人材開発部門の仕事は どう変わったのか · 2013-02-04 · 18 企業と人材...

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16 企業と人材 2013年2月号 人材開発部門の仕事は どう変わったのか 2012年 人材開発部門の実態と育成理念に関する調査 - 0 20 40 60 80 100 (%) (%) (%) 0 20 40 60 80 調調教育研修の企画・実施関係 手続き等の管理業務 採用およびその他の業務 2007年 2012年 人材開発部門が行っている業務 教育研修ニーズの把握方法 人材開発部門の兼務状況 ※数値は 2012 年調査 *印の項目は 2012 年調査で 付加したものである 0 20 40 60 80 100 人材開発業務のみを行っている 一部、他の業務も兼務している 2007年 2012年 17.6 82.4 39.7 60.3 89.9 93.5 88.4 56.5 72.5 69.6 65.9 60.1 54.3 70.3 27.5 42.8 21.7 10.9 40.6 85.5 63.8 97.1 77.5 69.6 39.9 55.8 52.9 44.2 32.6 73.2 97.1 77.5 55.8 76.8 79.0 65.2 37.7 46.4 30.4 2007年 2012年 ※数値は 2012 年調査 *印の項目は 2012 年調査で 付加したものである

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16 企業と人材  2013年2月号

人材開発部門の仕事はどう変わったのか

2012年 人材開発部門の実態と育成理念に関する調査

国内・海外留学制度の運用*

キャリア相談に関する業務*

求人・採用に関する業務

自己啓発支援の企画・実施

Off-

JTの企画・実施

OJT実施の支援

研修所の管理・運営

各種助成金・給付金の申請手続き

社内資格制度の運用

社内講師・インストラクターの養成

社内講師・インストラクターの業務

教育研修効果の測定・評価

教育研修の実施・運営

教育研修教材の作成・改定

教育研修プログラムの作成・改定

教育研修規定の作成・改定

教育研修体系の作成・改定

年度の教育研修計画の立案

教育研修ニーズの把握

0

20

40

60

80

100(%)

(%) (%)

0

20

40

60

80

労働組合からの要請

人材開発委員会での検討

社員からの要請

従業員満足度調査の結果

研修時のアンケート調査

現場の管理者との意見交換会

人材開発スタッフによるヒアリング

他部門からの要請

経営トップからの指示

経営戦略上の要請

職場での自主勉強会や

社員主催の学習活動支援*

公的資格・技能検定等の

申請手続き

教育研修の企画・実施関係 手続き等の管理業務 採用およびその他の業務

2007年2012年

2007年

2012年

外部講師・外部研修団体等

からの指摘や提案*

0

20

40

60

80

一部、他の業務も兼務している

人材開発業務のみを行っている

人材開発部門が行っている業務

教育研修ニーズの把握方法 人材開発部門の兼務状況

※数値は2012 年調査*印の項目は2012 年調査で 付加したものである

本誌1000号

本誌1000号

0

20

40

60

80

100

人材開発業務のみを行っている

一部、他の業務も兼務している

2007年2012年

17.6

82.4

39.7

60.3

89.9 93.5 88.4

56.5

72.569.665.9

60.154.3

70.3

27.5

42.8

21.7

10.9

40.6

85.5

63.8

97.1

77.569.6

39.9

55.8 52.9

44.2

32.6

73.2

97.1

77.5

55.8

76.8 79.0

65.2

37.746.4

30.4

2007年

2012年

※数値は2012 年調査*印の項目は2012 年調査で 付加したものである

17企業と人材  2013年2月号

挑戦・常に挑戦者である人材の育成・チャレンジ精神を持ち続ける人財

倫理観・倫理観に富む人財であること・社会的責任を果たすことのできる人材

成長・仕事を通した成長が働きがいに・自己成長と自己実現の追求

自律・自立・真に自立し、お互いに成長を促す相互支援ができる人材・自ら考え行動する自律型社員の育成

創造・新たな価値の創造に向けた人材力強化・主体的で創造性豊かな人材

プロフェッショナル・自律したプロフェッショナルの集団へ・高い専門能力を有する人材

人材育成ビジョンのキーワード

 急速なグローバル化に伴う経営環境の激変を背景に、

変化に対応できる人材育成への期待はますます高まっ

ている。リーマンショックからすでに5年、そして東日

本大震災から2年が経とうとしているいま、人材開発部

門はどのような理念を掲げ、これからどのような方向に

向かおうとしているのだろうか。

 本誌では、2007 年に「人材開発スタッフ・部門の

実態に関する調査」を実施し、人材開発部門の実情を

明らかにしたが、今回は創刊 1000 号を記念して、5

年ぶりに同趣旨の調査を実施した。

 今回の調査項目は、大きく次の2つである。

❶人材育成・人材開発の理念やビジョン、人材開発部門の使命(ミッション)❷人材開発部門の組織・業務の状況と今後の課題 ❶の理念やビジョン・ミッションについては、42頁に

〔企業別実態2〕として紹介したが、各社各様の理念に

基づいて人材育成のめざすべき人材像が明示されてい

る。キーワードをいくつか拾ってみると、「挑戦」、「自律・

自立」、「創造」、「倫理観」、「プロフェッショナル」、「成長」

など、いずれも新時代にふさわしい言葉が挙がってい

る。自社のビジョンを描く際に参考にしていただきたい。

 さて、リーマンショックを挟んで、人材開発部門の仕

事はどう変わったのか。2007 年の調査と比べたときに

特徴的なのは、「教育研修効果の測定・評価」の仕事

が大きく比重を高めていることである。以前にも増して、

費用対効果を厳しく問われる時代となったようだ。

別表 集計企業の内訳〔単位:%、( )内は社数〕

規 模 合 計 製造業 非製造業

調査計 100.0 (139)

41.7 (58)

58.3 (81)

1,000 人以上 100.0 (71)

49.3 (35)

50.7 (36)

999 人以下 100.0 (68)

33.8 (23)

66.2 (45)

〈参考〉回答企業の平均年齢〔単位:歳、( )内は社数〕

規 模 合 計 製造業 非製造業

調査計 39.6 (117)

39.6 (52)

39.6 (65)

1,000 人以上 39.9 (55)

40.0 (30)

39.8 (25)

999 人以下 39.4 (62)

39.1 (22)

39.5 (40)

調査対象: 本誌読者から任意抽出した約 2,300 社

調査時期: 2012 年 10月中旬〜 11月下旬

調査方法: 郵送によるアンケート調査方式

回答状況: 回答は 140 社。うち集計締切までに回答のあった139 社について集計。集計企業の内訳は別表のとおり。

集計方法: 集計にあたっては、無回答を除いて集計している。そのため、集計表ごとに集計社数が異なっていることに留意されたい。

調査要領

18 企業と人材  2013年2月号

変化の激しい経営環境にあって、人材開発部門はどのような理念を掲げ、どのような人材開発業務に取り組み、どのような方向に向かおうとしているのだろうか。本誌が5年ぶりに実施した「人材開発部門の実態と育成理念に関する調査」から、ここでは、次の3点について調査結果の概要を紹介していきたい。① 人材開発部門の組織概要と業務の状況②� 社外研修団体等の活用状況と社内講師・人材開発スタッフの育成状況③ 人材開発部門の現在の問題点と今後の課題なお、企業規模別の集計は、「1,000人以上」と「999人以下」の2つに大別して行っており、便宜的に、1,000人以上を「大企業」、999人以下を「中堅中小企業」と表記している。

1 人材開発部門の組織概要

表1~5、図1~3

 最初に、回答企業における人材開発部門の組織の現状を概観してみよう。

1 部門の組織としての位置づけと名称

  �人材開発部門は「課」に相当が54.4%、「部」に相

当が29.4%

人材開発部門の組織としての位置づけを、「部」、「課」、「係・チーム」といった最も一般的な組織区分に従って判断してもらったところ、「『課』に相当」が54.4%と最も多く半数を超え、次いで「『部』に相当」の29.4%、「『係・チーム』に相当」の12.5%と続く。当然ながら、組織の大きさは規模によっても異なり、「『部』に相当」は中堅中小企業の24.6%に対して大企業は33.8%、「『係・チーム』に相当」は逆に、大企業の 5.6%に対して中堅中小企業は20.0%とそれぞれ特徴がみられる。通常、組織の大きさは、その部門が果たす役割や期待される機能の重要度によって決まると考えられるが、後述するように、人材開発部門は人材開発業務だけを行っているわけではなく、8割強の企業では他の業務を一部兼務しているのが実態である。組織の大きさだけで、人材開発に対する企業の姿勢を判断するわけにはいかないようだ。なお、今回の調査では、いわゆる「教育分社」によって設立された企業からの回答はなかったことを付記しておきたい。

  �人材開発部門は「課」に相当が54.4%、「部」に相  �人材開発部門は「課」に相当が54.4%、「部」に相  �人材開発部門は「課」に相当が54.4%、「部」に相●

調査結果の概要

人材開発部門の実態と育成理念に関する調査●人材開発部門の組織的位置づけは、「課」に相当54.4%、「部」に相当29.4%●82.4%が他の業務を兼務、兼務業務のトップは「採用」の80.4%●ニーズ把握の上位は「経営トップからの指示」、「研修時のアンケート調査」など●外部研修団体は92.1%が活用、一方、社内講師を89.8%が活用●スタッフ育成に取り組んでいる企業は48.6%、方法は「外部研修機関への派遣」●問題点の1位は「研修効果の測定が不十分」、2位は「人員不足で業務が多忙」●今後の課題は「経営戦略との連動の強化」と「成果につながる研修企画の強化」

創刊1000号記念調査

19企業と人材  2013年2月号

  �部門の名称は多彩、「人材」の代わりに「人財」を含む部門名は11社

さて、組織としての位置づけを把握したうえで、人材開発部門の名称をみてみると、「部」に相当する場合は、「人事部」、「人材(財)開発部」、「人事教育部」、「人財戦略・開発室」など。半数を占める「課」に相当する場合は、「人材開発センター」、「人材開発課」、「人材教育課」、「人材開発室」など。「係・チーム」に相当する場合は、「人事課研修チーム」、「総務人事部研修担当」のほか、部や課の名称のみのものが多く、そのなかの担当者として位置づけられているようだ。いずれにしても、人材開発部門の名称は、各社の実情を反映して大変多岐にわたっており、詳細は、39頁の〔企業別実態1〕をご覧いただきたい。なお、名称として、「人材」の代わりに「人財」を使用している企業は11社であった。

2 人材開発スタッフの人数と構成

  スタッフ数は平均5.8人、うち女性は2.3人

人材開発スタッフの人数は、全体平均で5.8人である(ただし、合計人数が30人を超える企業は平均の集計から除外。以下同じ)。うち女性は2.3人で、全体の約4割(39.7%)を占めている。規模別では、大企業7.4人、中堅中小企業4.1人、産業別では、製造業5.3人、非製造業6.2人となっている。スタッフ数の分布状況をみると、「3~4人」が最も多く36.2%、次いで「5~6人」17.3%、「7~8人」14.2%などが続き、スタッフ数の最高人数は127人(全国の多数の拠点にスタッフを配置している企業)、最低人数は1人(専門スタッフは1人のみの企業)といった分布状況である。参考までに、人材開発スタッフ(平均5.8人)の構成を役職別等でみてみると、全体平均では、「部長クラス」0.7人、「課長クラス」1.2人、「係長・主任クラス」1.2人、「一般社員」2.2人、「契約社員等の非正規社員」0.5人といった割合である。前述した組織区分では「『課』に相当」する企業が半数強あったことを考え合わせると、部長クラスの 0.7 人を除いた 5.1 人あたりが、現在の平均的な人材開発部門の陣容といえそうだ。

  �  �  �●

  スタッフ数は平均5.8人、うち女性は2.3人  スタッフ数は平均5.8人、うち女性は2.3人  スタッフ数は平均5.8人、うち女性は2.3人●

  現有スタッフの在籍年数は平均4.6年

次に、現在の正社員スタッフの在籍年数やローテーションの年数などをみてみよう。まず、在籍年数は平均4.6 年。規模別では、大企業の3.7 年に対し、中堅中小企業は5.6年と少し長めである(ただし、在籍年数が16年以上は平均の集計から除外。以下同じ)。また、最高年数は28年、最低年数は1年と在籍年数にも幅があり、人材開発一筋のベテランスタッフから、配属されたばかりの新人スタッフまで、多様なキャリア構成となっている。では、人材開発スタッフは何年ぐらいで人事異動が行われているのだろうか。平均的なローテーション年数は4.8年で、先ほどの在籍年数に近いものとなっており、分布状況をみても「5年」が32.6%と最も多い。ただ、ローテーション年数が5年未満(2~4年)という企業も合わせて46.8%と半数近くに上っており、意外に短いという印象を受ける。ノウハウの蓄積や伝承といった側面から、この5年程度をどう評価するかはなかなか難しいところであるが、各企業の人事政策を反映した結果であることは間違いない。

3 人材開発スタッフの増減状況

 「リーマンショック以後に減少」は21.6%

間接部門である人材開発部門の位置づけや人員体制は、企業経営の如何によって左右されてきたが、今回の調査では、わが国の企業経営にも大きな影響を与えたリーマンショック(2008年)を指標として、以前と以後のスタッフの増減状況をたずねてみた。その結果、半数を超える54.5%が「現状と同じ人数」と答えており、「増加した」(20.1%)、「減少し

  現有スタッフの在籍年数は平均4.6年  現有スタッフの在籍年数は平均4.6年  現有スタッフの在籍年数は平均4.6年●

 「リーマンショック以後に減少」は21.6% 「リーマンショック以後に減少」は21.6% 「リーマンショック以後に減少」は21.6%●

概 要

図1 人材開発部門の組織としての位置づけ

「係・チーム」に相当12.5%

「部」に相当29.4%

「部」に相当29.4%

「課」に相当54.4%

「係・チーム」に相当12.5%

その他3.7%

20 企業と人材  2013年2月号

大卒・大学院卒新入社員教育の実態本誌調査 概 要創刊1000号記念調査 人材開発部門の実態と育成理念に関する調査

た」(21.6%)がそれぞれ2割程度という結果になった。規模別にみると、大企業では「減少した」(26.8%)が多い一方、「増加した」(25.4%)もそれなりの割合を占めているのが注目される。中堅中小企業では「現状と同じ人数」が65.1%と7割近く、リーマンショックが直接人員体制に影響を及ぼすことは少なかったようだ。他方、産業別にみると、製造業では「増加した」

(24.6%)が「減少した」(22.8%)よりも多く、非製造業では逆に、「減少した」(20.8%)が「増加した」(16.9%)よりも上回っている。この4年間の経営状況の変化は、非製造業のほうに比較的大きかったのかもしれない(部門を新設した非製造企業も何社かみられる)。参考までに、増減人数をみると、平均増加人数は3.5人、同減少人数は2.3人となっている。

4 人材開発部門の兼務状況

  82.4%が他の業務を兼務

人材開発部門の実際の業務内容をみていこう。まず兼務している業務の有無をみると、「人材開発業務のみを行っている」は2割弱(17.6%)のみで、あとの8割強(82.4%)は「一部、他の業務を兼務している」と答えている。兼務状況は、企業規模によって大きな違いがみられる。大企業では、「人材開発業務のみを行っている」は3割強(33.8%)に達し、「一部、他の業務を兼務している」は66.2%。一方、中堅中小企業では、「人材開発業務のみを行っている」は1社もなく、すべ

  82.4%が他の業務を兼務  82.4%が他の業務を兼務  82.4%が他の業務を兼務●

ての企業が「一部、他の業務を兼務している」という結果になった。  兼務している業務のトップは「採用」

他の業務を兼務している企業について、兼務業務を多い順に並べると、「採用」が80.4%と圧倒的に多く、次いで「人事制度運用」52.7%、「人事企画」42.9%、「給与計算」26.8%、「総務」、「社内報」がそれぞれ20.5%など多岐にわたっている。上記以外にも、「経営計画」を始めとして、「OB会」、「メンタルヘルス」、「福利厚生」などさまざまな業務が挙がっている。人材開発部門とはいいながら、広く人事管理や組織開発にかかわる業務をこなしている実態がうかがえる。

2 人材開発部門の業務、教育ニーズ把握と情報収集方法

16頁の図、表6~8、図4

人材開発部門のコアとなる仕事について、具体的な業務内容、教育ニーズの把握方法、人材開発関連

図2 リーマンショック前と比較したスタッフの増減状況

増加した20.1%

(平均3.5人)減少した21.6%

(平均2.3人)

増加した20.1%

(平均3.5人)

現状と同じ人数54.5%

減少した21.6%

(平均2.3人)

その他3.7%

図3 人材開発部門の兼務状況と兼務している業務

人材開発業務のみを行っている

17.6%

一部、他の業務も兼務している

82.4%

採 用

人事制度運用

人事企画

給与計算

総 務

社内報

その他

80.4

52.7

42.9

26.8

20.5

20.5

25.9

兼務している業務(兼務している=100、複数回答)

0 20 40 60 80 100(%)

人材開発業務のみを行っている

17.6%

一部、他の業務も兼務している

82.4%

21企業と人材  2013年2月号

概 要

情報の収集方法の3つの観点からみてみよう。

1 人材開発部門の業務

  教育研修業務以外にも多彩な業務を担当

人材開発部門の業務を、便宜上、「教育研修の企画・実施関係」、「手続き等の管理業務」、「採用およびその他の業務」の3つに分けて、現在行っている業務を概観してみよう。まず「教育研修の企画・実施関係」で8割以上の実施率となっている業務は、「教育研修の実施運営」(97.1%)、「年度の教育研修計画の立案」(93.5%)、「教育研修ニーズの把握」(89.9%)、「教育研修体系の作成・改定」(88.4%)、「教育研修プログラムの作成・改定」(85.5%)などである。そのほか、「教育研修効果の測定・評価」(77.5%)や「社内講師・インストラクターの業務」(69.6%)、「教育研修教材の作成・改定」(63.8%)なども大切な業務である。次に、「手続き等の管理業務」で5割以上の実施率となっている業務は、「社内資格制度の運用」(55.8%)、「各種助成金・給付金の申請手続き」(52.9%)など。「採用およびその他の業務」で6割以上の実施率となっている業務は、「自己啓発支援の企画・実施」(79.0%)、「Off-JT の企画・実施」(76.8%)、「OJT実施の支援」(73.2%)、「求人・採用に関する業務」(65.2%)などである。採用に関する業務は、前述した兼務している業務でも8割以上を占めており、いまや人材開発部門の重要な業務に位置づけられていると考えてよさそうだ。人材育成は採用から始まっていると考えれば、当然の成り行きでもある。

2 教育研修ニーズの把握方法

  ニーズ把握は「経営トップからの指示」が1位

先にみたとおり、教育研修ニーズの把握は、人材開発部門の重要な業務である。実際に、どのような方法でニーズ把握に取り組んでいるかをみると、当然ともいえるが、「経営トップからの指示」(72.5%)が最も多く、次いで、「研修時のアンケート調査」(70.3%)、「経営戦略上の要請」(69.6%)、「他

部門からの要請」(65.9%)、「人材開発スタッフによるヒアリング」(60.1%)などの方法が続いている。このほか、「現場の管理者との意見交換会」(54.3%)や「社員からの要請」(42.8%)なども大切な方法になっている。また、注目すべき点は、4割強(40.6%)が「外部講師・外部研修団体等からの指摘や提案」を挙げていることであろう。外部講師等は、客観的な立場からニーズを指摘してくれる存在としても活用されているようである。  大企業は外部からの提案もニーズ把握に活用

教育研修ニーズの把握方法は、企業規模によってもそれぞれ特徴がみられる。大企業では、「研修時のアンケート調査」(88.7%)、「経営戦略上の要請」(81.7%)、「人材開発スタッフによるヒアリング」(83.1%)が上位を占め、「外部講師・外部研修団体等からの指摘や提案」も53.5%と多いのが特徴である。それに対し、中堅中小企業では、「経営トップからの指示」(71.6%)、「他部門からの要請」(65.7%)、「経営戦略上の要請」(56.7%)などが上位に並んでいるほか、大企業とは違って、「人材開発スタッフによるヒアリング」は35.8%と少なめである。

3 人材開発関連情報の収集方法

●情報収集もインターネット優先

IT時代を迎えて、人材開発に関連するさまざま

図4 人材開発関連情報の収集方法(複数回答)

86.3

78.4

51.1

46.8

35.3

23.7

29.5

30.2

31.7

0 20 40 60 80 100

専門誌の購読

インターネットで検索

民間の研修会社からの情報提供

コンサルタントからの情報提供

グループ企業からの情報提供

業界団体からの情報提供

大学、ビジネススクール等からの情報提供

商工会議所等の公的機関からの情報提供

他社の人材開発スタッフとの交流会・勉強会等での情報入手

(%)

22 企業と人材  2013年2月号

大卒・大学院卒新入社員教育の実態本誌調査 概 要創刊1000号記念調査 人材開発部門の実態と育成理念に関する調査

な情報も、多様な媒体を通して流通している。人材開発スタッフが日頃行っている情報収集の方法を多い順にみてみると、トップは「民間の研修会社からの情報提供」の86.3%で、以下、「インターネットで検索」(78.4%)、「他社の人材開発スタッフとの交流会・勉強会等での情報入手」(51.1%)、「専門誌の購読」(46.8%)と続いている。規模別にみると、大企業では「大学、ビジネススクール等からの情報提供」(45.1%)、「コンサルタントからの情報提供」(47.9%)、中堅中小企業の場合は、「商工会議所等の公的機関からの情報提供」(36.8%)が比較的多く、それぞれ大企業ならでは、中堅中小企業ならではといった感がある。産業別では、「業界団体からの情報提供」が、製造業の24.1%に対して、非製造業は43.2%と多いのが注目される。トップとなった「民間の研修会社からの情報提供」も、その多くはインターネットを通じて行われることが多いので、いまや情報収集のほとんどはインターネットだよりとなっている。しかし、その一方で、従来からあった勉強会などのフェイス・ツー・フェイスの情報収集も大切にしているスタッフの姿が浮かび上がる結果となっている。

3 研修所(自社保有)および研修施設

表9

●研修所は約3割が保有、研修施設は約4割が設置

完全に独立した自社の研修所を保有している企業は、全回答企業の30.7%である。規模別では、大

企業が48.6%、中堅中小企業が11.9%。研修所の保有数は、8割近く(78.4%)が「1カ所」で、最高は「5カ所」である。最近は、上記のような独立した研修所とは別に、社屋等の一角やフロアーを利用して、研修専用施設を設ける事例も多くみられる。こうした独自の研修施設を設けている企業は、全回答企業の38.2%である。規模別では、大企業が55.7%、中堅中小企業が21.0%。研修施設の設置数は、「1カ所」が54.3%、「2カ所」が26.1%で、最高は「10カ所」、平均設置数は「2.2カ所」である。融通のきく独自の研修施設は、現場にも近く、コストの面からも、今後ますます普及していきそうである。

4 外部講師・外部研修団体等の活用状況

表10~13、図5~7

人材開発を推進するにあたって、外部講師や外部研修団体の活用は大きなテーマである。今回は、いくつかの側面から、人材開発における外部研修団体等の活用状況を探ってみた。

1 外部研修団体等の活用の有無と活用団体数

  9割強が外部研修団体等を活用

まずは、活用の有無をみると、9割を超える92.1%の企業が活用しており、活用していない企業はわずかに7.9%である。規模別では、大企業は100%の活用率であるのに対し、中堅中小企業の活用率は83.8%と若干少なめである。

1~2団体21.6

3~4団体27.6

5~6団体23.3

7~8団体9.5

活用している研修団体数(活用している=100)

0 20 40 60 80 100活用している92.1%

活用していない7.9%

平均5.6団体

1~2団体21.6

3~4団体27.6

5~6団体23.3

7~8団体9.5

9~10団体7.8

20団体以上7.811~19団体

2.6

(%)

図5 外部研修団体等の活用の有無と2012年度の活用団体数

23企業と人材  2013年2月号

概 要

活用している企業について、2012年度における活用団体数をみると、「3~4団体」が27.6%、「5~6団体」が 23.3%、「1~2団体」が 21.6%とばらついており、最高は42団体、最低は1団体、平均は5.6団体となっている(20団体を超える3社は、平均の集計から除外)。規模別にみると、大企業の場合は「3~4団体」の27.0%をピークに、「20団体以上」(12.7%)まで広く分布しているのに対し、中堅中小企業の場合は「1~2団体」の34.0%をピークに、「5~6団体」(28.3%)あたりまでの分布となっている。実際には、研修の目的に応じて研修団体の選択範囲を広げる場合もあれば、ある特定の団体と深くかかわり長くつきあう場合もある。コストの問題もあり、この結果から、活用団体が多い少ないといった傾向は、いちがいにはいえないようである。

2 �階層別・職能別教育研修にみる外部研修団体等の活用率

  外部の活用率は新入社員研修で96.9%

それでは、個々の研修にあたって、外部講師・外部研修団体はどの程度活用されているのだろうか。今回の調査では、主な10の階層別・職能別教育研修を挙げて、それぞれの研修実施の有無および外部研修団体活用の有無を調査したが、その結果をまとめたのが図6である。回答企業のうち、各研修を実施している割合が

「研修の実施率」、各研修を実施している企業のうち、外部研修団対等を活用している割合が「外部研修団体の活用率」である。これをみると、実施率の高い研修は「新入社員研修」(96.9%)、「初級管理者研修」(86.6%)、「中堅社員研修」(81.1%)などで、活用率はそれぞれ70.2%、76.4%、68.9%である。また、活用率に着目すると、「グローバル人材研修」(実施率36.0%、活用率 86.7%)、「経営幹部育成研修」(同 61.9%、同92.3%)などは、実施率は低めではあるものの、活用率の高い研修である。いずれにしても、今回挙げた10の研修については、ほぼ7割以上の活用率となっている。

3 �集合研修の年間延べ実施日数と外部研修団体等の活用比率

  集合研修の年間延べ実施日数は平均95.5日

前項の設問は、各研修にわずかずつでも外部研修団体がかかわっていれば「活用している」という回答を選択する形をとっている。しかし、実際には、数日に及ぶ集合研修のうち、ある1日を外部講師にお願いするといった例も少なくない。そこで、外部研修団体の活用率をより実態に則して探るために、アプローチの仕方を少々変えて、「集合研修(Off・JT)の年間延べ実施日数に占める外部研修団体の活用比率」をたずねてみた。まず、集合研修の年間延べ実施日数は、当然のことながら、「20日未満」から「300日以上」まで広く分布しているが、平均実施日数は 95.5 日となっ

新入社員研修

中堅社員研修

初級管理者研修

中級管理者研修

上級管理者研修

経営幹部育成研修

営業社員教育

グローバル人材研修

キャリア開発研修

内定者研修 38.938.9

70.270.2

68.968.9

76.476.4

82.282.2

78.278.2

86.786.7

73.373.3

92.392.3

89.589.5

70.9

96.9

81.1

86.6

70.3

44.0

36.0

60.0

61.9

67.7

00 2020 4040 6060 8080 100100

外部研修団体の活用率研修の実施率 研修名

(%)(%)

図6 �階層別・職能別教育研修の実施率と�外部研修団体等の活用率

1~3割程度46.0%

7~9割程度24.3%

全面的に活用9.7%

1~3割程度46.0%

4~6割程度20.2%

7~9割程度24.3%

全面的に活用9.7%

図7 集合研修実施日数に対する外部研修団体等の活用比率

24 企業と人材  2013年2月号

大卒・大学院卒新入社員教育の実態本誌調査 概 要創刊1000号記念調査 人材開発部門の実態と育成理念に関する調査

これまでも大きな期待が寄せられてきた。社内講師の活用をめぐる状況をみてみよう。

1 社内講師の活用の有無と育成施策

  約9割が社内講師を活用、ただし育成は4割強

全回答企業のうち、社内講師を活用している企業は89.9%と9割近い。活用を「現在、検討中」の企業が4.4%で、活用していない企業は5.8%とわずかである。規模別では、中堅中小企業の活用率が84.8%と、平均よりわずかに低くなっている。それでは、社内講師を活用している企業は、社内講師を育成するために具体的な施策を講じているのだろうか。4割強(43.0%)は「特別な施策は、とくに実施していない」と回答しており、指名された社内講師任せのようである。社内講師の育成施策としては、「外部研修機関への派遣」(37.2%)、「講師マニュアルの作成・整備」(26.4%)、「社内における講師育成研修の実施」(24.8%)などが実施されている。なお、社内講師が担当している研修も、新入社員研修やマナー教育からコンプライアンス研修まで、大変多岐にわたっている。詳細は、〔企業別実態4〕(52頁)をご覧いただきたい。

2 社内講師を活用するメリットとデメリット

  メリットはコスト減、デメリットは社員の負担増

使い勝手のいい社内講師であるとしても、活用にあたっては、メリットだけではなくデメリットもあるはずで、日頃の実感を自由に記入していただいた。メリットとしては、「コストが低い」、「自社に

ている(ただし、延べ実施日数1,000日以上の4社は、平均の集計から除外)。規模別では、大企業が平均130.3日、中堅中小企業が55.4日である。  集合研修での活用率は「1~3割程度」が46.0%

これらの延べ実施日数に対して、外部講師・外部研修団体の活用比率はどのくらいかを“おおよその見当”で回答してもらったところ、表13のとおり、「1割程度」(19.4%)から「全面的に活用」(9.7%)まで、広く分布する結果となった。これを少し大括りにしてしてみると、「1~3割程度」が46.0%、「4~6割程度」が20.2%、「7~9割程度」が24.3%、そして「全面的に活用」も1割近い9.7%となる。外部研修団体等の活用は、日数(時間)という量の面でも相当進んでいるのが実態のようだ。教育研修の効果を高めるためにも、頼りになる(あるいは頼らざるを得ない)外部研修団体であるが、利用にあたっては、さまざまなメリット・デメリットがあるのも確かである。利用する際の問題点や課題について自由に記入してもらったところ、「費用が高い」、「自社の実態を分かってもらうためのすり合わせに時間がかかる」といった声が寄せられている。詳細は〔企業別実態3〕(50頁)をご覧いただきたい。

5 社内講師の活用状況と育成

表14、図8

研修費用のコストダウンだけではなく、社員自身の成長とスキルアップ、キャリア開発を促すといった観点からも、社内講師・インストラクター等の活用には、

図8 社内講師の活用状況と育成施策

その他

43.0

37.2

26.4

24.8

2.5

社内講師の育成施策(活用している=100、複数回答)

0 20 40 60 80 100

社内講師を活用している89.8%

外部研修機関への派遣

特別な施策は、とくに実施していない

講師マニュアルの作成・整備社内における講師育成研修の実施

社内講師を活用していない5.8%

現在、検討中4.4%

(%)

25企業と人材  2013年2月号

概 要

合った内容で研修を行える」、「社内事情に精通している」、「カリキュラムの変更等にも柔軟に対応できる」、「講師を務める社員自身の成長につながる」などが代表的な意見である。他方、デメリットとしては、「兼務させるため社員の負担が大きい」、「社員や社内事情がわかるので、厳しいことを言いづらい」、「巧拙の差が激しく、研修効果が一定でない」、「新しい見識・情報が入手できない」などの意見が寄せられている。このほか、講師や後継者の育成を課題として挙げる意見も多かった(55頁の〔企業別実態5〕参照)。社内講師の活用は今後も続けざるを得ないことを考えると、デメリットを少しでも減らし、メリットを増やしていく工夫と努力が求められよう。

6 人材開発スタッフ育成の取り組み状況

表15~17、図9

人材開発部門は、全社の教育研修を実施・運営する機能と役割をもっているが、では、それを推進していくスタッフの育成にはどのように取り組んでいるのだろうか。育成への取り組み状況や育成施策の内容等についてみてみよう。

1 育成への取り組みの有無と育成施策

  スタッフの育成に取り組んでいる企業は約半分

まず人材開発スタッフの育成に取り組んでいるかどうかをみると、「取り組んでいる」が48.6%、「取り組んでいない」が44.9%、「現在、育成計画を作成中」が6.5%という結果である。育成計画を作成

中の企業を含めて、辛うじて5割強の企業が育成に取り組んでいるのが現状である。規模別の違いも大きい。大企業では、60.6%が「取り組んでいる」、8.5%が「現在、育成計画を作成中」と答えており、合わせて7割近くが取り組んでいる。それに対して、中堅中小企業では、「取り組んでいる」が35.8%と4割に満たず、「現在、育成計画を作成中」の4.5%と合わせてようやく4割程度になっている。中堅中小企業では、スタッフの育成まで手が回らないのが実情のようだ。  スタッフの育成は「外部研修機関への派遣」で

育成に取り組んでいる企業の具体的な育成・支援施策としては、「外部研修機関への派遣」が63.9%と最も多く、次いで「自己啓発への支援」(51.4%)、「OJT計画の作成・実施」(40.3%)、「人材開発スタッフの教育計画の作成」(34.7%)などが続いている。規模別にみると、大企業では、さまざまな施策や支援を用意して育成を図っているのに対して、中堅中小企業では、「外部研修機関への派遣」(65.4%)と「自己啓発への支援」(46.2%)の2つに比重がかかっているのが特徴である(支援の内容等は37頁および38頁を参照)。

2 正社員スタッフの教育予算と推奨資格

  スタッフの育成予算は平均9万1,000円

人材開発スタッフの育成には、どのぐらいの費用をかけて取り組んでいるのだろうか。正社員スタッフ1人あたりの年間教育予算をみると、平均で約9万1,000円となっている(ただし、「1万円未満」と「150万円以上」は平均の集計から除外)。

図9 人材開発スタッフ育成の取り組み状況と育成・支援施策

その他

63.9

51.4

40.3

34.7

29.2

8.3

具体的な育成・支援の方法(取り組んでいる=100、複数回答)

0 20 40 60 80 100

取り組んでいる48.6%

現在、育成計画を作成中6.5%

取り組んでいない44.9%

外部研修機関への派遣

自己啓発への支援

OJT計画の作成・実施人材開発スタッフの教育計画の作成人材開発スタッフの能力要件の策定

(%)

26 企業と人材  2013年2月号

大卒・大学院卒新入社員教育の実態本誌調査 概 要創刊1000号記念調査 人材開発部門の実態と育成理念に関する調査

教育予算の分布状況をみると、「2~3万円未満」と「5~10万円未満」がそれぞれ20.0%と合わせて4割が集中しているものの、最高200万円から最低5,000円まで大変ばらつきがある。教育予算の回答企業が少ないこともあり、参考値としてご覧いただきたい。  資格取得を奨励している企業は約2割

最後に、人材開発スタッフに取得を奨励している資格(公的資格・民間資格等)などを明示しているかどうかをたずねてみた。その結果、「推奨資格を示している」企業は18.6%と約2割程度で、ほかに「現在、検討中」の企業が4.7%あった。実際に推奨している資格をみると、「ビジネスキャリア検定」や「キャリアカウンセラー」などのほか、「情報処理技術者」「専門調理師」などの各業界で求めれらる資格が挙がっている。仕事に役立つことはもちろん、自己啓発への動機づけとしても、推奨資格の設定は今後広がる可能性がある(詳細は、36頁の企業別一覧を参照)。

7 人材開発部門の現在の問題点

表18、図10

  �問題点は、1位「研修効果の測定が不十分」、2位「人

員不足のため業務が多忙である」

経営環境がめまぐるしく変化するなか、人材開発部門に対する期待はますます大きくなっているが、さまざまな問題点や課題を抱えているのも事実である。人材開発部門の問題点をみていきたい。調査では、現在人材開発部門が抱えていると考えられる問題点について20項目の選択肢を挙げているが、そのなかで、最も多かった問題点は「研修効果の測定が不十分」(66.7%)であった。規模別にみると、大企業の76.8%(中堅中小企業は56.1%)がこの問題を挙げており、いわゆる費用対効果を厳しく問われている現状が浮かび上がっている。次いで、二番目に多かったのが「人員不足のため業務が多忙である」の60.7%である。これは規模にかかわらずに多く、人員不足のため、研修効果の測定といった手間のかかる業務を行う余裕がないと

いうことかもしれない。6割以上の企業が挙げた問題点は上記の2点だけであったが、このほか、比較的多かった問題点をみると、次のようになる。まず、経営・組織等にかかわる問題点としては、「人事部門以外の部門との意思疎通が不十分」(28.1%)、「経営トップとの意思疎通が弱い」(23.0%)など社内コミュニケーションにかかわるものは、2~3割の企業が挙げている。人材開発部門の仕事そのものである教育研修企画や部門の運営等に関する問題点としては、先ほどの研修効果の測定以外に、約4割の企業が「前例踏襲型の研修になってしまう」(43.0%)、「現場の教育ニーズ把握が不十分」(37.8%)など、これまでにも指摘されてきた問題点を挙げている。人材開発スタッフ等の“ヒト”にかかわる問題点としては、先ほどの人員不足以外に、約4割が「スタッフの能力開発が不十分」(40.7%)、2割強が「部門の教育担当者間や、教育スタッフ同士の情報共有・意見交換が不十分」(23.7%、大企業は34.8%)を挙げている。なお、「教育予算が足りない」を問題点として挙げた企業は、意外にも21.5%にとどまっている。教育予算は、人材開発部門の問題点というよりは経営の課題であり、所与の条件として受け止めるしかないということであろう。

8 人材開発部門の今後の取り組み課題

表19、図11

  �今後の課題は、1位「経営戦略との連動強化」、2

位「成果につながる研修企画の強化」

最後に、人材開発部門の今後の取り組み課題は何かをみていくことにしたい。調査では、前述の問題点と同様、予想される課題について20項目の選択肢を挙げている。まず、最も多かったのは「経営戦略との連動強化」

(67.9%)で、規模別では、大企業が74.6%、中堅中小企業が60.6%である。次が「成果につながる研修企画の強化」(67.2%)で、同様に大企業が70.4%、

27企業と人材  2013年2月号

概 要

中堅中小企業が63.6%であり、いずれも大企業のほうが高くなっているのが特徴である。6割以上の企業が挙げた課題は上記の2つのみで、そのほかの課題はすべて5割以下であるが、これに続くものをみると、「人材開発スタッフの能力開発の強化」(49.6%)、「OJTの強化」(45.3%)、「OJTとOff-JTの連携強化」(40.9%)などが挙がっている。規模別では、大企業の52.1%が「グループ企業内の教育の共同化」を、産業別では、非製造業の48.1%が「OJTの強化」を挙げているのが興味深い。なお、今後の取り組み課題の一環として、人材開

発部門のスタンス、方向性にかかわる2つの選択肢を挙げてみたが、「一律・底上げ型教育から選抜・選択型教育への移行」は42.3%、「企業から個人へ、能力開発の責任主体の移行」は24.1%の企業が課題として選択している。これらの数値をどう評価するかは別として、選抜・選択型の教育がこれからも広く浸透していくことが予想される。

*最後に、人材開発部門にかかわるトピックスで、最近関心をもった話題を挙げていただいた。詳細は、58頁の〔企業別実態6〕をご覧いただきたい。

図 10 人材開発部門の現在の問題点(複数回答)

60.7

15.6

14.8

13.3

21.5

23.0

23.0

28.1

17.8

21.5

27.4

37.8

43.0

66.7

40.7

23.7

22.2

21.5

16.3

18.5

0 20 40 60 80 100(%)

経営・組織等に関する問題点

教育研修企画や部門の運営等に関する問題点

人材開発スタッフ等に関する問題点

人事部門以外の部門との意思疎通が不十分経営トップとの意思疎通が弱い

前例踏襲型の研修になってしまう現場の教育ニーズ把握が不十分

外部研修機関頼りになっている

人員不足のため業務が多忙であるスタッフの能力開発が不十分

スタッフが現場の実情を理解していないスタッフとして適性のある人を確保するのが難しい部門のノウハウの伝承がうまくいっていない人事異動が頻繁でスタッフの経験・知識が深まらない

部門の教育研修担当者間や、教育スタッフ同士の情報共有・意見交換が不十分

事業の展開が速く、必要とされる能力要件に教育施策が追いついていない

短期的な教育効果を求められるため、中長期的な教育計画がおろそかになってしまう

ミッション・役割が不明確

社内における地位が低い

研修効果の測定が不十分

教育予算が足りない

研修施設の確保が難しい

人事部門との連携が不十分

図 11 人材開発部門の今後の取り組み課題(複数回答)

49.6

5.8

6.6

38.0

67.2

67.93

24.1

42.3

19.0

19.0

22.6

25.5

27.7

45.3

40.9

37.2

35.0

12.4

16.8

32.1

0 20 40 60 80 100

人材開発部門のスタンスに関する取り組み課題

経営・組織等に関する取り組み課題

教育研修企画や部門の運営等に関する取り組み課題

一律・底上げ型教育から選抜・選択型教育への移行企業から個人へ、能力開発の責任主体の移行

成果につながる研修企画の強化グループ企業内の教育の共同化

同業他社や異業種と共同した教育の実施事業所・ライン独自の教育の強化

外部委託・アウトソーシングの増加

人材開発スタッフの能力開発強化

グローバルな人材育成施策の強化

経営戦略との連動の強化

十分な教育予算の確保

内製化の増加

人事部門との連携の強化

本社主導の教育の強化

OJTの強化

OJTとOff―JTとの連携強化

自己啓発支援の強化

キャリア開発支援強化

Off―JTの強化

eラーニングの強化

(%)