人工呼吸器患者への保守的酸素療法 - JSEPTIC · 2015-02-17 ·...

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人工呼吸器患者への保守的酸素療法 ~試験的前後比較研究~ Crit Care Med. 2014 Jun;42(6):1414-22. PMID24561566

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人工呼吸器患者への保守的酸素療法 ~試験的前後比較研究~

Crit Care Med. 2014 Jun;42(6):1414-22. 【 PMID:24561566 】

背 景

• 酸素療法は低酸素血症の予防や治療に重要

• しかし、低酸素血症の予防や治療は、逆に高酸素血症となり、

有害(肺線維化など)となる可能性を秘めている

• 高酸素血症は、肺血管抵抗の増加から心拍出量を低下させ、

様々な臓器でフリーラジカルを発生させる

• 高酸素血症による弊害は、COPD急性増悪、心停止後、腹部

手術後の患者などで報告されている

目 的

ICUの人工呼吸器患者に保守的な酸素療法

(目標SpO2:90~92%)が安全に実施できるか

どうかを評価するためのパイロット研究

研究方法

• デザイン:pilot prospective before-and-after trial

• 対象:48時間以上人工呼吸器管理が予想される患者

• 場所:メルボルンのオースティン病院ICU(3次施設) 22の複合ICUベッド

• 期間:

Conventional群 2012年5月~2012年6月

(酸素化の目標はベッドサイドの臨床医に一任)

Conservative群 2012年10月~2013年1月

(SpO2:90-92%を目標に可能な限りFiO2を下げる)

• 高酸素の状態:SpO2が98%以上

研究方法

• 調査項目:年齢、性別、入院理由、APACHE Ⅲ、腎代替療法

(RRT)、人工呼吸導入の理由

人工呼吸開始後(6時・12時・18時・24時)4点での

PEEP、MV、FiO2、SpO2、PaO2、pH、PaCO2、

Hb、乳酸値、Cr

• 主要評価項目:最初の10日間におけるP/F比の変化

• 副次評価項目:最初の10日間における乳酸値とCrの変化、

ICU入室中の呼吸器以外の新たな臓器障害、

不整脈、感染、高度な低酸素、RRTの導入、

抗せん妄薬、輸血使用の有無、

28日間の呼吸器離脱、ICU退室、入院日数、

28日目の生存率

結 果

• Conventional oxygen therapy

(従来の酸素療法)

51名

• Conservative oxygen therapy

(保守的な酸素療法)

54名

• 両群の基本属性は近似していた

(統計学的な検定に関する記述はない)

結 果

• Conservative群は、conventional群と比較して人工呼吸器管理中のSpO2、PaO2、FiO2が有意に低値であった

• Conservative群は、人工呼吸器管理中の酸素投与量を約2/3減少させた(15,580L [8,263-29,351L] vs 5,122L [1,837-10,499L])(p<0.001)。

• 両群間において、P/F比、人工呼吸器管理期間、PEEP、pH、PaCO2に差はなかった。

Conservative oxygen therapy Conventional oxygen therapy p value

SpO2,% 95.5 (94.0-97.3) 98.4 (94.0-97.3) <.001

PaO2,torr 83 (71-94) 107 (94-131) <.001

FiO2 0.27 (0.24-0.30) 0.40 (0.35-0.44) <.001

中央値(四分位範囲)

人工呼吸器管理中の時間加重平均値

結 果

【 Figure 1 】

最初の10日間におけるSpO2・PaO2・FiO2

• 有意にConservative群で低かった

【 Figure 2 】

SpO2・PaO2・FiO2の時間の割合

Conventional群

• SpO2が98%以上であった時間は59%

Conservative群

• 酸素が過剰な時間は有意に減少した

• FiO2-0.2でSpO2-92%以上のこともあった

Conventional群はFiO2-0.2となる時間はなかったが、Conventional群は33%の時間をFiO2-0.2で管理していた

Figure 1 Figure 2

結 果

【 Figure 3 】

最初の10日間におけるP/F比・乳酸値・Crの比較

• すべてにおいて、両群に有意差はなかったが、乳酸値はConservative群で低下傾向であった

Figure 3

結 果 【 Figure 3 】

最初の10日間におけるP/F比・乳酸値・Crの比較

• すべてにおいて、両群に有意差はなかったが、乳酸値はConservative群で低下傾向であった

Figure 3

Table 3

Table 4

【 Table 4 】 調整オッズ比

• 呼吸器以外の臓器障害が減少

【 Table 3 】

多変量解析

• 乳酸の48時間値は低下傾向であった(p=.050)

結 論

• SpO2低値(90~92%)を目標とした管理は、重大な合併症を起こすことなく実施できた。

• 高濃度酸素への暴露を防ぐ、肺の保護的な酸素療法に関する将来的なRCTは安全に実施可能である。

私 見

• 仮説では、”critically ill patients”とあるが、Conservative群において、FiO2-0.2に下げても、SpO2が目標値(90~92%)に達しなかった患者がいたということは、呼吸不全としては軽症者が多かったのでは?

• 肺障害に関して、P/F比を指標としているが、一回換気量のdataがないため、換気量が肺に与えた影響の可能性を否定できない。

• 過剰な酸素投与が行われ、不必要な酸素投与は避けるべきだという報告があるなか、とても興味深い結果であり、重症な呼吸不全患者も含めた今後のRCTが望まれる。

茨城県厚生連総合病院水戸協同病院 救急部・集中治療部 阿部智一先生 監修