Chapter 0.評価を行う前に...2...

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1 (1)モデル建物法の概要 モデル建物法は、建物用途ごとにモデル建物を設定し、このモデル建物に対して、評価対象 建築物に導入される外皮及び設備の仕様を適用することにより、基準適否の判断を行う方法で ある。建物形状や室用途構成については、評価対象建築物のものではなく、モデル建物の建物 形状や室用途構成で評価をすることになるが、評価対象建築物の建物形状や室用途構成につい ての情報を収集する必要がなくなるため、評価にかかる手間を削減することができる。ただし、 モデル建物法による評価が行えるのは、延床面積が 5000㎡以下の非住宅建築物のみとされて いる。 (2)モデル建物法入力支援ツール モデル建物法による評価を支援するためのツール「モデル建物法入力支援ツール」が、独立 行政法人建築研究所のホームページにて公開されており(図0.1.1)、本書では、これを用いて 評価を行う方法を解説する。モデル建物法では、評価対象建築物の外皮及び設備の仕様を、主 として選択肢から選ぶことにより評価を行う。モデル建物法入力支援ツールは WEB ブラウザ 上で動くツールであり、仕様を選択して「計算」ボタンを押せば、評価結果を得ることができる。 なお、PAL *及び一次エネルギー消費量の算定ロジックについては、設計値も基準値も、独立 行政法人建築研究所が公開している PAL *及び一次エネルギー消費量算定用 WEB プログラム と同じである。つまり、モデル建物法入力支援ツールは、この WEB プログラムに入力する情 報を作成するためのインターフェイスに過ぎない。 なお、PAL *及び一次エネルギー消費量算定用 WEB プログラムの計算ロジックについては、 「平成 25 年省エネルギー基準に準拠した算定・判断の方法及び解説 Ⅰ 非住宅建築物」にて 詳細に解説されている モデル建物法入力支援ツールの判定結果は、設計値を基準値で除した値(PAL *については 「BPI m 」、一次エネルギー消費量については「BEI m 」という。)で表示される。BPI m 、BEI m 1.0 以下であれば基準適合となる。ここで、評価対象建築物の実際の建物形状及び室用途構成 を用いて PAL *及び一次エネルギー消費量を PAL *算定用 WEB プログラム及び一次エネル ギー消費量算定用 WEB プログラムにより求める方法(標準計算法)と、モデル建物の建物形 状及び室用途構成により算出するモデル建物法では、同じ建物でも算出される PAL *及び一次 エネルギー消費量の値は大きく異なる。評価を行う方法によって算出される PAL *及び一次エ ネルギー消費量が異なるのは混乱を招くため、標準計算法によって算出した場合のみ PAL *及 び一次エネルギー消費量の値を表示し、モデル建物法では PAL *及び一次エネルギー消費量の Chapter 0.評価を行う前に 1.モデル建物法の概要と適用範囲 国土交通省国土技術政策総合研究所及び独立行政法人建築研究所監修「平成 25 年省エネルギー基準に準拠し た算定・判断の方法及び解説」、一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)のホームページより購入 可能(http://www.ibec.or.jp/tosyo/index.html)

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(1)モデル建物法の概要

 モデル建物法は、建物用途ごとにモデル建物を設定し、このモデル建物に対して、評価対象

建築物に導入される外皮及び設備の仕様を適用することにより、基準適否の判断を行う方法で

ある。建物形状や室用途構成については、評価対象建築物のものではなく、モデル建物の建物

形状や室用途構成で評価をすることになるが、評価対象建築物の建物形状や室用途構成につい

ての情報を収集する必要がなくなるため、評価にかかる手間を削減することができる。ただし、

モデル建物法による評価が行えるのは、延床面積が 5000㎡以下の非住宅建築物のみとされて

いる。

(2)モデル建物法入力支援ツール

 モデル建物法による評価を支援するためのツール「モデル建物法入力支援ツール」が、独立

行政法人建築研究所のホームページにて公開されており(図 0.1.1)、本書では、これを用いて

評価を行う方法を解説する。モデル建物法では、評価対象建築物の外皮及び設備の仕様を、主

として選択肢から選ぶことにより評価を行う。モデル建物法入力支援ツールは WEB ブラウザ

上で動くツールであり、仕様を選択して「計算」ボタンを押せば、評価結果を得ることができる。

なお、PAL *及び一次エネルギー消費量の算定ロジックについては、設計値も基準値も、独立

行政法人建築研究所が公開している PAL *及び一次エネルギー消費量算定用 WEB プログラム

と同じである。つまり、モデル建物法入力支援ツールは、この WEB プログラムに入力する情

報を作成するためのインターフェイスに過ぎない。

 なお、PAL *及び一次エネルギー消費量算定用 WEB プログラムの計算ロジックについては、

「平成 25 年省エネルギー基準に準拠した算定・判断の方法及び解説 Ⅰ 非住宅建築物」にて

詳細に解説されている †。

 モデル建物法入力支援ツールの判定結果は、設計値を基準値で除した値(PAL *については

「BPIm」、一次エネルギー消費量については「BEIm」という。)で表示される。BPIm、BEIm が

1.0 以下であれば基準適合となる。ここで、評価対象建築物の実際の建物形状及び室用途構成

を用いて PAL *及び一次エネルギー消費量を PAL *算定用 WEB プログラム及び一次エネル

ギー消費量算定用 WEB プログラムにより求める方法(標準計算法)と、モデル建物の建物形

状及び室用途構成により算出するモデル建物法では、同じ建物でも算出される PAL *及び一次

エネルギー消費量の値は大きく異なる。評価を行う方法によって算出される PAL *及び一次エ

ネルギー消費量が異なるのは混乱を招くため、標準計算法によって算出した場合のみ PAL *及

び一次エネルギー消費量の値を表示し、モデル建物法では PAL *及び一次エネルギー消費量の

Chapter 0.評価を行う前に1.モデル建物法の概要と適用範囲

†  国土交通省国土技術政策総合研究所及び独立行政法人建築研究所監修「平成 25 年省エネルギー基準に準拠した算定・判断の方法及び解説」、一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)のホームページより購入可能(http://www.ibec.or.jp/tosyo/index.html)

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値は表示しないこととした。また、標準計算法による設計値と基準値の比率は BPI、BEI とし、

モデル建物法による設計値と基準値の比率は BPIm、BEIm と区別して表示することにした。

(3)モデル建物法の適用範囲

 モデル建物法による評価が行えるのは、延床面積が 5000㎡以下の非住宅建築物のみとされ

ている。複合建築物(住宅と非住宅建築物が混在する建物)で非住宅部分の延床面積が 5000

㎡ 以下であれば、非住宅部分についてはモデル建物法が適用できるものとする。

 なお、空気調和設備において、次の熱源機器をもつシステムについてはモデル建物法では評

価が行えないため、一次エネルギー消費量算定用 WEB プログラムにより評価を行う必要があ

る。

 ・セントラル方式

 ・氷蓄熱パッケージエアコン(ビル用マルチ方式を含む)

 ・地域冷暖房施設から熱供給を受けている場合

 ・上記方式と他の方式の併用

図0.1.1 モデル建物法入力支援ツールの画面

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(1)複合建築物

 複合建築物(住宅と非住宅建築物が混在する建物)については、住宅に供する部分と住宅以

外の用途に供する部分(非住宅建築物)に分けて評価を行う。モデル建物法による評価が可能

であるのは、後者の非住宅建築物となる部分のみであり、かつ、この非住宅建築物の床面積が

5000㎡以下である場合のみである。

 ただし、平成 15 年国土交通省令第 15 号の第一号様式(注意)において、次のルールが定

められている。

 ・住宅以外の用途に供する部分の床面積の合計が 300㎡未満の場合、住宅以外の用途に供す

る部分を、住宅の用途に供するものとして取り扱うこととします。ただし、住宅以外の用

途に供する部分について、第三面の 5 欄の(1)(外壁、窓等を通しての熱の損失の防止の

ための措置)の記入については、住宅以外の用途に供するものとして取り扱うことができ

ることとし、5 欄の(2)(空気調和設備等に係るエネルギーの効率的利用のための措置)

の記入については、住宅以外の用途に供するものとして取り扱うこととします。

 つまり、「住宅以外の用途に供する部分」が 300㎡未満である場合は、当該建物の用途は「住

宅」と判断し、第二種特定建築物(延べ面積が 300㎡以上、2,000㎡未満の建物)について

は維持保全の定期報告は不要となる。ただし、省エネ措置の届出のうち、「外壁、窓等を通して

の熱の損失の防止のための措置」については、「住宅以外の用途に供する部分」を「非住宅建築

物」とみなし、非住宅建築物の基準(PAL *)を適用しても良い(「住宅」と「非住宅建築物」、

どちらの基準でも適用可能)。一方、「空気調和設備等に係るエネルギーの効率的利用のための

措置(一次エネルギー消費量に関する基準)」については、「住宅以外の用途に供する部分」は

必ず「非住宅建築物」として扱い、非住宅建築物の基準(非住宅建築物の一次エネルギー消費

量の計算法や基準値)を適用しなければいけない。

(2)複数の建物用途が混在する非住宅建築物

 複数の建物用途(事務所等、ホテル等、病院等、物販店舗等、飲食店等、集会所等、工場等)

が混在する非住宅建築物については、建物用途ごとにモデル建物法入力支援ツールを用いて評

価を行ったのち、モデル建物法入力支援ツールの「複数用途の計算結果の集計」機能を利用して、

建物全体の評価結果を得る必要がある。

 なお、特定用途(住宅及び工場等以外の用途のうち、建築物の床面積に占める割合が最も大

きい建物用途)に供する部分の面積等に応じて、特定用途以外の用途に供する部分を特定用途

とみなしてよいというルールについては、平成 25 年 9 月の省令改正で撤廃されている。

2.複合建築物及び複数の建物用途が混在する非住宅建築物の評価方法

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 モデル建物法では、評価対象建築物の外皮及び設備の仕様を入力することにより評価を行う

が、評価対象建築物にあるすべての外皮及び設備の仕様を入力するわけではない。どの外皮及

び設備の仕様を入力しなければいけないかを表 0.3.1 に示す。

 工場等以外の建物用途について、対象とする外皮及び設備は次の通りである。

 ・外皮については、外気に接する部位を対象とし、地下にある地盤に接する外皮については

入力の必要はない。

 ・空気調和設備、昇降機、太陽光発電設備については、評価対象建築物内にあるすべての機

器を対象とする。ただし、売電のために設置された太陽光発電設備は除く。

 ・機械換気設備については、すべての建物用途で「機械室」と「便所」のための送風機は対

象とする。評価対象建築物内に「厨房」や「駐車場」があれば、これらのための送風機に

ついても対象とする。

 ・照明設備については、各建物用途の主たる居室にある照明器具を対象とする。

 ・給湯設備については、すべての建物用途で「洗面所」や「手洗い」に設置される給湯機器

は対象とし、ホテル等、病院等については「客室内の浴室」や「病室の浴室」があれば、

その室に設置される給湯機器も対象とする。また、評価対象建築物内に「厨房」があれば、

厨房のための給湯設備も対象とする。

 工場等については、平成 25 年基準では「照明設備」の一次エネルギー消費量のみ評価をす

る必要がある。

3.仕様を入力する外皮及び設備の範囲

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表0.3.1 仕様を入力する外皮及び設備の範囲

 モデル建物法入力支援ツールを使用した場合の入力及び届出の流れを図 0.4.1 に示す。基本

的には、モデル建物法入力支援ツールを利用して、評価対象建築物の外皮及び設備の仕様を入

力して評価結果を得るだけであるが、その入力項目の根拠資料として、様々な仕様の「集計表」

を作成する必要がある。集計表のフォーマットに決まりはないが、各章の「4. 選択肢の判断方法」

には集計表の具体的な例を掲載している。

4.評価の流れ

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図0.4.1 モデル建物法入力支援ツールを用いた入力、届出の流れ

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 モデル建物法の入力項目を表 0.5.1 に示す。入力項目は計 74 項目あり、設備によっては室

用途毎にこれらの項目の入力が必要である。参考までに、旧基準のポイント法及び簡易なポイ

ント法の入力項目との比較を、「Chapter 9. 参考資料」の「5. 旧基準におけるポイント法とモ

デル建物法の入力項目の比較」に示す。

表0.5.1 モデル建物法の入力項目一覧

5.入力項目一覧

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表0.5.1 モデル建物法の入力項目一覧(続き)

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表0.5.1 モデル建物法の入力項目一覧(続き)