事例中学校保健体育科第 1学年 「球技 バスケット...

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中学校 保健体育科 第1学年 「球技 バスケットボール」 テーマ 「攻防の展開が速いゲームを実現し、バスケットボールの本質的な面白さ を求める指導過程の工夫改善」 ①速攻を中心とした指導計画の作成 ②目指す動きを生徒が適切に自己評価することができるゲーム記録とその 活用 ③伸びを実感できるレディネス調査とそれに対応した学習後の調査の実施 学習状況の把握と結果の分析 (1)学習状況の把握の方法 【評価規準】 運動への 運動についての 運動の技能 運動についての 関心・意欲・態度 思考・判断 知識・理解 ・グループ内での自 ・ゲームの結果から ・速攻を使うため ・トラベリング、ダ 分の役割を自覚し 自分やグループの に、スペースに動 ブルドリブル、ラ て責任を果たした 課題を見出し、練 いたり、パスした インクロス、ファ り、進んで練習や 習方法や作戦を考 りできる。 ウル等のルールを ゲームに参加した えている。 ・相手が速攻で攻め 理解している。 りしようとする。 てきそうになった ・上記ルールの用語 ・課題解決のために ら、ゴール下に素 やコートの名称に 仲間との教え合い 早く戻って守るこ ついて理解してい や励まし合いをし とができる。 る。 ようとする。 【把握の方法】 ①バスケットボールに対する意識及び個人的技能に関わる調査 (意識について) ・バスケットボールをプレーすることが好きか。 ・小学校で学習したバスケットボールはおもしろかったか。 ・その理由を選択させる ※強く思う順に3つ選ぶ □仲間と団結することができた(できなかった) □シュートやパスなどの技能が向上した □試合での動き方を身に付けることができた □試合で相手チームに勝つことができた □相手に勝つために、作戦などを工夫した □攻めや守りにかかわっての自分の役割を十分に果たせた □リーダーや道具係など、自分の役割を十分に果たせた □その他( ・バスケットボールのゲームについて、おもしろさを感じるのはどんなときか。 ※強く思う順に3つ選ぶ □自分の打ったシュートが決まったとき □グループの仲間とパスやドリブルをうまく使って相手より速く攻撃できたとき □相手ボールをカットしたとき □相手シュートをリバウンドでとったとき □パスがうまくできたとき □試合終了で相手に勝ったとき

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事 例 中学校 保健体育科 第1学年 「球技 バスケットボール」

テーマ 「攻防の展開が速いゲームを実現し、バスケットボールの本質的な面白さ

を求める指導過程の工夫改善」

授 業 ①速攻を中心とした指導計画の作成

改 善 ②目指す動きを生徒が適切に自己評価することができるゲーム記録とその

の 活用

視 点 ③伸びを実感できるレディネス調査とそれに対応した学習後の調査の実施

1 学習状況の把握と結果の分析

(1)学習状況の把握の方法

【評価規準】

運動への 運動についての 運動の技能 運動についての

関心・意欲・態度 思考・判断 知識・理解

・グループ内での自 ・ゲームの結果から ・速攻を使うため ・トラベリング、ダ

分の役割を自覚し 自分やグループの に、スペースに動 ブルドリブル、ラ

て責任を果たした 課題を見出し、練 いたり、パスした インクロス、ファ

り、進んで練習や 習方法や作戦を考 りできる。 ウル等のルールを

ゲームに参加した えている。 ・相手が速攻で攻め 理解している。

りしようとする。 てきそうになった ・上記ルールの用語

・課題解決のために ら、ゴール下に素 やコートの名称に

仲間との教え合い 早く戻って守るこ ついて理解してい

や励まし合いをし とができる。 る。

ようとする。

【把握の方法】

①バスケットボールに対する意識及び個人的技能に関わる調査

(意識について)

・バスケットボールをプレーすることが好きか。

・小学校で学習したバスケットボールはおもしろかったか。

・その理由を選択させる ※強く思う順に3つ選ぶ

□仲間と団結することができた(できなかった)

□シュートやパスなどの技能が向上した

□試合での動き方を身に付けることができた

□試合で相手チームに勝つことができた

□相手に勝つために、作戦などを工夫した

□攻めや守りにかかわっての自分の役割を十分に果たせた

□リーダーや道具係など、自分の役割を十分に果たせた

□その他( )

・バスケットボールのゲームについて、おもしろさを感じるのはどんなときか。

※強く思う順に3つ選ぶ

□自分の打ったシュートが決まったとき

□グループの仲間とパスやドリブルをうまく使って相手より速く攻撃できたとき

□相手ボールをカットしたとき

□相手シュートをリバウンドでとったとき

□パスがうまくできたとき

□試合終了で相手に勝ったとき

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(個人的技能について)

・シュート …フリースローレーンからのシュート10本中の成功数と観察

・パス …対面チェストパスの観察(胸の前、足の踏み出し、手のひら)

・ドリブル …ドリブルでコートを往復するタイムと観察

②試しのゲーム(第2時間目)の分析

■分析の視点

・個人の動き

接球数、シュート数、シュート成功率(ゲーム記録)

・個人の関心や意識

関心 …ボール、コート、人(味方・相手)、ゴール

意識 …取る、もらう、回す、攻める、守る

・集団としての動き

教師の観察により、ゲームの様相をとらえる。 (ビデオ撮影)

(2)学習状況の結果と分析

①バスケットボールに対する意識調査及び小学校での既習内容の調査より

■意識について

・バスケットボールをプレーすることが好きか。 はい …87%(13人)

いいえ …13%( 2人)

・小学校で学習したバスケットボールはおもしろかったか。

はい …100%(15人)

いいえ … 0%( 0人)

(その理由) 強く思う順に3つ選ぶ

おもしろいと思った理由 1番 2番 3番

①仲間と団結することができた 3人 1人 2人

②シュートやパスなどの技能が向上した 5人 2人 4人

③試合での動き方を身に付けることができた 2人 2人 1人

④試合で相手チームに勝つことができた 2人 4人 3人

⑤相手に勝つために作戦などを工夫できた 1人 5人 2人

⑥攻めや守りにかかわっての自分の役割を十分に果たせた 2人 0人 3人

⑦リーダーや道具係などの自分の役割を十分に果たせた 0人 1人 0人

⑧その他 0人 0人 0人

□小学校で学習したバスケットボールを全員の生徒がおもしろかったと答えている。

□その理由として最も多かったものが「シュートやパスなどの技能が向上した」で

あり、個人の技能の上達に喜びを見出している。

□続いて「勝敗」、「仲間との団結」が続く。対戦型の球技として、また集団スポー

ツとしてのバスケットボールの本質的な意義を感じている生徒が多いといえる。

0

10

20

30

40

50

60

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧

1 番 2番 3 番(%)

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・バスケットボールのゲームについて、おもしろさを感じるのはどんなときか。

※強く思う順に3つ選ぶ

おもしろさを感じるとき 1番 2番 3番

①自分の打ったシュートが決まったとき 9人 2人 2人

②仲間とパスやドリブルを使って速く攻撃できたとき 4人 4人 0人

③相手ボールをカットしたとき 0人 5人 4人

④相手シュートをリバウンドでとったとき 0人 0人 1人

⑤パスがうまくできたとき 1人 1人 5人

⑥試合終了で相手に勝ったとき 1人 3人 3人

⑦その他 0人 0人 0人

■基底技能について

【ドリブル】 ①ドリブルでコートを往復するタイムと観察

【パス】 対面チェストパスの観察(教師による3段階評価)

②胸の前

③足の踏み出し

④手のひら

⑤キャッチの準備

【シュート】 ⑥フリースローレーンからのシュート10本中の成功数

◆表1 基底技能の結果一覧表

①ド ②パ ③パ ④パ ⑤パ ⑥シ 備 考

生徒A 9.4 3 3 3 3 4 バスケットボール部員

1 生徒B 10.1 3 3 3 3 4 バスケットボール部員

G 生徒C 10.2 2 3 1 1 2

生徒D 11.0 3 2 1 1 0

橙 生徒E 12.2 2 1 2 1 2

平均 10.5 2.6 2.4 2.0 1.8 2.4

生徒F 12.2 3 3 2 1 3 ミニバス経験あり

2 生徒G 10.7 3 3 3 3 4 バスケットボール部員

G 生徒H 10.5 3 2 1 1 2 バスケットボール部員

生徒I 13.0 3 3 2 3 0

青 生徒J 10.7 3 3 3 3 2

平均 11.4 3.0 2.8 2.2 2.2 2.2

生徒K 9.0 3 3 3 3 4

3 生徒L 10.0 3 2 1 1 1 バスケットボール部員

G 生徒M 11.2 2 3 1 1 2

生徒N 12.8 3 2 3 1 1

緑 生徒O 欠席

平均 10.8 2.8 2.5 2.0 1.5 2.0

1 番 2 番 3 番

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦

(%)

0

10

20

30

40

50

60

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□バスケットボールのゲームについておもしろさを感じるのは圧倒的に「自分の打

ったシュートが決まったとき」と答える生徒が多い。リングが小さく、ゴールを

決めることが難しいが故に1本のシュートの価値は高く、決めることができたと

きの喜びが大きいといえる。シュート力を身に付けるスキル練習を段階的に位置

付けていく。

□続いて「仲間とパスやドリブルをうまく使って相手より速く攻撃できたとき」を

あげる生徒が多い。これらの生徒は現在バスケットボール部に所属していたり、

かつてミニバス経験者であったりすることから、ある程度の技能を身に付けてい

て、速い展開の攻防を味わったことのある生徒がいることを裏付けていると考え

る。

□「パス」がうまくできたときをあげている生徒が合計7名いるが、そのすべてが

バスケットボール部以外に所属する生徒である。自分の所にきたパスを何とか味

方につなぐことでほっとしている実態が伺える。

□個人的技能の調査(表1)から、ボール操作能力に関しての個人差があることが

わかる。特にドリブルやシュートについては、経験者と未経験者の差が大きい。単元の

ねらいに迫るための確実なパスや速いドリブル、ドリブルからのシュートについて、段階

的にスキルアップを図る練習を位置付けていく必要があると考える。

□以上のことから、生徒の欲求とバスケットボールの発展過程を重ねて指導する重

要性、及び個人差が大きい実態をいかに考慮して指導していくかが求められてい

るといえる。

②試しのゲーム(第3時間目)での様子

■ゲームの様相

・敵味方のほとんど全員がボールを追っていく(ボールに固まる)様相である。

・コートの中央を使って攻めている。またゴールに向かってパスしたり、ドリブル

したりする意識がないので横や後などへも簡単にパスをしてしまう。

・個人的技能の差が大きい。バスケットボール経験者や運動技能の高い生徒がボー

ルを保持する時間が長く、ドリブルを多用してシュートまでもっていく場面が多

い(ワンマンプレー)。その他の生徒はボールについて回っている。ボールを保

持してもその場で立ち止まりどこへパスを出そうかと迷っている。そうしている

うちに相手に囲まれて取り合いになってしまう。

【攻撃の軌跡(マイボールになったときにどうボールが動いたか)】

1G 橙 2G 青 3G 緑

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◆表2 個人の様子(ゲーム記録から)

接球数 失敗数 シュート数 S成功数 S成功率

生徒A 32 1 5 1 20%

1 生徒B 18 0 5 0 0%

G 生徒C 24 0 11 3 27%

生徒D 11 0 4 0 0%

橙 生徒E 21 0 4 2 50%

平均 106 1 29 6 20.7%

生徒F 31 8 14 7 50%

2 生徒G 14 10 6 1 17%

G 生徒H 10 7 2 0 0%

生徒I 7 6 1 0 0%

青 生徒J 17 4 1 1 100%

平均 79 35 24 9 37.5%

生徒K 25 1 1 0 0%

3 生徒L 30 4 10 3 30%

G 生徒M 11 0 1 0 0%

生徒N 19 1 5 2 40%

緑 生徒O

平均 85 6 17 5 29.4%

2 分析に基づく授業改善

(1)授業改善の方針

攻防の展開が速いゲームを実現し、バスケットボールの本質的な面白さを求める指導過

程の工夫改善を図る。

1年生バスケットボールの導入段階におけるゲームの様相はボールをめがけてみんなが

動くため、多くの敵に囲まれてパスやドリブルができない状態になることが多い。そこで

ボールを持っている者の味方選手は敵のいない空いたスペースに動いてパスをもらう動き

を身に付けさせていく。ボールに固まらない様相になるとパスを繋ぎ易くなり、もっと簡

単に得点を取ろうとして、攻め役の味方をひとり敵のゴール付近に残し、他の4人で守っ

てボールを取ったらすぐ攻め役にパスをしてシュートさせる作戦を考えはじめる(ワンパ

ス速攻)。やがて相手はこの作戦を防ぐためにゴールとゴールを結んだ線上でパスカット

を狙ったり、攻め役の近くに位置させる守り役を考えたりするのでパスが繋がり難くなっ

ていく。そこでコートサイドが空いていることに気付かせ、相手のパスカットを防いでシ

ュート役までボールを繋ぐ役割を分担して攻めていく。これが役割を決め、みんなで攻め

てみんなで守る様相である。

以上が概ね1年生への指導概要である。バスケットボールの本質的な面白さを「役割分

担をした動きを素早く、確実に果たすことでシュートにまでつなぐスピーディな攻撃展開」

であるととらえると、前述の指導に次の指導を加えていくとよいと考える。すなわち、「広

がって攻める」段階で、空いたスペースに動くことに続いて、コートの両サイドを幅広く

使ってボールを運ぶ速攻(側線、2線速攻の初歩)を指導し、さらに攻めてを増やして攻

めるために、中央を走って攻撃参加する役割を加えていく(3線速攻の初歩)。

(2)改善の具体的方途と実践

①速攻を中心とした指導計画の作成

攻撃を中心としたスピーディなゲームのおもしろさを味わうことができるよう、指導

過程を次のように工夫・改善する。

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① ② ③ ④ ⑤

★これまでの指導内容

※ボールに固まってしまう…

①ボールに固まらないで広がって攻める。

②シュート役を決めてワンパス速攻で攻める。

④守り役、繋ぎ役、攻め役を決めて攻めたり守ったりする。

⑤みんなで攻めてみんなで守る(人手を増やす)。

⑥相手ボールになったら素早く戻ってゾーンDFで守る。

★改善案

※ボールに固まってしまう…

①ボールに固まらないで広がって攻める。

②シュート役を決めてワンパス速攻で攻める。

③コートサイド(1・5レーン)を走る攻め役にパスをつないで攻める(側線・2線速攻の初

歩)。

④さらに真ん中(3レーン)を走る攻め役を増やして攻める(3線速攻の初歩)。

⑤速攻を確実に成功させるためにゾーンDFで守って相手を引き寄せる。

※守りのためのゾーンDFというより、速攻を成功させるためのものとして指導する。

ハンズアップ等の守りを強化する方法は弱いチームへの秘策として個別に指導する。

相手の守りの薄いコートサイドを具体的かつ効果的に活用できるよ

うにするために、コートを縦方向に5等分して示す。速攻に使う両サ

イドとは図1の①および⑤のレーン(エリア)である。

速攻を発展させていくときにもこの5等分の考え方は有効となる。

すなわち、2線速攻や3線速攻の際には、偶数もしくは奇数のレーン

を使ってボールを運ぶことでそれぞれのプレイヤーの間隔を4~5m

に保つことができるようになる。これ以上間隔が広ければ、パスの滞

空時間が長くなり攻めが遅くなる。したがってすばやい切り返しも出

来なくなる。逆に、間隔が狭くなれば、ディフェンスが1人で、2人 図1

を同時に守ることが出来るようになり、相手の脅威となり得ないからである。

実際に生徒の動きは図2のようになる。

【コートサイドを走る攻め役にパスをつないで攻める動き】

1.Dがリバウンドを取る。

2.①レーン方向に素早く開いたAにパスする。

3.①レーンの前方に大きく走っているBに縦パスをする。

4.Bはそのままシュートするか、⑤レーンを大きく走っているCに

パスしてシュートさせる。

【さらに中央を走る攻め役を増やして攻める動き】

5.さらにEは③のレーンを走り込んでパスコースを増やす。

図2

相手が守りにくいコートサイドを運ぶことで速攻を決めやすい。(側線・2線速攻)やがてサイドを守る意識が出てきたら中央からの攻め手を増やす。(3線速攻)

この段階でゲーム展開が遅くなりがちになる

① ② ③ ④ ⑤

A B

D EC

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②目指す動きを生徒が適切に自己評価することができるゲーム記録とその活用

展開後半の確かめのゲームやリーグ戦において、ゲーム記録をとり、グループの課題達成度

や個人の成果を確かめている。バスケットボールの学習では個人のゼッケン番号にパスやドリブ

ル、シュートといったボールの動きを加えて記録していく方法が一般的である。今回の実践では、

このゲーム記録に「計画欄」を加えて本時目指す動きを練習の前に確認することを取り入れてみ

る。具体的には、本時の課題となる動き(「シュート役を決めてワンパス速攻で攻めるなど」)を自

分たちのグループに当てはめて考え、ゲーム記録でどのようになるのかを前もって書いておくとい

うことである。こうすることで、確かめのゲーム後のグループ反省会においても本時の成果を素早

く確認することができるのである。

③伸びを実感できるレディネス調査とそれに対応した学習後の調査の実施

一人一人の生徒の興味・関心や、技能、適性を把握するためにレディネス調査を実施した。調

査した内容は前述のように、単元を通して付けたい力に対しての学習前の生徒の実態である。す

なわち、「関心・意欲・態度」、「思考・判断」、「技能・表現」、「知識・理解」の4観点に関しての生

徒の実態を調査するのである。その結果にもとづいて指導計画を修正したり、生徒個々への指

導、援助の手だてを工夫したりすることは、基礎・基本の確実な定着を図るための有効な手段で

あると考える。またレディネス調査を実施することにより、単元の学習で身に付けるべき力が生徒

に理解できたり、現在の実態について生徒自身が客観的に把握できたりする利点もある。今回は

リーグ戦終了後のまとめとしてレディネス調査に対応した調査を実施することにより、単元を通し

て自分はどう伸びたのかをつかむことができると考えた。

バスケットボールゲーム記録 年 班 月 日

【今日めざす動き ~計画会~】

No きっかけ ボールの動き ポイント・工夫

その1 ジ・パ・ス・リ

その2 ジ・パ・ス・リ

その3 ジ・パ・ス・リ

【ゲームの記録】

No きっかけ ボールの動き No きっかけ ボールの動き

1 ジ・パ・ス・リ 26 ジ・パ・ス・リ

2 ジ・パ・ス・リ 27 ジ・パ・ス・リ

3 284 295 3023 4824 4925 ジ・パ・ス・リ 50 ジ・パ・ス・リ

■ゲームの結果 個 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥

ゲーム①相手 班 点× 点で勝ち・負け・引分 人 接球数

ゲーム②相手 班 点× 点で勝ち・負け・引分 の シュート数

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3 授業改善後の成果

(1)速攻を中心とした指導計画の作成

ゲームの様相がどう変容したのかを前述のようにボールの軌跡とゲーム記録から示す。

【第4時】 「ボールに固まらないで広がって攻める①」

1G 橙 2G 青 3G 緑

【一人あたりの平均】

接球数 失敗数 シュート数 S成功数 S成功率 速攻数

1G 16.0 2.2 3.6 0.6 16.7% 0.0

2G 19.4 8.8 8.8 1.6 18.2% 1.0

3G 20.5 1.2 5.0 1.0 20.0% 1.5

学級 18.63 4.06 5.80 1.06 18.3% 0.83

※速攻数…1試合あたりの速攻成功数

【第7時】 「シュート役を決めて速く攻めるゲーム②」

1G 橙 2G 青 3G 緑

【一人あたりの平均】

接球数 失敗数 シュート数 S成功数 S成功率 速攻数

1G 12.0 0.0 2.2 0.2 9.1% 3.0

2G 17.6 8.4 4.6 1.2 26.1% 5.5

3G 25.5 2.3 7.0 1.3 17.9% 4.0

学級 18.37 3.57 4.60 0.90 17.7% 4.16

※速攻数…1試合あたりの速攻成功数

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【第8時】 「サイドにボールを出して速く攻めるゲーム①」

1G 橙 2G 青 3G 緑

【一人あたりの平均】

接球数 失敗数 シュート数 S成功数 S成功率 速攻数

1G 13.5 0.25 3.8 0.8 19.7% 4.5

2G 12.0 2.2 2.8 1.2 42.9% 5.5

3G 22.8 8.0 3.5 0.8 21.4% 6.0

学級 16.1 3.48 3.37 0.9 27.7% 5.33

※速攻数…1試合あたりの速攻成功数

【第15時】 「リーグ戦③」最終戦

1G 橙 2G 青 3G 緑

【一人あたりの平均】

接球数 失敗数 シュート数 S成功数 S成功率 速攻数

1G 24.6 4.6 4.2 0.6 14.3% 2.0

2G 25.6 3.8 3.8 0.8 21.1% 2.0

3G 33.8 5.3 6.0 1.8 29.2% 3.0

学級 28.0 4.57 4.67 1.07 22.8% 2.33

※速攻数…1試合あたりの速攻成功数

結果と考察

□第2時の試しのゲームと比べて、第4時ではコートの横方向に広がって攻めていることが

分かる。第6時には幅が狭くなり、かつコートの中央を1本のワンパスで攻めた数が多く

なっている。また第7時には、コートの両サイドを使って攻める比重が高くなっていること

が分かる。このことから、指導計画の改善は有効であったと考える。

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(2)目指す動きを生徒が適切に自己評価することができるゲーム記録とその活用

【第7時】 「シュート役を決めて速く攻めるゲーム②」

■1G 橙

■2G 青

■3G 緑

□確かめのゲーム後のグループ反省会の様子をみると、みんなでゲーム記録をのぞき込

む姿が見られるようになった。そして、自分たちが目指した動きのパターンが記録されて

いると喜んでいた。今回改善を図ったゲーム記録が自己評価のための手だてとして生

徒の意識に位置付いたものと考える。また、PO(技術観察係)の振り返りのことばを見る

と、これまでよりも具体的な姿や動きで記述するようになっている。このことからもゲーム

記録の改善は有効であったと考える。

【今日目指す動き ~計画会~】

No きっかけ ボールの動き ポイント・工夫

その1 ジ・パ・ス・リ ④-①~↑ 相手がDFにもどる前に速く攻める

その2 ジ・パ・ス・リ ⑥-①~↑ ⑤…ゴール下は相手の前でジャンプ

【ゲーム記録より抜粋】

13 ジ・パ・ス・リ ④-①× 【振り返り】

24 ジ・パ・ス・リ ④-①× ④がリバウンドをたくさんとって速攻

25 ジ・パ・ス・リ ④-①~↑× につなげていました。①へのパスが

32 ジ・パ・ス・リ ⑥-①× つながらないことが課題です。

33 ジ・パ・ス・リ ⑥-①↑×

【今日目指す動き ~計画会~】

No きっかけ ボールの動き ポイント・工夫

その1 ジ・パ・ス・リ ①-②~↑

その2 ジ・パ・ス・リ ①-⑩~↑

【ゲーム記録より抜粋】

7 ジ・パ・ス・リ ①-②×

9 ジ・パ・ス・リ ①-②~× 【振り返り】

16 ジ・パ・ス・リ ①-⑩↑○ 計画会で考えた速攻がたくさんでき

31 ジ・パ・ス・リ ①-②× たのでよかったです。シュートがもっ

37 ジ・パ・ス・リ ①-⑩~↑○ と決まるように練習したい。

43 ジ・パ・ス・リ ①-②↑×

【今日目指す動き ~計画会~】

No きっかけ ボールの動き ポイント・工夫

その1 ジ・パ・ス・リ ①か③-⑤-②~↑ リバウンドが強い①がとる

その2 ジ・パ・ス・リ ①~②-⑤~↑ ①から②へのロングパス

その3 ジ・パ・ス・リ ①~②~↑ ②のドリブル突破

【ゲーム記録より抜粋】

18 ジ・パ・ス・リ ①-②×

19 ジ・パ・ス・リ ①-②~↑○ 【振り返り】

24 ジ・パ・ス・リ ①-②× 今日は初勝利だったのでとてもうれ

30 ジ・パ・ス・リ ①-②~↑× しかったです。やっぱり①のリバウン

32 ジ・パ・ス・リ ①-②× ドがよかったので速攻の数が増えて

39 ジ・パ・ス・リ ①-②↑× きました。でもドリブルシュートが決ま

40 ジ・パ・ス・リ ①-②↑× らないことが多いので決めていきた

43 ジ・パ・ス・リ ①-②↑× いです。

45 ジ・パ・ス・リ ①-②~↑×

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(3)伸びを実感できるレディネス調査とそれに対応した学習後の調査の実施

★「今回のバスケットボールの学習はおもしろかったか。」 はい …100%(14人)

いいえ… 0%( 0人)

(その理由) 強く思う順に3つ選ぶ

おもしろいと思った理由 1番 2番 3番

①仲間と団結することができた 5人 1人 2人

②シュートやパスなどの技能が向上した 1人 5人 3人

③試合での動き方を身に付けることができた 2人 2人 4人

④試合で相手チームに勝つことができた 2人 4人 0人

⑤相手に勝つために、作戦などを工夫できた 2人 2人 5人

⑥攻めや守りにかかわっての自分の役割を十分に果たせた 2人 0人 0人

⑦リーダーや道具係などの自分の役割を十分に果たせた 0人 0人 0人

⑧その他 0人 0人 0人

★「バスケットボールのゲームについて、どんな瞬間におもしろさを感じたか。」

おもしろさを感じるとき 1番 2番 3番

①自分の打ったシュートが決まったとき 3人 3人 3人

②仲間とパスやドリブルを使って速く攻撃できたとき 6人 2人 1人

③相手ボールをカットしたとき 1人 2人 6人

④相手シュートをリバウンドでとったとき 0人 1人 1人

⑤パスがうまくできたとき 1人 1人 1人

⑥試合終了で相手に勝ったとき 2人 5人 1人

⑦その他 1人 0人 1人

【結果と考察】

□全員の生徒が本単元の学習をおもしろかったと答えている。その理由として最も多かっ

たものが「仲間と団結することができた」であり、集団として課題解決を目指した学習に

価値を見出したといえる。また、おもしろさを感じる瞬間について、単元の導入時には

「シュートが決まったとき」を第一にあげる生徒が最も多かった(60%)のに対し、学習

後には「仲間とパスやドリブルをうまく使って相手より速く攻撃できたとき」をあげる生徒

の割合が最も多く(43%)なった。このことから、ボール操作を中心とした個人技能の向

上から攻防プレーや連けい動作というバスケットボールの本質的なおもしろさを味わい、

喜びを感じるという意識の変容が見られたものと考える。

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① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧

① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧

1 番 2 番 3 番

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