非結核性抗酸菌症とは・・・ 非結核性の抗酸菌って・・・第73号...

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第73号 大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター 07’冬 今回は非結核性抗酸菌症についてです。 あまり聞き慣れないこの感染症は一体どんな病気なのでしょうか? 非結核性抗酸菌症とは・・・ 結核は結核菌により起こり、結核菌は抗酸菌群に分類されます。結核菌以 外の抗酸菌により引き起こされる感染症を非結核性抗酸菌症、または非定型抗酸菌症とい います。高齢の患者さんや体の免疫力の落ちた患者さんに発症しやすく、増加傾向にある と言われています。 非結核性の抗酸菌って・・・ 現 在、100種類の抗酸菌が確認されていますが、そのうち20種の菌が人 に感染すると報告されています。日本でみられる非結核性抗酸菌の70% がマイコバク テリウム・アビウムとマイコバクテリウム・イントラセルラ レ(併せてMAC症と呼びます)、20%がマイコバクテリウム・カンサシ といわれる種類の菌で す。 これらの抗酸菌は、水道・貯水槽などの給水システム、ほこりや土壌中な ど自然界に広く生存しています、つまりどこにでもいる菌なのです。そしてこれらの菌を 含んだ水滴や塵埃を吸い込むことにより、感染するといわれています。 薬タイムズ 第73号

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Page 1: 非結核性抗酸菌症とは・・・ 非結核性の抗酸菌って・・・第73号 大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター 07ʼ冬 今回は非結核性抗酸菌症についてです。あまり聞き慣れないこの感染症は一体どんな病気なのでしょうか?非結核性抗酸菌症とは・・・

第73号 大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター 07’冬

今回は非結核性抗酸菌症についてです。あまり聞き慣れないこの感染症は一体どんな病気なのでしょうか?

非結核性抗酸菌症とは・・・

結核は結核菌により起こり、結核菌は抗酸菌群に分類されます。結核菌以外の抗酸菌により引き起こされる感染症を非結核性抗酸菌症、または非定型抗酸菌症といいます。高齢の患者さんや体の免疫力の落ちた患者さんに発症しやすく、増加傾向にあると言われています。

非結核性の抗酸菌って・・・

現 在、100種類の抗酸菌が確認されていますが、そのうち20種の菌が人に感染すると報告されています。日本でみられる非結核性抗酸菌の70%がマイコバク テリウム・アビウムとマイコバクテリウム・イントラセルラレ(併せてMAC症と呼びます)、20%がマイコバクテリウム・カンサシといわれる種類の菌で す。これらの抗酸菌は、水道・貯水槽などの給水システム、ほこりや土壌中など自然界に広く生存しています、つまりどこにでもいる菌なのです。そしてこれらの菌を含んだ水滴や塵埃を吸い込むことにより、感染するといわれています。

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結核との違い・・・

感染力の強い結核とは異なり、非結核性抗酸菌症は人から人に感染しません。また非結核性抗酸菌は結核菌に比べ毒性が低く、あまり注目されずにきた感染症です。しかし、治療法が確立していないこと、感染者数も増加傾向にあること、免疫力が低下した患者さんに合併しやすいなど問題が多くあります。

症状は・・

自覚症状はほとんどなく、胸部検診や結核の経過観察中に発見される場合が多いです。放置し悪化すると咳、たん、微熱、体重減少など結核とよく似た症状が見られるようになります。

治療法は・・

非結核性抗酸菌症は日和見感染(体の抵抗力の落ちた人がかかる)であるため、栄養の十分な補給や基礎疾患や合併症に対する配慮が必要です。ヒトへの感染が無いため入院する必要はありませんが、重症化している場合や薬物

療法の導入のため入院することもあります。確実に有効な治療法は無く、結核に準じた治療を行ないます。また、一般に結核は薬の服用期間は6ヶ月ですが、非結核性抗酸菌症の場合は12ヶ月から18ヶ 月にも及びます。菌種により治療法が異なり、MAC症はストレプトマイシン(又はカナマイシン)にクラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトールや ニューキノロン系の抗生剤などを組みあわせて治療し、経過の良いと言われるカンサシ症はリファンピシン、イソニアジド、エタンブトールで治療します。

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○クラリスロマイシン (クラリス®など)マクロライド系の抗生物質で様々な細菌の増殖を抑え、非結核性抗酸菌にも有効であると言われています。

○リファンピシン (リファンピシン®など)結核菌の増殖を強力に抑制する薬です。薬自体が真赤な粉末である為、体液(尿、汗、涙など)が赤くなりますが無害です。

○イソニアジド (イスコチン®など)結核菌の増殖を強力に抑制する薬です。副作用の末梢神経炎を予防するためにビタミンB6を服用します。

○エタンブトール (エブトール®など)結核菌の増殖を抑える薬です。副作用として視神経に影響を与えることがあるので検査を行いながら服用します。

○硫酸ストレプトマイシン (硫酸ストレプトマイシン®)約50年前に結核の特効薬として登場した薬で筋肉注射により投与します。聴覚神経への副作用が知られており投与中は聴力検査を行います。

☆クラリスロマイシン、リファンピシン、イソニアジドは他の薬の作用を強めたり、または弱めたりする相互作用が多い薬剤として知られています。これらの薬を服用しているときに他の医療機関を受診する際は医師、薬剤師に相談しましょう。

非結核性抗酸菌症は菌の種類により薬剤の効き方が異なり、治りにくいことから、今後治療法の確立が急がれる疾患と言えます。

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