農村の格差是正のための生活インフラの整 · 2020-07-17 ·...

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JAバンク情報 JAバンク 2020.5・6

 農林中金総合研究所は、今年6月に設立30周年を迎えました。これもひとえに皆様のご支援とお力添えのおかげと深く感謝しております。 今般、この節目にあたり農林金融3月号を設立30周年記念号として刊行いたしました。本号には「持続可能な農林水産業と地域社会」をテーマとする3つの論文と「農林中金総合�研究所の30年のあゆみ」を所収しました。農林水産業や地域社会ひいては協同組合の持続可能性への示唆となれば幸いです。

 ここで、そのうちの一つである「総合農協が地域の持続性に果たす役割について〜地域の課題を解決する取組みの歴史から〜」(内田当社取締役調査第一部長)を紹介させていただきたいと思います。 現在の農協は、農業振興にとどまらず、農協およびその関連組織の事業と活動等を通じて、地域の社会・経済の持続性に関わるさまざまな課題に取り組んでいます。その源流は前身ともいえる産業組合時代にさかのぼります。戦前の産業組合は、農業に関連する事業に加え、生活物資の供給、医療活動や国民健康保険の代行、共同炊事所や季節託児所の設置等、地域住民の生活のためのさまざまな事業や活動を行っていました。 第二次大戦後設立された農協も同様の性格を持ち、終戦直後の食糧危機や高度成長期における農産物需要多様化への対応など農業面の課題を解決する一方で、農村社会の生活面の課題に対してもさまざまな取組みを行いました。例えば、高度成長期に拡大した都市と

農村の格差是正のための生活インフラの整備、女性組織を中心とする農産物の安全・安心のための取組み、さらに、その後の急速な農村の過疎化・高齢化に対しての高齢者福祉活動や介護保険事業の実施など、時代時代で直面する地域や社会の課題に対し、農協の機能と組織力を生かし解決のため取り組んできた歴史があります。そして今日、農協は「食と農を基軸として地域に根差した協同組合としての総合力の発揮」という全国大会決議の下で「農業生産の拡大」、「農業者の所得増大」、「地域の活性化」などの取組事項を掲げ、創造的自己改革に取り組んでいます。 人口の減少や地域経済の低迷という構造的な問題に、超低金利の長期化や技術革新による決済分野をはじめとした他業態からの攻勢、さらに新型コロナ感染の広がりも加わり、基盤である農業や地域経済はさらに厳しさを増しています。このような環境下、各県域・各農協において、協同組合の精神を柱としつつ地域の実情に応じ、資源の再配分を含めた総合的な事業展開をされているのではないかと思います。

 この論文で農協の多様な事業の歴史とSDGsへの貢献事例などを俯瞰することにより、多様な事業の今日的な可能性を今一度確認する機会となれば幸いです。当総研は今後も農林水産業、地域社会そして協同組合に貢献するための調査・研究を重ねていきたいと思っております。皆様のご支援とご指導・ご鞭撻を心よりお願い申し上げます。�(株式会社農林中金総合研究所 代表取締役社長)

巻頭言

持続可能な農業と地域社会に向けて齋さい

藤とう

 真しん

一いち

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鈴与グループ代表

鈴すず

木き

 与よ

平へい

さん

「共生(ともいき)」で築く多極共生型社会地方航空が経済、文化の懸け橋に

地方を結び、固有の文化に光を 「地方を結び、人々を結ぶ」。このコンセプトで鈴与グループに地域間航空会社、フジドリームエアラインズ(FDA)を立ち上げて10年が経ちました。おかげさまで事業は軌道に乗り、多くのお客様の笑顔が社員一同心よりうれしく、感謝しております。 これからは地方が主役の時代。そう言われて久しいものの、いわゆる東京の一極集中は進むばかりです。結果的に東京の人口が膨れ上がっているのは、政策のベースにある東京中心の視点をぬぐい去ることができないからでしょう。 東京発着で地方へ縦糸が伸びるように出来上がってしまっている航空路線が象徴的です。吸い上げられるようにいろいろなものが集中し、東京に住むのが一番便利になってしまいました。 ただ、近年は情報化社会の急速な発展もあり経済的な格差は小さくなってきたように思います。若い人が地方に住みたくなるような環境づくりを考え直す時です。しかし、流出はなかなか止まりません。なぜでしょうか。私は地方における若い人の飢餓感は文化面にあると思っています。 東京は富の蓄積だけでなく、文化の集積がものすごく大きい。地方創生時代の今、注目すべきは文化の格差です。地方にはそれぞれに素晴らしい固有の文化が存在し、これを見直していくことが課題ではないでしょうか。 FDAは国内の地方都市間をダイレクトに結ぶリージョナル航空です。従来のエアラインの東京を中心とした縦糸に対し、地方と地方の懸け橋となる横糸なのです。 機体はカラフルで1機ごとに色が異なるのが特徴ですがこれには理由があります。全国の各地方が固有の文化を維持しながら輝いてこそ、その集合体としての日本全体に活力が生まれるとの思いが込められているのです。 「今日は何色だろう」――。親しみを持って搭乗機を待つ親子連れの姿を見ると、「地方と地方を結ぶ交流の懸け橋となり、それぞれの文化や経済の発展に貢献する」というFDAの経営理念が実現に向かっていることを実感します。 そうして活力ある国づくりに挑むFDAには、親会社である鈴与の経営理念「共生(ともいき)」が息づいているのです。

地域に尽くし、変化に対応した200年 鈴与は今から220年ほど前の1801年、現在の静岡市清水区で「廻船問屋・播磨屋与平」として創業しました。幕末までに地歩を固め、明治から大正、昭和を経て、清水港が近代化し段階的に機能を拡充するのとともに総合物流を確立し現代に至ります。さらに港町清水の豊かなくらしのために派生する分野で次々と事業を拡張してまいりました。 現在の個性あふれる企業グループに成長する上では広い視野を持ち、時代の変化に柔軟に対応するということも大事にしてきました。 戦後を駆け抜けた七代与平は混乱期にもかかわらず、公立病院や公立小学校の特殊学級、福祉施設を開設しました。さらに資料館(現・フェルケール博物館)を設置するなど福祉・教育・文化の振興に大きな役割を果たしました。 こうして現在、鈴与グループは国内外に約140社となり約1.5万人の従業員が働いています。物流からエネルギー・建設・ビルメンテナンス・警備・食品・情報・航空・地域開発等その他のサービス分野に至るまで事業領域は幅広く、今も時代の変化に対応し、自己改革を続けているところです。

●         ●トップインタビュー

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個が自立してこその共生(ともいき)社会 先ほども述べた「共生」を私たちは、「ともいき」と呼びます。「共生(ともいき)」は、私たちの経営のよりどころであるとともに、私たちとお客様や地域社会を結びつける精神的基盤でもあります。 その歴史は仏教学者の椎尾弁匡師が起こした「共生(ともいき)運動」にさかのぼります。基本的な考え方は「1つの個を大事にし、個が本当に自立をして生きていく中から、他との共生が生まれてくる。」というものです。 グループでは「共生(ともいき)」を現代的に解釈し、「社会」「お客様・お取引先様」「社員同士・グループ各社」と3つの「共生(ともいき)」を実践しています。 会社は十分な収益を確保して社会貢献を目指し、社員個々人もグループ内外において自立して社会活動を営む。その先に私たちと地域社会、お客様・お取引先様、そして社員相互間において真に助け合って生きるという理想の姿を描いています。 FDAにおいては地方を結び固有の文化を輝かせていくことで、地方の自立を促し、ひいては真の地方創生として多極共生型社会の実現に向かうものと考えているのです。 知事をはじめ自治体の皆さんは地域間航空を活性化の切り札としており、そうした皆さんと同じ目線で一緒に考え、飛ぶという気持ちを大切にしています。 他社が撤退したある地方路線を地方活性化の志のもと、当社で引き受け、就航後に訪れた際、移動で乗ったタクシーの運転手さんに、「飛行機を飛ばしてもらって本当に喜んでいます。」と感謝され、うれしかったことが忘れられません。

自己革新の源は変わる勇気 企業の成長は自己革新に尽きると思います。鈴与の200年も時代ごとに社会にどう貢献をするかを自らに問い続けてきた歴史です。時代に合った形に自分の体を変え、生きてきた先人たちの知恵を誇りに思います。 開港120年を迎えた清水港は、時代の変遷を乗り越えていろいろな貨物を取り扱ってきました。明治・大正期は、お茶とみかんを、昭和初期は地元清水で缶詰産業が盛んになりツナ缶やみかん缶を、戦後は、オートバイや楽器を、最近では、ハーネスやトランスミッションなどのオートパーツが盛んに輸出され、時代とともに形を変えて確固たる地位を築いています。 鈴与など海貨4社は今年、清水港に新たな輸出入拠点となる物流センターを共同で整備しま

した。外国のお客様からすると東京にも名古屋にもアクセスが良いため、ここに基地を置いて日本各地へ荷物を送り出す新しいミッションが見込めるのです。 自己革新において一番大事なのは変わる勇気を持つことです。 会社組織では変化に対する抵抗があるものですし、変わる気持ちを浸透させるのもとても難しい。それでもめまぐるしく移り変わるこの時代に企業を持続可能なものとしていくためには、トップの勇気がますます求められるだろうと思います。

食は町おこしの重要なファクター FDAは独立系のエアラインですので立ち上げはゼロからとなり多くの困難が伴いました。鈴与に入社する前、私は日本郵船に勤めておりロンドンに2年、パリに1年駐在していました。その際に強く感じたのは特にコミュニケーションにおいてグローバルスタンダードを知っておくということです。 気持ちをくみ取ることを美徳とする日本とは対照的に、世界へ一歩踏み出せば言葉にして主張しなければ分かり合うことはできません。 若いころのそうした経験は海外から機材を調達するなどFDAにおいて事業展開する上でも、これまでとは次元の異なる人材育成を進める上でも欠かせないものでした。おかげさまで今春には16機体制、23路線にまで拡大しています。 地方空港は近年、ビジネス客や子連れのお客様ら利用者が増え、インバウンド(訪日外国人)にとって日本の玄関口となるなど存在感を高めています。 飛行機でダイレクトに地方をつなぎ、到着先での観光とセットになればさらに地域間航空の魅力は増しますし、迎える側にとっても地域資源の活用が進むでしょう。 地方の食、農産物は文化の中核的な要素であり、町おこしの重要なファクターですね。全国のJAの皆さんの交流にもFDAをお使いいただいております。富士山静岡空港からは台湾やシンガポールに向けてメロンやイチゴなどの輸出も始まっています。 私どもはこれからもグループの力を結集し、皆さまのくらしと社会をより豊かで明るいものとすべく自己革新を続けていきます。 そして、全国の地域の交流をお手伝いするその先に、地域に根差すことを誇りに思う新しい価値観を持った若者たちが育ってくると信じています。

※この記事は、2020年2月20日に行われた インタビューの内容をまとめたものです。

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JAバンク中期戦略中期戦略JAバンク

て検討する場合は、貸出対象案件が、地域活性化に資する取組みであるかの視点も必要です。 本稿では、中山間地域の農業・農村振興にかかる取組みとして、第28回JA全国大会決議(2019年₃月)にも明記されている農泊についてご紹介します。

1 はじめに  

 JAバンク中期戦略(2019~2021年度)においては、「貸出の強化」に取り組むこととしており、その中で事業性資金については、リスク許容度に応じた貸出領域の拡大について、県域ごとに対応を検討することとしています。 JAバンクとして、貸出領域の拡大につい

2 農泊実践地域の創出  

⑴ 農泊とは

 農林水産省によれば、農泊とは、「農山漁村地域ならではの伝統的な生活体験と地域の人々との交流を楽しみつつ、農家や古民家等での宿泊によって、旅行者にその土地の魅力を味わってもらう農山漁村滞在型旅行」とされています。期待される成果としては、農家所得・地域所得の向上や遊休資源(空き家等)の利活用、観光客やインバウンドの増加等が考えられます。 農泊は、農林水産省の登録商標(商願2018-086421)であり、本商標の使用を希望する場合は、「農泊商標使用許諾申請書」を提出し、同省の許諾を受ける必要があります。 JAバンクとしては、農林中央金庫が一括で使用許諾申請書を提出し、すでに農林水産省の許諾を受けておりますので、JA・信連による個別対応は不要です。ただし、商標使用にあたっては、農林水産省のホームページに公開されている「農泊商標使用規約」を遵

守する必要があります。

⑵ 政策的位置づけ

 政府は、『観光先進国』への新たな国づくりに向けて、2016年₃月に「明⽇の⽇本を⽀える観光ビジョン」を策定しました。その中で農泊については、「⽇本ならではの伝統的な生活体験と⾮農家を含む農村地域の人々との交流を楽しむ「農泊」を推進する。」と位置づけられています。 また、2018年₆月に改訂された「農林水産業・地域の活力創造プラン」においても、人口減少社会における農山漁村の活性化に向けて、「持続的なビジネスとしての「農泊」によるインバウンド需要の取り込み」が追加されています。 さらに、2020年₃月に閣議決定された新たな「食料・農業・農村基本計画」でも、農村の振興に関する施策として、「農村の所得向上と地域の活性化を図るため、農泊を持続

地域活性化に向けた「農泊」の推進について農林中央金庫 JAバンクリテール実践部

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JAバンク中期戦略

的なビジネスとして実施できる体制を持つ地域を創出し、都市と農村の交流や増大するインバウンド需要の呼び込みを促進する」ことが明記されました。

⑶ 農山漁村振興交付金

 農林水産省は、「農泊」を持続的なビジネスとして実施できる地域を創出し、都市と農山漁村との交流や増大するインバウンド需要の呼び込みを促進することで農山漁村の所得向上と地域の活性化を図ることを目的とし

て、2017年度から農山漁村振興交付金(農泊推進対策)を新設し、意欲の高い農泊実践地域を⽀援しています。 これまでの実績として、2017~2019年に計515地域が採択(図表₁)されており、今後の政策目標として、①都市と農山漁村の交流人口の増加(1,450万人[2020年度まで])、②「農泊」をビジネスとして実施できる体制を持った地域の創出(500地域[令和₂年まで])が掲げられています。(図表₂)

図表₁ 【2017~2019年「農泊推進対策」の実施状況】

出所:食料・農業・農村政策審議会企画部会(令和元年10月30日)参考資料 2-3

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JAバンク中期戦略

3 JAグループの対応状況  

⑴ JAバンクの取組み

 JAバンクでは、農泊を地域活性化に資する取組みのひとつと位置づけ、全国農業協同組合連合会(以下、「JA全農」といいます。)とも連携しながら、組合員による農泊の運営⽀援に取り組めるよう、検討を進めております。 その具体策として、2020年₄月から一部の県域で農泊専用のローンも提供し、資金需要に対応していくこととしています。農泊は新しい取組みであり、JAの貸出実績も多くないことから、実際の資金ニーズや県域意見を踏まえつつ、また、⽇本政策金融公庫の

「ソーシャルビジネス⽀援資金」も念頭に置きながら、今後もローンの商品性改善に取り組んでいく必要があると考えております。 また、農林中央金庫は、2020年₃月に締結した、「農泊事業実践協定」(農林中央金庫、JA全農、(株)農協観光、一般社団法人⽇本ファームステイ協会)に基づき、今後は、企業連携による送客スキーム等についても検討してまいります。

⑵ JA全農の取組み

 JA全農は、2019年度からの₃か年計画で農泊に重点的に取り組むこととしており、

図表₂ 【「農泊」の推進(農山漁村振興交付金(農泊推進対策))】

出典:農林水産省ホームページ

〈令和2年度予算概算要求額 5,031(5,258)百万円〉

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(株)農協観光や民泊に関するサービスを提供する百戦錬磨(仙台市)とともに、2020年度から、農泊事業に取り組みたい組合員やJAに対して、開業から集客まで一貫した⽀援サービスを提供しています。 JA全農は、自ら開設した「農泊.net」に、宿泊施設や体験プログラム等の情報を掲載するとともに、空き家のリフォームや家具等の備品を供給する業者も紹介し、農泊事業の立上げ⽀援に取り組むこととしています。 一方、百戦錬磨は、JA全農と農泊分野で包括業務提携契約を締結しており、事業計画の策定⽀援や収⽀試算などを担当します。また、同社は、インターネットを活用した集客⽀援や、掲載写真の撮影、インバウンドの集客対応等にも取り組む予定です。

⑶ (株)農協観光の取組み

 (株)農協観光は、農泊推進においては、(一社)全国農協観光協会をはじめ、全国の JAグループと連携しながら、遊休資源の宿泊施設としての活用や農業体験プログラムの拡充、観光施設とのマッチング等、農山漁村への交流人口拡大に地域と一体となって取り組むこととしています。 同社は、東京都内の中学生を対象に、宮城県を訪問する教育旅行を企画し、東⽇本大震災の体験を踏まえた震災学習、田植え体験や漁業体験などを通じた農村体験学習を実施しています。 また、熊本県や石川県で農家民宿に宿泊する滞在型のインバウンドツアーも実施しており、⽇本の自然や食文化に触れる体験型旅行ニーズへの対応にも取り組んでいます。

4 おわりに  

 新型コロナウイルス感染症の拡大が収束した後は、反転攻勢のフェーズとして、官民を挙げた大規模な⽀援策が講じられる見通しです。 2020年 4 月に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」の中でも、国内における消費需要の喚起や、インバウンド復活への取組み等を通じて、地域経済の再活性化の機運を盛り上げる方向感が示されています。 こうした需要を取り込んでいくためにも、JAグループとして、当該地域でなければ体

験できない農村地域ならではの付加価値を提供していく必要があります。 農業・地域に根差した金融機関であるJAバンクにとって、農泊事業への対応は、JA組合員の所得向上や農村地域の遊休資源の有効活用、ひいては地域活性化に資する有効な手段のひとつであるといえます。 JAバンクでは、農泊事業に取り組みたい組合員のニーズに適切に対応できるよう、 JA全農等とも緊密に連携しながら、取り組んでまいります。

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JAカードのひろば

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㈱農林中金総合研究所

農中総研コーナー

家計の住宅ローン借入れの動向

 農中総研が取りまとめている「農協残高試算表」によると、JAの貸出金残高のうち、₆割程度を住宅ローンが占めています。本稿では、総務省の「家計調査」をもとに、家計の住宅ローン借入れの動向をみてみます。

1 住宅ローンの借入れ世帯割合が上昇

 まず、住宅ローンを支払っている世帯の割合の推移をみると、世帯主年齢が30代・40代の世帯で割合が上昇傾向にあることが確認できます(第₁図)。住宅ローンを支払う世帯の割合は、2014年は30代が41.8%、40代が49.5%でしたが、19年はそれぞれ50.6%、55.1%となっています。対して、家賃・地代を支払う世帯の割合は低下傾向にあります。特に30代の世帯でそのような傾向が顕著にみられ、14年ごろは家賃・地代支払い世帯の割合と住宅ローン支払い世帯の割合は同程

度でしたが、その後、徐々に差が拡大しています。賃貸住宅に住むよりも、住宅ローンを借りて住宅を購入することを選ぶ人が増えていると考えられます。 このように住宅ローンの借入れが活発化している要因としては、住宅ローン金利が非常に低くなっていることが大きいと考えられます。日銀の量的・質的金融緩和が始まった13年以降、金融機関の貸出金利は大きく低下しています。特に住宅ローンでは金融機関同士の金利競争が激しく、金利低下に拍車がかかっています。そのため、家賃を払いながら賃貸住宅に住むことと比べて、住宅ローンを返済しながら持家に住むことの割安感が高まっているものと思われます。

2 30代の世帯の住宅負債が大きく増加

 住宅ローンの利用が活発化した結果、家計の住宅負債は大きく膨らんでいます。30代の世帯の₁世帯当たりの「住宅・土地のため

第₁図 �住宅ローンを支払っている世帯と家賃・    地代を支払っている世帯の割合�    (世帯主の年齢別)

資料 �総務省「家計調査(家計収支編)」 2 人以上の   世帯のうち勤労者世帯。

第₂図 �₁世帯当たりの住宅・土地のための負債    (世帯主の年齢別)

資料 �総務省「家計調査(貯蓄・負債編)」 2 人以上の世帯のうち勤労者世帯。

注 負債のない世帯も含めた平均値。

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家計の住宅ローン借入れの動向

の負債」は、14年は958万円でしたが18年は1,363万円に増加しており、およそ1.4倍となっています(第₂図)。このことから、返済能力に見合わない借入れが発生している可能性も懸念されます。

3 �負債を減らすよりも資産を積み上げる傾向

 ただし、負債を抱えていても月々の収支には余裕がある世帯も一定数いるとみられます。住宅ローン支払い世帯の家計をみると、可処分所得に占める金融資産純増額の割合が高まっていることが読み取れます(第₃図)。一方で住宅負債の純減額の割合はやや低下傾向にあり、負債を減らすよりも金融資産を積み増す傾向が強まっています。その要因としては、住宅ローン減税制度の影響が考えられます。住宅ローン減税制度は、住宅ローン残高の₁%相当(最大40万円)が所得税や住民税から控除されるものです。近年、₁

%未満の貸出金利が少なくないなかで、積極的に繰上げ返済をする人が少なくなっていると考えられます。

4 住宅需要が先食いされている可能性

 最後に、家計の今後の意向に目を転じると、住宅の購入を計画している世帯の割合が低下していることが注目されます(第₄図)。先にみたように、足元では低金利などの影響で住宅ローンの借入れが活発化していますが、それは将来の需要を先食いする形で生じているものとみられます。そのため、低金利によって住宅ローンを借りやすい環境が継続したとしても、徐々に需要の一巡によって住宅ローンの新規利用者が伸び悩むことが懸念されます。一方で、若いうちに住宅を購入すると、途中でリフォームが必要な場面が増えると考えられ、リフォームの資金需要が高まる可能性があります。

(調査第一部 宮田夏希)

第₃図 住宅ローン支払い世帯の家計

資料 �総務省「家計調査(家計収支編)」 2 人以上の   世帯のうち勤労者世帯。

第₄図 �住宅・土地の購入・建築計画のある世帯の割合

資料 �総務省「家計調査(貯蓄・負債編)」 2 人以上の世帯のうち勤労者世帯。