視神経脊髄炎(NMO) 64 「NMO、MSと インター...

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インターフェロン・ベータは はじめて承認されたMSの治療薬 現在日本で、多発性硬化症(MS) の治療法として唯一承認されている治 療薬は、インターフェロン・ベータ (IFNβ)です。ベタフェロン(隔日 の皮下注射)、アボネックス(週1回 の筋肉注射)の2つのIFNβが承認さ れています。 IFNβは、MSの再発を減らしたり 病状の進行を抑制したり、脳MRIの病 変を減少させるなど、MSへの有効な 治療法であることが、はじめて国際 的に証明された薬です。 私たちの病院でもIFNβの投与がは じまってからは、それまでに比べて、 再発で入院する患者さんの数が、実 際にかなり減少しています。 中 級 ここ数年問題になっている、 NMO、MSとインターフェロン 今回はここ数年大きな問題になって いる、NMO、MSとインターフェロ ン・ベータ療法の治療効果について取 り上げたいと思います。これについて は、種々の学会報告、学術論文や報 道などの情報がありますが、難しく てよく理解できないという人も少な くないのではないでしょうか。この 問題をできるだけわかりやすく解説 したいと思います。 24 上野恩賜公園(東京都台東区) 東北大学神経内科NMO研究グループ 視神経脊髄炎(NMO) 「NMO、MSと インターフェロン療法」 BC 64 北海道登別市

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インターフェロン・ベータははじめて承認されたMSの治療薬

 現在日本で、多発性硬化症(MS)の治療法として唯一承認されている治療薬は、インターフェロン・ベータ(IFNβ)です。ベタフェロン(隔日の皮下注射)、アボネックス(週1回の筋肉注射)の2つのIFNβが承認されています。

 IFNβは、MSの再発を減らしたり病状の進行を抑制したり、脳MRIの病変を減少させるなど、MSへの有効な治療法であることが、はじめて国際的に証明された薬です。

 私たちの病院でもIFNβの投与がはじまってからは、それまでに比べて、再発で入院する患者さんの数が、実際にかなり減少しています。

中 級

ここ数年問題になっている、NMO、MSとインターフェロン

 今回はここ数年大きな問題になっている、NMO、MSとインターフェロン・ベータ療法の治療効果について取り上げたいと思います。これについては、種々の学会報告、学術論文や報道などの情報がありますが、難しくてよく理解できないという人も少なくないのではないでしょうか。この問題をできるだけわかりやすく解説したいと思います。

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上野恩賜公園(東京都台東区)

東北大学神経内科NMO研究グループ

視神経脊髄炎(NMO)「NMO、MSと インターフェロン療法」

BC64

北海道登別市

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欧米のMS治療は段階的

IFNβに続いて現在では、様々なMSの治療薬が開発されつつありますが、欧米でも、グラチラマー酢酸塩(コパキソン®)という薬と共にIFNβは、免疫調整薬として第1段階の治療薬と位置付けられています。

欧米のMSの基本な治療方針としては、まずこれらの第1段階の治療薬を使い、効果が見られない場合は、より効き目の強い第2段階の治療薬を使用し、これも無効な時はさらに第3段階へ、というような段階的な治療法がとられています。

しかし、1年に2回以上再発し、脳MRIを撮るごとに造影病変があるなど急速に進行するMSの場合には、最初から第2段階の治療薬が用いられることもあります。

第2段階の薬としては、接着因子という物質にくっついて、リンパ球が炎症のある場所に行かないようにしてしまうナタリズマブ(タイサブリ®)という抗体製剤や、ミトキサントロン(ノバントロン®)という免疫抑制剤などがあります。

より高い段階の治療薬はより強力で、治療効果も強いことが期待されます。しかし免疫抑制作用が強い治療なので、これに関連した感染症、悪性腫瘍などの重い副作用や合併症が起こることがあり、注意が必要です。

従って、ある治療が効かなかった患者さんは、より高い段階の治療薬の、効果と共に副作用や合併症が起こる可能性を理解したうえで、使用することが重要になってきます。

グラチラマー酢酸塩 インターフェロン・ベータ

ミトキサントロン ナタリズマブ

【段階的なMS治療】

北海道虻田郡

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IFNβの効果が認められない時は中和抗体の検査も必要

欧米でも日本でも、MSの患者さんの中に、IFNβで治療しても再発や脳MRIの造影病変が減らない人がいらっしゃいます。

それらの患者さんではまず、IFNβの治療効果を弱める中和抗体の有無を調べる必要があります。もしこの中和抗体が陽性の場合は、IFNβではMSの病勢を抑えられていないと考えられるので、より強い治療が必要となります。また、治療効果とは別に、副作用のために投与を中止しなければならない患者さんもいます。

IFNβが無効、あるいは増悪する“視神経脊髄型” MSの多くはNMO

 数年前に、厚生労働省の免疫性神経疾患調査研究班により実施された全国疫学調査の結果を取り上げて、「視神経脊髄型MSではIFNβ療法が無効あるいは増悪することがある」という趣旨の報道がありました。

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 社会に向けて、治療薬に関する注意を喚起するという観点で書かれた記事だと思いますが、これを「IFNβはMSに悪い」というように受け取った方々もいたようです。

しかし先にも述べたように、MSにおけるIFNβの有効性は確立した事実であり、誤った解釈により本来IFNβ療法の恩恵を受けるべきMS患者さんが治療を中止したり、治療開始を思い留まったりするとすれば、とても残念なことです。

実際には、この視神経脊髄型MSといわれる症例の多くは、実際にはMSではなく視神経脊髄炎(NMO)と思われます。

前回までのこのコーナーで述べてきたように、NMOではIFNβ療法の明らかな治療効果が見られず、時に重症の再発があることが、多くの学会報告や論文などで示されてきています。NMOにはIFNβ療法をおこなわないという理解は、今や神経内科医の間でもかなり広まってきています。

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従って、臨床症状、MRI所見と共にアクアポリン4(AQP4)抗体を用いたNMOの正しい早期診断が、その後の治療方針の決定のためにとても大切なのです。

IFNβが有効と思われるNMOの多くはステロイドを服用していた

NMOの中にIFNβ療法が有効な症例はあるのか? という質問をよく受けます。これについて私たち自身の経験と、ほかの病院のいろいろな先生方の症例について教えていただいた限りでは、IFNβ療法が有効と思われる症例では、実際にはステロイドや免

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東北大学大学院医学系研究科多発性硬化症治療学寄附講座http://www.ms.med.tohoku.ac.jp/

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疫抑制剤を併用している場合が多く、治療効果はこれらの併用薬の効果である可能性が高いと思われます。たとえば私たちの病院で、ずっとIFNβだけの治療で再発がずいぶん減ったと思っていたNMOの人がいましたが、実は眼科の先生がずっとプレドニンを処方しており、プレドニンを中止した時だけ再発していたことが、後からわかったことがありました。

もちろんどの病気でも、薬の効果はすべての患者さんで100%同じとは限りません。IFNβだけで有効と判断されることもあるかもしれません。その場合は、治療の継続について主治医と患者さんとでよく相談して決めていくことになると思います。