幸島報告書集 - 京都大学...幸島報告書集 2011 年3 月9 日(水)~12 日(日)...

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幸島報告書集 2011 3 9 ()12 () 自然学ポケットゼミナール生一同 <目次> 1. 夏目 ・・・・・・・・・・・P.1 2. 藤森 ・・・・・・・・・・・P.19 3. 島田 ・・・・・・・・・・・P.24 4. 秋吉 ・・・・・・・・・・・P29 5. 有賀 ・・・・・・・・・・・P.31 6. 伊藤 ・・・・・・・・・・・P.34 7. 平栗 ・・・・・・・・・・・P.35 8. 渡邉 ・・・・・・・・・・・P.40

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  • 幸島報告書集 2011 年 3 月 9 日(水)~12 日(日)

    自然学ポケットゼミナール生一同

    <目次>

    1. 夏目 ・・・・・・・・・・・P.1

    2. 藤森 ・・・・・・・・・・・P.19

    3. 島田 ・・・・・・・・・・・P.24

    4. 秋吉 ・・・・・・・・・・・P29

    5. 有賀 ・・・・・・・・・・・P.31

    6. 伊藤 ・・・・・・・・・・・P.34

    7. 平栗 ・・・・・・・・・・・P.35

    8. 渡邉 ・・・・・・・・・・・P.40

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    幸島研修報告書

    岐阜大学 夏目尊好

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    2011 年 2 月 28 日(月)から 3 月 13 日(日)において、幸島観察所および幸島内の調査小を

    利用して研修をおこなった。今回の研修について以下に報告する。

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    ◆2 月 28 日(月)、3 月 1 日(火)

    2 月 28 日(月)の正午過ぎに宮崎県に向けて岐阜大学から出発した。昨年度までは、ポケ

    ゼミの仲間と宮崎に向かっていたが、今回の研修は単独で幸島に滞在し、ニホンザルを調

    査することが目的だったので、岐阜から宮崎までは 1 人で旅をした。出発する前は、1 人で

    長い旅をするのは何もすることがなく、暇でしょうがないのではと心配していたが、実際

    に旅をしてみると、一人で電車に乗っている時間もそれほど苦痛ではなかった。フェリー

    乗り場へ向かっていた 28 日は、新大阪駅の手前で電車が停車し、フェリーの出航時間に間

    に合わないのではないかと焦ったが、ぎりぎりフェリーの出航には間に合った。

    3 月 1 日は、予定通り宮崎港から南郷駅まで電車で移動した。南郷駅でお昼ご飯を買うた

    めに駅の周辺を歩いていると、偶然お昼ご飯を買いにきた鈴村さんに出会った。そして、

    そのまま鈴村さんの車に乗せていただいて幸島観察所まで連れて行っていただいた。観察

    所に到着すると、岐阜から送った荷物が届くのをのんびりしながら待った。夕方に予定通

    り荷物が届いたので、翌日からの幸島生活の準備をして早めに就寝した。

    ◆3 月 2 日(水) 天気:晴れ

    朝から風が強く、島へ渡るのは延期かと思われたが、渡船業者の方が船を出してくださ

    ったので島へ渡ることができた。鈴村さんに手伝っていただいて、幸島に食糧などの荷物

    を運んだ。私は調査用具などが入ったリュックを運び、鈴村さんには食糧が入ったボック

    スを運んでいただいた。私が、船が着いた岩場から浜に行く間に、鈴村さんは食糧ボック

    スを浜まで運び、もう一度、船が着いた場所に行って水の入ったポリタンクを運んでくだ

    さった。さすがに慣れているから、速いなぁと思った。荷物をすべて調査小屋に運びこむ

    と、鈴村さんに調査小屋の使い方を教えていただいた。10 時 30 分ころになると、大泊の浜

    に出てニホンザルの観察をした。この日は麦まきをおこなわなかったが、鈴村さんが現れ

    たのでニホンザルたちは、浜に集まっていた。浜に集まったニホンザルを観察しながら、

    今の幸島のニホンザルの群れのことを鈴村さんに教えていただいた。アルファメールやメ

    スガシラ、あかんぼうを連れた母親のことについて主に教えてくださった。また、顔のマ

    ークを見る以外の個体識別の手がかりとなる特徴も教えてくださった。1 時間ほど一緒に観

    察してくださり、11 時 30 分ころに鈴村さんは観察所に戻っていかれた。

    鈴村さんがいなくなると、ニホンザルたちも浜から森へ帰っていった。そこで私も調査

    小屋に戻り、昼食をとった。昼食を食べ終わると、調査小屋の掃除をした。思っていたほ

    ど汚れてはいなかったが、昆虫の死骸がたくさん落ちていた。調査小屋の掃除が終わると、

    砂で埋まってしまった井戸を掘ることにした。井戸の中にはかなりの量の砂が溜まってお

    り、スコップで掘り出すのは骨が折れた。1 時間ほど掘ると、使いやすい水量が溜まるよう

    になった。ポケゼミの仲間がいれば、分担して作業することができたが、私一人しかいな

    いので、いろいろな作業に時間がかかってしまった。一人で生活することは、大変なんだ

    ぁと強く思った。16 時から天気図を作成し、それが終わると夕食を作った。17 時 30 分こ

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    ろから小屋の中が暗くなり、ヘッドライト無しでは何も見えなくなってしまった。18 時過

    ぎには、太陽が完全に沈んでしまったので、小屋の周りも真っ暗になった。そのため、ヘ

    ッドライトで照らしながら夕飯を食べた。夕飯を食べ終えると、暗くて何もできないので

    19 時には就寝した。

    ◆3 月 3 日(木) 天気:曇り時々晴れ

    朝から風が強く寒かった。9 時ころから大泊の浜

    に出て、ニホンザルの観察を始めた。ニホンザルた

    ちは、寒さから逃れるために岩陰で風をよけ、大き

    なサルダンゴを形成していた(写真 1)。

    10 時ころになると鈴村さんが来てくださり、麦

    まきをしてくださった。観察では、麦まきをしたと

    きのあかんぼうの行動を観察しようと思ったので、

    カンナの子どもをフォーカルアニマルサンプリン

    グにて観察し、30 秒ごとの瞬間サンプリングで記録

    した(写真 2)。すると、麦まきが始まって 20 分まで

    は、母親のカンナと一緒に行動し、麦を拾って食べ

    ていた。しかし 20 分を過ぎるとカンナから離れ、

    同じ年に生まれた他のあかんぼう個体が集まって

    いる木の方に走りだし、一緒に遊び始めた。観察開

    始から 40 分を過ぎたあたりで、カンナの子どもは

    他のあかんぼう個体と遊ぶのをやめ、カンナの元へ

    戻っていった。そして、カンナに抱かれながら、お

    乳を飲んでいた。その後は、お乳を飲みながらカンナからグルーミングされたりして観察

    予定時間だった 1 時間が経過した。普段の RRS 観察では、なかなか観察することのできな

    い母子の行動を観察することができたので、とても楽しかった。ただ、カンナの子どもが

    他のあかんぼう個体と遊んでいるときは、木の葉っぱでカンナの子どもの姿を確認するの

    が難しく苦労した。そのため、もしかすると他のあかんぼうを見てしまっていたのかもし

    れなかった。このことも普段の RRS 観察では、経験できない難しさだった。カンナ母子の

    観察が終わった後も、岩場に残ったニホンザルを観察していた。12 時くらいになると、潮

    がかなり引いたので大泊の湾頭の方まで砂浜になっており、ニホンザルたちもそちらへ向

    かって移動していった。私もその後ろに付いて観察していたが、湾頭から岩場づたいに幸

    島の周りを移動していったので、それ以上追うことはできなかった。

    観察を終了すると、調査小屋に戻って昼食をとった。14 時からは、山へ入ってニホンザ

    ルの観察をしようと思い、S-2 地点に移動した。幸島の山は、昨年度の幸島セミナーで登山

    をしたときに入っただけだったので、尐し不安だった。しかし、地図と GPS を使ってなん

    写真 1.岩陰で暖をとるニホンザル

    写真 2.カンナ親子

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    とか正しいと思われるルートで S-2 地点に到達することができた。14 時 30 分ころから、

    S-2 地点で待機していると、15 時ころにニホンザルに遭遇した。残念ながら個体を識別す

    ることはできなかったが、あかんぼう個体とその親やオスもいて山中でのニホンザルの行

    動を観察することができた。ビデオカメラを持ってきていなかったので、その姿を撮影す

    ることができなかったのがとても残念だった。30 分ほど観察していると、ニホンザルたち

    は移動していなくなったので、調査小屋に戻ることにした。

    16 時から天気図作成をおこない、夕食を作って食べ終わると前日と同じように早めに就

    寝した。

    ◆3 月 4 日(金) 天気:晴れ

    風がなく、とても暖かな日だった。9 時ころニホンザルの観

    察を始めて、井戸のある高台にてヤマザクラの花の蜜を吸うニ

    ホンザルを観察した。この日も 10 時ころに鈴村さんが来てく

    ださり、麦まきをしてくださった。麦まきをしたときの老齢個

    体の行動を観察しようと思ったので、鈴村さんに老齢個体につ

    いて教えていただき、ローズを追うことにした(写真 3)。観察

    方法は、3 日にカンナの子どもを追いかけて観察したときと同

    じ方法でおこなった。ローズは、麦がまかれてから 15 分ほど

    はずっと同じ場所で麦を食べていた。15 分を過ぎると日が当

    って暖かい岩場に移動し、ローズの娘であるキズにグルーミン

    グしてもらっていた。15 分ほどグルーミングをしてもらったあとは、ずっと同じ岩場に座

    って動かなかった。3 日に観察したあかんぼう個体とは、1 時間の行動時間配分が大きくこ

    となっており、とてもおもしろいと思った。やはり、ヒトと同じで老齢になると激しく動

    くことをしなくなるようだった。この日も 3 日と同じようにニホンザルたちは、12 時くら

    いに大泊から海沿いの岩場を通って去っていった。

    昼食を食べ終え、13 時からは井戸水を使って洗濯をすることにした。洗濯洗剤は、持っ

    てきていなかったので食器洗剤を使って洗濯した。洗濯物の量は尐なかったのだが、洗っ

    て、すすいで、しぼる作業をすべて自分の手でおこなったら、洗濯だけで 1 時間もかかっ

    てしまった。自分の手で洗濯をして初めて、洗濯機のありがたみがよく分かった。また、

    洗濯機がなかった時代にすべて手で洗濯していた人々は、ほんとうに大変だっただろうな

    と思った。

    洗濯を終えると 14時からは、大泊の砂浜と岩場を散策した。ちょうど干潮の時間となり、

    潮が引いていたので、歩いて大泊の湾頭まで行くことができた。岩場に行くと潮だまりが

    できており、潮だまりにはムラサキウニやヒザラガイなどがいた。また、海の水がとても

    澄んでいたので、海でクサフグの稚魚が泳いでいるのが見るだけで分かった。私は、海洋

    生物を観察することも好きだが、岐阜には近くに海がないので、普段は海洋生物を見るこ

    写真.3 ローズ

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    とができない。そのため、幸島に来て海洋生物を観察することができたのは嬉しかった。

    15 時 30 分ころになると、潮が満ち始めたので調査小屋に戻った。その後は、天気図作成を

    おこない夕食を食べて就寝した。

    ◆3 月 5 日(土) 天気:晴れ時々曇り

    4 日に引き続き、風がなく暖かな日だった。こ

    の日も 9 時ころからニホンザルの観察を始めた。

    大泊の浜と岩場の境にあるヤマザクラでニホンザ

    ルが花の蜜を吸っていたので、その行動をビデオ

    カメラで撮影した。花の蜜を吸っていたニホンザ

    ルは、ヤマザクラの花を取り、花のがくの方を口

    に付けて蜜を吸っていた。蜜を吸い終わった花は、

    木から地面に落として捨てていた。ヤマザクラの

    木の下では、あかんぼうたちが遊んでおり、落ち

    てきたヤマザクラの花にも興味を示していた。こ

    の様子を見ていた私は、やはりあかんぼうはオト

    ナ個体の行動を見ることやオトナ個体が残してい

    ったものを拾うことでいろいろなことを学ぶのだ

    なと思った。30 分ほどヤマザクラの花の蜜を吸っ

    ている個体を撮影していたが、この日が風もなく、

    とても暖かい日だったためかヤマザクラの枝の上

    でそのまま寝てしまい動かなくなった(写真 4)。仕

    方がないのでその個体の観察をやめ、岩場にいた

    カンナ母子を撮影することにした。カンナも気持

    ちよさそうに岩場で寝転がっていた。しかし子ど

    もは、カンナに構ってほしいと言わんばかりに寝転がっているカンナの周りで鳴き声をあ

    げたり、カンナの上に乗ったりして遊んでいた。しばらくするとカンナが起き上がり、子

    どものグルーミングを始めた。10 分ぐらいグルーミングをすると、カンナはまた寝転がっ

    てしまった。すると、カンナの子どもはカンナから離れ、ウスとウスの子どもに近づいて

    いった。カンナの子どもは、ウスの子どもを遊びに誘っているようだったが、ウスの子ど

    もはその誘いに応じなかった。しばらくカンナの子どもは、ウスの子どもを誘っていたが、

    ウスとウスの子どもは、移動していってしまった。すると、カンナの子どもは潮だまりで 1

    人遊びを始めた。この一連のカンナの子どもの行動は、まるでヒトの子どもの行動を見て

    いるようでとても微笑ましかった。このようなカンナの子どもの行動を 30 分ほど観察して

    いたら、カンナも子どもを連れて移動し始めた。私もあとに付いて移動したが、カンナ母

    子は大泊の湾頭にある平らな岩の方まで行ってしまい、私があとに付いていくことができ

    写真 4.木の上で寝るニホンザル

    写真 5.ウス親子

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    なくなった。そのため双眼鏡で観察すると、どうやら岩に付いた何かを食べに行ったよう

    だった。河合雅雄先生の本には、幸島のニホンザルは岩に付いた貝を食べてタンパク源に

    していると書かれていたので、カンナ母子も貝を食べていたのではないかと思った。カン

    ナ母子が見えなくなるまで観察して、私が浜に戻ろうとすると、群れの他の個体もカンナ

    母子が向かった方向へと移動し始めていた。その移動のようすも観察した。移動している

    ニホンザルたちは、立って観察している私を尐し気にしながら、私のすぐ横を通り抜けて

    歩いていった。そのため、浜で観察しているときよりも近くでニホンザルの姿を撮影する

    ことができた。12 時には、浜に誰もいなくなってしまったので、私も調査小屋に戻って昼

    食をとった。

    13 時からは、幸島の地図と GPS を使いながら、コドマリに行ってみることにした。地図

    を見て、S-2 地点から谷に沿っていけば、それほど急な場所を通らなくてもコドマリに行け

    ると判断したからだ。ただ、山からコドマリに出る直前は、崖の地図記号になっていたの

    で、コドマリに降りられるかどうかは分からなかった。3 日に S-2 地点までは、行ったので

    そこまではすぐに行くことができた。S-2 地点で方角を確認して、地図で確認しながら谷に

    沿って進んだ。谷には尐し水が流れており、ぬかるんでいるところもあった。また大きな

    岩や倒木があって、とても進みにくかった。途中で引き返そうかと思ったが、コドマリと

    いう場所を見てみたかったことと、進みにくいがそれほど危険なルートではなかったので

    頑張って進んだ。S-2 を出発して、20 分ほどでコドマリに無事到着した。地図では崖の記

    号が書いてあったが、大きな岩が積み重なっているだけで、簡単に降りられたのでコドマ

    リに降りた。コドマリは小さな湾になっていて、湾の中心に私が見上げるほどのとても大

    きな岩があった(写真 6)。幸島では、三角点と大泊しか行ったことがなかったので、初めて

    の場所に来られて嬉しかった。また、地図と GPS を使って私だけの力でここまで来られた

    ことは、もっと嬉しく、大きな達成感を感じた。コドマリにはニホンザルはいなかったの

    で、15 分ほど休憩して調査小屋に帰ることにした。一度、S-2 まで戻り、そこからコドマ

    リに行く途中で発見した分かれ道を通って大泊の方へ向かった。すると、井戸がある高台

    の横にあるニホンザルの体重計が保管してある小屋の横へ出た。この道は斜面がやや急だ

    ったが、滑り落ちることなく無事、大泊へ戻ることができた。5 日の午後は、幸島の冒険が

    できてとてもおもしろかった。

    写真 6.コドマリ

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    ◆3 月 6 日(日) 天気:曇りのち雤

    風はなかったが、朝から曇っていて尐し寒い日だった。

    9 時から浜に行き、観察した。尐し寒かったので、ニホ

    ンザルたちは 2~3 人でくっついて座ったり、グルーミン

    グしたりしていた。コドモやあかんぼうは、レスリング

    や追いかけっこをして遊んでいた。10 時くらいまでそれ

    らの行動を観察していたが、10 時からは麦まきをしない

    ときのカンナの子どもの様子を観察することにした。観

    察方法は、麦まきをしたときと同じ方法でおこなった。

    観察を始めて 40 分間は、あかんぼうはカンナに抱かれ

    たままずっとお乳を飲んでいた。お乳を飲んでいる途中

    で、寝てしまうこともあった(写真 7)。40 分を過ぎると、

    カンナにつかまって移動し始め、大泊の岩場に移動した。カンナは岩場で食べ物を探して

    いたが、子どもは 1 人で遊んでいた。しばらく 1 人で遊んでいると、そこへウスやキノコ

    の子どもも集まってきた。そしてその後は、ずっと遊んで過ごした。この麦まきをしない

    ときの観察と麦まきをしたときの観察を比べて考えると、あかんぼうの行動は、母親の行

    動に大きく影響されるのではないかと思った。麦まきをしたときは、母親が麦を食べるの

    で子どもは 1 人で行動することが多く、麦まきをしないときは、母親が麦を食べていない

    ので子どもは母親と一緒にいることが多い。まだ、しっかりとデータを比べていないので

    はっきりとは言えないが、普段 RRS の観察をしているときには、気がつかなかったことだ

    った。

    カンナの子どもの観察を終えると、ニホンザルたちは山へ帰り始めていた。この日は今

    までとは違い、ニホンザルたちは海沿いではなく調査小屋の横を通って山へ帰っていった。

    井戸のある高台に数頭のニホンザルが残っていたので、それを観察した。この数頭のニホ

    ンザルは、ソーラーパネルや私が洗濯物を干すために張ったロープで遊んでいた。浜で遊

    ぶのとは、遊び方が違ったのでおもしろかった。30 分くらい観察していると、遊んでいた

    個体も山へ帰っていったので私も観察を終えた。

    13 時からは、夏季に幸島研修をおこなった水野

    がミナミマキには大きな木があるから行ってみる

    といいと聞いていたので、ミナミマキに行くことに

    した。5 日に引き続き、地図と GPS を使いながら

    ミナミマキへ向かった。ミナミマキまでの道は、歩

    きやすく 13 時 15 分には到着した。ミナミマキには

    とても大きな木があったが、その木は尐し元気がな

    いように思えた(写真 8)。その木には 104 番のタグ

    が付いていた。辺りを見渡すと、他にもタグがつい

    写真 7.お乳を飲みながら寝る

    カンナの子

    写真 8.ミナミマキ

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    ている木があったので、元来た道を戻るのではなく、そのタグを頼りに奥に進むことにし

    た。コドマリに行った道よりもはるかに険しく、植物も生い茂っていて歩きにくかった。

    木についているタグを目印にして歩いていくと、急な斜面をおりて開けたところにでた。

    そこは、ポケゼミ生が幸島の三角点を目指すときに通る場所だったので、すぐにどこだか

    分かった。そこで尐し休憩しているとニホンザルの鳴き声が三角点のある方から聞こえた。

    しかし、三角点へ 1 人で行くのは危険なため、探すことはやめて S-2 へ向かった。しばら

    く S-2 に向かって歩いていると、ニホンザルの鳴き声が近づいてきていることに気付いた。

    なので、S-2 に向かう道で座ってニホンザルが来るのを待つことにした。すると、その道に

    コドモ個体が 3 人現れた。ニホンザルは私の存在に気づいていなかったらしく、遭遇した

    ときに尐し驚いているようだった。コドモ個体は、そのままその場で遊んでいたので、し

    ばらく観察した。15 分ほど観察すると、木に登っていき見えなくなってしまった。久しぶ

    りに山の中でニホンザルを観察することができたので楽しかった。そのまま調査小屋に戻

    り、16 時から天気図を作成していると、雤が降ってきた。雤が降るとニホンザルが浜に出

    てきてくれないので、翌日には雤が上がっているといいなと思いながら就寝した。

    ◆3 月 7 日(月) 天気:曇りのち晴れ

    朝起きると、雤は止んでいたが風が強かった。9 時に浜へ行くと、浜にはローズしかいな

    かった。岩陰で風をよけながら座っているローズを観察していたが、9 時 40 分ころに山へ

    戻ってしまった。その時、浜には誰もいなかったので、私はローズの後について山へ入っ

    た。しかし、途中で見失ってしまったので、しかたなくそのまま S-2 へ向かうことにした。

    S-2 に向かう途中で、土を掘って食べ物を探している個体に遭遇したので観察した。しかし、

    30 分ほどするとその個体もいなくなってしまったので、再び S-2 へ向かった。結局、S-2

    に到着してもニホンザルはおらず、風も強かったので午前の観察を諦めて調査小屋に戻っ

    た。

    早めの昼食をとり、再びニホンザルを探すため山へ入った。今回の研修では、S-2 でニホ

    ンザルに遭遇することが多かったので S-2 で待機してニホンザルを待った。しかし、いく

    ら待っても現れず、鳴き声も聞こえなかったので 14 時 30 分に大泊に戻ることにした。大

    泊に戻ってもやはりニホンザルはいなかったので調査小屋に戻り、今まで撮影したビデオ

    テープの整理をして過ごした。ニホンザルに会えないと観察できないため、とてもつまら

    ないということがよく分かった。しかし屋久島でのニホンザル調査は、遭遇できないこと

    が多いそうなので、動物の研究には根気が必要だなと思い、たとえ遭遇できなくても、調

    査を続けている研究者の方はすごいなと思った。

  • - 10 -

    ◆3 月 8 日(火) 天気:晴れ

    天気はとてもよかったが、やや風が強い日だ

    った。午前の観察のため、9 時に浜へ行くとロ

    ーズが岩場に座っていた。ローズを観察するた

    めに近づいていくと、ローズが口から白い紐の

    ようなものを出していた。私はとても驚き、急

    いでローズに近づいた。しばらく観察している

    と、ローズはその白い紐のようなものを口に入

    れたり、口から出したりしながら、咀嚼してい

    るようだった。私は持っていた双眼鏡とビデオ

    カメラを使い、その白い紐のようなものが何な

    のか探ると、どうやらイカの腕部であるということが分かった。私が、ローズがイカの腕

    部を食べているのを発見してから、20 分ほどローズはイカの腕部を咀嚼していた。ローズ

    は、イカの腕部を食べ終わると山へ戻ってしまった。そのため、浜で他の個体を観察する

    ことにした。しばらく観察をおこない、先ほどローズがいた岩場を見るとカンナがいた。

    そしてよく見ると、カンナもイカを食べているようだった。またその横に座っていた個体

    もイカを食べていた。カンナはイカの胴部、もう一人は頭部と内臓の部分を食べていた(写

    真 9)。私は、急いで準備してニホンザルがイカを食べる様子をビデオカメラで撮影した。

    残念ながらビデオカメラは 1 台しかなかったので、頭部と内臓を食べている個体をビデオ

    カメラで撮影し、私のコンパクトデジカメのムービー機能でカンナを撮影した。できるだ

    け手ぶれしないようにデジカメでムービーを撮影したが難しかった。このとき初めて、今

    回の研修で他に仲間がいてくれたらよかったなと思った。カンナは、ローズと同じように

    イカを何度も口から出し入れしながら食べていた。イカの臭いや表面の触感が嫌なのか、

    食べながら何度も岩に手をこすりつけていた。カンナは、イカの胴部を 15 分ほどで食べ終

    わったが、頭部と内臓を食べていた個体は、30 分以上かかって食べていた。その 30 分間に、

    頭部と内臓を食べている個体の周りには 4 人ほど集まってきた。どうやら、分けてくれる

    のを待っているらしかった。しかし、イカを食べている個体は、自ら分け与えることはな

    かった。一度だけ、食べていたイカの一部がちぎれて地面に落ちたので、それだけは待っ

    ていた個体のうちの 1 人が手に入れた。イカを食べていた個体は、ちぎれた一部が拾われ

    たとき尐しだけ威嚇の声を発したが、追いかけたりはしなかった。このイカの分配をめぐ

    っての行動を含めたイカに関する一連のできごとは、私にとってとても新鮮なことであり、

    その行動を見ることができたことには非常に感動した。今回撮影したビデオテープからビ

    デオクリップを作り、ポケゼミ生にも見せてあげたいと強く思った。

    イカの頭部と内臓を食べていた個体が、イカを食べ終わりそうになったとき、冠地さん

    と鈴村さんがやってきた。すると、イカはあっさり捨てられてしまったので、幸島のニホ

    ンザルにとって、冠地さんと鈴村さんが島へ来ることの影響は大きいのだなと思った。鈴

    写真 9.イカの頭部と内臓を食べる様子

  • - 11 -

    村さんに先ほどまでローズたちがイカを食べていたことを話すと、鈴村さんもその様子を

    見たことがあるそうで、特にローズはイカが好きということを教えていただいた。毎日の

    ように観察していると、いろいろな行動を見ることができるのだなと思った。さすが冠地

    さんと鈴村さんだと思った。

    この日は、冠地さんと鈴村さんは月に一度のニホンザルの体重測定をするためにやって

    きた(写真 10)。尐しのお手伝いをしながら、見学させていただくことにした。体重測定の

    様子を見るのは初めてだったので、わくわくした。体重測定は、とても慌ただしかった。

    量りの上に尐しの麦をまき、ニホンザルが麦を食べるために量りの上に乗るのを待って、

    量りに乗ったらすばやく目盛をメモするという方法だった。量りの上に全身がなかなか乗

    らなかったり、同じ個体が何度も量りに乗ってしまったり、群れでの順位が低い個体はな

    かなか量りに乗ってくれなかったりして体重を量るだけなのにとても大変な作業だった。

    私は、全身が量りに乗るようにニホンザルの後

    ろから近づいたり、順位の低い個体を量りに乗

    せるために順位が高い個体を量りから遠ざけ

    たりするお手伝いをした。大泊に集まった主群

    とマキ群の体重を測定するのに 1 時間 30 分ほ

    どかかった。この作業を月に一度、継続してお

    こなっていくのは、とても大変なことだなと思

    った。12 時ころに冠地さんと鈴村さんは、大泊

    では体重測定ができなかった個体の測定をす

    るために、船で大泊以外の測定場所に移動して

    いかれた。私は昼食をとるために小屋に戻り、午後からはビデオテープの整理と再び井戸

    を掘った。

    ◆3 月 9 日(水) 天気:晴れ

    天気は、良いが風が非常に強かった。9 時に浜へ行って観察を始めたが、強風のため三脚

    がビデオカメラごと倒れそうになった。ニホンザルたちは、浜に出てきていたが、みんな

    風がよけられる岩陰に座っていた。10 時ころになると、ニホンザルたちは山へ戻っていっ

    てしまった。私も調査小屋に戻り、これまでに撮影したビデオテープの整理や小屋の掃除

    をしながら、風がおさまるのを待った。

    午後からは、やや風がおさまったので、14 時から地図と GPS を使ってビザイテンを目指

    すことにした。地図を見ていけそうなルートを考えて山に入った。しかし、ビザイテンに

    は、全然たどり着くことができず、ルートもとても険しかった。30 分ほどがんばってみた

    が、無理だと判断して S-2 に移動し、ニホンザルを待ってみることにした。これまでにコ

    ドマリとミナミマキには、自力でたどり着くことができていたので悔しかった。14 時 40

    分ころに S-2 に到着して待機した。しかし、30 分ほど待機してもニホンザルの鳴き声すら

    写真 10.体重測定の様子

  • - 12 -

    聞こえなかったので、15 時 20 分ころに調査小屋に帰ることにした。7 日同様、風が強い日

    は、あまりニホンザルの観察ができないのでつまらないと感じた。

    鈴村さんにこの日の活動終了の連絡をするとき

    に、ビザイテンへの行き方を聞いてみた。すると、

    私が考えたルートはまったく間違っており、大泊

    に整備された入り口があるとのことだった。電話

    が終わったあと、大泊の浜を注意深く探してみる

    と、一見するとただ岩が崩れただけのような場所

    にしめ縄がしてあり、石が階段状に積み上げてあ

    った(写真 11)。これを発見したとき、昼間の苦労

    はなんだったのかと思った。とても悔しく思った

    が、ビザイテンへの入り口が分かってよかったという気持ちの方が大きかった。

    ◆3 月 10 日(木) 天気:晴れ

    天気も良く、朝は風もなかったので久しぶりに洗濯をした。しかし、以前と同様に 1 時

    間もかかってしまった。洗濯のせいで遅くなってしまったので、この日は 10 時から浜に出

    て観察した。まだ、麦まきをしていないときのローズの 1 時間の行動時間配分を調査して

    いなかったので、それを調査したかったが、残念ながらローズはいなかった。さらに、カ

    ンナ母子も浜には出てきていなかったので、個体識別を兼ねてこれまで観察してこなかっ

    た個体の観察をした。この日の観察で確認できた個体は、ウロコ、ムシ、キズ、トガであ

    った。ウロコは、左手の指が白くなっており、それが個体識別のポイントになるなと思っ

    た。グルーミングをしている個体がほとんどだったが、一部の 1 歳くらいのコドモは、砂

    浜を掘って何かを食べているようだった。

    11 時を過ぎるとニホンザルたちは、山へ帰り始め

    た。山中でのニホンザルの行動をビデオカメラで撮

    影したいと思った私は、急いで準備をしてニホンザ

    ルを追った。ニホンザルたちは、調査小屋の横を通

    って山へ帰っていったので、S-2 に向かったのでは

    ないかと予想し、私も S-2 へ向かった。しかし S-2

    に着いてみると、ニホンザルの姿はどこにもなかっ

    た。いつものように、S-2 に座って待機してみたが、

    30 分ほど待機しても現れなかったので大泊へ戻っ

    た。山中でのニホンザルの行動が、ビデオカメラで

    撮影できなかったことはとても悔しかった。大泊に

    戻った私は、9 日に鈴村さんに教えていただいたビ

    ザイテンへの道を通ってビザイテンへ行ってみるこ

    写真 11.ビザイテン入り口

    写真 12.ビザイテンまでの道

    写真 13.ビザイテン

  • - 13 -

    とにした。ビザイテンへの道は、整備されておりとても歩きやすかった(写真 12)。ビザイ

    テンに到着すると、りっぱな社が建っていた(写真 13)。幸島には、調査小屋しか建物がな

    いと思っていたので、このような社があることにとても驚いた。ビザイテンの社を写真に

    撮っていると、社の向こう側から、ニホンザルの鳴き声が聞こえた。近づいてみると、ツ

    バキの木にニホンザルが 2 人いて、花の蜜を吸っていた。また、そのツバキの奥からは、

    他のニホンザルの声も聞こえたが、姿は見られなかった。ビザイテンは、風もなく太陽の

    光もたくさん当たっていたのでとても暖かかった。このような環境だから、ニホンザルた

    ちも集まってくるのだろうと思った。もっと早くこの場所を見つけていたら、もっとニホ

    ンザルの観察ができたかもしれないと思うと、残念だった。30 分ほど観察していたら、ニ

    ホンザルたちは移動していなくなってしまったので、私も調査小屋へ戻って昼食をとった。

    昼食の後は、風が弱かったので井戸水を使って体を洗った。風が弱いとはいえ、3 月上旬に

    水で体を洗うのはとても寒かった。しかし、久しぶりに体を洗ったのでとても気持ちよか

    った。

    14 時からは、大泊を散策した。ちょうど大潮

    の干潮となっており、大泊は湾頭まで潮が引い

    て大きな砂浜になっていた(写真 14)。潮だまり

    に生き物がいないか探しながら、湾頭まで行く

    と幸島の対岸の浜から声が聞こえ、私の名前が

    呼ばれた気がした。そのため、目を凝らしてよ

    く見ると、対岸には観察所に到着したポケゼミ

    生がいた。久しぶりに気の置けない仲間に会え

    て嬉しかった。嬉しく思うのと同時に、明日で

    単独幸島生活が終わると思うとなんだか寂しかった。結局、大泊散策では生き物を発見す

    ることはできず、16 時からの天気図作成のため調査小屋へ戻った。

    夕食を食べ終わると、真っ暗な調査小屋の中で、ヘッドライトの明かりだけを頼りに荷

    物を整理し、出発の準備をした。その後、9 日間の単独幸島生活を振り返りながら就寝した。

    ◆3 月 11 日(金) 天気:晴れ

    天気はよかったが、やや風が強く寒い日だった。起床すると朝食を食べ、調査小屋の片

    付けをしながら、ポケゼミ生が幸島に渡ってくるのを待った。ポケゼミ生は、予定では 10

    時に島に到着予定だったので、ゆっくりと調査小屋を掃除していた。ところが、9 時ころに

    船のエンジン音が聞こえた気がしたので井戸のある高台まで行って大泊をみると、ポケゼ

    ミ生が上陸していた。これにはとても驚き、焦った。なぜならまだ、船から荷物を下ろす

    手伝いをする準備ができていなかったからだ。急いで、サンダルに履き替え大泊の浜に行

    った。浜に到着すると、松沢先生を先頭にポケゼミ生が岩場から、高台の方へ歩いてきて

    いた。久しぶりに松沢先生やポケゼミ生と会話ができて嬉しかった。その場で今回の幸島

    写真 14.大潮で潮の引いた大泊

  • - 14 -

    研修中に起こったことを話したかったが、荷物を下ろすことが優先だったので我慢した。

    ポケゼミ生が高台に自分たちの荷物を置いて浜に戻ってくると、冠地さんと鈴村さん、そ

    れに廣澤先輩と島田さんが、食糧やテントなどの大きな荷物とともに観察所の船でやって

    きた。船から荷物を下ろすことを手伝い、下ろした荷物

    を高台まで運んだ。

    すべての荷物を高台に運び終わると、ニホンザルの観

    察を始めた。この日は、冠地さんと鈴村さんにサツマイ

    モをまいていただき、イモ洗いを観察した。私は、波打

    ち際でビデオカメラを使って、ニホンザルが海でサツマ

    イモを洗う様子を観察することにした(写真 15)。観察し

    ていると、数人のニホンザルが海に入ってサツマイモを

    洗っていた。その中にはヤシ親子もおり、ヤシがサツマ

    イモを洗って食べる様子を、ヤシの子どもはしっかり見ていた。途中でヤシが落したサツ

    マイモのかけらを拾って口に運んでいる様子も観察できた。イモ洗いは、このようにして

    世代を超えて伝播していくのかなと思った。しばらく波打ち際でイモ洗いの様子を観察し

    ていると、一昨年や昨年よりもイモ洗いをしているニホンザルが尐ない気がした。このこ

    とについて冠地さんに聞いてみると、50 年前にイモ洗いが始まって普及したが、最近はイ

    モ洗いをする個体が減ってきているとのことだった。その理由として、まいているサツマ

    イモはかつてのような畑の土にまみれたものではなく、すでに洗浄されたきれいなサツマ

    イモになっており、ニホンザルが洗う必要がなくなったからだとおっしゃった。最近は、

    昔のような畑から取ってきて土まみれになっているサツマイモは手に入らなくなってしま

    ったとのことだった。もう 1 つの理由として、この日はやや風が強く寒かったため、わざ

    わざ海に入って洗わないからとのことだった。ニホンザルが、サツマイモの状態によって

    行動を変化させてきたことはすごいなと思った。しかし同時に、イモ洗いが見られなくな

    ってしまうのは、とても寂しいと感じた。冠地さんと鈴村さんは、サツマイモが尐なくな

    ると麦もまいてくださった。そのため、この日はたくさんの個体を長い間観察をすること

    ができた。12 時を過ぎると、ニホンザルたちもお腹がいっぱいになったらしく、山へ戻っ

    ていった。そのため観察を終了し、テントを設営

    した。風が強く苦労したが、15 分ほどで設営で

    きた。

    13 時からは、全員で登山をした。阪大生を先

    頭にして、列になり三角点を目指した。S-1 から

    S-2 に向かうときは、私がいつも通っていた道と

    は、違う道を通った。やや急な道だったが、単独

    生活をしているときにいろいろなところを歩き

    まわったのでそれほど苦労はしなかった。S-2 か

    写真 15.イモ洗い

    写真 16.S-2 地点にて

  • - 15 -

    ら三角点までは、松沢先生が先頭になって歩いた。昨年、三角点に登ったときよりも、草

    木が生い茂っており、進みにくかった。初めて道なき道を歩く 1 年生をフォローしながら、

    なんとか無事に三角点に到着することができた。三角点では、全員で記念撮影をしてすぐ

    に下山を開始した。三角点から S-2 まで行く道の半分までは、全員で移動したが、半分を

    過ぎたところから阪大生とポケゼミ 1 年生は、1 人で S-2 を目指した。S-2 で全員がそろう

    と、再び記念撮影をした(写真 16)。S-2 から大泊までは全員が 1 人ずつ歩いていくことにな

    った。私は、一番手に任命され大泊を目指した。どの道を通っていこうか迷ったが、いつ

    も使っていた道を通ることにした。調査小屋に着くと、そこでみんなが無事に到着するの

    を待った。全員の到着を確認すると、テント場に移動し尐し休憩した。このとき、対岸で

    は津波警報が発令されており、津波への注意を呼び掛ける放送がずっと流れていた。この

    ときは、まだ東日本大震災のことなど知る由もなかった。

    休憩のあとは、松沢先生と焚火をしながら、焼き芋を作ることになった。また、それと

    同時に冠地さんに教えていただいた海水茹で芋を作った。調査小屋の周りの清掃も兼ねて、

    調査小屋の周辺で薪を拾った。拾った薪を先生に渡したあとは、海水を汲むために海まで

    いった。津波警報が出ていたので、一応注意しながら海まで行ったが、海は前日までと何

    も変わらない様子だった。海水を汲んでもどると、すでに薪に火がついており、安定した

    火になっていた。さすが、松沢先生だと思った。急いで焼き芋の準備をして、芋を焼き始

    めた。これと同時に、小屋の中では海水茹で芋をつくり始めた。30 分ほどで焼き芋も海水

    茹で芋も完成した。まず初めに先生と一緒に試食をし、そのあとポケゼミ生に配った。焼

    き芋も充分おいしかったが、海水茹で芋はもっとおいしかった。尐しだけ塩味が効いてい

    て、サツマイモの甘みが引きたった。サツマイモを海水で茹でるだけでこれほどおいしく

    なるとは、思っていなかったのでとても驚いた。ポケゼミ生にも、好評だった。

    焼き芋や海水茹で芋を作っていた私は、この日の天気図作成には参加しなかった。しか

    し、この日のラジオの気象通報は、放送されなかったと聞いた。また、ポケゼミ生の携帯

    電話に安否を確認するメールが入り始め、私のところにもたくさんの人からメールがきた。

    このとき初めて、東北で大地震が起こり、それが未曾有の大惨事であることを知った。

    夕食は、みんな揃ってテントでシチューを食べたが、その間ラジオからずっと大地震の

    被害を伝える放送が流れていた。夕食を食べ終わると、松沢先生から市川さんと伊藤さん、

    秋吉さんと共に調査小屋で寝るように言われたので、調査小屋に行き、寝る準備をした。

    地震や津波のことは心配ではあったが、このときは何もできないので早めに就寝した。

    ◆3 月 12 日(土) 天気:曇り

    天気はよくないが、風は弱く、暖かい日だった。みんなで揃って朝食を食べた。朝食の

    食べている途中、ニホンザルがテントの周りに集まってきた。どうやら、テントとその中

    にたくさん人がいるのが、珍しかったようでニホンザルはテントの様子を観察していた。

    朝食を食べ終わると片付けをしてから、ニホンザルの観察をした。ニホンザルたちは、テ

  • - 16 -

    ントやその周りにおいてある水のポリタンクがとても気になっているようだった。コドモ

    は、テントやポリタンクの上に乗って遊んでいたので、私はその行動を観察することにし

    た。尐し特殊な状況ではあるが、単独生活のときには見られなかった行動だったので観察

    していて楽しかった。1 時間ほど観察したところで、松沢先生は全員を呼び集められた。そ

    して、幸島は安全だけれども、周りの人に心配をかけるのはよくないおっしゃり、全員が

    幸島から引き上げることを決断された。急いでテントをしまい、荷物を整理して引き上げ

    準備をした。引き上げ準備をしながら、毎年、幸島から引き上げるときは慌ただしいなと

    思った。冠地さんが観察所の船で島に来てくださり、3 回に分けて全員が幸島から引き上げ

    た。急な引き上げだったので、しばらく生活した幸島を名残惜しく思い、感傷にひたる余

    裕もなかった。観察所に戻ると、舗装された道がとても懐かしかった。また、水道をひね

    るだけで、大量の水が出ることに感動した。短い間ではあったが、幸島の生活に慣れてし

    まった私にとっては、当たり前のものが当

    たり前でなくなりかかっていた。

    昼食を食べたあとは、冠地さんと松沢先

    生に車を運転していただいて、都井岬に行

    くことになった。私は、冠地さんの車に乗

    せていただいた。都井岬に着くまでの間、

    冠地さんは都井岬の歴史や土地の名前の由

    来、サーフィンの名所などいろいろなこと

    を教えてくださった。都井岬に着くと、道

    沿いに御崎馬の親子がいた。道沿いでしば

    らく馬を見たあと、都井岬の頂上を目指して登った。一昨年、来たときは登る途中でたく

    さんの御崎馬に会ったが、今回は 1 頭も会えずに頂上に着いた。頂上でも御崎馬を探した

    が、周辺に御崎馬の姿はなかった。頂上に着くと空は、曇っていたが海がよく見えた。頂

    上で記念撮影をし、下山を始めると雤が降り出した(写真 17)。一昨年はものすごい強風が

    吹いていて、昨年は大雤だった。そして今年も雤が降ってきたので、ポケゼミ生はよっぽ

    ど都井岬に嫌われているなと思った。都井岬の次は、ソテツの自生地へ行った。昨年は、

    雤のため来ることができなかったので、久しぶりだった。一昨年は、風が強かったのでゆ

    っくりと見学できなかったが、今年は天気も晴れて風もなかった。自生地は、ほとんど何

    も変わっていなかったが、ところどころに葉が黄色くなっているソテツがあった。冠地さ

    んに理由を聞いてみると、寒い日が続くと葉が黄化するのだそうだ。冠地さんは、その他

    にもソテツ成長の過程や雄花と雌花の見分け方、ソテツの種の食べ方などを教えてくださ

    った。1 時間ほど見学して観察所に帰ることになった。

    観察所に帰ると、1 年生が夕食の準備をして、上回生は、再び海水茹で芋を作ることにな

    った。依然、津波警報は出ていたが、海水を汲みにいった。浜に行くと、見たところ波は

    穏やかだったが、浜に打ち寄せる波が不規則であることが分かった。これが津波の影響な

    写真 17.都井岬にて

  • - 17 -

    のかなと思った。幸島では岩場で海水を汲んだので大丈夫だったが、浜で海水を汲んだら

    砂が混ざってしまった。そのため、観察所でコーヒーのフィルターで海水を濾した。その

    あとは幸島で作ったのと同じ手順で海水茹で芋を作った。18 時から夕食になり、カレーラ

    イスと茹で芋を食べた。久しぶりに明るい光の下で夕食を食べた。夕食のあとは、松沢先

    生も交えて談笑した。普段は話すことができない阪大生がいたので、いろいろな話が聞け

    て楽しかった。20 時ぐらいにお開きとなったが、最後に松沢先生が、地震のことも考えて

    今日でセミナーを終了し、明日から各自で考えて行動することにするとおっしゃった。当

    初の予定通り 15 日まで観察所にいても良いとのことだったので、私は 15 日まで残ろうと

    決めて就寝した。

    ◆3 月 13 日(日) 天気:晴れ

    朝食は、冠地さんに教えていただいた海水を使って炊いたご飯だった。昨日汲んできた

    海水に米を一晩漬け、真水に変えて炊飯した。海水ご飯は、ほどよい塩味がしてとてもお

    いしかった。普通のご飯に塩をかけて食べるのより何か深みがあっておいしかった。これ

    は、海のミネラルなどが影響しているのかなと思った。海水につけるだけでこれほどおい

    しいご飯が食べられるのなら、岐阜に帰ってからもやろうかなと思った。

    朝食のあと、松沢先生が、一晩考えてやはり全員が今日観察所を出発することを決断し

    たことをお話された。観察所や幸島は安全だが、ここにいない人にそれを理解してもらう

    ことは難しく、心配をかけさせるのはよくないというのが理由だった。非常に残念だった

    が、今回のような状況では仕方がないことだと思った。

    急いで荷物をまとめて観察所を出発する準備をし、掃除をした。11 時には全員が鈴村さん

    の車に乗せていただき、幸島観察所を出発した。

    ◆感想

    今回の幸島研修では、他ではできないようなさまざまな経験をさせていただいた。毎日

    ニホンザルの観察をおこなったり、単独で無人島生活をおくったりしたことは、とても良

    い経験になった。

    毎日、ニホンザルの観察をおこなったことは、とても良い経験になった。普段のポケゼ

    ミでは、毎週 1 回、1 時間の観察しかおこなえないので、毎日数時間に渡ってニホンザルを

    観察できたことは、とても幸せだった。20 歳以上の老齢個体と 0 歳のあかんぼう個体の行

    動を比較したり、母親とあかんぼうの行動を観察したり、イカを食べたりする行動は、普

    段の RRS 観察ではなかなかできないものであるので、観察していてとても新鮮だった。ま

    た、今私が観察している RRS の固形飼料洗い行動の元案である幸島のニホンザルのイモ洗

    い行動やムギ洗い行動を観察できたことは、今後の RRS での観察の参考になった。この幸

    研修で毎日ニホンザルの観察では、私にとっての新しい発見もあり、ニホンザルやその生

    活環境への興味も深まり、とてもたくさんのことを学ぶことができた。

  • - 18 -

    単独で無人島生活をしたことも、とても良い経験になった。10 日間という短い期間では、

    あったが幸島で無人島生活ができたことは、今までの生活では気が付かなかったことに気

    付くことができて本当によかった。明かりの無い生活は、太陽のリズムで生活することを

    体験させ、井戸水と限られた飲料水の生活は、水道のありがたみを教えてくれた。また、

    洗濯や食事作りをしたことで、洗濯機の無い状態での洗濯の大変さや電子レンジによって

    ご飯が簡単に温かくなることのありがたみが分かった。この他にも現代の生活がとても便

    利だということが分かる経験をたくさんした。このような経験は、普通に街で生活してい

    てはできないだろう。今回の無人島生活では、非常に貴重な経験ができた。

    また、単独で幸島生活をしたことは、フィールドワークへの自信もついた。今までのポ

    ケゼミの活動では、常に仲間がいたため、フィールドに出ても仲間に助けてもらうことが

    できた。しかし今回は、私一人ですべてをこなし、乗り越えていかなければならなかった。

    そして、事故や怪我もなく無事に幸島での生活を終えることができたことは、フィールド

    ワークへの大きな自信となった。

    最後になりましたが、このような貴重な体験をさせてくださった霊長類研究所の松沢先

    生、友永先生、林先生、伊村先生、足立先生、野生動物研究センターの杉浦先生、伊谷先

    生、研修期間中いろいろな場面で力を貸してくださった幸島観察所の冠地さん、鈴村さん

    には深く感謝しています。本当にありがとうございました。

  • - 19 -

    幸島自然学セミナー報告書

    岐阜大学 藤森唯

  • - 20 -

    概要

    2011 年 3 月 9 日から 3 月 13 日まで宮崎県の幸島で、幸島自然学セミナーをおこなった。

    ・スケジュール

    9 日 岐阜を出発 / 10 日 観察所到着 / 11 日 島へ移動、観察、登山

    12 日 観察、観測所へ移動、都井岬・ソテツ自生林訪問 / 13 日 現地解散

    各項目について、詳細を以下に記す。

    ニホンザル観察

    11 日の午前中と 12 日の午前中にニホンザルの観察をおこなった。11 日の午前中にはイ

    モを撒いていただき、イモ洗いも観察した。気になった行動を以下にまとめた。

    ・イモ洗い行動

    11 日に島に渡り、荷物をテント場に上げた後、大泊でイモを撒いていただいた。イモ洗

    いを尐し観察したあと、2、3 ヶ所あったイモの山の 1 つでしばらく観察していた。最初は

    カメ(写真 1)がそこを占領していたが、後からきたカバ(写真 2)に追い出されてしまっ

    た。その後、ポト(写真 3)が来てカバは退くが、ポトがふとそこを離れた隙を再びそこを

    占領していた。順位はポト、カバ、カメの順で高いそうだ。カバは時期アルファーの候補

    らしく、頭が良いと聞いた。今回のイモ山を巡ったやりとりでは、順位がきれい表されて

    いて、見ていておもしろかった。また、後半、ポトとカバが何度か入れ替わったが、ケン

    カが起きなかったこともおもしろいと思う。カバの入り方がうまいのかな、と思った。

    ・コドモ

    イモ撒きが終わり、全体が落ち着いたころ、海に向かって右側の岩場でくつろぐ 5~6 頭

    の集団があった。そこにいたビロウという 1 歳のオスのコドモが、カサゴというオトナオ

    スにべったりとくっついていた(写真 4)。近くに母親らしき姿はなかった。ビロウはカサ

    ゴのすぐそばにいて、グルーミングをしたり、尐しちょっかいを出したりしていた。カサ

    ゴは特に気にしていないようだった。ビロウがカサゴのことを尐ししつこく引っ張ったと

    きに、軽くビロウのことを叩いたが、それ以外はビロウの好きにさせていた。カサゴがほ

    んの尐しでも動くとビロウもそれにくっついて移動していた。ビロウは私のことをとても

    警戒しており、私が動くとその場から離れてしまう。それでも、私が何もしないと分かる

    とカサゴのもとに戻ってきた。その後、カサゴはポト(写真 5 )に追い払われてしまった。

    写真 1. 追い出されたカメ 写真 2. カバ 写真 3. ポト

  • - 21 -

    するとビロウは、今度はポトに対して同じ様な行動をとった。あまりにもべったりとくっ

    ついていており、それが母子のやり取りのように見え、とても驚いた。

    後から鈴村さんにこのことについて伺ってみると、オトナオスに興味を持つ頃で、こう

    した行動をとるそうだ。オスに興味を持つ、ということは知っていたが、ここまでべった

    りしているとは思わなかったので、とても新鮮だった。

    ・土食

    11 日の午前に口の周りが黄色くなっている個体がいた(写真 6)。このときは原因が分か

    らなかったが、12 日の午前中に同じように口の周りが黄色い個体を見つけた。この個体を

    追ってみると斜面の土をかじるように食べていた。斜面は、表面は茶色いが尐し削ると黄

    色い土が出てきた(写真 7)。ニホンザルも土食はするそうだが、正確な理由は分かってい

    ないそうだ。土食をきちんと見たのは初めてで、また、あれほど色がつくとは思わなかっ

    たので、今回見ることができて良かったと思う。

    ・レスリング

    12 日の朝、朝食の片付けを済ませてテント場から降りようとすると、テントのすぐそば

    の木で 2 頭のコドモが遊んでいた。その 2 個体を追っていくと、テント場の下の広場(写

    真 8)で、他の若い個体たちがレスリングをしていた(写真 9)。2~5 個体で地面も樹上も

    使って遊び回っていた。これらのレスリングは 30 分以上続いた。遊びに使っていた場所は

    写真に移っている程度で、それほど広いスペースを使っていた訳ではなかった。それでも、

    それだけの遊びが起ったのは、木の影響が大きいのではないかと思う。そこに生えていた

    木はタブノキやトベラだった。枝はしなやかで、サルが枝先に掴まって大きく湾曲しても

    写真 4. ビロウ(左)とカサゴ(右) 写真 5. ポト

    写真 6. 口の周りが黄色い個体 写真 7. ニホンザルが食べていた土

  • - 22 -

    折れなかった。木の上で枝を大きく揺さぶったりもしていた。それだけのしなやかさと丈

    夫さがニホンザルには必要なのだなと思った。ただ、やはり木にとっては大きなダメージ

    であり、枯れかけている木もあった。RRS などで木があっという間に傷む、という話を聞

    き、今回こうして見てみて、確かに毎日この状態ではそうなるだろうと納得した。ニホン

    ザルの飼育施設では、木を入れられることが一番だが、手入れを考えると人工物で代用す

    る方が遙かに楽だと思う。その時の注意点のひとつに、しなやかさが入っていると良いと

    思った。

    登山

    11 日の午後に登山をおこなった(写真 10)。今回は 2 回

    目の登山で、2 年ぶりでも所々見覚えがあったため、以前

    よりは登りやすかった。しかし、幸島の山の中は草木が茂

    っており、継鹿尾山や火打山のようなきちんとした登山道

    がないため、道を探すのはなかなか難しかった。特に下山

    の時は、来た道を探すのに苦労した。そうした中でも正し

    い道を見極められるようになりたいと思う。

    津波

    11 日に起きた東日本大震災の影響で津波警報が発令さ

    れた。11 日はそれほど波の影響はなかった。しかし、12

    日の朝浜を見ると、波がテント場のすぐ近くまで来てい

    た(写真 11)。この波はすぐに引き、その後ここまで波が

    くることはなかった。それでも、何回も波が押し寄せて

    きた。大きな津波ではなかったが、静かに、予想よりも

    速いスピードで波が押し寄せてきたので怖かった。初め 写真 11. テント場からの風景

    写真 10. 山頂での集合写真

    写真 9. サルたちのレスリングの様子 写真 8. レスリング場

  • - 23 -

    て津波を経験し、自然の怖さを再確認した。

    都井岬・ソテツ自生林

    12 日に幸島から引き上げ、昼食をとったあとに、都井岬(写真 12)とソテツの自生林(写

    真 14)へ連れて行っていただいた。都井岬は 2 年前のような強風はなかったが、天気は良

    くはなく、途中雤も降った。そのせいか、岬ではほとんど馬を見ることができなかった。

    しかし、都井岬からソテツの自生林へ移動する途中、道路の真ん中に馬が 3 頭おり、舎内

    から間近で観察することができた(写真 13)。違う御崎馬の楽しみ方ができたと思う。ソテ

    ツ自生林に着くころには雤はやんでいた。ソテツの自生林は、相変わらずきれいだった。

    連なるソテツと崖に打ち付ける波が合わさって、壮大な風景だったと思った。

    感想

    短期間ではあったが楽しかった。こうした合宿、フィールドワークは楽しいと改めて思

    った。それは、動物たちを自分の目で直接見られるだけでなく、彼らが住んでいる環境を

    感じられるからだと思う。幸島で言えば、波と風と揺れる木々の音の中にニホンザルたち

    の声が響いて、潮の匂いや植物の匂いに動物特有のにおい時々混じって、ここに生きてい

    るのだな、と実感する。しかもそれが目的なので、与えられた時間はそれに費やすことが

    できる。それがとても好きなのだと思う。今回は 2 回目で気持ちに余裕があったため、よ

    りその気持ちが強かったと思う。またフィールドに出たいと思った。

    また、今回大阪大学の方たちと活動を共にした。こうしたことは初めてだったため、こ

    のセミナーが始まる前は不安だった。しかし、お二人ともとても気さくで話やすかった。

    また、ニホンザルをはじめ多くの知識のある方たちだったため、お話できてとても楽しか

    った。お二人を含めて、今回はみんなで談笑する時間が多かった。その中で、私は知識が

    乏しいと思った。もっと積極的に知識を得ていこうと思う。

    最後に

    3 月 11 日に発生した東日本大震災の被災者の皆様へお見舞い申し上げます。一刻も早い

    現地の復興をお祈りします。

    写真 12. 都井岬 写真 14. ソテツ自生林 写真 13. 車内から見た御崎馬

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    幸島自然学セミナー報告書 2011 年 3 月 9 日(水)~13 日(日)

    岐阜大学応用生物科学部 2 年 島田かなえ

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    1.初めに

    幸島は、これで 2 回目の訪問になる。前回も同じ春休みに訪れた。前回は、先輩たちに

    言われるまま行動していることが多かった。3 日間島内泊したが、その状況がとても辛かっ

    た。今回は、そのようなフィールド活動に対して根を上げないこと、先輩として後輩に気

    を配ることを目標に活動をしようと思った。

    2.移動

    名古屋から、3 時間ほど電車にゆられて、

    大阪に、そこからフェリーで宮崎にという経

    路で行った。途中、フェリー乗り場の駅で先

    に大阪に到着していた日大生の一年生と、フ

    ェリーターミナルで阪大生のお二人と合流し

    た。行きのフェリーは、空いていたため、場

    所をたくさん確保することができた。フェリ

    ーでは、皆と談笑しながら楽しく過ごすこと

    ができた。特に、阪大生のお二人とたくさん

    お話することができ。嵐山のニホンザルのお

    話はとても興味深かった。嵐山は、幸島のよ

    うに名前ではなく番号で個体識別されている

    らしい。覚えにくそうだと思ったが、お二人

    は個体識別されていると聞き、すごいなと思

    った。宮崎についてからは、また、電車の長

    旅となった。出発前日に寝不足だったことも

    あり、行きの電車では寝てしまった。南郷駅

    についたのは、お昼近くだった。そこで、バ

    スが来るまでの時間、楽しく過ごした。

    3.サル観察

    11 日に島に渡った。島に渡るとすぐにサルが出てきた。冠地さんと鈴村さんののった船

    の音がわかるようだ。そして、「みゃーみゃー」と鳴いていた。荷物の整理が終わってすぐ、

    イモまきが始まった。幸島のサルはイモ洗いで有名であるが、実際にイモ洗いをしていた

    のは、ほんの数個体であった。私は、その様子を一生懸命ビデオで撮影した。泥や砂を落

    としているというよりは、海水につけているという感じがした。一組の母子が、イモ洗い

    をしていた。お母さんがイモ洗いをしてそのイモを食べる、そのかけらが下に落ちた。子

    どもは、そのかけらを拾って、お母さんと同じように海水のある部分にこすりつけていた。

    「宮崎行きのフェリー」

    「南郷駅で記念撮影」

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    夏目先輩のRRS観察に同行したことがある。固

    形飼料洗いも伝播するらしい。そのおおもとの根

    拠であるイモ洗いにも伝播があることをこの目

    で確認することができた。まだ、自ら積極的にイ

    モを取りにいって洗うというわけではないよう

    だが、そのような行動を示すというのは面白いと

    思った。また、この姿はチンパンジーの親子の姿

    とも重なるなと思った。いつごろから、自らイモ

    を拾いその行動をするようになるのか、また、親

    が異なることによって、その影響はどのようにで

    るかなど、詳しく見てみたいと思った。

    観察終盤、冠地さんとお話することができた。

    イモ洗いする個体は尐ないですね、と言うと、寒

    いからねとおっしゃった。また、与えるイモがき

    れいであることも影響しているとおっしゃって

    いた。夏には、イモをまくと海岸に並んでイモ洗

    いをするらしい。また、今回イモ洗い行動をして

    いた個体のほとんどが、「砂をおとすため」とい

    うよりも「海水味をつけるため」にそのようにしていることが多いとのことだった。後で、

    松沢先生の提案で「海水でふかしたイモ」を食べた。確かに、とてもおいしかった。サル

    も、食材をおいしく食べる方法をよく知っている。今回、寒さに耐えてもおいしく食べた

    いと思ったサルだけが、イモ洗い行動をしていたのではないだろうか。登山から帰ってき

    て、尐しの時間サルを観察した。まだ、尐しの個体が浜辺にでて、自由に過ごしているよ

    うだった。海辺でグルーミングをしている個体が多くいたが、3 時も過ぎると、鳴きあいな

    がら海に向かって左側の斜面から一斉に森の中に消えた。

    今回は、「オスの行動観察」をテーマに観察し

    たいと思っていた。「父系社会」のチンパンジー

    をいつも良く見ているので、「母系社会」のニホ

    ンザルのオスがどのように振る舞うかを詳しく

    見てみたかったからだ。観察の終盤、冠地さんか

    ら、色々お話を聞いて、「カバ、カメ、カサゴ」

    という 3 匹のサルを観察してみようと思った。3

    匹は兄弟である。しかし、それぞれ群の中の順位

    は違うようだ。その 3 人のグルーミングなどを観

    察しようと思っていたのだが、島内泊が短くなっ

    てしまったために観察できなかった。とても残念だ。

    「イモをほおばるサル」

    「マウンティングするニホンザルの子ども」

    「カメ」

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    4.登山

    11 日の午後、島の三角点に向け、登山を開始した。今回は全員での登山となった。私は

    去年の合宿で登頂を経験していないので、今回とても楽しみだった。山を登っていると、

    サルの痕跡がいたるところにあった。糞や、獣道である。それらを見つけながら山を登る

    ことはとても面白かった。野生動物の観察とはこういうものだよなと思った。幸島は、今

    まで登ってきた山と比べると高さはそれほどないが、登山道というものが無いため、自分

    がどこにいるのか地図を広げて考えることが難しかった。松沢先生が、地図を示しながら

    どこを歩いているのか、どこを目的地として

    いるのかを指導して下さったため、かろうじ

    て自分のいる位置等を知ることができた。40

    分ほどで三角点に到着した。そこで、皆で記

    念撮影をした。今までに見たことのないぐら

    い、草と木に覆われた三角点だった。帰りは、

    S2 と呼ばれる地点の付近から一人一人バラ

    バラで下山した。沢すじに沿っていけば良か

    ったので、迷うことなく下山できた。今回の

    登山では、これからのフィールドワークでも役立つだろうことをたくさん学べたと思う。

    5.生活

    島での生活は、短いものだったが、去年と比べて、そこまで嫌だと感じなかった。料理

    は今回は、風等を考慮してテントの中ですることになった。島で作ったご飯もとてもおい

    しかった。島に滞在中に大きな地震が発生したために、テントにいるときはほとんどラジ

    オがついていた。声のみの情報だったが、とてつもない大地震だということはすぐに分か

    った。また、ラジオでは津波についてもたくさんの情報を流していた。その情報によると、

    宮崎も津波があるとのことだった。海を見ていてもまったく、そんな予感はしなかったの

    で、安心していたが、寝ている時近くで波の音が聞こえると怖かった。

    観察所では、夕食時や夕食後に皆と談笑するのがとても楽しかった。大学も学年もバラ

    バラだったが、色々興味深いお話を聞けてとても嬉しかった。また、今回のメンバーでど

    こかに出かけたいと思った。

    6.都井岬

    島から戻って、しばらくして都井岬に向かった。去年は、天候が悪く御崎馬を見ただけ

    だったので、とても楽しみだった。冠地さんが運転して下さる車と、松沢先生が運転して

    下さる車で向かった。御崎馬が本来見られる場所には、あまり馬がいなかった。馬は、広

    い範囲を誘導しているらしかった。ここの馬は、冬の時期だけ餌付けをしているが、他の

    時期は何もしていないそうだ。そのため、今のようにエサの尐ない時期は遠くまでエサを

    「登頂の記念に」

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    求めて誘導しているとのことだった。都井岬

    の丘を私たちはゆっくり登り、思い思いに楽

    しんだ。丘の上からは、こんなときだという

    のに、志布志港から大阪へ向かうフェリーが

    見えた。津波は大丈夫なのだろうかと思った。

    ちょうど、丘を下っている時に、雤が降って

    きた。私たちは、急いで車に退避した。カッ

    パを着ていて良かった。

    次に、ソテツの最北端の自生地へ向かった。

    ここが最北端の自生地といえる根拠を冠地

    団が丁寧に教えて下さった。崖の上にソテツが生えていた。あんな高いところへは、さす

    がに人は植林できないということなのだそうだ。宮崎の温暖な気候に触れた気がした。自

    生地からは、日本海が見渡せた。岩がたくさん飛び出てきており、「火曜サスペンス」によ

    く出てくる場面さながらだった。しかし、とても景色の美しいところだった。

    6.終わりに

    今回のセミナーは、予定を早めて終了することとなった。やはり、東北・関東の大震災

    のこの国の緊急時に親元を離れているというのは良くないと松沢先生が判断されたためだ。

    まだまだ、サルの観察もしてみたい、もっと皆と一緒にいたいと思っていたのでとても残

    念であった。また、今回のセミナーは、この震災とは切っても切り離せないものであると

    思う。島においては、津波を懸念し、帰りの電車等では自分たちの想像をはるかに超える

    大きな被害に、驚いた。200 年に一度の大惨事を、幸島で迎えたこの日を、たぶん一生忘れ

    ないと思う。ちょうど、阪大生のお二人から、「阪神淡路大震災」の時の様子を聞く機会を

    えた。私は、まだ園児であったため、あまり覚えていないのだが、やはり被害は深刻なも

    のであったらしい。私はまだ、幸い 20 年あまり生きてきた人生の中で一度も、大きな地震・

    津波・洪水等の自然災害にであったことがない。だから、被災地の人々の本当の恐怖は理

    解できないのではと思う。しかし、私にもできることがあるはずだと思った。帰りの電車

    でも、それを考えた。これを書いている今も考え続けている。

    今回の合宿でも、多くの人にお世話になった。私たちのセミナーを引率し、色々指導し

    て下さった松沢先生、私たちが安全に島で過ごせるようにして下さった冠地さん、鈴村さ

    んには大変感謝している。本当にありがとうございました。

    「なだらかな丘でジャンプ」

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    2010 年 幸島個人報告書

    岐阜大学 秋吉由佳

    岐阜から米原や京都を経由して大阪に向かった。私は三重県出身のため、大阪に行くと

    きは奈良を経由する。そのため、米原や京都を経由するということが新鮮だった。印象に

    残っているのは大垣駅と大津市だ。大垣駅では既視感のある車両を見かけた。養老鉄道線

    である。いつも三重県桑名駅で見かける電車を見ることができてとても嬉しかった。また、

    大津駅周辺ではビル群に圧倒された。しかし、一緒に電車に乗っていた 1 年生が、二人と

    も政令指定都市である名古屋市周辺在住だったため、感動を共有できなかったのがとても

    残念だった。大阪からはフェリーに乗った。フェリーは太平洋を通った。フェリーには何

    度も乗ったことがあったが、航路が瀬戸内海を通っているものしか乗ったことがなかった

    ため、酔わないかということがとても不安だった。しかし、思っていたよりは揺れなかっ

    たため酔うことはなかった。宮崎港から宮崎駅まではバスを使った。荷物の多い私たちが

    バスに乗るのは時間がかかる。しかし、バスの運転手の方や乗客の方は、私たちを急かし

    たり白い目で見たりすることはなかった。とてもありがたいと感じた。南宮崎駅からは日

    南線で南郷まで向かった。西側の車窓からは山が、東側の車窓からは海が見えた。海の色

    はとても綺麗な青色だった。また、海辺に植えられたフェニックスやソテツが美しい景観

    を作り出していた。大分県別府市の海辺にもフェニックスは植えられているが、今年の寒

    波でほとんど枯れてしまったらしい。日南線の電車の車窓から見えたフェニックスは元気

    そうだった。

    観測所の食事はどれもうまくできた。しかしながら、島での食事、特にご飯に関しては

    改善が必要だと感じた。私は毎日土鍋でご飯を炊いている。ガスを使ってご飯を炊くこと

    には慣れている。しかしながら、私が炊くご飯の量は多くて四合である。六合や七合のご

    飯を炊くことはない。ご飯の量が増えれば、火が通らずに炊けないところも出てくる。時

    間はかかるだろうが、小分けして炊いた方がよいと思った。

    登山ではすぐにくしゃみと鼻水が止まらなくなった。列の最後の方を歩いていたため、

    道が既にできており登るのに苦労することはなかった。久しぶりに山道を歩いたためとて

    も気持ちがよかった。柔らかい土を踏んで、枝や葉をかき分けて歩くことは楽しかった。

    くしゃみと鼻水がなければもっと楽しめただろうに、と思った。

    ニホンザル観察ではニホンザルの採食方法を中心に観察をおこなった。採食しているニ

    ホンザルをじっと見ていると、ニホンザルが顔を上げて私の方を見てくることがあった。

    そのときに目が合ってしまうと、ニホンザルは怒ったり逃げたりして採食行動を中断して

    しまう。ニホンザルの採食行動をじっと見ていたい気持ちを抑えて、たまに視線を背けた

    り、違う方向を向いたりするのが大変だった。野生動物の観察の難しさを思い知った。

    都井岬からは関西汽船のフェリーさんふらわあが見えた。船体に太陽の絵が描かれてい

    たため、遠目でもすぐに分かった。私はさんふらわあに何度か乗ったことがあるが、別府

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    港と大阪南港、大分港と神戸港を結ぶフェリーにしか乗ったことがなかった。都井岬の近

    くに、鹿児島県の志布志港がある。志布志港と大阪南港を結ぶフェリーだったのかもしれ

    ない。そのような航路があることを知らなかったため驚いた。また、海岸のすぐ近くをさ

    んふらわあのような大きなフェリーが通るということもすごいと思った。

    セミナー中、地震の様子も気になっていたが、祖父母の家の手伝いをしている妹の様子

    も気がかりだった。私は初めての無人島滞在だったが、妹も初めて祖父母の家に一人で滞

    在していた。その最中地震が起きたため、親はとても心配だったと思った。セミナーが短

    くなったのはとても残念だったが、妹が衰弱していたので、早く妹のところに行くことが

    できてよかった。

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    日本大学生物資源科学部1年

    有賀菜津美

    2010年度幸島自然学セミナー個人報告書

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    3 月 8 日に東京を出発して夜行バス、フェリーに乗り宮崎に到着。日南海岸沿いを走る電

    車に揺られ、10 日観察所に到着した。初めて幸島を見て、想像していたより大きく、そし

    て近く感じた。また、早く幸島に渡って野生のサルを見たい気持ちでいっぱいになった。

    11 日、幸島に渡ってすぐサルが出てきたので驚いた。やは

    り私の見たことのあるニホンザルより一回り小さかった。そ

    のため、最初に見た個体を 10 代ぐらいだと思ったが、20 代

    だったと後から分かった。また、幸島での私の観察テーマは、

    親子間の行動についてだったのでどのくらい親子で行動して

    いるのかが気になっていた。観察所の情報によると、最後に

    生まれた子どもは昨年の 8 月に生まれたということだったの

    で、親と行動をしている子どもは尐ないと思った。しかし、

    幸島では想像以上に親子で行動している個体が多くいたので

    観察対象になると思い、安心した。

    イモ洗いについては、数冊本を読んだだけだったので私の予想とは異なった。私の予想

    ではほとんどのサルが海水でイモを洗い、波打ち際がサルでいっぱいになるのだと思って

    いた。しかし実際にイモ洗いをしているサルは数えられるほどで、ほとんどのサルは洗わ

    ずにそのまま食べていた。また、食べ方をよく見ているとそれぞれ違っていて興味深かっ

    た。たとえば、海水で洗う、皮をきれいに剥く、砂をきれいに落とすなど十人十色といっ

    たような感じだった。そして、イモを獲得する様子を見ていると、サルに順位があるとい

    うことがよく分かった。そのためアルファとアルファのメスは、私でも見つけることがで

    きた。特にイモが撒かれる前と撒かれてすぐというのは、上位の個体がイモの周りにいて

    下位の個体がそこには近づけないように見えた。私は目の前で起こる個体同士の関係がす

    ごく面白く、見入ってしまった。またイモ洗いを親子でしているのも観察することができ

    た。イモを撒く前に授乳されていた子どもが、親の食べ残したイモなどを拾って食べてい

    た。明確に洗っていたとはいえないが、海水に浸してから食べていたのが確認できた。�