Datacenter Service Technology System - Fujitsu Global...Datacenter Service Technology System...

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414 FUJITSU.56, 5, p.414-425 (09,2005) データセンタサービス技術体系 Datacenter Service Technology System あらまし 56, 5, 09,2005 ITは今やお客様の事業に必要不可欠な存在であるという認識に基づき,お客様の日々の 事業を支えるIT運用は,とりわけお客様の経営と密接な関係を持っていると考えている。 現在の経営環境は,成長の鈍化と競争の激化,効率化と環境保護など,相反する要求の両立 をこれまで以上に求めている。したがって,IT運用も,積極的なリスク管理能力と変化対 応性を獲得して,継続的に経営の課題を解決できるように,新しい技術を導入していかなく てはならない。 本稿では,富士通のアウトソーシング事業の中核である「データセンタ」とそこで提供 される「運用サービス」に焦点を当て,上記のIT運用が備えるべき技術を体系化すること で,経営とIT運用の関係を議論していく土俵を提供し,併せて新たな技術の方向性を紹介 する。 Abstract Fujitsu recognizes that IT is now a basic essential of its customers’ business. As a result, we are convinced that IT management must become a central part of our customers’ business management. Moreover, in today’s business environment, customers need to adjust to conflicting developments, for example, slower growth but intensified competition and the need to improve efficiency but also protect the environment. To help customers with their business management problems, IT management should include new technologies for risk management and added flexibility. Focusing on Fujitsu’s datacenters and IT management service, this paper discusses the relationship between our customers’ business management and IT management and presents a development roadmap for new IT management technologies. 河嶋英治(かわしま えいじ) オンサイトサービス統括部運用サー ビス部 所属 現在,IT運用のサービスサポートを 中心としたプロセス技術の開発とビ ジネス適用に従事。

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Page 1: Datacenter Service Technology System - Fujitsu Global...Datacenter Service Technology System あらまし 56, 5, 09,2005 ITは今やお客様の事業に必要不可欠な存在であるという認識に基づき,お客様の日々の

414 FUJITSU.56, 5, p.414-425 (09,2005)

データセンタサービス技術体系

Datacenter Service Technology System

あらまし 56, 5, 09,2005

ITは今やお客様の事業に必要不可欠な存在であるという認識に基づき,お客様の日々の

事業を支えるIT運用は,とりわけお客様の経営と密接な関係を持っていると考えている。

現在の経営環境は,成長の鈍化と競争の激化,効率化と環境保護など,相反する要求の両立

をこれまで以上に求めている。したがって,IT運用も,積極的なリスク管理能力と変化対

応性を獲得して,継続的に経営の課題を解決できるように,新しい技術を導入していかなく

てはならない。 本稿では,富士通のアウトソーシング事業の中核である「データセンタ」とそこで提供

される「運用サービス」に焦点を当て,上記のIT運用が備えるべき技術を体系化すること

で,経営とIT運用の関係を議論していく土俵を提供し,併せて新たな技術の方向性を紹介

する。

Abstract

Fujitsu recognizes that IT is now a basic essential of its customers’ business. As a result, we are convinced that IT management must become a central part of our customers’ business management. Moreover, in today’s business environment, customers need to adjust to conflicting developments, for example, slower growth but intensified competition and the need to improve efficiency but also protect the environment. To help customers with their business management problems, IT management should include new technologies for risk management and added flexibility. Focusing on Fujitsu’s datacenters and IT management service, this paper discusses the relationship between our customers’ business management and IT management and presents a development roadmap for new IT management technologies.

河嶋英治(かわしま えいじ)

オンサイトサービス統括部運用サー

ビス部 所属 現在,IT運用のサービスサポートを

中心としたプロセス技術の開発とビ

ジネス適用に従事。

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データセンタサービス技術体系

FUJITSU.56, 5, (09,2005) 415

ピープル技術ピープル技術プロダクト技術プロダクト技術

プロセス技術プロセス技術

■サービスマネージャ技術・サービスマネジメント・プロジェクトマネジメント

■ITアーキテクト技術・ITアーキテクチャ

■コンサルタント技術・コンサルティング

■ファシリティ技術・防災・防犯/セキュリティ・環境保護

■情報システム管理技術・顧客稼働情報・オンデマンド

■リスク管理技術・インフラリスクチェックシート

■運用プロセス標準化技術■プロセス管理/改善技術

・ポートフォリオマネジメント・アウトソーシングBSC・アセスメントツール

図-1 データセンタサービス技術体系 Fig.1-Datacenter service technology system.

ま え が き

今やIT(Information Technology)は,お客様

の事業を支える必要不可欠な存在となった。オフィ

ス,工場,営業などの現場には数年前とは比較にな

らないほどITがあふれている。その多くはイン

ターネットを通じ企業のシステムにつながることで

ビジネスは高度化,高速化し,革新の勢いはとどま

らない。日々のIT運用においてはビジネス現場の

みならず,さらに経営へ貢献していく活動を強化し

ていくことが望まれる。ところが長い間,業務や組

織の個別の事情,属人的作業,暫定的な運用対処,

開発と運用の乖離か い り

といった様々な事情のため,本来

なら独自のアイデアを元にビジネスの現場,経営へ

貢献していく組織活動であるはずのIT運用が,日

常業務に追われ思うようにいかないという悩みが多

いのではないかと思われる。 しかし,ITIL(IT Infrastructure Library)とい

う運用のベストプラクティスの知名度の向上ととも

に運用への注目度が増し,前述のような状況を打開

すべく,企業自らが運用の現場を見直す取組みが始

まりだしている。 富士通では,IT運用へのお客様の期待の高まり

に応えるべく,ITが経営に貢献するという認識に

基づき,様々なサービスやプロダクトを提供してい

る。とくにIT運用においては,国内で最大規模の

アウトソーシングサービス事業を展開しており,プ

ロセスや技術の標準化,技術開発を通じて,お客様

企業の経営に対する貢献のあり方を追求し続けて

いる。 本稿では,富士通での長年のIT運用への取組み

の集積したアウトソーシングサービス事業の中核で

ある「データセンタ」とそこで提供される「運用

サービス」に焦点を当て,IT運用が備えるべき技

術を体系化し,ビジネスや経営との接点となるキー

ワードを例示することによって,経営との関係を議

論していく土俵を提供する。加えて,変化し続けて

いくビジネスや経営のニーズに対応する新たな技術

の方向性を紹介する。

データセンタサービス技術体系

議論の土俵となる技術の体系を共通の枠組みと

するために,IT運用の国際的な標準として普及し

ている ITSM( Information Technology System Management)/ITILの考え方を踏襲し,技術分野

を下記の三つに分ける。 (1) プロダクトに関連する技術 (2) ピープルに関連する技術 (3) プロセスに関連する技術 ここでのプロダクトとは,ファシリティとIT設

備の両方を含んでいる。ピープルは,主にデータセ

ンタのサービス要員とこれを支援するスタッフとマ

ネジメントである。これら二つは,データセンタで

の運用サービスを遂行するに不可欠な二大リソース

である。 またプロセスは,上記二つのリソースが,お客様

に対して適切なサービスを提供するとともに,各リ

ソースやプロセス自身を改善していく役割を担って

いる。 これら三つの技術の集合を本稿ではデータセンタ

サービス技術体系と呼ぶ(図-1)。 データセンタを利用したアウトソーシングサービ

スのれい明期において,これら三つの技術に対して

は,物理的な堅ろう性が要求されていた。壊れない

建物,故障しない設備,ミスを起こさない要員と明

確なルールが重視され,オペレーションと監視を中

心とした徹底的な標準化を行うことで,24時間365日の安定稼働を低コストで実現してきた。 しかし,現在,お客様のビジネスの現場で生じる

突発的な要求に対しても柔軟に素早く対応したり,

急速に進歩するITを確実に受け入れて安定的に稼

働させたりすることなどが求められるようになって

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データセンタサービス技術体系

416 FUJITSU.56, 5, (09,2005)

自家発電機

鉄骨耐震プレース

UPS設備

積層ゴム支承 弾性すべり支承

停電対策設備

地震対策設備

図-2 災害対策設備(抜粋) Fig.2-Disaster prevention equipments (excerpt).

おり,標準化・効率化だけでなく,変化対応性をも

併せ持つ,しなやかな堅ろう性を要求されている。

プロダクトに関する技術

● ファシリティ技術 データセンタのファシリティは,ピープル(サー

ビス要員)が情報システムを安定稼働させ,安全で

効率的な業務プロセスの遂行を行うための環境であ

り,センタサービスの能力と品質の基本仕様を決定

付ける重要な要素である。 このため,通常の建築物としての安全基準,エネ

ルギーや給水設備に関連する規制・制度だけでなく,

データセンタでの日々の業務プロセス,サービス要

員の居住性を反映した設計と実装が必要である。さ

らにお客様業界ごとの認証基準などの監査基準への

対応が不可欠である。富士通の各データセンタは次

の基準の認証を受けている。 ・ISMS認証取得 ・ISO9000規格取得 ・ISO14001規格取得(東京システムセンタを除く) ・プライバシーマーク取得 ・金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準

準拠 ・総務省 情報通信ネットワーク安全・信頼性基準

準拠 【災害対策】

1995年の館林システムセンタでのアウトソーシ

ングサービス開始に伴い,地震対策をはじめとして

想定される様々な災害に対する防災技術を導入して

いる(図-2)。

現在でも災害対策の議論は,内閣府中央防災会議

をはじめ随所で行われており,データセンタとし

ても継続して取り組まなくてはならない重要な課

題になっている。とくに,大規模災害は被災規模

の大きさからも業界のみならず日本経済への影響

は計り知れず,BCM(事業継続性管理:Business Continuity Management)として経営の大きな課

題となってきている。 【防犯/セキュリティ対策】

お客様のビジネスが相互にネットワーク接続され

た結果,セキュリティ事故の影響が直ちにあらゆる

取引先に波及する現在では,セキュリティは,お客

様共通の重要課題となっている。昨今の情報漏えい

報道,個人情報保護法などの法整備に見られるよう

セキュリティは社会要請となってきた。 富士通のデータセンタは,「金融機関等コン

ピュータシステムの安全対策基準」(金融業界の自

主基準)の勧告に適合しており, (1) 敷地外周フェンス(2 m),赤外線センサおよ

び暗視カメラを設置することで侵入者を早期に

察知 (2) コンピュータルームへの入退出路を1箇所に限

定して金属感知機による機器の持込みや持出し

をチェック (3) 各コンピュータルームの入退出路は一度に一

人しか通過できないサークルロックドアや非接

触式カードリーダを適用し,入退出者を個人レ

ベルで管理 (4) 厳格なセキュリティ監査,厳重なインタ

フェース(ファイアウォールほか),専任技術

者・監視設備を有し,ネットワークセキュリ

ティを運用 といった厳重なセキュリティ検査を行っている

(図-3)。 こうした災害・侵入・事故情報は,防災センタで

一元管理されており,お客様の業務システムを物理

的なリスクから守る設備環境を備えている。 【環境保護】

1997年12月の気候変動枠組条約第3回締約国会

議(COP3,京都会議)で採択された京都議定書以

降,環境経営の普及に伴い,環境保護・環境負荷

低減はデータセンタが備えるべき新しい領域に

なっている。富士通のデータセンタは,この対策

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データセンタサービス技術体系

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侵入者検知装置

ITV金属探知機

サークルロックドア

血流認証装置 ノンコンタクトゲート手のひら静脈認証装置

破壊センサ

データ保管庫 耐火扉 データ保管室

防犯監視設備

侵入防止設備

データ保管設備

破壊侵入防止設備

敷地境界フェンス

図-3 防犯対策設備(抜粋)

Fig.3-Crime prevention equipments (excerpt).

災害対策

給電方式

停電対策

3相3線66 kV,本線予備線二回線受電(無停電保守対応)特高変圧機:18 MVA×2基,変電設備からの内部配線の2重化

地震対策

耐震補強壁の設置,600 gal級対応耐震型二重床の設置(1階:980 gal,2階:1,300 gal)天井補強の実施(配管/ダクト/照明器具などの吊り補強)計算機設備は,機器免震(セーフット適用)の実施

渇水対策熱源機器(給水用)の備蓄水槽(1,200 t)吸収式冷凍機(1,000 USART×4),空冷式冷凍機(1,000 USART×1),空調機161台設置

漏水対策

火災対策

雷対策

UPS設置:フル稼働5分間バッテリー給電,1,000 kVA×12台自家発電機設置:4,000 kVA×3台備蓄用燃料タンク:70 kl×4基(A重油)

空調機械室/配管を計算機室防水堤により分離漏水センサの設置,床防水および防水堤の設置

1階センタスペース:二酸化炭素ガス消化設備の設置2階センタスペース:窒素ガス消化設備の設置超高感度煙センサの設置

全建物避雷針の設置電源供給は,CVCFによるインバータ受電特高:アレスター設備の設置低圧:アレスター・サージアブソーバの設置

防犯対策

侵入防止

防犯監視

データ保管

非接触式カードリーダの設置,サークルロックドアの設置指紋センサの設置,敷地境界フェンス(2 m)の設置赤外線センサの設置

ITV監視設備の設置,金属探知機・盗難防止装置の設置

耐火保管庫の設置

環境対策

フロン対策 吸収式冷凍機の採用

省エネルギー対策 インバータ制御機器の採用

破壊侵入防止 センタ設備は無窓構造

図-4 館林システムセンタ仕様概要 Fig.4-Specification overview of Tatebayashi system

center.

に関する規約である環境マネジメントシステム

(ISO14001)に対応したファシリティを備え,認

証を受けている。 これにより,例えばIT機器が環境に与える負荷

に関して,データセンタを利用することによるCO2

削減効果の差分を算出するなど,環境負荷の軽減に

加え,その効果の可視化に貢献している。 災害対策,防犯対策,および環境対策に対する館

林システムセンタ,明石システムセンタの対応状況

をそれぞれ図-4,図-5に示す。 ● 情報システム管理技術 データセンタに設置する情報システムを安定稼働

させるための運用および監視技術である。 アウトソーシングサービスは,お客様のビジネス

パートナとして,ITシステムの確実な運用を通じ

て,お客様の業務をサポートするサービスであり,

高信頼・高品質の運用が求められ,ITILで定義す

るところのKEDB(Known Error DataBase),CMDB(Change Management DataBase)を包含

する機能を有している。 こうした,IT運用にかかわる情報,日々発生す

る情報を記録していくことで,運用の現場ならでは

の「新しい事実」を見つけ出す手がかりを得ること

が可能となる。 【顧客稼働情報システム】

確実な運用サービスを提供するためには,ハード

ウェア・ソフトウェアの構成や運用手順,緊急時の

対応方法などの情報を確実に準備し,お客様のシス

テムの安定稼働に携わる担当者全員が共有できる環

境と手順を整備しなくてはならない。

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データセンタサービス技術体系

418 FUJITSU.56, 5, (09,2005)

災害対策

給電方式

停電対策

3相3線77 kV,本線予備線二回線受電(無停電保守対応)特高変圧機:10 MVA×2基,変電設備からの内部配線の2重化

地震対策

建物免震 複合免震構法(積層ゴム支承/弾性すべり支承)耐震型二重床の設置配管への免震構造の取入れ計算機設備は,機器免震(セーフット適用)の実施

渇水対策熱源機器(給水用)の備蓄水槽(670 t)吸収式冷凍機(500 USART×2),空冷式冷凍機(500 USART×2),空調機73台設置

漏水対策

火災対策

雷対策

UPS設置:フル稼働5分間バッテリー給電,1,000 kVA×6台自家発電機設置:3,000 kVA×2台備蓄用燃料タンク:70 kl×3基(軽油)

空調機械室/配管を計算機室防水堤により分離漏水センサの設置,床防水および防水堤の設置

窒素ガス消化設備の設置超高感度煙センサの設置

電源供給は,CVCFによるインバータ受電特高:地中埋設によるケーブル引込みにより落雷事故の防止低圧:電路にアースマスタを使用

防犯対策

侵入防止

防犯監視

データ保管

非接触式カードリーダの設置,サークルロックドアの設置手のひら静脈認証装置の設置,血流認証装置の設置集音センサの設置

ITV監視設備の設置,金属探知機の設置

耐火使用の専用データ保管庫を設置

破壊侵入防止 ガラス破壊センサの設置,センタ間仕切りは無窓

図-5 明石システムセンタ仕様概要 Fig.5-Specification overview of Akashi system

center.

・お客様プロフィール・業務概要・システム構成・緊急連絡体制など

・運転マニュアル・業務スケジュール・イベント情報・運用実績データ・作業進捗管理表・消耗品発注記録など

・性能,負荷・リソース使用状況・トラブル履歴・問合せ履歴など

お客様システムの稼働情報管理提案提案

・業務改善の提案

・システム拡張の提案

・新サービスの提案

基本情報,運用情報,稼働情報を確実に管理

基本情報 運用情報 稼働情報

◇予防 ≪システムの安定稼働≫◇予防 ≪システムの安定稼働≫ ◇トラブル対応 ≪迅速な復旧≫◇トラブル対応 ≪迅速な復旧≫・リカバリ策定,運用マニュアル品質点検・製品障害の情報提供

・トラブル検出,切り分け・処置,復旧までのスピードアップ

◇ サービス品質の向上◇ お客様システムの運用品質向上◇ お客様への改善提案

図-6 お客様システムの稼働情報管理によるサービス品質向上

Fig.6-Improving service quality for customer’s IT system by operational information management.

顧客稼働情報システムは,お客様システムを基本

情報,運用情報,稼働情報という三つの視点で管理

することで,ライフサイクルを通じて,業務品質と

サービスレベルを確保し,日々の運用品質の向上お

よび新たな付加価値を創造することを目的とした仕

組みである(図-6)。

(1) 基本情報管理機能 お客様システムの業務概要,システム構成,緊急

連絡体制などを基本情報として一元管理する機能で

ある。 お客様システムの特性に応じた「個客」サービス

の提供と緊急時にはサポート部門を含め,迅速な対

応を可能とするために,お客様システムの運用・サ

ポート業務に携わる全担当者が,この基本情報を共

有する。 (2) 運用情報管理機能 お客様ごとの操作手引書やリカバリ手順書などの

各種マニュアル類,オペレーションの指示や実績

データ,お客様の依頼に基づく作業の進捗管理,消

耗品の在庫発注記録などの運用情報を一元管理する

機能である。併せて,お客様への定例会報告資料の

作成支援機能として,運用実績データから業務状況

報告資料を作成する機能を備えている。 運用現場での正確かつ効率的なオペレーションの

実施とサービス,運用責任者でのサービス品質管理

に活用している。 (3) 稼働情報管理 お客様システムのCPU負荷やメモリ使用状況な

どのシステムリソース使用状況や,アプリケーショ

ンのアベンドを含むトラブル発生状況など,システ

ムの稼働に伴い発生する稼働情報を蓄積し,管理す

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データセンタサービス技術体系

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共用リソースプール

A社様システム B社様システム C社様システム

各社システム要求に合わせたリソースの増減

・監視計測・構成制御

マネージメントセグメント

共用リソースプール

A社様システム B社様システム C社様システム

各社システム要求に合わせたリソースの増減

・監視計測・構成制御

マネージメントセグメント

リソース追加 リソース返却

処理量増加 アクセス量減少

4

6

t

業務A 業務B

2

4

t

図-7 富士通オンデマンドデータセンタ Fig.7-Fujitsu on-demand datacenter.

る機能である。 システムで発生するインシデントがトラブルとし

て認識されると,本機能により関係者へのエスカ

レーションが実施される。経営幹部をはじめ関係者

が同時にリスクを共有・認識することで,復旧に向

けた組織活動がタイムリに実施される。復旧後は,

問題管理プロセスで,運用品質向上のための分析や

分析結果によるお客様への提案の基礎情報として活

用される。 運用情報管理機能と合わせて見ることで,例えば,

社外取引先の増加に伴いネットワーク利用が増大し

ているが,運用を変えていないといった場合,ビジ

ネスの拡大に対応したリスク管理として適切な運用

なのかといったことを現場から確認していくことが

できる。 (4) アクセス管理機能 顧客稼働情報システムは,お客様システムに関す

る重要な情報を管理している。したがって,お客様

システム情報へのアクセスは個人レベルで厳密なセ

キュリティ管理を実施しており,担当以外のお客様

システムの情報は非公開となっている。 【オンデマンドセンタ】

CPUやメモリやディスクの増設や交換,ヒープ

などのメモリ領域やコンテナ数などのアプリケー

ション実行環境定義の変更に代表されるITのシス

テムリソースの変更作業は,安定稼働に対するリス

クであり,変更作業を集約し,スケジュール化して

実施することが望ましいとされてきた。しかし,例

えばサプライチェーンの普及によって消費者側の需

要変動が供給側へ伝わるにつれて増幅され,物流セ

ンタや供給者側への発注量が急激に変動するように,

事業リソースへの需要変動に対して,迅速な対応を

要求される現在,経営や事業に貢献する観点で,

ITのシステムリソースの変更を素早く,確実に行

うことが急務となっている。しかし,高度な技術力

と経験を持つ専門技術者に委ねるだけでは,作業の

負担や緊張の連続による作業品質の低下を招きかね

ない。 こうした課題を解決するのがITとしてのオンデ

マンド技術である。富士通のデータセンタでは,オ

ンデマンド技術を適用したお客様システムが稼働し

ている(図-7)。この環境下では,リソースの割当

を行うプロビジョニングの作業時間を従来の約10

分の1に短縮している。また,オンデマンドの管理

システムにより,大規模なサーバシステム群を導入

する作業を一括して自動的に行うことができる。人

手を介さないため,導入チームの教育や管理が不要

となり,作業ミスを生じることもない。 オンデマンド技術は,お客様の経営や事業に対し

て変化対応性という点で大いに貢献が期待される技

術である。しかし,この特性を確実に享受するため

には,使う側も変化対応性に応じたプロセスや考え

方を取り入れる必要がある。 その代表的な二つの例を次に述べる。 (1) アプリケーション設計 インターネットEC(Electronic Commerce)シス

テムに代表されるように,導入時は小規模で構成し,

現実の業務量に応じてより大きな構成に変更してい

くのが,現在のシステムに対する投資のパターンで

ある。したがって,アプリケーションは,インフラ

の規模や構成に依存しない方式であらかじめ設計す

るのが現在のセオリーである。オンデマンド環境で

は,このセオリーはより重要な意味を持っている。 従来のシステム増強であれば,アプリケーション

の処理方式に内在するインフラへの依存処理は,事

前の調査やテスト工程で検出し修正を行うことが

できた。 しかし,オンデマンド環境では受入済みの運用手

順の一環として運用中のITリソースを変更するの

で,アプリケーションのインフラ依存処理は直ちに

業務システムのトラブルを引き起こすことになる。 アプリケーション自身が変化対応性を備えること

でインフラから開放されることから,アプリケー

ション開発投資効果を高めるためのトレードオフと

して考えるべきポイントである。

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データセンタサービス技術体系

420 FUJITSU.56, 5, (09,2005)

(2) システムリソース管理業務の変革 オンデマンド技術によって,ITリソースの構成

変更作業は今後大幅に短縮されていく。しかし,こ

れはシステムリソース管理業務が不要となることを

意味しない。 オンデマンド技術の導入に伴い,システムリソー

ス管理業務は,単純なリソースの構成管理や変更手

順の管理から,より上位のキャパシティ管理や事業

継続性管理にシフトする必要が出てくる。 需要の変動量と変化の速さに対して,リソース要

求変動のどの時点で実際にITリソースの構成を変

更させるのか。事業としての対応のタイミングと,

現時点でのオンデマンド技術の対応性を考慮し,例

えば複数のシナリオを用いて事業部門と議論し,ポ

リシーベースでリソース管理を行う。こうしたプロ

アクティブなプロセスを強化し,事業部門と共有す

ることで,初めてオンデマンド技術は,環境変化に

対する事業の変化対応性へ貢献することが可能と

なる。 オンデマンド技術は,単なる作業の品質改善や効

率化ではなく,事業や経営に対する新しいITの貢

献の方法を示唆する典型例である。このため,富士

通および富士通研究所では,この分野で次のような

特許を申請し,継続して技術開発を行っている。 申請中の主な特許の例を以下に示す。 ・動的構成制御装置および動的構成制御方法 ・ソフトウェアに修正情報を適用する装置および

方法 ・中継制御方法,中継制御プログラム,および中継

制御装置 ・中継制御プログラムおよびその記録媒体,中継制

御方法ならびに中継制御装置 ・需要予測装置,需要予測方法および需要予測プロ

グラム ・負荷分散プログラム,負荷分散方法,および負荷

分散装置 また,データセンタでの技術適用の成果を富士通

のIT基盤「TRIOLE」へ応用している。お客様は,

富士通のプロダクトを導入することでもオンデマン

ド技術の適用が可能である。

ピープルに関する技術

お客様のニーズや期待に応えたアウトソーシング

サービスを展開していくためには,サービスの実施

者としての人材の育成が重要である。 ここではヒューマン技術のうち,サービスを実施

する人材に関する技術について述べる。富士通では,

多くのサービス実施者の中から,とくにサービスマ

ネジメントを担う人材としてサービスマネージャを

定めている。サービスマネージャには以下の二つの

カテゴリがある。 (1) 特定のお客様向けに商談対応から様々なサー

ビスをインテグレートし,運用・改善までをワ

ンストップで対応するマネージャ(特定の顧客

に対するアウトソーシングサービス全体の事業

マネジメント技術力を備えている)。 (2) 不特定多数のお客様に対して共通インフラ,

ネットワークインフラ,セキュリティ,ASP( Application Service Provider ), APM(Application Portfolio Management)などの各

標準サービスを提供するマネージャ(個々の

サービスの企画・商品化・サービスのライフサ

イクルを考慮したサービス事業マネジメント技

術力を備えている)。 両サービスマネージャは,共通して「サービスマ

ネジメント技術」「プロジェクトマネジメント技術」

(スコープ・タイム・コスト・人などの管理)を備

えている。 お客様のアウトソーシングサービスへのニーズが

より多様化するにつれて,統合的なサービス管理を

求められるようになっており,双方のサービスマ

ネージャが協力してサービスマネジメントを実施す

る機会が増えている。 このようなサービスマネージャを育成するための

長期的なキャリアパスとして,アウトソーシング分

野のプロフェッショナル(FCP:Fujitsu Certified Professional)に対応した人材育成体系がある

(図-8)。 アソシエイトからプロフェッショナルに至る育成

プログラムが,各ステップで習得すべきスキルマッ

プに対応して編成されており,サービスマネジメン

トに必要となる技術力を体系的に習得できるように

構成されている。 このプログラムは,いくつかの社外資格の取得を 要件として組み込んでいる。一つ目は,データセン

タでの運用サービスに関して多くのお客様や関係者

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データセンタサービス技術体系

FUJITSU.56, 5, (09,2005) 421

スペシャリスト

シニアスペシャリスト

論文面接

ITアーキテクト サービス

マネージャコンサルタント

アソシエイト

トレーニー

アウトソーシングスキル教育

ITインフラ技術教育

認定基準より候補者を推薦

図-8 アウトソーシング人材育成体系 Fig.8-Human resources development system for

outsourcing business.

対応前後でのリスク分布の変化を確認

リスクチェック項目への入力 リクスの確認と対処の入力

比較

前 後

合意できるまで繰り返す

図-9 インフラリスクチェックシート Fig.9-Check sheet for IT infrastructure risk.

と共通の概念に基づいて議論し作業を分担できるよ

う,ITIL技術者の認定を必須要件としている。現

在約300名がこの認定資格を保有している。二つ目

は,プロセス改善の観点を持ったプロフッショナル

として活動するために,JQA(日本経営品質賞,

Japan Quality Award)のアセッサー資格の取得で

ある。 加えて,この体系では,最新のITと経営のそれ

ぞれの観点で,サービスマネージャの活動を支える

以下の二つのキャリアと対応した技術スキルマップ

を設定している。 (1) 常に最新のITを活用して効果的にサービスを

支えるITアーキテクト (2) 経営の視点でお客様に戦略的なIT運用を提案

するコンサルタント

プロセスに関する技術

IT運用の二大リソースであるプロダクトとピー

プルを最大限に活用して,経営に対するITの貢献

を果たすためには,二大リソースを取り扱うプロセ

ス技術に経営の視点を新たに取り入れなくてはなら

ない。 これは,現在の経営環境が要求する特性,例えば,

安定性と変化対応性の両立にも応えることを意味し

ている。そのためには,従来の徹底した安定性,高

い信頼性の追求に加え,変化(運用におけるリス

ク)を的確に認識し,プロセス自身をより改善して

いく技術が必要である。 ここでは,リスク管理,プロセス標準化,ポート

フォリオ管理,そしてプロセスの管理/改善技術に

ついて述べる。 ● リスク管理技術 ビジネスの現場の仕事量や内容が常に変化し続け

ており,その速度はますます加速している。システ

ム構築のためにシステム要件を確定させた時点から

既に運用環境は変化しており,受入時点で改めて運

用要件を修正させても,すぐに事業環境が変化して

しまう。 「運用後の不確実性を含め運用リスクを関係者全

員が合意し受け入れる」とするリスク管理の発想が

これからのIT運用では不可欠となる。常に経営や

事業とともにリスクを意識して改善していくので

ある。 富士通のデータセンタでは,このリスク管理の一

環として「インフラリスクチェックシート」(図-9)を開発しデータセンタへの商談段階から,システム

構成設計段階,受入段階で利用している。 インフラリスクチェックシートは,これまで発生

したトラブルの本質的な原因を分析して得られた数

百の点検項目によって,業務システムへの実際の影

響と,インフラ構成および運用設計での有効な対処

方法を洗い出し,相互に関連付けを行ったものであ

り,KEDBの応用である。 各リスクには改善策をリンクしているので,

チェック結果に基づいてお客様に対して計画の改善

や変更提案を行うことができる。 例えば,要件の中にシステムの異常監視という事

項が抜けていた場合,監視を行うための仕組みを導

入するか,データセンタでの監視作業を追加するか

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データセンタサービス技術体系

422 FUJITSU.56, 5, (09,2005)

運用設計プロセスをガイド(プロセス支援システム)

雛型を利用し運用ドキュメントを作成

顧客稼働情報

システム

(運用情報管理)

受入

承認作業選択 実績報告

雛型

共通WBS

アウトソーシングTRIOLE

テンプレート

アウトソーシング標準WBS

インテグレーションプロセス標準

図-10 プロセス支援ツールによる運用プロセス設計の例Fig.10-Example of designing IT management

process by process support system.

などの改善策を提示する。ニーズやコストに応じた

改善策を合意し,運用品質を確保することができる。 インフラリスクチェックシートは,1回でも認識さ

れたリスクを確実かつ容易に管理できるようにツー

ル化している。データセンタの既設のシステムを運

用しているチームや,商談中,設計・構築を行って

いるチームが内在するリスクを可視化し対策を講じ

るツールとして利用し,リスク管理を行っている。 ● 運用プロセス標準化技術 多くのお客様では,運用は業務や人に依存した作

業であり,オペレーションや監視より上位のプロセ

スを汎用的に標準化することは困難であると考えら

れてきた。とくに判断を伴う非定型なプロセスの標

準化は長い間の課題であった。 ある業務システムでは「エラーメッセージごとの

対応表」があるが,ほかの業務システムではない,

というように,実際の運用プロセスや運用ドキュメ

ントは,一見しただけでは共通性を見出すことは難

しい。 しかし,数百社のお客様の業務システムの安定稼

働を遂行するために,富士通は,「何をする必要が

あるのか」「そのためにどのような運用ドキュメン

ト,ツールが必要なのか」というメタレベルの情報

に着目して運用プロセスの標準化を行っている。 個々の運用プロセス,ドキュメントを「誰がどん

な目的で必要なのか」,例えば,「まずエラーが起き

た際はイベント確認を行う。つぎに~を行う」と

いった本質的な観点で見直すことで,運用作業項目

を抽象化することができる。 抽象化した各運用項目は「何をする必要がある

か」というメタレベルの作業プロセスにまで洗練さ

れ,各プロセスで必要となるドキュメント,ツール

と関連付けられていく。 運用プロセスを標準化することで,運用開始後の

早い時期から作業品質,効率性をベンチマークする

ことが可能となっている。 また,整備すべき運用ドキュメントの各項目に関

して,誰が,いつ,どのような手法で整備,引継ぎ

を行うかの定義と雛型を使うことで,お客様ごとに

個別に記述しなくてはならない運用マニュアルの詳

細内容を充実させることができ,障害発生時の作業

品質と効率が向上している。 各運用プロセスは,人や組織に依存せず,継承性,

普遍性を持たせるためにITILの管理プロセスから

マッピングできるようになっている。このため,お

客様の運用要件や業界ごとの特殊性に影響されるこ

となく,運用管理の共通の言葉にのっとった運用手

順の設計が可能である。 運用プロセスの設計や手順書の作成期間を短縮す

るという標準化の効果は,単に運用設計,開発のコ

ストダウンだけでなく,運用プロセス自身の見直し

や変更の負荷を逓減することになり,運用プロセス

の変化対応性を改善することも可能である。 現在,この技術をデータセンタでの運用設計・構

築作業での雛型入力として使い,運用設計作業の品

質向上と効率化を進めている(図-10)。 ● プロセス改善/管理技術 従来,運用プロセス自身の改善や管理の技術は,

情報システム部門の内部努力事項として扱われて

きた。 アウトソーサの場合も同じく,データセンタでの

運用の改善は,アウトソーサ自身の内部努力であり,

お客様の目に触れることはなかった。 しかし,安定稼働という結果だけでなく,プロセ

スマネジメント,あるいはSLA(Service Level Agreement)といった品質指標をお客様と共有し,

共通の土俵の上でIT投資の方向性をお客様の生産

設備などほかの資産と同じように,議論していく必

要がある。 この共通の土俵として注目されているのが,

ITSMの英国規格であるBS15000(British Standard 15000)であり,BS15000を遂行する標準プロセス

の集合としてのITILである。

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データセンタサービス技術体系

FUJITSU.56, 5, (09,2005) 423

【カテゴリ3】必要性再検討

【カテゴリ3】必要性再検討

【カテゴリ2】実現時期再検討

【カテゴリ2】実現時期再検討

【カテゴリ1】優先実施

【カテゴリ1】優先実施

【カテゴリ4】実現手段再検討

【カテゴリ4】実現手段再検討

ビジネス

貢献度

技術実現度

実施効果が高く,実現手段も最適なため優先実施

経営戦略方針/行政施策指針に合わせた実施時期を見直し

実施効果に見合った実現手段を再考

実施効果,実施手段の根本的見直し

0

20

40

60

80

0 20 40 60 80 100

100

図-11 IT投資ポートフォリオマネジメント

Fig.11-Portfolio management for IT investment.

富士通では,自身が開発してきたデータセンタの

運用改善プロセスや様々な技術をITILなどの業界

標準や経営管理/事業管理手法にマッピングするこ

とで,お客様の経営に対するIT運用の貢献をこれ

まで以上に議論していけると考えている。 【ポートフォリオマネジメント技術】

IT投資案件に対する経営資源の配分を評価する

方法として,ポートフォリオマネジメント手法を整

備し適用している。 プロジェクトに関与するメンバが各IT投資案件

をビジネスと技術の二つの指標について評価し,

ポートフォリオ全体の分布と個々の案件の目的を勘

案しながら,投資の方針や優先順位を検討する。 (1) ビジネス貢献度 戦略との整合性,効果の大きさと波及範囲,実現

に要する時間,実現しなかったときのリスクなど。 (2) 技術実現度 適用する技術と自社のITアーキテクチャとの整

合性,技術導入による開発や運用への影響,将来性,

安定性など。 この二つの指標によって,IT投資案件は,図-11のようにカテゴリ1からカテゴリ4までの四つのグ

ループに大別される。 この分類結果を出発点とし,分類過程での判断基

準と議論に従って,改めて,各IT投資案件を精査

していく。 適用する技術を見直して実現度を再評価したり,

長期的なIT戦略の視点での投資目的を再検討した

りするといった,より深い評価を経て,最終的な投

資の優先順位の合意に至るのである。 これにより,各投資案件の持つIT戦略上の位置

付けとその期待効果を経営層と各プロジェクトが共

有することができ,両者の投資目的と実現目標がよ

り明確化される。 このポートフォリオマネジメント技術はIT投資

全般の最適化を目的に開発した。現在は,とくに

IT運用の中でもお客様の負担の大きいアプリケー

ション保守,および改善の投資戦略の立案を中心に

適用しAPMサービスの一技術としての需要が多い。 【アウトソーシングBSC(Balanced Scorecard)】

SLAは運用サービスを改善していくための指標

として重要テーマである。しかし,数値指標を含む

ための分かりやすさによって,サービス部門やアウ

トソーサに対する成績評価に偏ってしまい,地道で

あるが日々確実に改善するという目的から乖離して

しまうケースが少なからずある。 また,SLAの指標自体も「インシデント数10%削減」「時間内でのインシデント解決率の維持」と

いった,IT運用側を対象としたものだけに偏りが

ちであり,経営や事業現場への貢献といった目的と

の間にギャップを生じやすい。 こうしたギャップを埋めるためにBSCの手法を

導入したアウトソーシングBSCを開発した。アウ

トソーシングBSCによるIT戦略展開の例を図-12に示す。 BSCは,戦略目標を財務・顧客・業務プロセ

ス・学習と成長の四つの視点で展開し,目標・戦略

をKPI(Key Performance Indicator:業績評価指

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データセンタサービス技術体系

424 FUJITSU.56, 5, (09,2005)

財務

顧客

業務

プロセス

学習

成長

IT運営志向からIT戦略策定志向への脱皮

[

長期戦略]

IT運営志向からIT戦略策定志向への脱皮

[

長期戦略]

戦略目標

IT運用

コストダウン

IT利用者

満足度向上

IT運営

管理基準

策定

ナレッジ

蓄積と活用

お客様との共同施策

・全社TCO把握・中期計画策定への富士通の参画

・EU部門へのIT QCD明確化・IT資産管理運用基準の明確化

・ベストプラクティスによる運用管理評価と改善

・現行契約やSLAと期待値のGAP分析

・IT要員目標設定と評価基準の明確化・PDCAアプローチの適用・啓発・運営マニュアル,ルール策定

・計画とのGAP可視化・富士通によるIT戦略提案

・IT部門とEU部門とのSLA策定・資産管理ガイドライン策定,運用設計

・ベストプラクティス導入・SLA,サービススコープ修正

・キャリアマネジメント導入・作業標準テンプレート策定・ドキュメント共有化の仕組み構築

BSCの4視点 成果指標/パフォーマンスドライバ

図-12 アウトソーシングBSCへの展開例

Fig.12-Development sample of outsourcing BSC.

診断結果

30.0

40.0

50.0

60.0インシデント管理

問題管理

構成管理

変更管理

リリース管理

サービスレベル管理

ITサービス財務管理

キャパシティ管理

ITサービス継続性管理

可用性管理

■相対的にポイントの高いプロセス : 変更管理,リリース管理,キャパシティ管理,可用性管理

■中間点に近いプロセス : インシデント管理,問題管理,構成管理,サービスレベル管理

■相対的にポイントの低いプロセス : ITサービス財務管理,ITサービス継続性管理

総評

サービスマネジメントの基盤となり,かつ短期間で効果が実感できる,インシデント管理,問題管理,サービスレベル管理を第一優先として対応する

図-13 ITSMアセスメント結果例

Fig.13-Sample of ITSM assessment report.

標)へと定着させていくツールであり,キャプラン,

ノートンの両氏が開発し,1992年に発表された戦

略達成を支援するマネジメントツールである。 その最大の特徴は,単にKPIを導くのではなく,

最上位の戦略をKPIに展開するまでのシナリオを関

係者が共有し,合意して作成する点にある。 経営層や事業部門と運用サービス部門,または情

報システム部門とサービスプロバイダは,アウト

ソーシングBSCを用いて,共同してIT戦略展開を

行う。このときに,BSCが持つ四つの視点それぞ

れに対してIT戦略を展開し,双方が議論するため,

結果として設定されるKPIが一方的にITに偏ること

を回避できる。 このため,SLAを単なる評価指標化することな

く,戦略目標に対してパフォーマンスを改善してい

くという合意を形成することが可能となっている。 【アセスメントツール】

データセンタでのお客様向けの運用プロセスをベ

ンチマークするために作成したアセスメントツール

である。ITSMとの対応では,セルフアセスメント

ツール(PD0015)に位置付けられるツールである。 現在このアセスメントツールを使い,お客様の運

用プロセスの現時点での成熟度と課題を分析評価す

るサービスを提供している(図-13)。

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データセンタサービス技術体系

FUJITSU.56, 5, (09,2005) 425

運用プロセスのアセスメントは,運用プロセスが

未整備で,そのほとんどが属人的で部分最適化され

た状態に対して行なうケースが多い。そのため,現

場の運用担当者や利用者,およびマネジメント層へ

の徹底したインタビューを重視している。 また,現状とその課題を中心とした調査だと,結

果的に現状の改善提案に終わってしまう可能性が

高い。 そこで,富士通のアセスメントでは,デ―タセン

タの先進的なお客様での運用プロセスや手順書やレ

ポートなどの具体的な例で,ITILのベストプラク

ティスを補完して,プロセス成熟度フレームワー

ク:PMF(Process Maturity Framework)による

成熟度評価に基づいて,お客様の経営と事業に貢献

できる運用プロセスに至るための具体的な課題と成

長パスを明らかにしている。 このように,運用現場と利用者に対するインタ

ビューと調査に基づき,運用プロセス全体の成熟度

バランスとプロセスごとの強み弱みの評価を総合的

に判断して,お客様自身の運用プロセスの改善の方

針を提言している。

む す び

お客様の経営は,安定した経営,環境に対する変

化対応性へのスピード向上と,透明性の高いコンプ

ライアンスの確保など,新たなKPIを次々と維持し

改善していくことを市場から要求されている。 2004年11月に米国で施行を開始した,上場企業

会計改革および投資家保護法(Public Company

Accounting Reform and Investor Protection Act of 2002:企業改革法またはSOX法とも表記)は,企

業が米国証券取引委員会へ提出する書類に「虚偽や

記載漏れがない」「内部統制の有効性評価の開示」

などの署名付き証明書を添付することを求めている。

そして,財務報告の透明性を確保するため,その基

礎となる企業内の各データと情報システムを含めた

業務プロセスを明確化・文書化することを義務付け

ている。情報システム自身,システムの開発・保

守・運用といったプロセス,リソースへのアクセス

権限の管理,外部への委託契約方法などが対象と

なっている。そして,これらを公正で明確な手続き

で実行し,それを証明することを求めている。 東京証券取引所も,これに呼応するように,

2005年から有価証券報告書などの適正性に関する

確認書の添付を求めるようになっている。 ITが経営に貢献していくためには,従来からの

IT分野に特化した活動だけではなく,経営や事業

が市場から期待されているKSF(Key Success Factor:重要成功要因)とリスクを共有し,これに

対して積極的に対応することが必要である。 富士通のデータセンタでは,自身が事業体として

継続して成長していくために,IT分野だけでなく,

経営環境の変化やリスク管理に貢献できる幅広い分

野の技術をデータセンタサービス技術体系として整

備し蓄積してきている。 引続き,より経営に近い分野での技術開発を行い,

ITが経営に貢献できるアウトソーシングサービス

を継続して整備し提供していく所存である。