経営戦略の構築と実施におけるCSR のポジショニング(1) ·...

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- 57 - 高崎経済大学論集 第51巻 第4号 2009 5773.はじめに 1.日本企業の CSR 活動の特徴 日本企業のCSR活動の優先的分野に関する調査結果をみると、「コンプライアンス・法令遵守」 をあげている企業が圧倒的に多いことがわかる 。たとえば、(社)経済同友会が、200510月から 2006年1月にかけて、会員所属企業および会員所属企業以外の東証1・2部上場企業、2,697(回答数:521社、回答率:19.3%)を対象として行った「企業の社会的責任(CSR)に関する経営 者意識調査」(2006)では、2002年と2005年にCSRに含まれる内容について経営者に質問した結果 を比較しているが、図表1に示すように、「法令を遵守し、倫理的行動をとること」が、2002年の 81.4%(2位)から2005年では94.6%へと数値を伸ばしトップとなっている。 日本においては、1980年代後半から90年代前半のバブル経済期において、企業による社会貢献活 動(フィランソロピー)に対する関心が高まったが、その後、不況期に入り、その活動も減少した。 さらに、1996年、97年には、銀行・証券業界の反社会的勢力団体との癒着が頻発し、日本経済団体 連合会は「新企業行動憲章」の改正を行う等の対応を行った。その後も企業不祥事が続き、2003CSR 元年を迎える。このことから、日本企業にとっての CSR は、信頼回復を目的とした CSR であり、法令遵守やリスクに対する予防としてのリスク・マネジメントの意味合いが強くなってい ると考えられる。 経営戦略の構築と実施におけるCSR のポジショニング(1) ── 「CSR と利益」との関連において ── The Positioning of CSR in Building and Implementation of the Corporate Strategy: in Connection with“CSR and Profit”(1) Sendo, Ayako 1 (社)日本経済団体連合会(2005)『CSR(企業の社会的責任)に関するアンケート調査』によると、「コンプライアンス・ 法令遵守」が CSRを推進するにあたって、「現在最も優先的に取り組んでいる分野」(96.6%)、「将来(2~3年後)最も優先 的に取り組んでいると思われる分野」(73.6%)の双方で最も大きな比率を示している。また、現在の取り組みについては、 「環境」、「安全・品質」、「個人情報保護・情報セキュリティ」が60%を超える数値を示している。

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高崎経済大学論集 第51巻 第4号 2009 57~73頁

Ⅰ.はじめに

1.日本企業の CSR 活動の特徴

日本企業のCSR活動の優先的分野に関する調査結果をみると、「コンプライアンス・法令遵守」

をあげている企業が圧倒的に多いことがわかる1。たとえば、(社)経済同友会が、2005年10月から

2006年1月にかけて、会員所属企業および会員所属企業以外の東証1・2部上場企業、2,697社

(回答数:521社、回答率:19.3%)を対象として行った「企業の社会的責任(CSR)に関する経営

者意識調査」(2006)では、2002年と2005年にCSRに含まれる内容について経営者に質問した結果

を比較しているが、図表1に示すように、「法令を遵守し、倫理的行動をとること」が、2002年の

81.4%(2位)から2005年では94.6%へと数値を伸ばしトップとなっている。

日本においては、1980年代後半から90年代前半のバブル経済期において、企業による社会貢献活

動(フィランソロピー)に対する関心が高まったが、その後、不況期に入り、その活動も減少した。

さらに、1996年、97年には、銀行・証券業界の反社会的勢力団体との癒着が頻発し、日本経済団体

連合会は「新企業行動憲章」の改正を行う等の対応を行った。その後も企業不祥事が続き、2003年

に CSR 元年を迎える。このことから、日本企業にとっての CSR は、信頼回復を目的とした CSR

であり、法令遵守やリスクに対する予防としてのリスク・マネジメントの意味合いが強くなってい

ると考えられる。

経営戦略の構築と実施におけるCSR のポジショニング(1)

──「CSR と利益」との関連において──

潜 道 文 子

The Positioning of CSR in Building and Implementationof the Corporate Strategy:

in Connection with“CSR and Profit”(1)

Sendo, Ayako

1 (社)日本経済団体連合会(2005)『CSR(企業の社会的責任)に関するアンケート調査』によると、「コンプライアンス・法令遵守」が CSRを推進するにあたって、「現在最も優先的に取り組んでいる分野」(96.6%)、「将来(2~3年後)最も優先的に取り組んでいると思われる分野」(73.6%)の双方で最も大きな比率を示している。また、現在の取り組みについては、「環境」、「安全・品質」、「個人情報保護・情報セキュリティ」が60%を超える数値を示している。

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しかし、本来、CSR 経営がめざす姿は、

企業が様々なステイクホルダーを視野に

入れながら、企業と社会の利益を高い次

元で調和させ、企業と社会の相乗的発展

を図る経営であり、CSR を事業の中核に

位置づけ、将来の競争優位を獲得しよう

という能動的挑戦である2。

上記の日本企業や経営者の回答は、そ

のような CSR が目指す経営とは異なる

姿勢を示している。コンプライアンスや環境保全のような受動的で、直接的には利益につながらな

い活動として CSR 活動を行っていると考えられる。もし、日本型 CSR という形態があるのだとす

ると、それは、企業にとって投資という将来において利益を獲得するための行動ではなく、企業に

とってのコストであり、企業活動を制約するものであるということなのであろうか。

2.受動的CSRと戦略的CSR

マイケル・ポーター(M. E. Porter)、マーク R. クラマー(M. R. Kramer)は、企業が CSRを推

進し、企業の社会的影響力を分散させないためには、企業と社会の対立関係ではなく、相互依存関

係に注目しつつ、企業の戦略や事業と CSR を関連づける必要があるとしている(ポーター、クラ

マー、p.41)。その上で、自社の事業との関連性の高い社会問題を抽出し、その社会問題に取り組

みながら社会的価値と経済的価値の両者を実現すべく活動を行う。その際、企業の CSR 活動は、

「周囲への迷惑を減らす」という「受動的 CSR」レベルを超えて、「社会を良くすることで戦略を強

化する」レベルである「戦略的 CSR」を目指すべきであるとする(ポーター、クラマー、p.47)。

では、この「受動的 CSR」とは具体的にどのような価値を生み出しているのであろうか。ポー

ター、クラマーによれば、それはまず第1に、地域団体への寄付活動を行う等、「良き企業市民」

としてステイクホルダーの社会的関心事の変化に対応する活動によって、地域社会の信用を獲得し、

自治体など各方面との関係も改善することが可能となり、また、従業員の誇りを創造することがで

きる。第2に、日常の業務(バリューチェーンの活動)を遂行する際に、一般的な社会リスクや環

境リスク、そして各企業の内部の事業活動の社会的影響を見極めることによって、事業活動の現実

や未来の悪影響を緩和することができるということである(ポーター、クラマー、pp.47、48)。

上述のような状況から考えると、近年、CSR 報告書を作成する際に多くの企業が活用している

GRI(Global Reporting Initiative)の CSR 問題のチェックリストの他に、各企業は、自社のおかれ

ている経営環境や自社独自の内部事情などを踏まえたチェックリストが必要であろう。また、ひと

図表1 CSRに含まれる内容(60%以上の回答があった項目と順位)

出所:(社)経済同友会(2006)『企業の社会的責任(CSR)に関する経営者意識調査』、p.8

2 (社)経済同友会(2004)『日本企業の CSR:現状と課題─自己評価レポート2003』p.4参照。

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経営戦略の構築と実施における CSR のポジショニング(1)(潜道)

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つの企業の中の各事業部、あるいは、職能ごとに抱える課題や目指す目標があるのであるから、

CSR活動を考案する際はそのような部署単位で企画し、所属するメンバー間での情報共有がなされ

ることにより、より CSR 経営の目標達成に近づくことができるようになると考えられる。

他方、「戦略的 CSR」は、企業の競争力向上と社会への価値提供の両方に資するイノベーション

を生み出すような CSR の存在があることを示している。例えば、排ガス問題への対応としてのハ

イブリッド・カー〈プリウス〉は、競争優位と環境保護を両立させる斬新な自動車開発の先駆けと

なり、トヨタ独自のポジションを築いた。また、マイクロソフトは、コミュニティ・カレッジへの

投資によりコミュニティ・カレッジの課題を解決すると同時に、IT 業界の慢性的労働力不足とい

う課題を解決し、将来的に大きなメリットを得る道筋を創った。このように、自社の競争力につな

がるように競争環境に投資することで社会と共有できる価値を生み出し、企業の利益と社会の利益

が相互に補強し合う、共生関係が築かれる(ポーター、クラマー、p.48)。

以上のような CSR のあり方の相違から考えると、日本型 CSR の特徴と考えられる信頼回復型

CSR は、ポーター、クラマーのいうイノベーションを生み出す戦略的 CSR ではなく、受動的 CSR

のカテゴリーに属すると考えられる。

3.収益性と CSR との関係

上述のように、戦略的 CSR の実践はイノベーションを生み出し、そのことが企業の競争力の強

化につながり、ひいては、企業の利益の増大を実現するというモデルを目指すものである。では、

収益性とCSRとの関係についての研究にはどのようなものがあるのであろうか。

谷本寛治は、80年代の実証研究を整理し、収益性と CSR には、①積極的な関係、②ネガティブ

な関係、③とくに無関係、という主張があったと述べている。さらに、90年代以降は、余剰のファ

ンドがあるから CSR を果たす余裕があるという①スラック資源理論(Slack Resources Theory)、

および②良い経営理論(Good Management Theory)という2つの理論が存在するとしている。

「良い経営理論」とは、企業がステイクホルダーと良い関係を構築することで評価が高まるという

考え方で、つまり、「CSR への積極的な対応」→「ステイクホルダーからの評価」(従業員、顧客

のロイヤリティやコミュニティからの支持)→「企業の競争優位」という流れである。また、谷本

は、CSR が収益性と結びつくかどうかは、市場が CSR を評価するかどうかに依存するのであり、

90年代以降、CSR を評価する市場の成熟化の方向へ向かい、それと共に「良い経営理論」を支持

する研究が増加していることを指摘している(谷本、pp.20、21)。

図表2は、ポーター、クラマーの受動的 CSR および戦略的 CSR の考え方を土台とし、「良い経

営理論」型の CSR を受動的 CSR と戦略的 CSR の間に位置づけ、CSR と収益性の関係を分類した

ものである。

コンプライアンスやリスク・マネジメントとしての CSR である、「受動的CSR」のレベルでは、

企業の収益性や競争力の向上にはつながりにくいが、第2段階の「良い経営理論」の段階では、商

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高崎経済大学論集 第51巻 第4号 2009

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品・サービスの安全性の確保や

適切な価格の維持、配当の増大、

ワークライフバランスの重視、

取引先の利益への配慮、ゼロエ

ミッションの実現等、「ステイ

クホルダーへの倫理的対応」が

ステイクホルダーに評価され、

企業はステイクホルダーとの信

頼関係の構築、支持の獲得を実

現し、競争優位の確立が可能と

なる。つまり、このようなタイプの CSR は、収益性の向上に対して間接的な影響を与えることが

できる。第3段階の戦略的 CSR は、上述のハイブリッドカーの例やエネルギー源の多様化や地球

温暖化対策の観点からも重要視される再生可能エネルギーの一つとしてのソーラーシステム(太陽

光発電)に関わる事業等があげられよう。また、1日2ドル未満で暮らしている40億人の人々を顧

客ととらえ、彼らのニーズに応えるビジネスを展開する BOP(the Base of the Economic Pyramid)

市場を対象としたビジネスは、CSR の精神を基盤として行われることも多い。発展途上国の地域

経済の発展や雇用の創出、病気の撲滅等、社会的課題を解決しつつ、自社のビジネスの成功をも実

現するというものである。このような CSR 型 BOP 市場向けビジネスも戦略的 CSR のカテゴリー

に入れることができると考える。

4.研究の目的

現在、日本企業の多くが、受動的 CSR のカテゴリーに属すると考えられるコンプライアンスを

重視する CSR 活動を行っているが、日本企業の CSR 活動が、今後、収益性の向上と社会への価値

の提供を両立することのできる戦略的 CSR のレベルに到達する可能性はあるのであろうか。

このことを検討するため、本研究では、第1に、CSR 分野において先進的な取り組みを行って

いる企業(CSR 度の高い企業)の CSR 活動の状況を明らかにすることによって、日本企業におけ

る今後の CSR 活動の方向性を探る。第2に、先進的な企業は、経営戦略と CSR との関係、および

利益と CSR との関係をどのようにとらえているのかを考察する。第3に、利益と CSR との関係を

どのようにとらえている企業が、CSR 活動からより多くの成果を生み出しているのかを探る。第

4に、CSR 活動の成果に影響を及ぼす要因を特定する。

以上の点を明らかにするために、CSR 度の高い企業に対するアンケート調査を実施し、調査結

果から分析を行った。

図表2 収益性と CSR との関係

出所:筆者作成

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Ⅱ.研究の方法

1.調査の概要

調査方法は、質問紙による調査であり、2008年6月にアンケート調査票を郵送した。調査対象は、

『CSR 企業総覧2008』(東洋経済新報社)より抽出した。『CSR 企業総覧2008』では、企業の CSR 度

を「人材活用」、「環境」、「企業統治」、「社会性」の4分野に分類し、それぞれの分野を「AAA、

AA、A、B、C」の5段階によって評価している。本調査では、上記の4分野においてC評価がひ

とつもなく、B評価があっても1分野のみという、評価の高い企業611社を対象とし、各社の CSR 担

当部署に質問紙を送付した。回収数は112で、回収率は、18.3%であった。

2.質問項目の構成

まず、回答者の属性として、回答者の所属する企業の業種、回答者の所属部署名、CSR 関係部

署の設立年、CSR 関係部署の会社全体の中の位置づけ、CSR関係部署の前身部署の有無、CSR 関

係部署の前身部署の名称、CSR 関係部署を構成する正社員、派遣社員別社員数とその性別につい

ての質問を行った。

続いて、企業のステイクホルダーとして、「顧客」「株主」「従業員」「取引先」「社会3」の5種類

を設定し、それぞれに対して、各企業がどのような活動を CSR 経営の一環としての活動と認識して

いるか4、また、CSR 活動として実際に行われているのはどのような活動か5を質問し、CSR に関

する認識と実際の活動の差を表示した。さらに、各ステイクホルダーに対する活動項目のうち、重

視する項目を3つあげてもらった。

その他の質問項目は、CSR 方針の決定者、CSR と経営戦略との関係についての考え方、CSR 活

動が企業のどのような活動や変化と関連性をもっているのか、CSR 経営実践によって効果や変化

のあった点、今後、期待する効果、利益と CSR との関係に対する考え方、CSR 経営を理解してい

る従業員の比率、従業員に CSR 経営を理解してもらうための方策、倫理的プリンシプルの有無、

倫理的プリンシプルの内容等である。

Ⅲ.単純集計による調査結果と考察

調査結果の考察は、データの単純集計および因子分析等の多変量解析によって行った。本章では、前

3 ここで、「社会」は、地域社会や一般的な社会を意味している。4 「そう思わない」=1、「あまりそう思わない」=2、「ややそう思う」=3、「そう思う」=4の4件法を使用し、各回答の平均値を計算した。5 「実施していない」=1、「少し実施」=2、「ある程度実施」=3、「大いに実施」=4の4件法を使用し、各回答の平均値を計算した。

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者の単純集計による調査結果を示し、結果から明らかとなったファインディングスについて論じる6。

1.調査結果

(1)回答者の属性に関する質問7

「CSR 関係部署の設立年」については、

2005年、2006年が多く、それぞれ、23%、

25%を占めている。CSR 元年といわれる

2003年の以前にCSR関係部署を設立してい

たという回答も14%あった。

(2)ステイクホルダーへの CSR 活動に関

する質問

ステイクホルダーとして「顧客」「株主」

「従業員」「取引先」「社会」を設定し、そ

れぞれに対して図表3~12に示される質問

項目について企業に質問した。

なお、図表における棒線は企業が CSR と

して認識している各活動の度合いを示して

おり、値の大きい項目順に並べてある。ま

た、折れ線は、CSR 活動を実際に実施して

いる状況の結果である。

①「顧客」への CSR 活動に関する質問

図表3に示すように、CSR 経営の一環

として認識されている活動については、

「商品・サービスの安全性の重視」、「コン

その他

情緒的な広告を重視

信奉者への特別なサービス

  提供

宣伝・広告による商品・サ

  ービスの情報提供

理不尽なクレームへの真摯

  な対応

クレームしやすい体制構築

気持ちの良い接客態度

少し高額でもエコロジーに

  対応した商品提供

適切な価格の維持

不祥事が発生した時の迅速

  な情報提供と対応

商品・サービスの問題点含

  む正確な説明

ニーズに対応する新製品・

  新サービスの開発

商品・サービスの安全性の

  重視

コンプライアンスの重視

品質の向上

6 因子分析等による結果の考察は、「経営戦略の構築と実施における CSR のポジショニング(2)─「CSR と利益」との関連において─」に掲載する。7 紙面の都合上、本文では、本稿の研究目的に必要な調査結果のみ取り上げる。本文に示す調査結果以外の質問項目に対する調査結果については、次の通りである。「回答者の所属部署」は、CSR 部が約50%近くを占めている。その他の回答が37.7%あったが、内訳をみると、総務関係、経営企画関係、広報関係の順で数値が高かった。「CSR 関係部署の位置づけ」については、「事業部と同列であるが、特定の事業部には属していない本部スタッフ部門」

が57.1%を占めている。「社長あるいは担当役員が委員長となっている委員会」が17.0%でその後に続いている。「CSR 関係部署の前身部署の有無」については、「あった」、「なかった」がそれぞれ、51%、49%であった。「CSR 関係部署の前身部署の名称」は、「環境保全部」が30.1%で最も多く、「広報部」(12.3%)、「コンプライアンス部」

(8.2%)がそれに続いている。「CSR 関係部署の専任スタッフ数」については、男性正社員および女性正社員の平均人数が、それぞれ、4.11人、1.61人であ

り、男性派遣社員および女性派遣社員の平均人数が、それぞれ、0.07人、0.41人であった。男性正社員数では、最小は0、最大は42であった。また、回答企業のうち、12.5%の企業に専任スタッフがいない(派遣社員を含む)。

情緒的な広告を重視

信奉者への特別なサービス

提供

宣伝・広告による商品・サ

  ービスの情報提供

理不尽なクレームへの真摯

  な対応

少し高額でもエコロジーに

  対応した商品提供

クレームしやすい体制構築

適切な価格の維持

ニーズに対応する新製品・

  新サービスの開発

気持ちの良い接客態度

商品・サービスの問題点含

  正確な説明

不祥事が発生した時の迅速

  な情報提供と対応

コンプライアンスの重視

品質の向上

商品・サービスの安全性の

  重視

図表3「顧客」への CSR 活動項目

図表4「顧客」への CSR 活動のなかで特に重視する項目

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プライアンスの重視」、「品質の向上」、「不祥事が発生したときの迅速な情報提供と対応」、「商品・

サービスについての問題点をも含む正確な説明」が上位を占める。

CSR 活動として認識している活動項目と実施している活動項目との間に差がみられるのは、「商

品・サービスについての問題点をも含む正確な説明」、「少し高価格でもエコロジーに対応した商

品・サービスを提供」、「宣伝・広告を通じての商品・サービスの情報提供」である。

また、同じ質問項目で、重視している項目を3つ選択してもらった結果が図表4である。図表に

示されるように、最も重視されているのは「品質の向上」であり、「コンプライアンスの重視」、

「商品・サービスの安全性の重視」がそのあとに続く。その他はかなり数値が低くなる。

「ニーズに対応する新製品・新サービスの積極的開発」のような戦略的 CSR 関係の活動について

は、CSR 活動としての認識は高いが、

実施については多少低くなり、重視す

る項目は4位であるが、「品質の向上」、

「コンプライアンスの重視」、「商品・

サービスの安全性の重視」と比較する

と、かなり数値が低い。また、「収益

性の高い最高の顧客(信奉者)への特

別のサービス」というマーケティング

戦略上、重要な項目については、認識、

実施共に数値が低く、重視もされてい

ない。

②「株主」へのCSR 活動に関する質問

CSR 経営の一環として認識されて

いる活動としては、図表5のように、

「コンプライアンスの重視」、「不祥事

が発生したときの迅速な情報提供と対

応」、「長期的成長」、「効率的なコーポ

レート・ガバナンス体制の構築」、「迅

速な情報の提供」、「利益の増大」が上

位を占める。

CSR 活動として実施している活動

項目との数値の差については、「顧客」

への CSR 活動と比較し、値の大きさ

に開きのある項目が多く、また、全体

個人投資家と機関投資家の重視の

  度合を変える

長期的株式保有者と短期的保

  有者の重視の度合いを変える

優遇制度の設置・配当以外の利益

  の提供

従業員への株主重視教育

研究開発費の増大等将来への投資

  重視

情報提供の量的拡大

配当の増大・配当率の向上

株価の上昇

利益の増大

迅速な情報の提供

効率的なコーポレート・ガバナン

  ス体制構築

長期的成長

不祥事発生時の迅速な情報提供と

  対応

コンプライアンスの重視

図表5「株主」への CSR 活動項目

その他

個人投資家と機関投資家の重視

  の度合を変える

長期的株式保有者と短期的保有

  者の重視の度合いを変える

優遇制度の設置・配当以外の利

  益の提供

従業員への株主重視教育

研究開発費の増大等将来への投

  資重視

不祥事発生時の迅速な情報提供

  と対応

情報提供の量的拡大

利益の増大

株価の上昇

配当の増大・配当率の向上

効率的なコーポレート・ガバナ

  ンス体制の構築

迅速な情報の提供

コンプライアンスの重視

長期的成長

図表6「株主」への CSR 活動のなかで特に重視する項目

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高崎経済大学論集 第51巻 第4号 2009

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的に数値の差の幅が大きい。特に、「長

期的成長」、「利益の増大」、「株価の上

昇」、「配当の増大あるいは配当率の向

上」、「研究開発費の増大」、「従業員へ

の株主重視教育」、「優遇制度の設置や

配当以外の利益の提供」、「長期的株式

保有者とデイトレーダーのような短期

的株式保有者の重視の度合いを変え

る」、「個人投資家と機関投資家の重視

の度合いを変える」はCSR 活動として

の認識に比べ、実施の数値がかなり低

い。

また、図表6に示されるように、「長

期的成長」が CSR 活動の中では最も重

視されており、「コンプライアンスの重

視」、「迅速な情報の提供」がそのあと

に続く。「株価の上昇」、「利益の増大」

のような直接、収益性の向上につなが

る項目は、中位に位置している。

③「従業員」へのCSR 活動に関する質問

CSR 経営の一環として認識されてい

る活動については、図表7のように

「長期的成長」、「人権への配慮」、「内部

告発制度」が上位を占めるが、その他

の項目も大きな差はみられない。

CSR 活動として認識されている項目

と実施している項目が比較的大きな値

の差を示しているのは、「ワークライフ

バランスの重視」、「仕事経験を積む機

会を積極的に提供」、「女性管理職者数

の増加」、「法定基準以上の障害者の積

極的雇用」であり、中でも、「女性管理

職者数の増加」での数値の差が大きい。

年功重視の待遇

OB・OGへの配慮

派遣社員への研修・教育機会の

  提供

成果と年功のバランス

担当したい仕事への希望の重視

従業員の家族への福利厚生重視

成果重視の待遇

法定基準以上の障害者の雇用

福利厚生の重視

景気や業績に左右されない雇用

  の維持

研修制度や留学制度などの提供

女性管理職者数の増加

企業の利益の増大

仕事経験を積む機会の積極的提

  供

長期雇用

労働組合とのオープンな関係

ワークライフバランス重視

不祥事が発生時の従業員への迅速

  な情報提供と対応

男女間の昇進や仕事内容に関わ

  る差別の廃止

内部告発制度

人権への配慮

企業の長期的成長

図表7「従業員」への CSR 活動項目

その他

派遣社員への研修・教育機会の

  提供

OB・OGへの配慮

年功重視の待遇

法定基準以上の障害者の雇用

女性管理職者数の増加

不祥事発生時の従業員への迅速

  な情報提供と対応

従業員の家族への福利厚生重視

内部告発制度

成果と年功のバランス

労働組合とのオープンな関係

仕事経験を積む機会を積極的に

  提供

研修制度や留学制度などの提供

長期雇用

企業の利益の増大

担当したい仕事への希望の重視

男女間の昇進や仕事内容に関わ

  る差別の廃止

人権への配慮

福利厚生の重視

景気や業績に左右されない雇用

  の維持

成果重視の待遇

ワークライフバランス重視

企業の長期的成長

図表8「従業員」へのCSR活動のなかで特に重視する項目

人材派遣

人的交流

共同研究会開催

取引先の利益への配慮

十分な納期の設定

取引先企業の活動の倫理性

を頻繁に確認

取引についてグローバルス

  タンダードの採用

サプライチェーン・CSRマネジ

  メントへの強い意識

取引先企業の長期的成長

長期的取引

迅速な支払い

図表9「取引先」へのCSR活動項目

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また、図表8に示すように、「長期的

成長」および「ワークライフバランス

の重視」が CSR 活動の中で最も重視さ

れており、「成果を重視した待遇」がそ

のあとに続く。

④「取引先」へのCSR 活動に関する質問

CSR 経営の一環として認識されてい

る活動としては、図表9にあるように、

「迅速な支払い」、「長期的取引」、「取引

先企業の長期的成長」が上位を占めるが、

その他の項目も大きな差はみられない。

CSR 活動として認識されている項目

と実施している項目との間に大きな差

がみられるのは、「海外調達先も含めた

サプライチェーン・CSR マネジメント

の強い意識」および「取引先企業の活

動の倫理性を頻繁に確認」である。

また、図表10に示すように、「長期的取

引」がCRS 活動の中で最も重視されてお

り、「迅速な支払い」、「取引先企業の長

期的成長」、「海外調達先も含めたサプラ

イチェーン・CSR マネジメントの強い意

識」がそのあとに続く。

⑤「社会」への CSR 活動に関する質問

CSR 経営の一環として認識されてい

る活動としては、図表11のように、「正

しい納税」、「長期的成長」、「自然環境

の保全」が上位を占める。

CSR 活動として認識されている項目

と実施している項目が大きな値の差を

示しているのは、「自然環境の保全」お

よび「NPO との連携」である。「政治

その他

人材派遣

共同研究会開催

人的交流

十分な納期の設定

取引についてグローバルスタン

  ダードの採用

取引先企業の活動の倫理性を頻

  繁に確認

取引先の利益への配慮

サプライチェーン・CSRマネジメ

  ントへの強い意識

取引先企業の長期的成長

迅速な支払い

長期的取引

図表10「取引先」へのCSR活動のなかで特に重視する項目

政治献金

NPOとの連携

雇用の増大

海外の進出先地域の法律や

  風習の重視

採用に際しての男女、出身

  大学等の差別の廃止

寄付活動や社会貢献活動プ

  ログラムの実施

良き企業市民としての責任

  の負担

就職希望者への積極的かつ

  正しい企業情報の提供

自然環境の保全

会社の長期的成長

正しい納税

図表11「社会」へのCSR活動項目

その他

政治献金

NPOとの連携

採用時の男女、出身大学等の

  差別の廃止

海外の進出先地域の法律や風

  習の重視

雇用の増大

就職希望者へ積極的かつ正し

  い企業情報の提供

良き企業市民としての責任の

  負担

正しい納税

会社の長期的成長

寄付活動や社会貢献活動の実

  施

自然環境の保全

図表12「社会」へのCSR活動のなかで特に重視する項目

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高崎経済大学論集 第51巻 第4号 2009

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献金」は、CSR 活動としての認識、

実施共に、数値が低い。

また、図表12に示すように、「自然

環境の保全」が CSR 活動の中で最も

重視されており、「寄付活動や社会貢

献活動プログラムの実施」、「長期的

成長」、「正しい納税」、「「良き企業市

民」としての責任の負担」がそのあ

とに続く。

「就職希望者への積極的かつ正し

い企業情報の提供」、「雇用の増大」、

「採用に際しての男女、出身大学など

の差別の廃止」という採用に関する

項目は、認識および実施については

比較的高い数値を示しているが、重

視の点では低い数値となっている。

(3)その他の質問8

その他の質問の目的は、CSR 分野

において先進的な企業が経営戦略と

CSR との関係、および利益と CSR と

の関係をどのようにとらえているの

か、また、利益と CSR との関係をど

のようにとらえている企業が、CSR

活動からより多くの成果を生み出し

ているのかを探ることである。

①「経営戦略と CSR との関係」

質問は、「貴社においては、経営戦略と CSR はどのような関係にありますか。当てはまる項目番

号をすべて選び、番号に○印をつけてください(複数回答可)」である。

結果は図表13にみるように、「経営戦略を策定する際に CSR を取り込む」が66.4%で圧倒的に高

複数回答のため、合計は100%にならない

その他

最初にCSRありき。その

  後に戦略を策定する

CSRはマーケティング

  戦略の一環

CSRは社会貢献活動

  とほぼ同義

経営戦略とCSRは

  個別に存在

経営戦略を策定する際に

  CSRを取り込む

図表13 CSRと経営戦略の関係についての考え方

8 本文に示す調査結果以外の質問項目については、次の通りである。「CSR の方針の決定者」については、「社長」が35.0%で最も多く、「CSR 担当役員」が29.9%で続く。また、「CSR 経営について理解している従業員の割合」、「CSR 経営浸透のための方策」、「倫理的プリンシプルの有無」、

「倫理的プリンシプルの内容」の調査結果については、「経営戦略の構築と実施における CSR のポジショニング(2)─「CSR と利益」との関連において─」にて論じる。

図表14 CSRと関連があると考えられている項目

コンプライアンス

社会からの信頼の構築

企業イメージの向上

株主からの信頼の獲得 リスク・マネージメント効果 不祥事予防

従業員の誇りの創造

取引先との良い関係の構築

優秀な人材の採用・確保

従業員の労働意欲の向上

地域社会からの積極的支援の確保

企業の特定のイメージの確立

新製品・新サービス開発活動

株価の上昇

消費者のニーズの発見

内部告発の増加

顧客の忠誠心の獲得

利益の増大

新しい事業創造

効率的組織構築

販売促進活動

株主からの信頼度の低下

取引先からの信頼度の低下

倒産防止策

株価の下落

コスト増加

コスト削減

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経営戦略の構築と実施における CSR のポジショニング(1)(潜道)

- 67 -

い数値を示している。続いて、

「経営戦略と CSR は別個に存在」

が10.7%、「CSR は社会貢献活動

とほぼ同義」が9.2%、「CSR はマ

ーケティング戦略の一環」が

4.6%、「最初に CSR ありき。その

後に戦略を策定する」が4.6%で

あった。

②「CSR 活動と関連性をもつと考

えている活動や成果および変化」

質問は、「貴社の CSR 活動は、

以下の項目とどのような関連性を

もっているとお考えですか? 当

てはまる程度を1つ選んで、番号

に○印をつけてください」である。

結果は図表14に示されるように9、

「コンプライアンス」が1位である。

「社会からの信頼の構築」、「企業イ

メージの向上」、「株主からの信頼

の獲得」、「リスク・マネジメント

効果」、「不祥事予防」、「従業員の

誇りの創造」がそれに続く。「株主

からの信頼の低下」、「取引先から

の信頼度の低下」、「倒産防止策」、

「株価の下落」、「コスト増加」、「コ

スト削減」等の項目は、下位項目

となっている。

③「CSR 活動を実践することによ

って生じた変化や効果」

質問は、「CSR 経営を実践される

取引先からの信頼度の低下

株主からの信頼度の低下

株価の下落

倒産防止策

コスト削減

株価の上昇

利益の増大

コスト増加

内部告発の増加

販売促進活動

新しい事業創造

消費者のニーズの発見

顧客の忠誠心の獲得

効率的組織構築

新製品・新サービス開発活動

地域社会からの積極的支援の確保

企業の特定のイメージの確立

株主からの信頼の獲得

優秀な人材の採用・確保

従業員の労働意欲の向上

取引先との良い関係の構築

従業員の誇りの創造

社会からの信頼の構築

不祥事予防

企業イメージの向上

リスク・マネージメント効果

コンプライアンス

図表15 CSR経営実践によって変化や効果があった項目

複数回答のため、合計は100%にならない

その他

内部告発の減少

効率的組織構築

利益の増加

新しい事業創造

顧客の忠誠心の獲得

株価の上昇

従業員の労働意欲の向上

取引先との良い関係の構築

より多くの優秀な人材の

  確保

地域社会に愛されるよう

  になる

従業員の仕事に対する誇

  りの創造

イメージの向上

株主からの信頼獲得

リスク・マネージメント効果

社会からの信頼構築

図表16 今後、期待する効果

複数回答のため、合計は100%にならない

その他

利益獲得のためにCSR

  を実践する

直接、関係ない

利益を犠牲にしても

  いたしかたない

CSRにのっとった

  誠実なビジネス

  を行えば、利益

  はついてくる

利益獲得と同時に

  実現されるべき

図表17 利益とCSRとの関係に対する考え方

9 「関連性はない」=1、「あまり関連性はない」=2、「やや関連性がある」=3、「関連性がある」=4の4件法を使用し、各回答の平均値を計算した。

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高崎経済大学論集 第51巻 第4号 2009

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ようになって、どのような変化や効果がありましたか? 以下の項目それぞれについて、当てはまる程

度を1つ選んで、番号に○印をつけてください」である。

結果は図表15に示されるように10、「コンプライアンス」が1位である。「リスク・マネジメント効果」、

「企業イメージの向上」、「不祥事予防」、「社会からの信頼の構築」、「従業員の誇りの創造」、「取引先と

の良い関係の構築」がそれに続く。「株主からの信頼の獲得」は、10番目に位置し、「株価の下落」、「株

主からの信頼度の低下」、「取引先からの信頼度の低下」等の項目は、下位項目となっている。

④「CSR 経営を実践することによって、今後、期待する効果」

質問は、「CSR 経営を実践することによって、今後、どのような効果を期待していますか? 当ては

まる項目番号をすべて選び、○印をつけてください(複数回答可)」である。

結果は図表16に示すように、「社会からの信頼構築」(9.9%)が1位で、リスク・マネジメント効果」

(8.8%)、「株主からの信頼獲得」(8.7%)がそれに続く。「顧客の忠誠心の獲得」(4.4%)、「新しい事業

創造」(4.3%)、「利益の増加」(4.1%)、「効率的組織構築」(3.5%)、「内部告発の減少」(2.4%)は下位

項目となっている。

⑤「利益とCSRの関係に対する考え方」

質問は、「貴社においては、利益と CSR はどのような関係にあると考えられていますか? 当てはま

る項目の番号をすべて選び、○印をつけてください(複数回答可)」である。結果は図表17に示すよう

に、「利益獲得と CSR は、同時に実現されるべきである」が44.4%で最も高い数値を示している。「CSR

にのっとった誠実なビジネスを行えば、利益はついてくる」が43.0%でほぼ同程度となっている。「CSR

実践のためには、ある程度、利益を犠牲にしてもいたしかたない」が6.0%、「直接、関係ない」が

4.0%、「利益獲得のためにCSRを実践する」が0.7%であり、低い数値にとどまっている。

2.考察

(1)ステイクホルダーへの CSR 活動に関する質問

①「顧客」への CSR 活動に関する質問

「商品・サービスの安全性の重視」、「コンプライアンスの重視」、「品質の向上」、「不祥事が発生

したときの迅速な情報提供と対応」、「商品・サービスについての問題点をも含む正確な説明」等は、

受動的 CSR の範疇の活動といえる。しかし、「ニーズに対応する新製品・新サービスの積極的開発」

のような戦略的 CSR 関係の活動は、実施面が認識面より多少低くなるものの、重視する項目につ

いては4位である。現状では、「品質の向上」、「コンプライアンスの重視」、「商品・サービスの安

全性の重視」「収益性の高い最高の顧客(信奉者)への特別のサービス提供」と比較すると、かな

10 「変化・効果なし」=1、「少しあり」=2、「ある程度あり」=3、「大きな変化・効果あり」=4の4件法を使用し、各回答の平均値を計算した。

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経営戦略の構築と実施における CSR のポジショニング(1)(潜道)

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り数値が低いが、認識としては1位の「商品・サービスの安全性の重視」と比較して大きな差はな

く、今後、伸びてくる可能性もあるといえよう。

また、「顧客」以外の他のステイクホルダーに対する回答でも同様な傾向がみられるが、CSR活

動としての認識や実践と重視する項目の順位が一致していない。この相違が何を意味するのかは今

後、検討を要する点である。

②「株主」への CSR 活動に関する質問

CSR 活動として認識している項目と実施している項目との結果の差については、「顧客」への

CSR 活動と比較し、差のある項目が多く、また、全体的に差の幅が大きい。株主に対する CSR 活

動の難しさが表れているといえよう。例えば、「株価の上昇」や「配当の増大あるいは配当率の向

上」等は CSR 経営の一環として認識されているが、現実には、実践されにくい状況が示されてい

る。

また、CSR 活動として認識している上位項目として、「利益の増大」があげられている。しかし、

これは、実施している活動項目との差の大きな項目でもある。CSR活動を直接的な利益の増大に結

びつけようという認識はあるが、実践は難しいという状況であると考えられる。

③「従業員」への CSR 活動に関する質問

CSR 活動項目の中で重視する項目については、「長期的成長」、「ワークライフバランスの重視」、

「成果を重視した待遇」の順で数値が高かったが、「ワークライフバランスの重視」は、認識と実施

の差が大きい項目であり、今後、企業が積極的に実施していきたいと考えている項目であるといえ

よう。「女性管理職者数の増加」についても、認識と実施の差が大きく、重視での順位も低い。ダ

イバーシティを重視する企業もあるが、状況の変化には時間がかかるといえよう。

「内部告発制度」については、認識においては3位であるが、実践は最も高い数値を示している。

重視項目順位では15位であり、企業としては、十分制度が整い、上位項目と比べると特に重視する

必要がないという判断がある可能性がある。「人権への配慮」についても認識では2位であるが、

重視項目内では6位であり、上位項目と比べると数値も低くなっており、現在の状況で十分である

という認識があると考えられる。

報酬制度に関係のある「成果を重視した待遇」、「成果と年功のバランス」、「年功を重視した待遇」

については、認識では3項目とも下位であるが、順位としては「成果を重視した待遇」、「成果と年

功のバランス」、「年功を重視した待遇」の順となっている。重視項目のなかでは、「成果を重視し

た待遇」が3位となり、成果重視の報酬制度が、今後さらに、CSR 活動として実践されていく可

能性を示している。

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高崎経済大学論集 第51巻 第4号 2009

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④「取引先」への CSR 活動に関する質問

現状では、「海外調達先も含めたサプライチェーン・CSR マネジメントの強い意識」および「取

引先企業の活動の倫理性を頻繁に確認」の項目は、CSR 活動として認識している項目と実施して

いる項目との間で大幅な差を示しているが、重視項目では、これらは4位、6位であり、数値面で

も上位項目と比べるとかなり差がある。したがって、今後、これらの面での CSR 活動が増加して

いくかどうかは不明確であるが、特に、「海外調達先も含めたサプライチェーン・CSR マネジメン

トの強い意識」は、企業のグローバル戦略に関わる項目として重要であると考えられる。

また、「取引先企業の活動の倫理性を頻繁に確認」についても、「海外調達先も含めたサプライチ

ェーン・CSR マネジメントの強い意識」と同様に、企業の社会的責任の範囲が拡大する今日、環

境変化への対応として重視するべき項目であるが、現状では、まだ、実施面は認識面との差が大き

く、また、重視面でもそれほど高いレベルにはない状況である。

⑤「社会」への CSR 活動に関する質問

「正しい納税」が認識項目のなかで1位となっている。「正しい納税」は、前述の受動的 CSRに

おけるコンプライアンスに近い項目という見方もあるが、コンプライアンスが法令遵守を超えた倫

理的側面も含んでいる概念であると考えると、「正しい納税」は当然の義務であり、CSR のピラミ

ッドの枠外という考え方もできよう。

また、認識と実施の差が大きい「自然環境の保全」が、重視項目では「寄付活動や社会貢献活動

プログラムの実施」や「会社の長期的成長」より数値が高く、自然環境保全に対する重視度が高い

ことがわかる。

「NPO との連携」も CSR 活動としての認識と実施の差が大きい項目であるが、重視する項目の

中では低い数値となっており、現状からは、今後、積極的実施がなされる可能性が低いと考えられ

る。

(2)その他の質問

①「経営戦略と CSR との関係」

「経営戦略を策定する際に CSR を取り込む」と回答した企業が多いことから、「社会を良くする

ことで戦略を強化する」レベルである「戦略的 CSR」に到達する可能性があるといえよう。

2位の「経営戦略と CSR は別個に存在」と考える企業は、CSR 活動を熱心に行っても、直接的

に企業側の利益につながらない可能性が高い。活動がまとまりがなく分散的になり、ステイクホル

ダーにとっての印象も断片的なものとなる危険もある。

3位は「CSR は社会貢献活動とほぼ同義」であるが、社会貢献活動は CSR の一形態であると考

えられるが、それが CSR のすべてではない。例えば、顧客に提供する商品やサービスの問題点を

含む正確な説明を行うことや価格を適切なものに維持すること、株主のために迅速に財務情報を提

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経営戦略の構築と実施における CSR のポジショニング(1)(潜道)

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供すること、研究開発費を増大する等、将来への投資を行うこと、従業員に対してワークライフバ

ランスを重視した対応をすること、人権に配慮すること、取引先への迅速な支払いや利益への配慮

等は、CSR 活動といえるが、社会貢献活動の範疇には入らない。

②「CSR 活動と関連性をもつと考えている活動や成果および変化」

日本の社会事情を反映する、「コンプライアンス」や「社会からの信頼の構築」、「企業イメージ

の向上」等が上位を占めており、現状では、CSR 経営において先進的な企業においても受動的

CSR に属する成果を獲得するにとどまっているといえよう。

③「CSR 活動を実践することによって生じた変化や効果」

上位を占める「コンプライアンス」、「リスク・マネジメント効果」、「企業イメージの向上」、「不

祥事予防」、「社会からの信頼の構築」、「従業員の誇りの創造」、「取引先との良い関係の構築」等は、

図表2における「受動的 CSR」および「ステイクホルダーへの倫理的対応」に属する成果である

といえよう。

デービッド・ボーゲル(Vogel, David)は、「企業の社会的責任と収益の関連については、決定

的な結論はでていない」(ボーゲル、p.53)とし、「第一により責任ある行動はすべての企業にとっ

て自己利益に適っており、第二に CSR は常に採算が取れるということの両方あるいは一方でも十

分に証明できたとすれば、すべての企業が増益を図るために、より責任のある行動をとるようにな

るだろう」(ボーゲル、p.61)と述べている。日本企業への CSR 活動についての調査結果からは、

コンプライアンスやリスク・マネジメント等、受動的 CSR を重視し、かつ実践している企業が多

いことが明らかとなっている。しかし、それらの企業の業績までたどったとき、ある企業は利益の

増大を示し、ある企業はコストが増大しただけということになると、利益の増大がCSRという要因

からもたらされたのか、あるいは、他の要因からなのかを決定することはできなくなる。また、ボ

ーゲルの指摘するように、「企業が財務的に成功を収めているのは、他社よりも責任を果たしてい

るからだともいえるし、企業が責任を果たしているのは他社よりも財務的に成功を収めているから

だとも言える」(ボーゲル、p.58)のである。つまり、CSR と利益との相関関係の方向性が不明確

となっている。

さらに、企業の経営環境は、不祥事の多発によるステイクホルダーからの不信感の増大、国内外

での競争の激化、敵対的買収への懸念、機関投資家をはじめとする株主の発言力の増大、資源高問

題、世界的な金融危機等によって厳しいものとなっており、企業としてはステイクホルダーの信頼

を確保し、予測不可能なリスクから自らを守るための方策をとる必要があるといえる。

このようなことから、企業にとっては、CSR は、「受動的 CSR」および「ステイクホルダーへの

倫理的対応」を中心とした活動となっていると考えられる。

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高崎経済大学論集 第51巻 第4号 2009

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④「CSR 経営を実践することによって、今後、期待する効果」

今後、期待する効果についても、上述のような受動的 CSR 効果項目が上位となっている。その

意味では、今後も現在のような「受動的 CSR」および「ステイクホルダーへの倫理的対応」中心

の CSR 活動が実施される可能性がある。

⑤「利益と CSR の関係に対する考え方」

日本企業の CSR 活動は、既述のように現在も今後も「受動的 CSR」および「ステイクホルダー

への倫理的対応」が中心であることが示されているようであるが、多くの回答企業が「利益獲得と

CSR は、同時に実現されるべきである」あるいは「CSR にのっとった誠実なビジネスを行えば、

利益はついてくる」という項目を選択していることから、利益獲得を意識した CSR 活動を実践す

る意思がみられるといえよう。

では、「利益獲得と CSR は、同時に実現されるべきである」と「CSR にのっとった誠実なビジ

ネスを行えば、利益はついてくる」の相違点は何かということであるが、両者の間には、成果の創

造に対する時間的相違があると考えられる。前者は、CSR 活動の成果としての利益獲得をかなり

短期的視点で見ているのに対し、後者は、利益獲得については長期的視点で見ているということで

ある。この違いが実際の成果(利益)の獲得にどのような影響を与えるかについては、「経営戦略

の構築と実施における CSR のポジショニング(2)─「CSR と利益」との関連において─」の因

子分析結果の考察において論じる。

3.単純集計からの結論

以上のことから、回答のあった CSR 度の高い企業は、コンプライアンスのような受動的CSR課

題に成果を出し、そのレベルは達成している企業が多いといえる。また、今後も、受動的CSRやス

テイクホルダーへの倫理的対応中心の CSR を実践していくようにみられる。

しかし、経営戦略と CSR との関係では、現在は全体的に戦略的CSR課題より受動的CSR課題へ

熱心に取り組み、成果をあげているものの、66.4%の企業が「経営戦略を策定する際にCSRを取り

込む」という回答があったことから、今後、戦略的CSR項目へ進んでいく可能性もあるといえる。

さらに、利益と CSR との関係については、「CSRと利益獲得は同時に実現されるべき」あるいは

「CSRにのっとった誠実なビジネスを行えば、利益はついてくる」と考えている企業が多い。この

ことから、収益性に直接影響を及ぼす CSR への認識は多くの企業が有していると考えられる。

(せんどう あやこ・本学経済学部教授)

【付記】本研究は、平成19~20年度 科学研究費補助金(課題番号:19530342)による研究成果の

一部である。

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経営戦略の構築と実施における CSR のポジショニング(1)(潜道)

- 73 -

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