渡良瀬遊水地のヨシ等利活用再生可能 エネルギー導...

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渡良瀬遊水地のヨシ等利活用再生可能 エネルギー導入計画策定業務報告書 (概要版) 平成 29 2

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渡良瀬遊水地のヨシ等利活用再生可能

エネルギー導入計画策定業務報告書

(概要版)

平成 29年 2月

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渡良瀬遊水地のヨシ等利活用再生可能エネルギー導入計画《概要版》

本業務は、渡良瀬遊水地のヨシをはじめ市内で排出される各種バイオマスを活用することにより、い

かなるエネルギー利用が可能になるのか、その方向性と具体的な燃焼設備導入のモデルケースを想定す

るとともに、これによる地域活性化の可能性を検討した。

1.草本系及び廃棄物系木質バイオマスのペレット化に関する調査

1-1 ヨシ等バイオマスの利用(確保)可能量

・市内でペレット燃料を製造するための原料となるバイオマスの利用(確保)可能性について調査し

た。調査対象は大きく分けて、草本系バイオマスと木質系バイオマスの二つに分類される。

・草本系については、ヨシズ農家等から排出される加工端材やヨシ焼きの延焼防止を目的とした刈取

り済みのヨシ廃棄物、また、渡良瀬遊水地のセイタカアワダチソウ等除去作戦によって排出される

外来種雑草類を一定量確保することができる。

・木質系については、市内の製材加工業から排出される製材廃材のほか、廃棄物処理業者から排出さ

れる街路樹剪定枝や、農家から排出される果樹園剪定枝を一定量確保することができる。

利用(確保)可能量の調査結果

1-2 ヨシ等バイオマスペレット燃料の製造単価

・確保したバイオマスをペレット燃料にするための方針を以下の通り設定した。

①ヨシの廃棄物、外来種雑草類の廃棄物は地域を象徴する固有の資源であることから、できる限り

これらを活用する。

②原料となる草本系と木質系の混合において、草本系には灰分が多く、燃焼機器の運転に支障をも

たらす恐れがあるため、その対策として木質系を最低でも半分以上混合する。

③原料の構成比率を確立し、ペレット燃料の品質安定化を図る。

・以上の条件のもとで、市内の企業数社に協力を得ることを前提に、原料の調達からペレット製造ま

での各工程の経費を積算しペレットの製造単価を試算すると、1キロ 60円程度と想定される。これ

を熱量換算すると、灯油や重油のリッター140円前後に相当しやや割高となることから、環境貢献の

観点も含め経済的コストのみならず環境価値の面からの評価も必要である。

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ヨシ等バイオマスペレットの製造単価

2.導入対象施設のエネルギー消費量の算出

2-1 再生可能エネルギー導入対象施設の設定

・バイオマス燃料による再生可能エネルギーを導入する施設として、3つのモデルケースを設定した。

設定条件として、(1)相応のエネルギー消費が見込まれその削減が望まれること、(2)施設の新設など

設備設置がタイミング的に望ましいこと、(3)施設の位置付け上再生可能エネルギーを導入すること

が政策的に有意であり環境意識の普及など活性化効果が見込めることを念頭に置いた。

①「農村体験交流施設」において、温浴施設用の「ペレットボイラー」を導入すること。温浴施設

の他にも、研修施設や農業体験施設など、多機能型のものを想定しており、将来的にはボイラー

のみならずストーブなど複数の熱源設備の設置を想定することができる。

②「環境教育推進モデル校」として、市内の各小中学校に暖房用の「ペレットストーブ」を導入す

ること。各学校に対するアンケートの結果、全校の 3分の 1に当たる 13校で、導入可能性があ

ることから、環境面や安全面での配慮や学校職員の負担に配慮しつつ、このうち数校程度を候補

に試行的な導入を検討することができる。

③「環境配慮型ハウス栽培モデル」として、農業ハウス栽培用の「ペレット加温器」を導入するこ

と。市内では、花き栽培など多くのハウス栽培において石油を燃料とした燃焼設備が使われてい

ることから、ペレット型設備の導入により民間レベルでの地球温暖化対策の普及を拡げることが

できる。

再生可能エネルギー導入対象施設の設定

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2-2 エネルギー消費量及び二酸化炭素排出量の推計

・以上のモデルケースのもと、「農村体験交流施設」のボイラーが浴槽と給湯で1台ずつ、「環境教育

推進モデル校」のストーブが計4台、「環境配慮型ハウス栽培モデル」の加温器が1台をそれぞれ導

入すると、これらのエネルギー需要を満たすためには、年間80数トンのペレット燃料が必要となる。

・なお、石油(灯油、重油)を使う代わりにペレット燃料を使うことで、年間 100 数トンの二酸化炭

素を削減することが可能と考えられる。

エネルギー消費量及び二酸化炭素排出量の推計結果

3.バイオマス燃料供給可能量の算出及び供給事業者の検討

3-1 バイオマス燃料の供給可能量と段階的なエネルギー需要の想定

・以上のような、「農村体験交流施設」で各1台、「環境教育推進モデル校」で 4台、「環境配慮型ハウ

ス栽培モデル」で 1 台というモデルケースのエネルギー需要に対して、ペレット燃料の必要量は年

80 トン程度であり、「初期段階」(平成 29~31 年度事業化想定)としてはペレット燃料 100 トンを

確保する必要がある。

エネルギー需要を想定したペレット必要量(フェーズ 1;初期段階)

エネルギー需要を想定したペレット必要量(フェーズ 2;普及段階)

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・さらに中長期の展開としては、「環境教育推進モデル校」は 40台まで普及(「農村体験交流施設」分

含む)、また、「環境配慮型ハウス栽培モデル」も 8台(市内の花き栽培ハウス総面積の 5%相当)ま

で普及を想定すると、ペレット燃料の必要量は年 170トン程度であり、「普及段階」(平成 32年度以

降)としてはペレット燃料 200トンを確保する必要がある。

・このような「初期段階」と「普及段階」の二つのパターンに対し、草本系・木質系バイオマスの各

原料の組合せを適切に設定することで、必要量の混合ペレットを確保することが十分可能となる。

エネルギー需要に対応したペレット原料の組合せ

3-2 燃料供給事業者の検討

・ペレット燃料の原料調達及び燃料製造とエネルギー需要施設の設定に続いて、市内事業者の参加・

協力の見通しを踏まえた燃料供給体制について検討した。

・ペレット燃料を製造するためには、製造するための機械が必要であり、ストック管理や配送処理の

業務も必要となる。また、製造する前段階において成分分析も行い製品の安定化に備える必要があ

る。しかし、これらを一社で賄える市内事業者は存在しないことから調査を進めた結果、複数の市

内事業者が連携を図ることにより、燃料の供給体制を構築することが可能となる。

ペレット燃料供給に係る事業者の比較検討

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・なお、バイオマス原料の確保時期はそれぞれ異なること、また、導入施設においてもエネルギー需

要に季節的な偏りが見込まれることから、原料の調達や燃料の製造・供給の時期を勘案した燃料供

給体制を構築する必要がある。

原料調達時期を勘案した燃料供給の調整(年間タイムスケール)

4.対象施設へのバイオマス型熱源設備基本計画・事業計画の策定

4-1 事業費の算定及び収支計画の検討

・モデルケース(初期段階、平成 29~31 年度事業化想定)では、15~20 年程度の事業期間を想定し

た採算性の確保が求められるが、全国的な事例を見ても同種の事業採算性は総じて低いことから、

本ケースの事業化に当たっては、環境先進都市を目指す観点からの政策的な判断が重要である。

・本ケースでは、各導入設備についてイニシャルコスト、ランニングコスト及び収支計算を行った結

果(国の補助金を想定)、通常の石油燃焼設備を使った場合よりもペレット燃焼機器を使った場合の

コストは割高になっており、燃料製造コストの圧縮など経費の抑制を図るとともに、事業成立に向

けた財源確保が課題となる。

イニシャルコスト、ランニングコスト及び収支計算の結果

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4-2 事業スケジュールの検討

・モデルケース(初期段階、平成 29~31年度事業化想定)の年次計画について想定する。

①「農村体験交流施設」については、施設全体計画の策定(敷地計画及び導入機能に対応した設備

の検討)、設備導入基本設計を踏まえ、平成 31 年度の設備導入実施設計並びに設備建設事業の

実施を目指す。

②「環境教育推進モデル校」については、設備導入方針の検討(環境教育の目標設定及び導入対象

校の選定)、設備導入基本設計を踏まえ、平成 31 年度の設備導入実施設計並びに設備建設事業

の実施を目指す。

③「環境配慮型ハウス栽培モデル」については、再生可能エネルギーに係る民間需要及び導入可能

性等の調査、導入支援方策の検討に引き続き、平成 31年度以降に具体的な導入モデルの検討を

行う。

事業スケジュール(平成 29年度~平成 31年度)

5.地域産業活性化モデルの検討

5-1 地域事業者による運営可能性等の検討

・渡良瀬遊水地のヨシ等を活用し、地域に根差した形でエネルギーの有効利用を図るという目標に到

達するために、原料の調達・製造・使用・廃棄にわたるすべてのプロセスにおいて関与可能な各種

の事業者が不可欠であることから、これら事業者による運営モデル構築イメージを設定した。

①原料調達から燃料製造にかけては、市内の事業者を主体として市内で完結する工程を組むことが

可能である。市内には廃棄物処理業のほかに環境系の研究機関もあり、ペレット製造の際に成分

分析に携わることも可能である。

②ボイラーなどの燃焼機器の設置については、県外のメーカーなどに頼らざるを得ない状況ではあ

るが、定期的なメンテナンス等については、県内に対応可能な業者がおり、県内での先行事例な

ど実績を踏まえつつ、その知見や技術的な助言等を求めることが可能である。

③リサイクル(灰の廃棄、有効活用)については、隣接市にある有機肥料メーカーにおいて受け入

れ可能である。なお、学校で出る灰については、そのまま学校の花壇に肥料として活用するなど

学校や地域等の協力を得て様々なリサイクル活動を考えることができる。

・このような運営モデルを具体化に向けていくことができれば、結果として、生物多様性の取組みに

も寄与しつつ、地域産業の活性化、さらには、地域の人々を巻き込みながらの地球温暖化対策へと、

環境意識に根差した地域活性化の取組みがさらに進むものと期待される。

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地域事業者による産業活性化モデルの構築

5-2 環境価値の活用等による地域活性化の検討

・以上の検討に即して、再生可能エネルギーを導入することで小山市に期待される活性化効果につい

てイメージをまとめた。小山市は、グローバルな視点からその価値が認められる、「ラムサール条約

登録湿地である渡良瀬遊水地」、「ユネスコ無形文化遺産である結城紬」という二つの財産を有する

ことから、これらを共有し相乗効果を発揮する取組みにおいて再生可能エネルギーを効果的に位置

付けていくことが望まれる。

・これにより、小山市独自の象徴的な取組みがシティセールスとともに内外に発信され、その普及が

加速するものと期待される。「おやまブランド」は現在、「食」を中心としたブランドであるが、再

生可能エネルギーを通じ環境・文化の側面からもブランディングを図ることにより、世界に発信す

る「おやまブランド」をさらに前面に推し進めていくことになる。

再生可能エネルギーによる小山市らしい環境・文化の創造

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・一方、産業・経済の側面からも、カーボン・オフセット(自社あるいは自分たちの CO2排出量が削

減できない場合に他の場所で埋め合わせる取組み)など、環境価値をクレジット化する取引が可能

な仕組みを構築することにより、オフセットに取り組む企業は、その経済活動を通じて環境貢献が

図られ、市民にとっても環境意識に根差した消費行動が普及される。

5-3 地域経済波及効果の分析

・先に示したモデルケースを事業化することによる地域経済への波及効果を分析すると、以下のよう

に、イニシャルコスト(事業を開始する際に必要となる設備や機械の導入費など、いわゆる初期投

資全体の経費)及びランニングコスト(設備や機械を導入した後の運用・運転に伴う燃料や消耗品、

保守管理並びに人件費などをまとめた経費)に伴い、市内における生産誘発額や雇用者所得などの

経済効果、就業者・雇用者誘発数などの雇用効果が期待される。

・なお、本分析結果を事業の波及効果として捉えつつも、実際の事業推進に当たっては、事業の成立

性をさらに高めるための諸施策並びに事業運用段階における各種コストの削減などに努めていく必

要がある。

地域経済波及効果の試算フロー

地域経済波及効果の試算結果

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6.ライフサイクルアセスメントと温室効果ガス排出低減効果

・一般的にバイオマス燃料は化石燃料を代替することで、温室効果ガス(以下、「GHG」という。)の

削減に貢献するとされているが、厳密には、原料の調達や燃料の製造の過程で電気や化石燃料を使

用するため、GHG削減への貢献度は明確ではない。そこで、ライフサイクル(燃料を使用する時だ

けではなく、原料を調達して、それを燃やして灰になるまでの一連の取組み)において、二酸化炭

素を含む GHG全体でどれくらいの排出量が見込まれるのか分析した。

ライフサイクルGHGの概念

・ライフサイクルにおける GHG を分析した結果、化石燃料のみの使用に伴う GHG 排出量が約 106

tCO2/年であるのに対して、再生可能エネルギーの使用に伴う GHG排出量は約 15 tCO2/年と算出さ

れ、これら値の差を求めると、再生可能エネルギーによる実質的な GHG の削減量は約 91 tCO2/年

と推計される。

ライフサイクルGHGの試算結果(CO2換算値合計)