〔実践報告〕 専門看護師のクリニカルラダー (臨...

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千葉大学大学院看護学研究科紀要 第34号 -9- 専門看護師のクリニカルラダー (臨床実践能力段階別到達目標)および 専門看護師育成ラダー(専門看護師の育成指標)試案の作成 荒木 暁子 1) 中村 伸枝 2) 臼井いづみ 3) 渡辺 尚子 4) 松田 直正 2) Developmentoftentativeclinical ladderand supportingindicatorsforcertifiednursespecialists AkikoARAKI 1) ,NobueNAKAMURA 2) ,Izumi USUI 3) NaokoWATANABE 4) ,NaomasaMATSUDA 2) 〔実践報告〕 ―――――――――――― 1)千葉県千葉リハビリテーションセンター 2)千葉大学大学院看護学研究科 3)千葉大学大学院医学研究院 4)千葉県がんセンター 1)ChibaRehabilitationCenter 2)ChibaUniversity, GraduateSchool of Nursing 3)ChibaUniversity, GraduateSchool of Medicine 4)ChibaCancerCenter 要 旨 専門看護師の活用に関わる看護管理者と専門看護師の共通認識をはかるために,千葉県立病院群 の看護管理者と共に,専門看護師クリニカルラダー(臨床実践能力段階別到達目標)および育成ラ ダー(専門看護師の育成指標)を作成した.また,ラダー作成の目的は,「県立病院において共通し て活用できる,専門看護師として高い専門性を発揮するための能力指標およびサポート指標を明ら かにすることで,専門看護師の育成・キャリア開発を支援する.この指標を作成することで,看護管 理者と専門看護師が共通の指標を用いて活動内容やサポートなどについて合意形成を図ることがで き,他の看護スタッフの理解を得るためにも活用できる.また,県内に共通した指標があることで, 看護管理者と専門看護師の合意形成が促進できる」ことで合意した. それぞれが専門性の高い医療を提供している県立病院群において,看護管理者が共通の指標を用 いて専門看護師の育成や活用にかかわることが期待される. KeyWords :看護管理者,専門看護師,クリニカルラダー,育成ラダー Ⅰ は じ め に 千葉大学大学院看護学研究科では,平成19~21 年度に文部科学省組織的な大学院教育改革推進プ ログラムの採択を受け,「専門看護師育成・強化プ ログラム」に取り組んだ.本プログラムの中で, 専門看護師教育課程修了生,専門看護師(以下, CNSとする)を対象としたサポートニーズと教育 ニーズに関する全国調査 1)-3) と,看護管理者を対 象としたCNSへの役割期待と組織的サポートに 関する全国調査 4)3) を実施した.調査結果から, 看護管理者はCNSを雇用したいと考えていても, 人員不足や経済事情などの現実やCNS導入の成 果が認定看護師(以下,CNとする)に比べみえに くいことなどの問題があり,一方,CNSへの調査 では看護管理者との合意形成の難しさに問題を感 じている回答も多く,CNSと看護管理者の目標を すり合わせていく必要性を感じた. 千葉県立病院群の看護管理者である筆者は, 「CNS育成・強化プログラム」の共同研究者とし て参画していた.県立病院群の看護管理者に共通 の問題としてCNSの能力についての理解不足や 育成に対する認識不足があり,看護局・部長会議 でも学習を重ねてきたが,CNSへの具体的な支援 をイメージできずにいた.この問題点を解決すべ く,「CNS育成・強化プログラム」のサブテーマ である臨床看護管理者との協働の一貫として能力

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専門看護師のクリニカルラダー(臨床実践能力段階別到達目標)および

専門看護師育成ラダー(専門看護師の育成指標)試案の作成

荒木 暁子1)  中村 伸枝2)  臼井いづみ3)  渡辺 尚子4)  松田 直正2)

Development of tentative clinical ladder andsupporting indicators for certified nurse specialists

Akiko ARAKI1),Nobue NAKAMURA2),Izumi USUI3)

Naoko WATANABE4),Naomasa MATSUDA2)

〔実践報告〕

――――――――――――1)千葉県千葉リハビリテーションセンター2)千葉大学大学院看護学研究科3)千葉大学大学院医学研究院4)千葉県がんセンター1)Chiba Rehabilitation Center2)Chiba University, Graduate School of Nursing3)Chiba University, Graduate School of Medicine4)Chiba Cancer Center

要 旨 専門看護師の活用に関わる看護管理者と専門看護師の共通認識をはかるために,千葉県立病院群の看護管理者と共に,専門看護師クリニカルラダー(臨床実践能力段階別到達目標)および育成ラダー(専門看護師の育成指標)を作成した.また,ラダー作成の目的は,「県立病院において共通して活用できる,専門看護師として高い専門性を発揮するための能力指標およびサポート指標を明らかにすることで,専門看護師の育成・キャリア開発を支援する.この指標を作成することで,看護管理者と専門看護師が共通の指標を用いて活動内容やサポートなどについて合意形成を図ることができ,他の看護スタッフの理解を得るためにも活用できる.また,県内に共通した指標があることで,看護管理者と専門看護師の合意形成が促進できる」ことで合意した. それぞれが専門性の高い医療を提供している県立病院群において,看護管理者が共通の指標を用いて専門看護師の育成や活用にかかわることが期待される.

Key Words:看護管理者,専門看護師,クリニカルラダー,育成ラダー

Ⅰ は じ め に 千葉大学大学院看護学研究科では,平成19~21年度に文部科学省組織的な大学院教育改革推進プログラムの採択を受け,「専門看護師育成・強化プログラム」に取り組んだ.本プログラムの中で,専門看護師教育課程修了生,専門看護師(以下,CNSとする)を対象としたサポートニーズと教育ニーズに関する全国調査1)-3)と,看護管理者を対

象としたCNSへの役割期待と組織的サポートに関する全国調査4)3)を実施した.調査結果から,看護管理者はCNSを雇用したいと考えていても,人員不足や経済事情などの現実やCNS導入の成果が認定看護師(以下,CNとする)に比べみえにくいことなどの問題があり,一方,CNSへの調査では看護管理者との合意形成の難しさに問題を感じている回答も多く,CNSと看護管理者の目標をすり合わせていく必要性を感じた. 千葉県立病院群の看護管理者である筆者は,「CNS育成・強化プログラム」の共同研究者として参画していた.県立病院群の看護管理者に共通の問題としてCNSの能力についての理解不足や育成に対する認識不足があり,看護局・部長会議でも学習を重ねてきたが,CNSへの具体的な支援をイメージできずにいた.この問題点を解決すべく,「CNS育成・強化プログラム」のサブテーマである臨床看護管理者との協働の一貫として能力

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評価指標と支援指標を開発することを,プログラム代表者に提案し,プログラムのサブテーマとも一貫しているため賛同を得た.プログラム代表者から確保対策室長へ相談し,同室長からも賛同を得て,看護局・部長会議で提案し,承認を得て,千葉県立病院群の看護管理者と「CNS育成・強化プログラム」による合同の会議が発足した.本稿では,CNSクリニカルラダーおよびCNS育成ラダー試案作成の取組について報告する.<用語の定義> CNSクリニカルラダー:ここでは,千葉県立病院群おける共通のCNSの臨床実践能力段階別到達目標とする. CNS育成ラダー:ここでは,千葉県立病院群おける共通のCNSの育成指標とし,看護管理者がマネジメントの一貫として人材育成上用いるものとする.<倫理的配慮> 会議での取り組みに関して,学会での発表や紙面による報告について,それぞれに口頭で確認し了解を得た.また,会議発足当時の千葉県立病院局経営管理課医師・看護師確保対策室長には,投稿論文を確認の上,再度発表の承認を得た.

Ⅱ CNSのクリニカルラダー(臨床実践能力段階別到達目標)およびCNS育成ラダー(CNSの育成指標)試案の作成

1.千葉県立病院群看護管理者のCNSへの期待と能力や育成に関する認識の把握

 千葉県立7病院と千葉県千葉リハビリテーションセンターからなる千葉県立病院群8施設(以下,県立病院群とする)は,がんセンターのような専門病院と二次医療圏の基幹病院を含む.平成21年11月時点におけるCNSの雇用は,がん看護CNS2名,小児看護CNS2名,急性・重症患者看護CNS1名の,合わせて5名であり,CNの雇用は25名であった.CNSを雇用していない施設は4施設あったが,CNは全ての施設で雇用していた. 初回の会議は,平成21年11月に実施した.出席者は,千葉県病院局経営管理課医師・看護師確保対策室長および副主幹,県立病院群の看護部・局長と副看護部長11名,千葉大学大学院看護学研究科「CNS育成・強化プログラム」の教員2名の,合わせて計15名であった.本会議の趣旨説明ののち,自己紹介および自施設におけるCNS・CNの活動状況,CNS・CNの能力や,導入による成果の評価方法,および,CNSのクリニカルラダーおよび育成ラダー試案作成に向けた意見交換を行った.

 看護管理者は,CNSが活動しやすいように支援したいがその方法が分からない,CNSにある活動を期待したいがCNS自身があまりそれを重要だと考えていないようだ,資格を持って他施設から就職したCNSの能力が把握できない,などのCNSを活用する上での悩みをもっていた.また,CNSの活動支援には,教育担当副看護部長などが直接かかわることが多いが,管理職間でもCNSの活用の方向性や支援方法について確実な方針はなく,悩みながらできることを工夫していることが多くあった. これらの意見交換を通して,まず看護管理者が県立病院群のCNSの能力発達について共通認識を図ること,CNSの能力開発のために県立病院群内で異動の想定される看護管理者が共通して支援できるための指標が必要であり,これらを作成することを,本取り組みのゴールとした.以て,看護管理者がCNSと共通認識を図るためのツールとしてのCNSクリニカルラダーおよび育成ラダーと位置付け,県立病院群での使用を目的として試案を作成することを合意した.まず,看護管理者の共通認識を図ることが必要であったことが優先し,各病院群で雇用しているCNSの配置や活動状況が全く異なるため,個々の状況は多様であり,より共通性の高い指標を作成することをの作成を目的としたため,試案作成メンバーは県立病院群の看護局部長会議メンバーである看護管理者,および,CNS育成・強化プログラムのメンバーである教員とした.教員はCNSの育成・強化について研究と教育実践の経験を豊富に有し,それまでの研究成果や国内外の教育・実践者との情報共有を経ており,CNSの臨床実践能力発達および開発についてのエキスパートという立場で参加した. 原案の作成は,CNS育成・強化プログラムのCNSの能力開発のコンセプトと前述のCNSと修了者に対する看護管理者の役割期待とサポートに関する全国調査結果をふまえ,千葉県立病院群で作成していたクリニカルラダーを発展させる形で作成し,会議で意見交換を行い修正していくこととした.また,原案作成に先立ち,「CNS,CNの育成と活用について(育成希望人数を含む)の展望」,「CNSが機能している状態とは,どのような状態であると考えているか」,「CNSが成長していると感じるのは,どのようなときか」などについて,書面で各施設の看護管理者の考えを出し合った.

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2.CNSクリニカルラダー・育成ラダーの試案作成の経過

 第2回会議は平成21年12月に開催し,出席者は,千葉県病院局経営管理課医師・看護師確保対策室長,県立病院群8施設の看護部・局長と副看護部長11名,「CNS育成・強化プログラム」教員2名の,合わせて14名であった. 始めに,看護管理者が提出した書面調査の結果をまとめて示した.「CNS,CNの育成と活用についての展望」については,多くの施設でそれぞれの専門性に特化した実践現場の核となるCNSが必要と考えていた.また,具体的な活用として,横断的に看護実践の指導者として活用,院内の教育,コンサルテーション,調整における活用,リソースナース関連活動の組織化や委員会への参加,院外の教育や地域活動への関与等が挙げられていた.「CNSが機能している状態とは,どのような状態であると考えているか」については,看護ケアの質保証に貢献している,アドバイス・指導で看護師自身が問題解決できるようになる,チーム医療のコア的存在と認められる,などが挙げられていた.「CNSが成長していると感じるのは,どのようなときか」については,CNSが,自主的に着実に活動し関わった事案や課題を責任もって達成しているとき,積極的に他部門と調整しているとき,組織の活動を理解して意見や提言を述べることにより組織が変化しているとき,自分の傾向を知りコントロールできているとき,活動を分析・評価して自分の課題が見えているとき,などが挙げられていた. これらの結果と千葉県立病院群看護師のクリニカルラダーに,同マネジメントラダーに含まれる「看護の質・評価」の部分を加えて作成したCNSクリニカルラダー案ver.1を提示した.CNSクリニカルラダー案は,CNSの能力発展の視点からレベルⅠ・Ⅱ・Ⅲの3つのラダーに分け,それぞれの「職務目的・到達目標」と「臨床実践能力:看護サービスの実践能力,看護の質評価・改善能力,マネジメント能力,人間関係能力,教育能力,研究能力」,「主な活動範囲」を作成した.この原案を基に,CNSの各レベルの職務目標,到達目標が妥当かどうか,各項目の内容について意見交換を行った.話し合われた内容は,クリニカルラダーの目標設定やクリニカルラダーの各レベルについて,CNSとなってからどれくらいの年限を想定するのか,資格を有する者が新規採用された場合の運用について,臨床実践能力について,看護の質の評価と組織の分析の重要性などであり,県立病

院だけでなく全県のレベルアップを視野に入れた活動を期待したいという意見もあった.「活動範囲」に関しては,千葉県立病院群のキャリア開発支援の方針として,CNSは組織にとっての貢献と県立病院群の看護の質向上に寄与できることを期待され育成されることを踏まえて,検討し決定した.会議の結果を受けて,CNSクリニカルラダー案ver.2を作成し,メールにて意見を求めた.さらに,CNS育成ラダーの作成に向けて,各施設におけるCNS・課程修了者への「具体的な支援」,「支援を行う意図や目的」「支援を行う時期などの目安」について回答を依頼した. 第3回会議は,平成22年1月に実施した.出席者は,千葉県病院局経営管理課医師・看護師確保対策室長および副主幹,県立病院群8施設の看護部・局長と副看護部長11名,「CNS育成・強化プログラム」の教員2名の,合わせて15名であった.CNSクリニカルラダー案ver.2を提示し,内容を洗練するとともに,「看護サービス,看護の質,看護,看護ケア,質の高い効率的なケア,適切なケア,医療チーム,ケアチーム,組織や医療チーム,他職種」などの用語について点検を行い,CNSクリニカルラダー案ver.3とした.また,育成ラダーに向けたアンケートの結果に基づき,1)CNSクリニカルラダーに対応させる,2)CNSレベルⅠの下に「CNSになるための支援」を加える,という2点を考慮してCNS育成ラダー案ver.1を作成し,検討を行った.

3.CNSのクリニカルラダー・育成ラダー作成の目的の再確認

 第3回会議において,CNSクリニカルラダー・育成ラダー作成の目的について明文化する必要があるとの意見が出され,第4回会議において審議した.その結果,CNSクリニカルラダー・育成ラダー作成の目的として,「県立病院において共通して活用できる,CNSとして高い専門性を発揮するための能力指標およびサポート指標を明らかにすることで,CNSの育成・キャリア開発を支援する.この指標を作成することで,看護管理者とCNSが共通の指標を用いて活動内容やサポートなどについて合意形成を図ることができ,他の看護スタッフの理解を得るためにも活用できる.また,県内に共通した指標があることで,看護管理者とCNSの合意形成が促進できる」を合意した.

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4.CNSクリニカルラダー・育成ラダーの試案の完成

 第4回会議は,平成22年2月に行った.出席者は,千葉県病院局経営管理課医師・看護師確保対策室長および副主幹,県立病院7施設の看護部・局長と副看護部長10名,「CNS育成・強化プログラム」の教員2名の,合わせて14名であった.CNSクリニカルラダーは,メールでの修正を繰り返し,CNSクリニカルラダー案ver.5をもって完成とすることが了承された(表1).また,CNS育成ラダーver.2について意見交換を行い,メールによる意見を通して修正し,CNS育成ラダー案ver.3をもって完成とした(表2).それぞれの呼称は,CNSのクリニカルラダーは到達度別の目標となるようにと考え,「(臨床実践能力段階別到達目標)」とし,「CNS育成ラダー」は,それが必ずしも目標ではないが,CNSを能力段階別にサポートする管理者の行動の目安が示されたものとして「(CNSの育成指標)」とした.また,次年度以降,「CNSクリニカルラダー運用基準」を部局長会議で作成することを確認した. その後,「CNSクリニカルラダー運用基準」については,平成22年度看護局・部長会議にて作成し,自己評価と2名の他者評価(関連部署の看護師長,現場のリーダー層から1名)を行い,毎年年度末までに評価することを手順とした.

お わ り に CNSクリニカルラダー・育成ラダー作成の過程を通して,千葉県立病院群の看護管理者のCNSに対する理解の深まりや,CNSの育成や活用に関する共通理解をはかることができた.県立病院群の看護管理者は異動も多いため,CNSクリニカルラダー・育成ラダー作成の目的を共有できたことや共通の指標ができたことは,意義があると考えられた. 今後は,実際に運用することで,ラダーが看護管理者とCNSの合意形成を促進するものとなるよう洗練をはかっていきたい.

文   献1)中村伸枝,臼井いづみ,荒木暁子,市原真穂,奥朋子,添田百合子,細矢美紀,松岡真里:専門看護師として認定を受けていない専門看護師教育課程修了者の認定申請に向けたサポートニ ー ズ.千 葉 看 護 学 会 会 誌,17(1),17-24,2011.2)添田百合子,市原真穂,奥朋子,細矢美紀,松岡真里,東めぐみ,中村伸枝,臼井いづみ:専門看護師がとらえた看護管理者からの役割期待と施設外における活動の必要性,第29回日看科会学術集会講演集,188,2009.3)市原真穂,奥朋子,添田百合子,細矢美紀,松岡真里,中村伸枝,臼井いづみ:専門看護師が知覚する医療施設・看護管理者からのサポート体制と活動を妨げている要因,第29回日看科会学術集会講演集,187,2009.4)荒木暁子,中村伸枝:看護管理者による専門看護師の活用の実態と活用を阻む要因,第13回日本看護管理学会年次大会,59,2009.5)荒木暁子,中村伸枝,臼井いづみ:専門看護師と専門看護師教育課程修了者に対する看護管理者の役割期待サポート,第29回日看科会学術集会講演集,188,2009.

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表1.千葉県立病院 専門看護師クリニカルラダー(臨床実践能力段階別到達目標)

CNS レベルⅢ

CNS レベルⅡ

CNS レベルⅠ

ラ ダ ー

卓越した実践能力を用いて、組織の目標達成に寄与する

教育的役割を担い、優れた看護実践能力を用いて看護の質

向上に寄与し、部局の目標達成を推進することができる

実践モデルとなり、リーダーシップを発揮して、質の高い看護

サービスを提供し、部署の目標達成を推進することができる

職務目的

職 務 目 的 ・ 到 達 目 標

・多様なニーズをもつ対象に、卓越した看護実践を提供

することができる。

・他職種と連携し、患者への医療・ケアの質の向上に寄

与することができる

・医療・ケアの質向上におけるシステム構築へ参画し、

教育的役割を果たす

・自己の内省を踏まえて、他者と高めあう関係を築くこ

とができる

・多様なニーズをもつ対象に、優れた看護を実践する

・優れた実践能力を基盤に、部署外の人材と連携し、患

者への医療・ケアの質の向上に寄与することができる

・看護における教育的役割を果たす

・専門職として内省的に自己の実践を振り返り、自己を

高めることができる

・豊かな人間性のもと高い専門知識と技術を用いて看護

が提供できる

・実践モデルとして、後輩を指導する

・重症な患者、複雑な問題を持つ患者に対し、柔軟に看

護ケアを実践する

・リーダーの役割を理解し、リーダーシップが発揮できる

・部署の目標を達成するための活動を推進する

・自己啓発を目指し、積極的にキャリア開発ができる

到達目標

・卓越した看護実践能力を有し、創造的な看護実践を展

開できる

・困難な状況下において、豊富な知識と高度な実践能力

を統合するとともに、部署外にある資源を活用して的

確に対応することができる

・実践モデルとして施設の中で一目置かれる存在になる

・組織横断的なコンサルテーションを行うことができる

・患者の家族を含めた問題解決思考ができ、適切な看護

サービスが提供できる

・アセスメント能力を高め、内省しながら継続した看護

展開ができる

・緊急事態を予測し対応できる

・部署で生じた問題に対し、困難な状況下においても的

確な対応ができる

・実践モデルとして患者や看護スタッフを支援できる

看護サービスの実践能力

 個人、家族及び集団に対し卓越した看

護サービスを提供するために、理論やエ

ビデンスに基づいた豊富な知識と高度な

技術を統合し実践する能力

臨     床     実     践     能     力

・看護の質評価や改善のためのシステムをつくる

・ケアの継続性・安全性・平等性の視点から、ケアシス

テム改善へ

 の提言と、ケアプログラム開発ができる

・組織としての取り組みが必要な、ケア構造上生じる倫

理的問題の解決に向けて、高度なアセスメント能力に

基づき、改善策を提言することができる

・より質の高い、効率的なケアへ向けて、具体的な提案

をできる

・管理者や自部署内外の人材と協働し、より質の高い、

効率的なケアの実現に取り組むことができる

・看護部門全体の倫理的な課題に取組み、看護の質向上

へ向けることができる

・患者の家族を含めた問題解決思考ができ、適切な看護

サービスの評価ができる

・部署の組織分析を行い、質の高い、効率的なケアを実

施する中心的役割を担う

・効果的な患者カンファランスの実施を促進し、個々の

患者の看護計画立案、実施、評価について助言できる

・部署における倫理的意思決定を行い、適切なケアが提

供できるよう行動する

看護の質評価・改善能力

 適切な看護サービスを提供するための

看護実践の評価及び質の確保と向上に向

けて取り組む能力

・ケアチームの方向性を理解しながら、組織の目的・目

標達成を推進する

・組織やケアチームの課題を明確にし、目標を提案し、

多職種と協働しながら解決に向けて行動できる

・対象としている患者集団やケアプロセスに関して、管

理者と協働して政策への提言を考え、行動することが

できる

・看護部門の方向性を理解しながら看護単位の目的、目

標達成を推進する

・異なる意見や対立をディスカッションにより建設的な

方向へ向かうようにチームが運営ができる

・看護部門における課題を明確にし、目標を示し、看護

管理者と協働しながら解決に向けて行動できる

・部署における看護上の問題の解決に向けて看護管理者

を助けることができる。

・関連部門との連携を築き、組織の仕組みを活用して意

見を集約しながら問題解決をしていくことができる

・常にセルフマネジメント(タイムスケジュール,感情

コントロール健康管理,院内外・部署内外の活動のバ

ランス等)ができる

・自分が立案した目標が達成できる

マネージメント能力

 適切な看護サービスを提供するために、

目標管理やセルフコントロールを行い、

組織における高度な能力を有する実践家

としての役割や責務を果たす能力

・組織風土や組織構造の分析をもとに、より質の高い医

療・ケアの提供に向けて、よりオープン、安全で平等

なケアを保証するシステムづくりに寄与することがで

きる・組織内外の多職種と信頼関係を築き、様々な意

見を集約しながら問題解決とその評価を行うことがで

きる

・部門内外における組織風土や人間関係に配慮しながら、

その関係性を調整できる

・医療チームの重要な役割を担い、他者から認められて

いる

・患者に提供されている医療全体の問題解決に向けて、

チームメンバーと情報及び意見交換が円滑にできる

・部署における組織風土やパワーバランスをアセスメン

トし、それらに沿った行動ができる

・患者・家族・医療チームとの信頼関係が築ける

人間関係能力

 患者およびその家族との信頼関係を擁

立するために、コミュニケーション技術

を高めるなど人間関係を築き上げる能力、

また組織内外の多職種と協調しながら連

携を図るための能力

・専門職者として、常に内省する態度と広い視野をもち、

必要なこと を学び続けることができる・医療・ケア

の質向上に向けて、組織内外の多職種を巻き込んで 

教育機能を発揮する

・組織横断的に活動する際に必要となる知識や技術を自

ら学び続けることができる

・組織や医療チームに必要な教育を立案・実施・評価で

きる

・看護部門の人材育成計画に参画し、看護ケアの質保証

に貢献することができる

・専門看護師教育課程等の研修生などに対し、指導要綱

に即して教育ができる

・専門看護分野において院外の研修講師を務めることが

できる

・部署で必要とされる最新の知識や技術を自ら学び続け

ることができる

・看護学生や看護スタッフが行う患者カンファレンスの

計画および助言・指導ができる

・看護スタッフや学生に対して看護実践モデルとして高

度実践を示すことができる

・部署で必要な教育内容について学習会等を企画・実

施・評価できる

・専門看護分野において院内の研修講師を務めることが

できる

教育能力

 看護の質を確保するために、自己を教

育したり、看護学生や看護職を教育する

能力

・専門看護分野における研究を行うことでエビデンスを

構築し、医療・ケアの質向上に向けた変革を推進する

・組織の中で必要となる看護の質向上に向けた研究に、

組織横断的に取り組むことができる

・専門看護分野において、研究指導・助言ができる

・看護実践を研究的な視点で捉え、主体的に取り組むこ

とができる

・看護の質向上のために、看護スタッフ・学生の研究活

動の模範となり、指導・助言ができる

・研究成果を看護実践に活用し、それを評価することが

できる

研究能力

 看護の質向上のために、研究を活用し

たり、また、研究に取り組むことの出来

る能力

組織:医療施設

部門:看護部/局、診療部、検査部など

部署:外来や各病棟など看護部内のセクション

主な活動範囲

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表2.千葉県立病院 専門看護師育成ラダー

CNSレベルⅢ

CNSレベルⅡ

CNSレベルⅠ

CNSになるための支援(候補者)

支援内容

・組織全体の会議で、看護局の活動として専

門看護師の役割・活動内容を説明すると共

に組織にとって有用な存在であること、横

断的に活躍することを周知する

・組織全体の会議で、活動実践・成果を報告

 する場を設ける

・看護局連絡会議(看護師長会等)等で、年

間活動計画の概要を提示する

・看護局連絡会議(看護師長会等)等で、活

動実践・成果を報告する場を設ける

・施設内の会議で専門看護師の役割・活動内

容(対象となる事例や依頼方法などを具体

的に)を説明する

・施設のホームページなどで専門看護師の役

割や存在をアピールする

・看護局連絡会議(看護師長会)等で、年間

活動計画の概要を提示する

・活動実践・成果を報告する場を設ける

・専門看護師認定取得に向けた活

動が必要なことを全師長に周知

する

・専門看護師に準じた活動が必要

なことを師長を通して看護ス

タッフに周知する

周 知

活     動     支     援

・組織内外で横断的な活動ができる部署に配

置する(院内の委員会・プロジェクト・ケ

アチームを立ち上げるなど、リーダーシッ

プがとれるように)

・看護局全体を把握しやすい部署に配置する

・院内の委員会・プロジェクト・ケアチーム

のメンバーにする

・専門性にあった部署に配置する

・関連する局内の委員会のメンバーにする

 (教育委員会・倫理委員会等)

・専門性にあった部署に配置する

・病棟内の委員会のメンバーにす

る(勉強会係・研究チーム等)

部署の配置

・組織横断的にタイムリーに活動できるよう

に、活動時間を柔軟にする

・専門看護師としての活動日を設ける

・能力や状況に合わせて、専門看護師として

の活動時間を確保する

・認定申請に向けたケースを振り

返る時間や、スーパーバイズを

受ける時間を確保する

活動時間

・組織横断的に活動できるよう体制を整える

・各部署から連絡が取れるようにPHSの携

帯や専用メールボックスの設置などの体制

を整える

・専門看護分野の専門領域と関連が大きい院

内の新たな事業の案内を、優先して伝える

・専門看護師・認定看護師の活動ファイルを

作成する

・院内の専門看護師・認定看護師が交流でき

る連絡会等を設置する

・専門看護分野と関連が大きい事

柄について、他の部署から連絡

が取れるように体制を整える

院内活動への

支援

・専門看護師が行う院外の活動について調整

を行う

・専門看護師にかかわる院内外の新たな事業

の案内を、優先して伝える

・院外活動の依頼を伝え、専門看護師が自己

決定できるようにする

・専門看護分野の専門領域と関連が大きい院

外活動への参加を支援する

・院外からの講師依頼等の窓口となり調整す

る・専門看護師と部署とを調整し支援する

・専門看護分野の専門領域と関連

が大きい院外活動への参加を支

援する

・授業や単位取得のための学習支

援や勤務調整支援を行う

院外活動への

支援

・本人の活動に関する希望を確認し、組織で

可能な調整を行ったり、組織外で必要な調

整の橋渡しを行う

・本人の活動に関する希望と、希望実現に向

けた準備状況を確認し、看護局で

 可能な調整を行う

・本人の活動に関する希望を確認し、看護局

の活動方針とすり合わせ、部署内で可能な

調整を行う

・認定申請の時期や、認定後はど

のような活動をしたいと考えて

いるのかを確認する

本人の意向確

認と調整

キ ャ リ ア 開 発

・院外のプロジェクトに参加ができるように

調整する

・必要と認めた学会参加を出張扱いとする

・専門看護師協議会への参加ができるように調整する

・関係する学会への参加を認める

専門性の発展

への支援

・到達目標とコンピテンシーを鑑みて評価する

・専門看護師の役割を担うために

必要な能力を、クリニカルラ

ダーⅣ・Ⅴを用い定期的に評価

する。

能力評価

・報告・連絡・相談窓口を明確にする

・専門看護師としての活動計画を確認する

・専門看護師の活動日誌を作成する

・定期的な活動実績の報告を受ける

・活動報告会を開催し、活動を評価する

・ニーズ調査を実施したり、第三者の活動評価を受ける

・活動日誌を作成する

・目標の具体的な行動計画を立て

師長に提示する

活動の可視化

PDCA

(目標管理)

評 価