標準必須特許と その権利行使をめぐる動き...(Broadcom Corp. v. Qualcomm Inc., 3rd...

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REGISTERED PATENT ATTORNEYS 20131116青山特許事務所 川端純市 標準必須特許と その権利行使をめぐる動き

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2013年11月16日青山特許事務所川端純市

標準必須特許とその権利行使をめぐる動き

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標準必須特許とは

標準必須特許(Standard Essential Patent: SEP)

技術標準(規格)に準拠した製品の製造、販売等を行うのに避けることのできない特許

情報通信分野において数多くの標準必須特許(SEP)が存在

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技術標準とは

技術標準(規格)とは、主に産業や技術の分野において、製品や材料、あるいは工程などに関して定義された基準。例)部品の形状、サイズ、通信の手順、測定方法、試験方法、表記方法

特に、情報通信分野においては、ハードウェア、ソフトウェア、通信、電気等各分野においてそれぞれ規格が制定されている。

多くの場合、標準化団体によって策定されたり、勧告という形で提案されたりする。

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標準化のメリット

(1) 製品の品質や相互接続性(互換性)等の担保

(2) 標準化により製品や技術が普及促進され、市場が拡大

(3) 開発投資の効率化

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技術標準の種類(決定プロセス)

デジュール標準(de jure standard)一般に標準化団体として認められた機関によって作成された標準。公的基準ともいう。例)フィルム感度(ISO100,400), SI単位,

環境マネジメント(ISO14000)

フォーラム標準(Forum standard)関心のある企業等が集まって形成した「フォーラム」が中心となって作成された標準。公的ではないが、デジュール標準のような開かれた手続を持つ。例)DVD, 3GPP, USB

デファクト標準(de facto standard)市場競争の結果として生まれた事実上の標準。例) VHS, Windows

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技術標準の種類(地域的効力)

国際標準ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)

国内標準JIS(日本工業規格)、CEN(欧州標準化委員会)、ANSI(米国規格協会)

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標準を定める団体

国際標準化団体ISO(国際標準化機構)

IEC(国際電気標準会議)

ITU(国際電気通信連合)、等

国家・地域標準化団体JISC(日本工業標準調査会)JAS協会(日本農林規格協会)ANSI(米国規格協会)、等

その他の公的標準化団体IEEE(電気技術者協会)ASTM(米国材料試験協会)、等

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WTO協定(for 国際標準)

WTO/TBT協定(第2項4条、付属書3)

加盟国は、強制規格、任意規格(標準)、適合性評価手続きを必要とする場合において、関連する国際規格をその基礎として用いなければならない。技術標準が貿易障壁とならないことを確保することを目的。

WTO政府調達協定

政府の調達基準には国際規格を基礎とすることが義務づけられている。外国産品等や外国供給者と内国のそれらの間の差別を解消することを目的。

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標準の策定

ISO規格の場合

(1)新作業項目(NP: New Proposal)の提案(2)作業原案(WD: Working Draft)の作成(3)委員会原案(CD: Committee Draft)の作成

(4)国際規格原案(DIS: Draft of International Standard)の照会及び策定

(5)最終国際規格案(FDIS: Final Draft of International

Standard)の策定

(6)国際規格の発行

寄書(技術提案書)

投 票

特許出願が必要

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パテントプール

特許権を一カ所に集約して、一括管理実施者(ライセンシー)へ一括サブライセンス例) MPEG-2(動画データ圧縮技術), DVD(光学記

録媒体), 3G(携帯電話通信), …

ライセンス業務の簡素化ロイヤリティ金額の低減(スタッキング問題の解決 )

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パテントプール

特許管理団体(ライセンス会社)

特許権者(企業A) 特許権者

(企業B)

特許権者(企業C)

特許寄託ロイヤリティ分配

(特許件数に応じて分配)

実施者(企業α)

実施者(企業β)

実施者(企業γ)

ロイヤリティ支払

サブライセンス

・・・

・・・

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パテントプール

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標準必須特許のライセンス形態

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特許権者(企業A)

(1)パテントプールを介する場合

(2)パテントプールを介さない場合

・パテントプールがない・パテントプールはあるが、個別にライセンス・アウトサイダー

パテントプール

特許権者(企業A)

実施者(企業B)

実施者(企業B)

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標準必須特許に関わる問題点

ホールドアップ問題

技術標準(規格)が策定された後になって、当該技術標準(規格)に採用された技術の標準必須特許を有する事業者が、他の事業者に対して標準必須特許の権利を行使する(法外なライセンス料を要求する)こと。

標準必須特許の権利を行使されると、他の事業者は、他の技術に移行できないことから、事業継続のために、高額なライセンス料を支払わなければならない状況に追い込まれる。

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標準必須特許に関わる問題点

ロイヤリティ・スタッキング問題標準の利用のため、複数の特許を実施する必要がある結果、実施料が積み重なり高額になること。

ホールドアウト問題標準の実施者がライセンス料を支払わずに、標準必須特許を利用すること。

アウトサイダー問題パテントプールには参加していない標準必須特許を有する特許権者(アウトサイダー)が個別に実施者にライセンスすることで、パテントプール参加者よりも有利な条件でライセンスできる。

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パテントポリシー(IPRポリシー)

多くの標準化団体(ISO,IEC,ITU,…)が制定

(1)特許の開示

標準化する予定の技術に特許が存在することを認識した者は、それを標準化作業の場に報告する。

(2)ライセンスの可否/条件

報告された特許を有する者は、その技術が標準化された際に、その特許をどのようにライセンスするかを宣言する。(パテントステートメント)

(3)標準化団体は、特許の有効性、ライセンス契約等に一切関知しない。

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パテントステートメント

ライセンスの可否/条件の宣言

i) Royalty Free(RF)で許諾

ii) FRAND条件(合理的かつ非差別的)で許諾

iii) 上記のいずれも選択しない

(※この場合、標準化団体は、該当する部分を標準から削除できる)

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FRAND (or RAND)

FRAND(Fair, Reasonable, And Non-Discriminatory、合理的かつ非差別的)

※RAND(Reasonable And Non-Discriminatory)とも称される。

FRAND条件

高額にならない合理的な額で、かつ、誰に対しても平等にライセンスを許諾する。

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パテントステートメント

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標準化団体(パテントポリシー)

策定参加者(企業C)策定参加者

(企業B)

策定参加者(企業A)

FRAND宣言 FRAND宣言RF宣言

SEP SEP

SEPSEP SEP

SEP SEP

策定参加者(企業A)

SEP

ライセンス拒否

SEP: 標準必須特許

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標準必須特許の権利行使に関する各国の事例

パテントポリシーが制定されても、ホールドアップ等、依然として問題は残っている

特にホールドアップに関する係争は増加傾向にあるが、近年、特に欧米では、競争法的見地からこのような行為に歯止めをかける動きが見られる。

以下、近時の標準必須特許の訴訟に関する各国当局の判断事例を示す。

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Qualcomm対Broadcom事件(Broadcom Corp. v. Qualcomm Inc., 3rd Cir. Sep 4. 2007)

W-CDMA標準の策定に参加し、関連する特許についてFRAND条件での宣言書を提出したQualcomm社が、

実施許諾交渉で決裂した同標準の利用者であるBroadcom社へ高額なライセンス料を提示した。これに対して、 Broadcom社が、競争法に違反するとしてQualcomm社を提訴。

→ 反競争的行為に当たるとして、権利行使が認められなかった。米国以外でも、同様の判決)。

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事例1(米国)

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アップル対サムスン事件(東京地裁46部平成23年(ワ)第38969号、平成25年2月28日)

アップルがサムスンに対して提起した損害賠償責務不存在確認訴訟。サムスンは3GPP規格の策定に参加し、かつ標準化団体に対してFRAND宣言を行っていた。

→ 適時開示義務違反、誠実交渉義務違反、ホールド

アップ問題等を根拠に、サムスンの標準必須特許の権利行使を権利濫用とし、損害賠償請求を認めなかった。

事例2(日本)

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Apple対Samsung事件(米国際貿易委員会(ITC ))

(1)Apple製品のSamsung特許の侵害を認め、輸入差し止め命令

米国大統領は拒否権を発動 (2013.08)

(米国経済における競争や消費者などへの影響を審査し、公正で合理的かつ差別のないFRAND条件のもとで他社にライセンス供与する標準必須特許に関する米政府の方針を考慮。標準必須特許をもとに起こされる特許侵害訴訟が革新と経済の発展を妨げることを懸念)

(2)Samsung製品のApple特許の侵害を認め、輸入差し止め命令

米国大統領は拒否権を発動せず (2013.10)

(Appleの特許には、標準必須特許は含まれていない)

事例3(米国)

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事例4(欧州)

欧州委員会 → Samsung

Samsungが保有する携帯電話に係る標準必須特許に基づき、FRAND条件でライセンスを希望しているAppleに対して複数の加盟国で差し止め請求訴訟を提起しているのは、それ自体が102条が禁止する市場支配的地位の濫用に該当する懸念があるとして、 Samsungに意義告知書を通知(2013年1月) 。

この懸念に対応すべく、 Samsungは、5年間、一定のライセンス枠組に同意する全ての事業者に対して、携帯電話に係る標準必須特許に基づく差し止め請求は行わないことを確約する提案を行った(2013年10月)。

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事例5(欧州)

Apple対Samsung事件(オランダ/ハーグ地方裁判所、2012年06 )

Samsung特許(3G/UMTS技術間連の標準必須特許)に対するApple製品の侵害を認め、Apple社に対して、Samsung社へのライセンス料の支払いを命じたが、Apple製品の販売差し止めを求めるSamsung社の主張は退けた。

FRAND原則に則ったライセンス料でのライセンス提供が求められた(アップル側の主張)。

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まとめ

標準必須特許(SEP)は、技術標準に準拠した製品の製造等を行うのに回避できないものであり、特許権者にとっては非常に有効な権利であり、その取得は企業活動においても重要である。

一方で、ホールドアップ問題を抑制すべく、FRAND条件の遵守が強く要求され、FARND条件を遵守していない場合、標準必須特許(SEP)

の権利行使が制限される場合がある。

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ご清聴ありがとうございました。