経済分析 - ESRI経済分析 第149 号 平成9 年3 月 ☆わが国経済成長と技術特性...

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経済分析 149 号 平成 9 3 わが国経済成長と技術特性 経済企画庁経済研究所 編集

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経済分析

第 149 号 平成 9 年 3 月

☆わが国経済成長と技術特性

経済企画庁経済研究所 編集

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本 誌 の 性 格 に つ い て

本誌は,研究所員の研究試論である。この種の成果は,研究所内部においても検討中のものであ

るが,現在研究所でどういう研究が進行しつつあり,どういう考え方が生まれつつあるかを外部の

方々に知っていただくと同時に,きたんのない批判を仰ぐことを意図するものである。そのため

に,掲載は研究員個人の名義であり,研究所としての公式の見解ではないことを含まれたい。

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経 済 分 析

第 1 4 9 号

平成 9 年 3 月 経済企画庁経済研究所

目 次 <分析>

わが国経済成長と技術特性

要 約………………………………………………………………………………………………2

1 はじめに………………………………………………………………………………………… 6

1.1 問題の所在と本書の構成……………………………………………………………… 6

1.2 日本経済の成長の軌跡………………………………………………………………… 9

2 成長要因の分解…………………………………………………………………………………11

2.1 集計レベル純産出指数の算定…………………………………………………………11

2.2 労働・資本の集計指数の算定…………………………………………………………14

2.3 技術進歩率の集計指数…………………………………………………………………15

2.4 日本経済の成長の要因分解……………………………………………………………18

3 経済成長理論の展望……………………………………………………………………………24

3.1 新古典派成長モデル-ソロー・モデル………………………………………………24

3.1.1 新古典派的生産関数……………………………………………………………24

3.1.2 ソローの新古典派成長モデル…………………………………………………25

3.2 稲田条件と内生的成長…………………………………………………………………27

3.3 外部性と内生的成長-資本蓄積のスピルオーバー効果……………………………30

3.3.1 ソロー・モデルと内生的成長…………………………………………………33

3.3.2 最適成長モデルと内生的成長…………………………………………………35

4 静学的スピルオーバー効果と技術特性………………………………………………………42

4.1 静学的スピルオーバー…………………………………………………………………42

4.2 技術連関構造と三角化…………………………………………………………………43

4.3 生産性波及構造の分析枠組み…………………………………………………………48

5 技術波及の構造と素原材料系統……………………………………………………………51

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5.1 わが国産業構造の変化とスカイライン図……………………………………………51 5.2 素原材料系統の生産性 1%の変化とその部門間波及効果…………………………54 6 素原材料系統と生産性波及……………………………………………………………………61 6.1 各産業部門の生産性変化と主な特徴 (1960-85)…………………………………… 61 6.2 素原材料系統の生産性変化と実測によるその直接・間接コスト削減効果 (基準年構造)…………………………………………………………………………63 6.3 構造調整と生産効率効果………………………………………………………………69 7 生産性波及の動学効果…………………………………………………………………………74 7.1 動学的スピルオーバー…………………………………………………………………74 7.2 動学的生産性波及の分析枠組み………………………………………………………74 7.3 動学的スピルオーバー効果の測定……………………………………………………76 8 おわりに…………………………………………………………………………………………90 参考文献………………………………………………………………………………………………93 ワークショップにおけるコメント…………………………………………………………………96 Abstract …………………………………………………………………………………………97

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表目次

1 日本経済の成長要因の分解……………………………………………………………………20

2 ディビジア指数 (1970 年=1.0):日本の経済成長の要因 ………………………………21

3 集計的生産関数仮定による要因分解…………………………………………………………22

4 GDP の成長と構造変化バイアス……………………………………………………………23

5 商品ブロック分類とその略表示………………………………………………………………45

6 D、 H、 I ブロックの TFP1%上昇による直接・間接コスト削減効果 (1960

年構造) …………………………………………………………………………………………58

7 D、 H、 I ブロックの TFP1%上昇による直接・間接コスト削減効果 (1975

年構造) …………………………………………………………………………………………59

8 D、 H、 I ブロックの TFP1%上昇による直接・間接コスト削減効果 (1985

年構造) …………………………………………………………………………………………60

9 ブロック別全要素生産性成長率の時系列推移………………………………………………62

10 1960-65 年の D、H、I ブロックの TFP 変化による直接・間接コスト削減効果

(1960年構造)……………………………………………………………………………………64

11 1965-70 年の D、H、I ブロックの TFP 変化による直接・間接コスト削減効果

(1965年構造)……………………………………………………………………………………65

12 1970-75 年の D、H、I ブロックの TFP 変化による直接・間接コスト削減効果

(1970年構造)……………………………………………………………………………………66

13 1975-1980 年 D、H、I ブロックの TFP 変化による直接・間接コスト削減効果

(1975年構造)……………………………………………………………………………………67

14 1980-85 年 D、H、I ブロックの TFP 変化による直接・間接コスト削減効果

(1980年構造)……………………………………………………………………………………68

15 D 一次金属工業ブロックの静学的・動学的スピルオーバー効果の時系列推移…………80

16 H 素原材料ブロックの静学的・動学的スピルオーバー効果の時系列推移………………82

17 I 第 2 次エネルギー製品ブロックの静学的・動学的スピルオーバー効果の時系

列推移……………………………………………………………………………………………84

18 (b 5 )電子機械装置ブロックの静学的・動学的スピルオーバー効果の時系列推

移…………………………………………………………………………………………………86

19 (b 5 )電子機械装置ブロックの静学的・動学的スピルオーバー効果の時系列推

移:生産性上昇の実測による波及効果………………………………………………………88

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図目次

1 ソローの新古典派成長モデル…………………………………………………………………26

2 AK (資本増加的技術進歩) モデル…………………………………………………………28

3 CES 生産関数とソロー・モデル……………………………………………………………29

4 社会的生産関数…………………………………………………………………………………32

5 外部経済と内生的成長…………………………………………………………………………34

6 資本の社会的限界生産性が逓減的なケース (最適成長モデル) …………………………38

7 1960 年における三角化と投入係数プロット…………………………………………………46

8 1985 年における三角化と投入係数プロット…………………………………………………47

9 Ip (構造調整指数 ) モデル……………………………………………………………………49

10 1960、1965、1970 年のスカイライン図……………………………………………………52

11 1975、1980、1985 年のスカイライン図……………………………………………………53

12 ブロック (D) の TFP1%変化の波及……………………………………………………56

13 ブロック (I) の TFP1%変化の波及……………………………………………………57

14 雇用係数変化による構造調整効果……………………………………………………………70

15 資本係数変化による構造調整効果……………………………………………………………71

16 中間投入係数変化による構造調整効果………………………………………………………72

17 輸入係数変化による構造調整効果……………………………………………………………73

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わが国経済成長と技術特性**

櫻本 光 *

新保 一成 *

菅 幹雄 *

貝沼 直之 *

平下 克己 *

浦島良日留 *

二宗 仁史 *

* 櫻本光 (経済企画庁経済研究所客員主任研究官、慶応義塾大学商学部教授 )、新保一成 (同客員研究

員、慶応義塾大学商学部助教授 )、菅幹雄 (同部外協力者、東海大学教養学部助手 )、貝沼直之 (同委嘱

調査員、第一生命保険 )、平下克己 (同委嘱調査員、東海銀行 )、浦島良日留 (同委嘱調査員、明治生命

保 険 )、 二 宗 仁 史 (同 委 嘱 調 査 員 、 東 洋 信 託 銀 行 )。 ** 本稿の作成にあたっては、吉川淳元所長、澤田五十六元所長、小島祥一前所長をはじめとする経済企画

庁経済研究所の方々から様々な支援と有益なコメントを頂戴した。また 1993 年度環太平洋産業連関学会

において時子山ひろみ日本女子大学教授より貴重なコメントを頂いた。さらに研究報告を発表するにあた

り、1995 年に開催されたワークショップにおいて清水雅彦慶応義塾大学経済学部教授、江崎光男名古屋

大学大学院国際開発研究科教授よりコメンテイターとして大変貴重なコメントをいただいた。また、この

間、幸運にも多数の企業訪問の機会が得られ、これら企業の方々のご協力で、現実の技術革新を知ること

ができた。記して感謝申し上げる次第である。

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わが国経済成長と技術特性 要約

1.研究目的 本研究の目的は、1960 年から 1990 年までの我が国の経済成長の特性を技術進歩ないしは生産性向上の

部門間波及という観点から実証的に明らかにすることである。この課題を取り上げたのは、近年の経済理

論、特に経済成長理論の分野における "New Growth Theory" と言われている新たな展開 (内生的経済成

長理論に代表される ) に触発されたことと、我が国経済が転機を迎えた石油危機以降の観察事実を加え、

従来の分析の成果を再構成することの必要性を感じた為である。本研究の具体的内容は、まず第 1 に我が

国の産業連関表を用いた産業部門別生産性上昇の測定とその要因分解を行ったことであり、第 2 に個別産

業部門の生産性上昇が、産業間の相互依存関係を通じて,他産業部門の生産性に与える効果の計測を行っ

たことである。 2.分析上の主な特徴 I ) 産業部門の三角化 (T r i a n g u l a r i z a t i o n ) 産業連関表において、中間財を生産する産業部門(内生部門)の順序を、加工度の高い製品 (最終財) を生産する産業から加工度の低い製品 (中間財特に基礎素原材料) を生産する産業の順に再配列することを

三角化とよぶ。三角化による再配列を行うと,最終財は中間財として他の商品生産に投入されることが少

なく、逆に下部の中間素材は多くの商品生産に中間財として投入されるかわりに、最終財として需要され

る可能性が少ないことが観察される。つまり、ある産業の生産性上昇効果の産業波及効果は一方向であり、

加工度の高い産業の生産性上昇は加工度の低い産業に影響を与えないが、逆に加工度の低い産業の生産性

上昇は加工度の高い産業に影響を与えることがわかる。 I I ) 商品の相互依存関係における特性 商品の配列を三角化により再配列するといくつかのブロックに分けることができる。そのブロック相互

の中間投入はある種の独立性をもっていることが確認される (ブロック独立性) 。ここでは、12 の大ブロ

ックに統合される 50 の商品ブロックに分割することができた[表 5、45 ページ ]。また、12 の大ブロック

及び 50 の小ブロック間に、その中間投入の構造を通じて、ヒエラルキーの成り立つことを確認できる(ブロック間逐次性)。さらに、各ブロック内では、三角化の順序に従って、下部の商品から上部の商品にブロ

ック内での逐次性が観察される(ブロック内逐次性)。 I I I ) 技術進歩の測定 技術進歩を全要素生産性(Total Factor Productivity)の生産性の変化率と定義し、1960 年から 1990 年の

期間について、50 部門の TFP を計測した。 3.分析結果 I ) 我が国経済の成長要因の特性 (1960 年から 1985 年) 資本投入の成長への貢献は、54%程度で、投入要素の内でもっとも大きく、資本投入の成長率 7.6%は

産出の成長率 6.8%を上回っていた。労働投入の成長への貢献は13%程度であり、年率 1.7%程度の平均伸び

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率を示している。それは、マン・アワーベースの労働力人口の上昇約年率 1.0%程度と労働の質の向上率

0.7%に分解される。技術進歩率は、年率 2.2%程度の平均変化率を示しており、成長に対する寄与も 33%程度と大きい。1975 年以降の技術進歩率の下降は著しく、低成長の一つの要因となっている。 I I ) 技術進歩ないし生産性向上の静学的スピルオーバー効果 ある産業の産出財の価格上昇率は、投入要素のウェイトとその要素の価格上昇率の総和から当該産業の

技術進歩率を差し引いたものになっている。すなわち、 ある産業の産出財の価格上昇率 = 各投入財のウェイト×それぞれの価格上昇率 +労働投入のウェイト×労働価格上昇率 +資本投入のウェイト×資本価格上昇率 -技術進歩率 である。ある産業の産出財は他の産業の投入財になっていることから、この関係を用いてある産業におけ

る技術進歩が最終的にどのように他の産業の産出財の価格低下に寄与したかを明らかにすることができる。

ここでは、この効果のことを静学的スピルオーバー効果" と呼ぶことにする。以下、産業別に他産業への

寄与を整理してみる。 1.鉱物原料部門( h 1 )の生産性向上 一次金属ブロック(D)、とりわけ粗鋼(d3)、フェロアロイ(d4)や非鉄金属部門 (d5)に直接的影響をお

よぼし、間接的には、より上部の最終財ブロックである自動車 (b2)、一般機械 (b3)、電気機械 (b4)や電子機械装置部門(b5)にも影響を与えている。

2.窯業土石原料部門( h 2 )の生産性向上

窯業・土石製品(F)や建設業部門 (A)の生産コスト削減に寄与しており、特に窯業・土石製品や建設ブ

ロック自身の生産性が悪化している期間においてさえ、コスト削減に大きな影響を及ぼして、悪化の

影響を相殺している。

3.農業生産物( h 3 )や畜産生産物( h 5 )の生産性向上 生産性は必ずしも向上していない。これらの部門の生産性の悪化は、明かにその上部構造に位置す

る商品群の生産コストに悪影響を及ぼしている。特に、その他製造業 (c1)、食料品製造業(E)やゴム

皮革製品(g4)への影響が大きい。

4.天然繊維原料部門( h 6 )の生産性向上 1970-75 年の期間を除く 1960-85 の生産性の悪化の影響は、その上部の最終財商品、特に衣服製造

(g1)や繊維製品(天然繊維)部門などのコスト削減にはよい影響を与えていない。

5.木製品素材( h 7 )の生産性向上 生産性の成長率は、1965-1980 年の期間、負の値をとっており、その系統の上部商品、特に紙パル

プ(g5)、合板(c2)や建設業(A)には影響が大きい。

6.石炭鉱業部門( h 8 )の生産性向上(1 9 7 0 年以前) その上部商品への影響を大きくしている。特に一次金属工業ブロック(D)、粗鋼部門(d3)の生産性の

改善を通じた一般機械ブロック(B)の生産性向上に寄与するところが大きい。

7.石油製品・天然ガス部門( h 9 )の生産性向上 2 次エネルギー部門を通じてほとんどの商品部門の生産性に波及している。

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8.電力・ガス部門(i1)の生産性向上 生産性は、1970 年以来悪化の方向にあるけれども、他商品への影響は比較的軽微である。

9.石油精製部門(i2)の生産性向上 生産性は、1970 年以来向上に転じ、その影響が全商品に及んでいる。 I I I ) 静学的スピルオーバー効果と産業構造変化との関係

"静学的スピルオーバー効果 " は、素原材料系統間の資源配分を通じて我が国の産業構造変化と密接な関

係をもっている。歴史的に、自財部門の生産性が向上している部門、そしてそれが素原料系統を通じて波

及する上部商品部門の価格低下に寄与した部門への資源配分の拡大がみられるのである。1960 年から

1985年に掛けて、生産性の上昇した鉱物原料部門 (h1)や第 2 次エネルギー部門ブロック (I)の系統に属する

産業部門の拡大は著しく、それに対して生産性の改善されなかった農業生産物(h3),漁業生産物(h4),畜

産生産物(h5)や天然繊維原料(h6)の素原材料部門の系統に属する産業ブロックの衰退が浸透してきている。

このようなかたちで、生産効率の劣等な部門から、優等な部門への資源配分の変化がスムーズに行なわれ

たことを窺い知ることができる。 I V ) 生産性波及の動学的スピルオーバー効果 "静学的スピルオーバー効果 " は、技術連鎖の上部にある最終財、とりわけ投資財の価格を低下させる。

ここでは、 "静学的スピルオーバー効果" を通じた投資財価格の低下が資本サービス価格を低下させ、結

果として他の部門の産出財の価格を低下させる効果のことを "動学的スピルオーバー効果 " と呼ぶことに

する。一方で、各生産部門の雇用係数や資本係数の変化の動向に注目してみると、すべての部門で雇用係

数が急激に低下し、労働生産性が向上している一方で、資本係数は、一部の部門で低下傾向にあるものの、

ほとんどの部門では上昇傾向にある。この傾向は、高度経済成長期においてはとりわけ顕著である。1 1.1960 年代から 70 年代初めまで 高度経済成長期においては、中間素材としての一次金属ブロック (D)の生産性上昇が投資財の価格低

下に結びついて、それが資本サービス価格を相対的に割安とし、片方で労働サービス価格上昇があっ

て、資本・労働の要素相対価格の変化を大きくする構造をもっていたことが確かめられる。いわば、

内生的な資本蓄積が、外生的な技術進歩の進展によって増幅されるメカニズムをもっていたことにな

る。クルーグマンの主張するように、わが国の経済発展が事後的には、現在の東南アジア諸国の発展

と同様に資本蓄積の成長への貢献が大きく測定されるにもかかわらず、その成長要因が枯渇せずに、

持続的発展を可能ならしめたメカニズムがそこにあったものと理解することができる。もう一つの要

素は、エネルギー投入の波及効果である。エネルギー価格の安定的であった 1960 年代から石油危機

までの期間は、その部門の生産性上昇の他部門への波及程度はそれほど大きくなく、変化も少なかっ

たにも関らず、価格上昇に転じた 1970 年代後半から 80 年代初めまでの期間では、第 2 次エネルギ

ー製品ブロック(I)の生産性上昇は他の部門に波及する度合が急激に拡大しているのである。エネル

ギー生産性の各部門での向上がエネルギー価格の上昇を相殺する効果をそこではもっていたことに

なる。

1ここでいうスピルオーバーの効果は、静学的なものにしろ、動学的なものにしろ、内生的経済成長理論が問題としている市場の

失敗をもたらすような経済の外部性のことを指しているのではなく、あくまでも価格メカニズムに基づいて生産性波及の効率化を

促進するような産業構造の変化をもたらす効果を指している。

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2.1980 年代以降

しかし、これらの構造的要因が、1980 年代に入って、とりわけ 1985 年以降急速に変化し、その構造

的アドバンテイジを失いつつある。産業平均で一次金属ブロック(D)の動学効果は、1960-65 年の

0.5261%から、1985-90 年には、0.2172%まで半減している。また素原材料ブロック(H)のそれも

0.3079%から 0.0828%へ、第 2 次エネルギー製品ブロック (I)のそれも 0.1348%から、0.1244%へと

低下している。資本蓄積の価格効果からくるインセンテーブが産業の構造的要因から枯渇してくると

いう姿がみられ、90 年代に入ってからの設備投資の低迷のひとつの要因として指摘することができ

る。

最後に、低成長下における代表的な成長産業であるコンピューター産業の動学的スピルオーバー効果に

ついて整理する。

V ) コンピューター部門(b5)の動学的スピルオーバー効果 1960 年以来連続的に生産性が向上している部門は、機械工業ブロック(b)に多い。中でもコンピュー

ター部門(b5)の生産性向上は近年特に著しく、上で述べた構造的波及のこの部門の特性をさらに増幅する

かたちで、各部門の静学的、動学的コスト削減に寄与している。コンピューター部門の生産性上昇率は、

1960年から 1990 年までの 5 年おきで、それぞれ年率 6.1817%、2.1687%、1.2742%、6.0535%、0.7910%、

4.5261%となっている。 "静学的スピルオーバー効果" は、産業平均で、1960 年から 1990 年までの 5 年お

きで、0.0833%、0.0431%、0.0091%、0.0922%、0.0447%、0.1658%となっており、近年のコンピューター部

門も生産性上昇と波及効果の拡大を示している。同期間における "動学的スピルオーバー効果 " は、0.273%、

0.135%、0.029%、0.311%、0.162%、0.453%となっている。1985-90 年の動学効果は、1960-65 年の 2 倍

近くの効果を示している。1985 年以降、各部門への静学効果と動学効果との差異が拡大しており、コン

ピューター部門の投資財としての役割が急速に拡大していることを読み取ることができる。高度成長期つ

まり 1960 年から 1975年の一次金属部門の動学効果は、0.526%、0.481%、0.386%、であることからする

と、最近のコンピューター部門の技術進歩の日本経済全体に対する効果は、高度成長期の一次金属が日本

経済に与えた効果に匹敵する水準になっている。

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1 はじめに

1 . 1 問題の所在と本書の構成 終戦 50 周年を迎えようとしている。この半世紀科学技術の急速な進歩に裏付けされて、人類は目覚まし

い経済発展を達成してきた。中でも終戦の荒廃から奇跡的な復活、成長を遂げたわが国の実績は特筆に値

する。この研究は、わが国のこの間、とりわけ戦後の一応の回復をみたとされる 1960 年以降、1990 年ま

でを対象に、その経済成長の特性を実証的に明らかにすることを目的としている。もちろん、この期間を

分析対象としたわが国経済成長の分析は、大川・ロゾフスキー(1973)、ヒュー・パトリック(1976)等の

分析をはじめ、近年の World Bank Report "Asian Miracle" (1991) の分析に至るまで、すでに多くの著名な

業績が蓄積されている。それにも関らず敢えてわれわれが改めて、今この課題を取り上げたのは、近年の

経済理論、特に経済成長理論の分野における "New Growth Theory" と言われている新たな展開に触発さ

れたことと 1960 年代以降続いた高度経済成長期が石油危機前後を境に新たな経済環境の変化に接して、わ

が国経済が転機を迎えて以来の局面の観察事実を加えることによって、従来の分析の成果を再構成するこ

との必要性を感じた為である。敢えてもう一つ理由を加えるとすれば、1980 年代に入っての経済のいわゆ

るグローバル化の進展とそれに伴ったアジア諸国の急速な経済成長がわが国経済に与える影響を推察する

という課題が、わが国経済の今後の動向を考える上で重要であると考えたためであろう。

このうち最近の "New Growth Theory" と言われる経済理論の進展については、内生的経済成長理論

(Endogenous Economic Growth Theory) の展開に特に着目している。後章に述べるように、この理論は、

1960 年代にひとつの潮流を築いた経済成長理論を動学的新古典派経済成長理論の枠組みで復活をなしたも

のであり、いわゆる最適成長理論の中での成長制約因子としての人口や資本蓄積が、何らかの内生的なメ

カニズムを通じ、量的、質的拡大が生ずることによって、生産可能性フロンテアーを増幅させることを陽

表化したものである。人口制約については、教育投資や企業内訓練による労働投入要素の量的、質的向上

の効果、資本制約については、知識ストックの蓄積とその外部効果による経済性の向上などを考えている。

これらの要因は、労働や資本などの限界生産力を変位させることになるが、人口成長率や技術進歩といっ

たいわば外生的要因による限界生産力の変位と区別して、労働の質的向上や資本蓄積という経済の内生的

活動によってもたらされるという意味で "内生的経済成長論" と呼ばれている。われわれのここでの分析

は、特に資本蓄積の効果に着目している。しばしばいままでの分析で指摘され、またわれわれ自身の後に

紹介する分析結果でも確認されるように、わが国の経済成長の要因を分解したとき、資本蓄積が果たして

きた役割が大きい。明示的な生産要素としての資本投入の拡大が成長に寄与したことは言うまでもないこ

とである。一方で、新古典派成長理論の中では外生的要因として取り上げられている、いわゆる技術進歩

ないしは生産性の上昇もまた成長を誘発したもう一つの主要な要素として指摘されている。経済の供給サ

イドを、その供給する商品の技術特性に着目して一国経済の産業間の相互依存の技術連鎖を捉えた時、成

長要因としての各商品部門での資本蓄積や生産性向上が他の商品生産部門の生産効率の変位に大きく関っ

ていることを示すことができる。経済発展の内生的要因としての資本蓄積によるある部門の生産効率の拡

大が他の部門に波及するばかりでなく、外生的要因とされる技術進歩による生産効率の向上もまたいわゆ

る他部門に波及する効果をもっている。そしてさらに、外生的な技術進歩による生産効率の向上が、資本財

に体化されて、資本蓄積を通じて経済体系に内生的波及をもたらすことも重要である。こうした内生、外

生の諸要因の拡大が何らかの意味で、当該部門以外に波及する効果をもっていて、さらに体系の資本、お

よび労働の限界生産力を変位させる可能性のあることを実証的に示したいと考えている。いわば資本蓄積

や技術進歩のスピルオーバー効果 (Spill-over Effect) に注目している。内生的経済成長理論の中での資本

の外部性効果の概念設定は、新古典派成長理論の展開の理論的拡張を第 1 の目標としているが、現段階で

は必ずしも、実証的な分析の実験計画を厳格に規定するには至っていない。後に述べる最近の理論展開の

サーベイで明らかにするように、個別経済主体の経済合理性の追求の結果として決定される各個別の生産

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要素の拡大がもたらす限界生産力の変位とは別に、個別経済主体の行動結果を一国全体に集計した生産要

素の蓄積効果もまた個々の生産主体の生産力を変位させるという外部性のあることを定式化に導入してい

る。したがって、そこでの外部性は、体系の価格メカニズムを通じた効率性の波及とは別に、市場メカニ

ズムによって内生化が難しい間接波及のあることを前提としている。しかし、そうした外部性が何によっ

てもたらされるのかは、実証分析の観点からすれば、必ずしも十分に明示されていないことが多い。言い

方を替えれば、資本蓄積などの内生的生産要素の拡大が外部効果をもたらすという時、それが知識の蓄積

といったいわば、一般的効果によるものなのか、商品間の生産技術的連鎖(Technology Linkage)による構

造的要因によるものなのかは明示的に示されないことが多い。前者の一般的知識の蓄積を実証的に捉える

ことは、形而上的には概念設定できても、実証することはかなり難しい。さらに後者の商品技術間の連鎖

を通じた部門間の知識波及に関しても、そのスピルオーバーのプロセスが、市場メカニズムによる体系の

内生的なものなのか、それ以外の外部効果によるものなのかは識別が容易ではない。実証分析の観点から

すれば、いきなり外部効果を曖昧に取上げるよりも、技術の連鎖の部門間波及が市場メカニズムを通じて、

いわば内生的に如何に生じたか、そしてそれが一国の経済成長に如何に寄与したかをまず捉えるのが先決

であろう。したがって、ここでは、こうした観点から、わが国の経済発展の過程で、各生産部門の技術進

歩ないしは生産性の変化が、体系の相互依存を通じて、他部門に如何に波及し、それがどのような経済の

構造変化をもたらしたかを探ることにから始めようと考えている。その意味で、ここでのスピルオーバー

効果は、市場の外部性によるというよりは、内部化された技術の部門間波及の意味に限定することになる。 一国のある時点での商品生産の投入構造を、中間財および生産要素の投入ベクトルとして捉えたとき、

中間財の投入構造を通じて、商品間に規則的な連鎖の構造のあることが示される。われわれは、後に示す

ようにそれを産業連関表の資料から確認することができる。産業連関表の中間投入行列によって捉えられ

る商品間の中間取引の相互依存性は、ある商品それ自体の生産技術の変位が、その商品の他への中間財投

入を通じて、他の商品の生産性に影響を及ぼす可能性のあることを意味している。これを、産業間ないし

は商品間の技術のスピルオーバー効果 (Inter-industry Spill-over Effect on Technology)と呼んでおこう。

ある時点の産業連関表の観察資料に基づいて、この効果の大きさと構造的特性を捉えることができる。そ

してこの効果は、ある時点での商品の中間投入の相互依存取り引きを通じた横断面上の部門間の生産性の

波及という意味で静学的スピルオーバー効果 (Static Intra-industry Spill-over Effect)と考えることができ

る。しかしながら、ここでの各商品部門での生産性の変位がその商品の生産技術の進歩によって生じるも

のとすれば、技術進歩が成長理論の中で外生的要因と位置付けるかぎり、この部門間の技術波及効果は、ス

ピルオーバー効果をもったとしても、新古典派最適成長理論のターミノロジーによる内生的経済成長要因

と呼ぶことはできないかもしれない。P.クルーグマン (1994) は、最近の論文において、近年のアジア諸国

における経済成長が決して "奇跡" と呼べるものではなく、必ずしも現時点ではそれらの国の持続的経済成

長を約束するものではないとの主張を展開している。クルーグマンの主張は、日本を除くアジア諸国の経

済成長のほとんどが、労働力の拡大、教育レベルの改善、物的資本への投資など、持続的には行い得ない

「投入」の増大によって説明される。そこには生産効率の改善がほとんど見られず、将来これらの物的投

入の限界が生じた場合には、成長は停滞するであろうという骨子である。論文を読む限り、アジア諸国に

おいて生産効率が上昇していないという観察事実の正確な測定は示されておらず、検討の余地は残されて

いるけれども、クルーグマンが唯一の例外としてあげたわが国においても、過去の時系列資料によれば、

確かに技術進歩としての生産効率の向上がみられる一方で、資本蓄積の成長への寄与率がもっとも大きい

という観察事実も示されている。したがって、クルーグマンが指摘するように、わが国の経済成長を一つ

の例外的事例として解釈できるためには、外生的な技術進歩による生産効率の上昇が、資本蓄積の拡大

によって体系内に内生化される経済構造システムが効果的に機能していたことを示すことが必要となる。 外生的な要因としての技術進歩は静学的なスピルオーバー効果を通じて、資本財の生産効率の向上につ

ながる。資本財に体化された生産効率の向上効果が、資本投入を通じてさらに拡大された資本蓄積の生産効

率にまで影響することになる。資本に体化された生産技術効率の向上は、動学的に経済成長の径路に変位

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をもたらす。この効果を先の静学的スピルオーバー効果と区別して、動学的スピルオーバー効果 (Dynamic Inter-industry Spill-over Effect)と呼んでおこう。そして、この効果は、資本蓄積が内生的に決定される

という意味で、内生的かつ動学的成長の要因ということができる。もちろんこうした内生化のメカニズム

は、体系の価格メカニズムそのものの成果であり、先にも述べた様に、近年の内生的経済成長理論で指摘

される外部効果と区別しなければならないし、本来の新古典派経済成長論の最適資源配分そのものである

との考え方も成り立ちうる。しかし、実証性に乏しい外部効果をアドホックに理論に導入して、不確かな

外部効果を主張するよりも前に、理論の本来に戻って、内生的資本蓄積の経済成長への寄与の意味と外生

的技術進歩の寄与の意味との結び付きを定量的に把握することがまず重要と考えている。それを通じての

み、クルーグマンが主張する持続的経済成長の成功したひな型として、日本の経済成長を位置付けること

ができるかどうかについても議論の素材を提供できると考えている。また、アジア各国の成長の可能性を

考える時、その持続的成長への経済システムの構築への示唆を与えることができると思えるのである。 ここで以下の各章の構成を簡単に整理しておこう。われわれの分析は、主に日本経済の 1960 年以降 1990

年までを対象としている。このすぐ後の 1.2 節で、戦後の荒廃から、ここでの分析対象期間の出発点であ

る 1960年代に至るまでの回復の軌跡に簡単に触れている。われわれの分析対象期間の意味を明確にするた

めである。第 2 章では、1960 年から 1985年の期間を対象として、わが国の経済成長の軌跡を成長会計の

手法を用いて整理している。このプロジェクトの開始当初の成果であるため、1985年以降の資料を当時入

手するに至っておらず、分析は 1985 年までをここでは対象としている。集計されたレベルでのわが国経済

成長の特性として、資本投入の貢献が平均的には、54%にのぼること、さらに技術進歩の貢献が 33%、労

働投入の貢献が残り 13%程度とみなせることがここでの分析結果から示されている。第 3 章は、近年の経

済成長理論を内生的経済成長理論の発展を中心にサーベイしている。ここでのサーベイは、われわれの分

析視点といわゆる内生的経済成長理論の分析視点との違いと共通点を明確にするために役立つと考えてい

る。さらに第 4 章では、われわれの分析視点に基づいた技術進歩ないしは生産性向上の静学的スピルオー

バーの効果の分析のための理論枠組みの提示し、第 5 章では、我が国の技術波及の構造を、産業部門の自

給度を表すスカイライン図 (産業連関表の創始者 W. W. レオンチェフ教授の発案である) により整理し

た。第 6 章では、前章で整理された枠組みに基づいたわが国商品生産構造の変化と技術波及の特性、つま

り静学的スピルオーバー効果の分析結果を整理している。ここでの分析期間も資料の制約から、1960年か

ら 1985 年までとせざるを得なかった。1990 年産業連関表 (及び 1980-85-90 年接続表 ) の公表によって、

1990年まで分析を延長することが可能であるが、ここでは分析を第 7 章の動学的効果の分析に重点を置い

たため敢えて追加作業を行っていない。第 7 章は、第 6 章での静学的スピルオーバー効果の分析結果を踏

まえて、生産性上昇の他部門への波及効果が、資本財価格の低下に結びついているというわが国の特徴の

意味を理解するために、その動学的効果の測定、つまり動学的スピルオーバー効果の測定を行っている。

ここでは1990年産業連関表 (及び1980-85-90年接続表 ) の公表を受けて分析対象期間を1990年まで延長

している。おわりにでは、これらの分析を通じて得られた成果の要約と残された今後の課題の整理にあて

られている。

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1.2 日本経済の成長の軌跡

第 2 次世界大戦の荒廃からようやく立ち直り 自立経済化、近代化を目指したのは、1955 年に入ってか

らだといわれている。「もはや戦後ではない」という名文句に象徴される昭和 31 年の経済白書では、経済

水準がようやく戦前水準にまで回復したという戦後期の苦汁へのある種の安堵感と、それにもましてこれ

からの近代化への必要感とが含まれている。企画庁統計に依れば、主要な経済指標が戦前 (1934-36 年) の水準及び 2 倍の水準に回復した年は次のようになっている。

戦前水準 戦前の 2 倍水準

実質国民総生産 1952 1960 実質民間設備投資 1951 1956 実質個人消費支出 1951 1960 実質輸出等受取 1958 1964 実質輸入等支払い 1957 1963 鉱工業生産指数 1952 1957 一人当り国民総生産 1955 1964

これらの指標から明らかなように、1950 年代の後半にはほぼ戦前の水準に達し、1960 年には一部、輸

出入の指標を除いては、戦前の 2 倍程度の水準にまで回復していることがわかる。1955 年には、「経済自

立 5 か年計画」が発表され、想定実質 GNP 成長率 5.0%のもとで完全雇用達成の目標が唱えられる。さら

に、1957 年には「新長期経済計画」が策定され、国際収支の改善と資本貯蓄の増進に依って実質 6.5%の

GNP 成長が目標に掲げられる。その目標に向かって、輸出促進と輸入代替の方向に「産業の高度化」、「農

業生産構造の近代化」の必要性が説かれる。上記の各経済指標からも明らかなように、1955 年から 1960年の日本経済の成長はめざましいものがあり、来たるべき 1960 年代の高度経済成長期への飛躍の助走期

の役割を充分果たしている。鉄鋼業では、第 2 次合理化計画 (1956-60 年) が立案され、ストリップ・ミル

の建設や銑鋼一貫の臨海製鉄所が建設されたのもこの時期である。造船業では、溶接ブロック建造法が取

り入れられ、1955 年には造船建造世界 1 位となる。1960 年代後半以降、日本経済を担う自動車産業は、

この時期まだ育成の段階にある。1951 年から 1953 年の第 1 期、2 期の「生産設備近代化 5 か年計画」が

構想されようやく発展に向けてスタートをきるが、日本経済の資源賦存の観点から、日本での自動車産業

の育成には反対する多くの意見も見られている。こうした産業育成は、輸出拡大・輸入代替促進の外貨獲

得策として、いわゆる近代版重商主義政策と批判されることも多いけれども、後にみるように、1960年代

以降の発展に重要な基礎を築いている。1949年施行の「外国為替外国貿易管理法」、1950 年制定の「外貨

に関する法律」など、選択的な輸入制限措置による新興企業の国内市場での外国企業との競争回避と選択

的な優良外資による技術導入の促進の制度的枠組みの設定は、その後の日本経済の重要な方向を定めるも

のとなっている。またさらには、1952年の「企業合理化促進法」は、技術上・経営上の基準で選択された

優良企業に、低金利融資や輸入機械購入のための外貨特別割当、特別償却制度などの種々の優遇策を与え

て育成する政策的枠組みを与え、いわゆる「産業政策」の基盤を定めることとなる。こうした企業選択の

基準は、ひとたび選定された企業には、優遇措置は機会均等に与えることを原則としていたがゆえに、 (その基準を満たすべく) 企業間の競争を造成し、ある仕切られた内部での過当競争的産業社会という特性を

生み出していくことになる。日本経済は、こうした胎動期を踏まえて、われわれが対象としている 1960 年

代を迎えることになる。 周知の通り、1960 年には「国民所得倍増計画」が策定され、10 か年の国民所得の倍増を目標とする想定

GNP 成長率 7.2%が設定されて、国民生活水準の向上と完全雇用の達成を目的とする成長極大化が目指され

ることとなる。成長の極大化とともに、資源配分の効率化のための競争条件の維持とインフラの整備が一つ

の目標となり、一方では近代部門と在来部門、大規模部門と中小規模部門に存在する格差、いわゆる二重構

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造の解消がもう一つの大きな政策目標となってくる。国民経済計算 (System of National Accounts) によ

れば、1960 年から 1970 年の平均年率名目 GNP 成長率は、15.9%、1970年から 1980 年のそれは、11.63%、

また同期間の実質 GNP の平均年率成長率は、10.23%、4.75%となっている。1960年代の成長率が当初の

計画を大きく上回っていたことはもちろんのこと、クズネッツの推測による近代経済成長期の諸国の実質

年率 3.0%の平均成長率をも大きく上回る歴史的にも稀有な経済成長の経験であった。この間米国経済は

1960年代に年率 4.2%、1970年代に 2.5%程度の実質 GNP 成長を遂げている。両国経済とも 1973 年の第

1 次石油危機以来、急激な成長経路の屈折を遂げる。1973 年、1979 年の 2 回の石油危機を経験し、同時に

1971年以降の変動為替相場の中で、わが国経済の世界経済との一体化が進み、かつて無かった国際収支の

黒字基調の定着をみて、円高傾向の中でのバブル経済、低成長の時代となっている。 高度経済成長期の成長の要因は何であったか、1974 年以降の屈折の要因は何か、1980 年代後半からの変

化は、今後のわが国経済をどのような方向に至らしめるのかといった関心をよせながら、次章では集計レ

ベルでの日本経済の成長要因の分解を試みてみよう。

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2 成長要因の分解 わが国の経済成長の姿について、われわれの研究の出発点を明らかにするために、まず 1960年から 1985年の期間を対象に、社会会計の枠組みに沿って成長プロセスの概要をまとめておこう。2 ここでの経済成長の要因分解は一国の集計レベルでの成長会計の方式に基づいて行っている。集計レベ

ルでの純産出量 (実質付加価値総計) の成長の要因は、要素投入としての資本や労働の投入量の成長率と技

術進歩率とに分解される。ここでは一国集計レベルでのマクロ生産関数を想定しているわけではなく、産

業部門別の特性を反映した各部門の産出、投入を一国全体に集計するという工夫をしている。その結果と

して、一国全体の総資源の部門間配分の変化というかたちで産業の産出や投入の構造変化を算定できるこ

とになる。2.1節では、産出投入表の枠組みをベースに、部門別付加価値を一国レベルに集計する手続きを

与えている。2.2節では、その集計レベルでの産出の成長率を資本、労働、技術進歩の寄与別に分解する手

法を整理している。そこではさらに、労働、資本の成長への寄与をその量的変化と質的変化の寄与に分け

ることも試みている。2.3節では、技術進歩率の成長に関する寄与を部門別の技術進歩率の変化と各投入要

素、産出の構造変化の効果に分けてみるための理論的基礎を与えている。最後に 2.4 節では、これらの手

法による日本経済の成長要因の分解の結果を述べ、集計レベルでの日本経済の成長の特性を明らかする。 2.1 集計レベル純産出指数の算定 部門別の産出量の算定は、投入、産出表のシステムにもとづいている。一国全体の集計産出量は、各部

門の実質付加価値の総和で定義される。ここで用いられる投入産出表は、産業部門別の資本、労働等の要

素投入との関係を明確にするために、いわゆる商品×産業の投入構造を表す U 表 (Absorption Matrix) のかたちでとらえている。したがって、付加価値はU 表に対応する要素投入となっている。周知の通り、日

本の投入産出表は、商品×商品のいわゆる A 表の形式となっている。V 表 (Make Matrix) の情報を得て 産業技術仮定 (Industry Technology Assumption) を前提に、A 表から U 表に変換して、U 表ベース、

産出投入表を得ている。各産業部門の付加価値は、労働・資本の要素費用、家計外消費、純間接税に分か

れている。各部門の中間投入は、国産財と輸入財とに区別されるが、ここでは、輸入財のうち非競争輸入

財のみを特掲して、各産業部門毎に中間投入財の一要素としてまとめている。他の競争輸入財については、

国内財中間投入と合わせて、U 表の取引行列となっている。j 産業部門の投入バランスは、そのとき次のよう

になる。

∑=

++++=+

n

1i,)

11( jj

Kjj

Lj

bcj

dj

ioij

I

jIj

KpLPbpdpXpZpt

(1)

ここで

jt :実効間接税率で

∑=

++++= n

i

jj

K

jj

L

j

bc

j

d

j

ioi

j

KpLpbpdpXpt

1

間接税 - 補助金

2この章で示す結果は、このプロジェクトの研究者のひとりである新保一成が、慶應義塾大学産業研究所でのHarvard大学Dale W.

Jorgenson 教授との共同研究プロジェクト (日本側主査 黒田昌裕、米国側主査Dale W. Jorgenson) "日米経済成長の要因分解と構造変

化" に参加してまとめたものである。許可を得て、その成果の一部をここで引用している。

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jI

jI Zp , : j 部門の産出価格及び産出量

oip : i 商品の国産財 輸入財価格の加重平均で

定義される平均価格 (Over-all price) である。 j

iX : i 商品の j 部門への中間投入量

jd

dp , : j 部門の非競争財輸入価格と数量

jbc

bp , : j 部門の家計外消費支出の価格と数量

jjL

Lp , : j 部門の労働投入価格と数量 jj

KKp , : j 部門の資本投入価格と数量

(1)式を整理して、j 部門の付加価値を次のように導くことが出来る。

 jjv Vp = jj

Kjj

L KpLp +

= ∑=

−−−+

n

i

jbc

jd

jioi

jI

jIj

bpdpXpZpt 1

)1

1(

= ∑+

=

−2

1

*n

t

jii

jI

jI XpZp (2)

ここで、 jv

p 、i

V は、j 部門の付加価値デフレーターと実質付加価値である。

*j

Ip は間接税負荷分を除いた純産出価格

jIj p

t)

11(+ である。

i

p については、i

p ( ni ,...1= ) をoi

p ( ni ,...1= ) ,i

p ( 1+= ni ) をd

p ,i

p ( 2+= ni ) をbc

p と置き換えている。j

iX についても同様に )1( += niX j

iを )2(, += niXd j

ij を jb にそれぞれ置き換えて最後の等号式の右辺を求め

ている。 (2)式を時間に関して微分して

∑+

=

••••

−=+2

1)](・)([

n

i i

i

ivi

jii

j*I

j*

I

ivi

jj*I

j

j

jv

jv

p

p

Vp

Xp

p

p・

Vp

Zp

V

V

p

p

∑+

=

••

−+2

1

)])((・[n

ij

i

j

I

jjv

jii

jI

j

I

jjv

jI

*jI

X

X

Vp

Xp

Z

Z

Vp

Zp (3)

(4)式で展開されているように実質付加価値の成長率は名目付加価値額の成長率から付加価値デフレーターの成長率を差し引くことに依って定義できる。そのとき付加価値デフレーターの成長率はいわゆるディビジア指数の成長率であり、(4)式の右辺の第 2 括弧の式で示される。ディビジア指数を離散型近似して、次のように離散型ディビジアの実質付加価値の成長率を表すことが出来る。

)]1()1(ln)()([ln)1(ln)(ln −−−=−− TVTpTVTpTVTV jjv

jjv

jj

)]1(ln)()][ln1()([21

[ ** −−−+− TpTpTvTv jI

jI

jj

∑ −−−+− )],1(ln)()][ln1()([21

TpTpTvTv ii

j

i

j

i (4)

ただし

)()(/)()()( * TVTpTZTpTv jj

v

jj

I

j =

)()()()()( TVTp/TXTpTv jjv

jii

ji =

次に、一国の集計レベルでの粗付加価値 (Gross Domestic Products:GDP) は、上記の部門別付加価値との対応で次のように定義できる。

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∑=

=n

j

jj

vv VpVp1

∑=

+=n

1j

jj

K

jj

L KpLp )( (5)

ただし

vp 、V は、それぞれ集計 GDP デフレーター、実質 GDP を表す。

(5)式の両辺を対数をとって、時間で微分して次の関係をうる。

∑=

•••

=+n

jj

v

jv

v

jj

v

v

v

p

p

Vp

Vp

V

V

p

p

1

)()( ・

∑=

+n

jj

.

j

v

jj

v

V

V

Vp

Vp

1

・ (6)

(6)式から、実質 GDP の成長率は、名目 GDP の成長率から、付加価値デフレーターの成長率 (6)式の右辺

第 1 項を差し引くことに依って求められる。実質 GDP の成長率の離散型ディビジア近似は、

)]1()1(ln)()([ln)1(ln)(ln −−−=−− TVTpTVTpTVTV

vv・

∑=

−−−+−n

j

jv

jv

jj TpTpTwTw1

)],1(ln)()][ln1()([21

(7)

ただし

).()(/)()()( TVTpTVTpTwv

jjv

j ・・=

で表される。 一国全体の付加価値額 (名目 GDP) は、部門別付加価値額の集計に等しいので

∑ ∑= =

==n

j

n

j

jv

jjvv VpVpVp

1 1

~ (8)

vp は、(7)式の右辺第 1 項によって求められる付加価値デフレーターの成長率を指数系列にしたものである。

定義に依って、(8)式の第 1 等号が成立する。一方v

p~ は、一国の実質付加価値を部門別実質付加価値の和集計

と定義したとき、それと整合的な付加価値デフレーターの系列である。v

p とv

p~ は、必ずしも等しくない。各

部門の付加価値デフレーターが等しく、シェアー jw が一定の場合にのみ、両者は等しい。 別の言い方をすれば、全ての部門の生産技術が等質的な場合にのみ、両者は等しくなる。一般には、この

仮定を満たさないから、v

p とv

p~ とは異っている。全く同様に、労働と資本についても、特定の l 種の労働(l

=1 ...l)、k 種の資本(k=1 ...k)について

∑ ∑= =

==n

j

j

j

jlLl

jl

jLllLl LpLpLp

1 1

,~ (9)

∑ ∑= =

==n

j

n

j

jkKk

jk

jKkkKk KpKpKp

1 1

,~ (10)

が成立し、各部門の l 種の労働が等質的で価格が等しい場合のみ、LlLl

pp ~= が成立し、各部門の k 種の資本

が等質的で価格が等しい場合のみ、KkKk

pp ~= が成立する。更に、l 種の労働、k 種の資本を一国全体に集計す

る際、

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∑ ∑==l l

lLlLlL LpLpLp ,~ (11)

∑ ∑==k k

kKkKkK KpKpKp ,~ (12)

が成立するが、一般には、ディビジア集計による労働・資本の投入価格指数L

p 、K

p は、和集計価格指数L

p~

及び Kp~ と等しくない。両者が等しいのは、すべての労働及び資本がそれぞれ等質的な場合に限られる。以

下の展開では、この区別が重要な意味を持って来る。 2.2 労働・資本の集計指数の算定 いま、労働については、l 種類、資本については、k 種類の種別があるとする。例えば 2.4 節で示す実際の

計測では、労働は性別 (2) ×学歴 (4) ×年齢 (9) ×職能 (2) ×雇用形態 (4) に分類されており、また資本

については、企業形態 (2) ×資産形態 (9) に分類されている。各産業部門では、その技術形態に応じて各種

の労働・資本が異なる投入構成で投入されているものと考えられる。これらを一国全体に集計するとき、要

素費用については、次の関係が必ず成立する。

∑∑=j l

jl

jLlL LpLp , (13)

∑∑=j k

jk

jKkk KpKp , (14)

このとき、労働・資本の投入量の集計レベルでの変化率の離散型近似式として、 )1(ln)(lnln −−=∆ TLTLL

∑ ∑ −−=j l

j

l

j

l

j

LlTLlnTLlnv )],1()([ (15)

および )1(ln)(lnln −−=∆ TKTKK

∑ ∑ −−=j K

jk

jk

jKk TKTKv )],1(ln)([ln (16)

が定義できる。ただし、ここで、

)],1()([21

−+= TvTvv j

Ll

j

Ll

j

Ll (17)

,∑ ∑

= j l jl

jLl

jl

jLlj

LlLp

Lpv

)],1()([21

−+= TvTvv j

Kk

j

Kk

j

Kl (18)

⋅∑ ∑

=j k j

kj

Kk

jk

jKkj

Kk Kp

Kpv

である。 各部門の労働投入量 j

lL 、資本投入量 j

kK は、次のように書き換えることが出来る。

∑ ∑=j l

jl

jl

jl LdL )( (19)

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∑∑=j k

jk

jk

jk KhK )( (20)

ここで、 jl

d 、 jk

h は、それぞれ一国和集計での総労働・資本投入にしめる、j 部門の l 種、k 種の労働・資

本投入の構成割合を示している。これを用いて、(15)、(16)式を書き改めると、

∑ ∑ ∑ ∑ −−=∆j l j l

jl

jl TLTLL )]1(ln)([lnln

∑∑ −−+j l

jl

jl

jLl TdTdv )],1(ln)([ln (21)

∑∑ ∑∑ −−=∆j l j l

jk

jk TKTKK )]1(ln)([lnln

∑∑ −−+j l

jk

jk

jKk ThThv )].1(ln)([ln (22)

(21)、(22)の右辺第 1 項は、それぞれ労働・資本の投入量の変化率 (Quantity Index の変化率) を示してお

り、第 2 項は、各投入要素の種別構成比の変化が総合指数に与える影響を示している。第 2 項は、その意味

で労働・資本投入の質的変化率 (Quality Index 変化率) を示すものといえる。

2 . 3 技術進歩率の集計指数

前 2.2 節での投入・産出の各集計指数の算定から、一国全体の技術進歩指数を求めるのがこの節の課題で

ある。

各産業部門における技術進歩率 jT

v は、次のように定義できる。

∑−=i

ji

ji

jI

jI

jii

jI

jIj

T X

X

Zp

Xp

Z

Zv )(

.

*

.

∑ ∑−−l k

jk

jk

jI

jI

jk

jKk

jl

jl

jl

jl

jl

jLl

K

K

Zp

Kp

L

tL

Zp

Lp))(())((

.

** (23)

もしくは、付加価値タームで、

))((.

* j

j

jI

jI

jvjj

T V

V

Zp

Vpv =

∑ ∑−− ).)(())((.

*

.

* jk

jk

jI

jl

jk

jKk

jl

jl

jl

jI

jl

jLl

K

K

Zp

Kp

L

L

Zp

Lp (24)

とも書くことが出来る。 (24)式を離散型近似すると、

)]1(ln)()][ln1()([21ˆ −−−+= TVTVTvTvv jjjjj

T

∑ −−−+− )]1(ln)()][ln1()([21

TKTKTvTv j

k

j

k

j

Kk

j

Kk

∑ −−−+− )],1(ln)()][ln1()([21

TLTLTvTv jl

jl

jLl

jLl (25)

ただし

.)()(

)(,)()(

)(,)()(

)( *** TZp

TLpTv

TZp

TKpTv

TZp

TVpTv

jI

jI

jl

jLlj

LljI

jI

jk

jKkj

KkjI

jI

jjvj ===

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である。 (25) 式は、j 部門の実質付加価値の伸び率が要素投入の労働や資本の伸び率以上に伸びたときには、 1−T時点から T 時点の間に j

Tv 率の技術進歩があったとみなせることを示している。この部門別技術進歩率を一国全体に集計したとすれば、

∑ ∑=j j

j

.j

v

jjvj

T

v

j*jI

V

V

Vp

Vpv

Vp

Zp・

∑∑ ∑ ∑−

j l

jl

.jl

j l jL

jlL

jl

jlL

LL

L・

Lp

Lp・s

,・・∑∑∑ ∑−

j k

jk

.j

kj k j

kj

Kk

jk

jKk

KK

K

Kp

Kps (26)

ただし

.Vp

Kps,

Vp

Lps

v

j k jk

jKk

Kv

j l jl

jlL

L

∑ ∑∑ ∑==

となり、部門別の技術進歩率を集計した形で、一国全体の加重平均としての技術進率を定義することができる。一方、より単純に一国の集計レベルでの集計的生産関数 (Aggregate Production Function) の存在を仮定して、集計レベルでの社会会計定義式から技術進歩率を定義することもできる。集計レベルの社会会計バランスは、 K.pLpVp KLv += (27) となり、そこから集計的技術進歩率 Tv 、

,KK

sLL

sVV

v

.

K

.

L

.

T −−= (28)

を定義できる。 ただしここで、

∑=j

j

j

.

v

jjv

.

V

tVo

Vp

Vp

V

V・

∑=j

j

.j

v

jv

V

V

Vp

Vp ,・

~ &

∑∑= j

j

V

V.)( &

,Vp

Lps

v

LL =

∑=l

l

.

l

L

lLl

.

L

L

Lp

Lp

L

L・

∑=l

l

.

l

L

lLl

L

L

Lp

Lp ,・~

,Vp

Kps

v

KK =

∑=k

k

.

k

K

kKk

.

K

K

Kp

Kp

K

K・

∑=k

k

.

k

K

kKk

K

K

Kp

Kp .

~

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となっている。すなわち各産業部門の付加価値は等質的であり、各部門の付加価値デフレーターは同等で

ある、したがって一国集計の GDP 成長率は、各部門の実質付加価値を和集計したものの成長率に等しいと

仮定している。また労働・資本の要素投入も、各 l、k 種については各産業部門の間で等質的であり、同等の

価格が成立していると仮定している。従って、労働・資本の一国レベルへの集計は、各異種の投入要素の投

入変化率のディビジア集計のかたちをとっている。 (28) 式を (24) 式を用いて変形すると次のようになる。

∑ ∑ ∑−−=j l k .

kKk

.

lLl

.

jj

vvT KpLpVpVpv ~~~・

∑ ∑ ∑ ∑ ∑•••••

−−+−=j j

.

j l k

kKklLljj

vjj

vjj

v KpLpVpVpVp ~~~

∑ ∑ ∑++=j l k . j

kj

Kkjj

.jLl

jI

*jI

jT KpLpZpv ][

k

k

Kk

l

lLljj

vj

j

v Kp~Lp~VpVp~••••

∑∑∑∑ −−−+ )(

∑ ∑

−+=j j

jjvv

j*jI

jT Vpp~Zpv )(

∑ ∑ ∑ ∑•

−+−+j l

.

jkKk

jKk

jlLl

jLl KppLpp .)~()~( &

(29)

さらに整理すると、

∑ ∑ −+= )()

)~(()(

j

. j

v

jjvvj

Tv

jI

*jI

TV

V

Vp

Vppv

Vp

Zpv

∑∑−

+ ))()~(

(jl

.j

v

jlLl

jLl

L

L

Vp

Lpp

∑∑−

+ )())(

( jKk

. jKk

v

jKkKk

jKk

KK

Vp

Kp~p (30)

と表すことが出来る。(30)式の左辺は、集計的技術進歩率であり、(28)式で定義されている。右辺の第 1項は、部門別技術進歩率の加重平均値である。両者の差は、集計的生産関数の仮定が妥当するかどうかであ

るけれども、その差異の右辺第 2 項以下の 3 項で分解して表現することが出来る。第 2 項は、部門間の付加

価値デフレーターが差があり、 jv

p が平均のv

p~ から乖離することに依る構造的バイアスを示している。第 3項、4 項は労働、資本の投入価格が平均から乖離したときに生ずる構造的バイアスである。(30)式を(28)式に

代入して整理すると、

)()

)(( j

j

v

jjvv

.

V

V

Vp

Vpp~

V

V &∑ −

∑∑ −

+= ))()~(

(jl

. jl

v

jlLl

jLl

.

LL

L

Vp

Lpp

L

Ls

∑∑−

++ ))()~(

(j

k

.j

k

v

jkKk

jKk

.

kK

K

Vp

Kpp

K

Ks

∑+ jT

v

jI

*jl v

Vp

Zp)( (31)

となる。 (31)式の意味は、一国の集計レベルの GDP の成長率が、左辺全体でとらえられる。左辺は 2 つの部

分に分けられ、第 1 の和集計での GDP の成長率と第 2 の構造変化の部分になる。第 2 項は、平均付加価値

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デフレーターv

p~ より、価格が高い部門のウェイトが大きく成長すれば、第 2 項は負値となり、全体の GDPの実質成長率の高めることを意味している。言い替えれば、付加価値デフレーターは各部門の単位当り付加

価値率とも読みかえることが出来るから、経済発展の結果、高付加価値部門のウェイトが高まるように産業

構造が変化しておれば、よりGDP 成長率に寄与した構造変化であったということになる。左辺全体の GDPの成長率は、右辺によって大きく 3 項にその要因を分解できる。左辺第 1、2 項の部分は、労働投入の成長へ

の寄与を表わしている。そのうち、第 1 の部分は、和集計 (各 1 種の和集計) による労働投入の成長率の部

分であり、第 2 項は、異質労働投入要素間の構造的変化を表している。平均的労働要素価格Ll

p~ より、低い価

格の部門のウェイトが高まれば、この項は、負値となり他の条件一定の下で、労働投入の効率が高くなるこ

とを意味している。この分解の意味は第 3、4 項の資本投入の寄与についても同様に考えることが出来る。最

後に右辺の第 5 項の部分は、部門別の技術進歩率を一国全体に加重平均したものである。さて以上の経済成

長の要因分解の手法を 1960年-85 年迄の日本経済に適用してみると、この期間のわが国経済成長の特性をみ

ることができる。 2.4 日本経済の成長の要因分解 [表 1]は、日本経済の 1960 年から 1985 年の成長要因を分解して示している。表側の 21 の項目は、大

きく 3 つの部分に分けることができる。第 1 は、 (1) ~ (6) の項目で、前節の(26)式にもとづく、ディビジア指

数による要因分解である。第 2は、 (28) 式に基づく集計社会会計バランスによるもので、項目 (7) ~ (12) 、

そしてそれを成長の寄与度で算定したものが (13) ~ (18) である。第 3 の部分は、(31)式にもとづく構造バ

イアスを示している。ディビジア集計方法に依れば、項目 (1) に示されているように、日本経済は 1960年か

ら 1985 年までの間、年率平均 6.787%もの急激な成長を遂げている。1973 年の第 1 次石油危機を境に、年率

成長率9.76%から4.04%と成長率の半減を示しており、1960年代の高度経済成長期と大きな差異がみられる。

1980 年代に入って低下の傾向は、安定化に変わったようにも見える。

これらの GDP 経済成長の要因は、要素投入と技術進歩率の要因とに分解できる。労働と資本の投入の平

均年率伸び率は、1960 年-85 年で、1.72%と 7.61%であった。労働投入に関しては、1960年代には年率 2%を上回っていたものが、1970年代にはいるとその伸び率が低下する。特に 1970-75 年には、伸び率が負値を

とっている。これは石油危機後のコスト削減要求からくる。いわゆる労働コスト節約的企業行動の結果と

も言えるが、1970年代に入って、日本の労働市場がそれまでの在来部門から近代部門への労働移動という

形での近代部門の労働需要の拡大に対する対応が少なくなって、労働市場の需給逼迫が労働投入価格を急

激に上昇させたことにも依っている。一方、資本の投入に関しては、非常に高い伸び率を示しているのが、

日本経済の成長の大きな特徴となっている。1960 年代には、年率 10%を超える伸び率を示し、1973年以

降その伸び率は半減するが、依然として 5%を上回る成長を遂げている。産出と投入要素の成長率を比較

してみると、労働の伸びが、産出の成長率を大きく下回っているのに対して、資本のそれは、若干上回っ

て成長している。別の言い方をすれば、この期間労働生産性が急激に上昇したのに対して、資本生産性は

ほぼ停滞的もしくは、むしろ若干下降していたということになる。生産性については、両者の総合したいわ

ゆる全要素生産性という点からすると、 (6) に示されているように、1960-85 年の平均で年率 2.215%の伸

びを示している。特に 1960 年代そしてその後半 1965-70 年の技術進歩率は大きく、年率 5.48%となって

いる。1970 年代、特に石油危機をはさんで急速に低下するが、1980 年代には若干回復の兆しが見えてい

る。これらの要因を成長への寄与度でみると、1960-85 年の平均で、労働・資本・技術進歩のGDP 成長へ

の寄与は、それぞれ 13%、54%、33%となっており、平均的には日本経済の成長への寄与は、資本投入の

それが 50%を上回っているというのが一つの特徴となっている。労働投入の寄与度については、1960 年か

らを 5 年毎に区分してみると、14%、9%、-1.5%、30%、24%と変化しているし、同じく資本投入のそれは

55%、44%、80%、50%、52%、技術進歩率のそれは 31%、47%、21%、20%、24%となっている。平均

的には、資本投入の寄与が大きいというのが特性であるけれども、高度経済成長期 (1960 年代後半) には技

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術進歩の寄与度が大きいこと、また石油危機後、労働投入の伸び率は低下しているにも関わらず、寄与率は、

逆に大きくなっているというのも注目すべきである。 次に、表の第 2 の部分に話を移すと和集計での GDP の成長率は、第 7 項目にあるように 1960-85 年の年

率平均で 6.823%とディビジア成長率 6.787%を 0.035%だけ上回っている。0.035%は、第 19 項目に示した

付加価値の構造バイアスを示している。この期間を平均すると若干の正値で、構造的には非効率な方向に動

いていることを示している。しかし、これは、時代を区切ってみると 1960年代の高度経済成長期には、1960-65

年で-2.153%、1965-70 年で-0.649%といずれも構造変化が資源配分の効率化をもたらし、それが成長に貢献

していることを示している。1970年代、特に 1980 年代に入って、大きく傾向が逆転しており、1980年代に

なってからの産業構造の急激な変化は一国全体の高付加価値化という点には沿っていないということが言え

る。労働投入に関しては、1960-85 年平均で集計的算定方式では、年率 1.784%で、第 2 項目のディビジア

指数との比較で構造バイアスが年率-0.031%となっている。1975-80 年を除いて、全期間負値を示しており、

資源配分が効率的に作動していることを示している。労働投入を一方、その量的変化と質的変化の成長への

寄与に区分すると (15)、(14) 項目に示した通り、全年平均で 0.506%、0.426%とほぼ同程度の寄与を示し

ている。1960年以来を 5 年毎に区分してみると 1960年代の高度成長期には、量的変化の寄与が大きいのに

対して、1970年代以降は、質的変化の寄与が相対的に大きくなっており、労働市場の量的拡大がタイトにな

った 1970 年代以降の状況を反映しているといえる。一方、資本の投入についても、(21) 項目の構造バイア

スは、全期間負値を示しており、資源配分の観点から効率的配分がなされたことを示している。資本の投入

を量的拡大の寄与と質的変化のそれに分けてみると、全年平均では、量的拡大の寄与が年率 2.587%と質的

変化の寄与の年率 1.348%の倍の寄与を示している。 以上が、日本経済の 1960 年-85 年迄の成長要因の分解であるが、要点を整理すると以下のようになる。 (1) 資本投入の成長への貢献 54%程度が、投入要素の内でもっとも大きく、資本投入の成長率 7.6%は産

出の成長率 6.8%を上回っており、その結果、資本の生産性は、若干低下傾向にある。 (2) 労働投入量の成長への貢献は 33%程度であり、年率 1.7%程度の平均伸び率を示している。それは、

マン・アワーベースの労働力人口の伸び約年率1.0%程度と労働の質の向上率 0.7%とに分解される。労働の質

変化が労働投入の成長への寄与の約 50%弱を説明するのは一つの特性である。産出の伸び率が労働投入の伸

び率を大きく下回っていることに依って、労働生産性がこの間急激に上昇していることがわかる。 (3) 技術進歩率は、年率 2.2%程度の平均伸び率を示しており、成長に対する寄与も 33%程度と大きい。

1975 年以降の伸び率の下降は著しく、低成長の一つの要因となっている。 これら (1)、 (2)、 (3) の成長要因の特性は、日本経済のこの間の要素相対価格の動きと大きく関係してい

る。労働投入価格の上昇率は 1960 年-85 年の平均で年率 10.28%、60 年から 5 年毎に区切ると、それぞれ

11.58%、12.47%、17.54%、6.54%、3.34%となっている。一方、資本投入価格は、1960-85 年平均で年率

3.03%、1960年からの 5 年毎で、2.62%、6.51%、-0.88%、6.62%、0.25%となっており、労働投入価格の

上昇率が圧倒的に高い上昇率となっている。労働投入と資本投入との代替効果は、こうした相対価格の変化

の方向と整合的である。また、前述した様に、付加価値、労働、資本の構造バイアスについては、1980 年代

の付加価値構成の変化の方向を除いては、各部門の価格の相対価格の働きと整合的である。このように価格

体系に整合的な日本経済の成長が、急激な構造的変化を伴っているのである。

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表 1: 日本経済の成長要因の分解

No. Item 60-65 65-70 70-75 75-80 80-85 60-72 72-85 60-85

ディビジア 集計 (1) 付加価値 9.725 11.798 4.733 3.784 3.896 9.760 4.043 6.787

(2) 労働投入 2.929 2.201 -.097 1.967 1.608 2.381 1.113 1.722

(3) 資本投入 10.274 10.190 7.958 4.647 4.990 10.105 5.310 7.612 (4) 労働寄与率 1.397 1.079 -.075 1.154 .953 1.156 .667 .902

(5) 資本寄与率 5.349 5.237 3.792 1.925 2.047 5.190 2.267 3.670

(6) 部門別技術進歩率 2.979 5.482 1.016 .704 .895 3.415 1.108 2.215

集計生産関数仮定の集計 (7) 付加価値 7.573 11.149 5.012 4.003 6.375 8.649 5.137 6.823 (8) 労働投入 3.049 2.339 -.090 1.962 1.661 2.528 1.098 1.784

(9) マン・アワー 1.288 2.608 -.718 1.047 .73 5 1.667 .369 .992

(10) 資本投入 10.817 11.210 8.517 5.055 5.189 10.829 5.692 8.158 (11) 資本ストック 4.140 8.326 6.462 5.369 3.01 1 6.584 4.425 5.461

(12) 集計技術進歩率 .488 4.241 1.029 .757 3.261 1.860 2.043 1.955

寄与率 (13) <労働投入> 1.453 1.146 -.074 1.151 .985 1.227 .660 .933

(14) 質的変化 .838 -.125 .332 .537 .549 .419 .433 .426

(15) マン・アワー .616 1.272 -.406 .614 .436 .809 .227 .506 (16) <資本投入> 5.631 5.762 4.056 2.095 2.129 5.561 2.433 3.935

(17) 質的変化 3.499 1.488 .988 -.129 .893 2.209 .553 1.348

(18) 資本ストック 2.133 4.274 3.068 2.224 1.236 3.353 1.880 2.587

構造的バイアス (19) 付加価値 -2.153 -.649 .279 .220 2.480 -1.111 1.094 .035 (20) 労働投入 -.056 -.067 -.001 .003 -.032 -.072 .007 -.031

(21) 資本投入 -.282 -.525 -.264 -.170 -.082 -.371 -.166 -.265

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表 2: ディビジア指数(1970 年=1.0):日本の経済成長の要因

年 付加価値 労働投入 分配率 寄与率 資本投入 分配率 寄与率 技術進歩

1960 .34090 .77376 .47049 .88356 .35945 .52951 .58901 .655 03

1961 .38156 .80110 .45968 .89795 .40316 .54032 .62630 .678 47

1962 .41355 .82881 .48501 .91249 .45382 .51499 .66667 .679 82

1963 .45409 .85585 .48727 .92684 .49739 .51273 .69882 .701 08

1964 .51462 .91128 .48421 .95553 .54419 .51579 .73190 .735 85

1965 .55438 .89577 .50042 .94749 .60080 .49958 .76961 .760 26

1966 .60382 .92583 .49763 .96322 .64774 .50237 .79917 .784 40

1967 .68281 .96376 .48628 .98244 .71840 .51372 .84233 .825 11

1968 .78832 .96496 .48071 .98303 .79986 .51929 .89039 .900 65

1969 .87932 .99334 .47896 .99680 .89324 .52104 .94302 .935 45

1970 1.00000 1.00000 .48180 1.00000 1.00000 .51820 1.00000 1.000 00

1971 1.03791 1.01078 .51605 1.00536 1.11124 .48395 1.05427 .979 23

1972 1.09972 1.02961 .51588 1.01499 1.20859 .48412 1.09801 .986 77

1973 1.19860 1.00593 .52475 1.00277 1.32325 .47525 1.14680 1.042 28

1974 1.25241 1.01628 .55888 1.00835 1.42908 .44112 1.18795 1.045 53

1975 1.26698 .99518 .59065 .99626 1.48869 .40935 1.20877 1.052 09

1976 1.28691 1.02313 .58965 1.01268 1.54991 .41035 1.22891 1.034 09

1977 1.29602 1.04001 .59442 1.02254 1.62516 .40558 1.25291 1.011 61

1978 1.31130 1.06376 .58192 1.03621 1.69793 .41808 1.27571 .991 98

1979 1.46961 1.09344 .57913 1.05290 1.76886 .42087 1.29780 1.075 49

1980 1.53086 1.09802 .57981 1.05545 1.87808 .42019 1.33092 1.089 80

1981 1.59127 1.10970 .58891 1.06200 1.98050 .41109 1.36062 1.101 25

1982 1.67761 1.11581 .59151 1.06544 2.07488 .40849 1.38682 1.135 37

1983 1.69894 1.17517 .59621 1.09875 2.16229 .40379 1.41026 1.096 43

1984 1.76060 1.20123 .59153 1.11315 2.27341 .40847 1.43926 1.098 93

1985 1.86006 1.18992 .58396 1.10698 2.41030 .41604 1.47437 1.139 67

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表 3: 集計的生産関数仮定による要因分解

年 付加価値 労働投入 分配率 寄与率 資本投入 分配率 寄与率 技術進歩

1960 .39215 .76385 .47049 .87811 .33242 .52951 .56571 .789 43

1961 .41775 .79384 .45968 .89398 .37638 .54032 .60457 .772 93

1962 .44368 .82222 .48501 .90894 .42377 .51499 .64361 .758 42

1963 .48157 .84957 .48727 .92351 .46773 .51273 .67710 .770 13

1964 .53448 .90655 .48421 .95309 .51393 .51579 .71071 .789 05

1965 .57266 .88964 .50042 .94430 .57092 .49958 .74968 .808 93

1966 .62036 .92081 .49763 .96067 .61894 .50237 .78063 .827 22

1967 .69142 .96237 .48628 .98176 .69459 .51372 .82774 .850 83

1968 .79512 .96306 .48071 .98210 .78219 .51929 .88011 .919 90

1969 .88338 .99415 .47896 .99718 .88453 .52104 .93823 .944 20

1970 1.00000 1.00000 .48180 1.00000 1.00000 .51820 1.00000 1.000 00

1971 1.04034 1.01246 .51605 1.00619 1.11213 .48395 1.05470 .980 31

1972 1.10713 1.03453 .51588 1.01745 1.21907 .48412 1.10262 .986 87

1973 1.21149 1.00663 .52475 1.00309 1.34651 .47525 1.15648 1.044 34

1974 1.28357 1.01831 .55888 1.00937 1.46808 .44112 1.20321 1.056 88

1975 1.28479 .99551 .59065 .99632 1.53088 .40935 1.22483 1.052 82

1976 1.30969 1.02393 .58965 1.01301 1.59948 .41035 1.24704 1.036 75

1977 1.33416 1.04124 .59442 1.02311 1.67980 .40558 1.27221 1.025 00

1978 1.36196 1.06414 .58192 1.03629 1.76270 .41808 1.29771 1.012 76

1979 1.57815 1.09538 .57913 1.05384 1.84591 .42087 1.32306 1.131 86

1980 1.56952 1.09812 .57981 1.05537 1.97112 .42019 1.36008 1.093 45

1981 1.66217 1.11014 .58891 1.06211 2.08427 .41109 1.39200 1.124 26

1982 1.77776 1.11651 .59151 1.06570 2.18410 .40849 1.41895 1.175 63

1983 1.84715 1.17918 .59621 1.10083 2.28157 .40379 1.44434 1.161 76

1984 1.98352 1.20473 .59153 1.11493 2.40155 .40847 1.47471 1.206 37

1985 2.15878 1.19321 .58396 1.10865 2.55502 .41604 1.51286 1.287 10

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表 4: GDP の成長と構造変化バイアス

年 和集計 構造的バイアス ディビジア指数

1960 .39215 1.15037 .34090

1961 .41775 1.09484 .38156

1962 .44368 1.07285 .41355

1963 .48157 1.06051 .45409

1964 .53448 1.03860 .51462

1965 .57266 1.03298 .55438

1966 .62036 1.02739 .60382

1967 .69142 1.01260 .68281

1968 .79512 1.00863 .78832

1969 .88338 1.00462 .87932

1970 1.00000 1.00000 1.00000

1971 1.04034 1.00234 1.03791

1972 1.10713 1.00674 1.09972

1973 1.21149 1.01075 1.19860

1974 1.28357 1.02488 1.25241

1975 1.28479 1.01406 1.26698

1976 1.30969 1.01770 1.28691

1977 1.33416 1.02942 1.29602

1978 1.36196 1.03863 1.31130

1979 1.57815 1.07385 1.46961

1980 1.56952 1.02525 1.53086

1981 1.66217 1.04456 1.59127

1982 1.77776 1.05970 1.67761

1983 1.84715 1.08724 1.69894

1984 1.98352 1.12661 1.76060

1985 2.15878 1.16059 1.86006

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3 経済成長理論の展望 3 . 1 新古典派成長モデル-ソロー・モデル ここでは、最近話題となっている内生的成長の理論をわれわれが着目している、資本蓄積のスピルオーバ

ー効果を中心に簡単に展望しておきたい。 Solow(1956)によって示された貯蓄率一定のモデルを用いて新古典派成長理論の構造を明らかにしよう。

Solow(1956)以降、Ramsey(1928)の最適貯蓄モデルを出発点として Cass(1965)、Koopmans(1965)らによっ

てソロー・モデルの貯蓄率一定という仮定が緩られ最適成長モデルという形で新古典派成長モデルが完結さ

れてきた。しかし、最適成長モデルが示す結果はソロー・モデルとほぼ同じであり、新古典派の成長理論の

構造を示すにはソロー・モデルで十分であると考える。最適成長モデルについては後に内生的成長理論のと

ころで述べることにする。 3.1.1 新古典派的生産関数 Y を産出量、K を資本の投入量、L を労働の投入量とするとき生産要素の投入と産出の技術的関係を表わ

す関数を生産関数と呼ぶ。 ( )LKFY ,=

生産関数 ( )LKF , は K と L に関して連続で 2 階微分可能であると仮定する。また、生産要素を何も投入しな

いとき産出量はゼロ、 ( ) 00,0 =F 、であると仮定する (桃源郷の不可能性)。 生産関数 ( )LKF , が次の四つの性質を持つとき新古典派的であるという。 1.各生産要素の限界生産性は正で逓減する。すなわち、生産関数 ( )LKF , は K と L に関して単調増加

凹関数である。したがって、 0,0,0,0 2

2

2

2

<∂∂

=<∂∂

=>∂∂

=>∂∂

=L

FF

K

FF

L

FF

K

FF LLKKLK

、という

性質を持つ。 2.規模に対して収穫一定である。すなわち、生産関数 ( )LKF , は K と L に関する 1 次同次関数で

ある。したがって、任意の正の実数λに対して、 ( ) ( )LKFLKF λλλ ,, = となる。労働の平均生

産性を LYy = 、資本集約度を LKk = で定義すると生産関数 ( )LKF , を次の集約型で書くこ

とができる。 ( )kfy =

資本と労働の限界生産性を集約型で表わすと、

( ) 0>′=∂∂

kfKY

( ) ( ) 0>′−=∂∂

kfkkfLY

となる。さらに ( ) 022 <′′=∂∂ LkfKY であるから集約型 ( )kf も k に関する単調増加凹関数である。

資本の平均生産性は集約型を用いて ( )kkfKY = と表わせる。また ( ) ( )[ ] 0>′−=∂∂ kfkkfkLYであるから ∞<< k0 なるk に関して資本の平均生産性は限界生産性よりも常に大きい。

3.生産関数 ( )LKF , は稲田条件を満たす(Inada,1963)。すなわち、資本と労働の限界生産性は無限大か らゼロに単調に逓減する。

∞==→→ LLKK

FF00

limlim

0limlim ==∞→∞→ L

LK

KFF

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集約型における資本の限界生産性は f ′ ( )k であるから集約型においても稲田条件はそのままあて

はまる。

( ) ( ) 0lim,lim0

=′∞=′∞→→

kfkfkk

   (32)

また L'Hopital の規則から

( ) ( ) ( ) ( ) 0limlim,limlim00

=′=∞=′=∞→∞→→→

kfk

kfkf

k

kfkkkk

   (33)

という性質も従う。つまり資本の平均生産性も無限大からゼロに単調に逓減する。

4.資本 K および労働 L は生産関数 ( )LKF , において本質的な要素である。ある生産要素が本質的であると

いうのは、その生産要素の投入がなくては生産が成り立たない、つまり産出量がゼロになってしまうと

いうことで、次の性質を満たす場合であると定義される。 ( ) ( ) 00,,0 == KFLF (34) これは稲田条件とL'Ho

pital の規則から示すことができる 3。集約型において k は本質的な生産要素であ

る。 以上まとめると、新古典派的生産関数とは生産要素に関して単調増加 1 次同次凹関数であり、稲田条件

を満たすことから生産要素の平均および限界生産性は無限大からゼロに単調に逓減するという性質を持つ。

次の節で示されるように、特に稲田条件は新古典派の経済成長モデルから得られる帰結に重要な役割を果

たす。 3.1.2 ソローの新古典派成長モデル 新古典はモデルでは、生産要素市場で完全雇用レベルに決定された生産要素の供給量に応じて総生産Y が

決まる。生産されたY はその時点で消費されるか貯蓄される。そして、その貯蓄がすべて資本ストックへの

投資として吸収される。すなわち、 SCY += KSK δ−=&

が新古典派の国民経済計算体系である。ここにY は産出量、C は消費量、 S は貯蓄である。δ は資本の償却

率で時間を通じて一定であると仮定する。ソロー・モデルの特徴は貯蓄 S が産出量の一定レベルに決定され

るということである。すなわち貯蓄は、

10, <<= ssYS    で決まり、貯蓄率 s は時間を通じて一定と仮定される。したがって資本蓄積は、

KsYK δ−=& という形に簡略化される。 完全雇用レベルに対応する産出量Y は、上で述べた新古典派的生産関数によって決まる。ここでは、ハロ

ッド中立的な外生的技術進歩を含めた生産関数を用いよう。それは次のように書かれる。

( )ALKFY ,=

3 証明は Barro and Sala-i-Martin(1995, p.52)を参照されたい。

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図 1: ソローの新古典派成長モデル

生産関数 ( )ALKF , は先に述べた新古典派的生産関数の四条件を全て満たすものとする。 Aがハロッ

ド中立的技術進歩で 0>= gAA& で外生的に成長する。つまり、労働の効率性が時間の経過とともに

上昇していくのである。たとえ労働の投入レベルが変わらなくてもこの天から降ってきた技術進歩に

よって労働の投入量が増加したかのごとく見えるので労働増加的技術進歩とも呼ばれる。労働の供給

量は常に人口に等しく 0>= nLL& で成長するものとする。いま、 ALL =ˆ として労働の投入単位を

効率性の単位に換算して、産出量、資本ストックのレベルも全て労働の効率性の単位で換算すると集

約型の生産関数として次を得る。 ( )kfy ˆˆ =

ここで、 y と k は労働の効率性の単位に換算した産出量と資本ストックで、それぞれ LYy ˆˆ = 、 LKk ˆˆ = となっている。 整理するとソローの成長モデルは次の一本の k に関する微分方程式に集約される。

( ) ( )δ++−= ngk

kfs

k

kˆˆ

ˆ

& (35)

これをソローの動学方程式と呼ぼう。

ソローの動学方程式は、貯蓄率で縮小した資本の平均生産性が外生的に与えられた技術進歩率、人口成

長率、減価償却率の和より大きければ、すなわち、( ) ( )δ++> ngk

kfs ならば資本ストックが拡大し、逆

に、( ) ( )δ++> ngk

kfs ならば資本ストックが縮小し、また、( ) ( )δ++> ngk

kfs であるときに資本スト

ックの成長率がゼロになることを示している。図 1 はソローの動学方程式の振る舞いを )ˆ,ˆˆ( kkk& 平面に描

いた位相図である。高さ δ++ng の水平線はソローの動学方程式の右辺第 2 項である。右下がりの曲線は

右辺第 1 項の貯蓄率で縮小した資本の平均生産性曲線である。ここで稲田条件が重要な役割を果たす。稲

田条件によれば資本の限界生産性は無限大からゼロに単調に逓減する。先に述べたように資本の平均生産

性も同じである。故に、貯蓄率で縮小した資本の平均生産性曲線は ∞<< k0 において必ず一度だけ

δ++ng の水平線と交じわるのである。しかも、 ∞<< k0 のどこから出発しても、この交点に対応す

る ssk に大域的に収束することを図 1 は示しているのである。そして一度この点に到達してしまうと k は二

度と動こうとしないのである。 k が ssk で一定であれば、 ( )ssss kfy ˆˆ = も一定であり、対応する貯蓄、消費

も全て一定である。すなわち、ソロー・モデルは長期の成長率はゼロであることを予測しているのである。

このソロー・モデルの変数はすべて労働の効率単位に換算されていた。労働の効率性に換算された資本

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ストックの成長率は、

ngKK

gkk

k

k−−=−=

&&&

ˆˆ

と表わされる。労働の効率性の単位で測った資本ストックの長期成長率がゼロであるということは、一人あ

たりの資本ストックが技術進歩率 g で成長し、資本ストックそのものは技術進歩率プラス人口成長率で成長

することを意味している。産出量、貯蓄、消費に関しても同様である。つまり、新古典派の成長モデルでは、

長期の成長を説明するものはモデルでは説明できない外生的な要素 (技術進歩率、人口成長率) しかないので

ある。

3 . 2 稲田条件と内生的成長 図 1 をもう一度眺めてみよう。もしも貯蓄率で縮小された資本の平均生産性曲線が水平線 g +n +δ より

も高い位置に収束したらどういうことになるだろう。そのような生産関数で記述される経済の長期の成長率

は、たとえ外生的な技術進歩や人口の成長がなくても、

( ) δ−∞→ k

kfs

tlim

に漸近的に収束していくであろう。この場合、外生的な要因に依存しなくてもモデルが説明する内生変数によって長期の成長率がゼロではなく正の値になることを説明できることになる。これが内生的成長モデルのメカニズムであるといっても過言ではない。

このような状況が成り立つのは新古典派生産関数の四つの性質のうち稲田条件、 ( ) 0lim =′∞→ kft が成立

せず、

( ) 0lim >=′∞→

Akft

が成り立つ場合である。つまり、資本の限界生産性が漸近的に下に有界であれば良い。 その最も単純な例が Rebelo(1991)のAK モデルである。AK モデルでは集約型の生産関数が、

Aky =

で与えられる。したがって、資本の限界生産性も平均生産性も定数 A になり、 ( ) Akft =′→0lim 、

( ) Akft =′∞→lim で稲田条件も成り立たない。AK モデルをソローの動学方程式に入れてみれば、

δ−= sAkk&

となり、 sA δ> であれば、 kkyy && = であるから、 AK モデルは定常的な成長率 δ−sA で永久に均斉的

に成長を続ける。図 2 に見るように AK モデルでは遷移経路に関する動学は存在せず、いつでも同じ速度で

経済は永遠に成長する。 ∞→k のとき稲田条件が成り立たない生産関数の例として、 AK モデルとコブ・ダグラスの混合型、

αα −+= 1LKAKY (Jones and Manuelli 1990) と CES 生産関数、 [ ( ) ] vvv LaaKAY11−+= (Arrow, Chenery,

Minhas, and Sollow, 1961) が有名である 4。これらの生産関数の特徴は稲田条件だけでなく全ての生産要素

が本質的であるという条件も緩められていることに気がつくだろう。つまり、労働の投入がゼロであっても

資本の投入が正であれば産出が可能である。また、 AK モデルと異なりこれらの生産関数を用いた場合には

遷移経路に関する動学が存在する。 ここでは CES 生産関数を例にとろう。1 次同次 CES 生産関数の集約型は次のようになる。

( ) [ ( )] 1,10,1A 1 ≤<<−+== vaaakkfy íν

4 CES 生産関数がこのような性質を持つことはソロー自身も「高度に生産的」( "highly productive" )な経済として認識していた (Sollow 1956) 。

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図 2: AK (資本増加的技術進歩) モデル

( )v−11 は資本と労働の代替の弾力性である。周知のとおりCES 生産関数は −∞→v のとき完全補完のレオ

ンティエフ型、 0→v のとき代替の弾力性が 1 のコブ・ダグラス型、 1=υ のとき完全代替の線形生産関数になる。資本の限界生産性と平均生産性は、

( ) ( )[ ]( ) 01 1 >−+=′ −− vvvkaaAakf

( ) ( )[ ] /vv

kaaAk

kf 11−

−+=′

で与えられる。 ( ) 0<′′ kf であることは容易に確かめられる。CES 型の場合ソローの動学方程式は次のようになる。

次に CES 生産関数がレオンティエフ型より代替的でコブ・ダグラス型よりは代替的でないケース、すなわち、 0<v の場合とコブ・ダグラス型より代替的で完全代替よりは代替ではないケース、すなわち、 10 << vの場合とに分けて調べてみよう。

0<v のケース このとき稲田条件は、 ( ) ( ) 0limlim ==′ ∞→∞→ kkfkf kk 、 ( ) ( ) ==′ →→ kkfkf kk 00 limlim /v

Aa1

になる。 k をゼロに近づけたとき/vsAa1が資本の償却率を上回る程に貯蓄率が大きければ、位

相図は図 3(a)のようになり、定常状態における成長はゼロである。逆に貯蓄率が非常に低くvsAa1が

資本の償却率よりも小さければ図 3(b)に示すように経済は時間とともに縮小していき資本ストックも

生産量もゼロに収束してしまう。

10 <<v のケース このとき稲田条件は、 ( ) ( ) ( ) =′==′ →∞→∞→ kfAakkfkf kkk 0v1 limlimlim 、

( ) 0kkflim 0k =→ になる。k を ∞に近づけたときvsAa1が資本の償却率を上回る程に貯蓄率が大き

ければ、位相図は図 3(c)のようになり内生的成長が可能である。産出量の成長率は、

( )[ ] 11 −−−+=

v

k kaaayy γ& で与えられるから、定常状態では資本も生産も δ−vAa1の率で永久に

成長する。貯蓄率が十分に高くなく ∞→k としたときvsAa1が資本の償却率を下回るとき、位相図

は図 3(d)のようになり定常状態における成長率はゼロとなり内生的成長は可能ではない。 このように CES 生産関数をソロー・モデルに適用したとき、資本と労働の代替の弾力性が 1 より大きく貯蓄率が十分に高いときに内生的成長が可能である。

( )[ ] δ−−+= − vvkaasAk

k 11&

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図 3: CES 生産関数とソロー・モデル

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以上、内生的成長理論の最も単純なモデルを見てきた。内生的成長のためには、稲田の条件が成立せず、

資本の限界生産性 (広い意味では蓄積する生産要素の限界生産性) が漸近的に正の値を取ることが少なくと

も必要なのである。これは、資本に対する収益率が永久にゼロにはならず正の値であり続けることを意味し

ている。

3 . 3 外部性と内生的成長-資本蓄積のスピルオーバー効果

前節では、内生的成長のためには資本の限界生産性が漸近的にゼロにならない、つまり稲田条件が成立し

ないことが少なくとも必要であることが示された。蓄積された生産要素がマーシャル的な外部経済を及ぼす

場合にそのような条件が成立する可能性があることが Romer(1986)によって示された。この試みは Romer

を待つまでもなく Arrow(1962)が学習効果(learning by doing)としてその可能性を示していた。Arrow の発

想は、先に示したハロッド中立的技術進歩に対して過去に蓄積されてきた資本ストックを用いるというもの

である。過去に蓄積して現在利用可能な資本ストックには、過去の知識や経験が体化されており労働の生産

効率を向上させる効果があるという発想である。Arrow は内生的な成長を示すことはなかったのであるが、

Romer はその発想をリバイバルさせ、蓄積される生産要素が個々の生産者にとって公共財のようにマーシャ

ル的な外部経済をもたらすとき、社会全体にとっては収穫逓増効果 (つまり蓄積する生産要素の限界生産性

が逓減しない) となって顕在化し内生的成長が可能になることを示したのである。後に示すようにこのよう

な収穫逓増現象は内生的成長のために十分ではない。規模効果が十分に大きいときにのみ内生的成長が可能

になる。

次のような企業ベースの生産関数を考えよう。 N は企業数で非常に大きな定数であると仮定しよう。また

各企業は全く同質 (同じ生産関数を持つ) であるとする。

( ) NiZLKFY iii ,,1,,, K==   

iY 、 iK 、 iL はそれぞれ企業 iの産出量、資本ストック投入量、労働投入量を示す。 Z は公共財としての性

質を持ったインプットである。 Z は経済全体に賦存する量で、全ての企業にとって費用をかけることなく投

入可能な量である。各企業の R&D 投資によって蓄積された知識は他の企業にも波及して一般的で公共性の

ある知識ストックの形成に貢献すると考えれば、 Z はそのような知識ストックであるかもしれない。また、

Z は社会資本の総賦存量であってもよい。企業数 N が非常に大きいという仮定は Z が各企業にとって一定

の数量として与えられていることを意味する。各企業は企業に固有なインプットである iK と iL のみを最適

に選択することが可能である。つまり、 Z はマーシャル的な外部効果をもたらす。規模の経済性が外部効果

として働くという設定は、生産物および生産要素市場が完全競争的であるという設定と矛盾しないというこ

とは重要である(Chipman, 1970)。もちろん、後に触れるように市場均衡解はパレートの意味で最適ではな

い。

いま、生産関数 ( )•F は企業に固有の要素 iK 、 iL に関して単調増加 1 次同次凹関数、Z に関する増加関数

であると仮定しよう。したがって、 ( )•F 全体として規模に対する収穫逓増を示すことになる。つまり、全て

の実数 1>λ に関して次が成り立つ。

( ) ( ) ( )ZLKFZLKFZLKF iiiiii ,,,,,, λλλλλλ =>

ここでは Arrow(1962)、Romer(1986,1989)にしたがって

∑==N

iiKKZ

としよう。また、単純化のために企業数 N は人口 L に等しく、人口は一定であるとしよう。したがって同質

的な各企業の生産関数は、

( ) LiKLKFY iii ,,1,,, K==   

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となる。全ての企業は同質であるから均衡においては市場で決まった要素価格に対して同じ量の生産要素を

需要するはずである。そのときの資本の投入量を LKk = 、またそのときの産出量を LYy = とすれば、企

業固有の要素に関する企業別生産関数の 1 次同次性を利用して代表的企業の生産関数を

)( ( )KLKFKLLkFLyY ,,,, ===

と書くことができる。また集約型で表して、

( )Kkfy ,=

となる。代表的企業の生産関数 ( )•f に対して fDi を第 i要素に関する偏導関数、 fDij を第 i要素と第 j 要

素に関する 2 階の偏導関数と約束すれば、生産関数 ( )•F に関する仮定より、 01 >fD 、 011 ≤fD である。

つまり資本に関する私的限界生産性は逓減する。また集計資本は各企業にプラスの外部経済を与えるとして

02 >fD とする。

これに対し経済全体では外部性が内部化されて kLK = として扱うことができる。したがって代表的企業

の生産関数を ( )Lkkf , と書ける。すなわち、経済全体の生産関数は k のみの関数として ( ) ( )LkkfkF ,= と

書ける。これを社会的生産関数と呼ぼう。このとき資本の社会的限界生産性は、 ( ) fLDfDkF 21 +=′ とな

り資本の私的限界生産性よりも常に大きいことになる。

いま企業の生産関数を次のようなコブ・ダグラス型で表わしてみよう。

ηαηαα <<<= − 0,10,1     KLKY iii

このとき代表的企業の生産関数の集約型は

( ) ηα KkKkfy == ,

となる。資本の私的限界生産性は ηαα KkfD 11

−= である。また、社会的生産関数は、

( ) ( ) ηηαηα LkLkkkFy +===

となるから、資本の社会的限界生産性は ( ) ( ) ηηαηα LkkF

1−++=′ である。この定式化のとき、資本の社会的

限界生産性と私的限界生産性の比率は一定で次の値をとる。

( )α

ηαα

ηαηηα

ηηα +=+=+−+

−+

Lk

Lk

fD

fLDfD1

1

1

21

さらに、 ( ) ( )( ) ηηαηαηα LkkF 21 −++−+=′′ となるから資本の社会的限界生産性は人口一定という条件

のもとで 5、 ケース 1:資本の限界生産性が逓減的なケース 1<+ηα のとき ( ) 0<′′ kF となり逓減的で、さらにコブ・

ダグラス型の場合には稲田条件が成立する。つまり ( ) ∞=′→ kFk 0lim 、 ( ) 0lim =′∞→ kFk である。

これらの特徴は新古典派生産関数と全く同じである。 ケース 2:資本の限界生産性が一定のケース 1=+ηα のとき ( ) 0=′′ kF となり一定で ( ) ( ) ηηα LkF +=′

となる。 ケース 3:資本の限界生産性が逓増的なケース 1>+ηα のとき ( ) 0>′′ kF となり逓増的である。すなわ

ち、社会的生産関数は k の全域において凸関数である。また ( ) 0lim 0 =→ kFk 、 ( ) ∞=∞→ kFklimが成り立つ。

5 一般には、 ( ) fDLfLDfDkF 22

2121 2 ++=′′ であるから fD12 の符号に応じて資本の社会的限界生産性が逓減的で

あるか、一定であるか、逓増的であるかが決まる。岩井(1994, p.299)参照。

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-32-

(a) 限界生産性逓減 (b) 限界生産性一定 (c) 限界生産性逓増

1<+ηα のケース 1=+ηα のケース 1>+ηα のケース

図4: 社会的生産関数

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3 . 3 . 1 ソロー・モデルと内生的成長 この社会的生産関数をソロー・モデルに適用してみよう。ソローの動学的方程式は次のようになる。

δηηα −= −+ Lskkk 1&

また産出量の成長率は、

( ) kyy γηα +=&

で与えられる。 図 5 は、それぞれケース 1、ケース 2、ケース 3 に対応した位相図である。それぞれの図には、 )k,kk( & 平

面に貯蓄率で縮小した資本の平均生産性曲線と δ=kk& を示す半直線が k 軸に水平に描かれている。ソロー

の動学方程式からわかるとおり、両曲線の差が資本の成長率になる。資本の生産性曲線が δ=kk& を示す水

平線よりも上側に位置する領域では 0>kk& であり資本は成長する。これらの曲線が逆に位置する領域では

0<kk& であり資本は減少する。 ケース 1: 資本の限界生産性が逓減的なケース

ケース 1 の場合、稲田条件が成立するので図 5(a)に見るように資本の平均生産性曲線は δ が正である

限り必ず δ=kk& を示す水平線と 1 度だけ交わる。したがってこのケースの場合、人口が一定であるならば

定常状態が存在し一意に決まる。図 5(a)の両曲線の交点に対応する ssk が資本の定常値で、この値は、

( )11][ −+= ηαη

δ /ss sLk に一義的に定まる。定常値 ssk に対応する資本の成長率はゼロであり、したがって生産物

の成長率もゼロとなり、ケース 1 の場合は内生的な成長はないことになる。つまり、外部経済があったと

しても社会的限界生産性が逓減的である限り最終的に経済はゼロ成長の定常状態に至ってしまうのである。 ケース 2: 資本の限界生産性が一定のケース ケース 2 の場合ソローの動学方程式は、

となり資本の社会的平均生産生は資本の変化に関して不変である。したがって人口が一定である限り、右辺

は定数になる。 1=+ηα であるから生産物の成長率も資本の成長率に等しく、この経済は均斉的に成長する。

δη >sL と考えて良いから、図 5(b)に示すとおり、この経済は永久に定常状態における一定率で成長し続け

ることになる。つまり、外部的な規模の経済性を示すパラメーターη が資本の社会的限界生産性を一定に保

つほどに大きければ、外生的な技術進歩がなくても経済は持続的な成長を続けることができるのである。こ

こで得られた結果は先に述べた稲田条件を緩めた成長モデルから得られる結果と同じである。 ケース 3: 資本の限界生産性が逓増的なケース

生産関数のパラメーターが 1>+ηα のとき社会的生産関数は k の全域において凸関数であるという性質

を示す。したがって位相図は図 5(c)のようになる。この場合、資本の貯蓄率で縮小した平均生産性曲線と資

本の償却率を示す水平線の交点に対応する k の値は非常に小さい。したがって、資本ストックの初期レベル

はこの交点の右側にあると考えて良いだろう。もしそうであるならば、このケースには定常状態は存在せず

資本の成長率が永遠に上昇し続ける。また、 ( ) kkyy && ηα += で与えられる産出量の成長率は、資本の成長

率を上回るペースで上昇する。これは永遠に発揮される規模の経済性の効果である。 最後に本節で一貫して一定であるとして扱ってきた人口規模について触れておこう。人口を一定にした

内生的成長のケース 2 では、たとえ生産関数のパラメターと貯蓄率が国際間で同じであっても、人口の規

模が違えば永久に経済成長率も異なりそのギャップは永久に埋まらないことになる。もし人口が一定率で

δη −= sLk

k&

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(a) 資本の限界生産性逓減 (b) 資本の限界生産性一定

(c) 資本の限界生産性逓増

図 5: 外部経済と内生的成長

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上昇するならば、集計された社会的生産関数を見てわかるように、人口の拡大は常に資本の限界生産性を上

昇させ、ケース 3 のように永久に規模の経済が働き一人当たりの産出量の成長率が永遠に上昇し続けること

になる。

ソローの新古典派モデルでは生産関数のパラメターと貯蓄率の大きさに関わりなく長期の経済成長率はゼ

ロであった。そして長期の経済成長を説明するためには、天から降ってくる外生的な技術進歩に依存するし

かなかった。本節では、外生的な技術進歩に頼らずとも、これまでの成長会計で取り上げられてきた生産要

素、すなわち資本と労働によって長期の成長が可能になる条件を整理してきた。その一つは、資本蓄積が経

済全体にもたらす収穫逓増効果が長期の経済成長を説明し得るということである。そのときには、外部的に

働く収穫逓増効果が資本の限界生産性を一定に保つほどに大きいことが必要であることが示された。また資

本の限界生産性が一定で正の値を持つという条件が漸近的に成り立つ場合には、資本蓄積の収穫逓増効果な

くしても長期の経済成長が可能であることが示された。これは、新古典派的な生産関数が持つ特徴の一つで

ある稲田条件を緩めることに等しい。ソロー・モデルに外部的な収穫逓増効果を入れることにより内生的成

長理論の大筋は説明できたと思う。よく知られるようにソロー・モデルでは貯蓄率の変化は長期の成長率に

はなんら影響を及ぼさない。しかし、このことは定常状態における消費水準が変化しないことを意味しない。

貯蓄率を外生的に扱ったモデルでは、異なる貯蓄率に対応する成長経路のどれが消費者にとって最適である

のかが曖昧である 6。次に Ramsey-Cass-Koopmans による最適成長モデルの中で資本蓄積のスピルオーバー

効果を扱ってみよう。

3 . 3 . 2 . 最適成長モデルと内生的成長

Ramsey -Cass-Koopmansの最適成長モデルでは、未来永劫に存続していく家計を想定し、その家計は次の

ような厚生関数を最大化することによって異時点間の消費経路を選択するものとされる。

( ) dteecuUntpt−

∫=0

(36)

c は一人当たりの消費水準、 ( )0>ρ は時間選好率、n は人口の成長率である。また ( )cu は各時点の効用関数

で次のような性質を持つ。 ( )cu はc に関する凹関数である、すなわち、 ( ) 0>′ cu 、 ( ) 0<′′ cu を満たす。ま

た ( )cu は稲田条件を満たす、すなわち、 ( ) ∞=′→ cuc 0lim かつ ( ) 0lim =′∞→ cuc 。つまり消費水準がゼロに

近づくにしたがって限界効用は無限大になり、消費水準が無限に大きくなるにつれ限界効用はゼロに近づく。

この条件によって消費水準がゼロになることを排除することができる。さらに、 n>ρ という条件を付け加

える。これは、たとえ消費水準が時間を通じて一定であるとしても厚生関数U が有界であることを保証する。

次に各時点の効用関数 ( )cu を次のように特定化しよう。

( )θ

θ

−=

1

1ccu

この場合、限界効用は ( ) θ−=′ ccu となる。また ( ) ( )θθ

+−−=′′ 1

ccu となるから、 ( ) ( )( )cuccu ′′′−=σ で定義さ

れる異時点間の消費に関する代替の弾力性は θσ 1= となる。

中央計画局の最適成長経路

ここで、この経済は全知全能の計画者によって運営されているとしよう。生産された財は家計で消費さ

れるか次期以降の消費を賄うために資本ストックの蓄積に使われる。すなわち、資本ストックの蓄積に関

6 ソローの新古典モデルにおける資本蓄積の黄金率と動学的非効率性については Barro and Sala-i-Martin(1995, pp.19-22)、岩井(1994, pp.282-286)を参照されたい。

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する動学は次の微分方程式によって表わされる。

KCYK δ−−=& この計画者は生産に外部性が働くこと知ったうえで最適な経路を決定しなければならない。つまり計画者に

とっての生産関数は社会的生産関数である。前と同様に人口は一定としよう。このとき、計画者は次の制約

のもとで家計の厚生関数を最大化すべく資本ストックと消費の最適経路を決定する。 ( ) kcLkkckFk δδ ηηα −−=−−= +& (37)

また、計画者にとって資本ストックの初期値 000 >= kk は既知である。以後、資本ストックの初期値 00 kk =と資本蓄積の動学方程式(37)を制約に厚生関数(36)を最大化する問題を計画者の問題と呼ぼう。 計画者の問題を k を状態変数、 c を操作変数とする最適制御の問題として捉らえれば次のハミルトニアン

を得る。

( ) [ ] [ ]kcLkec

kckFecuH t1

t δλθ

λ ηηαρθ

ρ −−+−

=δ−−+= +−−

1)( (38)

λは資本蓄積方程式(37)に随伴する共役変数で、資本ストックが限界 1 単位増加したときの経済厚生U の増

加分を示す。すなわち、経済厚生単位で測った投資の帰属価格と考えてよい。よって、計画者の問題のハミ

ルトニアンは経済厚生単位で測った国民所得 (国内総生産-資本減耗) にほかならない。 計画者の問題に関する一階の条件は次のようになる。

( ) 0=−=−′=∂

∂ −−− λλ θρρ cecuecH tt (39)

( )[ ] ( )[ ]δηαλδλλ ηηα −+−=−′−=∂∂−= −+ LkkF

kH 1& (40)

0lim =λ∞→ tt

tk (41)

(39)は、最適経路上では消費水準 c はハミルトニアンを最大化するように選ばれなくてはならず、そのと

きには各期の消費はその限界効用が資本蓄積の帰属価格に等しくなるように選ばれることを意味している。

(40)は資本蓄積の帰属価格の変化を示すオイラー方程式である。最適経路上では、資本ストックの限界的

な 1 単位の増加による生産性の上昇分 (すなわち資本の限界生産性) だけ帰属価格が低下することを意味

している。(41)は横断性の条件である。これは最適経路上では資本ストックの価値が漸近的にゼロになる

ことを意味している。直感的には横断性の条件は、無限の期間にわたる予算制約を成立させる条件と考え

て良い。(37)を積分してみれば、初期資産 0k と生産 (あるいは所得) の現在価値の総和が消費の現在価値

の総和と ttt kλ∞→lim の和に等しくなる 7。したがって、無駄な投資をせず 0lim =∞→ ttt kλ とすることが、

生産した財を無駄無く使いきるという意味で最適な選択となる。共役変数に関する微分方程式 (40)を解け

ば、

dvkF

t

T

e))('(

0 0δλλ −−∫= (42)

7 cykk −=−δ& を時点ゼロから有限時点T まで積分すると、

( )dtcyekke ttTtTT −+= ∫ δδ

00

を得る。(42)を Te δ について解いて先の式に代入すれば次を得る。

( ) dtyekdtcekk tt

ttdvkF

eTTT TTT

δδ

λλ

∫∫ +=+∫− ′−

000

0

0

0λ は正であるから、

dtyekdtcek tt

tt

TTT

δδλ ∫∫∞∞

+=+∞→ 00 0lim

となり、 0lim =∞→ TTT kλ のとき生産した財を無駄無く使いきる。

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となる。また(40)より ( ) 000 >′= cuλ で稲田条件より 0c が有限である限り ( )0cu′ も有限であるから(41)に代

入して、横断性の条件は次のように書くことができる。 ( )( )dvkF

tt

T

ek δ−′∫−

∞→0lim (43)

すなわち横断性の条件が成り立つためには、漸近的に資本の社会的限界生産性はその償却率よりも高くなけ

ればならない。

(39)からθλ −−= ce ptであるから、これを時間に関して微分し(40)に代入して整理すれば、

( )[ ] ( )[ ]δρηαθ

δρσ ηηα −−+=−−′= −+ LkkFc

c 11& (44)

を得る。これは、消費経路に関するオイラー方程式でラムセイ-ケインズ式とも言われる。 以上整理すれば、計画者の最適計画が存在するとすれば、それは初期条件 00 kk = から出発し資本ストック

と消費に関する微分方程式 (37)と(44)に導かれる経路のうち横断性の条件 (41)を満足する経路であるという

ことができる。計画者の選択する経路は、ソロー・モデルの場合と同様に社会的生産関数の収穫逓増の程度

によって異なってくる。消費経路のオイラー方程式(44)を一瞥してわかるように、資本の社会的限界生産性

が逓減的であれば有限時限で消費の成長が止まる資本ストックのレベルに遭遇するであろう。一定であれば

消費成長率は資本ストックのレベルに関わりなく一定であるし、逓増的であれば資本ストックの拡大ととも

に消費の成長率も逓増的に上昇する。後者の場合には、一定率もしくは逓増的に成長する消費を可能にする

だけの生産ができるかどうかという条件、またそのときに厚生関数の積分が可能であるための追加的な条件

が最適解の存在のために必要になるだろう。本節では最適解の存在を示すことが容易な資本の社会的限界生

産性が逓減的なケースと一定のケースについて説明することにする。逓増的なケースについては

Romer(1986)を参照されたい。 資本の社会的限界生産性が逓減的なケース、図 6 は、 1<+ηα のケースに関して ( )kc, 平面に位相図を描

いたものである。資本蓄積方程式 (37)とラムゼイ-ケインズ式(44)に導かれる様々な経路が矢印によって描

かれている。 0=c& を示す垂直な半直線は、(44)において ( ) δρ +=′ kF を満たす軌跡である。先に示した

ように資本の限界生産性が逓減的な場合には稲田条件が成立する。したがって、 0=c& を満たす k は一義

的に決定する。この k を ssk とすれば、 ( ) 0<′′ kF という性質より kkss < なる k に関しては ( ) ( )sskFkF ′<′であるから(44)より 0<c& である。また sskk <<0 なる k に関しては 0>c& である。 0=k& で示される曲線

は(37)において ( ) kkFc δ−= を満たす軌跡である。 0>dkdc 、 022 <dkcd よりこのような山なり形に

なることは自明である (図ではコブ・ダグラス型に対応させて ( ) 00 =F で描いてある) 。(37)より 0=k& よ

り上方に位置する ( )kc, に関しては 0<k& であり、下方に位置する ( )kc, に関しては 0>k& である。このよ

うに資本の社会的限界生産性が逓減的な場合には、 0=c& 、 0=k& を満たす定常状態が存在する (図の E

点) 。位相図が示すように 00 kk = から出発して点 E に至る経路に対応する 0c が必ず存在し、そのような

経路は鞍点経路になっていることがわかる。そして鞍点経路に乗って定常点 ( )ssss kc , に到達した経済の成

長はゼロでストップすることになる。さらに、鞍点経路に乗って定常状態に到達すれば ( ) δρ +=′ sskF を

満たすから 0>ρ より ( ) δ>′ kF となり横断性の条件(43)を満たす。したがって、この経路は最適な経路で

あることがわかる。 資本の社会的限界生産性が一定のケース このケースは社会的生産関数 (3.3) において 1=+ηα になるケ

ースである。このとき資本ストックの蓄積方程式(37)、ラムゼイ-ケインズ式(44)および横断性の条件(43)をそ

れぞれ次のように書くことができる。

kckLk δη −−=& (45)

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図 6:資本の社会的限界生産性が逓減的なケース (最適成長モデル)

δρη −−= Lcc&

(46)

( ) 0lim =−−∞→

tLt

tek δη

(47)

新しいラムゼイ-ケインズ式(46)に見るように、人口一定という条件のもとで消費の成長率は一定である。このとき消費が成長するためには δρη +>L という条件が必要である。 以下、Barro and Sala-i-Martin(1995, pp.142-143)にしたがって、この成長率が均斉成長率であることを示そう。まず(46)は定数係数の常微分方程式であるから、

)( tLt ecc δρη

θ −−=1

0 (48)

なる一般解を得る (この段階では消費の初期値 0c は未決定である)。この解を (36) に代入すると、

)(dt

tLee

tcU δρη

θθ

ρθ

θ−−∞ −−

∫−=

110

01

を得る。したがって、

( )δρθ

θρδ ηη −−−>>− LL1

(49)

という関係は、この経済が消費を成長させるのに十分に生産的であるが、無限の経済厚生を生じる程には生

産的でないという条件になる。 資本ストックの蓄積方程式(45)も定数係数の常微分方程式であるから(48)を用いれば次の一般解を得る。

)( ( ) tLtLt e

cbek δρ

θδ η

ϕη −−− += 10

( )δρθ

δϕ ηη −−−−= LL1

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b は積分定数であり、また(49)より 0>ϕ である。さらにこの結果を横断性の条件 (47) に代入すると、

0lim 0 =

+

∞→

t

t

cb

ϕ

ϕ

となる。したがって、横断性の条件が成り立つためには積分定数b がゼロでなければならない。よって、

( ) tL

t ekδρ

θη

ϕ−−

=1

0c

となる。これを消費の初期値 0c について解いて(48)に代入すれば、消費は資本ストックの線形関数として、

tt kc ϕ=

と表わせる。したがって、 kc && = であり、また生産関数より ky && = であるから、この経済の均斉成長率は(46)

で与えられ、外生的な技術進歩や人口の成長がなくとも内生的に長期の成長が可能であることがわかった。

以上示したように、 00 kk = を所与として 00 kc ϕ= 、 ηLky 00 = から出発して δρη −−L で永久に成長す

る経路は、資本ストックの蓄積方程式 (45)、ラムゼイ-ケインズ式 (46)、および横断性の条件(47)を満たして

おり最適成長経路である。

最適成長モデルを用いて資本蓄積のスピルオーバーによる収穫逓増効果を調べてみた。得られた結果は前

節のソロー・モデルと全く同じである。すなわち、資本蓄積のスピルオーバーによる収穫逓増が資本の限界

生産性を一定に保つ程には大きくない場合には、新古典派の Ramsey -Cass-Koopmans の最適成長モデルと

同じ結果になり、外生的な技術進歩や人口の成長率がゼロのときには長期の成長率はゼロになる。また、そ

の成長経路は鞍点経路として与えられる。一方、スピルオーバーによる収穫逓増効果がちょうど資本の限界

生産性を一定に保つ場合には内生的成長が可能である。ただしその場合には、経済は常に一定率で成長し遷

移経路に関する動学は存在しない。またソロー・モデルと比較したとき、経済成長を正に保ち、効用積分(36)

が発散しない条件(49)が必要である。

市場経済における最適成長モデル

多数の家計と企業からなる市場経済を考えよう。家計と企業の数は有限でともに L であり、各家計および

企業は全く同質であるとしよう。家計および企業の数 L は時間を通じて一定とする。

家計 家計は資本ストックと労働を保有し、企業に対して毎期時点それらを供給するものとしよう。それぞ

れのレンタル価格を q と w で表わすことにする。家計はこれらのレンタル価格の将来の値について完全に予

見できるものとしよう。各家計が初期時点で保有する資本ストックを 00 kk = とする。以上の設定のもとで家

計の動学的予算制約は次のようになる。

kcqkwk δ−−+=& (50) 右辺の第 1 項および第 2 項は生産要素の供給から得られる家計所得で、それぞれ労働所得、資本所得であ

る。第 3 項および第 4 項は家計の支出を表わす。家計は資本ストックを保有することになっているから、

その償却も自ら行なわなければならない。したがって、家計は所得と支出の差すなわち貯蓄を資本蓄積に

あてる。家計は、資本ストックの初期保有量 00 kk = を所与として動学的予算制約(50)の制約のもとに厚生

関数(36)を最大化すべく行動するものとする。このように家計の動学的な選択の問題は資本ストックを状

態変数、消費を操作変数とする最適制御問題として定式化される。つまり家計の最適化問題のハミルトニ

アンは、 ( ) [ ]kcqkwecuH t δλρ −−++=

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となり、一階の条件は、

( ) 0=−=−′=∂∂ − λλ ρθρ tt ececu

c

H (51)

( )δλλ −−=∂∂−= q

k

H& (52)

0lim ==∞→ tt

tkλ (53)

によって与えられる。(51)と(52)から家計消費に関するオイラー方程式は次のようになる。

( )δρθ

−−= qc

c 1& (54)

また、共役変数に関する微分方程式(52)を解いて(53)に代入すると横断性の条件を次のように書くことができ

る。

( )0lim 0 =∫ −−

∞→

tdq

tt

ekυδυ

(55)

以上より、家計の動学的予算制約 (50)と消費のオイラー方程式(54)に導かれる資本ストックと消費の経路の中

で横断性の条件(55)を満たす経路が家計の最適経路である。 企業 一方、企業は利潤を最大化すべく家計から資本および労働を需要する。企業の生産技術は、

( ) ηαα KLKKLKFY iiiii−== 1,, で表わされる。先に述べたように企業は財市場および生産要素市場で競争

的に行動する。すなわち、資本および労働のレンタル価格q および wは企業にとって所与である。さらに各

企業は資本蓄積による収穫逓増効果を内部化できない、つまり集計資本 K は各企業にとって所与である。代

表的企業の利潤を iπ で表わす。 ( ) iiiiiiiii wLqKKLKwLqKKLKF −−=−−= − ηααπ 1,,

( )[ ] [ ]wqkKkLwqkKkfL iiiiii −=−−= ηα, 企業の利潤最大化およびゼロ利潤の条件は次の限界生産性原理によって表わされる。各企業は資本および労

働の私的限界生産性がそれぞれの要素価格に等しくなる水準に資本および労働を調達する。

( ) 0, 11 =−=−=

∂∂ − qKkqKkfDK ii

i

i ηααπ

(56)

( ) ( ) 0,, 1 =−−=∂∂

wKkfkDKkfL ii

i

iπ (57)

このように各企業の資本の私的限界生産性では、各企業の iK の限界的な増加の集計資本 K に寄与する効果

が考慮されない。 市場均衡 さて全ての企業は同じ生産関数を持つと仮定しているから、生産要素市場において需給がバラン

スする生産要素価格においては全ての企業の資本集約度は等しい。この水準を k で表わす。企業の利潤最大

化の条件(56)と(57)を家計の予算制約(50)と最適化の条件(54)、(55)に代入し、さらに LkK = を代入すると

市場均衡の条件として、

( ) kcLkkcLkkfk δδ ηηα −−=−+= +,& (58)

( )[ ] [ ]δραθ

δρθ

ηηα −−=−−= −+ LkLkk,fDc

c1

111& (59)

( )( ) ( )0limlim 0

10 1 ,

=∫=∫ −−

∞→

−−

∞→

−+ttdvLk

tt

dvLkkfD

tt

ekekδαδ ηηα

(60)

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を得る。以上の三条件を満たす経路が市場経済によって導かれる最適経路である。計画者の問題と全く

同様に 1<+ηα のケースと 1=+ηα のケースに分けて市場経済の均衡経路を分析することができる。内

生的成長が可能かどうかという結果に関しては計画者の問題と全く同じである。つまり、 1<+ηα の場

合には長期の均斉成長率はゼロになり、 1=+ηα の場合には(59)に与えられる成長率で永久に均斉的に成

長する。それでは 1<+ηα のケースでの定常状態における産出、消費、資本ストックのレベル、 1=+ηαの場合における内生的均衡成長率はどうであろうか。

計画者の問題における(37)と市場経済における(58)はともに予算制約を表わしているから両問題に共

通である。一方、消費の経路を導くオイラー方程式 ((44)と(59)) および横断性の条件 ((43)と(60)) は両

者の間で異なっている。どれだけ異なっているかといえば、資本の社会的限界生産性と私的限界生産性

の分だけ市場経済における消費の成長率が低くなっているのである。これに対応して 1<+ηα の場合に

は定常状態において 0=c& に対応する資本ストックのレベルが ( )ηαα + だけ縮小する。図 6 の 0=c& を表

わす垂直線が左に移動しているわけである。また、 1=+ηα のケースでは永久にαだけ成長率が低くな

ってしまうのである。これは、資本蓄積がもたらす外部性による動学版市場の失敗といえるものである。

このように外部性による市場の失敗がある場合、政府の介入によって社会的な最適解を得ることができ

るのはよく知られたことである。このケースの場合、資本蓄積の外部経済を各企業が享受できないことが

問題であるから、

を満たすような r の率で政府が企業の資本の使用に関して補助金を出すとしよう。同時に家計から消費税と

して rc の税金を徴収するとしよう 8。したがって家計の予算制約は、

( ) kcqkwk δτ −+−+= 1&

となる。この予算制約に基づいて求められる家計消費に関するオイラー方程式は(54)と変わらない。また、

企業の利潤最大化条件を加味して求められる市場経済における資本蓄積方程式は、

( ) ( )[ ]cKk,fkDkcKk,fk ττδ −+−+= 1&

となる。最後の括弧内は均衡財政条件にほかならないから、これも結局(58)と同じになる。したがって、こ

こで考えている税制は他に歪みをもたらさない。一方、市場版の消費に関するオイラー方程式(59)は、

( ) ( )[ ]δρτθ

−−+= Kk,fDc

c111&

となるから、 ( ) )αηατ +=+1 のとき計画者の問題と同じ均衡経路を得ることができる。

最適成長のフレームワークの中でも資本蓄積による外部経済が存在する場合、たとえ外生的な技術進歩や

人口の成長がなくても、長期の成長が可能であることがわかった。外部経済によって成長が可能になる場合、

家計と企業による市場均衡によって達成される経路はパレート最適な経路に比べて縮小した成長経路をもた

らす。パレート最適な成長経路を達成するためには永続的な政府の政策介入が必要であることが示されたわ

けである。

8 家計の選択に関して消費・余暇選好を考えていないから、この場合には消費税は一括税と同じである。

( ) ( )Kk,fDq 11 τ+=

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4 静学的スピルオーバー効果と技術特性

4.1 静学的スピルオーバー 前章で展開した最近の最適経済成長理論、とりわけ内生的経済成長理論での問題意識は、経済体系内の

個別経済主体の合理的行動の結果として内生的に発生した経済成長要因が、個別主体の意図とは別に、外部

性をもつことに着目している。その結果として主体の内生的な合理性追求による資本蓄積効果以上に個別

生産主体の限界生産力を変位させる可能性を持つことになる。そこではその効果を資本蓄積のスピルオー

バー効果と呼んでいる。資本のスピルオーバー効果による収穫逓増効果が、内生的に決定される個別経済

主体の資本の限界生産力の収穫逓減の程度を相殺して、資本の限界生産力を一定もしくはそれ以上に保つ

効果もつとすれば、経済は持続的な成長を維持できることになる。そのときには、外部効果の作用が資本

の私的限界生産力と社会的限界生産力に乖離を生むことになり、価格メカニズムへの何らかの政府介入に

よって、市場の失敗を補うことが必要とされることになる。この理論展開は、経済主体の私的利益追求の合

理性が、内生的な発生によるものであり、その外部効果に政府が補完的役割を果たすことによって持続的

成長を内生的に発生させることができるという意味で規範的な論理の帰結として注目に値する。ただ、こ

こで指摘されるような資本蓄積のスピルオーバー効果が現実の経済体系の中で有り得るのかどうか、また

それがあるとすれば、どのようなメカニズムによって生じ、どの程度の大きさをもつものか、という点に

なると実証的な実験計画が明確に付されているわけではないので、今後の課題として詰めるべき点も多い。 われわれがこの研究で着目しているのは、ある部門での生産性の変化が、経済の相互依存のメカニズム

を通じて、他の部門の生産効率の変化に与える影響の度合の測定である。しかし、この部門間スピルオー

バーの効果は、本来経済の価格波及のメカニズムを通じたスピルオーバーの効果であり、市場で成立する

価格がそれを体現しているかぎり、個別経済主体の経済合理性の追求によって、実現できるものといえる。

しかしそれが効率的に実現できるかどうかは、経済の相互依存のメカニズム、特にここでは中間財投入の

部門間技術波及の構造に依存することになり、よってわが国の経済発展の過程での構造変化がその実現に

どのように寄与してきたかを推察することは興味深い課題である。この章では、部門間の相互依存の構造

をわが国の資料に基づいて、比較静学的に追跡することによって生産性波及の意味を明らかにするための

分析枠組みを提示したいと考えている。 一国での種々の商品の生産に際して生じる中間原材料の取り引きがもたらす技術の相互依存の連鎖を通

じて、ある商品の生産効率の向上が、それを中間財として投入する他の商品の生産効率の変位を発生させ

るという、 "Static Spill-over Effect on Technology" と呼んだものに着目している。一国経済の商品生産

技術構造を見たとき、個別商品の技術変化、それに伴う要素投入や中間財投入の変位と併せて、商品構成も

しくは産業構造の変化も同時に発生している。そこで生じた技術の商品間、産業間の連鎖の特性を明らか

にするために、ここでは、産業連関表を用いて以下のような二つの分析枠組みを設定した。ひとつは、産

業の技術特性と産業間の技術連鎖(Technology Linkage)に着目したものである。産業連関表では、各商品

の生産技術特性は、投入係数のベクトルで捉えられる。中間投入の投入係数の相互依存を通じて、各商品

の生産には、相互に連関性をもつ。投入係数行列のかたちで産業の投入の技術連鎖の構造を描写すること

ができる。この技術的連鎖構造は次節で明かにするように、商品の序列を三角化することによって、基礎

素材商品から、最終財商品まで原料系統に沿った依存性のあることを示すことができる。もうひとつの分

析ツールは、各商品部門の生産性向上の尺度である。第 2 章の社会会計フレームを用いた一国の技術進歩

率の測定と整合的に、ここでも、各商品生産部門の生産効率もしくは生産性の変化を全要素生産性(Total Factor Productivity) の変化によって捉える。第 1 の分析ツールである三角化の枠組みとこの生産性尺度

を組み合せると、いずれかの商品部門での生産性向上、もしくは技術革新がそれに関連するすべての生産

部門の生産性向上に寄与する技術連鎖を通じた生産性向上の波及経路を記述できるのである。わが国のこ

の 4 半世紀の産業構造の変化をみてくると、産業構造の変化の形態、言い替えれば、一国のなかでの成長

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産業と衰退産業の入れ換わりや規模の拡大の相違が技術連鎖を通じた相互依存の構造と密接に結び付いて

いることがわかる。ここではそれを商品の素原材料系統という視点から捉える。この章での分析対象期間

は、1960 年から 1985 年までの 25 年間である。

4 . 2 技術連関構造と三角化 産業連関表を用いて、一国の産業構造の特性を明かにする分析枠組みとわが国の 1960 年からの産業構

造変化の実態をそれに基づいて捉えた結果を述べておこう。周知のように産業連関表では、一国の産業構

造をそこで生産される商品の技術構造、もしくは投入構造に着目して捉えようとしている。投入構造は各

商品について、中間原材料投入、要素投入にわけて捉えられており、中間投入に関しては、他の商品生産

との相互依存の関係が中間投入行列として表示されている。わが国では、1955 年表以来 5 年おきにいわゆ

る基本表といわれる産業連関表が作成、公表されており、それ各基本表の商品分類、概念などを比較可能

なかたちに調整して、300-349 商品分類の時系列比較表を作成することができる。ここでは、1960、65、70、75、80、85 年の 6 表を分析対象とする。 各年の表について、商品の配列を並び替えることによって、配列の上部に最終財を下部に中間財を配置

するように工夫する。最終財は、中間財として他の商品生産に投入されることが少なく、逆に下部の中間

財は、多くの商品の生産に中間財として投入されるかわりに、最終財にまわる可能性が少ない。こうした

商品の投入技術構造に着目した結果、中間投入の商品間連鎖がある種のヒエラルキーの構造をもっている

ことを知ることができる。いわゆる三角化 (Triangularization) と呼ばれる手法である。三角化の結果、商

品の相互依存の関係に次のような特性を見いだすことができる。 (1)ブロック独立性(Block Independency) 商品を幾つかのブロックに分けることによって、そのブロック相互の中間投入は、ある種の独立性をもつ

ことが確認できる。ここでは、商品を[表 5]に示すように、50 の商品ブロックに分割することができた。

50 ブロックは、さらに (A) 建設業から (L) サービスまでの 12 の大ブロックの結合することによって、

一国の産業のヒエラルキーの姿を明確に浮び上がらせることができる。 (2)ブロック間逐次性(Inter-Block Recursive) 12 の大ブロックおよび 50 の小ブロック間に、その中間投入の構造を通じて、ヒエラルキーの成り立つこ

とを確認できる。われわれの分類では、最も上部に位置する商品群は (A) 建設アクテビティーである。建

設部門は、多くの他のブロック、とりわけ (C) その他の最終工業製品、(D) 一次金属工業、 (F) 窯業・土

石産業などの商品と中間投入を通じて密接な関係をもち、その生産物は、資本形成としての建築、土木な

ど最終需要に振り向けられる。ブロック (B) の機械製品もまた、(D) 一次金属工業に密接な依存関係を持

つ最終製品である。(G) その他の最終工業製品は、一部は、より上部に位置する最終財への中間財として、

また一部は直接的に最終需要に向けられる最終財として性格づけされる。これらの(A) 建設業から(G) 製造業製品までの比較的ヒエラルキーの上部に位置するブッロクにある商品の生産は、(H) 素原材料ブロッ

クの各商人と素原材料系統を通じて特徴づけられる。素原材料系統については、後に詳述するけれども、

一国の商品生産の構造が幾つかの素原材料系統に分かれており、産業構造は、素原材料系統間の代替を通

じて、ある素原材料系統から、別の素原材料系統への資源配分の移動が、その各素原材料の上部に位置す

るすべての産業についてその構造を変化させるというかたちをとっていることが観察されるのである。し

たがって、ある産業の生産効率は、当該産業の技術革新や生産性の向上によって創出されるばかりではな

く、その下部構造に位置するすべての産業の生産効率の変動と密接に関係をもっていることになる。最後

に、商品のブロックのうち、(I) 第 2 次エネルギー製品、 (J)補助材料、(K)補修材料、(L)サービスなどの

各ブロックの商品は、中間財として、すべての産業ブロックに関係する基礎産業のブロックである。その

意味で、三角化のヒエラルキーの中では、もっとも下部に位置付けられている。この様に、三角化するこ

とによって、商品のブロックの間での依存関係にもある種の逐次性を認めることができる。

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(3)ブロック内逐次性(Intra-Block Recursive) 上記の各ブロック内では、三角化の順序にしたがって、下部の商品から上部の商品にブロック内での逐次

性が観察される。これを Intra-Block Recursive と呼んでおく。 三角化した産業連関表に関して、観察されるこれらの特徴は、各商品生産の技術構造を反映してきわめ

て安定的でであることを確認することができる。[図 7]、[図 8]は 1960 年、1985 年についての三角化の結

果を、投入係数の大きさにおおじてその相互依存の関係をプロットしたものである。投入係数の大きさに

よってプロットの点に濃淡をつけて、その依存関係の濃密さの度合を表している。1960 年と 1985年とで

三角化の形象は非常に似ていることが分かる。(A) 建設業ブロックから (G) 製造業製品ブロックまでそれ

ぞれのブロック内で明確な Inter-Block Recursiveが観察されると同時に、ブロック間の独立性も観察でき

る。また(H)素原材料ブロックの特定素原材料とその上部商品群との連鎖も認められる。また(I)第 2 次エ

ネルギー製品ブロックから(L)サービスブロックの諸商品はすべての上部産業に影響を与える構造をもっ

ている。このように安定的に観察される商品間の相互依存の構造は、産業の生産効率の向上の上で非常に

有効な分析視点を与える。とりわけ商品間の連鎖の構造がある特定部門の生産性向上や国際競争力を決定

する上で重要な視点を与えることになる。

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表 5: 商品ブロック分類とその略表示

ブロック 産業番号 産業名 略表示

A.建設業 (1) 建設業 Const. B.機械工業 b1 (2) 自動車を除く輸送機械 Trasp.Eq.exp.Motor b2 (3) 自動車工業 Motor b3 (4) 一般機械 Machinery b4 (5) 電気機械 Elec.Mach. b5 (6) 電子機械装置 Computer b6 (7) 精密機械 Prec.Inst.

C.その他最終製造業製品 c1 (8) その他製造業製品 Misc.Mng.Prod. c2 (9) 合板 Plywood c3 (10) 産業・民生用電子器具 Elec. Equip. D.一次金属工業 d1 (11) 鋼材製品 Steel d2 (12) 粗鋼 Clude Steel d3 (13) 銑鉄 Pig Iron d4 (14) フェロアロイ Ferro Alloy d5 (15) 非鉄金属製品 Nonferrous E.食料品製造業 (16) 食料製品 Foods F.窯業・土石産業 (17) 窯業・土石製品 Stone Clay G.製造業製品 g1 (18) 衣服製品 Apparel g2 (19) 繊維製品 (天然繊維) Natural Fiber g3 (20) 繊維製品 (合成繊維) Synthetic Fiber g4 (21) ゴム・皮革製品 Rubber &Leather g5 (22) 紙・パルプ製品 Paper & Pulp g6 (23) 溶解パルプ Dissolving Pulp g7 (24) その他製造業製品 Misc. Mng.Prod. g8 (25) 繊維用合成樹脂 Synthetic Resins g9 (26) タール化学製品 Tar Chemicals g10 (27) 石油基礎製品 Pet. Basic Prod. g11 (28) 無機化学製品 Inorganic Chemic. g12 (29) 肥料 Manures g13 (30) 石炭乾式製品 Coal Dry Prod. g14 (31) その他の化学製品 Other Chemic. Prod. H.素原材料 h1 (32) 鉱物原料 Ore mining h2 (33) 窯業・土石原料 Mat. for Ceramics h3 (34) 農業生産物 Agric. Prod. h4 (35) 漁業生産物 Fisheris h5 (36) 畜産生産物 Livestock Prod. h6 (37) 天然繊維原料 Mat. for Natiral Tex. h7 (38) 木製品原料 Mat for Woods Prod. h8 (39) 石炭鉱業 Coal Mining h9 (40) 石油製品・天然ガス Crude Pet. I.第 2 次エネルギー製品 i1 (41) 電力・ガス Electric. & Gas i2 (42) 石油精製製品 Pet. Refinery J.補助材料 (43) 補助材料 Auxialiary K.修理 (44) 修理 Repairs L.サービス l1 (45) 卸・小売業 Trade l2 (46) 金融・保険業 Finance l3 (47) 不動産業 Real Estate l4 (48) 運輸業 Transportation l5 (49) 通信業 Communication l6 (50) その他サービス Misc.Service

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図 7: 1960 年における三角化と投入係数プロット

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図 8: 1985 年における三角化と投入係数プロット

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4 . 3 生産性波及構造の分析枠組み

構造変化と生産性の部門間波及を解明するためのもうひとつの分析枠組みをここで示そう。産業連関表

の価格波及の方程式体系に着目しよう。産業連関表の thj 部門に着目して、次のコストバランス式をえる。

∑ ==+++i

jcjjjjjjjijoi n,...,j,XpTrKwLXap )1( (61)

ここで、 hjt 部門の間接税率を次のように定義しておく。

方程式 (61 ) を jX で除して、税率 jTax 、 雇用係数 j

jj X

Ll = 、資本係数

j

jj

XK

k = 、中間投入係数 ija と輸

入係数 jm を代入して、次式をえる。

),...,1(,)1(1

1njrkwlpmapma

Tax ijjjjmiiijci

iiij

j

=++=

−−

+ ∑∑ (62)

ここで、 i 部門のオーバ-オール価格 oip は次のように定義しておく。

miiciioi pmpmp +−= )1( 次に全要素生産性の尺度として次の定式を用いよう。

),...,1(, njKLx

XTFP

i jjij

jj =

++=

∑α

αTFP は thj 部門における当該年の総投入に対する総産出の比率として、全要素生産性を定義しておく。

この定義による全要素生産性の成長率は、2 時点間ディビジア指数で定義される全要素生産性尺度の有効

な近似を与えることになる 9。(62)式の右辺第 2、3 項にこの全要素生産性の尺度を代入して、

),,1(,1n...j

i kla

rkwl

TFPrkwl

jj

jjj

j

jjij

j

jj=

++

+=+

∑ 

α (63)

となり、これを(62)式に代入して、次のような価格方程式の体系をえることができる。

( )[ ]

+++

+−−=∑

i jj

jjjj

j

TT

kla

rkwl

TFPMPmAIMIAIIPc

ij

taxtax α11 (64)

=

+

++

=

nnnn

n

n

T

n aaa

aaa

aaa

A

Tax

Tax

Tax

I tax

L

MOMM

L

L

L

MOMM

L

L

21

22212

12111

2

1

,

)1(00

0)1(000)1(

=

=

=

cn

c

c

mn

m

m

n P

P

P

Pc,

P

P

P

Pm,

m

m

m

MMM

L

MOMM

L

L

2

1

2

1

2

1

00

0000

この体系では、資本係数j

k 、雇用係数 jl 、中間投入係数 ija 、輸入係数 jm および 全要素生産性 αTFP が構

造パラメターである。したがって構造変化は、これらのパラメターの時点間変化によって捉えられる。

9 われわれの尺度に基づく全要素生産性の成長率とディビジア方式によるそれとの相関係数は、1960-65 年について、

0.9677 と高く、この方式による生産性の成長率の測定が有効な近似を与えていることを示している。

)1(, ,...njrKwLXap

TTax

i jjjjjijoi

jj =

++=

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時点間にわたって、労働、資本などの要素価格および輸入財価格が外生的に変化する。構造パラメターは、

それらの外生的変化を調整するように変化を遂げる。ある時点から他の時点にかけての構造パラメターの

変化によって、構造調整の程度を知る指標を作成することができる。 外生変数

構造 パラメター

図 9: Ip(構造調整指数)モデル

基準時 0 における外生変数 0Pm 、 0jw 、 0jr 、 0jTax を所与として、基準時の構造パラメターの下で、方程

式(64)を解くことによって、均衡価格 0Pc をもとめることができる。同様にして、比較時 t の均衡価格t

Pc を

求めることができる。さらに基準時の構造パラメターを与えて、比較時の外生変数を設定することによっ

て、仮想的な均衡価格値 hPc を解くことができる。比較時の均衡価格 tPc と仮想均衡価格 hPc の差異は、基

準時から比較時までの構造パラメターの変化、構造調整によるものと考えることができる。そこでその両

者を対応させて、 tPc と hPc の比率をもとめることによって、各商品に関して、構造調整の指数を策定する

ことができる。この比率が 1.0 を下回る場合、外生変数としての要素価格や輸入財価格の上昇の影響を基

準時から比較時にかけての構造パラメターの変化、構造調整によって吸収できたことを意味することにな

る。またその逆の場合には、構造調整が必ずしも価格低下に結びつかなかったことを意味することになる。

また、この構造調整の指数は、次のように分解することによって、構造パラメターのどの部分が構造調整

に寄与したかを読み取ることができるようになる。

( )[ ]

+++

+−−=∑

iij

j

jj

jjj

jo

Ttax

Ttax kla

rkwl

TFPPmMAIMIAIIPc

00

0000000

100

0

0

00

( )[ ]

+++

+−−=∑

i jtjijt

jtjtjtj

jttt

Tttaxtt

Tttaxt kla

rkwl

TFPPmMAIMIAIItPc

0

01 1α

( )[ ]

++

++−−=

∑−

i jjtijt

jtjjtjt

jttt

Tttaxtt

Tttaxt kla

rkwl

TFPPmMAIMIAIIkPc

0

01 1α

jojojoo TaxrwPm ,,, jtTax,jtr,jtw,tPm

αjoTFP,oM,oA,jok,jol

αjtTFP,tM,tA,jtk,jtl

hPc

tPcPc

0Pc

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( )[ ]

+++

+−−=∑

i jt

jtjtjt

jttt

Ttaxtt

Totaxt

jtij

jt

aC

kla

rkwl

TFPPmMAIMIAIIP

0

10

1

α

( )[ ]

+++

+−−=∑

i jtjtijt

jtjtjtjt

jtt

Tttaxt

Tttaxtm kla

rkwl

TFPPmMAIMIAIIPc

α1

01

0

( )[ ]

+++

+−−=∑

i jtjtijt

jtjtjtjt

jtt

Tttaxtt

Tttaxttfp kla

rkwl

TFPPmMAIMIAIIPc

α0

1 1

( )[ ]

+++

+−−=∑

i jt

jtjtjt

jttt

Tttaxtt

Tttaxtt kla

rkwl

TFPPmMAIMIAIIPc

jtijt

jt

α

11

上記の各段階で仮想的均衡価格との関連で構造調整の指数を次のように分解することができる。

tfpmakt

t

h

t

PctPc

IpTFP,Pc

tPcIpM,

PctPc

IpA,Pc

tPcIpK,

PcPc

IpL,PcPc

Ip ======