世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the...

32
世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート

Transcript of 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the...

Page 1: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

世界の CCSの動向:2016

サマリーレポート

Page 2: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

2

「加速させるとき」 –BRAD PAGE

(グローバル CCSインスティテュート CEO)

2016年は CCSにとって重要な成果を上げた年となった一方、

重大な課題も浮き彫りになった。

パリ協定は世界が気候変動緩和へ向けた礎となっている。パリ

協定締約国会議(COP)において各国が掲げた自主目標では

1.5℃はもちろん、2℃「未満」に抑えるにも不十分である、とされ

ている。さらなる対策が必要であり、多くの国々が CCSをより積

極的に導入することが最も重要である。

インスティテュートは、世界の大規模 CCSプロジェクト 38件をフ

ォローしており、そのうち 20件以上が 2017年末までに操業す

ると見込まれている。これらのプロジェクトによって、CCSの安全

性・信頼性・適応性・コスト効率が証明されるであろう。

本序文の執筆中、2016年の重要プロジェクト 2件がスタートした。1件は Emirates Steel

Industriesによるアブダビ CCSプロジェクトのフェーズ 1であり、鉄鋼業界における世界初

の大規模 CCSプロジェクトである。もう 1件は水素製造施設から CO2を回収し、沿岸近くに

貯留する日本の苫小牧 CCS実証プロジェクトである。

さらに 3つの大規模 CCSプロジェクトが米国で操業を開始する予定である。

世界最大の燃焼後回収プロジェクト(テキサス州 Petra Nova炭素回収プロジェクト)

世界初の大規模バイオ CCSプロジェクト(イリノイ産業炭素回収貯留プロジェクト)

商業規模の石炭ガス化発電施設としては世界初の CCSプロジェクト(ミシシッピー州ケン

パー郡発電施設)

世界各地(カナダ、ヨーロッパ、南米、オーストラリア、アジアの一部、中東)にも大規模プロジ

ェクトが存在し、また数多くのパイロット・プロジェクトや実証プロジェクトが行われている。

これらのプロジェクトを推進するだけでは、目標達成にははるかに足りない。現在の CCSプ

ロジェクトでは 2℃目標の達成には程遠いのである。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第 5次評価報告書では、大部分の気候モデルが

CCSなくして排出削減目標の達成はできない、としている。重大なことは、CCSがなければ

コストは 2倍以上になり、平均 138パーセントのコスト増が見込まれることである。

国際エネルギー機関(IEA)は、2°Cシナリオの達成には、2040年に年間約 4,000百万トン

(Mtpa)の CO2を回収・貯留する必要があるとしている。1.5℃目標の達成にはさらなる努力

が必要となる可能性がある。

現在、操業中・建設中のプロジェクト全体の回収能力は約 40Mtpaである。

これではまだ目標には程遠い。

過去数年、大きな進展がなかったといっているわけではない。しかし、CCSのように試行錯

誤しているてはパリ協定の目標達成に必要なペースにいたらないのである。

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

Page 3: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

3

結局、ビジネスモデルが成立する場合に限り CCSが広く配備される。これはコストの問題で

はない。CCSは CO2を削減する他の技術と比べてコスト競争力を有しているが、他のクリー

ンエネルギー技術と同様の支援がないのである。CCSが他の技術と同等の配慮・認識・支

援を得られるような「ポリシー・パリティ」が与えられない限り、パリ協定の目標達成はきわめ

て疑わしいものとなる。

こうした状況を受け、インスティテュートは CCSの理解向上へ向けた経済・規制上の措置お

よびインセンティブメカニズムを提唱すべくさらに積極的に取り組んでいく。

2005年の CCSに関する IPCCの特別報告書以降、この 10年の間に CCSは主要な気候

変動緩和策として認識され、世界の主要な温室効果ガス削減シナリオに盛り込まれるように

なった。

IEAと IPCCはいずれも気候変動への対応において確固たる地位を築いている。

私たちは岐路に立っているといえる。現在進行中のプロジェクトは、(当時)10年後を見据え

た政府の政策イニシアチブの成果なのである。

CCSプロジェクトの次なる動きは、10年後を見据えた動向と関係者の認識・決意にかかって

いる。

私は、この気持ちを持って本報告書を推奨し、CCSの展開ペースを加速させるために協力

し、気候目標が達成されることを願っている。

BRAD PAGE

グローバル CCSインスティテュート CEO

[SUMMARY REPORT]

Page 4: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

4

CAMERON HEPBURN

オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 環境経済学

教授

2015年 12月に採択されたパリ協定は、多国間気候外交にとって

歴史的な節目となった。パリ協定の 2つのポイントは、(a)気温上昇

を 2℃「未満」に抑えると共に 1.5℃の「努力」目標を追求すること、

(b)今世紀の後半には「ソース(排出源)とシンク(吸収源)」の均衡

(ゼロ・エミッション)を達成することである。パリ協定は、先進国・途

上国が共に課題の重大性と喫緊性を認識している前例のないシグ

ナルといえる。各国のコミットメントから読み取れるのは、各国が課

題に取り組み、正味排出量ゼロへ向けた技術支援に対する政治的

関心が向上している点である。

楽観的な見解には理由がある。再生可能エネルギー(特に太陽

光)、電気自動車、エネルギー貯留などのクリーンエネルギー技術の技術進歩が進んでい

る。市場の成長と技術の普及が進むにつれて投資コストは低下するため、さらに技術進歩が

進んでいく。しかし、現在のクリーンエネルギー技術はエネルギー・システムの一部をわずか

に担うに過ぎず、パリ協定の目標達成にはその展開を大幅に加速する必要がある。

クリーンエネルギー技術が急速に展開したとしても、温度上昇 1.5℃どころか 2℃目標ですら

達成できない可能性が非常に高い。オックスフォード大学の研究では、電力部門から排出さ

れる CO2について、既存設備が残存耐用年数まで運用されれば 1.5℃目標を達成する累

積排出量を上回ることが明らかとなった。2017年末までに発電所を早期廃止(経済的ダメー

ジあり)するか、CCSを導入(レトロフィット)しない限り、50パーセント以上の確率で 2℃目標

の達成は困難となる。つまり、再生可能エネルギーと原子力だけでは、温度が 1.5℃どころ

か 2℃に上昇する前に正味排出量をゼロに減らすことは事実上不可能である。CO2を回収し

安全に貯留する技術を開発するためにはさらなる努力が必要である。

さらに、今世紀中に世界全体のゼロ・エミッションを達成するには、CCSと組み合わせたバイ

オエネルギー(BECCS)や CO2除去(carbon dioxide removal CDR)技術などのネガティ

ブ・エミッション技術がなければ経済的に不可能に思われる。産業・農業プロセスから排出さ

れる CO2排出量は、近い将来においても現状と比べて大きな変化は無いと思われる。最終

的にソース(排出源)とシンク(吸収源)のバランスを取るためには、ネガティブ・エミッション技

術・プロセスが重要になるだろう。再生可能エネルギー技術だけでは、ゼロ・エミッションの達

成に必要なシンク(吸収源)を提供することはできない。

したがって、温室効果ガスの累積排出量を制限し、地球温暖化を 1.5℃~2℃上昇に抑える

には、CO2回収技術の進歩が不可欠である。ゼロ・エミッションの達成には、2050年から

2100年の間にネガティブ・エミッション技術が必要となる。また、気候変動に関する政府間パ

ネルの第 5回評価報告書(AR-5)では地球温暖化を 2℃以下に抑えるために不可欠な技術

とされている。

常にとは限らないが、報道機関や環境団体が CO2回収技術を好意的に受け止めていること

は事実である。これは化石燃料に対する反対から来ているのかもしれないが、現代経済は化

石燃料システムを基盤としており、今後数十年にわたり経済発展に不可欠である。化石燃料

を継続して使用できるか否かは、汚染物質を大幅に削減する技術や温室効果ガス回収技術

にかかっている。これらの技術進歩がなければ、化石燃料の使用は困難となる可能性があ

る。

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

Page 5: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

5

毎年発行されるインスティテュート報告書『世界の CCSの動向』は、政策立案者及び企業に

CCSの加速へ向けた行動を促すための非常に重要な手段となっている。報告書から私が導

いた結論は、「CCSは理論・応用知識の面では発展しており実践的な成功が見られるもの

の、CCSの進捗は遅すぎる」ということである。

この結論は、気候変動リスクの重大性、再生可能エネルギー・原子力では排出量削減のスピ

ードが十分ではないという事実、ゼロ・エミッションの達成には多様な産業から排出される

CO2排出量の削減が必要だという事実、に沿ったものである。CCSの進展は現在の気候政

策が想定するよりもはるかに重要である。パリ協定に適切に対応するには、炭素価格を含め

CCSの発展と展開を促進するためのより体系的・実質的かつ持続的な支援が必要である。

CAMERON HEPBURN

オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 環境経済学教授

写真:パリ協定の採択を喜び合う COP 21/CMP 11 特別代表 Laurence Tubiana、

UNFCCC 事務局長 Christiana Figueres、国連事務総長潘基文(バン・ギムン)、COP

21/CMP 11 議長、フランス外相 Laurent Fabius、フランス大統領 François Hollande。写真

提供: IISD/ENB | Kiara Worth)

(http://www.iisd.ca/climate/cop21/enb/images/12dec/3K1A5493.jpg)

[SUMMARY REPORT]

Page 6: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

6

気候変動に関する国際議論と CCS

2020年以降の気候緩和行動に焦点を当てたパリ協定は、低炭素経済への移行へ向けた世

界の政治指導者による明白なコミットメントである。パリ協定は努力と進歩の評価基準であ

る。パリ協定の目標達成のために政府や企業が取り組まなければならない主要な対策として

CCSが採用されなければならない。

パリ合意(2020年以降の気候合意)のアプローチは、京都議定書に基づく 2020年以前の合

意とは根本的に異なる。2015年 12月の COP21において、国家レベルの意思決定範囲を

拡充する「ボトムアップ」型のアプローチが合意された。

この新しいアプローチにより以前と比べてより広範な気候対策が可能になると期待されてい

る。パリ協定の「発効」までわずか 10カ月しかかからなかったことは、発効に 8年を要した京

都議定書とは対照的である。

パリ協定によれば「CCSの普及を加速させるために必要な将来の投資環境」について楽観

的見方ができるが、多くの課題が今後 5年間にわたり求められる。

パリ協定は課題の重要性と対応のスピードを明確に示しており、主要な

対策として CCSが採用されなければならない。

パリ協定で定められた気候目標は以下のとおり。

短期目標として、可能な限り早急に排出量のピークを迎えること。

長期目標として、平均気温の上昇を産業化以前と比較して 2℃未満に抑えし、可能であ

れば 1.5℃未満に抑えること。

今世紀後半、ソース(排出源)とシンク(吸収源)のバランス(ゼロ・エミッション)が必須とな

ること。

これらの目標達成に必要な排出削減において、CCSは非常に重要な技術と位置づけられて

いる。

CCSの幅広い展開なくして、パリ協定に沿った最小コストの排出削減を実現することは不可

能である。

IPCCと IEAによるモデル検証においても、2℃目標の達成における CCSの重要性が強調

されている。

IPCCの『気候変動 2014年版(Climate Change 2014:Synthesis Report Summary for

Policymakers)』によれば、CCS無くして 2100年までに CO2(CO2eq)450ppmを達成する

コストは(CCS有りのシナリオと比べて)138パーセント増加するとされている。また、CCS無

くして 450ppmの達成が可能な気候モデルはごくわずかだったことが強調されている1。

1 IPCC, 2014. Climate Change 2014: Synthesis Report Summary for Policymakers. Contribution of Working Groups I, II and III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change. IPCC. Geneva. Switzerland.

Page 7: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

7

IEAの予測によれば、2℃目標を達成する最も低コストのシナリオでは、2040年に年間約

4,000万トン(Mpta)の CO2を回収貯留する必要がある2。これは 2017年末までに操業予定

の CCSプロジェクト年間 CO2回収量の約 100倍に相当する。

各国の排出削減目標はパリ協定の合意目標へ向けた堅固な基盤となる

が、その実現には CCSの早期導入が必要である。

パリ協定における約束草案(NDC)により各国の削減成果を評価することが可能になり、必

要に応じて目標の見直しが可能となる。パリ協定は、各国が NDCを見直し、信頼性が高く、

費用対効果が高く、そして予測可能な気候・エネルギー政策を策定する機会となっている。

これは、投資家が CCSのような資本集約的かつ長期的な低炭素技術へ支援を行うよう促す

ために必要なのである。

COP21開催までに提出された NDC(INDC)に基づき 2020年から 2030年(まで)の排出削

減が表明された。INDCの実施により排出量の増加に歯止めをかけることができるが、パリ

協定の目標達成には不十分である。

COP 21前に発表された IEAの分析によれば、INDCは3

「……気候目標の達成に必要な方針転換には不十分である。気候目標が徐々に引き上げられなければ、INDCをベースとした 2100年の平均気温上昇は約 2.7℃になると予想されており、2℃未満に抑えるには不十分である。したがって目標の策定において INDCは重要な要素とされなければならない」。

2°C目標の達成(2℃「未満」はもちろん)は非常に困難である。平均気温の上昇を 2℃未満

に抑えることは、現行の CO2排出量を(排出量の増加を遅らせるだけでなく)大幅に削減する

ことを意味する。パリ協定は気候変動への対応を進める上で重要なステップ(「重要な基盤」)

である。

世界(The global community)が 2030年以降(好ましくは 2030年まで)の緩和策を強化し

なければ、後世さらに大きな課題への対応が求められる。

INDCに欠落している点は、エネルギーの長期的な変革の「流れ」に必要な技術である CCS

をあらゆる利害関係者に確実に認識させる重要性について強調していない点である。

気候モデルによれば、他に有効な緩和策が存在しなければ 450ppmの大気濃度閾値を超え

る可能性が高いとされている。これは、炭素予算(the carbon budget)を計上する上で 2050

年以降ネガティブ・エミッション(特に CCSと組み合わされたバイオエネルギー(BECCS))に

大きく依存することを意味する。

マイナスの排出量を実現する技術は大規模展開という大きな課題に直面している。BECCS

における主な問題は、持続可能なバイオマスが十分に利用可能どうか、また水-エネルギー

-農業-気候システム間の相互作用を十分理解する必要があるか、といった問題である。

特に 2℃目標を十分下回るような過剰な炭素予算の可能性を想定しつつ、開発(および研

究)における優先順位を CCS技術に置かなければならない。

2 IEA, 2016. Energy Technology Perspectives 2016: Towards Sustainable Urban Energy Systems. Paris. OECD/IEA.

3 IEA, 2015. Energy and Climate Change: World Energy Outlook Special Briefing for COP21. Paris. OECD/IEA.

Page 8: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

8

再生可能エネルギーとエネルギー効率改善だけではパリ協定の目標を

達成することはできないため、クリーンエネルギーに関する協議では

CCSに対する「平等の政策支援(ポリシー・パリティ)」が必要である。

国際的なクリーンエネルギーに関する協議では、再生可能エネルギーとエネルギー効率改善

に対する先入観がある。CCSはこうした協議においてこれまで以上に重要な役割を果たさな

ければならない。これは、化石燃料に関する排出削減について議論する公式な場がない、国

連のクリーンエネルギーに関する最重要構想『持続可能なエネルギー(Sustainable Energy

For All (SE4ALL))』において特に当てはまる。

電力部門が化石燃料に依存していること、及び産業部門では化石燃料に代替する燃料がほ

とんどないこと、を考えると再生可能エネルギー及びエネルギー効率改善だけではパリ協定

の気候目標達成に必要な CO2排出削減はできない。

既存の石炭火力発電所に加え、世界中で 2,000以上の石炭火力発電所が建設・開発計

画段階にある4。

産業部門から排出される CO2は世界の総排出量の約 4分の 1を占めている。CCSは

産業部門の排出量を大幅に削減できるただ一つの選択肢である。産業分野では、再生

可能エネルギー技術は CCSの代替手段にはならない。

多くの地域において電力部門からの排出量増加を抑制するために「ガス推進(push for

gas)」が進められているが、2℃を「十分に下回る」目標を達成するにはガス火力発電所

への CCS導入が必要である。

気候変動に関する国連枠組み条約(UNFCCC)は、CCSに関する第 2回技術専門家プロセ

ス(Technical Expert Process)ワークショップの開催によって有意義な結果が得られるであ

ろう。なお、前回のワークショップは 2年前の 2014年 10月に開催されている。

今後もワークショップを継続することで、締約国は CCSのポテンシャルをより理解し、CCS

展開の緊急性が高まり、過去 10年間にわたるコスト削減や安全かつ効果的な貯留技術の

大幅な進歩が示されることになる。

国連においてこうした「理解」が広がることは、今後の IPCC1.5℃特別報告書(2018年発行

予定)や第 6次評価報告書サイクル(2021年完了予定)5にとって特に重要である。

今後 10年間に CCSが広く普及するための前提条件を整えるため、今後 5年間の取組みに

注力する必要がある。

将来、NDCに CCSがどのくらい盛り込まれるか、それはパリ協定の目標達成へ向けてどれ

くらい真剣に向き合っているかを示すことになる。

最終的に CCSの普及は、政府が他の低炭素技術と同様の検討・認知・支援(「ポリシー・パ

リティ」)をどれくらい行うかにかかっている。

CCSへの支援は十分だと満足していては、パリ協定の目標達成のために排出制限の課され

た世界経済は大幅に縮小していくだろう。

4 出典:CoalSwarm, Global Coal Plant Tracker、2016年 7月データ。国別石炭プラント計画。

5 パリ COP 21は IPCCに対し、「1.5℃目標の実現による影響と温室効果ガス削減経路」に関する特

別報告書の作成を正式に要請した。IPCCは 2016年 4月の第 43回会合にてこれを承認し、第 6次

評価報告書(AR-6)において(1.5℃目標に関する特別報告書のさらなる検討に加え)1.5℃-2℃シナ

リオを検討することに合意した。

Page 9: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

9

プロジェクト、政策、マーケット

操業・建設・開発計画の各段階にある世界の大規模 CCSプロジェクト、38件が確認されて

いる。世界における CCSへの取り組みは大規模 CCSプロジェクトのみならず、CCS技術の

向上に資するパイロット・実証規模プロジェクトや CCSイニシアチブは数百にも上る6。

一連の CCSプロジェクトは、(代表的な数カ国だけでも)オーストラリア、ブラジル、カナダ、中

国、フランス、ドイツ、日本、オランダ、ノルウェー、サウジアラビア、韓国、スペイン、アラブ首

長国連邦、英国、米国などが挙げられ、CCSに対する世界的関心の広がりが分かる。

操業を開始するプロジェクトが拡大しており、2016年には注目すべき進展が見られた(下記

参照)。CCS技術の実証により、CO2は拡散されずに安全かつ効果的に貯留されている。

『世界の CCSの動向:2016』の発行時点において、操業中の大規模 CCSプロジェクトは 15

件、CO2回収能力は年間約 3,000万トンである。さらに米国において操業が予定されている

3件の大規模プロジェクトがを加えると、2017年初めには 18件(CO2回収能力 35Mtpa)と

なる。続いてオーストラリアとカナダのプロジェクトが操業を開始すると、2017年末時点で操

業中の大規模プロジェクトは 21件(CO2回収能力約 40Mtpa)になると見込まれている。な

お、2010年時点の大規模プロジェクトは 10件未満であった。

2016年に操業を開始した産業部門の CCSプロジェクト

2016年、2件の重要なプロジェクトが操業を開始した。1件は大規模プロジェクト、1件は実

証規模プロジェクトである。いずれも産業部門のプロジェクトである。

11月 5日、アブダビ CCSプロジェクトが運転を開始した。Emirates Steel Industries

(ESI) CCSプロジェクトはフェーズ1にあたる。このプロジェクトは鉄鋼業界初の CCSプ

ロジェクトであり、アブダビの ESIプラントにおける直接還元鉄(DRI)処理から CO2(約

0.8 Mtpa)を回収し、石油増進回収(EOR)に利用する。

日本は意欲的にパイロット・実証 CCSプロジェクトに着手している。2016年 4月、苫小

牧 CCS実証プロジェクトにおいて CO2圧入が開始されたことに注目すべきである。(苫

小牧港の水素製造施設から)少なくとも年間 10万トンの CO2が回収され、沿岸近くの深

層地層に圧入されている。

電力部門・産業部門において開始予定の CCSプロジェクト

大規模 CCSプロジェクト 3件がプラントの建設と試運転を終了し、間もなく(おそらく数週間

の内に)操業を開始すると見込まれている。3件はいずれも米国にあり、(石炭火力)発電所

プロジェクト 2件と産業部門プロジェクト 1件である。

ミシシッピー州ケンパー郡発電施設(CO2回収能力約 3Mtpa):2016年末までに操業を

予定。Southern Companyと KBRが米国エネルギー省と共同開発した TRIGTM石炭ガ

ス化プロセスを初めて商業規模で開発する画期的なプロジェクト。

テキサス州 Petra Nova炭素回収プロジェクト(CO2回収能力約 1.4Mtpa):2016年末ま

たは 2017年初めまでに操業を予定。フル操業時には、発電所としては世界最大の燃焼

後回収プロジェクトとなる予定。

ケンパー郡発電施設、Petra Novaプロジェクトは、2014年 10月にカナダのサスカチュ

6 A comprehensive listing of large-scale and pilot and demonstration-scale CCS projects (as well as other project and program activities) and definitions of such is contained in the Institute’s Projects database.

Page 10: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

10

ワンで操業を開始した世界初の電力部門大規模 CCSプロジェクト、Boundary Damの

Unit 3(CO2回収能力約 1Mtpa)に続くプロジェクトである。

イリノイ産業炭素回収・貯留プロジェクト(CO2回収能力約 1Mtpa):2017年初めに操業

を予定。世界初の大規模 BECCSプロジェクトであると同時に、1Mtpa規模で深部塩水

層に CO2を圧入する米国初のプロジェクトである。

2017年に操業開始予定のプロジェクト

西オーストラリア州沖合の Gorgonプロジェクトは、2016年に最初の LNGが供給され試運

転が進んでいる。2017年上期後半の操業開始が見込まれており、深部塩水層に CO2を圧

入する世界最大のプロジェクト(CO2圧入能力4Mtpa)である。これを加えると、2017年中頃

に操業中の大規模 CCSプロジェクトは 19件となる。さらにカナダのアルバータ州では、

Alberta Carbon Trunk Line(ACTL)開発に関連する大規模 CCSプロジェクト 2件が 2017

年末の操業を予定しており、これを加えると操業中の CCSプロジェクトは 21件に増加する。

建設・計画段階が見込まれるプロジェクトに対する強い期待

開発計画にある主要プロジェクトにおいて前向きな事実が確認された。

中国では、延長(Yanchang)統合型 CCS実証プロジェクトが近々(2016年末まで)建設

段階に進む予定である。0.4~0.5 Mtpaの CO2が陝西省の化学プラントガス化施設から

回収され、EORに使用される。

オランダでは、ROADプロジェクト(CO2回収能力約 1 Mtpa)が新規の初期貯留サイトを

検討中である。貯留・輸送許可の更新を行っており、一部の事業者は 2017年中に建設

を開始する意向である。

2016年 10月初旬に発表されたノルウェーの 2017年度予算には、フルチェーンの CCS

プロジェクト計画に対する助成金 3億 6,000万ノルウェー・クローネ(約 4,500万米ドル)

が盛り込まれた。今後、資金提供に関する諸契約を締結する必要があるが、ノルウェー

の CCSにとって大きな前進である。

操業中の CCSプロジェクト

昨年、多くの大型・実証規模プロジェクトが重要な節目を迎えた(図1)。

ノルウェー、Sleipner CO2貯留プロジェクト(ノルウェー沿岸)は 1996年のプロジェクト操

業開始以来 20年間にわたり操業し、1,600万トン以上の CO2を圧入した。

さらに、Snøhvit CO2貯留プロジェクト(ノルウェー沿岸、2008年以降 300万トン以上の

CO2を圧入)との合計では、圧入された CO2合計量は約 2,000万トンになる。

ブラジル、サントス海盆プレソルト油田 CCSプロジェクト(リオデジャネイロ海岸から約

300キロメートルの超深層水)は、2015年 12月時点で 300万トンの CO2を圧入した

(Petrobras発表)。

米国、テキサス州 Air Products Steam Methane Reformer EORプロジェクトは、2016

年 6月末時点において水素製造施設から 300万トンの CO2を回収した(EOR目的)。

カナダ、Boundary Dam CCSプロジェクトは、2016年 6月時点において Unit 3から

100万トンの CO2を回収した(主に EOR目的)。

カナダ、アルバータ州 Questプロジェクトは、2016年 9月時点において水素処理プラント

から 100万トン以上の CO2を回収し、深部塩水層に貯留した。

Page 11: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

11

米国では、2016年 10月、米国エネルギー省化石燃料局のウェブサイトにおいて 1,300

万トンの CO2がエネルギー省のクリーン石炭研究・開発・実証プログラム(Clean Coal

Research, Development, and Demonstration Programs)を通じて圧入されたと発表さ

れた。

中国、吉林油田 EOR実証プロジェクトは、10年前に CO2-EOR圧入実験を開始し、

2016年時点において 100万トンの CO2を圧入した。

Page 12: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

12

Bo

un

da

ry D

am

CC

Sプロジェクト

10

0万トン以上の

CO

2 を回収、主に

EO

R目的

図1:主な

CC

Sプロジェクトの開発状況

Pe

tra N

ov

a炭素回収プロジェクト

近々操業開始予定

Air P

rod

uc

ts S

tea

m M

eth

an

e

Refo

rme

r EO

Rプロジェクト

30

0万トンの

CO

2 を回収、

EO

R目的

Qu

es

tプロジェクト

10

0万トン以上の

CO

2 を回収、深部

塩水層に貯留

吉林油田

EO

R実証プロジェクト

10

0万トン以上の

CO

2を圧入

苫小牧

CC

S実証プロジェクト

日本初の完全統合型

CC

Sプロジェクト

イリノイ産業

CC

Sプロジェクト

近々操業開始予定

ケンパー郡発電施設

近々操業開始予定

ノルウェー

フルチェーン

CC

Sプロジェクト

20

17年度予算において、フルチェーン

CC

Sプロジェクトへの支援が決定

Sle

ipn

erC

O2貯留プロジェクト

20年間操業、

1,6

00万トン

以上の

CO

2 を貯留

アブダビ

CC

Sプロジェクト

鉄鋼業部門における世界初の

CC

Sプロジェクト

Go

rgo

n二酸化炭素圧入プロジェクト

20

17年上期末に操業開始予定

延長統合型

CC

S実証プロジェクト

最終投資決定の検討中

RO

ADプロジェクト

新規貯留サイトの許可申請中

今後の進展に期待

Pe

trob

ras、

Sa

nto

s盆地プレソルト

油田

CC

Sプロジェクト

3百万トンの

CO

2 を生産井に圧入

Page 13: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

13

順調に進展するプロジェクトの特徴

これまでに成功したプロジェクトは、CO2排出源または EOR利用のいずれかにおいて石油・

ガス産業との強い関連性を有するプロジェクトである。だが、世界の削減目標を見据た CCS

の普及のためには、EORを超えて貯留ポテンシャルを活用しなければならない。

操業・建設いずれの段階においても、産業部門における CO2回収プロジェクトが最多となっ

ている。また、(a) 通常操業において既に CO2分離プロセスが組み込まれているケース(天

然ガス処理、肥料製造など)、または (b) ガスストリームに含まれる CO2濃度が高く分離コス

トが比較的安いケース(水素製造)、が重視される傾向にある。高炉製鉄やセメント製造など

の CO2排出産業では、いまだにパイロット規模の CCSプロジェクトに留まっている。

低コストの CO2ストリームや既存の輸送・貯留インフラの活用など、短期間の開発が可能な

プロジェクトは、速やかに操業を開始することが可能である。

推進力の低下 — 新たなコミットメントと強い政策サポートが必要

直近 5〜7年の間に多くの CCSプロジェクトにおいて進展がみられた。2010年から 2017年

末にかけて、操業中の大規模プロジェクトは 10件未満から 20件を超えるまでに増加し、

CO2回収能力は 2倍以上の 40 Mtpaに達した。

この間に操業を開始した(まもなく操業開始予定を含む)数多くの重要プロジェクトは、2010

年末に向けて展開された政策イニシアチブの恩恵を受けたものである。しかし、大規模プロジ

ェクトの資金調達は厳しい状況となっている。欧州では、2009年に欧州エネルギー復興プロ

グラム(EEPR)が設立されたが、一部の国では支援政策の不確実性が高まり、また炭素価

格の急落により CCSプロジェクトの開発ペースが遅れている。中国では、開発計画段階のプ

ロジェクトの大半が EOR関連であることから、近年の石油価格下落の影響を受け建設段階

への進展が遅れている。

今後、大規模プロジェクトの開発を支援する新たな取り組みがなされなければ、今後 5年間、

プロジェクトの進展はかなり遅れる見込みである(図 2)。

図 2:大規模 CCSプロジェクトの CO2回収能力(操業・建設・精査段階 2012年-2022年)

2022年までに開始予定の「精査」中のプロジェクト

CO

2回収能力

(M

tpa)

「操業」または「建設」中のプロジ

ェクト

Page 14: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

14

注:ケンパー郡プロジェクト及び Petra Novaプロジェクトは 2016年末までに操業を開始する予定(本書執筆時点)のため、CO2回収能力 2件合計(4.4 Mtpa)は 2016年に含まれている(水色表記)。

パリ協定の気候目標を達成するには CCSの開発・展開の加速化が必要である。

将来の課題を過小評価してはならない(図 3)。IEAの 2℃シナリオ(2DS)は 2040年に年間

約 40億トンの CCS(大部分が非 OECD加盟国)を前提としているが、今後 25年間に必要

な CCS回収量と比べて現在の CO2回収能力は少ないのである。

図 3: IEA 2℃シナリオ、2040年までに必要な CCS回収量

直近 10年間に開発された大規模・パイロットプロジェクトにより、将来の CCS開発を促進す

るための手がかりが得られた。近年操業を開始したプロジェクトが着実に進展し、多くの成果

が 2016年に達成されたことから、CCS技術の有用性が実証されたことが重要である。プロ

ジェクトの進捗を妨げる理由として技術的障壁が挙げられることは滅多にない。一般的な理

由としては、さまざまな規制・商業・リスクシェアに関する利害関係者問題が挙げられる。これ

らの障壁は複雑かつ相互に関連しているため、改善には政府・投資家の協力と努力が必要

である。

今後 5年間、2020年以降の CCS普及へ向けた前提条件を確立しなければならない。至急

必要なことは市民からのより大きな支援である。

目前に迫った 2017年の重要事項は以下のとおり。

米国環境保護庁(EPA)のクリーン・パワー・プランに対し、27州が起こした訴訟の行方

(訴訟結果に対する反応)

ノルウェーにおけるフルチェーン CCS研究

英国における CCSの進展

カナダ Boundary Damの Unit 4・Unit 5に関する SaskPower社の決定(改修(CCS設

置)または廃止)

こうしたCCSの積極的な展開はプロジェクトを後押しするものの、世界中でより積極的な対応

が求められている。

2016年 11月時点のCCS

*出典:IEA, 2016 Energy Technology Perspectives 2016: Towards Sustainable

Urban Energy Systems. Paris. OECD/IEA.

大規模 CCSプロジェクト 38件

(約 70Mtpa):

・操業・建築中のプロジェクト 21

件(40.3 Mtpa)

・計画後期段階のプロジェクト 6

件(8.4 Mtpa)

・計画初期段階のプロジェクト

11件(21.1 Mtpa)

2040年までに必要なCCS~4,000 Mtpa

(IEA 2DSシナリオ)*

OECD非加盟国 OECD加盟国

Page 15: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

15

再生可能エネルギー開発から得られた教訓-CCSに不可欠な「ポリシ

ー・パリティ」

2005年-『二酸化炭素の回収・貯留に関するIPCC特別報告書』の発表から10年、CCSは主

要な気候変動緩和策として認識され、主要な温室効果ガス(GHG)削減シナリオに盛り込ま

れている。重要なCCSプロジェクトが進展したものの、低炭素経済への移行にとって不可欠

なCCSが各国の政策支援の対象となるにはまだ説明が不十分である。

CCSの普及のためには、他の低炭素技術と同様の評価・認識・支援を行う「ポリシー・パリテ

ィ」が必要である。

これは、CCS技術とライフサイクルに沿った支援措置の設計・実施がなされることを意味する。

リスクの複雑性に対処するためインセンティブ・メカニズムを導入し、市場の要求に応えるよう

な経済乗数効果を創出しなければならない。また、適切な法・規制の枠組み(およびCO2回収

コスト削減のための継続的な研究開発努力)の開発も進められなければならない。

再生可能エネルギーの躍進から学ぶべきことがある(図4)。世界では過去10年間に約2.5兆

米ドルがクリーンエネルギー技術に投資されており、うち1.8兆米ドルが風力・太陽光技術に

充てられている。強力かつ持続的な政策支援によって投資が推進されてきた。他方、過去10

年間のCCSに対する投資額は約200億ドルである(クリーンエネルギー技術への投資額は

CCSへの投資額の120倍)。

図 4: 2006~2015年の投資額 (10億米ドル、端数四捨五入)

出典:

クリーンエネルギー:Bloomberg New Energy Finance, 2016. Clean Energy Investment By the

Numbers - End of Year 2015.

クリーンエネルギー

Page 16: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

16

CCS:IEA, 2015. Tracking Clean Energy Progress 2015, Energy Technology Perspectives 2015

Excerpt IEA Input to the Clean Energy Ministerial. Paris. OECD/IEA。

過去 10年間、各国政府は電力買取制度を含めたエネルギー目標及び補助金義務化を通じ

て再生可能エネルギー(電源)に対して政策支援を行ってきた7。こうした政策が成功し、太陽

光発電(PV)コストは大幅に削減され、ドイツや中国などの国々において太陽光産業が急速

に成長した。

大きな注目を集める輸送・貯留インフラの展開

一般的に、順調な CCSプロジェクトは、既存の CO2輸送・貯留インフラを利用するか、ある

いは長年にわたり地中のリスク管理経験を持つ大規模エネルギー企業によって実施されたプ

ロジェクトである。これまで CO2の回収面ばかり注目されてきたが、パリ協定の精神・その目

標達成には、様々な産業に対応可能な(共有)CO2輸送・貯留インフラが必要である。輸送・

貯留インフラは、現在 CO2排出産業が多数存在する工業地域(英国 Teessideなど)が将来

も存続していくために不可欠である。

CCSチェーンを構成する個別要素は異なるため、それぞれ固有の技術・性能が必要であり、

異なる課題・制約に対処しなければならない。多くのプロジェクト事例から明らかなことは、異

なる要素を一つのプロジェクトにまとめ上げ、リスクシェアを行うことの難しさである。

一部、CO2の EOR利用により課題の克服に繋がったプロジェクトはあるが、すべてのプロジ

ェクトにおいて EORが可能ではないことから、今後数十年にわたる CCSの展開には EOR

目的以外の貯留資源の活用を大幅に拡大する必要がある。

CCSにインセンティブを与える支援モデルについて検討する研究組織が増えている。「CCS

チェーンの分割」、または官民共同投資モデルの検討をはじめとして回収プロジェクトの意思

決定リスク軽減に繋がる輸送・貯留インフラの開発などが研究されている8。

産業 CCSにとって特に重要な戦略的 CCSハブ

産業部門から排出される CO2量は 2013年約 90億トン(9Gt)であり、世界の CO2排出量の

約 4分の 1を占めている9。化石燃料は鉄鋼、セメント、化学製造など幅広い産業において不

可欠な燃料である。しかし発電部門と異なり、CO2排出量削減のために化石燃料を再生可能

エネルギーに置き換えることは現在のところ現実的に不可能である。さらに、多くの産業プロ

セスにおいてCO2は化石燃料の燃焼によって生じるのではなく、化学処理過程で発生するの

である。

7 過去 5年間の再生可能エネルギー技術に対する助成金は合計約 5,000億米ドルである。2014年

の助成金は 1,350億米ドルであり、過去 10年間の CCS投資額の 7倍以上である。データ出典は

EIA(『World Energy Outlook』を含む)に拠る。

8 2件のレポートにおいて、詳細な検討とモデル(IEA、2016を含む)の提示がなされている。20 Years

of Carbon Capture and Storage. Paris. OECD/IEA(『世界の CCSの動向:2016』と同時発行予定)

および Oxburgh, R., 2016. Lowest Cost Decarbonisation for the UK: The Critical Role of CCS.

Report to the Secretary of State for Business, Energy and Industrial Strategy from the Parliamentary Advisory Group on Carbon Capture and Storage. London. Parliamentary Advisory Group on Carbon Capture and Storage (CCS).

9 IEA, 2016. Energy Technology Perspectives 2016: Towards Sustainable Urban Energy Systems. Paris. OECD/IEA.

Page 17: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

17

エネルギー効率の改善を除き、長期的な CO2 排出量の大幅削減に役立つ唯一の大規模技

術が CCSである。

天然ガス処理や肥料・水素製造産業を中心に、1Mtpa(またはそれ以上)の CO2回収能力を

持つ操業・建設中のプロジェクトが多数存在する。また、CO2回収量が少量に過ぎないプロジ

ェクトであれば全ての産業分野にわたり数多く存在する。プロジェクト単独では運輸・貯留イン

フラへのアクセスコストが高くなる可能性があるものの、多くの排出集約型産業が地理的に密

集(クラスター)している。一定規模の輸送・貯留インフラの開発により、複数の排出源から少

量の CO2を効率的に集約することができる。

CCSを主要な産業やCO2排出源集約地(クラスター)に展開することにより、将来予見される

CO2 排出規制から産業地域を保護することができる。「低炭素工業地帯」は投資を呼び込む

上で大きな利点となる可能性がある。

各地域の政策、法規制の進捗状況

南北アメリカ

米国における不確実要素は、米国環境保護庁(EPA)によるクリーン・パワー・プラン(Clean

Power Plan)の導入に対する 27州の訴訟により同プランの導入に大きな遅れが生じている

ことである。一部の州では同プランの実施へ向けた取り組みをつづけているが、訴訟結果が

出るまで作業を中断している州もある。

新たな法案では、(米国税法「45Q」の下)EORを含むすべての CO2貯留クレジットを 1 トン

当たり 30米ドルまで引き上げ、貯留上限(現在 7,500万トンの CO2を貯留)が撤廃される予

定である。この動きは国会議員団(地域的・政治的広域連合)による支援を受けており、法案

の採択が後押しされている。

米国 DOEは、CO2回収に関する堅実な研究開発プログラムと炭素隔離パートナーシップ

(Regional Carbon Sequestration Partnerships)を継続している。大型パイロット規模の回

収技術に対する助成も開始された10。

カナダでは、2015年に採択された石炭火力発電所の CO2性能基準が発効し、長期的な政

策・法規制が整った。最近、トルドー首相は国の「最低規準価格」を発表し、全ての州・地域が

2018年までに炭素価格を設定するよう求めた。

カナダにおける昨年の発展は、州政府による CCS技術支援の成果である。2010年代初頭

に作られたアルバータ州政府及びサスカチュワン州政府の政策枠組みは、多数の大規模プ

ロジェクト(2014~15年操業、2017年後半に操業予定)を後押しすることとなった。

欧州、中東、アフリカ

欧州では、2015年の欧州委員会以来、国家の枠組みを超えた政策が継続されている。欧州

連合(EU)によるパリ協定の批准は、EU排出量取引制度(EU-ETS)と戦略的エネルギー技

10 10月 17日、米国 DOEはテキサス州サンアントニオにおける電力プロジェクト(10メガワット超臨界

二酸化炭素(sCO2)パイロット・プラント)の設計・建設・運営に関する 6カ年プロジェクトに対し最高

8,000万米ドルの資金提供を行うと発表した。このプロジェクトは Gas Technology Institute (GTI)、

Southwest Research Institute® (SwRI®)、General Electric Global Research (GE-GR)の主導によ

り運営される。http://energy.gov/under-secretary-science-and-energy/articles/doe-announces-80-

million-investment-build-supercritical

Page 18: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

18

術(SET)計画に基づく活動への継続的改革と共に、CCSの展開・支援に対するさらなるコミ

ットメントを支えている。

EU-ETSは EUの気候政策の中核であり、EUはさまざまな改革を進めている。改革による

最終的な炭素価格の引き上げだけでなく、CCSをはじめとする低炭素技術への資金援助が

期待されている。

炭素価格の設定や資金調達メカニズムによる EUのアプローチは、これまで多くの国が注目

してきた発電所だけでなく、さまざまな部門から排出される CO2に対処するために重要であ

る。

ノルウェーでは『CO2貯留のための金融保証と金融メカニズムに関するガイドライン(

Guidelines on the Financial Security and Financial Mechanism for CO2 Storage)(ノルウ

ェー語版の英訳)』の開発により国の認証モデルが強化されると共に、CCS技術の普及に向

けた政府の新たなコミットメント(Test Centre Mongstadの継続操業や CLIMITプログラム(

CCS研究・開発・実証に関する国家プログラム)の諸活動に対する助成)が補完されている。

英国では、2015年 11月にコンペティション(CCS Competition)が中止されて以降、政策の

見直しが検討されつづけている。英国政府による CCSへの関心は継続している。CCSへの

支援を訴える動きや英国において CCSが果たす役割を検討することは、将来の政策決定に

タイムリーかつ重要な影響を及ぼす可能性がある。

中東では、大規模 CCSプロジェクトが操業中であり、重要な研究開発努力が進められてい

る。

アジア太平洋地域

アジア太平洋地域では、CCSに対する各国政府の方針に変更はなく、様々なアプローチを

通じた CCS政策、法規制の作成が続けられている。

オーストラリア政府(連邦・州)は、資金調達と法律策定をにより CCSに対する支援を行って

いる。2016年、オーストラリア政府は CCSの研究開発に携わる組織やプロジェクトに対し約

2,400万豪ドルの支援を発表した。

日本と中国は、CCS技術の実証と展開を続けている。日本はパイロット・実証規模の CCS

プロジェクトに取り組んでいる。中国は気候変動への取り組みに関する米中共同発表におい

て CCUSに対する新たなコミットメントについて触れている。

インスティテュートが実施した初の(法規制)CCS フェローシップ・プログラムの結果、アジア太

平洋地域全体で効果的な CCSの商業展開を実現するにはさらなる法規制の整備が必要だ

ということが明らかになった11。

CCS政策の後退?あるいは検討・展開へ向けた準備期間?

近年、CCS政策の展開が減速したと思われる地域がある。しかし、政府が CCS技術に対す

る取り組みを見直し新たな支援を行うための検討期間かもしれない、と考えられる確かな理

由がある。

こうした検討期間は驚くべきことではないかもしれない。なぜなら、過去 10年間における

CCS実証プロジェクトの資金調達は現在とはまったく異なる経済状況の下で行われたからで

ある。また、これらのプロジェクトから得られた教訓を活かすことができるのである。輸送・貯

11 Gibbs, M. K., 2016. 効果的な CO2地中貯留(Effective enforcement of underground storage of

carbon dioxide)。メルボルン。HWL Ebsworth Lawyers.

Page 19: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

19

留インフラ整備に対する投資家のリスクを軽減する重要性、および産業部門における CCS

展開の重要性、は数年前と比較して CCSを取り巻く議論が進んだテーマである。

日本、中国、ノルウェーをはじめとした国々が CCSへの取り組みを表明し、パイロット規模や

実証規模のプロジェクトを促進しつつ大規模プロジェクトにおける技術実証への道筋をつけよ

うとしている。英国では、さまざまなステークホルダーが英国の脱炭素化を最低限のコストで

達成するための CCSの重要性について強調しており、CCSを強く支持している(英国内の

CCS政策の再活性化を求めている)。

米国では、大規模 CCSプロジェクトの操業開始期限が訪れようとしており、これは政策支援

が中断された状況を表している。電力部門の脱炭素化推進を目的としたクリーン・パワー・プ

ランは、現在訴訟対象となっている。2017年に発足する新政権は米国のエネルギー・気候政

策全体を見直す契機となるかもしれない。カナダでは、サスカチュワン州政府が 2017年に

Boundary Dam発電所の Unit 4・Unit 5に CCSをレトロフィットするか、または廃炉にする

か、について決定を行う予定である。

こうした検討期間は、将来の CCS政策の方針性を検討するには有益であるが、行動しない

ための言い訳にしてはならない。過去 10年間、CCSプロジェクトのほとんどが北米で展開さ

れてきた。これを継続するだけではなく、CCSの展開を欧州やアジアに広げることも必要であ

る。

CCSの展開には引続き法規制が重要

安全かつ恒久的な CO2貯留を可能にするために不可欠な法規制の枠組みについて各国が

検討をつづけている。

しかし、プロジェクト全体をカバーする包括的な規制枠組みが整備された国はわずかしかな

く、二極化(CCS固有の法規制について進展が遅い国と早い国)している。

特に懸念されるのはパイプライン大規模プロジェクトに関する法整備であり、CCS展開を支

援する国内の法規制モデルの検討が行われていない国(中国など)がある。

タイムリーな活動が重要

CCSに関する国内政策、法規制環境の整備については包括的かつ総合的なアプローチを

採用しなければならない。

排出削減に対する各国のコミットメントと共にパリ協定の目標達成において重要なことは削減

努力の規模と緊急性を示すことであり、CCSが組み込まれなければならない。

CCS技術

「世界の CCSの動向:2015、2016」において多くの CCS技術分野について取り上げた結

果、以下のことが明らかになった。

過去 10年間、回収技術の大幅な進歩によりコスト削減が進み、さらなるコスト削減へ向

けた第 2世代・転換技術の開発が進められている。政府・学界・産業界からの支援を受

け、電力・産業部門への適用へ向けた回収技術の研究プログラムが進められている。

国際協調と知識共有は、新技術の導入を加速させる鍵となる。

CO2の大量輸送は数十年にわたり検討が続けられており、国際基準へ向けて検討・改良

が進められると共に高い安全性を記録してきた。CCSの広範な普及に対応した CO2輸

Page 20: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

20

送をどのような規模で実施し、またどのように投資を呼び込むのかを探ることが主な課題

である。

貯留サイトの選択と安全な操業・終了・閉鎖に利用可能な技術が確立されている。さまざ

まな規模の CO2貯留が世界中で成功している。CCSの展開に必要な貯留資源は膨大

にあり、今後数十年にわたり必要な貯留容量を上回っていることがさまざまな調査により

明らかになっている12。

回収

回収費用が CCSチェーンの総コストの大半を占める。例えば、発電所における大規模 CCS

プロジェクトでは 70~90パーセントを回収と圧縮処理関連コストが占める。以下に挙げる取

り組みを通じてさらに費用対効果の高い回収技術の開発が進められている。

電力・新産業部門において CCSの実証を成功させることにより、設計・建設・操業に関す

る経験(「実体験からの教訓」)を蓄積する。

様々な回収技術、より効率的な発電サイクル、産業処理に関する継続的な研究開発に努

める。

実験室規模からパイロット試験・大規模プロジェクト実証に至る知識の共有と協力に努め

る。

『世界の CCSの動向:2014、2015』では、回収に関するパイロット規模の試験について強調

されている。他方、2016では産業部門の回収に関する可能性と課題に焦点が当てられてい

る。

回収-研究開発

大規模回収の操業に関する実証が大幅に進展した。操業中のプロジェクトから得た教訓は将

来の回収施設の設計・建設・操業コストの削減にとって有益な情報となる。Boundary Dam

および Questプロジェクトから得られた教訓により、後続する(同様の)CCSプロジェクトの設

計・建設関連コストを大幅に削減できる。

現在開発中の第 2世代技術はパイロット規模の試験中であり、2025年までに実証試験へ移

行する予定である。現行技術よりも 20パーセントのコスト削減が可能とされている。転換技

術は、現行技術と比べて 30パーセントのコスト削減(「n番目のシステム」との比較が重要)

を目標としており、2030年までに実証試験への移行を目指している。

転換技術に関して以下に掲げる研究が進行中である。

CO2回収を目的に分子レベルで最適化された液体・固体素材の開発。

超音速膨張や電気化学処理などこれまでガス分離回収に使用されなかった技術の利

用。

複数の技術の利点を組み合わせたハイブリッド技術の開発。ハイブリッド技術は相乗効

果をもたらし、コストや性能面において単独の技術を上回る成果をもたらす可能性があ

る。

12 こうした点は気候変動に関する国連枠組み条約事務局長 Christiana Figueres宛 2015年 10月 8

日付公開状(/cop21-open-letter)『炭素回収貯留の二酸化炭素の確実かつ安全な地中貯留』に反映さ

れている。以下 URL参照:http: // www.sccs.org.uk/news/227-open-letter-to-christiana-figures-

executive-secietary-of-the-united-nations-framework-convention-on-climate-change

Page 21: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

21

第 2世代技術は、世界中で小型パイロット規模の試験(燃焼後システムでは 0.5-5 MWe、ノ

ルウェーのモンスタッド(Mongstad)技術センター、米国の全国炭素回収(National Carbon

Capture)センターなどの専用技術試験センター)が行われている。他にも同様の試験が可能

な施設(例えば、オーストラリア、カナダ、中国、ヨーロッパ、日本、韓国など)が多数存在す

る。さらに大型パイロット規模(10-25 MWe)の試験も実施されており、これらの技術は更なる

コスト削減へ向けた大きなうねりとなり、CCSの幅広い展開につながるかもしれない。

パイロット規模の試験が行われている技術は表 1のとおり。

表 1: 第 2世代回収技術のパイロット規模試験

回収技術 特徴/アプローチ 長所 規模

燃焼後-溶媒 プロセスの統合、接触

効率改善、高度な再生

スキーム、非水性溶

媒、触媒吸着

資本コスト・操業コスト

削減、エネルギー効率

向上、プロセス最適化、

モジュラー化アプロー

チ、拡張対応可能

0.5~25 MWe

燃焼後-吸着 圧力変動吸着法、熱変

動吸着法、固定床、移

動床、流動床、担持ア

ミン、アルカリ化アルミ

ナ、 炭酸塩

概念(concept)実証、

プロセス最適化、吸着

剤の磨耗抵抗

1~10 MWe

燃焼後-膜 らせん形状、中空糸、

プレート・フレーム、溶

媒/ハイブリッドアプロ

ーチ

モジュール式、プロセ

ス・イノベーション、プロ

セス強化、使用水量削

1 MWe

燃焼前 最新溶剤、炭素系吸着

溶媒コスト削減、プロセ

ス統合・強化

0.1 MWe

酸素燃焼 加圧流動床酸素燃焼、

酸素/加圧 CO2動力

サイクル、カルシウム・

鉄ベースのケミカル・ル

ーピング

回収コスト削減、高効

率性、酸素キャリアの

磨耗削減、安価な酸素

キャリア

1~17 MWe

セメント製造業 カルシウム・ルーピング プロセス革新、熱統合 0.2~0.6 MWe

産業部門における回収

化石燃料は鉄鋼、セメント、化学製造業など多くの産業製造にとって不可欠な燃料である。エ

ネルギー効率の改善を除けば、CCSは長期的に CO2排出量を大幅に削減する唯一の大規

模技術である。

産業部門における回収は以下 3つのカテゴリーに分類できる。

Page 22: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

22

当初より CO2の分離プロセスが組み込まれている産業(天然ガス処理、バイオエタノー

ル製造、アンモニア/肥料製造など)

比較的安価な CO2分離と販売・貯留が可能なほど高濃度・大容量の CO2がプロセスガ

スストリームに存在する産業(精製処理における水素製造など)

規制要件の欠如、高額な回収コスト、国際競争力確保、投資インセンティブの欠如(また

はこれら複合要因)により大規模な回収プロジェクトが存在していないものの、大量の

CO2を排出する産業(鉄鋼、セメント、石油精製、パルプ・製紙など)。

第 1・2カテゴリーは比較的成熟しており、多くの商業技術について回収に関して大規模な実

証が行われている。他方、第 3カテゴリーの回収はより難しく、CO2濃度が低いためにエネル

ギー集約的かつ高コストの回収アプローチが必要となる。

現在、低濃度のガスストリームに対する回収コストの削減を目指した研究開発が進んでい

る。表 2は産業部門における CO2回収の現状についてまとめたものである。大規模プロジェ

クトは、高濃度のガスストリームを伴う産業に集中しており、低濃度ガスストリームを伴う産業

ではパイロット・実験室規模の開発が中心となっている。

表 2: 産業部門別 CO2回収の概要

産業部門 規模 概要

大規模 パイロット 実験室

天然ガス処理

● ●

変動する CO2濃度(2~70%)。大規模な物理・化

学・膜分離プロセス。既存の工程において CO2を

分離。

アンモニア肥

料 ●

既存の尿素製造工程においてほぼ純粋な CO2スト

リームを分離。余剰 CO2の大部分は放出されてい

るが圧縮・輸送・貯留/使用が可能。

バイオエタノー

ル ● ●

既存の発酵工程においてほぼ純粋な CO2ストリー

ムを分離。CO2の大部分は放出されているが、圧

縮・輸送・貯留/使用が可能。

水素

● ●

プロセスガスストリームにおいて変動する CO2濃度

(15~50%)。高濃度ストリームから CO2の約 60%

を回収。

鉄鋼

● ● ●

高炉において低濃度の CO2ガスストリームが発

生。還元鉄工程において高濃度のストリームが発

生。

セメント

● ●

化石燃料の使用と化学反応により CO2が発生。製

造工程が高温となることから回収プロセスにとって

はメリット。

石油精製 ● ●

精油所内の水素製造ではなく、他の複数の低濃度

排出源により回収方法が複雑化する。

パルプ・製紙 ● ●

製造工程において低濃度排出源が複数存在するた

め、回収方法が複雑化する。

Page 23: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

23

輸送

パイプライン、トラック、電車、船舶による CO2の輸送は世界中で日常的に行われている。パ

イプライン輸送は CCSプロジェクトにおいて大量の CO2を輸送する最も一般的な方法であ

り、今後も主流となるであろう。米国だけでも約 7,600キロの陸上 CO2パイプラインが存在

し、自然由来の CO2約 68Mtpaを EOR目的のために輸送している。

CO2パイプラインは蓄積された経験、実証済みの設計、確立された規約・規制に基づき優れ

た安全性と実績を誇っている。

既存の CO2パイプライン網は、規制や業界基準を満たした設計と運用がなされている。既存

の国内・国際パイプライン基準および規約を補足すべく、今年 CO2輸送システムの国際規格

が策定された(ISO規格 27913:2016)13。ISO規格は、大規模 CCSプロジェクトにおける

CO2輸送問題を対象としたものである。

現在、パイプライン設計に必要な新しい予測モデルの開発・検証によってコスト削減と安全性

を向上させる研究が進められている。最近の研究によれば、オンショア貯留や沿岸貯留が難

しい場合の柔軟かつ費用対効果の高い代替手段として、CO2パイプラインに代わり船舶輸送

が検討されるなど、大規模船舶輸送に技術者の関心が高まっている。

長距離 CO2輸送システムのための大規模「基幹輸送網」の開発は、EORを目的とした CO2

輸送にとって枯渇油田と複数の産業排出源を接続する上で効果的であることが北米で証明

されている。北米の実績は、密集した排出源(クラスター)と経済性のある貯留サイト地域にと

って、インフラ開発インセンティブの重要性を示す貴重な教訓となる可能性がある。

貯留

過去 20年間、オンショア・オフショアにおいて多数のパイロット規模・大規模 CO2地中貯留

が実証された。これは主に米国における 40年にわたる CO2-EOR事業を基盤に達成された

ものである。こうした実績から、CO2貯留サイトの選択・安全操業・(安全な)閉鎖に求められ

るベストプラクティスと技術が確立された。

貯留サイトに求められる 3つの基本的な技術要件は以下のとおり。

1. 気密性 — リスク(潜在的な漏洩を含む)が低く、管理可能な地中貯留層に CO2を安全に貯留でき

なければならない。

2. 容量 — 所定量の CO2を恒久的に貯留可能な地下貯留層が必要である。

3. 圧入性(圧入速度) — 産業排出源の回収プロセスに適した速度で CO2を圧入することが可能な

地下貯留層が必要である。

気密性

CO2-EOR及び純粋な貯留プロジェクトから得られた経験は、天然ガス貯留や酸性ガス廃棄

物処理などと共に、貯留サイトの選定・特性評価・運用・安全な閉鎖を保証する効果的なリス

ク管理に役立った。

リスク管理の原則については、『世界の CCSの動向:2014』参照。

CO2貯留におけるリスク管理の第一は、最適な地質サイトを選定し漏洩の可能性を最小化す

ること、貯留層に繋がるあらゆる坑井の完全性を維持すること、である。さまざまな規模のプ

13 http://www.iso.org/iso/catalogue_detail.htm?csnumber=64235

Page 24: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

24

ロジェクト(操業中・終了)で示されるように、適切な特性評価が行われ操業されているサイト

ではリスクが非常に低いと考えられる。

さらに研究開発によって、貯留メカニズム、CO2プルーム状態・移動経路が明らかになってき

ている。CCS技術が実証サイトで試験されることにより、圧入された CO2を効果的に追跡す

るための坑井設計、プルーム/貯留層のモデリング容量、モニタリング技術が向上した。

操業実績及び国際研究開発プログラムから得られた知識は、広範なベストプラクティスを示し

たガイダンスに盛り込また。そして現在、CO2地中貯留の国際規格に統合されている(CO2

の回収・輸送・地中貯留に関する国際標準化機構(ISO)技術委員会(TC)265の一部を形

成)。

パイロット規模・実証規模・大規模の圧入から得られた経験は、文書化され、公に利用できる

ようになっている。米国 DOE地域炭素隔離パートナーシップや EU CCS実証プロジェクト網

などの共同プログラムにより、知識共有と圧入実績の蓄積が進み、地球規模で CCSの普及

が加速されるのである。

CO2のモニタリングはリスク管理上の重要な要素である。圧入された CO2の状態を把握する

と共に規制当局や関係者に対してプロジェクトが計画通り進行していることを示すことにな

る。各貯留プロジェクトに対応した個別モニタリングプログラムの作成が必要となる。

パイロット規模・商業規模のプロジェクトでは、さまざまなモニタリング技術により圧入された

CO2の測定、モニタリング、検証が行われている。

世界中で展開されているさまざまな規模の貯留活動により、地中の CO2の挙動をより正確に

把握できるようになってきている。

貯留容量

気候緩和目標の達成に必要な CCSの普及を加速させるためには、主要な地域で十分な貯

留資源が確保されているという強い確信がなければならない。

多くの国々が貯留資源の評価を行っている。各国の貯留資源評価については『世界の CCS

の動向:2015』を参照。世界の主要地域の大半が貯留資源を有しており、削減目標へ向けた

CCSの商業展開を支援するのに十分な貯留量が確保されていると結論づけている。

貯留資源の評価レベルは地域によって大きく異なるものの、信頼できる手法により貯留資源

の決定・分類が行われている。

米国、カナダ、オーストラリア、日本、ノルウェー、英国などの主要国では、貯留資源に関する

詳細な調査がすでに実施されている。また、欧州や東南アジアなど数カ国に跨る国際イニシ

アチブによって貯留資源のデータベースが拡充されている。中国、ブラジル、メキシコ、南アフ

リカなどは貯留資源の理論的評価を進めている。

こうした評価から、CCSの展開に必要な貯留資源は膨大に存在し、少なくとも今後数十年間

に必要な貯留容量をはるかに上回る貯留資源が示されている。例えば、地域炭素隔離パー

トナーシップによる評価では、規制・経済上の制約はあるものの、米国・北米地域では少なく

とも 2兆トン以上の CO2を深部塩水層に貯留できる可能性がある14。

しかし、正確な地質状況は各貯留プロジェクトにより異なるため、プロジェクト実施主体が最

終投資決定を行うには、信頼できる貯留容量を把握するための詳細なサイト調査が必要であ

る。このことから、各地域の貯留資源評価が、個別サイトの詳細な特性・予測モデリング研究

14 US DOE, 2015. Carbon Storage Atlas – Fifth Edition (Atlas V) 2015.

Page 25: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

25

を代替するわけではない。しかし、各地域の貯留資源評価は、プロジェクト実施主体が貯留

サイトを選定する上で有用であり、政策立案者や規制当局にとっては背景を知る上で重要で

ある。

最終投資決定に必要なサイト固有の貯留容量を把握するために要する時間は様々である。

枯渇油田・ガス田への貯留または EORについては、地中の状況や既存の詳細なインフラデ

ータがあるため、CO2貯留計画や規制への迅速な対応が可能である。対照的に、データが

乏しい場合には、CO2を深部塩水層へ貯留するために要する時間は長くなることがある。

圧入性(圧入速度)

世界中で CCSの普及を支援するには、適切な貯留資源だけでは十分ではない。経済効率

的な貯留を行うためには、回収プロセスに応じた適切な速度(圧力管理の範囲内)で CO2を

受け入れられる貯留層がなければならない。

『世界の CCSの動向:2016』では、世界の多様な地質環境における多くの純粋貯留プロジェ

クトにおける圧入性の実証について解説している。

大規模プロジェクトを含め、大部分が深部塩水層の砂岩貯留層を対象とした貯留を行ってお

り、順調な成果を出している。枯渇ガス田への純粋な貯留も重要な候補となっており、パイロ

ット規模の実証が行われている。

圧入性(圧入速度)に影響を与える要因として、貯留層の透過性、層厚、圧力のほか、圧入井

の仕様、CO2ストリームの組成など工学的要因が挙げられる。検討対象となったプロジェクト

の大半が、最小透過性 20 ミリダルシー(mD)、最小層厚 20 メートル(IEAGHG調査による)15をはじめとする公開サイト選定基準を満たしている。貯留層岩石の堆積環境を理解すること

は、圧入性(圧入速度)の推定に役立つものの、深部塩水層を正確に理解するには貯留層の

特異性(ばらつき)を考慮した坑井の現地調査が必要である。

石油・ガス産業において培われた技術は、確認不可能な貯留層の状態確認や圧入井付近の

貯留層の崩壊など、圧入性(圧入速度)に影響する潜在的問題を解決する手段となる。

地中への CO2圧入の大半は CO2-EORを目的として米国で行われてきたが、カナダでも相

当量の圧入が行われている(中国、中南米、中東の一部でも関心が高まっている)。CO2-

EORでは、ほぼ全ての油田で相当数(数十、数百)の圧入井・生産井が設けられる。純粋貯

留のサイトと比べて坑井の数が非常に多いということは、通常の深部塩水層よりも透過性が

低いか、貯留層厚が薄いことを意味する。

15 IEAGHG, 2009. CCS Site Characterisation Criteria. Cheltenham. While the IEAGHG調査は「

好ましい」基準を示したが、Chadwick, A. et al., 2007. Best Practice for the Storage of CO2 in

Saline Aquifers – Observations and Guidelines from the SACS and CO2STORE Projects.

Nottingham. British Geological Surveyによって「肯定的」な基準が示された。

Page 26: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

26

CCS教育と広報活動

気候とエネルギーモデルでは排出量削減目標の達成における CCSの価値と重要性が常に

強調されている一方で、CCS技術の一般的/政治的意識は依然として低いままである。専

門家の知識と一般市民の認識のかい離が CCS導入の課題となっている。

CCSに関する社会調査、プロジェクトから得られた経験、エネルギーや気候変動に関する市

民理解の促進、それらすべてが CCS教育活動の価値を高め、関連する課題を見出し、市民

理解の促進に繋がるのである。

『世界の CCSの動向:2016』では、CCS教育関係者が直面する課題について検討し、より

多くの CCS関係者の理解を得る方法と CCS技術の理解促進に必要な方法について解説し

ている。

信頼構築

メッセージの信頼性、担当者への信頼性、メッセージの伝達プロセスへの信頼性など、プロジ

ェクト実施主体とステークホルダーとの信頼関係の醸成が極めて重要である。ステークホル

ダーとプロジェクト実施主体との信頼関係は積極的な相互対話の繰り返しと互いの関心・懸

念事項に対する理解を通じて形成されるため、プロジェクトの早期段階からステークホルダー

と対話し CCS教育に注力することが「好循環」を生み出すことがプロジェクトの経験を通じて

分かっている。

包括的かつ初期段から信頼関係の醸成に取り組んでいる最近の好例は、北海道の苫小牧

CCS実証プロジェクトである。

Page 27: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

27

平易な仕組みかつ馴染みのある手法を用いた学習により、CCS教育と理解促進へ向けた方

策が模索されている。ここでも、プロジェクト実施主体とステークホルダーとの信頼関係構築

が重要となっている。

インスティテュートの支援する研究によれば、知識や信頼がステークホルダーに不足している

場合、親しい友人、家族、信頼できる団体(有名な環境 NGOや学術団体など)に依存する傾

向にあるとされている。

コミュニティおよび影響力を持つステークホルダーから信頼され、親密な関係を構築できれ

ば、プロジェクトは歓迎される傾向にある。ステークホルダーは、十分理解していないという理

由から異議を唱えるというよりも、十分な信頼関係を構築することで率直な質問をする傾向に

ある。こうしたステークホルダーとの信頼関係の構築は、法律上必要な住民説明や標準的な

公聴会よりも価値があるのである。

2015年、インスティテュートはシェル社と提携し、地質学と CO2貯留に焦点を当てたコミュニ

ティ教育イベントを企画した(スコットランド北東部ピーターヘッド・プロジェクトにおける教育・

広報活動の一環)。深度、規模、地質学的時間軸、プレート移動、気候変動など、CO2貯留に

とって重要だが複雑な地質学への理解を深めるため、『Geological Journey(地質学の旅)』

が実施された。

Page 28: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

28

教育関係者に対する支援、広報活動の改善、誤解の解消

地元コミュニティとプロジェクト実施主体のコミュニケーションはかなりの進歩を遂げてきたが、「重

要なステークホルダー」や影響力のある関係者(将来、ビジネス、政府、地域社会のリーダーとな

る青少年に関わる環境団体や教育機関など)への働きかけを強めなければならない。

通常の教育カリキュラムでは、代替エネルギー技術について説明されるものの、CCSに関しては

十分な説明がなされず、教師も CCS技術の説明に自信がない、と報告されている。こうした状況

に対し、世界中で CCS教育向け教材の開発例が報告されている。

インスティテュートは世界中の教育・住民理解の専門家と協力し、2012年からエネルギー・CO2・

気候変動に関する包括的教育プログラムを構築・共有している。異なる言語と文化に対応するた

め、インスティテュートの『CO2degrees Education』プログラムの翻訳が進んでる(日本、中国、

最近ではメキシコなど)。

マイルストーン 5 — Geo-Journey恐竜を全滅させた可能性のあるイリジウム層とバルモラル層灰岩

について学ぶため、小惑星や火山と格闘する参加者

写真提供:シェル社

Page 29: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

29

これまでの経験や幅広い教育関連書籍から分かることは、教材の作成・採用において地元教育

関係者が参加するメリットと、CCSの教育現場にいる教師を支援する重要性である。さまざまな

革新的 CCS教育と広報普及活動から、教育分野に対する投資とコミットメントがより重視されて

きていることが分かる。

教育と広報活動は、ステークホルダーと良好な関係を構築する上で必須の要素であるべきであ

る。良好かつ包括的な関係構築は、その他基本的な目的にも役立つことがある。幅広い文脈(持

続可能な生活、スマートエネルギーの選択、気候変動への取り組み)における CCS教育は、世

界が直面する最も重要な課題の 1つを理解するための一助となり、また社会全体がより踏み込

んだ議論を進めるための一助にもなる。

CO2degrees Educationワークショップにおいて CO2石油増進回収実験の説明を受ける中国の中

学生。

写真提供:The High School Affiliated to Renmin University of China

Page 30: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2016

30

世界の CCSの動向:2016

『世界の CCSの動向:2016:サマリーレポート』は、『世界の CCSの動向:2016』およびイン

スティテュート出版物の概要をまとめたものである。インスティテュートメンバーは『世界の

CCSの動向:2016』に関連するあらゆる資料へのアクセスが可能である。なお、サマリーレ

ポートはメンバーに限らずインスティテュートウェブサイトからアクセスが可能である。

『世界の CCSの動向:2016』

第 1章:『国際気候会議と CCS』では、気候変動に関する世界的努力におけるパリ協定の

重要性と、パリ協定の目標を実現するために CCSが果たすべき重要な役割について検討

している。

第 2章:『プロジェクト・政策・マーケット』では、主要 CCSプロジェクトと CCS政策の進展、

各地域(南北アメリカ、アジア太平洋地域、欧州、中東、アフリカ)の特色について詳述して

いる。また、大規模 CCSプロジェクトの詳細についても解説している。

第 3章:『CCS技術』では、CCS技術チェーン(回収、輸送、貯留)について検討し、産業部

門における CO2回収の動向、輸送に関する研究調査、多様な地質環境における適切な圧

入率、について取り上げている。

第 4章:『CCS教育と広報活動』では、CCS教育関係者が直面する共通の課題について調

査し、さまざまな教育・広報手法について紹介している。また、幅広いステークホルダーを取

り込み、CCS技術の理解促進を促す取り組みについて取り上げている。

インスティテュートの詳細は以下のウェブサイト参照。: www.globalccsinstitute.com

Page 31: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス

[SUMMARY REPORT]

31

© Global Carbon Capture and Storage Institute Ltd 2016

別段の記載のない限り本出版物の著作権は Global Carbon

Capture and Storage Institute Ltd(グローバル CCSインス

ティテュート)が有し、ライセンスに基づき使用されます。法律

で許可された場合を除き、グローバル CCSインスティテュー

トの書面による許可なしに複製することはできません。

問い合わせ先:

電話:+61 (0)3 8620 7300

電子メール:[email protected]

郵便:Global CCS Institute, PO Box 23335

Docklands VIC 8012 Australia

グローバル CCSインスティテュートは本書の正確性に努め

るものの、本書に記載された情報の信頼性を保証するもので

はありません。したがって、本書に記載された情報のみを信

頼し、投資上・商業上の決定をすべきではありません。

グローバル CCSインスティテュートは本書に記載された外

部・第三者の URLに関する永続性・正確性について一切の

責任を負うものではなく、ウェブサイトの正確性・妥当性につ

いて保証するものではありません。

許容可能な範囲でグローバル CCSインスティテュート・その

職員・アドバイザーは、本書に記載された情報に基づく商業

上・投資上の決定を含む本書の情報の使用または信頼性に

対して責任(過失を含む)を負いません。

本書の引用にあたっては出典の明記が必要です。:

Global CCS Institute, 2016. The Global Status of CCS: 2016.Summary Report, Australia.

グローバル CCSインスティテュート、2016年『世界の CCS

の動向:2016サマリーレポート』、オーストラリア

本書に記載された情報は 2016年 10月時点の情報です。

ISBN 978-0-9944115-6-3

表紙写真:苫小牧 CCS実証プロジェクト施設

写真提供:日本 CCS調査株式会社

Page 32: 世界の CCS の動向 2016 サマリーレポート€¦ · the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 the global status of ccs | 2016 4 cameron hepburn オックスフォード大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス