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MeBio 数学テキスト
楕円関数
—加法定理など—
Edited by kamei
MeBio (2014.9.21 6:59) 1
第 1 章
レムニスケート関数の定義と加法定理
§ 1 レムニスケート関数の複素関数的扱い
f(z) =1√
1− z4は z = ±1, ±i に特異点を持つ 2価関数なので,z =\ ±1, ±i に対して 0 と z を結ぶ特異点を
通らない経路 C (のホモトピー類)を与えると g(z) = sl−1(z) =
∫C
1√1− z4
dz の値が決まる.ただし C の始点
0 に対する枝は f(0) = 0 のものとする.
ここで sl−1(z)の値を 1価に確定するために,複素数平面から 4つの半直線 [1, ∞), [i, i∞), [−1, −∞), [−i, −i∞)
を取り除いた単連結な領域 D での関数を考える.
1
i
−1
−i
O A B
B’
g = sl−1
sl
g(0) = 0 g(1)
g(∞+ 0i)
g(∞− 0i)
z = 1 の近傍では1√
1− z4.=.
1
2(1− z)−
12 なので(つまり
1
2位の極なので),積分すると
1
2位の零点とな
り,g(1) =
∫ 1
0
1√1− z4
dz が収束することがわかる.そこで ϖ をϖ
2= g(1) =
∫ 1
0
1√1− z4
dz で定義する.
このとき g(i) =
∫ i
0
1√1− z4
dz =
∫ 1
0
1√1− (ir)4
idr = i
∫ 1
0
1√1− r4
dr =ϖ
2i,
g(−1) = −g(1) = − ϖ
2, g(−i) = −g(i) = − ϖ
2i がわかる.(もちろん積分経路は D 内にとる.)
f(z) を D で解析接続した場合,r > 1 のとき f(r+ 0i) =i√
r4 − 1であることが容易に分かるので,図の経路
AB に沿った積分値については,∫ ∞+0i
1+0i
1√1− z4
dz =
∫ ∞
1
i√r4 − 1
dr = i
∫ 0
1
1√(1s
)4 − 1
(− 1
s2ds
)= i
∫ 1
0
1√1− s2
ds =ϖ
2i
2 楕円関数 第 1章 レムニスケート関数の定義と加法定理
である.これより g(∞+0i) =ϖ
2+
ϖ
2i がわかる.つまり O から B(+∞+0i) まで
1√1− z4
を積分していく
と,A までは実軸上を右に進みϖ
2に達するが,A を超えると左に 90◦ 進行方向を変え,無限積分の後
ϖ
2+
ϖ
2i
に達する.
同様に r > 1 のとき f(r − 0i) =−i√r4 − 1
なので g(∞− 0i) =ϖ
2− ϖ
2i がわかる.これは A を超えた後右
に 90◦ 進路を変えて進むことを意味する.
他も同様に考えることにより D の像は ± ϖ
2± ϖ
2i を 4頂点とする正方形の内部であることが分かった.この
対応はトポロジカルにイメージすることも難しくない.
命題 1–1–1
sl は全平面に解析接続される.
(証明)
ϖ
2
ϖ
2i
p
pp
p pd
dd
d
A
B
B’
C
D C’
D’
上の結果より sl は ± ϖ
2± ϖ
2i を 4頂点とする正方形の内部を D に(1 : 1 に)移す解析関数であることが分
かった.また,図の AB および AB’ の像はどちらも実軸上の半直線 [1, ∞] であり,A に関する対称変換により関
数値が一致する.従って,正方形 BCDB’ が正方形 B’C’D’B に重なるように同一視してこの領域に sl を延長する
と,これが解析接続になっていることが分かる.
これを繰り返すことにより sl は全平面に解析接続されることが直ちに分かる.(上図で p と書いてある各領域は,
平行移動で重なる点が同一の関数値をとる.また d と書いてある各領域は,p を 180◦ 回転してから平行移動して
重なる点が同一の関数値をとることを意味する.)
(証明終)
この構成より sl(z) が次の性質を持つことはすぐに分かる.
(1) sl(z) は mϖ + nϖi (m, nはともに偶数もしくはともに奇数) を周期に持つ.
(2) (半周期性) sl(z +ϖ) = −sl(z), sl(z +ϖi) = −sl(z).
(3) sl(z) の零点は mϖ + nϖi (m, n は整数) であり,すべて 1位の零点である.
(4) sl(z) の極は
(m+
1
2
)ϖ +
(n+
1
2
)ϖi (m, n は整数) であり,すべて 1位の極である.
(5) sl(z) はすべての零点および極を中心として奇関数であり,sl−1(1) =
(2m+
1
2
)ϖ + 2nϖi,
MeBio (2014.9.21 6:59) §1 レムニスケート関数の複素関数的扱い 3
sl−1(−1) =
(2m− 1
2
)ϖ+2nϖi, sl−1(i) = 2mϖ+
(2n+
1
2
)ϖi, sl−1(i) = 2mϖ+
(2n− 1
2
)ϖi(以
上すべて m, n は整数)を中心として偶関数である.
L = {mϖ+ nϖi | m, nはともに偶数もしくはともに奇数 } とする.L は C 内の格子であり,sl は Riemann 面
R = C/L 上の関数と見なせる.O(0), A(2ϖ), B(3ϖ+ϖi), C(ϖ+ϖi) とすると,R の基本領域として,平行四辺
形 OABC の周および内部から辺 BC, CD を取り除いた領域をとることが出来る.
系 1–1–2
C ∪ {∞} = C∗ とする.sl : R ⇒ C∗ により R は C∗ を二重に被覆する.分岐点は ±1, ±i ∈ C∗ の 4点のみで
あり,他の点はすべて 2 : 1 に対応する.
(証明)
上の図,および関数論の初歩の理論より明らかである. (証明終)
命題 1–1–3
sl(z) の極
(m+
1
2
)ϖ+
(n+
1
2
)ϖi (m, n は整数) における留数は,m, n の偶奇が一致する場合 −i であ
り,m, n の偶奇が一致しない場合 i である.
(証明)
周期性と半周期性より m = n = 0 の場合のみ示せばよい.z を 0 < Re(z) <ϖ
2, 0 < Im(z) <
ϖ
2を満たす複
素数とする.w = sl(z) は Re(w) > 0, Im(w) > 0 を満たす.
w = sl(z)
⇐⇒ z =
∫ w
+0+0i
1√1− t4
dt =
∫ 1w
+∞−∞i
1√1−
(1s
)4(− 1
s2ds
)=
∫ 1w
+∞−∞i
−1√s4 − 1
ds
=
∫ 1w
+∞−∞i
−i√1− s4
ds =
∫ 1w
0
−i√1− s4
ds−∫ +∞−∞i
0
−i√1− s4
ds
= −sl−1
(1
w
)i+ sl−1(+∞−∞i)i = −sl−1
(1
w
)i+( ϖ
2− ϖ
2i)i
= −sl−1
(1
w
)i+
ϖ
2+
ϖ
2i
⇐⇒ 1
w= sl
(i(z − ϖ
2− ϖ
2i))
ところで sl−1(z) =
∫ w
0
1√1− t4
dt = w + (高次) だから z = 0 における sl(z) の Taylor 展開は sl(z) = z + (高
次) である.従って
1
w= i(z − ϖ
2− ϖ
2i)+ (高次) ⇐⇒ w =
−i
z − ϖ
2− ϖ
2i
+ (高次)
(別証) sl(z) の極は sl(z − ϖ
2− ϖ
2i)の零点であり,sl(z) の零点は sl
(z − ϖ
2− ϖ
2i)の極である.ど
ちらの極も零点も 1位なので, sl(z)sl(z − ϖ
2− ϖ
2i)は極も零点も持たない二重周期関数ということになる.こ
れは定数でなければならない.それを c とおく.z =ϖ
2を代入すると c = sl
( ϖ
2
)sl(− ϖ
2i)= 1× (−i) = −i
であることが分かる.従って sl(z) =−i
sl(z − ϖ
2− ϖ
2i) がいえる.
4 楕円関数 第 1章 レムニスケート関数の定義と加法定理
(証明終)
系 1–1–4もう一つの半周期性
sl(z − ϖ
2− ϖ
2
)=
−i
sl(z)
(系終)
これを用いると sl( ϖ
4+
ϖ
4i)=
√2
2+
√2
2i であることも分かる.これは直接的には
sl−1
( √2
2+
√2
2i
)=
∫ √2
2 +√
22 i
0
1√1− t4
dt =
( √2
2+
√2
2i
)∫ 1
0
1√1 + r4
dr =
( √2
2+
√2
2i
)ϖ
2√2
からも確かめられる.
定義 1–1–5
cl(z) = sl( ϖ
2− z)と定義する.
(定義終)
この構成より cl(z) が次の性質を持つことはすぐに分かる.
(1) cl(z) は mϖ + nϖi (m, nはともに偶数もしくはともに奇数) を周期に持つ.
(2) (半周期性) cl(z +ϖ) = −cl(z), cl(z +ϖi) = −cl(z).
(3) cl(z) の零点は
(m+
1
2
)ϖ + nϖi (m, n は整数) であり,すべて 1位の零点である.
(4) cl(z) の極は mϖ +
(n+
1
2
)ϖi (m, n は整数) であり,すべて 1位の極である.
(5) cl(z) はすべての零点および極を中心として奇関数であり,cl−1(1) = 2mϖ + 2nϖi, cl−1(−1) = (2m +
1)ϖ + 2nϖi, cl−1(i) =
(2m+
1
2
)ϖ +
(2n+
1
2
)ϖi, cl−1(i) =
(2m− 1
2
)ϖ +
(2n+
1
2
)ϖi (以上
すべて m, n は整数)を中心として偶関数である.
§ 2 主要な点における sl(z), cl(z) の値
以下の図においては
赤の矢印は正の実数の増加方向 (+0 → +∞),青の矢印は負の実数の減少方向 (−0 → −∞),緑の矢印は純虚数の増加(?)方向 (+0i → +∞i),
黄の矢印は純虚数の減少(?)方向 (−0i → −∞i)
を表す.またローマ数字Ⅰ,
Ⅱ,Ⅲ,Ⅳは,関数値が
Ⅰの場合 Re > 0 かつ Im > 0,
Ⅱの場合 Re < 0 かつ Im > 0,
Ⅲの場合 Re < 0 かつ Im < 0,
Ⅳの場合 Re > 0 かつ Im < 0
の領域に含まれることを表す.
MeBio (2014.9.21 6:59) §2 主要な点における sl(z), cl(z) の値 5
(1) sl(z)
Ⅰ
ⅠⅠ
Ⅰ
ⅠⅠ Ⅱ Ⅱ
Ⅱ
Ⅱ
ⅡⅡ Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
ⅢⅢ
ⅢⅣ
Ⅳ Ⅳ
Ⅳ
Ⅳ
Ⅳ
O ϖ
2
i
10
+∞
−1
−i
00
0 0 011
1
−1
0 00 −1 −1
−1
−1
ϖ
2i
(2) cl(z)
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
ⅠⅡ Ⅱ
Ⅱ
Ⅱ
ⅡⅡ Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
ⅢⅢ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅳ
Ⅳ
Ⅳ
O ϖ
2
i
10
+∞
−1
−i
00
0 0 01−1
0 00 −1 −1
−1
−1
ϖ
2i
Ⅱ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅲ
O
i
0
−i
0
0
これらのグラフは,次の節の結論をすばやく直感的に得るために,非常に重要となる.
6 楕円関数 第 1章 レムニスケート関数の定義と加法定理
§ 3ϖ
2,
ϖ
2i の整数倍のずれ,および
π
2の整数倍の回転
複素平面 C の,向きを保つ合同変換群の離散部分集合 G として,ϖ
2の平行移動(z → z+
ϖ
2),
ϖ
2i の平行
移動(z → z +ϖ
2i),原点中心
π
2回転(z → iz)で生成されるものを考える.G は sl(z) および cl(z) に作用す
る.
sl(z), cl(z) は周期 2ϖ, 2ϖi, ϖ+ϖi を持つので,これらを G の部分群 L の生成元と見なすと,L の sl(z), cl(z)
に対する作用は自明である.つまり G/L が作用すると考えてもよい.これは位数 32 の有限群であり,平行移動の
全体からなる位数 8 の正規部分群を持つ.
G の sl(z), cl(z) に対する作用を決定しよう.これはつまり sl(z +
ϖ
2+
ϖ
2i)などがどのような別表記を持
つかを調べることである.これはこの関数の,原点付近の値の取り方に注意するだけで簡単に決定することが出来
る.結論からいうと,G の元によって sl(z), sl(z) を変換してできる関数 f(z) が z = 0 を零点に持てば,それは
sl(z), isl(z), −sl(z), −isl(z) のいずれかであり,z = 0 を極に持てば1
sl(z),
i
sl(z),
−1
sl(z),
−i
sl(z)のいずれかで
ある.また f(0) = a (a = ±1, ±i) であれば acl(z),a
cl(z)のいずれかである.そして各候補のどれであるかは,
実軸正方向の値(実虚,正負,増減)などが分かればすぐに判定できる.
このようにして次の表のような変換規則を得ることができる.(原理的には G の 3つの生成元に対する規則から
構成することができる.)
z′ sl(z′) cl(z′)
iz isl(z)1
cl(z)
回転 −z −sl(z) cl(z)
−iz −isl(z)1
cl(z)
z +ϖ +ϖi sl(z) cl(z)
周期 z + 2ϖ sl(z) cl(z)
z + 2ϖi sl(z) cl(z)
z +ϖ
2+
ϖ
2i − i
sl(z)− i
cl(z)
半周期 z +ϖ −sl(z) −cl(z)
z +ϖi −sl(z) −cl(z)
四半周期z +
ϖ
2cl(z) −sl(z)
z +ϖ
2i
i
cl(z)− i
sl(z)
§ 4 sl(z), cl(z) の加法定理
Hurwitz による sn(z), cn(z) の加法定理の証明をまねて,sl(z), cl(z) の加法定理を証明してみた.
v をmϖ
2+
nϖ
2i (m, n は整数)とは表せない複素数とし,u の関数 f(u) = sl(u)sl(u + v) および
g(u) = cl(u)cl(u+ v) を考える.f(u), g(u) が ϖ, ϖi を周期に持つ二重周期関数であることは,先の表より容易に
分かる.(f(u+ϖ) = sl(u+ϖ)sl(u+ϖ + v) = {−sl(u)}{−sl(u+ v)} = sl(u)sl(u+ v) = f(u) など.)
そこで基本領域 ∆ として ∆ = {z | 0− ϵ <= Re(z) < ϖ − ϵ, 0− ϵ <= Im(z) < ϖ − ϵ} をとる.ただし ϵ は微小な
MeBio (2014.9.21 6:59) §4 sl(z), cl(z) の加法定理 7
正の実数である.(極や零点が周上に来ないようにするため.)
1章§ 2により,f(u) は基本領域内に 2つの極ϖ
2+
ϖ
2i,
ϖ
2+
ϖ
2i− v (の同値類)を持つ.また g(u) は
基本領域内に 2つの極ϖ
2i,
ϖ
2i− v (の同値類)を持つ.これらの極はすべて 1位である.
命題 1–4–1
(1) g(u) +1
cl(v)は基本領域内に 2つの零点
ϖ
2+
ϖ
2i,
ϖ
2+
ϖ
2i− v (の同値類)を持つ.
(2) f(u) +1
cl(v)は基本領域内に 2つの極
ϖ
2i,
ϖ
2i− v (の同値類)を持つ.
(証明)
(1) 前§の変換規則より g( ϖ
2+
ϖ
2i)= cl
( ϖ
2+
ϖ
2i)cl( ϖ
2+
ϖ
2i+ v
)= (−i) × −i
cl(v)=
−1
cl(v),
g( ϖ
2+
ϖ
2i− v
)= cl
( ϖ
2+
ϖ
2i− v
)cl( ϖ
2+
ϖ
2i)
=−1
cl(−v)=
−1
cl(v)が分かるので,g(u) +
1
cl(v) は基本領域内に 2つの零点
ϖ
2+
ϖ
2i,
ϖ
2+
ϖ
2i− v (の同値類)を持つ.
(2) f( ϖ
2i)= sl
( ϖ
2i)sl( ϖ
2i+ v
)= i× i
cl(v)=
−1
cl(v), f( ϖ
2i− v
)= sl
( ϖ
2i− v
)sl( ϖ
2i)
=−1
cl(−v)=
−1
cl(v)が分かるので,f(u) +
1
cl(v)は基本領域内に 2つの零点
ϖ
2i,
ϖ
2i− v (の同値類)
を持つ.
(証明終)
命題 1–4–2
(f(u) +
1
cl(v)
)(g(u) +
1
cl(v)
)= 1 +
1
cl2(v)が成り立つ.
(証明)
g(u) と g(u) +1
cl(v)の極およびその留数は同じなので,g(u) +
1
cl(v)は基本領域内に 2つの 1位の極
ϖ
2i,
ϖ
2i− v (の同値類)を持つ.同様に f(u) +
1
cl(v)は基本領域内に 2つの 1位の極
ϖ
2+
ϖ
2i,
ϖ
2+
ϖ
2i− v
(の同値類)を持つ.
すると
(f(u) +
1
cl(v)
)(g(u) +
1
cl(v)
)=
(sl(u)sl(u+ v) +
1
cl(v)
)(cl(u)cl(u+ v) +
1
cl(v)
)は極と零点
が打ち消し合って正則関数になってしまう.つまり u に関しては定数関数である.そこで(sl(u)sl(u+ v) +
1
cl(v)
)(cl(u)cl(u+ v) +
1
cl(v)
)= h(v) とおいてよい.u = 0 を代入すると
h(v) =
(sl(0)sl(v) +
1
cl(v)
)(cl(0)cl(v) +
1
cl(v)
)=
1
cl(v)
(cl(v) +
1
cl(v)
)= 1 +
1
cl2(v)がわかる.
定理 1–4–3(加法定理)
(1) cl(x+ y) =cl(x)cl(y)− sl(x)sl(y)
1 + sl(x)cl(x)sl(y)cl(y)
(2) sl(x+ y) =sl(x)cl(y) + cl(x)sl(y)
1− sl(x)cl(x)sl(y)cl(y)
8 楕円関数 第 1章 レムニスケート関数の定義と加法定理
(証明)
(1) 先の命題より (f(u) +
1
cl(v)
)(g(u) +
1
cl(v)
)= 1 +
1
cl2(v)
⇐⇒ f(u)g(u) +f(u) + g(u)
cl(v)= 1
⇐⇒ cl(v) =f(u) + g(u)
1− f(u)g(u)=
sl(u)sl(u+ v) + cl(u)cl(u+ v)
1− sl(u)sl(u+ v)cl(u)cl(u+ v)
この式に v = x+ y, u = −x を代入すると
cl(x+ y) =sl(−x)sl(y) + cl(−x)cl(y)
1− sl(−x)sl(y)cl(−x)cl(y)=
−sl(x)sl(y) + cl(x)cl(y)
1 + sl(x)sl(y)cl(x)cl(y)
が得られる.
(2) (1) の x をϖ
2+ x に置き換える.
左辺 = cl( ϖ
2+ x+ y
)= −sl(x+ y),
右辺 =−sl
( ϖ
2+ x)sl(y) + cl
( ϖ
2+ x)cl(y)
1 + sl( ϖ
2+ x)sl(y)cl
( ϖ
2+ x)cl(y)
=−cl(x)sl(y)− sl(x)cl(y)
1 + cl(x)sl(y){−sl(x)}cl(y)
= − cl(x)sl(y) + sl(x)cl(y)
1− cl(x)sl(y)sl(x)cl(y)より成立する.
(注) cl と同じようにして証明することも出来る.u の関数として sl(u)cl(u+ v)− 1
sl(v)と
cl(u)sl(u+v)+1
sl(v)の極と零点が打ち消しあうことがわかり,
(sl(u)cl(u+ v)− 1
sl(v)
)(cl(u)sl(u+ v) +
1
sl(v)
)= −1− 1
sl2(v)が示される.これは sl(v) =
−sl(u)cl(u+ v) + cl(u)sl(u+ v)
1 + sl(u)cl(u+ v)cl(u)sl(u+ v)と変形され,v = x+y, u = −x
と置き換えれば (2) が導かれる.
MeBio (2014.9.21 6:59) 9
第 2 章
Jacobi の楕円関数
§ 1 sn(z), cn(z), dn(z) の複素関数的扱い
以下簡単のため k を 0 < k < 1 である実数とする.(それ以外の場合でも同様の方法で同じ結果が得られるが,
経路の取り方やその指定方法などが煩雑になる,)
f(z) =1√
(1− z2)(1− k2z2)は z = ±1, ± 1
kに特異点を持つ 2価関数なので,z =\ ±1, ± 1
kに対して 0 と
z を結ぶ特異点を通らない経路 C (のホモトピー類)を与えると g(z) = sn−1(z) =
∫C
1√(1− z2)(1− k2z2)
dz
の値が決まる.ただし C の始点 0 に対する枝は f(0) = 0 のものとする.
ここで sn−1(z) の値を 1価に確定するために,複素数平面から 2つの半直線 [1, ∞), [−1, −∞) を取り除いた単
連結な領域 D での関数を考える.
1
i
−1
−i
O A C
C’
g = sn−1
sn
g(0) = 0 g(1)
g
(1
k+ 0i
)
1
k
− 1
k
B
B’
g
(1
k− 0i
)
z = 1 の近傍では1√
(1− z2)(1− k2z2)
.=.1√
2(1− k2)(1 − z)−
12 なので(つまり
1
2位の極なので),積
分すると1
2位の零点となり,g(1) =
∫ 1
0
1√(1− z2)(1− k2z2)
dz が収束することがわかる.そこで K を
K = g(1) =
∫ 1
0
1√(1− z2)(1− k2z2)
dz で定義する.
f(z) を D で解析接続した場合,1 < r <1
kのとき f(r + 0i) =
i√(r2 − 1)(1− k2r2)
であることが容易に分
かるので,図の経路 AB に沿った積分値については,∫ 1k+0i
1+0i
1√(1− z2)(1− k2z2)
dz =
∫ 1k
1
i√(r2 − 1)(1− k2r2)
dr
10 楕円関数 第 2章 Jacobi の楕円関数
である.(先と同様収束することは容易に分かる.) そこで K ′ をK ′ =
∫ 1k
1
1√(r2 − 1)(1− k2r2)
dr で定義する.
g
(1
k+ 0i
)= K +K ′i, g
(1
k− 0i
)= K −K ′i ということになる. その先の経路 BC に関しては
1
k< r の
とき f(r + 0i) =−1√
(r2 − 1)(k2r2 − 1)だから,
∫ ∞+0i
1k+0i
1√(1− z2)(1− k2z2)
dz =
∫ ∞
1k
−1√(r2 − 1)(k2r2 − 1)
dr =
∫ +0
1
−1√(1
k2s2 − 1) (
1s2 − 1
)(− 1
ks2
)ds
= −∫ 1
0
1√(1− k2s2)(1− s2)
ds = −K.
これより g(∞+0i) = K +K ′i−K = K ′i がわかった.つまり O から C(+∞+0i) まで1√
(1− z2)(1− k2z2)
を積分していくと,A までは実軸上を右に進み K に達するが,A を超えると左に 90◦ 進行方向を変え,B まで積
分すると K +K ′i に達し,そこでまた左に 90◦ 進行方向を変え,無限積分の後虚軸上の K ′i に達する.
AB’C’ と経路をとる場合は右に折れ曲がって −K ′i に達する.
注意 2–1–1
sn−1(w) の解析性より虚軸上を直接積分したときの値も K ′i に等しいので,∫ +∞i
+0i
1√(1− z2)(1− k2z2)
dz = i
∫ ∞
0
1√(1 + s2)(1 + k2s2)
ds = K ′iである.これは
∫ ∞
0
1√(1 + s2)(1 + k2s2)
ds =
∫ 1k
1
1√(r2 − 1)(1− k2r2)
dr が成り立つことを意味している.これを直接証明してみよう.
(証明)
r =
√1 + s2√
1 + k2s2と変数変換する.r : 1 → 1
kのとき s : 0 → ∞ であり
r2 − 1 =1 + s2
1 + k2s2− 1 =
(1− k2)s2
1 + k2s2,
1− k2r2 = 1− k2(1 + s2)
1 + k2s2=
(1− k2)
1 + k2s2,
dr =
1
2· 2s√
1 + s2·√
1 + k2s2 −√1 + s2 · 1
2
2k2s√1 + k2s2
1 + k2s2ds
=s(1 + k2s2)− (1 + s2)k2s
(1 + k2s2)√1 + s2
√1 + k2s2
ds =s(1− k2)
(1 + k2s2)√1 + s2
√1 + k2s2
ds
従って
∫ 1k
1
1√(r2 − 1)(1− k2r2)
dr =
∫ ∞
0
√1 + k2s2
s√1− k2
·√1 + k2s2√1− k2
s(1− k2)
(1 + k2s2)√1 + s2
√1 + k2s2
ds
=
∫ ∞
0
1√(1 + s2)(1 + k2s2)
ds
(証明終)
MeBio (2014.9.21 6:59) §2 主要な点における sn(z), cn(z), dn(z) の値 11
§ 2 主要な点における sn(z), cn(z), dn(z) の値
引き続き k を 0 < k < 1, K =
∫ 1
0
1√(1− t2)(1− k2t2)
dt, K ′ =
∫ 1k
1
1√(t2 − 1)(1− k2t2)
dt とする.
以下の図の色のついた線,ローマ数字Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳの意味は前の章と同じとする.
(1) sn(z)
Ⅰ
ⅠⅠ
Ⅰ
ⅠⅠ Ⅱ Ⅱ
Ⅱ
Ⅱ
ⅡⅡ Ⅲ
Ⅲ
Ⅲ
ⅢⅢ
ⅢⅣ
Ⅳ Ⅳ
Ⅳ
Ⅳ
Ⅳ
O K
K ′i
10
1
k
+∞−∞−∞i
−1
− 1
k
−∞i
00
0 0 0
+∞+∞
+∞ +∞
+∞
−∞
−∞ −∞
−∞
11
1
1
k
1
k
1
k
− 1
k
−1
−∞
0 00 KK −1 −1
−1
−1
− 1
k
− 1
k
(i) sn(z) は奇関数.基本周期は 4K, 2K ′i.
(ii) 半周期性:sn(z + 2K) = −sn(z), sn(z + 2K + 2K ′i) = −sn(z), sn(z +K ′i)sn(z) =1
k.
(iii) 零点は z = 2mK + 2nK ′ で,すべて 1位の零点.sn′(2mK + 2nK ′i) =
{1 m ≡ 0 (mod 2)
−1 m ≡ 1 (mod 2)
(iv) sn(z) の極は 2mK + (2n+1)K ′i (m, n は整数) であり,すべて 1位の極である.m ≡ 0 (mod 2) の場合,
留数は1
kであり,m ≡ 1 (mod 2) の場合,留数は − 1
kである.
(v) sn(z) はすべての零点および極を中心として奇関数であり,sn−1(±1) = (4m± 1)K +2nK ′i, sn−1
(± 1
k
)= (4m± 1)K + (2n+ 1)K ′i (以上すべて m, n は整数)を中心として偶関数である.
(vi) Taylor 展開, Laurent 展開.(3項目まで計算したが,後々必要となるのは最初の項のみである.)
z = 0 sn(z) = z − k2 + 1
6z3 +
k4 + 14k2 + 1
120z5 + · · ·
z = K sn(z) = 1 +k2 − 1
2(z −K)2 +
5k4 − 6k2 + 1
24(z −K)4 + · · ·
z = K +K ′i sn(z) =1
k− k2 − 1
2k(z −K −K ′i)2 − k4 − 6k2 + 5
24k(z −K −K ′i)4 + · · ·
z = K ′i sn(z) =1
k(z −K ′i)+
k2 + 1
6k(z −K ′i) +
7k4 − 22k2 + 7
360k(z −K ′i)3 + · · ·
12 楕円関数 第 2章 Jacobi の楕円関数
(2) cn(z) =√1− sn2(z)
Ⅰ
ⅠⅡ
Ⅱ
Ⅱ
ⅡⅢ
Ⅲ
Ⅲ
ⅢⅣ
Ⅳ
O K
K ′i
10
−∞
−1 00 −1
Ⅱ
10 −1 00
10 −1 00
1
1
ⅢⅣ Ⅰ Ⅳ
Ⅰ Ⅱ ⅣⅢ ⅠⅣ
∞
−√1− k2
ki
−√1− k2
ki−
√1− k2
ki
√1− k2
ki
√1− k2
ki
−√1− k2
ki
0
√1− k2
ki−∞i
∞ ∞∞
∞∞
√1− k2
ki
(i) cn(z) は偶関数.基本周期は 4K, 2K + 2K ′i.
(ii) 半周期性:cn(z + 2K) = −cn(z), cn(z + 2K ′i) = −cn(z), cn(z +K +K ′i)cn(z) = −√1− k2
ki.
(iii) 零点は z = (2m+ 1)K + 2nK ′ で,すべて 1位の零点.
cn′((2m+ 1)K + 2nK ′i) =
{−√1− k2 m ≡ n (mod 2)
√1− k2 m ̸≡ n (mod 2)
(iv) cn(z) の極は 2mK + (2n + 1)K ′i (m, n は整数) であり,すべて 1位の極である.m ≡ n (mod 2) の場
合,留数は − i
kであり,m ̸≡ n (mod 2) の場合,留数は
i
kである.
(v) cn(z) はすべての零点および極を中心として奇関数であり,cn−1(1) = 2mK + 2nK ′i (m ≡ n mod 2),
cn−1(−1) = 2mK+2nK ′i (m ̸≡ n mod 2), cn−1
(−
√1− k2
ki
)= (2m+1)K+(2n+1)K ′i (m ≡ n mod 2),
cn−1
( √1− k2
ki
)= (2m+ 1)K + (2n+ 1)K ′i (m ̸≡ n mod 2) を中心として偶関数である.
(vi) Taylor 展開, Laurent 展開.
z = 0 cn(z) = 1− 1
2z2 +
4k2 + 1
24z4 + · · ·
z = K cn(z) = −√1− k2
{(z −K) +
2k2 − 1
6(z −K)3 +
16k4 − 16k2 + 1
120(z −K)5 · · ·
}z = K +K ′i cn(z) = −
√1− k2
ki
{1 +
1
2(z −K −K ′i)2 − 4k2 − 5
24(z −K −K ′i)4 + · · ·
}z = K ′i cn(z) = − i
k
{1
(z −K ′i)− 2k2 − 1
6(z −K ′i)− 8k4 − 8k2 − 7
360(z −K ′i)3 + · · ·
}
MeBio (2014.9.21 6:59) §2 主要な点における sn(z), cn(z), dn(z) の値 13
(3) dn(z) =√1− k2sn2(z)
Ⅰ
ⅡⅢ
Ⅳ
O K
K ′i
1
0
Ⅰ Ⅳ
Ⅱ Ⅲ
Ⅰ
ⅡⅢ
Ⅳ
Ⅰ Ⅳ
Ⅱ Ⅲ
Ⅰ
ⅡⅢ
Ⅳ
Ⅰ Ⅳ
Ⅱ Ⅲ
∞
∞0
−1
−1
1
0
∞
∞0
−1
−1
1
0
∞
∞0
−1
−1
0
0
−√1− k2
√1− k2
−√1− k2
−√1− k2
√1− k2
−√1− k2
−√1− k2
√1− k2
−√1− k2
−√1− k2
√1− k2
−√1− k2
(i) dn(z) は偶関数.基本周期は 2K, 4K ′i.
(ii) 半周期性:dn(z + 2K ′i) = −dn(z), dn(z + 2K + 2K ′i) = −dn(z), dn(z +K)dn(z) =√1− k2.
(iii) 零点は z = (2m+ 1)K + (2n+ 1)K ′ で,すべて 1位の零点.
dn′((2m+ 1)K + (2n+ 1)K ′i) =
{ √1− k2i n ≡ 0 (mod 2)
−√1− k2i n ≡ 1 (mod 2)
(iv) dn(z) の極は 2mK + (2n+ 1)K ′i (m, n は整数) であり,すべて 1位の極である.n ≡ 0 (mod 2) の場合,
留数は −i であり,n ≡ 1 (mod 2) の場合,留数は i である.
(v) dn(z) はすべての零点および極を中心として奇関数であり,dn−1(1) = 2mK + 4nK ′i, dn−1(−1) =
2mK + (4n+ 2)K ′i, dn−1(√
1− k2)= (2m− 1)K + 4nK ′i, dn−1
(−√1− k2
)= (2m− 1)K + (4n+ 2)K ′i
を中心として偶関数である.
(vi) Taylor 展開, Laurent 展開.
z = 0 dn(z) = 1− k2
2z2 +
k4 + 4k2
24z4 + · · ·
z = K dn(z) =√1− k2
{1 +
k2
2(z −K)2 +
5k4 − 4k2
24(z −K)4 · · ·
}z = K +K ′i dn(z) =
√1− k2i
{(z −K −K ′i)− k2 − 2
6(z −K −K ′i)3 +
k4 − 16k2 + 16
120(z −K −K ′i)5
}z = K ′i dn(z) = −i
{1
(z −K ′i)+
k2 − 2
6(z −K ′i) +
7k4 + 8k2 − 8
360(z −K ′i)3 + · · ·
}
14 楕円関数 第 2章 Jacobi の楕円関数
§ 3 四半周期のずれ
sn(z), cn(z), dn(z) はすべて同じ所(z = 2mK + (2n+ 1)K ′i)に極を持ち,それらはすべて 1位の極である.
従って,割り算をするとその極は解消される.ただし分母の零点は新たに極となる.sn(z), cn(z), dn(z) はすべて
4K, 4K ′i を周期に持つ二重周期関数なので,cn(z)
sn(z),
dn(z)
cn(z),
sn(z)
dn(z)およびその逆数も同じ周期を持つ二重周期
関数であることがわかる.しかも sn(z), cn(z), dn(z) の極,零点は mK + nK ′i 上にあるので割り算した関数も同
様となる.
ところで,2つの 2位の二重周期関数が同じ場所に極と零点を持てば,それらは定数倍の違いしか無い.これよ
りこれらの分数関数は,sn(z), cn(z), dn(z) の平行移動・定数倍になっていることがわかる.具体的にどの関数の
どれだけの平行移動,定数倍になっているかは,0, K, K +K ′i, K ′i での様子が分かれば決定できる.そこでこれ
らの点での各関数の振る舞いを調べておこう.
0 K K +K ′i K ′i
sn(z) 0 (微分係数は 1) 11
k極
(留数は
1
k
)cn(z) 1 0
(微分係数は −
√1− k2
)−
√1− k2
ki 極
(留数は − i
k
)dn(z) 1
√1− k2 0
(微分係数は
√1− k2i
)極 (留数は − i)
1
sn(z)極 (留数は 1) 1 k 0 (微分係数は k)
1
cn(z)1 極
(留数は − 1√
1− k2
)k√
1− k2i 0 (微分係数は ki)
1
dn(z)1
1√1− k2
極
(留数は − i√
1− k2
)0 (微分係数は i)
sn(z)
cn(z)0 (微分係数は 1) 極
(留数は − 1√
1− k2
)i
k√1− k2
i
cn(z)
sn(z)極 (留数は 1) 0
(微分係数は −
√1− k2
)−√1− k2i −i
sn(z)
dn(z)0 (微分係数は 1)
1√1− k2
極
(留数は − i
k√1− k2
)i
k
dn(z)
sn(z)極 (留数は 1)
√1− k2 0
(微分係数は k
√1− k2i
)−ki
cn(z)
dn(z)1 0 (微分係数は − 1) 極
(留数は − 1
k
)1
k
dn(z)
cn(z)1 極 (留数は − 1) 0 (微分係数は − k) k
この表より次が分かる.
1
sn(z)= k · sn(z +K ′i)
1
cn(z)=
ki√1− k2
cn(z +K +K ′i)
1
dn(z)=
1√1− k2
dn(z +K).
sn(z)
cn(z)=
−i√1− k2
dn(z +K +K ′i)cn(z)
sn(z)= i · dn(z +K ′i)
sn(z)
dn(z)=
−1√1− k2
cn(z +K)dn(z)
sn(z)= ki · cn(z +K ′i)
cn(z)
dn(z)= sn(z +K)
dn(z)
cn(z)= k · sn(z +K +K ′i).
MeBio (2014.9.21 6:59) §4 K, K ′i の整数倍のずれ,および対称変換(まとめ) 15
§ 4 K, K ′i の整数倍のずれ,および対称変換(まとめ)
z′ sn(z′) cn(z′) dn(z′)
対称変換 −z −sn(z) cn(z) dn(z)
周期z + 4K sn(z) cn(z) dn(z)
z + 4K ′i sn(z) cn(z) dn(z)
z + 2K −sn(z) −cn(z) dn(z)
半周期 z + 2K ′i sn(z) −cn(z) −dn(z)
z + 2K + 2K ′I −sn(z) cn(z) −dn(z)
z +Kcn(z)
dn(z)−√1− k2
sn(z)
dn(z)
√1− k2
1
dn(z)
四半周期 z + k′i1
k· 1
sn(z)− i
k· dn(z)
sn(z)−i
cn(z)
sn(z)
z +K +K ′i1
k· dn(z)
cn(z)−
√1− k2
k· 1
cn(z)
√1− k2i
sn(z)
cn(z)
§ 5 sn(x), cn(x), dn(x) の加法定理
u の関数 sn(u)sn(u + v) を考える.これは 2K, 2K ′i を周期に持つ二重周期関数である.極は u = K ′i および
u = K ′i− v に持つ.K ′i における留数は
(sn(z) のK ′i における留数)× sn(K ′i+ v) =1
k× 1
k· 1
sn(v)=
1
k2sn(v)
であり,K ′i− v における留数は
sn(K ′i− v)× (sn(z) のK ′i における留数) =1
k· 1
sn(−v)× 1
k= − 1
k2sn(v)
である.これらの計算の際,§ 3, § 4 の表が役に立つ.
cn(u)cn(u+ v), dn(u)dn(u+ v) も u の関数として 2K, 2K ′i を周期に持つ二重周期関数であり,u = K ′i およ
び u = K ′i− v に 1位の極を持つ.それらの留数を実際に計算した結果は次の表の通りである.
関数 u = K ′i における留数 u = K ′i− u における留数
sn(u)sn(u+ v)1
k2sn(v)− 1
k2sn(v)
cn(u)cn(u+ v) − dn(v)
k2sn(v)
dn(v)
k2sn(v)
dn(u)dn(u+ v) − cn(v)
sn(v)
cn(v)
sn(v)
留数が消えるようなこれら関数の線型和を考える.例えば cn(u)cn(u + v) + sn(u)sn(u + v)dn(v) である.コン
パクト Riemann 面上の有界な解析関数は定数しかないので,この関数は u によらない.つまり cn(u)cn(u+ v) +
sn(u)sn(u + v)dn(v) = f(v) と置くことが出来る.u = 0 を代入すると h(v) = cn(v) が分かる.このようにして
cn(u)cn(u+ v) + sn(u)sn(u+ v)dn(v) = cn(v) · · · ① が得られた.この関数等式を v = x+ y, u = −x と変換する
と次の式になる.
cn(x)cn(y)− sn(x)sn(y)dn(x+ y) = cn(x+ y) · · · · · ·②
同様に dn(u)dn(u+ v) + k2sn(u)sn(u+ v)cn(v) は u によらない関数なので,dn(u)dn(u + v) + k2sn(u)sn(u+
v)cn(v) = g(v) と置くことが出来る.u = 0 を代入すると g(v) = dn(v) が分かる.このようにして dn(u)dn(u +
v) + k2sn(u)sn(u+ v)cn(v) = dn(v) が得られた.この関数等式を v = x+ y, u = −x と変換すると次の式になる.
dn(x)dn(y)− k2sn(x)sn(y)cn(x+ y) = dn(x+ y) · · · · · ·③
16 楕円関数 第 2章 Jacobi の楕円関数
②, ③ を行列表示すると(1 sn(x)sn(y)
k2sn(x)sn(y) 1
)(cn(x+ y)
dn(x+ y)
)=
(cn(x)cn(y)
dn(x)dn(y)
)
従って (cn(x+ y)
dn(x+ y)
)=
(1 sn(x)sn(y)
k2sn(x)sn(y) 1
)−1(cn(x)cn(y)
dn(x)dn(y)
)
=1
1− k2sn2(x)sn2(y)
(1 −sn(x)sn(y)
−k2sn(x)sn(y) 1
)(cn(x)cn(y)
dn(x)dn(y)
)
=1
1− k2sn2(x)sn2(y)
(cn(x)cn(y)− sn(x)sn(y)dn(x)dn(y)
dn(x)dn(y)− k2sn(x)sn(y)cn(x)cn(y)
)
以上より cn, dn に関する加法定理
cn(x+ y) =cn(x)cn(y)− sn(x)sn(y)dn(x)dn(y)
1− k2sn2(x)sn2(y)· · · ④
dn(x+ y) =dn(x)dn(y)− k2sn(x)sn(y)cn(x)cn(y)
1− k2sn2(x)sn2(y)· · · ⑤
が得られた.sn に関する加法定理は ④ を ① に代入してやればよい.① より
sn(u+ v) =cn(v)− cn(u)cn(u+ v)
sn(u)dn(v)
=cn(v)(1− k2sn2(u)sn2(v))− cn(u)(cn(u)cn(v)− sn(u)sn(v)dn(u)dn(v))
sn(u)dn(v)(1− k2sn2(u)sn2(v))
=cn(v)(1− cn2(u))− k2cn(v)sn2(u)sn2(v) + cn(u)sn(u)sn(v)dn(u)dn(v)
sn(u)dn(v)(1− k2sn2(u)sn2(v))
=cn(v)sn2(u)− k2cn(v)sn2(u)sn2(v) + cn(u)sn(u)sn(v)dn(u)dn(v)
sn(u)dn(v)(1− k2sn2(u)sn2(v))
=cn(v)sn(u)− k2cn(v)sn(u)sn2(v) + cn(u)sn(v)dn(u)dn(v)
dn(v)(1− k2sn2(u)sn2(v))
=cn(v)sn(u)(1− k2sn2(v)) + cn(u)sn(v)dn(u)dn(v)
dn(v)(1− k2sn2(u)sn2(v))
=cn(v)sn(u)dn2(v) + cn(u)sn(v)dn(u)dn(v)
dn(v)(1− k2sn2(u)sn2(v))
=cn(v)sn(u)dn(v) + cn(u)sn(v)dn(u)
1− k2sn2(u)sn2(v)
つまり sn(x+ y) =sn(x)cn(y)dn(y) + sn(y)cn(x)dn(x)
1− k2sn2(x)sn2(y)が証明された.
MeBio (2014.9.21 6:59) 17
第 3 章
レムニスケートの5等分点
§ 1 概要
レムニスケートの 5等分問題は有名である.
1O
P
A
極形式 r2 = cos 2θ で与えられるレムニスケートの全周の長さを 2ϖ とする.周上に OP =2ϖ
5となる点 P
をとるとき,直線距離 OP を求めよというのである.OP = z, OP = w とすると w = sl(z) であるから,これは
sl
(2ϖ
5
)を求めよという問題に他ならない.加法定理より sl(z) の 5倍角の公式を導くと sl(z) の有理式になるの
で sl(5z) = 0 を sl(z) の有理式として解けばよいことになる.
ところで,結論から先に述べると,
sl(5z) =sl(z)
(sl8(z)− 2sl4(z) + 5
) (sl16(z) + 52sl12(z)− 26sl8(z)− 12sl4(z) + 1
)(5sl8(z)− 2sl4(z) + 1
) (sl16(z)− 12sl12(z)− 26sl8(z) + 52sl4(z) + 1
)である.分子が sl(z) の 25次方程式になっているのはトーラスの 5等分点が 25個あるのに対応している.因数 sl(z)
は z = 0 に対応する.残りの 24次式が sl4(z) の多項式になっているのは,5等分点のセット α, iα, −α, −iα に対
する関数値が sl(α), sl(iα) = i · sl(α), sl(−α) = −sl(α), sl(−iα) = −i · sl(α) であることに対応している.また,分
母と分子の係数の並びが逆になっているのは,sl(z) の零点と極の位置関係,および sl( ϖ
2+
ϖ
2i− z
)=
i
sl(z)
の関数等式により納得がいく.しかし,それよりも重要なのは 24次式が 8次式と 16次式に因数分解されているこ
とである.これは一体何を意味するのであろうか.
sl(z) = s, cl(z) = t とおくと Riemann 面 C/L は代数曲線 E : (1− s2)(1− t2)− 2 = 0 と考えることができる.
E の n 等分点 En = {(sl(α), cl(α)) | α は C/L の n 等分点 } にはガロア群 Gal(Q)/Q が作用する.ここで C/Lの 5等分点は加法群 Z2/5Z2 ≃ F5 ⊕ F5 と考えられる.Aut(Z2/5Z2) = GL(2, F5) であり,Z2/5Z2 の (0, 0) 以
外の 24点は GL(2, F5) の元で互いに移りあう.それだけを考えると E5 の 24点はすべて共役である感じがする
が,sl(5z) の分子の因数分解からするとそうではないらしい.なぜだろうか.
実は C/L は正方形(の半分)の領域であり iL = L が成り立つので,sl(z) や cl(z) は虚数乗法を持つのである.
この場合 5等分点を Z2/5Z2 と考えるのは適当ではなく,Z[i]/(5) = Z[i]/(2− i)⊕ Z[i]/(2 + i) ≃ F5 ⊕ F5 と考え
18 楕円関数 第 3章 レムニスケートの 5等分点
る方が適切である.そして Gal(Q/Q[i]) は Z[i]/(2 − i) および Z[i]/(2 + i) のそれぞれに対して作用する.つまり
GL(2, F5) の元としては対角行列にしか対応しない.(もちろん複素共役写像は Z[i]/(2 + i) と Z[i]/(2− i) の入れ
替えを引き起こすのではあるが,それは Gal(Q/Q[i]) の元ではない.)このように考えた場合,a⊕0 (a = 1, 2, 3, 4)
の 4つと 0⊕ a (a = 1, 2, 3, 4) の 4つが Q[i] 上共役であり,これら 8つが Q 上共役ということになる.残り 16
個の a⊕ b (a =\ 0, b =\ 0) が Q 上共役である. 準同型 p : Z[i] → Z[i]/(2− i)⊕Z[i]/(2 + i) において p(2 + i) = 4⊕ 0, p(2− i) = 0⊕ 4 であり,4つの 2− i 等分
点 α =4ϖ
5+
2ϖ
5i, 2α ≡ 3ϖ
5− ϖ
5i ≡ iα, 3α ≡ 7ϖ
5+
ϖ
5i ≡ −iα, 4α ≡ 6ϖ
5− 2ϖ
5i ≡ −α に対する sl
の値が Q[i] 上共役である.Q[i] 上の最小多項式は
(s− sl(α)) (s− sl(iα)) (s− sl(−α)) (s− sl(−iα)) = s4 − sl4(α) = 0
ということになる.特に sl4(α) ∈ Q[i], sl4(α) ̸∈ Q であることがわかる.
また,4 つの 2 + i 等分点 β =4ϖ
5− 2ϖ
5i, 2β ≡ 3ϖ
5+
ϖ
5i ≡ iβ, 3β ≡ 7ϖ
5− ϖ
5i ≡ −iβ, 4β ≡
6ϖ
5+
2ϖ
5i ≡ −β に対する sl の値が Q[i] 上共役である.Q[i] 上の最小多項式は
(s− sl(β)) (s− sl(iβ)) (s− sl(−β)) (s− sl(−iβ)) = s4 − sl4(β) = 0
ということになる.特に sl4(β) ∈ Q[i], sl4(β) ̸∈ Q であることがわかる.sl4(α), sl4(β) は共役な複素数である.こ
れらの点の位置を図に示しておく.1章のグラフと比較すると,sl(α) が 4象限,cl(α) が 3象限の複素数であるこ
とがわかる.
O ϖ 2ϖ
α
3α2β
4β
ϖi
(1− i)ϖ
2α
4αβ
3β
(1 + i)ϖ
L = Q(E5) (E5 の座標で生成される体)とする.L は s16 + 52s12 − 26s8 − 12s4 + 1 = 0 の分解体であり,
Gal(L/Q) ≃{(
a 0
0 d
),
(0 bc 0
)}⊂ GL(2, F5)
である.L は Q 上 32 次の非 Abel 拡大であり,Q(i) 上は 16 次の Abel 拡大になっている.
MeBio (2014.9.21 6:59) §2 2 + i 倍角公式 19
§ 2 2 + i 倍角公式
sl(z) = s, cl(z) = c と表記する.c =
√1− s2
1 + s2である.加法定理より sl(2z) =
2sc
1− s2c2, cl(2z) =
c2 − s2
1 + s2c2
である.また sl(iz) = is cl(iz) =1
cが成り立つ.これより
sl(2z + iz)
=sl(2z)cl(iz) + cl(2z)sl(iz)
1− sl(2z)sl(iz)cl(2z)cl(iz)
=
2sc
1− s2c2· 1
c+
c2 − s2
1 + s2c2· is
1− 2sc
1− s2c2· is · c2 − s2
1 + s2c2· 1
c
=2s(1 + s2c2) + (c2 − s2)(1− s2c2) · is(1− s2c2)(1 + s2c2)− 2is2(c2 − s2)
=
2s
(1 + s2
1− s2
1 + s2
)+ is
(1− s2
1 + s2− s2
)(1− s2
1− s2
1 + s2
)(1− s2
1− s2
1 + s2
)(1 + s2
1− s2
1 + s2
)− 2is2
(1− s2
1 + s2− s2
)=
2s(1 + s2)(1 + 2s2 − s4) + is(1− 2s2 − s4)(1 + s4)
(1− s4)(1 + 2s2 − s4)− 2is2(1 + s2)(1− 2s2 − s4)
=−is(s4 − 1 + 2i)(s2 − (1 + i)s+ 1)(s2 + (1 + i)s+ 1)
((2i− 1)s4 + 1)(s2 − (1 + i)s+ 1)(s2 + (1 + i)s+ 1)
=−is(s4 − 1 + 2i)
(2i− 1)s4 + 1
しかし,この因数分解に気付くのは結構難しいので,もう一つの加法定理 sl(x + y) =sl(x)sl′(y) + sl′(x)sl(y)
1 + sl2(x)sl2(y)
を用いた方法も考えてみた.そのためにまず sl′(2z) を求めておこう.sl(z) = s, sl′(z) = s′ と表記する.
sl(2z) =2ss′
1 + s4, s′ =
√1− s4 である.これより
sl′(2z) =
√1− sl4(2z) =
√1−
(2ss′
1 + s4
)4
=
√(1 + s4)4 − 16s4(s′)4
(1 + s4)2
=
√(1 + s4)4 − 16s4(1− s4)2
(1 + s4)2
=
√{(1 + s4)2 + 4s2(1− s4)}{(1 + s4)2 − 4s2(1− s4)}
(1 + s4)2
=
√(s8 − 4s6 + 2s4 + 4s2 + 1)(s8 + 4s6 + 2s4 − 4s2 + 1)
(1 + s4)2
=
√(s4 − 2s2 − 1)2(s4 + 2s2 − 1)2
(1 + s4)2
=(s4 − 2s2 − 1)(s4 + 2s2 − 1)
(1 + s4)2
この計算および因数分解もまだまだ難しいかもしれない.sl′(2z) の別の計算方法も試してみた.
(s′)2 = 1 − s4 の両辺を s で微分して 2s′s′′ = (−4s3)s′ つまり s′′ = −2s3 を得る.次に sl(2z) =2ss′
1 + s4の両辺
20 楕円関数 第 3章 レムニスケートの 5等分点
を s で微分する.
2sl′(2z) =(2ss′)′(1 + s4)− 2ss′ · 4s3s′
(1 + s4)2=
{2(s′)2 + 2ss′′}(1 + s4)− 8s4(s′)2
(1 + s4)2
={2(1− s4) + 2s(−2s3)}(1 + s4)− 8s4(1− s4)
(1 + s4)2
従って
sl′(2z) ={(1− s4) + s(−2s3)}(1 + s4)− 4s4(1− s4)
(1 + s4)2
=(1− 3s4)(1 + s4)− 4s4(1− s4)
(1 + s4)2=
s8 − 6s4 + 1
(1 + s4)2
=(s4 + 2s2 − 1)(s4 − 2s2 − 1)
(1 + s4)2
こちらの方が因数分解に気付きやすい. 注意 3–2–1 sl(z) が重解を持つのは分岐点 sl(z) = ±1, ±i ⇐⇒ z ≡ m
2ϖ +
n
2ϖi (m ̸≡ n mod 2) において
であるから,
左辺 = sl′(2z) = 0 ⇐⇒ z ≡ m
4ϖ +
n
4ϖi (m ̸≡ n mod 2)
がわかる.一方
右辺 = 0 ⇐⇒ s = ±√√
2± 1, ±√√
2± 1i
であるから,
∫ √√2−1
0
1√1− r4
dr =1
2
∫ 1
0
1√1− r4
dr などが成り立っているはずである.(新家 (2.16))
また,極の位置に関しても同様の説明が出来る. (注意終)
話を元に戻す.2 + i 倍角公式の別の導出法は以下の通りである.
sl(2z + iz) =sl(2z)sl′(iz) + sl′(2z)sl(iz)
1 + sl2(2z)sl2(iz)
=
2ss′
1 + s4· s′ + (s4 + 2s2 − 1)(s4 − 2s2 − 1)
(1 + s4)2· is
1 +
(2ss′
1 + s4
)2
(is)2
=2(1 + s4)s(s′)2 + is(s4 + 2s2 − 1)(s4 − 2s2 − 1)
(1 + s4)2 − 4s4(1− s4)
=2(1 + s4)s(1− s4) + is(s4 + 2s2 − 1)(s4 − 2s2 − 1)
s8 + 2s4 + 1− 4s4 + 4s8
=−s{(2s8 − 2)− i(s8 − 6s4 + 1)}
5s8 − 2s4 + 1=
−s{(2− i)s8 + 6is4 − (2 + i)}{(2− i)s4 + i}{(2 + i)s4 − i}
=−s{(2− i)s4 + i}{s4 − (1− 2i)}{(2− i)s4 + i}{(2 + i)s4 − i}
=−s{s4 − (1− 2i)}i{(1− 2i)s4 − 1}
同様に 2− i 倍角公式は sl(2z − iz) =s{s4 − (1 + 2i)}i{(1 + 2i)s4 − 1}
である.これらにより次の系が直ちに従う.
系 3–2–2
(1) L の 2 + i 等分点 β =4ϖ
5− 2ϖ
5i に対して sl(β) = i 4
√1− 2i である.(ただし 4乗根は第 4象限に含ま
れるものとする.)
MeBio (2014.9.21 6:59) §3 5 倍角公式 21
(2) L の 2− i 等分点 α =4ϖ
5+
2ϖ
5i に対して sl(α) = −i 4
√1 + 2i である.(4乗根は第 1象限に含まれる
ものとする.)
証明
(1) sl(β) が第 1象限に含まれることは 1章§ 2で調べてあるので,i は必要である.
(2) sl(α) は第 4象限に含まれる.
系終
§ 3 5 倍角公式
γ = 1−2i, γ = 1+2iとおく.γ2−2γ+5 = 0, γ = 2−γ である.2+i倍角公式は sl ((2 + i)z) =−s(s4 − γ)
i(γs4 − 1),
2− i 倍角公式は sl ((2− i)z) =s(s4 − γ
)i(γs4 − 1
) と表される.これらの両方を使ってsl(5z) = sl ((2− i)(2 + i)z)
=sl ((2 + i)z)
(sl4 ((2 + i)z)− γ
)i(γsl4 ((2 + i)z)− 1
)
=
{−s(s4 − γ)
i(γs4 − 1)
}[{−s(s4 − γ)
i(γs4 − 1)
}4
− γ
]
i
[γ
{−s(s4 − γ)
i(γs4 − 1)
}4
− 1
]
=−s(s4 − γ)
[s4(s4 − γ)4 − γ(γs4 − 1)4
]i[γs4(s4 − γ)4 − (γs4 − 1)4
]× i(γs4 − 1)
=s(s4 − γ)
[s4(s4 − γ)4 − γ(γs4 − 1)4
][γs4(s4 − γ)4 − (γs4 − 1)4
](γs4 − 1)
ここで s4 = x と置き換えて
s4(s4 − γ)4 − γ(γs4 − 1)4
= x(x− γ)4 − γ(γx− 1)4
= x(x4 − 4ax3 + 6a2x2 − 4a3x+ a4)− γ(a4x4 − 4a3x3 + 6a2x2 − 4ax+ 1)
= x5 − 4ax4 + 6a2x3 − 4a3x2 + a4x− 5a3x4 + 20a2x3 − 30ax2 + 20x+ a− 2
= x5 + (−5a3 − 4a)x4 + 26a2x3 + (−4a3 − 30a)x2 + (a4 + 20)x+ a− 2
= x5 + (a+ 50)x4 + (52a− 130)x3 + (−26a+ 40)x2 + (−12a+ 25)x+ a− 2
= (x+ a− 2)(x4 + 52x3 − 26x2 − 12x+ 1)
=(x− γ
)(x4 + 52x3 − 26x2 − 12x+ 1)
=(s4 − γ
)(s16 + 52s12 − 26s8 − 12s4 + 1)
また,この s を1
sに置き換えることにより,
γs4(s4 − γ)4 − (γs4 − 1)4 = (γs4 − 1)(s16 − 12s12 − 26s8 + 52s4 + 1)
22 楕円関数 第 3章 レムニスケートの 5等分点
であることもわかる.以上より
sl(5z) =sl(z)
(sl8(z)− 2sl4(z) + 5
) (sl16(z) + 52sl12(z)− 26sl8(z)− 12sl4(z) + 1
)(5sl8(z)− 2sl4(z) + 1
) (sl16(z)− 12sl12(z)− 26sl8(z) + 52sl4(z) + 1
)が得られた.
§ 4 x4 + 52x3 − 26x2 − 12x+ 1 = 0 の因数分解
s16+52s12− 26s8− 12s4+1 = 0 の分解体 L は Q(i) 上 16次の Abel 拡大(Q 上 32次の非 Abel 拡大)であるこ
とは既に述べた.従って s4 = x とおいたとき x4 + 52x3 − 26x2 − 12x+ 1 = 0 の分解体はQ(i) 上 4次の Kummer
拡大(Q 上 8次または 4次拡大)である.
4次方程式が解の公式を持つのは対称群 S4 が可解群であるからだが,ある 4次方程式の分解体が 8次または 4
次拡大である場合は 3次拡大に対応する部分が退化してしまっていることを意味する.つまり Ferrari の公式に現
れる 3次方程式が因数分解できることを意味する.これを実際に見てみよう.
まず 4次方程式の 3次の係数が 0 となるように平行移動する.y = x+ 16 とおくと
x4 + 52x3 − 26x2 − 12x+ 1 = 0
⇐⇒ (y − 16)4 + 52(y − 16)3 − 26(y − 16)2 − 12(y − 16) + 1 = 0
⇐⇒ y4 − 1040y2 + 18240y − 89920 = 0
この 4解を a, b, c, d とおくと,解と係数の関係より
a+ b+ c+ d = 0
ab+ ac+ ad+ bc+ bd+ cd = p = −1040
abc+ abd+ acd+ bcd = −q = −18240
abcd = r = −89920
が成り立つ.
ここで e = ab+ cd, f = ac+ bd, g = ad+ bc とおく.e, f, g を 3解に持つ 3次方程式を考えよう.
e+ f + g = (ab+ cd) + (ac+ bd) + (ad+ bc) = p = −1040,
= −24 · 5 · 13
ef + fg + ge = (ab+ cd)(ac+ bd) + (ac+ bd)(ad+ bc) + (ad+ bc)(ab+ cd)
= abc(a+ b+ c) + abd(a+ b+ d) + acd(a+ c+ d) + bcd(b+ c+ d)
= −4abcd
= 89920 · 4,= 28 · 5 · 281,
efg = (ab+ cd)(ac+ bd)(ad+ bc)
= abcd(a2 + b2 + c2 + d2) + a2b2c2 + a2b2d2 + a2c2d2 + b2c2d2
= abcd{(a+ b+ c+ d)2 − 2(ab+ ac+ ad+ bc+ bd+ cd)}+ (abc+ abd+ acd+ bcd)2
−2abcd(ab+ ac+ ad+ bc+ bd+ cd)
= r(02 − 2p) + q2 − 2rp
= q2 − 4pr
= 182402 − 4 · (−1040) · (−89920)
= −41369600
= −214 · 52 · 101
MeBio (2014.9.21 6:59) §5 結論 23
これより e, f, g は 3次方程式 X3 + 24 · 5 · 13X2 + 28 · 5 · 281 · 4x+ 214 · 52 · 101 = 0 の 3解であることがわか
る.係数が大きくなってきたので X = 24Y とおこう,すると
X3 + 24 · 5 · 13X2 + 28 · 5 · 281 · 4X + 214 · 52 · 101 = 0
⇐⇒ Y 3 + 65Y 2 + 1405Y + 10100 = 0
⇐⇒ (Y + 20)(Y 2 + 45Y + 505) = 0
ここで Y の 3次方程式が因数分解できるのは予定通りである.これより Y = −20,−45±
√5
2が得られる.つま
り e = ab+ cd = −320, f = ac+ bd = −360 + 8√5, g = ad+ bc = −360− 8
√5 としてよい.
今度は a+b, c+dの 2数を考える.(a+b)+(c+d) = 0, (a+b)(c+d) = ac+ad+bc+bd = f+g = −720が分かる
ので,a+b = ±√720 = ±12
√5, c+d = ∓
√720 = ∓12
√5(複号同順)である.同様にして,a+c = ±2
√140 + 2
√5,
b+ d = ∓2√140 + 2
√5(複号同順),a+ d = ±2
√140− 2
√5, b+ c = ∓2
√140− 2
√5(複号同順) が得られる.
これらの符号は任意に決めてよいのではない.4次多項式 y4 + py2 + qy + r = (y − a)(y − b)(y − c)(y − d) に
y = −a を代入すると a4 + pa2 − qa + r = −2a(−a− b)(−a− c)(−a− d) つまり −2qa = 2a(a+ b)(a+ c)(a+ d)
⇐⇒ (a+ b)(a+ c)(a+ d) = −q = −18240 がわかるので,これが成り立つように決めないといけない.
a + b = −12√5, c + d = 12
√5, a + c = −2
√170 + 2
√5, b + d = 2
√170 + 2
√5, a + d = −2
√170− 2
√5,
b+ c = 2√170− 2
√5 は適切な決め方である.この場合
a =(a+ b) + (a+ c)− (b+ c)
2= −6
√5−
√170 + 2
√5−
√170− 2
√5
b =(a+ b) + (b+ c)− (a+ c)
2= −6
√5 +
√170 + 2
√5 +
√170− 2
√5
c =(a+ c) + (b+ c)− (a+ b)
2= 6
√5−
√170 + 2
√5 +
√170− 2
√5
d =(a+ d) + (b+ d)− (a+ b)
2= 6
√5 +
√170 + 2
√5−
√170− 2
√5
が得られる.以上より目標の 4次式 x4 + 52x3 − 26x2 − 12x+ 1 = 0 は
x4 + 52x3 − 26x2 − 12x+ 1
=
(x+ 13 + 6
√5 +
√170 + 2
√5 +
√170− 2
√5
)(x+ 13 + 6
√5−
√170 + 2
√5−
√170− 2
√5
)×
(x+ 13− 6
√5−
√170 + 2
√5 +
√170− 2
√5
)(x+ 13− 6
√5 +
√170 + 2
√5−
√170− 2
√5
)と因数分解されることが分かった.
注: (√
170 + 2√5−
√170− 2
√5)2
= 170 + 2√5 + 170− 2
√5− 2
√1702 − 22 × 5 = 340− 152
√5
= 4√5×
(− 1−
√5
2
)9
なので,解は s =4
√√√√√−13 + 6√5 + 2
√√√√√5×
(− 1−
√5
2
)9
と書くことも出来る.ここ
で − 1−√5
2は Q
(√5)の基本単数 ε =
1 +√5
2の逆数であるが,何か意味があるのだろうか.
§ 5 結論
前§の結果より求める長さは
sl
(2ϖ
5
)=
4
√−13 + 6
√5 +
√170 + 2
√5−
√170− 2
√5 =
4√0.759434714 = 0.933517817
24 楕円関数 第 3章 レムニスケートの 5等分点
もしくは
sl
(2ϖ
5
)=
4
√√√√−13 + 6√5 + (7− 3
√5)
√5−
√5
2=
4√0.759434714 = 0.933517817
これが求める長さである.ちなみに
sl
(4ϖ
5
)=
4
√√√√−13 + 6√5− (7− 3
√5)
√5−
√5
2=
4√0.073381015 = 0.520470271
であるが,こちらは Gauss がいうところの sin.lemm 144◦ に相当する.他の 5等分点の値は
sl( ϖ
5+
ϖ
5i)=
4
√√√√−13− 6√5 + (7 + 3
√5)
√5 +
√5
2= 4
√−0.341854512 = 0.540686257 + 0.540686257i
sl
(2ϖ
5+
2ϖ
5i
)=
4
√√√√−13− 6√5− (7 + 3
√5)
√5 +
√5
2= 4
√−52.49096122 = 1.903295118 + 1.903295118i
MeBio (2014.9.21 6:59) §6 5倍角公式を使用しない sl
(2ϖ
5
)の求め方 25
§ 6 5倍角公式を使用しない sl
(2ϖ
5
)の求め方
2 + i 倍公式を導いた際に β =4ϖ
5− 2ϖ
5i に対して sl(β) = i 4
√1− 2i であると述べた.(ただし 4乗根は第
4象限に含まれるものとする.sl(β) は第 1象限に含まれる.)同様に 2 − i 等分点 α =4ϖ
5+
2ϖ
5i に対して
sl(α) = −i 4√1 + 2i である.(4乗根は第 1象限に含まれるものとする.sl(α) は第 4象限に含まれる.)
sl(α + β) = sl
(8ϖ
5
)= −sl
(2ϖ
5
)が成り立つから,その値は加法定理だけで求めることが出来るはずであ
る.これを実行してみよう.この場合巾乗根が何象限の複素数かを注意しないといけない.実は sl′(z) の符号,象
限は次の様になっている.(sl′(z) の符号,象限,および sl′(z) = 4
√1− sl4(z) に注意して考えればわかる.)
ⅡⅢ
Ⅳ
O ϖ
2
0
01
+∞
0
0
−1−1
1 −1 100
0
0
−1 11 0 0
0
0
ϖ
2i
00
Ⅰ
ⅡⅢ
Ⅳ Ⅰ
ⅡⅢ
Ⅳ Ⅰ
Ⅱ Ⅲ
ⅣⅠ
Ⅱ Ⅲ
ⅣⅠ
Ⅱ Ⅲ
ⅣⅠ
Ⅲ Ⅳ
Ⅱ
Ⅲ Ⅳ
Ⅰ
Ⅳ
Ⅰ Ⅱ Ⅰ
ⅢⅣ Ⅳ
Ⅰ
ⅡⅠ
ⅢⅣ Ⅳ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅰ
ⅡⅠ
sl(α) = −i 4√1 + 2i, sl(β) = i 4
√1− 2i より
sl′(α) =
√1− sl4(α) =
√1− (1 + 2i) =
√−2i = ±(1− i)
sl′(β) =
√1− sl4(β) =
√1− (1− 2i) =
√2i = ±(1 + i)
であるが,上のグラフより sl′(α) は第 2象限,sl′(β) は第 3象限の複素数なので,sl′(α) = −1 + i, sl′(β) = −1− i
であることが分かる.従って
sl(α+ β) =sl(α)sl′(β) + sl′(α)sl(β)
1 + sl2(α)sl2(β)
=(−i 4
√1 + 2i)(−1− i) + (−1 + i)(i 4
√1− 2i)
1 + (−i 4√1 + 2i)2(i 4
√1− 2i)2
=(−1 + i) 4
√1 + 2i+ (−1− i) 4
√1− 2i
1 +√1 + 2i
√1− 2i
=(−1 + i) 4
√1 + 2i+ (−1− i) 4
√1− 2i
1 +√5
26 楕円関数 第 3章 レムニスケートの 5等分点
sl
(2ϖ
5
)= −sl(α+ β) =
(1− i) 4√1 + 2i+ (1 + i) 4
√1− 2i
1 +√5
これが求める長さである.実際 Excelによる数値計算によって(1− i) 4
√1 + 2i+ (1 + i) 4
√1− 2i
1 +√5
= 0.933517817393729
が確認できる.
§ 7 結果の一致の確認
sl
(2ϖ
5
)の表示が 2通り得られた.そこでその一致
(1− i) 4√1 + 2i+ (1 + i) 4
√1− 2i
1 +√5
=4
√√√√−13 + 6√5 + (7− 3
√5)
√5−
√5
2
を確認しておこう.√1 + 2i = a + bi (a, b 実数) とすると 1 + 2i = a2 − b2 + 2abi なので,a2 − b2 = 1, ab = 1
⇐⇒ a = ±√ √
5 + 1
2, b = ±
√ √5− 1
2に留意すると
√1 + 2i =
√ √5 + 1
2+
√ √5− 1
2i が分かる.(注:こ
の式は ξ2 =√ε+
√− 1
εとして後々重要となる.)これより
左辺2 =−2i
√1 + 2i+ 2i
√1− 2i+ 4 4
√5
6 + 2√5
=
−i
(√ √5 + 1
2+
√ √5− 1
2i
)+ i
(√ √5 + 1
2−√ √
5− 1
2i
)+ 2 4
√5
3 +√5
=
√2√5− 2 + 2 4
√5
3 +√5
左辺4 =2√5− 2 + 4
√5 + 4
√(2√5− 2
)√5
14 + 6√5
=3√5− 1 + 2
√(2√5− 2
)√5
7 + 3√5
=
(3√5− 1
) (7− 3
√5)+ 2
(7− 3
√5)√(
2√5− 2
)√5(
7 + 3√5) (
7− 3√5)
=−52 + 24
√5 + 4
(7− 3
√5)√ √
5− 1
2·√5
4
= −13 + 6√5 +
(7− 3
√5)√ √
5− 1
2·√5
以上より確認できた.
MeBio (2014.9.21 6:59) §8 Gal(L/Q) 27
§ 8 Gal(L/Q)
L = Q(E5) は s16 + 52s12 − 26s8 − 12s4 + 1 = 0 の分解体であり,
Gal(L/Q) ≃{(
a 0
0 d
),
(0 bc 0
)}⊂ GL(2, F5)
であった.L は Q 上 32 次の非 Abel 拡大になっている.この拡大について考えたい.K = Q(i) とおく.L は虚 2
次体 K 上の 16 次の Abel 拡大になっており,Gal(L/K) ≃ (Z[i]/5Z[i])× = (Z[i]/(2 + i)Z[i]⊕ Z[i]/(2− i)Z[i])×
≃ F5× × F5
× である.
L の 2 − i 等分点 α =4ϖ
5+
2ϖ
5i, 2 + i 等分点 β =
4ϖ
5− 2ϖ
5i をとり,ξ = sl(α), η = sl(β) とおく.
今まで求めてきたように ξ = −i 4√1 + 2i, η = i 4
√1− 2i である.L は K 上 ξ および η で生成される.つまり
L = Q(i, ξ, η) である.Galois 群の作用は i, ξ, η の 3数に対する作用で決定される.
Gal(L/Q) = G とおく.G の生成元 σ, τ , ρ を次の様にとろう.
σ:
σ(ξ) = iξ,
σ(η) = η,
σ(i) = i,
τ:
τ(ξ) = ξ,
τ(η) = −iη,
τ(i) = i,
ρ:
ρ(ξ) = ξ,
ρ(η) = η,
ρ(i) = −i,
G =⟨σ, τ, ρ | σ4 = τ4 = ρ2 = e, στ = τσ, ρσ = τρ, ρτ = σρ
⟩が σ, τ , ρの基本関係式であり,G = {σlτmρn | l =
0, 1, 2, 3, m = 0, 1, 2, 3, n = 0, 1} が G の全要素である.
G のすべての部分群と,その包含関係を調べた結果が以下の表である.ただし表中の部分群は位数が半分のも
の,拡大群は位数が倍のものだけを載せている.(p 群の極大部分群は index が p だから,これで漏れはない.)
群 位数 要素 構造 部分群 拡大群 不変体
e 1 {e} I1~I7 L
I1 2 {e, σ2} Z/2Z {e} J1, J6, J9 P1
I2 2 {e, τ2} Z/2Z {e} J2, J4, J9 P2
I3 2 {e, σ2τ2} Z/2Z {e} J3, J5, J7, J8, J9, J10, J11 P3
I4 2 {e, ρ} Z/2Z {e} J11 P4
I5 2 {e, σ3τρ} Z/2Z {e} J10 P5
I6 2 {e, σ2τ2ρ} Z/2Z {e} J11 P6
I7 2 {e, στ3ρ} Z/2Z {e} J10 P7
J1 4 {e, σ, σ2, σ3} Z/4Z I1 F6 N1
J2 4 {e, τ, τ2, τ3} Z/4Z I2 F7 N2
J3 4 {e, στ, σ2τ2, σ3τ3} Z/4Z I3 F1, F2, F5, F9, F10 N3
J4 4 {e, σ2τ, τ2, σ2τ3} Z/4Z I2 F7 N4
J5 4 {e, σ3τ, σ2τ2, στ3} Z/4Z I3 F5, F8, F11 N5
J6 4 {e, στ2, σ2, σ3τ2} Z/4Z I1 F6 N6
J7 4 {e, σ2ρ, σ2τ2, τ2ρ} Z/4Z I3 F3, F9, F11 N7
J8 4 {e, στρ, σ2τ2, σ3τ3ρ} Z/4Z I3 F4, F10, F11 N8
J9 4 {e, σ2τ2, σ2, τ2} (Z/2Z)2 I1, I2, I3 F3, F4, F5, F6, F7 N9
J10 4 {e, σ2τ2, σ3τρ, στ3ρ} (Z/2Z)2 I3, I5, I7 F4, F8, F9 N10
J11 4 {e, σ2τ2, ρ, σ2τ2ρ} (Z/2Z)2 I3, I4, I6 F3, F8, F10 N11
28 楕円関数 第 3章 レムニスケートの 5等分点
群 位数 要素 構造 部分群 拡大群 不変体
F1 8{e, σρ, στ, σ2τρ,
Z/8Z J3 H2 M1σ2τ2, σ3τ2ρ, σ3τ3, τ3ρ}
F2 8{e, τρ, στ, στ2ρ,
Z/8Z J3 H2 M2σ2τ2, σ2τ3ρ, σ3τ3, σ3ρ}
F3 8{e, σ2, τ2, σ2τ2,
D8 J7, J9, J11 H1 M3ρ, σ2ρ, τ2ρ, σ2τ2ρ}
F4 8{e, σ2, τ2, σ2τ2,
D8 J8, J9, J10 H1 M4στρ, στ3ρ, σ3τρ, σ3τ3ρ}
F5 8{e, σ2, τ2, σ2τ2,
Z/4Z⊕ Z/2Z J3, J5, J9 H1, H2, H3 M5στ, στ3, σ3τ, σ3τ3}
F6 8{e, σ2, τ2, σ2τ2,
Z/4Z⊕ Z/2Z J1, J6, J9 H3 M6σ, σ3, στ2, σ3τ2}
F7 8{e, σ2, τ2, σ2τ2,
Z/4Z⊕ Z/2Z J2, J4, J9 H3 M7τ, τ3, σ2τ, σ2τ3}
F8 8{e, στ3, σ2τ2, σ3τ,
D8 J5, J10, J11 H1 M8ρ, στ3ρ, σ2τ2ρ, σ3τρ}
F9 8{e, στ, σ2τ2, σ3τ3,
Z/4Z⊕ Z/2Z J3, J7, J10 H1 M9σ2ρ, τ2ρ, σ3τρ, στ3ρ}
F10 8{e, στ, σ2τ2, σ3τ3,
Z/4Z⊕ Z/2Z J3, J8, J11 H1 M10ρ, στρ, σ2τ2ρ, σ3τ3ρ}
F11 8{e, στ3, σ2τ2, σ3τ,
Q8 J5, J7, J8 H1 M11στρ, σ2ρ, τ2ρ, σ3τ3ρ}{e, σ2, τ2, σ2τ2,
H1 16στ, στ3, σ3τ, σ3τ3, F3, F4, F5, F8,
G K1ρ, σ2ρ, τ2ρ, σ2τ2ρ, F9, F10, F11
στρ, στ3ρ, σ3τρ, σ3τ3ρ}{e, σ2, τ2, σ2τ2,
H2 16στ, στ3, σ3τ, σ3τ3,
F1, F2, F5 G K2τρ, τ3ρ, σρ, στ2ρ,
σ2τρ, σ2τ3ρ, σ3ρ, σ3τ2ρ}{e, σ2, τ2, σ2τ2,
H3 16στ, στ3, σ3τ, σ3τ3,
Z/4Z⊕ Z/4Z F5, F6, F7 G K3σ, σ3, στ2, σ3τ2,
τ, τ3, σ2τ, σ2τ3}
部分群のうち正規部分群は I3, J3, J5, J9, F5, F8, F11, H1, H2, H3 である.
I1, I2 が共役で,正規化群は N(I1) = N(I2) = H3,
I4, I5, I6, I7 が共役で,正規化群は N(I4) = N(I5) = N(I6) = N(I7) = F8,
J1, J2 が共役で,正規化群は N(I1) = N(I2) = H3, J4, J6 が共役で,正規化群は N(J4) = N(J6) = H3,
J7, J8 が共役で,正規化群は N(J7) = N(J8) = H1, J10, J11 が共役で,正規化群は N(J10) = N(J11) = H1,
F1, F2 が共役で,正規化群は N(F1) = N(F2) = H2, F6, F6 が共役で,正規化群は N(F6) = N(F6) = H3,
F3, F4 が共役で,正規化群は N(F3) = N(F4) = H1, F9, F10 が共役で,正規化群は N(F9) = N(F10) = H1
I4 が複素共役に対応する部分群であり,対応する不変体 P4 が最大実部分体ということになる.
MeBio (2014.9.21 6:59) §8 Gal(L/Q) 29
群の包含関係をグラフ化したものが次である.○のついているものが正規部分群である.□のついている I4
が,複素共役に対応する部分群である.「↔」で結ばれた群が共役の関係にある.
J1 J4
I2 I1
F7 F6
H3 H2 H1
F4
J10 J7J5J3J9J6J2
I3 I5 I7 I4
G
F2 F1 F5 F3 F8 F9 F10 F11
{e}
I6
J8J11
これを対応する不変体に置き換えたものが次のグラフである.○のついているものが Q 上 Galois 拡大体であり,
□のついている P4 が最大実拡大体である.「↔」で結ばれた体は共役の関係にある.
N1 N4
P2 P1
M7 M6
K3 K2 K1
M4
N10 N7N5N3N9N6N2
P3 P5 P7 P4
L
Q
M2 M1 M5 M3 M8 M9 M10 M11
P6
N8N11
30 楕円関数 第 3章 レムニスケートの 5等分点
次は L の部分体の固定群,共役な体,生成元の表である.共役な体としては自分自身も含めている.○
がついているものは Q 上 Galois 拡大である.K は Q(i) を表す,ξ = −i 4√1 + 2i, η = i 4
√1− 2i であり,
ε =1 +
√5
2
(Q(
√5) の基本単数
)である.
体 固定群 共役な体 体の生成元
L {e} ○ K(ξ, η)
P1 I1 P1, P2 K(ξ2, η)
P2 I2 P1, P2 K(ξ, η2)
P3 I3 ○ K(ξ2, η2, ξη)
P4 I4 P4, P5, P6, P7 Q(sl(2ϖ/5))
P5 I5 P4, P5, P6, P7
P6 I6 P4, P5, P6, P7 Q(sl(2ϖ/5)i)
P7 I7 P4, P5, P6, P7
N1 J1 N1, N2 K(η)
N2 J2 N1, N2 K(ξ)
N3 J3 ○ K(ξη) = K( 4√5)
N4 J4 N4, N6 K(ξη2)
N5 J5 ○ K(ξη3)
N6 J6 N4, N6 K(ξ2η)
N7 J7 N7, N8
N8 J8 N7, N8
N9 J9 ○ K(√ε) = K(ξ2, η2)
N10 J10 N10, N11
N11 J11 N10, N11
M1 F1 M1, M2
M2 F2 M1, M2
M3 F3 M3, M4 Q(ξ2 + η2) = Q(√ε)
M4 F4 M3, M4 Q(ξ2 − η2) = Q(√−ε)
M5 F5 ○ K(ξ2η2) = K(√5)
M6 F6 M6, M7 K(η2) = K(√1− 2i)
M7 F7 M6, M7 K(ξ2) = K(√1 + 2i)
M8 F8 ○ Q(ξ3η + ξη3) = Q(√(
5 +√5)/2
)M9 F9 M9, M10 Q( 4
√5i)
M10 F10 M9, M10 Q( 4√5)
M11 F11 ○
K1 H1 ○ Q(√5)
K2 H2 ○ Q(√−5)
K3 H3 ○ K = Q(i)
注: ξ2 = −√1 + 2i = −
√ε −
√−1/ε, η2 = −
√1 + 2i = −
√ε +
√−1/ε であるから −ξ2 − η2 = 2
√ε
−ξ2 + η2 = 2√−1/ε であり,σ (
√ε) = −
√−1/ε, τ (
√ε) =
√−1/ε が成り立っている.
MeBio (2014.9.21 6:59) §8 Gal(L/Q) 31
L に含まれる重要な数と,その数の生成する体,その数に対する Galois 群の作用をいくつか調べておこう.
(1) レムニスケートの 5等分点の値
sl
(2ϖ
5
)=
4
√√√√−13 + 6√5 + (7− 3
√5)
√5−
√5
2
=(1− i) 4
√1 + 2i+ (1 + i) 4
√1− 2i
1 +√5
= − (1− i)ξ + (1 + i)η
1 + ξ2η2
は実数であり,P4 の元である.実際 Galois 群の作用から ρ 不変であることが分かるが,P4 の唯一の極大部
分体 N11 に含まれないことは,J11 の作用により σ2τ2(− (1− i)ξ + (1 + i)η
1 + ξ2η2
)=
(1− i)ξ + (1 + i)η
1 + ξ2η2で
あることから分かる.従ってつまり Q 上 16次の代数的数である.
(sl
(2ϖ
5
))4
= −13 + 6√5 + (7− 3
√5)
√5−
√5
2はM8 = Q(ξ3η + ξη3) = Q
(√(5 +
√5)/2
)の元
であり,P4/M8 は非 Galois 4次拡大であるが,P4(i)/M8(i) = L/N5 は 4次の Kummer 拡大である.
(2) ε =1 +
√5
2とおくと ξ2 = −
√ε−
√− 1
ε, η2 = −
√ε+
√− 1
ε, であった.ここで
√ε は実数,
√− 1
ε
は純虚数である.√ε =
√1 +
√5
2= − 1
2(ξ2 + η2) は Q 上 4次
(Q(
√5) 上 2次
)の代数的整数(実数)で
あるが,
σ(√
ε)
= − 1
2(−ξ2 + η2) = −
√− 1
ε= −
√1−
√5
2
τ(√
ε)
= − 1
2(ξ2 − η2) =
√− 1
ε=
√1−
√5
2
ρ(√
ε)
= − 1
2(ξ2 + η2) =
√ε =
√1 +
√5
2
より Q (√ε) は Q 上 4次の非 Galois 拡大であって,固定部分群 F3 = {e, σ2, τ2, σ2τ2, ρ, σ2ρ, τ2ρ, σ2τ2ρ}
は G の非正規部分群である.F3 の正規化群は N(F3) = H1 = F3 ∪ στF3 なので F3 と共役な群は
F4 = σF3σ−1(= τF3τ
−1) = {e, σ2, τ2, σ2τ2, στρ, στ3ρ, σ3τρ, σ3τ3ρ} だけであり,その不変体は
Q (σ (√ε)) = Q
(√− 1
ε
)= Q
(√1−
√5
2
)= Q
(√−ε)である.
Q (√ε)の Galois閉包はQ
(√ε,
√−ε)= Q (
√ε, i)であり,その固定群 J9 = F3∩F4 = {e, σ2, τ2, σ2τ2}は
G の正規部分群である.G/J9 =⟨σ, τ , ρ | σ 2 = τ 2 = ρ 2 = e, σ τ = τ σ, ρ σ = τ ρ, ρ τ = σ ρ
⟩≃ D8 (二
面体群)なので,J9 の拡大群,対応する Q
(√1 +
√5
2, i
)の部分体の包含関係は次の図のようになって
いる.
J9
F5 F4 F3F6F7
H2H3 H1
G
Q(√
1 + 2i)
Q
Q(√
−5)
Q(i) Q(√
5)
Q(√
5, i)
Q(√
1− 2i)
Q(√
−ε)
Q (√ε)
Q (√ε, i)
32 楕円関数 第 3章 レムニスケートの 5等分点
(3) α = −(ξ3η + ξη3) =
√5 +
√5
2とおく.Q(α) = M8 であり,その固定群は F8 で, Gal(M8/Q) = Z/4Z
であった.Q 上 4次の実巡回拡大は受験の題材としても貴重なので,少し見ておこう.
まず α の定義方程式であるが,α2 =5 +
√5
2より 2α2 − 5 =
√5, つまり α4 − 5α2 + 5 = 0 である.そこ
で M8 が巡回拡大である事実を忘れて,x4 − 5x+ 5 = 0 の分解体について考えてみよう.
x4 − 5x+ 5 = 0 の解は α =
√5 +
√5
2, β = −
√5 +
√5
2, γ =
√5−
√5
2, δ = −
√5−
√5
2の 4つで
あるが,αγ =
√25− 5
4=
√5 = 2α2 − 5 であるから γ =
2α2 − 5
α=
2α2 + (α4 − 5α)
α= α3 − 3α であ
ることが分かる.従って x4 − 5x + 5 = 0 の分解体は Q(α) であり,これは Q 上 4次の Galois 拡大(Abel
拡大)であることがわかる.この Galois 群を決定しよう.σ : Q(α) → Q(α) を σ(α) = γ = α3 − 3α で定義
する.このとき
σ(γ) = (α3 − 3α)3 − 3(α3 − 3α)
= α9 − 9α7 + 27α5 − 30α3 + 9α
= (α4 − 5α2 − 5)(α5 − 4α3 + 2α)− α
= −α = β
であることより Gal(Q(α)/Q)は σ を生成元とする 4次の巡回拡大だと分かる.Q(α)の唯一の中間体は Q(√5)
である.α は実数であるから Q(α, i) = Q(α)⊗Q Q(i) であり,Gal(Q(α, i)/Q) = Z/4Z⊕ Z/2Z =< σ, ρ >
がわかる.ただし ρ は複素共役を表す.