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恒星の脈動 (Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。 表面の脈動 (振動) による視線速度の変動も観測される。視線速度の変動は、スペクトル吸収 線の波長がドップラー効果によって変動することから計測される。もっともシンプルな星の脈 動は球対称を保ちながら脈動する場合で、動径脈動 (radial pulsation) または動径振動 (radial oscillation) といわれる。 右の図は、動径脈動をする代表的な脈動変 光星である、セファイド型変光星の光度と 視線速度変化を表している。計測された視 線速度には、脈動による速度変化に加えて、 その星全体が我々に対してしている運動も 入っている。右の図の場合 (δ Cep) 視線速度 の平均値がおおよそ 15 km/s となってお り、この星がこの速度で我々に近づいてきて いる事を表している。 (視線速度は我々から 遠ざかる速度を正の値とする) 脈動による 視線速度変化はこの平均値からの変化であ る。光度の極大は半径の極小時の少し後に 現われる。一般に、圧縮されて半径が小さく なった時に表面温度は高くなるが、非断熱 効果により、半径の極小時と表面温度の極 大とは少しずれるため、光度の極大と半径 の極小時とが少しづれている。Luminosity T 4 eff R 2 に比例するが、多くの場合表面積 の効果は温度の効果に比べて小さい。 非球対称振動 (非動径脈動 nonradial pulsation または非動径振動 nonradial oscillation) 場合は、ある時点で星の表面で膨張して低温になっている部分と収縮して高温になっている部 分が存在する。その分割数が多すぎると、点光源としか観測されない恒星では観測不可能であ るが、我々にくる光は恒星の半球からの光であるので、2分割、4分割までの非動径脈動の変 光を観測する事が出来る。また、非動径脈動をする星のスペクトル吸収線は、我々に近づく部 分と遠ざかる部分の両方の光によって形成されるので、吸収線輪郭が変動する。 太陽では、表面下の対流運動によって、周期がおおよそ5分程度の非動径脈動を行ってい る、それは主に高分割の非常に多くの非動径脈動の重ね合わせである。太陽の場合は、太陽面 を細かく分解してみることができるので、高分割の非動径振動も観測される。 1

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Page 1: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

恒星の脈動 (Stellar pulsation)

1 脈動変光星の観測的性質脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動 (振動)による視線速度の変動も観測される。視線速度の変動は、スペクトル吸収線の波長がドップラー効果によって変動することから計測される。もっともシンプルな星の脈動は球対称を保ちながら脈動する場合で、動径脈動 (radial pulsation)または動径振動 (radial

oscillation)といわれる。

右の図は、動径脈動をする代表的な脈動変光星である、セファイド型変光星の光度と視線速度変化を表している。計測された視線速度には、脈動による速度変化に加えて、その星全体が我々に対してしている運動も入っている。右の図の場合 (δ Cep)視線速度の平均値がおおよそ−15 km/s となっており、この星がこの速度で我々に近づいてきている事を表している。(視線速度は我々から遠ざかる速度を正の値とする) 脈動による視線速度変化はこの平均値からの変化である。光度の極大は半径の極小時の少し後に現われる。一般に、圧縮されて半径が小さくなった時に表面温度は高くなるが、非断熱効果により、半径の極小時と表面温度の極大とは少しずれるため、光度の極大と半径の極小時とが少しづれている。Luminosity

はT 4effR

2 に比例するが、多くの場合表面積の効果は温度の効果に比べて小さい。

非球対称振動 (非動径脈動 nonradial pulsation または非動径振動 nonradial oscillation) の場合は、ある時点で星の表面で膨張して低温になっている部分と収縮して高温になっている部分が存在する。その分割数が多すぎると、点光源としか観測されない恒星では観測不可能であるが、我々にくる光は恒星の半球からの光であるので、2分割、4分割までの非動径脈動の変光を観測する事が出来る。また、非動径脈動をする星のスペクトル吸収線は、我々に近づく部分と遠ざかる部分の両方の光によって形成されるので、吸収線輪郭が変動する。太陽では、表面下の対流運動によって、周期がおおよそ5分程度の非動径脈動を行ってい

る、それは主に高分割の非常に多くの非動径脈動の重ね合わせである。太陽の場合は、太陽面を細かく分解してみることができるので、高分割の非動径振動も観測される。

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Page 2: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

(Gautschy 2008)

このような脈動変光星はその変光周期、進化段階によってグループ分けされており、HR 図上それぞれかたまった領域に存在する。脈動周期は、おおざっぱに言って、半径が大きい星程長い。短いものは白色矮星の 100秒程度、長いものでは、ミラ型星の数年にまでなるものもあり、非常に広い範囲を持つ。下の表は、脈動変光星グル-プの代表的な例についてそれらの特性を表したものである。Mira, Semi-regular型は赤色超巨星の脈動によるもので、周期が非常に長い。RCB stars (R Coroni Borealis type stars) は水素欠乏星で、不規則に数等にもおよぶ減光 (ダストによる遮光)が発生する他に、準周期的な脈動を示す。α Cygni variablesは大質量星の青色超巨星で準周期的な変光を示す。Cepheids と RR Lyrae 型変光星はCore-Helium-Burning stage

にある脈動星で、距離の決定に利用されることが多い。β Cephei stars, SPB (slowly pulsating

B) stars, δ Sct, γ Dor, roAp (rapidly oscillating Ap) stars は主系列星の脈動変光星である。sdBV (subdwarf B variables) は Helium-Burning stage にある星であるが、質量放出によって水素を含む外層が非常に薄くなっているため半径が小さく、高温の表面温度をもつ星である。sdBV 星は最近 (1990年代後半)になって発見された脈動変光星グル-プである。白色矮星の脈動変光星は、表面温度の高い順に、GW Vir型星、DBV星、DAV星に分類される。GW Vir

型星は、表面が酸素と炭素と少量のヘリウムからなっているような特殊な組成をもつ白色矮星になりたての星である。DBV星の表面はほぼ純粋なヘリウムに層をもつDB白色矮星であり、

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DAV星は表面に純粋な水素の層をもつDA型白色矮星である。太陽の 5分振動は、外層の対流運動によって起こされた振動であり、非常にたくさんの固有振動の重ね合わせである。太陽振動の正確な振動数の観測により、太陽内部の構造を推測することが出来る (Helioseismology 日震学)。また、最近では主にCoRoT衛星、Kepler衛星の精密な測光観測によって、多くの太陽類似星、及び赤色巨星でも太陽型の振動 (Solar-like oscillations) が観測されている。

種々の脈動変光星の特性

Type Teff(K) Period range Amplitude(mag) Population

Mira, Semi-regular ∼ 3000 102 – 103 d – 10 I, IIRCB stars ∼ 7000 − 20000 10 – 100 d ?α Cyg stars ∼ 104 10 – 100 d . 0.1 I, IICepheids ∼ 6000 1 – 100 d 0.3 – 2 I, IIRR Lyrae ∼ 7000 0.1 – 1 d 0.3 – 1.5 IIβ Cephei stars ∼ 2.5 × 104 4 – 6 hr 0.01 – 0.3 ISPB stars ∼ 1.5 × 104 ∼ 1 – 2 d 0.01 – 0.02 Iδ Sct ∼ 7500 1 – 6 hr 0.01 – 0.8 Iγ Dor ∼ 7000 1 – 2 d – 0.1 IroAp stars ∼ 8 × 103 4 – 15 min – 0.02 IsdBV (short) 30000 – 35000 100 – 200 s – 0.01 IIsdBV (long) 25000 – 30000 ∼ 1 hr – 0.01 IIDAV, DBV 104, 2 × 104 100 – 1000 0.02 - 0.3 I, IIGW Vir stars 105 400 – 1700 s ∼ 0.1 I, IISun 5800 ∼ 5 min I

星の脈動には、大きく分けて球対称的な radial pulsations と非球対称的な nonradial pulsa-

tions (または nonradial oscillations 非動径振動)とがある。おおざっぱに言って、主に、セファイド型星、ミラ型星等の巨星では radial pulsations が起こり、主系列星、白色矮星などでは nonradial pulsations も現われてくる。とくに、白色矮星では radial pulsations は確認されていない。太陽型振動は赤色巨星においても nonradial pulsations が多く観測される。この章では、このような stellar pulsations の理論について考える。

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2 Radial pulsations (動径脈動)

星の振動のもっとも簡単な場合として、球対称的脈動 (動径振動、Radial pulsations)を考える。星の振動の理論で最もわかっていないことは、星の振動と対流との coupling の問題であろう。静的な、環境のもとでも星のなかでの対流をどう扱うかが大きな問題であるが、time-dependent

な状態で、対流が振動と力学的、熱的にどのように影響を及ぼすかについて、量的に扱うことのできる信頼できる理論が確立されていない。そのため、以後は対流の効果を無視する。

2.1 Basic equations

Radial pulsations を扱う場合は Lagrange 的記述を使うのが便利である。独立変数として、半径 rの球の中に含まれる質量Mrを使う。(Mrは物質にくっついた座標なので、Lagrange 的記述での独立変数として使うことが出来る。) ある場所の中心からの距離は時間 tとMr の関数r(Mr, t) として表され、速度は [∂r(Mr, t)/∂t]Mr、加速度は [∂2r(Mr, t)/∂t

2]Mr と表される。静水平衡からずれているときの球対称構造を記述する Basic equations は、

1

4πr2

(∂2r

∂t2

)Mr

= − ∂P

∂Mr

− GMr

4πr4(2.1.1)

∂r

∂Mr

=1

4πr2ρ(2.1.2)

∂T

∂Mr

= − Lr

(4πr2)2

4acT 3(2.1.3)

∂Lr

∂Mr

= εn − T∂S

∂t(2.1.4)

と表される。(2.1.1)式 は力のつり合いを表し、(2.1.2)式は質量保存を表す。(2.1.3)式はエネルギ-の流れを表すが、ここでは輻射によるエネルギ-の流れだけが考慮されている。Lrは半径 rの球を毎秒通過するエネルギ-を表す。最後に、(2.1.4) 式は、熱エネルギ-保存を表す (S

は単位質量当たりの entropy をあらわす)。これらの非線形の微分方程式を、差分方程式にして時間発展を computer で直接追跡することも出来る(非線形解析)。以下では、これらの式を線形化して、星の脈動についての定性的な性質を議論する (線形解析)。ある Mr に対する中心からの距離 r(Mr, t) は、その equilibrium value r0(Mr)と、それから

のずれ ξ(Mr, t)により、r(Mr, t) = r0(Mr) + ξ(Mr, t) (2.1.5)

のように表す。また、他の物理量 f(Mr, t) に対しては、それらの左側に∆ 付けることによって equilibrium value f0(Mr) からのずれを表し、

f(Mr, t) = f0(Mr) + ∆f(Mr, t) (2.1.6)

のように書く。したがって、ある変数 f について、∆f はMrをfixしたときの変化 (Lagrangian

variation)なので

(∂f(t,Mr)

∂Mr

)=∂(∆f(t,Mr) + f0(Mr))

∂Mr

− df0(Mr)

dMr

=∂∆f(t,Mr)

∂Mr

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の関係が成り立つ。(2.1.5)、(2.1.6)式の形を (2.1.1) – (2.1.2)式に代入して、|ξ|/r 1、|∆f |/f 1と仮定し、

これらの2次以上の項を無視すると、

1

4πr2

∂2ξ

∂t2= −∂∆P

∂Mr

+ 4GMr

4πr4

ξ

r∂ξ

∂Mr

= − 1

4πr2ρ

(2ξ

r+

∆ρ

ρ

)∂∆T

∂Mr

=∂T

∂Mr

(∆Lr

Lr

− 4ξ

r+

∆κ

κ− 3

∆T

T

)∂∆Lr

∂Mr

= ∆εn − T∂∆S

∂t

(2.1.7)

のような線形化された摂動方程式が得られる。ここで、ξをよび∆のついた量以外は平衡状態の量を表す。

2.2 Adiabatic radial pulsations

多くの場合、星の内部のほとんどの領域で、脈動の周期に比べて熱の交換の起こる timescale

(thermal timescale)は非常に長い。このような場合、脈動の力学的性質については断熱近似がよい近似となっている。(脈動の励起は星の表面近くでの非断熱的効果で起こる。このことについては後で議論する。)断熱近似のもとで、圧力と密度の変化には、

∆P

P= Γ1

∆ρ

ρ; Γ1 ≡

(∂ lnP

∂ ln ρ

)S

(2.2.8)

の関係がある。この関係を使うと、(2.2.7)式の上の二つの式だけで閉じた微分方程式系ができ、

ξ

4πr2= −∂∆P

∂Mr

+ 4ξ

r

GMr

4πr4

∂ξ

∂Mr

=1

4πr2ρ

(−2

ξ

r− 1

Γ1

∆P

P

) (2.2.9)

が得られる。平衡状態での中心からの距離 r0とMrとは一対一の関係

dMr = 4πr20ρ0dr0

があるので、この関係により独立変数を Mr から r0 に変換する。(以後添字の 0は省略する。)

さらに、上の式で、時間が explicit にでてこないので、脈動による time-dependence を

ξ(t, r) = eiσtξ(r); ∆f(t, r) = eiσt∆f(r) (2.2.10)

のように表すことが出来る。現実の値は、上の real parts をとったものだとする。σ は、一般には複素数で、その real part が脈動の角振動数を与え、imaginary part が振幅の増減を決め

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る。(ただし、断熱脈動の場合は、境界からの振動の「漏れ」がないかぎり、σは実数で、振幅の増減はない。) したがって、 (2.2.9)式は

1

ρ

d∆P

dr= σ2ξ + 4

ξ

r

GMr

r2

dr= −2

ξ

r− 1

Γ1

∆P

P

(2.2.11)

のように変形される。これらの式が、adiabatic radial pulsations に対する線形近似の式で、境界条件を与えると、固有値方程式となり、振動数の2乗 σ2 が固有値として求められる。また、一般の linear purturbation analyses の場合と同様、斉次方程式なので、任意の定数をかけても不変なので振幅は決まらない。

2.2.1 Boundary conditions

上の微分方程式の解と固有値を得るためには、二つの境界条件が必要である。一般に、星の中心と表面とでの境界条件を与える。中心は星の重心で、球対称振動では中心で物は動くことができないので、

ξ = 0 at r = 0 (2.2.12)

という条件が設定できる。表面での境界条件は、星の表面で、P → 0 となっていることから以下のように求められる。(2.2.11)第 1式を少し変形して、

P

ρ

d(∆P/P )

dr+

∆P

P

1

ρ

dP

dr=

(σ2 r3

GMr

+ 4

)GMr

r3ξ

さらに、d(∆P/P )

dr= −d lnP

dr

[∆P

P+

(σ2 r3

GMr

+ 4

)]ξ

r

が得られる。−d lnP/dr = ρGM/Pr2 は pressure scale height Hp の逆数で、Hp は星の表面に近づくにしたがって短くなる。それに対して、∆P/P は、有限に保たれるはずであるから、表面 (r = R)で (2.2.13)式が成り立つためには、

∆P

P' −

(σ2 R

3

GM+ 4

Rat r = R (2.2.13)

でなくてはならない。この条件が表面での境界条件である。

2.2.2 Linear Adiabatic Wave Equation

(2.2.11)式から ∆P を消去すると ξ に対する2階の微分方程式

1

ρ

d

dr

[Γ1P

r2

d(r2ξ)

dr

]+

(σ2 +

4GMr

r3

)ξ = 0 (2.2.14)

が得られる。この式は、 adiabatic radial pulsations に対する linear adiabatic wave equation

である。Operator L を

L ≡ −r2

ρ

d

dr

(Γ1P

r2

d

dr

)− 4GMr

r3(2.2.15)

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のように定義し、変数 u(r) をu ≡ r2ξ (2.2.16)

と定義すると、(2.2.14)式はLu = σ2u (2.2.17)

という簡単な形に表すことができる。これは、Sturm-Liouville 型の微分方程式で、weight をρ/r2 とした Hermitian の関係、∫ R

0

u∗Lu ρr2dr =

∫ R

0

uLu∗ ρr2dr

を満たす。したがって、すべての固有値 σ2 は実数で、最小値(基本振動に対応する)が存在する。また、すべての固有関数が実関数である。j 番目と k番めの固有値に対応する固有関数をそれぞれ、uj、uk とかくと、直交関係∫ R

0

u∗jukρ

r2dr =

1

∫ M

0

ξ∗j ξkdMr = 0 if j 6= k

が成り立つ。(dMr = 4πρr2dr) また、固有関数のセット uj は complete set で、それらのlinear combination であらゆる関数が表される。

σ2 > 0 のとき、σ は実数で、実際の脈動による中心からの距離の変動は

∆r = <(eiσtξ(r)

)= ξ(r) cos(σt) (2.2.18)

と表され、standing waves であることがわかる。σの最小値 σ0は基本振動 (fundamental pul-

sation) に対応し、 その固有関数 ξ0には node(節)が無い。つまり、中心以外でゼロ点を持たず同じ符号を持つので、星全体が同じ位相で振動する。 大きい σ に対する動径脈動 (overtone

pulsations) ほどたくさんの nodes をもつ。一方、σ2 < 0 のとき、σ は純虚数となり、振動ではなく、微小変動が単調増加または、単

調減少することを表す。つまり、ある星で、σ2 < 0の固有値が存在したとすれば、それは力学的に不安定であることを表す。

2.2.3 Some examples

基本脈動に対する粗い近似として、ξ/r =constant を式に代入して fundamental mode の固有値 σ2

0 のおおよその値を求めてみよう。この場合 (2.2.11)第2式から、∆P/P = −3Γ1ξ/r が得られるので、これを (2.2.11)第一式に代入すると、(Γ1 は場所によって変化しないとする)

−3Γ1

ρ

dP

dr

ξ

r=

(σ2

0 + 4GMr

r3

dP/dr = −ρGMr/r2 であるから、[

σ20 − (3Γ1 − 4)

GMr

r3

]ξ = 0

が得られる。w を1のオーダーの数として、⟨Mr

r3

⟩= w

M

R3(2.2.19)

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とかくと(w は質量中心集中度の大きい構造に対して大きい値を持つ)、

σ20 ' (3Γ1 − 4)

wGM

R3(2.2.20)

のように得られる。この式は、Γ1 < 4/3 のとき σ0 < 0 となり、dynamical instability が起こることを示している。このことは、Virial定理をもとに total energy を出すと、Γ1 < 4/3のとき total energy が正の値を持つことに対応する。

σ は角振動数であるから、(2.2.20)式より、基本脈動周期 Π0は

Π0 =2π

σ0

' 2π/√

(3Γ1 − 4)wGM/R3 ∝ 1√〈ρ〉

(2.2.21)

と表される。これは、星の脈動の周期が free-fall time√R3/GM と同程度であることを示して

いる。また、ビリアル定理から、星の重力エネルギーと internal energy Ei とは同程度で、GM2

R' 2Ei ∼ CvTM ∼ c2sM −→

√R3/GM ∼ R

cs(2.2.22)

という関係が得られ、(cs は音速を表す)この関係から、脈動周期は音波が星を横切るのに要する時間程度とも表現できることがわかる。また、(2.2.21)式の最後の関係は、Period-mean density 関係を表している。この関係は、

pulsation ‘constant’ Q を使って、Π = Q

√〈ρ〉/〈ρ〉 (2.2.23)

と表されることもある。基本脈動に対して Qの典型的な値は 0.04 daysである。Qは pulsation

constant という名前がつけられているが、その値は星の構造によって少しずつ異なり基本脈動に対して 0.03 ∼ 0.1days 程度の範囲の値をとる。(基本脈動周期そのものは、星の種類によって、数秒から数年まで異なることに比較するとQは定数に近いといえる。)

右の図は、星 (polytrope)の内部での脈動振幅 ξ/r の分布を表している。一般に中心に近い程 |ξ/r| は小さく、その度合いは密度の中心集中度が高い程強い。Fundamental mode に対してはξ/r は符号の変化はないが、first over-

tone mode では ξ/r = 0 となる場所(node)が一ヶ所ある。通常の星の構造は n = 3 ∼ 4の polytrope に対応し、脈動は主に外層だけで振幅が大きい。また、それぞれの脈動 mode に対するσ0/(GM/R3) の値が n = 3と n = 4

の polytropeに対して右の表に記されている。σ の値は質量の中心集中度が大きいほど (polytropic index nが大きい程)大きくなる傾向を持つ。

σ2/(GM/R3)Mode n = 3 n = 4Fundamental 9.255 15.151st Overtone 16.98 24.942nd Overtone 28.48 37.07

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脈動の励起には、力学的励起と熱的励起とがある。力学的励起は、対流運動がランダムに起こす静水圧構造に対する揺らぎによって振動を励起 (stochastic excitation)するものであり、太陽振動および太陽型振動を起こす。一方、熱的励起は、脈動の際に熱エネルギーが交換される (非断熱)効果により、脈動振幅が微小振幅から観測可能な振幅まで増加する現象で self-excitation

である。

2.3 熱の交換による脈動の励起断熱脈動を記述する波動方程式はHermitianで固有値である振動数の2乗 σ2が実数である。そのため力学的に安定な場合 σ2 > 0は、揺らぎは振幅一定の振動となる。熱の出入り、つまり非断熱効果を考慮すると、この揺らぎの振幅が一定ではなく、減衰または成長する。このことは、(2.3.7)の最後の式に時間の1階微分が入っており、ここから iσに比例する項が現れることから想像できる。つまり、非断熱波動方程式はHermitian ではなく、固有値 σが複素数 σ = σr + iσi

となり、時間依存性が eiσt = e−σiteiσrtとなり、σの複素成分の符号がゆらぎの成長・減衰を決める。星の脈動は、微小の揺らぎが大きな振幅を持つまでに成長したものである。振幅の成長、減

衰は、脈動による収縮と膨張に際して起こる熱エネルギーの交換に起因する。ほとんどの脈動星の外層の平均的状態では、脈動周期に比べて熱の交換に要する時間は格段に長いので、脈動振幅の成長減衰は、その脈動周期に比べて非常に長い timescale で起こる。おおざっぱにいって、ある層が脈動を成長させるように働くか、逆に減衰させるように働くかは、その層が熱エネルギーを吸収するときの脈動の位相による。圧縮されている位相で熱エネルギーを吸収すると、その層は脈動の振幅を増幅させるように働き (driving)、膨張の位相で吸収すると脈動を減衰させるように働く (damping)。その原理は、カルノーサイクルで理解できる。

上の図で、右回り(時計回り)に回るとき、つまり、圧縮されている位相で entropy が増加

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する場合、圧縮によってされる仕事よりも膨張の際にする仕事のほうが大きく、∮PdV > 0 (2.3.24)

となっている。この場合、この層では熱エネルギーが運動エネルギーに変えられ、脈動を増幅する働きをすることを示している。逆に、左周りに回る層では、圧縮の際に周りからされる仕事のほうが膨張時に周りにする仕事よりも大きく、脈動を減衰させる働きをする。星の外層では、脈動を増幅させる働きを持つ層と減衰させる働きを持つ層との両方が存在する。その効果を、星全体で積分したとき、全体として (2.3.24)式の関係が成り立っていれば; i.e.,∫ M

0

[∮PdV

]dMr > 0

となっていると、その星で脈動が励起されて有限の振幅を持つことが期待される。ある層での、driving または damping の効果の大きさは、その場所で(相対的)振幅が大

きいほど、また、収縮膨張時の entropy の差が大きいほど大きい。一般に、脈動の振幅は表面に近づくほど大きいので、この点に関しては、外層上部が有利である。もう一つの点については、少し複雑である。ある層での local thermal timescale が脈動周期に比べて非常に長い場合は、そこでの収縮膨張がほとんど断熱的に起こる。このとき、P-V図上でサイクルがほとんど、enntropy 一定の一本の線上をいったり来たりする状況になり

∮PdV ∼ 0 となるため、その層

は脈動に対して仕事をしない。また、逆に、星の表面近くでは、local thermal timescale が脈動周期に比べて非常に短い。その層は常に thermal balance を保ちながら収縮膨張をするので、この場合も、P-V図上でサイクルが一本の線上(entropy は変化する)をいったり来たりする状況になり、増幅減衰の効果を及ぼさない。したがって、この効果は、

Pulsation period ∼ Local thermal timescale

となっている、表面から少し離れた層で、最も大きい。そのような層でちょうど (2.3.24)式が成り立つような状況になっている場合に星の脈動が励起されやすい。脈動の励起機構、つまり局所的にでも (2.3.24)式の関係が成り立つようにするメカニズムに

は、2種類ある。そのひとつは、epsilon-mechanism とよばれ、核融合反応のエネルギー発生率の温度依存性に起因する。もう一つは、kappa-mechanismまたは opacity-mechanismとよばれ、脈動による膨張と圧縮時の opacity の変化に起因する。

Kappa-mechanism は、脈動によって収縮している際、輻射によるエネルギーの blockされると起こる。つまり、圧縮されたとき∆(∇ · F ) < 0となっていると脈動の励起に貢献する。∇ · F = ρdLr/dMr であり、

∂∆T

∂Mr

=dT

dMr

(∆Lr

Lr

− 4ξ

r+

∆κ

κ− 3

∆T

T

)のように表されるので、非断熱性が弱いときに kappa-mechanism が起こる近似的な条件は、かなり込み入った計算と近似をすることによって、

d

dr

(κT +

κρ

Γ3 − 1

)> 0

10

Page 11: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

のように表される。ここに、Γ3 − 1 = (d lnT/d ln ρ)ad である。この条件を満たし、kappa-

mechanism による drivinig が起こるのは、opacity が局所的に peak をもつ層である。逆にopacity の効果が減衰に寄与する場合は、放射減衰 (radiative damping) 効果といわれる。

Opacity peaks は T ∼ 104K の水素及び中性水素の電離に起因するもの、T ∼ 4−6×104KでのHe+ の電離によるもの、さらに(1990年代に入ってはじめて認識された)T ∼ 2×105Kの重元素の内殻電子のエネルギー遷移と電離によるものがある。上で議論したように、これらの driving

zone が脈動周期と local thermal timescale とが同程度になっているとき、星の脈動が励起される。local thermal timescaleは、星の表面からの深さが増すに連れて急激に長くなる。したがって、温度の高い層の opacity peak は表面温度の高い星の脈動に関与する。He+ の電離によるopacity peak (+ H、He の電離による peak)は、セファイド不安定帯と呼ばれる HR 図上の領域にある、セファイド型変光星、δ Scuti 型星、 RR Lyrae 型星等の比較的表面温度の低い(Teff <∼ 8× 103K)脈動星の原因となっている。一方、T ∼ 2 × 105K は表面温度が数万度の β

Cephei 型星、SPB星等の脈動の原因となっている。

Epsilon-mechanism がはたらく理由は次のように理解される。核融合反応によるエネルギー発生率は密度、温度が高いほど大きく、特に温度に敏感に変化する。従って、ガスが圧縮されて高温になるとエネルギー発生率が増加し、ガスは equilibrium の状態よりも多くのエネルギーを得、逆に膨張時では温度が低くエネルギ-発生率が小さいのでガスの internal energy はequilibrium の状態よりも小さくなる。したがって、(2.3.24)式の関係が成り立ち、driving が起こる。しかし、核融合反応が起こる領域は、表面から離れた深いところで、そこでの脈動振幅は表面近くに比べて非常に小さい。そのため、epsilon-mechanism の効果は、より外側で起こる輻射減衰(後述)の効果によって打ち消されてしまう。epsilon-mechanism だけで、通常の星の脈動を励起するのは困難で、今までのところ、epsilon-mechanism で実際に励起されていると考えられる脈動星はみつかっていない。しかし、星の質量が大きくなると内部密度が小さくなり中心部でも脈動振幅が比較的大きくなるので、epsilon-mechanism による脈動の励起が可能となる。これは、∼ 102M を越える質量を持つ主系列星で起こる。この脈動によって質量放出が起こることが恒星の質量の上限を決めているという説もある。

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Page 12: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

Strange-mode instability: 多くの脈動星では Thermal time ∝ M/Lは脈動周期に比べて非常に長い。そのため、上で議論した励起機構が働く際、脈動自体はほぼ断熱脈動の性質を保ったまま、振幅の変化は脈動周期に比べて非常にゆっくり起こる。しかし、非常に明るい星でL/M & 104の場合、thermal timeが脈動周期より短くなり、さらに、Prad Pgas である領域が存在する。このような星では、成長時間が脈動周期と同程度の strange-

mode instability が起こる。Strange modes とは、放射圧が優勢 (β ≡ Pgas/P 1)の領域にその運動エネルギーの大きな割合が閉じ込められているような脈動モードをいう。星のパラメータ、例えば Teff の変化にそって起こる Strange

mode の振動数の変化の傾向が、通常のモードの傾向と異なるために strange modes と名付けられている。

Strange modes の例; 明るい水素欠乏星の脈動

L/M > 104 の場合に輻射圧が優勢なゾーンが出来る事は次のように理解できる。圧力をPgas + Pradと分割し、Prad = aT 4/3を使うと輻射によるエネルギーの流れの式が

Lrad

4πr2= −4acT 3

3κρ

dT

dr= − c

κρ

dPrad

dr

と表される事から、静水圧平衡の式が

dPgas

dr= −GMrρ

r2

(1 − κLrad

4πcGMr

)= −gρ

(1 − κ

1.3 × 104

Lrad/L

M/M

)のように変形され、L/M > 104だと、dPgas/dr > 0 となり、顕著な density inversion が存在しその内側には輻射圧の優勢な領域が出来き、strange mode が存在できると理解できる。

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Page 13: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

Thermal time が非常に短い場合は、(2.1.7) の最後の式で entropy perturbation の時間変化が瞬時に起こり、(∂∆S/∂t)Mr → 0 とする事が出来るので、外層 (εn = 0)では∆Lr/Lr ≈ 0

となっている。Prad ∝ T 4 なので  ∆Prad/Prad = 4∆T/T とかくことがきる。このことと、∆Lr/Lr ≈ 0を (2.1.7) の下から2番目の式に使うと、近似的に

∆L

L= −κT

4

∆Prad

Prad

− κρ∆ρ

ρ− c

κρL

d∆Prad

dr≈ 0

が得られる。β 1の環境では P ≈ Pradなので、

d∆P

dr∝ −∆ρ

という関係が得られる。これは、断熱関係 (∆P ∝ ∆ρ)とは異なり、∆P と∆ρが微分関係になっているので、この二つの変化量に位相の差が存在する事になり、力学的不安定性に類似した不安定性が起こる事を示している。これが Strange-mode instability の原因である。Strange-mode

instabilityが発生するか否かはL/Mのおおきさによるので、HR図上での Instability boundary

はほぼ水平である。

Stochastic excitation: 上で考えた熱エネルギ-の吸収放出による excitation mechanism と異なり、Stochastic excitation は、対流層内のガスの乱流運動によってノイズ (種々の周波数の音波)が発生し、その中で星の固有振動周波数に対応する音波が共鳴する。乱流の characteristic

timescale と同程度の周期を持つ音波がもっとも強く放出されるので、それと同程度の周期を持つあらゆる radial および nonradial pulsations が励起される。Stochastic excitation の特徴は、振幅は小さい (. 1m/s)が非常にたくさんの固有振動が励起されることである。太陽の 5分振動が stochastic excitation による振動の代表例である。また、最近の CoRoT,Kepler衛星による精密な測光観測によって、太陽の表面温度程度、またはそれより低温の巨星および主系列星の多くで stochastic excitation による太陽型振動が観測されている。

脈動変光星の脈動機構:

より温度の高い場所にある opacity peak によるkappa-mechanism は、より有効温度の高い脈動変光星の励起に寄与している。Strange-mode instabil-

ity による脈動星の領域は表面温度ではなく luminos-

ity によって境界づけらている。太陽と同程度のまたはそれより低温の星では、対流による stochastic exci-

tationによる太陽型振動が起こっている。

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Page 14: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

2.4 Nonlinear pulsations

非線形脈動モデルの計算では非線形微分方程式 (2.4.1) – (2.4.4) を数値的に解く事により脈動振幅の時間変化を追跡する。脈動の励起は、輻射のエネルギーが運動エネルギーに変換されることによって起こるので、外層の thermal timescale で起こる。Thermal timescale は多くの場合 dynamical timescale に比べて非常に長い (例外:L/M > 104L/M の超巨星)ので、脈動振幅の増大は数百回以上の脈動を繰り返しながらゆっくりと起こる。そのため、非線形脈動モデルの計算には、長い計算時間が必要となる。下の図は、Luminosity の大きい helium star のモデルの脈動振幅の増大の様子をあらわし

たものである。このモデルは L/M が大きく、thermal time が比較的短いので、振幅の増大が非常に速く起こっている。振幅が大きくなってくると、脈動が sine-curve からずれて、鋸の歯のような形になって来る。この減少の一つの原因は、半径が小さい時には dynamical timescale

が短いので、変化が速く起こり、逆に半径が大きい時にはゆっくり起こるためであると説明できる。振幅が十分大きくなると成長が止まり、振幅が一定の脈動を繰り返すようになる。もっと luminosity が高い場合には、不規則 (カオス的)な脈動を繰り返す場合もある。

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Page 15: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

Mira型脈動星は赤色超巨星で、周期が年のオーダの大きな振幅の脈動をしている。右図はMira型脈動星モデルの表面近くでの脈動に伴う変動を表したものである。(この計算十分内側で sine-curve的に変動する境界条件を設定している。対流との相互作用を取り扱うことができない等の理由で、現在のところこのような星の外層全体をself-consistent に扱った計算はまだされていない。) このように振幅の大きい脈動では shock waves が発生し、それらが外側に伝搬してゆき、さらに表面から星間空間へと、脈動運動から離脱して、伝搬してゆく様子が見てとれる。

(Hofner & Dorfi 1997, A&A, 319, 648)

星の表面から十分離れた (温度が十分低い)場所ではでは Shock wave の背後の密度が高くなっているところでダストが形成される。輻射をよく吸収散乱するダストには強い輻射圧がはたらくので、外側に向かって押し出される。ガスとダストとの相互作用が強いので、ガスも一緒に外向きに押し出され、恒星風となる。このように、脈動する赤色超巨星からの質量放出には脈動とダスト形成とが深く関わっている。そのことは、dust formation 考慮した場合としない場合で同じ計算をすると、星から離れた場所でのガスの流出速度が大きく異なることからわかる。(右下の図参照)

(Willson 2000, Ann.Rev.A.Ap,38, 573)

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2.5 セファイド変光星2.5.1 周期光度関係 (P-L relation)

セファイドには、周期が長いほど明るいという、周期光度関係が存在し、それは系外銀河までの距離を知る重要な手段の一つとなっている。セファイドの周期光度関係が存在する原理は以下のように説明される。周期をΠと書くと、周期-平均密度関係Π ∝<ρ>−1/2 から、

Π = C√R3/M (2.5.1)

という関係があることがわかる。ここに、R、M はそれぞれ、半径と質量をあらわし、Cは定数である。Cepheids は core helium burning stagenにあるので、質量-光度 (mass-luminosity)

関係が存在し、

L = fL(M) (2.5.2)

と表される。また、Cepheids は HR図上、セファイド不安定帯 (Cepheid instability strip)内に存在する。セファイド不安定帯の幅が狭いとして無視すると、セファイドの光度と有効温度(Teff)との間には一対一の関係がある。つまり、

L = fT (Teff) (2.5.3)

という関係がある。また、黒体輻射の関係

L = 4πR2σT 4eff

を (2.5.3)につかうとL = fR(R) (2.5.4)

と表される。(2.5.2)と (2.5.4)のそれぞれの逆関係を (2.5.1)に代入するとΠ − L関係が得られす。それに、bolometric correction を加えると、周期と絶対光度の関係が得られる。

Period-luminosity relationと、HR図上の進化経路を比べると、セファイド変光星は∼ 5M

から、 20Mくらいまでの星のおもにHe-burning段階の星であることわかる。ただし、質量の小さい星の場合は、He-burning 以前の赤色巨星への進化段階の途中であることも考えられる。絶対等級と周期との関係が系外銀河までの距離の測定に利用される。

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セファイドの周期-光度関係はそれを導出した研究者によって多少異なるが、Turner et al

(2011) は〈MV 〉 = −1.304 ± 0.065 − (2.786 ± 0.075) logP

〈MB〉 = −1.007 ± 0.087 − (2.386 ± 0.098) logP

を得ている。この傾きは Sandage et al. (2004) のものより少し緩くて、周期の長いセファイドの明るさを少し暗くしている。このわずかの傾きの差は、ハッブル定数を 62 から 70 程度に変化させるのに十分な違いである。セファイドの周期-光度関係はセファイド不安定帯の幅を無視したときに、周期と光度が一

対一に対応する関係となる。しかし、実際はセファイド不安定帯は有限な温度幅をもち、その中で、周期一定の lineは水平 (光度一定)ではなく傾いているので、正しい関係は、表面温度の効果も考慮した周期-光度-色 (PLC)関係である。周期-光度関係はその表面温度依存性を無視したもので、それには固有の幅ができてしまう。その幅の大きさは、観測する波長が長いほど狭い。その理由には次のようなことが考えられる。一つは、黒体輻射のエネルギー分布の性質から温度変化に対する光度変化が波長が長い光ほど小さいため、光度の脈動振幅が波長の長い光に対して小さいので、平均光度を出す際の誤差が小さい。また、波長の長い光で見ると温度の低い星は比較的明るくみえるので、HR図上で、縦軸に波長の長い光に対する絶対光度をとると、セファイドの周期一定の線の傾きが小さい。これらの理由により、赤外でのセファイドの周期-光度関係の幅が狭く良い関係が得られると考えられる。

2.5.2 Period changes of Cepheids

脈動周期はおおよそM1/2R−3/2に比例するので、セファイド変光星の進化にともなって周期が変化する。周期変化は多くの場合O–C法 (極大時刻の観測値ー予想値)によって決定される。この予想極大時刻はP × n+const. (Pは脈動周期、nは脈動回数)であたえられる。もし周期変化があると、極大時刻 E(n)は

E(n) + const. ≈∫ n

0

(P0 + P

dt

dφφ

)dφ = P0 +

n2

2P0P = P0 +

t2

2

P

P

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Page 18: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

となるので、周期変化があるとO–Cは2次曲線となる。(φは脈動の位相で1周期は 0 ≤ φ ≤ 1

とした。なので、dt/dφ = P である。) セファイド変光星は長年にわたって観測されているので、多くのセファイドに対して周期変化率が測定されている。

中質量星は主系列進化を終えた後、セファイド不安定帯を3度 (以上)通過する。1st crossingは主系列星進化を終えて、中心部が収縮し外層が膨張し赤色巨星へと進化する途中で起こる。この場合中心部ではまだHe-燃焼が起こっておらず、中心核の重力収縮のタイムスケールで半径が大きくなっているので、周期変化率は比較的大きい。2nd、3rd crossings は core He burningの進化途中でHR図上セファイドループを描く際にセファイド不安定帯を横切る場合である。2nd

crossing では、高温側へ向かう (半径が減少しつつある)進化なので P < 0 であり、3rd crossing

では半径が増加しつつある進化なので、P > 0 である。上の図は周期変化率を周期の関数として観測値と進化モデルからの予想値とを比較したも

のである。実際、周期が増加しているものと減少しているセファイドが存在し、ほぼ進化モデルの予想する変化率の範囲に入っていると言える。下の図は、セファイド型変光星の一つである北極星の脈動周期と振幅が増加していること

を表したものである。周期増加率は 1st crossing で期待される値に近く、北極星は主系列進化終了後赤色巨星への進化の途中で中心ではまだHe burning が起こっていない段階である事がわかる。しかし、脈動振幅の増加の原因は明らかではない。

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2.6 Period – Luminosity relations of Red Variables

右の図は Microlensing project のひとつ OGLE による光度変化の観測と近赤外観測とを組み合わせて得られた LMC と SMC の Red variables

にたいする Period - Luminosity (K-

magnitute) relations である (Ita et

al 2003). F と G は Fundamental

modeと First overtone modeに対するCepheid P–L relations を表す。また、C と C’は Mira variables のP – L re-

lationsである。他の P – L relationsはsemi-regular variablesのもので、素姓はまだ明らかではない。Mira variables

は非常に明るいので、そのPeriod - Lu-

minosity relation は遠方銀河の距離の決定に有用であることが期待される。

Mira variables の Period-luminosity

relation は Cepheids の場合とは異なる解釈がなされる。Mira variables はAGB星で luminosityが時間とともに増加する進化段階にある。

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しかし、Mira variablesは大きな質量放出を行なうため、Mira variable となると、luminosity が大きく増加する前に水素を多く含む外層を失って白色矮星へと進化してしまう。

そのため、Mira variable のmassと luminosity およびmassと radiusにはそれぞれ約一対一の関係があるため、Mira variables Period-luminosity relation があると理解される。

3 Nonradial Pulsations

3.1 Basic equations

自己重力を考慮した流体力学の質量保存の式と運動方程式は∂ρ

∂t+ ∇ · (ρu) = 0 (3.1.1)(

∂t+ u · ∇

)u = −1

ρ∇P −∇ψ (3.1.2)

と表される。ここで、ψ は重力ポテンシャルで、Poisson 式

∇2ψ = 4πGρ (3.1.3)

を満たす。Nonradial pulsations の現実的な非線形計算はまだ不可能な状態なので、nonradial

pulsations の研究にはほとんどの場合線形解析が用いられる。

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上の式の linear perturbations を考える際、equilibrium の位置からのずれ

ξ(t, r0) ≡ r(t, r0) − r0

の他は、Eulerian perturbations

f ′ ≡ f(t, r) − f0(r) = f(t, r) − f0(r0) + f0(r0) − f0(r) = ∆f − ξ · ∇f0 (3.1.4)

を使うと便利である。ここで、f ′が Eulerian perturbation、∆f が Lagrangian perturbation

である。Eulerian perturbation は、もとの位置ではなくて、その位置での equilibrium での量との差を表している。上の式の最後の関係は、ξ について一次のオーダーまでの、Lagrangian

perturbation との関係を表している。星の自転を無視して、平衡状態で速度場がないとすると (u0 = 0)、

u′ = ∆u =dξ

dt=∂ξ

∂t

となるので、(3.1.1)–(3.1.3)式に Eulerian perturbationをかけて、微少量の一次の項まで残すと

∂ρ′

∂t+ ∇ ·

(ρ0∂ξ

∂t

)= 0 (3.1.5)

∂2ξ

∂t2= − 1

ρ0

∇P ′ +ρ′

ρ20

erdP0

dr−∇ψ′ (3.1.6)

∇2ψ′ = 4πGρ′ (3.1.7)

が得られる。重力ポテンシャルの Eulerian perturbations ψ′ は多くの場合小さくて、nonradial

pulsations の定性的性質に影響を及ぼさないので、以後の議論を簡単にするため、以後無視する。この近似は頻繁に用いられ、Cowling approximation とよばれる。

Radial pulsations のときと同じように、時間依存性を

ξ(t, r) = eiσtξ(r); f ′(t, r) = eiσtf ′(r) (3.1.8)

のように設定する。さらに、displacement vector ξ(r) を radial component と horizontal com-

ponent とにわけて、ξ(r) = ξr(r)er + ξh; ξh = ξθeθ + ξφeφ (3.1.9)

のように表すこととする。ここで、ξθ、ξφ は球座標における θ、ξφ components を表す。そうすると、(3.1.5)、(3.1.6)式は

ρ′ +1

r2

∂r(r2ρξr) +

ρ

r∇h · ξh = 0 (3.1.10)

−σ2ρξr = −∂P′

∂r− gρ′ (3.1.11)

ξh =1

σ2ρr∇hP

′ (3.1.12)

21

Page 22: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

と書くことができる。ここで、g は重力加速度 GMr/r2 を表す。また、horizontal differential

operator ∇h は∇h = eθ

∂θ+

sin θ

∂φ(3.1.13)

と定義されるので、∇h · ξh =

1

sin θ

∂θ(sin θξθ) +

1

sin θ

∂ξφ∂φ

と表される。(3.1.12) 式は、水平方向の振幅は、振動数が小さいほど大きいことを表している。言葉を変えて言うと、周期の長い振動では水平方向の運動が卓越し、逆に周期の短い振動では動径方向の運動が卓越していることがわかる。また、(3.1.11)式の右辺は、振動の復元力として、2種類あり、一つは右辺第1項の圧力勾配で、もう一つは浮力であることを示している。前者は radial pulsation のときと同様の力であるが、後者は nonradial pulsations に独特の復元力である。後に出てくるが、主に圧力勾配の復元力が働く振動は比較的大きい振動数を持ち、p-modes (pressure modes) とよばれ、一方浮力が主に働く振動は g-modes (gravity modes) と呼ばれる。

(3.1.10) – (3.1.12) を閉じさせるためには、熱エネルギーの保存を考えなくてはならないが、ここでは、簡単のため、断熱近似を使う。Lagrangian perturbationsに対する断熱関係式 (3.1.6)

を Eulerian perturbations に変換すると

P ′

P+ ξr

d lnP

dr= Γ1

(ρ′

ρ+ ξr

d ln ρ

dr

)となる。ここで、Brunt-Vaisala frequency N を

N2 ≡ g

(1

Γ1

d lnP

dr− d ln ρ

dr

)= g

(− g

c2s− d ln ρ

dr

)(3.1.14)

のように定義すると断熱関係式は

ρ′

ρ=

P ′

Γ1P+N2

gξr (3.1.15)

と表すことができる。(3.1.14)式に現れる cs は adiabatic sound speed

cs ≡√

(∂ lnP/∂ ln ρ)s =√

Γ1P/ρ

である。(3.1.12)式を (3.1.10)式に代入して、ξh を消去すると、

ρ

r2

∂r(r2ξr) + ξr

dr+ ρ′ +

1

σ2r2∇2

hP′ = 0 (3.1.16)

が得られる。ここで、∇2

h =1

sin θ

∂θ

(sin θ

∂θ

)+

1

sin2 θ

∂2

∂φ2(3.1.17)

である。(3.1.11)式と (3.1.16)式に断熱関係式を代入して ρ′ を消去すると、

1

r2

∂(r2ξr)

∂r=

g

c2sξr −

1

ρ

(1

c2s+

∇2h

σ2r2

)P ′ (3.1.18)

22

Page 23: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

∂P ′

∂r= (σ2 −N2)ρξr − g

P ′

c2s(3.1.19)

が得られる。上の2本の式に現れる変数 ξr、P ′ は (r, θ, φ) の関数であるが、角度依存性に関して explicit な項は ∇2

h だけなので、この演算子に対する固有関数、つまり、球面調和関数

Y m` (θ, φ) ≡ N`mP

m` (cos θ)eimφ

を使って変数分離できる。∇2

hYm` (θ, φ) = −`(`+ 1)Y m

` (θ, φ) (3.1.20)

であるので、ξr = ξn`(r)Y

m` (θ, φ), P ′ = ηn`(r)Y

m` (θ, φ) (3.1.21)

のように書くと、(3.1.18)、(3.1.19)式は

1

r2

d(r2ξn`)

dr=

g

c2sξn` +

(`(`+ 1)c2sσ2r2

− 1

)ηn`

c2sρ(3.1.22)

dηn`

dr= (σ2 −N2)ρξn` − g

ηn`

c2s(3.1.23)

という常微分方程式となる。また、(3.1.21)式と、(3.1.12)式から、水平方向の displacement

(ξθ, ξφ)が

(ξθ, ξφ) =ηn`

σ2ρr

(∂Y m

`

∂θ,

1

sin θ

∂Y

∂φ

)であることがわかる。` が大きいほど、表面の振動パターンが細かく分割される (下図参照)。|m|(≤ `) は極を通り赤道と直交するノード大円の数に対応し、等緯度線に沿ったノード円の数は `− |m| で与えられる。` = |m| のモードでは表面のノード線は極を通過する大円だけで、等緯度線に沿ったノード線は存在しない。そのようなモードは sectoral modes といわれる。

Radial pulsationsのときと同様に、(3.1.22)、(3.1.23)式を1本の2階微分方程式の波動方程式の形にすることが出来、それが、Hermitian であることが証明される(詳細は J.P. Cox 1980,

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‘ Theory of Stellar Pulsation’を参照のこと)。したがって、adiabatic nonradial pulsations の場合も、σ2 は実数である。上の微分方程式には、m は explicit に現われないので、σ2 は m に依存しない。つまり、frequency は 2`+ 1 重に縮退している。(この縮退は、自転または磁場の存在によって解ける。)

(3.1.22)、(3.1.23)式は、

ξ ≡ r2ξn` exp

(−∫ r

0

g

c2sdr

); η ≡ ηn`

ρexp

(−∫ r

0

N2

gdr

)(3.1.24)

で定義される変数で書くと、きれいな形

dr= h(r)

r2

c2s

(L2

`

σ2− 1

)η (3.1.25)

dr=

1

h(r)r2(σ2 −N2)ξ (3.1.26)

に書くことが出来る。ここで、

h(r) ≡ exp

[∫ r

0

(N2

g− g

c2s

)dr

]で定義され、Lamb frequency と呼ばれる L` は

L2` ≡

`(`+ 1)c2sr2

(3.1.27)

と定義される。

3.2 Local analysis

(3.2.25)、(3.2.26)式に local analysis を適用しよう。それらの式に

ξ, η ∝ exp(ikrr) (3.2.28)

の形を代入して、辺々かけると ξη が共通 factor として落ちて分散関係式

k2r =

1

c2sσ2(σ2 −N2)(σ2 − L2

`) (3.2.29)

が得られる。ここで、kr は radial wave number を表している。ここでは、振動を

ξ ∝ exp[i(σt+ krr)]Ym`

の形にしているので、k2r > 0 のとき、振動が radial 方向に propagate する。したがって、下の

2つの場合に local に振動が propagate する:

σ2 > N2 and σ2 > L2` =⇒ p modes

σ2 < N2 and σ2 < L2` =⇒ g modes

p modes は high-frequency oscillations で radial pulsations (` = 0) もこのグループに入る。一方、g modes は low-frequency oscillationsである。

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Page 25: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

水平方向にの wave number kh は

k2h =

`(`+ 1)

r2= L2

`/c2s (3.2.30)

と定義でき、total wavenumber k は

k2 = k2r + k2

h

なので、このような量を使うと (3.2.29)式は

σ4 − σ2(N2 + k2c2s) +N2k2hc

2s = 0 (3.2.29′)

とも書くことができる。kh = 0 は radial pulations (` = 0) に対応する。このとき、(3.2.29′) から、σ2 = c2sk

2r +N2

となり、重力の影響をうけた音波であることがわかる。(このときの g modes は σ2 = 0 に対応する。)

|kh| が十分大きくて、L2` N2 のとき、p modes に対しては、σ2 > L2

` なので、(3.2.29) 式から、σ2 = c2s(k

2r + k2

h) となり、この極限では、p modes は音波となっており、wave number

が大きいほど frequency が大きくなる。一方、g modes に対しては、σ2 < N2 L2

` なので、(3.2.29) 式から、

σ2 ' N2k2h/(k

2r + k2

h) (3.2.30)

が得られる。これは、g mode oscillations の frequency が kh kr の極限で Brunt Vaisala

frequency N に近づいてゆくこと、また、kr が大きいほど frequency が小さいことを表している。このような性質は、σ − kh図に示されている。

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3.3 Global oscillations

星が振動するためには、表面と中心との境界条件が満たされなくてはいけないので、∫ r2

r1

krdr = π(n+ α) (3.3.31)

である必要がある。ここで、nは正の整数を表し α は境界条件できまる定数である。また、r1と r2は propagation zone (k2

r > 0) の内側と外側の境界を表す。上の式は frequencies の離散的な値に対して成り立つ。つまり、固有振動に対応する frequencies で星は振動する。Nonradial

pulsations の場合は、p modes と g modes の二つのタイプの振動が可能であると当時に、` の自由度があるので、radial pulsations に比べて、多様の振動が可能である。

` の値が大きいほど、表面がたくさんの units に分割され、水平方向の波長が短い。したがって、kr つまり、radial 方向のノードの数を fix して ` を大きくすると、g modes、 p modes

にかかわらず、frequency は大きくなる。また、` を fix して radial 方向のノードの数を増やすと、p modes では frequencies が大きくなり、g modes では逆に小さくなる。

p modes は、σ2 > N2, L2`のとき krが realとなって波となるので、その領域 (外層)で nodes

をもち、外層で振動振幅が大きい。逆に g modes に対しては σ2 < N2, L2`のとき krが realとな

るので、g modes の nodes は内部領域にあり、振幅も内部で大きい。

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3.3.1 High-order p modes

High-order p-modes に対しては、(3.3.31)式の関係から近似的に

νn` =σn`

2π≈(n+

`

2+

1

4+ α

)∆ν (3.3.32)

の関係が導かれる (Tassoul 1980)。ここで、∆ν は

∆ν =

(2

∫ R

0

dr

cs

)−1

∝√GM

R3(3.3.33)

のように定義され、音波が中心から表面まで行って帰ってくるのにかかる時間を表している。上の式の最後の関係は、c2s = Γ1p/ρ の関係と、ビリアル定理、

3

∫p

ρdMr =

∫GMr

rdMr

から得られる。∆νは星の global parameters の質量M と半径Rで決まる量である。(3.3.32)式は、ある `の値をもつ high-order p modesは radial order nの違いに対して等間

隔に分布する事を表す。また、νn 0 ≈ νn−1 2, νn 1 ≈ νn−1 3 などの関係がある事を示している。これらの関係からのずれは small separation といわれ

δνn` ≡ νn` − νn−1 `+2 ≈ −(4`+ 6)∆ν

4π2νn`

∫ R

0

dcsdr

dr

r(3.3.34)

のように表される。∆ν とは対照的に、small separation δνn`は恒星内部深い場所の状態で決まる量である。これらの関係は、日震学および星震学で重要な関係である。

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Aerts et al. (2010)

左上図 (a,b)は、太陽全体光から得られた速度変化のパワースペクトルで、` ≤ 3 の振動が検出され、それらが等間隔にならんでいるのを示している。(` = 0のピークの隣のピークが` = 2 のピーク、` = 1のピークの隣が ` = 3 のピークである。) 各 `のピーク間の間隔が large

separation ∆ν である。右上図は、縦軸の振動数を横軸に∆ν = 135µHz で切って拡大してプロットした Echelle-

diagramである。(横軸は、振動数を∆ν で割った際の余りを表し、等間隔∆νからのずれが拡大して表される。) この図で、それぞれの `が縦に整列するのは、(3.3.32)が近似的に成り立っているためで、系列の歪みはこの式からのずれが強調されて表されている。

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Page 29: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

右の図は、小質量主系列星モデルの p-

mode large separation ∆ν と small sep-

aration δ02 の関係を表した図である。進化が進む (中心水素含有量Xcが減少)するとともに、small separation δ02 が減少していくのがわかる。観測された、∆ν とδ02 をこの図にプロットすると、その星の進化段階 (Xc)を知る事が出来る。

3.3.2 High-order g modes

一方、High radial order の g-modes の場合は、kr ≈ N√`(`+ 1)/(rσ) のように書けるので

(3.3.31)式から近似的に

σ ≈√`(`+ 1)

∫ r2

r1

N

rdr (3.3.35)

または

Π =2π

σ≈ 2π2n√

`(`+ 1)

(∫ r2

r1

N

rdr

)−1

→ ∆Π ≈ 2π2√`(`+ 1)

(∫ r2

r1

N

rdr

)−1

(3.3.36)

のように表される。g-modes の場合は振動数ではなく周期が近似的に等間隔になる。その間隔は中心部の質量集中度 (または重力)が大きいほど小さくなり、恒星の中心部に関する情報をあたえる重要な観測量である。

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上の右の図は、比較的小質量星 (∼ 1.5M )の主系列進化で、中心部の水素の分布が進化とともに変化し、それに伴って Brunt-Vaisala frequency N が変化する事を表している。対流層内での核融合反応によって中心の水素含有量Xcが進化とともに減少し、対流の境界が進化とともに変化することによって、対流中心部の外側の水素含有量の分布が形成される。左の図には、g-modes の周期間隔が周期の関数として、各進化段階 (進化につれてXcが減

少)のモデルに対してプロットされている。進化の初期でXc が比較的大きい時は周期-周期間隔の関係が大きく波打つが、これは、対流中心部のすぐ外側でBrunt-Vaisala frequency N の分布が細くて急傾斜の山を持っていることによる。進化が進む (Xcが減少する)につれ、その波の振幅と波長が減少するとともに、平均の周期間隔が減少する。例として、Kepler 衛星によって観測された γ Dor 型星で、 主系列の最終段階にあると考えられる KIC 9244992 の周期-周期間隔関係が比較されている。このような、理論モデルとの比較によって、その星の進化段階についての情報が得られる。 (周期-周期間隔関係は自転によって影響をうけるが、KIC 9244992

の場合は自転速度が非常に遅いので、自転の効果を考慮していないモデルの関係と比較的良く合っている。)

3.4 Solar-like Oscillations

太陽と同じ程度かそれよりも表面温度の低い星は発達した対流層を持っているので、これらの星でも太陽振動と同じタイプの振動が起こっているはずである。しかし、その振幅が非常に小さく観測が難しいので、つい最近になってはじめて太陽以外の星で太陽型の振動が観測されるようになった。太陽振動の場合と異なるのは、太陽の場合は表面が分解できてるのに対し、他の星では表

面全体を観測するので、表面の波長の長いモード (` . 3) しか観測できない事である。しかし、そのようなモードだけでも恒星内部での物質混合の程度、自転速度などについての有益な情報が引き出せる事が期待されている。

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左上の図は、太陽型の振動が観測されている星の振動数の power-spectra の例を示している。各星に対して amplitudeが最も大きい振動数 (νmax)と、等間隔に並ぶ振動数の間隔 (large

separation∆ν)には、

∆ν = (134.88 ± 0.04)µHz ×√MR−3

(or

∆ν

∆ν=

√M/M

(R/R)3

)

νmax = (3120 ± 5)µHz ×MR−2(Teff/5777)−1/2

(or

νmax

νmax=

M/M

(R/R)2√Teff/Teff

)があるので、Teff を多色測光等の情報から求める事が出切れば、∆νと νmaxとから星の質量と半径を決定する事が出来る。右上の図は、Kepler衛星で太陽型振動が観測された主系列星、準巨星 (subgiants) に対して、半径Rを決定し、それを使って luminosity, L = 4πR2σT 4

effを求め、HR図上に plot されたものである。半径が大きい程力学的 timescaleが長いので、太陽型振動の振動数および振動数の large separationも半径が大きい星ほど小さくなっている傾向を示している。

3.5 赤色巨星の振動最近の、CoRoT衛星、Kepler衛星による精密な測光観測により、非常にたくさんの赤色巨星に太陽型振動が発見されている。それらの振動は、主系列星の太陽型振動と同様外層では p-mode

の性質を持つが、中心部では g-modeの性質をもつ (mixed modes)。

31

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赤色巨星の中心部は重力収縮により非常に密度が大きくなっているので、Brunt-Vaisala

frequencyN が中心部で大きくなっている (右図)。そのため、radial modes 以外、非動径 p

振動は中心部では g-mode振動の性質を持っている。また、g-

modes は外層では p-mode振動の性質を持つ。したがって、ある振動数の範囲には、p-modes

とg-modesの固有振動数が存在するが、すべての非動径振動はmixed modesとなっている。前節で言及されているように、high order (n 1)の p-modes、g-modes の振動数は

νp ≈(n+

`

2+ ε

)∆ν − `(`+ 1)D, νg ≈

√`(`+ 1)

n〈N〉

のように近似的に表される。ここで、∆νは p-modes の large-separation (∼ 0.5〈cs〉/R; sound-

travel time の逆数)をあらわし、〈N〉は中心部での Brunt-Vaisala frequency の平均値である。(g-modes の周期は等間隔∆Pg ∝ 〈N〉となっている。) ある振動数の範囲内には νpと νgとの両方が存在するが、赤色巨星では 〈N〉が非常に大きくなっているので、νg の数の方が圧倒的に多い。それらは全てmixed modes であるが、振動数が νp に近いものは振動エネルギーが主に外層に閉じ込められ、そうでない振動数のものの振動エネルギーはおもに中心部に閉じ込められている (下左図)。

星の内部のどこで主に振動するかは、mode の inertia I

I = 4π

∫ R

0

[ξ2r + `(`+ 1)ξ2

h]ρr2dr

に影響が現れる (σ2I/2が運動エネルギー)。密度の大きい中心部に閉じ込められた νgをもつ振動は大きな inertiaをもち、νpおよび νg ∼ νpをもつ振動モードの inertiaは小さくなっている

32

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(上右図参照)。Stochastic excitation によって励起される振動の表面での振幅は inertia I が小さい方が大きいことが期待されるので、νpとその周りの νg が最も観測されやすいことが期待される。

上図は、Kepler衛星によって観測された多くの赤色巨星太陽型振動のうちの2例の power

spectraを示したものである。理論的に予想されるように、νp とそれらに近い νgが観測されていることがわかる。同じ `に属する νpの間隔から large separation ∆ν ∝

√M/R3 が得られ、両星

に対して ∼ 8µHzが得られている。これは、これら2つの星がHR図上同じような位置にあることを示している。さらに、νpの周りに観測される νgの間隔から g-mode周期間隔 ∆Pg ∝ 1/〈N〉も得られ、両星に対しそれぞれ 53sおよび 96sが得られている。これは、この二つの星が異なる中心密度を持ち、異なる進化段階にあることを示している。

左上図はKepler衛星で得られた赤色巨星太陽型振動に対して得られた∆νと∆Pgをプロットしたものである。これらの太陽型振動をする赤色巨星はこの図上で二つの系列に明確に分かれていることがわかる。∆Pgの小さい系列はH-burning shell の働きでHe中心核の質量が大きくなることによってRed giant branchにそって明るくなりつつある進化段階にある星である。一方 ∆Pg が比較的大きいグループは、He-flash後 core-He 燃焼が安定的に起こっている Red

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Clump星で、He-燃焼によるエネルギーの発生により少し膨張して密度が小さくなっているために、∆Pgが red giant branch にある星よりも大きくなっている。これらの星は、HR図上 (右上図)で、ほとんど同じ領域に存在し、区別する事は非常に難しいが、左上図のように、振動の性質から明確に分離される。

4 自転の効果 (Rotational splittings)

これまでは、自転の効果を無視してきたが、自転によって振動の周波数 σ が変化を受ける。ここでは、簡単のため、自転角速度Ω (一般的には星の内部の場所の関数)が比較的小さく (自転が遅く)遠心力等のO(Ω2)の効果は無視する事とする。このような場合、慣性系での linearized

momentum equation は

−(σ0 + σ1)2ξ − 2m(σ0 + σ1)Ωξ + 2i(σ0 + σ1)Ω × ξ = − 1

ρ0

∇p′ + ρ′

ρ20

erdp0

dr−∇ψ′ (4.0.37)

のように表される。ここで、σ0は自転のない時の振動数、σ1 は自転の効果による振動数の変化量を表す。自転の (一次の)効果は、左辺の第2項 (慣性系から見た時の星の自転に対するドップラー効果)と3項 (コリオリの力)、である。右辺は自転のない時と全く同じ形をしているので、−σ2

0ξ と書く事が出来る。このことを使うと上の式から、σ1 の一次まで残すと、

σ1ξ = −mΩξ + iΩ × ξ (4.0.38)

が得られる。ξ∗との内積をとって星全体の質量で積分すると、

σ1

∫ξ∗ · ξρdV = −m

∫Ωξ∗ · ξρdV + i

∫ξ∗ · (Ω × ξ)ρdV (4.0.39)

を得る。右辺の第二項の被積分関数は

ξ∗ · (Ω × ξ) = Ω sin θξ∗rξφ − Ω cos θξ∗θξφ + Ω cos θξ∗φξθ − Ω sin θξ∗φξr

= −2imΩξr(r)ξh(r)Ym∗` Y m

` − imΩξh(r)2 cos θ

sin θ

(∂Y m∗

`

∂θY m

` + Y m∗`

∂Y m`

∂θ

)(4.0.40)

のように書ける。このことから、自転の効果を考慮すると振動数がmに依存するようになり、Ω の一次の項まででは、自転による振動数の変化はmに比例することがわかる。これは、自転運動の方向と振動の伝播される方向が同じ方向か反対方向かによって振動の周波数が異なることを意味する。自転角速度Ωが中心からの距離 r だけの関数の場合、(4.0.39)は

σ1

∫[ξ2

r + `(`+ 1)ξ2h]ρr

2dr = −m∫

Ω(r)[ξ2r + `(`+ 1)ξ2

h − 2ξrξh − ξ2h]ρr

2dr (4.0.41)

のように表すことができる。カーネルK(r) を

K(r) ≡ [ξ2r + `(`+ 1)ξ2

h − 2ξrξh − ξ2h]ρr

2∫[ξ2

r + `(`+ 1)ξ2h]ρr

2dr(4.0.42)

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のように定義すると、恒星振動周波数のコリオリ力による影響 σ1は

σ1 = −m∫

Ω(r)K(r)dr (4.0.43)

のように表される。自転のない場合には、非動径振動の周波数σは mには依存しなかったが (縮退していたが)、自転の効果でm 依存性が発生する。|m| ≤ ` なので、自転のない場合 (n, `)を持つモードの振動数は異なるmのために 2`+ 1個に分裂する。このことを rotational splitting

という。カーネルK(r)の分布はモードによって異なるので、種々の (n, `)のモードにに対するrotational splittings を計測する事が出来れば、恒星内部の角速度分布を知る事が出来る。大きく分けて、p-modesは外層で振幅が大きく、g-modesは中心領域で振幅が大きいので、p-modes

の rotational splittings からは外層の角速度の情報が得られ、g-modes の splittings からは中心部の角速度についての情報が得られる。

` = 1 (dipole) g-modes の rotational split-tings をあらわすフーリエ解析 (振動数-振幅)図の例 (KIC 9244992)。3つの振動数の組 (triplets)が数多くみられる。

p-mode と g-mode の rotational kernel K(r)の例。g-modeは中心部に p-modeは外層に、それぞれweight があることがわかる。

自転角速度が一定 (uniform rotation) の場合は、

Cn` ≡∫

(2ξrξh + ξ2h) ρr

2dr∫[ξ2

r + `(`+ 1)ξ2h]ρr

2dr(4.0.44)

を定義して、σ1 = −mΩ (1 − Cn`) (4.0.45)

のように表される。Cn`はLedoux 定数ともいわれる。mΩCn`が星の co-rotating 座標でのコリオリ力の影響を表している。High-order g-modes では |ξh| |ξr| なので、Cn` → 1/[`(` + 1)]

となる。一方、high-order p-modes では、|ξh| |ξr| なので、Cn` 1となる。

4.1 赤色巨星内部の自転速度最近、red-giantsに対するKeplerおよびCoRoT衛星の観測により、` = 1 のモードの振動数のrotational splittings が、coreまたは envelopeにトラップされたモードで異なっていることが明らかになった。

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赤色巨星 KIC 5356201 で観測されたdipole (` = 1)の振動モードの rotational

splitting が large separation ∆ν で規格化された周波数の関数としてプロットされている。所々splittings が極小を示すのは、その周波数のモードの運動エネルギーが外層 (ゆっくり自転している)に閉じ込められるためである。それ以外の領域のモードは中心部の自転を反映してるため、rotational splittings が大きい。

外層への振動エネルギー閉じ込めは、ある振動数間隔で規則的に起こるので、それらをシフトさせて同じ所で重ね合わせたのが右の図である。また、splittings

は maximum の値で規格化されている。dipole modes (` = 1) に対しては、rota-

tional splitting = (1 − C)Ω/(2π) と表され、Cの値は、モードによって異なる (純粋な dipole high-order g modesに対してはC ≈ 0.5)ので、そのことを考慮する事により、外層と中心部の自転速度を導出する事が出来る。KIC 5356201の中心部と外層の自転の速さの比は約 20倍である (Goupil et al 2013)。

星震学により得られた赤色巨星とクランプ星 (Core-He burning stage)の中心核の自転周期と恒星半径の関係。赤色巨星の中心部に比べ、クランプ星の中心部はHe-burningの開始により

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少し膨張しているため、自転角速度が減少し自転周期が長くなっていることがわかる。

右の図は、これまでに恒星振動を使って計測された自転速度が恒星表面重力に対してプロットされたものである (Aerts 2015)。(大雑把に言ってlog g > 4が主系列星で log g が小さいほど主系列段階後の進化が進んだ星である。 ) 中心部 (core)と外層(envelope)の自転の比は進化が進んで中心部が収縮すると大きくなる事が予想されるが、右の図では、その比は 5 – 20倍程度にしかならない事を示している。

一方、子午面還流および乱流による標準的角運動輸送を考慮した進化モデルは、中心部の自転速度が表面よりも千倍以上の速さで回っている事を予想している。このことは、恒星内部における角運動量輸送効率が現在理論的に考えられているよりも大幅に大きい事を示している。恒星進化モデルの内部での角運動量の輸送は(

∂(r2Ω)

∂t

)MP

=4π

5

∂MP

(ρr4ΩUr) +∂

∂MP

[(4πρr3)2D

∂Ω

∂MP

]の式で計算される。

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Page 38: 恒星の脈動 (Stellar pulsation)saio/komaba/pulsation.pdf恒星の脈動(Stellar pulsation) 1 脈動変光星の観測的性質 脈動変光星は、その構造が力学的タイムスケールで周期的に振動することによって変光する。表面の脈動(振動)

上の図は、角運動量の輸送効率を理論で予想される値、およびそれよりも格段に大きくして、角運動量輸送を計算してえられた結果を表す。輸送効率を格段に大きくしてもなお、星震学から得られている、赤色巨星中心部の角速度∼ 1µHz よりも格段に大きい。これは、これまで考慮されていない非常に効率の良い角運動量輸送が恒星内部で起こっている事を示している。

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