DBTF - 京都産業21

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43 42 きょうと元気な地域づくり応援ファンド支援事業 平成22年度 事例集 case 20 販売を始めるにあたり、まず着手したのは商品開発。消費者の 生の声を聞くために、地元のスーパーでアンケート調査を実施しま した。その結果、「プリプリの食感で歯ごたえが違う」「生芋ならで はの旨みと風味が味わえる」など評判は上々。しかし一方で、もう 少し軟らかい食感を求める声や、「こんにゃくの見た目が嫌い」とい う人がいることもわかりました。才本さんは、硬さを変えた商品展 開と、色や形に工夫を凝らした新商品の開発に取り組むことに。そ して、完成したソフトな歯ごたえの商品は、昔ながらの『のんばらこ んにゃく・大正の味』に対して、『同・昭和の味』の商品名で販売を スタート。同時に開発した、地元産の旬の野菜を練りこんだカラフ ルなアレンジこんにゃくを『同・平成の味』として季節限定で売り 出すことにしました。 ファンドを活用して販促活動を展開 「今では埋もれてしまった地場産品の乗原こんにゃくを再興 し、地域を元気にしたい」とファンドに応募。採択を契機に、製造 を補助する機器を導入しました。主な製造工程は手作業を守り ながら、高速ミキサーや練り出し機の導入によって、1日70個前後 だった生産数が150~300個に増加。また、保存用のアク水を作 る機械の導入により手早くパックすることが可能になり、賞味期 限を延ばすことができました。商品ラベルはプロのデザイナーに 発注。素朴で温かみのあるラベルは、 “おばあちゃん手づくりの田 舎こんにゃく”という商品イメージの強化につながりました。 また、新たに作成したホームページやチラシ、試食用サンプルな どを活用して、独自の販促活動を展開。地元のスーパーやJA、食 料品店などを1軒ずつ訪ね、「置いてください」とお願いすることか らスタートしたといいます。こんにゃくを食べてもらうことが一番の PRだと考え、自ら店頭に立って試食販売を実施。展示会やイベン トなどにも積極的に参加して、一人でも多くの人に味わってもらう 機会を増やしました。 目下の課題は原料の安定確保。こんにゃく芋は成長するまで3 年を要し、栽培が難しいため生産農家が少ないのが現状。現在 は家族が栽培したものを含め、地元産の芋を使っていますが、安 定供給に向けて契約農家を増やす必要があるといいます。 “祖父の味”に地域の復活をかける 京都府最北のまち、京丹後市丹後町。ここの依 山北麓 の乗 のん ばら 地区では、涼しい気候と水はけのよい土壌を生かして、古 くからこんにゃく芋が栽培されてきました。この地域資源を活用 し、昔ながらの手づくり製法で生芋こんにゃくを製造・販売するの が才本和子さんです。 大正4(1915)年、村のリーダー的存在であった川戸弁治氏が、 消費者に提供できるこんにゃくの製法を独自で研究し、製造販売 業を創業。それを村人に広めたことからこんにゃくの製造販売が 盛んになり、「乗原こんにゃく」の名が知られるようになりました。 その川戸氏の孫にあたるのが才本さんです。近年、乗原では高 齢化が進み、こんにゃく芋農家が激減。多数あった製造元も当店 ともう1軒にまで減少しました。事業主はいずれも高齢で後継者は なし。川戸氏から事業を受け継いだ才本さんの伯父も、やはり高 齢のため平成18年に廃業しました。「このままでは祖父の味・乗原 こんにゃくが消えてしまう」と危惧した才本さんは、「それなら自分 で作ろう」と一念発起。伯父を説得して製造ノウハウを一年がかり で学びました。そして、平成22(2010)年3月、伯父の使っていた作 業場に事業環境を整え、家族経営の商店を設立しました。才本さ んの名前から1字とった『和商店』という屋号には、「昔ながらの味 で和やかな気持ちになってほしい」との思いが込められています。 生芋100%、手づくりへのこだわり 現在、スーパーなどに並ぶこんにゃくの大半は、こんにゃく芋 を乾燥させて粉にした「こんにゃく粉」を使用し、機械で大量生 産されています。しかし、同店が製造する乗原こんにゃくは生芋 100%。茹でて糊状にすり潰し、練り、成型、炊き上げまですべて 手作業。芋を皮付きで丸ごと使うため、繊維質が壊れず野趣が保 たれています。それをじっくり釜茹ですると、ぷりっと弾力のある、 しっかりした食感のこんにゃくに仕上がります。また、手で練ること で小さな気泡が入り、味染みが良いのも特徴のひとつです。手間 隙を惜しまぬこの製法と原材料の差が、出来上がった商品に大き な違いを生むのです。 新たなる顧客開拓に向けた挑戦 平成23(2011)年度の「Tango Good Goods(丹後ブランド 商品)」に認定され、丹後地域の特産物、お土産品として、地場産 業振興センターや道の駅にも並ぶようになりました。ホテルや旅 館で料理として提供したり、京都市内の百貨店で催される物産展 に出店するなど、地元を中心に着実に販路を拡大。また、刺身風、 サラダ風、たこ焼き風といった新しい食べ方を提案するなど、新 たな顧客開拓にも力を注いでいます。「中・高年の方には懐かしい と喜ばれますが、子どもや若い世代の方には“斬新な味”と受け止 められています。こんにゃくは食物繊維を多く含むアルカリ性食品 として見直されており、いろんな可能性を秘めた食品だと思いま す」と目を輝かせる才本さん。今後はわさびを練り込んだアレンジ 商品や、豆乳を使ったスイーツ風商品の開発も考えているとか。 日本の伝統食に世界の注目が集まる昨今、海外へ向けた市場 開拓も夢ではないでしょう。創業から丸2年。こんにゃくで地域を 元気にしたいという才本さんの想いは、確実に前進しています。 和商店 http://nagomi-nonbara.com/ 代表:才本和子 業種:食品製造販売業(こんにゃく) 創業:平成 22(2010)年 住所:〒 627-0231 京都府京丹後市丹後町乗原 592 T E L :0772-75-2144 FAX:0772-75-2144 才本和子さん 22 農林水産物の活用 伝統産品の活用

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きょうと元気な地域づくり応援ファンド支援事業平成22年度 事例集

case20  販売を始めるにあたり、まず着手したのは商品開発。消費者の

生の声を聞くために、地元のスーパーでアンケート調査を実施しました。その結果、「プリプリの食感で歯ごたえが違う」「生芋ならではの旨みと風味が味わえる」など評判は上々。しかし一方で、もう少し軟らかい食感を求める声や、「こんにゃくの見た目が嫌い」という人がいることもわかりました。才本さんは、硬さを変えた商品展開と、色や形に工夫を凝らした新商品の開発に取り組むことに。そして、完成したソフトな歯ごたえの商品は、昔ながらの『のんばらこんにゃく・大正の味』に対して、『同・昭和の味』の商品名で販売をスタート。同時に開発した、地元産の旬の野菜を練りこんだカラフルなアレンジこんにゃくを『同・平成の味』として季節限定で売り出すことにしました。

ファンドを活用して販促活動を展開 「今では埋もれてしまった地場産品の乗原こんにゃくを再興し、地域を元気にしたい」とファンドに応募。採択を契機に、製造を補助する機器を導入しました。主な製造工程は手作業を守りながら、高速ミキサーや練り出し機の導入によって、1日70個前後だった生産数が150~300個に増加。また、保存用のアク水を作る機械の導入により手早くパックすることが可能になり、賞味期限を延ばすことができました。商品ラベルはプロのデザイナーに発注。素朴で温かみのあるラベルは、“おばあちゃん手づくりの田舎こんにゃく”という商品イメージの強化につながりました。 また、新たに作成したホームページやチラシ、試食用サンプルなどを活用して、独自の販促活動を展開。地元のスーパーやJA、食料品店などを1軒ずつ訪ね、「置いてください」とお願いすることからスタートしたといいます。こんにゃくを食べてもらうことが一番のPRだと考え、自ら店頭に立って試食販売を実施。展示会やイベントなどにも積極的に参加して、一人でも多くの人に味わってもらう機会を増やしました。 目下の課題は原料の安定確保。こんにゃく芋は成長するまで3年を要し、栽培が難しいため生産農家が少ないのが現状。現在は家族が栽培したものを含め、地元産の芋を使っていますが、安定供給に向けて契約農家を増やす必要があるといいます。

“祖父の味”に地域の復活をかける 京都府最北のまち、京丹後市丹後町。ここの依

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地区では、涼しい気候と水はけのよい土壌を生かして、古くからこんにゃく芋が栽培されてきました。この地域資源を活用し、昔ながらの手づくり製法で生芋こんにゃくを製造・販売するのが才本和子さんです。 大正4(1915)年、村のリーダー的存在であった川戸弁治氏が、消費者に提供できるこんにゃくの製法を独自で研究し、製造販売業を創業。それを村人に広めたことからこんにゃくの製造販売が盛んになり、「乗原こんにゃく」の名が知られるようになりました。 その川戸氏の孫にあたるのが才本さんです。近年、乗原では高齢化が進み、こんにゃく芋農家が激減。多数あった製造元も当店ともう1軒にまで減少しました。事業主はいずれも高齢で後継者はなし。川戸氏から事業を受け継いだ才本さんの伯父も、やはり高齢のため平成18年に廃業しました。「このままでは祖父の味・乗原こんにゃくが消えてしまう」と危惧した才本さんは、「それなら自分で作ろう」と一念発起。伯父を説得して製造ノウハウを一年がかりで学びました。そして、平成22(2010)年3月、伯父の使っていた作業場に事業環境を整え、家族経営の商店を設立しました。才本さんの名前から1字とった『和商店』という屋号には、「昔ながらの味で和やかな気持ちになってほしい」との思いが込められています。

生芋100%、手づくりへのこだわり 現在、スーパーなどに並ぶこんにゃくの大半は、こんにゃく芋を乾燥させて粉にした「こんにゃく粉」を使用し、機械で大量生産されています。しかし、同店が製造する乗原こんにゃくは生芋100%。茹でて糊状にすり潰し、練り、成型、炊き上げまですべて手作業。芋を皮付きで丸ごと使うため、繊維質が壊れず野趣が保たれています。それをじっくり釜茹ですると、ぷりっと弾力のある、しっかりした食感のこんにゃくに仕上がります。また、手で練ることで小さな気泡が入り、味染みが良いのも特徴のひとつです。手間隙を惜しまぬこの製法と原材料の差が、出来上がった商品に大きな違いを生むのです。

新たなる顧客開拓に向けた挑戦 平成23(2011)年度の「Tango Good Goods(丹後ブランド商品)」に認定され、丹後地域の特産物、お土産品として、地場産業振興センターや道の駅にも並ぶようになりました。ホテルや旅館で料理として提供したり、京都市内の百貨店で催される物産展に出店するなど、地元を中心に着実に販路を拡大。また、刺身風、サラダ風、たこ焼き風といった新しい食べ方を提案するなど、新たな顧客開拓にも力を注いでいます。「中・高年の方には懐かしいと喜ばれますが、子どもや若い世代の方には“斬新な味”と受け止められています。こんにゃくは食物繊維を多く含むアルカリ性食品として見直されており、いろんな可能性を秘めた食品だと思います」と目を輝かせる才本さん。今後はわさびを練り込んだアレンジ商品や、豆乳を使ったスイーツ風商品の開発も考えているとか。 日本の伝統食に世界の注目が集まる昨今、海外へ向けた市場開拓も夢ではないでしょう。創業から丸2年。こんにゃくで地域を元気にしたいという才本さんの想いは、確実に前進しています。

和商店http://nagomi-nonbara.com/代表:才本和子業種:食品製造販売業(こんにゃく)創業:平成 22(2010)年住所:〒 627-0231   京都府京丹後市丹後町乗原 592 TEL:0772-75-2144 FAX:0772-75-2144

昔ながらの製法を受け継ぎ

生芋一〇〇%こんにゃくで地域を元気に!

和なごみ

商店

代表 

才さい

本もと

和かず

子こ

さん

事 業 概 要

京丹後みやげとして道の駅にも並ぶ

昔ながらの手づくり「のんばらこんにゃく」

こんにゃく芋を丸ごと釜戸で茹で上げます

才本和子さん

平成22年度 採択事業

3年生のこんにゃく芋は子どもの頭ほどの大きさ

農林水産物の活用 伝統産品の活用