どらねこ新聞 マドンの世界」となりました。丼物でも怪に、彼は美しい」...

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調貿「どらねこ屋」で検索してください~。漢字の猫は× どらねこ新聞 編集 ばにら商店 〒105-0014 港区芝3-13-1 MK501 http://www.musui.com/001.html  皐月 20110520 ベースのチャコさん・サックスのフナさん ・ドラムのナマちゃん・ピアノボーカルどら ねこ屋のどんちゃん。で、バンド「チャフナ マドンの世界」となりました。丼物でも怪 獣でもありません。5月にライブするアピ ア40は目黒区碑文谷5-6-9サンワホー ムズ地下一階。碑文谷のダイエーのすぐ 近くです。ぜひ来てくださいませ。 顔のない詩人 雲井呆斎 http://neko.kumogakure.com お問い合わせ 03(3715)4010 日時 15日(日) 19:00~ 場所 アピア40 ..文豪と小娘(Va1104-001)  画:雲井呆斎 (どらねこ屋バンド) チャフナマドンの世界 LIVE

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  •  南米ウルグアイの首都モンテヴィデオで生まれたフランス

    の詩人ロートレアモン伯爵は気の狂ったような言葉を吐き

    散らし、パリのフォーブール・モンマントル街にあった安アパ

    ルトマンの自室で謎の死を遂げる。享年二十四。後にシュウル

    レアリズムの画家達に多大な影響を与え、その最大の巨匠サ

    ルバドール・ダリをして奇妙で美しい肖像を描かせたその人

    物は、たとえ金髪の少年ジョルジュの家屋よりその写真とい

    われるものが出てこようとも、今もって顔のない詩人のイメ

    ージがよく似合う。

     「ミシンとコウモリ傘との、解剖台での偶然の出会いのよう

    に、彼は美しい」・・・オンドリ・・・銀杏ガニ・・・三人のマルグリ

    ード・・・。そしてマーヴィン。

     ある初夏の日、ボクは前衛音楽家のノーノと竹芝桟橋のベ

    ンチに座り、東京湾をゆく豪華客船を眺めながら他愛もない

    雑談の一環として、その詩人についてとりとめもなく語る。

     ロートレアモン伯爵の死は、永遠という観点から見ると非

    常によく出来ていると私は考えるのだが、君はどうかね?

     白い長髪を潮風になびかせる老音楽家。ボクが首を傾げる

    のを確かめてニコリと笑い先を続ける。

     「顔がないということはとても素晴らしいことだ、と私は

    思うんだよ。永遠とはすなわち世代をいくつも飛び越えて存

    在し続けてなお色あせないところにあると私は思うのだが、

    それにはある程度の情報やら素材性やら、はたまた人々の想

    像力をかき立てる何かが必要で、彼は不思議なことに顔がな

    いことによってその存在をより抽象的なものとし、永遠を見

    事に手に入れたと思うのだよ」

     永遠を手に入れる? そう純粋な作品そのものとして。

     作品? そう作者に対する興味本位な醜聞や中傷ではな

    く、純粋な作品そのものとして。

     ボクにはわからないよ。そんなことはないさ。

     ノーノは目を閉じ、思い出すようにポツポツと話す。

     「例えばゲーテは永遠を強く意識し、その永遠を得るため

    には若い恋人ベッティーナに服従せざるを得なかった。しか

    しそうして警戒し続けたにもかかわらず、その死後奇妙な手

    記を出版されてしまった」

     ベッティーナにより書かれたその手記によると、老文豪ゲ

    ーテのもとにベッティーナが詩人アーヒム・フォン・アルニム

    との婚約を報告に行った際、肱掛椅子に座る文豪は正面に立

    つベッティーナに、君の乳房を見せてもらいたいと言ったとい

    う。肱掛椅子から立ち上がったゲーテは顔を赤らめうつむく

    彼女の、その胸のボタンをそっと外しその乳房の上に手を置

    く。「誰かがこれまでこのあなたのこの乳房に触れたことはあ

    るかい?」ゲーテの問いに小娘ベッティーナは「いいえ」と答え

    「あなたが私に触るなんてとても妙だわ」と頬を赤らめなが

    らも、ゆっくり彼を見上げ、じっと目を合わせる。ワイマール

    にあるゲーテの邸宅でのある夕暮れ時の一齣。ふたりはしば

    らくそのまま塑像のように動きを止め、ゲーテは嫁入り前の

    娘の恥じらいをつぶさに観察したという。

     ゲーテはすでに永遠を意識し、それに妙な傷をつけないた

    めにどれほど細心の注意をはらったことか。若くて奔放なベ

    ッティーナをどれほど慎重に扱ってきたことか。しかし結局

    はすべて水の泡だったということなのかもしれない。

     「顔があるということは、そこに横顔もあるということ。人

    は顔の正面を見られるものとし、綺麗に化粧などをしたりす

    るが、人によってはそうやって飾られた正面の顔より横顔ば

    かり気にする者もあるということを忘れてはいけない。そう

    いう一部の人たちにとってはファウストや若きウェルテルの

    悩みなど文豪を文豪たらしめた作品よりベッティーナとの純

    愛のほうが重要だと感じられたりすることもある、ってね。

    ゲーテは恐れたんだよ。永遠を手に入れたはいいけれど、そ

    れがいずれ彼の作品自体への評価から、その作品を書く人間

    ゲーテとその恋人を称する小悪魔的な小娘との哀れで滑稽

    なエピソードへの興味へと移行してしまわないかと」

     『ゲーテとある子供との往復書簡』なんて。

     ねえ考えてごらん。ある人形劇団が懸命に劇を演じている

    のに、観客は人形劇などちっとも見ていなくて、それを操る

    人形遣いの背中ばかりを熱心に見ている、なんて悪夢。

     「そう考えれば、顔のない詩人と言うものは本当に素晴ら

    しい。なにしろ背景がほとんどなく、ポンと作品だけがある

    のだから」

     ロートレアモン伯爵にも本名があり金髪の少年ジョルジュ

    なる存在もあるはずだけれど、なぜかこの前衛音楽家はその

    ことについては触れず、ただ顔がないということのみを強調

    する。ボクはまあいいかと思い「うん」と曖昧に答えておく。

     ロートレアモン伯爵は生前全く誰にも省みられず、親しい

    友人もほとんど存在せず、おまけに親はモンテヴィデオで暮

    らしていたため、その死後今もって、いつ死んだのかどうして

    死んだのか、その真相を誰も知らない。そのことによって顔の

    ない詩人となり得た。

     その彼とほぼ同時期を生き、彼とは逆に派手な登場と共

    にパリの文壇より高く評価された詩人に、アルチュール・ラン

    ボオがいる。マラルメより「彼こそは流星の輝き、自らの現存

    だけを根拠にして燃え上がり、たった一人で生まれ出て消え

    て行く」と評された天才少年は、ロートレアモン伯爵とは逆

    に多くのエピソードや肖像を残しつつも、その詩人としての

    生命は同じく短命であった。

     二十歳の若さで詩を捨てて以後、貿易商人となって海を渡

    り三十七の歳にアビシニアの砂漠で死ぬるまで、もう詩らし

    い詩のひとつも書くことはなかったというランボオ。

     途方もない通行人として多くの先輩詩人をその魅力の渦

    中に巻き込み、そして失踪した不思議な少年。

     「天才は夭折だね」とボク。

     「彼らにはエネルギーがありすぎるのさ」とノーノ。

     芸術とは人間の生命ギリギリ限界の、その緊張感を結晶に

    して生まれるもので、すなわち若くしてその方法を知ってし

    まったものは、その若さゆえの強いエネルギーの反動に耐え

    切れず、結局ある日プツリと切れてしまう。年寄りならエネ

    ルギーもそう強くないし、少し緩める方法も知っている。

     「若さは毒なんだよ。少なくとも芸術にとってはね」

     ノーノは目じりに皺を寄せ、ボクにニコリと笑う。

     ランボオもゲーテと同じように永遠を意識したのか、それ

    とも幼少時からの奔走癖がパリの文壇でも出てしまっただ

    けなのか、それは知らない。しかし彼もどちらかといえば、作

    品そのものではなく醜聞で興味をもたれることの多い詩人で

    あった。

     「永遠とは多分時代がどう変わろうと、何かしら普遍的な

    ものを持っているということなのではないかしらん? そし

    てもしかすると作品は時代に風化するけれどその横顔は風

    化しにくいものじゃないかしらん?」

     ボクが問うとノーノは首を左右に振る。

     「違うね。やはり時代の中で傑作と言われ絶賛された作品

    は幾時代を過ぎても何かしらの輝きは持ち続けているもの

    で、そう、もし君がそういった作品を愛でるならばそれを背

    景ではなく純粋に正面から、作品として受け止めてみなくち

    ゃいけない、と私は思うんだ」

     そして彼は最後に一言、本居宣長の言葉を現代語風にポツ

    リとつぶやき、あとは黙って海を見た。

     「解釈を拒絶して動じないものだけが美しい」

    「どらねこ屋」で検索してください~。漢字の猫は×

    どらねこ新聞月刊 編集 : ばにら商店〒105-0014 港区芝3-13-1 MK501http://www.musui.com/001.html 皐月20110520ベースのチャコさん・サックスのフナさん

    ・ドラムのナマちゃん・ピアノボーカルどらねこ屋のどんちゃん。で、バンド「チャフナマドンの世界」となりました。丼物でも怪獣でもありません。5月にライブするアピア40は目黒区碑文谷5-6-9サンワホームズ地下一階。碑文谷のダイエーのすぐ近くです。ぜひ来てくださいませ。

    顔のない詩人 雲井呆斎

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