私たちは、ゲームというツールが、「各企業の振り返りを促し、環境改善の契機となる」

と考えた。そして、実際に作成したゲームを一般の方にプレイしてもらう機会を設け、手

応えのある結果を得られた。実際の企業の要素を取り入れたゲームを使って、自社にある

ものやないもの、よりよくしていくヒントを見つけてもらい企業の環境を改善することで、

いきいき働く「青森美人」を創出することが期待できる。今後はもっとたくさんの働く人

たちにプレイしてもらい、いきいき働く「青森美人」の創出に役立たせていきたい。

<参考 URL>

○ 世界保健機関(WHO)憲章 公益社団法人 日本 WHO 協会

http://www.japan-who.or.jp/commodity/kensyo.html

○ ISO とは? ISO の基本を知る - ISO 認証取得支援コンサルティング AIMS

http://www.aims.co.jp/kiso/rule.htm

○ 青森県の地図【白地図専門店】

http://www.freemap.jp/item/aomori/aomori.html

○ 平成 27 年 青森県人口動態統計(概数)の概況

www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/kkenkofu/.../27gaisu.pdf

<参考文献>

○ 中路重之、2011、『平均寿命をどう読み込む?-より平易に、よりわかりやすく、より

科学的に健康に語りたい』、弘前大学出版会

○ 新井潔、兼田敏之、1994、『ゲーミング・シュミレーション作法』、共立出版株式会社

加藤あかり

私たちは人口減少が進む青森県において、壮年期の死亡率が高いことに注目し、青森県

の働く世代の健康寿命を延ばそうと取り組んできました。健康でいきいきと働く人を「青

森美人」と定義し、現場で働く人々や、将来働く私たちが「心身」そして「社会的」に健

康になることが重要であると考えました。まず、WHO の定義する 3 つの健康がどのような

企業において現れるかを想定し、調査に赴きました。製造業の企業では従業員の腰への負

担を軽くするために、作業台を高めに設計していました。小売業の企業では、子どもの運

動会シーズンに休暇を与えられるよう、パート職員の年齢層を固定させないように工夫し

ていました。

○ 調査研究に参加しての感想

8 参考資料等

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調査で得た内容をもとに、多くの人にいきいきとした働き方について考えてもらうため

にゲームを作成しました。ゲームにすることで現状を実体験しやすく、さらに振り返るこ

とで新たな気づきを得ることができます。

本プロジェクトに参加することで、青森県が抱える問題について考えを深めることがで

きました。人口減少でも、高齢者だけに注目するのではなく、壮年期に注目することで、

今までとは異なった切り口で健康を考えることができました。さらに今回は、調査はもち

ろんのこと、ゲームを作成し、アクションを起こすことに重点を置き活動を進めてきまし

た。新しい取り組みで苦労することも多々ありましたが、試行錯誤を重ね、多くの人にプ

レイしてもらうことで、働くことについて考えを深めてもらえるようなゲームが作成でき

ました。課題に取り組む姿勢と、問題を解決する能力、新しいことに挑戦することは社会

の一員として今後仕事をしていくうえで役に立つと思います。

調査に協力してくださった県民の皆様、このような機会を与えてくださった県庁の方々、

ご指導してくださった先生方に深く感謝いたします。

野呂拓未

私たちは青森県の人口減少という問題に対して、働き盛りである壮年期の人々の健康を

促進することで改善していこうと 1 年間取り組んできました。その中で「健康」という言

葉一つに対しても、肉体的、精神的、社会的という捉え方があり、それぞれに重要な点が

あることを学びました。また実際にその 3 つの健康がどのように働いている人に影響を与

えているのか知るために製造業、小売業の企業を中心に現地に赴き調査を行いました。そ

れぞれの企業で特有の健康に対する取り組みを見ることができたときには、自分の地元に

ある企業にもすごい力があるのだと驚き、誇りに思いました。

私たちはそれらの知見を得ただけで終わるのではなく、多くの人に知ってもらえるよう

にアクションを起こすというところに力を入れてきました。ゲームで伝えるという新しい

取り組みの中で苦労することもありましたが、ゲーム作成時だからこそ新たな気づきを得

ることができ、学んだ点も多々ありました。青森県の問題について、ただ知っているだけ

でなく、実際に改善のために取り組んだということを今後いろいろな場面で役に立たせた

いと思います。

立崎総一郎

私たちは青森県の人口減少の問題に対して、働いている人々の健康に着目して 1 年間取

り組んできました。「健康」について考えている中で、健康には、肉体的、精神的、社会的

の 3 つの側面があり、この 3 つの健康が満たされてこそ本当に健康であると言えるのだと

いうことを学びました。そして、この 3 つの健康が、青森県の企業ではどのような状況に

なっているのかを知るために、製造業や小売業の企業を中心に現地調査を行いました。調

査を行ったことで、企業では健康に対して様々な取り組みをしているということを見るこ

とができ、さらに、自分たちで考えているだけでは絶対に知ることがなかった、スキルマ

ップや ISO などといった取り組みを知ることができ、現地調査を行うことの重要性を改め

て実感しました。

私たちは、今年度は調査で得られたことをまとめて考察するだけではなく、ゲームとい

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う形にして多くの人に発信するというアクションを起こすことに力を入れてきました。ゲ

ームを作っていく中で新たな気付きを得ることもでき、また、一般の人にゲームをプレイ

してもらいフィードバックを得たことで、実際に仕事をしている人の目線で指摘をもらう

こともできました。アクションを起こしたことで、自分では思いつかなかった考え方に触

れることができ、自分の考え方の幅が広がったと思います。本プロジェクトに参加したこ

とで得られた知識や経験をこれからも様々な場面で活かしていきたいと思います。

工藤麻美

中小企業に調査を行い県内の様々な企業を訪れ、インタビュー等を行ったが、それぞれ

の企業に特有の働き方や規則があることを見出すことができた。

私たちはゲームを通して中小企業の従業員の方それぞれの健康についてふり返りができ

るようなゲームを作成したが、「働く」ということは生活して行く中で重要な要素であり、

働く際の健康について考える機会を設けることは、非常に大切なことだと思った。このよ

うな取り組みを通して、青森県民の健康増進に寄与できていたらと思う。このプロジェク

トでの経験を将来の仕事にも活かしていきたい。

齋藤洋太

ヒアリングを通じ、各企業が自社と社員を守るために行っている取り組みを知ることが

出来た。私たちは、県内の働く人皆が「青森美人」になれるようなゲームを目指して活動

してきたが、それは従業員だけでなく雇用者も含めてである。私たちが作成したゲームに

は、ヒアリングで得た雇用者の考え方と従業員の考え方が混在している。それぞれの立場

の人がプレイして、互いの立場の意見を尊重した職場が県内に増えて欲しい。