次世代航空機エンジン用構造部材創製・加工技術開...

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次世代航空機エンジン用構造部材創製・加工技術開発 評価用資料 平成24年11月29日 第1回航空機関連分野技術に関する 施策・事業評価検討会 資料6-8-1

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次世代航空機エンジン用構造部材創製・加工技術開発

評価用資料

平成24年11月29日

第1回航空機関連分野技術に関する

施策・事業評価検討会

資料6-8-1

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目 次

1.事業の目的・政策的位置付け…………………………………………………3

1-1 事業の目的………………………………………………………………3

1-2 政策的位置付け…………………………………………………………4

1-3 国の関与の必要性………………………………………………………5

2.研究開発目標……………………………………………………………………5

2-1 研究開発目標……………………………………………………………5

2-1-1 全体の目標設定…………………………………………………6

2-1-2 個別要素技術の目標設定……………………………………10

3.成果、目標の達成度…………………………………………………………10

3-1 成果……………………………………………………………………10

3-1-1 全体成果

3-1-2 個別要素技術成果

3-1-3 特許出願状況等

3-2 目標の達成度…………………………………………………………27

4.事業化、波及効果……………………………………………………………27

4-1 事業化の見通し………………………………………………………27

4-2 波及効果………………………………………………………………28

5.研究開発マネジメント・体制・資金・費用対効果等……………………29

5-1 研究開発計画…………………………………………………………29

5-2 研究開発実施者の実施体制・運営…………………………………29

5-3 資金配分………………………………………………………………30

5-4 費用対効果……………………………………………………………30

5-5 変化への対応…………………………………………………………30

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1.事業の目的・政策的位置付け

1-1 事業目的

航空機産業は、先行する欧米諸国のほか、後発のアジア諸国等発展途上国を含め

た国際的な産業競争の激化が進む中、その発展を通じて我が国産業構造の高度化に

大きく貢献することが期待されている。また、航空機関連技術は、高度な先進技術

を要することから、その技術波及効果によって、輸送機器を始め、情報・通信、材

料等の分野に高付加価値を生み出す上で重要な役割を果たしている。

特に、材料・構造関連分野においては、航空機等の輸送機器の構造部分に先進材

料を早期に導入することで軽量化等によるエネルギー使用合理化が期待されてい

る。本事業は次世代航空機エンジン用構造部材創製・加工技術開発を行うことで航

空機分野の省エネルギーに資することを目指している。

エンジンの燃費向上は、基本的には熱機関としてのサイクル効率を高めるアプロ

ーチと、航空機の推進システム全体での推進効率を高めるアプローチの両輪で進歩

が図られてきている。前者においては、エンジンの高圧力化やタービンの高温化を

追求して、様々な技術開発が行われている。一方、後者においては、亜音速の民間

航空機用エンジンの場合、そのバイパス比を大きくするための技術開発が行われて

おり、その主なものは大径のファンシステムへのチャレンジである。

大径のファンシステムにおける大きな技術的課題は、その軽量化にある。本研究

開発は、燃料消費を低減し地球温暖化ガスの排出量の削減に資するため、最新の複

合材料技術を適用してファンケースおよびファンブレードの軽量化を図ることを

目的とする。(図1-1参照)

図1-1 複合材料適用を目指す部位

ファンブレード

ファンケース

ノーズコーン

:現V2500で既に複合材料を適用している部位

:複合材料適用を目指す部位

フェアリング

プラットフォーム

(ファンケース内側に装着)

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1-2 政策的位置付け

経済産業省の「航空機分野の技術戦略マップ」(平成22年6月公表)を図1-

2から図1-4に示す。

本構造部材創製・加工技術開発は、重点的に支援すべきエンジン要素技術として

定められている。(注記参照)

注:航空機分野の導入シナリオ、技術マップ(抜粋)

Ⅰ.導入シナリオ

(1)航空機分野の目標と将来実現する社会像

②国際共同開発における役割の拡大

・エンジンの国際共同開発においては、新方式のエンジンの動向も視野に入れつつ、

必要な要素技術を獲得し、質の面でもより高度な役割を担うこと。

Ⅱ.技術マップ

(1)技術マップ

(a)中核的要素技術

④「エンジン要素技術」:以上の様々な要請から、新方式を含めた高性能なエン

ジンを実現するために重要性の高い、環境適合技術、省化石燃料技術、複合材

技術等。

図1-2 航空機分野の導入シナリオ

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図1-3 技術マップ

図1-4 技術ロードマップ

1-3 国の関与の必要性

航空機産業は、先行する欧米諸国のほか、後発のアジア諸国等発展途上国を含め

た国際的な産業競争の激化が進む中、その発展を通じて我が国産業構造の高度化に

大きく貢献することが期待されている。また、航空機関連技術は、高度な先進技術

を要することから、その技術波及効果によって、輸送機器を始め、情報・通信、材

料等の分野に高付加価値を生み出す上で重要な役割を果たしている。

特に、材料・構造関連分野においては、航空機等の輸送機器の構造部分に先進材

料を早期に導入することで軽量化等によるエネルギー使用合理化が期待されてい

る。このように部品・素材メーカーがその技術的水準を向上させることは、日本主

導の民間機開発の実現や国際共同開発における役割の拡大をする上で不可欠であ

り、国の関与を行う意義のあるものであると考える。

2.研究開発目標

2-1 研究開発目標

現在、軽量化に有効な複合材料は、大型機用エンジンのファンケース、ファンブ

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レードなどの一部に適用が進んでいるものの、中小型機用エンジンには、適用され

る部材が小さくなるものの衝撃力には変化がないため、更なる耐衝撃性が求められ

るとともに、小さく複雑な形状に対応する自由度のある成形加工技術の開発が必要

となる。

本研究開発では、中小型機用エンジンへの適用を念頭に、ファンケースおよびファ

ンブレードについて、既存のチタン合金と遜色のない耐衝撃性、高靭性を有する複

合材料(繊維、樹脂、成形方法の組み合わせ等)の技術開発を行うとともに、実物

大のファンケースおよびファンブレードの試作評価を通して成形加工技術の開発

を行う。

2-1-1 全体の目標設定

複合材料をファンケース、ファンブレードに適用し、既存のチタン合金製に比べ

それぞれ20%の軽量化することを目標する。

<現状と課題>

ファンシステムに複合材料を適用して軽量化を図る場合、その質量の大きさか

らファンブレードとファンケースが最も効果的であり、現在大型エンジンでは米

国のGE社がその実用化を目指して開発中である。中小型機用エンジンでは、図

1-1に示したようにV2500エンジンにおいて既に複合材料を一部へ適用

してはいるものの、ファンブレードおよびファンケースは、以下に示すような技

術的課題があり未だチタン合金製となっている。

1)機能面からの制約

ファンブレードは空力性能の面からその翼厚などむやみに大きくできない。

(空力特性を損なわないことが必要)

2)エンジン耐空性からの特殊な要求

・ファンブレードの異物衝突に対する健全性

エンジンが鳥などを吸い込んだ場合でも、ファンブレードのダメージによっ

て致命的な事象を起こさないこと。(ファンブレード自体の高い耐衝撃性が

必要)

・ファンケースのコンテインメント性

ファンブレードが飛散した場合でも、その破片等がエンジンの外に飛び出て

機体へ損傷を与えてはならない。(ファンケース自体の高い耐衝撃性が必要)

<課題克服へのアプローチ>

複合材料の特性はその繊維、樹脂ならびに成形方法に大きく依存するが、それ

ぞれにおいて技術革新が進み、上述の課題克服に向けて、現在、表2-1に示す

ようないくつかの候補がある。

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表2-1 繊維、樹脂、成形方法の候補

要素 候補 特徴 備考

繊維

高強度炭素

繊維

航空分野で幅広く利用されているため、低コストで入

手性も良く、炭素繊維のなかでは破断伸びが2%以上

と耐衝撃性に優れている。

表2-2

参照

高強度有機

繊維

アラミド繊維や PBO(ポリベンズアゾール系ポリマー)

繊維で、破断伸びが 3.5%程度と炭素繊維より耐衝撃

性に優れている。但し圧縮強度が低いことや紫外線や

水などでの务化が課題。

樹脂

熱硬化樹脂 現在もっとも使用されているもので、強度と靭性のバ

ランス及び成形性に優れている。

図2-1

参照

熱可塑樹脂 熱硬化樹脂に比べ、耐衝撃性で倍以上の優位性を有す

が、成形性が課題。

成形方法

プリフォーム

による

RTM法

直交3軸織物等の三次元織物で耐衝撃性の向上が図

れ、コスト面でも有利だが、品質安定性が課題。

図2-2

図2-3

参照

プリプレグに

よるプレス法

又は、ワイン

ディング法

空隙の発生が尐なく品質安定性に優れ、航空分野では

一般的な成形方法。

表2-2 各種繊維の特性

引張強度 引張弾性率 伸度 密度

MPa GPa % g/cm3

高強度炭素繊維 5000 240 2.1 1.8高強度有機繊維(アラミド繊維) 2950 72 3.5 1.44高強度有機繊維(PBO繊維) 5800 180 3.5 1.54

出典:各繊維メーカのパンフレット等のカタログ値

図2-1 熱硬化樹脂と熱可塑樹脂の耐衝撃性(比エネルギー吸収)比較

(出典:(株)IHI)

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図2-2 複合材の成形方法 (出典: 東レホームページ)

図2-3 直交3軸織物の模式図 (出典:Shikibo社のカタログより)

本研究開発では、表2-1に示す繊維、樹脂、成形方法の候補の中から、試験

片による評価を行い最適な組み合わせを選択するとともに、試験評価用部品を試

作し、試験にて健全性の評価を行う。

①材料試験による各候補の基礎的特性値を把握する。

②材料基礎的特性値および平板高速衝撃試験結果より最適な組み合わせを絞り

込む。

③絞り込んだ組み合わせの詳細特性の把握を把握するとともに、実スケールリ

グ部品の設計、試作を行う。

④試作した実スケールリグ部品による試験及び評価を行う。

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以上、ファンケースおよびファンブレードの研究開発フローを、各々、図2-

4、図2-5に示す。

なお、複合材料を適用した場合、従来のチタン合金製と比べてある程度の強度・

剛性面での低下は避けられず、部品としては厚肉化や補強等が必要になる。

特に、ファンブレードでは、その厚肉化や補強が空力性能の低下やフラッタ領

域の拡大などの問題を引き起こす可能性があるため、空力特性、フラッタ特性の

検討を行い、性能面でも最適化が図れることも確認する。

リグ部品試験

材料試験

基本特性

リグ実証試験ケース試作

平板高速衝撃試験設計・構造

衝撃解析/構造設計

フィラメントワインディング成形

定常応力解析

FBO(ファンブレードアウト)衝撃解析

鋼柱撃抜き試験

ハーフリング衝撃試験

引張/圧縮/せん断/低速衝撃試験 等

コンテイメント試験

図2-4 ファンケースの研究開発フロー

リグ部品試験

材料試験

基本特性

リグ実証試験ブレード試作

平板高速衝撃試験

設計・空力

性能/フラッタ

熱可塑FRPプレス成形

定常応力解析

鳥撃込衝撃解析 ゼラチン撃込試験

ダブテール引張試験 回転衝撃試験

フラッタCFD解析 固有値解析

鳥撃込試験

空力リグ試験

引張/圧縮/せん断/低速衝撃試験 等

設計・構造

衝撃解析/構造設計

リグ部品試験

材料試験

基本特性

リグ実証試験ブレード試作

平板高速衝撃試験

設計・空力

性能/フラッタ

熱可塑FRPプレス成形

定常応力解析

鳥撃込衝撃解析 ゼラチン撃込試験

ダブテール引張試験 回転衝撃試験

フラッタCFD解析 固有値解析

鳥撃込試験

空力リグ試験

引張/圧縮/せん断/低速衝撃試験 等

設計・構造

衝撃解析/構造設計

図2-5 ファンブレードの研究開発フロー

本研究開発の範囲

本研究開発の範囲

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2-1-2 個別要素技術の目標設定

ファンケースおよびファンブレードの複合材料適用化技術について、各々設定し

た個別目標を表2-3に示す。

表2-3 個別目標

要素技術 目標・指標 妥当性・設定理由・根拠等

ファンケースへの複合材料適用化技術

既存のチタン合金製ファンケースに比べ重量20%減

現在ある炭素系複合材料の特性およびエンジンとして要求されるファンブレードコンテインメント等の耐衝撃性強度から判断し、重量減20%と設定した。

ファンブレードへの複合材料適用化技術

既存のチタン合金製ファンブレードに比べ重量20%減

現在ある炭素系複合材料の特性およびエンジンとして要求されるファン空力特性を損なうことなく、鳥吸い込み等の耐衝撃性強度も発現できることから判断し、重量減20%と設定した。

要素技術 目標・指標 妥当性・設定理由・根拠等

ファンケースへの複合材料適用化技術

既存のチタン合金製ファンケースに比べ重量20%減

現在ある炭素系複合材料の特性およびエンジンとして要求されるファンブレードコンテインメント等の耐衝撃性強度から判断し、重量減20%と設定した。

ファンブレードへの複合材料適用化技術

既存のチタン合金製ファンブレードに比べ重量20%減

現在ある炭素系複合材料の特性およびエンジンとして要求されるファン空力特性を損なうことなく、鳥吸い込み等の耐衝撃性強度も発現できることから判断し、重量減20%と設定した。

3.成果、目標の達成度

3-1 成果

3-1-1 全体成果

ファンケースについては、同重量チタン比で約1.5倍の吸収エネルギーを有す

る繊維・樹脂・成形方法の組み合わせを見出すことができ、これにより、ファンケー

スを試作した場合、最大15%重量を削減できることがわかった。また、実物大の

ケースを試作し、撃ち込み試験により耐衝撃特性を実証することができた。

ファンブレードについては、優れた衝撃特性を有する繊維・樹脂の組み合わせを

見出すとともに設計に必要な材料特性を取得することができた。また種々の形状要

素試験を行い、優れた耐衝撃特性を有する翼部、ダブテール部の積層構成、金属補

強方法を見出すことができた。またスケールダウンブレードを試作し、翼表面のシ

ワを改善する製造方法、金属補強部品(シース)の加工方法を見出すことができた。

これらの結果を基に、20%重量減の設計案を作成することができた。また、複合

材料適用によるフラッタ特性への影響を調べるため、同一形状のチタン合金製ファ

ンブレードと複合材料ファンブレードの両者についてフラッタCFD解析を行い、

複合材料ファンブレードの方がフラッタに対し優位であることがわかった。

3-1-2 個別要素技術成果

(1) ファンケースの複合材料適用化技術 【H19-H20年度成果】

① 材料選定/材料評価、構造設計

1) 材料基本特性の取得

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複合材料を構成する繊維、樹脂及びその成形方法について、ファンケース用

の候補となる組み合わせを検討した結果、表3-1に示す4ケースの組み合わ

せについて、各々、試験片供試体を製作し繊維方向引張/圧縮強度、繊維直角

方向引張強度、面内せん断強度等の基礎的特性値を取得した。

図3-1に実施した基礎的特性取得試験の状況を、また、表3-2に組み合

わせケース3およびケース4の取得したデータを、図3-2に両者の特性を比

較したものを示す。

図3-2より、静的な物性ではケース3のワインディング(FW)とケー

ス4の3次元織物RTM(RTM1、2)で決定的な差はなく、続いて行う高

速衝撃特性把握の結果から最終的な選定を行うことになった。

注:ケース1およびケース2についても、試験片にて基礎的特性のデータを取得してい

るが、後述の高速衝撃特性試験でケース3が仕様を充分満足する結果が得られたた

め、それ以降の試験は実施していない。

表3-1 ファンケース用複合材料の組み合わせ

ケース 繊維 樹脂 成形方法

1 炭素繊維 熱硬化樹脂

(エポキシ) プリプレグ + オートクレーブ

2 有機繊維 熱硬化樹脂

(フェノール) プリプレグ + オートクレーブ

3 炭素繊維 熱硬化樹脂

(エポキシ) プリプレグ + ワインディング

4 炭素繊維 熱硬化樹脂

(エポキシ) プリフォーム(三次元織物) + RTM

引張系統試験:0T、90T、面内せん断、疲労

試験セットアップ

破壊後試験片(代表例)

0T

90T

面内せん断

疲労

圧縮系統試験:0C、層間せん断、OHC

試験セットアップ

破壊後試験片(代表例)

OHC

0C

層間せん断

衝撃後圧縮試験(CAI)

落錘試験

破壊後試験片(代表例)

圧縮試験

層間はく離試験(DCB)

試験セットアップ

破壊後試験片(代表例)

3点曲げ試験

試験セットアップ破壊後試験片(代表例)

図3-1 基礎的特性取得試験

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積層+ステッチ構造

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.40°方向引張強度

0°方向引張弾性率

90°方向引張弾性率45°方向引張強度

45°方向引張弾性率

FW

RTM1

RTM2

ケース3

ケース4

表3-2 試験により取得したデータ(ケース3、および4)

図3-2 ケース3、4の特性比較

2) 高速衝撃特性把握

ファンケース用組み合わせ候補ケース3およびケース4について、円柱形の

金属飛翔体を撃ち込み衝撃特性を把握した。図3-3に試験状況およびその結

果を示す。図中、D1~D3がケース3で、B1、B2がケース4である。図

より、D2試験片(高強度炭素繊維+変性エポキシ+ワインディング)が同重

量チタン比で約1.5倍の吸収エネルギーを有することがわかった。同図にD

分類ワインディング

呼称 FW RTM1 RTM2

単位 試験条件 F/C想定特性

強度 (MPa) 2000.0 2705.7

弾性率 (GPa) 150.0 160.8

強度 (MPa) 780.0 1465.8

弾性率 (GPa) 125.0 124.4

強度 (MPa) 14.0 27.8

弾性率 (GPa) 8.0 7.0

強度 (MPa) 36.0 54.8

弾性率 (GPa) 4.0 3.8

強度 (MPa) 1288.4 1358.0 1369.0 1527.0

弾性率 (GPa) 83.1 88.2 90.9 97.6

強度 (MPa) - - 730.3 589.6

弾性率 (GPa) - - 63.4 60.2

強度 (MPa) - - 236.3 171.3

弾性率 (GPa) 22.5 22.9 19.3 19.0

強度 (MPa) 724.3 749.5 748.3 683.8

弾性率 (GPa) 46.7 48.7 50.4 52.9

層間せん断 強度 (MPa) 110℃/W 28.7 36.9 23.6

強度 (MPa) 376.4 467.6 412.9

弾性率 (GPa) 74.8 84.2 75.7

層間エネルギー開放率 GⅠC (kJ/m2) RTA/W 0.15 0.69 -

衝撃後圧縮 強度 (MPa) RTA 173.2 382.4 306.8

引張疲労(R=0.1) 10E5最大応力 (MPa) 70℃/W 970 870 910

RTA

3次元織物+RTM

NA

RTA

RTA

RTA

RTA

RTA

試験種類

積層構造

繊維方向引張

3次元織物

(

ステッチ

)

0°方向引張

繊維方向圧縮

繊維直角方向引張

面内せん断(±45TS)

0°方向圧縮

相対比較値

基本特性

共通

相対比較

RTA

90°方向引張 RTA

有孔圧縮 RTA

45°方向引張

3点曲げ 強度 (MPa) RTA 262.1220.3 385.3

ケース3 ケース4

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2と他の試験片の破壊後の形態を示すが、D2材は繊維のせん断撃ち抜き破壊

でなく引張破壊が主体的で、より広範な領域を破壊することにより飛翔体のエ

ネルギーを吸収しているためと考えられる。

続いて、このD2材について平板の飛翔体を撃ち込み衝撃特性を調べた。結

果を図3-4に示すが、平板においても円柱形と同様の優れた衝撃特性を示す

ことがわかった。

以上より、ファンケースに適用する材料は以下のとおりとした。

・繊維 : 炭素繊維

・樹脂 : 熱硬化樹脂(エポキシ)D2

・成形方法 : プリプレグ+ワインディング

ワインディング3D/RTM (熱可塑樹脂)

鋼柱弾丸13g, 220m/s

クランプ

試験片150*150

高速弾丸衝撃試験

吸収エネルギー =

衝撃エネルギー – 残留エネルギー(Ein) (Eout)

吸収エネルギー

選定材料D2:高強度CF/変性エポキシ同重量Ti比 1.5倍

同重量チタン吸収エネルギー

B1 B2 C1 C2 D1 D2 D3

Ein Eout

せん断打抜 大 はく離+引張 小

せん断モード材料:低吸収エネルギー 引張モード材料:高吸収エネルギー

せん断打抜 小 はく離+引張 大

図3-3 円柱高速撃ち込み試験

Impact velocity vs Residual velocity

0

50

100

150

200

250

300

0 50 100 150 200 250 300

Impact velocity [m/sec]

Re

sid

ua

l ve

locity [

m/s

ec]

Vi=VrTi 1.5mm plateTi 1.7mm palteD2 5.0mm plate

Impact energy vs Absorbed energy

0

100

200

300

400

500

600

0 100 200 300 400 500 600

Impact energy [J]

Ab

so

rbe

d e

ne

rgy [

J]

Ei=EaTi 1.5mm plateTi 1.7mm plateD2 5.0mm plate

ファンブレードを模擬した平板弾丸衝撃試験D2材は、チタンの1.5倍程度の吸収エネルギー

を示した。

図3-4 平板高速撃ち込み試験

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3) ファンケースの構造設計

上記の取得した材料基本特性および高速衝撃特性結果を基に、ファンブレード

コンテイメント可能なファンケースの構造設計を行った。想定したファンケー

スの仕様およびコンテイメントブレードのサイズを図3-5に、設計結果を図

3-6に示す。結果として、ケースの重量はチタン金属製に比べ、約15%減

となることがわかった。

<想定複合材ファンケース仕様>

直径 : 63” (1660mm)

材料 : 高強度カーボンファイバー/ 熱硬化性樹脂の組合

積層構成: フランジ以外 [0/45/-45]n

(最外層、最内層は0度)

フランジ [45/-45]n

※0度 = 周方向

複合材ファンケース

φ 1660

R806.5

<コンテイメントファンブレードサイズ>Tip 半径 : 31.75” (806.5mm)

重量/1枚 : 4.2 kg (想定)翼枚数 : 22 (想定)最大回転数 : 5571 rpm (想定)

<想定複合材ファンケース仕様>

直径 : 63” (1660mm)

材料 : 高強度カーボンファイバー/ 熱硬化性樹脂の組合

積層構成: フランジ以外 [0/45/-45]n

(最外層、最内層は0度)

フランジ [45/-45]n

※0度 = 周方向

複合材ファンケース

φ 1660

R806.5

<コンテイメントファンブレードサイズ>Tip 半径 : 31.75” (806.5mm)

重量/1枚 : 4.2 kg (想定)翼枚数 : 22 (想定)最大回転数 : 5571 rpm (想定)

<想定複合材ファンケース仕様>

直径 : 63” (1660mm)

材料 : 高強度カーボンファイバー/ 熱硬化性樹脂の組合

積層構成: フランジ以外 [0/45/-45]n

(最外層、最内層は0度)

フランジ [45/-45]n

※0度 = 周方向

複合材ファンケース

φ 1660

R806.5

<コンテイメントファンブレードサイズ>Tip 半径 : 31.75” (806.5mm)

重量/1枚 : 4.2 kg (想定)翼枚数 : 22 (想定)最大回転数 : 5571 rpm (想定)

<想定複合材ファンケース仕様>

直径 : 63” (1660mm)

材料 : 高強度カーボンファイバー/ 熱硬化性樹脂の組合

積層構成: フランジ以外 [0/45/-45]n

(最外層、最内層は0度)

フランジ [45/-45]n

※0度 = 周方向

複合材ファンケース

φ 1660

R806.5

<コンテイメントファンブレードサイズ>Tip 半径 : 31.75” (806.5mm)

重量/1枚 : 4.2 kg (想定)翼枚数 : 22 (想定)最大回転数 : 5571 rpm (想定)

図3-5 複合材ファンケースの仕様

0

50

100

150

200

250

0 50 100 150 200 250 300 350

Incident Energy J

Ob

so

rbe

d E

ne

rgy

J

mat54_mesh1 coarsemat54_mesh1 fineexperimentmat54_mesh1 coarsemat54_mesh1 fineexperiment

0

50

100

150

200

250

0 50 100 150 200 250 300 350

Incident Energy J

Ob

so

rbe

d E

ne

rgy

J

mat54_mesh1 coarsemat54_mesh1 fineexperimentmat54_mesh1 coarsemat54_mesh1 fineexperiment

衝撃エネルギー

弾丸衝撃試験:解析合せ込み

吸収

エネル

ギー

想定エンジン FBO解析

解析試験解析試験

想定エンジン: V2500同等重量軽減15%(対Ti ケース)

コンテイメント可能なことを確認

フランジ部応力評価

-1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5

20%減D1

D2

ケース板厚

前フランジ 後フランジ

軸方向位置

図3-6 ファンケースの設計結果

② ファンケースの試作

構造設計の結果を基に、実物大の複合材ファンケースの試作を行い、寸法

検査・非破壊検査とも良好な結果が得られ、その製造性を確認した。図3-

7に、製造工程および完成品を示す。

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15

ロービングプリプレグ

織物プリプレグ

マンドレル

ワインディング

オートクレーブ

プリプレグ製造

大型フィラメントワインディング装置

超音波検査、加工

ロービングプリプレグ

織物プリプレグ

ロービングプリプレグ

織物プリプレグ

マンドレル

ワインディング

オートクレーブ

プリプレグ製造

大型フィラメントワインディング装置

超音波検査、加工

ロービングプリプレグ

織物プリプレグ

直径:1700 mm、コンテイメント板厚:16 mm一体フランジ

図3-7 複合材ファンケースの試作

③ 試作ファンケースの評価試験

1) ハーフリング撃込試験

試作したファンケースの評価を行うため、フルリングを半分にしたハーフリ

ングを用いて、平板飛翔体の撃ち込み試験を行った。図3-8に撃ち込み試験

の状況を、図3-9に試験結果を示すが、ほぼ設計通りの貫通限界エネルギー

が得られることが確認できた。

図3-8 ハーフリング撃ち込み試験の状況

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16

衝突エネルギーと吸収エネルギーの関係

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

16000

18000

20000

0 5000 10000 15000 20000

衝突エネルギー [J]

吸収エネルギー

[J]

Analysis D2 100%強度

Analysys D1 100% 強度

Experiment D2

Experiment D1

Experiment D2 1864g

D 2_試験

D 1_試験

D 2_試験(1.9Kg)

吸収

エネ

ルギー

衝撃エネルギー

貫通後の吸収エネルギーに差異

D2貫通限

界アップ

D 2_ 解析

衝突エネルギーと吸収エネルギーの関係

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

16000

18000

20000

0 5000 10000 15000 20000

衝突エネルギー [J]

吸収エネルギー

[J]

Analysis D2 100%強度

Analysys D1 100% 強度

Experiment D2

Experiment D1

Experiment D2 1864g

D 2_試験

D 1_試験

D 2_試験(1.9Kg)

吸収

エネ

ルギー

衝撃エネルギー

貫通後の吸収エネルギーに差異

D2貫通限

界アップ

D 2_ 解析

D 2_試験

D 1_試験

D 2_試験(1.9Kg)

吸収

エネ

ルギー

衝撃エネルギー

貫通後の吸収エネルギーに差異

D2貫通限

界アップ

D 2_ 解析

図3-9 ハーフリング撃ち込み試験結果

2) フランジ部引張試験

ファンブレードオフ(FBO)時のファンケースフランジ部の強度を調べる

ため、ファンケースと同じ製造方法で試作したフランジ部の引張試験を行った。

その結果、FBO荷重時の破壊は小規模で、許容範囲内であることを確認する

とともに、十分なフランジ締結機能を有することがわかった。

図3-10に試験状況を、図3-11に試験結果を示す。

L字フランジ試験片

治具

100kN試験機

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

試験機ストローク[mm]

載荷荷重

[kN]

ボルト破断

FBO荷重

層間剥離

図3-10 フランジ部引張試験 図3-11 試験結果

(2)ファンブレードの複合材料適用化技術

① 材料選定/材料評価

1) 材料基本特性の取得 【H19-H20年度成果】

複合材料を構成する繊維、樹脂及びその成形方法について、ファンブレード

用の候補となる組み合わせを検討した結果、表3-3に示す2ケースの組み合

わせについて、ファンケースと同様、各々試験片供試体を製作し、繊維方向引

張/圧縮強度、繊維直角方向引張強度、面内せん断強度等の基礎的特性値を取

得した。

表3-4に組み合わせケース1およびケース2の取得したデータを、図3-

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17

積層+ステッチ構造

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.40°方向引張強度

0°方向引張弾性率

90°方向引張弾性率

45°方向引張強度

45°方向引張弾性率

層間せん断強さTP1

TP2

RTM1

RTM2

直交3軸織物構造

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.40°方向引張強度

0°方向引張弾性率

90°方向引張強度

90°方向引張弾性率

45°方向引張弾性率

層間せん断強さ

TP1

TP2

RTM3

12に両者の特性を比較したものを示す。

図3-12より、物性からみてケース2の方がケース1より優れた特性を

持つと判断され、また製造性を考慮してもケース2が勝っていると考えられ

るが、最終的には、続いて行う高速衝撃特性把握の結果から選定を行うこと

にした。

表3-3 ファンブレード用複合材料の組み合わせ

ケース 繊維 樹脂 成形方法

1 炭素繊維 熱硬化樹脂

(エポキシ) プリフォーム(三次元織物) + RTM

2 炭素繊維 熱可塑樹脂 プリプレグ + プレス

表3-4 試験により取得したデータ

分類

呼称 TP1 TP2 RTM1 RTM2 RTM3

単位 試験条件 F/B想定特性

強度 (MPa) 2400.0 2733.5 2820.6

弾性率 (GPa) 150.0 156.1 160.2

強度 (MPa) 1280.0 1115.6 1179.1

弾性率 (GPa) 145.0 126.2 133.5

強度 (MPa) 48.0 48.6 50.8

弾性率 (GPa) 8.0 8.6 7.9

強度 (MPa) 88.0 169.2 186.5

弾性率 (GPa) 4.5 4.3 4.3

強度 (MPa) 1300.0 1445.6 1409.4 1369.0 1527.0

弾性率 (GPa) 83.9 86.6 88.6 90.9 97.6

強度 (MPa) - - - 730.3 589.6

弾性率 (GPa) - - - 63.4 60.2

強度 (MPa) - - - 236.3 171.3

弾性率 (GPa) 22.9 23.7 23.7 19.3 19.0

強度 (MPa) 731.3 817.5 786.9 748.3 683.8

弾性率 (GPa) 47.2 49.0 49.5 50.4 52.9

強度 (MPa) 1782.5 2000.7 1947.8 1431.0

弾性率 (GPa) 115.0 119.8 122.5 105.3

強度 (MPa) - - - 622.1

弾性率 (GPa) - - - 77.3

強度 (MPa) 677.2 763.4 733.3 724.4

弾性率 (GPa) 43.7 45.7 46.1 53.3

強度 (MPa) - - - 160.0

弾性率 (GPa) 15.8 15.3 15.3 16.4

層間せん断 強度 (MPa) 110℃/W 45.8 47.0 55.9 36.9 23.6 36.2

強度 (MPa) 431.2 418.5 467.6 412.9 427.1

弾性率 (GPa) 85.0 83.4 84.2 75.7 112.0

層間エネルギー開放率 GⅠC (kJ/m2) RTA/W 0.45 1.15 0.69 - -

衝撃後圧縮 強度 (MPa) RTA 346.9 367.4 382.4 306.8 353.6

引張疲労(R=0.1) 10E5最大応力 (MPa) 70℃/W 1390 1160 870 910 1020

RTA

90°方向引張

熱可塑性樹脂 3次元織物+RTM

試験種類

RTA

NA

繊維方向圧縮

相対比較値

基本特性

相対比較

3次元織物

(

ステッチ

)

0°方向引張 RTA

0°方向圧縮

積層構造

繊維方向引張

RTA

繊維直角方向引張

RTA

面内せん断(±45TS)

RTA

RTA

45°方向引張 RTA

3次元織物

(

直交3軸

)

0°方向引張 RTA

0°方向圧縮 RTA

90°方向引張 RTA

45°方向引張 RTA

共通

有孔圧縮RTA

3点曲げ 強度 (MPa) RTA 262.1 348.0501.5 646.1 385.3

図3-12 ファンブレード候補材料の物性試験結果

ケース1 ケース2

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18

2) 高速衝撃特性把握 【H19-H20年度成果】

ファンブレード用ケース1およびケース2について、片持ち平板試験片

にゼラチンを高速で撃ち込み衝撃特性を把握した。図3-13に試験状況

と歪計測の結果を示すが、試験と解析の結果はよく一致しており、最大歪

4%までは損傷が発生しないことがわかった。また、ゼラチンの撃ち込み

速度と損傷面積の関係を図3-14に示すが、当初の熱可塑樹脂FRP

(図中C2)に対し、C2の層間に樹脂層を挿入(インターリーフ)する

ことにより、損傷を受ける面積が小さくなり衝撃特性が改善されることが

明らかとなり、このインターリーフを挿入したものをファンブレードに適

用する複合材として選定した。

図3-13 ゼラチン撃ち込み試験 図3-14 衝撃特性の改善

3) 材料要素試験 【H21年度成果】

平成20年度に選定した「高強度炭素繊維/熱可塑性樹脂(エンジニア

リングプラスチック)プリプレグ」について、その繊維、樹脂やインター

リーフ(層間樹脂層)などの構成要素や割合を変化させた試験片を製作し

て高速度衝撃試験を行い、複合材ファンブレードの設計・評価に必要な耐

衝撃性のデータを取得した。図3-15にゼラチン衝撃試験での撃ち込み

速度と損傷面積の関係を示す。

平成20年度ではC2材を選定したが、本試験にて安定して高い耐衝撃

性が得られるF1材をファンブレード材として新たに選定した。また、こ

のF1材について設計に必要な特性データを取得した。

撃ち込み速度と損傷面積の関係

0

4500

9000

13500

18000

100 150 200 250 300

撃ち込み速度[m/s]

損傷面積

C2

C8

C12

F1

E2E2: CF3/タフエポキシ

F1: CF2/熱可塑樹脂2

C2: CF1/熱可塑樹脂1

C8: C2+インターリーフ1

C12: C2+インターリーフ2

撃ち込み速度と損傷面積の関係

0

4500

9000

13500

18000

100 150 200 250 300

撃ち込み速度[m/s]

損傷面積

C2

C8

C12

F1

E2E2: CF3/タフエポキシ

F1: CF2/熱可塑樹脂2

C2: CF1/熱可塑樹脂1

C8: C2+インターリーフ1

C12: C2+インターリーフ2

F1 C12

C2

C8

E8

損傷面積

撃ち込み速度と損傷面積の関係

0

4500

9000

13500

18000

100 150 200 250 300

撃ち込み速度[m/s]

損傷面積

C2

C8

C12

F1

E2E2: CF3/タフエポキシ

F1: CF2/熱可塑樹脂2

C2: CF1/熱可塑樹脂1

C8: C2+インターリーフ1

C12: C2+インターリーフ2

撃ち込み速度と損傷面積の関係

0

4500

9000

13500

18000

100 150 200 250 300

撃ち込み速度[m/s]

損傷面積

C2

C8

C12

F1

E2E2: CF3/タフエポキシ

F1: CF2/熱可塑樹脂2

C2: CF1/熱可塑樹脂1

C8: C2+インターリーフ1

C12: C2+インターリーフ2

F1 C12

C2

C8

E8

損傷面積

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19

図3-15 ゼラチン衝撃試験

4) 形状要素試験 【H21年度成果】

平成 20 年度に実施したブレード評価試験で、回転衝撃時の高速衝撃に

よる破壊状態および動的な応答を評価可能であることを検証した。一方で

繊維直交方向の歪は解析が過大評価する傾向があることが分かった。そこ

で、平成 21 年度はまず、ファンブレードの形状そのままで試験するので

はなく、個別の特徴的な要素を模擬した試験片に対して衝撃試験を実施し

た。図3-16に形状要素試験状況を示す。具体的には鳥が衝突する翼前

縁部、高強度 CFRP を金属で補強した翼面、翼厚分布をつけ積層方法を変

えた高強度 CFRP の翼部本体の 3 つの形状要素を対象に、ゼラチン衝突試

験を実施した。また、これらの結果を踏まえ、平成 20 年度に引続き、試

作翼での静止衝撃試験および検証解析を実施した。

図3-16 形状要素試験

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20

5) ダブテール強度試験 【H19、H21年度成果】

複合材ファンブレードのダブテール部の積層構造を検討するため、図3

-17に示すとおり、2次元試験片による引張試験を行った。

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

220

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0

アクチュエータ変位 [mm]

ロードセル荷重

[kN

]

PT1-1,2,3

PT2-1,2,3

PT3-1,2,3

最大遠心荷重(長さ15mm相当)3.17 tonf

PT2 破壊荷重 14~16 tonf

PT1 破壊荷重 約19 tonf

試験セットアップ 試験片

PT1:

くし型

PT2:

入れ子型

PT3:

アンコ型

破壊モード:層間はく離 ⇒圧力面上端せん断破壊

・破壊荷重は想定遠心荷重の4倍以上

・破壊モードは圧力面せん断

・発生歪みは解析とほぼ一致

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000

Strain [μ ε ]

Load [kN

]

H34WFLL

H34WFRR

H34WBLL

H34WBRR

解析

応力解析モデル・歪み計測vs解析比較

図3-17 2次元ダブテール引張試験

更に、平成19年度のダブテールに対して積層構成を変更した場合の引

張りでの強度、破壊モードおよび低サイクル疲労強度を確認するために、

図3-18に示す引張試験と低サイクル疲労試験を実施した。

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

-1 0 1 2 3 4 5

Displacement [mm]

Load

[kN

]

破断荷重:158kN

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

-1 0 1 2 3 4 5

Displacement [mm]

Load

[kN

]

破断荷重:158kN

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 60000 120000 180000

Cycle (N)

Max

imum

Load

(kN

)

31kN:損傷なし

61kN:はく離発生

91kN:破断

10970 cycles

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 60000 120000 180000

Cycle (N)

Max

imum

Load

(kN

)

31kN:損傷なし

61kN:はく離発生

91kN:破断

10970 cycles

引張試験結果

疲労試験結果ダブテール首部からはく離

荷重

遠心力相当 31kN

試験片

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

-1 0 1 2 3 4 5

Displacement [mm]

Load

[kN

]

破断荷重:158kN

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

-1 0 1 2 3 4 5

Displacement [mm]

Load

[kN

]

破断荷重:158kN

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 60000 120000 180000

Cycle (N)

Max

imum

Load

(kN

)

31kN:損傷なし

61kN:はく離発生

91kN:破断

10970 cycles

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0 60000 120000 180000

Cycle (N)

Max

imum

Load

(kN

)

31kN:損傷なし

61kN:はく離発生

91kN:破断

10970 cycles

引張試験結果

疲労試験結果ダブテール首部からはく離

荷重

遠心力相当 31kN

試験片

図3-18 ダブテール強度試験

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21

6) ファンブレードの構造・空力設計 【H19-H20年度成果】

材料基本特性および高速衝撃特性結果を基に、図3-19に示すとおり、

FOD等のブレード構造強度解析を行うとともに、CFD解析等によるブ

レード空力設計、フラッタ検討を実施し、複合材ファンブレードの形状を

決定した。

図3-19 複合材ファンブレードの設計

② ファンブレードの試作

1) ファンブレードの試作 【H19-H20年度成果】

ファンブレード設計の結果を基に、実物大の複合材ファンブレードの試

作を行った。 試作後の寸法検査、非破壊検査とも良好な結果が得られ、

その製造性を確認した。 図3-20に、製造工程および完成品を示す。

積層平面上に積層(TOTAL534層うちAirfoil部210層)

加熱加圧硬化平板形状に成形

ドレープ加熱後、金型で賦型(サーモフォーミング)プレス成形機械加工

チップ、エッジ、ダブテイルを加工

積層平面上に積層(TOTAL534層うちAirfoil部210層)

加熱加圧硬化平板形状に成形

ドレープ加熱後、金型で賦型(サーモフォーミング)プレス成形機械加工

チップ、エッジ、ダブテイルを加工

金属補強板接着状態

L/Eシース

T/Eガード

金属補強板接着状態

L/Eシース

T/Eガード

翼長:750mm、ダブテール厚:50mm

図3-20 複合材ファンブレードの試作

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22

2) ファンブレードの改良試作 【H21年度成果】

平成20年度の試作では、翼部中央部に大きなねじりシワが生じた。こ

のシワはプレス成形時後の断面検査では翼表面の数層だけ限られており、

また曲げ試験でもシワを起因とする強度低下は確認できなかった。

しかしながら一般的に繊維の蛇行やシワは複合材料の強度を低下させ

るため好ましくなく、このシワの低減を課題として成形方法の改善を行い、

シワ防止に有効な知見を得ることができた。図3-21および図3-22

に改善方法を示す。

2軸 3軸(H20年度適用)

1軸

2軸

1軸

2軸 3軸

賦形 賦形

3軸目が余る (orつっぱる)

→ シワの発生

2軸 3軸(H20年度適用)

1軸

2軸

1軸

2軸 3軸

賦形 賦形

3軸目が余る (orつっぱる)

→ シワの発生

図3-21 複合材ファンブレードの改良試作

成形可能な厚さに分割

内側翼片:ねじり小プレス成形

再溶融・一体化

外側翼片:ねじり大平板から静水圧で成形

成形可能な厚さに分割

内側翼片:ねじり小プレス成形

再溶融・一体化

外側翼片:ねじり大平板から静水圧で成形

図3-22 複合材ファンブレードの改良試作

3) 金属補強部品の試作 【H21年度成果】

翼前縁の金属補強部品である金属シースについては、平成20年度には

組み付けの都合上、背腹に分割した形態としていた。耐衝撃性の観点から

Page 23: 次世代航空機エンジン用構造部材創製・加工技術開 …...1-1に示したようにV2500エンジンにおいて既に複合材料を一部へ適用 してはいるものの、ファンブレードおよびファンケースは、以下に示すような技

23

は、背腹一体の形態がのぞまれるが、大きくねじれてかつ深い U 字溝とな

るため、製造・組付けが技術課題であった。そこで平成21年度は、平成

20年度試作翼の翼面形状に対し、背腹一体の形態で組み付けが可能なシ

ース形状を検討し、試作を実施した。試作した金属補強部品を図3-23

に示す。

シース

FRP本体の翼前縁形状を模擬

ねじれた形状

溝 薄肉部

シース

FRP本体の翼前縁形状を模擬

ねじれた形状

溝 薄肉部

シース

FRP本体の翼前縁形状を模擬

ねじれた形状

溝 薄肉部

シース

FRP本体の翼前縁形状を模擬

ねじれた形状

溝 薄肉部

図3-23 金属補強部品の試作

③ 試作ファンブレードの評価試験 【H19-H20年度成果】

試作したファンブレードについて、回転時にゼラチンを衝突させる回転

衝撃試験を実施した。その結果、解析で予想した高応力発生場所でブレー

ドが破断することを確認した。回転衝撃試験の状況および結果を図3-2

4に示す。

また、図3-25に示すように、静止したブレードへのゼラチン撃ち込

み試験を行い、衝撃時の歪応答が解析とほぼ一致することを確認した。

ファンブレード

ゼラチン

高応力部

ファンブレード

ゼラチン

高応力部 図3-24 回転衝撃試験

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24

0ms

3.0ms

1.0ms

2.0ms

4.0ms

5.0ms

7.0ms

6.0ms

解析 実験 解析 実験

解析はコード

方向の変形を

過大に評価

ゼラチン

ファンブレード

ゼラチン

ファンブレード

0ms

3.0ms

1.0ms

2.0ms

4.0ms

5.0ms

7.0ms

6.0ms

解析 実験 解析 実験

解析はコード

方向の変形を

過大に評価

ゼラチン

ファンブレード

ゼラチン

ファンブレード

図3-25ゼラチン撃ち込み試験

④ ファンブレードの設計検討 【H21年度成果】

平成20年度の設計では、既存のメタル中空翼に対し、翼 1 枚あたり1

0%の重量削減を達成していた。本年度は、さらに軽量化すべく設計を実

施した。設計には、本開発作業で取得した材料データを用いた。また、形状

要素試験で得られた歪予測精度の向上、および、ハーフスケール試験で得

た、翼面前面を金属で補強することで、層間剥離および繊維破断を生じな

いという知見を反映した。シース形状は組み付け性を反映した。以上、約

200条件の反復計算の結果、設計結果を得た。

設計した複合材ファンブレード形状を図3-26に示す。CFRPの積層構

成は、衝撃時に翼が大きく曲げられた際にハブ側で発生する歪をおさえる

ため半径方向を強化するように選定した。また、衝撃で発生する局所的な

ひずみをおさえるため、翼厚、翼形状を調整した。その結果、既存のメタ

ル中空翼に対し、翼 1枚あたり20%の重量削減を達成した。

スタガー角0degのハブ翼型採用

ハブL/E歪低減

空力性能向上

Tiシース領域拡大

鳥の翼面に対する垂直速度成分が減尐

鳥衝突エネルギー減尐

流量増加→翼を閉じる

Tiシース領域が拡大されたが局所的であり、L/E薄翼化の軽量化効果の方が大きい。

衝突部L/Eを薄翼化

重量減

薄翼化とガード廃止により重量20%減達成!

当初案翼断面

設計案翼断面

Tiガード廃止

重量減

Tip中央部の歪増大

衝突部L/E歪低減

スタガー角0degのハブ翼型採用

ハブL/E歪低減

空力性能向上

Tiシース領域拡大

鳥の翼面に対する垂直速度成分が減尐

鳥衝突エネルギー減尐

流量増加→翼を閉じる

Tiシース領域が拡大されたが局所的であり、L/E薄翼化の軽量化効果の方が大きい。

衝突部L/Eを薄翼化

重量減

薄翼化とガード廃止により重量20%減達成!

当初案翼断面

設計案翼断面

Tiガード廃止

重量減

Tip中央部の歪増大

衝突部L/E歪低減

図3-26 重量20%減のファンブレード形状案

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25

⑤ 複合材適用ファンブレードのフラッタ特性への影響検討 【H21年度成果】

ファン部分回転において問題となる遷音速フラッタについて、ファンブ

レード用の複合材料として指定された材料特性データを用いてフラッタ

CFD解析を実施し、金属翼データと比較し、複合材適用によるファンフ

ラッタ特性への影響を検討した。CFD 解析の方法として、遷音速領域で作

動するファンブレード振動時における衝撃波の変動を含む非定常な流れ

場を解析可能な JAXA 所有の高精度解析プログラムを用いた。

複合材翼でもチタン合金翼でもフラッタ発生限界では、非定常空力仕事

が急激に大きくなるため、失速より手前の作動点でフラッタの現象が先に

起きる可能性があるという点で、ファンの設計上あるいは運転上注意が必

要である。

今回解析対象とした複合材翼では、チタン合金翼に比べてフラッタ発生

限界はむしろ若干遅れるが、複合材の剛性は積層板の方向による異方性と

翼の振動モード形状との相互関係によって変化すると考えられる。したが

って本研究開発の結果は、複合材の材料特性をうまく利用すれば特定のモ

ードについてフラッタ発生限界を遅らせたり、発生範囲を狭めたりできる

可能性を示唆している。図3-27に複合材翼とチタン合金翼の非定常空

力仕事の比較を示す。

図3-28にフラッタCFD解析結果の代表例を示す。今回のフラッタ

CFD 解析では、ファンブレードの構造減衰の効果の他、Hub 面および Casing

面をすべり壁とし、ブレード先端のチップクリアランスも無視している。

これに対して、実際のファンリグと同様に粘性壁やクリアランス効果を解

析に取り入れれば、これらはいずれもフラッタに対しては安定側に作用す

ると考えられるが、精度の良い設計手法を確立するには、その影響につい

て明らかにしておくことが今後の課題として重要と考えられる。

-0.00004

-0.00003

-0.00002

-0.00001

0.00000

0.00001

0.00002

0.00003

0.00004

3 3.5 4 4.5 5 5.5

入口流量(全周)

非定常空力仕事

翼振動が不安定

翼振動が安定

Composite IBPA000

Titanium IBPA000

Composite IBPA32.7

Titanium IBPA32.7

6 6.5

-0.00004

-0.00003

-0.00002

-0.00001

0.00000

0.00001

0.00002

0.00003

0.00004

3 3.5 4 4.5 5 5.5

入口流量(全周)

非定常空力仕事

翼振動が不安定

翼振動が安定

Composite IBPA000

Titanium IBPA000

Composite IBPA32.7

Titanium IBPA32.7

6 6.5

図3-27 複合材翼とチタン合金翼の非定常空力仕事の比較

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翼面上非定常空力仕事分布、翼間位相差

チタン翼Q=5.68,W=1.27×10-5

複合材翼Q=5.68, W=6.39×10-6

翼面上非定常空力仕事分布、翼間位相差

チタン翼Q=5.68,W=1.27×10-5

複合材翼Q=5.68, W=6.39×10-6

図3-28 フラッタCFD解析結果(代表例)

3-1-3 特許出願状況等

表3-5 特許・論文等件数 要素技術 論文数 論文の被

引用度数

特許等件数(出

願を含む)

特 許 権 の

実施件数

ラ イ セ ン

ス供与数

取 得 ラ イ

センス料

国 際 標 準

への寄与

ケース 3 0 4 0 0 0 0

ブレード 2 0 0 0 0 0 0

計 5 0 4 0 0 0 0

表3-6 論文、投稿、発表、特許リスト

題目・メディア等 時期

発表 第 51 回航空原動機・宇宙推進講演会

「チタンおよび複合材製ファンにおける翼列フラッタ数値解析」

H23.3

26th ICAF 2011 Symposium : 「DAMAGE TOLERANCE DEMONSTRATION OF

FLANGE JOINT FOR AIRCRAFT ENGINE COMPOSITE FAN CASE」

H23.5

ISABE2011 : 「New Challenges to jet engine production in Japan」 H23.9

ISABE2011 : 「Numerical analyses of flutter characteristics of

titanium and composite fan rotor blade」

H23.9

the 26th Annual Technical Conference of the American Society

for Composites/2nd Joint US-Canada Conference on Composites :

「Development of Light Weight Composite Fan Case for Turbo Fan

Engine」

H23.9

第 3 回 日本複合材料合同会議 日本複合材料学会・日本材料学会

共催 「ターボファンエンジン用複合材ファンケースの開発」

H24.3

第 21 回ガスタービン教育シンポジューム

「ターボファンエンジン用複合材ファン部品の開発」

H24.7

特許 PCT/JP2009/66879 繊維強化複合材用ファブリック、その製造方

法、繊維強化複合材製構造体及びその製造方法

H21.9

PCT/JP2009/67147 繊維強化プラスチック用のマトリックス樹脂

組成物及び繊維強化プラスチック構造体

H21.10

特願 2009-255303 ケースの製造方法、及びケース H21.11

特願 2009-255309 ケースの製造方法、及びケース H21.11

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27

3-2 目標の達成度

目標の達成度を、表3-7および表3-8に示す。

表3-7 目標の達成度(ファンケース)

要素技術 目標・指標 成 果 達成度

ファンケースへの複合材料適用化技術

既存のチタン合金製ファンケースに比べ重量20%減

・同重量チタン比で約1.5倍の吸収エネ

ルギーを有する繊維・樹脂・成形法の組み合わせを見出すことができた。

・上記の結果より、ファンケースは最大15%の重量減となることがわかった。

・実物大ファンケースを試作し、撃ち込み試験により耐衝撃特性を実証することができた。

一部達成

要素技術 目標・指標 成 果 達成度

ファンケースへの複合材料適用化技術

既存のチタン合金製ファンケースに比べ重量20%減

・同重量チタン比で約1.5倍の吸収エネ

ルギーを有する繊維・樹脂・成形法の組み合わせを見出すことができた。

・上記の結果より、ファンケースは最大15%の重量減となることがわかった。

・実物大ファンケースを試作し、撃ち込み試験により耐衝撃特性を実証することができた。

一部達成

※:実用化・実証段階で20%減を達成

表3-8 目標の達成度(ファンブレード)

要素技術 目標・指標 成 果 達成度

ファンブレードへの複合材料適用化技術

既存のチタン合金製ファンブレードに比べ重量20%減

・優れた衝撃特性を有する繊維・樹脂の組み合わせを見出すとともに、設計に必要な材料特性を取得した。

・種々の形状要素試験を行い、優れた耐衝撃特性を有する翼部、ダブテール部の積層構成、金属補強方法を見出した。

・スケールダウンブレードを試作し、翼表面のシワを改善する製造方法、金属シースの加工方法を見出した。

・上記の結果を基に、20%重量軽減の設計案を作成することができた。

・複合材料適用によるフラッタ特性への影響を調べるため、同一形状のチタン合金製ファンブレードと複合材ファンブレードの両者についてフラッタCFD解析を行った結果、複合材料ファンブレードの方がフラッタに対して優位であることがわかった。

達成

要素技術 目標・指標 成 果 達成度

ファンブレードへの複合材料適用化技術

既存のチタン合金製ファンブレードに比べ重量20%減

・優れた衝撃特性を有する繊維・樹脂の組み合わせを見出すとともに、設計に必要な材料特性を取得した。

・種々の形状要素試験を行い、優れた耐衝撃特性を有する翼部、ダブテール部の積層構成、金属補強方法を見出した。

・スケールダウンブレードを試作し、翼表面のシワを改善する製造方法、金属シースの加工方法を見出した。

・上記の結果を基に、20%重量軽減の設計案を作成することができた。

・複合材料適用によるフラッタ特性への影響を調べるため、同一形状のチタン合金製ファンブレードと複合材ファンブレードの両者についてフラッタCFD解析を行った結果、複合材料ファンブレードの方がフラッタに対して優位であることがわかった。

達成

4.事業化、波及効果

4-1 事業化の見通し

複合材ファンケース及びファンブレードから派生した複合材ファン静翼が

PW1000Gシリーズエンジンに採用され、一部量産を開始した。独自開発材料・製造

法スペックによる複合材主構造のベストセラー機種搭載に成功し、次世代低燃費

航空機製造に世界的地歩を築いた。(図4-1)

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28

複合材ファンケース(熱硬化性複合材)については、平成 21年度から 3年間、重

量 20%減の実機適用を目指した国際共同技術開発を実施し、成功裏に完了した。ま

た、次期中小型民間機用エンジン(2機種)への独自規格の適用を達成し、平成

24年度より量産を開始した。更に、日本が 23%のシェアで参画するエアバス

A320neo型機用 PW1100G-JM エンジンへの適用が決定し、製品開発を実施している。

複合材ファンブレード(熱可塑性複合材)については、重量軽減目標を 20%から

30%減に改め、対象とする部品にファン出口静翼を加え、平成22年度から実機適

用を目指した国際共同技術開発を実施している。ファン出口静翼については、

PW1100G-JM エンジンへの適用が決定し、製品開発に着手している。構造機能※を

持ったファン出口静翼としては、複合材の適用は世界初である。

※: 翼としての機能に加えて、ファンケース等を支える構造物としての機能も果たし、

従来の翼よりも高強度が要求される。

図4-1 製品開発中の複合材適用部品

4-2 波及効果

次世代高性能・低コスト CFRP の実機搭載に目途を付けることにより、国内複合材

産業振興に向けた、以下のような波及効果が得られた。

① 熱可塑性 CFRP の実機量産ライン構築(ファン静翼)

短成形時間・リサイクル性等から自動車用複合材の決め手と言われる熱可塑性

CFRPにおいて、分単位のタクトタイムを達成する量産ラインを構築している。本ラ

イン用の工程・製造装置の開発により、川上~川下関係各メーカーが、熱可塑 CFRP

生産ラインのノウハウを蓄積している。

② 複合材主構造の材料認定試験実施

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29

主要構造部材用の CFRP プリプレグとして、型式承認認定機関(航空局)の要求

する統計的材料データを、スペック所有者として取得している。最新の複合材試験

規格を用いた試験片製造法・試験方法及びデータ評価法に関するノウハウが得られ

た。また、航空局認定レベルの国内複合材試験機関を育成した。

③ 一気通貫した産学官連携 R&Dの実施

本研究開発では、基礎研究から事業化まで一貫した大学・公設試等との共同研究

を実施した。実用化を見据えた産学官連携研究の実績と経験を取得することができ

た。

5.研究開発マネジメント・体制等

5-1 研究開発計画

本研究開発の計画スケジュールを表5-1に示す。

表5-1 研究開発スケジュール H19年度 H20年度 H21年度

1) ファンケースへの複合材料

適用化技術

・材料選定/材料評価

・ファンケースの構造設計

・ファンケースの試作、評価

2) ファンブレードへの複合材料適用

化技術

・材料選定/材料評価

・ファンブレードの空力、構造設計

・ファンブレードの試作、評価

5-2 研究開発実施者の実施体制・運営

本研究開発は、公募による選定審査手続きを経て、財団法人日本航空機エンジ

ン協会が経済産業省からの委託を受けて実施している。また、再委託先として独

立行政法人宇宙航空研究開発機構が参加している。なお、細部の試験および解析

等については、株式会社 IHIおよび川崎重工業株式会社に外注している。

実施体制を図5-1に示す。

また、外部有識者からなる評価委

員会を設置し、年2回の頻度で、

研究計画、研究成果等について客

観的な評価を受けている。委員会

のメンバーを表5-2に示す。

5-1 実施体制

基本特性、衝撃特性把握

当初の計画

基本特性、衝撃特性把握

財団法人日本航空機エンジン協会

株式会社IHI

独立行政法人宇宙航空研究開発機構

川崎重工業株式会社

評価委員会財団法人日本航空機エンジン協会

株式会社IHI

独立行政法人宇宙航空研究開発機構

川崎重工業株式会社

評価委員会

再委託

財団法人日本航空機エンジン協会

株式会社IHI

独立行政法人宇宙航空研究開発機構

川崎重工業株式会社

評価委員会財団法人日本航空機エンジン協会

株式会社IHI

独立行政法人宇宙航空研究開発機構

川崎重工業株式会社

評価委員会

再委託

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30

表5-2 評価委員会メンバー

氏名 所属 役職

委員長 渡辺 紀徳 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 教授

委 員 柳 良二 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 航空プログラムグル

ープ 環境適応エンジンチーム チーム長

5-3 資金配分

平成19年度から21年度までの資金配分を表5-3に示す。

表5-3 資金配分 (単位:百万円)

年度 H19 H20 H21 合計

予算 150 400 355 905

5-4 費用対効果

本技術開発の成果は中小型民間輸送機(60 席から 220 席クラス)用エンジンに適

用されるが、このうちの現在、120席から 220 席クラスの中小型機市場においては、

ボーイング 737、エアバス A320 といった既存機種が約 10,000 機運航されている。

このクラスにおける今後約 20 年間の市場規模は、現在運航されている 10,000

機の内、機齢を考慮した場合約 6,000 機程度の代替需要が存在すると考えられる

ほか、それらに加えてこのクラスの市場成長による新規需要があることから、日

本航空機開発協会によれば、需要全体としては 15,000機程度の規模が想定されて

いるところである。

エアバス社によれば A320neoは今後 15年間で 4,000機程度の受注の可能性があ

り、その半数に PW1100G-JM エンジンが搭載エンジンとして選定されるものとすれ

ば、売上としては年間数十億円規模が見込まれる。これに対し本研究開発の総事

業費約 9億円であることから、相当の費用対効果が見込まれる。

5-5 変化への対応

複合材ファンケースについては、適用対象として想定したエンジンのファンブ

レードの材質がチタン翼から軽量翼に変わったことにより、ファンブレード飛散

時にファンケースが受ける衝撃が軽減される見通しとなった。このため、ファン

ケース素材としての重量減が 15%でも、ファンケースの厚さを薄くすることにより

ファンケース全体として 20%軽量化が可能となったので、平成 20 年度で基本技術

確立段階を終了し、平成 21年度はファンブレードの研究開発に注力した。