経営現地化推進と労務紛争防止の為の実務対策 · ②...

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0904 華鐘春季セミナー資料(経営現地化推進と労務紛争防止の為の実務対策) 経営現地化推進と労務紛争防止の為の実務対策 華鐘コンサルタントグループ 副総経理 兼 北京分公司、大連分公司主任 能瀬 徹 Ⅰ.日系企業の経営課題と経営の現地化推進 1. 今回の金融危機を通じてあらためて露見した日系企業の経営課題 1) 少数の日本人派遣社員が一人で管轄する業務領域が多岐にわたり過ぎている 本職は生産技術であっても日本で未経験の総務や財務会計等の多数の分野を 兼務しており、本業分野に十分な時間を割けていない。 結果として、本業分野での技術指導や業務指導、対外営業活動が十分にできず、 これらの現地スタッフの育成も遅れがち。 間接部門の仕事に関しては、外国語の出来不出来さえ問わなければ、経験者は いくらでも見付かるが、多様な各社の特定の本業分野に見合った専門技術や知 識の保有者や経験者は簡単には見付からず、自ら育成して行くしかない。 2) 多数の日本人派遣社員を張り付けることによる高コスト体質 1)とは逆に、間接部門業務の分野にまで多数の日本人派遣社員を送り込んで いるが、言語と文化の障壁、制度の違いからコストに見合った付加価値を発揮 できていない。 日本人派遣社員の人件費を日本本社で補填している(直接現地法人のコストに は反映されていない)としても、日本側では常に対国税上の問題点が存在。 経営上の判断に必要な材料(財務データ等の結果と着目ポイント)が定期的に 経営者宛に報告が上がって来る仕組みが必要なのであって、その段階に至るま での過程は全て思い切って現地スタッフに任せた方が、余程安上がりで効率的。 3) “自前主義”が業務の効率化を阻害している 本社宛の報告、本社からの照会に対する対応(法律・制度の背景等の調査とそ れを自分で消化すること)に一日のうちのかなりの時間を取られている。 日本本社の考え方の問題もあり継続的な啓蒙が必要。 本業分野の業務報告は自前でやるしかないが、社内管理会計用データの報告、 月次の定例財務報告等はアウトソーシング可能。 現地の法律・制度・商習慣に関係する照会事項については、結果を自ら消化す る必要はあるが、調査段階では専門家に丸投げした方が効率的。 或いは、本社と現地の専門家とのホットラインを構築するのも一案。 39

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0904 華鐘春季セミナー資料(経営現地化推進と労務紛争防止の為の実務対策)

経営現地化推進と労務紛争防止の為の実務対策

華鐘コンサルタントグループ

副総経理 兼 北京分公司、大連分公司主任

能瀬 徹

Ⅰ.日系企業の経営課題と経営の現地化推進

1. 今回の金融危機を通じてあらためて露見した日系企業の経営課題

1) 少数の日本人派遣社員が一人で管轄する業務領域が多岐にわたり過ぎている

① 本職は生産技術であっても日本で未経験の総務や財務会計等の多数の分野を

兼務しており、本業分野に十分な時間を割けていない。

② 結果として、本業分野での技術指導や業務指導、対外営業活動が十分にできず、

これらの現地スタッフの育成も遅れがち。

③ 間接部門の仕事に関しては、外国語の出来不出来さえ問わなければ、経験者は

いくらでも見付かるが、多様な各社の特定の本業分野に見合った専門技術や知

識の保有者や経験者は簡単には見付からず、自ら育成して行くしかない。

2) 多数の日本人派遣社員を張り付けることによる高コスト体質

① 1)とは逆に、間接部門業務の分野にまで多数の日本人派遣社員を送り込んで

いるが、言語と文化の障壁、制度の違いからコストに見合った付加価値を発揮

できていない。

② 日本人派遣社員の人件費を日本本社で補填している(直接現地法人のコストに

は反映されていない)としても、日本側では常に対国税上の問題点が存在。

③ 経営上の判断に必要な材料(財務データ等の結果と着目ポイント)が定期的に

経営者宛に報告が上がって来る仕組みが必要なのであって、その段階に至るま

での過程は全て思い切って現地スタッフに任せた方が、余程安上がりで効率的。

3) “自前主義”が業務の効率化を阻害している

① 本社宛の報告、本社からの照会に対する対応(法律・制度の背景等の調査とそ

れを自分で消化すること)に一日のうちのかなりの時間を取られている。

② 日本本社の考え方の問題もあり継続的な啓蒙が必要。

③ 本業分野の業務報告は自前でやるしかないが、社内管理会計用データの報告、

月次の定例財務報告等はアウトソーシング可能。

④ 現地の法律・制度・商習慣に関係する照会事項については、結果を自ら消化す

る必要はあるが、調査段階では専門家に丸投げした方が効率的。

⑤ 或いは、本社と現地の専門家とのホットラインを構築するのも一案。

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2. 間接部門業務の現地化推進と人事労務管理の特性

1) 会計:会計原則通りに。

① 業務のアウトソーシング(第三者チェック機能)をうまく活用すべき。

② 経営層宛に判断材料(資金手配やコスト低減の必要性等の課題)が定期的に上

がって来る仕組みを作る。

③ 社内管理会計用データの本社宛報告や国際会計基準への対応もアウトソーシ

ングは可能。

2) 税務:規定通りに正直にやるのが結果として も安上がり。

3) 外貨管理:外貨管理規定通りに送金エビデンスを銀行に提出。

4) 人事労務:企業経営者としての常識・判断力が問われる分野。

① 関連の法律法規を遵守することが大前提。・・・特に企業の撤退・再編に際して

は、社会保険の納付、残業代の支払いを普段から規定通りに行って来たがどう

かで明暗が分かれる。

② 法律法規通りだけではうまく行かない面もある(ヒトとヒトとの問題の側面)。

③ 会社の実情に照らして法律法規通りでは運用できないケースも有る。

④ 人事労務は専門外という日本人派遣者が圧倒的多数。

a) 何かあった場合に他社事例に頼りがち→実はアテにならない(対処療法で

は根本的解決にならず、かえって傷口を広げるだけ)。

b) 労働争議発生の危険性を内在した体制では会社の屋台骨を揺るがしかねな

い(他への影響の波及→不正会計等の温床に)。

☞経営現地化:全ての日本人派遣社員を引き揚げるという意味ではない。

① 会計業務のアウトソーシングも活用し、間接部門業務の現地化を進

め、日本人派遣社員が本業分野に割く時間と労力を今まで以上に多く

確保すること。

② これにより、間接部門業務の効率化、低コスト化を図ると共に、各社

の強みである本業分野での専門技術力の向上、サービス品質の向上を

図り、販路の拡大につなげること。

☞但し、人事労務の分野については、門外漢であっても、経営者である以上、

日々の問題に対し判断を下して行く使命からは逃れられない。

① 労働契約法、社会保険、残業代に関しての基本事項は押さえて、日頃

から基本に忠実であること。

② 応用問題については素人判断をしないこと。何かあった場合に相談で

きる専門家の見極めを付けること。

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Ⅱ.間接部門業務の現地化推進に当たってのポイント

1. 会計業務のアウトソーシングと ERP ソフトの導入

1) 会計処理業務の基本的な流れ

出金業務フロー 作業者 確認者

1 出納(出金)実施 ○

会計証憑作成 ○

科目仕訳等の確認(“審核”) ○

現金日記帳への記録 ○ ○

銀行預金日記帳への記録 ○ ○

5 明細帳への仕訳記帳 ○ ○

銀行残高調整表の作成(月末) ○ ○

入金業務フロー 作業者 確認者

出納(入金)実施 ○

2 会計証憑作成 ○

科目仕訳等の確認(“審核”) ○

現金日記帳への記録 ○ ○

銀行預金日記帳への記録 ○ ○

5 明細帳への仕訳記帳 ○ ○

銀行残高調整表の作成(月末) ○ ○

振替業務フロー 作業者 確認者

会計証憑作成 ○

科目仕訳等の確認(“審核”) ○

明細帳への仕訳記帳 ○ ○

財務諸表編纂業務フロー 作業者 確認者

総勘定元帳への記録 ○ ○

中国式会計諸表(BS、PL、CF表等)作成

○(作成)

2

3

4

6

1

3

4

6

1

2

1

2

① 作業者=出納担当者、確認者=財務経理担当者:『会計法』第 37 条にて「出納

担当者は検査、会計記録保管及び収入、支出、費用、債権債務勘定の記帳業務

を兼任してはならない」と規定。不正防止の為に、 低 2 人以上の会計担当者

が内部牽制を働かせて会計処理を行わなければならない。

② 出納担当者は「会計従業資格証」という日商簿記三級程度の資格を要保有。財務

経理担当者は初級(助理)会計士以上の資格を要保有。

2) 会計業務のアウトソーシング(第三者チェックの導入)

① 確認者=財務経理担当者の仕事は外部の専門資格を有するコンサルティング

会社等にアウトソーシングすることも可能。

② 第三者の目を通すことにより不正が完全に防止できると同時に、自社が抱える

財務会計に関しての課題等について、専門的な見地からの解決策等の提案を受

けられることにもなる。ニセ「発票」の早期発見にもつながる。

③ 業務量小の会社であれば、作業者=自社の出納担当者、確認者=外部機関とい

う会計業務体制となる。

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④ 業務量大の会社では、 も重要な科目仕訳の確認(審核)について、特に難易

度の高い(専門性の求められる)「振替」業務についての科目仕訳の確認(審核)

のみをアウトソーシングするという選択もある。

⑤ 弊社では、中国式会計諸表の日本語版作成、更にはこれの国際会計基準への引

き直しも可能。上場会社であれば、各社内部(本社報告用)の管理会計フォー

マットへの落とし込み作業も対応可能。

3) ERP ソフトの導入

出金業務フロー 作業者 ERPソフト導入 確認者

1 出納(出金)実施 ○

2 会計証憑作成 ○ 手書き→インプット

科目仕訳等の確認(“審核”) ○

3 現金日記帳への記録 ○

4 銀行預金日記帳への記録 ○

5 明細帳への仕訳記帳 ○

6 銀行残高調整表の作成(月末) 自動作成 ○

入金業務フロー 作業者 ERPソフト導入 確認者

1 出納(入金)実施 ○

2 会計証憑作成 ○ 手書き→インプット

科目仕訳等の確認(“審核”) ○

3 現金日記帳への記録 ○

4 銀行預金日記帳への記録 ○

5 明細帳への仕訳記帳 ○

6 銀行残高調整表の作成(月末) 自動作成 ○

振替業務フロー 作業者 ERPソフト導入 確認者

1 会計証憑作成 ○ 手書き→インプット

科目仕訳等の確認(“審核”) ○

2 明細帳への仕訳記帳 自動転記 ○

財務諸表編纂業務フロー 作業者 ERPソフト導入 確認者

1 総勘定元帳への記録 ○

2中国式会計諸表(BS、PL、CF表等)作成

自動転記

自動転記

自動転記

① さらに、ERP ソフトを導入することにより、作業負担の削減と業務の効率化、

手書き転記による間違いの発生防止が可能となる(会計証憑の作成段階で仕訳

をインプットすれば、その後の作業は手書きによる転記から自動転記となる)。

② この場合の確認者の役割は、従来手書き作成していた会計証憑や帳簿類の内容

をパソコン画面上で確認(審核)する作業となる。

③ 但し、会計業務を手書きでも確実に行えるというベースが確立されたうえで

ERP ソフト導入による自動化を進めることが重要。実務上も、初めて ERP ソフ

トを導入する場合には、手書きと ERP での会計処理を 低 3ヶ月間並行して行

い、両方法でのアウトプットが完全に一致していることが確認された後に ERP

による処理への一本化(完全移行)が認められる。

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2. 会社印(公章印)の押印ルール制定による不正防止

1) 各種印鑑の定義と用途

① 公章印:会社が公安局に登記する正式社印。会社が業務のために社外に提出す

る各種証明文書、会社名義にて政府または社外に提供する文書、社内の行政人

事任免等において会社名義にて発効する各種事務的文書に使用。

② 契約印:会社の業務往来に関連する契約文書に使用。

③ 董事長印:銀行口座開設の届印、小切手、政府に提出する文書等に使用。

④ 総経理印:銀行口座開設の届印、小切手、政府及び社外に提出する文書に使用。

⑤ 財務専用印:銀行口座開設の届印、小切手、会社と財務会計に関連する会計報

告書に使用。

⑥ 発票専用印:会社の対外的発票に使用。

2) 会社印(公章印)の不正使用によるトラブル事例

トラブル事例①

経 緯

A 社は B氏を中国現地法人の総経理として本社より派遣していたが、本社の指示

を無視した勝手な行動が目立つようになった為、董事会にて総経理の解任を決議

し、日本本社への帰任命令を出した。

ところが、現地法人と B 氏との間には別途の労働契約書が存在することが後日

判明。当該労働契約書には、労働契約解除時にはその理由の如何を問わず、B氏に

対して非常に高額な経済補償を行う旨が規定され、現地法人の会社印と董事長印

が押印。B氏はこれを根拠に不当解雇を主張し、中国で争う構えを見せた。

結 果

B 氏との雇用関係はあくまで日本本社との間で成立しており、日本本社の現地法

人出向辞令に基づき現地に赴任、董事会の決議に基づき総経理に任命しているこ

と、且つ B 氏と現地法人との間の労働契約は董事会の承認を得ないまま勝手に締

結されたものであり無効ということを主張して徹底的に争う(日本での損害賠償

請求も辞さない)姿勢を A 社が貫き、弊社も側面より B 氏を何度も説得したとこ

ろ、B氏が折れて依願退職を希望し無事一件落着となった。

トラブル事例②

経 緯

A 氏は契約期間満了直前に B社の社印を勝手に捺印して私文書偽造を企てた。文

書の内容は、A 氏の労働契約中途解除に伴い B 社が数 10 万元(労働契約解除に伴

う経済補償金、競業避止、違約金等)の支払いを承諾するものであった。

結 果

労働仲裁と法院での訴訟にて、本物の社印が捺印された私文書は法的に成立さ

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れているものとして扱われ、結果として B社が約 10 万元(補償金+競業避止が成立

した期間)を支払うことの判決が下された。

3) 会社印(公章印)の押印ルール制定

① 上記事例のいずれも、社内に会社印の押印ルールは存在せず。

② 押印ルールが存在しないと、本人達が悪意を持って会社印を利用したことが明

白であっても、法律的には会社印が押印された文書は会社の正式文書と判断さ

れ、客観的に不正使用を証明することができなくなる。

③ 会社印の押印ルール制定のポイント

a) 会社責任者(総経理等)に書面申請し、用途、通数について承認を得る。

b) 押印は必ず申請者とは別の総務担当者が直接行う。

c) 押印と同時に会社印の使用記録を付ける。

d) 対外文書には必ず会社印の他に会社責任者の直筆サインを併記する。

3. 給与制度と連動した人事考課制度の構築

<制度構築のポイント>

◇ 100%平等且つ客観的な人事考課給与制度構築は不可能。

◇ 背伸びをして先進的な制度を採り入れるよりも、多忙な日常業務の中でも無理

なく運用可能なようにシンプルな制度設計が望ましい。

◇ 定性的な考課基準で良いので、制度の規範化(文書化)を主眼とする。但し、

昇給率、管理職への昇格可否等、会社側の裁量権も残す。

◇ 給与制度についても、インセンティブ制度のような高度な仕組みをいきなり取

り入れるのでなく、シンプルな仕組みで、人事考課と昇給昇格の連動ロジック

を構築することを主眼とする。

1) 人事考課制度の構築(例):

① 職務等級の設定

(※)新卒者は学歴に応じて事務職、技能職、総合職からスタート。事務職、技能職は高校卒業

対外呼称

部門担当者 班長 技術監督 課長 技術顧問 部長

職層 実務担当者層実務監督者層

指導監督者層 管理職層

管理4級管理3級

職 技管2級 管理2級技管1級 管理1級

務 技専2級 指監2級技専1級 指監1級

等 総合4級 技能6級総合3級 技能5級

級 事務4級 技能4級 総合2級事務3級 技能3級 総合1級事務2級 技能2級事務1級 技能1級

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またはそれ以下の学歴、総合職は大専(2年制)卒業以上の学歴。

② 各職務等級に対する会社期待役割の設定

③ 会社期待役割に対する人事考課項目と考課比重の設定

④ 各人事考課項目の考課要素へのブレイクダウンと比重の設定

⑤ 各考課要素に対する具体的考課基準の設定

⑥ 考課評点の定義の決定:5 段階評価の場合、標準点(当該等級に対する期待役

割通り)を「3」点とする等

(※)人事考課シート(例)については【資料 5】(P.41)ご参照。

2) 給与制度の構築(例)

① 給与体系の決定

a) 基本給: 低限の生活保証、年齢(或いは会社勤続年数)比例、ベア対象。

b) 職務給:各職務等級に対する会社期待役割の充足度のみにより変動。

c) 管理職手当:課長、部長等の管理職に対してのみ支給。

d) 資格手当、外国語手当:資格が業務に活かされて初めて評価されるべきもの。

→職務給に反映済と捉えるべき。新規取得は別の制度にて奨励一時金を支給。

e) その他手当:食事手当、通勤手当、通信手当等。

② 職務等級毎の職務給レンジの決定

3) 人事考課結果と職務給昇給・職務等級昇格との連動ロジックの設定(例)

① 総合考課結果:合計の考課点数に対して、例えばS、A、B、C、Dの総合評点で表す。

② 昇給基準:S~Dに対する昇給(減給)率は会社が都度決定。

③ 昇格基準:例えば、S一回、2 年連続 A、3年内に二回の A で昇格実施とする。

④ 逆に D一回、2年連続 C、3年内に二回の C で降格実施とする。

4) 賞与考課と賞与支給方法の決定(例)

① 賞与の位置付け:会社が業績に応じて追加給与として支給する一時金

② 会社が賞与支給総ファンド額を決定し、これを考課結果に応じて配分

③ 給与考課項目のうちの一部のみを考課

④ 或いは部門毎の業績を定量評価し、結果に応じて部門毎に配分

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Ⅲ.労務紛争に関する事例研究と『労働契約法』の基礎知識

労務紛争事例①

経 緯

A 氏は 2004 年 1 月に B 社に入社したが、業務上の重大ミスもあり 4 年目となる

2007 年末で会社が契約更新をしないことに薄々気づいていた。B 社の労働契約書

の保管管理の甘さにつけ込み、2007 年 12 月 31 日の契約満了時に合わせ、A 氏は

個人労働契約書上に記載されている契約期限を 2007 年 12 月 31 日から 2008 年 1

月 10 日に改ざん。

会社は会社側で把握している期限に従って、A氏に事前通知のうえ 2007 年 12 月

31 日付の退職通知書発行(「退工単」の発行)手続きを行ったところ、A 氏は改ざ

んした労働契約書をたてに、不当解雇(会社による一方的な労働契約の中途解除)

を主張して過去 4年分(4ヶ月分の月給相当額)の経済補償金支払いを要求する労

働仲裁を申立てた。

結 果

当初、B社は A氏による労働契約書の改ざんを主張しようとしたが、証拠不十分

と判断。幸い 2007 年 12 月 31 日付で発行した退職通知書が事務ミスで未だ本人の

手に渡っていなかったことから、2008 年 1 月 10 日付の退職通知書を再発行した上

で、労働契約期間満了による終止として 10 日分の給与と 0.5 ヶ月分の月給に相当

する経済補償金を支払うという B社の主張が支持された。

原 因

B 社のずさんな労働契約書の保管管理(机上放置も常態化)。

重要事項 参照箇所【資料 2】

(a) どのようなケースが不当解雇とみなされるのか?

(b) 経済補償金の支給が必要なケースは?

(c) 経済補償金の支給基準。

(d) 労働契約の「解除」と「終止」の違い。

(e) 労働契約「終止」の場合の経済補償金の支払い基準。

6 に非該当の場合

5、6

8、9

5、6、7、9

9

労務紛争事例②

経 緯

A 社は、8 年前より門番として B 氏を雇用(労働契約を締結、8 時間勤務の全日

制雇用形態)している。毎日 3 時間程度の残業が恒常的に有るが、不定時労働制は

申請しておらず、また、法定休日を除き、残業代は個別計算・支給せず、残業代見

合いの固定額の手当を支給している。

しかし、B 氏が宿直していた 08 年の国慶節休暇期間中に工場内の機械が盗難に

遭ったことから、職務怠慢の警告書を本人に交付し、勤務態度の改善を要求したが、

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その後も平日昼間の勤務時間中に警備室に居ないことがしばしばある(部屋の奥の

宿直室内でテレビを見ている)等、勤務態度が一向に改善しないことから、職務怠

慢を理由に A 社は B 氏との労働契約を解除した。

B 氏はすぐさま労働仲裁を申し立て、不当解雇による過去の勤続年数分の経済補

償金の 2 倍に相当する違約金、及び平日(平均 3時間)分の残業代が未払いである

として、入社時に遡っての残業代支払いを要求した。

結 果

3 ヶ月後の開廷に向けて、不当解雇に当たらないことを主張できる証拠資料とし

て次のものを準備・手配中:入社時からの暦年の労働契約、盗難のあった日に B氏

が確かに宿直していたことを証言できる社員の証人としての出廷、盗難にあった機

械の重量的に何者かが正門を開けなければ持ち出せないことや、本人が日頃から宿

直室内でテレビを見ていたことの社員による書面証言、過去 2 年分の給与明細一

式、本人に手交した警告書、職務怠慢が解雇事由に当たることを規定した就業規則。

原 因

仲裁の結果がどうなるか未だ分からないが、A社の対応に特段の落ち度は無い(違

約金、残業代いずれの支払いも必要ない)と考えられる。

重要事項 参照箇所【資料 2】

(a) 書面での労働契約締結の重要性。

(b) 労働契約の「解除」理由と懲戒解雇。

(c) 労働契約「解除」時の経済補償金支払い基準。

(d) 不当解雇等、『労働契約法』違反の場合の違約金。

2

6-(2)

8

10

労務紛争事例③

経 緯

A 社は B 氏を会計担当として 10 年前より雇用しており、既に無期限労働契約と

なっている。しかし、外国語の堪能な会計担当者が採用できたことから、業務能

力が不十分という理由で B氏を一方的に解雇した。その後、B 氏からは労働契約を

解除したことの証明書が欲しいと言われ、A社はこれを作成して B 氏に手交したと

ころ、B 氏はすぐさま労働仲裁を申し立て、不当解雇を主張、10 年間分の経済補

償金に相当する額の 2倍を違約金として支払うよう要求した。

結 果

専門家より労働仲裁で争う余地(勝てる見込み)無しとのアドバイスを受け、B

氏の要求通りに違約金を支払い、労働仲裁申請を取り下げさせた。

原 因

『労働契約法』に違反する行為であるとの A 社の認識不足、無知。しかも、B 氏

からの求めに応じて労働契約の解除証明を発行し、不当解雇を裏付ける書面証拠

を A社自ら与えてしまった。

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0904 華鐘春季セミナー資料(経営現地化推進と労務紛争防止の為の実務対策)

重要事項 参照箇所【資料 2】

(a) 無期限労働契約の要件。

(b) 無期限労働契約を解除できるケース。

(c) 能力不十分との理由で労働契約を解除できるケース。

(d) 不当解雇等、『労働契約法』違反の場合の違約金。

3

11

6-(3)

10

<これら労務紛争事例に見る教訓>

☞総じて企業側の脇が甘いこと。特に、会社側からの労働契約解除については、

「協議一致解除」の場合を除き、解除事由への該当可否、争いになった場合の正

当性の立証可否について慎重な検討を要する。

☞『労働契約法』施行(無期限労働契約締結要件、経済補償金支払い要件の拡

大等)により労働者の権利意識は確実に増大して来ているが、これに企業経営

側の意識が追い付いていないことから、結果として労働者側の主張が支持され

るケースが多くなっており、このことが中国での労働仲裁や訴訟では常に労働

者側に有利な判断が下されるとの誤解につながっている。

☞労務紛争を処理するうえで、労働仲裁は企業にとっても本来非常に有効な手

段であり、労働仲裁が起きたとしても特に慌てる必要も無く、会社にとって不

名誉でも何でもない。

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Ⅳ.中国事業再編に伴う労務問題の事例と法的考察及び実務対策

1. 会社清算時等における労働債務の処理

【労務問題の事例】

会社移転に伴う労働契約の解除を労働者に申し入れたところ、過去から一

度も支給されたことの無い残業手当の一括支給を求めて日本人総経理等の

会社幹部が丸二日間会議室に軟禁状態に。

会社が清算されることを知ったワーカーが、過去から未納となっている社

会保険の納付を求めて地元労働社会保障局に直訴した。これに応じる旨を

約束したところ、既に退職した地元在住のワーカーまでも噂を聞き付け同

様の待遇を求めて会社に押しかけて来た。結果、コンサル会社の会計士 12

人を総動員して過去 10 年間の人員の出入りと全人員の社会保険納付状況

を調べ上げる大作業となった。

日中合弁会社における社会保険の納付基数がおかしいとのクレームを地元

労働社会保障局は労働者より受けていたが、騒ぎが起こりそうになる度に

地元実力者の中国人総経理が力で押さえ込んで来た。世界市況の落ち込み

から会社清算を決定したところ、労働者、地元労働社会保障局の両方から

過去に遡及しての納付基数の是正を要求されている。

1) 残業手当の支払いに関わる問題

① 残業手当の未払い

<Q> 従業員採用時に給与を高めに設定する代わりに残業手当は一切支給しな

いということで従業員一人一人の了解を得ているが、これは有効か?

<A> 経緯はどうであれ、従業員との書面合意があったとしても、労働仲

裁の申し立てがあれば斯かる合意自体が無効。広東省の「指導意見」では、従

業員と会社の主張が対立する場合、基本的に会社側に従業員が残業をしてい

ないことの立証責任が有り、2 年を超える部分の残業代請求には従業員側に

立証責任有り。

② 残業手当の計算基数

<Q> 残業手当の計算基数は基本給のみとする(職務給や補助手当は計算基数

に含めない)ことを就業規則中に明記しているが、これは有効か?

<A> 基本的に給与性の手当等は全て計算基数に含める必要有り。計算事

務省力化の為に、職務等級に応じて残業手当計算時の時間単価を固定額で決

めているケースがあるが、個別計算時を下回る場合には争いの余地が残り、

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下位等級者には単価を高く設定する等の工夫が必要。当然、従業員の意見聴

取過程を経て制定されたものであることが必要。

③ 管理職、営業マンの残業手当の扱い

<Q> 管理職に対しては役職手当を、営業職に対しては外勤手当を支給するこ

とで残業手当の個別計算は行わないことにしているが、これは有効か?

<A> 高級管理職、営業職、運転手については不定時労働制を申請し認可

を得ることが必要。その際、これらの職種で恒常的に必要となる残業時間を

把握し、これを十分にカバーできる手当金額を設定する必要有り。

管理職でも課長クラス以下では不定時労働制を申請しても認可されないこ

とが多く、この場合には役職手当の支給により残業手当の個別計算は行わな

い旨の協議書を個別に締結。但し、その場合でも、争いになって、タイムカ

ードの打刻、残業時間の管理表への上司の承認印等の証拠が提示されれば斯

かる協議書も無効となる。

2) 社会保険の納付に関わる問題

① 社会保険の未納

<Q> 鎮政府より、ワーカー要員として地元の農民を斡旋された際、「臨時工と

して雇えば社会保険を納付する必要は無い」との説明を受けているが正しいか?

<A> 全日制雇用か非全日制雇用(平均勤務時間が一日 4 時間以下、且つ

累計勤務時間が週 24 時間以下)の二種類の雇用形態しか存在せず臨時工とい

う雇用形態は法律上存在しない。全日制雇用である限り社会保険の納付は雇

用主としての義務。

② 社会保険の納付基数

<Q> 社会保険の納付基数を抑えて、その分手取りを増やして欲しいとの要望

が従業員側より出され、各従業員より書面同意も得ているが、これは無効か?

<A> 斯かる合意自体がそもそも無効であり、労働仲裁等で争えば企業側

が必ず負ける。また、労働債務を処理する際には、社会保険を追納するだけ

でなく、0.2%/日(地方によっては 0.05%/日)の滞納金が課せられる。

尚、社会保険を追納する場合には当然個人負担分も追納が必要(労働契約

解除に伴う経済補償金から資金拠出させるしかない)。

③ 労働債務に関する時効の有無

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<Q> 会社清算時に、労働者より申し立てがあれば過去に離職した労働者に対

する労働債務まで処理しなければならないことには納得が行かない。以下の規定

と労働債務の時効との関係はどのように考えれば良いのか?

『民法通則』(1987 年 1 月 1日施行)第百三十五条

人民法院に対し、民事権利の保護を請求する訴訟時効の期間は、法律に別

段の定めがある場合を除き 2年とする。

『労働保障監察条例』(2004 年 12 月 1 日施行)第二十条

労働保障の法律、法規或いは規則制度に違反する行為が 2 年以内に労働保

障行政部門により発見されず、通報もクレームも無い場合、労働保障行政部

門は調査処分を行わない。

『労働争議調停仲裁法、労働契約法の適用の若干問題に関する指導意見』(粤

高法発[2008]13 号、2008 年 6 月 23 日施行)第二十九条

労働者が 2年前の残業代を遡及して請求する場合、原則として労働者が立証責

任を負い、2 年を超える部分の残業代の金額が証明できない場合、2 年を超える

部分の残業代は通常は保護されない。

<A> 労働債務の時効は上記の通り 2 年。但し、労働仲裁等では、会社側

から労働債務の時効を明確に主張する必要有り(でなければ、労働者保護の

観点より、労働者側の申立が採用される)。

《ポイント》

☞ 上記に述べたのは全て正常状況下での扱い。

☞ 税務登記の取消手続きのように、会社清算過程において労働社会保障局

による労働債務の処理状況の確認手続きがある訳ではなく、ひとえに労働

者からの直接の申出・要求、或いは労働者の意向を受けて労働社会保障局

が間に入って企業に労働債務の処理を促すことで初めてこうした労働債

務の存在が顕在化するのが実態。

☞ 会社清算過程での労働債務の処理は、何も起こらなければ“逃げ切り”も

あり得る一方、一旦顕在化すれば、清算手続きを前に進める為に労働仲

裁で白黒をはっきりさせる時間的猶予も無く(圧倒的に会社の立場が弱

く)、また、労働者側も会社を逃がすまいと実力行使も辞さない構えで、

時効云々の法律論や理屈を超えて“待ったなし”での解決を迫られ、根

拠のある要求に対しては、良く話し合って誠心誠意対応するしかない。

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2. 会社清算と人員解雇

1) 会社清算に伴う人員解雇の流れ

① 董事会での会社清算決議と清算委員会の設立。

② 原審査認可機関への会社清算申請~認可取得。

③ 全体説明会を開催し従業員向けに会社清算の事実を公表すると共に、人員

整理段階に入る。

(※この時点まで会社清算の事実は極秘に扱うこと。また、従業員各人へ

の経済補償金額と必要総額を事前に把握しておくこと。)

④ 労働組合または従業員(代表)大会を通じて、従業員との労働契約解除に

伴う経済補償計画に対する従業員側の意見聴取。

(※以下⑥の 30 日前までに実施のこと。会社清算手続きに必要な会計人員

は残しておくこと。)

⑤ 人員整理案の労働社会保障局への届出。

⑥ 人員整理の実施:労働契約解除通知書の発行と経済補償金の支払い。

2) 会社清算に伴う人員整理と経済補償の問題

会社清算に伴う人員解雇は、会社清算が認可された後であれば、『労働契約法』

第 44 条に規定する労働契約の「終止」要件(5)「雇用単位が営業許可証を取り上

げられたか、閉鎖命令を受けたか、抹消されたか、又は雇用単位が期間満了前

に解散を決めた場合」に該当し、法定の経済補償金(望ましくは+α)を支払

えば、労働契約解除の適法性自体には問題が無い。

実務上、清算を董事会が決定して、清算の初歩認可が出れば新しい原材料

を購入しての生産は無くなるので、原料在庫や中間品の製品化が済めば、

財務担当者等の一部人員を残して、その他の従業員は全て清算解雇という

形になる。

3.『労働契約法』における人員削減(リストラ)の根拠

<Q> 会社の経営不振(但し、会社は存続する)の場合の人員整理においては、

『労働契約法』第 41 条(人員削減)の規定を適用して、労働組合または全従業員

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に説明すると共に意見を聴取し、労働行政部門に人員削減案を届出することで問

題無く労働契約を解除できるのか?

<A> 『労働契約法』第 41 条は経営不振等を根拠とした会社側からの一方

的な労働契約解除を意味する。

但し、同第 34 条には、「雇用単位に合併または分社等の情況が発生した場合、

元の労働契約は継続して有効であり、労働契約はその権利義務を承継する雇用単

位にて継続して履行される」と規定されている通り、出資権譲渡や合併という

事実のみでは『労働契約法』第 41 条に規定される人員削減の実施理由とはな

り得ず、これを機にある部門を閉じる等、人員整理の実施理由(人員整理時

の会社の状況)が同条に該当することが条件。この場合には、同条に規定の

手順を経て人員整理は実施可能。

第 41 条に規定の状況に該当するかどうか判断が微妙な場合には、希望退職

を募る等、『労働契約法』第 36 条に規定される「協議一致による労働契約の解

除」を根拠として人員整理を実施するのが無難。

4. リストラに伴う経済補償金計算時の留意点

<Q> 『労働契約法』第 41 条に規定された状況に該当するなら、同法第 47 条

に規定された法律上の 低限の経済補償金として支給することで問題無く人員整

理を実施できるのか?

<A> 法律で定められた 低限の経済補償は上記の通りながら、リストラ

に伴う契約解除は、会社側都合の一方的な労働契約解除であり、これを円満

に進める為には、せめてプラス 0.5~1 ヶ月程度の色を付けるのが望ましい。

但し、金融危機の状況下において、地元政府部門は地元他社とのバランスを

気にしているので、地元政府部門の意向も事前に聴取すべき。

希望退職を募る等、「協議一致解除」によって人員整理を行うのであれば尚

更(後述のように、希望退職者募集プランの立案が重要になる)。

5. 希望退職者募集プランの立案・実施に関する留意点

① 希望退職者募集計画立案時の検討点:極秘に立案のこと。

• 従業員構成の分析:年齢、性別、部門別、職層別等

• 経済補償金の積み増し係数のピークをどこに置くのが も効果的か

• 希望退職の申し込み順に経済補償を優遇することも一案

• 定年退職年齢が近い層をどう処遇するか

• 辞めて欲しくない人材から希望が出た場合どう引き止めるか

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② 労働組合または従業員(代表)大会を通じて、希望退職者募集計画(案)

に対する従業員側の意見聴取:退職を希望しない人員の労働契約は有効

に継続する旨を良く説明すること。

③ 希望退職者募集計画に関する全体説明会の実施:ここでも退職を希望し

ない人員の労働契約は有効に継続する旨を良く説明すること。

④ 個別照会デスクを設置(個別の経済補償金額の照会等に対応)する等、

綿密・丁寧に実施すること。

⑤ 希望退職申込受付:辞めて欲しくない人材に対しては説得工作実施。

⑥ 希望退職者との「労働契約書解除協議書」の締結、経済補償金の支払い。

6. 一時帰休の場合の給与待遇

各地の給与支給弁法(条例)に基づき、一時帰休期間が一ヶ月以内の場合

には労働契約にて約定した基準に基づいて給与を支払い、一ヶ月を超える場

合には、労働者が正常労働を提供する際の新たな基準を約定し給与を支払う

ことができるが、給与は当地の 低給与基準(江蘇省、広東省では 低給与

基準の 80%)を下回ってはならない。

尚、ここでいう 低給与基準には社会保険の個人負担分は含まれず、手取

りで 低給与(またはその 80%)を保証しなければならないことになる。

但し、一時帰休において労働契約関係は継続する(その間に事故があった

場合の問題、病気休暇証明を提出して悪意に契約期限の延長を画策する者も

出て来る)点には留意が必要。

☞ 再編時に顕在化する労務紛争防止という観点でも、やはり普段からの取

組(各種規定に沿った運営と、ヒト対ヒトという観点での付き合い)が

重要。

☞ 会社清算、リストラ、一時帰休いずれの場合も、会社の置かれた状況を

良く説明すると共に、経済補償等に関する会社側案を地元政府部門の意

向等も踏まえて周到に検討したうえで、従業員の意見をよく聴取して最

終決定することが重要。

☞中国事業の再編実施に当たっては、かなりの知識と経験を要する多くの

問題に遭遇する。これらに関する個別具体的な問題を相談できる専門家

を確保しておくこと。

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【資料 1】

『労働争議調停仲裁法』(2008 年 5 月 1 日施行)のポイント

1.労務紛争の処理スキームは従来と不変

1) 当事者間での友好協議

(協議不調)

2) 労働仲裁を所在地の労働仲裁委員会に申し立て

3) 調停案提示→調停案に双方同意→解決

(調停案に不同意)

4) 後日裁定結果が下される

(裁定結果に不同意または調停協議不履行)

5) 所在地の人民法院に裁判を提訴(二審制)

2. 労働仲裁に関する従来との変更点

① 労働仲裁手数料の無料化:上海市では従来 300 元

② 労働仲裁申し立ての時効延長:60 日→1年

③ 小額の労働仲裁についての終局性:その地方の 低賃金の 12 ヶ月分を超え

ない金額の労働仲裁については、仲裁裁決が 終決定。

④ 会社側の立証責任の強化:従来は仲裁を提起する側が立証責任を主として負

う。新法施行後は紛争事項に関する証拠を会社が保有する場合は、会社に立

証責任。

⑤ 仲裁期間の短縮化:原則として 45 日を超えない。

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【資料 2】

労働契約(『労働契約法』)に関わる基礎知識

※以下において、“(第○条)”としたものは、『労働契約法』中の該当条項を指し、

“(『条例』第○条)”としたものは、『労働契約法実施条例』(2008 年 9 月 18 日公布・

施行)中の該当条項を指す。

1. 従業員側意見の聴取過程を経ての会社意思の決定

労働報酬、労働時間、休息休暇、労働安全衛生、保険福利、研修教育、労働規律

及び労働定量管理等の“従業員の切実な利益”に直結する社内規則の制定や重要事

項の決定に際しての従業員側との民主的協議: 終決定権は会社側にあるが、労働

組合または従業員代表大会との協議を通じて、従業員側の意見をよく聴取したうえ

で決定すること(『労働契約法』第 4 条)。

① 社内規則制定のみならず、賃上げ率の決定等、あらゆる場面で従業員側の意見

を聴取し、その過程を記録に残したうえで会社の意思を 終決定することが今

後は非常に重要になる(会社意思決定過程に致命的瑕疵を残しかねない)。

② 従業員側の意見を採り入れなければならないのではなく、意見を聴取(書面で

の意見提出、書面回答、議事録作成)するという過程を経ることが重要。あく

まで 終決定権は会社側にある。

2. 書面での労働契約書の締結義務

① 雇用開始日より 1ヶ月以内に書面労働契約を要締結(第 10 条)。

② 雇用開始日より 1ヶ月以上 1年未満書面労働契約未締結の場合、2ヶ月目より

毎月 2倍の給与を要支払い(第 82 条、『条例』第 6条)

③ 雇用開始日より満 1 年間書面労働契約未締結の場合、既に無期限労働契約を締

結済みとみなす(第 14 条、『条例』第 7条)。

3. 無期限労働契約の締結要件(第 14 条)

1) 連続 10 年勤務している場合

① 『労働契約法』施行以前の入社時より起算(『条例』第 9条)。

② 雇用単位の都合で労働者を別の雇用単位に異動させた場合の勤続年数は、新し

い雇用単位での勤続年数に合算される(『条例』第 10 条)。

③ 連続 10 年勤務後の労働契約更新時点において、労働者が無期限労働契約の締

結を希望する場合、会社側には、労働契約不更新のオプションも、無期限労働

契約締結を拒絶する権利も無い。

2) 2 回連続して期限付労働契約を締結した後の更新時に継続締結する場合

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0904 華鐘春季セミナー資料(経営現地化推進と労務紛争防止の為の実務対策)

① 2008 年以降の新規採用者については新規採用時点を 1 回目として、3 回目の契

約締結(=2 回目の更新)時点で無期限労働契約の締結権発生となる。

② 2008 年以前からの既存社員については、2008 年以降 3 回目の契約締結(=3

回目の更新)時点で無期限労働契約の締結権発生となる。

③ 2008 年以降 3 回目の契約締結時点において、会社側に期限付労働契約を継続し

ないというオプションは残されているのかどうか、『条例』にても不明。

④ 上記「オプション無し」の場合、2008 年以前からの既存社員については、2008

年以降 2 回目の労働契約締結(=2 回目の継続)時点が要見極め時点となる。

「2008 年以降 1 回目の継続時が要見極め時点」との意見もあるが、連続締結回

数については、第 97 条に「本法施行後の期限付労働契約継続時より計算開始」

とあることにより明らか。

⑤ 2008 年以降の新規採用者についても、上記と同様に、「オプション無し」の場合、

新規採用時点を 1 回目として、2 回目の労働契約締結(=1 回目の継続)時点

が要見極め時点となる。

4. 試用期間

1) 設定可能な試用期間(第 19 条)

労働契約期間 試用期間

3 ヶ月以上 1 年未満 1 ヶ月未満

1 年以上 3年未満 2 ヶ月未満

3 年以上および無期限 6 ヶ月未満

2) 一定作業任務の完了を期限とする労働契約及び労働契約期間 3 ヶ月未満の場合

には試用期間の設定は不可(第 19 条)。

3) 試用期間中の給与;会社における同一職位の 低ランク給与或いは労働契約に

て約定する給与の 80%を下回ってはならない(第 20 条、『条例』第 15 条)。

4) 試用期間中の解雇;懲戒解雇のケースを除き会社に理由説明義務有り(第21条)。

5. 労働者による労働契約の解除と経済補償金の支払い要否

(第 36 条~第 38 条) 補償金要否

① 労働者が申し出て雇用単位と契約解除について協議一致

した場合

② 労働者が雇用単位に 30 日前までに契約解除を書面通知し

た場合

③ 試用期間中、雇用単位に 3日前までに通知した場合

不要

④ 雇用単位が労働契約に基づき労働保護または労働条件を

提供しない場合

⑤ 雇用単位が期日通りに労働報酬を満額支払わない場合

⑥ 雇用単位が法によって労働者のために社会保険費を納め

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ない場合

⑦ 雇用単位の規則制度が法律、行政法規の規定に違反し、労

働者の権益を損ねた場合

⑧ 雇用単位の原因により労働契約が無効になった場合

⑨ 法律、行政法規で規定するその他の状況

⑩ 雇用単位が暴力、脅迫あるいは不法に人身の自由を制限す

る手段で労働者に労働強制した場合

⑪ 雇用単位が規定に違反して労働者の人身安全を脅かす業

務を指図、強要した場合

(※1)上記④~⑪の場合の経済補償金支払い基準については後述。

(※2)労働者は 30 日前まで(試用期間中は 3日前)に雇用単位に書面通知す

ることで労働契約の解除が可能。

6. 雇用単位による労働契約の解除と経済補償金の支払い要否

1) 協議一致および試用期間における解除

(第 39 条) 補償金要否

① 雇用単位が申し出て労働者と契約解除について協議一致

した場合 要

② 労働者が試用期間中に採用条件に合致しないと証明され

た場合 不要

(※)上記①の場合の経済補償金支払い基準については後述。

2) 懲戒解雇

(第 39 条) 補償金要否

① 労働者が雇用単位の規則制度に重大な違反をした場合

② 重大な職務怠慢や私利私欲により雇用単位の利益に深刻

な損害を与えた場合

労働者が同時に他の雇用単位と労働関係を確立し、本雇用

単位の作業任務の完成に深刻な影響を及ぼした場合また

は雇用単位の申し出を経ても是正を拒否した場合

詐欺、脅迫的手段または弱みに付け込んで、真の意思に反

した状況で相手方に労働契約を締結させ、労働契約が無効

となる場合

⑤ 労働者が法により刑事責任を追究された場合

不要

3) 懲戒以外の事由による労働契約の解除

(第 40 条) 補償金要否

労働者が疾病や業務外負傷により規定の医療期間満了後も

元の業務に従事することができず、雇用単位が手配する別

の業務にも従事できない場合

② 労働者が業務に不適任と証明され、研修あるいは部署の調

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整を経てもなお業務に不適任な場合

労働契約締結時に根拠とした客観的情況に重大な変化が生

じ、労働契約の履行ができなくなり、雇用単位と労働者が

協議を通じても、労働契約内容の変更について合意に達し

なかった場合

(※1)上記①~③の場合の経済補償金支払い基準については後述。

(※2)上記①~③を理由として労働契約を解除する場合、 30 日前に書面通

知するか或いは 1ヶ月分の給与を要割増し支給。

(※3)さらに、上記①の要件にて労働契約を解除する場合、賃金の 6 ヶ月分

以上の医療補助費支払いが必要;『労働契約違反及び労働契約解除に

当たっての経済的補償についての規則』(労部発[1994]481 号)

4)リストラ

(第 41 条) 補償金要否

20 人以上または従業員総数の 10%以上の人員削減について

は、雇用単位は 30 日前までに労働組合または全従業員に対して

情況説明し意見を聴取した後、労働行政部門に届け出なければな

らない。

① 企業破産法の規定により企業再編される場合

② 生産経営に深刻な困難を生じた場合

③ 企業の業種転換、重大技術革新、経営方式調整により人員

削減が必要な場合

④ その他の理由で客観的な経済状況に重大変化があり、契約

履行できない場合

(※)この場合の経済補償金の支払い基準については後述。

7. 労働契約解除不可の状況(第 42 条)

労働者が以下の状況のいずれかにある場合、雇用単位は本法第 40 条、第 41

条の規定に基づき労働契約を解除することはできない。

① 職業病危害作業に従事する労働者が離職前職業健康検査を実施していない

か又は職業病の疑いのある患者の診断中または医学観察期間中にある場合

② 当該単位にて職業病罹患、または労災により負傷して、かつ労働能力喪失

または一部喪失が確認された場合

③ 罹病または非労災負傷の場合であって、規定の医療期間にある場合

④ 女性従業員が妊娠期間、出産期間、授乳期間にある場合

⑤ 当該単位の連続勤務年数が満 15 年であり、かつ法定定年退職年齢まで 5年

未満である場合

⑥ 法律、行政法規が規定するその他の状況

(※)労働契約期間満了時において、上記労働契約解除不可の規定にある状況

のいずれかに該当する場合、労働契約は相応の状況が消失するまで自動

的に延期される(第 45 条)

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8. 労働契約解除時の経済補償金支払い基準

1) 経済補償金の支払い基準(第 47 条)

① 労働者の会社勤続年数に基づき満 1 年毎に 1 ヶ月分の月給相当額を支払う。6

ヶ月以上 1年未満の場合は 1年として計算。6 ヶ月未満の場合は半月分。

② 労働者の月給が地元前年度従業員平均月給の 3 倍を上回る場合、従業員平均月

給の 3倍額で支給、経済補償年限は 高 12 年を超えない。

③ 月給とは労働契約解除または終止前 12 ヶ月間の平均給与(残業手当、ボーナ

スも含む総支給額の 12 ヶ月平均)を指す(『条例』第 27 条)。

2) 経済補償金支払いが必要な労働契約解除事由(第 46 条)

契約解除

の申出方 解除事由

前述と

の対照

その他

要求等

労働者 雇用単位の労働条件不提供等 5 即時解除可

雇用単位 労働者との協議一致 6-1) 労働者との約定による

〃 懲戒以外の理由 6-3) 30 日前書面通知或いは

1 ヶ月分の給与を別途

割増支給

〃 リストラ 6-4) 30 日前通知義務

9. 労働契約の終止と経済補償金の支払い基準

1) 労働契約終止とは(第 44 条):以下の状況のいずれかにある場合

①労働契約期間満了

②労働者が法に拠り基本養老保険待遇の享受を開始した場合

③労働者の死亡、または人民法院が死亡宣告したかまたは失踪宣告した場合

④雇用単位が法により破産を宣告された場合

⑤雇用単位が営業許可証を取り上げられたか、閉鎖命令を受けたか、抹消され

たか、または雇用単位が期間満了前に解散を決めた場合

⑥ 法律、行政法規が規定するその他の状況

2) 労働契約終止時の経済補償金支払い要否(第 46 条)

経済補償金支払い要 経済補償金支払い不要

労働契約期間満了時、雇用単位が契約継

続しない場合

労働契約期間満了時、雇用単位が現

行の労働契約条件を維持または引き

上げて労働契約継続締結の意向を示

しても労働者が継続締結に同意しな

い場合

企業が法に基づき破産を宣告された場

労働者が既に養老保険待遇を受けて

いる場合

企業の解散、営業許可証抹消処分または

閉鎖命令が出た場合

労働者の死亡、または人民法院によ

り死亡が宣告された場合

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0904 華鐘春季セミナー資料(経営現地化推進と労務紛争防止の為の実務対策)

3) 労働契約終止時の経済補償金支払い基準

① 労働契約終止時の経済補償金支払い基準も前述 8-1)と同様。

② 但し、『労働契約法』施行以前は労働契約終止時には経済補償金支払いが一切不

要であったことから、労働者の会社勤続年数は『労働契約法』が施行された 2008

年 1 月 1 日を起算時点として、以降の勤続年数のみを対象として計算される。

10.労働契約の違法解除または終止と賠償金

① 雇用単位が『労働契約法』の規定に違反して労働契約を解除または終止し、労働

者が労働契約の継続履行を要求した場合、雇用単位は履行を要継続(第 48 条)。

② 労働者が労働契約の履行継続を要求しない場合または履行継続が既に不可能な

場合、第 47 条に規定された経済補償金支払い基準の 2 倍の金額を賠償金として

労働者に要支給(第 48 条)。

③ 賠償金を支給した後、別途経済補償金は支給しない(『条例』第 25 条)。

11.無期限労働契約の解除が可能な状況

『条例』第 19 条によると、以下の状況下では雇用単位のよる無期限労働契約の解

除が可能。対応する経済補償金の支払い要否については前述の通り。

① 雇用単位と労働者とが協議一致した場合

② 労働者が試用期間において雇用条件に合格しない事が証明された場合

③ 労働者が雇用単位の規則制度に重大な違反をした場合

④ 労働者が重大な職務怠慢や私利私欲により雇用単位の利益に重大な損害を与え

た場合

⑤ 労働者が同時にその他の雇用単位と労働関係を確立し、本雇用単位の作業任務

の完成に深刻な影響を及ぼした場合、又は雇用単位の申し出を経ても是正を拒

否した場合

⑥ 労働者が詐欺、脅迫の手段又は弱みをつけ込み、雇用単位に真実の意志に背い

た状況で労働契約を締結させたか又は変更させた場合

⑦ 労働者が法に基づき刑事責任を追及された場合

⑧ 労働者が疾病又は非労災による負傷の場合であって、規定の医療期間満了後も

元の業務に従事する事ができず、雇用単位が別途手配した業務にも従事出来な

い場合

⑨ 労働者が業務に不適任であり、研修実施後又は職場調整後も依然として業務に

適さない場合

⑩ 労働契約締結時に根拠とした客観的状況に重大な変化が生じて労働契約が履行

できず、雇用単位と労働者の協議を経ても労働契約内容の変更に協議合意に達

しない場合

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⑪ 雇用単位が企業破産法の規定により再編整理される場合

⑫ 雇用単位の生産経営に深刻な困難な発生した場合

⑬ 企業の業種転換、重大な技術革新又は経営方式の調整により、労働契約変更後

もなお人員削減が必要である場合

⑭ その他、労働契約締結時に根拠となった客観的状況に重大な変化が生じて、労

働契約が履行出来なくなった場合

12.人材派遣

人材派遣の扱いについては、『条例』によっても尚不明。

1) 第58条の「労務派遣単位は被派遣労働者と2年以上の期限付労働契約を要締結」

と第 66 条にて人材派遣の利用対象としている「臨時的、補助的又は代替性のあ

る作業部署との関係。

2) 人材派遣に対する無期限労働契約の適用有無。

3) 駐在員事務所の直接雇用可否。

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【資料 3】

主要地域の各種休暇制度

項目 上海市 江蘇省 北京市 広東省

結婚休暇

(晩婚加算) 3(+7日) 3(+10 日) 3(+7日) 3(+10 日)

出産休暇

90 日

晩産+30 日

難産+15 日

多胎+15 日/1人

90 日

晩産+15 日

難産+30 日

多胎+15 日/1人

一人っ子+35 日

産前休暇

(給与%)

2.5 ヶ月

(80%)

2 ヶ月

(80%) 無し

哺乳休暇

(給与%)

6.5 ヶ月

(80%)

6 ヶ月

(80%) 無し

子供満 1歳まで

(75%)

医療期間

「本人勤続年次」

+2ヶ月。

1 年目は 3 ヶ月、

以降勤続満1年毎

に 1ヶ月増。 大

24 ヶ月。

通算勤続年数 当社勤続年数 医療期間

5 年以下 3 ヶ月 10 年以下

5 年超 6 ヶ月

5 年以下 6 ヶ月

5 年超 10 年以下 9 ヶ月

10 年超 15 年以下 12 ヶ月

15 年超 20 年以下 18 ヶ月

10 年以上

20 年超 24 ヶ月

各地の最低給与基準と社会平均月給

地域 低給与基準(元) 同実施時期 2007 年社会

平均月給(元)

上海市 960 08/4/1~ 3,292(2008 年)

一類 850 二類 700 三類 590 07/10/1~ 蘇州市区:2,588

江蘇省 <一類>南京、無錫、江陰、常州の各市区及び大蘇州市内の各市 <二類>南京市区外の各県、南通市区、連雲港市区他、<三類>省略

北京市 800 08/7/1~ 3,322

一類 860 二類 770 三類 670 08/4/1~ 広州市:3,380

深セン市 特区内 1,000 特区外 900 08/7/1~ 深セン市:3,233 広東省

<一類>広州(市区)、<二類>広州(市区以外)、珠海、佛山、東莞、中山各市 <三類>汕頭、恵州、江門各市

中山、西岡、沙河口、甘井弓、旅順口、

金州各区、長海県、開発区、保税区 700

大連市

瓦房店、普藍店、庄河各市 600

07/12/20~ 2,353

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【資料 4】

主要各都市(上海市以外)の社会保険、住宅積立金納付基準

1)社会保険

蘇州市 北京市 広州市 大連市

納付基数 従業員本人の前年度の平均月収(新入社員の場合、1ヶ月目の月収)

納付 上限 前年度社会平均給与の 300%

基数 下限 前年度社会平均給与の 60%

納付比率

養老 会社 20% 20% 20% 19%

保険 従業員 8% 8% 8%(*3) 8%

医療 会社 9%+1%(*1) 9% 8%+5 元 8%

保険 従業員 2%+5 元(*1) 2% 2% 2%

失業 会社 2% 1.5% 2% 2%(*4)

保険 従業員 1% 0.5% 1% 1%(*4)

生育 会社 1% 0.5%~2%(*2) 0.85% 0.5%

保険 従業員 --- --- --- ---

労災 会社 1% 0.8% 0.5%~1.5% 0.5%~2%

保険 従業員 --- --- --- ---

(*1) 会社が「基本医療保険(9%)+地方補充医療保険(1%)」を納付し、従業員は「基本医療保険(2%)+

大病医療保険(5 元/月)」を納付する。

(*2) 北京市戸籍以外の従業員については生育保険に加入しない。

(*3) 広州市戸籍以外の従業員の養老保険(個人負担分)の納付比率は 12%。

(*4) 農民契約制従業員については失業保険の納付は不要。

2)住宅積立金

納付基数 納付比率 地域

基数 上限(*1) 下限 会社 従業員

実施

期日 備考

蘇州 300% 低給与 8~12% 8~12%

北京 300% 無し 12% 12% 08.7.1

広州 500% 無し 5~20% 5~20% 08.7.1 (*2)

老社員 10% 10% (*3)

開発区以外 25% 15% 大

員 開発区

従業員本人

の前年度平

均月収 500%

前年度の

低給与18% 14%

08.1.1 (*4)

(*1) 各市の前年度社会平均月収に対する比率。

(*2) 従業員の納付比率は会社分を下回らないものとする。

(*3) 会社の経営状況により、納付比率を 高 15%まで調整することができる。

(*4) ここでいう新社員とは 1999 年 1 月 1日以降に入社した従業員のことを指す。

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【資料 5】

人事考課シート(例)※5 段階評価制

科長 工程責任者 上司 本人 <技能職用>

評価日 考課

年 月 日 点数

【氏 名】 メンテナンス科

【入社年月日】 2007/9/1 技能職1級

【管理責任者、指示・命令系統】

【担当業務】 【詳細業務内容】

①保守依頼の受付 ①  依頼内容の現場確認と実施可否判断

②班長への報告と作業指示の受領 ②-1 班長への報告と着手許可及び指示受領

③安全環境対策に基づく作業の実施 ②-2 作業安全確認書作成と技術科の着工許可受領

④作業終了確認と技術科への引き渡し ③-1 現場安全環境対策及び移行内容の確認

⑤終了報告 ③-2 安全行動と2Sを基本とした現場作業の実行

⑥現場点検 ④-1 工事終了後の現場整理と技術科の終了確認依頼

⑦関連文書管理 ④-2 試運転立会いと完了確認の受領

⑤-1 班長への終了報告

⑤-2 故障原因調査報告書の記入と提出

⑥  運転状況及び生産現場の点検パトロール

⑦-1 保守依頼表、作業安全確認書、故障原因調査報告書の保管

【技能職1級の職務基本要求】

①担当する定型業務の作業手順や要領を基本的に理解しており、上位者の支援を得ながら業務を行うことができる。

②取組姿勢と業務に必要な基礎能力が認められ、事故防止の為の基本的な知識を身に付け、安全操業に努めることができる。

【考課項目】業務実績 1次比重 30% 2次比重 70%

【考課要素】 【考課基準】 1次評価 2次評価 要素比重 項目比重

①業務処理精度 上位者の支援の下での業務処理精度 4 3 25%

②業務処理量 上位者の支援の下での業務処理量、期限 3 3 25%

③業務効率 上位者の支援の下での業務効率 4 4 25% 60%

④問題解決 上位者の支援の下での問題解決有無 4 4 15%

⑤トラブル対応 トラブル発生時の報告と指示対応 2 3 10%

1.1 2.4 100% 41

【考課項目】基礎能力 1次比重 40% 2次比重 60%

【考課要素】 【考課基準】 1次評価 2次評価 要素比重 項目比重

①環境安全、事故防止知識 担当業務に関する安全、事故防止策の理解度 4 4 25%

②調整能力 異なる意見や利害関係に配慮する能力 4 4 20%

③判断能力 問題発生時に自己判断をせず上司の指示を仰ぐ能力 3 3 20% 20%

④学習能力 業務実施に必要な知識・技能を修得する能力 4 3 15%

⑤改善提案力 非効率作業等に対する改善提案力 3 3 20%

1.4 2.1 100% 14

【考課項目】取組姿勢 1次比重 40% 2次比重 60%

【考課要素】 【考課基準】 1次評価 2次評価 要素比重 項目比重

①会社就業規則の遵守 会社の就業規則遵守の有無 3 4 20%

②社会人の自覚 社会人としての責任、礼儀、マナーの有無 3 2 20%

③安全優先の行動 安全維持、事故防止優先意識の有無 2 3 25% 20%

④向上心 知識・技能習得意欲の有無 3 3 20%

⑤協調性、参加意識 上司、同僚、部下との連絡・相談・協力姿勢 5 5 15%

1.2 2.0 100% 13

総合評価点数 68.2

【所属部(課)名】

【職務等級】

副科長⇔係長⇔班長⇔本人

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【資料 6】

残業代の支払い計算について

1) 給与構成(例)

基本給

職務給役職手当

基準内給与 特定手当 外国語手当

資格手当

皆勤手当給与

補助手当 食事手当

通勤手当

賞 与基準外給与

残業手当

2) 各種給与の概念

① 残業手当の基数計算時等、一般的に“給与”、“月給”、“月額収入”、“月額給与”

という場合には、上記給与構成(例)中の基準内給与を指す。

② 経済補償金計算時の“平均給与”とは、本人の基準内給与と基準外給与の合計

での直近(労働契約解除または終止前)12 ヶ月間の平均支給総額を指す。

③ 社会保険の納付基数計算時の“平均給与”、“平均月収”とは、本人の基準内給

与と基準外給与の合計での前年度(1~12 月)の平均支給総額を指す。

④ 前年度社会平均月給は、経済補償金の上限や社会保険納付基数の上下限額を計

算する際に使用。

⑤ 病気休暇期間中の給与支給額を計算する際の“正常出勤時給与”には、出勤し

なければ支給されない手当(上記基準内給与では補助手当)は含まれない。

⑥ 各地の“ 低給与基準”との整合性判断においては、給与支給構成は問われな

いが、残業手当及び法定の一人っ子手当、高(低)温手当は不算入。

3) 残業手当(時給):一般的に以下にて計算される。

平日残業 給与構成(例)中の基準内給与÷21.75÷8×150%

普通休日出勤 給与構成(例)中の基準内給与÷21.75÷8×200%

法定休日出勤 給与構成(例)中の基準内給与÷21.75÷8×300%

① 「21.75 日」=(365 日-104 日)÷12 ヶ月であり法定休日が含まれる。

② 普通休日の出勤に対しては先ず代休を要手配。

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社会保障制度に関する基本事項

(※)以下の納付比率は上海市の例。上海市以外については【資料 4】ご参照。

1) 社会保険制度

① 上海市城鎮社会保険(通称「城保」)

a) 適用対象:上海市の中心区(下記②の郊外区を除く)に立地する会社に勤務

する上海市戸籍の保有者、及び上海市が人材導入を認めて居住証の発行に同

意した上海市居住証取得者。

b) 納付基数:従業員本人の前年度平均月収(新入社員の場合は 1ヶ月目の月給)。

但し、納付基数の上限と下限は、それぞれ前年度上海市社会平均月収(2008

年度は 3,292 元)の 300%と 60%。

c) 納付比率:以下の通り。

項目 会社負担 個人負担 小計

養老保険 22% 8% 30%

医療保険 12% 2% 14%

失業保険 2% 1% 3%

生育保険 0.5% 0% 0.5%

労災保険 0.5% 0% 0.5%

合計 37% 11% 48%

② 上海市小城鎮社会保険(通称「鎮保」)

a) 適用対象:上海市の郊外区(浦東新区、金山区、嘉定区、青浦区、南匯区、

閔行区、奉賢区、松江区、宝山区、崇明県を含む)に立地する会社に勤務す

る上海市戸籍を持つ従業員、また市政府が認可したその他の人員。但し、「鎮

保」適用地区である会社が元々「城保」に加入していた従業員を採用し、労

使協議一致により引き続き「城保」に加入することを認めた場合は、引き続

き「城保」に加入して「鎮保」の適用対象外となる。

b) 納付基数:前年度の上海市社会平均月収×60%

c) 納付比率:会社負担 25%(内訳:養老保険 17%、医療保険 5%、失業保険 2

%、生育保険 0.5%、労災保険 0.5%)。従業員個人負担なし。

③ 外来従業人員総合保険(通称「総合保険」)

a) 適用対象:上海市戸籍を有さず上海市で就業している他省、自治区、直轄市

の人員。但し、①家政服務人員、②農業労働人員、③人材導入としての上海

市居住証取得者を除く。

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0904 華鐘春季セミナー資料(経営現地化推進と労務紛争防止の為の実務対策)

b) 納付基数:前年度の上海市社会平均月収×60%。

c) 納付比率:会社負担 12.5%。従業員個人負担なし。

2) 住宅積立金制度

① 適用対象:「鎮保」、「城保」、「総合保険」のいずれが適用されるかに関わらず、

下記の関連条件に符合する従業員は要加入。

a) 上海市城鎮戸籍の従業員。

b) 上海市以外の非農業戸籍の従業員で、戸籍所在地の住宅積立金制度に参加し

ていない者。

c) 上海市以外の非農業戸籍の従業員で、戸籍所在地の住宅積立金制度に参加

していたが、すでに納付中止し且つ住宅積立金口座が凍結若しくは解約され

ている者。

② 納付基数:

a) 基本住宅積立金;従業員本人の前年度平均月収(新入社員の場合は 1 ヶ月目

の月給)。但し、納付基数の上限は前年度上海市社会平均月収の 300%であ

り、下限は上海市 低給与基準。

b) 補充住宅積立金;従業員本人の前年度平均月収(新入社員の場合は 1 ヶ月目

の月給)で、上限と下限は無し。

③ 納付比率:以下の通り。

会社負担 個人負担

基本住宅積立金 7% 7%

補充住宅積立金 0~8% 0~8%

(※)尚、社会保険、住宅積立金いずれについても、納付基数に用いられる「従業

員本人の前年度平均月収」とは、前年 1~12 月の平均給与を指す。前年度の

上海市社会平均月収(2008 年度は 3,292 元)の適用対象期間は、社会保険

については当年 4月 1日より翌年 3 月 31 日まで(毎年 4月に見直し)、住宅

積立金については当年7月1日より翌年6月30日まで(毎年7月に見直し)。

3) その他の社会保障(身体障害者就業保障金)

① 会社負担額=(雇用すべき身体障害者数-在職身体障害者数)×前年度の上海

市社会平均月収×80%

② 雇用すべき身体障害者数=前年度の従業員総数×1.6%

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