日経225株価指数のモデル・フリー・インプライ ド...
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日経225株価指数のモデル・フリー・インプライド・ボラティリティ の計算方法に関して~ボラティリティ予測力の観点から~*
山 口 圭 子†
1 はじめに オプションの理論価格の導出に用いられるブラック・ショールズ(BS)モデ
ルではボラティリティを満期まで一定であると仮定するので、ボラティリティが
変動する場合、BSモデルを用いて計算したインプライド・ボラティリティ
(BSIV)にはバイアスが生じる。そこで、より弱い仮定(stochastic volatility(SV)
diff usion model)の下で定義できるモデル・フリー・インプライド・ボラティリティ
(MFIV)が提案され(Britten-Jones and Neuberger(2000))、近年注目を集め
ている1)。実際、シカゴ・オプション取引所(Chicago Board Options Exchange)
のボラティリティ・インデックス(VIX)では、S&P500指数のMFIVが採用され
ている。このMFIVは理論的には以下の式で与えられる。
( )( , ) ( , )
exp rTK
P T KdK
KT K
dKC
2F
F2
02
0
0+
3
< F# # (1)
ただし、r は無リスク金利で一定と仮定し、K は権利行使価格、T は残存期間、P はプットオプション価格、C はコールオプション価格、S0 を時点0での原資産
価格、 ( )expF rT S0 0= は満期T をもつ時点0でのフォワード価格である。MFIV
* 本論文の作成にあたり一橋大学経済研究所渡部敏明教授、同大学大学院経済学研究科田中勝人教授に多岐にわたりご指導していただいた。また、査読者には、丁寧な査読のうえに不備な点のご指摘と有益なご意見をいただいた。ここに記して謝意を表す。本論文は一橋大学経済研究所21世紀COEプログラム「社会科学の統計分析拠点構築」および文部科学省特別研究促進費「高頻度データを用いた日本の証券市場の計量分析」より助成を受けている。尚、本論文における責任は全て筆者に帰するものである。
† 一橋大学大学院経済学研究科博士課程1) Jiang and Tian(2005)はジャンプを加えているが、ここでは簡単化のため、ジャンプはないものとして説明する。
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はプットもしくはコールのみでも計算できるが、いわゆる in-the-moneyでのオ
プションは流動性が低いので、通常、(1)式のようにout-of-the-moneyのプット
とコールを合わせて計算される(Nakamura and Shiratsuka(1999)を参照)。
なお、ここではプット・コール・パリティが仮定されており、(1)式は現在から
満期までのボラティリティに関するフォワード中立測度の下での期待値を表す。
実際には、市場で取引されている権利行使価格の数は限られているので、(1)式
は近似して計算しなければならない。Jiang and Tian(2007)は、VIXの計算方法
では近似誤差が大きいことをシミュレーション実験により指摘し、Jiang and Tian
(2005,2007)でより正確に計算する方法を提案している。具体的には、市場で
観測されたオプション価格をBS公式に代入することによりインプライド・ボラ
ティリティ(IV)を逆算し、このIVをスプラインによって補間・外挿する。これ
ら補間・外挿されたIVの値を再びBS公式に戻し、実際には市場で観測されてい
ない権利行使価格に対応するオプション価格を求める。そうすることにより、(1)
式の被積分関数の近似誤差をより小さくし、より正確に計算するという方法である。
MFIVの日本のデータへの適用例は少ないがNishina et al.(2006)、Maghrebi
(2007)が挙げられる。彼らは、日経225オプション価格からVIXの方法で
MFIVを求めている。しかし、S&P500指数に比べて利用できる権利行使価格の
数が少ないので、Jiang and Tian(2007)の指摘の意義はより大きいように思わ
れる2)。そこで、何らかの方法により、VIXの計算法によるインプライド・ボラ
ティリティ(IV-VIX)とJiang and Tian(2005,2007)の計算法によるインプ
ライド・ボラティリティ(IV-JT)を比較したい。
ボラティリティの推定値としては、オプション価格から逆算されるインプライ
ド・ボラティリティ(IV)の他にも、日中リターンの2乗和で計算されるRealized
Volatility(RV)が知られている。Jiang and Tian(2005)では、S&P500指数に
おけるRVの予測に関して、MFIVがBSIVと比べて追加的な情報を含んでいる
ことを明らかにしている。そこで、本研究では、日経225オプション価格からIV-
2) 後述の渡部(2007b)、山口(2007)では、Jiang and Tian(2005,2007)の方法で算出している。
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VIXとIV-JTをそれぞれ計算し、RVの予測力を比較した。具体的には、RVの長
期記憶性と非対称性を考慮したARFIMAXモデル(渡部・佐々木(2006)、渡部・
山口(2007)を参照)に外生変数としてIV-VIXとIV-JTを加えたモデルをそれ
ぞれ用いた。その結果、IV-JTはIV-VIXと比較して、1期先のRVに対してより
多くの追加的な情報を含んでいることが分かった。
本論文は以下のような構成となっている。まず2節では、利用したデータにつ
いて述べ、IV-VIX、IV-JT、そしてRVの計算方法について説明する。次に3節
では、分析に使用するARFIMAXモデルについて説明し、データからモデルの
パラメータ推定を行い、予測パフォーマンスの比較を行った。最後に4節では、
本論文をまとめるとともに今後の課題を述べる。
2 ボラティリティの推定2.1 利用したデータ RV、IVは日経225株価指数のティックデータと日経225株価指数オプション
のティックデータを用いて、年末・年始を除く1997年1月7日から2006年3月31
日まで(サンプルサイズは2255)の日次データで算出した。
まず、IVの計算に利用したデータについて説明する。満期に関しては、翌月
が限月のものを用いた。日経225株価指数オプションの権利行使価格は500円ご
とである。bid-ask bounceを避けるために、約定価格ではなく、bidとask価格の
平均値を使用した。ティックデータは1分ごとに記入されている。MFIVを精密
に算出するには権利行使価格の数がたくさん必要であり、14:00から15:00 の
取引量が多いためこの時間帯のデータを取り出した。大阪証券取引所のオプショ
ン取引の終了時刻は15:10だが、東京証券取引所の現物取引の終了時刻は15:
00であるのに合わせて、15:00以降のデータは用いない。各権利行使価格ごとに、
同一時刻でbidとaskの両方揃っているものの中から、15:00に一番近いものを
使う。原資産の日経平均はオプションのデータと同一時刻のものを取り出した。
また、無リスク金利には1ヵ月物譲渡性預金(CD)を用いた。
次にRVについてであるが、日経225株価指数の5分ごとのリターンを利用した。
データベースには3)9:01から前場の終わりまでと12:30から後場の終わりまで
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の1分ごとの価格が記録されている。前場の終わりは11:00、後場の終わりは
15:00であるが、取引された時刻でなく日経225が計算され送信された時刻が記
録されているので11:00や15:00を超える時刻が記録されていることが多い。
ここでは11:00の価格には前場の終値を、15:00には後場の終値を用いた。そ
して、前場の9:01, 9:05, . . . , 11:00と後場の12:31, 12:35, . . . , 15:00
を5分ごとの価格として取り出し、その対数階差を100倍することにより5分ご
とのリターンを計算した。
2.2 VIXによる方法 2005年12月1日を例にして説明する。まず、フォワード価格(F0)の計算に用
いるat-the-money 権利行使価格(K0)を選択する。コールオプション価格とプッ
トオプション価格の差 ( , ) ( , )C T K P T K- の絶対値が最小になっているところを
at-the-money 権利行使価格とする。表1は、限月が翌月のもの(1ヵ月もの)の
オプションであり、15000円で ( , ) ( , )C T K P T K- の絶対値が最小になっている。
フォワード価格は以下の式より算出する。
( ) ( ( , ) ( , ))expF K rT C T K P T K0 0 #= + - (2)
次に、計算に用いるオプション価格Qを選択する。表2にあるように、 >K K 0
の場合はコールオプションを、 <K K 0の場合はプットオプションを用いる。K K 0=
のところでは、コールオプション価格とプットオプション価格の平均を用いる。
以下の式からVIXを求めることができる。
( )T K
Ke Q K
T KF2 1 1
i
i T
i
M
ir2
21 0
02
= - -v D
=
< F! (3)
ここで、権利行使価格はM個あるとし、
,,
,<K
K K
K K
ii M
i M
12i
K K
M M
2 1
2
1
i i1 1 #=
-
-
=
=
D -
-
+ -
Z
[
\
]]
]](4)
3) 日経NEEDSティックデータ
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である。
2.3 Jiang and Tian(2005,2007)による方法 市場で取引されている権利行使価格の数は限られているので、(1)式の無限積
分の項は次式のように近似して計算しなければならない。
表1 At-the-money 権利行使価格(K0)権利行使価格 CALL価格( ( , ))C T K PUT価格( ( , ))T KP ( , ) ( , )C T K T KP-
12500 - 1.5 -13000 2030.0 2.5 2027.513500 1625.0 8.5 1616.514000 1080.0 27.5 1052.514500 690.0 92.5 597.515000 357.5 255.0 102.515500 147.5 572.5 -425.016000 52.5 - -16500 17.5 1440.0 -1422.5 17000 3.5 - -
表2 計算に用いるオプション権利行使価格(K) オプション 価格(Q)
12500 PUT 1.5013000 PUT 2.5013500 PUT 8.5014000 PUT 27.5014500 PUT 92.5015000 PUTとCALLの平均 306.2515500 CALL 147.5016000 CALL 52.5016500 CALL 17.5017000 CALL 3.50
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(5)( , ) ( , ) ( , ) ( , )K
P T KdK
KC T K
dKK
P T KdK
KC T K
dKF
F F
F
F
F
20
2 2 2L
U0
0
0
0.+ +
3
# # # #
ただし < , <F F0 L U 3である。図1は(5)式の被積分関数を図示したものである。
被積分関数は正であるので負のバイアスが生ずる。また、被積分関数は下に凸で
あるので、離散近似することにより過大評価される。さらに、VIXの場合は、図
1にあるようにF0 でなくK0 で平均をとっており、そのことからも誤差が出てく
る。Jiang and Tian(2007)は、VIXの計算方法はボラティリティ が大きいとき
には切断誤差が大きく過小推定され、ボラティリティ が小さいとき離散誤差が
大きく過大推定されることを、シミュレーション実験により明らかにした。
Jiang and Tian(2005, 2007)はスプラインで外挿・補間することにより精密
に計算することを提案した。図2は権利行使価格ごとのBSIVとそのスプライン
補間を図示したものである。被積分関数よりもスマイル関数( ( )IV f K= )のほ
うが滑らかであるので、Jiang and Tian(2005, 2007)は一度BSIVを計算しスマ
イル関数を補間してからオプション価格に戻している。以下では、その方法を順
に説明する。いま、権利行使価格の異なるオプションがN個利用できるとし、昇
図1 非積分関数
山口圭子・日経 225株価指数のモデル・フリー・インプライド・ボラティリティ の計算方法に関して~ボラティリティ予測力の観点から~ ( )
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順に ,...,K K N1 とする。
まず、補間方法についてである。BS公式を使って ( )K iv 、 ,...,i N1= を計算し、
natural cubic spline で補間して、IVの関数 ( )f K を求める。 ( )f K は滑らかなので
3次関数で十分である。
次に外挿方法についてである。外挿方法としては2通り提案されている。Jiang and
Tian(2005)では定数で近似、つまり、 <K K 0のところは ( ) ( )f K K 0/ v 、 <K KN
のところは ( ) ( )f K K N/ v としている。それに対して、Jiang and Tian(2007)
では端においてスプラインに接するような1次関数を用いている。1次関数の傾
きは一般には不明であり、ボラティリティが負になる可能性もあるので、ここで
は定数で近似した。また、Jiang and Tian(2005、2007)ではシミュレーション
実験により、離散和の範囲を SDF 30 ! とれば十分であると示しているので、こ
こでもそれに従い >( )3SDK F0 0- 、 ( )< 3SDFK N 0+ の場合は外挿を行う。ただし、
SDは原資産の標準偏差である。真のSDはわからないので、at-the-moneyのBSIV
で代用した。
最後に、積分を離散和で近似する。まずKを分割する。簡単化のため、hを正
の整数とする。 , ,K F K K0 0 1 1= -t t t はF0 に近いhで割り切れるものとする。それ以
図1 非積分関数
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外は以下のようにした。
, , , . . .
, , , . . .3
K F j j
K F j j
2 3
2
j
j
1
1
= + =
= + =- -
h
h-
t
t
hを小さくとることにより、積分のところの誤差を小さくできる。ここでは 50=h
とした。また、 ( , )C T KEXj
t と ( , )T KP jEX t をそれぞれK j
t でのコールとプットのオ
プション価格とする。MFIVは以下の式より得られる。
( )( , ) ( , )
( , ) ( , )
exp rTK
K
P T K
K
P T K
K
K
C T K
K
C T K
2 2
2 >
j
j
EXj
j
EXj
j
j
j
EXj
j
EXj
j
21
2
1
0
21
2
1
0
+
+ +
D
D
# -
-
-
-
t
t
t
t
t
t
t
t
t
t
R
T
SSS
R
T
SSS
V
X
WWW
V
X
WWW
*
4
!
!
ここで、
K K Kj j j 1= -D -t t t
とする。
2.4 Realized Volatility 第 t日の日中のn個のリターンデータ( , ,..., )r r r/ ( )/t t n t n n1 1+ + - が与えられたとき、
それらをすべて2乗して足し合わせた
RV r /t t i ni
n2
0
1
= +
=
-
! (6)
を第 t日の Realized Volatility(RV)という。資産価格の対数値 ( )ln S t が
( ) ( ) ( ) ( )lnd S t t dt t dW t= +n v (7)
に従っているとする。ここで、W(t)はウイナー過程である。すると、第 t日の
真のボラティリティは
( )s dstt
t2 2
1
=v v+
# (8)
山口圭子・日経 225株価指数のモデル・フリー・インプライド・ボラティリティ の計算方法に関して~ボラティリティ予測力の観点から~ ( )
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で定義される。
(6)式で定義されるRVは、n " 3とすると、 t2v に確率収束するので、nが十
分大きいなら、RVtは真のボラティリティ t2v の精度の高い推定量となる。ただし、
nを大きくするとRVに含まれるマイクロストラクチャーノイズ(非同時取引、
bid-ask bounce、無取引 など)の影響が大きくなることが知られている。そこで、
先行研究では5分ごとの価格を使ってRVを計算しているものが多い。ここでも、
5分ごとのリターンを用いた。
次に、夜間や昼休みの取り扱いについて説明を加える。第t日のボラティリティ
を t 1- 日の終値から t日の終値までのボラティリティと定義すると、 t 1- 日の
終値から t日の始値までの間も考慮に入れなければならないが、その間は取引が
ないので、5分ごとのリターンを計算することができない。日本の株式市場では
昼休みがあるので、その間も同様である。こうした夜間や昼休みのリターンは時
間間隔が長いので、それらをそのまま2乗して加えるのは望ましくない。しかし、
それらを無視すると、ボラティリティを過小評価してしまう。そこで、Hansen
and Lunde(2005)は、夜間や昼休みのリターンの2乗を除いてRV を計算し(そ
れをRV ( )toと表す)、それに日次リターン ,...,R RT1" ,の標本分散とRV ( )
toの標本平均
との比率( )
cRV
R R( )to
t
T
tt
T
1
1
2
=-
=
=
r
!!
(9)
を掛けるという方法を提案しており、この方法を採用する。ここで、Rrは日次リ
ターン ,...,R RT1" ,の標本平均を表す。日次リターンは日経225株価指数の日次変
化率(%)であり、終値の対数階差を100倍して求めた。
3 パラメータ推定と予測3.1 モデル 株式市場では株価が下がった日の翌日の方が株価が上がった日の翌日と比べて
ボラティリティがより上昇する傾向があり、また、前節で導入したRVはある種
の長期記憶過程に従っていることが知られている。これら2つの現象と整合的な
モデルとしては、ARFIMAX(Autoregressive Fractionally Integrated Moving
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Average with exogenous variable)モデルがある。ここでは外生変数として Rt 1-
を用いることにより、
( ) ( ) ( )lnL RV R D R L1 1dt t t t t0 1 1 2 1 1- - - - = +n n n i f- -
--# - (10)
と定式化することができる4)。ここで、 , ,0 1 2n n n も未知パラメータである。L
はラグ・オペレータであり、反転可能性 < 1i の制約をおく。また、D t 1-- は
R 0t 1 $- であれば0、 <R 0t 1- であれば1となるダミー変数である。そこで、( )ln RVt のRt 1- を条件とする期待値は、
( )( ) <
,,
lnE RV RR R
R R0
0t t
t t
t t1
0 1 1 1
0 1 2 1 1
$=
+
+ +
n nn n n
-- -
- -
7 A * (11)
となる。そこで、 > 02n であれば、価格が上がった日の翌日よりも価格が下がっ
た日の翌日の方がよりRV が上昇する。渡部・佐々木(2006)は、将来のボラティ
リティを予測する上で、このモデルのパフォーマンスが高いことを示している。
また(10)式に ( )ln IV t 1- を外生変数に加えた
( ) ( ) ( )
( )
ln lnL RV R D R IV
L
1
1
dt t t t t
t
0 1 1 2 1 1 1- - - - -
= +
n n n o
i f
- --
- -# - (12)
というモデルも考える。ここで、IVとしては、Jiang and Tian(2005,2007)の
方法(以下、JT)によるものとVIXの2つの場合を考える。それぞれ、
ARFIMAX-JT、ARFIMAX-VIXと表す。
3.2 推定結果 サンプル期間は大発会・大納会を除く、1997年1月7日から2006年3月31日ま
でである(リターンとIVは0期目としてその前営業日から用いた)。(9)式のcの
値は1.757であった。
4) 最初の1200期の標本を使って、SIC によってARFIMAX( , ,p d q)モデルの次数選択を行った結果、 ,p q0 1= = が選択された。
山口圭子・日経 225株価指数のモデル・フリー・インプライド・ボラティリティ の計算方法に関して~ボラティリティ予測力の観点から~ ( )
39
39
表3から表5は、最初の1200期のデータによる推定結果である。いずれの場合も、dは有意に0より大きく、長期記憶性があることがわかる。また、有意に0.5より
小さいとはいえないので、定常とも非定常とも言えない。表3では ,1 2n n いずれ
も有意に正であり、価格が上がった日の翌日よりも価格が下がった日の翌日の方
がよりRV が上昇することがわかる。それに対して、表4、表5では、いずれも,1 2n n は有意ではない。さらに、表4ではoも有意でない。
3.3 予測 1期先のRVの予測値は次のように計算した。まず、1期から1200期までの標
本を使ってパラメータをBeran(1995)の近似最尤法(approximate maximum
likelihood method)によって推定し,その下で1201期のRVの予測値 RV 1201% を計
算する。次に、2期から1201期のまでの標本を使って同様にパラメータを推定し、
その下で1202期のRV の予測値 RV 1202% を計算する。以上を繰り返すことにより、
各モデルについて1055個のRVの1期先予測値 ,...,RV RV1201 1205$ .% % を計算した。
表3 ARFIMAX(0, d, 1)d i n 1n 2n
推定値 0.4982 -0.2213 0.9209 0.0326 0.0679標準誤差 0.0604 0.0769 0.2216 0.0178 0.0169
表4 ARFIMAX(0, d, 1)+ JTd i n 1n 2n o
推定値 0.4620 -0.1378 0.9037 0.0057 0.0043 0.1246標準誤差 0.0578 0.0783 0.2364 0.0143 0.0163 0.0933
表5 ARFIMAX(0, d, 1)+ VIXd i n 1n 2n o
推定値 0.4627 -0.1405 0.8482 0.0050 0.0047 0.1926標準誤差 0.0580 0.0788 0.2371 0.0142 0.0159 0.0931
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Giot and Laurent(2003)、Koopman et al.(2005)、渡部・佐々木(2006)等
の先行研究に従い、正規分布を仮定する。 t 1- 期における t期のRVの予測値
RV%
t t 1- は対数正規分布の性質より以下のとおりである5)。
( ( ) ) ( ( ) )I Iexp ln lnRV E RV Var RV21
t tt t t t
11 1= +
-- -< F
% (13)
ここで、 ( ( ) I ), ( ( ) )Iln lnE RV Var RVt t t t1 1- - はそれぞれ t 1- 期における ( )ln RV
の期待値と分散を表す。
ボラティリティの真の値は観測できないので、これまで代理変数としてリター
ンの2乗を用いることが多かった(渡部(2000)2.3.3 節参照)。しかし、RVは
ボラティリティの精度の高い推定量であるため、Andersen and Bollerslev(1998)
以降、ボラティリティの予測精度を比較する場合には、ボラティリティの真の値
の代理変数にもRVを使うようになってきており、ここでもそれに従った。
ボラティリティ予測のパフォーマンスを測る指標には、先行研究に従い、以下
のRMSE(root mean squared error)、RMSPE(root mean squared parcentage
error)、MAE(mean absolute error)、MAPE(mean absolute parcentage
error)を用いる。
RMSE ( )
P
MAE
MAPE
RV
RMS ERV
RV
RV
RVRV
10551
10551
10551
10551
t t tt
t
t t t
t
t t tt
t
t t t
t
12 2
1201
2255
12 2
1201
2255
12
1201
2255
12
1201
2255
= -
=-
= -
=-
v
v
v
v
-=
-
=
-=
-
=
t
t
t
t
d n
!
!
!
!
表6に計算結果をまとめた。渡部・山口(2006)では、RVのARFIMAXモデ
ルに説明変数としてBSIV を加えると、むしろ予測精度が低下するという結果が
示されているが、ここでは逆で、指標に関わらずIVを入れたほうが予測パフォー
5) 対数正規分布には再生性がないので、先行研究でも簡単化のため1期先予測のみ行われている。
山口圭子・日経 225株価指数のモデル・フリー・インプライド・ボラティリティ の計算方法に関して~ボラティリティ予測力の観点から~ ( )
41
41
マンスが改善するという結果が得られた。 また、すべての指標で、JTはVIXよ
りも予測パフォーマンスが上回っており、1期先のRVに対してより多くの追加
的な情報を含んでいることが分かった。
4 まとめ 本稿では、日経225株価指数RVをARFIMAXモデルでモデル化し、それに外
生変数としてVIXの方法によるIVとJiang and Tian(2005,2007)の方法によ
るIVを加えて、予測パフォーマンスを比較した。その結果、Jiang and Tian(2005,
2007)の方法によるIVはVIXの方法によるIVと比較して、1期先のRVに対し
てより多くの追加的な情報を含んでいることが分かった。このことは、Jiang
and Tian(2007)がVIXの計算方法では近似誤差が大きいと指摘したことと整
合的である。
RVの計算方法に関しては、マイクロストラクチャー・ノイズによるバイアス
を修正法がいろいろと研究されている。例えば、Zhang et al.(2005)、Zhang
(2006)の方法は、異なる時間間隔のリターンを用いてRVを計算し、それらの
加重平均をとるというものである。RVの計算方法の違いに対して、予測比較の
結果がロバストかどうか確かめることは今後の課題である。
[参考文献]
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