視細胞と色を感じる仕組み · Web view2010/01/06 アドバンテック研究所 ... Title...

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視細胞と色を感じる仕組み

視細胞と色を感じる仕組み

                                 2010/01/06

                              アドバンテック研究所

                                代表 村上 彰

1.色覚と色順応の仕組み

・光を感じるのは目の細胞

人間の目は、網膜の中にある視細胞で光を感じている。

視細胞には、桿(杆)体細胞(Rod、ロッド)と錐体細胞(Cone、コーン)がある。桿体は感度がいいが、色の識別できず明暗しか判らない。一方、錐体の感度は桿体ほどよくないが、色を識別することがでる。

人間は3つの錐体を持っていて、それぞれ青錐体、緑錐体 、赤錐体という。この3つは、それぞれ感度のピ-クとなる波長に差があり、名前の通り、順に青、緑、赤の色を感じている。

 

・視細胞の成分

錐体と桿体だと少し成分が違うが、主にロドプシンという物質でできている。

ロドプシンに光が当たるとレチナールとオプシンという2つの物質になり、レチナールは時間が経つにつれてレチノール(ビタミンA1)になり、レチノールとオプシンがくっつくとまたロドプシンになる。

ロドプシンが光をうけてレチナールとオプシンになる時の刺激が脳に伝わって光を感じとっている。 従って、ビタミンAが不足すると暗いところで目が見えなくなったり(夜盲症)暗いところから明るいところに出た時にいつまでも目が見えなくなったり(暗順応障害)する。

・色順応効果

映画館など暗い部屋へ入ると、初めは周りがよく見えないが、次第に目が慣れてきて物が見えるようになる。これを「明暗順応」という。自然光の戸外から白熱電球がともった部屋に入ると、初めは部屋全体が黄色っぽく見えるが、やがて自然な色と感じられるようになる。これが「色順応」である。人間の目は、照明が変化しても、物体が本来もっている色を感じるように感度を調整できるのである。

 網膜に光が入射すると、網膜を構成している細胞に変化が生じ、これが視覚信号となって大脳に送られる。光の強度が増すにつれて細胞の変化も大きくなるが光の強度と同じように変化しない。このような変化のことを「非線形な関係」といいう。この概念は、「非線形」に注目して「色順応モデル」を考案し、広い範囲の照明光のもとでの物体の見え方について「予測理論」を確立したものである。

 この「色順応モデル」は、国際照明委員会(CIE)が推薦するモデルとして選定され、世界中で実用面の研究を始めることになったのである。

・色順応効果のデモンストレーション

これは、左半分が黄色っぽく、右半分が青っぽい、ちょっと変な画像である。

下にある黄と青のパタ-ンを10秒ほど注視した後、上の犬の画像をみて頂きたい。

(眼を動かさずに、中心の○印をじっと見つめるようにする)

切り替わった(見つめた)画像は以前と全く同じ犬の画像であるが、今度は普通(モノクロ画像)に見えるであろう。(モノクロは、左右同じに見える)

これは、あらかじめ黄と青のパタ-ンを注視することによって、

-網膜の左半分では黄に対する感度が低下

-網膜の右半分では青に対する感度が低下

したために生じる現象で、色順応と呼ばれている。

2.色順応予測法の国際標準の確立

http://www.aist.go.jp/ETL/jp/gen-info/news/press/old/9-1/lerc.html

2.1 はじめに

 電子技術総合研究所(所長 田村浩一郎)では、色の見えに関する様々な問題に取組んできた。この度、当所の研究結果を基盤にして、色の見えを左右する色順応の技術報告書がCIE出版物として刊行されたので、この事項に関する当所の成果について紹介する。

2.2 CIEとは

 CIE(国際照明委員会)は光と照明の分野における科学と技術について、基礎標準と計測手法の開発とその勧告、標準および技術報告書の刊行等を任務とする国際団体である。CIE出版物は光・色彩の分野において各国が標準の依拠する原典となる。上記色順応の技術報告書は、色彩視の定量的評価ならびに色彩表現の質的向上のための国際基準として明示されているので、色彩関連産業に多大の影響を与える。

2.3 色順応とは

 人間の目には、環境に適応して外界を見る機能がある。映画館など暗い部屋に入ると初めはよく見えないが、目の感度が次第に高まって周りが見えるようになる。この機能は明暗順応と呼ばれている。

 人間の目は照明の色に適応する機能もある。自然照明の戸外から白熱電球で照明された部屋に入ると、初めは室内が全体に黄色っぽく感じるが、やがて色の不自然さは感じなくなる。これは、人間の目が照明変化に対して物体の色を恒常的に保つように感度を調節したためである。これが色順応である。

 カラーフィルムは、照明光に応じて感度を変えるような働きはないので、電球照明や夕陽のもとで写した写真はかなり黄色っぽく再現されてしまう。

2.4 非線形色順応式

 網膜に光が入射すると、細胞に電位が生じ、これが視覚信号として大脳に送られる。入射光と細胞電位は、光強度の増加に対して電位が次第に飽和するような非線形関係にあり、この非線形性に注目して色順応モデルを考案された。

 色順応予測式の概要は次の通りである。

 一つの種類の受光細胞について入射レベルが低下すると、視覚系は応答の回復を図ろうとする。入射レベルの低下は細胞間の神経結合を強化し、光強度と電気応答量の関係について急峻な非線形性をもたらし、応答の回復を図っている。一方、入射レベルの上昇は、緩やかな非線形性となって応答が抑えられる。このようなレベル依存の非線形性については生理的証拠も存在している。

 図1は昼光と電球光(または夕陽)におけるモデルの適用を示している。図の左は昼光、右は電球光に対応している。網膜には光の異なる波長帯域に応じる3種の受光細胞があり、モデルは光を長中短に3つの波長帯に分割して、それぞれ個別に応答の非線形性を考察することによって、昼光から電球光への照明変化に対する色の恒常性を説明することができる。

図1 非線形色順応モデル

 このモデルは、さらに、昼光と電球光の間の色順応だけでなく、次のような色知覚現象をも説明することができた。

(1) 照明を明るくすると、白表面はより白く、逆に黒表面は益々黒く感じる現象(スティーブンス効果)。

(2) 照明を明るくすると、有彩色は色がさえて見える効果(ハント効果)。

(3) 色光照明における色見え。例えば、色の強い黄色照明下では明るい表面は黄色を帯びて見えるが、影とか黒色は鮮やかなバイオレットに見える(ヘルソン効果)。

 これらの現象は、色順応とは別な現象であると思われていたが、照明光の質と強度により生じる色順応現象の一種であることを、この非線形色順応式が初めて証明したのである。

2.5 実地試験

CIEは、上述した非線形色順応式が汎用性において優れていることを認めた。そして、CIEは色順応式の正式勧告を行うため、この式について実地試験を加盟各国に呼びかけたのである。これに応えて英国および我が国が実地試験に取組んだのである。

我が国では電子技術総合研究所が中心となり、大学および国公立研究所,民間研究所等の11の機関を招聘して実地試験に取組んだ。そして、世界に類をみない多数の観測者(210名)による膨大な観測データを蓄積したのである。

実際には、電球光と昼光間の色順応効果に関する結果を得たが、当所の予測値が観測値とよく一致していることが判った。

 この結果を得て、CIEは、この色順応予測法を採択して技術報告書として取りまとめることを決定し、技術報告書を出版するに至った。

2.6 波及効果

 色は照明があって初めて見られ、そして照明には色順応が付随するので、色順応は物体の色を評価するとき、常に考慮すべき効果である。従って、その予測は光源の演色性、染色や塗色による着色物の色彩管理、テレビや写真、印刷物の色再現性など色彩産業上の色評価の問題解決に対し適切な指針を与えるものである。

 さらに、予測法はカメラへの導入による人工色彩眼の開発によって色彩情報の忠実伝達技術への展開につながってゆく。図3は、色再現システムに人間の色順応機能を組み入れた一例である。また、異なる照明で見たときの対象物の見えの色を提示することによって、建造物の景観評価や探索照明による画像、例えば胃カメラ像の色補正をするなど、様々な応用が期待できる。

図3 色順応再現システム

3.視覚光学

http://annex.jsap.or.jp/OSJ/50th_cd/main/ronbun/sikaku/sikaku01.htm

外界から眼を通して入力される光情報は、眼球光学系、網膜、視神経、大脳といった組織を通して処理され、われわれの視知覚や行動を生起させる。視覚光学とは、この視覚情報処理システムの機構を明らかにすることを目的とした研究分野である。視覚研究は、2世紀に行われた眼球の解剖学的研究に始まるといわれている。その後16~17世紀に行われた眼光学的研究、19世紀初頭に始まった心理学的研究、20世紀初頭に始まった電気生理学的研究により大きく発展した。20世紀後半には、計算機や方法論の進歩により心理学の一領域である視覚心理物理学が大きく発展し、視覚機構のモデル構築を目的とする計算論的研究も生まれた。また近年には、脳活動を非接触で測定する技術の進歩により新しい展開をみせている。以下では、視覚光学分野のいくつかの項目に関して、これまで明らかになった知見と今後予想される展開を記す。

1.色覚

1.1 網膜受光器 

 人間の網膜にどのような受光器があるかを明らかにすることが、色覚研究の第一歩であった。色覚研究の始まりはNewtonまで遡るが、実際に研究が進みだしたのは20世紀の後半、50年くらい前からである。YoungとHelmholtzが推測(予言)した3種類の錐体が現実に存在することを最初に証明したのは、Tomitaらの微小電極法を使ったコイの網膜からの応答記録である。3種類の錐体、つまりL,M,S錐体や吸引電極法などさまざまな方法で記録され、ヒトの網膜内の錐体からの記録も可能になった。現在、L,M,S錐体に対応した分光感度関数として、Smith-Pokornyの分光感度関数が広く使われている。これまでは、それぞれの錐体の分光感度は少なくとも色覚正常者では1つであると考えられてきた。しかし最近、L,M 錐体の遺伝子が複数ずつ存在することがわかり、そこから起因する分光感度も異なることが明らかとなった。さらに、網膜上の3種の錐体分布の割合が個人によって大きく異なることも、補償光学を使った鮮明な網膜像から明らかとなっている。これは、色覚が個人で異なっていることを意味している。今後の色覚研究では、この個人差のメカニズムの解明がホットな話題を提供していくことに間違いない。

1.2 反対色レベル

 L,M,S錐体で生じた3種類の色応答は網膜内の神経細胞で処理され、さらに高次レベルへと送られる。錐体以降のレベルについては、一般的にはHeringの反対色説に基づいた色応答処理、つまり錐体応答の和や差を取った形として表されると考えられている(赤/緑応答:r/g=L-2M,青/黄応答:b/y=S-(L+M),輝度応答:Lu=L+M)。反対色説ではr/gシステムとb/yシステムは対称的なメカニズムであるとするため、これまで色覚のモデルでは、暗黙のうちに両者は常に同等な並列経路として扱われてきた。しかし、最近、進化的にはr/gシステムとb/yシステムは全く異なって作られてきたことが明らかになってきた。ほ乳類では、L,M錐体が分離せずにb/yシステムだけをもった二色型の色覚が大半を占めることが知られている。われわれ人間の祖先も初めはb/yシステムだけであったらしい。したがって、S錐体が空間的にまばらに分布し、中心・周辺といった受容野構造をもたないというb/yシステムの特性が、色を見るための基本的な(原始的な)構造と考えられる。一方、r/gシステムは、L,M 錐体が遺伝子の突然変異により分化して5~6千万年前に発生したとされている。おそらく、細かい物を見るためにすでに発達していた中心興奮・周辺抑制の受容野構造にL,M 錐体が乗ったために、結果的にL,M錐体の差信号を取るようになったのであろう。r/gシステムは偶然の産物のようである。このように、これまで謎であったr/gとb/yシステムの非対称性が最近、遺伝子研究や生態学的な研究によって解明されつつある。

1.3 色恒常性

 われわれの視覚は、光そのものを見るためでなく、光によって照明された物を見るようにできている。物はどこに置いても変わらないので、照明光が変わっても物は同じに見えなければならない。実際、われわれの視覚には、照明光によらず物の表面の色が同じに見える能力が備わっている。これが色恒常性であり、白い紙はどこに持っていっても白く見えるのはこのためである。色恒常性についてはこれまでに多くの研究があり、いわば現在の色覚や色彩工学研究の主流を占めている。色恒常性を説明する色覚モデルを考案することは、究極の色覚メカニズムの解明につながり、また汎用な色覚モデルはカラー画像処理技術が待ち望んでいるものでもある。色恒常性の要因には大きく分けると色順応と周辺刺激要因の2つがあり、それぞれ研究が進められている。しかし、最近、視覚系は反射物体からの二次的な照明も瞬時に理解して色を見ていることがわかり、これまで考えられてきた以上の複雑な色恒常性メカニズムがあることが示された。色恒常性を十分に理解するためには、まだまだ心理物理的な実験の余地がありそうである。

2.空間知覚

2.1 形態視

 視覚系は、各光受容体によってサンプルされた点の情報から線分や面を構成し、それらに基づき三次元の世界を認識していると考えられている。線分の処理において二次元のガボア関数に類似した形状の受容野をもつ神経細胞の存在が確認され、さまざまな大きさや傾きのものがあることも知られている(方位チャネル、空間周波数チャネル)。このような処理により、ものの輪郭など線分情報の局所的な大きさや傾きを決められる。さらに広い範囲での輪郭情報などは、これらの細胞間の相互作用によっている可能性が心理物理実験により示されている。一方、われわれは輪郭とともに面についても知覚することができるが、面の処理過程に関わる大脳処理についてはほとんど推測の域を出ていない。さらに高次の処理となる顔や物体の認識などは、それらに関連すると推定できる神経細胞の存在が少なからず報告されているが、処理過程として考えたときには理解されていることは少ない。例えば、人の顔に反応する神経細胞が、輪郭の検出結果からどのように顔に対する感度を作りあげられるか大きな疑問である。個々の細胞の反応と物体認識との関係も含め、この点は今後の重要な検討課題である。

2.2 運動視

 運動視に関する研究は、ここ20年ほどで大きな広がりをみせた。ひとつの重要な知見は、運動の処理が比較的初期の処理過程でのフィルター処理の結果として理解できることである。大脳の神経細胞による時空間座標系でのフィルター処理として考えると、運動知覚に関連する錯視的な現象もうまく説明できる。この種の処理によって網膜像の変化から運動の検出が可能であるが、それに続く処理においては多くの研究課題がある。それらは、速度や速度差の推定、回転や拡大/縮小運動の検出、運動情報に基づく背景からの物体の切り出し、運動に基づく立体や奥行きの知覚などの処理、自己運動に関連する処理、またフィルター処理によると検出できない運動の知覚などであり、現在も精力的に調べられている。また、大細胞系と小細胞系の2つの処理経路との関連から、色信号の運動処理への影響が小さいことも、多くの研究で示された。しかし、色信号の運動視への関与については議論が続いており、2つの経路の特性を考える上でも、近い将来にわかりやすい決着がつけられることが望まれる。

2.3 立体視

 視覚系はさまざまな手がかりから外界の三次元空間を認識していると考えられている。それらは、輻輳、調節、線遠近法や陰影等の絵画的な手がかり、運動視差、両眼視差などである。中でも、両眼視差(両眼網膜像差)は重要な空間認識手がかりのひとつである。両眼視差処理過程は、大きく分けて2つの段階がある。視差の検出過程と、検出された視差の解釈の過程である。前者、すなわち左右像の対応点をみつけて視差量を測定する過程に関しては、輝度変化のエッジに基づいて視差を検出するモデルや、特徴点を考えずに空間フィルターを組み合わせて視差を検出するモデルなどが提案されている。後者、すなわち検出された視差の分布から奥行き形状を復元する過程に関しては、対象間の知覚的奥行き量がその視差量に一意に対応しているのではなく、視差変化の中の二次微分成分の有無、周囲の垂直視差の分布、対象の距離など多くの要因によって変化することが示されている。今後の検討課題としては、奥行き知覚と大脳神経細胞の活動との対応、二次元的な視差分布と知覚の関係の精緻なモデル化、奥行き手がかり間の統合機構の解明などが挙げられる。

2.4 眼球運動と空間知覚

 人間の視覚の機能は、視野の中心と周辺で大きく異なる。人間は、空間分解能の高い中心視を興味の対象に向ける、すなわち眼球運動を行いながら、外界から視覚情報を取り込んでいる。網膜から得られた視覚情報から物体の外界における位置を知るためには、眼球位置の情報を用いて、網膜上の座標系を外界上の座標系に変換する必要がある。Stevensらは、眼筋への麻酔により実際には眼球が動かない状態でサッケード眼球運動を行おうとすると、意図したサッケードの方向に視覚刺激が移動するように感じることを報告した。これは、トップダウン的な眼球駆動信号を用いた座標系の変換が行われることを示している。また、サッケード時に刺激を短時間呈示すると位置が誤って知覚されることが知られており、これは、視覚系が空間定位のために用いている眼球位置情報が真の眼球位置からずれているために生じると考えられる。このほかに眼球運動時の空間知覚に関連する現象として、サッケード抑制およびサッケード時の変位知覚抑制を挙げることができる。

2.5 自己運動

 視覚系では、外界の対象の属性が知覚されるばかりでなく、自己の運動にともなうオプティカルフローによって自己運動が知覚される。自己運動の知覚は、隣のホームの電車が動くと、自分の電車が動いているように感じる錯視現象として一般に知られてきたが、心理物理学的研究の結果、視覚系への周辺刺激によって引き起こされることが示された。すなわち、対象の知覚と対照的に、網膜の周辺部に呈示された刺激、また背景として呈示された刺激によって自己運動の知覚が誘導されることが明らかになった。これからの課題としては、自己運動の知覚における視覚系のみならず、聴覚系、前庭感覚系、体性感覚系が関与する感覚統合のメカニズムの解明、2つの視覚経路による情報処理経路と関連づけた自己運動の知覚メカニズムの解明、また認知脳科学的手法によるその脳内部位や時空間的機序の解明、背景と対象(図と地)の分離に依存する自己運動の知覚における注意などの高次情報処理システムの関与の解明などが挙げられる。また工学的側面として、臨場感ディスプレイ、宇宙での人間のパフォーマンス、動揺病などへの応用が挙げられる。

3.視覚機能の変化

3.1 視覚的注意

 注意の研究の歴史は古くHelmholtzによる記述もある。しかし、視覚研究(認知研究ではなく)の流れの中で注意が取り上げられはじめたのは最近である(注意の効果)。そのきっかけのひとつは運動残効に対して視覚的注意が影響するとの報告であり、注意がかなり低次の処理レベルにまで影響を及ぼすと考えられはじめた。その結果、視力や検出閾値の測定、運動視を用いた注意の研究も盛んになっている。また、ブレインイメージングや単一細胞記録などの研究から、注意が視覚一次野の活動にも影響することが明らかにされ、いわゆる初期視覚の研究でも注意の問題を無視できない状況となった。注意の特性として明らかにされていることを列挙すると、視覚的注意は空間位置に向けるのみならず認識した物体に向けることも多い、注意を向けた対象についての変化のみが視覚系に保持される(change blindness)、注意による選択処理を続けて行う場合は数百ミリ秒の間隔が必要である、色と形など異なる刺激属性をひとつの対象に結びつけるためには注意の介在が必要である、一度注意を向けた場所や対象にすぐに再び注意を向けるためには時間がかかる、注意が向くとその付近の情報処理が速くなる(線運動)、など多様である。しかし注意研究は、さまざまな方法で注意を調べているという域を出ておらず、生理学的なモデルとして取り扱える段階ではない。今後も多くの興味深い特性が発見されるであろうが、それらを統一的に説明する新しい展開が期待される。

3.2 発達と加齢 

 乳幼児の視覚の発達を行動観察により心理物理学的に測定する手法が80年ごろに開発され、以後活発に研究が行われてきた。解剖学的な未成熟にもかかわらず、生後4~6週間の幼児で、成人に近い分光感度を持つ三錐体や暗所視、輝度チャネルに相当するメカニズムがすでに機能している。色覚はそれより遅れて生後1~3ヵ月の間に急激に発達する。ただし、幼児の視覚系内部ノイズは成人より多く、反対色性メカニズムの効率は低い。一方、加齢とともに水晶体濃度増加や老人性縮瞳が生じて網膜上刺激の強度低下と分光感度変化がみられ、錐体信号量も低下する。これらより角膜上での暗所視や明所視の相対輝度感度の減少が説明される。強度低下により色弁別能力も悪化するが、刺激強度を補正しても、低刺激強度ではS錐体信号量低下による色弁別悪化がみられる.また波長弁別実験の結果よりL,M錐体が寄与する色チャネルの感度低下が導かれた。その一方で刺激強度が十分な場合には、補償メカニズムによって年齢を通じて見えは安定する。よって、高齢者に対し必要十分な照度を保ち低彩度を避ける配色をすることは有効であるという結論に至った。今後ますますこの分野のデータの蓄積と分析が必要である。

3.3 順応,学習,経験

 視覚系の性質は、偏った刺激状況にさらされることにより変化する。その偏った刺激状況は、タイムスパンや質的な違いにより、順応、学習あるいは経験などと呼ばれている。例えば、前述した色順応や、運動残効という現象が知られている。また、反転眼鏡による実験により、視覚と運動の関係に可塑性があることが明らかになっている。奥行き手がかり統合過程においても、学習により手がかりの寄与度が変化することが示唆されている。これらの知見は、視覚系が刺激状況により柔軟に調整されることを示している。そしてすべての生物の視覚系がさらされている偏った刺激状況は、太陽光に照らされた地球上の環境である。近年では、環境の刺激特性と視覚系の性質の関係を考察する研究も多くみられるようになった。このような視覚系の短期、長期的な時間的変化とその意味に着目した研究は、今後も重要であると思われる。

                                      以上

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