中国内販に成功している 中小企業事例調査報告書 Ⅲ ·...

109
中国内販に成功している 中小企業事例調査報告書 2012 5 日本貿易振興機構(ジェトロ) 上海事務所

Transcript of 中国内販に成功している 中小企業事例調査報告書 Ⅲ ·...

中国内販に成功している

中小企業事例調査報告書

2012年 5月

日本貿易振興機構(ジェトロ)

上海事務所

ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的若しくは懲罰的損害

及び利益の喪失については、一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロがかか

る損害の可能性を知らされている場合であっても同様とします。

Copyright(C) 2012 JETRO. All rights reserved.

はじめに

高度経済成長を続ける中国において製品の販売やサービスの提供を図る日本の中小企業

の現地法人は、どのような事業戦略をとればよいのか。

このような問題意識を有する日本の中小企業関係者の参考に資するべく、ジェトロ上海

事務所は、非日系企業または一般消費者を対象とする事業を行っている日本の中小企業の

中国現地法人等の経営者に対するインタビュー調査を行い、その結果を「中国内販に成功

している中小企業事例調査報告書」1(2010 年 5 月)及び「中国内販に成功している中小企

業事例調査報告書Ⅱ」2(2011 年 5 月、以下「報告書Ⅱ」という。)として公表してきた。

本調査報告書はそれらの続編である3。

今回は、残念ながら、報告書Ⅱよりもインタビュー件数が大幅に減ってしまったが、デ

ジタルコンテンツ、ソフトウェア、雑貨等のこれまで取り上げることのできなかった製品

を販売している事業者に対してもインタビューを行うことができた。

事業戦略に係る先行事例の分析に当たっては、経営者がどのようなことを考えたか若し

くは考えているかというものの見方、意識・認識に係る要素が極めて重要と考える。この

ため、今回もインタビューという手法にこだわり、かつ、インタビュー記録の掲載に当た

っては、読者に少しでも多くの情報を伝えるため、できるだけ詳細な記述とするよう努め

た。そのようなわずかな記述であっても読者に何らかの有益な示唆を与えるものとなるこ

とを願う。

1 http://www.jetro.go.jp/world/asia/reports/07000277 2 http://www.jetro.go.jp/world/asia/reports/07000631 3 報告書Ⅱの公表後に行った、ワイヤーロープホイストの中国国内トップメーカーに成長した江陰 KITO

(江陰凱澄起重機械有限公司)の宇川維亜第一副総経理等へのインタビュー記事及び上海において抹茶カ

フェ店“nana’s green tea”を展開している上海清芳渓七葉餐飲(上海)有限公司の仲村享留総経理へのインタ

ビュー記事も参考になると思われる。それぞれのウェブサイトは以下のとおり。

http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/biznews/4e11658622e98

http://www.jetro.go.jp/biznews/4ea75f23ea9e8

目次

はじめに

Ⅰ.調査目的 1

Ⅱ.調査方法 1

Ⅲ.分析と考察-中国内販のために求められる戦略 4

Ⅳ.インタビュー記録 13

(事業者向け製品の製造・販売)

アイオイ上海 13

デンケン上海 18

FURNITURE LABO 23

蘇州福田金属 28

サトー上海 31

(事業者向け製品の輸入・販売)

上海ムラテック 35

初田上海 39

テクダイヤ上海 43

(事業者向けコンテンツ・ソフトウェアの開発・販売)

上海キャドセンター 48

Anhui OSS 54

(事業者向けソフトウェアの輸入・販売)

アスプローバ上海 61

(事業者向けサービスの提供)

a-Sol 65

上海エイトレント 69

(一般消費者向け製品の製造・販売)

三貴上海 74

One Hand Bakery 万賀面包 80

(一般消費者向け製品の販売)

上海月桂冠 85

iseya 89

杭州 KAZUMA 94

おわりに 102

- 1 -

Ⅰ.調査目的

本調査は、中国において非日系企業向けまたは一般消費者向けの製品の販売またはサ

ービスの提供に成功している若しくは成功しつつある、日本の中小企業の出資する中国

現地法人の経営者等にインタビューを行うことにより、その共通的な事業戦略を明らか

にする(注)。また、インタビュー記録を含む調査結果の公表を通じ、中国における非日

系企業向けまたは一般消費者向けの製品の販売またはサービスの提供に取り組んでいる

若しくは取り組もうとしている日本の中小企業及びその中国現地法人の関係者にとって

参考となるべき情報提供を行う。以上が本調査の目的である。

(注)本報告書においては、「中国内販」を「中国における非日系企業向けまたは一般消

費者向けの製品の販売またはサービスの提供」と定義する。

Ⅱ.調査方法

1.インタビュー対象企業の探索方法

インタビューの対象企業については、ジェトロ上海事務所の管轄地域に所在し、かつ、

中国内販を一定程度行っている、日本の中小企業(それ以外を含む。)からの出資により

設立された現地法人または日本人が中国で興した法人を、ファクトリーネットワークチ

ャイナ(工場網信息諮詢(上海)有限公司)及びメディア漫歩(上海漫歩創媒広告有限公

司)の知見を活用して探索した。加えて、一部はジェトロ上海事務所自らが補足的にそ

れを探索した。

ファクトリーネットワークチャイナは、中国において活動する約 1 万 3 千社に及ぶ事

業者(中資企業、日系企業等を含む。)に係るデータベースを保有するとともに、それを

活用してビジネスマッチング事業を行っており、特に製造業に携わる日系企業に関する

深い知見を有している。

メディア漫歩は、中国全土に 8 拠点(上海、北京、天津、大連、蘇州、無錫、広州及

び深圳)を設け、在中国邦人・日系企業向けにフリーペーパー(「ウェネバービズチャイ

ナ」、「ビズプレッソ」(http://bizpresso.net))の発行、イベントの開催、ダイレクトメ

ールの発送等の事業を展開しており、幅広い業種の日系企業に関する深い知見を有して

いる。

2.インタビュー対象者

上記1.の探索に基づき、以下の計 18 社の経営者若しくはそれに準ずる者を対象とし

てインタビューを行った。

- 2 -

なお、本調査は中国内販を一定程度行っている現地法人を網羅的に対象とするもので

なく、あくまでもサンプル調査である。

○インタビュー対象企業

今回、インタビューを行った企業の略称及び主な事業内容は、以下のとおりである

(正式名称等は下記Ⅳ.を参照のこと。)。

このうち、蘇州福田金属、サトー上海、上海ムラテック及び上海月桂冠の日本親会

社は、中小企業ではない。また、FURNITURE LABO、Anhui OSS、a-Sol、One Hand

Bakery 万賀面包及び iseya は、日本人が中国で興した企業であるため、日本に親会社

はない。

<事業者向け製品の製造・販売>

アイオイ上海:電子表示器及び関連機器の製造・販売、関連情報システムの開発

デンケン上海:織機用コントローラー、産業機械用制御盤の製造・販売

FURNITURE LABO:家具の製造・販売

蘇州福田金属:銅箔の製造・販売

サトー上海:バーコード等の自動識別システムの提案、プリンター、自動ラベル貼

付機器、スキャナー、サプライ製品、関連ソフトウェア等の販売

<事業者向け製品の輸入・販売>

上海ムラテック:繊維機械、物流倉庫、工作機械、情報機器の販売及びメンテナン

ス、中国国内部品調達及び組み付け、加工

初田上海:業務用消火器の販売

テクダイヤ上海:セラミックコンデンサ、ダイヤモンド工具等の輸入・販売

<事業者向けコンテンツ・ソフトウェアの開発・販売>

上海キャドセンター:3 次元 CG&VR 等のコンテンツの制作・販売

Anhui OSS:ソフトウェアの開発・販売、コンサルティング

<事業者向けソフトウェアの販売>

アスプローバ上海:生産計画ソフトウェア(スケジューラー)の販売

<事業者向けサービスの提供>

a-Sol:生産・物流現場の改善活動に係る指導、助言、現場管理システムの開発、販

売、生産改善設備の設計、開発

上海エイトレント:物品のレンタルサービスの提供

- 3 -

<一般消費者向け製品の製造・販売>

三貴上海:車椅子の製造・販売

One Hand Bakery 万賀面包:パンの製造・販売

<一般消費者向け製品の販売>

上海月桂冠:日本酒の製造・販売

iseya:雑貨の販売

杭州 KAZUMA :カーテン、インテリア雑貨の販売

3.インタビュー実施時期

インタビューの実施時期は 2012 年 2 月~4 月であり、下記Ⅳ.の個々のインタビュー

記録の文末にそれぞれのインタビュー実施日を記載した。

- 4 -

Ⅲ.分析と考察-中国内販のために求められる事業戦略

個々のインタビュー結果は下記Ⅳ.のインタビュー記録のとおりである。これに基づき、

以下では、日本の中小企業の現地法人が中国内販のためにとるべき共通的な事業戦略につ

いて考察してみたい。

1.報告書Ⅱで提示した事業戦略との関係

報告書Ⅱにおいては、製品・サービスの開発-生産-販売・提供というプロセスにわ

たる、物、サービス、金、情報等の一連の循環を経営サイクルと称し、中国内販を「中

国市場に対応して経営サイクルの好循環を実現すること」と捉えた上で、適当と考えら

れる戦略を提示した。

技術情報、市場情報等

資金、市場情報等

製品・サービス

図:経営サイクル

具体的には、報告書Ⅱでは、以下の 12 の戦略を提示した4。

○製品・サービスの開発・生産段階

①日本産の技術・ノウハウによる差別化

②親会社の事業にとらわれない事業展開

③市場の空白地帯を狙う

④自前で開発

⑤品質の確保

⑥コスト削減

○製品・サービスの販売・提供段階

⑦顧客獲得努力

⑧需要の創造

⑨拡大する需要を取り込む

○共通基盤

⑩現地法人への権限委譲

⑪日本親会社の経営トップの適切な関与

⑫現地のよきパートナーを見出す

4 報告書ⅡP4~P12 参照のこと。

開発

販売・提供 生産

- 5 -

そこで、まず、今回のインタビュー結果から、各社がどの程度上記 12 の戦略に当ては

まるのかを整理してみたい。この作業は、報告書Ⅱで提示した戦略の妥当性を批判的に

検証する上でも有益と考えられる。

一部不明なところもあるが、おおむね次ページの表のとおり整理することができ、そ

れぞれの戦略ごとに傾向を分析すると、以下の(1)~(10)となる。

(1)日本産の技術・ノウハウによる差別化

表を見みれば分かるように、ほとんどのインタビュー対象企業が「①日本産の技術・

ノウハウによる差別化」を図っていると見ることができる。

その例外として、FURNITURE LABO の場合、日本人も参画しているものの、欧州

の技術をベースに家具を製造しており、日本産の技術・ノウハウの寄与度は限定的と

見られる。また、上海キャドセンターの場合、中国において求められる CG コンテン

ツの趣向は日本と相当異なるため、日本親会社向けのコンテンツ制作能力を国内販売

に直ちに活かすことができないというのも興味深い。

(2)親会社の事業にとらわれない事業展開

表から分かるように、「②親会社の事業にとらわれない事業展開」という大胆な戦略

を実践していると見られる企業は少なかった。

ただし、デンケン上海の場合、織機用の省エネ型モーターを日系企業と共同開発し

たり、中資メーカーと共同で従来と異なる分野の織機を開発したりするなど、親会社

の経営資源を活かしつつ、中国市場に対応した独自の取組をしていると見ることがで

きる。

また、中国で興った企業(FURNITURE LABO、Anhui OSS、a-Sol、One Hand

Bakery 万賀面包及び iseya)は、日本親会社がないのである意味当然だが、独自の事

業展開を行っていると見ることができる。

(3)市場の空白地帯を狙う

上海エイトレントは、それまで中国においてほとんど普及していなかった物品のレ

ンタルというサービス提供を行っている。a-Sol の場合、日本流の生産技術・ノウハウ

に基づく生産・流通現場の改善指導という新たなサービスを導入している。三貴上海

は、廉価なアルミ製の車椅子を中国で初めて普及させた。これらの企業は、「③市場の

空白地帯を狙う」という戦略を実践していると見ることができる。

その他の企業の場合、従来から類似の製品は存在していたものの、それぞれ細かく

区切った市場分野においては、やはり新しいと認識され得るような製品を提供してい

ると見ることができる。

- 6 -

アイ

オイ

上海

デン

ケン

上海

FU

RN

ITU

RE L

AB

O蘇

州福

田金

属サ

トー

上海

上海

ムラ

テッ

ク初

田上

海テ

クダ

イヤ

上海

上海

キャ

ドセ

ンタ

ーAnhui

OSS

アス

プロ

ーバ

上海

a-Sol

上海

エイ

トレ

ント

三貴

上海

One H

and

Bak

ery

万賀

面包

上海

月桂

冠is

eya

杭州

KA

ZU

MA

①日

本産

の技

術・ノ

ウハ

ウに

よる

差別

化○

○△

○○

○○

○△

○○

○○

○○

○○

②親

会社

の事

業に

とら

われ

ない

事業

展開

×△

○×

××

××

△○

×○

××

○×

○×

③市

場の

空白

地帯

を狙

う△

△△

△△

△△

△△

△△

○○

○△

△△

④自

前で

開発

○△

○×

△△

△△

○△

○-

○△

④’中

国市

場向

けに

開発

○○

×○

○△

××

○○

△○

○○

△○

○△

⑤品

質の

確保

○○

○○

○○

--

○-

-○

○○

○○

○○

⑥コ

スト

削減

○○

○○

○○

--

○○

○-

○○

-○

○○

⑦顧

客獲

得努

力○

○△

○○

○○

○○

○○

○△

○△

○○

⑧需

要の

創造

△×

△×

△×

××

×△

△△

△×

×△

△△

⑨拡

大す

る需

要を

取り

込む

○○

○○

○○

○○

○○

○○

○○

○○

○○

⑩現

地法

人へ

の権

限委

譲○

○-

○-

○-

○○

○○

-○

⑪日

本親

会社

の経

営ト

ップ

の適

切な

関与

--

--

--

--

--

○-

⑫現

地の

よき

パー

トナ

ーを

見出

す○

--

-○

○○

○○

-○

-△

--

○-

表:前

報告

書で

提示

した

戦略

への

適合

関係

(注)あ

くま

でも

イン

タビ

ュー

結果

から

得ら

れた

情報

に基

づく整

理で

ある

ため

、実

態と

は異

なる

可能

性が

ある

○:当

ては

まる

。 

△:一

部当

ては

まる

。 

×:当

ては

まら

ない

。 

-:不

明。

- 7 -

(4)自前で開発

自ら自社に開発部門を設けているような企業は少なかったが、電子表示器等を製造

しているアイオイ上海の場合、中国における使用環境が日本とは異なるため、社内に

技術開発部門を設けて、中国仕様の製品を自主開発している。また、雑貨を販売して

いる iseya は、店舗で聴取した顧客の意見を受け入れて、商品改良を重ねている。

表においては、「④’中国市場向けに開発」として、日本親会社との連携等により、中

国市場向けの製品・サービスを開発しているか否かについても整理してみた。全世界

へ向けて製品を製造・販売しているような企業については、特に中国市場向けの製品

開発を行っていないという傾向が見られるものの、その他の多くの企業が中国市場向

けの製品・サービスの開発を行っていると評価することができる。例えば、日本のサ

ービスは中国では過剰になりやすいので、過剰な部分を削り、その分価格を引き下げ

ている日本エイトレントも中国市場向けにサービス内容を開発しているということが

できる。

一方で、One Hand Bakery 万賀面包のように、上海在住の日本人向けに作っている

パンが中国人等の支持も得ているという興味深い事例もあった。

(5)品質の確保・コスト削減

「⑤品質の確保」及び「⑥コスト削減」については、ほぼすべての企業が取り組ん

でいると見ることができる。例えば、アイオイ上海の場合、品質確保のため、協力会

社から納入される部材を入念に品質評価・検査している。また、コスト削減に関して

は、デンケン上海の場合、華東地域の上海、呉江及び泰州の 3 か所に生産拠点を確保

しているところ、それぞれのコスト比が 1:1/2:1/4 であることを踏まえて、最適な生

産配置に取り組んでいる。

(6)顧客獲得努力

「⑦顧客獲得努力」という戦略については、ほとんどの企業が実践していると見ら

れる。ただし、少数ながら、中国内販に関してそれほど積極的に顧客獲得努力を行っ

ていないと見られるところもある。その理由としては、製造部門に経営資源をより投

入したい、日系企業や日本人向けの販促活動を優先したいといった考慮があると推察

することができる。

製品販売後のアフターサービスの充実も顧客獲得努力の重要な要素であるが、これ

を重視している企業も多かった。

(7)需要の創造

「⑧需要の創造」という戦略を実践しているといえる企業は、少なかった。これは、

未だ顕在化していない需要を顕在化させるために、企業が能動的に需要創造に取り組

- 8 -

むことが容易ではないことを表しており、むしろ難易度の高い戦略であると評価する

ことができる。

この点、サトー上海が病院で使用されるリストバンドの顧客開拓に当たり、低級品

も販売メニューに加えた上で、実際に医師や看護師にリストバンドを着けて実体験し

てもらうという手法をとっていることは、新たな需要の創造とまではいい難いが、需

要者に直接働き掛けることにより潜在的な需要を顕在化させようとする取組であり、

注目される。また、アスプローバ上海の場合、中国のメーカーに対する発信力のある

ポータルサイトと連携しつつ、セミナーで講演するなどして潜在需要の発掘に努めて

いる。

(8)拡大する需要を取り込む

今回の各インタビュー対象企業は、物流・生産工程の効率化・自動化、繊維産業、

電子部品産業、半導体産業、光通信機器産業等の発展、家具、カーテン等の室内装飾

品市場の拡大、宅配市場の拡大、映像を用いた販促活動の普及、ウェイボー(微博)

やアンドロイド系携帯端末の普及、物品調達のアウトソーシング化、高機能福祉機器

の普及、パン食や日本食の普及、おしゃれを楽しむ女性の増加等の中国において拡大

している需要を的確に取り込んでいると見ることができる。

(9)現地法人への権限委譲・日本親会社の経営トップの適切な関与

「⑩現地法人への権限委譲」に関しては、多くの企業が言及していた。例えば、上

海キャドセンターの印俊傑総経理代行・技術総監は、中国内販の成功要因として、「国

内での営業活動について、親会社から指示されることがなかったことが大きい」と述

べるとともに、「やはりローカルの人を会社のトップに立てることが必要である」、「現

地法人のトップは、中国人従業員が上司にどのように指示されたら、命懸けで頑張る

ようになるかを従業員の立場に立って理解しなくてはならない」と述べている。また、

初田上海の藤井祥司董事・総経理は、中国においては物事の意思決定に要するスピー

ドが速いので、「親会社から相当程度の権限を与えてもらわないと間に合わない」と述

べている。

さらに、企業内部の権限委譲の重要性について、アイオイ上海の張水清副総経理は、

「駐在員が一人で全部やろうとしても無理であり、権限委譲は不可避の課題である。

社員の一人一人の力を最大限発揮させることが必要である」と述べている。

なお、a-Sol の門脇圭董事長・総経理は、「私の印象では、約 7 割の日系企業は現地

で決断できていないと感じる」と述べ、現地法人への権限委譲が進んでいない日系企

業の現状を問題視している。

「⑪親会社の経営トップの適切な関与」については、当方がインタビュー対応者に

対し明示的に質問しなかったこともあり、表中「-:不明」が多くなってしまった。

- 9 -

このことは、親会社の経営トップの適切な関与が重要と考えている企業は少ないこと

を示していると解釈できるかもしれない。

しかしながら、「こちらにいないと現地の感覚をつかむことができない」として、毎

月 2 週間~3 週間は、上海の現地法人に来ているという三貴上海の佐藤永佳董事長(親

会社である株式会社三貴工業所の代表取締役でもある。)のような事例を今回収集する

ことができた。また、必ずしも内販に関する文脈ではないが、杭州 KAZUMA の親会

社である株式会社カズマの杭州での工場立上げに際し、数馬國治社長自らが前面に立

って地場の協力工場との関係づくりを行ったというエピソードも紹介されている。

(10)現地のよきパートナーを見出す

報告書Ⅱほどではなかったが、今回もインタビュー対応者の中に中国人幹部がいた

(アイオイ上海、上海キャドセンター、アスプローバ上海)。また、「やはり信頼でき

るパートナーをいかに見付けるかが重要」(初田上海藤井祥司董事・総経理)、「いわゆ

るマーケティングの 4P に加え、パートナーとパッションの 6P があれば、必ず成功す

る」(上海ムラテック野藤崇之総経理)、「当時も今も中国では信頼できるパートナーが

いないと必ず失敗すると思っている」(テクダイヤ上海小山真吾董事長・総経理)、「マ

ーケティング等において必ず現地のパートナーが必要になる」(アスプローバ上海徐嘉

良総経理)、「今では厚い信頼関係のある協力会社が 10 社以上もある」(杭州 KAZUMA

小寺隆治董事)など、企業の内外において現地事情に通じた信頼できるパートナーを

得ることの重要性について多くの言及があった。

また、代理店利用の必要性を強調していた各社(アイオイ上海、サトー上海、上海

月桂冠、アスプローバ上海)も、現地におけるパートナーの重要性を十分意識してい

ると見ることができよう。

以上の(1)~(10)から、報告書Ⅱで示した 12 の戦略については、必ずしも今回のインタ

ビュー対象の全企業にそのすべてが当てはまるというものではないものの、改変を要す

るとまではいえないと考えられる。

2.今回提示すべき戦略

次に、今回のインタビュー結果から、報告書Ⅱで提示した戦略以外に、中国市場に対

応して経営サイクルを好循環させるために必要と考えられる戦略を導き出すことはでき

ないだろうか。

この点、我々は、「他者に頼り切らず、自ら真剣に中国の人々や社会と向き合う」とい

う戦略をここで提示したい。

その具体的内容は、以下の(1)~(3)のとおりである。

- 10 -

(1)自らが責任感を持って中国社会の中に入り込む

今回の調査では、起業家が 4 人も含まれていたということもあり、自らが責任感を

持って経営を担うということの重要性がより伝わってきたということができる。

FURNITURE LABO の堀雄一朗董事長は、マーケティングに関し、「こちらの調査

会社のデータにはいい加減なものも多い。やはり、自分の足で取ったミクロのデータ

が最も正確である」と他者任せにしないことの重要性を説いている。また、同氏は、

中国語の習得を通じて商売相手である「オーナーの懐」に入って中国の商習慣を理解

することの重要性を強調している。同様の観点から、a-Sol の門脇圭董事長・総経理は、

別に経営するコンサルティング会社において、日本人経営者向けに、1 年間上海の大学

に語学留学を行ってもらうという研修プログラムを提供している。

One Hand Bakery 万賀面包の味志浩司董事・総経理は、経営方針の相違から、以前

の中国人共同経営者と決別したにもかかわらず、その後、新たに会社を設立し直して、

パンの製造・販売を再開し、軌道に乗せている。

iseyaの伊勢利子総経理は、会社設立準備段階から頼りにしていた日本語のできる現

地採用社員が辞職した後、「これからは自分たちでやるしかないと覚悟を決めたら、新

しい力が湧いてきた。もう怖いものはなくなり、何でも自分たちでできるようになっ

た」と自らが主体的に事業に関与することの重要性を説いている。息子の伊勢寿哉副

総経理は、インターネットを通じて、毎日のように中国人顧客とコミュニケーション

をとっている。

「必要なことは、どれだけ相手の懐に飛び込めるのかである」と語る Anhui OSS の

中尾貴光董事長・総経理は、安徽省馬鞍山市で初めての外国人起業家となり、地元の

政府、大学等の関係者と対等に交流し、それを事業に活かしている。

これらの起業家たちは、国、社会、文化等の境を乗り越えて、他人任せにするので

はなく、自らの責任で経営を実践するという個人の有する自立性・可能性を体現して

いるということができる。

このようにすべてを他者任せにせず、自らが中国の人々や社会の中に入り込んで実

践することの重要性を説いているのは、これら起業家だけに限らない。「こちらの文化

を尊重し、必要な要素は取り入れていかなくてはならない」(アイオイ上海磯崎和馬営

業本部本部長)、「こちらで事業に従事する日本人は、こちらの人も日本人になって欲

しいと思いがちだが、日本人の方が特殊だということを理解しなくてはならない」、「中

国人や中国文化を知ろうとすることが重要であり、まずはこちらに出て来てたくさん

の人に出会うことが必要である」(上海ムラテック野藤崇之総経理)、「顧客は日本人の

施しを求めているため、私自身極力現場に出向き、直接対応するようにしている」(上

海エイトレント石垣達也董事・総経理)、「私は若い時から韓国や台湾にしょっちゅう

行って、現地の人と一緒に仕事をしていたので、日本と違うことがむしろ当たり前と

考えている」(三貴上海佐藤永佳董事長)、「日本の常識をこちらに持ち込んで話しても

- 11 -

無理である」(杭州 KAZUMA 小寺隆治董事)等の言葉がその精神を言い表していると

いえよう。

(2)代理店に頼り切らず、自ら生きた情報を収集・活用する

今回のインタビュー調査の中でも、適切な代理店を利用することの重要性を説いて

いる企業は多かった(アイオイ上海、サトー上海、上海月桂冠、アスプローバ上海)。

ただし、それら企業も、実際の販促活動に当たっては、自社と代理店が共同で行った

り、代理店に対する研修やアフターサービスに力を入れたりしており、代理店にすべ

てを任せ切っているというところはなかった。

一方で、それとは対照的に、「私は、中国で代理店方式を採用すると絶対に失敗する

と思っている。代理店が力をつけてくると、代理店に市場をコントロールされてしま

うことになりかねない」(デンケン上海平石耕三董事長)という代理店利用を否定する

意見もあった。同社の場合、自社社員が直接エンドユーザー(生地メーカー)や織機

メーカーを回って情報収集を行うことにより、そこで獲得した情報を新製品の開発に

活用し、追い上げてくる中資メーカーのさらに先を行くことが可能になっている。今

回のインタビュー対象企業の中には、このように代理店を利用せず、直接販売を行っ

ているところも多かった。店舗を設けて一般消費者向けの販売を行っている iseya の伊

勢利子総経理の場合、「現場から目を離しては駄目である。市場の情報をいち早くキャ

ッチして、それをいち早く商品化する」と、直接獲得した情報を製品開発に迅速に反

映させることの重要性を語っている。これらの企業は、経営サイクルをより主体的か

つ直接的に循環させることができているといえよう。

代理店を利用するか否かの判断は、当該企業の扱う製品の種類や形態、企業規模、

顧客数等によっても左右されるであろうが、仮に代理店を利用する場合であっても、

できる限り当該企業自らが顧客ニーズ等の生きた情報の収集及び活用に努めることが

重要と考えられる。

(3)社会倫理の遵守により真の信頼を得る

中国においては、組織の利益よりも個人の利益を優先する考え方が根強く、購買担

当者等が自己への不正な金品の供与(賄賂)を要求してくることがよくあるといわれ

ている。

一方で、コンプライアンス(法令遵守)が日本の親会社から強く求められる現地法

人にあっては、そのような一種の「商習慣」に直接手を染めることはできないため、

地場の代理店にその処理を行わせることもあるといわれている。

この点に関し、テクダイヤ上海の小山真吾董事長・総経理がインタビューの中で、

同社の営業担当者に対し賄賂の贈与を禁止していると話していたのが印象的であった。

同氏には、かつて台湾の子会社に勤務していた際、「アンダーテーブル」の誘惑を 1 年

- 12 -

間受け続けたが、ちょうど 1 年経ったその次の日から、その誘惑が止んだという経験

があるという。「その時私は、彼らから、お前を日本人として扱うのを止めたよ、同じ

ソサイエティの人間として扱うよと言われたような気がした」と語っている。

上記は、中国本土での実例ではないが、このような実体験から、人と人の信頼関係

の構築に当たって賄賂の授受がむしろその阻害要因になるという考え方には、相当程

度説得力があるといえよう。

中国内販のためには、現地の商慣習に適用していかなくてはならない。中国におい

ては、賄賂の授受は社会倫理に反さないという反論もあり得るかもしれない。

しかしながら、最近、中国において、食品安全問題、環境問題の頻発等から、倫理

観の再構築や法治の実現について、人々の関心がより高まっているのも事実である。

このような社会の変革期においてこそ、真面目と評されることの多い日系企業は、法

令及び社会倫理を遵守することにより、中国の人々や社会から真の信頼を得ることが

できるのではないだろうか。

中国内販を実践するためにも、日系企業は、法令及び社会倫理に背いてもよしとす

る誘惑に決して屈してはならないのである。なぜなら、中国内販とは、究極的には、

その企業が中国の人々や社会から真に信頼され、彼らにとって必要不可欠な一員にな

ることへの飽くなき追求、すなわち、中国社会における絶えざる自己存在確認に他な

らないのだから。

- 13 -

Ⅲ.インタビュー記録

アイオイ上海

会社名:愛鴎自動化系統(上海)有限公司

所在地:上海市閔行区莘荘工業区申旺路

518号 103A室

設立年:2004年

資本金:1.4億円

従業員数:42人

主な事業内容:電子表示器及び関連機器の

製造・販売、関連情報システ

ムの開発

日本親会社:株式会社アイオイ・システム(東京都)

インタビュー対応者:副総経理 張水清氏、技術統括部部長 井上淳一氏、営業本部本部

長 磯崎和馬氏

Q:会社設立の経緯は?

A:物流倉庫等の現場では、確実に商

品を出荷するためにピッキング

(「摘み取り」)したり、アソート

(「種まき」)したりすることが求め

られる。これらの作業を漏れなく、

かつ、片手に紙のリストを持ったり

することなく効率よく行うために、

必要な数量等を表示し、かつ、作業

終了後に押される確認ボタンの付いた電子表示器が必要になる。日本の親会社である株

式会社アイオイ・システムは、2 線で電力とデータを送ることができる「AI-NET チッ

プ」を世界で初めて開発し、低コスト、設置に要する作業も簡易等の高い評価を得てい

る。アイオイ・システムの電子表示器は、日本、欧州、米国等の先進国の市場では約 60%

~70%の市場シェアを有している。

中国に関しては、高度経済成長に伴い物流の効率化が求められるようになるだろうと

いう判断の下、2002 年に駐在員事務所を設立し、情報収集等を行った後、2004 年に電

子表示器を製造・販売するための現地法人である当社を設立した。

Q:当初から内販が目的であったということか?

- 14 -

A:従来からアイオイ・システムは、マーケットが先にありきで考えている。このため、

先進国向けの販売が先行していたが、2004 年以降中国内販を目指して進出した。

Q:最近の業績はどうか?

A:世界金融危機の影響により若干停滞したが、最近は盛り返した。平均すると年率約 30%

~40%増で伸びている。

Q:どのような業種の事業者が貴社の製品を利用しているのか?

A:納入先は大別すると、流通系企業が全体の約 77%を占め、製造系企業が約 21%を占め

ている。製造系企業も、製造ラインにおいて効率的な部品のピッキングシステムが必要

になる。

流通の中では、医薬品流通が全体の約 43%を占めている。これは、医薬品流通につい

ては、少量多品種の価値の高い製品を多数の地点に確実に届けるというニーズが高いか

らである。また、最近では、B to C のネット販売の普及により、関連企業の物流倉庫へ

の製品納入が増えている。この外、コンビニエンスストア、スーパー、大手家電量販店

の物流配送センター等において、当社製品が利用・活用されている。

2007 年には、ある国有の煙草会社に当社製品が採用された。例えば、上海だけでも煙

草の小売店は 30 万店もあるという。これら多数の店舗へ効率的に商品を届けるためには、

当社のシステムはとても有効である。

地方政府の中には、労働集約的な物流産業の効率化を図るために、電子表示システム

等の自動化システムの採用を補助金の給付要件にしているところもあり、このような政

策も当社製品の普及を後押ししてくれている。この外、物流専門学校に納めている例も

ある。

Q:中国市場にはスムーズに入り込むことができたのか?

A:中国の物流関係者は、日本の物流現場を視察に来ることも多く、そこでまず、当社製

品を認知してもらえた。

当社設立当初は、こちらで製造する製品の機種は少なく、大部分を日本から輸入して

販売していたが、それでは関税等の関係で価格競争力が低いことが明らかになったので、

こちらですべての機種を製造するようにした(ただし、一部商品は顧客の要望に基づき

現在も輸入・販売している。)。

このような中、物流に関するシステム設計、器材・設備の販売等を行っている日系企

業や商社が既に中国に進出していたため、それらの企業に代理店になってもらうととも

に、中資企業の代理店もあったため、比較的スムーズに中国市場に入ることができた。

現在、直接販売は売上げの約 14%しか占めておらず、約 86%が代理店販売である。

代理店は、物流システム会社、物流設備の販売会社及び物流会社の主に 3 種の業態があ

- 15 -

り、総数 90 社を超えている。非日系の代理店は全体の約 95%を占めている。

Q:非日系企業向けの販売比率はどの程度か?

A:2011 年度の売上実績で見ると、日本向けの輸出が約 25%占めているが、残りの国内販

売のうち、エンドユーザーで見ると約 84%が非日系企業向けの販売となっている。

Q:売掛金の回収に困ることはないか?

A:売掛金回収には困っている。頭金は確実に入るが、残りを支払ってもらうのに苦労す

る。相手側はほんのちょっとしたことでも支払い遅延の口実にしてくる。代理店も売掛

金回収リスクを負おうとしない。

Q:競合メーカーはどのようなところがあるのか?

A:台湾メーカーの製品が中国に輸入されている。この外、韓国メーカーや中資メーカー

も参入している。ただ、中資メーカーの製品は信頼性に劣るため、当社が参加したエン

ドユーザーによる入札において、中資メーカーが勝ち残っている例はほとんどないよう

だ。

Q:入札による価格競争は厳しいのか?

A:代理店は、全体の物流システムの一部として当社製品を納入するので、全体の価格を

引き下げなければならない際には、当然当社に対しても厳しい引下げ要請が来る。ただ

し、エンドユーザーから電子表示器については当社製品が指定される場合もある。この

ため、当社としては、品質等による差別化を図り、できるだけ多くのエンドユーザーか

ら指定されるようになることが営業目標の一つとなっている。

Q:営業担当者は何人くらいいるのか?

A:私(磯崎)を含め 5 人である。その外、CS(カスタマー・サービス)部に 3 人おり、不

具合等により連絡があるとフットワークよくエンドユーザーの所へ飛んで行き、技術ア

ドバイスや対応を行うようにしている。現地採用社員については、日本の親会社へ研修

に出すとともに、立上げ段階において、日本から派遣されたベテラン社員から技術面等

を徹底的に教育してもらった。

Q:中国市場向けの商品というのも開発しているのか?

A:中国の使用環境は日本とは異なるため、2009 年から技術開発部門を設置して、こちら

で必要な製品を開発するようにしている。日系を始めとする外資企業が指導している倉

庫は比較的オペレーションがしっかりしているが、地方では意識の違いから電子表示器

等が粗雑に扱われてしまうところもある。建物の落雷対策が十分でない、ゴミやほこり

- 16 -

がたまる、油が垂れてくるといった環境の下でも、安定的に機能する製品を開発してい

る。

Q:生産面で工夫していることは?

A:当社の場合、基幹となる IC チップは日本から輸入しているが、その他の部品はすべて

国内調達品を使用しており、協力会社に実装してもらい、こちらで製品の組立てを行っ

ている。当社としては、品質を確保するため、協力会社から納入される部材をきちんと

品質評価・検査することを重視している。こちらのメーカーの製品にはどうしてもばら

つきがある。サンプルは良品であっても、量産すると不良品であったりする。このため、

品質のばらつきをいかに少なくするかについて日々努力している。

Q:労務管理に関して気を付けていることは?

A:営業面では、あまり指示をし過ぎないよう気を付けている。指示し過ぎると、指示し

たことしかできなくなるので、できるだけ自分で考えて自分で行動できるように指導し

ている。その際、現地採用社員には、あらかじめ営業情報の共有と売掛金回収計画の作

成はしっかり行うように指示している。最近、各自に自主性を持たせるようにしたら、

売上げが伸びてきたと感じている。また、日本人駐在員は、現地採用の営業社員の話を

最後まで聞くように心掛けている。値決めの最終決断など後回しにできない相談も多い。

Q:国際的なブランド力が貴社の強みと感じたが?

A:日系の同業他社間での競争がないというのは当社の強みかもしれない。日本ではアイ

オイの製品は品質が高いと評価されているので、ユーザーが日本ブランドの製品を探そ

うとすると自ずと当社製品になる。また、中国において日系の物流関連企業の競争力が

高いというのも当社にとっては有利である。日本で培われた効率的な物流システム全体

の競争力が当社製品の販路拡大にも寄与している。

Q:専門学校への納入というのは?

A:数年前から中国の物流専門学校のカリキュラムに DPS(デジタル・ピッキング・シス

テム)が組み込まれており、物流現場の作業を体験するという教科がある。その作業体

験室の設備として、代理店の紹介により複数の物流専門学校に当社製品を納めている。

その学科で当社製品を使ってもらえれば、卒業後も当社製品を利用してくれるようにな

るのではないかと期待している。

Q:今後の展望は?

A:当社の推測では既に中国で約 50%のシェアをとっているので、これをゆるぎないレベ

ルにまで引き上げていきたい。また、当社製品を世界の市場に向けて輸出したいと考え

- 17 -

ている。このため、必要な国際認証を既にとっている。

中国では、これから都市化も進み、消費が更に伸び、ネット販売も拡大していくであ

ろう。一方で、高騰する労働コストを抑制するため、物流現場の効率化も急務となって

いる。当社の製品は、物流の効率化と正確性を両立させるシステムであるため、今後も

国内の様々な業界で使われていくと考えている。

Q:シェア拡大のために最も重要なことは?

A:更なる品質の向上である。中国の人々は物が壊れても直せばよいという考えが強いが、

粗雑に扱われる環境下においても壊れない製品を作れば、よりブランド力が向上するは

ずである。同時に、単なる価格競争には巻き込まれないようにしていきたい。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:中国は日本の隣の国であり、近い存在である。気軽に来てみたらよいと思う。ただ、

文化の違いもあり、かつ、我々はこちらで商売をさせてもらうわけだから、こちらの文

化を尊重し、必要な要素は取り入れていかなくてはならないと思う。(磯崎)

また、こちらの環境をしっかりと見て、その環境に合った物を作らなければならない。

そのためには、こちらに来て実際に見てみないと分からない。(井上)

さらに、こちらの人の力を最大限に発揮させることが最も重要である。当社の場合も、

生産、営業のそれぞれの管理者は現地採用社員である。駐在員が一人で全部やろうとし

ても無理であり、権限委譲は不可避の課題である。社員の一人一人の力を最大限発揮さ

せることが必要である。(張)

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 3 月 1 日)

- 18 -

デンケン上海

会社名:北越電研(上海)有限公司

所在地:上海市閔行区朱建路 333 弄上海優

楽加城市工業園 1号

設立年:2002年

資本金:220万ドル

従業員数:約 120人

主な事業内容:織機用コントローラー、産

業機械用制御盤の製造・販売

日本親会社:株式会社北越電研(新潟県)

インタビュー対応者:董事長 平石耕三氏

Q:会社設立の経緯は?

A:日本の親会社である株式会社北越電研は、

1990 年頃から、台湾のある織機メーカーに

コントローラーを納めていたが、1995年頃、

そこから分かれた別会社が青島に工場を設

立した。その後、元の台湾メーカーも中国

に工場を設立し、これらのメーカーに納め

た製品の修理等を行うことが必要になった

ため、2001 年にアフターサービス拠点とし

ての事務所を上海に設立した。

2000 年頃、その青島のメーカーからの発

注が大幅に減少していたが、こちらに事務所を設立してその原因を突き止めることがで

きた。実は、その青島のメーカーがさらに数社に分化し、その一部が当社製品の模倣品

を製造し始めていたのだった。そこで、中国において、価格競争力のある純正品を供給

するため、2002 年に当社を設立し、織機用コントローラーを製造・販売することにした。

Q:中国の織機市場はどのような状況なのか?

A:中国には約 168万台もの織機が普及しており、毎年 20%~30%ずつ市場が伸びている。

同時に、資材市場へ行けば、あらゆる模倣部品が売られており、道具と場所さえあれば、

誰でも織機を組み立てることができるという状況である。

当社製のコントローラーはハイエンド用の織機に使用されている。ハイエンド用の織

機は約 45 万台普及しており、そのうち約 15 万台には当社製のコントローラーが使用さ

れている。織機は一般的に 8 年~10 年の寿命なので、設備更新需要もある。景気がよく

- 19 -

なると需要が増えるが、悪くなると落ち込むというように景気変動の波を受けやすい製

品である。

中国における労働コストの上昇により、単価の安い生地作りの拠点は、ベトナム、イ

ンド、タイ等の国に移りつつある。実際、中国の生地メーカーは、ローエンド用の織機

については、千台単位でベトナム、インド等に運び出して、国外での生産を始めている。

一方で、中国の生地メーカーは、国内ではよりハイレベルな製品を作ろうとしており、

そのためにはハイレベルな織機が必要になる。このため、当社製品の売上げは今後も伸

びていくだろうと見ている。中国には、最先端の織機が日本よりも普及しており、これ

ら高級機種には当社製のコントローラーしか使われていないのが実態である。

Q:これまでの経営状況は?

A:開業後 3 年目で単年での黒字に転換したが、世界金融危機の影響を受けて、2009 年は

完全に生産が止まるくらい厳しかった。2010 年、2011 年には需要が回復し、累積損失

を取り戻した。

Q:なぜ貴社製品には競争力があるのか?

A:当社は、日本人副総経理と営業担当の現地採用社員 2 人が直接エンドユーザー及び織

機メーカーを回って、情報収集を行っている。これにより、直接顧客のニーズを把握す

ることができ、その情報に基づき新しい製品を開発することができる。このため、中国

の模倣品メーカーが追い付こうとしても 2 世代~3 世代遅くなっている。

また、当社は代理店方式を採用していない。私は、中国で代理店方式を採用すると絶

対に失敗すると思っている。代理店が力をつけてくると、代理店に市場をコントロール

されてしまうことになりかねない。私の知っている日系企業関係者の中でも、つい先日

まで「よい代理店ができた」と話していたと思っていたら、結果的にはその代理店の言

いなりにさせられているという例が多い。代理店の中には、競合メーカーの代理店を兼

ねているところも多く、リベートを得るという個人的利益を優先し、その競合メーカー

の製品の販売にばかり注力するという場合もある。また、アフターサービスも代理店に

任せてしまうと、設計図を入手した代理店が模倣品を製造するようになってしまうこと

になりかねない。

Q:新規顧客開拓のようなことも行っているのか?

A:主要な織機メーカーはすべて押さえている。エンドユーザーは、大抵複数のメーカー

の織機を使用しており、通常、当社の製品がいずれかの織機において使用されているた

め、既に主要なエンドユーザーとはすべて付き合うことができている。

Q:開発を中国で行うという構想はないのか?

- 20 -

A:こちらではハード屋はハードウェアのことしか分からず、ソフト屋はソフトウェアの

ことしか分からないというように、一人一人の専門分野が狭い。日本では、一人の技術

者にいろいろな体験をさせることにより、糸、生地、機械、ソフトウェアにわたる幅広

い知識を体得させている。また、教育の問題もあると思うが、こちらの人は新しいこと

を考えるのが苦手である。アフターサービスで少し自信をつけると、これが自分の経歴

になるとして、他社に再就職してしまう者もいる。

Q:織機用コントローラーは、100%非日系企業向け販売ということだが、産業機械用制御

盤の方はどうか?

A:産業機械用制御盤については、織機用コントローラーの生産がまだ低迷していた時に

こちらでも電気制御盤を製造しようと考え、ジェトロの展示会等でこちらに進出した日

系企業関係者と出会い、取引が始まった。当時、上海で制御盤を製造している日系企業

は当社以外にはほとんどなかったことから、日本では到底付き合ってもらえないような

大企業の現地法人とも取引している。

Q:二つの主要事業の割合はどの程度か?

A:織機用コントローラーと産業機械用制御盤の売上高比率は、おおむね 7:3。後者は、

すべて日系企業向け販売である。昨年 5 月~6 月以降、東日本大震災、円高、電力不足

等の影響もあり、中国に進出しようとする日本企業からの相談が非常に増えている。

Q:最近上海はコストが上昇しているがどうか?

A:ここ上海の工場では、一台一台の組立てに手間のかかる産業機械用制御盤を製造して

おり、流れ作業となる織機用コントローラーの組立ては呉江の分公司で行うようにして

いる。例えば、呉江の貸し工場の賃料は上海の 1/10 である。単位時間当たりのコストを

計算してみると、呉江は上海の 1/2 である。さらに、最も低いスペックの織機用コント

ローラーについては、泰州の協力工場に生産委託している。そこのコストは、呉江の 1/2

の水準である。

これからも、上海工場は全体のコントロールセンターとしての役割と単発の技術的に

難しい発注に対応する製造拠点としての役割を有し、量産に適した製品については、呉

江等で生産していくことになる。資材の調達や情報収集は上海でないと難しい。

Q:日本の大手企業と付き合ってみて何か感じることがあるか?

A:日本の本社スペックにこだわっているところとは付き合いにくい。中にはネジ一本ま

で日本製でなくては駄目だと指定してくるところもある。中国の生産能力を元から信用

していないのだ。それであれば、最初から日本で作った方がよいのではないかと思う。

こちらで成功している日系企業は、そのような社内スペックをかなぐり捨て、韓国製や

- 21 -

中国製の資材を使ってものづくりをしている。そうでなくては、中国で製造する意味が

ないと思う。

Q:貴社製品の国内調達率はどの程度か?

A:織機用コントローラーの電子基板のみ日本親会社から輸入している。付加価値ベース

では 30%程度になるので、残りの 70%程度はすべて中国調達である。

Q:今後の展望は?

A:今年は、当社の織機用コントローラーは新製品が目白押しであり、楽しみである。大

手 3 社の織機メーカーにしか販売しない限定モデルも出す。当社としては、ブランド力

の強化を狙っている。

また、最近、中国では電力の絶対量が不足しているため、エンドユーザーの省エネル

ギー意識が高まっている。このような中、富士電機、東芝のそれぞれ現地法人と共同し

て織機用の省エネ型モーターを開発した。当社は、織機用のモーターに要求されるスペ

ックに関する情報を提供し、共同開発に 3 年~4 年の歳月をかけた。昨年から販売が開

始されており、昨年は、富士電機と東芝で合わせて約 6,000 台販売し、今年は約 8,000

台の販売を見込んでいる。

さらに、約 5 年かけて中資メーカーと共同で織機に関する新製品の開発を行った。現

在この分野は事実上伊国メーカーが独占しているが、そこに新規参入することになる。

十分成算があると見ている。

他にも新しい開発のアイディアがいくつもあるので、徐々に実現させていきたい。

一昨年、当社は中国紡績機械器材工業協会の会員になることができた。これまで、中

国の繊維機械産業の発展に貢献してきたと認められたのだと思う。会員になったことに

より、政府関係の調整が格段にスムーズになったと実感している。

Q:何か懸念材料はあるのか?

A:生産能力を拡張したくても、資金の調達が容易ではない。ここは賃貸工場であり、十

分な担保にならないので、金融機関から金を借りられない。結局、親会社から調達する

ことになるが、日本の銀行は、融資に当たって親会社の業績しか考慮しない傾向がある。

最近でこそ、日本の銀行も少し変わってきて、中国子会社である当社の業績も考慮した

上で融資してくれるようになったが、まだ十分でない。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:日本で食べていける技術と仕事量があるのであれば、中国に出て来ない方がよい。資

金面、体力面で苦労するだけである。たとえよい製品を作ったとしても、よく売れるよ

うになるのは、4 年~5 年先である。それまで事業が継続できる体力がないと無理である。

- 22 -

こちらの人は新しい物に対して慎重である。昨年当社でよく売れた製品は、既に 7 年前

に発表したモデルであった。

また、既に申し上げたが、できれば代理店を通さずに直接販売すべきである。一気に

全国市場をとろうとしないで、実力の範囲内で部分的にシェアをとっていけばよいと思

う。

さらに、商標登録はお忘れなく。当社の場合、昨年、従来から登録していた「電研」

に加え、「北越」も登録するようにした。

メイン顧客である大手企業に誘われて進出しない方がよい。大手企業にとっては自社

工場の立上げのために便利なので、サプライヤーを一緒に連れて来ようとするが、3 年

~4 年経って当該大手企業の現地法人の責任者が交代してしまうと、中資企業等との競

争が始まる。その価格競争に敗れて撤退した日本の中小企業の例を私はいくつも知って

いる。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 3 月 5 日)

- 23 -

FURNITURE LABO

会社名:上海富瀾家具有限公司

所在地:上海市嘉定区馬陸鎮励学路 1368号

設立年:2008年

資本金:130万ドル

従業員数:約 210人

主な事業内容:家具の製造・販売

日本親会社:なし

インタビュー対応者:董事長 堀雄一朗氏

Q:会社設立の経緯は?

A:日本の某商社の社員として約 2 年間、上海で

不動産開発関連の仕事をした後、帰任命令を機

に上海に残りこちらで起業することとした。

2008 年に当社を設立した後、仏国のラバル社

と資本提携をし、同年から自社工場を稼働させ、

欧州の最高の技術と中国のコストを融合させた高品質かつ低価格の家具を作っている。

当初は、B to B のビジネスモデルであり、ホテル、レストラン関連のプロジェクトや世

界一流家具ブランドの OEM を行っていたが、昨年からは、自社ブランド“STELLAR

WORKS”を立ち上げ、本年から本格的に一般消費者向け市場へ進出することとしてい

る。本年 3 月末には、上海環球金融センターに初の店舗を出す予定である。

Q:一般消費者向け市場へ進出した理由は?

A:ホテル、レストラン関連のプロジェクトや一流ブランドからの OEM は、いわば請負に

近い仕事であり、クオリティの差を見積りに反映させることに限界がある。また、工場

運営において、請負の仕事だけだと繁忙期と閑散期がどうしても生じてしまうため、一

貫した経営戦略がとりにくい。このため、自社の商品開発力を養い特注製作が主流の B to

B 市場向けに自社商品の販売網を構築するとともに、川下を押さえ、自社で価格や商品

をコントロールし、かつ、安定生産を実現するため、B to C に移行したいと考えるよう

になった。

実は、上海発のグローバルブランドはまだ存在しない。どこのショッピングモールへ

行ってもほとんど欧米のブランドショップばかりである。その背景として、中国の企業

はこれまで、ミドルエンドからローエンドの大量生産ばかり行っており、クオリティや

技術力を前面に出すところがなかった。そこで、我々は、外資企業ではあるが、上海に

製造拠点を置く企業として、メイドイン・シャンハイのファクトリーブランドをつくろ

- 24 -

うと考えた。

まず、クリエイティブ・ディレクターであるトーマス・リッケ氏(デンマーク人)を

招き、彼をトップに据えてプロデュースする体制をとった。リッケ氏は、もともと英国

の権威あるデザイン雑誌「ウォールペーパー」の編集長であった者であり、目利きもで

き、様々なラグジュアリー・ブランドを立ち上げた経験も有する。家具のことにも精通

している。

新ブランドのコンセプトとしては大きく 3 つある。

まず、「クラフトマンシップ」である。我々は、工場の中身をすべて人に見せてオープ

ンにして、ハンドメイドの拘りを細かく説明し、上海で作るということをもっと自信を

持ってやっていこうと考えている。上海の利点というのは、人件費が安いため、手作業

で作っても、商品が流通する価格で収まるというコストメリットがある。また、当社は、

技術のある職人しか雇っておらず、応募者が 100 人来てもそのうち 5 人しか雇わない。

そのくらい厳選している。このような非常に高い技術を有する中国人職人のよいところ

を活かしていく。

次に「クロスカルチャー」である。当社の“STELLAR WORKS”というコンセプト

の下、様々なデザイン先進国から、建築、インテリア・グラフィック等の様々な専門分

野を代表するトップ・デザイナーに提案してもらい、それをリッケ氏がディレクション

することにより、多様な文化の要素を取り入れた新たな家具を作っていく。

最後が「ヴィンテージ」である。当社は中国の家具メーカーとしては初めて、1950 年

代の欧州の古典的名作の生産・販売ライセンスをとった。それに新しい素材や色を付け

る形で新商品の開発を行っていく。

Q:中国の家具市場をどのように見ているのか?

A:日本と比べてよいところと悪いところがあると思う。

まず、よいところとしては、①市場の相場が日本よりも高いこと、②一軒当たりの住

宅が日本よりも広いため、家具を置く環境があり、しかも、住宅市場が伸びていること、

③ホテル等の法人需要が強いことが挙げられる。当社の上海環球金融センターの店舗で

も、法人需要向けが半分以上を占めるのではないかと思う。

よくないところは、①家具のデザインがよくないこと、②店づくり(VMD)ができて

いないこと。欧州の家具のコピーをただ並べているだけで、独自の感性を持って販売し

ている人がいない。このため、あっちの店では似た物が安く売っていたので、あっちの

店に行こうという消費行動になっている。我々はこのような単なる価格競争とは一線を

引きたいと考えている。

具体的には、ストーリー性を大事にしていきたい。単にクオリティもデザインもよけ

れば売れるという時代はそろそろ世界的に終わりつつあると私は認識している。例えば、

我々の世界観、この名作がいつ作られ、どのように使われていたのかというように家具

- 25 -

とその後ろにあるストーリーをお客様に伝え、お客様がその世界観やストーリーに共感

し、これを我が家に持ち帰りたいと思うようになってもらわないと、心に響く商品には

ならないと考えている。当社は、そのような新たな価値を発信していきたい。

Q:現在は B to B の事業を行っているとのことだが、国内販売比率はどの程度か?

A:50%~60%のウェイトになっている。当社の場合、国内向け販売をターゲットにして

いるわけではなく、世界的ブランドになることを目標にしている。現在、取引している

国の数は、63 か国になる。

Q:国内向け販売をなぜここまで拡大できたのか?

A:資本提携先であり、欧州最高峰の技術を有するラバル社の技術供与の下、質の高い商

品をこちらのコストで実現したことが最も大きい。ただし、当社は、技術のある現場作

業員を優先して人材を確保しているため、営業活動を一切行っていない。それでも、欧

州の最高の技術の物をこちらのコストで作っている会社として、ホテル、設計事務所、

エージェント等に口コミで評判が広まっていった。また、世界的なデザイン雑誌に紹介

されているため、そこから国内での認知度も高まっていった。当社の代理店をやりたい

という多くの地元企業から問い合わせを受けている。

Q:中国の沿海部は労働コストの上昇が問題になっているが、影響はないのか?

A:実際の工場運営を見ると、労務費の上昇よりも作業効率の悪さの方がロスが大きい。

前工程が原因で手直しが生じたり、計画どおり資材が入らずただ待っているだけの時間

が生じてしまったりすることがある。確かに 100%価格で勝負しているような会社につ

いては、労務費の上昇により中国での生産が成り立ちにくくなるだろうが、我々はその

ような類の会社ではない。労務費が上昇しているといっても、日本で作るのとコストが

変わらないという段階に至るまでにはまだまだ時間がかかるであろう。

Q:上海でものづくりを行う利点は?

A:当社の工場は外国人技術者が現場管理しているが、地方では彼らが生活できる環境を

確保するのは難しい。また、資材の調達に当たって上海は便利であり、ロジステック面

の優位性もある。さらに、私自身も他の地域では情報があまり入らないので、上海以外

に住みたいとは思わない。

Q:消費地としての上海をどのように見ているか?

A:上海の人は感性が日本人に近いと感じるし、外国人を受容する傾向も高い。また、中

国の各地方の事業者が上海で情報を取ろうとしているため、中国で情報発信するのなら

やはり上海である。住民の所得水準は北京の方が高いかもしれないが、デザインの文化

- 26 -

も上海の方が北京よりも進んでいる。

Q:貴社の取り組んでいるブランディングが上海の人々に支持されるという自信はある

か?

A:中国の家具市場は価格差が激し過ぎ、一定の所得のある人々はその中間の価格帯で質

の良い物を求めている。このため、当社の提供する“Affordable luxury”(許容可能な

価格帯の贅沢品)というコンセプトは受け入れられるはずである。

私が中国で唯一「いいなあ」と思ったブランドに「上下」というブランドがある。こ

れは、中国の最高の素材を使い、中国のクラフトマンシップにこだわっているブランド

であり、クオリティがよく価格も一流ブランドほど高くない。その背後にあるストーリ

ー性にもこだわっている。初めてこのブランドに接した時は、このような中国のブラン

ドがついに出てきたのかと驚いた。実は、このブランドをプロデュースしているのはエ

ルメスである。このようなブランドの出現していることが中国市場の可能性を示してい

ると思う。

Q:日本のデザイン関係者に対するメッセージがあれば?

A:先日、ベトナムのサイゴンで家具関係の約 150 社が参加する国際カンファレンスがあ

ったが、日本から参加している企業はなく、日本人で参加したのは、米国企業、シンガ

ポール企業のそれぞれ幹部を務めている 2 人と私の計 3 人だけだった。この例に表され

るように、日本人・日本企業はコミュニケーション力が弱いため、ガラパゴス化してし

まっている。ここ上海にいても、日本人がこちらに来て日本人向けにしか事業をしない

人が多過ぎると感じる。これでは、日本で商売しているのとあまり変わらず、全体のパ

イが増えないと思う。そうではなく、よい感性を持った中国人、香港人、台湾人、外国

人に物を売るようにすべきである。

その際、ほとんどの日系企業はマーケティングが浅い。リアルな情報が取れていない。

言葉の壁もあってリサーチの仕事を地元の調査会社に発注したりしているが、こちらの

調査会社のデータにはいい加減なものも多い。やはり、自分の足で取ったミクロのデー

タが最も正確である。

また、ここにはなくて、日本の技術力が活かせる商品であればある程度売れるであろ

うが、ここにはあるがワンランク上といった程度のクオリティの違いしかない商品をこ

ちらで売るのは難しいと考える。

こちらの人は製品の外見を重視するところもあるので、見てくれがよければ受け入れ

られるということもあるかもしれない。ただし、その際にも、こちらの人に合う価格帯

になるよう、現地生産をするということが絶対条件になる。

日本の企業はグローバル化が遅れており、海外事務所でも未だに日本語を公用語とし

ている傾向が強過ぎる。こちらで事業を行うためには、こちらの言葉や商習慣をもっと

- 27 -

学ばなくてはならない。反対論もあるだろうが、私は言葉はものすごく大事だと思う。

中国ではオーナーの発言権が強いので、下の者と調整して積み上げてきたプロセスがオ

ーナーの一言ですぐにゼロに戻ってしまうことがあり、日本の会社は戸惑ってしまう。

また、曖昧なまま恩を売って返すというような、何とも表現しにくい中国人独特の商売

の仕方がある。このような中国独特のコミュニケーションの仕方や商習慣を学ぶために

は、オーナーの懐に入っていかなくてはならず、そのためには、言葉ができないと駄目

である。こちらでは、中国語ができないと互いに打ち解け合うことはできない。このた

め、日本の会社は、会社としてもそのような中国語のできるエキスパートを育てなくて

はならない。中国は他国以上に言葉が重要である。中国はマーケットは大きいが、同時

に、商習慣の面では最も難しい所になると思う。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 3 月 8 日)

- 28 -

蘇州福田金属

会社名:蘇州福田金属有限公司

所在地:江蘇省蘇州新区珠江路 155号

設立年:1994年

資本金:6,800万ドル

従業員数:約 415人

主な事業内容:銅箔の製造・販売

日本親会社:福田金属箔粉工業株式会

社5(京都府)

インタビュー対応者:副董事長・総経理 高井政仁氏、董事・業務部部長 谷本知明氏

Q:会社設立の経緯は?

A:日本親会社の取引先である松下電工

(当時)が中国にプリント基板の工場

をつくることになり、そこに銅箔を供

給するため、1994 年に当社を設立し

た。蘇州を選んだ理由としては、各地

の招商局から話を聞く中で、将来的に

蘇州が電子材料の生産拠点になると

判断したことが大きい。当社は、1996

年から生産を開始したが、当初は、蘇

州松下電工向けのカミフェノール基板向けの銅箔の生産が大きなウェイトを占めていた。

一方で、事業の採算性を確保する観点から、生産開始当初から、ガラスエポキシ基板

用の銅箔の生産にも着手していた。こちらの顧客は、台湾系、香港系の企業がほとんど

であったため、必然的に非日系企業との取引が中心となった。

これら電子部品メーカーがテレビ、ビデオデッキ、パソコン、携帯電話等向けの電子

基板の生産を拡大するにつれ、当社製品の需要も拡大していった。中国における電子部

品産業の成長が当社の成長要因となった。

Q:およそどのくらい拡大したのか?

A:生産開始当初は月産 250t の規模であったが、それを 500t、750t、1,000t と拡大し、

近いうちに月産 1,500t まで拡大する予定である。このペースは中国全体の市場の伸びの

ペースよりは遅いが、それでも、現時点まででも 4 倍の伸びとなっている。

5 中小企業ではない。

- 29 -

Q:非日系企業向け販売比率はどの程度か?

A:2011 年にパナソニック電工がカミフェノール基板の生産をタイの工場に集約したこと

もあり、現在、非日系企業向け販売比率は 90%前後となっている。

Q:台湾系メーカー等の販路開拓はどのように行ったのか?

A:以前から日本の親会社が台湾へ製品を輸出していたので、台湾メーカーの中国進出に

伴い、自然と取引が始まった。

日本の銅箔メーカー5 社はかつて世界シェアの 7 割~8 割を占めたことがあり、高い

評価を得ていた。このうち中国に現地法人をつくったのは当社だけであり、その意味で

は当社は独自のポジションを確保することができた。ちなみに、近年では、台湾、韓国、

中国の各銅箔メーカーが成長しており、日系 5 社の世界シェアは 30%程度に下落してい

る。

Q:それらライバルメーカーとの競争にどのように対処していく方針か?

A:銅箔の表面処理において、樹脂と密着しやすく、かつ、精密な配線を行うことができ

るような構造にするには相当な技術ノウハウが必要である。当社としては、日本親会社

の研究開発部門の支援も得ながら、引き続き技術力を上げて、顧客のニーズに常に付い

ていくつもりである。また、一定程度の生産能力がないと顧客のニーズに応えられない

ため、随時生産能力を増強していくことが必要になる。

これまでの歴史的経緯から、日系の銅箔メーカーは有利なポジションを得ているが、

他国メーカーが技術面でいつ並んでくるか予断を許さない。彼らの成長スピードは速い

ので、当社としても、時代の変化にきちんと付いていかなくてはならないと考えている。

Q:台湾系の EMS メーカーは中西部に生産拠点を新設しているが、それに対応するため、

貴社の生産拠点も中西部に新設するという可能性はあるのか?

A:顧客の生産拠点が中西部に移ったからといって、我々の工場も直ちに中西部に移す必

要があるという関係にはない。当社の場合、基本的に装置産業であり、もともと安い労

働力を求めて中国に進出したわけではない。このため、現場労働者の技術習熟が極めて

重要である。

Q:人手不足の問題には直面していないのか?

A:当社は蘇州では老舗企業であり、ほとんどの従業員が地元住民であるため、離職率は

周辺企業の中では群を抜いて低い。このため、労働力確保の問題は現時点ではないが、

今回の設備増設に伴い新たに 100 人程度雇用することになり、今回は蘇州人だけでその

人数を確保するのは難しくなると見ている。現場はいわゆる 3K 職場であり、最近は労

- 30 -

働者の気質も変わってきている。私(谷本)は、2000 年~2002 年にもここに駐在したこと

があり、当時は収入が増えるので皆喜んで残業や休日出勤を行ってくれたものだが、今

ではこちらから頼み込んで行ってもらっているような状況である。従業員の通勤用に登

録した自家用車数も、約 10 年前はたった 2 台に過ぎなかったが、今では 130 台以上に

なっている。

Q:今後の展望は?

A:中期計画で定めたように生産能力を増強して、国内の伸びる需要に着実に付いていく。

一方で、今のペースで平均賃金が上昇していくといずれ中国が世界の工場でなくなる可

能性もあるということも念頭に置きつつ対応していく必要もあると考えている。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:まず、安い労働力を求めて中国に出て来るのは諦めた方がよいと思う。

売掛代金回収の問題に関しては、業種によって異なるだろう。当社の場合、これまで

の 17 年間できちんと回収できなかった案件はわずか 3 件しかなかった。当社の業種の

場合、川下へ行くほど大企業であるため、きちんと支払ってくれるということが影響し

ているのかもしれない。

最近、日本の中小企業が複数集まって中国に進出するというニュースを耳にするが、

間接部門を減らすことができるため、よいやり方だと思う。駐在員を一人送り込むだけ

でも経費は相当かかる。当社の場合も、以前は駐在員 8 人~9 人の体制であったが、今

は 4 人の体制にしている。

Q:社内体制の現地化にも努めているのか?

A:地元政府との対応等の業務は現地出身の副総経理が中心に行っている。董事会メンバ

ーにも 2 人現地人が入っている。そのような意味では現地人材は育っているが、一方で、

次の世代では難しいかもしれないと感じている。こちらの人は基本的に個人プレーが多

く、下の人を育てるのが苦手なようだ。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 3 月 13 日)

- 31 -

サトー上海

会社名:佐藤自動識別系統国際貿易(上海)有限公司

所在地:上海市普陀区中山北路 3000 号長

城大厦

設立年:2002年

資本金:125万ドル

従業員数:約 100人

主な事業内容:バーコード等の自動識別シ

ステムの提案、プリンター、

自動ラベル貼付機器、スキャ

ナー、サプライ製品、関連ソ

フトウェア等の販売

日本親会社:株式会社サトー6

インタビュー対応者:総経理 大西裕紀氏、副総経理 池田一樹氏

Q:会社設立の経緯は?

A:ラベルは、様々な用途で用いられている。分かりやすい例でいえば、洋服等の値札で

あるが、物流においても不可欠であるし、パソコンの重要部品にも 1 点 1 点ラベルが貼

られている。そのような意味では、見えないところに張られているラベルの方が多いと

いえるかもしれない。

株式会社サトーは、日本ではラベル関連事業のトップ企業であり、日本でサトーの自

動識別を利用している多くの企業の中国進出に伴い、中国でも同様の物を使いたいとい

う要望が高まった。このため、中国の日系企業に日本と同様のサービスを提供するため、

2002 年に当社を設立した。2004 年には深圳に分公司をつくり、今年は北京にも分公司

をつくる予定である。この外、天津、大連、青島、広州、蘇州、成都に事務所がある。

このように、当初は、日系企業の進出に伴い自らも進出したわけであるが、今では非

日系企業との取引も拡大しており、日系企業向け、非日系企業向けの売上高比率は、ほ

ぼ 5:5 になっている。

Q:販売先の企業数で見ると?

A:取引企業数で見ると日系企業が圧倒的に多い。日系企業向けはほとんど直接販売の形

態をとっているが、代金回収の問題もあるため、非日系企業向けには代理店販売の形態

をとっている(一次代理店数は現在 9 社である。)。

6 中小企業ではない。

- 32 -

Q:生産は行っていないのか?

A:プリンター等については、マレーシア及びベトナムに工場があり、主にそこから輸入

しているが、中国政府系機関への納入に当たっては、国産製品であることが条件付けら

れることから、2009 年にラベル製造工場として設立した無錫工場において主力 2 機種の

プリンターの製造も行っている。

また、サトーは、本年 1 月、台湾の低価格帯のプリンター製造会社であるアルゴック

ス社(立象科技股份有限公司)を買収した。同社は中国でも相当な販路を有しており、

サトーグループ全体として、価格競争力のある商品提供ができるようになると考えてい

る。

Q:実際に中国で事業に携わってみて、中国市場の可能性はどのように見えるのか?

A:やはり潜在力は大きい。中国のバーコード・プリンター市場では、世界でトップシェ

アを持つゼブラ社が先行している。当社としては、同じやり方をとってもゼブラ社に追

い付けないので、各市場をカテゴライズして、それぞれの市場で現地企業向けの取引に

もっと入り込みたいと考えている。各市場でトップシェアを獲得できれば、結果的にゼ

ブラ社を超えることができるはずと考えている。

Q:中国市場の特徴といえるものは何かあるのか?

A:高級品と低級品に二極化している。このため、価格が高くて良い物だけを販売すると

いう方法ではうまく行かない。価格が高過ぎるとして検討対象にすらしてもらえないこ

とが多い。そこで当社では、高い物と安い物を一緒に提案することにより、高い物の価

値を分かってもらうという戦略をとっている。

成功した事例が病院において医療過誤防止のために使用されている入院患者を識別す

るためのリストバンドである。当社は 3 年前から中国でのリストバンドの販売に着手し

たが、当初はなかなか売れなかった。日本から輸入した製品は、現地製品よりも約 3 倍

も価格が高いので、病院側は試すまでもなくもう結構という反応だった。そこで、低級

品も販売メニューに加えることにし、さらに、当社の社員に実際に 2 週間リストバンド

を着けてもらい、性能の良し悪しを実体験してもらった。安い商品は異物感が大きく、

すぐに壊れてしまったり、こすれて字が読めなくなってしまったりする。このような実

体験を通じて各社員も自信を持って当社の商品を説明することができるようになった。

売り込みに行った病院においても、医師や看護師に実際にリストバンドを付けてもらっ

て性能を確認してもらうようにした。中には安い商品をまず使ってみて、やはりより上

位の商品に変えたいという病院もあった。このように実際には、性能のよい高級品にし

か注文が来ていない状況である。

このようなリストバンドの販売は、病院への営業が強い代理店と組んで一緒になって

- 33 -

販促活動を行うことにより成果を上げることができた。最近、リストバンドの売上高は

対前年比約 600%という勢いで伸びている。

Q:日本のノウハウを活かす余地は大きいということか?

A:そのとおりである。他の例で言えば、日本の宅配では当たり前のように使われている

小型ラベルプリンターに対する引合いも今ものすごく多い。現在中国でも通販事業が伸

びており、日本の事例を持ってくることによりこちらのニーズに対応できる部分は大き

いと思う。

Q:模倣品の問題はないのか?

A:ラベルのデザインが 3 か月で真似されてしまうことはある。品質は明らかに異なるの

だが、真似して製品を広く流通させるそのスピードはむしろ見倣わなければならないと

感じるほどである。

ホームページそのものが真似され、連絡先だけ別企業のものになっていたこともある。

インターフェースカードも模倣品が出て、正規品の1/3の価格で販売されたこともある。

メンテナンスの際の責任問題になりかねないので、代理店には模倣品を扱わないよう指

導しているが、2 次代理店、3 次代理店まではなかなか当社で管理することは難しい。

Q:現地化に当たって工夫している点は?

A:当社の董事長は、日本親会社の専務取締役なので、ほとんどの判断事項はこちらで決

裁することができている。また、親会社との情報共有をしっかりと行うことが重要だと

考えており、この点についてもうまく行っていると思う。

サトーの松下一雄社長は、サトーがグローバル企業としてさらに発展していくために

は、各国の文化や考え方が異なるということを理解し、その多様性を経営に活かしてい

くことが重要と考えており、昨年 10 月には「ダイバーシティ推進室」が設置されたとこ

ろである。

Q:今後の展望は?

A:日系企業向けの販売は継続的に行うとともに、非日系企業向け販売を伸ばしていくの

が目標である。非日系企業向け販売に当たっては、代理店販売が中心になるため、よい

代理店をいかに見極めるかが課題になる。また、お客様との安定的な取引関係を構築す

るという観点からも、サプライ製品(ラベル、チケット、リボン、IC タグ等)の販売を

重視していきたい。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:中国のやり方を知らないで、日本でのやり方でやると絶対にうまく行かない。信用で

- 34 -

きる代理店を見付けることが重要である。実際、日本のブランド力のある商品に対して

は、それを販売したいという代理販売の希望者が増えているようだ。このように他社に

は供給できないものをいかに市場に投入し、顧客にそのよさを分かってもらうかという

ことが重要である。その際、よいものだけで説明するのは適当でなく、比較するものを

提示しつつ説明するようにした方がよい。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 3 月 14 日)

- 35 -

上海ムラテック

会社名:村田機械(上海)有限公司、上海村田機械制造有限公司、村田自動化機械(上海)有

限公司

所在地:上海市青浦工業園区新高路 150号

設立年:1998年(村田機械(上海)有限公司)

資本金:970万ドル(3社合計)

従業員数:約 530人(3社合計)

主な事業内容:繊維機械、物流倉庫、工作

機械、情報機器の販売及び

メンテナンス、中国国内部

品調達及び組み付け、加工

日本親会社:村田機械株式会社7(京都市)

インタビュー対応者:総経理 野藤崇之氏

Q:会社設立の経緯は?

A:日本の親会社である村田機械株式会

社は、繊維機械事業において 1970 年

代後半に空気を使って糸をつなぐ自

動ワインダーのスプライサー(糸つな

ぎ機)を世界で初めて開発した。これ

により、プロセスの短縮化、省人化、

結び目のない糸、結び目のない生地の

生産等が可能となった。1970 年代後

半に村田機械の製品を求めて中国政府関係者が来訪し、以来、中国との交流が始まった。

80 年代前半からは、日系商社を介して中国の国営繊維企業に機械を輸出するようになっ

た。納入台数が増えるにつれ、納入した製品のアフターサービス拠点をつくって欲しい

という顧客要求が出てきたため、1988 年には北京にサービスセンターを開設した。

その後、中国国内で部品を購入したいという顧客の要望と販売を拡大したいという当

社の思惑が一致し、1998 年に村田機械(上海)有限公司を設立し、部品販売とアフターサ

ービスを中国にて本格的に開始し、現在では、国内 11 拠点を有し、その規模を拡大して

いる。

2001 年には、調達費用の削減を主目的に、部品調達の拡大及び機械加工や部品組立を

手始めに担う上海村田機械制造有限公司という製造会社を設立した。現在、ここで製造

7 中小企業ではない。

- 36 -

した製品は日本に一旦輸出し、日本で完成品にしてから、全世界に輸出販売している。

また、村田自動化機械(上海)有限公司は、液晶工場や半導体工場で使用されるクリー

ン搬送装置のアフターサービスを行っている。

Q:販売先は非日系企業がほとんどなのか?

A:全体の売上げの約 8 割を占める繊維機械で見ると約 95%が非日系企業向けである。物

流自動倉庫については、中国の煙草会社を始めとする中資企業の外に最近では日系メー

カーからの発注も増えている。

Q:基本的には日本から輸入した製品を販売しているということか?

A:基本的にはすべて輸入販売である。繊維機械については一部部品をこちらで作ってい

るが、最終完成品は日本で作り、それが中国に輸入されている。物流自動倉庫について

は、日本からクレーン等を輸入した上で、ラック等を中国で調達し、現場で組み上げて

いる。工作機械については 100%日本から輸入している。

Q:輸入品でもまだ中国市場でやっていけるということか?

A:価格だけで勝負してしまうと、中資メーカーに勝つことはできない。しかし、調達品

の中国産比率を上げると品質が不安定になってしまい、結果的にコストに合わなくなる

という問題もある。部品の調達環境等を考えると、日本で最終製品を作った方がよいと

現時点では考えている。

分かりやすく言えば、ここで作らなければならない理由がないと結局はメリットがな

い。どの商品であれば市場ニーズを満たすことができるのか。どこの、誰に、いくらで

売るかという戦略を立てなければ、いくらよい製品を作ってもこちらでは売れないとい

うことになってしまう。例えば、産業機械の場合、仮に価格が半額の中国製を日本に輸

出してもおそらく売れないであろう。当社の場合も、市場ニーズをよく見極めず市場が

大きいからというだけの理由で先行投資を行った事業では見直しを余儀なくされるケー

スも出てきている。

Q:最近の円高傾向の中、厳しくないのか?

A:円高に対応するためには、中国の工場の付加価値を上げなくてはならないと考えてい

る。このため、工場面積当たり、従業員一人当たりの付加価値をいかに上げるのかを常

に念頭に置いている。一方で、日本の技術をどうプロテクトするかという問題もある。

ノウハウの流出を防ぐためには、中国で作るべきでない物もある。

Q:中国の繊維機械の市場は伸びているのか?

A:昨年はこれまでで最高の納入台数であった。私は前職で東南アジア部門の統括をして

- 37 -

いたが、中国の方が圧倒的に規模が大きい。人手のかかる縫製工場が東南アジアに出て

行く動きはあるのかもしれないが、当社製品の用いられるような生地製造の工程につい

ては、中国の西部に工場を拡張するという傾向であり、東南アジア等に出て行くという

状況ではない。

Q:中国の労働コストの上昇や人手不足により、需要が伸びているものもあるのか?

A:物流自動倉庫や工作機械の平行二軸旋盤にはそれが当てはまる。例えば、自動倉庫の

場合、物を運ぶということだけでなく、多品種、小ロットの物を多数に仕分けるという

という需要が出てくると、当社製品の付加価値が生きてくる。現に、人手不足の沿海部

では、これらの機械に対するニーズが高まっている。

Q:模倣品の問題はないのか?

A:繊維機械については、中資メーカーの製造する同じような機械はいくつもあって、価

格も当社製品よりも約 3 割~4 割も安いが、だからといって中国の顧客はそのような品

質の劣る製品をあまり買おうとしない。やはり日本メーカーにしかできない品質レベル

というものがあり、そのハイレベルのニーズをどれだけ獲得できるかが大事である。低

レベルの品質で勝負したら、コスト競争で負けてしまう。このため、安定した品質とア

フターサービスにより付加価値を付けている。実際、中国の繊維企業には、世界に高品

質な製品を輸出しているところも多く、彼らは生産性が高く、高品質で、エネルギー使

用効率のよい機械を求めている。また、それらの企業は、設備更新に際しての機械の導

入規模も大きい。

このように我々の販売セグメントが中資メーカーとは異なっているため、模倣品の実

害はほとんどないが、今後、中国全体の技術力が上がってくれば脅威になってくるのも

事実である。部品に関しては模倣品が多く出回っているので、重要な部品には社名を刻

印し、刻印していない部品が使用される場合には性能が保証できず、かつ、相応のサー

ビスを提供できない旨を顧客に説明している。

Q:労働者の高い流動性等の問題はないか?

A:派遣社員は給料の多少によりすぐに動いてしまうが、一般社員はそれほど問題になっ

ていない。大規模な旅行等はできないが、社内の定期的な行事を行うなど、給料以外に

も会社への帰属意識を高めるために準備できることは行っている。定着率のよい職場を

見ると、上司と部下のコミュニケーションがうまく行っており、上司が部下をかわいが

っているのが分かる。このような職場では部下は辞めにくい。また、横並びの評価では

なく、頑張った者を正当に評価することが必要である。欧米の契約主義や資本主義、日

本的経営のいずれの要素も中国には存在している。

- 38 -

Q:これからも輸入・販売モデルを維持して行くのか?

A:機械の場合、総コストに占める人件費の割合は実はそれほど大きくない。円高である

ものの、品質、調達、効率等を総合的に考慮すると、日本で製造することが現時点では

最もよいと考えている。ただし、コスト削減の観点からは、ここ中国工場での現地調達

比率を上げなくてはならず、そのためには、部品調達先の品質レベルを向上させなくて

はならない。現状では、まだ日本と比べ大きな差があるため、指導し続けていくことが

重要だと考えている。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:どこの誰に何をいくらで売るのか、いわゆるマーケティングの 4P に加え、パートナー

とパッションの 6P があれば、必ず成功する。こちらではめまぐるしく制度が変わるの

で、まず法律、会計、税務等の規制面に関する知識は基本的に押さえておかなければな

らない。その上で、こちらに出て来て必要なコネクションをつくれば対抗できるはずだ。

私は、おもてなしの心、思いやりがあるといった日本人の素質、メンタリティ自体が

こちらでは商品になると思っている。このため、日本人の素質を意識しながら、中国で

どのような特性を出してものを売っていくのかを考えたらよい。日本流のサービスにつ

いても、それを受けるこちらの人々は日本人と同様に心地よさを感じるはずである。こ

のような日本というブランドを強く意識してできることがあるはずである。

また、こちらで事業に従事する日本人は、こちらの人も皆日本人になって欲しいと思

いがちだが、日本人の方が特殊だということを理解しなくてはならない。異質なものを

受け入れることが大事である。中国人はこういう者だということを理解した上で、理屈

が分かってもらえれば、相手から反対されることも少なくなるはずである。このように、

目標やビジョンが受け入れられれば、社員の雇用も安定するはずである。

我々にとって当たり前のこと、例えば、挨拶をする、ゴミを拾う、決められた時間に

決められたことをする、顧客から急な問い合わせを受けたら「何月何日までに応急処置

をするので、それまで待って欲しい」とまず返答する等を実践することにより、中資メ

ーカーとの違いを出すことができるようになる。

さらに、こちらでは突拍子もないことが毎日起こる。これは中国に限ったことでなく、

日本以外では、性善説だけで対応しては駄目である。物事の本質をきちんと確認して見

極めないと後で痛い目に合ってしまう。同時に、おそらくこの人なら分かるだろうとい

ういざというときに頼りになる人を何人も知っておかなければならない。

こちらでは、リスクも大きいので小さく事業を始めて大きく伸ばすのが理想であろう。

机の上で考えているだけでなく、まずやってみてそれを補正していくことが望ましい。

そのためには、中国人や中国文化を知ろうとすることが重要であり、まずはこちらに出

て来てたくさんの人に出会うことが必要である。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 2 月 12 日)

- 39 -

初田上海

会社名:初田(上海)国際貿易有限公司

所在地:上海市静安区愚園路 172 号環球世

界大厦 A座 2502室

設立年:2003年

資本金:42万ドル

従業員数:14人

主な事業内容:業務用消火器の販売

日本親会社:株式会社初田製作所(大阪府)

インタビュー対応者:董事・総経理 藤井祥司氏

Q:会社設立の経緯は?

A:当社は、半導体工場、液晶工場の前工程用製造措置、

工作機械等の産業機械に設置する消火設備を日本の

親会社である株式会社初田製作所から輸入して、国

内販売を行っている。これらの産業機械には、有機

溶剤、冷却油等の引火しやすい物質が使用されてお

り、人為的ミス等により発火することがある。万一

の火災時にいち早く消火することにより、火災によ

る製造装置への被害を最小限に抑え、迅速な復旧を

図ることが重要になる。

当初日本で産業機械とセットで販売された消火設

備が中国の経済成長に伴って中国に輸入されるよう

になった。また、日本で設置された機械の中国への

工場移設があり、中国でのメンテナンスの要望があ

り、これに対応する必要もあった。

加えて、中国での販売に当たっては、初田製作所が韓国、台湾等向け販売で採用して

いるように地元の代理店を使って販売しようとし、代理店を探してみたが、メーカーと

代理店がウィン・ウィンの関係を構築できるような適当な代理店を見付けることができ

なかった。代理店販売の場合、速やかに販路を開拓できるという利点もあるが、価格決

定等が代理店主導になってしまうおそれも多い。このため、中国については、初田製作

所が貿易・販売を行うための当社を 2003 年に設立した。

ちなみに、初田製作所は、2004 年に寧波に手提げ式消火器を製造する現地法人を設立

した。そこで製造された製品は全量日本へ輸出されている。

- 40 -

Q:貴社の製品は、普通の消火器とは異なるのか?

A:産業機械用消火器には様々な種類があるが、一般的には、炎センサーや熱センサーに

より発火を感知し、消火剤(二酸化炭素)を充満させることにより、自動消火するとい

う機能を持つ。一般的な消火器のように、粉末や水系の消火剤を噴射して消火してしま

うと、二次汚染が生じてしまうため、密閉された産業機械向けには二酸化炭素が用いら

れる。我々の消火設備には、火災をできるだけ早く検知し、確実に消火することが求め

られる。

Q:当初は日系企業向け販売が多かったのか?

A:会社設立当初は日系電機メーカーがこちらで合弁半導体工場をつくったりしていたが、

それらの工場も今では中資企業等に売却されている。このため、液晶、半導体産業機械

用製品については、台湾系、韓国系、中国系の各メーカーが納入先になっている。工作

機械用製品については、日系メーカーや欧米系メーカーが主な顧客である。

Q:非日系企業向け販売比率はどの程度か?

A:投資の波にもよるが、20%~50%である。

Q:中国市場での貴社ブランドの認知度は高いのか?

A:初田製作所は、かつて日本の半導体メーカーが勃興した時期に、半導体設備メーカー

等と一緒になり消火器の開発を行った。その後、日本の半導体設備メーカーの国際競争

力の向上に伴い、初田製品も一緒に海外に輸出されるようになったため、業界関係者の

間では初田ブランドの認知度は高い。

Q:貴社の顧客は、設備メーカーなのか、それとも設備を設置する工場なのか?

A:両方である。設備メーカーから発注される場合もあるし、工場から直接発注を受ける

場合もある。最終的には産業機械に組み合わされる製品なので、結び付きという観点で

は、設備メーカーとは切っても切れない関係である。

Q:中国市場をどのように見ているか?

A:市場も大きく、有望であるが、その分競争は激しい。工場新設の場合などは競争入札

の対象になる。

また、半導体市場は需要が大きく伸びたり、縮んだり、浮き沈みが激しいという特徴

もあり、それに対応していかなくてはならない。

産業用消火器は、日本では当たり前のように普及しているが、中国ではオプション扱

いとされることが多い。このため、経費削減等の観点から、産業用消火器の設置を選択

しない顧客も多く、その必要性を顧客に対し説明することが肝要になる。

- 41 -

Q:国内販売に当たって何か工夫していることは?

A:競合の中資メーカーと争って、価格だけで対応しても当社の中期的展望がないのは明

らかである。このため、品質やサービスの面で付加価値を付けなければならない。特に

力を入れているのは、アフターサービスである。24 時間対応の体制をとっており、工場

で不具合等があっても、すぐに対応するようにしている。また、半年に一回や一年に一

回のメンテナンスを推奨しており、顧客に安心してもらえるよう努めている。

当社製品の場合、工場側が大量に発注するものではないので、決裁レベルがトップま

でいかないことも多い。このため、ユーザー側担当者との現地採用社員同士の付き合い

が重要になる。この外、営業担当者は地方への出張や現場での施工も行わなければなら

ないため、全員男性である。

Q:模倣品の問題はないのか?

A:当社製品の市場はニッチなので、今のところ問題はない。

Q:会社の立上げ時から関与していたとのことであるが、振り返ってみてどうか?

A:最初は言葉も法律も分からず、取引先に助けてもらったりしていた。当社の場合、中

国の事情に精通する従業員がいなかったため、私が親会社に進言して、中国出身で日本

に長く住み、日本に帰化した人を親会社に採用してもらい、2005 年頃こちらに派遣して

もらった。彼は、中国と日本の両方の文化を理解しているため、中資企業向けの営業だ

けでなく、日系企業とのやり取りも含めて関係者の輪の中に入っていってくれた。やは

り、中小企業の現地法人が事業を早く軌道に乗せるためには、中国のことを分かってい

る人が必要である。

また、内部だけでなく、外部のサポートも必要である。例えば、当社の場合、会計に

ついては、会計事務所にアウトソーシングしている。

振り返ってみるとあっという間だった。日本と比べて、中国は時間の流れが速いと感

じる。決断までのスピードも速い。このため、親会社から相当程度の権限を与えてもら

わないと間に合わない。この点、当社の親会社は私に一定の権限を委任してくれている

ので、仕事はやりやすい。一方、大きな仕事では資金繰り等において親会社にバックア

ップしてもらうことが不可欠である。このように現地法人と親会社のバランスをとりな

がら仕事をさせてもらっている。

Q:政府との付き合いに当たって苦労はないのか?

A:こちらではモデルごとに公安部消防局の認定を受けないと販売することができない。

日本にも厳しい規制があるが、中国の場合、日本とは異なる厳しさがあると感じる。検

査官との付き合いも必要であるし、認定のための申請費用も驚くほど高い。表面上は出

- 42 -

てこないが、実は内資企業と外資企業では申請費用が異なっており、二重の料金体系に

なっている。ニッチな業界なので、問題にされにくいが、申請費用の回収可能性を考慮

して、新モデルの販売を躊躇することもあるくらい申請費用が高い。

Q:今後の展望は?

A:初田製作所の使命は、人命、文化、財産を守って社会に貢献することなので、中国で

もこの使命を果たし、人々の役に立っていきたい。

販売先としては、日系企業だけでなく、欧米系企業にも販路を拡大していきたい。欧

米系企業は既に産業用消火器を使っている可能性が高く、中資企業に比べれば入り込み

やすいと見ている。

また、将来的には中国市場向けの新しい商品を売っていきたい。今は、日本の商品を

中国に販売しているが、中国の規格に合わせ、かつ、現地生産によってコストを下げた

商品を開発して、それを販売していきたい。価格も付加価値の一部分だと考えているが、

価格だけでは競合企業に対抗できないので、耐用年数で付加価値を付けていくという方

策もあると考えている。半導体業界は需要の振れ幅が大きいので、現地市場向け商品を

含め 3 つくらい経営の柱となる商品を持ちたいと考えている。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:現地法人の経営というのは片手間にはできない。中小企業にとっては、大きな投資額

になる。こちらで事業を行うに当たっては、こちらの社会に入り込まなければならず、

入り込める人を見付けなければならない。こちらでは信用していたパートナーと喧嘩別

れしたという話をよく耳にするが、やはり信頼できるパートナーをいかに見付けるかが

重要である。そのようなパートナーが見付からず、現地法人が親会社から信頼されず、

親会社からあれこれ指示されるようだと、現地法人の経営はやりにくくなってしまう。

外国人就業者に対する社会保険への加入も義務付けられることになり、現地採用社員

の人件費も上昇しているので、今から日本の中小企業が中国に進出するのは難しくなる

かもしれない。特に、我々が実践してきたような日本から持ってきた物を売るというビ

ジネスモデルはだんだん成り立たなくなってくるだろう。日本でしかできない技術を使

った製品であれば、こちらで売れるだろうが、その分、模倣される危険性も高くなって

しまうだろう。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 3 月 20 日)

- 43 -

テクダイヤ上海

会社名:科鉆(上海)貿易有限公司

所在地:上海市長寧区遵義路 100号虹橋上海城 A棟

910

設立年:2006年

資本金:21万ドル

従業員数:5人

主な事業内容:セラミックコンデンサ、ダイヤモン

ド工具等の輸入・販売

日本親会社:テクダイヤ株式会社(東京都)

インタビュー対応者:董事長・総経理 小山真吾氏

Q:会社設立の経緯は?

A:日本親会社であるテクダイヤ株式会社は、

私の父小山悦雄が地球上で最も硬い鉱物

であるダイヤモンドを工具として利用・

普及させようとして、1976年に創業した。

現在は、通信機器等で利用されるセラミ

ックコンデンサ、半導体製造等で使用さ

れる精密工具(カッター、スクライバー

(画線器)等)等を製造・販売している。

私は、テクダイヤの代表取締役でもある。

2000 年代半ばから中国が LED や光通信機器の製造拠点となってきたため、テクダイ

ヤも販路を求めて中国に進出することにした。日本企業なので上海に出るという単純な

構想もあったが、それではあまりにもステレオタイプ過ぎて、テクダイヤらしくない、

テクダイヤは中小企業らしくゲリラ的に中国のどの地域に出てもよいと思った。ただ、

そこに進出した根拠をきちんと説明できる所に出たかった。

そこで、2004 年に香港に事務所を設立し、情報収集等を行った。私は、当時も今も中

国では信頼できるパートナーがいないと必ず失敗すると思っている。当時は、まだ信頼

できる中国人の友人がいなかったこともあり、リスクを遮断できる香港を選んだ。

その後、中国は、今後どこかの点としての場所が伸びていくという視点ではなく、全

体的に面で伸びていくという視点で捉えるべきだと悟った。また、当社ユーザーの生産

拠点の多い沿海部をまず当社の市場と捉え、それから徐々に内陸に広げていくことが適

当であると考えた。そこで、沿海部のいくつかの主要都市の中から、最もインフラが整

備されており、かつ、国内線の発着本数の最も多い上海に現地法人を設立することにし

- 44 -

た。

2006 年 12 月に当社を設立したが、ここは営業活動のみを行い、実際の販売契約は日

本の親会社が行っている。

Q:貴社製品の強みは?

A:現在の中国向け主力製品であるセラミックコンデンサは、極微小・極薄な構造にいか

に多くの電気を貯め込めるかが勝負である。当社のセラミックコンデンサは、30 年以上

前にまず米国のシリコンバレーでその性能が認められ、その後、日本でも支持されるよ

うになった。例えば、単層基板セラミックコンデンサの場合、世界でもメーカーが 5 社

程度しかないニッチな市場であるが、当社製品は、その中で 1 位、2 位を争うブランド

力を有している。

中国の通信機器産業は、歴史的に欧米企業の生産受託から始まっているため、その設

計思想の基本は欧米から入ってきている。このため、機器の設計段階から、当社製のセ

ラミックコンデンサを指定している場合もある。また、欧米に留学して戻ってきた中国

人技術者も当社のブランド名は知っていることが多い。

Q:現在の中国事業の状況は?

A:右肩上がりの上り調子であり、明るい未来が描けている。ただし、競争は厳しい。

Q:中国における非日系企業向け販売比率はどの程度か?

A:約 99%である。

Q:営業活動に当たって苦労する点は?

A:セラミックコンデンサはいわばフケのような小さいものであるが、これを当社製品に

することにより、機器の性能が改善し、顧客企業の発展に寄与するということを説明す

ることが非常に難しい。また、顧客が海外から物を買うためには申告書類の提出等の手

間がかかる。日本企業に対しては歴史から来る抵抗感もある。このような障害を乗り越

え、当社製品を採用してもらうため、相手の心に訴え掛け、理解を得るのは相当難しい。

Q:中国特有の営業活動の難しさというものはあるか?

A:欧米企業は製品の良し悪しで判断するが、中国の場合、製品を売りに来る人の良し悪

しでその製品を採用するか否か判断する傾向が強い。このため、売る側の気持ちやハー

トが重要であり、相手に人として信頼に値すると思ってもらわなければならない。例え

ば、当社の販売員は、アンダーテーブル絶対禁止である。

Q:中国の場合、どうしてもアンダーテーブルが避けられず、真っ当な事業を貫徹するの

- 45 -

が難しいという話をよく耳にするが?

A:そのように言う人は、中国人の人間関係に本当に入り込もうとしていないのではない

かと思う。アンダーテーブルというのは、相手を馬鹿にすることに等しいと私は考えて

いる。

Q:そのような信念はどこから生まれたのか?

A:かつて台湾の子会社で営業活動を行っていた際、私自身アンダーテーブルの誘惑を 1

年間受け続けた。ところが、ちょうど 1 年経ったその次の日から、その誘惑がピタッと

止まり、相手側の話し方等のマナーが大きく変わった。その時私は、彼らから、お前を

日本人として扱うのを止めたよ、同じソサイエティの人間として扱うよと言われたよう

な気がした。現地に慣れ親しむというのはこういうことなのかと思ったし、仕事の楽し

さを感じた。同じ中華圏である中国でもこういうことがあるはずだと信じている。

私は、一回限りの人生、正々堂々と生きたい。これが根底にある考え方である。アン

ダーテーブルは自分を裏切ることである。会社は自己実現をするための場でしかなく、

自分の人生を会社のために曲げてはならないと思う。だから、上海の社員に対しても、

アンダーテーブルによってとってきた契約など要らないと話している。競合相手がより

安い価格を提示したと思えばよいと。

私が見ている限りでも、中国企業でアンダーテーブルを強要してくるような人は、そ

の会社に長くいられなくなっている。やはり、ばれてしまうのだろう。

Q:社員の採用に当たってどのような点を重視しているのか?

A:相手のバックグランドは参考程度にしかせず、ハングリーの度合い、素直さ等のエッ

センシャルな部分だけを見るようにしている。

Q:今後の中国市場をどのように見ているか?

A:光通信機器市場だけでなく、日本の LED 製造技術等が次第に中国企業に移ってくるだ

ろう。高い品質レベルを確保するためには、我々の提供する精密工具が必要になるはず

である。

Q:貴社の場合は、ブランド力が大きな成功要因と見ればよいのか?

A:ブランド力と営業力が半々くらいであろう。当社商品は開発してから 30 年以上経って

おり、その延命を図ってくれているのが営業であるといえる。今製造拠点は日本とフィ

リピンにあるが、将来的には、日本で開発して、フィリピンの現地法人で生産をし、そ

こから全世界に販売していくという構想も考えている。その場合には、テクダイヤ上海

が中国の取引先と直接販売契約を行うようになる。

- 46 -

Q:今後の展望は?

A:中国は広い。日本人のイメージする広さとは異なる広さである。営業活動においても、

一人の営業員が一社訪ねるのに一日かかってしまう。そのため、人数も必要になってく

るので、従業員を増やしたいと考えている。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:中国の人々はものすごく謙虚に成長しようとしているのに対し、日本の人は腹の底の

どこかで中国を見下している。これを早く止めた方がよい。先日、上海で新規に一人採

用するために、5 人の希望者の面接を行った。そのすべてが完璧であった。そのくらい

皆水準が高かった。何とか順番を付けて、ナンバー1 を採用することにしたが、どうし

ても当社に勤めたいと話すナンバー2 とのやり取りが印象深かったので御紹介したい。

私は上海にこんなにたくさん日系企業があるのに、どうしても当社のような中小企業に

勤めたいとする理由が理解できなかったので、相手に訊いてみた。すると、次のような

答えが返ってきた。

将来自分は中国で社長になりたいので、たとえテクダイヤ上海に採用されたとしても、

長く勤める気はない。なぜ日系企業なのか。中華圏の企業では勉強ができない。欧米系

企業のやり方は将来の中国には合わない。同じアジア圏として日系企業のやり方を参考

にしたい。だから、日系企業を選んだ。

次に、なぜ中小企業なのか。大企業では、一人一人の業務範囲が明確に定義されるた

め、他の部門の仕事について学ぶことができない。中小企業であれば、業務範囲が曖昧

であるため、いろいろな仕事をさせられる。テクダイヤ上海はメーカーなので、営業だ

けでなく、品質管理等も学ぶことができるはず。だから、人事管理のずさんな中小企業

を選んだ。

私はこのような彼の話を聞いて、一本取られたと感じた。日本では、業務マニュアル

がないと仕事ができないと不平を漏らす若者が多いが、彼の場合、むしろグレーゾーン

の大きい方がより多くのことが学べてよいという。これくらいでなくては駄目だと思う。

このままでは、将来日本は絶対に中国に勝てなくなると思った。

今の日本企業は、日本製品なのだから高くて当たり前という姿勢で中国で事業を行っ

ている。本当は中国企業に脅かされていると気付いているにもかかわらず、日本のメデ

ィアが中国には模倣品が氾濫し、食品事故も起きているなどとネガティブな情報を垂れ

流すので、だから我々は間違っていなかったと胸をなでおろし、日本人としての自尊心

を保とうとしている。そのような中国をどこかで見下すような態度を早く取り払い、も

っと真剣にやらなければ、中国では成功できないだろう。日本人は、もっと真剣になら

なければならない。中国には一生懸命地べたを這い回って努力している人がいないなど

とよもや思ってはならない。

また、安く作ろうとするのは止めた方がよい。この国の人たちには勝てない。今日は

- 47 -

どの靴を履こうかと下駄箱を見て考えている国の人は、一足の靴で一年間過ごせる国の

人に既にその時点でコスト面で勝てないのだ。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 4 月 6 日)

- 48 -

上海キャドセンター

会社名:上海科得聖倣真技術有限公司

所在地:上海市浦東新区浦東南路 1036号隆

宇大厦 2204室

資本金:100万ドル

従業員数:34人

主な事業内容:3 次元 CG&VR等のコンテン

ツの制作・販売

日本親会社:株式会社キャドセンター(東

京都)

インタビュー対応者:総経理代行・技術総監 印俊傑氏

Q:会社設立の経緯は?

A:日本の親会社である株式会社キャドセンター

は、3D ビジュアライゼーション技術を軸に、

3DCG(コンピュータ・グラフィックス)、VR

(バーチャル・リアリティ)コンテンツ、各シ

ミュレータのシステム、ウェブサイト、タッチ

式コミュニケーションシステム、3D 都市地図

データなどオリジナリティの高いコンテンツ

を開発・制作している。分かりやすい例を挙げ

ると、東京オリンピック誘致のための 3D シミ

ュレータ、地方自治体向けの地域住民にも分か

りやすい地震、津波、洪水等のハザードマップ、

分譲マンションPR用のCG等を制作している。

このような CG の制作には高い技術・経験と

相当な人的労力を要する。このため、コスト削減と人的資源の集中を図るため、2000 年

に 100%子会社として当社を設立した。

Q:国内市場に目を向けるようになったきっかけは?

A:2008 年の世界同時不況の影響により、日本の CG コンテンツ市場が縮小してきたため、

当社の業績も影響を受けた。一方で、中国における市場開発が有望と見られたため、2008

年後半から、親会社社長や当社総経理の判断の下、中国国内の市場開発に力を入れるよ

うになった。当初は、情報発信の場を増やすために見本市へ出展したり、関係者を通じ

た人脈づくりによる信頼関係の醸成に努めたりした。

- 49 -

Q:営業先はどのようなところになるのか?

A:中国では、北京オリンピックや上海万博を契機に、行政機関や企業において最新の CG

技術をプレゼン資料やデータベースリソースとして取り入れたいというニーズが高まっ

てきている。特に幹部クラスには自分の仕事を内外にアピールしたいという意向も強い。

例えば、経済開発区の概況説明を行う際、以前は将来の都市風景をジオラマ模型を用い

て説明していたが、今では CG コンテンツを用いてよりリアルに訴求していく手法がと

られるようになっている。

最近は、ハードメーカーとのタイアップも進めている。ビジュアルコンテンツ制作だ

けでなく、それをよりよく見せるためのプロジェクター、モニター等のハード機器に関

するコンサルティングを行うことにより、お客様に対するワンストップサービスの提供

が実現できている。

Q:こちらでの販売に当たって、留意すべき点は?

A:何といっても顧客との関係づくりが重要である。地場の競合会社は、大学、設計院等

の職員が創業して設立されたところが多い。そのような制作会社は、母体機関から容易

に発注を受けることができる。一方で、当社の場合、このようなバックグラウンドを持

っていないので、一から顧客との関係をつくっていかなくてはならない。そのためには、

納期の遵守、品質、メンテナンス等を通して総合的に当社の優位性を顧客に訴求してい

くことが必要である。

Q:貴社の強みは?

A:総合的な提案企画力である。単なるデジタルコンテンツ制作やコストだけでなく、モ

ニター等の設備全体のコンセプトづくりから、設計、施工、設備導入などの工程管理や

地場協力会社との協業を通じてワンストップサービスを提供できることである。これら

は日本で長年培ったノウハウであり、中国においても顧客から一定の評価を頂いている。

Q:非日系企業向けの販売比率はどの程度か?

A:2011 年度は全体の約 30%であった。ちなみに 2009 年度は 10%程度だった。中期的に

は 50%以上まで伸ばしていきたい。

Q:ここまで非日系企業向け販売を増やすことができた理由は?

A:これまで国内での営業活動について、親会社から指示されることがなかったというこ

とが大きい。このため、当社が主体性を持ちながら動くことができた。今年に入り、中

国人である私が実質的に経営を任されており、日本人駐在員はいない。

- 50 -

Q:やはり国内向け販売を増やすためには特別な対応が必要なのか?

A:日本向けコンテンツと国内向けコンテンツでは、求められているものが大きく異なる。

日本では、描画のリアリティさ、正確さが求められる。例えば、日本ではマンション販

売時に使用される物件紹介 CGと竣工後の建物デザイン、設備等に大きな違いがあると、

購入者がそれを理由に契約をキャンセルする可能性がある。

中国ではそのようなケースはほとんどないと聞いている。中国では、インパクト重視

のビジュアル展開で、いかに顧客の印象に残るかが重要であり、購入者にも物件紹介 CG

はある程度イメージアップされたものと解釈されている。当社の多くのお客様(事業者)

は、当社のコンテンツを導入することにより、どれだけ売上げに貢献するかを訊いてく

る。売上げの数字がどれだけ上がるのか明らかにするよう求めてくる。

言い方を変えれば、日本と中国ではクオリティの捉え方が異なる。中国の場合、現物

実用主義であり、事業主にとってメリットになるのであれば、それはクオリティの高い

コンテンツと評価される。

このため、当社では、営業企画チームの 3 人が専ら国内向けの営業を行うようにして

おり、彼らに対するインセンティブ制度は日本向けの仕事を行っている他の社員たちと

は異なっている。具体的には、営業企画チームには、基本給に基づいて算定する通常の

ボーナスは支給せず、部門として上げた利益の半分をチーム各員で山分けしてよいとい

う仕組みにしている。いわば成功報酬インセンティブ制度を導入している。同時に、彼

らに課す目標は、ハードルが相当高いものに設定している。このようにして彼らにある

程度の権限と報酬を与えないと、営業活動に積極的になってくれないという実情もある。

Q:社員の管理に当たって留意している点は?

A:中国人は基本的に主体性が強く、自分のメリットや将来性がないと思うと、すぐに会

社を辞めてしまう傾向が強い。そのような意味では考え方は非常にドライである。この

ため、社員にできるだけ将来のキャリアを示すように努めている。

また、新規に人を雇っても、日本企業からの細かい要求に耐えられなくなってしまう

者も多い。分かりやすくいうと、国内向けのコンテンツ制作の場合、発注単価は安いが、

例えば 1 週間で終えることができるのに対し、日本向けの場合、顧客からの細かな修正

要求に応じて何度も手直しをするため、完成までに 1 か月~1 か月半かかってしまうこ

ともある。当社も、一部制作を他の企業に外注することがあるが、普通の外注先は日本

仕様の細かさを理解できない。このため、日本向けのコンテンツについては、当社の元

社員が興した会社など日本向けの仕事を経験したことのあるところに外注するようにす

る傾向がある。

Q:社員の離職率が高いことにはどのように対処しているのか?

A:以前は 90 人ほど従業員がいたが、退職者が出た後、補充しない方針であるため、今で

- 51 -

は 34 人となり、その分筋肉質な体制になった。幹部に対しては高い給与を保証し、会社

に残すようにしている。人が足りなくなった際には新人を雇うが、その場合、ただの制

作者としてではなく、案件の全貌が把握でき、社内外のリソースをハンドリングできる

プロジェクトマネージャーとして成長する見込みのある人を採用するようにしている。

Q:人件費が上昇している中、将来的に上海で事業を継続できるのか?

A:オフショアの制作拠点としては厳しくなると思う。しかし、中国を営業拠点として捉

えるとチャンスは大いにあると考えている。この業界には、万博やオリンピックといっ

た国レベルの仕事を必ずといってもよいほど受注する大手企業もあるが、2 人~3 人の工

房のような会社も多い。そのような小企業も、顧客から直接修正要求を受けることが多

いため、上海市若しくはその近郊に多く分布している。当社の場合、中堅企業の部類に

入るが、今後、大きなプロジェクトの案件だけを内制して、残りはそれら小企業を活用

していくという事業形態になるかもしれない。

Q:単価は安くても、短期間で納品できるのであれば、国内販売を強化した方が会社全体

としての事業効率はよくなるということか?

A:当社の制作部隊は、主に日本向けのコンテンツを作ってきたため、今さら国内向けに

「手抜き」をすることはできなくなっている。また、彼らが国内向けコンテンツに求め

られるニーズや趣向を理解することも実際には難しい。

Q:貴社の場合、日本企業の強みを活かしにくいということか?

A:基幹となるソフトウェアそのものの強みは日本の親会社が開発したものである。3Dの

描画が非常に速い、ビューアの操作性が相当高い、顧客ニーズに応じてカスタマイズで

きる等の特性は、他社製品との差別化を図る上で重要な要素である。

しかし、先ほど述べたように、こちらの人の求める趣向が日本とはかなり異なるため、

当社のコンテンツ制作能力を国内市場で直ちに活かすことは難しい。また、就職希望者

の間には、当該分野における日系企業の給与水準は低いとの噂が広まっており、優秀な

人材の獲得に当たっても日系企業であることは不利な場合がある。

Q:国内販売を増やすためには、貴社が地場企業のように変わっていくことが必要という

ことか?

A:縮小傾向にあるとはいえ、日本からの受注量は依然として大きいため、まずその仕事

をきちんとこなしていくことは引き続き肝要である。

一方、国内販売を拡大していくためには、既にインセンティブ制度を導入しているよ

うに、地場企業のように経営システムを変えていかなくてはならないと感じている。た

だし、多くの地場企業が行っているように、税金や社会保険料の納付を誤魔化して、そ

- 52 -

の分社員の報酬に上乗せするといったようなことは企業倫理としてもあってはならない

と思う。私は、日本に留学した後、親会社に 3 年間勤務した経験もあり、法令の遵守、

従業員の安定雇用を通して企業の信頼性を高めていくという日本企業の強みも十分理解

している。日系企業である以上、法令や企業モラルの遵守が必要と感じている。

Q:今後の展望は?

A:日本の市場は縮小する傾向なので、従業員の生活を維持していくためにも、いかに中

国市場を獲得していくかが重要である。そのためには、社員のモチベーションを引き出

せるやり方、中国に合った経営手法を導入していきたい。

また、いくつかの成功事例を作り、当社の認知度やブランド価値を中国で高めていき

たいと考えている。

Q:今何か欲しいものはあるのか?

A:技術力と提案力をもっと高めたい。日本の親会社には技術力とノウハウがあるが、日

本の仕事でほぼ手一杯である。日本では、プログラマーと CG 制作者の給与はそれほど

変わらないが、こちらでは、プログラマーの給与の方が圧倒的に高く、優秀なプログラ

マーの場合、成功報酬により総経理よりも収入が多いこともあり得る。このため、当社

の場合、現時点で開発チームを形成し得る 3 人~4 人のプログラマーを確保することは

できないが、いずれそのような開発部隊を持ちたいと考えている。

一方で、当社には開発能力が不足しているため、最近、当社が受けた高度な仕事を日

本の親会社に発注した。日本の発注単価が低下傾向にあるのに対し、中国の発注単価は

上昇傾向にあり、いずれ同レベルになる日も近いと見ており、このような「逆オフショ

ア」とも呼べるような案件が今後増えていくかもしれない。

Q:日本の中小企業へのアドバイスがあれば?

A:やはりローカルの人を会社のトップに立てることが必要である。ただし、その際、私

のように日本の親会社や日本のやり方を熟知した者でなければ難しいだろう。

現地法人のトップは、中国人従業員が上司にどのように指示されたら、命懸けで頑張

るようになるかを従業員の立場に立って理解しなくてはならない。

これは、よくない例だが、私の知り合いの勤めている従業員数約 200 人の某日系企業

には、日本人出向者が約 30 人もおり、彼らは現地採用社員の約 10 倍の給与と家賃補助

を得ているにもかかわらず、中にはほとんど仕事をしていないような人もいると聞く。

そのような上司の下で働く中国人従業員はモチベーションが上がらないと思う。

やはり、中国人従業員にも一定の権限を与え、自ら頑張れば会社も発展し、その成果

が自分にも返ってくると思わせることが肝要だと思う。保守的で、中国人のことを信用

できない日本人が多いのは残念だと感じる。

- 53 -

また、日本は階級社会(年功序列)であると思う。実力が不足していても、部長にな

れば、下の者から尊敬される。こちらでは、実績がないと他人からは認められない。部

下の方は、自分も今すぐにでも独立して会社を作れば、総経理として上司と対等の立場

になることができると心の中で思っている人が多い。そのような人たちをまとめていく

ためには、上に立つ者には強力なリーダーシップと実践力が必要とされる。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 4 月 26 日)

- 54 -

Anhui OSS

会社名:安徽開源軟件有限公司

所在地:安徽省馬鞍山市花山区解放路 3号鴻泰新百

12階

設立年:2009年

資本金:100万元

従業員数:18人

主な事業内容:ソフトウェアの開発・販売、コンサ

ルティング

日本親会社:なし

インタビュー対応者:董事長・総経理 中尾貴光氏

Q:会社設立の経緯は?

A:2000 年頃からなんとなく自分の可能

性を試すために中国で仕事をしてみた

いと周りに話していたところ、その希

望が適い、2008 年に当時勤めていた

OS 関係の会社の上海支社の立上げの

ために上海に赴任し、その現地法人の

初代総経理を務めた。残念ながら、日

本親会社との方針の違い等もあり、1

年でその会社を辞めてしまったが、日

本には戻りたくなかった。同時に、中

国語の「ラオバン(老板)」という語感に惹かれて経営者になりたいという希望が強くな

ったので、中国で自らソフトウェア開発の会社を興すことにした。

起業の準備をしている際にいろいろな地域を回ってみたところ、馬鞍山にビビッとき

た。馬鞍山は、安徽省の中では一人当たり GDP の最も高い都市であり、李白の墓や三

国志に縁のある史跡もある。対応してくれた政府関係者の人柄もよいし、提示してくれ

たオフィスの賃料等の条件もよかった。そこで、2009 年に馬鞍山に会社を設立した。私

は馬鞍山で起業した初めての外国人だったそうで、当時は地元メディアでも取り上げら

れた。当初の従業員は私ともう一人の日本人、地元で雇った 3 人の計 5 人だった(ただ

し、その日本人はその後家庭の事情で退社してしまい、日本人は現在私一人だけである。)。

Q:設立当時の状況は?

A:私はそれまでオープンソースの OS の営業や設計に携わってきたので、会社設立当初か

- 55 -

ら、現地の IT 人材のトレーニングとアンドロイド系のソフトウェアの開発を行いたいと

考えていた(ただし、現時点では、トレーニング事業はまだ本格的に立ち上がっていな

い。)。当時から、アンドロイド系のアプリケーションのニーズが高くなるということは

分かっていた。ただ、同時に、手っとり早いのは日本からアウトソーシングの受注を獲

得することだとも思っていた。そこで、その準備のためにトレーニングを兼ねてアンド

ロイド系のアプリケーションの製品をいくつか従業員に作らせて、それを無償で公開し

たりした。今ではその一部が製品に発展している。

Q:どのようにして日本からアウトソーシングの受注を獲得することができたのか?

A:以前仲良くしていた日本の仲間がそれぞれの会社で偉くなっていて、彼らからアンド

ロイド対応のアプリケーションを開発して欲しいと頼まれることもあった。また、私の

ブログ(http://anhuioss.blog13.fc2.com/)等を見て、問い合わせをしてくる例もあった。

さらに、私はオープンソースの日本人愛好家の集まりである「上海アンドロイドの会」

の会長を務めており、この会合で問い合わせを受けることもある。

Q:何か分かりやすい例があれば?

A:例えば、ベネッセ・コーポレーションの「たまごクラブ」、「ひよこクラブ」の部門から、

中国の妊婦前・妊娠中の女性または出産後乳幼児を抱えた女性向けのスマートフォン向

けアプリケーションを開発して欲しいという依頼を受け、そのような女性たちの求める

情報をゲーム感覚で伝達できるアプリケーションを開発した。

このように最近は、中国内販を考えて、開発したものを一気通貫で中国で展開したい、

その際必要な助言付きで開発や販売のサポートをして欲しいという顧客からのニーズが

強い。

Q:アウトソーシング以外に自社でソフトウェア開発も行っているのか?

A:アウトソーシングは結局それに要した人の人数分しか売上げが上がらない。売上規模

をより大きくするためには、製品を作らなければ駄目だと考えた。そこで、2010 年から

は中国のマイクロブログ・ウェイボー(微博)の普及を見越して、社内ウェイボーの開

発を行った。これは、n 対 n の情報交換を行うにはウェイボーの機能が優れており、ま

た、ウェイボーのプラットフォームを用いて社内の情報伝達を行うようにすれば、中国

では難しいとされるホウレンソウ(報告・連絡・相談)がより円滑に実行できるように

なり、日系企業にとっても役立つのではないかという発想に基づくものである。実際、

当社内の情報伝達については、今はメールは全く使っておらず、この自社で開発した社

内ウェイボーを使っている。1 対 1 の情報交換には、ダイレクトメッセージという機能

を使えばよい。社員は、普段気軽に使っている形態でホウレンソウができるので喜んで

くれている。

- 56 -

また、これに関連して、ウェイボーに連結するアプリケーションも開発しており、ノ

ウハウが蓄積している。当社の場合、自社製品としてもウェイボーを作っているので、

ウェイボーを用いてマーケティングをしたいという人やウェイボーと連携して何かをや

りたいという人の要求に対応することができる。その際のウェイボーとの連携のさせ方

についても、クライアント(端末に組み込まれるソフトウェア)も作っているくらいな

ので、当社はノウハウを有している。例えば、以前からツィッターやフェイスブック向

けのアプリケーションやツールを作っている企業から、それをウェイボー対応にしてく

れという発注を受けている。

このように、サーバー側はウェイボーが中心であり、クライアント側はアンドロイド

が中心というのが当社の大きな戦略であり、それぞれにおいてアウトソーシングの受注

と自社製品の開発を行っている。

Q:今の中国にとってウェイボーというのはマーケティングの手段としても重要なのか?

A:重要である。日本ではウェイボーのことを「中国版ツィッター」と紹介されることが

あるがとても違和感がある。私の理解では、ウェイボーは、ツィッター+フェイスブッ

ク+αであり、いろいろなことができ、独自の進化を遂げている。だから、私は日本で

講演をする時などは、“Weibo”というアルファベットで覚えて欲しいと話している。

Q:アウトソーシングと製品開発の事業規模の割合はどの程度か?

A:現段階では、9:1 でアウトソーシングが多い。

Q:非日系企業向けの販売も行っているのか?

A:自社で製品開発したものは基本的に中資企業向けに販売している。また、中資企業が

当社のホームページを見て真面目そうなデザインなので信頼できると思ったという理由

でアウトソーシングの発注をしてきたこともある。販売先としては、8:2 で日本企業及

び日系企業向けが多い。

昨年秋、中国の某通信キャリアから当社の社内ウェイボーを試験してみたいと言われ、

今実証試験中である。特に問題がなければ、当該社の中で使用するとともに、一緒に他

社に売り込みたいと言ってくれている。中国の通信キャリアは地域ごとの独立採算制に

なっているため、別の地域の会社にも販路を開拓していく余地があると考えている。

Q:企業業績はどうか?

A:まだ累損解消までは至っていないが、単年では黒字を出している。

Q:模倣品・海賊版の問題はないのか?

A:アンドロイド系のアプリケーションについては、中国ではすぐにコピーされてしまう

- 57 -

ので、商売にならない。よって、当社の宣伝を兼ねて、ホームページ上にフリーで提供

している。

きちんと対価を獲得できるのはサーバー側にインストールする製品である。この外、

アウトソーシングの受注も対価を得ることができる。

Q:馬鞍山の地理的優位性はあるのか?

A:開発者の人件費は上海の 1/2~2/3 であり、この違いは大きい。また、当社は馬鞍山の

数少ない外資企業の一つであるため、地元政府関係者が目を掛けてくれ、いろいろな人

を紹介してくれる。これは大変ありがたい。例えば、馬鞍山には大きな大学が 3 つある

が、それらの学長と食事をすることができ、その際、「どのような人材が欲しいのか」と

尋ねられるので、「コンピュータ言語はこれが必要」と答えると、それが下の教員たちに

指示として伝わり、教員から私に問い合わせが来たりする。そのような関係ができると、

優秀な学生を紹介してもらえることもある。

また、上海までの移動時間も短くなってきている。会社設立当初は、南京-上海間の

高速鉄道がまだ開通していなかったため、上海まで片道 4 時間半程度要していたが、高

速鉄道開通後は片道 3 時間弱に短縮された。2014 年には馬鞍山-南京間も高速鉄道が開

通する予定であり、その場合、上海まで片道 2 時間弱で行くことができるのではないか

と予想される。

Q:馬鞍山の人材はどうか?

A:それなりに優秀であって、勉強熱心である。馬鞍山の大学から、日本の IT 事情につい

て講演して欲しいと言われることがあり、そのような依頼も快く受けることにしている。

最近は当社を名指しして就職を希望する学生もおり、彼らになぜ当社のことを知ってい

るのかと尋ねると、あの時大学で講演していたではないかという答えが返ってくる。こ

のように地元でも当社の知名度が上がっている。また、当社は、今流行っているアンド

ロイドとウェイボーを事業の中心に置いているので採用に当たっても有利である。

こちらの人は、自分が強いので、やりたい仕事をやるのと、やらされている仕事をや

るのとではパフォーマンスの差が激しい。当社の社員も、やりたい仕事であれば 150%

の力を発揮してくれ、深夜 2 時、3 時まで働いている。このため、私が社員を採用面接

する際には、この仕事が好きかどうかを特に重視して人物評価を行っている。

Q:馬鞍山で会社を立ち上げた際、人材育成には苦労しなかったのか?

A:最初は大変だった。日本ではこんなこと言わないよなと思えることまで、しつこいく

らい毎日、こういうことはやっては駄目だというように同じことを言い続けていた。例

えば、時間厳守、言ったことは守れ、納期は必ず守れ、他の部門と交流しろなど。今で

は、最初に採用したメンバーがリーダー役になっているので、インターン(就職希望者)

- 58 -

が入ってきた際には、私がかつて指導していたことを彼らが指導してくれているし、む

しろ私が言っていた程度よりもさらに厳しく指導してくれている。このため、最近は私

自身が怒ることはほとんどなくなった。

当社には、社内で助け合いの精神を養うための「他の部門を助けたで賞」、ホウレンソ

ウを徹底させるための「ウェイボーを活用したで賞」などの表彰制度を設けている。私

がポケットマネーから 1 つの賞当たり 50 元程度賞金を出しているだけだが、彼らにと

っては 50 元でも 5 日間の昼食が賄えるので大きい。

社員は皆始業時間の 9 時前には揃っているし、終業時間の 17 時半に帰る者はめった

にいない。少しくらい残業しても自分のせいだと言って残業代を請求しない者もいる。

そのような意味では、馬鞍山の人は真面目だと思う。

一方で、私は社員に対して勤務時間中に何をしてもよいと言っている。人は誰でも疲

れたら、気晴らしに少しゲームをしたくなったりするものである。その代わり、何を楽

しんでいるのか教えて欲しいとお願いしている。そうすることで、私自身が今のトレン

ドを知ることができ、その最新の知識をコンサルティングや新製品の開発に役立てるこ

とができる。

Q:従業員とのコミュニケーションはどのようにしているのか?

A:最初は日本語のできる社員と一緒に対応していたが、彼も自分の仕事があって忙しい

ので、今では私一人で対応している。中国語を聞き取ることはほとんど問題なくなった。

ただ、私のしゃべる中国語が正確ではないので、むしろ部下たちが私の変な中国語を聞

き取る能力が上がってきているのだと思う。メールやウェイボーには中国語でメッセー

ジを打ち込んでいる。

こちらの人とは遠慮せずに言いたいことをはっきりと言い合えるのがよい。私の性に

合っていると思う。

Q:馬鞍山では家族と一緒に住んでいるのか?

A:日本で結婚した私の妻がたまたま中国人ということもあり、馬鞍山で娘を含む家族 3

人で暮らしている。5 歳の娘は地元の幼稚園に通っている。

Q:何か生活面で不便な点はないのか?

A:夜小腹が空いた時にコンビニエンスストアがないのが不便と感じる程度である。

地元政府関係者がよくしてくれるので、何かあるとすぐに彼らに相談できるのが大き

い。馬鞍山は日本企業にお薦めしたい進出地である。

Q:中国の IT 業界をどのように見ているのか?

A:メーカーの動向は日本よりも中国の方が進んでいる。特に製品化のスピードが速い。

- 59 -

世の中の流れが速いので、経営スピードの速い中国企業の方が優位性があると思う。少

し品質を下げてでも早く市場に出した方がよい時代になっていると思う。大型のアンド

ロイド系のスマート TV については、既に複数の中資メーカーが販売を開始しており、

タブレットの製品化も中国の方が日本よりも約 1 年早かった。スマートフォンも中国の

方が早かった。

特にシャンジャイと呼ばれる模倣品で有名な深圳の人々の動きが速い。このため、い

ずれ近いうちに深圳にリサーチセンターを設置したいと考えている。そこの調査員が地

元の業界関係者と仲良くなることにより、2 か月先~3 か月先の流行を感知することがで

きるようになるはずである。

Q:今後の展望は?

A:今年は、自社開発製品と国内販売を伸ばしていきたい。このため、従業員にも中国語

のブログで情報発信してもらっている。

将来の目標ははっきりしていて、「言語という壁をなくしたい」というものである。ソ

ーシャルメディアを扱っているのもそれが理由である。言語解析をするシステムを作り、

コミュニケーションをよりスムーズにできるようにしたい。

また、ソーシャルメディアと現実のメディアが離れ過ぎているため、そこの乖離をな

くしていきたい。例えば、現実に買い物をしたら、ソーシャルメディアでポイントがた

まるというような仕組みもつくっていきたい。

さらに、IT というのはこれまで欧米からアジアに来る流れであったが、これを変えた

い。アジアから欧米への潮流をつくっていきたい。これが私が中国で起業したきっかけ

の一つでもある。中国で何億人もの人が使うソフトウェアを作ることができれば、アジ

アからの流れを作ることができるのではないかと考えている。当社としても、欧米市場

を狙いたいと考えており、私自身今年から英語のブログを始めている。社員に対しても

英語を勉強するよう指示している。

Q:中国市場における日本の中小ソフトウェア会社の可能性についてどう考えるか?

A:無限の可能性がある。そのために必要なことは、どれだけ相手の懐に飛び込めるのか

である。

また、どこの都市が自社に合っているかよく考えた方がよいと思う。本当に上海でな

くては駄目なのかどうか。私は馬鞍山にビビッとくるものがあったが、いろいろな地域

を見に行ったらよいと思う。こちらは賃料等も安いので、それほど大きくない資金でよ

い IT 環境を確保することができる。地方には外資を呼び込みたがっているところは多い。

中小企業ほど地方で試してみたらよいと思う。仮に上海に進出しても、上海のトップク

ラスの人材を採用することは難しいであろう。ソフトウェア産業は国が積極的に推進し

ている一大産業なので、地方にも人材はいかようにもいるものだ。

- 60 -

日本のソフトウェアには競争力があると思う。こちらに出てくれば間違いなく善戦で

きるはずだ。この点、日本のソフトウェア会社に積極性がないのが残念だ。私も会社設

立から約 1 年間は中資企業からなかなか声が掛からず、今でこそ大手からも声が掛かる

ようになってきた。よって、少なくとも 3 年間は続けられる資金を持ってくるべきであ

ろう。

Q:日本のソフトウェア会社は、日本の市場がまだ大きいので、海外へ積極的に出ようと

いう意欲に乏しいのか?

A:この点は、国内市場が小さい韓国とは異なる。日本の場合、日本市場が先細りになる

と分かっているものの、まだそれなりに大きいので、思い切って方向転換をしようとい

うことになりにくいのだろう。しかし、中小企業であれば、そのしがらみは少ないはず

だ。

私は、日本で関係者に話をする際には、中国進出ではなく、本社を中国に移せばよい

のではないかと過激なことを申し上げている。本当にそうして欲しいというよりも、そ

のくらいの気構えで来た方がよい。そのくらいこちらには可能性がある。確かに地場の

ソフトウェア会社も多いが、日本ほど競争過多ではない。中西部を含め総じて見れば、

競争密度は日本よりも薄いので、その分チャンスは大きいはずだ。中国の通信キャリア

は省市自治区ごとに独立採算制なので、それらと意見交換して彼らのニーズを探ってみ

るだけでもよいきっかけになると思う。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 2 月 27 日)

- 61 -

アスプローバ上海

会社名:派程(上海)軟件科技有限公司

所在地:上海市徐匯区中山西路 1800 号兆

豊環球大厦 5B室

設立年:2008年

資本金:15万ドル

従業員数:7人

主な事業内容:生産計画ソフトウェア(ス

ケジューラー)の販売

日本親会社:アスプローバ株式会社(東京

都)

インタビュー対応者:顧問 藤井賢一郎氏、総経理 徐嘉良氏

Q:会社設立の経緯は?

A:日本の親会社であるアスプローバ株

式会社は、工場の生産計画の作成・最

適化のためのアスプローバというソ

フトウェアを約 20 年間開発・販売し

ている。工場を持っている会社であれ

ば、どのような業種であってもニーズ

がある。現在、アスプローバは日本で

は約 1,400社において利用されており、

50%以上のシェアを有している。事実上の標準規格になっている。

中国に対しては、2003 年頃からパートナー企業を通して販売を始め、メンテナンスを

行うために、2005 年には北京に保守センターをつくった。徐々に販売量も増えてきたの

で、中国での販売拠点として、2008 年上海に現地法人である当社を設立した。現在、中

国では約 100 の工場に製品を納入している。

Q:設立当初は日系企業向けに販売していたのか?

A:そのとおりであり、2008 年頃は日系企業向けを中心に販売した。2009 年は世界金融危

機の影響で売上げが落ち込み、2010 年も苦しかったが、2011 年から少しずつよくなっ

てきた。2011 年には深圳に出張所も設立した。

Q:中資企業向け販売はどのように行っているのか?

A:日本で親会社の代理店となっている某日本企業の現地法人が華南地区にあり、そこが

- 62 -

非常に現地化が進んでいることもあり、周辺の中資企業へも販売を始めてくれたのが最

初だった。当社製品の場合、ソフトウェアを導入すればすぐに動いて使いこなせるとい

うものでなく、システムの立上げ、メンテナンス等をサポートする必要があるため、代

理店を使って販売している。中資企業に対しては、基本的には地場の代理店経由で販売

しており、徐々に売上げも伸びている。

Q:非日系企業向けの販売比率はどの程度か?

A:約 3 割である。

Q:中資企業の貴社製品に対するニーズは高いのか?

A:多くの中資企業は、まだ会計、販売、生産管理等に関する総合的な基幹システム(ERP)

を導入しようかという段階である。当社製品はこのような基幹システムが導入された後

に必要とされるので、徐々に当社製品に対するニーズが高まってきていると感じている。

Q:日系企業向けと中資企業向けは同じ製品を販売しているのか?

A:中資企業向けには機能を落とし、価格も半分に落とした廉価版を用意している。これ

には、中資企業がいきなりフル機能を有した製品を使いこなすのは難しいという事情も

ある。コア機能だけの製品の方が立上げがしやすいので、まずコア機能だけを提供して

使い込んでもらった上で機能を足してもらうという方式をとっている。

Q:貴社製品の優れている点は?

A:約 20年前に当時 IRのコンサルティングを行っていた高橋邦芳社長が理論的観点から、

スケジューラーのプロトタイプを作り、これを 1 年ほどかけて現場に適用して修正して

いった。このため、当社製品はプログラムの基本様式がしっかりしている。また、日本

で高いシェアを保っているというのも当社の強みである。

Q:中国では模倣品の問題はないのか?

A:例えば、画面のデザインが真似されているような製品は出回っているが、他社の製品

は処理スピードが遅い。当社が約 18 年にわたって培ってきたロジックは、そう簡単には

模倣できないはずである。ただし、中資企業の製品は信頼性がない分、信じられないく

らい安い。このため、そのような価格帯の製品とは競争しないよう留意している。

Q:中国の商習慣等で戸惑ったことはあるのか?

A:中資企業は導入後の保守契約をまずしてくれない。アフターサービスに対して金を払

おうという習慣がない。また、売掛債権の回収に当たっても、「忘れていた」、「財務担当

者がいない」などと理由を付けて支払いを延期されることが多い。中には 1 年かけて回

- 63 -

収したという事例もあり、下手をするとキャッシュフローがもたなくなってしまうおそ

れがある。このため、今年から一部前払い制度を導入する予定である。

こちらでは顧客の理解度のレベルに差がある。中にはスケジューラーの重要性が十分

認識できない者も多い。最初は良いものと思ってくれるが、同時に万能なものと思い込

んでしまう。実際に使ってみて不満な部分があるとそれを全否定してしまう傾向がある。

日本製のものは良いという認識は広く普及しているが、その一方で「何でもできる」と

勘違いされて戸惑うことがある。

Q:代理店の獲得は問題ないのか?

A:日系の代理店(日本親会社の代理店の現地法人)、日本で会社に勤めた後独立した中国

人が経営している代理店などもあるが、それだけでは足りないので、中資企業向けの販

売を担ってくれる代理店を探している。しかし、それを探し出すのはなかなか難しい。

また、代理店の教育が難しい。最初は、システムの立上げ時等に当社からも人を派遣し

一緒に作業してノウハウを学んでもらうことにしているが、少し教えたらその人が辞め

てしまうなどということもある。

Q:貴社自身では販売活動は行っていないのか?

A:中資企業向けセミナーで講演したり、入門トレーニング研修を行ったり、展示会に出

展したりして積極的に普及活動を行っている。効果が出ていると実感しているのがポー

タルサイトでの宣伝活動である。暢享網というポータルサイトは、多くの製造企業に係

るネットワーク資源を有しており、地方政府ともつながりがある。開発区と共同でセミ

ナー等のイベントを企画し、そこで講演させてもらったりしている。かなりの集客力が

あり、手応えを感じている。

Q:顧客である中資メーカーの現状をどのように評価しているか?

A:レベルの高いところと低いところがあって、いろいろである。日本と違って一律では

ない。日系メーカーに部品を納めているようなレベルの高いところは納期遵守率も高く、

5S 活動を導入したりしている。今ではまだ日本の部品会社の方が品質が高いだろうが、

あと 2 年~3 年経つとそれ程レベルが変わらなくなるのではないかと思う。

Q:中国市場の可能性をどのように見ているか?

A:工場の数、人口もずば抜けて多いので、大きな可能性があると思っている。当社製品

は日系企業向けにもまだ一部しか導入されていないので、まだまだ可能性がある。海外

に工場を持っている日本企業は、世界の全工場で統一的なシステムを入れようという傾

向になっているので、日本で高いシェアを有している当社にとっては有利な条件となっ

ている。

- 64 -

生産能力が足りない企業ほど当社製品に対するニーズが高いが、中国の場合、まだ人

件費が安いので、生産能力が不足しても人を多く充てて乗り切ってしまおうとする傾向

が強い。しかし、最近は中国でも人件費が上昇してきているので、生産計画の変更に多

くの人員を費やすようなやり方は次第に難しくなるはずである。

中国は広いので、どこかにベースをつくらないと難しいと感じている。また、日本の

ソフトウェア会社の中で中国内販に成功しているところはほとんど見当たらず、先達も

いない。このため、何でもトライ&エラーでやっている。

Q:今後の抱負は?

A:日系企業向けのみならず、非日系企業向けの販売比率をさらに増やして、それぞれの

販売比率を 5:5 くらいにまで持っていきたい。そのためには、大連に出張所を設置する

などして営業拠点を増やすとともに、導入事例の宣伝等に一層力を入れていきたい。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:こちらではキャッシュフローの問題が生じやすいので、財務基盤をしっかり持ってお

くことが必要であろう。いわゆる営業体力が必要である。

また、マーケティング等において必ず現地のパートナーが必要になる。現地の企業が

現地の顧客に販売するという形態にするのがよい。当社の場合、先ほど申し上げたポー

タルサイトを活用しているが、そのようなパートナーをいかに見付けるかが重要である。

(以上)

- 65 -

a-Sol

会社名:帝訊信息技術(上海)有限公司

所在地:上海市長寧区金鐘路 658弄東華大学

国家科学技術園 2号楼 A座 301

設立年:2003年

資本金:183,492ドル

従業員数:約 35人

主な事業内容:生産・物流現場の改善活動に

係る指導、助言、現場管理シス

テムの開発、販売、生産改善設

備の設計、開発

日本親会社:なし

インタビュー対応者:董事長・総経理 門脇圭氏

Q:会社設立の経緯は?

A:20 歳代の時、約 9 年間、某日本企業

のマレーシア現地法人の生産現場で勤

務していた。その際、多くの日系企業

が生産拠点を中国に移すという流れを

目にしていたので、中国で日本の生

産・流通現場の管理技術・ノウハウを

売り込む仕事をしたいと考えた。そこ

で、2003 年に上海に会社を設立し、バ

ーコードを活用して作業ミスを防ぐ現場管理システムの開発・販売を始めた。

2007 年頃、日本でトヨタ OB の方と知り合い、主として中国の日系企業の生産現場の

改善指導のためにその方を派遣するという事業を始めた。いろいろなケースがあるが、

一般的には毎月 3 日間~5 日間トヨタ OB の専門家と当社社員を工場現場に派遣して改

善指導するという 1 年間のプログラムを提供している。その後ニーズがあれば、継続し

て契約することもある。

Q:中資企業向け市場はどのように開拓したのか?

A:2008 年頃、検索サイト・バイドゥー(百度)における「トヨタ生産方式」等の関連用

語の検索数を調べてみたところ、前年に比べその数が顕著に増加していることが分かっ

た。そこで、バイドゥーの広告サービスを利用して、「トヨタ生産方式」等の 50 個~100

個のキーワードで検索すると当社の広告が第一位に表示されるようにしたところ、多く

- 66 -

の中資企業から問い合わせを受けるようになった。

Q:サービス内容について日系企業向けと中資企業向けで相違はあるのか?

A:内容は変わらないが、実は中資企業向けの方が価格が高い。これは、中資企業にアプ

ローチしているうちに、当社と同じように現場改善に係る指導・助言事業を行っている

米国系、シンガポール系等の競合他社と比較して当社の方が価格が安いということを知

ったからである。中資企業により安い価格を提示すると、相手側からは当社のサービス

の方が内容が劣ると見られてしまう。ある中資企業の担当者から、それでは価値がない

のではないかと言われたので、提示価格を引き上げてみたら、その契約を取ることがで

きたという体験が値上げのきっかけになった。

Q:非日系企業向けの売上高比率はどの程度か?

A:当社の事業全体で見て、8:2 の比率で非日系企業向けが多い。特に現場指導事業は、

毎年倍々で伸びている。

Q:中資企業向けのサービス提供が伸びている要因をどのように見ているか?

A:従来中資企業は、より性能のよい新しい設備を買い足すことにより品質の向上を図っ

てきたが、最近の金融引締めにより銀行からそのための資金を調達しづらくなっている。

一方で、海外の顧客等の品質要求水準は引き続き高いため、既に導入した設備の性能を

十分に発揮して使わなければならないが、それを使いこなす人間がいないという状況に

ある。

また、人手不足により労働者の確保に困っているようなところでは、例えば、現状の

人員で生産性を 1.5 倍~2 倍に高めたいというニーズが強い。

Q:実際に改善指導してみて、効果は上がっているのか?

A:中資企業の場合、例えば、これまで煙草を吸いながら作業していても儲かっていが、

効率を上げたのでさらに売れるようになったというようなところもあり、顧客の満足度

は大きいと感じる。現場の動画を撮り、作業員の動線を変えることにより、13 人必要だ

った工程を 8 人の作業員で済むようにしたり、毎月の残業代 30 万元が不要になったり

した例もある。

Q:指導に当たっているトヨタ OB の方々はどのような反応を示しているのか?

A:最初は現場で言い合うようなこともあるが、そのようなことがあるほど次第に仲良く

なるものである。指導に当たっている方々は、中資企業の現場作業員について「かわい

い人たち」という感想を持っている。

一般的に中国人は年配の方に対して敬意を示す。何といってもトヨタ OB の方々は生

- 67 -

産現場に 40 年~45 年もいた経験を有しているので、そばで見ていて、その一挙手一投

足に敬意を感じているのが分かることも多い。

Q:OB 人材の派遣のような業務は行わないのか?

A:仮に会社内部に入ったとしても、その人は目の前の問題処理にだけ注力してしまうこ

とになってしまうと思う。当社の事業は、現場改善ができる人材の育成に重点を置いて

いる。自ら改善できる人を育てないと、結局いくら改善指導を行っても、また元の状態

に戻ってしまうものである。

Q:中資企業側のニーズに戸惑うようなことはないのか?

A:中資企業の中には、例えば 3 か月で 300 人減らしてくれたら金を支払うなどと条件を

付けてくるところもある。このようなところに対しては、仮に人を減らしても、設備等

の維持・運営・管理ができる人を育てなければ駄目だという説明をしている。

Q:中国に合った指導内容に変えているのか?

A:やはり文化や習慣が異なるので、トヨタのやり方に中国のやり方を混ぜ合わせるよう

に工夫している。例えば、こちらの人は虚栄心や見栄の意識が強い。このため、従業員

の誰にも知られるような形で顔写真付きで表彰するような仕組みを入れることが重要で

ある。その際も、しっかりとしたプレートを与えるとより喜んでくれる。これらにより、

従業員の仕事に対するモチベーションが高まるのである。

Q:日系メーカーの側から見ると、競争相手の中資企業を手助けしているように映ってし

まう気がするが?

A:私自身、心の中で葛藤がないわけではないが、一方で、あまりにも日系企業がだらし

ないと思うことも多い。当社のサービスを紹介しても、日本の親会社に問い合わせてみ

ると言って、そのまま返事がもらえないこともある。日系の現地法人は何も決められな

いという印象が拭えない。日本の親会社から派遣される総経理も、中国のことが分から

ないまま、3 年~5 年で日本に戻ってしまうという例が多い。確かにすばらしい総経理が

いて、きちんと現地で物事を決めている現地法人もあるが、私の印象では、約 7 割の日

系企業は現地で決断できていないと感じる。

これに対し、中資企業は 2 週間で契約書にサインしてくれる。このため、日系企業が

このような状態でよいのかと落胆せざるを得ない。中資企業は、現場改善の意思はある

が、そのやり方が分からない。日系企業の場合、現場改善のやり方は知っているが、そ

れが実行できていない。

我々は、年間 150 か所~200 か所の現場を見る。中資企業の中には日本の 20 年前の

現場といわれるような遅れたところもあるが、トップレベルの企業は日系企業と遜色が

- 68 -

ない。むしろ、中資企業で中国人が経営している会社の方がすごいなと感じることも多

い。そのような現場には経営トップの意思が現場のあちこちににじみ出ていて、働く側

もきっとやり甲斐があるのだろうと思うことがある。このような経営者は勉強熱心であ

り、冷静にいろいろなことを見ているものである。

Q:問い合わせが多過ぎて発注を捌けないということはないのか?

A:基本的に対応できているが、一部順番待ちしてもらっているような例はある。

Q:口コミによる問い合わせも多いのか?

A:上海汽車グループ傘下のあるドイツ企業との合弁の部品メーカーに対し改善指導を行

ったところ、グループ内で当社に関する情報が広まったようであり、同じグループ内の

別の部品メーカーから、「うちもやってくれ」と問い合わせが来たという例はある。

Q:今後の展望は?

A:現場改善の業務は今後も増えていくだろうと予想している。バーコードを活用した自

動化システムの導入例も増えていくと思う。これらの取組により、世界に誇れる工場を

できるだけ多く輩出していきたいと考えている。

Q:日本でサービス業を営んでいる中小企業に対するメッセージがあれば?

A:中国は簡単には分からない市場であるため、決裁できる人が一年間住まないと駄目だ

と思う。このため、私は、別にコンサルティング会社も経営しており、そこでは、中国

で仕事をする以上、言葉が分からないと文化や生活習慣も分からないという考えから、1

年間日本の経営者または決裁権限のある人にこちらで生活し華東師範大学で中国語を学

んでもらうという研修カリキュラムを用意している。現在、日本のアパレル会社の社長

など 3 人が受講しており、彼らは午前中に中国語を学び、午後市場調査を行っている。

このような経験を積むことにより、こちらの商慣習や中国人従業員の働きやすい労働契

約の在り方なども理解できるようになるはずである。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 2 月 28 日)

- 69 -

上海エイトレント

会社名:上海八蓮正陽総合物品租賃有限公司

所在地:上海市黄浦区寧海東路 200号申鑫

大厦 1905室

設立年:2004年

資本金:200万ドル

従業員数:18人

主な事業内容:物品のレンタルサービスの

提供

日本親会社:エイトレント株式会社(大阪

市)

インタビュー対応者:董事・総経理 石垣達也氏

Q:会社設立の経緯は?

A:日本の親会社であるエイトレント株

式会社は、日本で事務機器、事務用

机・椅子、単身赴任者用の家電機器、

衣装等を事業者や個人に貸し出すサ

ービスを提供している。創業者であ

る先代の社長は、昭和 38 年頃、日中

共催のイベントが日本であった際に

物品をレンタルしたことにより自社

をワンステップ大きくすることがで

きたという経験を有していたことから、中国との縁を感じていたようだった。また、こ

ちらに出張しては、上海は空気か汚いので、その環境を改善したいと話していた。そこ

で、早くから中国進出を考えていたようであり、1996 年頃、まず台湾に現地法人を設立

し、海外進出の経験を積んでから、2004 年に上海に当社を設立した。

会社設立に際しては、それまで中国には事業として物品を貸し出すサービスを行う外

資企業の前例がなく、独資での設立は認められないとのことだったので、上海市政府系

投資会社の出資を受け入れて、合弁会社とした。現在、当該投資会社の出資比率は約 5%

にまで低下しており、実質的な経営権はすべてエイトレントが行使している。

Q:中国で物品レンタル業は普及していないのか?

A:物品のレンタルというのは、正常な物品が期日どおりに届くという借りる側から見た

信頼感、使用期間経過後きちんと物品が返却され料金も支払ってもらうという貸す側か

- 70 -

ら見た信頼感の双方の信頼感ないと成り立たない事業である。中国では、歴史的・社会

的背景から、そのような双方の信頼感が育ちにくかったのだと思う。現在でも、商品発

表会等のイベント開催等のために短期的に物品を貸し出す地場のレンタル会社はあるが、

3 年間~5 年間といった長期にわたって物品を貸し出している事業者はほとんどない。

Q:事務機器等を借りる側にはどのようなメリットがあるのか?

A:レンタルであれば、分割払いにできるので、初期投資を抑えることができる。また、

自ら物品ごとの調達先を探す手間も省くことができる。仮に機器が故障した場合にはレ

ンタル会社に修理してもらったり、代替品を提供してもらったりすることができる。中

途解約も可能であるし、定期的に新しい物品に置き換えられるといったメリットもある。

当社とすれば、顧客が安心して物を使ってもらえる環境を提供することを目指してお

り、貸し出している期間中もお客様の立場に立ってサービスを提供しなくてはならない。

また、貸し出す際には、お客様の使用頻度や用途に応じて適切な物品を提案したり、使

用期間が長い物品については、レンタルではなく購入した方がコストを抑えられるなど

と助言したりすることも重要になる。

Q:開業当初の状況は?

A:当社の事業はサプライヤーあっての事業なので、まず仕入れルートを探さねばならな

かった。こちらには偽物も多いので、商品を安定的に調達するのに苦労した。椅子等の

仕入れ先は、これまで何度も試行錯誤を重ね調達先を変えてきたが、当初から取引が続

いている仕入先もある。そこは、例えば、パソコンを顧客に提供する際に、最新版の PDF

ソフトをあらかじめインストールしておくなど顧客がすぐにパソコンを使える状態でセ

ットアップする等の当社の要求に的確に応えてくれるので取引関係が続いている。

物品の貸出し先に関しては、開業当初はほぼすべて日系企業だった。当時こちらに進

出した日系企業は、こちらでの物品調達に慣れていなかったこともあり、日系のレンタ

ル業者の進出を待望していた。当社としては、一から手さぐりで日系顧客を開拓してい

かなければならなかったが、各社の反応は非常によかった。

Q:非日系企業向けのサービス提供はどうか?

A:積極的に非日系企業向けに営業しているわけではないが、上海市内の現地企業には口

コミで評判が広がっている。また、バイドゥー(百度)での検索において当社ウェブサ

イトが上位に掲載されるという広告サービスを利用しているので、外地の企業が上海で

イベントを行う際に、ウェブ検索により当社の存在を知り、当社に物品の貸出しを依頼

してくることもある。とりわけ外地の人にとっては、知らない土地で時間どおりに物が

届くかどうか不安なので、いかに相手に安心感を与えるかが当社としては重要になる。

- 71 -

Q:非日系企業向け売上げの割合はどの程度か?

A:2011 年の総売上げが約 1,600 万元であり、その相手方の内訳を見ると、約 18%が中資

企業、約 4%が欧米系、香港系等の外資企業であった。残りの約 78%が日系企業であっ

た。

最近、中資企業からの問い合わせが増えているのは事実であるが、まだまだレンタル

業になじみがないのだと思う。信頼できる者からの紹介といった第三者評価がないと、

レンタル業者に対する不安感をなかなか払拭できないようだ。

それでも先般、大手国有企業や政府系機関から短期レンタルの依頼を受けた。前者は、

新商品の社内説明会を開催するに当たって、プロジェクターを数台借りたいという依頼

だった。後者は、ウェイボー向けの情報発信を新たに行いたいが、予算をとっていなか

ったので、初期投資を抑えられるレンタルにより必要な機材を確保したいというものだ

った。このように、ここ 2 年~3 年で地場企業にもレンタルを活用するという意識が芽

生えつつあると感じている。

Q:地場のレンタル業者の提示する価格は安いのか?

A:地場のレンタル業者が短期契約主体であるのに対し、当社の場合、短期契約と長期契

約の割合がほぼ半々であるため、一つの物品をより効率よく回転させることができてい

る。このため、仮に現地レンタル業者が安い価格を提示した場合であっても、それに対

抗する価格を提示することが可能となっている。

Q:蘇州にも支店があるようだが?

A:蘇州支店はすべて日系企業向けの取引である。地場企業からも問い合わせは受けるが、

まだレンタルの有効性に対する理解が乏しく、2004 年~2005 年頃の上海のような印象

である。

Q:日本のサービス業のノウハウはこちらでも通用すると考えているか?

A:お客様目線という点については、間違いなく日本企業の提供するサービスは優れてお

り、それはこちらでも武器になる。ただし、日本のサービスはこちらでは過剰となるも

のも多いので、過剰なものを削ることが必要になる。

Q:何か分かりやすい例があれば?

A:例えば、二つ会議机をくっつけて並べた時、接合部に段差があることは日本では許容

されない。多くの椅子を並べるに際しても、きちっと一列にするなど、日本では見た目

の美しさが求められる。これに対し、こちらでは、そのようなことに労力を割くくらい

なら、その分、価格を抑えた方が相手側のニーズに合う。こちらに進出した日系企業の

中には、日本と同等の高いサービスが提供できるから日系企業なのだと威張っているよ

- 72 -

うに見えるところもあるが、それは現地顧客のニーズに必ずしもマッチしていないので

はないかと私には思える。

Q:顧客ニーズはどのように把握しているのか?

A:個別に面談して相手側の細かい要望を把握するようにしているが、経験からくる感覚

も大きい。私はこちらに来て 8 年になるが、やっと現地の感覚が分かってきたと実感し

ている。現場で相手側のニーズを直接把握するとともに、中資企業であっても、顧客は

日本人の施しを求めているため、私自身極力現場に出向き、直接対応するようにしてい

る。

Q:従業員はどのように育成しているのか?

A:マニュアルはあるが、ほとんど実地で指導している。創業当初から残っている社員も

いるので、彼らが新入社員を指導してくれることもある。こちらは、人事に関しても日

本のように曖昧では駄目で、はっきりしなければならない。このため、会社にとって必

要な者については給料を親会社以上の昇給率で引き上げ、そうでない者についてはあま

り給料を上げない。そのくらい明確に区別している。

Q:日本流のお客様目線のサービスというのは従業員に理解してもらえるのか?

A:従業員に対しては、あなた自身もレストランで食事をする際にきれいな所で食べたい、

食器や服務員の服装もきれいな方がよいなどと思うはずであり、そこに我々のような仕

事が生まれるのだ、中国にとって付加価値を提供するサービス業がより重要になってく

るのだから、当社でより高いサービスを提供する能力を身に付けることはあなたの将来

にとっても有意義であるはずであり、我々の仕事は今後中国で伸びていく事業なのだと

いう説明をしている。私の説明が分かってくれる者は会社に残ってくれる。

Q:人件費の高騰等により、経営環境は厳しくなっているのではないか?

A:インターネットの普及により、様々な情報にアクセスしやすくなっているため、企業

が調達先を探す難しさは減っており、開業当初のような当社に対する日系企業の待望感

は薄れてきている。また、人件費を始めとするコストも上昇している。

一方で、物価の上昇は当社にとって追い風の面もある。物価上昇に伴い、様々な業種

の事業者には、コスト削減のため一部事業をアウトソーシングしたいというニーズが高

まってくる。また、当社の事業は、一つの物を複数の人たちでシェアしようというビジ

ネスであり、廃棄物の低減につながり、環境に優しい。このような意義を理解してくれ

る現地の人も増えている。

Q:今後の展望は?

- 73 -

A:当社の事業がある程度社会的影響力を持ち、認知度が上がらないと仕事をしていても

満足できない。社会的影響力を持つには、正直なところまだ規模が小さ過ぎる。規模を

大きくするためには、中間管理職を増やさなければならないが、人材育成には時間がか

かるため、一気に大きくするわけには行かない。また、当社は物品をきちんと管理して

効率よく回転させていかなければならず、急に多くの物品を抱えることはリスクを伴う。

このため、ステップ・バイ・ステップで規模拡大を進めていくしかないと考えている。

さらに、こちらの人は派手なイベントを好むので、個人向けの衣装レンタル等の新規

分野も開拓していきたい。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:サービス業の場合、とりあえず進出してみないと現地事情は絶対に分からない。出張

レベルで分かるはずがないと思う。出張レベルの情報収集だけであると、妄想が妄想を

呼び、変な不安、変な期待がどんどん大きくなってしまい、それらはいつまで経っても

解決できないものだ。今の上海であれば、経済水準が上がっているので、日本のサービ

ス業がこちらで大きく失敗する可能性は低いと思う。まず拠点をこちらにつくり、日本

で持っているノウハウを柱にして、それをこちらでアレンジしていくべきだ。そもそも

日本で売れないようなものはこちらの人は欲していない。こちらの人が何を求めている

のかを見分けられる人をこちらに送り込まなければならない。中小企業の場合、そのよ

うな人的余裕がないところもあるかもしれないが、変な不安や期待にとらわれたままで

いるよりはよいはずである。

また、日系企業向けから事業を始めて、それが軌道に乗ったら、非日系企業向けに広

げていくのもよいと思う。こちらに進出した後、非日本人・非日系企業向け販売に固執

して空回りしている人の例も私は見てきた。

Q:8 年間の駐在員生活を振り返ってどうか?

A:やはり 8 年くらいこちらにいないと分からないことがたくさんある。2 年~5 年の駐在

ではこちらのことは理解できないと思う。現地採用の従業員にとっても、2 年~3 年で帰

国してしまう日本人を信用して付いていくのは難しいのではないかと思う。

Q:こちらでの仕事は厳しくないか?

A:まだまだ市場が広がる余地があるので、こちらは楽しい。よく分からないことがまだ

たくさんあるのでそれも楽しい。上海の街もどんどん変化しているので、それに合わせ

て会社の管理の在り方や会社の立ち位置も変えていかなければならないと考えている。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 4 月 12 日)

- 74 -

三貴上海

会社名:三貴康復器材(上海)有限公司

所在地:上海市嘉定工業開発区興栄路 1255

設立年:2003年

資本金:565万ドル

従業員数:約 400人

主な事業内容:車椅子の製造・販売

日本親会社:株式会社三貴工業所(名古屋

市)

インタビュー対応者:董事長 佐藤永佳氏

Q:会社設立の経緯は?

A:日本の親会社である株式会社三貴工

業所は、1965 年からプレス、板金加

工を専門としながら、車椅子の製造も

行っていたが、約 28 年前から車椅子

専門メーカーとなった。そのうち、日

本の物価が上昇してきたため、約 24

年前に海外製造拠点として韓国に合

弁会社をつくった。そこで製造した車

椅子のほとんどは日本へ輸出していたが、販売量全体で見れば、日本製が約 70%、韓国

製約 30%という状況だった。

その後、韓国も物価が上昇してきたことと、以前から台湾メーカーに OEM 生産を依

頼していたところ、ノウハウの流出により、当社製とそっくりなモデルが日本市場に入

ってくるようになったことから、2002 年頃、新たに海外で自社の生産拠点をつくること

を考え、台湾と中国大陸をその検討対象とした。

その結果、中国大陸を選択し、華南地域の東莞市や華東地域の上海市を調査した。最

終的には、上海周辺の方が自転車メーカーも多く、車輪、パイプ等の部品も調達しやす

く、また、マーケットにも近いと考え、2003 年に上海市嘉定区に当社を設立した。

ちなみに、現在、日本の親会社では、セミオーダーやオーダーの各個人のニーズに対

応した車椅子を製造している。

Q:ここは日本向けの生産拠点としてスタートしたのか?

A:そのとおりである。部品会社の調査等の事前準備をしていたことから、工場を設立し

- 75 -

てから 3 か月で日本に製品を出荷することができた。中国国内向けの販売を始めたのは

2005 年からである。

Q:国内販売を始めたきっかけは?

A:こちらに出張ベースで来ていた2000年当時、朝公園で車椅子に乗って散歩している人々

をよく見かけた。その頃は、まだ日本でも他人に見られるのが恥ずかしいと意識して公

園等で車椅子に乗っている人は少なかったので、むしろ上海の方が変な抵抗感がなく車

椅子に乗っている人が多いように感じた。日本では、車椅子市場は 2025 年にピークを

迎えるという見方もあり、当然中国の方が人口が大きいので市場としての魅力はある。

単に利益を出すことを考えれば、日本に輸出した方が大きいが、国内販売を行うことに

より量産効果を出すこともできる。中国市場に打って出るなら早いうちに出た方がよい。

このような考えから、国内販売を行うことにした。

Q:こちらで販売を始めた当時、中国の車椅子市場はどのようなものだったのか?

A:ドイツメーカー製の一台 3,000 元~4,000 元もする高級品もあったが、一般的には、鉄

製の一台 500 元程度の国産製品が普及していた。これに対し、当社は、間接経費をギリ

ギリまで削って一台約 900 元のアルミ製の製品を販売した。最初は宣伝のつもりで名前

が売れればよいかなという思いだった。当社参入以前は基本的に中資メーカー間の競争

しかなかったので、お互いに品質を良くしなくても値段重視で、顧客の方もそれが普通

だと思っていた。

Q:顧客の反応はよかったのか?

A:初めはほとんど期待していなかったが、意外に手応えがあった。車椅子は、一生にそ

う何度も乗り換えるものではない。数百元の違いなら、軽くて使い勝手のよいアルミ製

の車椅子を求める人もいた。

Q:販路はどのように開拓したのか?

A:代理店は使わず、健康器具を売っている販売店等に直接出向いて売り込んでいる。こ

のやり方は日本と同じである。中国の大きな車椅子メーカーは 3 社~4 社で日本メーカ

ーの製品は流通していなかったので、販売店側としても、当社の製品を置くことにより、

品揃えが広がるという利点があるので受け入れてもらえた。

Q:国内販売の割合はどの程度か?

A:今は、大体月産 1 万台であり、うち約 7,000 台が日本向け、約 3,000 台が中国向けで

ある。

- 76 -

Q:国内販売は増えているのか?

A:元の数字が小さかったこともあるが、ここ 3 年は、毎年 1.5 倍~2 倍増加している。市

場での認知度も高まっている。

Q:貴社製品は中資メーカー製よりも単価が高いので、中国人の所得水準が上昇してくる

とより受け入れられるということか?

A:そういうことだ。例えば、2005 年当時は、約 900 元の製品しか売れなかったが、今で

は、所得水準の上昇に伴い、1,000 元~1,200 元の低機種が販売額全体の約 40%、1,500

元程度の中間機種が約 40%、2,000 元~3,000 元の高機種が約 20%を占めるようになっ

ており、中間・高機種の占める比率が確実に上がっている。これらの中間・高機種につ

いては、日本向けの製品を中国向けに仕様変更して販売している。

Q:やはり中国人のニーズというのがあるのか?

A:約 7 割程度の基本的ニーズは日本人と同じである。ただし、中国人の方が体が大きい

のと、大きな物を好む傾向があるので、座面を高くしたり、座幅を大きくしたりしてい

る。本当は無駄に大きくない方が使い勝手がよく、実際に体が収まれば問題ないのに、

それでも大きい物が好まれたりする。また、赤色のシートが好まれる。

Q:現在、何種類くらいの機種を販売しているのか?

A:中国向けは約 30 機種である。スペックが高くなると、乗り降りがしやすいように足台

や肘掛を開くことができるなどの機能が付く。

Q:全国各地に販売しているのか?

A:そうだ。現在、上海、北京、広東、大連、西安、重慶に営業所がある。

Q:市場の特色として日本と異なる点があるのか?

A:日本では介護保険等が整備されているので、多くの人は車椅子をレンタルして使用し

ている。このため、レンタル事業者が主な直接的な顧客となる。これに対し中国では必

要な人が現金で買うため、一般消費者向け市場の方が圧倒的に大きい。

Q:模倣品の問題はないのか?

A:医療機器という分類での商標は既に取得した。社名の盗用は思ったほどない。ただし、

輸送機器という分類にも車椅子があり、ここに当社のブランド名を登録申請した者がい

るので、今その対策をとっているところである。

車椅子の形状が部分的に真似される場合があるが、大きな問題とはなっていない。

- 77 -

Q:営業人材の育成について工夫していることは?

A:今の営業の責任者には一部台湾人を充てている。そのためもあり、上海、北京、広東、

西安の営業所の所長も台湾で人材を募集し獲得した者を充てている。

Q:台湾人を活用している理由は?

A:今の台湾人は大陸で就職することも比較的普通と捉えるようになっている。彼らの商

売に対する基本的考え方は日本人に近いところがあると感じる。また、以前こちらで雇

った営業所長が短期で辞めてライバル会社に行ってしまったという要因もあった。実際

上、販売業者を取り込むには地元出身の人材の方がよいのだろうが、大陸の人は短期的

利益を志向し、成果主義ではっきりしないと嫌だという考えの人が比較的多く、基本的

なところで日本企業の考えと合わない部分もある。ただし、それもだんだんと変わって

きてはいる。

Q:上海で労働者を確保するのに困っていないか?

A:今年の春節に関しては、約 20%がその前後に辞めた。しかし、班長以上の約 90 人の役

職者については、ほとんど辞めていない。これは給料だけの問題ではないと思う。約 1

年前から、役職者との食事会を定期的に開催するなどして、彼らと直接コミュニケーシ

ョンをとるようにし、一体感を作り出すようにしている。このような努力が実を結んで

いるのではないかと感じる。日本では、自分の勤める会社のことを「うちは」というが、

中国ではこのような慣習はないので、このようなことから進めている。

春節後にも求人は集まっており、人が足りなくて困っているということはない。

Q:賃金の上昇についてはどうか?

A:開業当初と比べると最低賃金が倍になるなど確実に賃金は上昇している。この点、当

社の場合、製品の約 7 割を日本へ輸出しているため、それで利益を稼ぐことにより何と

かやっていけている面はある。

車椅子というのは高付加価値品ではないが、金属の細かな溶接、加工等のプロセスも

あるため手間がかかり、自動化が難しい。より高付加価値な製品を作るという観点から、

今年からここで別会社を作って電動車椅子を作ることにしている。それを中国や韓国で

売ってみたいと考えている。

Q:部材等のコストも上昇しているのか?

A:部材は全体的に上昇しており、昨年よりも約 10%程度コストが上がっている。

Q:何かコスト削減努力は行っているのか?

A:大きいところでは、1,000 元クラスの量販機種については、昨年から、表面加工処理を

- 78 -

行っている別の子会社にラインを移している。日本では、レンタル会社が清掃をしやす

いように各部品を取り外ししやすいように設計されているが、中国向けにはそのような

ニーズはない。このため、日本向けの製品は中国国内市場においてはスペック過剰であ

る。国内市場向け製品専用の生産ラインにすれば品質管理人員も減らすことができるた

め、量販機種用のラインを切り離すことにした。

Q:これまで順調に来たように感じられるが?

A:当社にも危機はあった。2005 年、こちらの会社の業務をほとんど任せてやらせていた

中国人総経理が何人もの役職者や職人を連れて日系の競合他社の現地法人に転籍してし

まった。その時は一時途方に暮れる思いがしたが、様々な免許の更新手続が滞っている

などの問題も見付かり、結果的にはよい面もあった。営業責任者の台湾人も、その時に

台湾の子会社からこちらに連れてきた。今では、こちらに丸投げにしないで、日本人駐

在員も一緒になって日々の経営を行っている。

Q:董事長はどのくらいの頻度でこちらに来ているのか?

A:私は日本の親会社の社長も兼務しているが、毎月 2 週間~3 週間はこちらに来ている。

こちらにいないと現地の感覚をつかむことができない。明日からも、広東省へ行って販

売店を回ることにしている。中資メーカーは、販売店にメーカー在庫を置いて、売れた

ら現金を回収するという事業形態であるが、当社の場合、それではリスクが大きいので、

販売店への売り切りの形態をとっている。このため、販売店からは、中資メーカーのよ

うな取引形態にして欲しいという要望をよく受けるが、それを何とか説得するのも私の

仕事である。

Q:董事長が中国でも自然体であることに驚くが?

A:私は若い時から韓国や台湾にしょっちゅう行って、現地の人と一緒に仕事をしていた

ので、日本と違うことがむしろ当たり前と考えている。

Q:中国の消費者像はどのように見えるのか?

A:こちらの人は基本的にまだ物を持っていないので、必要性があって買う物がたくさん

ある。また、収入の格差が非常に大きいので、購買層が 3 層、4 層構造になっている。

基本的には金を持ったら、日本人以上によい物を買いたがると思う。だから、一部のト

ップレベルの層に対しては、価格を高くする方が売れるということにもなるのであろう。

このような分離した各層の人たちに対して、何をどう提供していくのかが課題であり、

そのためには、商品を分かりやすく消費者に伝えることが重要だと考えている。実際、

こちらは商品モデルの回転が日本よりも速く、約半年ごとに新しいカタログを作成して

いる。販売店で実際に車椅子を開いてもらうなど販売員教育も重要になる。ただ、こち

- 79 -

らではせっかく教え込んだ販売員が 3 か月で辞めてしまったりするので、なかなか難し

い面もある。

Q:今後の展望は?

A:基本的には今までどおりやっていく。中資メーカーとの競争に当たっては、当社の場

合、既に約 1,000 元の製品のポジションは確保したので、これより下の価格帯に出て行

って頑張るというのではなく(厳密には 1,000 元以下の製品も作るが、ここでは分かり

やすくあえて 1,000 元という。)、中資メーカーがこの 1,000 元の壁を越えられないよう

にしていきたいと考えている。すなわち、中資メーカーが当社の 1,000 元の製品並みの

品質の製品を作るのはコストに合わないというところに追い込んでいけば、1,000 元以

上の高付加価値製品に関する競争においても、当社が優位な位置に立つことができると

考えている。そのためには、コスト競争力を高めていくことが重要になる。

また、営業の機会損失を低減させるため、電動車椅子など商品の種類をより広げてい

きたいと考えている。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:中国にこだわる必要はないと思うが、体力のあるうちに日本から海外へ出て、そこで

作った製品を日本に輸入しながら、現地に少しずつ販売するようにすればよいと思う。

売上げのベースを日本向けにすればリスクも少なくなる。現地販売は、最初から大きく

する必要はなく、例えば本国の 1/10 のレベルから始めればよい。

よく海外進出による日本国内の空洞化といわれるが、当社の場合、商品の競争力が付

くことにより、日本、海外での販売が増え、営業、製造、管理に係る日本本社機能の増

強が必要となり、日本の社員数はむしろ増えている。また、競争力が付くことにより、

今までは売ることのできなかった世界各地の市場への販売も可能になれば、日本市場で

の価格競争による市場の食い合いという結果だけにはならないと思う。目の前の雇用の

維持にこだわり過ぎて海外に出ないことにより、日本の本業がなくなってしまうことの

方が問題であると思う。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 2 月 13 日)

- 80 -

One Hand Bakery万賀面包

会社名:上海千賀食品銷售有限公司

所在地:上海市長寧区古北新区古羊路 1050

設立年:2011年

資本金:10万元

従業員数:35人

主な事業内容:パンの製造・販売

日本親会社:なし

インタビュー対応者:董事・総経理 味志浩司氏

Q:会社設立の経緯は?

A:私は、2002 年~2007 年、日本の

某大手建材メーカーの駐在員とし

て上海に赴任していた。その任期

を終えた際、こちらの市場に魅力

を感じ、何かやってみたいと思っ

たのが起業したきっかけだった。

私自身こちらにはおいしいパン

がないと実感していたので、日本

人向けのパンの販売でもある程度やっていけるのではないかと考えた。また、中国人も

これからはマントウでなくパンを食べるようになるだろうと考え、食パンというシンプ

ルな商材に魅力を感じた。

そこで、日本の知人から日本人パン職人を紹介してもらい、上海人の法人名義人、そ

の知人及び私の 3 人の出資でパン屋を始めた。2007 年のことである。

Q:今でも上海には前屋号のパン屋はあるが?

A:今から思えばうまく行っていたが故に直面した問題であったのかもしれないが、約 1

年前に法人代表者である上海人と経営方針の相違が表面化し、何度も話し合ったが、結

局決裂し、営業権や商標権を先方に譲ってしまった。先方は、かつての浦東店を本拠地

として経営を継続している。中国人職人の約 2 割が先方に残り、レシピも以前とほぼ同

じである。お客様を混乱させてしまったし、合弁で始めたために、結果的に当社のライ

バルを育ててしまったという反省もなくはない。

Q:新しい会社をつくり直したのか?

- 81 -

A:そうだ。新たな出資者と共に昨年当社を設立し、以前からいる日本人職人と私たちに

付いてきてくれた約 8 割の中国人職人に生産を担ってもらう形で「One Hand Bakery

万賀面包」を始めた。

最初の販売場所は以前の本店と変わらなかったが、マンションの下では食品製造を許

可しないと規制内容が変わってしまったので、別に工場を設けなければならなくなった。

ところが、昨年は上海で着色マントウ事件があったため制度運用が厳しくなり、生産許

可を新規にとるのが極めて難しかった。そこで、既に許可を得ている松江区の某地場企

業と合弁会社を設立し、そこの既存工場を活用する形で生産拠点を確保した。現在、当

社の販売拠点は、虹橋地区にある直営店 3 店舗、日系スーパー等の提携店約 20 店舗と

なっている。再開して約 1 年で既に旧屋号時代の売上規模に達することができた。

Q:貴社のパンはおいしいと感じるが、どのような工夫をしているのか?

A:日本人職人のレシピや製法に依っており、彼の技術によるところが大きい。ただし、

彼の感覚だけに頼るのでなく、中国人職人でも作れるように、工程をシンプルなものに

変更している。

原材料は、国内で調達できる物の中から選んだが、満足できる物が調達できている。

Q:パン屋を始めた頃、どのようなことに苦労したか?

A:従業員の管理や教育が大変だった。特に衛生面の躾は、文化の違いもあり、難しかっ

た。何か汚れている物を触ったら必ず手を洗う、ゴミは床に落とすのでなく、ゴミ箱に

捨てるといった基本動作の教育から行った。

Q:最初は日本人向けに販売していたのか?

A:当社の場合、創業当初から会費無料のポイント会員制を採用しているので、顧客の構

成を大まかに把握することができる。初めは、日本人のお客様が約 90%、残りは日本に

関連のある中国人のお客様という構成だった。

その後、徐々に、台湾人・香港人→韓国人→日本を知る中国人→上海人という順に非

日本人のお客様が増えていった。日本人に対しては、日本語のフリーペーパーに広告を

掲載しているが、日本人以外のお客様向けには広報活動は一切行っていない。台湾人、

香港人等に広まったのは、ほとんどすべて口コミである。彼らにはおいしい物を知人に

配るという習慣があるため、たくさん買って配ってくれ、それにより当社の商品を知っ

た方々が当社のお客様になってくれた。

Q:現在、非日本人顧客の占める比率はどの程度か?

A:約 60%である。その内訳は、台湾人・香港人、韓国人、中国本土人がそれぞれ 1/3 ず

つ占めているという状況である。

- 82 -

Q:標準的食パン 1 斤半が 30 元という価格設定は少々高い気もするが?

A:同様の品質の食パンは日本では 500 円で販売されており、その水準自体、日本でも高

いといえる。それくらい品質にはこだわっている。

原価を計算してみても、それ以上安くできないという事情もある。上海の店舗の家賃

は日本の東京や大阪並みに高い。中国でもよい食材を揃えようとすると安くはない。日

本人 1 人でやれる仕事が生産性の相違から中国人だと 3 人必要になることもあるので、

総人件費はそれほど変わらなくなる。よって、総コストは日本とほとんど変わらなくな

ってしまうのである。

Q:売上げが増えている理由は?

A:日本人にとっておいしいと感じられるパンの味を追求した結果、アジア人の味覚に一

致したと見ている。この辺りには西洋人も多く住んでいるが、西洋人は硬いパンを好む。

このような好みの相違は、東洋人と西洋人では唾液の量が異なることによるという説も

あるそうだ。このため、残念ながら、当社のパンは西洋人には普及していない。

Q:日本人経営者が中国人のパートナーと仲違いするという話は他でも耳にするが?

A:日本人が経営に対してこだわることを追求していこうとすると、現地の人と価値観の

合わないところがどうしても出てきてしまうのではないかと思う。また、投資、回収、

配当分配といった資産運用の面での考え方の違いも大きいと思う。

Q:貴方の場合は何にこだわっているのか?

A:食べ物なので安心・安全の確保を重視している。このため、食材の選別にも注意して

いる。品質では妥協したくない。また、高い知名度、好印象のイメージになるようブラ

ンディングにも力を入れている。

Q:顧客にとって商品を配達してもらえるのは便利だと思うが?

A:店舗まで歩いて買い物のできる日本人駐在員の主婦は多くはないので、当初から配達

を行っていた。注文を受けやすくするために採用したポイント会員制には、日本人以外

も含め現在約 5 千人の会員がいる。ただし、人件費や燃料費の高騰により配達に係る経

費が 5 年前のほぼ倍になっており、頭の痛いところである。

配達要員に限らず、中国の労働契約法では、土日や法定休日の勤務については給料を

2 倍~3 倍にしなければならず、我々のようなサービス業にとっては不利である。食材費、

家賃、人件費、物流費がすべて年々上昇している。このため、近く商品価格を数%引き

上げる予定である。

- 83 -

Q:模倣には悩んでいないのか?

A:パンの製法において隠せる部分は極めて限定的だが、隠せる部分については従業員数

人しかアクセスできないようにしている。隠せない部分については仕方がないと思って

いる。当社にも、何とかというパン屋に勤務し、そこのレシピを知っているので雇って

欲しいと話す就職希望者がよく訪ねて来るが、そのような人はいずれ当社を辞めて同じ

ことをすると考えられるので、雇わないようにしている。実際、当社の元従業員を採用

し、当社商品と同じようなパンを販売している店は他にもある。

Q:政府規制等で悩んでいることはないのか?

A:食品安全の規制が一旦厳しくなると、理不尽に厳しくなる。行政当局から高額な罰金

を払えと言われ、それを支払うことよりも廃業を選択したという日本人経営者も知って

いる。ただ、末端の行政担当者が権力をちらつかせて付届けを求めるような風潮は、最

近は少なくなってきている。

Q:脱サラして異国で起業したわけだが、振り返ってみての感想は?

A:日々楽ではない。駐在員時代はよくゴルフをしていたが、今ではそれもする気になら

ない。それでも、今どちらの道を選ぶかと問われたとしても、迷わず起業を選ぶと思う。

上海生活 10 年になる妻にも迷惑を掛けてきたので、ともかく成功するしかないと考え

ている。ここでいう成功というのは、当然数字も重要だが、それよりも日々安定して事

業を営めるようになるということである。そのためには、従業員をもっと思いどおり働

かせることができるようにならなければならないと考えている。

今上海にはパン屋・ケーキ屋が 6,000 店~7,000 店あるといわれており、コンビニエ

ンスストアよりも多く、過剰な状態である。これからは、実力のあるところしか勝ち残

れなくなるはずであり、当社もその一社にならなければならないと考えている。

Q:今後の展望は?

A:このビジネスモデルのままでも上海で 10 店舗までは増やせると見ている。それに向け

て一歩一歩前に進めていきたい。

また、当社の中国人の客層は、ベンツやアウディに乗って買いに来てくれる地元の富

裕層がその大半を占めるが、今後、より大きなマーケットを狙って、一般の中国人に受

け入れられるように味を変え、価格を引き下げた別ブランドをつくっていくという構想

を考えているところである。例えば、中国人は肉末を振り掛けたパンを好むが、大半の

日本人はそれをおいしいとは思わない。中国人向けのパン屋として脱皮していくために

は、そのようなパン作りに踏み出していくことも必要だと思っている。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

- 84 -

A:こちらは確かに日本に比べれば魅力的な市場である。しかし、日本での商売が難しい

ので中国に出て来るという単純な発想ではよくないと思う。市場は確かにあるが、こち

らで事業を行うのは簡単ではない。家賃、食材調達、日本人の 1/3 の生産性を前提とす

る労働コスト等を見ても、決してこちらの事業コストは安くはない。また、当社のよう

な現金商売の場合、無理な販売計画を立てることもできない。

このため、日本でも相当成功しているという自信のあるビジネスモデルを持ってきて、

こちらに適合したやり方で顧客に提供するということでなければ事業継続は難しいであ

ろう。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 4 月 6 日)

- 85 -

上海月桂冠

会社名:月桂冠(上海)商貿有限公司

所在地:上海市長寧区 1027号多媒体産業園

37楼

設立年:2011年

資本金:500万元

従業員数:7人

主な事業内容:日本酒の製造・販売

日本親会社:月桂冠株式会社8(京都市)

インタビュー対応者:総経理 阿部昌義氏

Q:会社設立の経緯は?

A:日本の親会社である月

桂冠株式会社は、深圳

の代理店を通じて華南

地区を中心に中国への

輸出・販売を行ってい

たが、本格的に中国で

の販売を行うため、

2007 年に駐在員事務所を開設し、昨年、現地法人である当社を設立した。私は、2007

年に駐在員事務所の立上げ準備段階からこちらに駐在している。会社設立と並行して、

昨年 1 月から国内で委託生産を始め、昨年 9 月からその日本酒も販売している。現在販

売している商品は、日本から輸入している 4 種類、国内生産している 1 種類である。

Q:中国市場の可能性についてどのように考えていたのか?

A:台湾で日本酒はよく飲まれており、その中でも月桂冠は高いシェアを有している。こ

れは、長く続いた専売制の下、台湾が日本酒の輸入許可を数社に限定的にしか付与しな

かったという要因もあるが、同じ中華圏である以上、中国においても所得水準の上昇に

伴い、いずれ日本酒がよく飲まれるようになるだろうと考えた。

Q:実際日本酒は中国人に支持されているのか?

A:当社の売上げの約 85%は中国人がエンドユーザーであると見ている。中国は他国に比

べても日本料理店の数が多く、そのような異質な空間において非日常のイベントとして

8 中小企業ではない。

- 86 -

日本酒が飲まれている。

Q:上海には日本人駐在員も多いが?

A:上海の居酒屋を訪ねてみて、ボトルキープの棚に焼酎が多い場合には、営業活動を工

夫せよと社員には指示している。そのくらい、上海では焼酎の消費割合が高い。日本酒

と焼酎を比べると輸入酒で 1 本当たり 100 元程度単価が異なるので、よりお得感のある

焼酎が支持されているのだろう。

Q:コスト引下げのために国内生産を行ったのか?

A:上海にある日本料理店には食べ飲み放題の店が多いが、それらのメニュー中の飲み放

題の日本酒に採用されるか否かで売上規模が大きく異なる。このようないわば「ハウス

日本酒」は、ほぼすべて現地生産品であるため、対抗上、当社としても現地生産品を販

売することが必要であった。

輸入に伴う関税、手数料等を加えると、輸入品の小売末端価格は国内生産品の約 1.7

倍程度高くなってしまう。輸入品が 1 本約 168 元~188 元で販売されているのに対し、

同等の国内生産品は 98 元~128 元で販売されている。

逆に言えば、高い品質保持を前提とした場合、生産コスト自体は輸入品と国内生産品

ではそれほど変わらない。日本酒の主な原料は米と水である。一人当たりの人件費は確

かに日本と中国では異なるが、こちらの工場の設備が日本と異なることもあり、現場作

業員の人数が日本以上に必要になるので、総人件費は案外低く抑えることができない。

また、資材の一部は中国で調達できないため、日本から輸入しなければならない。

Q:こちらで日本酒をうまく作ることができるのか?

A:国内の白酒メーカーや紹興酒メーカーに日本酒を作れるか否か電話で問い合わせると、

大抵どこも作れると回答してくる。そこで、実際、ある地場メーカーにテスト製造して

もらったが、やはり技術、経験がないため、満足のいく物を作ってもらえなかった。

当社の場合、結果的に江蘇省にある日系醸造メーカーに製造委託することにした。そ

こは酒造用の精米機や浄水器も有しており、生産管理も信頼の置けるものであった。中

国には工員が現場でパンを食べていたり、煙草の吸殻が落ちていたりする醸造所もある

が、我々の委託した日系メーカーの場合、そのようなこともなく、当社技術者立会いの

下、各製造工程の管理をきちんと行ってくれている。このように当社技術者自らが生産

現場の指導を行うことにより、品質管理に万全を期すようにしている。

Q:中国で日本酒を売り込むに当たって工夫していることは?

A:当初は、百貨店の日本食フェア等において、日本と同じように日本酒は体によいとい

うプロモーションを行ったりしたが、こちらの人には受けなかった。このような試行錯

- 87 -

誤の結果、日本というものを大きく打ち出した方がよいということが分かった。マネキ

ンに舞妓の衣装を着せたり、枡で試飲してもらったりすると中国の人は興味を持ってく

れる。酒屋の店員が身に着ける厚い生地の前掛けも喜んでくれる。徳利についても、中

国にも似たような形の高価な陶磁器があるが、日本の平凡な徳利の方が受ける。こちら

で日本酒を売ることは日本を売るということだと実感しており、日本らしいと思わせる

演出が効果的である。

Q:日本製の日本酒も競争力があるということか?

A:輸入関税が下がり、国内物価が上昇してくれば、輸入日本酒の割高感も薄まり、競争

力を持つようになるだろう。現に月桂冠は、韓国向け及び台湾向けはすべて輸出で対応

している。

Q:現在の国産品と輸入品の販売割合はどの程度か?

A:およそ 7:3 で国産品の方が多い。そのくらい、日本料理店の定番メニューに入ること

の効果は大きい。

Q:中国全土で販売しているのか?

A:上海周辺、広東省周辺の占める割合が多い。地域別に見ると、上海周辺 4.5:広東省周

辺 3.5:東北部 2 という比率である。

Q:代理店販売なのか?

A:すべて代理店販売である。ただし、新規顧客の開拓に当たっては、当社社員が代理店

担当者に同行して営業活動を行うことがある。

Q:模倣品の問題はないのか?

A:当社に限らず、日系の酒造メーカーはどこも偽物の問題に悩んでいる。実感からする

と、当社の場合だけでも、実際の販売量とほぼ同量の偽物が出回っているのではないか

と見ている。もともと上海にも当社製品の偽物が多く流通していたが、代理店網を整備

してきたため、最近は偽物の販売が難しくなってきている。その一方で、まだ当社が管

理できていない地域においては、偽物が氾濫しており、ホームページを通じて消費者か

らの質問も多く寄せられている。当社としては、いち早く全土にわたり正規代理店網を

構築し、安全・安心に当社商品を購入してもらえるルートを確保し、関係各所の協力を

仰ぎながら偽物を駆逐していきたい。

Q:政府に取り締まってもらえないのか?

A:偽物工場もおそらく酒類免許は得ているであろうから、製造そのものを止めるのは難

- 88 -

しい。取り締まることができたとしても、商標違反で終わってしまい、根本的な解決に

なっていない。偽造ラベルを貼って消費者に当社製品と信じさせている場合がほとんど

あり、一般消費者の被害を防ぐためにも、ぜひとも関係各所の協力を仰ぎたい。

Q:今後の展望は?

A:委託製造では商品の種類を増やしたり、アレンジしたりするに際して限界があるので、

ゆくゆくは中国に自社工場を持ちたい。ただし、国内の物価上昇をにらみながら、中国

工場から中国国内、東南アジア等に販売する事業モデルが成り立つのかどうか、十分な

見極めが必要だと考えている。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:売上げに占める人件費の割合は日本と一緒と肝に銘じておいた方がよい。高品質な成

果物を得るためには能力の高い、すなわち給与の高い人材が必要であったり、物理的に

多数の人材が必要になったりしてしまうため、必ずしも日本より安価に収まるとは限ら

ない。

また、日本の中小の蔵元の場合、出張者がこちらの日本料理店等に売り込み、スポッ

トで 1 コンテナ輸出して販売するといったことはできるだろうが、それではどうしても

一過性の事象に終わってしまうであろう。日本でも同様であるが、顧客を継続的に訪ね

るようにしないといつの間にか他社商品に置き換えられてしまうものである。中国は広

大な市場であるため、ある時期・ある場所での成果はあまり意味を持たない。継続的な

市場開拓プランを構築することが必要だと思う。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 4 月 9 日)

- 89 -

iseya

会社名:伊祥雅商貿(上海)有限公司

所在地:上海市西藏中路 268号来福士広場

3楼 L3-SPK10

設立年:2008年

資本金:120万元

従業員数:7人

主な事業内容:雑貨の販売

日本親会社:なし

インタビュー対応者:総経理 伊勢利子氏、

副総経理 伊勢寿哉氏

Q:会社設立の経緯は?

A:私(伊勢利子)は、石川県小松市で

90 年以上続いている呉服店に嫁

ぎ、夫と共に呉服店を経営してい

るが、1990 年代半ばから、日本で

和服の販売業は将来伸びないであ

ろうから、同じ死に物狂いの努力

をするなら、別の場所で別の物を

販売してみたい、これからは上海

がアジアの中心になるだろうから、

上海でやってみたいと思うようになっていた。私は英語ができるので、米国市場も考え

てみたが、既に流通システムが出来上がっているところに新たに入っていくのはしんど

いと感じた。それに、何といっても上海は近い。小松-上海間の直行便開通の準備が進

んでいることも知っていたので、チャンスだと思った。

そこで、2002 年の 1 年間上海に滞在しようと決めた。しかし、滞在ビザがないと一年

間もこちらにいることができない。そこで、滞在資格の獲得と中国語の習得の一石二鳥

になると考え、上海交通大学に語学留学することにした。

語学留学中から事業に関する情報収集を行い、留学を終えた後、上海の人材派遣会社

の非常勤社員となり、現地企業従業員向けの接客マナー研修の講師をしながら、本格的

に会社設立の準備を始めた。上海にべったり滞在していても日本の流行に付いていけず、

事業のアイディアが浮かばないので、日本と上海を行ったり来たりしていた。そのうち、

技術や資本もない我々がこちらで事業を行うためには、中国人の得意な分野に入ってい

っても敵わないので、中国人の不得意なものと日本の得意なものをくっつけなればなら

- 90 -

ないと考えるようになった。

本来的には着物をこちらで売りたいと思っていたし、それは今でも思っているが、実

際には難しい。そこで、着物の生地を活かした財布、小物入れ、名刺入れ等の雑貨なら、

我々にしか作れない商品であると考えた。

こちらで開催される日本物産フェア等のイベントに日本で仕入れた商品を置いてみた

りしたが、価格が合わず、ほとんど売れなかった。しかし、そのうち、時代が変わって

きた。こちらのホワイトカラーの人たちの給料が上がってきて、物を買う力が付いてき

た。2006 年の上海伊勢丹のジャパンフェアで日本から持ってきた商品が奪い合いになる

ほど売れたので、これならこちらでやっていけると大きな自信を持った。ただ、今から

思えば、当時はまだ上海でも日本の商品が珍しく、また、期間限定のイベントであった

ため消費者の側に今買わなければならないという心理が働いていたから、売れたのだと

思う。今こうして実際に店舗を開設してみると、こちらで物を売ることはそれほど簡単

ではないと痛感している。

そのうち、投資金額の小さい外資企業であっても小売業の営業許可を得ることができ

るようになり、協力工場の準備も整ったので、2008 年に当社を設立した。

Q:商品を中国国内で生産しているのか?

A:売れ筋の商品については、国内生産をしている。そうしないと価格が合わない。

会社設立前に協力工場を探したが、これが大変だった。当社の注文する量が少な過ぎ

て、何十万個という単位で雑貨を製造して欧米へ輸出している企業は相手にしてくれな

い。やっと見付けたメーカーも、大量の不良品を平気で納入してくる始末だった。結局、

上海近郊の今の協力工場を見付けるのに数年かかった。今も抜き打ちで検査に行ったり、

工程管理ごとに進捗状況を確認したりしている。このような工場管理のやり方は、現地

アパレルメーカーの工場管理を行ったことのあるベテラン日本人に教えてもらった。

このように、日本から生地を輸入し、こちらで加工することにより、原価を下げるよ

うにしている。毎月一回日本へ帰る度に京都の生地問屋等を回り、よい生地がないかと

探している。

Q:販売店は何店舗あるのか?

A:合計 7~9 店舗開設したが、結果的には来福士店と港匯広場店だけを残した。潰した店

の中には、商業施設全体の売上げが上がらないために、フロア全体を改装するので、明

後日には出て行けと通告されたところもある。このような場合、当初支払った保証金も

内装費も返ってこない。これまでどれだけの大金をどぶに落としてきたか計算するのも

怖いくらいである。

テナントを貸す側が強過ぎるというのは中国の根本的な問題であると感じる。土地や

ビルを持つ側の権利が強過ぎるのだ。契約書には、改装の際には出て行けと書いてある

- 91 -

ので、こちらは出て行かざるを得ない。売上げ目標を達成しない我々がすべて悪いとい

う扱いになってしまう。しかも、出店料はどんどん上がっている。

最近、よい商業施設は無茶なことをしなくなっているが、新しい商業施設はまだ以前

のやり方のままである。このため、新築ビルには入居してはいけないというのが我々の

学んだ教訓の一つである。

Q:どのような商品が売れているのか?

A:店でお客様の意見を受け入れて、改良を重ねている。ちょっとした意見であっても受

け入れている。そのように少し改良を加えれば売れる物もあるので、柔軟性を持つこと

が必要であり、現場から目を離しては駄目である。市場の情報をいち早くキャッチして、

それをいち早く商品化する。それで駄目なら、別の物を出してみるということの繰り返

しである。

Q:現在の経営状況は?

A:これまでの損失額は大きいが、経常的には収支トントンである。

Q:主な顧客層は?

A:35 歳以下の若い女性である。上海近郊に住んでいる人もいる。香港や台湾から来た旅

行客が購入してくれることもある。

Q:日本人とは感覚が異なるのか?

A:こちらの人は派手な柄、濃い色合いを好むというように日本人と感覚が異なるが、何

といっても価格に対する感覚が異なる。若い人の給料が上がってきているとはいっても、

その違いは大きい。

Q:こちらの顧客の印象は?

A:上海はアジアで最も難しい市場といわれており、台湾や香港で成功しても、必ずしも

上海で成功できるとは限らない。こちらのお客様は品定めが厳しく、細かいところまで

よく吟味する。言い方を変えると、うるさくて粗探しがうまい。

こちらは変化のスピードが速く、2 か月前にたくさん売れた物が急に売れなくなった

りする。この商品が好きだと思うと友人にも紹介したりして燃え上がるが、すぐに飽き

てしまう。こちらの市場には日本で見たこともないような欧州ブランドを含め世界中の

ブランドが参入しており、それらを相手に戦わなければならない。そのためには個性を

出していくしかない。

あの手この手の販売努力をしており、それらをすべて話す訳にはいかないが、例えば、

私(伊勢寿哉)は、毎日のようにウェイボー(微博)で商品に関する情報を発信するなど

- 92 -

してお客様と交流している。ウェイボーを通じて iseya のファンになってくれたお客様

は、お客様同士でも情報を交換し、商品について語り合ってくれる。店の現場とウェイ

ボーにおけるお客様のつながりが実感できるようになって、ここでやっていけるとやっ

と自信を持てるようになってきた。

Q:従業員の育成で工夫していることは?

A:私(伊勢利子)は、接客マナーを教える資格を有しているくらいなので、これまで従業員

教育に力を入れたことがあったが、せっかく教え込んでも、半年、1 年ですぐに辞めら

れてしまう。地元に戻ると言っていたはずなのに、目の前の店舗で働いていたりする。

このため、最近は従業員教育を諦めたくなっていた。

しかし、お客様がきちんと対応できるスタッフを求めている以上、いくら時間がかか

っても人材育成はしっかりやらなければならないと考え直している。どんなにしんどく

ても人材育成はやるしかない。同じ人間なのできっと分かってくれるはず、体当たりで

やらなければならないと考えている。

普通中小企業には海外ビジネスの経験のある人を雇う余力はない。結局は自らが中心

になってやらなければならないことがたくさんある。実は、昨年 12 月、こちらで会社設

立準備段階から頼りにしていた日本語のできる現地採用社員がとうとう辞めてしまった。

その時は落ち込んだが、これからは自分たちでやるしかないと覚悟を決めたら、新しい

力が湧いてきた。もう怖いものはなくなり、何でも自分でできるようになった。思い起

こすと、それまで彼女に辞められたらこちらが困ってしまうと考え、彼女に遠慮してい

たところがあった。そうすると、相手側も調子に乗ってしまうものだ。今では、現地採

用社員に対しては、辞めたければ辞めろという態度で接することができるようになった。

そうすると相手側もより真剣な態度に変わってきたと実感している。

昨日私(伊勢寿哉)は、従業員と一緒に 8 元のラーメンの昼食を食べたが、従業員から

はこんな物を食べて腹を壊さないのかと心配された。こちらに来た当初は何度も腹を壊

したものだが、今では全く問題ない。

私たちは、ほとんどタクシーにも乗らず、公共バスや地下鉄、徒歩で移動している。

息子(伊勢寿哉)とは、シンガポールに進出すれば、もっときれいな場所に住めるかなな

どと語り合っている。

Q:今後の展望は?

A:夢は上海からアジアへである。香港には既に商品を置いている所があるが、香港、シ

ンガポール、台湾、インドネシア等へ展開していきたい。時間はかかるだろうが、未来

は明るいと思っている。

こちらの富裕層は、シャネルやヴィトンといった世界的なブランドにしか関心がない。

このため、日本の高価な物ならこちらで売れるだろうと考えるのは間違いである。我々

- 93 -

は、中の上クラスの消費者をターゲットに置いている。

少しずつ当社の名前が浸透してきていると感じており、お客様から、この商品は 3 年

前にあの店で売っていたでしょうなどと指摘されることもある。よく見ているものだと

こちらが驚かされる。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:中国での成功体験ばかり聞いて、夢見て来ても駄目である。むしろ失敗してきた人の

話に耳を傾け、それを繰り返さないようにした方がよい。そのためには、こちらで実際

に事業をしている人の話を聞くのが最もよいと思う。

小売販売の営業許可を得るためには、店舗を借りなければならないが、実際に店舗を

借りるとその日から経費が発生してしまう。また、色や形などのこちらの人の好みは日

本人とは異なる。我々は、店舗内にそれら日本の事業者の商品を置くスペースを設ける

とともに、色、形等についてもアドバイスすることができる。このように我々をコンサ

ルティング会社として活用してもらうのも一案だと思う。

今、息子(伊勢寿哉)は、ほとんど日本に戻らず、上海に定住している状態であり、店

で接客している時間も長い。店という現場でしか得るものがないというのが実感であり、

私たちに現場があって本当によかったと思っている。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 4 月 12 日)

- 94 -

杭州 KAZUMA

会社名:杭州維布貿易有限公司

所在地:浙江省杭州市中山北路 53号~57号

設立年:2010年

資本金:150万元

従業員数:6人

主な事業内容:カーテン、インテリア雑貨の販売

日本親会社:株式会社カズマ(福井県)

インタビュー対応者:董事 小寺隆治氏

Q:会社設立の経緯は?

A:日本の親会社である株式会社カズマ

はもともと福井県のレース生地メー

カーだったが、1990 年頃から既製品

を製造するようになった。それでも、

当時は問屋向けの販売がメインであ

り、OEM 製品を作っていた。その際、

問屋が間に入ることにより情報が分

断されるという問題を感じていたの

で、11 年ほど前から直接小売業者へ

の販売を行うことになった。その後小

売流通への売上げを順調に伸ばし、今では、カーテン販売を行っている大手小売業者の

ほとんどと直接に取引している。

カズマは、カーテン以外にインテリア雑貨も取り扱っているが、売上高の約 93%がカ

ーテンであり、そのうちの約 93%を小売店に直接販売している。

カズマには企画部隊がおり、小売業者に対し直接企画提案を行っている。世界のイン

テリア関連の展示会を調査し、会社内部のデザイナーや提携している外部デザイナーも

活用して製品開発を行っている。このような意味において、カズマは開発提案型のメー

カーである。カーテン製造は、機屋-染色加工-縫製-出荷という工程を経るが、カズ

マの場合、デザインも含めた一貫生産を行っているのが強みである。

中国との接点は、2003 年に杭州に工場を設立したことから始まった。福井市と杭州市

が友好姉妹都市であり、杭州は繊維の産地であることから、工場をつくるのなら、近隣

に協力工場を持てる所がよいと考えて、杭州市蕭山に工場をつくった。現地法人は現地

の人たちでやっていけるようにしなくてはならないというのが当初からの数馬國治社長

の考えであり、日本の親会社にいた中国人研修生の第一期生のうち、能力・人格ともに

- 95 -

ずば抜けていた胡宇菲を総経理にしたが、工場設立当初は、数馬社長自らが単身でこち

らに乗り込んで、立上げを指揮した。

蕭山工場では、日本でやっていないことをやろう、また、当時は中国製品については

安かろう悪かろうというイメージが強かったが、これを覆すような製品づくりを行おう

と考えて、刺繍機を約 10 台入れて刺繍を行うようにした。同時に、縫製のラインもつく

った。このように生地も現地調達し、刺繍をして縫製するという、日本の親会社では行

っていない全く新しいことを行った。

Q:現地の生地で問題なかったのか?

A:有力な工場を見付けて、協力し合いながらやっていきたいと最初から考えていたので、

何十社も工場を回った。また、問題があってもまずは生地を買い、必要があれば、改善

のための技術指導をすることにした。数馬社長自らが前面に出てこのような関係づくり

を行ったため、今では厚い信頼関係のある協力会社が 10 社以上もある。

Q:社長は当時何歳くらいだったのか?

A:52 歳くらいだったはずだ。新たな事業を行うときはトップ自らが前面に出ないと駄目

である。海外で事業を行うのは簡単なことではない。

Q:中国人の義理人情の厚さは日本人の比ではないということを聞いたことがあるが?

A:ここの国の人は、血のつながりはもともと大事にするが、信頼関係を築き、お世話に

なった人への恩情は日本人以上に強いと私も感じる。

Q:一方で、現地の人に騙されたという話もよく聞くが?

A:ここは人が日本の 10 倍いるので、いい人も悪い人も 10 倍いると思えばよい。日本人

の中には頭から「中国人は」という目で見てしまう人が多い。そのような先入観から入

ってしまうので、中国人から好かれる日本人と好かれない日本人に分かれてしまうので

はないかと思う。人の感情や感性は育ってきた環境により決まってくる。このため、こ

ちらの人の習慣は当然日本とは異なる。日本の常識をこちらに持ち込んで話しても無理

である。また、こちらの人はプライドが高いので、メンツを無視してしまうと友達がい

なくなってしまう。メンツを傷つけてしまうと取返しがつかなくなってしまう。この点、

数馬社長には中国人に対する偏見がなく、すぐに友人関係をつくることができた。

Q:こちらで作った刺繍の反応はどうだったのか?

A:それまでは日本のカーテン市場には刺繍製品はあまり流通していなかったのだが、た

またまその人気が出てきて、見事に当たった。当時中国には「二免三減」の税制優遇策

もあったため、蕭山の現地法人は初年度から利益が出た。

- 96 -

そこで資金をつくることもでき、一方で円高の進展等もあったので、2008 年に杭州市

の下の県級市である富陽市に新しく工場をつくった。ここは 3 階建ての床面積 1 万 5 千

㎡で、レース機を用いた編立ての一貫工場にした。

富陽を選んだ理由としては、胡宇菲総経理の故郷であるということも大きかったが、

数馬社長の考えで開発区は止めることにした。開発区では将来的に工員の奪い合いとな

り、従業員の定着率が悪くなるだろうと考えた。長く勤務してくれる熟練工を確保する

ためには、地元に入り込んだ方がよいと考え、あえて田舎を選んだ。再来年頃には蕭山

工場の刺繍ラインも富陽工場に移す予定である。

Q:こちらで製造している製品は、すべて日本の親会社へ販売しているのか?

A:親会社向けがほとんどであるが、一部日本の大手小売業者に直接販売している物もあ

る。

Q:日本の工場ではどのような物を作っているのか?

A:主にオーダーメイド製品を作っている。

Q:なぜ中国向けの販売を行おうと考えたのか?

A:まず 2008 年から日本で自社ブランドをつくって小売りを始めた。これは、OEM だけ

だと、商品内容の決定権限が小売業者側にあるため、自分たちの作りたいものを作るこ

とは難しいと感じていたからである。自分たちの作りたいものを作るため、既存の取引

相手先の商品とバッティングしないカテゴリーの商品、具体的には高品質・中価格のカ

ーテンを自社ブランドとすることにした。外部のデザイナーも使って商品化した結果、

高級専門店が扱ってくれるようになり、手応えを感じた。

また、2010 年からは、ハウスメーカー向けの商品販売も始めた。実は日本のカーテン

の半分以上はハウスメーカールートで流通している。多くの一般消費者は住宅を購入し

た際にハウスメーカーの提携しているカーテン販売店のカタログを見て、カーテンを購

入する。住宅ローンの関係もあって住宅を購入するのは 30 歳代が最も多い。このため、

そのような年代が好む商品を開発して営業活動を行ったところ、カズマ製品を取り扱っ

てもらえるようになった。

このような実績も上がってきたので、日本で販売している自社ブランド商品を今後市

場が伸びるであろう中国で販売しようと考えた。日本では住宅着工件数が減少傾向にあ

り、将来的にカーテン市場も縮小していくのではないかという危機感もあった。中国で

のビジネスには非常に時間がかかるが、今から始めなければならないと考えた。

Q:なぜここ杭州に店を構えたのか?

A:中国において自社ブランド商品を販売するためにはショールームが必要だと考えた。

- 97 -

工場が浙江省にあるので、アンテナショップをつくるのなら、杭州にしようと決めてい

た。実際、数馬社長と親交の深い酒井元福井市長が日中友好協会の副会長を務めるなど

中国の要人と緊密な関係を有していたこと等から富陽工場の開業式典に浙江省や杭州市

の要人が出席してくれ、そのような関係から、浙江省の業界関係者とのつながりもでき

た。

最初は、B to B の市場を狙おうとして、病院、設計業者、建設業者等をつてをたどっ

て回ってみた。商品力や価格は全く問題なかったが、基本的に人脈のあるなしで採用さ

れるか否かが決まる世界であり、すぐに入っていくのは難しいと感じた。そこで、この

アンテナショップを活用して、B to C でやってみることにした。

店を構えるに当たっては、約 2 か月、私が朝昼晩杭州の街を歩き回り、人の流れを見

て、ここに決めた。競合のカーテン販売店は面料市場に集まっているが、そこに店を出

しても価格競争に巻き込まれるだけでブランドイメージを育てるのは難しいと考え、最

初から面料市場は検討対象から外した。

また、この店には、ショールームとしての役割だけでなく、地元の設計・デザイン事

務所とタイアップして、彼らのデザインした商品のショールルームとしても一部活用し

てもらおうと考えた。

さらに、日本の小売業のバイヤーが多く中国に来ているので、彼らがアクセスしやす

い場所に店を構えることにより、日本向け販売の商談場所としても活用しようと考えた。

実際、当社は貿易公司であり、カーテン以外にもいろいろな商品を扱うことができる。

布関係の雑貨品を日本に輸出する拠点としても使いたいと考えた。

この店が開業したのは 2010 年 5 月である。

Q:反響はどうだったか?

A:この店は 4 月 1 日に賃貸契約をしたのだが、店の前の通りを近代的な街にしたいとい

う杭州市政府の意向から、1 か月以内にオープンしろと言われた。しかし、この物件の

図面すらない。そこで、私自らメージャーを持って図面を引きながら、什器を設計した。

それで何とか開業に間に合わせた。

私の計算ではこの店で利益を出すためには 1 か月最低 10 万元の売上げが必要と見込

んだ。足りない分は貿易の外商により、全体をカバーする予定だった。最初は売上げを

上げることに苦労したが、今年 1 月には店舗販売だけで 10 万元の売上げになった。貿

易の売上高が 40 万元だったので、計 50 万元になった。

Q:既に目標を達成したということか?

A:こちらでは 10 月から翌年 1 月が需要期なので、この時期に月 12 万元の売上げを達成

しないと通年平均で月 10 万元にはならない計算である。あともう一歩である。

- 98 -

Q:中国市場をどのように見ているか?

A:こちらの人はマンションや別荘の内装に金をかけるので、単価は日本の 2 倍~3 倍であ

る。また、こちらの人は英国や仏国のようなクラシック調の重厚なデザインを好む。分

厚くて重くて、きらきらしているものである。この点、日本では北欧調のシンプルなデ

ザインが好まれるので趣向が異なる。

実際、アンテナショップをつくってみると、うれしいことがある。当社独自の遮熱・

余熱性能の優れたエコファイン(ECO-FINE)という商品を 1 枚買って、自宅で試して

使ってみた人が満足したため自宅のすべてのカーテンをそれにするといってくれたこと

があった。当店では、その人に事前に断った上で、「この商品は本当によい」というコメ

ントを匿名のポップ広告として店に掲示していたが、ある日その人が別のお客様を連れ

てきてくれて、そのポップ広告を見て店員と共に喜んでくれたということがあった。

また、マンションでのインテリアのコーディネート等を行っている浙江省ナンバー1

の設計会社の責任者も先日当店を訪れてくれて、エコファイン等の機能性の優れた商品

に非常に関心を示してくれた。今度、当社の優れた機能性を有する商品群を彼に提案す

ることになっている。

ちなみに、エコファインはアルミ蒸着したポリエステルフィルムを経糸に 100%用い、

生地にしたものであるが、フィルムがよじれることなく平らな表面になるように織るの

が難しい。この技術は、アパレル素材を中心に製造している蘇州の地場の機屋の社長と

共同開発したものである。数馬社長は彼と製造技術に関する話をするととても楽しそう

である。

さらに、自分の好きなデザインを生地に 1 枚から転写することが可能なインクジェッ

トプリントしたカーテンをこの店で見て、これが欲しいと注文したお客様もいた。日本

から輸入しなければならないので高価な商品なのだが、自分用のオリジナルな物が欲し

いということだった。このように中国人は日本人と比べて自分の好きなものには金を惜

しまないと感じる。

Q:労務管理面で苦労はないか?

A:スタッフ教育は大変である。日本語も全く分からない新卒の女性を 3 人雇い、私たち

が作ったマニュアルを中国語に翻訳して読ませたりしたが、理解してもらうのは容易で

はない。

掃除についても、店の外の掃除から始めた。しかし、なぜ外の道路の掃除が必要なの

か理解してもらえない。こちらの人は、店の外の道路は自分たちのものでなく、国のも

のであると思っている。私は、インテリア専門店には清潔感が必要であり、そのために

は店の周りから清潔にしておくことが必要だと説明し、毎日朝 30 分、夜 20 分掃除させ

た。ここは、ブランドづくりのための店舗なので店としての風格が重要である。

しかし、結局、2011 年の春節明けに皆辞めてしまった。とても困ったので、一人蕭山

- 99 -

工場からカーテンのことはすべて分かる女性を連れてきて店長にした。同じような年齢

の人が複数入るとちょっとしたことでもめてしまう。このため、店長には他の店員 4 人

の管理をしてもらうようにしている。

昨年も私が期待していた優秀な従業員が上と下に挟まれて疲れたと言って辞めてしま

った。とてもショックだったが、私を含めた複数の者から別々に指示を出すというやり

方もよくなかったと反省して、基本的に店長の言うことを聞けばよいように改めるよう

にした。このような工夫もしている。

今の店長を置くようにしてから、従業員が安定してきて、今年の春節明けも皆戻って

きてくれた。店長には毎日の売上げ、仕入れ、利益等はすべて報告させており、きちっ

と指示すれば確実にやってくれている。

Q:現地従業員のやる気をもたせるために工夫していることは?

A:事務職相当の給与は保証した上で、出来高制を導入している。また、こちらの従業員

には、お客様を飽きさせないように商品の置き方を頻繁に変えるように指示している。

変え方に正解・不正解はないと。そうすると自分たちで商品の並べ方を工夫するように

なった。実際そのひと工夫で物が売れるようになると従業員もやり甲斐を感じてくれて

いるようだ。

さらに、お客様からの「こんな商品はないのか」という言葉を大切にしろと指導して

いる。自社製品にこだわらず、求められる物があれば店長権限でそれを置いてよいとい

うことにしている。そのような従業員のアイディアから生まれたエコファインの膝掛け

は、使った人から「本当に温かい」という感想を頂き、当店のヒット商品になっている。

Q:顧客の声を商品開発に反映しているということか?

A:それがアンテナショップの役割である。リビング雑貨に関してもおもしろい商品が開

発できるのではないかと期待している。

Q:中国向けの商品開発は行っていないのか?

A:ここは日本の当社ブランドの商品を発信する場なので、70%くらいは日本のカズマが

企画した商品を売っていくつもりだが、残りの 30%程度は中国人の好きなものを売って

いくつもりである。

また、ここは中国以外の国への輸出拠点としての役割も担っている。現に日本の親会

社のホームページにアクセスしてきたカザフスタンの商人との商談が進み、今度、ここ

からカザフスタンに輸出を始める予定である。日本で製造した物を輸出したのでは価格

が合わないので、こちらから中国製の物を輸出していくつもりだ。

Q:今は繊維の製造拠点として東南アジアが注目されているが、貴社は中国に踏みとどま

- 100 -

るつもりなのか?

A:婦人服等は生地の調達や設備等のインフラ整備が行いやすく、カーテンとは随分と違

うと思う。全体的には縫製はできるだけ工賃の安い地域に移る傾向が強いし、製造コス

トだけを考えれば、既に中国はベトナムに勝てない。しかし、当社の扱っているカーテ

ンの場合、専用設備、細かい副資材等にその都度対応することが必要であり、それらが

すべて揃うのは中国しかないし、今後も中国ほどの国は現れないであろう。このため、

中国に根付くことが必要であり、人件費が 20%上がるのであれば、その分一人当たりの

生産性を 20%上げなければならないと考えている。

Q:日本の中小企業へのメッセージがあれば?

A:今の日本は少子高齢化も進み、昔のように店に並べておけば商品が売れるという時代

ではなくなっている。このため、商品の品質、価格、露出方法等を含め、非常に高度な

技術を要求されるであろう。これは永遠の課題だと思う。

ただし、商売をやっている人は絶対に中国を見ておくべきである。売りに来る人も、

買いに来る人も。中国を見ておかないと取り残されてしまう。ここには一流ブランドの

コピー品が出回っているが、コピー品を作ることができるということは相当な作る技術

を持っているということである。当社の場合も、中国がないと会社が語れなくなってい

る。どんな会社であれ中国を見ておかないと始まらない。

先日もデザインを欧州で学び、欧州の展示会に出品して認められるかどうかという環

境で経験を積んできた私の知り合いの女性デザイナーに「一度上海を見てごらん」と話

したところ、最近は頻繁に上海に来ているそうだ。彼女は私に「まさに目からうろこで

あり、こんなによい材料が中国に多くあるとは想像していなかった」と話していた。

(以上)

(インタビュー実施日:2012 年 2 月 16 日)

- 101 -

- 102 -

おわりに

安徽省馬鞍山市という日本人がほとんど住んでいない内陸部の都市で起業した Anhui

OSS の中尾貴光董事長・総経理は、中国市場には「無限の可能性がある」と述べている。

この「無限の可能性」を抱える市場の隣の国日本に所在する中小企業は、その市場にお

いて事業の拡大を図るためにどのような戦略を立てればよいのだろうか。

その問いに対する解答は、当然一つではあり得ないが、同じ問題意識を持つ中小企業関

係者のために「考えるための材料」を提供したいという思いから、様々な業種に属する現

地法人の経営者に対するインタビューを行い、その結果を調査報告書として公表してきた。

今回がその 3 冊目となる。

毎回、仮説と呼んだ方が適切と思われる「戦略」を提示してきた。今回のポイントは、

中国市場に対応して経営サイクルを好循環させるためには、「他者に頼り切らず、自ら真剣

に中国の人々や社会と向き合う」べきであるというものであり、「中国の人々や社会のため

になる事業を行うことにより現地のよきパートナーを見出す」という報告書Ⅱのそれと比

べると、日本人自らが中国の人々や社会のことを理解し、実際にその中に入っていこうと

努めることの重要性をより強調したものとなった。そのような自分自身の覚悟・努力を前

提にしてこそ、信頼できるパートナーと出会うこともできると考えるべきであろう。

もっとも実際には、一部日本の若者はこのような理屈抜きで、中国の人々や社会の中に

自然体で入っているようだ。歴史的経緯から反日感情が未だ強く残っているはずの江蘇省

南京市において、夫人と共にエステサロンを経営している諏訪間誉氏9、バーを経営してい

る松井俊次氏10はその一例である。

これから中国への進出を検討しようとしている日本の中小企業関係者に対し、今回のイ

ンタビュー対応者は、総じて以下の 5 つのメッセージを伝えているということができる。

第一に、3年~5年程度利益が出なくても事業を継続するだけの資金力が必要であること。

第二に、業態によっては人件費の高騰等によりコスト低減は期待できないこと。

第三に、日本・日系企業向けの事業から始め、それを軌道に乗せた後、非日系企業・非

日本人向けの事業を展開していくという方策も有効であること。

第四に、実際に中国に来て体験的に見聞してみることが重要であり、進出候補地は上海

に限られないこと。

第五に、海外進出により日本の親会社も成長し得ること。

中国に進出するか否かまだ迷っている事業者にとっては、これらの見解も参考になるの

ではないかと思う。

9 http://www.jetro.go.jp/industry/service/biznews/4ee58995ca648 10 http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/biznews/4ee7fa1687fc8

- 103 -

私事で恐縮だが、本報告書の執筆中に帰任命令を受けた。これまで 3 年間、根拠の示せ

ない曖昧な情報ではなく、引用可能な基礎資料を日本の中小企業関係者に提供したいとい

う思いから、調査報告書や通商弘報記事という形でインタビュー記録の作成・公表に励ん

できたが、今はこれで一区切りついたという気がする。

テクダイヤ上海の小山真吾董事長・総経理は、採用面接に訪れた野心溢れる中国の若者

とのやりとりを振り返りながら、「日本人は、もっと真剣にならなければならない。中国に

は一生懸命地べたを這い回って努力している人がいないなどとよもや思ってはならない」

と日本人に自戒を促している。トップレベルの中資企業の生産現場の方が「日系企業より

もすごいなと感じることも多い」と語る a-Sol の門脇圭董事長・総経理は、現地法人だけで

は何も決められない日系企業が「だらしないと思うことも多い」と嘆いている。

中国内販を志す日系企業・日本人は、決して中資企業・中国人のことを見下すことがあ

ってはならないである。その上で、より多くの日系企業・日本人が、権限委譲等により、

やる気に溢れた現地人材の力を最大限引き出すとともに、自らも中国の人々や社会と真剣

に向き合い、よきパートナーと協働しつつ他者と公正に競い合うことにより、この大地に

自らが必要とされる場・自己存在確認の場を見出していって欲しいと思う。

最後に、今回、インタビューに御協力いただいた各社の皆様、インタビュー対象企業の

探索に御尽力いただいたファクトリーネットワークチャイナの小笠原大八氏、メディア漫

歩の岩下祐一氏、古田勇斗氏に心から感謝申し上げる。

(2011 年 5 月 21 日 ジェトロ上海事務所次長 川合現)