奥尻島における防災通信訓練及び防災教育の 支援...

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Tomoki Motiyama, Shiniti Hanyuu, Katsunori Kitamura 平成29年度 奥尻島における防災通信訓練及び防災教育の 支援について ―衛星通信装置を利用したTV会議― 函館開発建設部 施設整備課 ○守山 智記 羽生 進一 北村 勝徳 平成2910月に地域防災力の向上のため、奥尻町と連携し衛星を使用した通信訓練を行った。 この通信訓練の模様と平成30年度に実施を予定している、奥尻町立青苗小学校において行う防 災教育内容を紹介するものである。 キーワード:防災教育、通信訓練、TV会議、衛星通信 1. はじめに 国土交通省において、平成283月に策定された、 「北海道総合開発計画」において「強靱で持続可能な国 土の形成」に基づき施策を進めている。その中の「強靱 な国土づくりを支える人材の育成」において、「地域の 防災力強化を図るためには、住民自身による「自助」と 地域コミュニティ等による「共助」の強化が不可欠であ る。このため、防災に関する住民意識の向上や地域防災 を担う人材の育成を推進する。」となっている。 また、平成254 月に策定された「北海道離島振興計 画」(北海道)における「奥尻島地域振興計画」におい ては、「(14) 国土保全施設等の整備その他の防災対策」 の中で、「防災対策については、避難路や防潮堤などの 防災施設の適切な維持や管理及び住民の防災意識の啓蒙 を図るための防災訓練を継続してして実施するほ か・・・」と計画が策定されている。このように、国等 の施策において、地域防災力の強化を推し進めていくた め、今般奥尻町と連携し通信訓練を実施したのでその紹 介を行う。 また、文部科学省より「国土交通省等と連携した防災 教育の取組について」( 平成271125日付) 及び国土交 通省より「防災・河川環境教育の充実に係る取組の強化 について」( 平成2711 25 日付) に基づき、奥尻町の小 学校において、災害対策用機械(衛星通信車及び衛星小 型画像伝送装置)の実演と防災についての学習を平成30 6 月に行うことになったため、学習内容について紹介 を行う。 2. 奥尻町での通信訓練 (1)事前協議 平成5年の北海道南西沖地震以降、奥尻町では毎年防 災の日に防災訓練を行っている。この訓練は自衛隊、海 上保安庁、消防、警察等で合同実施しており、住民の避 難や救助を目的としている。しかし当局を含めた通信訓 練は実施したことがないため、奥尻町役場と函館開発建 設部の2 者で通信訓練実施のため事前協議を行い、平成 29 10 月に通信訓練を実施することになった。 図-1 奥尻島位置図 (2)災害想定 今回の訓練を実施するにあたり、台風による被災を想 定した。停電により浄水設備に障害が発生し、高潮によ る浸水被害及び道道、町道も土砂災害により通行が寸断 されていると想定した。 (3)訓練内容 訓練ではテレビ会議を使用し奥尻町長と函館開発建設 部長が災害についての協議を行うこととした。TEC- FORCEの派遣要請や災害対策機械の要請等、実際の災

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Page 1: 奥尻島における防災通信訓練及び防災教育の 支援 …...る。このため、防災に関する住民意識の向上や地域防災 を担う人材の育成を推進する。」となっている。

Tomoki Motiyama, Shiniti Hanyuu, Katsunori Kitamura

平成29年度

奥尻島における防災通信訓練及び防災教育の 支援について

―衛星通信装置を利用したTV会議―

函館開発建設部 施設整備課 ○守山 智記

羽生 進一

北村 勝徳

平成29年10月に地域防災力の向上のため、奥尻町と連携し衛星を使用した通信訓練を行った。 この通信訓練の模様と平成30年度に実施を予定している、奥尻町立青苗小学校において行う防

災教育内容を紹介するものである。

キーワード:防災教育、通信訓練、TV会議、衛星通信

1. はじめに

国土交通省において、平成28年3月に策定された、

「北海道総合開発計画」において「強靱で持続可能な国

土の形成」に基づき施策を進めている。その中の「強靱

な国土づくりを支える人材の育成」において、「地域の

防災力強化を図るためには、住民自身による「自助」と

地域コミュニティ等による「共助」の強化が不可欠であ

る。このため、防災に関する住民意識の向上や地域防災

を担う人材の育成を推進する。」となっている。 また、平成25年4月に策定された「北海道離島振興計

画」(北海道)における「奥尻島地域振興計画」におい

ては、「(14)国土保全施設等の整備その他の防災対策」

の中で、「防災対策については、避難路や防潮堤などの

防災施設の適切な維持や管理及び住民の防災意識の啓蒙

を図るための防災訓練を継続してして実施するほ

か・・・」と計画が策定されている。このように、国等

の施策において、地域防災力の強化を推し進めていくた

め、今般奥尻町と連携し通信訓練を実施したのでその紹

介を行う。 また、文部科学省より「国土交通省等と連携した防災

教育の取組について」(平成27年11月25日付)及び国土交

通省より「防災・河川環境教育の充実に係る取組の強化

について」(平成27年11月25日付)に基づき、奥尻町の小

学校において、災害対策用機械(衛星通信車及び衛星小

型画像伝送装置)の実演と防災についての学習を平成30年6月に行うことになったため、学習内容について紹介

を行う。

2. 奥尻町での通信訓練

(1)事前協議

平成5年の北海道南西沖地震以降、奥尻町では毎年防

災の日に防災訓練を行っている。この訓練は自衛隊、海

上保安庁、消防、警察等で合同実施しており、住民の避

難や救助を目的としている。しかし当局を含めた通信訓

練は実施したことがないため、奥尻町役場と函館開発建

設部の2者で通信訓練実施のため事前協議を行い、平成

29年10月に通信訓練を実施することになった。

図-1 奥尻島位置図

(2)災害想定

今回の訓練を実施するにあたり、台風による被災を想

定した。停電により浄水設備に障害が発生し、高潮によ

る浸水被害及び道道、町道も土砂災害により通行が寸断

されていると想定した。

(3)訓練内容

訓練ではテレビ会議を使用し奥尻町長と函館開発建設

部長が災害についての協議を行うこととした。TEC-FORCEの派遣要請や災害対策機械の要請等、実際の災

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害に近い形での会話となるようシナリオを作成した。

図-2 テレビ会議用システム系統図 テレビ会議装置は遠隔地を通信回線で結び双方向の画

像および音声を用いて会議を行うシステムである(写真

-1)。函館開発建設部にはテレビ会議システムを2台有

している。 テレビ会議用の通信回線は、衛星通信設備を用いて回

線接続を行った。衛星通信設備としては、衛星小型画像

伝送装置(Ku-SAT)を本局及び全開発建設部に配備し

運用を開始している(写真-2)。Ku-SATは函館開発建設

部に1台有しており、テレビ会議システムと共にこれを

奥尻町役場へ運搬し設置を行った。また札幌開発建設部

に協力依頼を行い、奥尻島からの衛星通信の対向先とし

た(図-2)。衛星通信で使用出来る回線容量の最大値は

2Mbpsのため、今回は通信回線容量を2Mbpsとした。 Ku-SAT:Kensetsu Universal-Small Aperture Terminal

災害等の発生時に被災状況や. 復旧作業状況

等の現地画像(動画)情報を衛星を経由し

リアルタイムで伝送する装置

写真-1 テレビ会議システム

写真-2 Ku-SAT

(4)訓練風景

奥尻町長と函館開発建設部長がシナリオに沿ってテレ

ビ会議を行った。訓練には函館開建や札幌開建、奥尻町

の職員ら約20人が参加した。衛星通信車やマルチコプタ

ーも奥尻島へ運搬し、奥尻町職員を対象に災害時の役割

等の説明を行った(写真-3~6)。

写真-3 テレビ会議訓練(函館開発建設部長)

写真-4 テレビ会議訓練(奥尻町長)

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写真-5 衛星通信車の奥尻町長及び町職員への説明

写真-6 マルチコプ ターの奥尻町長及び町職員への説明 (5)報道機関

今回の奥尻町との通信訓練では、事前に報道機関へ通

知しており、北海道通信社及び北海道建設新聞社の取材

を受けた。両記者に訓練内容や機器の説明を行い、実際

にテレビ会議を体験し、記者から映像と音声がクリアで

見やすいと感想があった(写真-7)。両社とも訓練内容

と写真の記事が掲載された。

写真-7 報道機関への説明

(6)次年度の奥尻町防災訓練

通信訓練終了後、奥尻町長から「このような訓練

は実施したことが無く有意義でした。実際の災害時

には開発局と密に連携し応援要請等のお願いをした

い。」との意見があった。また、次年度の合同防災

訓練に函館開発建設部も参加して欲しい旨の依頼が

あり、次年度の合同防災訓練に参加する予定である。

訓練を行う際は災害対策用機械(衛星通信車、衛星

小型画像伝送装置、照明車及び排水ポンプ車)を奥

尻島へ運搬し、実演及び展示を行う予定である。

3. 小学校での防災教育支援

(1)防災教育とは

防災教育は、究極的には命を守ることを学ぶこと

であるが、そのためには、災害発生の理屈を知るこ

と、社会と地域の実態を知ること、備え方を学ぶこ

と、災害発生時の対処の仕方を学ぶこと、そして、

それを実践に移すことが必要となる。自然災害から

命を守るためには、幼少期からの防災教育がとても

重要となる。 (2)事前協議

国土交通省より「防災・河川環境教育の充実に係

る取組の強化について」(平成27年11月25日付)に基

づき、奥尻町の教育委員会へ防災教育の提案を行っ

た。奥尻町との事前協議の際は、今年度の通信訓練

を行った後に防災教育を行えるよう日程を調整する

ことになった。しかし小学校のカリキュラムは年単

位で決められているため、授業の1コマを割くこと

が困難とのことで今年度の防災教育は見送りとなっ

た。平成29年10月に行った奥尻町との通信訓練終了

後に、再度教育委員会と打合せを行ったところ、次

年度に青苗小学校(全校生徒約30人)での防災教育の

カリキュラムを組み込むので、防災教育の授業をお

願いしたい旨依頼があった。平成30年6月に防災教

育を行う予定である。

(3)学習のねらいと成果について

教育委員会へは、災害時に北海道開発局はどのよ

うな役割をするのか、といった内容の説明を行った。

光ファイバ通信や多重無線通信や気象レーダの説明、

災害対策用機械の役割及び実際の災害での実例を紙

芝居で説明した(図-3,4、写真-9)。これについて

は小学生でも理解できるような内容となっている。

防災教育として災害への備えや北海道開発局の役割

を伝えることが出来ると考えている。

また、防災訓練と同様に災害対策用機械の実演及

び展示を予定している(写真-8)。

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写真-8 他地整での防災教育

出典:中部地方整備局庄内川河川事務所HP

図-4 衛星通信車の説明

4. 実施に向けての留意事項

平成30年6月に奥尻島へ防災教育として行くことにな

り(青苗小学校)、8月には防災訓練として行くことに

写真-9 光ファイバの実演

なった。フェリーは1日2便運航(冬期間は1便)、所要

時間は120分となっている。フェリーは気象条件により

欠航するため、欠航している場合には奥尻島に行くこと

が出来ない。防災訓練及び防災教育の日程が決まってい

るため、気象条件が悪化する場合、事前に奥尻島に入島

するか又は中止にする必要がある。 また、8月に奥尻島での合同訓練に参加することにな

ったが、函館開発建設部としてシナリオのどこに加わる

のかを奥尻町役場と協議を行い、積極的に参加していか

なければならない。函館開発建設部内においても防災対

策官と密に打合せを行っていく。

5. まとめ

今回は離島振興計画における地域防災力の強化を推し

進めていくために奥尻町と通信訓練を行ったが、今後は

他の市町村とも地域防災力の強化を推し進めていくため

にも通信訓練を行っていく必要がある。また、防災教育

も同様に全道の各自治体で行っていくことで、地域防災

を担う人材の育成を推進することができ、北海道開発局

の事業に理解を深めることに繋がると考える。

図-3 災害対策用機械の説明