E 対策の実施 E1.ウニの除去 - maff.go.jp...-1】スキューバ(SCUBA)潜水...

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E.対策の実施 ここでは、磯焼け対策技術について紹介する。ただし、阻害要因が複数ある場合には、 紹介する対策技術を効果的に組み合わせて実施する。 E1.ウニの除去 ウニの除去は、作業効率の高いスキューバ潜水による方法がよい。ただし、これにより 難い場合には、素潜り、あるいは船上から挟み棒などの漁具を用いる方法や餌の入ったカ ゴを設置する方法がある。これらの方法は作業範囲が限定的で、作業効率もスキューバ潜 水に比べて劣ることから、実施にあたっては、十分に作業計画を検討する。 【解説】 ウニの除去は、スキューバ潜水によって、ウニ鉤等でウニを除去したり、ハンマーで潰 したりしてウニ密度を下げるものである。 実施にあたっては、事前にウニの生息密度、生息水深帯、透明度、波浪条件、底質を把 握するとともに、作業性や経済性、海藻の成熟期、あるいはウニの産卵期を考慮して作業 計画を立案する。ウニの除去は、除去区域内のウニを完全に除去できるまで継続して実施 し、その後のウニの密度を確認しながら除去範囲を拡大させて行く。ただし、実施場所に は目印のブイ、またはウニフェンスを設置して範囲を明確にしておくことが必要である(E 3.参照)1)潜水除去 (1)対象のウニ 藻場への影響の大きいウニは、キタムラサキウニ、エゾバフンウニ、ムラサキウニ、 ガンガゼ類、ナガウニである(参考資料 4 参照)(2)除去する場所の決め方 潜水除去をする場所は、実施体制、作業員の能力、安全性に留意するとともに、成果 が早期に発現しやすい次のような場所から始めるとよい。また、場所を設定する際には、 ウニが中心部に侵入するまでに時間を要する正方形にした方がよい。 近傍に海藻群落が残っている場所 対象海域で最後まで藻場が残っていた場所 砂に囲まれた孤立した岩礁 - 80 -

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E.対策の実施

ここでは、磯焼け対策技術について紹介する。ただし、阻害要因が複数ある場合には、

紹介する対策技術を効果的に組み合わせて実施する。

E1.ウニの除去

ウニの除去は、作業効率の高いスキューバ潜水による方法がよい。ただし、これにより

難い場合には、素潜り、あるいは船上から挟み棒などの漁具を用いる方法や餌の入ったカ

ゴを設置する方法がある。これらの方法は作業範囲が限定的で、作業効率もスキューバ潜

水に比べて劣ることから、実施にあたっては、十分に作業計画を検討する。

【解説】

ウニの除去は、スキューバ潜水によって、ウニ鉤等でウニを除去したり、ハンマーで潰

したりしてウニ密度を下げるものである。

実施にあたっては、事前にウニの生息密度、生息水深帯、透明度、波浪条件、底質を把

握するとともに、作業性や経済性、海藻の成熟期、あるいはウニの産卵期を考慮して作業

計画を立案する。ウニの除去は、除去区域内のウニを完全に除去できるまで継続して実施

し、その後のウニの密度を確認しながら除去範囲を拡大させて行く。ただし、実施場所に

は目印のブイ、またはウニフェンスを設置して範囲を明確にしておくことが必要である(E

3.参照)。

1)潜水除去

(1)対象のウニ

藻場への影響の大きいウニは、キタムラサキウニ、エゾバフンウニ、ムラサキウニ、

ガンガゼ類、ナガウニである(参考資料 4参照)。

(2)除去する場所の決め方

潜水除去をする場所は、実施体制、作業員の能力、安全性に留意するとともに、成果

が早期に発現しやすい次のような場所から始めるとよい。また、場所を設定する際には、

ウニが中心部に侵入するまでに時間を要する正方形にした方がよい。

近傍に海藻群落が残っている場所

対象海域で最後まで藻場が残っていた場所

砂に囲まれた孤立した岩礁

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(3)潜水除去作業の所要人数

潜水除去作業の所要人数は、作業員の能力と除去面積を勘案して設定する。スキュー

バ潜水によるウニの除去の所要人数の算出は下記の式により求める。

M=S×f

n×t (人) (小数1位切り上げ)

ここで、M:スキューバ潜水除去の所要人数(人)

S:ウニ除去区域の面積(㎡)

f:平均ウニ密度(個/㎡)

n:ウニ除去速度(個/人・時間)

t:1日当たりの潜水作業時間(時間)

ウニ除去速度は、実施時期、水深、透明度、海象条件により変動する。参考までに、

各地の事例を示す。

北海道江良地先:n=1,260個/人・時間

(キタムラサキウニ回収、密度:5個/㎡)

福岡県宗像市地先:n=900個/人・時間(秋本ら,2008)

(海底でガンガゼを潰す、岩礁、密度:6.0~9.0個/㎡)

三重県尾鷲市早田浦地先:n=552個/人・時間(倉島ら,2014)

(海底でガンガゼを潰す、岩盤・岩塊・巨礫等、密度:2.0~8.8個/㎡)

(4)海中でウニを潰す方法

石の表面のウニはハンマーで潰す、石の隙間にいるウニはウニ鉤で掻き出してハンマ

ーで潰す(図 E1-1)。道具は、ウニ鉤とハンマーを用いる(図 E1-2)。潰す際には、完

全に潰す、あるいは半分以上に割るなどして大きく潰す。除去範囲内のウニ密度の推移

を把握するため、潰したウニの数を各自でカウントし、終了後に申告して記録しておく。

図 E1-1 ウニの潰し作業

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図 E1-2 ウニを潰す道具

※右上の写真は漁業者が考案したガンガゼ用の

道具。先端部がT字型、あるいは十字型になっ

ており、ウニを突いて潰せる様になっている。

(5)ウニを回収する方法

ウニを回収する場合は、潜水によるウニ漁と同じ要領で、ウニ鉤で掻き出し手タモ(材

質は、プラスチックやステンレス)、あるいは網袋に回収し、ある程度集めた時点で船上

に運び上げる(図 E1-3)。除去範囲内のウニ密度の推移を把握するため、1個当りのウニ

の重量を計測し、袋等の重量から 1 袋当たりの個数を割り出して、使用した袋の延数量

から全体の除去個数を算出し記録する。

図 E1-3 ウニを回収する作業状況

除去したキタムラサキウニ、エゾバフンウニ、ムラサキウニを、近傍の天然藻場へ移植する場

合(図 E1-4)は、天然藻場のウニ密度が高くならないように注意し、その後に必ず漁獲

する。

たくさんのウニを潰すため、手に負担

がかからないように、ハンマーの持ち

手の部分にゴムやクッション材を巻い

ておくとよい。

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図 E1-4 除去したウニの移植作業

(6)実施するにあたっての留意点

ウニは漁業調整規則で採捕(除去を含む)が禁止されている。市町村等の自治体が

漁業協同組合の要望でウニ除去を実施する場合やボランティア等がウニ除去を実施

する場合には、都道府県知事の特別採捕許可が必要である。

ウニ除去は、水深が深い場所から浅い場所に移動しながら実施すると効率的である。

ウニ除去の作業効率を図るため、事前に作業の説明を行うとともに、実施海域には

進行方向や対象範囲を明確にしたガイドロープを海中に敷設しておくとよい(図

E1-5、図 E1-6)。

ガンガゼなどは小さな穴を開けただけでは、再生する恐れがある。また、潰したウ

ニの見分けが付きづらいので、潰す場合は完全に二つに割るか、あるいは砕いてし

まうように心がける(図 E1-7)。

棘とげ

の長いガンガゼは棘が刺さりやすく、刺さると激しい痛みを引き起こす。作業中

は周りに注意し、長めのウニ鉤や専用の棒を用いて注意深く作業を行うように心が

ける。刺された場合は、目に見える棘は、体内に残らないように丁寧に抜き、医療

機関で治療を受ける。患部を 40~50度のお湯につけると痛みを和らげることができ

る。

ウニを除去する時期によっては、除去後イワガキ、ヒバリガイモドキ、ソフトコー

ラルなどの他の付着動物が優占することがあるので注意する(図 E1-8)

アメフラシや植食性巻貝が目立つようであれば、同時に除去するとよい(図 E1-9)。

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図 E1-5 実施前の作業説明 図 E1-6 作業区域を示したガイドロープ

図 E1-7 完全に二つに割られたガンガゼ 図 E1-8 除去後に増えたソフトコーラル

図 E1-9 ウニと同時に除去した方がよい植食動物

参考文献

秋本ら(2008):宗像市大島におけるガンガゼ類の分布と駆除,福岡水技センター研報,18,77-83.

倉島ら(2014):三重県早田浦の磯焼け海域におけるガンガゼ除去の影響,日水誌,80, 561-571.

ギンタカハマ

ウラウズガイ

アメフラシ

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【コラム E1-1】スキューバ(SCUBA)潜水

主要な潜水方式は、陸上からのホースで空気を送ってもらうヘルメット式とフーカー式、空気

を詰めたタンクを使って潜水するスキューバ式に分かれる。磯焼け対策では、主にスキューバ式

の潜水で行われる。スキューバ潜水は、潜水士自身が空気ボンベを携行するので、行動範囲が限

定されず、水中でも自由に行動でき、ウニの除去を効果的に行える。

スキューバ潜水は、ふつう、ウエットスーツまたはドライスーツを着用し、①BCD(浮力調整

具)、②マスクとスノーケル、③ナイフ、④時計、⑤レギュレーター(圧力調整器)、⑥足ヒレ、

⑦空気ボンベ等(写真の番号と対応)が必要である。近年は海中の交信装置も手軽になり、更に

活動しやすくなっている。ただし、行動の自由度が高く、作業の安全管理上に問題が生じる可能

性があるので注意を要する。

【潜水時における安全管理上の留意点】

・技量、体力、技術レベル等を考慮して作業員を配置する。

・潜水前に作業員の健康状態を把握し、体調の悪い者は参加させないようにする。

・作業の実施前には、気象・海象条件を充分把握しておく。

・作業員には、漁業調整規則、マナー、法的規範等を厳守させる。

・潜水機材は、自己の責任で適切に管理させる。

・船上には監視員を配置し、潜水中の作業員および船舶等の行動に注意する。また、天

候や海の変化をいち早くキャッチして潜水作業の中止の判断を下す。

・潜水作業中は、定期的に残圧をチェックさせ、設定残圧になったら作業を中止して浮

上させる。

・浮上する際には、浮上速度、肺加圧、船舶等への衝突に留意させる。

⑦ ⑥

③ ②

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【コラム E1-2】スキューバ潜水と船上採取の除去効率の比較

浅所(水深 1.5m)の転石帯で、ダイバーと

船上

(タモ捕り)の除去効率比較試験を行った

(図 1)。

その結果、船上からの除去効率は、スキュ

ーバ潜水と遜色がなかった。理由は、水深の

浅い場所では、タモや竿の操作は容易なのに

対し、ダイバーは身体が波で安定せず除去し

にくいためと思われる。

(平成 26年度 北海道磯焼け対策連絡会議 道総研発表資料から作成)

【コラム E1-3】船上からのウニ除去

船上からのウニの除去は、熟練者が小型船から箱メガネで海中を覗き、突き棒やヤス、タモ網

で捕獲し行う(図 2)。ただし、除去できるのは海面から見えるウニに限られ、海底の亀裂や転

石の隙間に潜むウニの除去には向いておらず、透明度が高くなければ難しい。

図 2 船上採取と使用される道具

(下段左:タモ網、下段中:ヤス、下段右:箱メガネ)

図 1 潜水除去とタモ除去の比較

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【コラム E1-4】カゴによるウニ除去

ウニの餌となる海藻や魚肉の入ったカゴを海底に設置し、蝟集したウニを引き揚げて除去する

方法である(図 1)。透明度が悪い海域や水深の深い場所で実施されるが、①カゴの効率的な配

置、②効果のある餌料、③除去効果などに検討すべき課題が多いことから実施例が少ない。

図 1 カゴによるウニ除去

【コラム E1-5】ウニ除去後の効果の持続

青森県佐井村のマコンブ漁場の磯焼け域においてウニを継続的に除去し、形成されたコンブ群

落の面積の経年変化を調査した。図 2 は、ウニ除去後の年数とコンブ群落残存率(ウニ除去面積

に占めるコンブ群落面積の割合)の関係を示す。図をみると、ウニ除去後 1~2 年は除去面積の

70~80%にコンブ群落が見られ、6年経過しても約 20%が残っていることがわかる。この海域で

は、1回のウニ除去の効果が数年継続し、周辺からのウニの侵入量が大きくなかった様子もうか

がえる。一方、1996 年(4年経過)の除去区(投石漁場)にはコンブが全くみられなかった。投

石漁場は地形が複雑でウニを除去しにくく、再侵入しやすかったことによるようである。

図 2 ウニ除去区に占めるマコンブ卓越群落の割合

桐原(2003):コンブ藻場維持再生産技術開発研究(要約),青森県水産増殖センター事報,32,

315-317.

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E2.魚類の除去

魚類の除去では、植食性魚類の個体数を対象海域から減らすことにより、藻場への採

食圧を低減させて藻場の回復を目指す。方法として、「網漁業」と「釣り」がある。

【解説】

「網漁業」は、刺し網や定置網などの漁具を用いるため、漁業者による持続的な取り組

みが期待できる。しかし、一般に、植食性魚類のアイゴやイスズミ類は磯臭いとされ、混

獲として一部の利用はあるが、価格がきわめて低く投棄される場合もある(秋山,2007)。

沖縄などの一部の地域を除くと積極的な漁獲は行われていない。漁業の一環とした植食性

魚類の除去を進めるためには、僅かでも漁業者の利益となる価格設定が不可欠となる。こ

れまでに実施されてきた植食性魚類の魚食普及イベントによって、これらの魚は適正に処

理すれば十分美味しく食べられることがわかっている(山崎,2006)。

「釣り」は、漁業者だけでなく、一般市民からも協力が得られやすい取り組みである。

一般市民の釣りに対する人気は高い。釣り愛好家は、海の生態系保全の考えから、釣れた

植食性魚類を再び海にリリースすることがある。海藻を食べる魚が多く分布する磯焼け域

では、むしろ逆に、これらの植食性魚類の個体数を減らす方が沿岸生態系のバランス回復

につながることになる。このような観点から、磯焼けの実態を釣り愛好家にも積極的に周

知し、植食性魚類の漁獲が藻場回復に繋がるという情報を広める必要がある(全国豊かな

海づくり協会,2009)。なお、釣り愛好家にとっては、アイゴやイスズミ類は、引きが強

いので人気の魚種である。

1)網漁業

網漁業では、刺し網や定置網などの漁具を用いて、対象海域から植食性魚類を捕獲する

ことにより藻場の回復を目指す。

【解説】

考え方としては、「対象種毎の積極的な捕獲」と「混獲魚の徹底処理」に大別される。

「対象種毎の積極的な捕獲」は、対象とする植食性魚類の生理・生態特性を十分把握し

た上で実施する。しかし、植食性魚類は、有用魚種と比べて既存知見が少なく、特に、海

域での生活史や生態に関する知見は極めて少ない。対象種に蝟集する特性があれば、その

時に捕獲するのが効率的であり、産卵直前魚に絞った捕獲ができれば、資源量を効率よく

減らせる。このような情報は、日頃の漁業を通じて、漁業者自身が経験的に認識している

場合が多い。積極的に捕獲する場合は、それら知見のヒアリングや集約を十分に行い、対

象種の選定、漁具の種類と構造、設置の時期や場所を決め、順応的に取り組む必要がある。

「混獲魚の徹底処理」では、混獲された植食性魚類は、海域からの除去を徹底するため

に水揚げする。アイゴやイスズミ類が一度に大量に漁獲される場合、水揚げしても単価が

安く、網外しや箱詰めの労力、箱代などと見合わず、沖で投棄される場合もある。生魚の

投棄は海域からの除去にならず、死魚の場合も産卵期には海域への卵放出で再生産の恐れ

があるので、陸揚げして処分するまでの体制を構築しておく必要がある。

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2)釣り

「釣り」は漁業者だけでなく、一般市民(遊漁者等)の協力も得られる取り組みである。

【解説】

釣りで一人当たりが除去できる量は少ないが、漁業者だけでなく一般市民(遊漁者等)

の協力が得られれば、全体としては多くの人数による持続的な除去の労力となり、有効な

除去対策として期待できる。植食性魚類別の一般的な釣り方を表 E2-1 に示す。

釣りによる除去を持続させるには、釣り上げた植食性魚類をリリース(再放流)しない

ことが必要である。このためには、一般市民の方々には、磯焼けの現状や植食性魚類が藻

場に悪影響を与えていること、釣り上げた植食性魚類が美味しく食べることができること

等を知ってもらうことが必要である(コラム E2-6)。

表 E2-1 植食性魚類の釣り方

魚種 釣 期 餌 情 報

和歌山県や三重県

では夏から秋に良

く釣れる。

・餌は、オキアミ(頭と尾を取る、2

匹を抱き合わせにする)、酒粕のダ

ンゴ、干して黒く変色した酒粕、ム

ギ(蒸す、水でふやかす)、味噌と

小麦粉を練ったダンゴ(耳たぶ程の

柔らかさ)、アオサ、アマモ。メジ

ナ釣りの餌も使用可。

・撒き餌は、塩アミ、粗挽きさなぎ、

押し麦などを混ぜて、糠やパン粉を

加える。

※アミ類を使用すると餌取りの雑魚

が寄り効率が悪い。酒粕の匂いで

アイゴを惹きつける。

・餌メーカーから専用の餌が販売さ

れている。

(山内,2006)

・明るくなってから餌を食べる。

・引きは強いが、アタリは非常に

弱いので、微妙なウキの変化で合

わせてみる。引っ掛ける感じで釣

ることが多く、釣針を呑まれるこ

とは少ない。

・棘に毒があるので気をつける。

ほぼ一年中。 ・餌は、ハバノリ、カニ類、エビ類、

オキアミなどを使用。

・夏場はカニ類(ショウジンガニ、

イソガニ、イシガニ)を用い、ぶっ

込み釣りで根回りを狙う。カニは食

い込みに時間がかかる。

・冬場はハバノリ、ヒジキ、ホンダ

ワラ類などの海藻、茹でたホウレン

ソウやダイコン葉も餌となる。

・浅い岩礁底でウキ釣り。餌が海

底から0.5~1m程度で自然に漂

うようにウキ下の長さを調整。

・よく釣れるのは海底付近、あま

り中層に浮き上って採食しない。

・ぶっ込み釣りでは、磯場に沿っ

て仕掛けを投入。餌が底に着いた

ら海底から50㎝程離して置く。

イスズミ類 八丈島では

11~2月。

・エビ、カニ、フジツボ、ハバノリ、

オキアミ

特になし

ニザダイ 周年(春から

初夏が好期)

・オキアミ、イソメ、エビ 特になし

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3)アイゴ稚魚

アイゴ稚魚の除去には追い込み網方式とカゴ方式がある。汀線付近に着底した稚魚の

大群には追い込み網方式、漁港等の静穏水域の稚魚にはカゴ方式を検討する。

【解説】

(1)稚魚を駆除する意義と適用条件

アイゴの着底量は年変動が大きい。大

規模な稚魚の着底が観察された年には、

稚魚の間に積極的に間引けば,成長した

個体による大規模な食害発生を未然に防

げる可能性がある。着底は 8~9 月に観察

され、全長 30~40㎜の個体はガラモ場の

浅所(水深 1~2m)で大群を作ることが

多く(4.3参照)、追い込み網方式で大

量に捕獲しやすい。捕獲した稚魚や網の

処理等を考慮し、岸近くの浅場にいるア

イゴ稚魚の群れに狙いを絞る。

一方、漁港等の静穏域の稚魚は、カゴ

による捕獲を検討する。カゴは、捕獲の

労力がかからず、設置場所として漁港の

防波堤・護岸や小割筏などの蓄養・養殖

施設を利用できる。ただし、漁港等の静

穏域では侵入時期がガラモ場での着底よ

りも遅れ、外海よりも水温低下が早く、

魚の逸出も早い。カゴの設置は秋季(盛

期は 10 月)に行う。

(2)漁具と漁法

①追い込み網方式

ダイバーが目視観察でアイゴ稚魚

の群れを事前に把握する。群れの周辺

の適当な場所に袋網を設置する。次

に、袋網の開口部の両脇に刺網を末広型に配置する(図 E2-1)。

刺網は、群れを袋網まで誘導するための垣網として使うので、稚魚が警戒しない

ように透明なナイロン製テグス網(太さは 1 号程度)にする。目合 20 ㎜、高さ 1m

で、長さは 15m程度あればよく、錘は海底に絡みにくい沈子コードがよい。

ダイバーは稚魚の群れを網で囲まれた区域へゆっくりと追い込み、網に沿って群

れが袋網に入るように誘導する(図 E2-1)。入網後は網口を蓋網等で閉じ、群れが

網の末端へ移動したら、中央部のロープを絞って逃げ道を塞ぐ。群れを効率よく袋

網へ追い込むために、片手または両手に手網を持って群れを誘導する。

図 E2-1 袋網への追い込み方法

図 E2-2 袋網の仕様

図 E2-3 袋網の外観

(上段:網口,下段:網の側面)

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実際に使った袋網(図 E2-2,図 E2-3)の仕様を示す(特注品)。網地はナイロン

製のモジ網(目合 4×4 ㎜)、開口部の大きさは 1×1m、奥行き 3mの箱形の網であ

る。開口部には同じくモジ網で 1×1mの袖網を付け、下部には開口部に蓋をする網

(ナイロンラッセル製、6 本 27 節)を取り付けた。袋網の末端にはファスナーを取

り付け、捕獲した魚を末端から取り出せるようにしてある。錘には沈子コードを使

用し、袋網を絞るリングとロープを付けた。網口を塞ぐ時間を稼ぐために、袋網の

奥行きは長い方がよく、3m以上は必要である。

②カゴ方式

長崎県ではアイゴの駆除にカゴが推奨されて

いる(長崎県における磯焼け対策ガイドライン,

2012)。以下に紹介するカゴは市販の釣鐘式の魚

カゴで(図 E2-4)、目合 25 ㎜、高さ 800 ㎜、直

径 870㎜、網地の材質はポリエチレンである。中

央下方に魚の入口、続く通路の中央下側に窓があ

り、この窓からカゴの内部へ入る。

磯焼け域では海藻の入手が困難なため、餌とし

てサンマとキャベツに対する馴致の可能性と、馴

致までの所要期間を調べた(図 E2-5)。対照区に

はアイゴが好むジョロモクを使った。サンマもキ

ャベツも馴致可能であったが、馴致の早さと食い

のよさと入手の容易さ及び餌持ちのよさの点からキャベツが有望である(図 E2-6)。

カゴに餌を設置してアイゴ稚魚の入網状況を観察した結果、稚魚は餌の有無に関係

なく入網したが、自由に出入りを繰り返した。ただし、カゴを水槽から引き上げる時

は、カゴの外へ出て行くような逃避行動は観察されず、引き上げ時に逃げられる可能

性は低いと考えられた。アイゴ稚魚をカゴ内へ誘引し、長く留まらせ、引き上げて捕

獲するためには、餌の利用が不可欠と考えられる。

図 E2-5 餌 3種の馴致所要日数と採食量 図 E2-6 実験水槽内でキャベツを

採食するアイゴ若魚

0.35

1.930.88

5.03

2.67 3.10

6.75

11.21

5.905.90

11.40

17.65 17.00

18.60

1日目 2日目 3日目 4日目 5日目0

5

10

15

20

餌の投与日数

1時間当たりの採餌量(g/h) サンマ

ジョロモクキャベツ

図 E2-4 カゴの外観

矢印はカゴ内へつながる窓

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3)ノトイスズミ

ノトイスズミは、冬期に消波構造物のブロック等に蝟集し、夏期には蝟集しない傾向

がある。ノトイスズミの除去は、蝟集したところを刺し網で捕獲すると効率がよい。

【解説】

(1)蝟集の条件や状態

長崎県壱岐市や平戸市、宮崎県日向市や串間市の沿岸域において、ノトイスズミ成魚

は、水温が低い時期に蝟集する傾向があり、蝟集は 1~4 月(水温 15℃程度)に見られ

る。ノトイスズミの蝟集は、漁港外郭施設などに設置された 20 トン程度の大きな消波ブ

ロックで見られ、小さなブロックでは見られない。大きな消波ブロックに蝟集するのは、

積み重なったブロックの空隙を住み場として利用するため、空隙の比較的大きなブロッ

クを好むためと考えられる。天然岩礁域でも、同様の条件を満たす場合は蝟集場所にな

ると思われる。蝟集するノトイスズミの尾数は、環境条件などに左右され、明確に示す

ことができないが、多い場合は数千尾に達する。大きな群れの場合は安定した回遊を示

し、ダイバーや漁船などの接近により逸散することは少ない。

(2)漁具と漁法

消波ブロックなどに蝟集したノトイスズミの群れを刺網で囲い込み捕獲する(図

E2-7、図 E2-8)。刺し網は、全長 40~60cmのノトイスズミであれば、目合い 4寸目(12

㎝)~5 寸目(15㎝)、糸の太さは 7号程度のナイロン製テグス網(一重網)を使用する。

刺網の長さは蝟集した群れを囲い込める長さ、高さは設置場所の海底から水面までとす

る。ノトイスズミの群れが消波ブロック近傍に分布することから、刺網は群れになるべ

く接近させて設置する(図 E2-9)。この際、網が消波ブロックなどに引っ掛かる恐れが

あるので注意する。

図 E2-7 ノトイスズミの捕獲風景 図 E2-8 捕獲されたノトイスズミ

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図 E2-9 刺し網の設置方法(壱岐市初瀬漁港)

(3)除去の時期、場所および頻度

除去の時期や場所は、上記のノトイスズミの蝟集条件を踏まえて設定する。ノトイス

ズミは,刺網を繰り返し仕掛けると、網を怖がるようになり、ブロック内部の空隙に逃

げ込み出てこなくなる。このようになると刺し網に掛かりにくくなり、捕獲の効率は下

がる。このようなことを考慮して、除去頻度を設定する必要がある。

(4)留意事項

ノトイスズミの蝟集尾数が少ないと、蝟集場所に接近して刺網を設置するのが

困難な場合が多い。蝟集場所と刺網の設置場所が離れると、捕獲される尾数も

少なくなるため、なるべく、蝟集尾数が多い時期を特定し、刺網を仕掛ける方

が効率的である。

潮汐や波浪などに伴う強い流

れがあると、刺網が直立せずに

寝てしまい、捕獲の効率が著し

く低下する。

上述したように、刺網で除去を

繰り返し実施すると、ノトイス

ズミの群れはブロックの空隙

の奥に逃げ込み出てこなくな

る(図 E2-10)。このような状

況を想定し、除去計画を立てる

必要がある。 図 E2-10 消波ブロックの奥に逃げ込んだ

ノトイスズミの群れ

防波堤

水深11.8m

張石

ノトイスズミの群れ

水深9.3m

外側内側

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4)ブダイ

ブダイは、活発な時間帯に、瀬切り方式で刺網を仕掛け、徹底的に除去する。

【解説】

(1)漁具

ブダイは、定置網にはあまり入らないことが知られており、主に刺網で捕獲され

ている(図 E2-11)。刺網の種類としては、主に三枚網(1 反 50m,目合:内網 9

㎝・外網 45 ㎝)が用いられている。また、和歌山県では海藻を餌とした延縄により

漁獲されている(コラム E2-4)。

図 E2-11 刺網を使ったブダイの捕獲

(2)漁法

ブダイは主に岩礁域や礫場で遊泳し、砂地にはあまり移動しない。沖側の砂地ま

での距離が短い場合は、図 E2-12 に示すように、岸から沖に向かって刺網を数カ所

に設置(瀬切り方式)すると、ブダイの移動経路を遮断し、効率的に除去できる。

図 E2-12 刺網の設置方式(瀬切り方式)

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瀬切り方式は、地形に沿って投網するため、根掛かりが少なく、捕獲状況からブ

ダイの棲み場を推定できる利点がある。岸と平行に設置する場合は、ブダイの通り

道にジグザグに投網し、水面を叩きながら網に向かって追い込むと、効率的に捕獲

することができる。

刺網で魚を捕獲する場合、活発に行動する時間帯を把握しておくことが重要であ

る。ブダイは昼行性であることが知られており、明け方から昼過ぎまでに多く出現

し、それ以降はあまり出現しない(コラム E2-5)。このことから、刺網でブダイを

捕獲する場合、早朝(あるいは前日夕刻)に投網して、昼過ぎに揚網するのが効率

的である。

(3)除去時期と除去頻度

カジメ類やホンダワラ類の幼芽は秋から冬にかけて魚の食害を受けやすいので、それ

までにブダイを除去しておく。翌年、小型魚(当歳魚 15 ㎝前後)が侵入してくる時期を

特定し、その時期にあわせて除去すれば、大型魚(全長 35 ㎝以上)だけでなく小型魚も

一緒に除去できて効率的である。除去は、短い間隔(1~2 週間)で繰り返し行い、除去

尾数が開始時と比べ十分に少なくなった時点で終了する。餌海藻を設置して、喰痕や減

少状況から終了を判断しても良い。ブダイの出現状況を詳細にモニタリングする方法も

ある(コラム B-6)。徹底した除去を行えば、その効果は 2 年程度持続すると考えられ

る(コラム E2-5)。

参考文献

秋山(2007):館山湾の大型定置網における漁獲物の投棄,日水誌,73,1103-1108.

長崎県における磯焼け対策ガイドライン(2012):

https://www.pref.nagasaki.jp/bunrui/shigoto-sangyo/suisangho/gyojyo-kankyo/

isoyake/

山内(2006):バリ釣り(アイ釣り),海藻を食べる魚たち(藤田ら編著),成山堂書店,159-166.

山崎(2006):アイゴの臭い消しと食用化への挑戦,海藻を食べる魚たち(藤田ら編著),成

山堂書店,190-198.

全国豊かな海づくり協会(2009):アイゴを(釣って)食べて藻場をまもろう,豊かな海,18,

38-42.

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【コラム E2-1】★定置網によるアイゴの漁獲

主な植食性魚類のうち、アイゴとイスズミは定置網で漁獲されているが、水産利用が少なく、

漁獲実態についての報告は少ない。佐賀県では玄海地区の 2つの市場で 2002~2006 年の植食性

魚類の水揚げ情報が集計されている。年間水揚量はアイゴが最も多く、数トンのオーダーであっ

たのに対し、イスズミとブダイは少なく、数十㎏のオーダーであった(金丸、2007)。アイゴに

ついて、2010年までの情報を追加したところ、年間水揚量は 2002 年以降、減少しているものの、

2007年以降は 8 トン前後で推移していた(図 1)。この水揚量は、体重 400gのアイゴ 2 万尾に

相当する。漁法別にみると、定置網での漁獲が 94%と大部分を占めていた。

月別水揚量は、年度による変動がみられたが、1~4 月の間はほとんど漁獲されず、その後、

急増して 7月前後にピークを迎え、その後、12月に向かって減少した。

図 1 佐賀県唐津市におけるアイゴの年間水揚量と月別水揚げ量

このように、イスズミやブダイに比べて、アイゴは定置網で多量に漁獲されている。植食性魚

類の資源量を減少させる効率的な方法の1つとして、産卵親魚の漁獲が挙げられる。アイゴの産

卵期は初夏で、定置網の漁獲のピークは 7 月前後であることから、定置網は地域のアイゴの資源

量を調整するうえで、重要な役割を果たしている。混獲されたアイゴは海上で投棄せず、積極的

な利用や陸上での処分が望まれる。

金丸(2007):佐賀県玄海域における植食性魚類-アイゴ,メジナ,ニザダイ,スズメダイ等-の

漁獲実態,佐賀玄海水振セ研報,4,7-14.

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【コラム E2-2】★宮崎県で見られるイスズミ類

宮崎県北部の日向市地区と南部の串間市地区における 2 つの消波構造物において、冬季にノト

イスズミの 100~300 尾の群れが確認された(図 1)。群れが確認された年に近隣の定置網に入

網したイスズミ類を採集したところ、1 回当たりの最多採集尾数は 23 尾で、両地区とも 9 割以

上をノトイスズミ、残りをイスズミが占めた。同じ時期に、消波構造物に隣接するクロメ場にお

いて過剰採食が顕著に見られ(図 2)、ノトイスズミはクロメに対する影響の大きい種と考えら

れた。

図 1 インターバルカメラで 図 2 クロメに見られた過剰採食

撮影されたノトイスズミの群れ

群れが見られなかった年の 6~9月と 1~2月に、浅瀬や消波構造物など(水深約 3~15m)で

実施した刺網による漁獲試験では、8 月以前の漁獲は見られなかったが、9 月以降は最多で 3.4

尾/日・反が漁獲された。このことから、9月以降に刺網漁を繰り返すことで比較的効率よく除去

できることが示唆された。刺網漁で漁獲されたイスズミ類では、定置網では見られなかったテン

ジクイサキが 6 割以上を占め、ノトイスズミ、イスズミの順でこれに次いだ。胃内容物中に優占

する海藻は、ノトイスズミでは褐藻、イスズミでは緑藻、テンジクイサキでは紅藻で、魚種によ

って異なる傾向が見られた(図 3)。これらのことから、宮崎県の藻場では、ノトイスズミだけ

でなく、他の 2 種による影響も無視できないと考えられた。

図 3 胃内容物の例

A:ノトイスズミ, B:イスズミ, C:テンジクイサキ

(宮崎県水産試験場)

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【コラム E2-3】★定置網によるイスズミ類の漁獲事例

2008~2010年に、平戸市漁協と同市水産課の協力を得て、漁協の 12 支所を対象として、定置

網による水揚げ情報を収集した。イスズミ類の水揚げがあったのは 7 支所で、年間総漁獲量は平

均 3.5トン(最高は 2009年の 4.5トン)であった(図 1)。3年間の総水揚げ量のうち、43%(1.5

トン)を獅子、40%(1.4トン)を志々伎、9%を津吉が占め、他の 4支所は 0.03~0.15 トンと

少なかった(図 1)。年によって若干異なるが、主漁期は 6~11 月で、全体の 80%が水揚げされ、

2008年と 2009年は 7月、2010年は 6月と 9月にピークが見られた(図 2)。イスズミ類は練り

物原料として利用されるほか、県外向けに出荷されている。なお、前津吉町の消波構造物(沖防

波堤)では、2011年 1 月に推定約 1000 尾のイスズミ類の群れが観察された。

長崎市の野母崎・三和漁協にはノトイスズミの大量入網という稀有の記録がある。長崎半島先

端近くの小型定置網で、2008 年 3月 24 日に 2.4トン、同年 4 月 10日に 1.8トンが水揚げされ

(図 3左)、わずか 2 日間の水揚げ量が平戸市の年間総水揚げ量に匹敵した。体長は 40~52cm

で、44cm にモードがあった(図 3中)。いずれも時化の翌日に入網が確認されており、標本と

して得た 10 尾では、胃内容物重量の 93%をワカメが占めていた。なお、近くの消波構造物では、

2011年以降の冬に、推定約 200~300 尾のノトイスズミ成魚の群れが観察されている(図 3右)。

図 3 定置網に大量入網し軽トラックに積まれたノトイスズミ(左)とその尾又長組成(中)

および近くの消波構造物に蝟集したノトイスズミ成魚(右)

図 1 平戸市 7支所における

イスズミ類の支所別年別水揚げ量

図 2 平戸市 7支所における

イスズミ類の年別月別水揚げ量

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【コラム E2-4】★ブダイの延縄漁法

和歌山県南部に位置する串本地域ではブダイを専門的に漁獲する延縄漁が行われてい

る。延縄は長さ約 120m、釣針は鯛縄針 10~12 号を使用し、針と針の間隔は約 1.5m、ハ

リスは長さ約 80 ㎝で太さ 10~12 号のテグスを使用している。縄の両端と延縄の途中数カ

所に重りが付いていて、仕掛けが底に沈むように設置する(図 1)。餌にはホンダワラを

使用し、3 ㎝程度に切って数本束ね、細い糸で縛り、釣針に付ける(図 2)。延縄は数本使

用し、設置後、約 90 分程度経過してから漁具を回収する(図 3)。

図 1 ブダイの延縄設置模式図

図 2 ブダイ延縄漁 ホンダワラ仕掛 図 3 ブダイ延縄漁による漁獲状況

串本地域におけるブダイは、延縄漁が主要な漁法で、全漁法の約7割を占める(2009~11 年

の平均:和歌山東漁協市場における水揚げ量)。漁は、餌となるホンダワラの入荷状況により左

右され、ホンダワラを束ねて釣針に縛り付ける作業が煩雑なことから、近年敬遠される傾向にあ

るが、一般的には、延縄漁で漁獲されたブダイは刺網漁で漁獲されたものに比べて鮮度が高く、

高値で取引される傾向にある。

(和歌山県水産試験場)

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【コラム E2-5】★インターバルカメラによるブダイ除去効果等の確認

コラム B-6でも紹介されているように、最近は長時間撮影可能で廉価なインターバルカメラが

販売されており、「食い逃げ」の得意な植食性魚類の魚種の特定や除去効果の確認のために活用

されている。魚を誘引するための餌海藻(カジメ類、ホンダワラ類)を設置し、少し離れた場所

に防水ケースに入れたインターバルカメラを設置して連続撮影を行い、撮影映像から、種類、出

現時刻、採食された海藻を特定する(図 1)。

図 1 インターバルカメラの設置状況と連続撮影で確認されたブダイの採食

ブダイは直径 50~100m程度の繁殖縄張りを形成することが知られている。大分県佐伯市名護

屋湾の岸沿いに 3台のインターバルカメラを設置したところ、撮影されたブダイの出現コマ数の

割合は中央部で高く(全体の 79%)、そこから約 100m離れた地点で低かった(7%、14%)。

このことから、ブダイの日常の行動圏は直径数百m程度と推察された。ブダイの出現割合は、5

~12時の間で1日の約 70%を占め、13時以降の割合は約 30%と低かった。

ブダイの除去期間と除去後の出現頻度(出現コマ数/時)の経時変化を図 2 に示した。出現

頻度は、除去終了後の 12 月から 9 月上旬まで 1.0 コマ/時と低かったが、9 月下旬から増加し

はじめて、11月にピークとなり、その後減少した。この増加は主に全長 15~20㎝の小型魚(当

歳)の侵入によるもので、全長 35 ㎝以上の大型魚の出現は僅かであった。小型魚が大型魚まで

成長するのに要する期間を考慮すると、海藻に対する採食量が大きいと考えられる大型ブダイの

除去効果は少なくとも 2年間は持続すると考えられた。

図 2 ブダイの出現頻度の経時変化

餌海藻

インターバルカメラ

小型ブダイの出現

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【コラム E2-6】★一般市民参加の釣り教室による植食性魚類の除去活動の取り組み

日時:2009年 5月 31日(日)8:00~14:00

場所:神奈川県三浦市三崎港

参加者数:57名

講師:東京海洋大学藤田准教授、釣りインストラクター

一般参加者は、「藻場の役割とアイゴ」の勉強会、および「釣りの方法」と「安全管理」など

について指導を受けた後、遊漁船 4 隻に分乗してアイゴをねらった「釣り教室」に参加した。帰

港後に行ったアイゴの料理試食会は好評を博した。これら一連の取り組み(勉強会、釣り教室、

試食会)は、「釣ったアイゴを食べて、藻場を守る」普及啓蒙活動として実施された。

参加者からのアンケート結果では、藻場の重要性や植食性魚類の食害について新たな認識が得

られたとの感想が寄せられた。また、事前にマスコミ関係者へ周知を行い、当日取材を受けた。

後日、雑誌「釣り情報」、「月刊ダイバー」に記事が掲載され、NHK総合テレビ番組「お元気です

か日本列島」で放送されるなど、広範囲への情報発信となった。

(社)全国豊かな海づくり推進協会(2009):アイゴを(釣って)食べて,藻場をまもろう,豊かな海,

18,38-42.

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【コラム E2-7】遊漁によるアイゴ釣果調査の事例

1999~2000年に水産庁が実施した遊漁者のビク調査によるアイゴ釣果を示す(表 1)。この調

査でアイゴを確認したのは青森県以南の 13 府県であった。青森県を除くと、日本海側では新潟

県以南、太平洋側では静岡県以南であった。

表 1 遊漁によるアイゴ釣果調査結果

日本水産資源保護協会(2001):遊漁実態調査報告書.

道府県名 重量(kg) 1人平均(g)

北海道 厚田 長万部 苫小牧 - -

青森 尻労 易国間 脇野沢村 平内町 小泊 風合瀬 3 0.0

岩手 久慈市 船越湾 唐丹町 綾里 - -

秋田 船川港 野石 - -

山形 山形 - -

福島 沼の内 富熊 - -

千葉 富浦町 天津小湊町 新勝浦市 勝浦 - -

神奈川 横須賀市 東部 茅ヶ崎市 1 0.0

新潟 能生町 寺泊 五十嵐浜 姫津 208 0.3

富山 くろべ 氷見 - -

福井 福井市 敦賀市 - -

静岡 焼津 大井川町 15,343 19.0

愛知 豊浜 日間賀島 256,763 151.5

三重 鈴鹿市 二見町 千賀 小浜 三木浦 630 2.1

京都 舞鶴 栗田 10,018 78.9

和歌山 雑賀崎 大崎 由良町 田辺 13,123 37.4

鳥取 赤碕 - -

島根 西郷 恵曇 浜田市 537 1.2

愛媛 西条 伊予 日振島 - -

高知 高知市 宇佐 手結 深浦 - -

福岡 姫島 野北 福岡市 大島 宇島 60,581 133.1

佐賀 唐津市 呼子町 - -

熊本 津奈木 大矢野町 柄本 630 1.8

宮崎 延岡市 内海 串間市 7,092 33.0

沖縄 名護 糸満 佐敷中城 6,927 23.8

調査対象地

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