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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析 INTAP CMS と TMS の現状と企業間データ交換の課題の調査/分析 2005 年 3 月 財団法人情報処理相互運用技術協会

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP

CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

2005 年 3 月

財団法人情報処理相互運用技術協会

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INTAP

目次

はじめに ................................................................................................................................... 1

1. CMS の現状 ..................................................................................................................... 2

1.1. CMS 導入拡大の背景................................................................................................ 2 1.2. CMS の主な機能とそのメリット.............................................................................. 3 1.3. CMS 導入におけるポイント ................................................................................... 11 1.4. CMS 導入のビジネススキーム ............................................................................... 14 1.5. CMS の仕組み......................................................................................................... 15 1.6. CMS導入・検討状況 ......................................................................................... 19 1.7. まとめ................................................................................................................... 21

2. CMS と TMS .................................................................................................................... 22

2.1. CMS と TMS の目的 ................................................................................................. 22 2.2. TMS の概要 ............................................................................................................ 24 2.3. TMS で要求される機能 .......................................................................................... 25

3. CMS と TMS の実際的課題.............................................................................................. 28

3.1. CMS における動的問題と法的問題 ........................................................................ 28 3.2. CMS における運転資金ショートとヒューマンファクター.................................... 30 3.3. CMS におけるモラルハザード ............................................................................... 32 3.4. TMS 導入における問題点....................................................................................... 33 3.5. TMS 導入における問題点の解決方法 .................................................................... 35

4. リスクマネジメント .................................................................................................... 36

4.1. リスクの定義........................................................................................................ 36 4.2. リスクの分類........................................................................................................ 39 4.3. 統合リスクマネジメント...................................................................................... 47

5. CMS から TMS、統合リスクマネジメントのための情報技術 ........................................ 55

5.1. リスクマネジメント手法における情報技術と財務機能 ...................................... 55 5.2. 要求される情報技術 ............................................................................................. 57 5.3. データ交換の標準化 ............................................................................................. 58 5.4. 情報技術における新ビジネスの展望 ................................................................... 60

APPENDIX 1 事例集 ............................................................................................................... 64

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INTAP

APPENDIX 2 CMS パッケージ ................................................................................................. 65

A2.1. SAP CFM(CORPORATE FINANCE MANAGEMENT)........................................................................ 65 A2.2. SUNGARD QUANTUM ........................................................................................................... 66

むすび..................................................................................................................................... 69

参考文献 ................................................................................................................................. 70

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INTAP 1

はじめに

本調査は、企業グループにおける資金管理効率化のソリューションである CMS(キャッシ

ュマネジメントシステム)と、その範囲を将来のキャッシュフロー管理に拡大した TMS(ト

レジャリマネジメントシステム)、さらには統合リスクマネジメントの現状を把握し、この分

野における問題点を情報技術、特にデータ交換の面から抽出し、その解決のための方策の検

討、新ビジネスの可能性について探ることを目的としている。

まず、CMS、及び TMS の特徴、現在行われているビジネススキーム等について概観する。次

に CMS、及び TMS の現状における問題点について議論する。さらには統合リスクマネジメン

トまで視野に入れて、将来ビジネスの形を発展させていく上で問題になると予測される点に

ついて議論し、情報技術の側面からのその解決の可能性、新ビジネスの展開の可能性につい

て提言する。

1 章では、CMS の現状についてその背景、機能、ビジネススキーム等を概観する。

2 章では、CMS と比した時の TMS の特徴、その概要について述べる。

3 章では、CMS、及び TMS について、現在、及び将来問題となる点について、その実際的課

題を検討する。

4 章では、企業グループにおける統合リスクマネジメントの一環と見たときの CMS、及び

TMS の位置付けを視野に入れ、企業活動におけるリスクとは何か、そのマネジメントが要求

される背景、実際の統合リスクマネジメントにはどのような手段があるのかといった点につ

いて議論する。

5 章では、4章で紹介したリスクマネジメントの手段について、情報技術と財務機能の両面

から課題を抽出し、その解決のための方策としてデータ交換標準化技術の可能性、さらにこ

れを活用した新ビジネスの可能性について提言する。

なお、Appendix として CMS の導入事例、及び CMS パッケージの紹介を付す。

本報告書が、企業における新規ビジネス創出と情報ビジネスの発展の足がかりとなれば幸

いである。

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INTAP 2

1. CMS の現状

CMS(キャッシュマネジメントシステム)とは、企業グループにおいて、各グループ会社単

位で行われてきた資金管理業務を、企業グループ全体の視点から統括して一元的に行う仕組

みをいう。その機能、メリット等の詳細は以下で順次述べていくが、最初にこの CMS の導入

が近年拡大傾向にある背景について考察することにする。

1.1. CMS 導入拡大の背景

CMS の導入は、比較的最近(5~6 年前)まで自動車、電機といった業種の国際的に事業を展

開し、売上高も 1兆円を超えるような大企業がほとんどであったが、このところ内需型の企

業や売上高が数百億円といった規模の中堅企業での導入も増えている。

この背景には、いくつかの理由が考えられるが、その最も大きな要因の一つは近年ますま

す高まりつつある連結経営の重視が挙げられる。2000 年 3 月期より、企業グループの業績、

経営状態を適正に評価する目的で、投資家に開示する財務諸表は連結財務諸表が中心となっ

た。昨今国際競争力の強化、株主価値の向上等がますます叫ばれる中で、各企業は連結経営

の一層の効率化を求められるようになってきている。

後述のように、CMS の導入によりグループ全体の資金管理を集約することができ、銀行か

らの借入金の圧縮や支払手数料の削減等が可能となるが、このことによりコスト削減による

損益の改善のみならず、負債の圧縮により重要な財務指標である総資産利益率(ROA)の改善

も可能となる。CMS は財務面から連結経営における業務プロセスの効率化と事業資源等の適

正水準化、部分最適ではない全体最適化を図る手段として、その導入が拡大していると見る

ことができる。

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INTAP 3

1.2. CMS の主な機能とそのメリット

CMS の、各グループ会社単位で行われてきた資金管理業務を、企業グループ全体の視点か

ら統括して一元的に行うための主な機能としては、プーリング、ネッティング、支払代行の

3つが挙げられる。図表 1-1 で CMS 全体の模式図を示す。

図表 1-1 CMS の模式図

以下では各機能とそのメリットについて詳述する。

1.2.1. プーリング

プーリングとは、グループ企業の資金管理を一元化する手法である。CMS の導入の際、ま

ずこのプーリング機能の導入から始められるケースが多い。グループ会社の銀行口座(グルー

プ口座)残高の過不足を調整し、統括会社の銀行口座(統括口座)でグループ資金を集中管理す

るため、一定のサイクル(日次、月次等)で統括口座とグループ口座間で自動的に資金移動

を行う機能を持つ。その際、実際に各口座間で資金の移動を伴うアクチュアル・プーリング

(キャッシュ・コンセントレーションとも呼ばれる)と、各口座の残高を仮想口座にて計算

上合算し、実際の資金の移動は伴わないノーショナル・プーリングの、二つの手法のいずれ

かが採られる。

一般的なプーリングのロジックとして、グループ口座に基準残高を設定する方法(ターゲッ

トバランス)がある。グループ会社の口座に基準残高を設け、振替時点において基準値を上回

る残高の口座からは資金を回収し、基準値を下回る残高の口座には資金を供与する。具体的

には、グループ会社は日々の営業活動で入出金があるため、口座の残高は常に変化するが、

基準残高より資金が多い場合、余剰資金とみなされ、基準残高と実残高との差額が、グルー

プ口座から統括口座に自動的に資金移動される。逆に基準残高より実残高が少ない場合は、

その差分を統括口座からグループ口座に資金移動する。

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INTAP 4

ターゲットバランスで、特に基準残高がゼロの場合をゼロバランスと呼ぶ。日中の営業活

動に伴い発生する資金不足には、銀行が当座日中貸越枠を設定しその枠内での資金ショート

を許容する形で実施される。

プーリングの実施方法としては、銀行の EB(エレクトロニックバンキング)を活用した勘

定系ホストで資金移動を行う方法や、加盟銀行口座間でリアルタイムに資金の移動が可能な、

NTT データが提供するサービス ANSER を活用する方法等がある。銀行ホストは高速、確実で

あるというメリットがある反面、基本的に一日一回の資金移動となるデメリットがあり、一

方、ANSER はリアルタイムで資金移動が可能であるというメリットがある反面、低速である

といったデメリットがある。各企業は扱う資金規模、口座数、当座貸越枠、手数料の兼ね合

いで、これらの実施方法を選択/併用することになる。

図表 1-2 にプーリング機能における資金の流れの一例を模式的に表す。グループ企業 A

は適正な資金量に対して余剰資金 50 万円を持ち、グループ企業 Bは適正な資金量に対して資

金が 80 万円不足している。ここでプーリングを実行することにより、統括会社の口座から各

グループ企業の口座に資金の回収及び貸付を行い、各グループ企業の資金の過不足を調整す

る。

図表 1-3 にはプーリングの概略業務フローを模式的に示す。ANSER の資金プーリング、ま

たは銀行系ホストの資金プーリングを用い、資金移動を CMS が取り込み、貸借に記帳し、残

高を更新する。そして、1 日の最終残高に基づき、利息計算を行い、流動性貸借取引にかか

わる自動仕訳を行い、仕訳データを統括会社、グループ会社に提供する。

プーリングによるメリットとしては、例えば、子会社の余剰資金を別の子会社の借入金返

済に充てることで連結有利子負債を削減し、連結ベースの総資産を圧縮できると同時に、資

金調達・運用の効率を高めることができるといったことが挙げられる。その他、連結ベース

の資金の把握が容易、グループ全体での決済資金の圧縮が可能、グループ企業各社の財務の

健全化を図れる、資金移動情報の集中管理により子会社の財務情報を日次で把握できる、財

務情報をリスクマネジメントに活かせる等といった効果が期待できる

図表 1-2 プーリング機能における資金の流れ

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図表 1-3 プーリングの業務フロー

1.2.2. ネッティング

ネッティングとは、グループ企業間における債権と債務を相殺し、相殺後の差額のみを決

済する手法のことで、これにより当初の債権と債務は決済されたことになる。

ネッティングの方法として、2 国間で債権債務の相殺を行うバイラテラル・ネッティング

と、多国間で相殺を行うマルチラテラル・ネッティングがある。バイラテラル・ネッティン

グは比較的簡単なスキームとなるが、マルチラテラル・ネッティングは資金決済の参加者や

取り扱う通貨がより多くなり、組織的にも決済の調整役を果たすネッティング・センターを

設置しなければならない。図表 1-4、及び図表 1-5 に、それぞれバイラテラル・ネッティ

ング、及びマルチラテラル・ネッティングの模式図を示す。ネッティング前は、決済総額が

240 万円、送金回数は 6回であったものが、バイラテラル・ネッティングでは、決済総額 60

万円、マルチラテラル・ネッティングでは決済総額 100 万円、送金回数はいずれの場合も 3

回と減少している。図表 1-4、及び図表 1-5 の例は子会社が 3社の例を挙げたが、子会社

の数が増すほどマルチラテラル・ネッティングによる決済総額、送金回数の減少のメリット

が増す。

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INTAP 6

図表 1-4 バイラテラル・ネッティング

図表 1-5 マルチラテラル・ネッティング

図表 1-6 には、ネッティングの業務フローを示す。ネッティングを行うためには、当事

者間の支払いと回収の決済日を統一すること、支払いと回収の通貨が違った場合に仕切りの

ための為替レートを設定すること、当事者間で同時相殺決済するために相手方に信用を供与

すること等の前提条件を必要とし、こうした前提条件を満たすことが容易なグループ間での

決済に利用されている。

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図表 1-6 ネッティングの業務フロー

ネッティングによるメリットとしては、グループ企業間の債権と債務の一元管理が可能、

金融機関への手数料の削減が可能、債権と債務を処理するための間接費用の削減が可能等と

いった効果が期待できる。また決済総額を減少させることにより、未払いが生じる決済リス

クの面から持つべき資金手当てを減少させることができる効果が挙げられる。

1.2.3. 支払代行(集中支払管理)

支払代行とは、企業グループの統括会社または金融子会社が、各グループ会社に代わって

その取引先に対し代金の支払を行う手法のことをいう。図表 1-7 で、単純な例について支

払代行の概念を示す。図表 1-8 に、支払代行の業務フローを示す。これにより、連結ベー

スの支払管理が可能、金融機関に支払う手数料の削減が可能、支払事務手続きの集中化によ

る業務効率の向上(間接費用の削減)等といった効果が期待できる。

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図表 1-7 支払代行の概念図

図表 1-8 支払代行の業務フロー

1.2.4. その他の共通機能

①流動性貸借

与信枠を設定し特に返済期限を設けずに自由に貸借取引を行う機能である。また、グルー

プ間で資金貸借を行うサービスをサポートする共通機能として、貸借記帳を管理する。図表 1

-9 に流動性貸借における資金の流れの一例を示す。初期状態では、統括会社の口座残高が

100 万円あり、グループ会社 B、及びグループ会社 Cの口座残高は 0である。貸借記帳ではグ

ループ会社 B、C とも 0 である。日中、グループ会社 B、C に入出金があり、グループ会社 B

は 40 万円出金し、口座残高は-40 万円となり、また、グループ会社 C の口座には 50 万円入

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INTAP 9

金された。ここで資金プーリングを実行すると、基準残高 0の場合、統括会社の口座からグ

ループ会社 Bの口座に自動的に 40 万円が振り込まれ、グループ会社 Bの口座残高は 0に調整

される。一方、グループ会社 C は 50 万円の資金余剰となっているため、そこから自動的に

50 万円が統括口座に振り込まれる。その結果、統括会社の口座残高は 100 万円-40 万円+50

万円=110 万円となる。このような資金貸借取引の結果、貸借記帳ではグループ会社 Bには統

括会社に対し 40 万円の債務が発生し、グループ会社 Cには統括会社に対して 50 万円の債券

が生じたことになる。

図表 1-9 流動性貸借

②与信管理

グループ企業の与信枠を設定し、枠の超過を監視する。以下に与信枠として管理する代表

的なものを示す。

・流動性貸借の枠

・1本あたりの個別の振込枠

・支払代行の振込枠

・日中の支払枠

与信管理は、資金移動を自動的にとめるものではなく警告を行う機能である。与信枠を超

過した企業に対しては、ペナルティ金利を加算する等のルール作成が必要である。

CMSでは、基本的にグループ内資金移動に伴って、統括会社とグループ企業との間の与

信管理は行う。一方で、銀行から見た企業グループ全体への与信管理を行う場合には、個別

のグループ企業への融資情報などを扱うため、別途データの収集が必要となる。

対象となる与信枠としては、短期貸付の枠、及び中長期貸付の枠がある。与信枠の単位と

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INTAP 10

しては、グループ全体の与信枠、及びグループ企業ごとの個別の与信枠がある。

③システム主要機能例

図表 1-10 に CMS におけるシステムの主要機能の一例を示す。

機能名称 内容

1 グループ会社情報登録 CMSの対象となるグループ会社情報を登録する。

2 取引先情報登録CMSの対象となる取引先情報(グループ会社含む)を登録する。口座情報についても本機能で登録する。

3 与信枠情報登録 グループ企業の各種与信枠を設定する。

4 プーリング残高登録 プーリングの基準残高や頻度を設定する。

5 金利情報登録グループ内の調達/運用レート(ベースレート)を設定する。

6 貸借残高照会 貸借額算出の結果を元に画面で照会を行う。

7 資金移動指示グループ会社ごとに基準残高を考慮し移動額算出および資金移動指示を行う。

8 入手金明細紹介 入出金の明細情報を照会する。

9 注同姓貸借利息額算出 グループ会社別に流動性貸借額から利息を算出する。

10 定期性貸借利息額算出 グループ会社別に定期性貸借額から利息を算出する。

11 自動仕訳ファイル作成資金移動データを元に自動的に仕訳ファイルを作成する。

12 ネッティングデータ作成グループ会社間のネッティング前後のデータを作成する。

13 定期性貸借期日管理 定期性貸借取引の期日管理を行う。

14 支払データ自動取込支払代行を行うグループ企業のデータを自動的に取り込む。

15 支払代行データ作成グループ企業から取得した支払データを元に統括会社が支払代行のデータを作成する。

16 各種還元帳票作成 様々な還元帳票を作成する。

図表 1-10 システム主要機能一覧例

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INTAP 11

1.3. CMS 導入におけるポイント

企業グループにおいて CMS を導入するに当たっては、まず資金効率の向上、業務の合理化

といった目的を明確にし、続いて法規制、会計・税務上の問題、グループ会社との契約とい

ったビジネススキームに関する確認を行うことが必要である。こうした枠組の明確化の後、

実際の CMS ソフトの選択、システム運用方法の決定といったプロセスを踏むことになろう。

ここでは、前述のポイントの内、システムの選択とシステム運用のポイントについて以下

で詳述することにする。

1.3.1. CMS ソフトの選択のポイント

CMS ソフトについて、いくつかの選択肢が考えられるが、主として以下の 3 パターンがあ

る。

一つは自社開発ソフトの利用である。そのメリットとしては、基幹業務システムの統合面

から自社の要件に合ったシステムの利用が可能となることが挙げられる。デメリットとして

は、開発費が高額であり、現状のレベルの物を構築するのに数億円程度の開発費を必要とす

ることである。従って、自社開発が可能なのは一部の大企業だけということになるが、CMS

により年間で数億円のメリットが期待できる場合には、自社開発により効率化を進めること

が望ましいといえる。

二つ目は銀行が提供するソフトの使用である。そのメリットとしては、低価格である点が

挙げられる。前述のように CMS ソフト開発には高額の費用を必要とするが、銀行は口座の獲

得および維持、取引の拡大を目的としており、ソフト価格は低額に抑えられている。図表 1

-11 には国内銀行における価格事例を示す。また銀行間の競争も激化していることから低価

格でありながらレベルの高いソフトが提供されている。デメリットとしてはシステムを提供

する銀行との取引が条件となり、銀行のしがらみを排除したい、メインバンクが明確でない

ため銀行との関係を乱したくない等といった企業側の思惑にはマッチしないという側面があ

る。

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銀行 サービス名称 設定価格

某大手都銀 CAMS 資金集中管理システム

(プーリング機能)

契約料 105,00

0円

月額手数料 10,500

某上位地銀) 資金管理サービス

(プーリング機能)

契約料(ソフト代込) 100,000

円程度

月額基本料 10,500円/1

口座

照会従量料金 10.5円/1デ

ータ

某上位地銀)

資金集中管理サービス

(パソコンタイプ)(プーリング機

能)

契約料(ソフト代込) 53,000円

程度

月額基本料 5,250円/

契約

1,050円/

取引店

図表 1-11 国内銀行における価格事例

三つ目はシステムベンダが提供するソフトの使用である。メリットとしては、CMS 以外の

業務を含めたシステムインテグレーションを提供可能であることが挙げられる。デメリット

としては、システムベンダは銀行と異なりパッケージやソフトで収入を得るビジネスモデル

であるため、銀行と比較して価格が高い点である。

こうした選択肢について、そのメリット・デメリットを比較検討し、その他にも操作性、

会計システムとのインターフェイス、複数銀行の口座使用の可否他、企業の個別の事情を勘

案しながら、どのソフトを選択するかを決定することになる。

1.3.2. システム運用のポイント

システムの運用パターンとしては次の 3つが考えられる。

① 銀行運用(銀行の ASP サービスを受ける)

② 外部業者委託(CMS ソフトを買って、外部業者のホスティングサービスを受ける)

③ 統括会社運用(CMS ソフトを買って、グループ内でシステム運用)

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INTAP 13

これらの比較を図表 1-12 に纏める。

①銀行 ②外部業者委託 ③統括会社

システム運用主体銀行側で設備を持ち、ASPサービスを提供

システムサービス会社ホスティングを委託

統括会社またはグループ内のシステム会社が運用

システム運用レベルアプリケーション管理まで外部委託

H/Wレベルの運用まで外部委託

全て自グループで運用

サーバ設置場所 銀行側のセンタ 業者のセンタ グループ内のセンタ

設備費の負担 銀行が負担 殆ど統括会社 全て統括会社

初期コスト月額手数料制の場合

小殆ど統括会社が負担

中全て統括会社

運用コスト 中~大 中 小

システム提供形態システムサービスの

レンタルソフト買取 ソフト買取

運用負荷度合 小 中 大

カスタマイズ容易性 小パッケージ:中自社開発:大

パッケージ:中自社開発:大

図表 1-12 システム運用パターンの比較

自社運用の場合、ソフト購入とは別にサーバ管理に数百万~1000 万超の費用が必要となる。

従って中堅以下の企業ではコスト面から ASP が望ましいが、情報の外部管理が必要になりセ

キュリティ面での不安が残ることになる。現状ではおよそ半々くらいの割合である。最近は

ベンダーも ASP サービスを提供する動きがあり選択肢は広がっていくことになるだろうと考

えられる。

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INTAP 14

1.4. CMS 導入のビジネススキーム

ここでは CMS 導入のビジネススキームについて、日本国内で多くの場合に採用されている

事例を紹介する(図表 1-13)。以下にそのポイントを列記する。

・ CMS は基本的に銀行が保有し、必要に応じて運用をベンダーに委託する。

・ 銀行は、統括会社と契約し、初期費用および月次の定額料金を受取る。

・ 統括会社は、グループ企業との間で個別に継続的に取引を行う基本契約を結ぶ。

(支払代行の場合、事務委託契約も含まれる可能性がある。)

図表 1-13 CMS 導入のビジネススキーム(日本の事例)

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1.5. CMS の仕組み

以下で、システム管理、及び使用するネットワークの種類等の観点から、CMS の仕組みに

ついて事例を紹介する。

1.5.1. CMS サーバを銀行に置く場合 1-(EB ホスト経由)

・グループ会社の入出金情報を CMS サーバに集約し銀行が管理する。

・勘定系ホストで資金移動を行い EB ホストに資金移動結果を転送する。

図表 1-14 CMS サーバを銀行に置く場合 1-(EB ホスト経由)

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INTAP 16

1.5.2. CMS サーバを銀行に置く場合 2-(ANSER 経由)

・グループ会社の入出金情報を CMS サーバに集約し銀行が管理する。

・ANSER 端末を通じて、勘定系ホストで資金移動を行う。

図表 1-15 CMS サーバを銀行に置く場合 2-(ANSER 経由)

1.5.3. CMS サーバを統括会社に置く場合 1-(EB ホスト経由)

・グループ会社の入出金情報を CMS サーバに集約し統括会社が管理する。

・勘定系ホストで資金移動を行い EB ホストに資金移動結果を転送する。

図表 1-16 CMS サーバを統括会社に置く場合 1-(EB ホスト経由)

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INTAP 17

1.5.4. CMS サーバを統括会社に置く場合 2-(ANSER 経由)

・グループ会社の入出金情報を CMS サーバに集約し統括会社が管理する。

・ANSER 端末を通じて、勘定系ホストで資金移動を行う。

図表 1-17 CMS サーバを統括会社に置く場合 2-(ANSER 経由)

1.5.5. ベンダーの ASP センタに委託する場合 1-(銀行勘定系ホスト経由)

・グループ会社の入出金情報を CMS サーバに集約しベンダーが管理する。

・勘定系ホストで資金移動を行い EB ホストに資金移動結果を転送する。

図表 1-18 ベンダーの ASP センタに委託する場合 1-(銀行勘定系ホスト経由)

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 18

1.5.6. ベンダーの ASP センタに委託する場合 2-(ANSER 経由)

・グループ会社の入出金情報を CMS サーバに集約しベンダーが管理する。

・ANSER 端末を通じて、勘定系ホストで資金移動を行う。

図表 1-19 ベンダーの ASP センタに委託する場合 2-(ANSER 経由)

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 19

1.6. CMS導入・検討状況

CMS の導入・検討状況について、図表 1-20、及び図表 1-21 に示す。

89社アンケートにおけるCMS導入済&検討中社数(社団法人企業研究会「企業価値向上に向けた連結経営のためのグローバル・グループ財務戦略 キャッシュマネジメントシステム(CMS)の導入・運用実践事例集」によ

る)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

1998 1999 2000 2001 2002 2003

検討開始

導入

図表 1-20 CMS の導入・検討状況(企業研究会による 89 社の CMS アンケート, 2004)

89社アンケートにおけるCMS導入済&検討中社数 (社団法人企業研究会「企業価値向上に向けた連結経営のためのグローバル・グループ財務戦略 キャッシュマネジメントシステム(CMS)の

導入・運用実践事例集」による)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

化学電機機械

輸送用機器

食料品

医薬品建設

情報通信

電気・ガス

サービス

精密機器卸売り陸運保険

石油・石炭

金属製品鉄鋼

水産・農林

その他

導入しない

検討中

導入済み

図表 1-21 業種別の CMS の導入・検討状況(同上)

主として、プーリングによる有利子負債の圧縮=金利負担削減を目標として導入が進められ

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 20

ている(公開されているニュースリリースによる)。

・北海道ガス+連結 5社

2004/9

プーリング・支払い代行

連結有利子負債 18 億円・利払い 0.2 億円の削減

・タカラ+連結 15~16 社

2004/11

プーリングによる連結有利子負債削減

・日本高周波鋼業が神戸製鋼所の CMS に参加

2004/5

プーリング

神戸製鋼からの低い訓利により借入金残高 103 億円を 3年後に 50 億円に削減する

・近鉄+連結 21 社(70 社まで拡大予定)

2002/3

プーリング+(支払い代行)

70 社参加時点で連結有利子負債 300 億円・利払い 5億円削減を目標

・日通+10 社(200 社へ拡大予定)

2004/4

プーリングなど

200 社参加時点で連結有利子負債 150 億円・利払い 3億円削減を目標

・ヤマハ発動機+4 社(35 社まで拡大予定)

2003/6

プーリング・ネッティング・支払い代行

約1億円の資金コスト削減

・福岡市(水道などの企業会計と市長部局の会計)

2004/10

企業会計の余剰資金 50 億円を中小企業向け融資にあてて、利払い 0.1 億円を削減

・北陸電力+8 社

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 21

2000/12

プーリング

1.7. まとめ

1.1 で述べたように企業が一層の経営効率化の必要に迫られている中で、経営効率化の一

手段として、CMS 適用の事例は数多く見受けられるようになっている(Appendix 1 事例集

を参照)。

CMS の採用に当たっては、各企業グループはその個別の事情を勘案しながら、1.2 で説明し

た機能のうちのどれを、あるいは全てを採用するのかといった機能面での選択と、1.3、1.4、

及び 1.5 で見た CMS ソフト、システム運用の方法、ビジネススキーム等に関するいくつかの

選択肢から、実際の CMS の導入形態を決定することになる。

CMS 導入の形態は企業グループごとに種々の形態をとり得るが、近々の事例からその効果

については、有利子負債の圧縮による利払い減少、ネッティングによる手数料削減等により、

連結ベースで年間数億~数十億円程度の資金コスト圧縮を見込んでおり、少なからざるメリ

ットが各企業グループにもたらされていると言える。

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 22

2. CMS と TMS

2.1. CMS と TMS の目的

CMS の目的は

・ 現に執行されるトランザクション(キャッシュフロー)を対象として

・ 資金移動や支払いなどにかかる手数料コストの削減と

・ グループ内の余剰資金をグループ内の企業へ貸し出すことで、連結有利子負債を削減

する(これにより金利負担を削減する)

とする。

不確定な将来キャッシュフロー=リスクを束ねる

支払代行

将来の為替予約

CMS

TMS

ネッティング プーリング

将来の資金調達

キャッシュフローを束ねる

キャッシュフローをネットで束ねる(相殺)

運転資本を束ねる(社内銀行)

事務コストダウン 資本コストダウン

リスクヘッジのコストダウン

統合リスク管理信用市場

オペレーション

不確定な将来キャッシュフロー=リスクを束ねる

支払代行

将来の為替予約

CMS

TMS

ネッティング プーリング

将来の資金調達

キャッシュフローを束ねる

キャッシュフローをネットで束ねる(相殺)

運転資本を束ねる(社内銀行)

事務コストダウン 資本コストダウン

リスクヘッジのコストダウン

統合リスク管理信用市場

オペレーション

図表 2-1 CMS によるコストダウンと TMS によるヘッジコストダウン

これに対して、TMS(トレジャリマネジメントシステム)の目的は

・ 将来の不確定なキャッシュフローというリスクを把握し

(統合リスク管理の一部をなす)

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 23

・ ヘッジコストを削減する

ことを目的としている。

不確定な将来キャッシュフロー

支払代行

将来の為替予約

CMS

TMS

日単位の資金繰り

多国間の法的差異

国境線を越える空間軸

ネッティング プーリング

為替のネッティング

多国間プーリング

将来の資金調達

Global CMS

標準時帯の差異(決済タイミング)

月・期単位の資金繰り

貸金業

未来への時間軸

グループ内銀行

不確定な将来キャッシュフロー

支払代行

将来の為替予約

CMS

TMS

日単位の資金繰り

多国間の法的差異

国境線を越える空間軸

ネッティング プーリング

為替のネッティング

多国間プーリング

将来の資金調達

Global CMS

標準時帯の差異(決済タイミング)

月・期単位の資金繰り

貸金業

未来への時間軸

グループ内銀行

図表 2-2 国境を越える Global CMD と将来の不確かさを扱う TMS

CMS が現在のキャッシュフローを扱う「経理システム」に付随して存在するのに対して、

TMS は将来のキャッシュフローを管理する「財務管理システム」に付随して(あるいは財務

システムそのものとして)存在する。

前述の経営効率化の要請に加えて、これまで銀行、証券会社、生損保会社等の金融機関が

中心であったリスク管理についても、事業会社においても同様の取り組みが求められるよう

になってきている。その一手段として、CMS をさらに発展させた TMS の導入が検討されるよ

うになってきた。

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 24

2.2. TMS の概要

TMS とは、前述のように CMS による企業グループ全体の資金管理に加えて、さらに入出金

が発生する以前の取引発生時点から資金の管理を行うとともに、将来のリスク(為替リスク、

金利リスクなど)のマネジメント、資金の調達/運用等を企業グループ全体で効率的に管理

するシステムを言う。これにより、企業グループ全体の資金管理、財務リスクマネジメント、

金融商品への対応を一元的に行うことが可能である。

TMS のイメージを図表 2-3 に示す。

CMSプーリングネッティング支払代行

親会社

子会社A 子会社B 子会社C ・・・

入出金情報等

金融機関

・財務取引・決済

TMS

資金調達

会計処理

リスクマネジメント(金利、為替…)

財務取引管理借入、貸付、為替デリバティブ…

ポジション管理(金利、為替…)

資金運用

図表 2-3 TMS のイメージ

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 25

2.3. TMS で要求される機能

前述のように TMS は将来のキャッシュフローを含めた企業グループ全体の財務管理システ

ムと位置付けられる。

ここでいう将来のキャッシュフローの例としては、グループ会社を含めた売掛金、買掛金

等が挙げられる。売掛金、あるいは買掛金は、これらが認識された時点においてはまだ確定

していない。TMS における財務管理では、この未確定の入出金情報に基づき、企業グループ

における資金繰り計画を策定する必要がある。

海外企業との取引の場合、未確定の将来キャッシュフローである売掛金、買掛金は外貨建

であり、将来における為替レートの変動の影響も受ける。

為替レート変動の影響のヘッジは、例えば為替予約等を行い、将来の為替レートを確定さ

せることで行われる。この規模は、予測される資金需要に応じて取り決められる。

このように、売掛金、買掛金といった将来のキャッシュフローを予測し、その予測に応じ

た資金繰り計画、さらに外貨建取引の場合には、将来の為替レート予測を視野に入れながら、

予測される資金需要に応じた規模の為替予約等のヘッジを行うことが求められる。

さらに、キャッシュフローの予測値のみならず、その確度を織り込んで、どの時点で、全

体の資金需要に対してどの程度の比率で資金繰り計画の策定やヘッジを行うかを決定する必

要がある。

従って、TMS においては、売掛金、買掛金や為替レート等の将来の未確定なキャッシュフ

ローの予測のみならず、その予測の確度を算出することも要求され、これを管理対象にある

グループ会社全てにわたって遂行することが求められる。

上記では、将来のリスクの例として為替レート変動について述べたが、TMS で管理すべき

リスクとしては、この他にも金利変動、原油等コモディティ商品の価格変動といった種々の

リスクがあり、その存在を把握し、企業グループの損益に与える影響を評価することが求め

られる。

近年の情報技術及び金融工学技術の発展に伴い、高度な数理モデルやモンテカルロシミュ

レーション等を駆使したリスク評価が可能となっている。

また、こうして把握/評価したリスクを、どのようにして効果的にヘッジするかが要求さ

れる。その際、先物取引、オプション、スワップ等、デリバティブを活用したヘッジ取引を

行うことが必要となる。

こうした種々のリスクヘッジ手法については、4章で、リスクの定義等を含めて、TMS をさ

らに発展させた統合リスクマネジメントの枠組みの観点から詳細を紹介することにするが、

その一例として、発電事業者における燃料価格変動のヘッジ手法の一つである、燃料価格ス

ワップの簡単な例を以下で見ていくことにする。

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 26

石油元売

発電事業者

顧客

 変動価格 固定価格

発電

金融機関

固定価格

燃料価格スワップ

 変動価格

図表 2-4 発電事業者における燃料価格スワップ

図表 2-4 では、発電事業者は石油元売業者から燃料である油を変動価格で購入し、発電

を行って電力を顧客に供給して固定価格でその対価を受取る。この時、発電事業者の収益は、

燃料価格の変動に伴って変動することになる。そこで、発電事業者は、金融機関と燃料価格

についての固定価格と変動価格のスワップ(交換)を行うことにより、燃料価格変動のリス

クのヘッジを行う。

この時、変動価格は JCC 原油価格で、これは通関統計値であり、日本特有の原油指標のた

め、金融取引市場での取引は行われていない。従って、JCC 原油価格を、他原油(WTI、Brent

原油等)ポートフォリオを用いて最適近似し、他原油のスワップ取引でヘッジを行うことに

なる。この原油ポートフォリオの最適近似は、株式投資におけるパッシブファンド(株式イ

ンデックスに連動するように設計されたファンド)の作成の手法と同様の方法、ヒストリカ

ルデータに基づく数理計画法を適用したポートフォリオ最適化を行うことで実施される(図

表 2-5)。

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 27

図表 2-5 原油ポートフォリオの最適化

このように、これまで金融機関で醸成されてきた金融工学的手法を活用したリスクの管理、

及びヘッジの手法が、事業会社においても実施されるようになってきている。こうしたヘッ

ジを実際に行う際には、特に事業会社においては、トレーディング執行における未熟性、ヘ

ッジ会計適用上の問題等、いくつかの課題が存在する。この課題については後述の 3.4 で詳

細を検討する。

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 28

3. CMS と TMS の実際的課題

3.1. CMS における動的問題と法的問題

キャッシュマネジメントシステムに参加する企業は主として連結子会社(発行済み株式

50%以上を親会社が保有)である1。これは、キャッシュマネジメントシステムの機能のひと

つであるプーリングにおいて、資金を貸し付ける行為が、貸金業法に抵触する可能性がある

ためである2。

このため、持分法適用会社3をキャッシュマネジメントシステムに参加させる場合は

・ プーリング口座をグループ内の金融子会社におく

・ 親会社そのものが貸金業に登録する

のいずれかの方法をとることになる。製造業や商事会社が貸金業に登録することは、通常行

われることであり、それ自体は特別なことではない4。

貸金業登録のための負担は

・ 全役員の住民票・身分証明・禁治産者などでない証明の提出(登録時および 3年ごと)

・ 役員が変更・引越しした場合も当該者について証明の提出要。

・ 期末から 2ヶ月以内に監督官庁への報告義務

・ 監督官庁の立ち入り検査対応

などである。持分法適用関連会社をキャッシュマネジメントシステムに参加させることによ

って得られるメリットが上記コストよりも大きければ、貸金業に登録するという判断が成り

立つ。

当初の対象企業が連結対象子会社であるとしても、時間の経過とともに持分法適用関連会

社がキャッシュマネジメントシステムに参加するのは避けられない。

・ 事業部を分社化する際に、保有株式が 50%を下回る

1 北海道ガス(2004 年)は連結子会社 5 社、近鉄(2002 年)は連結子会社 21 社、日通(2004 年)は東京都内

の連結子会社 10 社から導入開始、ヤマハ発動機(2003 年)は連結子会社 35 社を対象、北海道電力(2000年)は 100%子会社 8 社を対象など、連結子会社を対象としている企業グループが多い。 2 明らかに抵触するとは確認されていない。 3 持分法とは、投資会社が被投資会社の純資産及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変

動 に 応 じ て 、 そ の 投 資 の 額 を 連 結 決 算 日 ご と に 修 正 す る 方 法 を い う

[ http://www.bus.kindai.ac.jp/okitsu/sinki-tuika.htm ] 4 三菱自動車、三菱ふそうトラック・三菱商事石油・住友商事などが貸金業に登録している。

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 29

・ 事業部を他社に移管すると同時に、その事業に関係した連結子会社が持分法適用関連

会社に変化する

といった場合には、一時的に持分法適用関連会社がキャッシュマネジメントシステム内に存

在することになるからである(図表 3-1)。

企業グループA企業グループB

事業部 事業部 独立企業

関連企業群関連企業群関連企業群

関連企業群 関連企業群関連企業群 関連企業群関連企業群 関連企業群事業移管に伴う

関連企業群のグループ間移動

買収した企業の関連会社の子会社化

独立した事業の関連会社の切り離し

企業グループA企業グループB

事業部 事業部 独立企業

関連企業群関連企業群関連企業群

関連企業群 関連企業群関連企業群 関連企業群関連企業群 関連企業群事業移管に伴う

関連企業群のグループ間移動

買収した企業の関連会社の子会社化

独立した事業の関連会社の切り離し

図表 3-1 企業間の事業移管や企業買収・独立に伴う変化(連結子会社5・持分法適用関連

会社など)

事例:株式会社日本AEパワーシステムズ6

日立・富士電機・明電舎が変電関連事業を分社化し、それを統合したもの。日立は 50%・富士電

機 30%・明電舎 20%の比率。

事例:ルネサステクノロジー

2003 年に三菱電機と日立の半導体部門を統合。これにより両社の半導体事業関係の子会社が、

自動的にルネサステクノロジーの子会社化。うち、日立グループにあった子会社は日立の CMS に

参加していたため、経過措置として、日立の CMS に参加。その後に、ルネサステクノロジーの

CMS を立ち上げて移行

5 原則として親会社が発行済み株式の 50%以上を保有する会社。原則として親会社の連結会計に結合

される。 6 http://www.jaeps.com/jp/profile/kaisya_gaiyou.htm

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 30

3.2. CMS における運転資金ショートとヒューマンファクター

CMS 口座の残高がゼロの状態になると、それ以上の支払いができなくなる(運転資金ショ

ート)。従って、資金がショートしないように対応する必要がある。ただし、年度もしくは四

半期単位の時間スケールでは、キャッシュマネジメントシステムの有無にかかわらず、資金

調達計画が立案・遂行されるはずである。それ以外は以下のような対応となる。

・ 月単位:

CMS 参加企業のキャッシュフローの予定(受取・支払い)を集計し、運転資金がショ

ートしそうであれば、CP7の発行など方法で短期資金を調達

・ 日単位:

キャッシュフローの月単位の計画からの偏差の発生が、決済日当日・前日など直近で

ある場合は、CP の発行は間に合わない8。この場合は、コミットメントライン9契約に

基づき、銀行から借入を行う。

・ 決済直前:

いかなる借入も不可能な時間しか残されていない決済直前での偏差に対しては、親会

社の普通預金口座から CMS 口座へキャッシュを移動させることにより対応する。

これらはすべて、CMS 参加企業が親会社 CMS 担当部署(あるいは CMS を担当する金融子会社)

に対して

・ キャッシュフローの予定が決まり次第 CMS に入力する

・ キャッシュフローの予定が変更となったら、ただちに CMS に入力する

・ 決済直前の変更は即時連絡する(システム的な手段とともに、電話等による通知)

ことが前提となる。

経理システムにおける支払い指示などがそのまま CMS に直に入力されるのであれば、実際

のキャッシュフローと CMS が把握するキャッシュフローに乖離が生じる時間はほとんどない。

しかし、経理システムと CMS が非同期にデータ交換している場合は、乖離が時間単位で残る

可能性がある。この乖離が資金ショートに至らない程度に抑える(時間と量)手段は

・ キャッシュフロー予定の精度の高い入力

・ 資金繰りの余裕を持たせる10

以外にない。

7 企業が短期の資金を調達するために発行する、有価証券の一種。当初は、無担保の約束手形という位

置付けだったが、93年4月の証券取引法改正で、有価証券の一種とされるようになった。期間は1年

未満で、発行額は1億円以上。総合商社など大企業を中心に、短期資金の調達方法として定着。 8 発行事務処理や公募などに時間がかかるため、即時発行は不可能。 9 コミットメントラインとは銀行と予め契約した期間・融資枠の範囲内で、銀行が融資を実行するこ

とを約束(コミット)する契約である。この契約には手数料がかかる。なお、各銀行と個別にコミット

メントライン契約を締結する方法と、主幹事銀行(団)を中心に、複数の銀行と一つのコミットメント

ライン契約を締結するシンジケート方式(協調型)がある。(http://www.smbc.co.jp/より) 10 CMS は本来このようなバッファをとらずに済ませることで、効率的な運転資本を持つことを目的と

している。しかし、現実には CMS 参加企業にもバッファを残さざるをえない。

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 31

支払代行

CMS

ネッティング プーリング

キャッシュフローを束ねる

キャッシュフローをネットで束ねる(相殺)

運転資本を束ねる(社内銀行)

CMS口座がショートするリスク 参加企業の信用リスク

参加企業によるキャッシュフロー予定入力

バッファとしてのグループ企業本社口座

コミットメントラインによる不足資金調達

CPなどによる事前の資金調達

CMSのリスクに対する方策

資金不足企業に対する・貸し出し上限・金利上乗せは不明

支払代行

CMS

ネッティング プーリング

キャッシュフローを束ねる

キャッシュフローをネットで束ねる(相殺)

運転資本を束ねる(社内銀行)

CMS口座がショートするリスク 参加企業の信用リスク

参加企業によるキャッシュフロー予定入力

バッファとしてのグループ企業本社口座

コミットメントラインによる不足資金調達

CPなどによる事前の資金調達

CMSのリスクに対する方策

資金不足企業に対する・貸し出し上限・金利上乗せは不明

図表 3-2 CMS のリスク

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 32

3.3. CMS におけるモラルハザード

CMS おけるプーリングの金利は、個々の子会社が銀行から借りるより安く、銀行に預ける

より高く設定されている。これは親会社の信用力が、個々の子会社の信用力を上回っている

ことによる。

資金不足企業に対する貸し出しの金利について、銀行は高めのスプレッド(50bp~100bp)

を要求する。これに対して、CMS のプーリングでは一律であり、CMS 参加企業の資金不足度に

は依存させないのが一般的である。

無制限に貸し出しを行うなら、資金不足の(経営状態が悪い)CMS 参加企業のモラルハザ

ードを引き起こす可能性が高い。効率的な経営を促すために

・ 資金不足会社に対しては個別審査により上限を設定

・ 債務を圧縮する経営計画の提出

などが行われる。

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 33

3.4. TMS 導入における問題点

前述のように、近年の IT及び金融工学技術の発展に伴い、高度な数理モデルやモンテカル

ロシミュレーション等を駆使したリスク評価が可能となった。一方、評価したリスクを先物

取引、オプション、スワップ等、デリバティブを活用した効果的なリスクヘッジを行うこと

が求められるが、その際、特に事業会社において不可避と考えられるいくつかの問題点が存

在する。以下でこの問題点について考察する。

事業会社においてデリバティブを活用したヘッジ取引を行うにあたる問題点として、まず

トレーディング技術の不足の問題が挙げられる。金融機関と異なり、事業会社においてはト

レーディング技術の蓄積も、その人材も不足しがちであり、今後これを補っていく必要性が

ある。

続いて会計上の問題点について述べる。本報告ではこの問題について詳述する。

TMS の導入に関わらず、一般にヘッジ取引を行った際、原則的な処理方法によれば時価評

価され損益が認識されることとなるが、ヘッジ対象が時価評価されず価格変動が損益に反映

されない場合には、ヘッジ取引とヘッジ対象の損益が期間的に合理的に対応しなくなり、ヘ

ッジ対象の価格変動による損失の可能性がヘッジ取引によってカバーされているという実態

が財務諸表に反映されない結果となってしまう。

このためヘッジ対象及びヘッジ取引に係る損益を同一の会計期間に認識し、ヘッジの効果

を財務諸表に反映させるヘッジ会計が必要となる。

このヘッジ会計の適用に当たっては、原則的な処理方法の変更によりともすれば企業の利

益操作の手段になり得るとの懸念から、会計監査上厳格な適用基準が定められている。具体

的には、例えば、ヘッジ取引開始時(事前テスト)の要件として、以下に挙げる事項を正式

な文書で明確にすることが求められている。

① ヘッジ手段とヘッジ対象の対応関係の明確化

② ヘッジの有効性を評価する方法の明確化

-同種のヘッジ関係には同様の有効性の評価方法を適用する

③ ヘッジ取引がリスク管理方針に従ったものであることが、次のいずれかによって客

観的に認められること

-当該取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることを

文書で確認

-企業のリスク管理方針に関して明確な内部規定および内部統制組織が存在し、

当該取引がこれに従った処理であることが客観的に認められること

TMS 導入に当たっては、種々のリスクマネジメントを企業グループ全体として包括的に行

っていくことが求められる。その主要な手段の一つとしてデリバティブを用いたリスクヘッ

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INTAP 34

ジが行われることになる。このとき同様にヘッジ会計の適用を企業グループ全体として行う

ことになるが、前述のヘッジ会計適用の要件を満たすに当たり、グループ傘下の企業全体に

適用する場合には以下に挙げる問題点が発生する。

前述のヘッジ会計適用のための会計監査上の要件①によれば、ヘッジ対象となる取引の

各々について、そのヘッジ取引を行う際に対応関係を文書により明確化する必要があるが、

企業グループ全体で取り纏めを行う親会社は、傘下のグループ会社全ての取引についてこれ

を行う必要がある。企業グループの規模がある程度大きい場合、この作業は膨大なものとな

る。

また、上場企業も含まれる各グループ会社はそれぞれ独自に会計監査を受けており、ヘッ

ジ取引に関わるエビデンス資料のフォーマットについても、各グループ会社でまちまちとな

っている場合が多く、これらを統括的に取り纏めることは容易ではない。

ヘッジ会計適用のための会計監査上の要件②によれば、有効性の評価方法を正式な文書に

より明確化する必要があるが、これについてもグループ傘下の各社は必ずしも統一的な評価

を行っておらず、そのままではこの要件を満たすことができない場合が多いと考えられる。

グループ傘下の企業全てに、統一的な有効性の評価方法の採用を徹底させることは容易では

ない。

ヘッジ会計適用のための会計監査上の要件③についても、リスク管理方針の統一化を行い、

グループ傘下の全企業への適用を徹底する必要があり、これについても要件①及び②に関す

る問題点と同様容易ではないと考えられる。

ある程度の規模を持つ企業グループにおいて、TMS の導入を実行するためには、上述のよ

うな種々の問題点の解決が不可欠となるが、以下ではその方法について議論する。

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INTAP 35

3.5. TMS 導入における問題点の解決方法

前述の 3.で述べた TMS 導入に伴い顕在化が予想される会計上の問題点を解決するために

は、以下に挙げる方策を実行する必要性があると考えられる。

3.5.1. 会計基準の標準化、関連法制度の整備

我が国における会計基準に関しては、現状国内法のみをとってみても、商法(法務省管轄)、

証券取引法(金融庁所管)、法人税法(財務省管轄)にそれぞれ規定がある。また、昨今のグ

ローバルスタンダードが叫ばれる環境下で、米国会計基準を適用する企業も少なくない。

こうした状況下では、企業グループ傘下の各社の会計監査が独自に行われた結果、前述の

ようにヘッジ会計適用に際しエビデンス資料がまちまちとなることは、やむを得ない面もあ

ると言える。また、現状ではヘッジ会計の適用はまだ金融機関にほぼ限られており、監査法

人も事業会社における適用については手探りの状態が続いている。

国際的にも共通の会計基準の策定に向けて米欧が歩み寄りを見せる等、グローバルな視点

での会計基準の共通化の動きが見られる中、我が国における会計基準の標準化、関連する法

制度の整備は、本報告で挙げたヘッジ会計上の問題点解決のためのみならず早急に実施され

ることが求められる。

3.5.2. 必要データとそのやり取りの共通フォーマット化

例えば、企業グループ全体でリスク管理基準を策定し、この基準に則ったヘッジ会計適用

に必要なデータ及びそのやり取りをフォーマット化し、ネットワークで接続された企業グル

ープ全体のシステム上で運用する。このためには企業間をまたぐ大規模なデータ交換が可能

なシステムの構築が必要になるが、これにより 3.4 で挙げたヘッジ会計適用に係る会計監査

上の要件を満たすことが可能となる。

3.5.3. TMS 問題点解決のまとめ

上記 3.5.1 に関しては、各企業グループが個別に進めていくことは不可能であるが、3.5.2

に関しては、各企業グループの自助努力により問題点の解決を図ることが可能である。各企

業グループにおいて、TMS 導入のニーズの高まりとともに、そのために不可欠となる企業間

大規模データ交換を活用したシステム導入のニーズも高まっていくであろうと考えられる。

その一方で、3.5.2 の如くシステムの整備のみでは、実際に企業グループ全体に対して統

制を利かせるには不足であることも考えられ、最終的にはシステム整備のみならず、3.5.1

に挙げた関連法の整備の一刻も早い実施が望まれる。

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INTAP 36

4. リスクマネジメント

2 章にて述べたように、企業グループ全体における現在のキャッシュフローを効率的に管

理することを目的とした CMS から、この CMS の機能を内包しつつ将来の不確定なキャッシュ

フローというリスクを把握し、ヘッジコストを削減することを目的とした TMS を導入する動

きが事業会社において出てきている。これは事業会社のリスク管理への取り組み強化の動き

の一端と見ることができる。ここでは、事業会社のリスク、及びそのマネジメントについて

考える。

4.1. リスクの定義

従来、リスクとは、

・損失発生の可能性または事故発生の可能性

・利益減少の要因であり避けるべきもの

であり、リスクマネジメントとは、

・利益減少を防止するための活動

として捉えられてきた。近年では以下のようにリスクを捉えるようになってきている。即ち、

リスクとは、

・事象の発生確率と事象の結果の組合せ、ある場合には期待した成果からの偏差

・収益機会に必ず含まれる将来の不確定要素

・利益の源泉であり、リスクをとることにより、利益を追求し事業を継続できる

ものであり、リスクマネジメントとは、

・企業価値を増大させるための活動

という考え方である。

この考え方は、米国の COSO(The Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway

Commission:トレッドウェイ委員会組織委員会)により 2003 年 7月 15 日に事業リスクマネ

ジメントのフレームワーク(COSO's Enterprise Risk Management - Integrated Framework)

の公開草案が公表され(2004 年 9 月 29 日、正式版公開)、我が国でもリスクマネジメントの

新しい考え方として注目されるようになったものである。

COSO は、1992 年に、当時米国内で多発していた内部統制上の問題に対処していくために、

内部統制のフレームワーク(Internal Control-Integrated Framework)を作成した委員会で

ある。前述のリスクマネジメントフレームワークはこの内部統制フレームワークをベースに

作成されている。

この内部統制フレームワークは、バーゼル銀行監督委員会が参考としており、ひいては金

融検査マニュアルの基礎として位置付けられているもので、日本においても企業会計審議会

にて監査基準が改定され、監査人が評価すべき企業の内部統制は COSO の内部統制フレームワ

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INTAP 37

ークと同等の枠組みで捉えられることとなっている。

こうした COSO の影響力の大きさから鑑みて、リスクマネジメントフレームワークに関して

も、今後のリスクマネジメントのあり方の基本的枠組みとして捉えられていくことは想像に

難くない。事実、日本においても経済産業省から 2003 年 6 月に「リスク新時代の内部統制-

リスクマネジメントと一体になって機能する内部統制の指針」という報告書が公表されてお

り(「日本版 COSO」と呼ばれている)、また同じく経済産業省にて 2004 年 3 月には「我が国

企業共通の知的基盤」という位置付けで「事業リスク管理人材育成プログラム」が開発され、

事業リスク管理に関する経営技術及び人材教育についての体系化が行われている。

こうした動きを受け、リスク及びそのマネジメントの新しい考え方はますます広がってい

き、リスクマネジメントに対する取り組みがますます盛んになっていくと考えられる。TMS

導入の動きは、その一環として捉えることができる。

「リスク」という言葉の使われ方、イメージ (最大3つまでの複数回答方式)

27.1%

9.7%

15.6%

26.6%

7.1%

7.0%

5.0%

10.6%

11.2% 41.5%

14.1%

3.0%

27.3%

39.3%

18.7%

2.7%

1.4%

4.4%

10.2%

2.1%

0.7%

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45%

無回答

20.その他

19.よく分からない、特にない

18.収益(リターン)の源泉

17.保険等の対象

16.会社が傾くような大赤字

15.不祥事

14.災害・事故

13.機器

12.将来への不安

11.将来の業績等の変動

10.将来の不確実性

9.潜在的な利得または損失

8.成功または失敗の確率

7.成功または失敗の原因

6.投機的な事業・行為

5.許容できる最大損失限度

4.潜在的な損失

3.損失の確率

2.損失の原因

1.損失・失敗

*出典:経済産業省、事業リスク評価・管理人材育成システム開発事業 2003年アンケート調査    国内主要株式市場上場企業約3597社を対象に郵送調査、回答数1009票(回収率28.1%)

図表 4-1 リスクに関する主要企業に対するアンケート結果 1

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INTAP 38

リスクマネジメントのあり方を見直す動き (複数回答)

2.7%

5.4%

4.0%

14.9%

48.7%

21.1%

4.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

7.その他

6.よく分からない

5.自社の体制について深く  考えたことはない

4.現在の体制に不備も多いが、  特に改善する動きはない

3.現在の体制には不備も多く、改善を  進めているところだ

2.十分な体制を敷いているが、これを  機に改善する方向で考えたい

1.これまで万全の体制を敷いており  特に見直す必要はない

*出典:経済産業省、事業リスク評価・管理人材育成システム開発事業 2003年アンケート調査    国内主要株式市場上場企業約3597社を対象に郵送調査、回答数1009票(回収率28.1%)

図表 4-2 リスクに関する主要企業に対するアンケート結果 2

図表 4-1、及び図表 4-2には、リスクに関する主要企業に対するアンケート結果を示す。

図表 4-1 では、最も多いのは「将来の不確実性」であるが、2位以下に「災害・事故」とい

ったダウンサイドの結果を意味するものが並ぶ一方、アップサイドまで含めた不確実性をリ

スクとする見方はまだ浸透していない。一方、図表 4-2 では「現在の体制には不備も多く、

改善を進めているところだ」とする企業が 48.7%とほぼ半数に上り、「これまで万全の体制を

敷いており特に見直す必要はない」とする企業は 4.1%とわずかである。国内における企業の

リスクマネジメントに対する取り組みは端緒についた所と言える一方で、その不備を認識し、

その改善を進めようとする企業が多くあることが伺える。

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INTAP 39

4.2. リスクの分類

事業活動において、マネジメントすべきリスクの範囲は広大で多岐に渡り、その内容、対

象、重要度等はケース・バイ・ケースで千差万別である。図表 4-3 に事業リスクマネジメ

ントの対象となるリスクの例を示す。

<保険リスク> <コンプライアンス>災害による財産損害 上場規制に反する違反行為資産の損失 金融法規に対する違反事業中断 会社法の要求事項に対する違反製造物責任 競争促進法に対する違反従業員の雇用上の問題(雇用者賠償) 課税問題健康と安全性リスク 他の諸法令・諸規制に対する違反法務リスク 重加算税に関するリスクカントリーリスク 環境リスク

<ビジネスリスク> <オペレーショナルリスクなど>ビジネス戦略の失敗 重要な諸改革の失敗商品価値・市場占有率の低下 起業家精神の損失経済的問題 原材料の欠乏地域経済の問題 技能の不足技術の陳腐化 無形資産の創造および利用の失敗反産業的な政府政策 機密漏洩斜陽産業化 重要人物の損失乗っ取り攻勢 コスト削減の失敗資本の調達不能 過酷な商取引の押し付け技術革新の失敗 重要供給元または顧客への過剰なまでの依存存続可能性(Going Concern) 新製品またはサービスの失敗風説リスク 顧客の不満

品質問題<ファイナンシャルリスク> 主要プロジェクトの失敗流動性リスク 重要な契約の不成立マーケットリスク インターネットの利用能力の欠如信用リスク 下請け業者の業務不履行通貨リスク 労働争議資本調達の高コスト 重要な技術開発の失敗トレジャリーリスク 従業員の生産性向上動機付けの失敗金融資産の誤用 変革実行能力の欠如事務リスク(詐欺など) 非効率的な事務処理経理システムの故障 ブランドマネジメントの欠如信頼度の低い経理記録 非効率なマネジメントプロセスハッカーによるシステムへの攻撃不完全な情報に基づく意思決定データ過剰、分析不足投資者などへの債務不履行

出典:経済産業省 事業リスク評価・管理人材育成システム開発事業 事業リスクマネジメントテキスト

図表 4-3 事業リスクマネジメントの対象となるリスクの例

こうしたリスクを把握するためには、その性状、要因等により分類整理することが重要で

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INTAP 40

ある。リスクの状況に影響を与える要因はリスクファクターといわれ、リスクそれ自体がリ

スクファクターとなる場合もある。リスクの分類法はその切り口により様々な方法が考えら

れるが(図表 4-4 参照)、リスクマネジメントにおいて先行している金融機関等で用いられ

る分類に則り、

・市場リスク

・信用リスク

・オペレーショナルリスク

・その他のリスク

の 4 つの項目に分類し、それぞれの特徴、リスクファクターを整理する。

企業内の部署と関連するリスク項目

部署 リスク項目

総務 株主総会、文書管理、備品管理、緊急時対応(危機管理)

経営企画 経営戦略、新規事業、企業イメージ、事業所展開、業務提携

法務 知的所有権、製造物責任、独占禁止法、環境汚染責任、インサイダー取引

人事・労務 雇用・昇進差別、セクシャルハラスメント、労働争議、労働災害

財務・経理 為替変動、金利変動、企業買収、債権回収、記帳手続、財務諸表作成

製造 設備事故、品質低下、製造ライン停止、汚染物質流出

営業 競合商品、不買運動、顧客のニーズの変化、在庫切れ

情報システム 情報漏洩、不正アクセス、システムダウン、ウィルス侵入

研究開発 商品開発失敗、特許戦略、開発競争、不良製品開発

発生源とリスク

発生源 リスク項目

企業風土・内部要因 企業文化、企業倫理、社員の士気、社員の不正行為、セクショナリズム

経営・業務管理 経理操作、収益管理、顧客管理、情報漏洩、事業戦略

競争・ライバル企業 技術革新、代替製品、製品陳腐化、市場縮小、敵対的買収

政治・社会環境 戦争・革命・内乱、企業テロ、税制変更、独占禁止法、規制の変更

経済環境 為替変動、金利変動、インフレ、株主訴訟、原料品価格変動

災害・自然環境 地震、台風、長雨、大雪、津波

事故 火災、爆発、交通事故、労災事故、船舶事故、通信事故

出典:経済産業省 事業リスク評価・管理人材育成システム開発事業 事業リスクマネジメントテキスト

図表 4-4 リスクの分類例

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INTAP 41

分類

市場リスク 金利リスク 株式リスク

為替リスク 商品価格リスク

信用リスク 信用リスク

オペレーショナルリスク 事務処理 環境汚染

原料調達 ライフライン

在庫管理 品質管理

労務 法務処理

その他 システムリスク 製品要因リスク

情報リスク 不動産リスク

レビュテーションリスク 自然要因リスク

リーガルリスク 人的要因リスク

財務リスク 国際化に伴うリスク

技術的リスク

リスクファクター

図表 4-5 リスクファクター

4.2.1. 市場リスク

市場リスクとは、金利や為替、有価証券の価格などの金融市場における様々な変動要因や、

貴金属や穀物といった商品市場、天候等の関連する先物市場における変動要因が、保有する

資産・負債の価値を変動させたり、収益を変動させたりするリスクのことをいう。

市場価格の変動は、長期的に見た場合、国の経済状況や国際情勢等の影響を受けて、一定

のトレンドをもって変化すると考えることもできるが、短期的に見た場合、ランダムに変化

する。このランダムな価格変動が、保有する資産・負債、及び事業収益に与える影響を定量

的に計測することが求められる。

市場リスクの主なリスクファクターとしては、金利リスク、為替リスク、株式リスク、商

品価格リスクの 4つが考えられる。以下それぞれの詳細について述べる。

① 金利リスク

金利リスクとは、金利が変動することで、保有する資産のポジション価値が変化するリス

クである。金利に関する市場は、コール市場、コマーシャルペーパー、金融先物市場等、非

常に多く、各々の市場における需給や景況感変化等により金利が変化する。金利が変化する

ことにより、保有する債券価格や利払いが変化する。これにより、例えば資産と負債の双方

が影響を受けて収益を変化させるリスクを生じる。このとき、どのような資産と負債をどの

ような形で保有するか、その資産負債ポートフォリオをリスク回避の観点から検討すること

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INTAP 42

が重要となる。

② 為替リスク

為替リスクとは、為替レートの変動により、保有する資産のポジション価値が変化するリ

スクのことである。多国間の通貨価値の変動を表す市場リスクファクターであり、その国の

経済状況、金融市場、テロ・戦争等の様々なリスクファクターによって変化する。為替リス

クは輸出入や海外投資等外貨建て決済を伴う企業活動に伴い生じるリスクである。対象とな

る通貨によって異なるリスクを生じるため、為替リスクマネジメントのあり方は、取り扱う

通貨によって大きく異なってくることになる。

③ 株式リスク

株式リスクとは、株式市場における株式価格の変動により、保有する資産のポジション価

値が変化するリスクのことである。株式価格は、経済条件やその企業の経営状態、株式相場

全体の動き等の影響を受けて変化する。株式リスクの対応のためには、これらの要因を総合

的に分析することが重要である。日本の企業、特に金融機関は株式を大量に保有しているた

め、株式リスクは市場リスクの重要なリスクファクターとなっている。

④ 商品価格リスク

商品価格リスクとは、コモディティ(原油や穀物等のように、標準化されたルールの下で

取引される商品のこと)の現物や先物価格の変動により、保有するポジション価値が変化す

るリスクのことである。

4.2.2. 信用リスク

信用リスクとは、貸付金が回収できない、あるいは購入した債券の償還や利払いが約束通

り行われない等のリスクのことである。これは与信供与先がデフォルト(国や企業等が発行

した債券の利払いを遅滞したり、元本の償還が不能になること)したり、信用状態が悪化し

たりすることで生じる。信用状態の悪化により債券の価格が上下することも信用リスクに含

まれる。

この信用リスクを管理するに当たって重要なことは、信用供与を管理すること、即ち与信

管理である。バブル崩壊後、土地等の担保価値の下落が当然のようになる等、経営環境が不

透明な時代にあって、取引先の信用状態を適切に把握・管理することが、極めて重要になっ

てきている。与信管理の基本は、

・個々の取引先の経営状況、財務状況を適切に把握し、 取引開始時に選別すること

・各取引先に与信限度枠や与信期間の制限を設け、その制限内で取引を行うこと

・継続的に取引先の経営・財務状況、与信状況をモニタリングし、悪化時に適切なアクシ

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INTAP 43

ョンをとること

にある。取引先を評価する方法として、これまでは審査担当者の経験的な判断に依存してい

たが、より合理性と客観性を高めた審査基準を作成するため、倒産発生確率や回収率等のデ

ータをもとに、国、業種や格付毎ならびに、それら相互の相関によるリスクの削減効果を考

慮した上で、計量化するモデルに基づいた評価が行われるようになってきている。

信用リスクの大きさは、エクスポージャー(リスク資産の総額)とデフォルト率(デフォ

ルトを起こす確率)等によって影響を受ける。この他、与信先が特定の業種に集中している

場合や、特定の企業に集中している場合、特定の地域に集中している場合等には、リスクが

一度に顕在化する可能性が大きくなり、こうした切り口での評価も必要となる。金融、商社、

流通等、多くの取引先に対し債権を有する企業では、取引先の所在国、業種、社内信用格付

といった切り口で取引先を分類し、与信額や信用リスクの見積り、貸出金利や取引採算をト

ータルで管理する手法が普及してきており、こうしたポートフォリオ管理手法による、企業

が有する信用リスクの全体像を把握し、様々な要因を組み込んで計量化する手法の必要性は

ますます高まってくると考えられる。

4.2.3. オペレーショナルリスク

オペレーショナルリスクについては、その範囲が広大で明確な定義は難しい。言葉通りの

「業務に伴って生じるリスク」との定義では、企業によって状況が異なるため明確な定義と

はならない。バーゼル銀行監督委員会による資料では、「多くの銀行では、オペレーショナル

リスクは、市場リスク及び信用リスクに分類されない他の全てのリスクと定義づけている」

との記述が見受けられる。

ここでは、オペレーショナルリスクにはどのようなリスクファクターが含まれているかに

ついて、例を挙げて示すことにする。なお、ここに挙げた例で全てを網羅できているわけで

はなく、他にも多様な要因によりオペレーショナルリスクが引き起こされる可能性があり、

様々な発生原因に対して注意する必要があることが、オペレーショナルリスクの特色の一つ

である。

① 事務処理に起因するリスク

事務手続きの誤りによるリスク。意図せざるミスはもとより、書類の意図的な改竄等も

含まれる。

② 原料調達に起因するリスク

製品の生産に必要な原料について、必要なときに必要な分量を確保できないリスク。生産

や販売、信用などのリスクを引き起こす。このため、原料調達に起因するリスクは、生産や

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INTAP 44

販売、信用など多くのリスクともなり得る。

③ 在庫管理に起因するリスク

販売量の見通しの誤りなどにより、在庫が膨らんでしまうことによるリスク。在庫をゼロ

に近づけるリスクマネジメント手法として、いわゆるカンバン方式が良く知られている。JIT

(Just in Time)は、在庫生成のリスクをゼロにすることを目的としたリスクマネジメント

であると言える。

④ 人事管理、労働争議・組合運動、労働災害に起因するリスク

人事管理上のリスクの例としては、セクシャルハラスメント等が生じるリスク、従業員に

よる機密漏洩のリスク等が挙げられる。

労働組合については、労働争議を引き起こすことにより、少なくとも短期的には経営にマ

イナスの影響を及ぼすことがある。ストライキ等による損失は、製造ラインの停止、売上減

少等の直接的損失にとどまらず、従業員のモラール低下、企業の社会的信用の失墜等、長期

的な影響を及ぼすこともある。

労働災害が生じた場合には、当該労働者に対する補償、当該労働者の欠勤による稼働率の

低下等の損失が考えられる。

⑤ 環境汚染を引き起こすリスク

地球温暖化、森林破壊、ゴミの大量廃棄等、環境汚染を引き起こしている場合には、その

直接的被害はもとより、企業の社会的評判も悪化する等の影響が生じる。いずれの企業も電

力や紙資源等の使用により、何らかの形で環境汚染を引き起こすリスクを持っており、特定

の業種に限定されるものではない。

⑥ ライフラインの供給停止

電力やガスなどのライフラインの供給が停止してしまうリスク。地震や台風等の災害によ

って引き起こされる他、コンピュータシステム等の障害が原因となることも考えられる。

⑦ 品質管理に起因するリスク

品質管理の手法や設計等に起因するリスク。効率的な品質管理のためには、例えば抜き取

り検査等の統計的品質管理が実施されるが、一方で不良品の存在する可能性を 100%証明する

ことはできない。抜き取り検査を実施する品物の全体に対する比率の決定等の品質管理の信

頼性に影響を与え得る要因がリスクファクターとなる。

⑧ 法務処理に起因するリスク

不完全な契約書により契約を結んでしまった場合に生じるリスクや、法令違反等に起因す

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INTAP 45

るリスク等が含まれる。

このように多岐にわたるオペレーショナルリスクの管理は、適切かつ効率的に行う必要が

ある。その基本的流れは、以下のように分けて考える。

① リスクの識別 : リスクをリストアップし、存在を整理

② リスクの測定 : データに基づいた定量的測定、評価付け等により、リスクの影響

度や損失額を測定する

③ リスクのモニタリング

: 個別業務毎にリスクの状況の監視を行う、範囲は社外も含む

オペレーショナルリスクの定量化は、市場リスクや信用リスクと比して困難であり、確立

した計測手法がないのが現状であるが、先進的な金融機関等では、ヒストリカルデータを収

集しモンテカルロシュミレーション等を活用した計測手法等を開発してリスク管理を進めて

いるところもある。

オペレーショナルリスクの定量化は大きく分けて 2種類の方法がある。

一つはトップダウンモデル手法で、これは企業内、あるいは事業単位等の集計データ(財

務指標等)を利用してオペレーショナルリスクを計測するというものである。データの収集

は比較的容易であるというメリットがある一方で、集計データを利用するため、各業務単位

で存在するリスクの種別と影響度を分析することまではできないというデメリットがある。

もう一つはボトムアップモデル手法で、これは逆に各業務におけるリスクをリストアップ

して、過去の個別の損失事例から積み上げるといった方法が採られる。この場合、個別のデ

ータの収集のためにはかなりの時間とコストがかかるというデメリットがあるが、実際のリ

スク管理には有効な手法であるといえる。

4.2.4. その他のリスク

4.2.1 から 4.2.3 までで、それぞれ市場リスク、信用リスク、オペレーショナルリスクに

ついて、そのリスクファクター、特徴、計測・管理手法等について述べてきた。この中でオ

ペレーショナルリスクについては、その範囲が広大であり、市場リスクと信用リスクを除く

全てのリスクをオペレーショナルリスクに含めるという考え方もあることを紹介した。しか

し、リスクマネジメントを実行するに当たっては、個別に取り出して検討した方が望ましい

と考えられるリスクもある。以下には、こうしたリスクについていくつかの例を挙げる

① システムリスク

コンピュータシステムの不具合によって損害が引き起こされるリスク。

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INTAP 46

② 情報リスク

情報の取扱いに伴うリスクのことである。情報公開や知的所有権、著作権等に関わるリス

クが典型的な例である。

③ レピュテーションリスク

報道や風評等により、企業の評価が悪化して損失を被るリスク。

④ リーガルリスク

契約書の締結などに際して、法的要件を満たしていないこと等から生じるリスク。

⑤ 財務リスク

企業が負債残高や利子など財務的債務の返済を円滑にできなくなるリスク。

⑥ 技術的リスク

技術革新や商品開発などに伴うリスク。

⑦ 製品要因リスク

製品製造過程で労働者が労災に遭遇するリスク、欠陥製品を販売したために消費者に被害

を与えるリスク。

⑧ 不動産リスク

不動産の取引や所有に伴うリスク。

⑨ 自然要因リスク

自然災害などの要因により損害を被るリスク。

⑩ 人的要因リスク

従業員の過誤や不正行為などの人的要因によって損害を被るリスク

⑪ 国際化に伴うリスク

国家間の経済的、政治的、法的、文化的違いなどに起因するリスク。

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INTAP 47

4.3. 統合リスクマネジメント

4.2 で見てきたように、企業活動においてマネジメントすべきリスクの種類、そのリスク

ファクター、マネジメント手法は多岐にわたる。そのため、リスクマネジメントを実践しよ

うとする場合、得てして事業部等の業務単位や、企業グループ全体で考えたときの一子会社

単位といった、いわゆる部分最適化に留まっており、企業あるいは企業グループ全体で見た

ときには全体非効率に陥るといったことが起こりやすい。

2 章及び 3 章で見てきた CMS の発展形としての TMS は、財務面からのアプローチで、部分

最適ではなく、全企業グループにわたる全体最適な形の統合リスクマネジメントを実践する

ことを目的とした手法であると見ることができる。

こうした企業グループ全体最適化を目指す統合リスクマネジメント手法という位置付けの

TMS の中で、前章では、特にデリバティブを活用したリスクヘッジに伴う問題点に着目した

が、ここでは、金融手法からのアプローチによるリスクマネジメント手法として TMS に内包

されるべき他のいくつかの手法について紹介することにする。

4.3.1. ファクタリング

ファクタリングとは、売り手企業(企業グループの場合、グループ企業の子会社)が買い

手企業(企業グループの場合、統括会社)に対し製品販売やサービス提供することで発生す

る売掛債権を支払期日前にファクタリング会社にある割引率で譲渡し、ファクタリング会社

は支払日に譲渡された売掛債権の原債務である買い手企業から代金を回収するという金融サ

ービスである。

売掛債権の買い取りを行うファクタリングの種別に関しては、原債務者である買い手企業

がデフォルトした場合に原債権者である売り手企業(債権譲渡人)に売掛債権の買戻しを要

求する権利の有無によって、「With-Recourse 型」「Without-Recourse 型」に分類される。

図表 4-6にファクタリングのスキームの概要を示す。

ファクタリングを取り込むためには、法的問題・会計的問題の整理が必要となる。

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INTAP 48

図表 4-6 ファクタリングのスキーム

4.3.2. 証券化

証券化では、資金調達者が保有する資産を自己のバランスシートから「切り離し」、その資

産が生み出すキャッシュフローを原資として元利金の支払を行う。CMS では、この証券化可

能な主な資産として売掛債権が考えられる。に証券化の仕組みを示す。

図表 4-7 証券化の仕組み

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INTAP 49

オリジネーターから SPC に譲渡された資産は、SPC により高利回りの証券に加工される。

投資家は、この高利回りの証券を購入できることがメリットになる。オリジネーターのメリ

ットについては 4項目にまとめ以下に示す。

① バランスシートの調整

資産を現金化し負債を返済することによりオフバランス化を行う。

② 資産調達の多様化

間接金融以外の資金調達手法の確保。

③ 資金調達コストの低減

間接金融の利率を下回る利率での資金調達が可能。

④ 保有資産に関するリスク遮断

資産の価格変動リスクを回避。

証券化を行うあたり資産の譲受および証券の発行のみを目的とした SPC(特別目的会社)

の存在が不可欠である。また、裏付資産から生じるキャッシュフローの管理、回収業務を行

うサービシング業務も考慮する必要がある。

4.3.3. 外国為替取引管理

輸出入を行う企業グループでは、外貨建てによる取引が発生する。外貨建て資産は(通常

の通貨の場合)為替リスクを負うことになり、為替予約取引を行うことで為替リスクを回避

する。これを個別企業ごとではなく、グループ全体での一括した為替予約を行う企業が増加

していることから、外貨建て資産全体の管理が重要となる。

以下に外国為替取引の代表的な機能を示す。

・外貨建ての債権/債務の期日管理

外貨建債権/債務について指定期間内に決済確定を行うものを期日管理する。

・外貨建ての口座残高管理

国内外の資金決済口座を管理し残高を参照する。

・外貨建ての口座入出金明細管理

国内外の資金決済口座を管理し指定期間内の口座への入出金を管理する。

・ヘッジ目的の為替予約取引の期日管理

輸出入の代金をあらかじめ確定するヘッジ目的の為替予約の期日管理を行う。

・将来の為替相場シナリオによるシミュレーション

将来の急激な為替変動に対応し、シナリオを作成しシミュレーションを行う。

・銀行とリアルタイムによる為替予約取引

企業から銀行までリアルタイムでの為替予約取引を実現する。

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INTAP 50

為替相場は絶えず変動し外貨を保有していた場合、将来の原通貨金額は確定しない。その

ため、為替予約を締結、満期日の受取原通貨金額を事前に確定する。CMS では、主として外

貨のリスクヘッジとして用い管理する。以下に事前に為替差益を確定する場合と為替差損を

確定する場合を示す。

図表 4-8は為替差益が確定する時を示している。期待どおり原通貨高になった時、差益 B

を得ることができる。期待に反し原通貨安になった時、差益 Bを得ることはできるが、差益

Aを得ることはできない。

図表 4-8 為替差益が確定する時

図表 4-9 は為替差損が確定する時を示している。期待どおり原通貨高になった時、損失

が差損 Aで抑えることができる。期待に反し原通貨安になった時、本来発生しない差損 Aが

確定し、本来発生する差益 Cが得られない。

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INTAP 51

図表 4-9 為替差損が確定する時

4.3.4. デリバティブ

前章まででデリバティブを活用したリスクヘッジの必要性、及びその問題点について見て

きたが、にデリバティブ取引の利用例をまとめて示す。

利用例 説明 対応商品

為替変動対策 輸出入取引などにおいて為替変動による著しい損失

を回避する

通貨スワップ、

通貨オプション

借入金利

上限・下限対策

景気の変動により極端な金利変動に対応するため、

あらかじめ借入金利に限度を設ける

CAP、

FLOOR

変動金利対策 将来、金利の上昇が予想されるとき変動金利による

借入を固定金利に変更

金利スワップ

図表 4-10 デリバティブ取引とその利用例

企業は現在および将来のポジションに対するリスクの把握およびそのリスクに対するデリ

バティブ商品によるヘッジが必要になり、企業は高度な金融商品の知識および金融市場の分

析能力が要求されることは前章で述べた通りである。

デリバティブには、先物、スワップ、オプションなど各種複雑なキャッシュフローを扱う

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INTAP 52

取引がある。図表 4-11 に、金利スワップの事例を示す。金利スワップは固定金利と変動金

利など、同一通貨で異なる金利と支払を交換する取引である。

図表 4-11 金利スワップの事例

4.3.5. グローバル CMS

グローバル CMS は、本社または現地法人の国内外口座やグループ内決済を総合的に管理す

る(図表 4-12)。海外送金の頻度および遠隔地からのモニタリングを考慮し統括会社をどの

国に保有するかは検討が必要である。

図表 4-12 グローバル CMS の仕組みと導入時の問題点

グローバル CMS の導入には企業グループ側で業務フローの見直しなど検討すべき課題も多

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INTAP 53

く、大きな仕掛けが必要となる。したがって、銀行がサービス提供する際には、企業グルー

プ側の体力を考慮することも重要となる。

4.3.6. 電子手形

現在の手形取引の情報を電子化して、インターネットなどを経由した企業間決済を行う。

以下に電子手形の基本的機能を示す。

・手形機能

従来の手形取引の機能である振り出し、支払 等の機能に加え電子手形独自の機能を

追加する。

・決済機能

決済は支払呈示を行わず自動化する。

・認証機能

電子手形では、現在の手書きサインや実印を電子的に行い認証を行う。

・情報検索機能

企業情報および取引履歴等の情報を随時参照可能にする。

電子手形を実現するにあたり電子認証局の確立などによるセキュリティの確保及び、必要

に応じて法的整備が必要である。

4.3.7. 公金収納(マルチペイメント)

マルチペイメントネットワークでは、金融機関と収納機関をネットワークでつなぎ、公共

料金の支払い等が金融機関等の窓口のほか ATM、電話、パソコン等の各種チャネルを利用し

て、即時に消し込み情報が収納企業に通知される「収納サービス」などを提供する(図表 4

-13)。

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INTAP 54

図表 4-13 公金収納システム構成

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INTAP 55

5. CMS から TMS、統合リスクマネジメントのための情報技術

前章までで、現在のキャッシュフローを対象とした CMS から始まり、将来の不確定なキャ

ッシュフローというリスクを対象とする TMS、さらには TMS を含めた統合リスクマネジメン

トについて、その対象、手法、問題点等について議論してきた。本章では、情報技術の側面

から前章までで議論してきた様々な手法について考えていくことにする。

5.1. リスクマネジメント手法における情報技術と財務機能

CMS、TMS、及び 4.3 で述べた種々の手法について、情報技術と財務機能の 2つの側面から

考えてみる。図表 5-1 に示すマッピングで、縦軸の財務機能の高度化は、上に行くにつれ

て、高度な金融技術を必要とし、不確定な将来リスクの予測を含めた複雑な計算やロジック

を必要とすることを表す。横軸の情報技術の高度化は、右に行くにつれて、大規模なシステ

ム連携を必要とし、社会インフラとして規模が大きいことを示す。以下で個々の手法につい

て、順に見ていく。

図表 5-1 情報技術と財務機能からみた各マネジメント手法

まずファクタリングについては、市場金利や信用力から割引率を計算するため、やや複雑

な計算が必要となる。

証券化については、証券を組成する際に、ストラクチャード・ファイナンスなど高度な金

融技術が必要である。

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INTAP 56

外国為替取引管理については、市場の変化に迅速に対応するヘッジ方法などの知識が必要

であり、また、外貨債権を随時管理するインフラの整備が必要である。

デリバティブについては、高度な金融工学を用いたプライシングモデルの金融技術が必要

となる。また、リアルタイムの市況情報(為替レート、金利等)を取得できるインフラの整

備なども必要である。

グローバル CMS では、海外送金を行うことから国内のインフラ整備はもとより海外のイン

フラ整備も必要であり、また、為替、各国の規制、及び税法の知識が必要になり業務の高度

な知識が要求される。

電子手形を実現するには、銀行間を連携する社会インフラの整備が必要であり、また、電

子認証など高度な情報技術のほか、必要に応じて法整備も必要である。

公金収納(マルチペイメントネットワーク:MPN)においては、金融機関および収納機関を

連携するシステムになるため、金融機関の窓口システムおよび共同利用センター等の決済シ

ステムの整備が必要である。CMS との関連では、グループ全体の税金などの払込などが想定

される。

上記を含めた TMS、あるいはグループ全体のリスク管理においては、グローバルに保有す

るすべての様々な取引を一元管理する必要があり、グローバルなシステムインフラの整備だ

けでなく、VaR など商品を横断する高度なリスク管理の金融技術が必要となる。

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INTAP 57

5.2. 要求される情報技術

3 章では CMS、及び TMS(特に会計上の側面から)の問題点を考察し、法制度上の問題点、

及びデータ共有化における問題点について見てきたが、上述のように、種々のマネジメント

手法の各々についても、法制度上の問題、及び企業グループ全体で実行するに当たってデー

タ共有化等の情報技術上の問題が重要であることが見て取れる。

法制度の観点からは、3 章でも述べたように、各企業グループが単独で解決を図ることは

事実上不可能であり、4 章で議論したような、COSO、経済産業省といった公的機関のフレー

ムワークによる要求、また株主価値向上といった資本市場の要求等に併せて、関係当局、及

び国の迅速な対応を期待することになる。逆に 4章で紹介した内部統制フレームワークの例

で考えたように、影響力のある公的機関等から各企業グループの活動へとトップダウンの形

で新しい枠組みが展開される場合もあるが、いずれにしても、この統合リスクマネジメント

への取り組みは本格化してきており、制度面、実務面の双方からそのソリューションへの期

待が高まっていくことは間違いないと考えられる。

こうしたソリューションへの期待を受けて、必要となる情報技術の観点から考えると、5.1

で述べたように、図表 5-1 の横軸の右方、即ち、大規模なシステム連携を必要とし、必要

なインフラの規模も大きくなるという側面とともに、縦軸の不確定な将来リスクの予測を含

めた複雑な計算やロジックを必要とする面、例えばモンテカルロシミュレーション等、高速

演算を要求する側面での要求の双方が必要とされている。

企業グループ全体の統合リスクマネジメントにおいて、こうした大規模かつ高速な処理が

要求される時、そこで扱われる財務データ等の個々のグループ会社(及び事業部等の事業単

位)の基礎データを、いかに管理・運用していくかが非常に重要なポイントとなる。そこで

要求される技術は、データ交換形式の標準化技術である。

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INTAP 58

5.3. データ交換の標準化

データ交換の標準化を可能にする技術として、特に財務情報を取り扱う上で注目されてい

る言語が XBRL(eXtensible Business Reporting Language)である。XBRL とは、各種財務報

告用の情報を作成・流通・利用できるように標準化された XML(eXtensible Markup Language)

ベースの言語で、電子的な財務情報の作成や流通・再利用を行うことができ、これらを正確

かつ迅速に取り扱うことが可能となる。

XBRL のベースとなっている XML は、文書やデータの意味や構造を記述するためのマークア

ップ言語の一つである。このマークアップ言語とは、「タグ」と呼ばれる特定の文字列で地の

文に構造を埋め込んでいく言語のことである。XML は、その特徴として、ユーザが独自のタ

グを指定でき、かつ HTML(Hyper Text Markup Language)等と同様 Web 技術に対応している

というメリットを持つ。この XML の、利用面からのメリットとしては、以下の 3点があげら

れる。

・動的コンテンツ

プレゼンテーション、ロジック(スクリプト)、データベース(XML)の組合せでコンテ

ンツを形成。これを Web クライアントに送り込み,利用者の指示に従って Web ページ

をダイナミックに変化させ情報表現させることが可能。

・アプリ間データ交換

例えば Web ベースの電子商取引で、その調達のルールや伝票形式に XML を適用して

アプリ間のデータ交換を行う、ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージとレガ

シアプリとの共通インターフェイスとして XML を適用する、データベースの持つメタ

情報とデータとを XML にマッピングして異種データベース間の情報交換で利用すると

いった使用方法が可能。

・ビジネスルールの統合

企業の組織間で流れるデータ形式とルーティングのルールを、XML を使って規定。

企業内の部門と部門との内部ビジネスルールへの適用だけではなく、他企業とにまた

がる外部ビジネスルールの適用にも利用可能。

この XML 技術を、前述のように財務報告用に特化し標準化を図った技術が XBRL である。

企業活動の国際化と共に、開示される財務情報は会計基準が共通であればよいというだけ

ではなく、会計処理された結果としての財務情報のデータ形式も、共通的に取り扱えること

が必要であるという問題意識を背景に、そのために不可欠である電子化された財務情報を記

述するデータ形式の標準化を実現する手段として提唱されたのが XBRL である。

一般的な XML では、XML Schema で文書スキーマを定義し、対応するインスタンス文書を作

成する。これに対し、XBRL は、タクソノミ―構文で財務概念を定義し、インスタンス構文で

財務事実を表現する。ここで、財務概念とは「資産」、「売上」等、項目の概念のことで、財

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INTAP 59

務事実とは、ある財務概念と文脈における「金額」のことである(図表 5-2)。

図表 5-2 XBRL の文書表現モデル

XBRL は単に電子的に「財務報告」を行うためのみならず、企業間の財務情報のやり取りや

財務情報の流通促進、財務情報を受取った利用者の評価・分析等の二次利用等を意識して開

発されている。

企業グループにおける TMS 等の統合リスクマネジメントにおけるデータ交換の面からの要

求は、多くのグループ企業、及び事業単位間でなされる大規模なシステム連携における、高

速な即時性を持ったデータ交換の実現であるが、XBRL はこれを実現するためのソリューショ

ンとして適用可能であり、財務情報の開示のみならず今後統合リスクマネジメント分野にお

いても大いに活用されていくことが期待される。

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INTAP 60

5.4. 情報技術における新ビジネスの展望

5.4.1. 統合リスクマネジメントサービス

1.3 では CMS のシステム運用に関して、銀行や他社ベンダーの ASP サービスやホスティング

サービスの利用について議論し、CMS の外部委託運用では、コスト面でのメリットがある一

方で、セキュリティ面でのデメリット、また銀行のサービスを利用する場合には、特定銀行

とのしがらみを生じるデメリットがあることを見た。

ここでは、この外部委託運用の範囲を TMS 等の統合リスクマネジメントまで拡大した新し

い IT サービスの可能性について考察することにする。

統合リスクマネジメントのためには、例えば売掛金や買掛金といった将来のキャッシュフ

ローを予測し、またその確度についての情報が重要である。このためには管理対象であるグ

ループ会社の財務情報等の過去データを蓄積し、高度な分析を実施する必要がある。データ

の蓄積においては、それぞれデータの形式が異なるグループ会社に跨って行う必要があり、

データ標準化のための技術が不可欠となる。

また、3.4 で TMS におけるヘッジ会計上の問題について考察したように、管理対象となる

グループ会社全てについて、ヘッジ取引等に関しては関連するエビデンス資料を紐付けて管

理する必要があるが、ここにおいても、多くのグループ会社を跨ることに伴うフォーマット

の違い、対象範囲の膨大さ等、マネジメントを執行するに当たり解決すべき問題は困難なも

のとなっている。

こうした統合リスクマネジメントを統括会社が全て自社で行うことは、上述のように容易

ではなく、統合リスクマネジメントの外部委託運用を行うビジネスについて、近い将来大き

な需要が生じることが予測される。統合リスクマネジメントサービスベンダのビジネスのイ

メージを図表 5-3 に示す。

統合リスクマネジメントサービスベンダ

・CMSサービス・リスクデータ蓄積・リスク分析・関連データ紐付け他

 統括会社

金融機関

グループ会社A グループ会社B グループ会社C

入出金情報財務情報等リスクデータ

入出金情報財務情報等リスクデータ

財務取引/決済等、指示

財務取引決済

リスク分析結果等サービスの提供

統合リスクマネジメントサービス委託契約

EBホスト、ANSER等を活用

図表 5-3 統合リスクマネジメントサービスベンダのイメージ

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INTAP 61

この統合リスクマネジメントサービスのメリットについて、CMS の外部委託運用と比較し

ながら、以下で考察する。

まず、コスト面で考えると、CMS においても完全自社運用を行う場合にはかなりのコスト

を必要としたが、さらにその範囲を大幅に拡大する TMS、統合リスクマネジメントの場合に

は CMS と比較にならない莫大なコストが必要となることは明白である。今後、大企業のみな

らず中堅クラスの企業グループにおいても、制度面、投資家等からの要求により大掛かりな

リスクマネジメントの実践が要求された場合、これを外部委託により低コストで実現するニ

ーズが生まれてくることは想像に難くない。

また、この新ビジネスにおいては 5.3 で議論したように、標準化されたデータ交換技術と

して XBRL の活用が有望であると考えられるが、XBRL では、財務情報開示における透明性の

確保のために徹底したマニピュレーションの排除を可能としており、上述の情報の外部管理

によるセキュリティ面でのデメリットの排除が容易になる。その結果、外部のサービス会社

へのリスクマネジメントサービス委託の抵抗感を減少させることが期待できる。

さらに TMS 等の統合リスクマネジメントの範囲は広大であり、一金融機関とのしがらみを

生じる範囲を大きく超えるため、必然的に取引先確保のための低価格サービスの提供という

銀行等のビジネスモデルが成立しにくくなり、CMS の場合とは異なり、システム運用そのも

ので収入を得るビジネスモデルの生き残りが十分可能になると期待される。

このように、近い将来の情報技術を活用した新ビジネスとして、XBRL 等データ交換技術を

活用した統合リスクマネジメントの外部委託サービスが有望であると考えられる。

5.4.2. BPO(Business Process Outsourcing)

情報技術を活用した外部委託サービスとしては、これまで述べてきた統合リスクマネジメ

ントサービスのみならず、管理業務、営業、ロジスティックスといったコア業務を除く広範

囲の間接業務について、専門業者に委託する BPO(Business Process Outsourcing)が挙げ

られる。ビジネスプロセスの見直しと、経営資源の最適配分による戦略事業への選択と集中

を実施するためには、外部リソースの積極的活用と間接部門の改革が求められているが、BPO

はこれに応え得る有力な手段として注目されている。

この BPO を活用するためには、将来の事業形態(ビジネスプロセスの構成)との整合性を

意識し、ビジネスプロセスをモジュール化、可視化することが必要となる。これによって取

捨選択性を確保し、新しいビジネスの早期立ち上げや、強みとなるコア業務への経営資源の

重点投資が可能となる。

ビジネスプロセスの最適化と BPO 活用の概要について、図表 5-4 に示す。間接業務をシ

ェアードサービス(サービスの共有)化によって実現し、非主力領域で BPO を積極的に活用

することにより、強みとなる領域への重点的な経営資源の投資を行うことが可能になる。

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 62

図表 5-4 ビジネスプロセスの最適化と BPO 活用の概要

BPO 活用のためのキーポイントとなる、ビジネスプロセスのモジュール化、可視化を実行

するにおいても、以下に述べるように情報技術を活用した標準化プロセスが不可欠である。

事業を構成するプロセスを臨機応変に組み替えるためには、ビジネスプロセスがモジュー

ル化されているとともに、インターフェイスが標準化されていることが不可欠となる。この

ためには曖昧な業務境界や、複雑な依存関係を明確化し、サービス単位で機能とインターフ

ェイスを整理することが重要である。その際、サービスを構成するコンポーネント単位につ

いても同様に機能とインターフェイスを整理する必要があり、コンポーネントの標準化も重

要となる。業務をサービス、コンポーネントといった谷のモジュールに分解し、その重複機

能の削減、インターフェイスの標準化を行うことにより、新ビジネスの早期立ち上げや、コ

アビジネスへの重点投資を行うための BPO による外部リソースの効率的な活用が可能となる。

図表 5-5 ビジネスプロセスのサービスモジュール化と取捨選択性の確保の概要

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 63

経営戦略の遂行には、経営資源の可視化と標準化、取捨選択性の確保がビジネス基盤に求

められるが、このためには EA(Enterprise Architecture)に代表されるソフトウェア基盤

の整備と、環境の変化に即応し、過去のしがらみにとらわれないスキーム作りが必要となる。

BA:経営・業務体系Business ArchitectureDA:データ体系

Data Architecture

AA:適用処理体系Application Architecture

TA:技術体系Technology Architecture

テクノロジー・アーキテクチャ

アプリケーション・アーキテクチャ

データ・アーキテクチャ

ビジネス・アーキテクチャ

②マネージメント・プロセス/

組織

①プリンシプル(原理・原則)

現状 理想

③ITスタンダード(標準)

テクノロジー・アーキテクチャ

アプリケーション・アーキテクチャ

データ・アーキテクチャ

ビジネス・アーキテクチャ

移行計画(プラン)次期に向けた基

盤構築・投資の優先順位計画

次期⑤参照モデル個々のプロジェクトのアーキテクチャ策定時に参照すべき規範

評価クライテリア・製品・コンポーネントを選択する時の評価基準

図表 5-6 EA の全体構成要素

これにより、ビジネス全体の競争力を高めることができるが、そのためには、各ビジネス

プロセスを切り離して個別に評価する EA 手法をベースとした BPU(Business Process

Unbundling)分析を行い、ビジネスのモジュール化と可視化を実施した上で、BPO サービス

導入を進めることが重要である。

高度な情報技術を活用した BPO や、そのために必要な BPU サービスは、企業求められてい

る経営効率化のニーズに答える新ビジネスとして、今後ますます発展していくことが大いに

期待される。

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 64

Appendix 1 事例集

(省略)

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 65

Appendix 2 CMS パッケージ

A2.1. SAP CFM(Corporate Finance Management)

大手 ERP ベンダーである SAP11社は、特定グローバル企業12の要請によりキャッシュマネジ

メント機能を開発し、CFM(Corporate Finance Manager)というパッケージとして発売してい

る。このパッケージは、本来のキャッシュマネジメント機能である In-House Cash 以外に、

リスク分析機能と取引管理機能を持っている。

本来、キャッシュマネジメントとは独立な業務である市場リスクや信用リスク分析機能を

同一パッケージにしているのは、おそらく特定グローバル企業の業務形態に依存したものと

思われる。

要素 機能 内容

Transaction

Manager

預金・借入金・有価証券・為替・デリバ

ティブの管理

取引管理機能

Credit Risk

Analyzer

信用リスク分析

Market Risk

Analyzer

市場リスク分析

Portfolio

Analyzer

ポートフォリオ分析

リスク分析機能

(キャッシュマネジメント

とは別の機能)

In-House Cash ネッティング・キャッシュコンセントレ

ーション

キャッシュマネジメント機

Liquidity Planner 流動性のプラニング

図表 A- 1 SAP CFM(Corporate Finance Management) の主要な機能13

11 企業の基幹業務システムを包括的に扱う巨大パッケージソフトウェア my SAP.com の開発・販売を

行う。パッケージに業務を合わせる形での業務改革という建前だが、現実には大量のカスタマイズが必

要。バージョン間も非互換部分があるため、次バージョンへの移行は容易ではない。 12 Statoil (http://www.statoil.com) : ノルウェーのスタットオイルは 1972 年に設立された国営石油

会社で、2001 年には部分民営化によってオスロとニューヨークの証券取引所に上場。 ただしノルウェ

ー政府が株式の 81.7%を保有する。大陸棚の石油・天然ガスの開発が 92%を占めるが、海外の油田・

天然ガス田の開発を推進する方向になる。国内への供給に加え、英国、フランス、 ドイツなど欧州各

地の電力・ガス会社に長期契約に基づいた販売を主要事業としている。デンマーク・フェロー諸島・ア

イルランド・ラトヴィア・ポーランド・エストニア・リトアニア・スウェーデン・ノルウェー・ポーラ

ンドなどに展開。 13 山田雄久:ERP システムのキャッシュマネジメントの展開, in アジアのキャッシュマネジメント pp150-156, 2003.

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 66

・国内の SAP ベンダー

日本電気・富士通・日立

東京ビジネスエンジニアリング14

CFM を含む SAP システムの導入・開発デベロッパ

東芝ソリューションのテンプレート15

NEC のテンプレートソリューション16

NTT DATA の製造業向けテンプレート MF-300017

三菱電機インフォメーションシステムズの製造業向けテンプレート MELEBUS18

みずほ情報総研の金融企業向け SAP テンプレート

A2.2. Sungard Quantum

CMS および TMS のパッケージとして最も著名なのが、SunGard 社の AvantGard/Quantum シリー

ズである。

本社[CMS]

(現地)銀行

G/Lインターフェース

マーケットデータインターフェース

銀行インターフェース

CMS端末

(国内)銀行

CMSシステム

データ収集ミドルウェア

(取引先)銀行

メール/FAX会計システム

BloombergReutersなど

データプロバイダデータ端末

(海外)取引先

欧州 他

シンガポール

海外拠点/関連会社

米国

参照画面(WEB)

既存システム

データ収集ミドルウェア

受発注管理システム

財務管理システム

:データインターフェースシステム

本社[CMS]

(現地)銀行

G/Lインターフェース

マーケットデータインターフェース

銀行インターフェース

CMS端末

(国内)銀行

CMSシステム

データ収集ミドルウェア

(取引先)銀行

メール/FAX会計システム

BloombergReutersなど

データプロバイダデータ端末

(海外)取引先

欧州 他

シンガポール

海外拠点/関連会社

米国

参照画面(WEB)

既存システム

データ収集ミドルウェア

受発注管理システム

財務管理システム

:データインターフェースシステム

図表 A- 2 一般的な CMS/TMS システムの構成

14 http://www.to-be.co.jp/sap/bengg.html 東洋エンジニアリング(1000名規模)の関連会社で300名規

模 15 http://www.toshiba-sol.co.jp/ccc/4s/sap/lineup.htm 16 http://www.sw.nec.co.jp/process/solution/iyaku/solution/iyaku-s01.html 17 http://www.nttdata.co.jp/services/s090247.html 18 http://www.mdis.co.jp/erp/index2.html

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 67

ネッティング(同一取引日・同一通貨・同一取引相手について実行)

[特定取引は除外]

取引の変更・延期/早期実・延長

オプション権利行使

レート設定

G/L

満期の来た取引のイベント発生

未実行イベント

記帳

自動実行禁止実行不可能な取引が残っていることを通知

処理が必要であることを通知

自動実行自動実行

ユーザ操作

マーケットデータ

承認の詳細確認と変更

ネッティング(同一取引日・同一通貨・同一取引相手について実行)

[特定取引は除外]

取引の変更・延期/早期実・延長

オプション権利行使

レート設定

G/L

満期の来た取引のイベント発生

未実行イベント

記帳

自動実行禁止実行不可能な取引が残っていることを通知

処理が必要であることを通知

自動実行自動実行

ユーザ操作

マーケットデータ

承認の詳細確認と変更

図表 A- 3 CMS における取引承認手順

アカウンティングジャーナル生成

アカウンティングレポーティング

G/L

ディールの入力・メンテ

バックオフィスのレポーティング記帳

G/Lバランス照会

G/L取引照会為替値洗い

取引の構造

G/L調整

アカウンティング期間

アカウンティング制御

G/Lデフォルト値

G/L処理 G/L値洗い

アカウンティングジャーナル生成

アカウンティングレポーティング

G/L

ディールの入力・メンテ

バックオフィスのレポーティング記帳

G/Lバランス照会

G/L取引照会為替値洗い

取引の構造

G/L調整

アカウンティング期間

アカウンティング制御

G/Lデフォルト値

G/L処理 G/L値洗い

図表 A- 4 CMS と元帳(G/L)の関係

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 68

手入力

Importer

G/Lシステム(一般会計)

各種Deal内容の

テキストファイル

G/LからのImportデータテキストファイル

Counter Partyや取引所など

決済を行う銀行

BloombergReutersなど

データプロバイダCOM(API)

各種金利データBank

Interface決済・口座データなど

ダウンロード・アップロード

自動取り込みなど

データ取り込み

イールド先物金利

通貨交換レート銀行金利

金利オプション通貨オプション

など

データ投入

G/L interface

G/Lへのexportデータテキストファイル

メール

メール

手入力手入力

Importer

G/Lシステム(一般会計)

各種Deal内容の

テキストファイル

G/LからのImportデータテキストファイル

Counter Partyや取引所など

決済を行う銀行

BloombergReutersなど

データプロバイダCOM(API)

各種金利データBank

Interface決済・口座データなど

ダウンロード・アップロード

自動取り込みなど

データ取り込み

イールド先物金利

通貨交換レート銀行金利

金利オプション通貨オプション

など

データ投入

G/L interface

G/Lへのexportデータテキストファイル

メール

メール

図表 A- 5 CMS と外部の接続

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 69

むすび

本報告書は、企業グループにおける資金管理効率化のソリューションである CMS(キャッ

シュマネジメントシステム)と、その範囲を将来のキャッシュフロー管理に拡大した TMS(ト

レジャリマネジメントシステム)、さらには統合リスクマネジメントの現状を把握し、この分

野における問題点を情報技術、特にデータ交換の面から抽出し、その解決のための方策の検

討、新ビジネスの可能性について探ることを目的として調査を行った。

まず、CMS、及び TMS の特徴、現在行われているビジネススキーム等について概観すること

により、特に会計制度上の側面から問題点を明らかにした。さらに、企業グループにおける

統合リスクマネジメントの一環と見たときの CMS、及び TMS の位置付けを視野に入れ、統合

リスクマネジメントのあり方を検討することにより、将来のビジネスの拡大において、問題

化が予測される課題を抽出した。

その結果、大規模かつ高速な情報技術が求められる統合リスクマネジメントソリューショ

ンにおいて、データ交換の標準化技術の有効性を議論し、XBRL 技術の活用によるソリューシ

ョンの可能性、またこれを活用した統合リスクマネジメントサービスの外部委託サービスビ

ジネスについて提言した。

本調査は、CMS、及び TMS、さらにはこれらを内包する発展形の統合リスクマネジメントに

おける課題解決の視点で、新規ビジネスの可能性について調査を行ったが、今後も様々な視

点から、情報ビジネス発展の可能性を探求していきたいと考えている。

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CMSとTMSの現状と企業間データ交換の課題の調査/分析

INTAP 70

参考文献

[1] 企業価値向上に向けた連結経営のためのグローバル・グループ財務戦略―キャッシュマ

ネジメントシステム(CMS)の導入・運用実績事例集 (社)企業研究会

[2] アジアのキャッシュマネジメント 香港上海銀行東京支店

[3] 事業リスク評価・管理人材育成システム開発事業 経済産業省

[4] XBRL-Japan ホームページ (http://www.xbrl-jp.org/)

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この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。