島根県産きぬむすめの米粉と世界遺産石見銀山の梅花から 単...

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島根県産きぬむすめの米粉と世界遺産石見銀山の梅花から 単離された酵母の米粉パン製造特性 誌名 誌名 日本食品科学工学会誌 ISSN ISSN 1341027X 著者 著者 土佐, 典照 野津, 智子 秋吉, 渚月 大渡, 康夫 上池, 貴晃 近重, 克幸 永田, 善明 巻/号 巻/号 62巻5号 掲載ページ 掲載ページ p. 250-256 発行年月 発行年月 2015年5月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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  • 島根県産きぬむすめの米粉と世界遺産石見銀山の梅花から単離された酵母の米粉パン製造特性

    誌名誌名 日本食品科学工学会誌

    ISSNISSN 1341027X

    著者著者

    土佐, 典照野津, 智子秋吉, 渚月大渡, 康夫上池, 貴晃近重, 克幸永田, 善明

    巻/号巻/号 62巻5号

    掲載ページ掲載ページ p. 250-256

    発行年月発行年月 2015年5月

    農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

  • Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi, 62 (5), 250-256, 2015 Copyright@ 2015, Japanes巴Societyfor Food Science and T巴chnology

    doi: 10. 3136/nskkk.62. 250

    技術論文

    http://www.jsfst.or.jp

    島根県産きぬむすめの米粉と世界遺産石見銀山の梅花から

    単離された酵母の米粉パン製造特性

    土佐典照ぺ野津智子,秋吉渚月,大渡康夫,上池貴晃,近重克幸,永田善明

    島根県産業技術センター浜田技術センター

    Processing Suitability of Rice Bread Made from “Kinumusume" Rice Flour Produced in Shimane

    and “Umehana" Plum Blossom Yeast from the World Heritage Site Iwami-Ginzan

    Noriteru Tosa*, Tomoko Nozu, Natsuki Akiyoshi, Yasuo Oowatari,

    Takaaki Kamiike, Katsuyuki Chikasige and Yoshiaki Nagata

    Shimane Institute for Industrial T巴chnology,Hamada Branch, 388-3, Shimoko-cho, Hamada, Shimane 697-0006

    In Shimane Pr巴fecture,food manufacturers have requested the development of regional food materials. The suitability of "Kinumusume" rice flour for the production of rice bread was test巴dwith respect to th巴quantityof damaged starch; the flour was found suitable du巴th巴lowamount of damage to starch. Rice bread was made using "Umehana" yeast, which was isolated from plum blossoms in Iwami-Ginzan, a world heritage site. Yeast f巴rmentationability in the low-sugar dough was compared using rice flour and wheat flour. As a result, the yeast showed greater fermentation ability with rice flour compared to wheat flour. The observed differenc巴 mfermentation ability was proposed to be due to the larger volume of water in the rice flour dough than the wheat flour dough. Thus, rice dough fermentation was investigated in regards to the volume of water. The activity of yeast fermentation was confirmed to b巴 dependenton the volume of wat巴rin the dough. Bread flavor was also investigated, and benzaldehyde was identified as a characteristic flavor component. Moreover, amino acid s巴quenceanalysis found that the rice bread contain巴dhigh 1巴velsof glutamic acid and serine.

    (Received Aug.12, 2014; Accepted Jan.19, 2015)

    Keywords : plum-blossom, baker's y巴ast,Saccharomyces cerevisiae, rice bread, KINUMUSUME キーワード 梅花,パン酵母,Saccharomyces cerevi幻ae,米粉パン,きぬむすめ

    島根県大田市の世界遺産石見銀山では,江戸時代後期に

    かけて採掘作業者に防塵や保湿性など健康上の安全性を確

    保する目的で梅肉をマスク (福面と呼ばれていた)に塗り

    つける風習があったので,現在でも大田市では「市の木」

    として梅をとても大切にしている このような歴史的経緯

    があるため梅を利用した特産品作り,特に伝統文化を踏ま

    えつつ,テイクアウトや喫茶用として提供する形態にも対

    応可能な新規性のある食品素材が,島根県の食品関係業界

    から要望されている.

    そこで著者らは,地域の産物や土壌などから独自の酵母

    を分離してパンや清酒などを製造する動きも活発であるこ

    とから 1)寸 石見銀山地区の梅花から酵母の分離を行った

    この分離された酵母は,Saccharomyces cerevisiaeである

    こと,パン,酒造用の既知酵母とは栄養要求性などが異な

    ること,また醸造発酵能力も現在広く使用されている酒造

    用酵母に匹敵し清酒製造にも使用できることを確認したむ

    干697-0006島根県浜田市下府町388-3・連絡先 (Correspondingauthor), [email protected]

    なおこれらの試験結果から,新規に発見した酵母として特

    許6)が認められ,また「梅花酵母j7)1石見銀山梅花酵母J8)

    の商標も登録された (以下,本報告でこの酵母は「梅花酵

    母」と表記する)

    ところで近年米の消費拡大を目的として米粉利用が進ん

    でいるが,島根県においても平成 22年から新規需要米拡

    大対策事業として米粉用米の利用拡大も盛り込まれた 米

    粉の研究9)は,特に米粉パンに関する研究が数多く報告さ

    れている 10)111 これらの研究では,米粉パンに利用するため

    の原料米の検討12) 製粉方法による米粉品質の違い13) 米粉

    の性質に応じた適切な加水量の検討円 さらに米を糊化さ

    せることによる米粉パンの製造15)など,様々な分野で報告

    が行われている しかし島根県が米粉用として指定した

    「きぬむすめJ16)の米粉については,今までパン製造などに

    対する適性が検討されていない また米粉パンの研究は,

    パン製造に関して重要な要素である酵母について検討した

  • ( 25 ) 土佐・他:梅花酵母の米粉パン製造特性 251

    ものはほとんどない.そこで本報では,島根県の食品素材

    による特産品開発を目的として,まず島根県産きぬむすめ

    で製造された米粉について特性の測定を行い,そして梅花

    酵母の米粉パン適性とこの米粉パンの風味について検討を

    行ったので報告する

    実験方法

    1. 米粉の調整

    試験に供した米粉は平成 24年度島根県産「きぬむすめj

    を,委託加工したもの(熊本製粉社,以下 A米粉と記述),

    島根県内の企業による乾式ピン製粉機で加工したもの (B

    米粉)と乾式旋囲気流製粉機で加工したもの (C米粉)お

    よび当センターで、湿式衝撃小型製粉機 (SRG05A,サタケ

    製作所)を使用して製造したもの (D米粉)の 4種類である.

    2. 米粉特性の分析

    損傷デンプンは Starchdamage assay procedure (Mega-

    zyme社)を用い,米粉吸水率は松本らの方法的に従って

    測定した 米粉の粒度は,レーザー回折式粒度分布測定装

    置 (MT3300EXII,日機装社)で調べたまたファリノグ

    ラフ試験は, (一社)日本パン技術研究所に委託した なお

    各測定は 2回行い,結果は平均値を記載した(以下の項も

    同じ).

    3. 米粉特性における製パン試験

    ストレート法によりワンローフ形食パンを製造した.原

    料と配合は,米粉80ベーカーズ%山8) (以下配合割合の単

    位表記は%とする),グルテン (Fx-75,熊本製粉社)20%,

    砂糖6%,食塩2%,ショートニング 6%,ドライイースト

    1%,スキムミルク 3%,水 68~86% とした.酵母はルサッ

    フル社のインスタントドライイースト赤を使用した.原料

    をミキサー(マイテイ 15,愛工舎製作所)でミキシングし

    て生地を完成させた.生地完成の判断は,生地を指で伸ば

    してちぎれず薄膜となって指が透けて見える状態とした.

    また担ね上げ温度は 280

    Cとした生地は 420gに分割して

    丸め, 270

    C, 20分のベンチタイムを取ったワンローフ形

    に成形後,これを一斤パン型(内寸1180x W80 x H90 mm)

    に入れ, 38t, 85%RHに設定したホイロ (MH-T,ワール

    ド精機)で、発酵を行った発酵終点は,生地上端がパン型

    の高さと一致した時点とした発酵終了後,直ちに電気

    オーブン (WEE-12T,ワールド精機)で上火 190t,下火

    2100

    C, 35分焼成した

    4. パン比容積の測定

    焼成後のパンを室温で一晩放冷した後,菜種法で比容積

    を求めた.

    5. パン酵母

    梅花酵母は,微生物の識別の表示を「石見銀山梅花酵母一1J

    として,独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物

    寄託センターに, 2011年 2月8日に「受託番号:NITE P-

    1056Jとして寄託したものである.梅花酵母は 2トン委託

    生産され,生イーストのバルク形態聞で 3kgずつポリ袋

    に包装された本酵母は, 50

    Cおよび 200

    Cで保存して適

    時試験に供した 対照とした市販パン酵母は,ダイヤイー

    スト YST(MCフードスペシャリティーズ,以下 NO.l酵

    母と記述),オリエンタル VFイースト(オリエンタル酵母

    工業社,以下 NO.2酵母),および低糖用インスタントドラ

    イイースト赤(ルサッフル社,以下 NO.3酵母)を用いた.

    6. パン生地における各酵母発酵力の測定

    日本イースト工業会の定めたパン用酵母試験法制を参考

    にして,低糖生地についての生地発酵力試験を行った酵

    母の使用量は,生イーストは 2%,ドライイーストの NO.3

    は 1%とした.また併せて NO.l酵母は 4%,梅花酵母は 3

    と4%にしたものも測定した試験に供した小麦粉は市販

    強力粉(レッドキューブ,旭製粉杜),また米粉(前記A米

    粉)とパイタルグルテン (Fx-75,熊本製粉杜)を 80:20で

    混合して使用した.小麦粉,米粉,蒸留水などの原材料は,

    300

    Cに設定したインキュベータに 1時間静置してから用い

    た. ミキシングは,担ね上げ温度が300

    Cになるようにミキ

    サー (PK1201.日本ニーダ一社)を 300

    C設定のインキユ

    ベータ内に設置し 5分間, 480回転/分で行った担ね上

    げが終わった生地は,速やかに 30g採取しファーモグラフ

    nw(アト一社)に供して, 5分毎のガス発生量を 12時間測定した.また担ね上げが終わった直後の生地について,

    水分は定法21)で,水分活性は水分活性測定装置 (CX-2,ア

    イネクス杜)で測定した.

    7. 梅花酵母で製造したパン生地の香気分析

    6項で製造した米粉パン生地の香りについて,ヘッドス

    ペース GC/MS分析を行った装置は ThermoQuest社の

    GCQplus,キャリアガス (He)流量 lmL/min,スプリット

    比 1:10,カラムは TC-WAX(GLScience杜)60mX内径

    0.25mmX膜厚 0.25μmを用い,試料は 5gをヘッドスペー

    ス分析用サンプル瓶に入れて 600C15分加温後ヘッドス

    ペースガスを lml採取して分析に供した.カラムオーブ

    ンの条件は,最初 50t2分保持した後 10t/分で 250tま

    で昇温した検出器条件は, transferline 260t,イオン化

    電圧 70e V, ion source 2200

    C, Scan (m/ z = 40-300) とし

    た.

    8. 米粉パンの遊離アミノ酸分析

    梅花酵母と NO.l酵母を用いて,ストレート法で低糖生

    地の米粉パンを 6項の方法で製造し遊離アミノ酸分析を

    行った.米粉パンの中央部分を切り取って得られた試料4

    gに40mLの蒸留水を加え 1弗騰水中で 30分保持した後,

    ろ過したものをアミノ酸分析用検液としたこの検液 100

    μLを EZ: faast GC-MS free (physiological) amino acid

    analysis kit (Phenomenex社)を用いて精製,誘導体化し,

    7項記載の GC/MS装置を用いて分析した

  • ( 26 ) 2015年 5月第 5号第 62巻日本食品科学工学会誌252

    米粉の特性とパン生地物性表 1

    最大比容積を示すパン生地の物性

    左比容積 左吸水のパン生地の加水量 のファリノグラム(%) (BU)

    食パン比容積ファリノグラム400BUの加水量

    (%)

    米粉特性

    平均粒度損傷デンプン

    660 770

    1000以上

    530

    7

    4

    7

    4

    tヴ

    d

    t巧

    d

    (ml/g)

    4.25 3.73

    3.54

    4.64

    84 84

    100以上

    78

    m

    uF

    41 113

    55

    106

    (%)

    2.3

    6.2 10.9 2.2

    A米粉

    B米粉

    C米粉

    D米粉

    4.0

    2.0

    0.0 0

    li 12.0

    '" g t 10.0 πコ

    CコCコ、、bIl

    酬キ4患のが士ま

    毒事話t

    * 米

    8.0

    6.0

    120 100

    図 1 各米粉の吸水量変化

    -・ー"A米粉,一仁←"B米粉-・ー, C米粉;-()-, D米粉.

    80 60

    時間(分)

    40 20

    また D米粉の平均粒度は A米粉の 2倍以上の値である

    が,パン比容積については D米粉の方が高い数値となっ

    た奥座らは,損傷デンプンが製パン時の比容積と負の相

    関にあること,平均粒経については相関性がみられなかっ

    たことを報告しているが13) 表 lの結果は同様の傾向を示

    したと判断された.また最大比容積におけるファリノグラ

    フの値は, D米粉, A米粉, B米粉, C米粉の順に低い値に

    なったが,いずれも 400BUよりも高い値を示した.高橋

    らは,比容積が最大となるファリノグラフの値が 300BU

    付近であること報告しているが円本試験でのファリノグ

    ラフ値が高くなった要因として,高橋らの試験が原料配合

    で米粉とグルテンの割合が85:15で行われ,本試験の方は

    80: 20とグルテン量が多いことが原因のーっと考えられ

    る.最大比容積における加水量は, A米粉と C米粉が77

    %, B米粉と D米粉が74%となり,損傷デンプン割合と明

    確な相関性がみられなかった庄子らは米粉の吸水特'性に

    ついて検討を行い,吸水率は一定値(飽和含水率)に収束

    していくこと,損傷デンプンと吸水速度は相関がみられる

    こと,また損傷デンプンの多い米粉ほど吸水速度は緩慢で

    飽和吸水率の値が高くなることを報告しているやそこで

    4種類の米粉について吸水量を測定し試験開始から 120

    実験結果および考察

    1. 試験に用いた米粉の特性

    表lに,各種米粉の損傷デンプン,平均粒度,水分,ファ

    リノグラムおよび製パンしたワンローフ形食パンの比容積

    などについて測定結果を示した.損傷デンプンは A米粉

    とD米粉が特に低い値を示したまた平均粒度は A米粉

    とC米粉が低い値であった各米粉への適正加水量につ

    いて,ファリノグラフによる測定を行った.奥西らは,米

    粉パンにおける適正加水量の決定手段はファリノグラフが

    適しており, 400BUの最高粘度を与える加水量が適正で

    あることを報告している凶このことから各米粉の 400BU

    となる加水量を求めたが, A米粉, B米粉が84%,D米粉

    が78%,C米粉は 100%以上となった次にこれらの米粉

    で製造したパンが最大比容積を示す加水量を求め,この加

    水量におけるファリノグラムの値も併せて求めた.加水量

    は68,71, 74, 77, 80, 83, 86%の7試験区で行い,パン

    を製造して比容積を求めたが,表 lに各米粉における最大

    比容積,その時の加水量とファリノグラフの値も示した.

    比容積の大きさは, D米粉, A米粉, B米粉, C米粉の順に

    なり,損傷デンプンの割合が少ない米粉が高い値を示した

  • ( 27 ) 土佐・他:梅花酵母の米粉パン製造特性 253

    表 2 小麦粉および米粉生地における各種酵母の総ガス発生量

    酵母の種類と添加量

    (単位:ml)

    発酵時間生地原料

    NO.1酵母 NO.1酵母 NO.2酵母 NO.3酵母 梅花酵母 梅花酵母 梅花酵母(分) (2%*) (4%*) (2%*) (1%*) (2%キ) (3%*) (4%*)

    60 小麦粉 46.8::!::2.5

    米粉 4l.3土0.6

    90 小麦粉 75.9土2.8

    米粉 68.9::!::3.0

    120 小麦粉 105.6::!::0.8

    米粉 88.5::!::0.2

    *ベーカーズパーセント

    75.9::!::4.5 43.2::!::2.1

    43.8::!::0.6 40.8土2.6

    132. 8::!::4. 9 72土2.2

    85.5士l.6 64.6士3.1

    193.5::!::13.3 104.7::!::4.5

    133.6::!::7.6 88.7::!::4.2

    分間の結果を図 lに示した A米粉と B米粉は試験開始

    後 60分で一定値に達し, C米粉は穏やかに日及水が進み 160

    分後に一定値となった D米粉は試験開始後 5分で急激

    に吸水し, 10分後に一定値になったこの様に島根県産き

    ぬむすめにおいても,前述した庄子らの報告22)とほぼ同じ

    傾向となった.

    以上のことから,損傷デンプンが低く吸水速度が速いな

    どの性質をもっA, D米粉が,米粉パン製造に適している

    と判断され,特に A米粉は量産が可能で、あったこの結

    果より A米粉の生産が採用され,平成 24年度から島根県

    産きぬむすめを用いた米粉の供給体制が整った.

    2. 梅花酵母の米粉パン生地の発酵特性

    梅花酵母のパン生地の発酵力について,市販流通してい

    る3種類の酵母と比較して発酵特性を調べた.表2に4種

    類の酵母を添加して小麦粉および米粉で作成した低糖生地

    について,ファーモグラフによる 60分, 90分, 120分にお

    ける総ガス発生量の測定値を示した.生イーストタイプの

    No.1, NO.2酵母およびドライイーストタイプの NO.3酵母

    の小麦粉生地についての発酵力はほぼ同じであった.なお

    NO.1酵母は, 4%に増量した試験も行ったが, 2%の場合

    の約1.8倍となった梅花酵母は, 2%での小麦粉生地の

    ガス発生量は, NO.1, No.2, NO.3酵母2%に比べて 0.7倍

    の低い値となった また酵母量を 3%に増量しでも 0.9倍

    であり, 4%にすると同程度となった.次に小麦粉生地と

    米粉生地を比較すると, No.1, NO.2酵母では米粉生地は

    小麦粉生地の 0.8~0.9 倍と低くなる傾向を示し, NO.3酵

    母はほぼ同じであった.また NO.1酵母を 4%に増量した

    試験区では 0.7倍以下となった.ところが梅花酵母は, 2%

    では小麦粉生地と同等, 3および4%では小麦粉生地の約

    1.2倍となった.

    このように梅花酵母は,米粉生地で発酵が活発になる特

    徴があることから,原因ついて検討した 小麦粉生地と米

    粉生地の大きな差異の一つが,仕込み配合における加水量

    である.表2における加水量は,小麦粉の低糖生地では 62

    %引米粉生地では前述したファリノグラフの結果から 77

    %とした.そこで梅花酵母について,酵母添加量を小麦粉

    43.6::!::0.6 30.0::!::3.0 38.5::!::0.2 43.6::!::4.1

    46.4::!::0.3 30. 6::!:: l. 8 48.1::!::3.4 54.4土0.2

    72.3::!::l.4 50.4::!::6.1 6l. 7土0.9 78.2::!::6.1

    71.5::!::l.2 5l.O::!::O.8 75.2士2.4 95.8::!:: l. 7

    104.8::!::2.5 70.9::!::5.1 83.8::!::4.2 108.1::!::4.2

    98.4::!::3.1 69.0::!::7.7 100.0土0.1 14l. 2::!::4. 7

    生地と米粉生地における発酵の差が大きかった 3%対象

    に,加水量を任意に変えてガス発生量を測定した試験開

    始から 2時間の 5分毎ガス発生量についての結果を図 2に

    示したなおこの図において,加水量は 55,62, 70, 77,

    85%の5試験区とし,各生地の水分と水分活性の値を合わ

    せて記載した 小麦粉生地では,加水量 55%の試験区が

    低い値で推移したが,加水量 62%以上は加水量を増加し

    でも開始から約 40分後にピークが来る同じような経過を

    取り,加水量のガス発生量への影響は見られなかった米

    粉生地でみは加水量で、挙動が大きく異なり,加水量が 70%

    以下の低い場合では小麦粉生地よりもガス発生量が少な

    く,加水量の多い 77,85%の試験区では開始約 30分後に

    発酵のピークとなりガス発生量が多い活発な傾向となっ

    たなお梅花酵母で清酒製造試験を行った場合,汲水歩合

    が 130以下になるとボーメの切れやアルコール生成が鈍く

    なり,酸度が高くなるなど培養基の濃度が影響したや以

    上のことから米粉生地においては加水量が,梅花酵母の発

    酵に影響することが示唆されたこの様に梅花酵母が小麦

    粉生地と米粉生地で異なる挙動を示すことから,原因につ

    いて検討するために田村らの方法制で梅花酵母と NO.1酵

    母のインベルターゼ活性とマルターゼ活性を測定した.そ

    の結果,インベルターゼ活性については梅花酵母が 208

    unit, NO.1酵母が4unit,マルターゼ活性については梅花

    酵母が 13unit,No. 1酵母が231unitであった一般的に

    インベルターゼ活性が強いと耐糖性が弱いことや,小麦粉

    を原料とするパン発酵にはマルターゼ活性が強いことが重

    要であることが知られているザまたパン製造において酵

    母のマルターゼ活性へ影響のある要因として原料の βーア

    ミラーゼ活性が重要であるが,この活性は小麦では高いが

    米では低いやこれらのことから梅花酵母は,小麦粉での

    パン製造には適性が低いと考えられる しかし梅花酵母

    は,表2と図 2に示したように,酵母量を 3%程度で使用

    すれば,加水量の高い米粉パン製造では発酵が旺盛になる

    特性がある.そして以上のことは今後米粉パン製造に特化

    した酵母の開発に有益な情報であると考えられる.

  • ( 28 ) 2015年 5月第 5号第 62巻日本食品科学工学会誌254

    米粉生地7

    4

    3

    2

    6

    5

    1

    小麦粉生地7

    4

    3

    2

    6

    5

    1

    (京国¥-E)醐州総代快Q騎

    E雨明白

    40 60 80 100 120

    発酵時間(積算時間:分)

    ゃー加水量55:水分40.6,水分活性0.961

    屯ー加水量62:水分42.6,水分活性0.963

    t・加水量70:水分43.5,水分活性0.968

    0ー加水量77:水分46.7,水分活性0.972

    ......加水量85:水分49.1,水分活性0.975

    20

    。bnu nU

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    分水%

    スカベ量水nu

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    120 0 100 80 60 40 20

    。。

    梅花酵母 3%の水分量の遣いによるガス発生量(低糖生地)図 2

    ~ ⑤

    +寸 I ι 7ーァマ10 12 14 16 18

    時間(分)

    酬夜m帯

    24 22

    rn/z==61.88. 145. 173. 201

    rn/z=60

    rn/z=105

    rn/z=91. 92

    20

    図 3 米粉パン生地香り成分の GC/MS分析 (SIM)

    抽出イオン:

    1,4 脂肪酸エステル

    2 酢酸3 ペンズアルデヒド5 フェネチルアルコール

    そして,梅花酵母の生地に杏仁豆腐様香気のペンズアルデ

    ヒド(図 3の③)が検出された No.1, No.2, NO.3酵母以

    外の市販酵母 3銘柄についても同様に分析したが,ベンズ

    アルデヒドは検出されなかった.なお,この生地から作ら

    れた米粉パンについては,焼成しているためベンズアルデ

    ヒドは検出されなかったしかし梅花酵母で米粉パンを

    製造している過程で生地に果物や菓子様の香りがすること

    は,他の酵母とは異なった印象を与え,梅花酵母の特徴の

    ーっとして認識される.

    3. 梅花酵母で製造した米粉パン生地と米粉パンの風味

    梅花酵母で米粉パン生地を製造する際,生地の香りが市

    販酵母と比較して特徴があると感じられたそこで梅花酵

    母と No.l, No.2, NO.3酵母を用いて製造した米粉生地の

    香り成分についての GC/MS分析を行い,結果を図 3に示

    したまず4種類の酵母で作られた生地とも,パラ様香気

    であるフェネチルアルコールが,また NO.1酵母と梅花酵

    母のものに,パイナップル様香気であるオクタン酸エチル

    (図 3の①)とデカン酸エチル(図 3の④)がみられた

  • ( 29 ) 土佐・他:梅花酵母の米粉パン製造特性 255

    700

    600

    ~ 500 bJ)

    cコCコで 400bJ) g

    鐙 300¥

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    図 4 梅花酵母と No.1酵母で製造した米粉パンのアミノ酸量

    口,梅花酵母 2%;圏, NO.1酵母 2%.

    *.ρ

  • 256 日本食品科学工学会誌第 62巻第5号 2015年 5月 ( 30 )

    及びその取得方法並びに該酵母を用いた清酒その他の飲食

    品の製造方法,特許第 3846623号 (2006.9.1)

    4) 小固有二,山内宏昭,田村雅彦,産学官連携による製パン用

    「とかち野酵母」の開発,日本食品科学工学会誌. 59. 1-5

    (2012)

    5) 土佐典照,大渡康夫,近重克幸,野津智子,生田千枝子,吉

    野勝美,房 被,松場大吉,石見銀山遺跡の梅花からの「梅

    花酵母」単離とその特性,マテリアルインテグレーション,

    Vol. 25. No. 8. 9. 64-70 (2012).

    6) 土佐典照,房 夜,石見銀山梅花酵母,及びそれを用いて製

    造される発酵飲食品または飼料,特許第 4899138号 (2012

    1.13).

    7) 島根県,石見銀山生活文化研究所,商標登録第 5497611号

    (2012.6.1)

    8) 島根県,石見銀山生活文化研究所,商標登録第 5515205号

    (2012. 8. 17)

    9) 松木順子,米粉利用のための特性評価の現状と課題,応用

    糖質科学. 2. 7-11 (2012)目

    10) 奥座宏一,阿部繭子,島 純,米粉利用の現状と課題一米粉

    パンについて,日本食品科学工学会誌.55.必4-454(2008).

    11) 吉井洋一,本間紀之,赤石隆一郎,新潟県における米粉・米

    粉麺への取り組み,日本食品科学工学会誌. 58. 187-195

    (2011)

    12) 高橋克嘉,奥西智哉,鈴木啓太郎,柚木崎千鶴子,米粉パン

    の加工適正評価と宮崎県産米粉聞の比較,日本食品科学工

    学会誌. 58. 55-61 (2011).

    13) 奥座宏一,松木順子,岡留博司,岡部繭子,鈴木啓太郎,奥

    西智哉,北村義明,堀金彰,山田純代,松倉潮,製粉方

    法の異なる米粉の特性と製パン性の関係,食品総合研究所

    研究報告. 74. 37-44 (2010).

    14) 奥西智哉,中村健治,宮本守,宮下香苗,米粉パン製造の

    適正加水量決定方法,日本食品科学工学会誌.59. 409-413

    (2012).

    15) 貝沼やす子,田中佑季,米添加パンの調整にペースト状の

    米を利用する効呆,日本食品科学工学会誌. 56. 620-627

    (2009).

    16) 安達康弘,水稲有望品種「きぬむすめJの安定生産技術確立,平成 17年度島根県農業技術センタ一成績概要集,

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    ための吸水性筒易評価法,平成 24年度食品試験研究成果情

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    18) 田中康夫,松本博,製パンの科学II. (光琳,東京).p.9 (1994).

    19) 田中康夫,松本博,製パンの科学II.(光琳,東京).p.57 (1994).

    20) 日本イースト工業会,パン用酵母試験法 (1996).

    21) 科学技術庁資源調査会食品成分部会編,五訂日本食品標準成分表分析マニュアル. (社団法人資源協会,東京). p.lO

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    22) 庄子真樹,羽生幸弘,毛利 哲,畑中咲子,池田正明,富樫

    千之,藤井智幸,製粉方法の異なる米粉の粉体特性と吸水

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    23) 土佐典照,秋吉渚月,永田善明,上池貴晃,近重克幸,梅花

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    果及び計画集,国税庁鑑定企画官. 31 (2014)

    24) 田村雅彦,森谷浩,パン酵母の取得と製パン法,特開平

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    (平成 26年 8月 12日受付,平成 27年 1月 19日受理)