植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送...

24
1 植物のRNA長距離輸送 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田 竹雄

Transcript of 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送...

Page 1: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

1

植物のRNA長距離輸送植物のRNA長距離輸送ベクターの開発ベクターの開発

弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科

教授 原田 竹雄

Page 2: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

2

研究背景研究背景

接ぎ木を利用する果樹栽培において、台木が穂木に与える影響は多様なものがあることがわかっていたが、その原因は不明であった。

近年の遺伝子解析技術により、遺伝情報の長距離輸送システムの存在が判明してきた。

リンゴ果実の分子遺伝学的研究を行ってきたが、上記のことから、次の新技術の開発研究を発想した。

接ぎ木を利用する果樹栽培において、台木が穂木に与える影響は多様なものがあることがわかっていたが、その原因は不明であった。

近年の遺伝子解析技術により、遺伝情報の長距離輸送システムの存在が判明してきた。

リンゴ果実の分子遺伝学的研究を行ってきたが、上記のことから、次の新技術の開発研究を発想した。

植物の長距離輸送システムを利用して遺伝情報を台木から穂木へ運搬させて穂木の形質を改良する。

植物の長距離輸送システムを利用して遺伝情報を台木から穂木へ運搬させて穂木の形質を改良する。

Page 3: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

3

Biochemistry & Molecular Biology of Plants  p739

導管(mM) 篩管(mM)

sucrose ND 460.0

Amino acid 2.2 83.0

Potassium 5.2 94.0

Sodium 2.0 5.0

Phosphorus 2.2 14.0

Magnesium 1.4 4.3

長距離輸送とは?長距離輸送とは? 輸送インフラとして輸送インフラとして導管と篩管がある導管と篩管がある

Page 4: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

4

篩管の機能は伴細胞で支えられている。篩管の機能は伴細胞で支えられている。

篩管篩管

伴細胞伴細胞

周辺細胞周辺細胞

Page 5: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

5

植物名 手法 検出遺伝子 報告者,報告年 発表論文

タバコ in-situハイブリ SUC1 Kuhn et al. 1997 Science

カボチャcDNA clones

NACPなど10 Ruiz-Medrano et al. 1999 Development

篩管溢泌液

オオムギ

cDNA-PCR

SUT1 Doering-Saad et al. 2002 J Exp B

アブラムシ口針液

トウゴマ

篩管溢泌液

158 遺伝子 Dierubg-Saad et al. 2006 J Exp B cDNA library

メロン

篩管溢泌液

986 遺伝子 Omid et al. 2007 J Exp BcDNA library

シロイヌナズナ

篩管溢泌液

2417遺伝子 Deeken et al. 2008 Plant J.cDNA library

篩管内にはmRNAが存在していることが判ってきた。篩管内にはmRNAが存在していることが判ってきた。

その一部は篩管輸送されていることが報告されてきた。その一部は篩管輸送されていることが報告されてきた。

Page 6: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

6

リンゴの接ぎ木作業 青森市 原田種苗株式会社 2005年春撮影

マルバカイドウ台ふじ弘前大学農学生命科学部附属農場

果 樹耐寒性、耐乾性、病害虫回避、矮性

リンゴ、ナシ、カキ、ブドウ、モモ、スモモ、ウメ、アンズ、オウトウ、クリ、クルミ、イチジク、キウイフルーツ、ブルーベリー、カンキツ、ビワ、マンゴー

蔬 菜 土壌病害回避

トマト、ナス、ピ-マン、キュウリ、メロン、スイカ

トマトトマト 7070%%ナスナス 8080%%ピーマンピーマン 3030%%キュウリキュウリ 9090%%メロンメロン 4040%%スイカスイカ 8080%%

データ提供データ提供::㈱㈱タキイ種苗タキイ種苗

Page 7: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

77

20072007年度年度 生研センター生研センター新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業 採択課題採択課題

Page 8: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

8

実際に実際に 輸送輸送RNARNA がが穂木を穂木を 形質変化形質変化させるか?させるか?

原因原因遺伝子遺伝子RNARNA

MeMe トマトトマト

ジャガイモジャガイモ

穂穂木木

台木(根部)からRNAが輸送され,穂木の形質が変化する.

Kudo H, Harada T: A graft-transmissible RNA from tomato rootstock changes leaf morphology of potato scion. HortScience 42: 225-226 (2007)

Page 9: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

9

RNA輸送

N.benthamiana

最上位葉の腋芽(LM)根端(Root)

RT-PCR

検出=

LMLeaf

Root

NOS-Ter

NOS-Pro

LBRB

NTPⅡ(kanR) NOS-Ter 35SPro

1.90.8

(14.76Kb)

0.8

PTRと報告された(1999年)

Page 10: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

10

AtgaiAtgai deletion mutantdeletion mutantのインフィルトレーション解析のインフィルトレーション解析

GAI GAI ののRNARNA輸送に関する輸送に関する機能的ドメイン機能的ドメインの候補領域を特定.の候補領域を特定.

○○

○○

○○

××

○○

LongLong--distancedistancetransporttransport

輸送ドメイン輸送ドメイン

ΔΔ 55’’ 領域領域 705 705 bpbp

コード領域全長コード領域全長

翻訳領域全長翻訳領域全長

ΔΔ 55’’ 領域領域 843 843 bpbp

Page 11: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

11

輸送ドメインは非輸送性RNAを輸送出来るか?

輸送ドメイン243 bpと非輸送遺伝子GFPとの融合RNAでは・・・・・

輸送ドメインは非輸送性RNAを輸送出来るか?

輸送ドメイン243 bpと非輸送遺伝子GFPとの融合RNAでは・・・・・

GFP-Atgai243 融合転写物がLM,Rootで検出。

243

35S pro GFP783

輸送ドメイン

35S pro GFP783

Atgai243が非輸送遺伝子GFPの輸送を可能にした.Atgai243が非輸送遺伝子GFPの輸送を可能にした.

Leaf LM Root Leaf LM Root

35S::GFP35S::GFP 35S::GFP35S::GFP--Atgai243Atgai243

Page 12: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

12

CoYMV:intGUS導入個体のGUS染色像。維管束篩部にのみ発現が認められる。A;葉の中肋,D;根。

Commelina yellow mottole virus(CoYMV)のプロモーター領域(Minnesota Univ. Prof Olszewskiより分譲)Commelina yellow mottole virus(CoYMV)のプロモーター領域(Minnesota Univ. Prof Olszewskiより分譲)

伴細胞特異的プロモーターの活用伴細胞特異的プロモーターの活用

Page 13: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

13

CoYMV pro LFY 243

その他の遺伝子でも輸送させることが可能である。その他の遺伝子でも輸送させることが可能である。

タバコの接ぎ木個体 RT-PCRでの輸送の確認。コント

ロールでは見られない。

nptⅡnospro

noster LEAFY nos

ter

RB LB

35S pro

0.8 0.8 1.2

(12.9 kb)

HindⅢ SacⅠ SpeⅠ,XbaⅠ

Page 14: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

14

伴細胞特異的プロモーター

npt II CoYMV Atgai noster

noster

nospro

RB LB

ジベレリン抑制遺伝子

WTWT

WT

台木の矮化特性は穂木にも伝わる台木の矮化特性は穂木にも伝わる

Page 15: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

15

AAAAA

promoter nostergene

篩管伴細胞

small RNA

穂木に新しい形質の付与

siRNAおよびmiRNAのPTR解析とその応用研究siRNAおよびmiRNAのPTR解析とその応用研究

台木においてsmall RNAを産生 → 輸送

Page 16: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

16

: Emtpy

: CoYMV:MIR393 1

: CoYMV:MIR393 2

: CoYMV:MIR393 3

miR

393の

相対

miR393導入N. benthamiana (T1)におけるmiR393の蓄積量

Kan選抜培地に播種後15日の幼植物体

CoYMV:MIR393では1.5~3倍蓄積していることが判明した。CoYMV:MIR393では1.5~3倍蓄積していることが判明した。

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

3.5

n=3

コントロール個体でmiR393aが検出されたことから、N. benthamianaにおいてもアラビドプシスと同一のmiR393配列が存在することが判明した。

コントロール個体でmiR393aが検出されたことから、N. benthamianaにおいてもアラビドプシスと同一のmiR393配列が存在することが判明した。

Page 17: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

17

Vlmyb / WT Vlmyb / CoYMV:Vlmyb full IR 1

接ぎ木1週間後

siRNAを台木から穂木へ運搬することで、穂木の

アントシアニン色素合成を止めて緑色葉を展開させることができる。

siRNAを台木から穂木へ運搬することで、穂木の

アントシアニン色素合成を止めて緑色葉を展開させることができる。

Page 18: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

18

mmRNARNA

siRNAsiRNA

miRNAmiRNA

amiRNAamiRNA

リンゴの根は地上高の2倍半まで地下にのびている。Westwood ed. POMOLOGY より引用

••台木から台木からRNARNAを運搬するシステムの構築。を運搬するシステムの構築。

••それらによる穂木形質はどの程度変えられるか?それらによる穂木形質はどの程度変えられるか?

地中の台木から多様なRNAを運搬し地上の穂木で機能させる。地中の台木から多様なRNAを運搬し地上の穂木で機能させる。

Page 19: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

19

従来の台木栽培は、、

土壌病害抵抗性、耐湿性、耐干性などを有する台木が、実際土壌病害抵抗性、耐湿性、耐干性などを有する台木が、実際の栽培を通して見つけられてきた。しかし、そのメカニズムは不の栽培を通して見つけられてきた。しかし、そのメカニズムは不明のままであった。明のままであった。

新技術新技術

••台木が穂木に与える能力を遺伝子工学的に高めるこ台木が穂木に与える能力を遺伝子工学的に高めることが可能である。とが可能である。

••いままでなかった能力を台木に与えることも可能であいままでなかった能力を台木に与えることも可能である。る。

Page 20: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

20

想定される用途

• 果樹

従来の品種改良には数十年を必要とする果樹では画期的な技術となる。

すなわち、一度台木にこのシステムを付与することで既存の全優良品種に目的の形質を付与できる。

また、永年性作物であるため、一度接ぎ木を行えばその効果は長期にわたって維持される

リンゴ、ナシ、オウトウ、モモ、ブドウ、カンキツ等

• 蔬菜

トマト、ナス、スイカ、メロン、カボチャ等の台木-穂木の栽培方式を採る多くの蔬菜にも適用が可能であ

る。

穂木は組換え遺伝子を含まないため、GM作物の栽培に際して最大の懸案とされる花粉等の飛散によ

る組換え遺伝子の漏出問題を解決できることも、本形質転換法の大きなメリットである。

• 想定されるユーザー

種苗会社

果樹全般 トマトなど蔬菜

Page 21: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

21

実用化に向けた課題

• どの遺伝情報を輸送させて、どのような形質を変えるのか?

ストレス耐性、耐病性、高品質性など

• smallRNAでの可能性はどこまであるのか?

• 使用するプロモーターをさらに改良する必要がある。

• 組換え体を栽培する必要がある。

Page 22: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

22

企業への期待

• どのような形質の改良が望まれるのか?についての情報を得たい。

• 組換え体を使用することになるが、近い将来にわが国でも栽培が本格的に始まるとの認識をもっていただきたい。

• 台木による穂木の品種改良法を確立するための基礎技術の開発に協力して欲しい。

Page 23: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

23

本技術に関する知的財産権

• 発明の名称 :植物の篩管を通して遺伝子の転写物を輸送する方法

• 出願番号 :特願2008-248887• 出願人 :弘前大学

• 発明者 :工藤久幸、原田竹雄

Page 24: 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発...1 植物のRNA長距離輸送 ベクターの開発 弘前大学 農学生命科学部 生物資源学科 教授 原田竹雄 2

24

お問い合わせ先

弘前大学地域共同研究センター産学官連携コーディネーター

工藤重光

TEL : 0172-39-3989

FAX : 0172-36-2105

E-mail: [email protected]